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Instructions for use Title ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内視鏡治療後の異時性扁平上皮癌の発症リスクに関する 検討 Author(s) 安孫子, 怜史 Citation 北海道大学. 博士(医学) 甲第12977号 Issue Date 2018-03-22 DOI 10.14943/doctoral.k12977 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/70254 Type theses (doctoral) Note 配架番号:2356 File Information Satoshi_Abiko.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

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Instructions for use

Title ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内視鏡治療後の異時性扁平上皮癌の発症リスクに関する検討

Author(s) 安孫子, 怜史

Citation 北海道大学. 博士(医学) 甲第12977号

Issue Date 2018-03-22

DOI 10.14943/doctoral.k12977

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/70254

Type theses (doctoral)

Note 配架番号:2356

File Information Satoshi_Abiko.pdf

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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学 位 論 文

ADH1B / ALDH2 遺伝子型と飲酒習慣による

食道癌内視鏡治療後の異時性扁平上皮癌の

発症リスクに関する検討

(Evaluation of the risk of metachronous squamous cell

carcinoma after endoscopic resection for squamous cell

carcinoma of the esophagus based on genetic

polymorphisms of alcohol dehydrogenase-1B and

aldehyde dehydrogenase-2 along with drinking habits)

2018年 3月

北 海 道 大 学

安孫子 怜史

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学 位 論 文

ADH1B / ALDH2 遺伝子型と飲酒習慣による

食道癌内視鏡治療後の異時性扁平上皮癌の

発症リスクに関する検討

(Evaluation of the risk of metachronous squamous cell

carcinoma after endoscopic resection for squamous cell

carcinoma of the esophagus based on genetic

polymorphisms of alcohol dehydrogenase-1B and

aldehyde dehydrogenase-2 along with drinking habits)

2018年 3月

北 海 道 大 学

安孫子 怜史

Page 5: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

目 次

発表論文目録および学会発表目録・・・・・・・・・・・・・・・ 1頁

緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2頁

略語表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6頁

方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7頁

結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12頁

考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31頁

総括および結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34頁

謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35頁

引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36頁

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1

発表論文目録および学会発表目録

本研究の一部は以下の雑誌に投稿中である。

1. Satoshi Abiko, Yuichi Shimizu, Shuichi Miyamoto, Marin Ishikawa,

Kana Matsuda, Momoko Tsuda, Takeshi Mizushima, Keiko

Yamamoto, Shoko Ono, Takahiko Kudo, Kota Ono, Naoya Sakamoto

Evaluation of the risk of metachronous squamous cell carcinoma

after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the

esophagus based on genetic polymorphisms of alcohol

dehydrogenase-1B and aldehyde dehydrogenase-2 along with

drinking habits.

Journal of Gastroenterology

本研究の一部は以下の学会に発表した。

1. Satoshi Abiko, Yuichi Shimizu, Takeshi Mizushima, Kato Marin,

Kana Matsuda, Shuichi Miyamoto, Momoko Tsuda, Keiko

Yamamoto, Shoko Ono, Takahiko Kudo, Naoya Sakamoto

Evaluation of the risk of metachronous squamous cell carcinoma of

the oesophagus and the head and neck after endoscopic resection for

squamous cell carcinoma of the esophagus based on the genetic

polymorphisms of ADH1B and ALDH2.

25th United European Gastroenterology Week

2017年 10月 27日‐10月 31日 Barcelona.

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2

緒 言

近年の内視鏡診断・治療技術の向上により、早期食道癌の発見数は増加

し、内視鏡的切除(Endoscopic Resection: ER)により根治が得られる症例が

増えてきた(図 1、図 2)。しかし、早期食道癌患者の食道温存が可能となっ

たため、ER後の食道内多発癌が認められる症例も増えてきた(図 3)1-3。

図 1 左から食道癌の白色光、Narrow Band Imaging (NBI)、ヨード染色の内視鏡画像

白色光の画像では一見、異常がないようにみえる。新しい画像技術である NBI の

画像では黄色矢印の部分にブラウニッシュな領域が観察できる。同部位は、ヨー

ド染色でピンク色(Pink color sign 陽性)を呈し、食道癌の存在を指摘出来る。Pink

color sign とは、上皮のほぼ全層が異型細胞で置換された場合(癌の場合)は、完全

な不染となり、ヨード散布数分後にはピンク色を呈する所見である。

図 2 食道癌に対しての内視鏡治療の様子。左からヨード染色、粘膜下層剥離、切除終

了後の潰瘍底の画像

ヨード染色の画像で 0 時から 5 時方向に明瞭な不染帯を認め、食道癌の存在を指摘で

きる。次の画像では、治療用の電気メスで、インジゴカルミンにより青く色付けされた粘

膜下層を剥離している。画面 11 時方向に病変、画面 5 時方向の青い部分が粘膜下層。最

後の画像では、9 時から 7 時方向に 2/3 周性の切除後の潰瘍底を認める。

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3

図 3 左は食道癌 ER 前のヨード染色の画像。右は食道癌 ER 後のヨード染色の画像

食道癌 ER 前の左のヨード染色の画像において、明らかな食道癌を指摘出来ない。1 年

以上経過したあとの右のヨード染色の画像では 9 時から 7 時方向に明瞭な不染帯を認め、

Pink color sign 陽性であり、異時性食道癌の存在を指摘できる。

また、食道癌患者にはしばしば頭頸部癌を合併することも良く知られて

いる(図 4)。実際に食道癌 ER後の食道癌異時性発生率は 14.6%~23.0% 1-

3、また、頭頸部癌異時性発生率は 5.1~13% 4,5にものぼると報告されてお

り、根治性の点から問題とされるようになっている。

図 4 異時性頭頸部癌の画像

左の画像は左下咽頭後壁に軽度発赤調の隆起性病変を認め、右の画像は左梨状陥凹に軽

度発赤調の隆起性病変を認める。両病変とも生検で扁平上皮癌の診断となり、その後、内

視鏡で治療された。

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食道および頭頸部領域に扁平上皮癌が多発することは、半世紀あまり

