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公開用 終 了 報 告 書 SIP(戦略的イノベーション創造プログラム) 課題名「エネルギーキャリア」 研究開発テーマ名「アンモニア燃料電池」 研究題目「固体酸化物型燃料電池-アンモニアオートサーマル 分解触媒反応器システムの開発」 研究開発期間:平成 25 7 1 日~平成 31 3 31 研究担当者: 山崎 勇英 所属研究機関: 株式会社 日本触媒

7 31 3 312 3-1-1.ハニカム触媒作製方法 開発触媒①の破砕品、担持助剤、純水を混合し、ボールミルで湿式粉砕を行った。ボールミル湿式粉

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公開用

終 了 報 告 書

SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)

課題名「エネルギーキャリア」

研究開発テーマ名「アンモニア燃料電池」

研究題目「固体酸化物型燃料電池-アンモニアオートサーマル

分解触媒反応器システムの開発」

研究開発期間:平成 25 年 7 月 1 日~平成 31 年 3 月 31 日 研究担当者: 山崎 勇英 所属研究機関: 株式会社 日本触媒

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目次

1.本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

2.研究開発目標とマイルストーン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

3.研究開発実施内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

3-1.ATR アンモニア分解触媒の開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

3-2.アンモニア ATR 分解反応器-SOFC システムの開発 ・・・・・・・・32

3-3.まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44

3-4.今後の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46

4.外部発表実績 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46

5.特許出願実績 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47

6.参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47

図表一覧

図1.湿式粉砕後の触媒スラリー粒度分布

図2.実証試験サイズのハニカム触媒の外観

図3.ハニカム触媒のマイクロスコープ画像

図4.断熱反応器概略図

図5.ATR アンモニア分解反応評価装置の概略図

図6.ATR アンモニア分解反応のハニカム触媒温度分布

図7.ATR アンモニア分解触媒連続反応評価装置の概略図

図8.アンモニア供給ユニット外観(左)と配電盤(右)

図9.触媒連続評価ユニット外観(左)と制御盤(右)

図10.電気炉及び反応器

図11.冷却装置及び凝縮水タンク

図12.排ガス処理装置(左)とアンモニア濃度検知部(右)

図13.自動サンプリング装置付き TCD-GC

図14.連続耐久試験評価(開発触媒①の評価)

図15.ATR アンモニア分解反応器の起動性評価

図16.触媒入口部のマイクロスコープ画像

図17.評価後ハニカム触媒断面の外観

図18.評価後のハニカム触媒の断面画像

図19.連続耐久試験評価(開発触媒②~④の評価)

図20.抜き出し触媒の外観図

図21.断面のマイクロスコープ画像

図22.脱離粉の外観

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図23.脱離粉の SEM 画像

(a)脱離粉の低倍率の画像(100 倍)、(b)脱離粉の高倍率の画像(15,000 倍)

図24.開発触媒②の H2-TPR 測定(昇温速度 10℃/分)

図25.開発触媒②の H2-TPR 測定(ステップ昇温:4 段)

図26.連続耐久試験評価(アンモニア転化率の経時変化)

図27.連続耐久試験評価(触媒層ピーク温度の比較)

図28.連続耐久試験前後のマイクロスコープ像(左図:耐久試験前、右図:耐久試験後)

図29.連続耐久試験(ATR 分解反応器)

図30.取り出したハニカム触媒の外観

図31.取り出したハニカム触媒(平成 29 年度)のマイクロスコープ画像

(a)端面、(b)入口から約 7mm

図32.XRDによる Co結晶子径の比較

図33.BET比表面積測定による比表面積の比較

図34.コート後の大型ハニカムの外観

図35.アンモニア転化率の圧力依存性(SV=28,000h-1)

図36.触媒層ピーク温度の圧力依存性(SV=28,000h-1)

図37.触媒層温度分布の圧力依存性(SV=28,000h-1)

図38.アンモニア転化率の圧力依存性(高 SV 評価)

図39.触媒層ピーク温度の圧力依存性(高 SV 評価)

図40.触媒層温度分布(0MPaG)

図41.触媒層温度分布(0.25MPaG)

図42.触媒層温度分布(0.4MPaG)

図43.流通管型反応器の概要

図44.ATR アンモニア分解反応の温度分布シミュレーション

図45.CFD シミュレーションによる反応器中の触媒層の温度分布

図46.ATR アンモニア分解反応の着火後の温度分布シミュレーション

図47.ショートスタック用 ATR 分解反応器の外観

図48.ショートスタックの外観

図49.ATR 分解反応器-SOFC ショートスタックの発電特性

図50.アンモニア SOFC ショートスタックの 3 方式の発電特性

図51.ATR 分解反応器とフルスタックの連結評価装置図

図52.ATR 分解反応器-フルスタックの連結発電評価

図53.ATR 分解方式とアンモニア直接分解方式とのスタックおよびシステムベースの比較(35A)

図54.改造前の組み合わせ評価装置の概略図

図55.改造後の組み合わせ評価装置の概略図

図56.評価装置の改造によるスタックへの供給ガス温度の比較

図57.昇温時のスタック温度の推移

(ATR 有り:分解反応器出口ガスによる昇温、ATR 無し:H2のみで昇温)

図58.昇温時のヒーター消費電力量の積算値の推移

(ATR 有り:分解反応器出口ガスによる昇温、ATR 無し:H2のみで昇温)

図59.定常作動時の電力消費量比較

図60.スタック発電出力の比較

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図61.システム発電効率の関係

効率 = FC 出力/(供給 NH3エネルギー+ヒーター電力)

図62.空気/アンモニア比率(AFR)によるアンモニア転化率

図63.空気/アンモニア比率(AFR)による触媒層温度分布の測定結果

図64.ATR 分解反応器による SOFC起動実験装置の概略図

図65.スタック昇温および発電時のガス条件

図66.ATR 分解反応器による SOFC起動実験の IV特性比較

表1.アンモニア分解ハニカム触媒の評価結果

表2.評価前後のハニカム触媒(開発触媒①)の BET 比表面積測定の比較

表3.ATR アンモニア分解触媒の連続耐久試験結果

表4.連続耐久試験前後の剥離強度の比較

表5.分解反応器の連続耐久試験結果の比較

表6.ATR 分解反応条件(①圧力依存性評価)

表7.ATR 分解反応条件(②高SV評価)

表8.ATR アンモニア分解反応の計算値と実験値の比較

表9.ATR 分解方式とアンモニア直接分解方式の発電出力の比較(スタックベース)

