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- 83 - 我が国の農産物備蓄の概要(平成27年度) 品目 備蓄水準 備蓄水準の考え方 政府備蓄米の適正備蓄水準は 10年に1度の不作(作況92)や、通常程度の 100万トン程度 不作(作況94)が2年連続した事態にも国産 をもって対処し得る 水準 ・10年に一度の不作(作況92)に備えるため の数量 87~102万トン ・通常程度の不作(作況94)が2年連続続い た場合に必要な数量 75~90万トン 国全体として外国産食糧用小麦 過去の港湾ストライキ、鉄道輸送等の停滞に 小麦 の需要量の2.3ヶ月分 よる 船積遅延の経験等を考慮した水準 製粉企業等が需要の2.3ヶ月分を ・代替輸入には4.3ヶ月程度必要 備蓄した場合に1.8ヶ月分の保管 ・すでに契約を終了し、海上輸送中の 経費を助成 輸入小麦の量:2ヶ月分程度 ・差し引き2.3ヶ月分程度の備蓄が必要 国として、とうもろこし・こうりゃん 凶作・災害等による供給力不足や近年急増し 60万トンを備蓄。この他、民間で た南米・東欧等輸送リスクの高い地域からの輸 も同水準(65万トン)の飼料穀物 入遅延へ対応し得る水準(国費負担分と同等 を備蓄 の民間負担分とで必要な備蓄量を確保) 国費分は、(公社)配合飼料供給 ・凶作・災害等に対応した過去最大の放出 安定機構等に対し、保管経費等 実績に対応し得る数量 75万トン を助成 ・突発的な事故等による荷役の遅れ (最大2ヶ月)に対応し得る数量 50万トン 計125万トンのうち 国備蓄分 60万トン 民間備蓄分65万トン

5 我が国の農産物備蓄の概要(平成27年度) - maff.go.jpとうもろこし 世界計 30,883 31,829 30,629 1位 米国 14,173 米国 14,404 米国 11,942 2位 中国

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5 我が国の農産物備蓄の概要(平成27年度)

品目 備蓄水準 備蓄水準の考え方

米 政府備蓄米の適正備蓄水準は 10年に1度の不作(作況92)や、通常程度の

100万トン程度 不作(作況94)が2年連続した事態にも国産米

をもって対処し得る水準

・10年に一度の不作(作況92)に備えるため

の数量 87~102万トン

・通常程度の不作(作況94)が2年連続続い

た場合に必要な数量 75~90万トン

食 糧 用 国全体として外国産食糧用小麦 過去の港湾ストライキ、鉄道輸送等の停滞に

小麦 の需要量の2.3ヶ月分 よる船積遅延の経験等を考慮した水準

製粉企業等が需要の2.3ヶ月分を ・代替輸入には4.3ヶ月程度必要

備蓄した場合に1.8ヶ月分の保管 ・すでに契約を終了し、海上輸送中の

経費を助成 輸入小麦の量:2ヶ月分程度

・差し引き2.3ヶ月分程度の備蓄が必要

飼 料 穀 国として、とうもろこし・こうりゃん 凶作・災害等による供給力不足や近年急増し

物 60万トンを備蓄。この他、民間で た南米・東欧等輸送リスクの高い地域からの輸

も同水準( 65万 トン )の飼料穀物 入遅延へ対応し得る水準(国費負担分と同等

を備蓄 の民間負担分とで必要な備蓄量を確保)

国費分は、(公社)配合飼料供給 ・凶作・災害等に対応した過去 大の放出

安定機構等に対し、保管経費等 実績に対応し得る数量 75万トン

を助成 ・突発的な事故等による荷役の遅れ

( 大2ヶ月)に対応し得る数量 50万トン

計125万トンのうち 国備蓄分 60万トン

民間備蓄分65万トン

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6 過去の緊急の事態における対応

(1)昭和48年の大豆の価格高騰の状況

(いわゆる「豆腐騒動」と米国の輸出規制措置)

① 当時の経緯と状況

ア 経緯

昭和47年から48年にかけて国際穀物需給がひっ迫する中で、特に大豆については、

ペルーのアンチョビの不漁、大豆以外の油脂原料の不作等が重なり、国際需給は極度

にひっ迫した。

このような状況の下、大豆のほとんどを輸入に依存していた我が国(昭和48年度の

大豆の自給率3%)では、大豆及び大豆を原料とする豆腐、しょうゆ等の価格が高騰

するとともに、食品用大豆の供給についての不安感が高まり、豆腐業者等が「大豆を

よこせ」と消費者も巻き込んだデモを行い、いわゆる「豆腐騒動」(昭和48年1~2

月)が発生した。

さらにその後、米国が大豆その他の油糧原料について輸出規制を実施(昭和48年6

月27日~9月7日の約2月、輸出量を半減)したことにより、大豆関連業界は混乱を

極めた。

イ 当時の大豆の需給構造(昭和48年)(単位:千トン)

供 給(括弧内はシェア) 需 要(括弧内はシェア)

期首在庫 278( 7.0%) 製油用 2,739(69.1%)

国産出回り 53( 1.3%) 食品用 796(20.0%)

輸入 3,635(91.6%) 飼料用 30( 0.8%)

うち米国 3,210(80.9%)

期末在庫 401(10.1%)

計 3,966 計 3,966

資料:農林省調べ

ウ 当時の価格動向

昭和47年12月 昭和48年2月

米国シカゴ相場 49,300円/トン 58,900円/トン(19.5%増)

国内卸売価格 73,000円/トン 170,000円/トン(132.9%増)

豆腐消費者価格 39円/1丁(350g) 53円/丁 (35.9%増)

納豆消費者価格 24円/100g 38円/100g (58.3%増)

(注)昭和47年12月は、1ドル=308円、昭和48年2月は1ドル=270円で計算した。

資料:農林省調べ

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② 当時の需給動向等

○ 世界の主要穀物等(大豆、小麦、とうもろこし)の生産量単位:万トン

国 名 生産量 国 名 生産量 国 名 生産量穀物 世界計 125,875 135,727 132,668

1位 米国 22,831 米国 23,785 米国 23,4642位 中国 20,652 中国 22,185 中国 20,4793位 旧ソ連 15,025 旧ソ連 19,649 旧ソ連 17,407

大豆 世界計 4,726 5,927 5,2641位 米国 3,458 米国 4,212 米国 3,3102位 中国 651 中国 843 ブラジル 7883位 ブラジル 322 ブラジル 501 中国 754