field cancerization 現象なる概念で説明されてきた 6。これは飲酒や喫煙な

どの発癌物質の暴露により、食道および頭頸部領域の粘膜上皮に癌が多発

性に発生するという概念である(図 5)6。field cancerization 現象の原因に

ついてはアルコール自体の作用ではなく、アルコールの第一代謝産物であ

るアセトアルデヒドの蓄積が原因である可能性が報告されている(図 6)7。

図 5 field cancerization 現象の模式図

飲酒や喫煙などの発癌物質の暴露により、食道および頭頸部領域の粘膜上皮に

Squamous cell carcinoma (SCC)が多発性に発生する。

図 6 アルコール代謝経路の概略図

ADH1B と ALDH2 がアルコールの代謝に重要な役割を果たしている。アセトアルデヒド

が飲酒後の不快な反応を引き起こしたり、発癌を引き起こす物質であると考えられている。

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5

アセトアルデヒドは主にアルデヒド脱水素酵素 2 型 (aldehyde

dehydrogenase 2: ALDH2)によって代謝されるが、これの遺伝子多型であ

る ALDH2 ヘテロ欠損型の飲酒者が食道扁平上皮癌のハイリスクであるこ

とが知られている 8-10。ALDH2には、487番目のアミノ酸である glutamete

が lysine に変化して活性を失う遺伝子多型がある。この酵素は 4 量体で、

4 個のサブユニットのうち 1 個でも lysine 型だと酵素活性が 0 となり、

ALDH2 ヘテロ欠損型 (*1/*2)の酵素活性はホモ活性型(*1/*1)の 1/16 であ

り、ホモ欠損型(*2/*2)では 0 である 11。また、ALDH2 の前の段階のアル

コール脱水素酵素 1B (alcohol dehydrogenase 1B: ADH1B) にも遺伝子多

型があり、ホモ低活性型が食道扁平上皮癌リスクに関わっていることが報

告されている 9,10。ADH1B には 47 番目の arginine が histidine に変異し

て酵素活性が高まる多型がある。ホモ低活性型 ADH1B (*1/*1)は活性型

ADH1B(*1/*2 と*2/*2)に比べ Vmax は 1/40 で、11~18%遅いエタノール

消失速度が報告されている 11。本邦におけるゲノム関連症例対照研究では、

ALDH2 ヘテロ欠損型と ADH1B ホモ低活性型の組み合わせの常習飲酒、

喫煙者の食道癌発症リスクは、極めてハイリスクであることが報告されて

いる 12,13。

現在、この ADH1B / ALDH2 遺伝子解析は唾液採取により簡便に行われ

るようになっている。横山らは 114 症例の検討で、唾液ダイレクト

TaqMan PCR (polymerase chain reaction) 法 と 血 液 PCR-RFLP

(restriction fragment length polymorphisms)法で ADH1Bと ALDH2の

一塩基遺伝子多型解析を別々の研究施設において実施したところ、114 検

体全てにおいて両者は完全に一致したと報告している 14。唾液ダイレクト

TaqMan PCR 法は正確にアルコール体質遺伝子(ADH1B および ALDH2)

