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図8:矛盾解決マトリックスからの抜粋 「39 の特性パラメータ」を使って固有の矛盾を抽象化した矛盾に言い換えると、1 通りの組合せにき っちりと決まる場合は少なく、幾つかの組合せとなる場合がほとんどです。 基本的には、その組合せでの発明原理すべてでアイデアを考えるべきでしょう。ここでは問題解決の 方向性を狭めることはよくないのです。 さて、掃除機の改善に話を戻します。工学的矛盾を考えた結果、改善する特性として「圧力」「物質の量」、 悪化する特性として「操作の容易性」「物体が発する有害要因」を選びました。図8の「矛盾解決マトリッ クス」から発明原理を導き出すイメージを挿入 それぞれの関係のマトリックスを組んで当てはまる発 明原理を記載してみます。 図9「矛盾解決マトリックスから発明原理を導く」

図8:矛盾解決マトリックス ... - idea-triz.com · 図10 発明原理抽出表 悪化すること→取り扱いが難しくなる 操作の容易性 物体が発する有害作用

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図8:矛盾解決マトリックスからの抜粋

「39 の特性パラメータ」を使って固有の矛盾を抽象化した矛盾に言い換えると、1 通りの組合せにき

っちりと決まる場合は少なく、幾つかの組合せとなる場合がほとんどです。

基本的には、その組合せでの発明原理すべてでアイデアを考えるべきでしょう。ここでは問題解決の

方向性を狭めることはよくないのです。

さて、掃除機の改善に話を戻します。工学的矛盾を考えた結果、改善する特性として「圧力」「物質の量」、

悪化する特性として「操作の容易性」「物体が発する有害要因」を選びました。図8の「矛盾解決マトリッ

クス」から発明原理を導き出すイメージを挿入 それぞれの関係のマトリックスを組んで当てはまる発

明原理を記載してみます。

図9「矛盾解決マトリックスから発明原理を導く」

図 10 発明原理抽出表

悪化すること→取り扱いが難しくなる

操作の容易性 物体が発する有害作用

圧力 ・事前保護原理

・ 分離原理

・ 均質性原理

・ 「高価な長寿命より安価な短寿命」の原理

・ 機械的振動原理

改善したいこと:強い吸引力

で埃を吸い取る

物質の

・パラメータ変更原理

・流体利用原理

・セルフサービス原理

・先取り作用原理

・局所性質原理

・パラメータ変更原理

・複合材料原理

・不活性雰囲気利用原理

たとえば、事前保護原理を使えば、「絨毯にあらかじめ埃が絡まらないようなコーティングを施してお

く」とか、「吸い口の先端が滑りやすいようにテプロン加工する」とかが考えられます。

また、機械的振動原理では、「吸引力を周期的に与える」が出ます。ほかにも流体利用原理とかパラメ

ータ変更原理では、面白いアイデアが出そうですね。実際にアメリカの企業では、機械的振動原理を利

用して、吸引力を変動させる仕組みを取り入れた掃除機でこの問題を解決した商品が存在します。

図11 発明原理の例

このように、問題に隠れている矛盾を明らかにすることで、その解決方向性を提案してくれるのが発

明原理なのです。従来の問題解決のアイデア出しと比べていかがですか。 先人の知恵に基づいて解決

策を考えることが近道になるということがご理解いただけたと思います。

(2) 技術システムの進化の流れ(トレンド)を活用する方法

「矛盾」の解決に加えて、もう一つのやり方は、技術システムの進化の流れ(トレンド)に着目する

方法です。

技術システムが進化するとはどういうことなのでしょうか。まずは、技術の目的について考えてみま

しょう。

技術システムは必ず何かの目的を持って存在しています。たとえば、先の掃除機の目的は「床の埃を

吸い取る」でしょう。洗濯機の目的は「衣類に付いた汚れを落とす」です。洗濯機で考えると、最初は軽

微な汚れしか落とせなかったはずですが、それらがいろいろな(しつこい!) 汚れでさえも落とせるよ

うに進化していったと考えられます。

すなわち、技術システムの進化とは、“目的(=主機能)の強化”の歴史という事ができるのです。では、

進化の「最終の姿」はどうなるのでしょう。

TRIZトゥリーズ