小麦 世界計 34,305 36,937 35,8881位 旧ソ連 8,083 旧ソ連 10,320 旧ソ連 7,8882位 米国 4,208 米国 4,656 米国 4,8503位 中国 3,599 中国 3,523 中国 4,087

とうもろこし 世界計 30,883 31,829 30,6291位 米国 14,173 米国 14,404 米国 11,9422位 中国 3,217 中国 3,871 中国 4,3033位 ブラジル 1,489 ブラジル 1,419 ブラジル 1,627

資料:FAO「FAOSTAT」

○ 大豆の貿易量の推移単位:万トン

国 名 数 量 国 名 数 量 国 名 数 量輸 出 世界計 1,379 1,563 1,723

1位 米 国 1,199 米 国 1,322 米 国 1,3942位 ブラジル 104 ブラジル 179 ブラジル 2733位 中 国 37 中 国 32 中 国 38

輸 入 世界計 1,385 1,468 1,7511位 日 本 340 日 本 363 ドイツ 3752位 ドイツ 230 ドイツ 287 日 本 3243位 オランダ 161 オランダ 127 オランダ 159

資料:FAO「FAOSTAT」

○ 主要農産物の国際価格(シカゴ商品取引所)

昭和47年 昭和48年 昭和49年

昭和47年 昭和48年 昭和49年

0

2

4

6

8

10

12

1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11

大豆

小麦

とうもろこし

ドル/ブッシェル

月1972年 1973 1974 1975 1976 1977

資料:ロイターES=時事

注:1)各月とも第1金曜日の価格である。

2)小麦は現物、とうもろこし、大豆は期近ものである。

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○ 我が国の大豆の輸入量の推移

(単位:千トン)年 月 合 計 アメリカ 中 国 その他 備   考

昭和47年 1 285 250 35 0昭和47年 計 3,396 3,126 254 16

昭和48年 1 315 301 14 0 豆腐騒動

2 278 263 14 1   〃

3 297 279 16 2

4 361 333 25 3

5 368 334 33 1

6 363 337 25 1 米国輸出規制開始

7 338 285 22 31

8 294 224 19 51

9 245 191 10 44 米国輸出規制終了

10 196 131 15 50

11 151 128 8 15

12 429 404 25 0

計 3,635 3,210 226 199

昭和49年 1 347 321 22 3

2 279 248 31 0

3 277 251 25 1

4 304 286 17 0

5 318 304 14 0

6 227 220 7 0

7 232 213 19 0

8 230 203 9 18

9 176 128 25 23

10 262 232 17 13

11 278 223 26 29

12 315 295 20 0

計 3,245 2,924 232 87資料:財務省「日本貿易月表」

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○ 大豆及び主要加工品の価格の推移

年 月 国際価格 国内卸価格 豆腐 納豆 味噌 醤油 食用油(円/トン) (円/トン) (円/100g) (円/100g) (円/1㎏) (円/2㍑) (円/450g)

昭和47年 1 34 300 55 500 11 24 158 280昭和47年 平均 39,708 55,917 11 24 162 275 99昭和48年 1 48,600 90,000 11 24 175 272 99

2 58,900 170,000 15 38 176 310 1003 64,100 130,000 14 41 210 319 1014 62,900 110,000 14 41 215 319 1015 88,100 120,000 14 41 215 319 1016 102,300 120,000 14 40 214 319 1007 91,700 133,000 14 40 214 319 1018 100,900 120,000 14 39 217 316 1029 62,000 113,000 15 39 203 313 10010 59,700 105,000 15 39 204 348 10011 56,100 98,000 15 39 206 374 10112 60,100 117,000 15 39 208 374 112

平均 71,283 118,833 14 38 205 325 102昭和49年 1 68,400 120,000 16 41 235 376 119

2 68,500 118,000 17 45 250 420 1273 63,500 115,000 17 45 253 422 1274 57,500 90,000 17 46 252 426 1275 56,500 88,000 17 46 252 446 1286 56,500 84,000 17 46 255 446 1327 72,400 88,000 17 46 255 446 1438 86,800 121,000 17 45 253 446 1429 83,500 120,000 17 46 253 446 15310 95,700 130,000 17 45 251 447 16411 84,400 134,000 17 45 252 447 16912 82,500 132,000 17 46 253 447 172

平均 73,017 111,667 17 45 251 435 142国 際 価 格:シカゴ商品取引所国内卸価格:日経仲間相場加工品の価格:東京都区部小売価格

      資料:総理府「消費者物価接続指数総覧」(昭和50年基準)

大豆 加工品

64.3

71.9

89.4

100

61.3

69.3

88.5

100

55.5

84.4

96.4 100

56.1

77.9

95.1

100

50

55

60

65

70

75

80

85

90

95

100

昭和47年 48年 49年 50年

当時の物価動向(昭和50年を100とした指数)

総合

食料

食用大豆

豆腐

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③ 政府による対策

食品用大豆緊急対策

(農林省:昭和48年2月3日)

1.当面の対策

① 大豆の主要輸入相手国である米国、中国の政府及び貿易関係機関に

対し、積み出しの促進を要請。

② 国産大豆の集荷及び実需者向け販売の促進。

③ 国内製油業者に対し、手持ち大豆を食品用に融通させ、実需者の計

画に応じ適正価格で販売。

④ 商品取引所における輸入大豆の取引を規制。

2.今後とるべき措置

① 国産大豆の生産振興。

② 大豆の開発輸入を促進し、海外供給源を多角化。

米国の輸出規制措置の実施に伴う大豆確保緊急対策について

(農林省:昭和48年7月6日)