の一塩基多型を検出できることを確認し、血漿と唾液の結果が完全に一致

していることを報告している 14。しかし、ADH1B / ALDH2 遺伝子型によ

る食道癌 ER 後の異時性食道癌、異時性頭頸部癌の発症リスクに関する報

告は、PubMedおよび医学中央雑誌で検索した限り 1編しか無く 15、さら

に 3次癌以降の発症リスクを検討した報告は無い。

今回、私は ADH1B / ALDH2 遺伝子型、および治療前後の飲酒喫煙習慣

による食道癌 ER 後の異時性食道癌、異時性頭頸部癌の発症リスクに関し

て、2 次癌のみならず、実臨床でより問題となる 3 次癌以降のリスクを明

らかにすることを目的とする研究を行った。

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6

略語表

本文中および図中で使用した略語は以下のとおりである。

ADH1B alcohol dehydrogenase-1B

ALDH2 aldehyde dehydrogenase-2

HR hazard ratio

IQR interquartile range

NR data not reported

OR odds ratio

PCR polymerase chain reaction

QOL quality of life

RFLP restriction fragment length polymorphisms

SD standard deviation

SCC squamous cell carcinoma

SNPs single nucleotide poplymorphisms

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方法

本研究は、北海道大学医学部医学科 医の倫理委員会の承認の下に行われ

た (医 16-012)。

対象症例

本研究は新たに採取される検体を用いた探索的後ろ向き研究で、すべての

患者から文書による同意を得て 2016 年 7 月から 2017 年 8 月までの期間

に行われた(UMIN Clinical Trials Registry ID: UMIN000019852)。北海

道大学病院で、食道扁平上皮癌に対し ER が行われ、2 年以上経過観察さ

れている患者 158例に対し、治療前の飲酒喫煙歴と、治療後の飲酒喫煙習

慣をアンケート聴取、内視鏡施行前に採取した唾液で ADH1B / ALDH2 遺

伝子解析を行い、異時性食道頭頸部癌の発症状況との関係を retrospective

に検討した。

下記の対象患者のうち、選択基準をすべて満たし、かつ除外基準のいず

れにも該当しない患者を対象とする。

(1)対象患者:北海道大学病院で、食道扁平上皮癌に対し ER が行わ

れ、2年以上経過観察されている患者。

(2)選択基準:①唾液採取が可能であること。②本研究への参加にあた

り十分な説明を受けた後、十分な理解の上、研究対象者本人の自由

意思による同意が得られた者。③食道癌 ER 例(初回治療例 / 既

往例)。④切除標本において組織学的食道扁平上皮癌と診断されて

いる。⑤内視鏡的に完全に切除されている。

(3)除外基準:①外科手術が追加された患者。②研究責任者が被験者と

して不適当と判断した患者。③未成年(20 歳未満)の患者。④妊

娠中の患者。

研究の方法

治療前の飲酒喫煙歴と、治療後の飲酒喫煙習慣をアンケート聴取した。

ADH1B / ALDH2遺伝子解析を行うために、内視鏡施行前にスポイトまた

は綿棒で唾液 1ml 程度を採取した(図 7)。

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8

図 7 唾液採取時の様子

専用の綿棒を用いて頬粘膜を擦過し、検体を採取する。その後、専用綿棒を乾燥させ、

検体を保存する。

飲酒量に関しては、次のように区分した。heavy drinkers、moderate

drinkers、light drinkers、rare drinkers:rare drinkers は< 1 unit/week

とした。常習飲酒者について、1 to 8.9 units/week (light drinkers)、9 to

17.9 units/week (moderate drinkers)および ≥ 18 units/week (heavy

drinkers)と分類した(1 unitのアルコールは 22 gのエタノールを含む酒 =

日本酒 1合)。

喫煙量に関しては、次のように区分した。heavy smokers、light smokers、

rare smokers:heavy smokersは≥ 30 pack years、light smokersは< 30

pack years、rare smokersは non smokerと扱うこととする。30 pack years

とはタバコ 1箱(20 本)×15年間のことをいう。

ADH1B と ALDH2 の 遺 伝 子 の SNPs (single nucleotide

poplymorphisms)は、TaqMan assay on an applied biosystems 7300 Real

Time PCR Systemによって、解析した(図 8)16。THUNDERBIRD Probe

qPCR Mix(QPS-101 、 TOYOBO)5 μ L 、 50×ROX reference

dye(TOYOBO)0.2μL、20×ALDH2 TaqMan Probe & ALDH2 Primer

Mix(C_11703892_10 、 applied biosystems) あ る い は 20 × ADH1B

TaqManProbe & ADH1B Primer Mix(C_2688467_20、TaqMan®Drug

Metabolism Genotyping Assays、applied biosystems)を 0.5μL、PCR 増

幅産物 1μL、および 蒸留水を添加し合計 10μL の反応溶液とした。反

応条件は applied biosystems社の推奨条件を参考にして、50℃ 2 分、95℃

10 分、40 サイクルの熱変性 95℃ 15 秒、アニーリングおよび伸長反応

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9

60℃ 1 分にて実施した。

遅い代謝を示す ADH1B の型は、ADH1B*1 でコードされ、不活性型の

ALDH2 の型は、ALDH2*2 でコードされる。私は横山らの提唱している

分類を参考に、ADH1B と ALDH2 の遺伝子型を以下の 5 つの型に分類し

た(図 9)13,17。A group, ADH1B*1/*1 + ALDH2*1/*1、B group, ADH1B*2

allele + ALDH2*1/*1、C group, ADH1B*1/*1 + ALDH2*1/*2、D group,

ADH1B*2 allele + ALDH2*1/*2、E group, ADH1B any + ALDH2*2/*2。

図 8 TaqMan assay on an applied biosystems 7300 Real Time PCR System の画像

ADH1B と ALDH2 の遺伝子の SNPs は上記の機器を用いて解析した。

図 9 アルコール代謝経路とアルコール体質タイプの表

体質タイプ C と D が食道扁平上皮癌のハイリスクである。

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10

すべての被験者は ER 後 3 か月、6 か月、1 年後にヨード染色を用いた

内視鏡検査を施行された。その後は、半年毎または 1 年毎に内視鏡検査を

施行された。原則、耳鼻咽喉科医によって、喉頭鏡を含めた身体診察を 1

年毎に施行された(図 10)。すべての患者は ER 後に、節酒、節煙を勧めら

れた。

異時性食道癌は、食道癌に対しての ER 後に 1 年以上を経過したあとに、

初回 ER後瘢痕から、離れて発生した癌と定義した。ER後瘢痕は、小さな

ひだの収束として内視鏡的に同定されたものとした。ER 後瘢痕にかかる

場合を局所再発と定義した(図 11)。

図 10 食道癌 ER 後の経過観察の方法

3 か月、6 か月、1 年後にヨード染色を用いた内視鏡検査を施行された。その後は、半

年毎または 1 年毎に内視鏡検査を施行された。

図 11 局所再発の一例

画面 6 時方向に小さなひだの収束を認め、瘢痕を認める。瘢痕に接して、不染帯を認め、

Pink color sign 陽性であり、局所再発した食道癌の存在を指摘できる。

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11

異時性頭頸部癌は、食道癌に対しての ER 後に 1 年以上を経過したあと

に、口腔、中・下咽頭、喉頭に発生した癌と定義した。食道癌に対しての

ER 後 1 年以内に指摘された病変は、同時性食道癌または同時性頭頸部癌

と定義した。

統計解析方法:JMP® Pro 12.0.1 (SAS Institute, Inc., Cary, NC, USA)