では、あるシステムが進化した最後の姿を“究極の理想解”といいます。

TRIZトゥリーズ

における技術システム進化のトレンドの最も基本的な法則は、「すべてのシステムは理想性が増大

する方向に進化する」です。

あみだくじを引くとき、最も早く当りの軸を見つける方法は当りから逆に辿っていくことです。ある

いは、試験勉強をするときに、「答えを見てから問題を解く」ことと似ています。

つまり、このシステムのゴール(究極の姿=理想解)は何なのかを明確にし、現時点でなぜそれが実現で

きていないのかを考えることが、戦略的な技術開発への指針となるはずなのです。

以下に、8つの進化のトレンドを記します。

これらは、考え方として知っておくべきですが、実際のアイデア出しに使うには少し漠然としており、

使い方にコツが必要です。

これら進化のトレンドを問題解決にうまく使うための具体的な指示が「76 の発明標準解」なのです。

「76の発明標準解」に沿って問題を解決するアイデアを考えていくことができます。この冊子で 76

通りすべてを説明することは不可能ですから一部を説明します。興味がある方は巻末の参考資料一覧を

ご覧下さい。

さて、技術システム進化のトレンドを具体的な解決方針に落とし込んだ「76 の発明標準解」ですが、

それを使う上で知っておかなければならないツールとして「物質-場分析」があります。TRIZトゥリーズ

では、エン

ジニアシステムが最低限の働きをするためには 1つの場(これを“F”で表す)と 2つの物質(“S1”、“S2”

と表す)が必要と考えるのです。

① 想性増加の法則: ② ステム完全性の法則: ③ エネルギー伝達の法則: ④ リズム調整の法則: ⑤ 不規則に発展するパーツの法則: ⑥ 上位システム移行への法則: ⑦ マクロからミクロへの移行の法則: ⑧ 物質-場の完成度増加の法則:

図12:物質-場モデル

解決が求められている部分を、この 3つの要素で記述することが「76 の発明標準解」による問題解決

のスタートになるのです。 以下に、問題解決の例を示します。

S-F

<標準解 1-1-1:物質-場モデルの合成> 要求される変更を加えることが容易でない物体があり、物質や場の導入にいかな

る制限もない状況では、「物質-場”モデル」を構築することにより問題が解決され

る。すなわち、物理的場による作用を物体に与えることで、必要な変更を物体に

加える。 S F F => / \ S1-S2 S1 ――――― S2

たとえば、雨の日に皆さんのスラックスの裾に泥はねが付いたとします。このスラックスに付いた泥

汚れを手で払うだけで落とすことができるでしょうか。上記の物質-場モデルで F が「人が泥を払う力

(場)」、S1 が「スラックスに付いた泥汚れ」です。この場合、手で払うだけではスラックスに付いた泥汚

れは落とせそうにありません。これは、泥汚れを落とすための作用体 S2 が存在しないからなのです。

ここでは、S2 をどこからか持ってくればよいわけです。そう、水を使うことで落とせますね。

これは、人間関係にも応用できそうです。S1 が鈴木さんで S2 が田中さんだとして、お互いのコミュ

ニケーションがうまくはかれない状態だとします。それはお互いのコミュニケーションをうまく図るた

めの場が存在しないためだと考えられますから、例えば飲み会という場やゴルフという趣味の場を導入

すればうまくいく可能性が大きいといえますね。

次に、泥はねがついた事を忘れてしまってそのまま数日経ってしまった場合、もしくは水溜りに油が

含まれていて水だけでは落ちそうもないことに気づいた場合はどうでしょうか。

水だけでは落ちそうもない汚れの場合の解決策は、次の標準解 1-1-2 に記載されています。

<標準解 1-1-2:内部複合型物質-場モデルの構築> 要求される変更を加えることが容易でない“物質-場”モデルがあり、当該物質

への添加物の導入にいかなる制限もない状況では、内部複合型“物質-場”モデルへ

(永久または一時的に)移行させることにより問題を解決することができる。作用体

に添加物を導入することにより、制御性を向上させ、要求される特性を“物質-場”

モデルにもたらす。 F F \ => \ S1 - - - - - - - - S2 S1 ―――― (S2 S3)