1.当面の対策

① 大豆及び大豆かす需給協議会を開催し、適正配分を期す。

② 大豆等を買占め売惜しみ防止法の特定物資として指定し、必要に応

じ、関係事業者から報告を求めるとともに、大豆等の円滑な流通が阻

害される場合、勧告、公表制度を活用。

③ 大豆等の輸出抑制を指導。

④ 商品取引所における輸入大豆の取引は、当分の間停止。

2.今後とるべき措置

① 国産大豆の生産の振興、海外供給源の多元化、長期安定取引の推進、

実需者による共同購入、適正在庫の保有等について検討。

② 大豆以外の油脂原料の確保について、関係業界を強力に指導。

③ 需要に見合った新穀の輸入の推進。

④ 大豆等の需給及び価格動向を常に把握。

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(2)平成5~6年の米不足の状況

① 当時の経緯と状況

ア 経緯

平成5年産米の作柄は、

a)北日本を中心に過去に例をみない規模の冷害に見舞われたことに加え、

b)西日本を中心として相次いで来襲した台風、長雨

c)北海道を除きほぼ全国的に多発したいもち病

等により、大きな被害を被ったことから、収穫量は作況指数74の「著しい不良」となり、

平成5年10月末からの持越在庫(23万トン)及び6年産米の前倒し供給を合計しても、

6米穀年度(平成5年11月~平成6年10月)の年間の必要供給量を国内産で確保するこ

とが不可能な状況となった。

このため、国内産で不足する量については緊急特例的に輸入することとし、円滑な供

給に努めたが、流通・加工業者及び消費者におけるコメの供給のひっ迫感、不安感の高

まりによるコメの買いだめ、買い急ぎ等により小売価格は上昇し、市場は混乱した。

イ 当時の需給構造

a)生産量の動向(単位:万トン)

平成4年産 平成5年産 平成6年産 平成7年産

国産米供給量 1,045 789 1,163 1,230

生産量 1,019 766 1,161 1,075

在庫量(10月末) 26 23 2 155

緊急輸入量 (米穀年度) - 255 - -

資料:食糧庁調べ注:緊急輸入量は契約ベース。実績は259万トン。

b)緊急輸入量の内訳 (単位:万トン)

アメリカ 中 国 豪 州 タ イ 合 計

輸入数量 54 107 18 75 255(割合) 21% 42% 7% 30% 100%

資料:食糧庁調べ

注:輸入数量は契約ベース。

ウ 当時の価格動向

平成5年平均 平成6年2月 平成6年4月

国産米(精米)価格 6,259円/10kg → 6,919円/10kg → 9,377円/10kg

(資料:総務省「小売物価統計」 注:国産米とは、うるち米(特)、東京都区部における価格。)

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② 当時の需給動向等

○ 米の小売価格と供給量の推移

資料:総務省「消費者物価指数」、食糧庁調べ注:売却・販売量は政府が売却した政府米及び指定法人が販売した自主流通米等を合計

した数量である。

主食用米穀(うるち米)の売却・販売量

0

10

20

30

40

50

60

万トン

5年

11月

外国産米

国産米

12 1

6年

2 3 4 5 6 7 8 9 10

うるち米の小売価格(2年=100)

100

120

140

指数

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○ 緊急輸入米の輸入動向

・ 国別、月別契約数量

(単位:千トン)

アメリカ 中 国 豪 州 タ イ 合 計

平成5年10月 14 0 0 123 13711月 50 3 0 140 19312月 75 126 27 194 423

平成6年1月 28 70 14 101 2132月 124 168 10 94 3963月 68 288 0 0 3564月 58 99 27 100 2845月 49 200 34 0 2836月 71 118 71 0 260

合 計 537 1,072 183 753 2,545

資料:食糧庁調べ

・ 国別、月別到着数量

(単位:千トン)

アメリカ 中 国 豪 州 タ イ 合 計

平成5年11月 0 0 0 38 3812月 14 3 0 97 114

平成6年1月 13 13 10 122 1592月 45 75 10 125 2543月 88 170 23 204 4854月 95 197 8 67 3665月 94 214 4 55 3666月 78 202 42 45 3687月 65 134 49 0 2488月 46 65 37 0 148

合 計 537 1,072 183 753 2,545

資料:食糧庁調べ

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③ 政府による対策

ア 安定供給のための計画的な販売

・国、都道府県、市町村及び出荷団体が一体となったa)出荷の推進、b)規格外米

の政府買入、c)他用途利用米の主食用への転用、d)緊急輸入の実施。

・自主流通米の計画販売の要請、以後、自主流通米と政府米を一体とした計画的かつ

きめ細かな需給操作を行うため、実質的には割当制に近い形で供給。

イ 価格高騰への対策

・大不作による販売価格の便乗値上げの防止、精米表示の徹底を図るため、食糧事務

所が総力を挙げて、特別巡回指導を実施。また、米加工食品や外食価格の動向調査

を実施。

・消費者に対する米の適正な供給を確保するため、米穀販売業者に対する販売価格、

在庫状況の調査及び不適切な業務運営についての指導を実施。

ウ 消費者へのPR

・消費者からの苦情や相談に対応する窓口(お米の110番)を食糧事務所に設置。

・新聞掲載、テレビ報道等マスコミを通じたPRの実施。

(米の安定供給のために措置が講じられ、米の供給が確保されていること、米は生鮮

食品であり、大量に購入しても品質の低下を招くことについて広報。)

・消費者、料理専門家、マスコミ等を対象に輸入米試食会の開催。

・消費者に対する輸入米の炊飯・調理講習会の開催。

エ 輸入米の供給円滑化

平成6年3月以降、輸入米の売却に当たり安定的な供給を行うため、配送の機動

化・迅速化、コメ流通の円滑化、価格の監視及び安全性のチェックを実施。

平成6米穀年度における米の供給安定対策(平成6年3月11日通達)

・外国産米の配送について需給事情に応じた機動的な優先移送の実施。

・特別巡回指導の充実・強化。

・お米100番の設置・活用を通じた情報把握、指導の徹底。

・卸売業者から小売業者への米の供給に当たっては、小売業者間の公平販売を

確保。

・小売業者から消費者への供給に当たっては、国産米・外国産米のバランスの

とれた供給のため、混米や詰め合わせによる販売を指導。

・混米及び外国産米に関する、炊飯、調理方法、加工適性等の情報の提供。

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7 諸外国における食料安全保障政策の概要

国 名 根拠法令 食料安全保障政策の概要

ドイツ 食料供給確保法 ○ 東西冷戦中の1965年に、政治的・軍事的危機

(1965年) を対象とした「食料供給確保法」を制定。

食料緊急対処法 ○ 1986年のチェルノブイリ原子炉事故が契機と

(1990年) なり、1990年に平時における危機を対象とした

「食料緊急対処法」を新たに制定。

○ 法令に基づき、危機発生時における食料供給

計画立案に備えるため、連邦農業・食料庁は、

主に以下のような措置を実施。

① 毎年、国内での農産物及び飼料(小麦、馬

鈴薯、砂糖、油脂、肉類、卵、牛乳・乳製品

等)の生産状況及び仕向先を把握

② 大規模な家畜疾病が発生した場合の影響算

定など、具体的な事件やシナリオに沿った特

別評価を実施

③ 食品産業申告令に基づき、(倉庫の)収容

能力といった事業者のインフラに関する情報

収集を実施

④ 国家穀物備蓄(パン用小麦及びカラス麦を

対象)及び民間有事備蓄(米、豆類、コンデ

ンスミルク及び全乳粉を対象)による公的備

蓄を実施

⑤ 危機時での食料品の欠乏に備え、危機時に

おいて当該食料品の一定量の購入を可能にす

るための消費者カード(食料品及び牛乳を対

象)を作成し、各州において保管

⑥ 危機時におけるすべての関係当局間の連絡

網を確保するための情報通信システムを整備

するとともに、公的備蓄に関する情報提供及

び家庭備蓄奨励のためのポータルサイトを開

(平成22年8月時点)

