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早稲田大学環境総合研究センター 最終更新日:2019 地域資源循環プロジェクトに関する研究 題目 物理選別による非鉄製錬忌避元素の除去を目的とした廃電子基板の焙焼・粉砕プロセスの検討 著者 大和田秀二,杉澤建,瀬尾卓,西麻依子,大和田秀二,所千晴,川上智,田畑奨太 1. はじめに 廃電気・電子機器は E-waste と呼ばれ,これらを集積したものは 都市鉱山とも呼ばれる。鉱石の低品位化が進む中で,廃電子基板 (以下,廃 PCB)には銅や貴金属が一般的な精鉱より高い品位で 含まれており,実装部品に使用される各種金属成分も含めて資源 価値が見込まれる。このような二次資源を利用するシステム構築の ための技術開発や制度整備は喫緊の課題であり,特に二次資源中 に含まれる非鉄製錬忌避成分の事前除去が課題となっている。 本研究の概要を図 1 に示す。廃 PCB には, Cu や貴金属だけ でなく製錬忌避成分を含むアルミ電解コンデンサ( Al),難燃剤成 分(Br, Sb)を含む樹脂,ステンレス(Cr 等),はんだ(Pb, Sn, Bi 等),ガラス繊維(Al. Si, Ca)などが含まれており,本研究では,こ れらを各製錬工程の特性に合わせて事前に分離することを目標と する。具体的には,Cu 回収率>80 wt%,貴金属回収率>95 wt%Al 除去率>50 wt%を目標値とした。筆者らは前報 1) において,上 述の廃 PCB に含まれる製錬忌避成分を経済的かつ低環境負荷に て分離することを目的として,廃 PCB を焙焼したのちに電気パルス 粉砕とふるい分けを施すことにより,Cu Al の分離が可能であるこ とを示した(Cu 回収率>80 wt%Al 除去率>50 wt%を達成)。本 研究では,焙焼条件の再検討,各種力学的粉砕手法の選定,物理 選別による各種成分の分離を行って,上記目的に資する処理フロ ーの再構築を行った。 1 PCB 二次原料化技術開発の概要 2. 焙焼条件再検討のための Cu 箔分析 前報 1) では,電気パルス粉砕とふるい分けのみによる Cu Al 分離を達成するために,焙焼条件を大気雰囲気・500 としたが, 本研究では新たに回収対象物である基板中の Cu 箔の酸化進行 状況を検討した。 2.1 実験試料 DOWA エコシステムが収集・焙焼した国内産の廃 PCB を使用し た。実装された部品から家庭用 PC と考えられるが,CPU と放熱板 はすでに外されていた。焙焼の目的ははんだの融解を利用して基 板から実装部品類を剥離することである。以後,剥離された部品類 を「部品部」残った基板類を「基板部」と呼ぶことにする。 2.2 各種分析方法 300400500600 1 h 焙焼した廃 PCB について,微小 X 線回折分析(以下,XRD)を行った。基板部から約 1.5 cm 方の切片を切り出し,樹脂コマに埋めて研磨により断面を出し,Cu 箔部分について XRD を行った。分析には RIGAKU Smart Lab を用いた。また,Cu 箔の酸化が全体にわたっているか確認す るため,日本電子製の JSM-6360 を用いて SEM-EDS による元素 マッピングを行った。 2.3 分析結果と考察 各焙焼温度における Cu 箔断面の微小部 XRD の結果を図 2 示す。300 では単体金属のピークのみが見られるが,400 Cu2O の小さなピークが検出され,500 600 では CuO ピークのみが検出された。既往の廃 PCB 熱処理産物の熱重量分 2, 3) では 300 程度から試料が大きく減量することが分かってお り,300 での焙焼では樹脂の分解のみが進んで Cu 箔の酸化が 起きないが,400 以上では Cu 箔の酸化が起こったと考えられる。 また,図 3 500600 で焙焼した廃 PCB Cu 箔断面の元 素マッピング画像を示す。Cu 箔全体にわたって O も分布しており, Cu の酸化が局所的ではなく全体に広まっていることが分かった。昨 年度は,部品中の Cu の酸化のみに留意して焙焼条件を決めたが, 10100 μm と薄い Cu 箔では,400 ではその全体が酸化す ることが分かった。 2 Cu 箔断面の微小部 X 線回折像 3 SEM-EDS による Cu 箔断面の元素マッピング画像 3. 素材の単体分離のための粉砕手法の検討 前章の結果から,焙焼条件は Cu 箔の酸化が生じない 300 決定し,焙焼後の基板を構成する各種素材の単体分離を目的とし て基板部・部品部の両方について粉砕手法の検討を行った。 3.1 実験試料 前章で用いたものと同じ型の廃 PCB を使用した。 3.2 実験・分析方法 PCB 焙焼基板 非鉄製錬 二次原料 焙焼 適切な粉砕手法 忌避元素 AlSbBrCrPbSnBi アルミ ニウム, 可燃性樹脂, 難燃剤成分, ステンレス成分, ハンダ成分, ガラス繊維 回収元素 CuAuAgPtPd,その他 PCB中の 着 目 元 素 Cu 80 % 以上 貴金属 95 % 以上回収 Al50 % 以上 除去 目標値 Al-Cu分離 ハンダの融解 有機物の 脆化 ハロゲンの除去 金属の酸化抑制 物理選別 実装部品や積層基板中 の金属素材の単体分離 物理選別前処理方法 各成分濃縮産物を 生産できる選別方法 300 400 500 600 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 Cu Cu Cu Cu 2 O 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 CuO CuO ▼▼ 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 ( °) CuO CuO CuO CuO ▼▼ CuO CuO Cu Cu Cu CuO CuO 20 μm 40 μm 500 600 マッピング マッピング Cu Cu O O

