4
1 こべるにくす No.46,OCT.2016 実験室設置型2次元検出器搭載X線回折装置による in situ XRD評価 A 1 XRD 測定はBraggの法則 [1] にしたがって生じる結 晶からの回折をピークとして検出するため、試料に対す るX線の入射角度(ω)と散乱角度(2θ )を走査する。 走査する2θ範囲は5~100 °程度であり、角度分解能 0.01°程度は必要になる。角度分解能を得るためには、 検出器の前にスリットを配置して角度走査する方式が 長く主流であった。定量的な解析に必要な強度を得る ために、この0次元型の検出器による走査法では1測 定あたり30分~1時間ほど必要であった。 近年、半導体素子によりデジタル化された高感度か つ高分解能な2次元の X 線検出器が普及し、XRD 装 置に搭載されている(第1図)。この半導体型の2次元 検出器を利用することで、必要な角度分解能を維持し て、測定時間を大幅に短縮することができるようになっ た。2次元検出器は走査することなく、1測定あたり約1 秒で一定の散乱角度範囲のデータを取得できるため、 速い変化を連続的にとらえることができる。また、広い 散乱角度を測定する場合も、2次元検出器を走査する ことにより、数分で従来型装置の結果と同等なデータを 取得できる。高速かつ高い S/N の測定が可能になった ことで、強い X 線が利用できる放射光設備で行ってき たようなin situ 評価が、実験室設置型装置でも対応で きるようになってきている。 通常の XRD 測 定 は、大 気 中 で 測定可能である。 加えて、装置の試 料周りの空間に 各種チャンバーな どを設置できる自 由度もあることか ら、XRD は 試料 の結晶構造の変 化をその場観察 するin situ 評価 に適した分析手 法である。第1図に示す当社保有のin situ 評価が可 能な実験室設置型XRD装置の仕様および用途の例 を第1表に示す。 [1] Bragg の法則:2 sinθ=λ、d =結晶の面間隔(Å)、θ=散 乱角/2(rad.)、λ=X線波長(Å) . X線回折装置を用いた鉄鋼材料の in situ 評価 結晶構造を評価可能なX線回折( XRD)は1世紀前より使われてきた分 析手法である。結晶相の定性分析や半定量分析をはじめ、応用範囲は広 く多様な目的で使用される。したがって、卓上型装置から放射光を利用 した大型設備に至るまで、様々なXRD装置が開発されてきた。強力なX 線を利用できる放射光設備は、実験室設置型装置では困難な短時間の評 価が可能になる。放射光設備では、温度などの試料の環境を変化させな がらXRD測定して結晶構造変化を観察する“その場(in situ )”評価で活 用されることも多い。しかし、近年、高性能な検出器の普及により、実験 室設置型XRD装置でも従来放射光XRDで測定してきたような高速の in situ 分析が可能になってきている。本報告では実験室設置型のXRD装 置を用いた鉄鋼材料の in situ 評価について紹介する。 A 2次元検出器搭載X線回折装置 第1図 主要部位 仕様・構成 特 徴 回折計 ㈱リガク製 SmartLab 15年度導入のSmartLab 2号機 X線 発生部 出力9kWローター型 Cu:9kW、Co:5.4kW ターゲット:Cu、Co Cu:通常利用〜 Kα1光学対応可能、Co:鉄系材料に対応 光学系 集中法 Cu-Ka1化により、粉末の定性分析、定量分析の精度向上 平行法 通常 Cu-Ka1化により、分解能向上。薄膜材料など 透過集光 配向を低減した粉末の透過測定、粉末のリートベルト解析 微小 φ0.1〜1.0mm。配向・応力測定など 超小角・小角 長周期構造・微粒子の解析(数100nm 〜1nm)。鉄鋼〜液体 検出器 HyPix3000 (0, 1, 2次元) In situ 分析〜高速測定に対応。粗大粒や配向試料 試料 環境 高温 1100℃まで6分で昇温。N2 or 空気。In-plane 可能 引張 <2kN。各種金属の組織解析、高分子の配向解析 充放電 5V/5A、10μA 分解能、2次電池の充放電 加湿器 露点0℃〜90℃雰囲気 2次元検出器搭載X線回折装置仕様 第1表 X 線源 (Co, Cu) 2次元検出器 ・定点観測 ・角度走査 引張試験機 回折X線 入射X線 角度走査 検出器 角度走査 入射X線 技術本部  加古川事業所 技術室 (現 株式会社神戸製鋼所) なつめだ 田 浩 ひろかず 技術本部  材料ソリューション事業部 エレクトロニクス技術部 きたはら 原 周 あまね