「添加物の導入」とは、たとえば、洗剤(界面活性剤)を水に入れればよいということです。上記のモ

デルで S3 が洗剤となります。

このように、主機能の効率化(強化)を図りながら改善手段を次々に考えていきます。

一部の標準解は有害作用(たとえば、洗濯物が絡まる。など)の対策についても対応していますが、基

本的には進化のトレンドを基にした主機能の強化を図ることが「76 の発明標準解」の本質であると思っ

てください。

図13技術システム進化のトレンドの例

(3) 異分野の知識の活用

3つ目は、異分野の知識の活用です。

TRIZトゥリーズ

は、250 万件の特許情報の分析で得られた、これまでの問題解決に活用された知識ベースを持

っています。

では、ここで皆さんに質問です。「液体を動かす方法」を思いつく限り挙げてください。

「振動させる」、「渦を巻く」、「毛細管現象を利用する」・・・・。 おそらく10ぐらいで行き詰ったので

はないでしょうか。 TRIZトゥリーズ

に組み込まれている知識データベースで液体を動かす方法を検索すると以下

のような方法を提案してくれます。

音響キャビテーション

音響振動

アルキメデスの原理

ベルヌーイの定理

沸騰

ブラシ構造

毛管凝縮

毛管蒸発

毛管圧力

コアンダ 効果

凝結

電気浸透

電気泳動

静電気誘導

楕円

蒸発

強磁性

強制振動

漏斗効果

慣性

イオン交換

噴射フロー

浸透

パスカルの法則

共振

衝撃波

渦巻き

超熱伝導

超流動

表面張力

膨張

熱毛管効果

熱機械効果

超音波毛管効果

このように、自分達が知らない知識を使って、問題解決を図ることも時には必要になります。

また、「発明のレベル」という見方での特許の分類もあります。

第1レベル:誰でもが思いつくレベルの解決策。矛盾が存在しない。(全体の 32%)

第2レベル:システムの限定的な改良。 (同 45%)

第3レベル:システムの抜本的な改良。同一分野での解決策。 (同 18%)

第4レベル:新しいシステムの創造。異分野の知識の活用による解決策。(同 4%)

第5レベル:全く新しい知識の発見 (同 1%以下)