600 ù O · 2019-06-13 · 砕機(以下,dd),固化原料解砕機(以下,lc)の3 種類の力学的 粉砕機と,産業技術総合研究所所有の電気パルス粉砕(以下,ed)

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早稲田大学環境総合研究センター 最終更新日:2019年 4 月 19 日

地域資源循環プロジェクトに関する研究

題目 物理選別による非鉄製錬忌避元素の除去を目的とした廃電子基板の焙焼・粉砕プロセスの検討

著者 大和田秀二,杉澤建,瀬尾卓,西麻依子,大和田秀二,所千晴,川上智,田畑奨太

1. はじめに

廃電気・電子機器は E-waste と呼ばれ,これらを集積したものは

都市鉱山とも呼ばれる。鉱石の低品位化が進む中で,廃電子基板

(以下,廃 PCB)には銅や貴金属が一般的な精鉱より高い品位で

含まれており,実装部品に使用される各種金属成分も含めて資源

価値が見込まれる。このような二次資源を利用するシステム構築の

ための技術開発や制度整備は喫緊の課題であり,特に二次資源中

に含まれる非鉄製錬忌避成分の事前除去が課題となっている。

本研究の概要を図 1 に示す。廃 PCB には, Cu や貴金属だけ

でなく製錬忌避成分を含むアルミ電解コンデンサ(Al),難燃剤成

分(Br, Sb)を含む樹脂,ステンレス(Cr 等),はんだ(Pb, Sn, Bi

等),ガラス繊維(Al. Si, Ca)などが含まれており,本研究では,こ

れらを各製錬工程の特性に合わせて事前に分離することを目標と

する。具体的には,Cu回収率>80 wt%,貴金属回収率>95 wt%,

Al 除去率>50 wt%を目標値とした。筆者らは前報 1)において,上

述の廃 PCBに含まれる製錬忌避成分を経済的かつ低環境負荷に

て分離することを目的として,廃 PCB を焙焼したのちに電気パルス

粉砕とふるい分けを施すことにより,Cu と Al の分離が可能であるこ

とを示した(Cu回収率>80 wt%,Al除去率>50 wt%を達成)。本

研究では,焙焼条件の再検討,各種力学的粉砕手法の選定,物理

選別による各種成分の分離を行って,上記目的に資する処理フロ

ーの再構築を行った。

図 1 PCB二次原料化技術開発の概要

2. 焙焼条件再検討のための Cu箔分析

前報 1)では,電気パルス粉砕とふるい分けのみによるCu と Alの

分離を達成するために,焙焼条件を大気雰囲気・500 ℃としたが,

本研究では新たに回収対象物である基板中の Cu 箔の酸化進行

状況を検討した。

2.1 実験試料

DOWAエコシステムが収集・焙焼した国内産の廃 PCBを使用し

た。実装された部品から家庭用 PC と考えられるが,CPU と放熱板

はすでに外されていた。焙焼の目的ははんだの融解を利用して基

板から実装部品類を剥離することである。以後,剥離された部品類

を「部品部」残った基板類を「基板部」と呼ぶことにする。

2.2 各種分析方法

300,400,500,600 ℃で 1 h焙焼した廃 PCBについて,微小

部 X 線回折分析(以下,XRD)を行った。基板部から約 1.5 cm 四

方の切片を切り出し,樹脂コマに埋めて研磨により断面を出し,Cu

箔部分について XRD を行った。分析には RIGAKU 製 Smart

Lab を用いた。また,Cu 箔の酸化が全体にわたっているか確認す

るため,日本電子製の JSM-6360を用いて SEM-EDSによる元素

マッピングを行った。

2.3 分析結果と考察

各焙焼温度における Cu箔断面の微小部 XRDの結果を図 2に

示す。300 ℃では単体金属のピークのみが見られるが,400 ℃で

はCu2Oの小さなピークが検出され,500 ℃と 600 ℃ではCuOの

ピークのみが検出された。既往の廃 PCB 熱処理産物の熱重量分

析 2, 3)では 300 ℃程度から試料が大きく減量することが分かってお

り,300 ℃での焙焼では樹脂の分解のみが進んで Cu 箔の酸化が

起きないが,400 ℃以上では Cu 箔の酸化が起こったと考えられる。

また,図 3に 500,600 ℃で焙焼した廃 PCBのCu箔断面の元

素マッピング画像を示す。Cu箔全体にわたって Oも分布しており,

Cuの酸化が局所的ではなく全体に広まっていることが分かった。昨

年度は,部品中の Cu の酸化のみに留意して焙焼条件を決めたが,

数 10~100 μm と薄い Cu箔では,400 ℃ではその全体が酸化す

ることが分かった。

図 2 Cu箔断面の微小部 X線回折像

図 3 SEM-EDSによる Cu箔断面の元素マッピング画像

3. 素材の単体分離のための粉砕手法の検討

前章の結果から,焙焼条件は Cu 箔の酸化が生じない 300 ℃と

決定し,焙焼後の基板を構成する各種素材の単体分離を目的とし

て基板部・部品部の両方について粉砕手法の検討を行った。

3.1 実験試料

前章で用いたものと同じ型の廃 PCBを使用した。

3.2 実験・分析方法

廃P C B 焙焼基板非鉄製錬二次原料

焙焼 適切な粉砕手法

忌避元素Al, Sb, Br, Cr, Pb, Sn, Biア ル ミ ニ ウ ム , 可 燃 性 樹 脂 ,難 燃 剤 成 分 , ス テ ン レ ス 成 分 ,ハ ン ダ 成 分 , ガ ラ ス 繊 維

回収元素Cu, Au, Ag,Pt, Pd, そ の 他

PCB中の着目元素

C u 8 0 %以上貴金属 9 5 %以上回収

Al 5 0 %以上除去

目標値

Al-Cu分離

ハ ン ダ の 融 解有 機 物 の脆 化ハ ロ ゲ ン の 除 去金 属 の 酸 化 抑 制

物理選別

実装部品や積層基板中の金属素材の単体分離

物理選別前処理方法

各成分濃縮産物を生産で き る 選別方法

300 ℃

4 0 0 ℃

500 ℃

6 0 0 ℃

30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80

30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80

Cu▼

Cu▼

Cu▼

Cu2O▼

30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80

C u O

▼ ▼C u O

▼▼

30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80

2Θ( °)