A X線回折装置を用いた鉄鋼材料の in situ 評価こべるにくす No.46,OCT.2016 1 A—1 実験室設置型2次元検出器搭載X線回折装置によるin situ XRD評価

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Page 1: A X線回折装置を用いた鉄鋼材料の in situ 評価こべるにくす No.46,OCT.2016 1 A—1 実験室設置型2次元検出器搭載X線回折装置によるin situ XRD評価

1こべるにくす No.46,OCT.2016

実験室設置型2次元検出器搭載X線回折装置によるin situ XRD評価A—1 XRD測定はBraggの法則[1]にしたがって生じる結晶からの回折をピークとして検出するため、試料に対するX線の入射角度(ω)と散乱角度(2θ )を走査する。走査する2θ範囲は5~100°程度であり、角度分解能0.01°程度は必要になる。角度分解能を得るためには、検出器の前にスリットを配置して角度走査する方式が長く主流であった。定量的な解析に必要な強度を得るために、この0次元型の検出器による走査法では1測定あたり30分~1時間ほど必要であった。 近年、半導体素子によりデジタル化された高感度かつ高分解能な2次元のX線検出器が普及し、XRD装置に搭載されている(第1図)。この半導体型の2次元検出器を利用することで、必要な角度分解能を維持して、測定時間を大幅に短縮することができるようになった。2次元検出器は走査することなく、1測定あたり約1秒で一定の散乱角度範囲のデータを取得できるため、速い変化を連続的にとらえることができる。また、広い散乱角度を測定する場合も、2次元検出器を走査することにより、数分で従来型装置の結果と同等なデータを取得できる。高速かつ高いS/Nの測定が可能になったことで、強いX線が利用できる放射光設備で行ってきたようなin situ 評価が、実験室設置型装置でも対応できるようになってきている。 通常のXRD測定 は、大気中で測定可能である。加えて、装置の試料周りの空間に各種チャンバーなどを設置できる自由度もあることから、XRD は 試料の結晶構造の変化をその場観察するin situ 評価に適した分析手

法である。第1図に示す当社保有のin situ 評価が可能な実験室設置型XRD装置の仕様および用途の例を第1表に示す。

[1] Braggの法則:2dsinθ=λ、d=結晶の面間隔(Å)、θ=散乱角/2(rad.)、λ=X線波長(Å).

X線回折装置を用いた鉄鋼材料の in situ 評価 結晶構造を評価可能なX線回折(XRD)は1世紀前より使われてきた分析手法である。結晶相の定性分析や半定量分析をはじめ、応用範囲は広く多様な目的で使用される。したがって、卓上型装置から放射光を利用した大型設備に至るまで、様々なXRD装置が開発されてきた。強力なX線を利用できる放射光設備は、実験室設置型装置では困難な短時間の評価が可能になる。放射光設備では、温度などの試料の環境を変化させながらXRD測定して結晶構造変化を観察する“その場(in situ)”評価で活用されることも多い。しかし、近年、高性能な検出器の普及により、実験室設置型XRD装置でも従来放射光XRDで測定してきたような高速のin situ分析が可能になってきている。本報告では実験室設置型のXRD装置を用いた鉄鋼材料のin situ評価について紹介する。