表10.スタック昇温実験のガス条件

表11.発電特性評価時のガス条件

表12.SOFC起動実験のための AFR評価条件

表13.空気/アンモニア比率(AFR)によるアンモニア転化率

表14.ATR 分解反応器による SOFC起動実験のガス流量条件

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1.本研究の目的

アンモニア分解反応-固体酸化物形燃料電池(以下、SOFC)発電システムの実現可能性を検討す

るため、アンモニアを水素に変換するアンモニア分解技術として、アンモニア分解反応系中に酸素を

併給し、アンモニアの部分酸化(燃焼)により反応運転するオートサーマル接触分解(Autothermal

reforming)(以下、ATR)によるアンモニア分解技術を検討する。本研究では、1kW 発電に必要な

アンモニア処理能力を持つ触媒反応器に適応する ATR アンモニア分解ハニカム触媒を試作、実証評

価を想定して分解触媒の 1,000 時間レベルの耐久性について評価、さらに、この触媒を使用した分解

触媒反応器-200W の SOFC ショートスタックおよび 1kW 級 SOFC スタックの運転試験を行い、起

動性、発電効率を評価して本システムの優位性を明確にする。

2.研究開発目標とマイルストーン

・空気/燃料 AFR=0.75、SV=28,000h-1において、アンモニア転化率 85%以上、水素生成速度 250mL・

min−1・mL-1以上の ATR アンモニア分解ハニカム触媒(サイズ:80ml)の試作

・アンモニア分解ハニカム触媒の連続耐久試験 1,000h 後の水素生成速度のブランクからの変化率 5%

以下の達成

・アンモニア分解反応器の 1,000h レベルの耐久性評価

・200W 級の分解触媒反応器-SOFC ショートスタックおよび 1kW-SOFC スタックの運転試験による本

システムの優位性明確化

・アンモニア 1kW-SOFC スタックの実証化検証及びシステム最適化の検討とシステム構造及びアンモ

ニア SOFC ホットモジュールの効率についての提言とシミュレーションによってアンモニア SOFC の

有効性予測

3.研究実施内容

3-1.ATR アンモニア分解触媒の開発

平成 25 年 7 月から文部科学省 ALCA「エネルギーキャリア」にて本研究題目の検討を開始し、その

検討により開発した ATR アンモニア分解触媒(開発触媒①;コバルト/複合酸化物触媒)をベース触

媒として、平成 26 年 7 月から SIP にて触媒改良の検討を行った。

なお、アンモニア分解反応-SOFC 発電システムの要素技術として、当社が ATR アンモニア分解触

媒技術の開発を担当し、豊田自動織機にて分解反応器の設計・製作、株式会社ノリタケカンパニーリ

ミテドにて SOFC セル・スタックの開発・製作、京都大学にてアンモニア分解反応器-SOFC 発電シ

ステム実証装置の設計を行い、4者でこれらの要素技術を統合してアンモニア分解反応器-SOFC 発

電システムの製作・評価を行った。さらに、平成 28 年より参画した IHI が開発する 1kW 機の起動用

として ATR アンモニア分解反応器の有用性についての検討も実施した。本報告書では、日本触媒にて

実施した ATR アンモニア分解触媒の開発、開発した触媒を使用したアンモニア分解反応器モデルの熱

流体解析による起動シミュレーション、ATR アンモニア分解反応器によるアンモニア SOFC スタック

の発電評価、起動評価について報告する。

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3-1-1.ハニカム触媒作製方法

開発触媒①の破砕品、担持助剤、純水を混合し、ボールミルで湿式粉砕を行った。ボールミル湿式粉

砕後のスラリーの粒度分布を図1に示す。スラリー中の粒子の中心径は約 4.6μm 程度であり、触媒コ

ート層厚みの約 60~70μm に対して 10%以下まで粉砕されていることを確認した。

図1.湿式粉砕後の触媒スラリー粒度分布

得られた触媒スラリーをコージェライトハニカム(日本ガイシ株式会社製)にウォッシュコート法で

コートを行い、余分なスラリーはエアブローで吹き飛ばした後、120℃で乾燥を行った。目標の担持量

までウォッシュコートから乾燥までの工程を繰り返し行い、得られたハニカム触媒を 500℃で空気焼

成、550℃で還元処理を行った後、室温で希釈空気による表面処理を行った。作製したハニカム触媒を

以下に示す。

ハニカム寸法: 24 mmφ(外径)×40 mm(長さ)(約 18ml)

49 mmφ(外径)×47 mm(長さ)(約 80ml)(実証試験サイズ)

ハニカム形状:

壁厚 [mil] 3.5

セル数 [in2] 600

セル形状 六角形

上記の方法で作製した実寸サイズのハニカム触媒サンプルの外観画像を図2、ハニカム触媒断面のマ

イクロスコープ像を図3に示す。この画像より、作製したハニカム触媒は触媒成分が均質にコートさ

れていることを確認した。また、画像解析の結果より、作製したハニカム触媒のセル開口率はおよそ

63~65%程度であり、設定レベルであった。

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

0.1 1 10 100

頻度

(体

積)

/ %

粒子径 / μm

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図2.実証試験サイズのハニカム触媒の外観 図3.ハニカム触媒のマイクロスコープ画像

3-1-2.ATR アンモニア分解ハニカム触媒の評価方法

断熱反応器及びアンモニア ATR 分解反応評価装置の概略図を図4、図5に示す。反応管は石英ガラ

ス管の外側を SUS 管が覆う二重管であり、ハニカム触媒は外周部に断熱材(セラミックファイバー)

を取り付け、石英ガラス管の内側に設置した。ハニカム触媒の中心部には温度計(K 型熱電対)の保

護管を設置し、触媒の温度分布を測定した。アンモニアボンベは容器の凍結防止のため水浴槽に設置

した。アンモニアと空気はマスフローコントローラーにより流量制御を行った。反応器の出口ガスは

冷却を行った後、凝縮した水を捕集し、さらに、硫酸水溶液を入れたガス吸収びんを通過させて未反

応アンモニアを捕集した後、ガス流量計で流量を測定した。未反応アンモニアを捕集後のガス組成は、

ガス捕集管でサンプリングを行い、TCD-GC で分析を行った。

反応器は、電気炉でアンモニア燃焼反応の開始温度まで予熱し、ATR 分解反応の定常後は熱的に自

立条件により反応を行った。

アンモニア転化率は以下の方法で算出した。

①アンモニア燃焼量

未反応アンモニアを捕集した後のガス流量及びそのガスの酸素濃度を TCD-GC 分析し消費した酸

素量を算出し、燃焼したアンモニア量を算出。

酸素消費量=酸素供給量-(ガス流量×ガス中の酸素濃度)

アンモニア燃焼量=4/3×酸素消費量

②アンモニア分解量

未反応アンモニアを捕集した後のガス流量及びそのガスの水素濃度を TCD-GC 分析し生成した水

素量を算出し、分解したアンモニア量を算出。

水素生成量=ガス流量×ガス中の水素濃度

アンモニア分解量=2/3×水素生成量

アンモニア転化率(%)=100-(((アンモニア供給量-アンモニア燃焼量-アンモニア分解量)

/アンモニア供給量)×100)

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図4.断熱反応器概略図

図5.ATR アンモニア分解反応評価装置の概略図

3-1-3.ハニカム触媒の剥離評価

ハニカム触媒の剥離評価は、以下の手順で実施した。

1)ハニカム触媒内部を 0.2 MPaG のエアーでブローしてハニカムに固着していない触媒を除去。

2)ハニカム触媒重量を測定(初期重量(W1))。

3)ビーカーにハニカム触媒が十分浸る程度の純水を入れ、ハニカム触媒を静かに設置。

4)超音波洗浄器にビーカーを入れ、38~45 kHz で 30 分間ハニカム触媒を振動。

5)ハニカム触媒を取り出し、純水を入れたビーカー中で 10 秒間上下させ洗浄。

6)ハニカム触媒を取り出し、水分を除去、200℃で 1 時間乾燥。

7)評価後の重量を測定(評価後重量(W2))。

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剥離率(%)=(W1-W2)/W1×100

3-1-4.ATR アンモニア分解ハニカム触媒の評価

開発触媒①のハニカム触媒(24mmφ(外径)×40mm(長さ))について、アンモニア ATR 分解反応の

評価結果を表1、ハニカム触媒の触媒層温度分布を図6に示す。

AFR=0.75、SV=17,500 h−1の条件での評価は、アンモニア転化率は 82.6%、水素生成速度は 154 m

L min−1 mL−1 であった。

一方、AFR=0.75、SV=35,000 h−1の条件での評価は、アンモニア転化率は 84.0%であった。一般的

に触媒反応は SV を大きくすると転化率が下がる。本検討の結果はハニカム触媒のサイズが小さいこと

により反応器からの放熱の影響が大きく反映されたものと推察する。したがって、SV を大きくすると

放熱の影響は小さくなるため、アンモニア転化率が高くなったと考える。

ATR 分解反応時のハニカム触媒の触媒層温度分布は、比較的緩やかな温度分布を示していて、アンモ

ニア燃焼反応による発熱とアンモニア分解反応による吸熱がバランスしていると考える。特に温度分布

におけるピーク温度の制御は、アンモニア分解触媒の耐久性に大きく影響するため、重要である。

ハニカム触媒の剥離評価では、剥離率が 6.6%であった。

表1.アンモニア分解ハニカム触媒の評価結果

図6.ATR アンモニア分解反応のハニカム触媒温度分布

SV(h-1) 17,500 28,000 35,000

アンモニア分解率(%) 82.6 85.0 84.0

ピーク温度(℃) 590 598 605

水素生成速度(mL min-1 mL-1) 154 256 315

剥離率(%) 6.6

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3-1-5.ATR アンモニア分解触媒連続反応評価装置

ATR アンモニア分解触媒連続耐久性評価装置の概略図を図7に示す。評価装置は、①アンモニア供

給ユニット:原料ガスのアンモニアを連続で供給する装置(図8)、②触媒連続評価ユニット:ATR

アンモニア分解触媒反応器と安全対策(インターロック)機能が付与された装置(図9~11)、③排

ガス処理ユニット:反応器出口ガス中の残存アンモニアと生成した水素を燃焼処理する装置(図12)

および、④ガス分析部(図13)から構成され、反応ガス分析は自動ガスクロマトグラフを使用し、

連続した測定値の平均値を採用することにより分析精度を高めている。①~③の各ユニットの詳細を

以下に記載する。

①アンモニア供給ユニット:50kg のアンモニアボンベ 8 本を 2 系列(各 4 本)に分け、各系列はボ

ンベを直列に接続した構造である。制御盤でアンモニアボンベの 1 次圧に連動する自動バルブによっ

て、使用中の系列のボンベのアンモニア残量が設定値以下になると自動で未使用のボンベ系列に切り

替わる。この供給ユニットは、ボンベ温度 0℃以上の時に1系列で 100hの連続フィードが可能である。

屋外使用であるためボンベの凍結防止のための散水ラインを設置している。

②触媒連続評価ユニット:アンモニアと空気はマスフローコントローラーにより流量制御を行ってい

る。反応器は図4と同じ仕様であり、反応器出口ガスは冷却して窒素希釈された後に排ガス処理ユニ

ットで燃焼処理する。反応ガス分析は、自動サンプリング装置付きの TCD-GC で行った。

③排ガス処理ユニット:触媒燃焼方式により、アンモニアと水素を燃焼し、排気ガスは大気放出する。

NOx の生成対策として 250~280℃の低温で運転を行っている。

ATR アンモニア分解反応は、電気炉で反応開始温度まで予熱し、ATR 分解反応の定常後は熱的に自

立した状態で行った。

アンモニア転化率は以下の方法で算出した。

1)アンモニア燃焼量

反応器出口ガスからアンモニア燃焼で生成した水を凝縮させて除去した後、ガス流量及びそのガス

の酸素濃度を TCD-GC 分析して酸素消費量を算出し、燃焼したアンモニア量を算出。

酸素消費量=酸素供給量-(ガス流量×ガス中の酸素濃度)

