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1 船舶における地上デジタルテレビ放送の受信方法の研究 家庭用受信機によるハイビジョン放送の受信 ∗∗ ∗∗ ・安 ∗∗∗ A Study of the Reception System of Digital Terrestrial Broadcasting Onboard. Osamu SUZUKI, Michio ISHIKAWA, Ryoich TAKAHASHI and Akio YASUDA Abstract The Japanese digital terrestrial broadcasting (Integrated Services Digital Broadcasting for Terrestrial, ISDB-T) will cover Japanese coastal areas until July 2011. Many types of ISDB-T receivers are come onto the market. However the reception condition on the sea area hitherto has been rarely reported. This paper describes the result of observing the reception condition of digital TV onboard. The data was acquired on the voyage of the training ship Taisei-Maru (Length 125m, 5887 gross tonnage). The reception condition was measured with an electric filed tester. The reception level was almost more than 45 dBµV inside of the ISDB-T service area with the omni-directional TV antenna for ship. The observed electric field strength level depends on the distance from a TV station. The reception condition decreased clearly when the distance exceeds 85km that is the nominal service area of TV stations because of outside of radio wave horizon. Keywords: ISDB-TElectric field strength, Onboard reception, Omnidiretional antenna,TV キーワード : デジタル アンテナ、テレ 1 まえがき テレ 態が安 にあるが ニュース まった られる かせ っている。 し、マル チパスによる きる した (1)(2) デジタルテレ うちハイ ジョン (以 、デジタル 2003 12 から された。ハイ ジョン 他、データ を対 した1セグメント (以 、ワンセグ)が されている。これま ころ、 する く、 テレ ジョ (以 、アナログ 2011 する 、それま アナログ にデジタル きるこ を確 がある。 1.1 研究の目的 アンテナ( )を し、 されている (3) みる。 「大 」( トン 5887 トン、 125m覚による 態を する。これら より におけるデジ タル する。 (〒517-8501 1-1[email protected] ∗∗ ∗∗∗ 大学

A Study of the Reception System of Digital …ISDB-T) will cover Japanese coastal areas until July 2011. Many types of ISDB-T receivers are come onto the market. However the reception

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船舶における地上デジタルテレビ放送の受信方法の研究家庭用受信機によるハイビジョン放送の受信

    鈴木 治∗ ・石川道夫∗∗・高橋亮一 ∗∗・安田明生∗∗∗

A Study of the Reception System of Digital Terrestrial

Broadcasting Onboard.

Osamu SUZUKI, Michio ISHIKAWA, Ryoich TAKAHASHI and Akio YASUDA

Abstract

The Japanese digital terrestrial broadcasting (Integrated Services Digital Broadcasting for Terrestrial,ISDB-T) will cover Japanese coastal areas until July 2011. Many types of ISDB-T receivers are comeonto the market. However the reception condition on the sea area hitherto has been rarely reported.This paper describes the result of observing the reception condition of digital TV onboard. The datawas acquired on the voyage of the training ship Taisei-Maru (Length 125m, 5887 gross tonnage).

The reception condition was measured with an electric filed tester. The reception level was almostmore than 45 dBµV inside of the ISDB-T service area with the omni-directional TV antenna for ship.The observed electric field strength level depends on the distance from a TV station. The receptioncondition decreased clearly when the distance exceeds 85km that is the nominal service area of TVstations because of outside of radio wave horizon.Keywords: ISDB-T、Electric field strength, Onboard reception, Omnidiretional antenna,TV

キーワード : 地上デジタル放送、電界強度、洋上受信、無指向性アンテナ、テレビ

1 まえがき

船舶でのテレビ放送の利用は、陸上と比べ受信状

態が安定しないなど劣悪な状況にあるが地上波の

ニュースや気象情報は局地的な情報を毎日決まった

時間に得られるので船舶運航には欠かせないものと

なっている。

車両や列車などの移動体での利用を想定し、マル

チパスによる受信障害を軽減できる方式を採用した(1)(2) 地上デジタルテレビ放送のうちハイビジョン

放送(以下、デジタル放送)は、2003年 12月から放送が開始された。ハイビジョン放送の他、データ

放送や携帯端末での受信を対象とした1セグメント

放送(以下、ワンセグ)が放送されている。これま

でのところ、電界強度が弱い場所で長時間視聴する

例や、船舶での受信報告は少なく、標準テレビジョ

ン放送(以下、アナログ放送)は 2011年には放送を終了するので、それまでに海上でアナログ放送と

同等以上にデジタル放送が受信できることを確認す

る必要がある。

1.1 研究の目的

本研究は、家庭用の受信装置とアンテナ(高利得、

船舶用無指向性、試作無指向性)を船舶に搭載し、

一般家庭で受信が可能とされている範囲の内外 (3)