A

2次元検出器搭載X線回折装置第1図

主要部位 仕様・構成 特 徴回折計 ㈱リガク製 SmartLab 15年度導入のSmartLab 2号機X線

発生部出力9kWローター型 Cu:9kW、Co:5.4kWターゲット:Cu、Co Cu:通常利用〜Kα1光学対応可能、Co:鉄系材料に対応

光学系

集中法 Cu-Ka1化により、粉末の定性分析、定量分析の精度向上

平行法

通常 Cu-Ka1化により、分解能向上。薄膜材料など透過集光 配向を低減した粉末の透過測定、粉末のリートベルト解析微小 φ0.1〜1.0mm。配向・応力測定など超小角・小角 長周期構造・微粒子の解析(数100nm〜1nm)。鉄鋼〜液体

検出器 HyPix3000 (0, 1, 2次元)In situ 分析〜高速測定に対応。粗大粒や配向試料

試料環境

高温 1100℃まで6分で昇温。N2 or空気。In-plane可能引張 <2kN。各種金属の組織解析、高分子の配向解析充放電 5V/5A、10μA分解能、2次電池の充放電加湿器 露点0℃〜90℃雰囲気

2次元検出器搭載X線回折装置仕様第1表

X線源 (Co, Cu)

2次元検出器 ・定点観測 ・角度走査

引張試験機

回折X線

入射X線角度走査

検出器角度走査

入射X線

技術本部 加古川事業所 技術室

(現 株式会社神戸製鋼所)

棗なつめだ

田 浩ひろかず

技術本部 材料ソリューション事業部エレクトロニクス技術部

北きたはら

原 周あまね

Page 2: A X線回折装置を用いた鉄鋼材料の in situ 評価こべるにくす No.46,OCT.2016 1 A—1 実験室設置型2次元検出器搭載X線回折装置によるin situ XRD評価

 加工中鋼の評価例として、試験片を引張試験しながらin situ XRD測定して残留γ量を評価した事例を紹介する。引張試験機によりひずみを付与した後の試験片をex situ XRD測定しても、XRD測定部位に期待通りのひずみが付与されているとは限らない。また、通常実験室設置型XRDでよく用いられるCuの特性X線では、鋼の評価深さは表面から数μm程度と浅くなる*3)。一方、Coの特性X線は、より深い20μm程度になるため、鋼材の平均的な評価に向いている。しかし、どちらの場合においても、鋼板の平均的な残留γ量や転位密度を評価するためには、鋼板の表面層を除去するなどの測定面の前処理が必要になる。室温において残留γ相は不安定であり、試験片を複数水準用意するex situ 分析では、前処理などの不確かな要因が測定結果に及ぼすばらつきも考慮しなければならない。

2 こべるにくす No.46,OCT.2016

引張in situ XRDA—3 引張in situ XRDの供試料としては次世代超高張力鋼板として研究開発が進められている中Mn鋼を用いた*4)*5)。0.2C-2Si-5Mn(%)鋼を熱間圧延した材料と熱間圧延後に冷間圧延(圧延率50%,70%)した材料の3試料を用いた。供試料の成分系においてα相とγ相の比率が1:1となる675℃で二相域焼鈍して残留γ量を調整した。第3図に二相域焼鈍時間に対する残留γ量の変化を示す。焼鈍材の残留γ量は、集合組織の影響を軽減して精度よく相分率が定量可能な放射光XRDにてex situ 測定を行った*6)。二相域焼鈍後に得られる残留γ量は、熱間圧延板、冷間圧延板ともに、焼鈍時間の増加にともなって増加する傾向であった。また、3分以上の焼鈍時間における残留γ量を比較すると、熱間圧延板が最低で、冷間圧延板は圧延率の増加にともない増加した。つまり、冷間圧延により、二相

