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WHITEPAPER | CST AG 2014 1 電波塔に全方位アンテナを設置するとき、最もふさわしい 場所は塔の天辺です。そこであれば全方位の特性が遺憾な く発揮されるでしょう。しかし、実際にその場所に配置さ れることはごく稀です。電波塔には複数のアンテナが設置 されることが多く、そのうちのいくつかが全方位の特性を 持つことも少なくありません。そのため、支柱を立ててそ の上に全方位アンテナを配置する妥協案で良しとするの が普通です。支柱は、近傍の電波塔構造によってアンテナ の全方向性分布が損なわれることのないように、十分な長 さを持たせます。システムに複数のアンテナ技術を搭載し てロバスト性を高めることがよくありますが、そのような システムでは、電波塔構造とアンテナの相互作用が避けら れない場所に全方向性アンテナを設置しなくてはならな くなります。 上記のように設置されたアンテナは、さまざまなビーム形 状をとり得ます。アンテナ構造を電気的に僅かに傾け、放 射の大半を下方に向けることがよくあります。そうするこ とで、利用者がいる領域に向けて信号の大半が放射される ようにします。また、アンテナの利得特性を微調整して、 最大レンジが必要な領域で利得が最大になるようにしま す。この調整は水平面上またはその極めて近くで行われま す。特定の仰角で信号がドロップアウトすることのないよ うに、放射分布のヌル点をつぶすように仰角を微調整する ことも行われます。塔の存在が放射分布に与える影響に加 えて、これらの利得特性や仰角といったパラメータも考慮 する必要があります。アンテナを塔に設置したときの性能 を検討する前に、上記パラメータを最適化するためのシミ ュレーションを行います。 このようなアンテナ設置問題では、従来の手法で放射分布 のテストやシミュレーションを実施することは困難です。 アンテナと塔を合わせた全体は大規模構造となり、標準の テストレンジを超えてしまいます。シミュレーションにつ いても、アンテナ構造の細部をメッシュで表現する必要が あることを考慮すると、全容積を離散化しようとするのは 全体のメッシュセルが膨大な数となり、仮に計算が可能で あったとしても非常に長い時間がかかります。 CST STUDIO SUITE Integral Equation ソルバーは、電波 塔のように大きい構造に配置された微小構造(アンテナ) の特性計算に適しています。このソルバーは構造の表面の みを離散化することにより、要求された計算精度を達成し ながら妥当な時間で結果を求めることができます。以下で は、塔構造に近接した全方位アンテナの配置を、このソル バーを使用して決定する方法を示します。 電波塔に通信用アンテナをいくつも設置するとき、設置場所の選択が重要な問題となります。電磁界シミュレーション はアンテナの設計だけでなく、電波塔での配置の最適化にも使用できます。この資料では CST STUDIO SUITE のソルバ ーを何種類か組み合わせて使用して、バイコーンをスタックした全方位アレイアンテナの最適設置場所を導出する方法 を詳しく説明します。 I NSTALLED P ERFORMANCE OF C OMMUNICATION A NTENNA A RRAYS 通信用アレイアンテナの設置後の性能 1: 電波塔とアンテナ

641 WhitePaper Installed Performance of … Word - 641_WhitePaper_Installed_Performance_of_Communication_Antenna_Arrays.docx Author komatsu Created Date 7/11/2016 3:53:49 PM