での受信を試みる。実験は、独立行政法人航海訓練

所の所属練習船「大成丸」(総トン数 5887トン、全長 125m)船上で、電界強度計と視覚による受信状態を記録する。これらの結果より船舶におけるデジ

タル放送の受信方法を調査し検証する。

∗正会員 鳥羽商船高等専門学校商船学科 (〒517-8501三重県鳥羽市池上町 1-1) [email protected]∗∗非会員 航海訓練所

∗∗∗正会員 東京海洋大学海洋工学部

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2 船舶でのテレビ放送受信の現状

船員は沖合を航行中にテレビを視聴することが多

い。この場合、送信局から離れており、電界強度は

放送区域*で定められたレベル以下での視聴となる

ので、アナログ放送の場合はスノーノイズと色が時

折、白黒になるような画面と音声が断続する主観的

画像評価 2程度の状態ではあるが、船員はテレビ放送の視聴を続けている。このことからデジタル放送

でもできるだけ離れた場所で受信できる方策を考え

ておくことは船舶にとっては必要である。

2.1 船舶用テレビアンテナ

船舶では、Fig.1に示す(a)無指向性アンテナ、(b)指向性アンテナを 3 本組合せたアンテナ(スタックアンテナ)を船の状況に応じて選択し設置し

ている。

無指向性アンテナは多くの船舶で利用されてお

り、FM ラジオおよびテレビ(VHF、UHF)用に3つのターンスタイルアンテナを応用したエレメントが組み合わされた製品が多い。スタックアンテナ

は VHF と UHF の八木・宇田アンテナ(3 素子程度)を 120度間隔で組み合せ、受信状態に応じて視聴者が適宜、アンテナを切り替えて受信する。受信

利得は 1~6dB(VHF~UHF)で、指向性は周波数が高いほど鋭くなる。このほか岸壁係留中の受信を

目的にした、(c)指向性アンテナをローテータで手動制御するものや、航行中は視聴せず係留場所だけ

で受信する船は、指向性アンテナの方向を係留場所

で受信できるように固定したものもある。受信した

電波は共同受信装置を経て、各船室に設置された家

庭用テレビ受像器まで送られている (4)。船舶用の

アンテナは高所に設置されるため、アンテナから船

内に設置された分配器等の共聴装置までの距離が長

くなっているので実効輻射電力の大きい局が多い

VHF帯では問題にならなかったが、デジタル放送が行われる UHF帯(13~32ch)ではケーブル、分配器で VHF帯以上に減衰し船内各所では充分な受信強度を得られないことも考えられる。

2.2 デジタル放送の受信可能範囲の試算

デジタル放送の受信可能範囲は一般家庭の受信環

境 (5) においてアナログ放送と同等となるように送

信局の配置や出力が調整・整備される。デジタル放

* 総務省令:放送局開設の根本基準 2条

(a) (b) (c)

Fig.1 TV antenna for vessel.

送は UHF帯を使用するので、これまでの VHF帯に比べると一般家庭では小型でかつ高利得のアンテ

ナを利用しやすくなることから、多くのデジタル放

送の実効輻射出力は VHFよりも小さい。しかし、広く使用されている船舶用無指向性テレ

ビアンテナは八木・宇田アンテナに比べて受信利得

が低く、また全ての船舶が高利得のアンテナと自動

追尾機構を使用できる環境にはない。そこで、遠距

離からのデジタル放送の受信の可能性について受信

電界強度により検討する。

Fig.2は、東京タワー(東京都港区)から放送されている NHK総合のアナログ放送とデジタル放送(2011 年予定の最終的な出力)の(1)式に示す電波の見通し距離内の電界強度 (6) を受信点の高さを

実験で利用する大成丸の最も高い 27m として求めたものである。実効輻射電力は、総務省で開示され

ている最も高い値** を用いた。

E =88πhshr

√ERP

λd2(1)