アンモニア燃焼量=4/3×酸素消費量

2)アンモニア分解量

反応器出口ガスから燃焼生成水を凝縮させて除去した後、ガス流量及びそのガスの水素濃度を

TCD-GC 分析し水素生成量を算出し、分解したアンモニア量を算出。

水素生成量=ガス流量×ガス中の水素濃度

アンモニア分解量=2/3×水素生成量

アンモニア転化率(%)=100-(((アンモニア供給量-アンモニア燃焼量-アンモニア分解量)

/アンモニア供給量)×100)

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図7.ATR アンモニア分解触媒連続反応評価装置の概略図

図8.アンモニア供給ユニット外観(左)と配電盤(右)

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図9.触媒連続評価ユニット外観(左)と制御盤(右)

図10.電気炉及び反応器 図11.冷却装置及び凝縮水タンク

TCD-GC

凝縮水タンク 電気炉

制御盤

分解ガス冷却部

チラー

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図12.排ガス処理装置(左)とアンモニア濃度検知部(右)

図13.自動サンプリング装置付き TCD-GC

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3-1-6.開発触媒①の触媒単体の連続耐久試験評価

開発触媒①のハニカム触媒(24mmφ(外径)×40mm(長さ))について AFR=0.75、SV=28,000h-1の条

件にて断熱反応器(触媒単体の評価)における 1,000h の連続耐久試験を行った。図17に連続耐久試

験結果を示す。初期のアンモニア転化率は 85.0%(水素生成速度は 255.8mL・min-1・mL-1)、1000h

後のアンモニア転化率は 79.0%(水素生成速度は 232.2mL・min-1・mL-1)、水素生成速度の変化率は

9.2%であった。

70

75

80

85

90

0 200 400 600 800 1000

NH

3 転

化率

/ %

反応時間 / hr

開発触媒①

図14.連続耐久試験評価(開発触媒①の評価)

3-1-7.開発触媒①の ATR アンモニア分解反応器評価

開発触媒①の実証試験サイズのハニカム触媒(49mmφ(外径)×47mm(長さ))を作製し、豊田自動

織機で分解反応器の設計・製作を行った。本分解反応器を用いて起動性評価を行った。実験は空気/ア

ンモニア(燃料)(以下、AFR)=0.75、SV=28,000h-1の条件で行い、ガス入口側の触媒端から 5mm、

10mm の位置に取り付けた温度センサーにより触媒層温度を測定した。図15に評価結果を示す。

反応開始前は窒素とアンモニアを流通し、窒素を空気に切り替えた時を反応開始とした。反応開始か

ら反応器出口ガス流量と触媒層内 5mm、10mm の温度が安定するまでの時間を、着火から分解燃料ガ

ス供給までの起動時間とした。本評価において起動時間は約 100 秒であった。

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図15.ATR アンモニア分解反応器の起動性評価

さらに、分解反応器を豊田自動織機にて数時間の評価を行った。初期のアンモニア転化率は 83.6%と、

触媒単体の評価での 85%と比較すると低い結果となった。

評価後に分解反応器により抜き出したハニカム触媒について、マイクロスコープによる観察、XRD分

析およびBET比表面積測定を行った。ハニカム触媒のガス入口部の画像を図16に示す。分解反応器の

評価前と比較して茶色に変色していた。ハニカム触媒を縦に割った断面の外観画像を図17に示す。入

口部から2mmの部分の変色が大きく、ハニカム触媒の後方部は評価前と同じ黒色であった。

図16.触媒入口部のマイクロスコープ画像 図17.評価後ハニカム触媒断面の外観

評価後のハニカム触媒について、入口部から1,5,20,40mmの部分についてXRD分析を行い、評価

前の触媒と比較を行った。評価前の触媒は、Co3O4と複合酸化物に帰属される回折ピークが観察され、

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評価後の触媒にはCoOとCo metalの回折ピークが観察された。ハニカムの位置によってCoOとCo metal

の強度比は異なっていたが、触媒の劣化状態とCoの酸化状態の違いの相関を説明する情報はXRD分析

からは得られなかった。

図18にハニカム触媒断面を拡大した画像を示す。点線で囲った部分が他の部位と比べて剥離し易く

なっていた。評価前と、評価後のハニカム触媒の入口部1mmの部分とハニカム出口部分についてBET

比表面積測定の比較を行った(表2)。評価前と評価後で触媒比表面積に変化は見られなかった。

以上のことから、分解反応器での開発触媒①の評価において、短時間の評価では、触媒性能そのもの

に大きな劣化は起きていないが、触媒コート層の強度面での低下が懸念されることがわかった。

図18.評価後のハニカム触媒の断面画像

表2.評価前後のハニカム触媒(開発触媒①)の BET 比表面積測定の比較

BET比表面積(m2/g)

評価前 40.8

評価後(入口部) 39.2

評価後(出口部) 45.3

3-1-8.ATR アンモニア分解触媒の耐久性改良(触媒組成改良)

開発触媒①の耐久性向上を目的として、活性金属種、複合酸化物種、助触媒種について検討を行った。

開発触媒②は開発触媒①の複合酸化物を置き換えた触媒、開発触媒③は開発触媒①の活性金属種をニッ

ケルに置き換えた触媒、開発触媒④は開発触媒②に助触媒として CuO を添加した触媒である。

開発触媒②~④について 24mmφ(外径)×40mm(長さ)のハニカム触媒を作成し、AFR=0.75、

SV=28,000h-1の条件にて 1,000h の連続耐久試験を行った。図19に連続耐久試験結果を示す。

開発触媒②は初期のアンモニア転化率は 83%あった。連続耐久試験において初期から 60h にかけて

アンモニア転化率は向上する傾向にあり、アンモニア転化率は最大 84.1%(水素生成速度は 252.6mL・

min-1・mL-1)、1000h 後のアンモニア転化率は 81.1%(水素生成速度は 240.2mL・min-1・mL-1)

であった。水素生成速度の最高値からの低下率は 4.9%であり、この値は本研究の研究目標の連続耐久

試験 1,000h 後の水素生成速度のブランクからの変化率 5.0%以下を達成する水準であった。

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開発触媒③は初期のアンモニア転化率は 83.5%(水素生成速度は 250.2mL・min-1・mL-1)であっ

た。しかし、振れはあるものの 100h 経過後からの転化率の低下が大きく、600h 後のアンモニア転化率

は 80.8%(水素生成速度は 239.4mL・min-1・mL-1)であり、開発触媒①と比較して連続耐久試験に

おける劣化が大きい傾向であったため、600h の時点で評価を中断した。

開発触媒④は初期のアンモニア転化率は 84.0%(水素生成速度は 252.2mL・min-1・mL-1)、50h

くらいにかけてアンモニア転化率は向上しアンモニア転化率の最大値は 85.1%(水素生成速度は

256.6mL・min-1・mL-1)であった。しかし、350h 経過後から急速なアンモニア転化率の低下が見ら

れ、380h 時点でアンモニア転化率 81%まで低下した。その後、転化率の回復傾向は見られたが、500h

でアンモニア転化率 83%(水素生成速度は 248.2mL・min-1・mL-1)となった時点で評価を中断した。

開発触媒④の水素生成速度の変化率は 6.1%であった。

70

75

80

85

90

0 200 400 600 800 1000

NH

3 転

化率

/ %

反応時間 / hr

開発触媒① 開発触媒②

開発触媒③ 開発触媒④

図19.連続耐久試験評価(開発触媒②~④の評価)

3-1-9.改良触媒(開発触媒②)の分解反応器評価

開発触媒②の実証試験サイズのハニカム触媒(49mmφ(外径)×47mm(長さ))を作製し、豊田自動織機に

て分解反応器での連続耐久性試験 1,000h を実施した。アンモニア転化率が初期 77.7%(最大のアンモニ

ア転化率 82.8%)、1000 時間後の転化率は 76.2%であり、分解反応器としての目標に未達であった。ア

ンモニア分解触媒の単体評価においては初期のアンモニア転化率は 84.1%であることから、性能が低い

原因として筐体からの放熱量が多いことが考えられる。

評価後に分解反応器よりハニカム触媒を抜き出し、マイクロスコープによる観察を行った。またハニカム触媒

を取り外す際に分解反応器から出てきた粉(以下、脱離粉)について、XRD 分析、SEM(走査型電子顕微鏡)