をデータ解析に使用した。カテゴリー化された項目については、Fisher’ s

exact testを実施した。連続した項目で、パラメトリックなものは t-tests、

ノンパラメトリックなものは、Wilcoxon signed-rank testを実施した。

さらに食道癌に対しての ER 後の患者における異時性食道癌と異時性頭

頸部癌の発症状況に影響する因子を明らかにするため、遺伝子型、飲酒量、

喫煙量などを説明変数とし、ロジスティック回帰分析で単変量解析および

多変量解析を行い、オッズ比を算出した。p < 0.05 を有意差ありと設定し

た。単変量解析で有意差があった因子を用いて、多変量解析を行った。

追加検討として、食道癌治療前に飲酒者であった患者における節酒の効

果の検討を行った。moderate または heavy の飲酒歴を有する 110 例につ

いて、節酒群(治療後、飲酒量が light もしくは rare に下がったもの)65

例と非節酒群 45例に分けて検討した。ERを施行した日から異時性食道癌

または異時性頭頸部癌と診断した日までを異時性食道癌または異時性頭頸

部癌が発生するのに要した時間と定義した。食道癌治療前に飲酒者であっ

た患者における節酒群と非節酒群の異時性食道癌および頭頸部癌の発生状

況を解析するため、Kaplan–Meier methodを用いた。2群の Kaplan–Meier

曲線に差があるかどうかを検定するため log-rank test を実施した。また、

私は非節酒群の発生リスクを検討するため Cox proportional hazards

modelを使用し、hazard ratioと 95% confidence interval (CI)を推定した。

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12

結果

2次癌(異時性食道癌+異時性頭頸部癌)について

経過観察期間は中央値で 80ヶ月(範囲、24~244ヶ月)であり、異時性

食道癌と異時性頭頸部癌合わせた、2次癌は 54例 (34.2%)発生した。表 1

に 2 次癌が発生した群と 2 次癌が発生しなかった群の特徴を示す。2 次癌

の発生した群は、発生しなかった群と比較して若く (平均±SD 年齢 :

63.5±7.5 vs 67.2±7.9 歳, p = 0.0059)、ALDH2ヘテロ欠損型の比率が多か

った(77.8% vs 55.9%, p = 0.0087)。性別、ADH1B遺伝子型においては統

計学的な有意差はなかった。

表 1 2 次癌が発生した群と発生しなかった群の特徴

全患者

(n=158)

2次癌あり

(n=54, 34.2%)

2次癌なし

(n=104)

P

性別 男性

女性

130(82.3%)

28(17.7%)

48(88.9%)

6(11.1%)

82(78.9%)

22(21.2%)

0.1303

年齢(歳), 平均±SD 70.0±8.0 63.5±7.5 67.2±7.9 0.0059

遺伝子型の組み合わせ

ADH1B ALDH2

A

B

C

D

E

*1/*1

*2 carrier

*1/*1

*2 carrier

any

*1/*1

*1/*1

*1/*2

*1/*2

*2/*2

6(3.8%)

50(31.6%)

20(12.7%)

81(51.3%)

1(0.6%)

3(5.6%)

9(16.7%)

10(18.5%)

32(59.3%)

0(0%)

3(2.9%)

41(39.4%)

10(9.6%)

49(47.1%)

1(1.0%)

0.0173

ADH1B 遺伝子型 *1/*1 *2 carrier

26(16.5%)

132(83.5%)

13(24.1%)

41(75.9%)

13(12.5%)

91(87.5%)

0.0730

ALDH2 遺伝子型 *1/*2

*1/*1+*2/*2

100(63.2%)

58(36.7%)

42(77.8%)

12(22.2%)

58(55.9%)

46(44.2%)

0.0087

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13

飲酒量においては、治療前の飲酒量が多く(中央値 (IQR) = 22.2 (13.2-

32.6) vs 11.3 (3.9-21) units/week, p < 0.0001)、治療後の飲酒量が多かった

(中央値 (IQR) = 8.8 (0-21) vs 0 (0-5.4) units/week, p < 0.0001)(表 2)。

喫煙量においては、heavy smokersの比率が高かった(75.9% vs 50.0%,

p = 0.0024)。内視鏡治療後の喫煙の有無においては統計学的な有意差はな

かった(表 3)。

表 2 2 次癌が発生した群と発生しなかった群の特徴(飲酒において)

全患者

(n=158)

2次癌あり

(n=54, 34.2%)

2次癌なし

(n=104)

P

飲酒量

(units/week)

Heavy

Moderate

Light

Rare

中央値(IQR)

71(44.9%)

39(24.7%)

31(19.6%)

17(10.8%)

14(6-26.3)

31(57.4%)

18(33.3%)

4(7.4%)

1(1.9%)

22.2(13.2-32.6)

40(38.4%)

21(20.2%)

27(26.0%)

16(15.4%)

11.3(3.9-21)

0.0003

<0.0001

治療後の

飲酒量

(units/week)

Heavy

Moderate

Light

Rare

中央値(IQR)

21(13.2%) 24(15.2%) 41(26.0%) 72(45.6%)

1.9(0-9.8)

17(31.5%) 11(20.4%) 12(22.2%) 14(25.9%)

8.8(0-21)

4(3.9%) 13(12.5%) 29(27.9%) 58(55.8%)

0(0-5.4)

<0.0001

<0.0001

表 3 2 次癌が発生した群と発生しなかった群の特徴(喫煙において)

全患者

(n=158)

2次癌あり

(n=54, 34.2%)