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WHITEPAPER | CST AG 2014

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電波塔に全方位アンテナを設置するとき、最もふさわしい

場所は塔の天辺です。そこであれば全方位の特性が遺憾な

く発揮されるでしょう。しかし、実際にその場所に配置さ

れることはごく稀です。電波塔には複数のアンテナが設置

されることが多く、そのうちのいくつかが全方位の特性を

持つことも少なくありません。そのため、支柱を立ててそ

の上に全方位アンテナを配置する妥協案で良しとするの

が普通です。支柱は、近傍の電波塔構造によってアンテナ

の全方向性分布が損なわれることのないように、十分な長

さを持たせます。システムに複数のアンテナ技術を搭載し

てロバスト性を高めることがよくありますが、そのような

システムでは、電波塔構造とアンテナの相互作用が避けら

れない場所に全方向性アンテナを設置しなくてはならな

くなります。

上記のように設置されたアンテナは、さまざまなビーム形

状をとり得ます。アンテナ構造を電気的に僅かに傾け、放

射の大半を下方に向けることがよくあります。そうするこ

とで、利用者がいる領域に向けて信号の大半が放射される

ようにします。また、アンテナの利得特性を微調整して、

最大レンジが必要な領域で利得が最大になるようにしま

す。この調整は水平面上またはその極めて近くで行われま

す。特定の仰角で信号がドロップアウトすることのないよ

うに、放射分布のヌル点をつぶすように仰角を微調整する

ことも行われます。塔の存在が放射分布に与える影響に加

えて、これらの利得特性や仰角といったパラメータも考慮

する必要があります。アンテナを塔に設置したときの性能

を検討する前に、上記パラメータを最適化するためのシミ

ュレーションを行います。

このようなアンテナ設置問題では、従来の手法で放射分布

のテストやシミュレーションを実施することは困難です。

アンテナと塔を合わせた全体は大規模構造となり、標準の

テストレンジを超えてしまいます。シミュレーションにつ

いても、アンテナ構造の細部をメッシュで表現する必要が

あることを考慮すると、全容積を離散化しようとするのは

全体のメッシュセルが膨大な数となり、仮に計算が可能で

あったとしても非常に長い時間がかかります。

CST STUDIO SUITEの Integral Equationソルバーは、電波

塔のように大きい構造に配置された微小構造(アンテナ)

の特性計算に適しています。このソルバーは構造の表面の

みを離散化することにより、要求された計算精度を達成し

ながら妥当な時間で結果を求めることができます。以下で

は、塔構造に近接した全方位アンテナの配置を、このソル

バーを使用して決定する方法を示します。

電波塔に通信用アンテナをいくつも設置するとき、設置場所の選択が重要な問題となります。電磁界シミュレーション

はアンテナの設計だけでなく、電波塔での配置の最適化にも使用できます。この資料では CST STUDIO SUITEのソルバ

ーを何種類か組み合わせて使用して、バイコーンをスタックした全方位アレイアンテナの最適設置場所を導出する方法

を詳しく説明します。

IN S T A L L E D PE R F O R M A N CE O F CO M M U N I C A T I O N AN T E N N A AR R A Y S

通信用アレイアンテナの設置後の性能

図 1: 電波塔とアンテナ

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アンテナ性能

この例には、高利得のバイコーンをスタックした全方位ア

ンテナを使用します。動作周波数は 3.5 GHzです。この種

のアンテナは、他の構造体から十分離して設置された場合、

水平面上に非常に均等な放射分布を示します。この例では

特に、水平面に利得 10 dBiを示す設計としました。アンテ

ナ構造を図 2に示します。

図 2: アンテナの基本構造

まず、アンテナ単独のシミュレーションをトランジェント

ソルバーで行いました。放射素子単体の最適化を実施した

後、アセンブリを行います。素子単体のシミュレーション

として、コーンの直径と角度、上下のコーン素子の間隔の

3つのパラメータを変化させ、反射損失と放射分布特性を

最適化します。その後、このアンテナを縦に連結し、1本

のケーブルに同軸に装着してアレイアンテナを作成して

シミュレーションを行います。具体的には、周波数 3.5 GHz

で水平面上の利得と反射損失を最適化します。キーとなる

パラメータを変数としてモデルを作成し、数値を変化させ

てシミュレーションを行います。ポスト処理のテンプレー

トを使用して水平面の利得と反射損失の値が自動計算さ

れるように設定し、それによって最適化を行います。した

がってこの計算は、放射分布の重ね合わせによるアレイの

計算ではなく、相互カップリングによる効果を考慮した電

磁界シミュレーションとなります。

図 3: 基本のアンテナ素子の 3D放射分布

図 4: 基本のアンテナ素子の方位角放射分布

図 5: 基本のアンテナ素子の仰角放射分布

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得られた結果を図 3、4、5に示します。これらの結果は、