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スイス スイス連邦憲法第102条、 2度の世界大戦で食料不足に陥った経験から、

国家経済供給法(1982年) 食料安全保障を総合防衛政策の重要な柱と位置

付け、戦時における経済封鎖を前提に自給自足

を目指し、備蓄等による食料安全保障政策を実

施。

○ 1970年代以降の石油危機、食料価格の高

騰等により輸入依存体質からの脱却が強く認識

されるようになったことを受け、有事の範囲を

平時にまで拡大。スイス連邦憲法の改正により、

戦時のみならず平時の食料不足等における食料

の安定供給体制の推進を規定。

○ 1982年に国家経済供給法を制定し、食料、

工業基本材等の供給保障、輸送等に関して詳細

に規定。

○ 「90年食料供給」において、有事の際、3

年かけて耕地を増加させ、最終的には国内で

100%自給を図る政策を提唱。有事のシナリ

オに応じて、輸入、備蓄政策を組み合わせた食

料供給計画を策定。

○ 1999年に全面改正された憲法では、第1

02条に「国会による供給」として、有事に備

えた予防的措置を規定。

○ 政府の義務備蓄政策に基づき、以下の備蓄量

を規定。以下の備蓄に加えて有事の際でも続く

輸入及び生鮮食品等の生産により、6ヶ月間の

食料供給が可能と見積もられている。

砂糖 7.5万t(4ヶ月分)

米 1.4万t(4ヶ月分)

食用油 3.2万t(4ヶ月分)

コーヒー1.35万t(3ヶ月分)

小麦 16万t(4ヶ月分)

デュラム小麦 3.5万t(4ヶ月分)

高タンパク食品 4.7万t(2~3ヶ月分)

高エネルギー食品 27万t(3~4ヶ月分)

穀類等

○ 民間事業者が、自社の商品在庫の一部として

備蓄し、商品が古くなる前に出荷。

○ 特定の品目の輸入の許可制となっており、輸

入業者にとっては、備蓄に関する契約を政府と

結ぶことが輸入許可を得るための実質的な条件

となっている。

(平成22年8月時点)

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フィンランド 安全供給法(1992年) ○ 国防体制として軍事防衛、市民防衛、経済防

安全供給の目標に関する 衛の各々の強化を図ることとし、経済防衛の一

政府決定(2008年) 環として食料の自給政策、食料安全保障体制の

確立を図る。

○ 国立緊急供給庁により、回転方式で2,800kca

l/日 /人を目標として備蓄。

パン用穀物 40万トン

種子用穀物 8万トン

油脂用穀物 3万トン

牧草種子 9千トン 等

○ 国と民間事業者が協定を結び、民間事業者が

備蓄。

(平成22年8月時点)

資料:農林水産省調べ

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○ 我が国の企業は、カントリーリスクや天候リスクがあること等から穀物等の海外農業生産には従来消極的であったが、最近では、新たな海外投資により穀物等の集荷・販売能力を強化するとともに、農業生産を行う企業も見られている。

● 豊田通商(南米に強い穀物メジャーと包括提携)

・ ブラジルやアルゼンチンの穀物、油糧種子の販売促進や積出・保管施設への

投資を拡大するため、南米に強い大手穀物会社であるニデラ社と包括提携

(2010年11月)。

● 双日(アルゼンチンに農業生産法人設立)

・アルゼンチンに農業事業会社を設立。中部の湿潤パンパ地帯に農地を確保

し、大豆、コーン等の生産を開始(2010年11月)。

・ロシア穀物協会とアジア市場におけるロシア小麦の販売促進に向け、戦略的

パートナーシップ契約を締結(2009年11月)。

● 丸紅(ブラジルの港湾ターミナル事業会社を完全子会社化)

・穀物・肥料等の米国大手取引会社であり、全米3位の穀物集荷流通網(保管

能力)を有するガビロン社を買収(2012年5月)。

・ブラジルのサンタ・カタリーナ州サン・フランシスコ・ド・スル港にある港湾ターミ

ナル事業会社テルログ・ターミナル社を完全子会社化(2011年11月)。

・ロシア東部穀物集荷会社のアムールゼルノ社、港湾物流会社のフェテクシム

社と包括提携(2010年4月)。

・ブラジルに非遺伝子組換大豆の農場を所有する穀物集荷会社のアマッジ社と

包括提携(2009年5月)。

・アルゼンチン大手総合食品会社で自社農場と穀物集荷流通網を有するモリノ・

カニュアラス社と包括提携(2009年5月)。

・中国内外での飼料畜産インテグレーションを展開するため、中国 大手農牧

企業山東六和集団(2010年)、新希望六和(2012年1月)と戦略提携。

● 三井物産 (ブラジルで農業(農地保有)、及び穀物の集荷販売を行う会社を完全子会社化)

・ブラジルにおいて穀物を中心とする農業事業及び穀物集荷・販売を行うマルチグレイン社を完全子会社化(2011年5月)。

● 全農(米国農業組合と合弁会社設立)

・米国 大の穀物農協連合会であるCHSと日本向け飼料用穀物(小麦調達

優先)を扱う合弁会社設立を発表(2012年5月)。

● 伊藤忠商事(米国に共同で穀物輸出ターミナル建設)

・穀物メジャーのブンゲ・ノース・アメリカ及び韓国 大バルクキャリアーの米国

法人との合弁による新会社を設立し、米国西海岸 大級の穀物輸出ターミナ

ルを建設(2009年6月)。

● 住友商事(豪州のターミナル・内陸集荷会と経営統合)