C u O

C u O

▼C u O C u O

▼▼

C u O

▼ C u O

Cu▼

Cu▼

Cu

C u O C u O

2 0 μ m

4 0 μ m

500 ℃

6 0 0 ℃

マ ッ ピ ン グ

マッピング

Cu

Cu

O

O

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焙焼後の基板部の粉砕については,二段階粉砕を採用した。一

次粉砕の目的は,基板部のサイズ調整であり,二次粉砕の目的は

構成素材の単体分離である。一次粉砕機としては,スイングハンマ

による衝撃式破砕機である槇野産業製のハンマクラッシャ(以下,

HC)と,切断式の二軸破砕機であるホロン精工製の BITEX SH-

500-55(以下,BITEX)を用いた。二次粉砕機としては,槇野産業

株式会社が製造・所有するカッターミル(以下,GSL),マキノ式粉

砕機(以下,DD),固化原料解砕機(以下,LC)の 3種類の力学的

粉砕機と,産業技術総合研究所所有の電気パルス粉砕(以下,ED)

装置である SELFRAG製 Lab S2.0を使用した。GSLは一軸の回

転刃と壁面の固定刃でせん断する機構を持ち,回転速度は一定,

スクリーン径は最大の 20 mm とし,開口率の異なる 2 種類のスクリ

ーンを用いた。DD は回転するピンが固定盤やスクリーンとの間で

粒子に力を掛ける粉砕機で,過粉砕を防ぐためスクリーンと固定盤

の片方だけを付けた条件とした。LCは回転する一軸に,ボルトがね

じ部分を外側にして間隔を空けて取り付けられており,スクリーンと

の隙間に入った粒子にせん断力をかける構造である。スクリーン径

やスクリーン形状,ボルト-スクリーン間隔を変えて実験を行った。

EDは,水中で試料に高電圧をかけて瞬間的にパルス電流を生じさ

せることで,大電流による異相境界面の昇華や水の絶縁破壊による

衝撃波を利用して粉砕する手法であり,電極間距離を 2.0 mm,電

圧印加周波数を 5.0 Hzに固定して印加電圧とパルス回数を変化さ

せて実験を行った。産物は手選により Cu 箔・導線,ガラス繊維布,

微細粒子,綿状繊維,片刃粒子に分けてその重量割合を求めた。

部品部については,素材の単体分離が最も期待できる手法とし

て EDにより実験を行った。実験条件は印加電圧を 180 kVに,電

極間距離を 2.0 mmに,周波数を 5.0 Hzに固定し,パルス回数を

80,160,320,640 回と変化させた。元素の粒度別の濃縮傾向を

把握するため,0.125,0.25,0.5,1,2,4,8,16,31.5 mmにてふ

るい分けを行い,粒群別に RIGAKU製 ZSX PrimusⅡにより蛍光

X線分析(XRF)を行った。

3.3 基板の一次粉砕実験結果

まず,HC で粉砕を行ったところ,図 4(左)のようにガラス繊維が

綿状になることが分かった。一方,BITEX での粉砕では基板が裁

断され,主として数 cm大の断片粒子が得られた。HC産物のように

ガラス繊維が綿状になると,金属粒子を抱き込んで後段の物理選

別での扱いが困難になるため,一次粉砕機としては BITEXを選定

した(図 4(右)参照)。焙焼により樹脂が分解してガラス繊維を保持

する力が弱まった基板では,繊維が靭性の強い布状になっていた。