高温高速 in situ XRDA—2 鉄鋼材料において重要な結晶相であるα相(フェライト、BCC)、γ相(オーステナイト、FCC)、また、α 相(マルテンサイト、正方晶BCT)はXRDによって評価できる。たとえば、炭素添加量によってマルテンサイトの結晶構造が変化することは1920年代より知られている*1)。現在もなお、残留γ量や固溶炭素量などを分析するためにXRDは欠かせない評価法の一つである。多くのXRD分析の報告は、熱処理後や加工後の材料を対象としてex situ 分析[2]したものである。鉄鋼の製造工程や製品の加工プロセスにおいて鋼の結晶相は変化するため、結晶構造の変化をその場で観察することができれば、製品開発に有益な情報が得られると期待される。 XRDによる鋼のin situ 分析例として、高温の高速測定例を紹介する。2次元検出器を固定して、昇温および930℃保持中に鋼板上に生成する酸化物の挙動を2秒ごとに測定した。室温から930℃まで15分間で昇温した後、930℃で10分保持している。各XRD測定結

果を測定順に並べた等高線を第2図(a)に示す。第2図(a)中の黄色い点線は昇温中826℃時点を示し、その等高線の断面を第2図(b)に示す。2次元検出器を用いることで、数カウントのピークもS/Nよく測定されていることがわかる。第2図より、鋼母材の相変態挙動のほかに、昇温中に酸化数が高い鉄酸化物から順番に生成する様子が観測されている。大気を封じた容器で実験しているため、900℃付近で雰囲気の酸素濃度は大気よりも低下する。そのため、鉄酸化物は低酸素濃度で安定な2価のFeOに変化した。FeOは室温では不安定な物質であるため、室温に下げた後に大気中でex situ 分析した場合、多くはFeとFe₃O₄に変化している*2)。FeOの生成挙動の観察は高温in situ 測定ならではの事例である。

[2] ex situ 分析: in situ 分析と対になる分析。“その場(in situ)”ではない、前処理済みや変化終了後の試料の分析を指す。

参 考 文 献

*1)G. Kurdumoff, et al.:Nature, Vol.122(1928),p.475*2)たとえば日本鉄鋼協会編 鉄鋼便覧のFe-Oの状態図*3)The Center For X-ray Opticsのウェブページのデータベース(http://henke.lbl.gov/optical_constants/)にて計算*4)棗田浩和ら:鉄と鋼,Vol.102(2016), p.51*5)棗田浩和ら:CAMP-ISIJ ,Vol.29(2016), p.274*6)E.Nishibori, et al.:Nucl. Instrum. Phys. Res., Vol.467-468(2001), p.1045

γ-F

e

鋼板上の酸化物生成挙動の高温 in situ XRD測定第2図

36 38 40 42 44 46 48 50 520

5

10

15

20

25

2θ (deg.)

Inte

nsity

(cou

nts)

(a) 散乱角2θ vs. 温度の2次元XRD結果 (b) 826℃におけるXRD測定結果

FeOの状態が変化

FeO FeO

Fe₃O₄Fe₃O₄

Fe₂O₃Fe₂O₃

2θ (°) 温度(℃)γ相 α相α相0 500 1000

826℃

Fe₃O

Fe₃O

α-F

e

Fe₂O

Fe₂O

Fe₂O

FeO

Page 3: A X線回折装置を用いた鉄鋼材料の in situ 評価こべるにくす No.46,OCT.2016 1 A—1 実験室設置型2次元検出器搭載X線回折装置によるin situ XRD評価