分析を行った。ハニカム触媒の外観を図20に示す。また、ハニカム触媒の入口部からのマイクロスコ

ープ観察の画像を図21に示す。ハニカム触媒の入口から 13mm 付近に触媒コート層の剥離が観察され

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た。ハニカム触媒を抜き出す際に加えた振動によって剥離した可能性も考えられるが、特定の部位のコ

ート層強度が低下していることが明らかである。

次に脱離粉について外観を図22に示す。黒色の粉末に混じって白色の粉が混じっていた。脱離粉の

XRD分析から触媒成分に帰属する回折ピークが観察された。脱離粉に含まれるCoの粒子径は32nmと推

定され、初期より1.8倍程度に大きくなっていた。脱離粉のSEM像を図23(a)(低倍率の画像)、図2

3(b)(高倍率の画像)を示す。白色片は小さな粒子の集合体であり、エネルギー分散型X線分析装置

(EDS)により測定を行ったところ、触媒構成成分を一致した。ハニカム触媒のマイクロスコープ観察

で確認された剥離した触媒の一部であると推測される。脱離粉の量は、コートした触媒の約3%に相当し

た。

図20.抜き出し触媒の外観図 図21.断面のマイクロスコープ画像

図22.脱離粉の外観

図23. 脱離粉の SEM 画像

(a)脱離粉の低倍率の画像(100 倍)、(b)脱離粉の高倍率の画像(15,000 倍)

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3-1-10.ATR アンモニア分解触媒の耐久性改良(触媒処理条件最適化)

開発触媒②のアンモニア分解活性および耐久性向上を目的として、触媒還元条件について検討を行った。

図24に、開発触媒②の H2-TPR(昇温還元法:Temperature Programmed Reduction)の測定結果を示す。

昇温速度 10℃/分の条件で窒素ガス気流条件と水素ガス気流条件による重量変化を測定した。100℃ま

での重量減少は触媒中の水分による減少である。窒素ガス条件では、800℃を超えたところでコバルト

酸化物の酸素移動に伴う重量減少が見られた。水素ガス条件による重量減少から、触媒の還元は 200℃

を超えたところから始まり、800℃では完結していることがわかった。触媒の還元による状態変化とし

て、Co3O4から CoO への変化と CoO から金属 Co への変化が考えられる。次に、500℃、600℃、700℃、

800℃で温度を段階的に変化させた時の水素ガスによる重量変化を測定した。測定結果を図25に示す。

700℃以上で重量変化が少なくなっていることから、開発触媒②におけるコバルト酸化物を金属 Co まで

還元できる温度は 700℃であることがわかった。

図24.開発触媒②の H2-TPR 測定(昇温速度 10℃/分)

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図25.開発触媒②の H2-TPR 測定(ステップ昇温:4 段)

開発触媒②におけるコバルト酸化物の最適還元温度は 700℃であるが、ATR アンモニア分解反応条件

である SV=28,000h-1、AFR=0.75 の条件における触媒層温度は 650℃以下であることから、還元処理時

の熱負荷による触媒劣化の影響を考慮する必要がある。触媒の前処理還元温度を 550℃から 600℃に変

更して活性評価及び連続耐久試験を実施した。

600℃還元処理を行った開発触媒②のハニカム触媒(24mmφ(外径)×40mm(長さ))について、AFR=

0.75、SV=28,000h-1の条件にて 1,000h の連続耐久試験を行った。図26にアンモニア転化率の経時変

化、図27にハニカムピーク温度の経時変化、表3にアンモニア転化率と水素生成速度の測定値を示す。

初期のアンモニア転化率は 85.5%、1000h 後は 83.2%であり、水素生成速度の最高値からの低下率

は 3.7%であった。550℃還元処理を行った開発触媒②の連続試験評価では、初期のアンモニア転化率

84.1%、1000h 後は 81.1%、水素生成速度の低下率は 4.9%であり、触媒の還元温度を 50℃高めること

による初期活性の向上及び耐久性の向上が確認できた。

また、今回の試験においてハニカム触媒ピーク温度は、初期 582℃、1,000 時間後は 610℃であった。

還元処理温度 550℃と比較して、反応のピーク温度は 20℃低くなった。また、還元処理温度 550℃の触

媒には反応開始から 20h で 25℃の急激な温度上昇が見られたが、今回は 170h で 10℃の緩やかな温度

上昇であった。還元温度を 50℃高めることにより、触媒活性は反応初期から安定することがわかった。

-35

-30

-25

-20

-15

-10

-5

0

5

10

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

0 50 100 150 200 250 300 350

重量

変化

/ %

温度

/ ℃

時間 / min

温度

重量変化

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図26.連続耐久試験評価(アンモニア転化率の経時変化)

図27.連続耐久試験評価(触媒層ピーク温度の比較)

表3.ATR アンモニア分解触媒の連続耐久試験結果

初期 1,000h後 初期 1,000h後 低下率(%)

還元処理温度600℃の開発触媒② 85.5 83.2 258.6 249.0 3.7

還元処理温度550℃の開発触媒② 84.1 81.1 252.6 240.2 4.9

アンモニア転化率(%) 水素生成速度(mL/min・mL)

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3-1-11.開発触媒②(600℃還元)の連続耐久試験後の触媒分析

耐久試験後のハニカム触媒をマイクロスコープによって観察した。図28に耐久試験前(左図)と試

験後(右図)のセル像を示す。触媒コート層の剥離は確認されなかったが、触媒コート層の一部に細か

い毛羽立ちが確認された。表4に超音波剥離試験(周波数:30Hz、処理時間:30 分)による触媒コー

ト層強度の測定結果を示す。耐久試験前の剥離率は 6.6%、1,000h 耐久試験後は 7.3%であった。

図28.連続耐久試験前後のマイクロスコープ像(左図:耐久試験前、右図:耐久試験後)

表4.連続耐久試験前後の剥離強度の比較

ハニカム触媒 状態 触媒剥離率

還元処理温度 600℃の

開発触媒②

耐久試験前 6.6%

1000h 耐久試験後 7.3%

3-1-12.開発触媒②(600℃還元)の分解反応器の連続耐久試験

600℃還元処理を行った開発触媒②の実証試験サイズのハニカム触媒(49mmφ(外径)×47mm(長さ))を

作製し、この触媒を搭載した分解反応器の連続耐久試験を豊田自動織機にて行った。図29に分解反応器

による 1,000h 連続耐久試験の結果を示す。表5に還元処理条件変更前の分解反応器の連続耐久試験と

の比較を示す。

初期のアンモニア転化率は 84.2%、最大値は 85.4%であり、1000h 後は 81.0%であった。アンモニ

ア転化率の最大値からの低下率は 5.4%であり、還元処理条件変更前と比較して 3.3%改善した。

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図29.連続耐久試験(ATR 分解反応器)

表5.分解反応器の連続耐久試験結果の比較

3-1-13.分解反応器から取り出した開発触媒②(600℃還元)の分析

連続耐久試験後に分解反応器からハニカム触媒を取り出し、マイクロスコープによる観察、XRD 分

析および BET 比表面積測定を行った。

ハニカム触媒の外観を図30に示す。また、ハニカム触媒の入口部からのマイクロスコープ観察の画

像を図31に示す。図31(a)は端面にピントを合わせた画像であり、ハニカムセル内部に剥離等の

変化は見られなかった。図31(b)は入口から約 7mm の位置にピントを合わせた画像であり、セル

内部に毛羽立ちのようなものが観察された。600℃還元処理を行わなかった開発触媒②は、図21のよ

うに連続耐久試験後は入口から約 13mm の部分に触媒コート層の剥離が確認された。また、ハニカム触

媒を取り出す際に分解反応器から触媒成分を含む粉が出てきたことから、今回のハニカム触媒ではコート層

強度の改善が見られた。

取り出したハニカム触媒について、3分割(入口部から順に1/3、2/3、3/3)して掻きだした触媒のXRD

分析を行った。試験前ハニカム触媒より掻きだした触媒(初期)と比較した結果、試験前の触媒からは

CoOとCo metal に帰属される回折ピークのみが観察された。試験後の触媒では、入口に近い部分では

強いCoOの回折ピークが観察されるが、中央から出口部分においてはピーク強度が大きく低下している。

転化率81.0%

85.4%

初期 最大値 1,000h後 低下率

開発触媒②(600℃還元処理) 84.2 85.4 81.0 5.4

開発触媒②(550℃還元処理) 77.7 82.8 76.2 8.7

アンモニア転化率(%)実施時期

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生成した水素により試験中に還元されてCo metalとなっていると考えられる。