衝撃力によるHC粉砕は,過去の E-scrapの当研究室の研究 4)に

おいて構成成分の単体分離に有効であるとされていたが,今回の

ような焙焼後の基板には適さないことが分かった。

図 4 基板の HC(左)および BITEX(右)による一次粉砕産物

3.4 基板の二次粉砕実験結果

各粉砕機・条件にて得られた産物の手選結果を,図 5 に整理し

た。横軸に単体分離の進行度合いとして「(片刃粒子残存率)=(各

産物の片刃粒子重量割合)/(一次粉砕のみの片刃粒子重量割

合)」を,縦軸に剥離したガラス繊維布の綿状繊維化の指標として,

「(綿状繊維割合)=(綿状繊維重量割合)/(綿状繊維重量割合+

繊維布重量割合)」を定義した。そして,ガラス繊維の綿状化をの抑

制を重視する観点から,「片刃粒子残存率」+「綿状繊維割合×2」

を二次粉砕での「評価指標」として設定し,この値が少ないほど望ま

しい粉砕結果と評価することにした。

片刃粒子残存率は GSL,スクリーン開口率大の場合の 28.8

wt%が最小,片刃粒子残存率は DD,スクリーンなし,1 回粉砕の

16.9 wt%が最小の結果が得られ,一次粉砕産物の綿状繊維割合

の 25.6 wt%よりも良い成績を得た。また DD,スクリーンなし,1 回

粉砕が片刃粒子残存率も 63.1 wt%と他の条件に比べて低く抑える

ことができた。

手法や条件を変えながら実験した結果見られた傾向として,ガラ

ス繊維の綿状化が起こらないように単体分離を進めるには,①余分

な力を加えないこと,②長時間にわたり力をかけ続けないこと,が重

要であることが示唆された。一方で,粉砕機構の異なる手法を多く

比較したにも拘わらず,単体分離と繊維の綿状化のトレードオフ関

係を脱するほどの良い条件は見つからなかった。このことは,粒子

によって Cu箔・ガラス繊維の剥離に必要な力の大きさに幅があると

考えることで説明できる。比較的大きな力を与えていないあるいは

短い時間しか粉砕していない条件では綿状繊維はあまり増えず,

片刃粒子は 20~40 wt %減少したが,同じ粉砕を 2回行う条件で

は綿状繊維が増加していた。このことから,容易に剥離できる粒子

が先に単体分離し,それ以上の力を与えると綿状になる状況であっ

たと考えられる。結論として,今回試験した機構の中では,「ガラス

繊維の綿状化が起きるほど力をかけなくても剥離する粒子だけを単

体分離する」ことが最善であり,それに最もあてはまるのが DD,スク

リーンなし 1回粉砕の条件であったと言える。

図 5 基板部二次粉砕産物の片刃粒子・綿状繊維割合による評価

3.5 部品部の ED結果

部品部の ED 産物についてふるい分けを行い,粒群ごとに XRF

による元素分析を行った。主要な元素の粒群別分配率分布を図 6

に示す。ED 前では多くの元素が 10 mm 以上の粒群に存在する

が,ED でのパルス印加を 160 回まで進めると樹脂に含まれる Br

やはんだとして使用される Sn の粉砕が進行した。640 回の産物で

はさらに Fe, Cu, Zn の粉砕が進行した。産物をよく観察すると,パ

ルス印加 640 回において金属端子が樹脂や筐体から単体分離し

ている様子が見られたため,この印加回数を最適と判断した。

50 mm

0

20

40

60

80

100

0 20 40 60 80 100

綿状繊維割合

(%)

片刃粒子残存率(%)