当然、レベルが上がるほど実現への技術的な難易度も高くなりますが、特に新しいシステムの創造は

ほとんどの場合、異分野や他事業からもたらされたのです。

自分が経験してきた知識世界だけでしか考えられない事をTRIZトゥリーズ

では「心理的惰性」といい、技術者の

創造性を大きく阻害するものと扱います。いわゆる「柔らか頭」が必要なのです。

私の好きな言葉に「素人のように考えて玄人として実行する」があります。豊富な知識経験を持った玄

人がそれこそ「素人のように」考えることができたら、すばらしいアイデアが生まれそうだと思いません

か。

第3章:問題解決のアイデアを出してみよう! <TRIZトゥリーズ

による問題解決思考プロセス>

1.TRIZトゥリーズ

による問題解決の思考プロセス

これでTRIZトゥリーズ

の全体概要については大体理解していただけたことと思います。

しかし、TRIZトゥリーズ

は学問ではありません。「知行合一」。理論を実践してこそ新しい創造性が得られるので

す。ここでは、実際に我々がクライアントでお手伝いしているプロセスの概要をお話します。

TRIZトゥリーズ

とは世界中の特許の分析から抽出された問題解決理論です。

具体的には

・ 「矛盾」と「進化」の両面から解決アイデアを出す手法

・ 自分の知識経験だけではなく他分野の知識や知恵をうまく活用すること

です。

これだけ聞くととても良いことずくめのように感じますが、何事にも表と裏の両面があります。

TRIZトゥリーズ

を知るだけではうまく問題解決につなげられないというのも事実なのです。1996 年に日本に紹

介されて以来、多くの企業がTRIZトゥリーズ

を導入して問題解決を図ってきましたが、成功している企業ばかり

ではありません。

その理由は大きく2つあります。

・ 問題の根本原因が見つけられないこと

・ TRIZトゥリーズ

がアイデアを出してくれるという誤解

1 つ目の「問題の根本原因発見」は、ロジカルシンキング(論理的な思考)の実践が足りないからです。

対策を考えるべきポイントが漠然としていると、アイデアも漠然としか出て来ず、その数も少なくなる

のです。たとえば、「大きな自動車は出力が大きいが、燃費が悪い」という問題を考えてみましょう。

この矛盾からTRIZトゥリーズ

に持ち込むことは可能ですが、「大きい自動車」と「燃費が悪い」の間には、まだ論理

的な距離が遠そうです。したがって、「大きい自動車」のどこについて解決策を考えるかが曖昧になりま

す。「大きい自動車」がなぜ「燃費が悪くなるのか」の根本原因、たとえば「ピストンリングとシリンダー

の摩擦が大きいから」を掴むと、考える対象が明確になり、より的確なアイデアを出すことができるの

です。つまり、問題を起こしている本質的な要因を明確にすることで、そこに存在する矛盾を的確に定

義することがTRIZトゥリーズ

を効果的に使うための第 1のポイントといえます。

2 つ目は「TRIZトゥリーズ

がアイデアを出すという誤解」です。TRIZトゥリーズ

は、条件を入力していくとその論理的な答え

が得られるものではありません。「先人達はこの考え方で優れた解決策を出したようだよ」と方向を指し

示してくれるのです。そもそも、クリエイティブな問題解決において論理的な正解など存在するはずが

ないのです。

最終的解決策は「実現可能性」に根ざした「Emotional(=感情的)」なものだと思います。つまり「解答」は

自分で決めるものなのです。TRIZトゥリーズ

は、その判断に耐えうるような解決策を、心理的惰性を排除して数多

く出すことに大きな貢献をします。

図14 優れたアイデアの出し方

TRIZトゥリーズ

による問題解決の流れを整理します。

【ステップ 1:問題の本質化】

問題(今、困っていて解決したいと考えていること) を起こしている根本原因を掴むためにロジカルに

攻める。

【ステップ 2:TRIZ によるアイデア出し】

そして、解決すべき要因が見つかったらその部分に対して徹底的にアイデアを出す。

【ステップ 3:アイデアの有効化】

出たアイデアの選択と結合によって問題解決のコンセプトを作り上げるこの「収束⇒発散⇒収束」のプ

ロセスこそが、優れたアイデアを生み出すための基本だと考えています。

図 15 TRIZ による問題解決のフロー

2.TRIZ の思考プロセスで「ユニットバス」を改善してみよう

では、「ユニットバス」の問題を事例に、TRIZトゥリーズ

による問題解決思考プロセスを説明いたします。幾つか

のポイントでは質問形式にしております。「正解」などはありませんから、皆さんも一緒にアイデアを考

えてみましょう。

ステップ 1.問題の本質化

1-1 問題定義:

現在困っていて、解決したいことを決めます。つまり、テーマの目的を明確にするわけです。

ここでは、「何を解決したいのか」をできるだけ具体的に記述するべきです。

・問題(困っていること):浴室の鏡が曇ってしまう。

1-2 機能-属性分析

次に、浴室の鏡が曇ってしまうという現象を、それぞれの要素(この場合は部品レベル)での

機能連鎖としてモデル化します。モデル化するツールは、エクセルでもパワーポイントでもポ

ストイットを使った作業でもなんでもいいです。機能モデル作成の目的は、システム全体に存

在する有用作用と有害作用を一覧し、問題発生に寄与する要素(要因)を特定することです。し

たがって、『「S(主語)」が「O(目的語)」を「V(述語=動詞)」する』、というように、要素間の働きか

け(影響)を明確に表現することがコツです。

鏡 →反射する→ 光

水滴 →付く→ 鏡

図16「バスタブの鏡周辺の機能モデル例」

1-3 原因-結果分析

続いて、「浴室の鏡がなぜ曇るのか」を、論理的に技術的な因果関係を解きほぐしながら原因

を探っていきます。たとえば、「鏡が曇るのは、鏡の表面に水滴がつくから」→「鏡の表面に水

滴がつくのは、鏡の表面が結露するから」→「鏡の表面が結露するのは、・・・」という感じです。

要は、困った結果を起こしている原因を探っていければよいわけです。

やり方としては、たとえば、付箋紙に要因を記入しながら壁に張り出してもいいでしょう。

作成時に留意することは、「どうしようもない理由」を展開しないことです。たとえば、先の例

で原因の一つとして「お風呂場でお湯を流すから」とあります。これを更に要因展開しようとし

て、「お湯を流すのは、汗をかいたから」→「汗をかいたのは、テニスをしたから」などと展開し

てはどうしようもないわけです。当初の問題「浴室の鏡がなぜ曇るのか。」に対して、「汗をかこ

う」が「テニスをしよう」が関係ないわけですから。また、因果関係の途中を飛ばさずに丹念に追

うこと、その因果関係が正しいかどうかの確認を随時行うことが大切です。

図 17 原因分析ツリー

鏡に自分の姿が写らない└ なぜ? 光が鏡から真直ぐに返ってこないから

└ なぜ? 水滴で乱反射が発生するから├ なぜ? 鏡がくもっているから│ └ なぜ? 鏡(の表面)に水滴が付くから│ ├ なぜ? 湯気が結露するから│ │ ├ なぜ? 湯気が鏡に冷やされるから│ │ │ ├ なぜ? 鏡の温度が低いから│ │ │ └ なぜ? 湯気が鏡に触れるから│ │ ││ │ └ なぜ? 湿度が高いから│ │ ├ なぜ? 風呂場から湯気が発生するから│ │ │ ├ なぜ? 湯の温度が高いから│ │ │ └ なぜ? 湯を風呂場で流すから│ │ └ なぜ? 洗い場が密閉されているから│ ││ └ なぜ? 鏡が水分を吸収しないから│ └ なぜ? 鏡の分子結合が強く隙間が無いから│└ なぜ? 水滴が丸いから

