2
大起伏堆積岩山地における基岩地下水の水文挙動の解析 京都大学大学院農学研究科 ○高見友佑・小杉賢一朗・正岡直也・水山高久 京都大学防災研究所 松四雄騎 筑波大学農林技術センター 山川陽祐 朝日航洋株式会社 安井秀・安永一樹・田中利和 1. はじめに 深層崩壊は中古生層堆積岩山地において発生 しやすいと考えられている。深層崩壊の発生には 山体内部の基岩地下水の挙動が深く関わってい るとされているが、その原因を解明するための研 究は十分に行われていない。また中古生層堆積岩 山地においては、断層運動や重力変形などの影響 で破砕帯が形成されたり岩盤内部で亀裂が発生 しているため地下水の流動は複雑になっている。 そこで、本研究ではこのような堆積岩山地の水 文・地質構造を解明することを目的として滋賀県 大津市の葛川地区において調査斜面を設定して 湧水の流量観測ならびに基岩地下水の水位計測 を行った。 2. 調査地と観測方法 調査は滋賀県大津市葛川坊村町の安曇川流 域右岸の斜面で行った(図1)。地質は砂岩、 泥岩、チャートからなる丹波帯の中古生層堆 積岩である。安曇川は花折断層の運動によっ て形成された谷沿いを流れている河川であり、 調査斜面は断層運動の影響を受けている。斜 面上では断層粘土(ガウジ)が確認されてい る。また重力変形の影響を受けたと考えられ る地形も見られる。斜面上では断層粘土(ガ ウジ)に沿って多数の湧水が確認された。こ の斜面において 23 地点にボーリング孔を掘削 して基岩地下水位の観測を行った(掘削深度 4.561.7m、掘削本数は合計 44 本)。ボーリ ング孔の掘削本数は1地点当たり1~3本で ある。1地点で複数のボーリング孔を掘削す る目的は、その地点の異なる深さにおける地 下水位流動を調べることである。また4箇所 の湧水に量水堰を設置して流量の連続観測を 行った。図1のラインは地形から推定される 各湧水の流域界である。 3. 結果と考察 31 湧水 4箇所の湧水の流量変化(2014/5/110/27)を図2、積算流量(2014/5/110/27)と流域面積を図3に示す。 B1 C1 は年間を通して流量変化が安定していて降雨イベントに対する流量変化が小さい。D1 の流量変化は降 雨に対して鋭敏に反応している。 M1 の積算流量は4箇所の湧水の中で最も少なく、最も多い C1 100 分の 1 0 20 40 60 80 2014/5/1 2014/6/10 2014/7/20 2014/8/29 2014/10/8 1時間降水量(mm/h) 0 10 20 30 40 50 2014/5/1 2014/6/10 2014/7/20 2014/8/29 2014/10/8 流量(×10 3 L/h) B1 C1 D1 M1 図2:4箇所の湧水のハイドログラフ(2014/5/110/27図1:葛川調査地の地形と流域界、湧水、地下水観測点 - A-160 - P1-034

50 P1-034D1 M1 W>0>8>2'à d b * È b Á » ß ¢ Û Ç>&2014/5/1>|10/27>' W>/>8-1 ]1* b g \ v æ#ú * È W È0{ !l--10-P1-034 6 G _ PKZ M1 b v æ8' c C1 b 11.2 ¸[6 G }bG\?} * Èb

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 50 P1-034D1 M1 W>0>8>2'à d b * È b Á » ß ¢ Û Ç>&2014/5/1>|10/27>' W>/>8-1 ]1* b g \ v æ#ú * È W È0{ !l--10-P1-034 6 G _ PKZ M1 b v æ8' c C1 b 11.2 ¸[6 G }bG\?} * Èb