評価値80

評価値100

評価値120

評価値140

評価値160

一次粉砕のみ

DD

GSL

LC

180kV

140kV

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図 6 ED産物中の主要元素の粒群別分配率分布

4. 物理選別による各種成分の総合分離

二段階粉砕後の基板部・部品部の各粒群について,物理選別に

よる成分分離を試みた。

4.1 実験試料

前章の結果を踏まえ,基板部については,BITEX による一次粉

砕産物を DD スクリーンなし 1回の条件で二次粉砕した産物を,部

品部については,EDでのパルス印加 640回の産物を用いた。

4.2 実験方法

焙焼・粉砕を含む物理選別フローを図 7 に示す。粒度別の選別

を行うため,0.5,2,8,31.5 mm のふるいを用いてふるい分けを行

った。基板部については+31.5 mm 粒群のものがなく,部品部の

+31.5 mm 粒群にはステンレス製の CPU ソケットカバーのみが残

留したため,物理選別においては,-0.5,0.5-2,2-8,8-31.5 mm

の 4 粒群を対象とした。物理選別は既往研究にならって低磁場・高

磁場の 2 段階磁選後に静電選別(-0.5 mm,0.5-2 mm)あるいは

渦電流選別(2-8 mm,8-31.5 mm)を行うこととし,実験装置は,い

ずれも日本エリーズマグネチックス製のフェライトドラム(FD)型(低

磁場)磁選機,レアアースロール(RR)型(高磁場)磁選機,静電選

別機,渦電流選別機を用いた。なお,基板の-0.5 mmおよび 0.5-2

mm では微細なガラス繊維が選別操作中に綿状の塊を形成したた

め,静電選別前に手選にて取り除いた。図 8 に記載したように,そ

れぞれでの産物を FD 磁着物,RR 磁着物,導電産物,非導電産

物等と呼び,それぞれに識別のため記号をつけた。

また,各産物は部品部のED後と同様に XRF分析を行い,元素

の挙動を調べた。

図 7 廃電子基板の焙焼・粉砕・選別フロー

4.3 物理選別実験結果と考察

基板部・部品部それぞれの粒群別の物理選別産物の重量割合

と元素組成を図 8 に示す。縦軸が各産物の基板部全体・部品部全

体に対する重量割合を,横軸が各産物中での元素組成を示してお

り,図中の各長方形の面積が当該元素の重量割合の大きさを示し

ている。FD 磁着物,RR 磁着物,導電産物,非導電産物,綿状繊

維それぞれの中で組成が 4 つ(綿状繊維は 2 つ)表されており,上

から順に 8-31.5,2-8,0.5-2,-0.5 mm 粒群(綿状繊維は 0.5-2,-

0.5 mm粒群)の組成を示している。

基板部の選別では,2 段階磁選で回収された産物は全粒群合わ

せて 8.76 wt%と少量であり,基板に付着した部品類が磁着しただ

けであった。主要な素材であるCu箔とガラス繊維の分離は主として

渦電流選別によって行われ,基板部全体の Cu のうち 74.97 wt%

が 2 mm 以上の導電産物に回収された。非導電産物にはガラス繊

維の Al, Si, Caや樹脂残渣の C, Brが濃縮した。一方で 2-8 mm

非導電産物では Cu品位が 28.61 wt%とやや高く,8-31.5 mmで

は片刃粒子としてガラス繊維布が導電産物に多く混入していた。原

理としては Cu 箔・ガラス繊維の導電性の違いを利用した電気的選

別は Cu 箔・ガラス繊維の選別に適した手法であるが,精度には改

善の余地があると考えられる。

部品部の選別では,FD 磁着物(および+31.5 mm 粒群)に Fe

を多く含む部品筐体が回収された。RR 磁着物にはステンレスや金

属端子,リード線が付着したままのアルミ電解コンデンサなどが回収

された結果,粒群により異なる特徴の組成となった。渦電流選別で

は Cu 製とみられる導線粒子のほとんどが導電産物として回収され

ず(コイルの導線とみられ,渦電流が循環できる閉曲線が形成され

難かったと考えられる),アルミ電解コンデンサ筐体のみを導電産物

として回収する結果となった。Cu は RR 磁着物と導電産物に 70.4

wt%が分配し,非導電産物に 74.71 wt%が分配する Br との分離

が可能であったが,RR磁着物の-0.5 mm,0.5-2 mmで Snが,2-

8 mm,8-31.5 mmで Alが多く混入した。

0

20

40

60

80

100

0.1110100

網下積算分配率(wt%)

粒径(mm)

ED前

0.1110100

粒径(mm)

ED160

0.1110100

粒径(mm)

Al

Si

Fe

Cu

Zn

Br

Sn

ED640

廃電子基板

300 ℃焙焼

部品基板

電気パルス粉砕

一次粉砕( 二軸破砕機)

二次粉砕( マキノ 式粉砕機)