├ なぜ? 水滴は表面張力を持っているから└ なぜ? 鏡の表面はつるつるだから

1-4 根本原因の選定

2 つの分析を経て、改善を行うべき箇所が特定できます。それが根本原因なのです。根本原

因とは、「自責の範囲で対策を打つべき最も本質的な要因」と定義できます。

それらは、原因-結果分析では最も上流(原因側)にあり、機能-属性分析では有害作用の出発

点に当るはずです。つまり根本原因とは、対策アイデアを考えるべきポイントを明確にするこ

とに他ならないのです。

たとえば、「鏡の曇り止め」問題では、以下の3つの根本原因を選定しました。

①鏡の表面の温度が低いから

②湯気が鏡に触れるから

③お湯の温度が高いから

この3つについて解決策を考えれば、「曇らない鏡」が実現できるはずです。

ステップ 2 TRIZ によるアイデア発想

TRIZ の基本構成をもう一度確認します。

①矛盾の克服

②技術システムの進化の流れ(トレンド)の活用

③異分野の知識の活用

ここではこの3つのツールを使ってアイデアを考えてみましょう。

① 矛盾の克服

根本原因(=アイデアを出すべきポイント)が明確になれば、次はそこに存在する「矛盾」を定

義します。たとえば、「根本原因①:鏡の温度が低いから」について、そこに存在する「矛盾」

を考えてみましょう。

現象として鏡の温度が低いから鏡に水滴が付くことは明らかです。では、鏡を暖めてみたら

どうでしょう。たとえば、電熱シートを鏡の裏に仕組んだ鏡が一般的に存在しますね。曇りを

取るために電熱シートで鏡を暖めると、電熱シートへの消費電力が発生します。特に鏡に付い

た曇りをできるだけ早く取り去りたい場合は大電流が必要になりますから、さらに消費電力が

大きくなりそうです。

逆に、消費電力を抑えるために通電量を小さくして鏡を暖めないと鏡の水滴は取れませんね。

これで「矛盾」が定義できました。

矛盾 1:鏡についた水滴を取るために鏡を電気で暖めると、消費電力が大きくなる。 矛盾 2:消費電力を抑えるために鏡への通電を減らす(冷やす)と、水滴が取れない。

「矛盾」が定義できれば、そこから解決へつながるアイデアを効率よく出すことができます。

矛盾 1において改善する特性は、「鏡を電気で暖めて、鏡についた水滴を取る」です。これが「39

の特性パラメータ」の中のどれにマッチするかを考えなければなりません。この場合は、「暖め

る=温度」と「水滴を取る=物質の量」の 2つが当てはまりそうです。それに伴って悪化する特性は、

「消費電力が大きくなる」ですから、「静止物体のエネルギー消費」、もしくは「エネルギー損失」

があてはまりそうです。

これらのパラメータを「矛盾解決マトリックス」に当てはめると、その交点からは、高速実

行原理、パラメータ変更原理、「災い転じて福となす」の原理などが得られます。

図18 鏡の曇り止め対策の発明原理

これらの説明を見ながら、アナロジーを働かせてひらめいたこと(着想)を出していきます。たと

えば、高速実行原理では、「速やかに鏡を暖めて水滴を除去した後にスイッチを切る」といったアイ

デアが出そうです。災い転じて福となすの原理からは、「鏡に付着した水滴をうまく有効活用できな

いかと考えると、親水性の皮膜をつけておくことで自分を映すことができそうだ」と思い至ります。

皆さんはこの発明原理に従って、どのようなアイデアを生み出しますか。正解はありません。自

由奔放にアイデアを出してください。

② 技術システムの進化の流れ(トレンド)の活用

続いて、技術システムの進化のトレンドを活用してアイデアを出してみましょう。

具体的には 76 の発明標準解を使うことになります。

このアイデア出しはとてもシンプルです。ここでは、「湯気が鏡に触れない」ような対策を 76 の発

明標準解の提案に沿って一通り考えてみました。

1:物質-場モデルの構築と破壊、

説明:新しい物質の導入(内部に、外部に、周辺に…)など

例えば、鏡の表面に撥水性の皮膜をつける、ワイパーをつける、など。

2:物質-場モデルの強化

説明:制御された場の適用、毛細/多孔質の適用、リズム調和など

例えば、鏡に超音波振動を与える、など。

3:スーパーシステム、ミクロレベルへの移行

説明:バイ(2 重)ポリ(多重)システムへ、ミクロに細分化など

例えば、鏡の表面のガラスを 2重にしてみる、など

4:検出、測定問題への標準解

今回は測定問題ではないのでパス。

5:ヘルパー(1~4 で解決できなかった場合)

説明:改良物質や空隙の導入、位相転移など

例えば、鏡を液体で構成する、など。

と、順番に考えていきます。各ステップに沿って考えると主機能の強化と有害作用の除去の 2

つの効果を徐々に高めていくことになります。

③ 異分野の知識の活用

最後は、異分野の知識を活用して、問題解決策を考えてみます。ここでは、これまでの自分達

が経験してきた知識以外で問題解決が出来ないかを考えるわけです。

つまり、「電熱線以外で鏡を暖める方法は無いか?」という思考です。化学反応を利用する、磁

気を利用する方法などを具体的に考えていきます。

以上のようにして、TRIZトゥリーズ

の様々なツールを活用し、心理的惰性を排除しながら、あらゆる可能性を

考えていくことが大切なのです。技術者が解決策を考えるときにはどうしても、現実的な制約(たと

えばコストがその代表)を自分でかけてしまいます。

しかし、アイデアを生み出すときにはその制約は極力外すべきなのです。なぜなら、制約の先にあ

るかもしれない可能性の芽を摘むことになるからです。我々は、この段階で 300 件以上のアイデアを

出すことを要求しています。要は、「もう、考えるネタがないまで考えた」という事実が必要なのです。

考えるネタがなくなった先に、本当のひらめきがあるのです。アイデアに関していえば量こそが質を

生む源泉という事をもう一度肝に銘じてください。

図 19 TRIZのアイデア出しツールの関係

ステップ 3 アイデアの有効化

こうして出たのアイデアをどうするかという、新たな 問題が発生しました。ここではコンセプト同

士の結合を考えるプロセスを繰り返すという方法を説明します。

基本的な進め方とそのイメージは、以下です。

<アイデアの有効化の手順> ① すべてのアイデアをサブシステムへ分類する。(図20) ② サブシステム毎に結合のコアアイデアを決める。

(図21) ③ コアアイデアとその他のアイデアとの関連性を検討しながら、究極のアイデア結合

(コンセプト)を作成する。 (図22) ④ 別の組合せが作成できるコア・アイデアを探し、それとの結合ができないかの検討

を続ける。 ⑤ サブシステム毎に上記②から④を繰り返し、問題解決へつなげられそうな様々な

「結合の絵」をそろえる。 ⑥ メインシステムで達成すべき指標と目標値を定義する。 ⑦ それらの目標値を実現できそうな最終組合せをサブシステム毎のオプションと照

らし合わせて決定する。 (図23)

技術システム進化の流れを活用して問題を解決する発明標準解

Ex:湯気が鏡に触れないようにするには?