大起伏堆積岩山地における基岩地下水の水文挙動の解析

京都大学大学院農学研究科 ○高見友佑・小杉賢一朗・正岡直也・水山高久

京都大学防災研究所 松四雄騎

筑波大学農林技術センター 山川陽祐

朝日航洋株式会社 安井秀・安永一樹・田中利和

1. はじめに

深層崩壊は中古生層堆積岩山地において発生

しやすいと考えられている。深層崩壊の発生には

山体内部の基岩地下水の挙動が深く関わってい

るとされているが、その原因を解明するための研

究は十分に行われていない。また中古生層堆積岩

山地においては、断層運動や重力変形などの影響

で破砕帯が形成されたり岩盤内部で亀裂が発生

しているため地下水の流動は複雑になっている。

そこで、本研究ではこのような堆積岩山地の水

文・地質構造を解明することを目的として滋賀県

大津市の葛川地区において調査斜面を設定して

湧水の流量観測ならびに基岩地下水の水位計測

を行った。

2. 調査地と観測方法

調査は滋賀県大津市葛川坊村町の安曇川流

域右岸の斜面で行った(図1)。地質は砂岩、

泥岩、チャートからなる丹波帯の中古生層堆

積岩である。安曇川は花折断層の運動によっ

て形成された谷沿いを流れている河川であり、

調査斜面は断層運動の影響を受けている。斜

面上では断層粘土(ガウジ)が確認されてい

る。また重力変形の影響を受けたと考えられ

る地形も見られる。斜面上では断層粘土(ガ

ウジ)に沿って多数の湧水が確認された。こ

の斜面において23地点にボーリング孔を掘削

して基岩地下水位の観測を行った(掘削深度

4.5~61.7m、掘削本数は合計 44 本)。ボーリ

ング孔の掘削本数は1地点当たり1~3本で

ある。1地点で複数のボーリング孔を掘削す

る目的は、その地点の異なる深さにおける地

下水位流動を調べることである。また4箇所

の湧水に量水堰を設置して流量の連続観測を

行った。図1のラインは地形から推定される

各湧水の流域界である。

3. 結果と考察

3.1 湧水

4箇所の湧水の流量変化(2014/5/1~10/27)を図2、積算流量(2014/5/1~10/27)と流域面積を図3に示す。

B1 と C1 は年間を通して流量変化が安定していて降雨イベントに対する流量変化が小さい。D1 の流量変化は降

雨に対して鋭敏に反応している。M1の積算流量は4箇所の湧水の中で最も少なく、最も多いC1の 100分の 1で

0

20

40

60

80

2014/5/1 2014/6/10 2014/7/20 2014/8/29 2014/10/8

1時間降水量

(mm

/h)

0

10

20

30

40

50

2014/5/1 2014/6/10 2014/7/20 2014/8/29 2014/10/8

流量

(×1

03L/

h)

B1

C1

D1

M1

図2:4箇所の湧水のハイドログラフ(2014/5/1~10/27)

図1:葛川調査地の地形と流域界、湧水、地下水観測点

- A-160 -

P1-034

Page 2: 50 P1-034D1 M1 W>0>8>2'à d b * È b Á » ß ¢ Û Ç>&2014/5/1>|10/27>' W>/>8-1 ]1* b g \ v æ#ú * È W È0{ !l--10-P1-034 6 G _ PKZ M1 b v æ8' c C1 b 11.2 ¸[6 G }bG\?} * Èb

ある。これに対してM1の流域面積は C1の 11.2倍で

ある。これらのことから湧水の流出量には偏りがあり、

C1 付近において基岩地下水の集中が起こっている可

能性がある。すなわち表面上の谷地形や尾根地形とは

異なった地下水流動が考えられる。

3.2 基岩地下水変化

23地点のうち、主なボーリング7本の水位データを

図4に示した。同じ地点の浅い地下水と深い地下水に

ついて比較するために図5に c2、c2Sの地下水位デー

タを示した。ここで、c2Sは c2よりも浅いボーリング

である。図6は全ボーリングの地下水位データから観

測地全体について描いた地下水位コンターである。

a1、b3、b4、c2S、d4は大きな降雨イベントに対し

て水位変化が生じているのに対して c1S、d3において

は水位変化が全く見られない。また a1、b3、b4、c2S、

d4 の5地点においても地点によって水位変化の大き

さに違いが見られる。次に図5に示した c2、c2Sの地

下水位から同じ地点においても降雨に対する地下水位

変化に違いが見られることがわかる。c2Sは8、10月

の降雨イベントに対してそれぞれ水位の増減が見られ

るが、c2は8月の降雨イベント以降は上昇傾向を示し

ている。このように基岩地下水位の変化は掘削地点、

掘削深によって大きなばらつきが見られる。また、図

6のコンターからも大規模なまとまった地下水帯が存

在するわけではなく、個々の地点・深さの地下水帯が

複雑に連動していることが推察される。今後は複雑な

地質構造を持つ堆積岩山地における水移動の機構を明

らかにすることを目的として、トレーサー試験を実施

したり、全ての地点のボーリングコアサンプルの特徴

を詳細に調べていく予定である。

本研究は、JST CREST プロジェクトの一環として

実施した。

390

400

410

420

430

440

450

460

470

2014/5/1 2014/6/10 2014/7/20 2014/8/29 2014/10/8

標高地下水位

(m)

a1 b3 b4 c1S

c2S d3 d4

430

440

450

460

470

480

490

2014/5/1 2014/6/10 2014/7/20 2014/8/29 2014/10/8

標高地下水位

(m)

c2S

c2

0

20

40

60

80

2014/5/1 2014/6/10 2014/7/20 2014/8/29 2014/10/8

1時間雨量

(mm

/h)

0

20

40

60

80

2014/5/1 2014/6/10 2014/7/20 2014/8/29 2014/10/8

1時間降水量

(mm

/h)

0

5

10

15

20

25

0

2

4

6

8

10

12

14

B1 C1 D1 M1

積算流量

(×10

6 L

)

流域面積

(×10

3m

2)

流域面積

積算流量

図3:積算流量と流域面積 (2014/5/1~10/27)

図4:雨量と地下水位 (2014/5/1~10/27)

図6:地下水位コンター図 図5:雨量と c2、c2Sの地下水位

- A-161 -