・港湾ターミナル・サイロ運営会社のオーストラリア・バルク・アライアンス(AB

A)社を完全子会社化。(2010年4月)さらに穀物集荷・販売会社のエメラル

ド社とABA社を経営統合(2011年12月)。

● 三菱商事(ブラジルの穀物会社に増資)

・穀物メジャーのカーギル社と折半出資で、米国内陸部の穀物集荷設備を運

営する合弁会社を設立(2012年3月)し、集荷施設へ投資する計画。

・ブラジルの穀物会社であるセアグロ社の第3者割当増資に応じて同社株2

0%を取得、またセアグロ社から集荷穀物の優先購買権を確保することに合

意(2012年1月)。

・本邦2企業とともに、中国中糧集団(COFCO)の食肉事業を統括する持株会

社に資本参加(2011年6月)。大豆供給を提携。

・穀物・油糧種子を調達する子会社を設立し、ブラジル大手加工食品会社ブラ

ジルフーズと大豆調達を提携(2011年1月)。

● ギアリンクス(南米で日本向け大豆栽培)

・2003年にアルゼンチンで農地を購入し、大豆等を栽培し、高品質のものを

日本へ輸入。パラグアイの日系農協から非遺伝子組換大豆等を日本へ輸

入。 (資料:各社ヒアリング及びプレス資料)

我が国からの海外民間農業投資の最近の状況

○ 三井物産は、2007年にブラジルで穀物の集荷・販売を行うマルチグレイン社に資本参加し、

当該社を通じて農業事業会社であるシングー社を傘下に収め、農業事業にも進出。2011年にはマルチグレイン社を完全子会社化。大豆をはじめとする作物の生産から輸出まで一貫管理する体制構築。

海外農業投資の事例①

【集荷・販売事業】(自社所有及びリース)

□ 港湾設備(大豆輸出5箇所 小麦輸入1箇所)

○ 倉庫及び積替設備(18箇所)

ー 鉄道運営会社のVALE社と長期鉄道輸送契約

【農業事業】

☆ 農場117千ha △ 綿繰工場(5箇所)マラニョン州(9,864ha)

大豆・とうもろこし

バイア州(97,074ha)

タブレロ農場

大豆・綿花・とうもろこし

ミナスジェラエス州

(9,701ha)

大豆・綿花・とうもろこし

資料:三井物産資料等から作成

【事業方針】

・グローバルな食料需要に対応するため、 も生産余力があると言われるブラジルにおい

て、広大な農地と穀物物流インフラを保有するブラジル企業に出資。

・タブレロ農場(灌漑設備保有)で、生育状況と品質の管理

の下、非遺伝子組換大豆を栽培。

・収穫後、異物混入や他品種と混合しない物流ルートにより、

内陸貯蔵・内陸輸送から輸出(イリェウス港又はアラツ港)

イリェウス港

輸出ターミナル農場のサイロへ貯蔵農場(灌漑設備配備)

サントス港

(農業事業と集荷・販売事業)

・食の安全・安心・安定供給とバリューチェーンの構築

(非遺伝子組換大豆の生産等)

・企業型農業による高収益農業生産モデルの確立

・内陸倉庫・内陸輸送を絡めた広範な集荷網と穀物輸出

ターミナルを活用し、物流の 適化

生産から輸出まで一貫管理体制の例生産から輸出まで一貫管理体制の例

アラツ港

イタキ港

ツバロン港

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海外農業投資の事例②

ウルグアイ

サンタクルス

ティエラ・デル・フェゴ

チュブ

リオネグロ

ネウケンブエノスアイレスラ・パンパ

メドサ

サンファン

ラ・リオハ

コルドバ

サンタフェ

エントレリオス

コリエンテウ

チャコ

フォルモサ

サンティアゴ・デル・エストロ

フフイ

サルタ

ブエノスアイレス

サンロレンソ港ロサリオ港

サンルイス

ミシオネス

アルゼンチン

ブラジルパラグアイ

チリ

ボリビア

:リース契約農場:主要輸出港

大豆農場 とうもろこし農場

○ 双日は、2010年にアルゼンチンにおいて農業生産を行う双日ブエナスティエラス社を双日グ

ループの100%出資で設立、大豆等を生産・販売する農業事業を開始。営農ノウハウを蓄積し、南米地域へ拡大、農産物の安定供給を目指す。

【事業方針】

・アルゼンチンにおいて自ら農業事業を手掛けることで、栽培管理、農業経営、リスク

対応に関するノウハウを蓄積し、生産の拡大を進めながら、生産・輸出余力のある

ブラジルを中心とした南米地域にも農業事業を展開。

・こうした川上分野での取組と同時に、川中分野では貿易取引など物流機能の強

化、川下分野では主にアジア地域における食品加工・流通事業の強化を図り、グ

ローバルなバリューチェーンを構築。アジア地域への安定的な農産物の調達・供給

に取り組む。

・中部の湿潤パンパ地帯で、大豆を中心に栽培

・今後、日本、アジアを含む海外に輸出する予定【農業事業】

・アルゼンチン中部の

湿潤パンパ地帯に農

地を確保

・大豆・ひまわり・小

麦、コーンなどの農

業生産を実施

本邦企業として初めて農業生産法人を設立本邦企業として初めて農業生産法人を設立

資料:双日資料等から作成

○ ブラジルのセラード地帯においては、農家の入植事業を融資により支援し、農業研究等の技術

協力も併せて行い、大豆等の食料生産の増大を図った結果、畜産物消費の伸び等により大豆の需

要が増大したこと等の事情もあり、セラード地帯の大豆生産が大幅に増大した。

【背景】

・1973年の米国大豆輸出規制により、輸入先の安定化・多角化を検討

・翌年、両国首脳の共同声明に続き、国家プロジェクトとして実施

【目的】

・ブラジルの食料増産、地域開発の促進

・世界の食料供給の増大と両国の経済協力関係の強化

【事業期間】

1979年~2001年 (第1期事業~第3期事業)

【総事業費】

約684億円(うち日本のODA 279億円)

【内容】

・セラード地域の農業開発(入植者717戸が、融資を受けて農地造成、

灌漑整備等を実施。34.5万haを開拓し大豆等を生産。)

・研究機関との技術協力

セラード開発前 開発後(大豆作付状況)