ふるい分けふるい分け

-0.5 mm

低磁場磁選

高磁場磁選

静電選別

導線産物

非導線産物

RR

磁着物

FD

磁着物

0.5-2 mm

低磁場磁選

高磁場磁選

静電選別

導線産物

導線産物

RR

着物

FD

着物

2-8 mm

低磁場磁選

高磁場磁選

渦電流選別

線産物

非導線産物

RR

磁着物

FD

磁着物

8‐31.5 mm

低磁場磁選

高磁場磁選

渦電流選別

線産物

非導線産物

RR

磁着物

FD

磁着物

2-8 mm

低磁場磁選

高磁場磁選

渦電流選別

導線産物

導線産物

RR

磁着物

FD

磁着物

8‐31.5 mm

低磁場磁選

高磁場磁選

渦電流選別

導線産物

非導線産物

RR

磁着物

FD

磁着物

+31.5 mm-0.5 mm

低磁場磁選

高磁場磁選

導線産物

非導線産物

RR

磁着物

FD

磁着物

綿状繊維

静電選別

0.5-2 mm

低磁場磁選

高磁場磁選

導線産物

非導線産物

RR

磁着物

FD

磁着物

綿状繊維

静電選別

1A 1B 1C 1D 2A 2B 2C 2D 3A 3B 3C 3D 4A 4B 4C 4D 6A 6B 6C 6D 7A 7B 7C 7D 8A 8B 8C 8D 9A 9B 9C 9D3E 4E

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図 8 粒度別の選別産物重量割合と元素組成(上:基板,下:部品)