E:電界強度(V/m)、hs:送信アンテナ高(m)、hr:受信アンテナ高(m)、ERP :実効輻射電力(W)、λ

:波長(m)、d: 送受間距離(m)である。東京地区の場合は、アナログとデジタル放送とも

同じ場所から放送されているが、デジタル放送は送

信アンテナ高がアナログより低いため、電波の見通

し距離が 10km短くなる。一方、電界強度は波長に反比例し、80km地点でのデジタル放送の電界強度はアナログより 5dBµV/m強くなっている。この電界強度から受信機入力レベルを求める。デ

ジタル放送の受信機入力レベルは、VHF 帯のアナログ放送より受信アンテナの実効長が短いため、ア

** 無線局情報検索,http://www.tele.soumu.go.jp/j/musen/

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0 100

100

150

557MHz, ERP 48kW

91MHz, ERP 250kW

Reception ant height 27m

NHK digital

NHK analog

Transmisson ANT height Analog 340mDigital 265m

Radio wavehorizon

Ele

ctri

c fi

eld

Distance from a station (km)

stre

ngth

(dB

μV

/m)

Fig.2 Digital and analog TV wave

theoretical propagation.

ナログ放送より 7dB 減少すること、ケーブルやコネクタでの損失が 2dB アナログ放送より大きいことから、80kmの地点での受信機入力レベルはVHFに比べると 4dB低くなる。このことから、船舶で利用されているアンテナの

ようにアナログ放送とデジタル放送のアンテナ利得

が同一の場合、アナログ放送では 80kmの地点で得られる受信機入力電圧はデジタル放送の場合 66kmである。このことは、受信機の受信最低レベルがデ

ジタル放送とアナログ放送受信機と同程度であれ

ば、デジタル放送の受信可能海域は狭くなることを

示す。この他、海上利用の不利な点として、中京地

区の瀬戸デジタルタワーでは、デジタル放送用の送

信場所がアナログ放送より海から離れており、陸上

部分に放射を絞ったビームの利用等がある。

3 船上での地上デジタル放送の受信

船舶での受信状況を把握するために、大成丸の東

京~神戸間の太平洋沿岸を走る訓練航海中にデジタ

ル放送の受信実験を行った。

使用したアンテナは、2.1節で述べた代表的なものである。Fig.3に示す大成丸の既設の船舶用無指向性アンテナ(日本アンテナ製 MRA-3A-1、内蔵増幅器動作利得 12dB、位置 A)と、実験用に設置した船舶用無指向性アンテナ(マルナカアンテナ

製 MA-11、内蔵増幅器動作利得 30dB、位置 B 近傍)、ローテータ装備の 2素子位相差給電アンテナ(DXアンテナ製 UV-2、受信利得 2dB、位置 B)および、ローテータ装備の 20素子の八木・宇田アンテナ(日本アンテナ製 AUS-20A、受信利得 9dB、位置 C)である。無指向性アンテナの内部には遠隔での ON-OFFが可能な FM, VHFおよび UHF放送帯域を増幅する機構が内蔵されている。本研究で

は内蔵増幅器を ONの状態で利用した。

ANT CA: Omni directionalB: 2 element phased �������������������� arrayC: 20 element Yagi

ANT B

ANT A

17m heightabove sea level

27m heightabove sea level

Fig.3 TV antenna height and location

on Training Ship Taisei Maru.

受信状況はアナログ放送用のテレビ(シャープ

製 LC-15S2)と、デジタル放送チューナ(ソニー製DST-TX1、松下製 TU-MHD500)および電界強度計(リーダ電子製 LF985)で記録した。電界強度計には RS232Cを介して PCを接続し、20秒間隔でMER(Modulation Error Ratio)とビタビおよびリードソロモン復号より求める誤り率(BER: BitError Rate、誤り訂正前の誤りビット数/単位時間あたりの送信ビット数)を記録できるようにした。

MERは 20dB以上、BERは 2−4 以下がデジタル

放送の受信可否の目安となる (7)。その他、ディファ

レンシャル GPS受信機(古野電気製 GP-36)からの位置情報と、送信局と船体およびアンテナとの位

置関係による受信状況の関係を評価するため、船首

の方向を真方位で示す GPSコンパス(古野電気製SC-110)の船首方位も記録した。

3.1 受信機の性能確認

アナログ放送用のテレビおよびデジタル放送チ

ューナで視聴できる最低の受信状況を、停泊中に充

分な強度が得られる場所で受像器を見ながら減衰器

(アンリツ製 MN63A)を挿入して調査した。視聴が継続できることを受信限界とし、アナログ放送は

主観的画像評価値 2とし、デジタル放送は動画がブロックノイズが発生の有無に関わらず継続して得ら

れる状態とする。測定した結果、受信機入力電圧レ

ベルは、アナログ放送が 27dBµV で、デジタル放送受信機の DST-TX1 は 41dBµV、TU-MHD500が 43dBµVであり、MERは双方 19dBであった。