2次癌なし

(n=104)

P

喫煙量

Heavy Light Rare

93(58.9%) 43(27.2%) 22(14.0%)

41(75.9%) 11(20.4%) 2(3.7%)

52(50.0%) 32(30.8%) 20(19.2%)

0.0024

治療後の

喫煙

Yes No

33(20.9%) 125(79.1%)

14(25.9%) 40(74.1%)

19(18.3%) 85(81.7%)

0.3039

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14

単変量解析において年齢、ALDH2ヘテロ欠損型、飲酒量、内視鏡治療後

の飲酒量、喫煙量が 2次癌の発生と有意に関連していた(表 4)。多変量解

析において、ALDH2 ヘテロ欠損型(OR = 2.69, p < 0.032)と内視鏡治療後の

飲酒量(OR = 2.89, p < 0.0001)は、2次癌の発生に関連する独立した危険因子

であった(表 4)。

表 4 他の因子と 2 次癌の関連性について単変量解析および多変量解析の結果

2次癌あり

(n=54)

2次癌なし

(n=104)

単変量 多変量

オッズ比 (95%CI) P オッズ比 (95%CI) P

年齢, +10 歳あたり

0.55(0.36-0.86) 0.0077 0.75(0.45-1.26) 0.2816

性別

女性

男性

6(11.1%)

48(88.9%)

22(21.2%)

82(78.9%)

1(ref)

2.15(0.82-5.65)

0.1229

-

-

-

ADH1B 遺伝子型

*2 carrier

*1/*1

41(75.9%)

13(24.1%)

91(87.5%)

13(12.5%)

1(ref)

2.21(0.95-5.21)

0.0668

-

-

-

ALDH2 遺伝子型

*1/*1+*2/*2

*1/*2

12(22.2%)

42(77.8%)

46(44.2%)

58(55.9%)

1(ref)

2.77(1.31-5.87)

0.0076

1(ref)

2.69(1.09-6.63)

0.0315

飲酒量, +10 Uあたり

1.37(1.10-1.71) 0.0053 1.22(0.97-1.53) 0.0892

治療後の飲酒量,

+10 Uあたり

3.35(2.06-5.44)

<0.0001

2.89(1.73-4.82)

<0.0001

喫煙量

Rare/light( < 30)

Heavy( ≥ 30)

13(24.1%)

41(75.9%)

52(50.0%)

52(50.0%)

1(ref)

3.15(1.52-6.56)

0.0021

1(ref)

2.24(0.97-5.15)

0.0584

治療後の喫煙

No

Yes

40(74.1%)

14(25.9%)

85(81.7%)

19(18.3%)

1(ref)

1.57(0.71-3.44)

0.2635

-

-

-

Page 20: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

15

3次癌について

患者の QOL (quality of life)を左右するため、実臨床で重要となる 3 次

癌は 23例(14.6%)に発生した。表 5に 3次癌が発生した群と 3次癌が発生

しなかった群の特徴を示す。3 次癌が発生した患者は、発生しなかった患

者と比較して、ALDH2 ヘテロ欠損型(82.6% vs 60.0%, p = 0.0591)の割合

が高い傾向にあった。性別、年齢、アルコール体質タイプ、ADH1B 遺伝

子型においては統計学的な有意差はなかった。

表 5 3 次癌が発生した群と発生しなかった群の特徴

全患者

(n=158)

3次癌あり

(n=23, 14.6%)

3次癌なし

(n=135)

P

性別 男性

女性

130(82.3%)

28(17.7%)

21(91.3%)

2(8.7%)

109(80.7%)

26(19.3%)

0.3738

年齢(歳), 平均±SD 70.0±8.0 63.7±7.9 66.3±7.9 0.1478

遺伝子型の組み合わせ

ADH1B ALDH2

A

B

C

D

E

*1/*1

*2 carrier

*1/*1

*2 carrier

any

*1/*1

*1/*1

*1/*2

*1/*2

*2/*2

6(3.8%)

50(31.6%)

20(12.7%)

81(51.3%)

1(0.6%)

1(4.4%)

3(13.0%)

5(21.7%)

14(60.9%)

0(0%)

5(3.7%)

47(34.8%)

15(9.5%)

67(49.6%)

1(0.7%)

0.1623

ADH1B 遺伝子型 *1/*1 *2 carrier

26(16.5%)

132(83.5%)

6(26.1%)

17(73.9%)

20(14.8%)

115(85.2%)

0.2207

ALDH2 遺伝子型 *1/*2

*1/*1+*2/*2

100(63.2%)

58(36.7%)

42(82.6%)

12(17.4%)

58(60.0%)

46(40.0%)

0.0591

Page 21: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

16

飲酒量において、内視鏡治療前の飲酒量が多く(中央値 (IQR) = 22.7 (15-

33.3) vs 12.5 (5-24) units/week, p = 0.0069)、内視鏡治療後の飲酒量が多

かった(中央値 (IQR) = 12 (4.9-25) vs 0.5 (0-8) units/week, p < 0.0001)(表

6)。

喫煙量や内視鏡治療後の喫煙の有無においては、統計学的な有意差はな

かった (表 7)。

表 6 3 次癌が発生した群と発生しなかった群の特徴(飲酒において)

全患者

(n=158)

3次癌あり

(n=23, 14.6%)

3次癌なし

(n=135)

P

飲酒量

(units/week)

Heavy

Moderate

Light

Rare

中央値(IQR)

71(44.9%)

39(24.7%)

31(19.6%)

17(10.8%)

14(6-26.3)

13(56.5%)