技術システム進化の流れを活用して問題を解決する発明標準解

Ex:湯気が鏡に触れないようにするには?

矛盾を克服する発明原理Ex:鏡が曇らないために電熱線を使うと消費

電力が大きくなる。

矛盾を克服する発明原理Ex:鏡が曇らないために電熱線を使うと消費

電力が大きくなる。

異分野の知識の活用Ex:電熱線以外で曇りを取る方法は?

異分野の知識の活用Ex:電熱線以外で曇りを取る方法は?

問題定義Ex:鏡が曇って困る

問題定義Ex:鏡が曇って困る

矛盾矛盾新しい効果

新しい効果

不足/有害作用不足/有害作用

図20 サブシステム毎にアイデアを分類

図21 サブシステム内でのコアアイデア選定

図22 コンセプトの生成

図23 メインシステムでのコンセプトの生成

アイデアの有効化の目的は、すべてのアイデアを使って最強のコンセプトを作り上げる

上記のプロセスのうち、①から⑤はまだ最終解決策へどうつながるかがはっきり見えてない状態です。

はっきり不安な状態ですが、自分達が生み出したアイデアを更に創造的に「加工」していくことで、今ま

で見えていなかったものが浮かんでくることがよくあります。

それらを見つけ出すことが、このステップの狙いなのです。TRIZトゥリーズ

で出したアイデアを、解決策へつな

がる(つなげる) コンセプトへ作り上げるプロセスこそが、実はTRIZトゥリーズ

をうまく使いこなすコツになるの

です。

TRIZ によって提案される様々な視点から出した多数のアイデアを元に、今困っている問題を解決する

コンセプトだけを見つけ出すのは、少しもったいないように思います。多数のアイデアの中には、きっ

と競合他社が気づいていないコンセプトが埋もれている可能性があります。最終的には中長期的な開発

ロードマップを作成しましょう。顧客ニーズからの中長期の商品目標設定し、それをクリアできそうな

商品コンセプトを複数持っておくことこそが、まさに戦略的な商品戦略です。

以上、TRIZトゥリーズ

による問題解決プロセスを紹介しました。これらの方法は、すでに多くの企業で成果を上

げており、その効果は実証済です。

自分達が本当に困っている問題について、根本原因に論理的に迫り、TRIZトゥリーズ

でアイデア発散したあと、

冷静にコンセプト化を考えることが大切なのです。

■ コラム ブレーンストーミングについて

“アイデアを出す”ということについて、ここで少し補足をしておきます。通常はこういった問題

解決は、個人でやるよりもグループで取り組む場合が多いでしょう。そうするといわゆる“ブレイン

ストーミング”を行う事になるわけです。では、皆さん方もやったことがあるブレインストーミング

とは、本当にブレインストーミングでしょう。言うまでもなくブレインストーミングとは、「脳を嵐の

ような状態にする」事で、アイデアの連鎖を呼び起こして数多くのアイデアを生み出す手法です。そこ

には厳格な(でも、単純な!) ルールがあるのです。

「批判厳禁」と「質より量」の 2つが重要なルールです。

これを遵守するだけでアイデア出しがとても前向きになります。批判厳禁とは「アイデア出し時には評

価をせずに先送りする」ということです。批判をすべて放棄するわけではないのですから安心ですね。

また、質より量は「量が質を生む」と理解してください。弁証法での量質転化です。エジソンでさえも白

熱灯に日本の竹を見つけるまでに多くの試行錯誤をしています。われわれが、少し考えただけですばら

しいアイデアが出せるなんておこがましいと思いませんか。

アイデアを出すときには、他人の目を気にせずに自由に思い付きを出しましょう。そして、他人が出

したアイデアからさらに連想していくことが大切です。われわれがクライアント先で実施するアイデア

だしでは、300 件以上のアイデアを考えていただいています。アイデアを批判することなく文字通り「く

だらない(と思えるような)アイデア」をひたすら考えてポストイットに表現することが、優れた解決ア

イデアに結びつくのです。

<BS(ブレインストーミング)の 4 つのルール> ・批判厳禁 ・質より量 ・自由奔放 ・便乗歓迎