3.2 港内での受信状況

Table 1 は、2005 年 1 月 8 日、東京タワーから2.5km離れた晴海埠頭(東京都中央区)に停泊中の大成丸で 27ch(NHK総合、実効輻射出力 1.15kW)のデジタル放送を実験用に設置したアンテナを用い

て受信した状況を電界強度計で 10分間計測(20秒間隔)したものである。各アンテナから電界強度計

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Table 1 Each ANT Reception condi-

tion for 10 min. in the Port of Tokyo.

Omni 2 ele 20 ele

Average 63.6 56.3 53.7

S.D. 1.4 0.8 0.5

Reception Max. 66.7 59.3 54.6

level Mid. 56.3 56.3 53.7

(dBµV) Min. 60.4 54.8 52.5

MER Average 24.9 18.8 26.9

(dB) S.D. 0.6 0.6 0.2Omni: Omnidirectional ANT for ship, 2ele: 2

element phased array ANT, 20ele: 20 element

Yagi-Uda ANT

までの配線の長さが異なるので受信レベルは各々の

受信利得とは比例関係にない。

全てのアンテナで必要な受信レベルを得られ、デ

ジタル放送が受信できることが分かった。受信状況

は、指向性が鋭くなると受信強度の偏差は小さくな

り、MER は良好になっている。また、2素子位相差給電アンテナの計測時には、タグボートが接近し

たため、受信強度が 5dB 変動し、同時に MER が悪くなった。このことから、変動は停止中でもアン

テナの種類によっては発生しており、近くの船の存

在にも受信状況は左右されるので、放送区域外など

の受信レベルの弱い海域での受信では、利得以外に

受信レベルの安定の面でも指向性のアンテナを利用

する必要がある。

Fig.4は、2005年 1月 8日、晴海埠頭に停泊している状態から、羽田空港沖まで東京港内(東京西航

路)を南下(移動速度 0~18km/h)している間のFig.3の位置 Bの無指向性アンテナの受信状況を示す。Fig.4 (a)は船首方位、Fig.4 (b)は、受信レベル、Fig.4 (c) は BER でエラー無しを 10−11 とし

て表現している。この時のアンテナの設置位置で

は、船首方位が 0°のとき、318~340°方向が前部マスト、187~198°方向が煙突、185°方向が後部マストで遮られる。このため、送信局とのアンテナ

の位置関係によっては、前部マスト、後部マスト、

煙突で電波の遮断や反射が発生し、受信状態が悪化

すると考えられるが、橋脚などの陸上建造物やマス

トなど船上構造物で電波が遮られる位置関係があっ

たが、BERが 10−4 以上となったのは 6回であり、常にMERは 20dB以上であった。このことは、東京港内航行中の船舶で無指向性アンテナを利用して

アナログ放送を受信し、その受信状態と相関が高い

0 5010–10

100

0

100

200

50607080

Rec

eptio

n

Leaved the berth

Dropped the anchor

Lev

el (

dBμ

V)

Ship

’sH

eadi

ng (

deg)

(a)

(b)

(c)

Navigation Time (min)

BE

R

Fig.4 Reception condition of the Om-

nidirectional ANT in the Port of Tokyo

(557MHz).

文字多重放送のパケット正受信率が 2 割であったこと (8) と比較すると、港内航行中のデジタル放送

は必要な電界強度を得られれば既存の船舶用の無指

向性アンテナでも鮮明な映像を連続して得られ、港

内の船舶にも有効であることが分かった。

3.3 方位別の受信状況

Fig.5 は、2005 年 1 月 8 日午後 8 時から翌日の午前 7時までの 11時間、羽田空港沖で錨を使って停泊しているときの Fig. 3の位置 Bの無指向性アンテナを利用した場合の 27chの受信状況を船首方位 1 度毎の方位別の受信状況を平均したものである。Fig.5 (a)は、受信強度、Fig.5 (b)は、MER、Fig.5 (c) は BER でエラー無しを 10−11 として表