9(39.1%)

1(4.4%)

0(0%)

22.7(15-33.3)

58(43.0%)

30(22.2%)

30(22.2%)

17(12.6%)

12.5(5-24)

0.0202

0.0069

治療後の

飲酒量

(units/week)

Heavy

Moderate

Light

Rare

中央値(IQR)

21(13.2%) 24(15.2%) 41(26.0%) 72(45.6%)

1.9(0-9.8)

9(39.1%) 6(26.1%) 4(17.4%) 4(17.4%)

12(4.9-25)

12(8.9%) 18(13.3%) 37(27.4%) 68(50.4%)

0.5(0-8)

0.0002

<0.0001

表 7 3 次癌が発生した群と発生しなかった群の特徴(喫煙において)

全患者

(n=158)

3次癌あり

(n=23, 14.6%)

3次癌なし

(n=135)

P

喫煙量

Heavy Light Rare

93(58.9%) 43(27.2%) 22(14.0%)

17(73.9%) 5(21.7%) 1(4.4%)

76(56.3%) 38(28.2%) 21(15.6%)

0.2728

治療後の

喫煙

Yes No

33(20.9%) 125(79.1%)

7(30.4%) 16(69.6%)

26(19.3%) 109(80.7%)

0.2665

Page 22: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

17

単変量解析において ALDH2ヘテロ欠損型、内視鏡治療後の飲酒量が、3

次癌の発生と有意に関連していた(表 8)。多変量解析において、内視鏡治

療後の飲酒量(OR = 2.82, p < 0.0001)は、3次癌の発生に関連する独立した危

険因子であった(表 8)。

表 8 他の因子と 3 次癌の関連性について単変量解析および多変量解析の結果

3次癌あり

(n=23)

3次癌なし

(n=135)

単変量 多変量

オッズ比 (95%CI) P オッズ比 (95%CI) P

年齢, +10 歳あたり

0.67(0.39-1.15) 0.1498 - -

性別

女性

男性

2(8.7%)

21(91.3%)

26(19.3%)

109(80.7%)

1(ref)

2.50(0.55-11.4)

0.2340

-

-

-

ADH1B 遺伝子型

*2 carrier

*1/*1

17(73.9%)

6(26.1%)

115(85.2%)

20(14.8%)

1(ref)

2.03(0.71-5.77)

0.1843

-

-

-

ALDH2 遺伝子型

*1/*1+*2/*2

*1/*2

12(17.4%)

42(82.6%)

46(40.0%)

58(60.0%)

1(ref)

3.17(1.02-9.82)

0.0459

1(ref)

3.23(0.94-11.1)

0.0617

飲酒量, +10 Uあたり

1.21(0.95-1.53) 0.1169 - -

治療後の飲酒量,

+10 Uあたり

2.78(1.77-4.38)

<0.0001

2.82(1.76-4.51)

<0.0001

喫煙量

Rare/light( < 30)

Heavy( ≥ 30)

6(26.1%)

17(73.9%)

59(43.7%)

76(56.3%)

1(ref)

2.20(0.82-5.92)

0.1190

-

-

-

治療後の喫煙

No

Yes

16(69.6%)

7(30.4%)

109(80.7%)

26(19.3%)

1(ref)

1.83(0.68-4.92)

0.2278

-

-

-

Page 23: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

18

4次癌について

4次癌は 7例 (4.4%)、発生した。表 9に 4次癌が発生した群と発生しな

かった群の特徴を示す。4 次癌が発生した患者は、発生しなかった患者と

比較して、若かった(平均±SD 年齢: 59.6±10.5 vs 66.2±7.7 歳, p = 0.0300)。

性別、アルコール体質タイプ、ADH1B遺伝子型、ALDH2遺伝子型におい

ては統計学的な有意差はなかった。

表 9 4 次癌が発生した群と発生しなかった群の特徴

全患者

(n=158)

4次癌あり

(n=7, 4.4%)

4次癌なし

(n=151)

P

性別 男性

女性

130(82.3%)

28(17.7%)

6(85.7%)

1(14.3%)

124(82.1%)

27(17.9%)

1.0000

年齢(歳), 平均±SD 70.0±8.0 59.6±10.5 66.2±7.7 0.0300

遺伝子型の組み合わせ

ADH1B ALDH2

A

B

C

D

E

*1/*1

*2 carrier

*1/*1

*2 carrier

any

*1/*1

*1/*1

*1/*2

*1/*2

*2/*2

6(3.8%)

50(31.6%)

20(12.7%)

81(51.3%)

1(0.6%)

0(0%)

1(14.3%)

2(28.6%)

4(57.1%)

0(0%)

6(4.0%)

49(32.5%)

18(11.9%)

77(51.0%)

1(0.7%)

0.4849

ADH1B 遺伝子型 *1/*1 *2 carrier

26(16.5%)

132(83.5%)

2(28.6%)

5(71.4%)

24(15.9%)

127(84.1%)

0.3241

ALDH2 遺伝子型 *1/*2

*1/*1+*2/*2

100(63.2%)

58(36.7%)

6(85.7%)

1(14.3%)

94(62.3%)

57(37.8%)

0.4241

Page 24: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

19

飲酒量において、内視鏡治療前の飲酒量が多く(中央値 (IQR) = 33.3

(16.5-35) vs 14 (6-24) units/week, p = 0.0192)、内視鏡治療後の飲酒量も

多かった (中央値 (IQR) = 27 (12-25) vs 1.5 (0-8.4) units/week, p <

0.0001)(表 10)。

喫煙量や内視鏡治療後の喫煙の有無においては統計学的な有意差はなか

った(表 11)(単変量解析と多変量解析はイベント数が少なかったため施行

せず)。

表 10 4 次癌が発生した群と発生しなかった群の特徴(飲酒において)