図32に XRD の回折ピークより算出した金属コバルトの結晶子径の比較を示す。耐久試験後の粒子

径は 20nm であり、試験前の 13nm から約 1.5 倍の粒子成長が確認された。図33にガス吸着法により

比表面積の比較を示す。試験後の BET 比表面積は 48m2・g-1であり試験前と比較して 2 割低下してい

た。以上の分析結果から、連続耐久試験におけるアンモニア分解活性の低下の要因としては、触媒活性

成分であるコバルトの凝集が推察される。

図30.取り出したハニカム触媒の外観

図31.取り出したハニカム触媒(平成 29 年度)のマイクロスコープ画像

(a)端面、(b)入口から約 7mm

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図32.XRDによる Co結晶子径の比較 図33.BET比表面積測定による比表面積の比較

3-1-14.大型ハニカム触媒の作製

ATR 分解反応器の大型化への対応を目的として、110mmφ(外径)×126mm(長さ)の大型ハニカム触媒

作製を検討した。これまで検討を行った実証試験サイズ(49mmφ(外径)×40mm(長さ))のハニカムと比較し

てコートに必要な触媒量は約 14倍になることから、触媒調製のスケールアップ試作を行った。スケールアップ試

作した触媒は、X 線回折(XRD)分析による回折ピークの同定、半値幅から結晶子サイズの測定、BET

比表面積測定、ガラスビード法による蛍光 X 線(XRF)分析による触媒成分の組成比の分析値がラボで

調製した触媒を再現していることを確認した。

スケールアップ試作で得られた触媒に担持助剤、純水を混合してボールミルで湿式粉砕を行った。ボ

ールミル湿式粉砕後のスラリーは、粒度分布測定装置により粒子径に問題ないことを確認した。図34

にコート後の大型ハニカムの外観を示す。平均開口率は、基準値を満たしていた。

図34.コート後の大型ハニカムの外観

0

5

10

15

20

25

耐久試験前 耐久試験後

Co

met

al 結

晶子

径/

nm

0

10

20

30

40

50

60

70

耐久試験前 耐久試験後

比表

面積

/ m

2 g

-1

大型ハニカム

実証試験サイズの

ハニカム

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3-1-15.加圧条件での ATR 分解反応データ(①圧力依存性評価)

SOFC 発電システムは加圧下条件で作動した方が高出力、高効率が可能となる。一方、アンモニア分

解反応は加圧下では不利になることから、加圧下での ATR 分解反応の評価を行った。始めに AFR=0.75、

Total ガス SV=28,000h-1 について、断熱反応器にて圧力範囲 0.1~0.4MPaG の条件で実験を行った。

表7に実験条件、図35~37に触媒単体の測定結果を示す。図35のアンモニア転化率と図36の触

媒層温度については、豊田自動織機で測定を行った分解反応器の結果を併記した。触媒単体では圧力上

昇とともにアンモニア転化率が低下する傾向を示し、分解反応器についても同様であった。同条件にお

いては、分解反応器評価と触媒単体評価では 6~8%程度のアンモニア転化率の差異が見られた。図37

の触媒層温度分布から、圧力による影響はほとんど見られなかった。

表6.ATR 分解反応条件(①圧力依存性評価)

ハニカムサイズ 49mmφ(外径)×40mm(長さ)

SV(h-1) 28,000

NH3流量(NL/min) 23.6

Air 流量(NL/min) 15.4

圧力(MPaG) 0~0.4

図35.アンモニア転化率の圧力依存性(SV=28,000h-1)

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図36.触媒層ピーク温度の圧力依存性(SV=28,000h-1)

図37.触媒層温度分布の圧力依存性(SV=28,000h-1)

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3-1-16.加圧条件での ATR 分解反応データ(②高 SV 評価)

次に高 SV 条件での ATR 反応評価を断熱反応器(触媒単体の評価)により行った。実験条件を表7

に示す。図38にアンモニア転化率の測定結果、図39に触媒層ピーク温度の測定結果を示す。加圧に

よるアンモニア転化率の低下は、低 SV(28,000h-1,46,000h-1)よりも高 SV(63,000h-1)の方が緩やかな

傾向を示した。図40~42に触媒層温度分布の測定結果を示す。SV を大きくすることによりアンモ

ニアの燃焼部分(ガス入口側)の温度分布は後方にシフトする傾向が見られ、その差は圧力が大きくなる

ほど小さくなる傾向が見られた。

表7.ATR 分解反応条件(②高SV評価)

ハニカムサイズ 49mmφ(外径)×40mm(長さ)

SV(h-1) 28,000 46,000 63,000

NH3 流量

(NL/min) 4.82 7.92 10.85

Air 流量

(NL/min) 3.62 5.94 8.14

圧力(MPaG) 0~0.4

図38.アンモニア転化率の圧力依存性(高 SV 評価)

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図39.触媒層ピーク温度の圧力依存性(高 SV 評価)

図40.触媒層温度分布(0MPaG) 図41.触媒層温度分布(0.25MPaG)

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図42.触媒層温度分布(0.4MPaG)

3-1-17.アンモニア ATR 分解反応の熱流体解析

ATR アンモニア分解反応を解析するために、①アンモニア燃焼反応、②アンモニア分解反応、③水

素燃焼反応の各素反応の反応データから反応速度式を導出した。さらに、数値流体解析ソフト

(STAR-CCM+ :株式会社 CD-adapco 製)を用いて CFD シミュレーションを行い、ハニカム触媒の ATR

アンモニア分解反応におけるハニカム内温度分布およびアンモニア転化率のシミュレーションを実施

した。

1)ATR アンモニア分解反応の分圧データ

ATR アンモニア分解反応の反応速度モデルの構築のため、次の①~③の反応における各成分ガスの

分圧の影響について検討を行った。

① アンモニア燃焼反応 (NH3, O2, H2O 分圧の影響)

② アンモニア分解反応 (NH3, H2, H2O 分圧の影響)

③ 水素燃焼反応 (H2, O2, NH3分圧の影響)

図43に示す流通式管型反応器を用いて、各反応の初期速度を測定するために、アンモニアおよび水

素の転化率 20%以下の範囲内となるように反応を制御した。

測定触媒は、前述のハニカム触媒を粗粉砕して、1.18 ~ 2.36 mm の範囲のものを分級して使用し

た。触媒量は 0.04 ~ 0.1 g とし、石英砂にて 5 ~ 10 倍に希釈して充填した。

さらに、SV は 200,000 ~ 1,500,000 h–1の範囲内、反応温度は以下の範囲内で測定を実施した。

①アンモニア燃焼反応:250 ~ 350℃

②アンモニア分解反応:400 ~ 600℃

③水素燃焼反応 :150 ~ 350℃

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生成ガスの分析は、水素、酸素、窒素は TCD-GC を用いて分析し、アンモニアはイオンクロマトグ

ラフ(Ion Chromatograph IC-2001 東ソー株式会社製)を用いて分析を行った。各反応の転化率の

計算方法について以下に示す。

①アンモニア燃焼反応

反応管の出口ガス中に水素が存在しないことを TCD-GC で確認した。未反応アンモニアの定量は、

反応管出口ガスをホウ酸水溶液に吸収させてイオンクロマトグラフで定量した。

アンモニア転化率(%)=((アンモニア供給量-未反応アンモニア量)/アンモニア供給量)×100

②アンモニア分解反応

反応管の出口ガスを硫酸水溶液を入れたガス吸収びんを通過させて未反応アンモニアを捕集した後、

ガス流量計で流量を測定した。また、ガス中の水素、窒素を TCD-GC で定量した。

アンモニア転化率(%)=((アンモニア供給量-((未反応アンモニア捕集後ガス流量×未反応アンモ

ニア捕集後のガス中の水素濃度)×2/3)/アンモニア供給量)×100

③水素燃焼反応

ガス流量計で反応管の出口ガス流量を測定し、出口ガス中の水素、酸素、窒素を TCD-GC で定量し

た。

水素転化率(%)=((水素供給量-出口ガス流量×出口ガス中の水素濃度)/水素供給量)×100

図43.流通管型反応器の概要

2)ATR アンモニア分解反応の反応速度式

上記の実験結果から速度式のモデルを作成し、速度パラメータを決定した。求めた速度式を用いて、

数式処理ソフト(PTC Mathcad)を使用したハニカム触媒の直径方向の熱伝導を考慮しない断熱条件で

の簡易シミュレーションモデルを作成し、ハニカム触媒を使用した ATR アンモニア分解反応の温度分

布の計算を行った(図44)。3-1-4で記載したハニカム触媒温度分布の実験値(図6)と温度分

布の形状はよく一致しており、算出した ATR アンモニア分解反応速度式が妥当であると判断した。シ

ミュレーションのピーク温度が実験値より高い理由として、実験値は反応器の放熱の影響により低下し

ていると考えられる。

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図44.ATR アンモニア分解反応の温度分布シミュレーション