4.4 総合産物の選別成績

図 8 に示したフローでは合計 35 の産物が得られるが,課題はこ

の中から如何に Cu 濃縮産物を採用するかにある。粉砕・選別各段

階での基板部・部品部・全体について,粉砕・ふるい分け段階と物

理選別段階のそれぞれについて Cu の忌避元素(Al, Sb, Br, Cr,

Pb, Sn, Bi)に対する分離効率が高い産物を順に選択し,Cu 回収

率>80 %となったところで終了する」ことをルールと決めて産物の選

択を行なった。

(1) 基板部・部品部それぞれについて上記ルールに従った場合

に選択される産物・・・基板部: 1A, 1C, 2A, 2B, 2C, 3A, 3C,

4A, 4C,部品部: 6A, 6B, 6D, 7A, 7B, 8A, 8B, 9A, 9C

(2) 全体について上記ルールに従った場合に選択される産物・・・

1A, 1B, 1C, 2A, 2B, 2C, 2D, 3A, 3B, 3C, 3E, 4A, 4C, 6A,

7A, 8A, 8B, 9C, 9D

上記のように Cu濃縮産物を選択したそれぞれの場合の Cu, Al,

Br, Snの分配率,品位,(Cuの Al, Br, Snに対する)分離効率を

表 5 に示す。同表の「フィード」の数値より,フィードを基板部と部品

部に分けることで Cu が基板に濃縮する,また,「粉砕後 Cu 濃縮

粒群」での数値より,基板部は粉砕・ふるい分けのみでも Br や Sn

を分離効率 30 %以上で Cuから分離できるが,部品部では Cuの

Al, Br, Snに対する分離効率が比較的低く,Cu と忌避元素全体を

粉砕・ふるい分けのみで分離するのは難しいと考えられる。上記の

(1)と(2)を比べると,(2)の方が全体での Cu の Al に対する分離効

率が約 20 %高いことが分かる。これは,Cuの分配率が高い基板部

の選別で回収率が向上し,Al,Br,Sn は部品部の中から除去でき

るためである。これにより,最終産物は Cu 回収率 80.31 %(Cu 品

位 38.88 %),Al 除去率 64.68 %,Br除去率 75.10 %,Sn 除去

率 50.15 %で得られることとなった。

表 1 粉砕・選別各段階における Cu, Al, Br, Snの分離成績

5. まとめと今後の課題

廃電子基板から Cu と製錬忌避元素を分離するための前処理技

術開発として,焙焼・粉砕・ふるい分け・物理選別のフローを提案し

た。その際,Cu 箔を酸化させない焙焼条件として大気雰囲気・

300 ℃と決定し,部品類を脱離した基板部に対して二段階粉砕を

施し,ガラス繊維をなるべく綿状化せず構成成分の単体分離を促

進する一次・二次粉砕の機種と条件を決定した。最良の成績は,綿

状繊維割合を 16.9 wt%に抑え,片刃粒子残存率が 63.1 wt%とし

て,基板部構成素材の単体分離を進めることができた。部品部は,

電気パルス粉砕を適用してその最適条件を決定し,樹脂やはんだ

を破壊・分離して細粒化し,導線素材の Cu を濃縮できる可能性が

示された。上記の各粉砕産物について,Cuと忌避元素の相互分離

を目的として,二段階磁選と電気的選別(渦電流選別と静電選別)

による物理選別を行った結果,Cu 回収率 80 wt%・Al 除去率 60