同様にスタンドアローンなアンテナを従来の方法で測定

を行った結果と関連付けることができます。この種のアン

テナに特徴的な、放射エネルギーが水平面に集中している

様子が確認できます。水平面における方位角分布は全方向

に均一です(図 4)。対照的に、仰角分布は水平面にメイン

ビームを持つサイドローブ構造を示します(図 5)。

この構造は対称形をしており、2つの対称面を設定するこ

とができます。この設定により、トランジェントソルバー

の計算は数分で終了します。

計算された結果を Integral Equation ソルバーで遠方界ソー

スとして使用して、モデルに塔を加えたシミュレーション

を行うことができます。

電波塔に配置したアンテナの解析

上記で作成したアンテナモデルに電波塔構造を追加しま

す。直立する 4本の柱の間に筋交いを渡した塔構造に、ア

ンテナを付けた支柱を接続します(図 1)。アンテナ構造

と塔構造は変えずに支柱の長さを変化させて、アンテナ性

能が受ける影響を調べます。

設置したアンテナの性能評価は、テンプレートによるポス

ト処理の結果で行います。ここでは水平面におけるピーク

利得を求め、そこから最大利得、最小利得、リップル(最

大利得と最小利得の差として表現)を抽出します。支柱の

長さ(Boomlengthパラメータ)を変化させてシミュレーシ

ョンを行い、上記の値がどのように変化するかを追跡しま

す。

アンテナモデルの作成履歴を無効とし、代わりに、先に計

算した遠方界ソースを配置します。ソースの位置を座標軸

の中心に固定し、Boomlengthの変化につれて塔の位置が変

わるようにします。このようにすることで、遠方界ソース

に何も変更を加える必要がなく、扱いが容易になります。

ポスト処理テンプレートにより計算されたピーク利得を

図 6、7、8に示します。図 9は方位角放射分布を表し、支

柱長を 300mmから 5100mmまでの範囲で変えて計算した

結果を重ね合わせて表示しています。1000mm以下では構

造に近過ぎて、アンテナ性能が全方位にわたって十分に発

揮されることが難しいことが分かります。アンテナと塔を

離すとリップルが小さくなることが予想されますが、

300mm 刻みで支柱長を大きくしたところその通りの結果

が示されています。図 10では、シミュレーションから求

めた値を方位角プロットに重ねて表示しています。

図 6: Boomlengthパラメータによるアンテナ最小利得の変化

図 7: Boomlengthパラメータによるアンテナ最大利得の変化

図 8: Boomlengthパラメータによるアンテナの利得リップル

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株式会社エーイーティー 〒215-0033 神奈川県川崎市麻生区栗木 2-7-6 TEL (044) 980 – 0505 (代)

図 9: 方位角放射分布: 異なる Boomlengthの結果を重ねて表示

支柱の最大長 5100mmの方位角分布を図 10に示します。

図 10: 方位角放射分布: 支柱長 5100mm

支柱の長さが増すにつれて、表面メッシュの数が少しずつ

増加し、計算時間が長くなりますが、最大長の 5100mmで

もメッシュ総数は 13,130、ソルバーの計算時間も 1 分 53

秒にとどまります。この計算後、遠方界ソースを取り除い

てアンテナモデルを再表示し、入力ポートを付けてトラン

ジェントソルバーで計算を行いました。この場合、モデル

のメッシュ数は 65,767,152、計算時間は 7時間 59分 57秒

を要し、先の Integral Equation ソルバーと大差ない結果を

得ました。使用機器は dual Intel Xeon E5670プロセッサと

24GB RAMを搭載した Dell Precisionです。

まとめ

電波塔の近傍に接地された全方位アンテナについてシミ

ュレーションを行い、アンテナの放射分布が塔から大き

な影響を受けることを確認しました。影響を許容範囲に

とどめるためには、塔から相当な間隔をおいてアンテナ

を設置する必要があります。信号レベルのドロップアウ

トは比較的小さい角度範囲にとどまるため、分布を承知

していれば、必要な信号強度が低い地域にその角度範囲

を合わせることができます。

Integral Equationソルバーは、細密部のある電気的サイズ

の大きい構造を効率よく正確にモデリングすることがで

きます。解析する構造が大型になるほど、トランジェン

トソルバーに代えて Integral Equationソルバーを使用する

メリットがあります。支柱長を最大にした最後の例で 2

つのソルバーの計算時間の比率は 1:255に達しました。

塔に配置したアンテナの解析は、このソルバーが特に得

意とする分野です。トランジェントソルバーでは扱えな

いほど多くのメモリを必要とし、計算時間が増大する可

能性がある大型構造も Integral Equationソルバーでは解く

ことができます。この資料を超えるような規模の問題

や、通常はワークステーションを必要とする問題も実用

的な汎用コンピューターによる解析を可能とします。

禁無断転載 不許複製 ©2016 AET,Inc

執筆 Chris Malker, Spectrum Consulting

CST AG Bad Nauheimer Str.19 64289 Darmstadt Germany

CST AG www.cst.com