過去の海外農業開発事例

【成果】

(1)開発拠点としての効果が大きく、セラード地域の大豆生産量が

大幅に増大。世界の食料安定供給に貢献。・大豆生産量は、事業開始前の約190倍に増大・ブラジル国内の半分以上、世界全体の約16%を生産

1979年 2008年

世界の大豆生産量 8,870万トン 2億3,122万トン

ブラジルの大豆生産量 1,024万トン 5,983万トン

セラード地域の大豆生産量 20万トン 3,735万トン

ブラジル全体に占める割合 2.0% 62.4%

世界全体に占める割合 0.2% 16.2%

1977年 2008年

米国 342.8万トン (95.2%) 272.9万トン (73.5%)

ブラジル 5.8万トン ( 1.6%) 56.8万トン (15.3%)

その他 11.3万トン ( 3.2%) 41.4万トン (11.2%)

(2)日本の食料輸入先の多角化に貢献・日本の大豆輸入について、ブラジルが新たな輸入先としてその

シェアを拡大させ、米国の一極依存の割合が大幅に低下

ブラジル・セラード地帯の農業開発ブラジル・セラード地帯の農業開発

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農業開発プログラム(ProSAVANA)対象地域

リシンガ

ナンプラ

マンディンバクアンバ

石炭(日/伯/英/印)

リン鉱石(伯)

石油・天然ガス(日/米/印)

ナカラ

リシンガ農業試験場

ナンプラ農業試験場

イレ

大豆・ゴマ(日)グルエ

石炭(伯)

空港(伯)

鉄道(伯)

農家約72万戸(約80万ha)

海外農業開発の取組事例

○ モザンビーク北部のナカラ回廊地域は、比較的雨量も多く、広大な農耕可能地が存在しており、

農業生産拡大のポテンシャルが高い。同緯度に位置する熱帯サバンナであるセラードの日伯による

農業開発の技術と知見を生かして、日伯がモザンビークに対する三角協力を実施。

○ 小規模農家の貧困削減、食料安全保障の確保、さらにODAだけでなく民間投資も活用し、国際

市場を志向した中・大規模農業の展開可能性を見込む。

農業開発プログラムとともに、各種インフラ整備や社会・保険分野での協力を実施【背景】・モザンビーク北部のナカラ回廊地域は、豊

富な雨量と約4億haに上る広大な農耕可能な未開墾地が存在

・ブラジルと同じく旧宗主国がポルトガル・2009年に日伯によるモザンビークに対す

る三角協力の覚書締結【目的】

・小農の所得向上・貧困削減と民間の農業投資を通じた農業開発の推進と食料問題の改善

【特長】・ODA(資金協力、技術協力)だけでなく、民

間投資も活用し、国際市場を志向した中・大規模農業の可能性を見込む

・日伯によるセラード農業開発の実績を通じて蓄積された技術と知見を活用

・責任ある農業投資原則(PRAI)を踏まえた農業開発マスタープランづくり

【内容】

〈第1フェーズ:準備段階〉

・農業開発研究・技術移転能力向上プロジェクト」の実施(2011年5月開始)・農業開発マスタープラン策定開発調査の実施(2012年2月開始)・農村レベルでの実証調査(2012年度下半期予定)

農業開発プログラム(ProSAVANA)農業開発プログラム(ProSAVANA) モザンビーク・ナカラ回廊経済回廊地域の開発モザンビーク・ナカラ回廊経済回廊地域の開発

【主要作付け作物】

・大豆、ごま、とうもろこ

し、キャッサバ、綿花等

〈第2フェーズ:事業化段階〉

・ 「モザンビーク熱帯サバンナ農業開発モデル」構築後、農業開発の面的拡大を求めて、無償資金協力、円借款の資金協力を想定

○ 国際土地連合によれば、2000年から2010年の間、検討又は交渉中も含めて、約2,00

0件、2億ヘクタールの土地取引が報告され、複数の情報源により確認されたものは、約1,100件、7,100万ヘクタールであり、アフリカ、アジアに集中。

○ 土地取引は、2005年以降増大し、2007ー08年の食料価格の高騰等を背景に、2009年にピーク。土地取引のうち、バイオ燃料生産が過半数を占め、農畜産生産は約2割であり、その他は森林、工業、観光等である。

諸外国による海外農業投資の状況①

134.5

43.418.9 6.6

203.4

34.3 28.66.3 1.7

70.9

0

50

100

150

200

250

アフリカ アジア 南米 その他 計

報告 確認

37.2, 58%11.3, 17%

0.4, 1%8.2, 13%

2.7, 4%

1.7, 3%

1.6, 2% 1.2, 2%

バイオ燃料

農産物

畜産

森林・炭素隔離

観光

鉱物・石油採掘

工業

非食用農産物

×100万ヘクタール

×100万ヘクタール

2.20.3 0.4 0.3 0.6

2.8 1.6 2.26.1

29.9

8.3

0

5

10

15

20

25

30

35

2000年 2002年 2004年 2006年 2008年 2010年

×100万ヘクタール

資料:国際土地連合報告書「土地の権利と土地収奪」(2012年1月)

報告及び確認された土地取引報告及び確認された土地取引

土地取引面積の目的別内訳土地取引面積の目的別内訳

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○ 世界銀行によれば、2008年10月から2009年8月の間、グレイン(スペインを本拠地

とする国際的なNGO団体)が収集した農業投資についての報道は400を超えるプロジェクト数にのぼっており、そのうち約半数がサブサハラ・アフリカ地域、次いでラテンアメリカ・カリブ、東南アジア等に関するもの。

○ こうしたプロジェクトのうち、実際に農業生産に着手したものは2割程度であり、しかも多くの場合、当初の計画のより小規模に行われているとの分析。

諸外国による海外農業投資の状況②

地域別及び目的別プロジェクト数地域別及び目的別プロジェクト数

53

13 4 13

64

41

2411

11

40

18

10

2

15

32

17

12

2

19

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

サブサハラ

・アフリカ

ラテンアメリカ

・カリブ

欧州

・中央アジア

中近東

・北アフリカ

東南アジア

家畜・猟区・森林

工芸・換金作物

食用作物

バイオ燃料用作物

資料:世界銀行「Rising Global Interest in Farmland : Can It Yield Sustainable and Equitable Benefits?」(2010年9月公表)