wt%を達成し,Brの約 70 wt%,Snの約 50 wt%を除去することが

できた。

今後の課題として,今回の焙焼条件検討では温度は 100 ℃刻

みで,時間は 1 hと固定して決めたため,今後はより細かい温度・時

FD磁着物RR磁着物

導電産物

非導電産物

綿状繊維

Cu

Al Si Ca

Br

Sn

Fe

C

O

FD磁着物

RR磁着物

導電産物

非導電産物

+31.5 mm

Cu

Fe

Al

C O Br

SnZn

Cr

Page 5: 600 ù O · 2019-06-13 · 砕機(以下,dd),固化原料解砕機(以下,lc)の3 種類の力学的 粉砕機と,産業技術総合研究所所有の電気パルス粉砕(以下,ed)

本研究は,「JOGMEC 平成 30年度 低温焙焼によるリサイクル製錬原料の高品質化技術の開発」の支援を受けて行なわれたものである。

間で実験を行うことでさらなる最適条件を探ることが可能と考えられ

る。焙焼温度 400 ℃での基板中の Cu箔酸化はわずかであったた

め,300 ℃よりやや高温の条件や長時間の条件を採用することで

はんだの融解や樹脂の熱分解をより進め,後段の粉砕における単

体分離の促進が期待される。基板部の粉砕については,様々な機

構・条件での二次粉砕を行ってそれぞれの特徴を見ることができた

が,特定の装置において粉砕時間や回転速度の条件をより系統的

に変化させること,DEM等のシミュレーションを利用することにより,

さらに改善の提案ができると考える。部品部の粉砕については,ア

ルミ電解コンデンサなど一部の素材が単体分離されていないことが

分離のネックになっており,改善の余地がある。物理選別について

は,本報では既往の手法を適用しただけであり,比重選別や形状

選別,センサーソーティングなど幅広い手法を検討することによって

分離成績の向上が期待できる。

謝辞: 本研究は,「JOGMEC 平成 30 年度 低温焙焼によるリサ

イクル製錬原料の高品質化技術の開発」の支援を受けて行なわれ

たものであり,ここに関係各位に御礼申し上げる。

引用文献

1) 寺田翔, 杉澤建, 瀬尾 卓, 大和田秀二, 所千晴, 川上智,

田畑奨太: 廃電子基板からの製錬忌避元素分離のための焙

焼・電気パルス粉砕条件の検討, 資源・素材学会春季大会講

演要旨集,(2018)

2) Sahajwalla R, Cayumil R, Khanna M, Ikram-Ul-Haq R,

Rajarao P, S. Mukherjee, A. Hill: Recycling Polymer-Rich

Waste Printed Circuit Boards at High Temperatures:

Recovery of Value-Added Carbon Resources, J. Sustain

Metal Vol.1 pp.75-84, (2015)

3) 山崎泰正,小澤祥二,小島義弘,松田仁樹: 臭素・アンチモ

ン系難燃性プラスチックの熱分解挙動,廃棄物学会論文誌,

Vol.16 No.1 pp.35-43,(2005)

4) 小室隆将,鈴木涼,小野龍幸,大和田秀二,所千晴: 廃電子

基板中のレアメタル濃縮における各種粉砕機の粉砕挙動比較,

資源・素材学会春季大会講演集,pp. 210-211, (2012)