全患者

(n=158)

4次癌あり

(n=7, 4.4%)

4次癌なし

(n=151)

P

飲酒量

(units/week)

Heavy

Moderate

Light

Rare

中央値(IQR)

71(44.9%)

39(24.7%)

31(19.6%)

17(10.8%)

14(6-26.3)

5(71.4%)

2(28.6%)

0(0%)

0(0%)

33.3(16.5-35)

66(43.7%)

37(24.5%)

31(20.5%)

17(11.3%)

14(6-24)

0.5054

0.0192

治療後の

飲酒量

(units/week)

Heavy

Moderate

Light

Rare

中央値(IQR)

21(13.2%) 24(15.2%) 41(26.0%) 72(45.6%)

1.9(0-9.8)

5(71.4%) 2(28.6%)

0(0%) 0(0%)

27(12-25)

16(10.6%) 22(14.6%) 41(27.2%) 72(47.7%)

1.5(0-8.4)

<0.0001

<0.0001

表 11 4 次癌が発生した群と発生しなかった群の特徴(喫煙において)

全患者

(n=158)

4次癌あり

(n=7, 4.4%)

4次癌なし

(n=151)

P

喫煙量

Heavy Light Rare

93(58.9%) 43(27.2%) 22(14.0%)

5(71.4%) 2(28.6%)

0(0%)

88(58.3%) 41(27.2%) 22(14.6%)

0.7486

治療後の

喫煙

Yes No

33(20.9%) 125(79.1%)

2(28.6%) 5(71.4%)

31(20.5%) 120(79.5%)

0.6368

Page 25: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

20

食道の 2次癌について

次に、2 次癌のうち異時性食道癌だけにしぼって解析した。異時性食道

癌(食道の 2次癌)は 47例(29.8%)発生した。表 12に 2次癌が発生した群と

2次癌が発生しなかった群の特徴を示す。2次癌の発生した群は、発生しな

かった群と比較して、若く(平均±SD 年齢: 63.5±7.9 vs 66.9±7.8 歳, p

= 0.0137)、ALDH2 ヘテロ欠損型の比率が多かった(80.9% vs 55.9%, p =

0.0036)。性別、ADH1B遺伝子型においては統計学的な有意差はなかった。

表 12 食道の 2 次癌が発生した群と発生しなかった群の特徴

全患者

(n=158)

2次癌あり

(n=47, 29.8%)

2次癌なし

(n=111)

P

性別 男性

女性

130(82.3%)

28(17.7%)

42(89.4%)

5(14.3%)

88(79.3%)

23(17.9%)

0.1722

年齢(歳), 平均±SD 70.0±8.0 63.5±7.9 66.9±7.8 0.0137

遺伝子型の組み合わせ

ADH1B ALDH2

A

B

C

D

E

*1/*1

*2 carrier

*1/*1

*2 carrier

any

*1/*1

*1/*1

*1/*2

*1/*2

*2/*2

6(3.8%)

50(31.6%)

20(12.7%)

81(51.3%)

1(0.6%)

2(4.3%)

7(14.9%)

8(17.0%)

30(63.8%)

0(0%)

4(3.6%)

43(38.7%)

12(10.8%)

51(46.0%)

1(0.9%)

0.0233

ADH1B 遺伝子型 *1/*1 *2 carrier

26(16.5%)

132(83.5%)

10(21.3%)

37(78.7%)

16(14.4%)

95(85.6%)

0.3483

ALDH2 遺伝子型 *1/*2

*1/*1+*2/*2

100(63.2%)

58(36.7%)

38(80.9%)

9(19.2%)

62(55.9%)

49(44.1%)

0.0036

Page 26: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

21

飲酒量においては、治療前の飲酒量が多く(中央値 (IQR) = 22.2 (12-33)

vs 12 (4.6-21) units/week, p < 0.0004)、治療後の飲酒量が多かった(中央値

(IQR) = 9.8 (4-21) vs 0 (0-5.5) units/week, p < 0.0001)(表 13)。

喫煙量においては、heavy smokersの比率が高かった(76.6% vs 51.4%,

p = 0.0077)。内視鏡治療後の喫煙の有無においては統計学的な有意差はな

かった (表 14)。

表 13 食道の 2 次癌が発生した群と発生しなかった群の特徴(飲酒において)

全患者

(n=158)

2次癌あり

(n=47, 29.8%)

2次癌なし

(n=111)

P

飲酒量

(units/week)

Heavy

Moderate

Light

Rare

中央値(IQR)

71(44.9%)

39(24.7%)

31(19.6%)

17(10.8%)

14(6-26.3)

27(57.5%)

15(31.9%)

4(8.5%)

1(2.1%)

22.2(12-33)

44(39.6%)

24(21.6%)

27(24.3%)

16(14.4%)

12(4.6-21)

0.0039

0.0004

治療後の

飲酒量

(units/week)

Heavy

Moderate

Light

Rare

中央値(IQR)

21(13.2%) 24(15.2%) 41(26.0%) 72(45.6%)

1.9(0-9.8)

16(34.0%) 11(23.4%) 10(21.3%) 10(21.3%)

9.8(4-21)

5(4.5%) 13(11.7%) 31(27.9%) 62(55.9%)

0(0-5.5)

<0.0001

<0.0001

表 14 食道の 2 次癌が発生した群と発生しなかった群の特徴(喫煙において)