現した。停泊している場所から東京タワーの方向

は、319 度、距離は 15km である。この間、風や潮の影響でゆっくりと船首方位は 360度変化した。受信強度とMERは変動があるものの、ほとんどの場合、受信可能な値を示している。船首方位 320~40度および、180~200度付近は BERが悪化しており、これはアンテナの設置位置が送信所の方向に

対して船上構造物の影や反射波による影響と考えら

れる。

4 沿岸航海での受信状況の変化

これまでの実験により既存の船舶用無指向性ア

ンテナで受信が可能なことがわかった。しかし、既

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5

0 100 200 30010–10

100

40

50

60

70

20

30

ME

R(d

B)

Lev

el (

dBμ

V)

Rec

eptio

n

(a)

(b)

(c)

Ship’s Heading (Deg)

BE

R

Fig.5 Use omnidirectional antenna

reception condition off the Haneda Air

port (557MHz).

存の船舶用無指向性アンテナは増幅器を内蔵しア

ンテナ自身の利得性能は非公開であるため、距離と

受信レベルの変化を測定し評価するには適してい

ないと考える。そこで、ターンスタイルアンテナを

試作(ダイポールアンテナ比 0dB)し、Fig.3の位置 C に設置した。そして、送信局から遠ざかる航海(浦安沖~大島北方経由~大阪港)で受信する場

合の受信レベルの変動について調査することとし

た。Fig.6は、2006年 1月 12日の 27ch(NHK総合、実効輻射出力 48kW)の試作したアンテナによる Fig.7の沿岸航行中の受信レベルを示したものである。送信側は指向性アンテナであり、受信側は伝

搬路が陸上・海上混在している。距離によるアンテ

ナで得られる受信レベル変動に対応するため、実

験開始時にはアンテナ直下に設置したブースター

(増幅器:マスプロ製 VUB33AG)を出力利得最小(20dB)にし、送信局から 71kmの時に受信レベルが受信機の限界を下回ったのでブースターを出力利

得最大 (30dB)に調整した。また、電波の見通し距離の 84km 点付近は BER、MER を測定のため欠測している。

浦安沖から中ノ瀬、浦賀水道、剣崎灯台沖とほぼ

海上伝搬路である 67km までの航行中は安定して画像が受信可能だったが、三浦半島越えの伝搬路に

なる相模湾での航行中は安定して受信できなくな

り、送信局からの 90kmではデジタル放送の全チャ

0 50 1000

100with a PreAMP

Distance from a TV station (km)

Rec

eptio

n le

vel(d

BuV

)

Fig.6 Use omnidirectional antenna

reception condition in Tokyo bay and

Suruga wan (557MHz).

Fig.7 A track of T.S. Taisei Maru (2006/Jan/12).

ンネルで受信ができなかった。家庭で利用される八

木アンテナに比べ低利得のターンスタイルアンテナ

では、受信レベルが低く、電波の見通し距離近くで

の受信は安定しなかった。

このことから、船舶での受信には、受信電界強度

に応じた自動出力利得調整型の増幅器が必要なこ

とと、遠距離での安定した受信を目的とする場合に

は、アンテナ自身の利得を上げる必要があることが

わかった。

5 同一受信系でのアナログ放送とデジタル放送の利用上の問題

船内にデジタル放送受信装置が普及するまでは、

アナログ放送とデジタル放送受信機の混在利用が続

く。この間は、受信状況の維持に以下に示す点で手

間がかかることが考えられる。例えば、強電界地域

で無指向性アンテナを使うと、反射波が多く安定し

た映像にならないため、小型の指向性アンテナで妨

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害波を除去し、減衰器を利用して不要波を減衰させ

アナログ放送を見られる状態している。この時、ア

ナログ放送用に大きく減衰させてしまうと、デジタ

ル放送の受信限界以下となってしまうことがある。

2004年 7 月、東京港晴海埠頭に停泊中の大成丸でアナログとデジタル放送の両方を同時に受信し共

同受信装置を用いた場合、船内各所でデジタル放送

とアナログ放送が視聴可能か確認した。受信に使用

したアンテナは Fig.3 の位置 B に設置した 2 素子位相差給電アンテナである。この時のデジタル放送

の出力はアナログ放送と比べて最大 28dB 低く、2素子位相差給電アンテナを使って船内各所へ FM~UHF帯までの放送電波を供給する共同受信装置にアナログ放送の受信のために 20dBの減衰器を使用していた。そのため、デジタル放送の復調に必要な