■コラム

非技術分野へのTRIZトゥリーズ

の適用

この『実務シリーズ』を読まれている方の中には、ソフトウエア技術や経営/マネジメント層の方々も

大勢いることでしょうから、それらについてのTRIZトゥリーズ

の適用はいったいどうなのか。という疑問について

お答えします。

ソフトウエアやマネジメント分野へのTRIZトゥリーズ

の活用はまだまだ緒についた段階です。ただ、しTRIZトゥリーズ

問題解決の提案は、技術分野に特定されるべきものではありません。なぜなら、そもそも人間の問題解

決の思考パターンはそれほど恣意的には働くものではなく、技術分野だろうと非技術分野だろうとパタ

ーン化した問題解決のエッセンスは似てくるのではないかと考えるからです。

たとえば、ソフトウエアでの問題として、「文字認識の精度向上のためにサンプリング方向をランダマ

イズする」ような考え方は「局所性質原理」もしくは「非対称原理」を利用したといえるのではないでしょ

うか。

ほかにも、新しい進化のトレンドには「人間の関与の減少」や「顧客購入の観点」など、マーケティング

的な視点も取り込まれてきました。

たとえば、開発品質(スペック)をよくしようとすると開発コストが上がりそうな場合などは、分離原

理で「コストが上がる部分を削除できないか。」や、非対称原理で「均一な予算では無くてメリハリのあ

る予算にできないか。」というふうに利用できそうです。

おわりに

最後まで、お読みいただいてありがとうございます。

TRIZトゥリーズ

が日本に紹介されて早 9 年になろうとしていますが、いまだに技術系の企業でしか知られていな

いアイデア発想法です。本書は、そのような現状を打ち破りたく、できるだけ平易な言葉でTRIZトゥリーズ

につい

て説明したつもりです。

TRIZ とは、問題解決アイデアを得るための方法論です。ただ、あまりにも手法(例えば、「発明原理」

や「発明標準解」)のイメージが強いため、やり方を知っていれば「あっ」と驚くアイデアが出てくるの

だという誤解をもたれてしまいます。

TRIZトゥリーズ

は問題を解決するための「思考プロセス」であり、決して「魔法のランプ」や「打ち出の小槌」では

ありません。しかし、効率的に優れたアイデアを生み出すためのツールだとは言えます。

第 1章で書いた通り、TRIZ は、企業のイノベーションを加速します。

なぜ、そういえるのか。

それは、TRIZトゥリーズ

が過去に実現したイノベーションの思考プロセスを借用して問題解決を図るからです。

「温故知新」

TRIZトゥリーズ

を端的に表現している言葉です。

先人達の知恵のエッセンス(本質)を借用し、それと自らが経験して得た知識とを結合する事が、我々

のイノベーションのスピードを上げるのです。

この本を読まれた皆さん方が、このことを理解して、TRIZ による思考プロセスをご自分の仕事のプロ

セスの改善に適用され、これまで以上の成果をあげられたら、私にとって望外の喜びです。

桑原正浩

■TRIZ 関連図書

・ 超発明術「TRIZ」シリーズ:Vol.1~6 日経 BP 社

・ 『技術者のための問題解決手法 TRIZ』 井坂義治著、養賢堂

・ 『TRIZ 実践と効用 体系的技術革新』 Darrell Mann 著、中川徹監訳、知識創造研究グループ訳、

(株)創造開発イニシアチブ

http://www.idea-triz.com :「株式会社アイデア」のホームページ

http://kuwatriz.exblog.jp/ :ブログ「TRIZコンサルの「発明的」日常閑話」

■著者略歴 1962 年生まれ。鹿児島大学工学部卒業。自動車部品メーカー、制御機器メーカーで研究開発や商品

開発に勤務後、技術問題解決コンサルタントとして独立。現在、(株)アイデアで TRIZ コンサルタント

として、国内大手企業の技術開発テーマの創造的問題解決のコンサルティングに活躍中。国内随一の実

務型 TRIZ コンサルタントとしての経験を有する。指導先から「わかり易く丁寧な指導」との評判が高い。

「TRIZ で日本の製造業を元気にする。」が合言葉。