3こべるにくす No.46,OCT.2016

AX 線回折装置を用いた鉄鋼材料のin situ 評価

参 考 文 献

*7)V. F. Zackay, et al.: Trans. ASM, 60, (1967), p.252

焼鈍時間に対する残留γ量第3図

50%冷間圧延+30分焼鈍板の画像相関法による引張試験結果

第5図

引張in situ XRD用小型試験機第6図

焼鈍時間30分の各圧延板のFE-SEM/EBSD画像(Phase map)第4図

域焼鈍時のγ逆変態が促進していることが示唆される。 本材料は、引張強度と一様伸びの積(TS×U-El)が30,000MPa・%を超える優れた強度-伸びバランスを示す特徴がある。TS×U-Elが最大値を示す焼鈍時間は、熱間圧延が最も長く、冷間圧延率の増加により短時間側へ移行した*5)。3試料のTS×U-Elは30分焼鈍時間でほぼ同じ値になる。30分焼鈍した各試料のEBSDによるα相とγ相の組織観察結果を第4図に示す。各試料の残留γ相分率はXRDと同様に30%程度ある。熱間圧延板がラス状の組織であるのに対して、冷間圧延焼鈍板は丸みを帯びた超微細組織を呈している。 50%冷間圧延板の引張変形過程における局所的なひずみの伝播を観察するため、画像相関法を用いた引張変形中のひずみ分布の測定結果を第5図に示す。降伏変形中はひずみが引張試験片の端部から伝播し始め、試験片平行部に均一に伝播した後、均一変形(加工硬化)に移行する挙動が観測された。第5図(b)のような不均一なひずみ分布の影響を避けて、ひずみに対する残留γ相の挙動を評価するため、引張in situ XRD測定を行った。各圧延材でTS×U-Elが同等になる30分焼鈍したものを第6図(a)に示す形状に加工した。X線照射面(W0.5×L2mm)の裏面に貼付けたひずみゲージ(ゲージ長さ2mm)により、XRD測定部位のひずみ量を測定した。引張試験機はDEBEN社製のMTEST2000をXRD 装置に設置して、付与ひずみを制御してXRD測定を行った。熱間圧延材をin situ XRD測定した際の応力-ひずみ曲線を第6図(b)に示す。引張試験の速度は0.4mm/minで、約1%ごとに引張試験機を停止して、θ-2θ走査(Co線源、2θ=40~130°)によってXRD測定した。測定にかかる時間は1測定あたり約5分である。第6図(b)にJIS 14 B 号板状引張試験片による引張試験の結果をあわせて示す。In situ XRD測定の応力-ひずみ曲線はXRD測定ごとに引張試験機を停止するため応力の緩和がみられるが、おおよそJISの引張試験と同じ結果が得られている。 熱間圧延板と75%冷間圧延板の引張in situ XRD結果を第7図に示す。集合組織の影響の少ない熱間圧延板の回折強度に対して、冷間圧延板は特徴的な集合組織を示し、α211やγ220の強度が高い。各試料で、残留γ相のピークはひずみの増加にしたがって減少し、α′相へ変態*7)している結果が得られた。α211回折

(a) 平行部の応力-ひずみ線図

(a) 小型試験機用の形状

(b) 画像相関法による軸力方向のひずみコンター像

(b) 熱間圧延材の応力-ひずみ線図

0

0

0

10

5

20

10

30

15

40

20

1 10 100 10000

0

0

200

200

400

400

600

600

800

800

1000

1000

1200

1200

10Hot rolled50% cold rolled75% cold rolled

15202530354045

5

焼鈍時間 (min.)

平行部ひずみε(%)

ひずみ(%)

残留

γ量

( vo

l.%)

応力(

MPa

)応

力(M

Pa)

Hot rolled

Phase α相      γ相

50% Cold rolled 75% Cold rolled

圧延方向(RD)

横方向(TD)

① ②③ ④

①ε=0.59%

②ε=5.68%

③ε=17.25%

④ε=19.95%

ひずみ(%)

0.00

2.88

5.75

8.62

11.50

14.38

17.25

20.12

23.00

in situ XRD

JIS 引張試験

34mm

板厚 0.3mm

36m

m

平行部6mm

幅4mm

5μm

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A X 線回折装置を用いた鉄鋼材料のin situ 評価