受信強度(41dBµV)を得られずデジタル放送は受信できなかった。

6 むすび

本研究では、将来、アナログ放送にかわるデジタ

ル放送を船舶で受信し、船舶でも家庭用の受信装置

と市販のアンテナでハイビジョン放送が受信可能で

あることを確認した。Table 2は実船実験で確認した各アンテナの使用範囲を示したものである。日本

のデジタル放送は、レベル変動や歪みに強い特徴が

あるので (9)、十分な電界強度を得て、船内に供給

すれば陸上と同じ画質を得られることがわかった。

しかし、VHF 帯と UHF 帯とが同じ利得の既存の無指向性アンテナを使用する場合、放送区域外の低

電界強度でも視聴を続けられるアナログ放送に比べ

ると、デジタル放送は受信可能範囲が狭くなること

がわかった。

現時点では、固定受信が前提の家庭用の受信機の

チャンネル設定や電界強度が低い場合の処理が船に

とっては不便なこと、また、アナログ放送終了時点

まではアナログ放送用に減衰器を用いて受信状況の

調整をする場合にはデジタル放送の受信限界以下の

受信レベルとなりデジタル放送が受信できなくなる

場合があり、こういった場合は、受信アンテナを別

にするなどの対応が必要であることが実船実験によ

り明らかになった。

謝辞

電界強度計からの電界強度等の自動取得への対応

につきまして、ソフトウエア製作に多大な労力を惜

Table 2 Each antenna and applied

fields for ISDB-T onboard reception.

Antenna Applied fileds

Omnidirectional General use

Low gain beam Experimental use

High gain beam Outside of service area use

しみなく提供して下さいました鶴田慎一郎氏に感謝

します。また、アンテナの性能について情報を頂き

ました各社の関係各位に御礼申し上げます。最後に

実船実験に際し、ご協力頂きました関係各位に感謝

致します。

参考文献

(1) 神島治美: “地上デジタル放送のすべて”, 電波新聞社、2003年

(2) 大塚吉道:“地上デジタル放送の概要”、映像情報メディア学会誌、Vol.58 No.1、 pp.19–22、2004年

(3) 例 え ば 、最 新 の 情 報 は ホ ー ム ペ ー ジで 周 知 さ れ て い る 。http://www.d-pa.org/area/chukyo.html

(4) 鈴木 治、安田明生:“船舶におけるテレビジョン文字多重放送の受信とその改善法”、映情学誌、vol.51、6、pp.903–909、1997年

(5) 武田穂積:“地上デジタル放送受信システムの基礎知識”、トランジスタ技術 3月号、CQ出版、pp.203–216、2004年

(6) 日本放送協会編: “NHK テレビ技術教科書(下)”、日本放送出版協会、pp.39–65、1989年

(7) リーダ電子: “LF985 取扱説明書”、pp.6-8–6–10、2004年

(8) 鈴木 治、安田明生:“文字放送を使った航海支援情報の伝送”、日本航海学会論文集、94 号、pp.161-167、1996年

(9) 伊藤泰宏:“地上デジタル放送技術”、信学誌、87、7、pp.583–588、2004年

質疑応答

河合雅司 (富山商船高等専門学校): 平成 18年 8月に地上デジタル放送の受信実験(無指向性アンテナ使用:八木アンテナ

製 DUCA)を行いましたが、12セグで送信タワーから 63km 付近まで、ワンセグは飯

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田湾 (送信タワーから 74km) まできれいに受信していました。ただし、マージン測定装

置で測定した所、富山新港の2本の煙突 (高さ約 200m) による反射波の影響で C/N 値が 15dB 程度まで低下し、12 セグについては、富山新港付近 (送信タワーから 8km 付近)で受信エラーを引きおこしました。ワンセグで初めて受信エラーが発生したのは送

信タワーから 71km付近でしたが、単発的であり、TV映像にはほとんど影響しませんでした。

鈴木 治 :

 実験データのお話ありがとうございます。

東京湾周辺と富山では送信・受信条件が異な

るので比較は難しいと思いますが、12 セグつまり、ハイビジョン放送に関しては概ね受

信電界強度が十分にあれば反射による受信中

断は短い時間であるので、アナログ放送にく

らべて有用な放送方法だと考えます。ワンセ

グに関してですが、まだ実験を行っていない

ので、実験データを参考にさせて頂きたいと

思います。