3)ATR アンモニア分解反応の熱流体解析

上記で算出した ATR アンモニア分解反応速度式を数値流体解析ソフト(STAR-CCM+)に導入して、

CFD シミュレーションによるハニカム触媒内温度分布およびアンモニア転化率のシミュレーション

を行った。ATR アンモニア分解ハニカム触媒評価装置による実験値と CFD シミュレーションの値と

を SV を変えた条件で比較した結果を表8に示す。

SV=35,000 h−1の条件でのアンモニア転化率の断熱条件での CFD シミュレーションの値と実験値と

の差は小さく、一方、SV=17,500 h−1の条件では CFD シミュレーションの値と実験値との差は約 7%

と大きくなった。この結果は、実験値が断熱条件と比較すると放熱の影響を大きく受けていると推察

した。 そこで、STAR-CCM+のインターフェースを使用した対流による放熱の条件( 熱伝達係数:

20 W/(m2 K)と仮定)で CFD シミュレーションを行った(図45)。

SV=17,500 h−1の条件で外側温度を300℃に設定した時にアンモニア転化率は実験値に近い値となっ

た。一方、外側温度を 400℃に設定すると、断熱条件のアンモニア分解率に近い値となった。

断熱条件、外側温度 300℃、外側温度 400℃、それぞれの CFD シミュレーションによる触媒層の温

度分布を見ると、外側温度 300℃では反応管の外部への放熱がかなり大きいことがわかる。一方、外

側温度 400℃では反応管の外部への放熱が抑制されていることがわかる。したがって、分解反応器に

おける断熱材の検討、反応器外部からの熱供給が放熱の抑制には有効であると考える

以上の結果から、今回開発した ATR アンモニア分解ハニカム触媒は、分解反応器としての所定の性

能を達成するために放熱の影響を軽減する断熱材や分解反応器の制御を行う必要があることがわかっ

た。

400

450

500

550

600

650

700

0 10 20 30 40

ハニ

カム

温度

[℃]

ハニカム位置 [mm]

簡易シミュレーションと実験値の比較(SV=17,500h-1)

簡易シミュレーション

実験値

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29

表8.ATR アンモニア分解反応の計算値と実験値の比較

AFR=0.75、SV=17,500 h−1、断熱条件

AFR=0.75、SV=17,500 h−1、反応管外側温度 400℃条件

AFR=0.75、SV=17,500 h−1、反応管外側温度 300℃条件

図45.CFD シミュレーションによる反応器中の触媒層の温度分布

3-1-18.ATR アンモニア分解反応の起動シミュレーション

ATR アンモニア分解反応の熱流体解析を応用して起動シュミレーションモデルを作成した。数値流体

解析ソフト(STAR-CCM+)を使用して、ATR アンモニア分解反応の反応速度式と反応速度パラメータ

実験値

SV[h−1] 外側温度[℃] アンモニア転化率 [%] アンモニア転化率 [%]

35,000 (断熱) 85.4 84

(断熱) 89.5

400 88

350 84.7

300 81.6

CFDシミュレーション

17,500 82.6

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30

により、ATR アンモニア分解反応における反応開始時から定常運転までにかかる起動時間及びその時の

各ガス濃度の変化について検討を行った。

シミュレーションは、まず 200℃に加温した反応ガスを流通したと仮定して、反応を伴わない流れだ

けで定常解析を行った。定常解析で流れが安定したのち、反応を伴う非定常解析に移行して計算を行っ

た。得られた結果を図46-1~5に示す。

図46-1は、AFR=0.75、SV=28.000h-1 のガスを供給し、200℃で反応が開始した直後(1 秒後)

の温度分布を示している。図中、左側から原料ガスが供給され、右側から生成ガスが排出されることを

示している。

図46-2の 10 秒後の温度分布に見られるように、ハニカム触媒の右側(後方部)から温度上昇が

始まり、図46-3~5のように徐々に左側(前方部)に温度ピークが移動している変化が示されてい

る。

図46-5の 40 秒後に温度変化は安定状態になった。この結果から反応初期では入口側から供給さ

れるアンモニアが酸化されることで発熱が生じ、それによりハニカム触媒後方部から温度が上昇してい

ることが推察される。

図46-1.ATR アンモニア分解反応の着火後の温度分布シミュレーション(反応開始 1 秒後)

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31

図46-2.ATR アンモニア分解反応の着火後の温度分布シミュレーション(反応開始 10 秒後)

図46-3.ATR アンモニア分解反応の着火後の温度分布シミュレーション(反応開始 20 秒後)

図46-4.ATR アンモニア分解反応の着火後の温度分布シミュレーション(反応開始 30 秒後)

図46-5.ATR アンモニア分解反応の着火後の温度分布シミュレーション(反応開始 40 秒後)

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32

3-2.アンモニア ATR 分解反応器-SOFC システムの開発

3-2-1.アンモニア SOFC ショートスタックの比較試験

1kW ホットモジュールの方式決定のため、3 反応方式(外部分解方式(ATR 分解方式)、内部間接分

解方式、内部直接分解方式)のショートスタック発電試験を実施した。なお、3 方式の比較実験ではい

ずれも同じショートスタックを用いて試験を行った。

発電実験条件は以下のとおりである。外部分解方式において使用した分解反応器の外観を図57に、

ショートスタックの外観を図58にしめす。

発電実験条件

ショートスタック : セル10段、電極サイズφ110mm

アノードガス : 内部間接分解方式は外部の触媒分解装置においてアンモニア転化率90%の分解生

成ガス、ATR分解方式はAFR=0.75, SV=21,500h-1の条件で分解反応生成ガス

燃料利用率Uf : 60%

カソードガス : 空気

作動温度: 750℃、電流 : 0-36 A

図47.ショートスタック用 ATR 分解反応器の外観 図48.ショートスタックの外観

3-2-2.アンモニア SOFC ショートスタックの発電実験

アンモニア ATR 分解反応器と SOFC ショートスタックを連結した発電実験を実施した。また、供給

アンモニア相当の wet H2(加湿した水素ガス)による比較発電実験を実施した(図49)。

低電流値域での電圧は wet H2の方がわずかに高い値であったが、それ以外の領域ではほぼ同じ結果

であった。低電流領域で解離については、wet H2条件に変更して評価までの時間が短かったことから供

給ガス中の水蒸気分圧が安定せず、低い水蒸気分圧条件で評価したものと推察している。

アンモニアATR分解反応器とSOFCショートスタック連結した発電において234Wの出力が得られ、

目標である出力 200W を達成した。

次に、3方式の出力比較を行った結果を図50に示す。3方式の比較において、内部間接分解方式が最

も高い出力を示し、内部直接分解方式と外部分解方式(ATR分解方式)がほぼ同等の出力であった。

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33

図49.ATR 分解反応器-SOFC ショートスタックの発電特性

図50.アンモニア SOFC ショートスタックの 3方式の発電特性

3-2-3.ATR 分解反応器とフルスタック連結実験

分解反応器とフルスタック(1kW 級、セル 30 段)を連結した発電実験を行うため、図51に示す評

価装置を京都大学に作製した。本評価装置では、ATR 分解反応器の出口ガスのスタックまでのガス供給

流路における放熱を抑制するため、分解反応器の出口ガス配管、加熱炉入口手前のアノード配管にジャ

ケットヒーターを巻いて 400℃まで加熱した。しかし、流速が速いため出口ガス温度は 50~60℃程度ま

でしか上昇せず、ATR 分解反応の出口ガスの熱をスタックに供給することができなかった。そこで、今

250 249.5 238.5 234.2 231.6

0

50

100

150

200

250

300

出力

/W

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34

回の連結評価では、加熱炉は 750℃、スタック供給 Air は 300℃に加熱して行った。

図51.ATR 分解反応器とフルスタックの連結評価装置図

3-2-4.アンモニア ATR 分解反応器と SOFC フルスタック連結発電評価

ATR 分解反応器とフルスタックの連結評価装置による発電実験を行った。SOFC の作動温度は 750℃

とし、ATR 分解反応器は SV=28,000h-1、AFR=0.45、0.60、0.75 条件における IV 特性の測定を行った。

また、アンモニア直接分解方式と比較のため、dry NH3による測定を行った。発電実験条件は以下のと

おりである。評価結果を図52、表9に示す。

発電実験条件

フルスタック : セル30段、電極サイズφ110mm

アノードガス : アンモニア直接分解方式はNH3=8.20NL/min、ATR分解方式はNH3=8.20NL/min

相当をスタックへ供給するAFR=0.75,0.60,0.45条件のそれぞれの分解反応生成ガ

ス量

燃料利用率Uf : 60%

カソードガス : 空気

作動温度: 750℃、電流 : 0-40 A

ATR 分解反応器で AFR=0.75 の条件において、電流値 40A での最大出力は 716W であり、単セル当

たりの平均出力密度は 251.2 mW cm-2であった。

また、スタックへ供給されるアンモニア量を同量とした場合の、アンモニア直接分解方式との比較で

は、ほぼ同等の出力レベルであった。アンモニア ATR 反応器での外部分解によるスタックベースでの

発電特性の優位性は見られなかったが、これはスタックを電気炉で加熱した条件で評価しているため、

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35

アンモニア直接分解方式で顕著になるセル上でのアンモニア分解反応による吸熱のエネルギーが外部

加熱により補われるためと推察している。

図63に ATR 分解方式とアンモニア直接分解方式との燃料効率について比較を行った。発電出力の

比較と同様にスタックベースでは両方式はほぼ同等の燃料効率を示すが、システムベースでの燃料効率

では、ATR 分解方式が、ATR 分解反応において供給アンモニアの一部燃焼してアンモニア分解反応の

熱エネルギーとして消費するので 3~5%ほど劣る結果となった。

図52.ATR 分解反応器-フルスタックの連結発電評価

表9.ATR 分解方式とアンモニア直接分解方式の発電出力の比較(スタックベース)