4 こべるにくす No.46,OCT.2016

 In situ XRD分析では、事前に処理した試料のex situ分析では得られない結晶相の検出や、試料環境の変化に対するわずかな構造変化が測定可能である。したがって、各種材料開発には欠かせない情報が得られると期待できる。今後も実験室設置型XRD装置に

in situ分析可能な装置を取り入れて、結晶構造の分析・評価技術を高めたい。同時に、実験室設置型装置のみならず、量子ビームを活用する*10)提案もできれば幸いである。

はマルテンサイト変態にともなって、結晶系がBCCからBCTに変化するためピークの低角度側の強度が増加している。各試料のひずみに対する残留γ相の変態率

(残留γ量/初期残留γ量)を第8図にプロットする。ひずみ領域5%程度までの冷間圧延材は、熱間圧延材に比べて変態率が低い。また、冷間圧延材の2試料間を比較すると、圧延率が増加することで変態率が低下する傾向が得られた。これは、冷間圧延によって残留γ相が不安定化するためと考えられる。 Williamson-Hall法*8)を用いた回折ピーク幅の解析より求めた熱間圧延材の結晶子サイズと転位密度を第9図に示す。残留γ相は塑性変形によって微細化し、

参 考 文 献

*8)G.K. Williamson, et al.:Philos. Mag. 1, (1956), p.34*9)S. Sato, et al.: ISIJ International, Vol.53

(2013), p.673*10)稲葉雅之:こべるにくす,Vol.23(2014), p.13

その結晶子サイズは、ひずみが4%に至るまでに急に減少した後、10数nm程度に漸近する。また、γ相の転位密度は、ひずみ4%前後で増加から減少に転じている。結晶子サイズは電子顕微鏡で観察されるサブグレインやセル組織と直接結びつくものではないが、残留γ相の結晶サイズの減少にともなうサイズ効果がγ相の転位密度に影響している可能性が示唆されている。近年、鉄鋼材料のXRDの回折ピークのプロファイル解析による転位の詳細な解析が注目されている*9)。今後、引張in situ XRDのシステムを活用して鉄鋼材料に限らず、各種金属材料の転位性状の解析を進めたい。

各圧延材の残留γ相の変態率第8図 熱間圧延材の結晶子サイズおよび転位密度の解析結果第9図

引張 in situ XRD測定結果第7図

40

85 85

4060

90 9095 95

6080

100 100

80100

105 105

100120

110 110115 115

1200

0 0

0

50

20 20

50

100

40 40

100

150

60 60

150

200

80 80100 100120 120

200

250

140 140

250

300

160 160

300

350

180 180200 200

350

400

220 220

400

2θ(deg.)

2θ(deg.) 2θ(deg.)

2θ(deg.)

SQRT

Inte

nsity(

coun

ts)

γ11

1

γ11

1

γ20

0

γ20

0

γ22

0

γ220

γ22

0

γ31

1

γ311

γ31

1

γ22

2

α20

0 α20

0

α21

1α211

α21

1

α22

2

α11

0

α11

0

SQRT

Inte

nsity(

coun

ts)

SQRT

Inte

nsity(

coun

ts)

SQRT

Inte

nsity(

coun

ts)

(a) 熱間圧延材

(b) 熱間圧延材の拡大図

(c) 75%冷間圧延材

(d) 75%冷間圧延材の拡大図

ひず

み増

ひず

み増

ひずみ増

0 0 4 8 12 165 10 150.0 0

20

40

60

80

100

120

0.0E+00

5.0E+14

1.0E+15

1.5E+15

2.0E+15

2.5E+15

3.0E+15

3.5E+15

4.0E+15

4.5E+15

0.6

0.8

1.0

0.4

0.2

ひずみ(%) ひずみ(%)

変態

転位

密度(

m²)

結晶

子サ

イズ(

nm)

Hot rolled50% cold rolled75% cold rolled

転位密度(α+α’)転位密度(γ)結晶子サイズ(γ)

γ220

γ311

α211

ひず

み増

ひず

み増ひずみ増