プロジェクト数189

89

50

15

58

● 中国・2010年、ケニア、アンゴラ、ジンバブエ等、アフリカ諸国の政府関係者を招

いて、農業協力フォーラムを開催。中国企業の投資拡大や、農業技術の支援促進などを柱とする共同声明を採択。

・湖北農懇局は、2007年にモザンビーク・ガザ地区に民間企業を設立。約1千元を投資し、コメの生産プロジェクトを開始。

・2011年に、アルゼンチンのリオネグロ州政府は、中国国営企業に32万ヘクタールの農地をリースする契約を発表。中国側は灌漑などのインフラに15億ドルを投資し、大豆を中国に輸出する計画。

・黒龍江省農懇局は、2004年にロシア極東地域(シベリア・ハバロフスク等)に1.5億元を投資して農場を開設。約5万3千ヘクタールは農懇局に属する28農場が2009年末までに請負。

・中国農業公社は、ブラジルの生産者に対し大豆生産・加工を目的として、約8.8億ドルの投資を実施。これにより13万haで大豆を栽培し、年間400万トンが中国に輸出可能。

・2009年までに、コンゴ民主共和国で農地280万ヘクタールを利用したパーム油栽培の権利を確保。

● 韓国・韓国企業の大宇(デウ)がマダガスカル政府から130万haの土地を99年間

無償貸与されるとの報道(2008年11月)が、政変につながる一因になる。・スーダンで69万haの農地を確保(2009年)。・2009年に、タンザニア政府と韓国農村公社との間で10万ヘクタールの農

地開発に合意(2009年)。韓国国営農業基盤公社が翌年から開発開始。開発農地の半分はタンザニア農民に配分され、残り半分は韓国公社が使用し、韓国向けに食料生産や加工を行う予定。

・韓国企業の現代重工業は、2009年にロシア極東の沿海地方で1万ヘクタールの農場を経営する営農法人の過半数株(3分の2)の取得で合意。2014年までに大豆、とうもろこしを6万トン生産する計画。

・韓国ロッテグループがウクライナのオデッサ港に穀物ターミナルの建設を検討していることに、ウクライナ首相が支持を表明(2011年9月)。

○ 中国・韓国、中東諸国等では、アジア、アフリカ等海外に大規模な農業投資を活発化している。○ 一部の国際メディアや研究機関は、国際農業投資が途上国の人々に負の影響を与え得るとして批判を展開している。

● サウジアラビア・2011年に政府は、海外農業投資のための国営企業を設立したことを発

表。これは、以前、2016年までに、国内での小麦生産を段階的に止めるとの決定を受けた動き。

・2010年にアルゼンチンのチェコ州政府は、サウジアラビアの投資家と20万ヘクタールの農地をリースする契約を発表。サウジ側が4億ドルを投資してインフラを更新するというもの。

・2009年に、総額53億ドルの農業海外投資基金を設立。インドネシアで160万ヘクタール、スーダンで1万ヘクタールの農地リース権を確保。また、政府の支援を受けた民間企業がエチオピアで1億ドルを投じて現地資本と合弁会社を設立し、稲の栽培を開始。

● アラブ首長国連邦・2009年に、資ファンド「アブラジュ・キャピタル」がパキスタンから50万ヘ

クタールの土地を購入。・2009年にスーダンと40万ヘクタールの土地取引が成立。エジプトとも小

麦栽培で同様の契約が成立。

● カタール・2009年に、スーダンに農業投資のための共同事業を設立。

● インド・政府と商工会議所連盟は、ナイロビで、ビジネスフォーラムを開催し、東

アフリカ14カ国が参加。インド政府は、アフリカの農地を取得し豆類・油糧種子を栽培・加工してインドに輸出する民間企業を支援する意向(2010年)。

● 穀物メジャー・ 2009年に、カーギル社とリソイル社がウクライナのイリチェフスク港に

合弁企業を設立し、穀物ターミナルを新設するプロトコルに調印。穀物ターミナルは、2013年に稼動開始予定。

● ロシア(2012年APEC主催国)・ロシア政府は、2012年9月開催予定のAPEC首脳会議に向けて、外

国人投資家の誘致案の一つとして、極東地域の遊休農地を農業用として外国人に長期貸与する案を検討。(資料:新聞等の情報を整理)

諸外国による海外農業投資の状況③

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外務省 経済局審議官

国際協力局参事官

財務省 大臣官房審議官(国際)

農林水産省 総括審議官

総括審議官(国際)

経済産業省 通商交渉官

大臣官房審議官(貿易経済

協力局担当)

国際協力銀行 国際業務戦略部長

国際協力機構 企画部審議役

日本貿易振興機構 農林水産・食品部長

日本貿易保険 総務部長

食料安全保障のための海外投資促進に関する指針

1.対象となる農産物

対象となる農産物は、国際的な食料需給動向、食生活における重要性、輸入依存度等を踏まえ、当面は、大豆、とうもろこし等とする。

2.対象となる地域

中南米、中央アジア、東欧等において、投資環境の整備とともに、農業投資関連情報の収集・提供を重点的に実施する。

3.具体的な取組-官民連携モデルの構築以下の公的支援ツールを総合的に活用する。

① 投資環境の整備(投資協定の締結等)② ODAとの連携(生産・流通インフラ整備等)③ 公的金融の活用④ 貿易保険の活用⑤ 農業技術支援(共同技術研究、技術支援等)⑥ 農業投資関連情報の提供 等

4.我が国の行動原則等(国際的に推奨し得る農業投資の促進)

○ 国民への食料の安定供給のため、国内農業生産の増大を基本としつつ、必要な輸入についてはその安定化・多角化を図るとともに、世界全体の農業生産の増大、農業投資の拡大が急務であることから、我が国からの海外農業投資を促進していく必要。

○ 我が国からの海外農業投資に対する支援方策等を政府関係機関が一体となって検討等を行うために、2009年4月に農林水産省、外務省が中心となって「食料安全保障のための海外投資促進に関する会議」を設置し、同年8月に「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」を策定。現在、本指針に基づき、投資環境の整備、ODAとの連携、公的金融の活用、海外農業投資に関する情報収集及び提供に取り組んでいるところ。

「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」の概要「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」の概要海外投資促進会議の構成員海外投資促進会議の構成員

○対象品目

大豆、

とうもろこし等

○対象地域

中南米、

中央アジア、

東欧等

我が国及び世界の食料安定供給の確保

【政府・関係機関】

【民間企業】

生産 集荷 輸送

投資環境の整備○政府間取極

投資協定等の締結

○経済協議

政府間の経済対話

ODAとの連携等○ODAとの連携

(インフラ整備、技術支援等)