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36

図53.ATR 分解方式とアンモニア直接分解方式とのスタックおよびシステムベースの比較

(35A)

3-2-5.ATR 分解反応器とフルスタックの組み合わせ評価装置の改造

アンモニア ATR 分解反応器と SOFC を組み合せたシステムにおいて、ATR 分解反応方式はアンモニ

アの一部を燃焼させて、アンモニア分解反応の吸熱エネルギーを補うため、分解反応器の自立運転が可

能である。また、分解反応器から SOFC に供給される分解ガスは 450℃以上の高温であるため、ATR

分解反応器特徴を生かすためには、この分解反応器の出口高温ガスの熱をスタックで有効利用する必要

がある。

そこで、分解反応器をスタック直下に配置することで、配管を極力短くして放熱の影響を低減し、分

解反応器の熱を有効利用できるように改造を行った。改造前の装置図を図54、改造後の評価装置を図

55に示す。

改造前後のスタック入口のガス温度を比較した結果を図56に示す。改造後のスタック入口のガス温

度は反応器出口ガス温度とほぼ同じ温度であることが確認できた。

図54.改造前の組み合わせ評価装置の概略図

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37

図55.改造後の組み合わせ評価装置の概略図

図56.評価装置の改造によるスタックへの供給ガス温度の比較

3-2-6.アンモニア ATR 分解反応器と SOFC フルスタック連結発電評価(改造後)

分解反応器による分解ガス熱供給によるスタックでの電力消費量の削減について検証することを目

的として、1)スタックを室温から作動温度まで昇温する際に必要な電力消費量の比較、2)スタック

温度を作動温度で維持するために必要な電力消費量の比較と作動温度での発電特性評価を行った。電力

量の計測は、評価装置の電源ケーブルに電力量測定計を繋ぎ込むことにより実施した。

1)昇温時の消費電力評価

実験方法

下記の条件で、スタック電気炉を昇温したときの消費電力を測定した。

昇温条件: 室温からスタック作動温度の 750℃まで毎時 100℃で昇温

燃料極ガス: 表10記載のガス条件により昇温を実施。ATR 昇温条件では ATR 分解装置の出口ガス

温度が約 450℃であるため、スタック電気炉が 450℃より高い温度では H2に切替。

0

100

200

300

400

500

600

ガス温度

温度

/ ℃

分解反応器出口ガス

改造後の評価装置

改造前の評価装置

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38

表10.スタック昇温実験のガス条件

条件 ATR 昇温有り ATR 昇温無し

室温 ~ 450℃ ATR 出口ガス H2

450 ~ 750℃ H2 H2

H2条件: H2 3 NL/min

ATR 出口ガス条件: H2換算流量(※)/ 12.3NL min-1

空気極ガス: 窒素 3 NL/min

※H2換算流量:分解反応が完全に進行したときに発生する H2量

測定結果

昇温時のスタック温度を測定した結果を図57に示す。分解反応器の出口ガスによる昇温の有無によ

るスタック温度の上昇傾向に違いは見られなかった。次に、昇温時の消費電力量の積算結果を図58に

示す。分解反応器を使用することにより、消費電力量は 0.67kWh 低減されていた。室温から 750℃ま

で上げるために必要な電力量に対して、分解反応器の熱を有効利用することによって 21%の消費電力を

削減した。さらに、昇温時の消費電力量を削減する方法として ATR 反応の空燃比を上げることで出口

ガス温度を高温して、SOFC 作動温度まで分解反応器出口ガスのみで昇温することによりヒーターレス

での起動が可能であると考える。

図57.昇温時のスタック温度の推移

(ATR 有り:分解反応器出口ガスによる昇温、ATR 無し:H2のみで昇温)

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39

図58.昇温時のヒーター消費電力量の積算値の推移

(ATR 有り:分解反応器出口ガスによる昇温、ATR 無し:H2のみで昇温)

2)定常時の消費電力評価と発電特性評価

実験方法

下記の条件で発電特性評価を行うと同時に定常時の消費電力を測定して発電効率の比較を行った。

フルスタック仕様: 電極サイズφ110mm、30 段セル、株式会社ノリタケカンパニーリミテド製

燃料極ガス: 表11に記載の 2 種類の条件。

表11.発電特性評価時のガス条件

燃料極ガス条件 NH3流量

/ NL min-1

Air 流量

/ NL min-1

H2換算流量※

/ NL min-1

ATR 出口ガス 10.3 7.7 12.3

(比較)NH3ガス 8.2 0 12.3

空気極ガス:空気 90 NL/min

作動温度 :750℃

引出電流 :0 ~ 40A

※H2換算流量:分解反応が完全に進行したときに発生する H2量

測定結果

スタックを作動温度の 750℃に維持した状態で、アノードに供給するガスを変えた時の電力消費量を

測定した結果を図59に示す。アノード供給ガスが NH3の条件と比較すると、ATR 出口ガスの条件で

は約 260W のヒーター消費電力が削減されていた。なお、分解反応器出口ガスの熱を利用した時の電力

消費量は、計算値と実測値がほぼ同じであった。

アノードに供給するガスを変えた時の発電特性への影響について評価を行うために発電試験を行っ

た。測定結果を図60に示す。NH3による直接発電と ATR 出口ガスによる発電では、スタック発電出

力に大きな差はないことが確認できた。

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40

得られたスタック発電出力から、効率を算出した結果を図61に示す。供給する NH3 量を基準とし

た発電効率で比較した場合は、ATR 分解方式による発電効率は NH3直接方式と比べて 13%低くなるが、

ヒーター消費電力も含めた発電効率で比較した場合は、その差は 6%まで小さくなった。

図59.定常作動時の電力消費量比較

図60.スタック発電出力の比較

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

NH3直接法 ATR法

ヒーター消費電力

/ W

実測値

計算値

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

0 10 20 30 40 50

発電時の出力

/ W

電流 / A

ATR

NH3

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41

図61.システム発電効率の関係

効率 = FC 出力/(供給 NH3エネルギー+ヒーター電力)

3-2-7.ATR 分解ガスによる SOFC システム起動の検討

SOFC の現行システムでは起動時に燃料極側の還元のため H2 を使用している。この起動時の還元ガ

スとして、ATR 分解ガスが利用できれば付帯設備としての H2インフラを廃止し、アンモニアのみで起

動・運転ができる(シングルフューエル化)。スタック昇温時の燃料極ガスを H2から ATR 分解ガスに

代替する検討を行った。

SOFC 起動時に供給する ATR 分解ガスとしては、装置からスリップ(SOFC の起動時にはスタック

でアンモニアが処理されないため)するアンモニアの処理を想定して、アンモニア転化率の目標値を

98%と設定した。49mmφ(外径)×40mm(長さ)のハニカムを搭載した分解反応器における空気/アンモ

ニア比率(AFR)条件の検討を行った(表12)。アンモニア高転化率条件での ATR 分解反応の評価

結果を表13、図62、図63に示す

SOFC 起動用としてアンモニア流量約 5NL/min の条件において、AFR=0.9~0.95 でアンモニア転化

率は 98%を達成できる見込みであることがわかった。AFR=0.9~0.95における触媒層出口温度は 550℃

程度であり、触媒層ピーク温度は 675℃程度であった。この温度域での触媒耐久性については今度確認

する必要があるが、短時間の作動であれば急激な触媒活性の低下は少ないと推定している。

表12.SOFC起動実験のための AFR評価条件

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

NH3直接法 ATR法

発電

効率

/ %

供給NH3基準の効率

消費電力を含めた総効

AFR SV(h-1)NH3流量

(L/min)

Air流量

(L/min)

0.85 6,265 4.25

0.9 6,435 4.5

0.95 6,604 4.75

5.0

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42

表13.空気/アンモニア比率(AFR)によるアンモニア転化率

図62.空気/アンモニア比率(AFR)によるアンモニア転化率

図63.空気/アンモニア比率(AFR)による触媒層温度分布の測定結果

0.85 0.9 0.95

無 93.9 97.1 98.3

NH3転化率(%)入口ガス加熱

NH3転化率(%) NH3転化率(%)

500

550

600

650

700

750

800

0 10 20 30 40 50

触媒温度/℃

触媒位置/mm

AFR=0.85:有

AFR=0.90:有

AFR=0.95:有

AFR=0.85:無

AFR=0.90:無

AFR=0.95:無

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43

ATR 分解反応器による起動実験の装置の概略図を図64、ガス流量条件を表14、図65に示す。

AFR=1.0,SV=4,500h-1(NH3=3L/min、Air=3L/min)、昇温速度 100℃/h の条件で実験を行った。H2

ガス昇温後に実施した IV 特性測定結果と ATR 分解ガス昇温後の IV 特性測定の比較を図66に示す。

ATR 分解ガス昇温後の IV 特性の方が若干劣るが、スタックの初期流動とも考えられることから、ATR

分解ガスで昇温しても大きな発電性能の差は見られず、H2の代替ガスとして期待できることが確認でき

た。

図64.ATR 分解反応器による SOFC起動実験装置の概略図

表14.ATR 分解反応器による SOFC起動実験のガス流量条件

N2 3(NL/min) ~700℃

Air 3(NL/min) 700℃~

NH3 3(NL/min)

Air 3(NL/min)

SOFC昇温時 発電時

カソード

アノードATR昇温

ATR=1.0

SV=4,500h-1

Air

H2

90(NL/min)ヒータで300℃

に加熱

17.5(NL/min)

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44

図65.スタック昇温および発電時のガス条件

図66.ATR 分解反応器による SOFC起動実験の IV特性比較

3-3.まとめ

文部科学省 ALCA「エネルギーキャリア」にて開発した ATR アンモニア分解触媒(コバルト/複合

酸化物触媒)のハニカム触媒(24mmφ(外径)×40mm(長さ))を作製し、ATR アンモニア分解触媒連

続耐久性評価装置により AFR=0.75、SV=28,000h-1の条件にて 1,000h の連続耐久試験を行った。初期

のアンモニア転化率は 85.0%(水素生成速度は 255.8mL・min-1・mL-1)、1000h 後のアンモニア転

化率は 79.0%(水素生成速度は 232.2mL・min-1・mL-1)、水素生成速度の変化率は 9.2%であり、本

研究課題において耐久性の改良を行った。

一方、実証試験サイズのハニカム触媒(49 mmφ×47 mm)を作製し、豊田自動織機で分解反応器の

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45

設計・製作を行った。本分解反応器を用いて起動性評価を行った結果、着火から分解燃料ガス供給まで

の起動時間は約 100 秒であり、ATR 分解反応器は短時間で起動できることが判明した。

ATR アンモニア分解触媒の耐久性向上を検討し、複合酸化物種を置き換えた改良触媒を開発した。当

該改良触媒を AFR=0.75、SV=28,000h-1の条件にて 1,000h の連続耐久試験を行い、アンモニア転化率

の最大値は 84.1%(水素生成速度は 252.6mL・min-1・mL-1)、1000h 後のアンモニア転化率は 81.1%

(水素生成速度は 240.2mL・min-1・mL-1)、水素生成速度の最高値からの低下率は 4.9%であり、触

媒としての研究目標値である変化率 5.0%以下を達成した。

しかし、当該改良触媒の実証試験サイズのハニカム触媒(49mmφ(外径)×47mm(長さ))を作製し、豊田自

動織機にて分解反応器での連続耐久性試験1,000hを実施したところ、アンモニア転化率の最大値は82.8%、

1000 時間後の転化率は 76.2%であり、分解反応器としての目標に未達であった。

そこで、アンモニア分解触媒の還元温度による活性種の状態変化について検討を行った。触媒の前処理還

元温度により活性種であるコバルトの還元状態が変化することに着目し、還元温度を 550℃から 600℃

に変更した。600℃で前処理還元した触媒を AFR=0.75、SV=28,000h-1の条件にて 1,000h の連続耐久

試験を行った結果、初期のアンモニア転化率は 85.5%、1000h 後は 83.2%であり、水素生成速度の最

高値からの低下率は 3.7%であった。また、超音波剥離試験による触媒コート層強度を測定し、耐久試

験前の剥離率は 6.6%、1,000h 耐久試験後は 7.3%であり、コート層強度も改善することを確認した。

600℃還元処理を行った触媒の実証試験サイズのハニカム触媒(49mmφ(外径)×47mm(長さ))を作製し、

分解反応器による 1,000h の連続耐久試験を豊田自動織機にて行った。アンモニア転化率の最大値は

85.4%、1000h 後は 81.0%、最大値からの低下率は 5.4%であり、分解反応器としての初期活性及び耐

久性の目標値を達成した。

ATR 分解反応器の大型化への対応を目的として、110mmφ(外径)×126mm(長さ)の大型ハニカム触媒

作製の検討を行った。触媒調製についてはスケールアップ試作を行い、物性測定を行った結果からラボで調

製した触媒を再現していることを確認した。

1kW ホットモジュールの方式決定のため、3 反応方式(外部分解方式(ATR 分解方式)、内部間接分

解方式、内部直接分解方式)のショートスタック発電試験を実施した。アンモニア ATR 分解反応器と

SOFC ショートスタック連結した発電においては 234W の出力が得られ、目標である出力 200W を達成

した。3 方式の出力比較を行った結果、内部間接分解方式が最も高い出力を示し、内部直接分解方式と

外部分解方式(ATR 分解方式)がほぼ同等の出力であった。

また、分解反応器とフルスタック(1kW 級、セル 30 段)を連結した発電実験を行った。AFR=0.75

の条件において、電流値 40A での最大出力は 716W であり、単セル当たりの平均出力密度は 251.2 mW

cm-2であった。スタックへ供給されるアンモニア量を同量とした場合、アンモニア直接分解方式との比

較では、ほぼ同等の出力レベルであった。燃料効率についてもスタックベースでは両方式はほぼ同等の

燃料効率を示したが、システムベースにおいては ATR 分解方式が供給アンモニアの一部燃焼してアン

モニア分解反応の熱エネルギーとして消費するため、3~5%ほど低い結果となった。

アンモニア ATR 分解反応器と有用性を評価するために、分解反応器による分解ガスの熱を有効利用

することによりスタックの電力消費量を削減する検討を行った。分解反応器をスタック直下に配置する

Page 50: 7 31 3 312 3-1-1.ハニカム触媒作製方法 開発触媒①の破砕品、担持助剤、純水を混合し、ボールミルで湿式粉砕を行った。ボールミル湿式粉

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装置改造を行い、スタックを室温から作動温度(750℃)まで昇温する際に必要な電力消費量を測定し

た。分解反応器の熱を有効利用することによって 21%の消費電力を削減できた。スタック温度を作動温

度で維持するために必要な電力消費量については、分解反応器出口ガスの熱を利用しない場合と比較し

て 260Wのヒーター消費電力が削減された。供給するNH3量を基準とした発電効率で比較した場合は、

ATR 分解方式によるシステム発電効率は NH3直接方式と比べて 13%低くなるが、ヒーター消費電力も

含めた発電効率で比較した場合は、その差は 6%まで小さくなることがわかった。

一方、SOFC 設備において、起動時に燃料極側を還元するため付帯する H2 インフラを廃止してアン

モニアインフラのみで起動・運転を行うことを目的として、スタック昇温時の燃料極ガスを ATR 分解

ガスで還元する検討を行った。ATR 分解ガスで昇温しても大きな発電性能の差は見られず、H2 の代替

ガスとして期待できることが確認できた。

3-4.今後の課題

・ハニカム触媒の量産技術の確立

4.外部発表実績

(1)論文発表

<査読付き> 0 件

<査読なし(総説等含む)> 0 件

(2)学会、展示会等発表

<招待講演> 国内 0 件、海外 0 件

<口頭発表> 国内 0 件、海外 0 件

<ポスター発表> 国内 0 件、海外 0 件

<展示会、ワークショップ、シンポジウム等> 国内 2 件、海外 0 件

・堀内俊孝、「アンモニア燃料電池(アンモニア外部分解方式の開発)」、SIP「エネルギーキャリア」公

開シンポジウム、東京、平成 28 年 7 月 20 日

・山崎勇英、「アンモニア燃料電池(アンモニア外部分解方式)」、SIP「エネルギーキャリア」公開シン

ポジウム、東京、平成 29 年 7 月 26 日

(3)プレス発表

なし

(4)マスメディア等取材による公表

なし

Page 51: 7 31 3 312 3-1-1.ハニカム触媒作製方法 開発触媒①の破砕品、担持助剤、純水を混合し、ボールミルで湿式粉砕を行った。ボールミル湿式粉

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5.特許出願実績

出願番号 発明の名称 出願年月日 出願人

1 特願2015-3899 アンモニアを燃料とする発電

装置および該発電装置を用い

た発電方法

平成27年1月13日 豊田自動織機、日本触

2 PCT / JP2016 /

50358

燃料電池システム、発電方法、

及び発電装置

平成28年1月7日 豊田自動織機、日本触

3 特願2016-161923 アンモニア分解用触媒および

この触媒を用いた水素含有ガ

スの製造方法

平成28年7月1日 株式会社日本触媒

6.参考文献

なし