○公的金融

○貿易保険 等

情報提供

○農業投資関連情

報の収集・提供

輸出

総合的支援

農地取得・リース

生産・収穫 等

・農地開発

・灌漑施設

・保管施設

集荷、管理、輸送、販売 等

・集荷・貯蔵施設

海外投資促進に関する官民連携のイメージ

積出

・輸出ターミナル

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Page 19: 5 我が国の農産物備蓄の概要(平成27年度) - maff.go.jpとうもろこし 世界計 30,883 31,829 30,629 1位 米国 14,173 米国 14,404 米国 11,942 2位 中国

原則1:土地及び資源の権利の尊重土地と天然資源に関する既存の権利を認め、尊重されること。

原則2:食料安全保障の確保投資によって食料安全保障が危機に瀕することなく、むしろ強

化されること。

原則3:透明性、良好なガバナンス及び投資しやすい適切な環境農業投資の過程に透明性があり、監視が行き届き、すべての利

害関係者の説明責任を明確にすること。

原則4:協議と参加実質的に影響を受ける全ての人と協議し、協議から得られた合

意事項を記録し、実施すること。

原則5:責任ある農業企業投資投資事業は経済的に実行可能であり、法律を尊重し、産業の成

功事例を反映し、最終的には永続性のある共通の価値観を持てるものであること。

原則6:社会的持続可能性投資が社会と分配に好ましい効果をもたらし、脆弱性を増大さ

せないものであること。

原則7:環境的持続可能性環境への影響を定量化し、資源の持続可能な利用を奨励する措

置をとり、マイナスの影響を最小限に止め、軽減すること。

国際機関が策定した責任ある農業投資原則案国際機関が策定した責任ある農業投資原則案

2009年7月 G8 ラクイラサミット 首脳宣言 (イタリア)

○ CFSにおける協議の支持、国際機関によるPRAIの現場での検証と実用化の事業を歓迎

2011年6月 G20農業大臣会合 閣僚宣言 (フランス)

責任ある農業投資原則(PRAI)の取組

2010年10月 APEC食料安全保障担当大臣会合 閣僚宣言 (新潟)

○ PRAIの国際的な合意に向けてCFSにおいて議論を進めていくことに合意

2010年10月 FAO世界食料安全保障委員会(CFS) (イタリア)

○ PRAI策定に向けた国際機関の取組を支持

○ 2007-2008年の世界的な食料価格高騰を契機として、途上国への大規模な国際農業投資が急増。これが「新植民地主義」等として国際社会の注目を集めた。

○ 我が国は、G8ラクイラ・サミットの機会に「責任ある農業投資」の促進を提唱、4国際機関(世界銀行、FAO、IFAD、UNCTAD)が中心になり、投資受入国、現地の人々及び投資家という三者の利益を調和し最大化を図る「責任ある農業投資原則」(PRAI)を策定、以後G8やG20、APEC等においても歓迎されてきている。

○ 4国際機関において、PRAIの現場での検証と実用化に向けた取組みが進められているところ、我が国も世界銀行のパイロット事業を支援している。また、本年より、世界食料安全保障委員会(CFS)において、PRAIも含めた既存の枠組みを踏まえての、CFSとしての責任ある農業投資原則に関する協議が開始される予定。

○ 我が国は、国際農業投資の行動原則を策定するため、国際機関等と取組む

○ PRAIの実用化に向けたパイロット事業を歓迎、PRAIを考慮した投資の実施を奨励

国際的枠組みでの議論国際的枠組みでの議論

2012年6月 G20 ロスカボスサミット 首脳宣言 (メキシコ)

○ これまでの取組の継続にコミットするとともに、PRAIを支持

2012年5月 APEC食料安全保障担当大臣会合 閣僚宣言 (ロシア)

○ 全ての国に対し、PRAIの支持を奨励

2011年11月 G20カンヌサミット 終宣言 (フランス)

○ PRAIに関する幅広い協議プロセス及び試行的な適用を支援

2012年5月 G8キャンプデービッドサミット 首脳宣言 (アメリカ)

土地所有等の責任あるガバナンスのための任意ガイドライン

○ FAOは、栄養不足と貧困の撲滅に向けた取り組みに貢献するため、「国家の食料安全保障の文

脈における土地所有、漁業、森林に関する責任あるガバナンスのための任意ガイドライン」(V

G)を採択(2012年5月)。

○ VGは、各国政府が土地等の権利に関する法律の策定や行政実施の際に参照する原則や実務的事

項を取りまとめたもの。土地所有に関して初めて国際的に合意されたもので、任意のものではある

が、貧困撲滅等に一定の効果をもたらすものと期待されている。

第一部~第七部で構成。主な内容は以下の通り。

第一部(導入):ガイドラインの目的、適用範囲(任意であること、各国の国内法及び国際法等と整合性が取れていること)

第二部(一般事項):責任ある所有管理の目的と原則、権利と責任、法的枠組み等

第三部(土地所有権利・遵守事項に関する法的認識および位置付け):権利保護、公共自然資源、固有・慣習的な土地に関する権利、非公式な所有形態

第四部(土地権利・遵守事項の移管および変更):市場、投資、土地区画整理・調整、賠償、再配分、土地収用・補償

第五部(手続き規則):土地登記、価値判定、課税、空間計画規制、土地権利に係る紛争処理決議、越境に関する事項

第六部(緊急支援及び気候変動への対応):気候変動、自然災害、暴力的紛争

第七部(実施、モニタリング、評価の促進)

FAOは、特に途上国における脆弱な土地所有管理が社会的不安をもたらし、投資や経済成長の抑制を招いているとの観点から、栄養と貧困の撲滅に向けた取り組み貢献するため、2010年、VGの作成に着手

VGは、各国政府、農業者団体、民間セクター等が使用することを目的とした拘束力のないガイドラインであり、土地所有等の管理に関する規制(投資、再配分、収用、土地取引の上限設定等)や手続き規則の必要性を記載。

2012年5月CFS(食料安全保障委員会)特別会合で採択。

被投資国、小農を含めた現地の人々、投資家の三者の利益を調和し 大化を目的とする「責任ある農業投資原則」(PRAI)とVGは相補的な関係。

経緯及び概要経緯及び概要 任意ガイドラインの内容任意ガイドラインの内容

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