全患者

(n=158)

2次癌あり

(n=47, 29.8%)

2次癌なし

(n=111)

P

喫煙量

Heavy Light Rare

93(58.9%) 43(27.2%) 22(14.0%)

36(76.6%) 9(19.2%) 2(4.3%)

57(51.4%) 34(30.6%) 20(18.0%)

0.0077

治療後の

喫煙

Yes No

33(20.9%) 125(79.1%)

12(25.5%) 35(74.5%)

21(19.0%) 90(81.1%)

0.3939

Page 27: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

22

単変量解析において年齢、ALDH2 ヘテロ欠損型、内視鏡治療前の飲酒量、

内視鏡治療後の飲酒量、喫煙量が、食道の 2 次癌の発生と有意に関連して

いた(表 15)。多変量解析において、ALDH2 ヘテロ欠損型(OR = 3.66, p <

0.007) と、内視鏡治療後の飲酒量(OR = 3.10, p < 0.0001)は、食道の 2 次癌

の発生に関連する独立した危険因子であった(表 15)。

表 15 他の因子と食道の 2 次癌の関連性について単変量解析および多変量解析の結果

2次癌あり

(n=47)

2次癌なし

(n=111)

単変量 多変量

オッズ比 (95%CI) P オッズ比 (95%CI) P

年齢, +10 歳あたり

0.58(0.37-0.90) 0.016 0.84(0.49-1.43) 0.5212

性別

女性

男性

5(14.3%)

42(89.4%)

23(17.9%)

88(79.3%)

1(ref)

2.20(0.78-6.18)

0.1363

-

-

-

ADH1B 遺伝子型

*2 carrier

*1/*1

37(78.7%)

10(21.3%)

95(85.6%)

16(14.4%)

1(ref)

1.60(0.67-3.86)

0.2903

-

-

-

ALDH2 遺伝子型

*1/*1+*2/*2

*1/*2

9(19.2%)

38(80.9%)

49(44.1%)

62(55.9%)

1(ref)

3.34(1.47-7.56)

0.0039

1(ref)

3.66(1.35-9.94)

0.0111

飲酒量, +10 Uあたり

1.33(1.07-1.65) 0.0110 1.20(0.94-1.53) 0.1490

治療後の飲酒量,

+10 Uあたり

3.42(2.12-5.53)

<0.0001

3.10(1.85-5.18)

<0.0001

喫煙量

Rare/light( < 30)

Heavy( ≥ 30)

11(23.4%)

36(76.6%)

54(48.6%)

57(51.4%)

1(ref)

3.10(1.43-6.70)

0.0040

1(ref)

2.11(0.87-5.09)

0.0979

治療後の喫煙

No

Yes

35(74.5%)

12(25.5%)

90(81.1%)

21(19.0%)

1(ref)

1.47(0.65-3.30)

0.3515

-

-

-

Page 28: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

23

頭頸部の 2次癌について

異時性頭頸部癌(頭頸部の 2次癌)は 16例(10.1%)発生した。16例の発生

部位の内訳は、下咽頭が 11例、中咽頭が 3例、喉頭が 2例であった。

表 16 に頭頸部の 2 次癌が発生した群と 2 次癌が発生しなかった群の特

徴を示す。2次癌の発生した群は、発生しなかった群と比較して、ADH1B

ホモ低活性型の比率が多かった(37.5% vs 14.1%, p = 0.0279)。性別、年齢、

アルコール体質タイプ、ALDH2 遺伝子型においては統計学的な有意差はな

かった。

表 16 頭頸部の 2 次癌が発生した群と発生しなかった群の特徴

全患者

(n=158)

2次癌あり

(n=16, 10.1%)

2次癌なし

(n=142)

P

性別 男性

女性

130(82.3%)

28(17.7%)

15(93.8%)

1(14.3%)

115(81.0%)

27(17.9%)

0.3082

年齢(歳), 平均±SD 70.0±8.0 64.7±5.4 66.0±8.2 0.5167

遺伝子型の組み合わせ

ADH1B ALDH2

A

B

C

D

E

*1/*1

*2 carrier

*1/*1

*2 carrier

Any

*1/*1

*1/*1

*1/*2

*1/*2

*2/*2

6(3.8%)

50(31.6%)

20(12.7%)

81(51.3%)

1(0.6%)

1(6.3%)

2(12.5%)

5(31.3%)

8(50.0%)

0(0%)

5(3.5%)

48(33.8%)

15(10.6%)

73(51.4%)

1(0.7%)

0.0866

ADH1B 遺伝子型 *1/*1 *2 carrier

26(16.5%)

132(83.5%)

6(37.5%)

10(62.5%)

20(14.1%)

122(85.9%)

0.0279

ALDH2 遺伝子型 *1/*2

*1/*1+*2/*2

100(63.2%)

58(36.7%)

13(81.3%)

3(18.8%)

87(61.3%)

55(38.7%)

0.1711

Page 29: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

24

飲酒量においては、治療後の飲酒量が多かった(中央値 (IQR) = 10.5 (0-

26.5) vs 1.5 (0-8.6) units/week, p < 0.0001)(表 17)。

喫煙量や内視鏡治療後の喫煙の有無においては統計学的な有意差はなか

った(表 18)。

表 17 頭頸部の 2 次癌が発生した群と発生しなかった群の特徴 (飲酒において)

全患者

(n=158)

2次癌あり

(n=16, 10.1%)

2次癌なし

(n=142)

P

飲酒量

(units/week)

Heavy

Moderate

Light

Rare

中央値(IQR)

71(44.9%)

39(24.7%)

31(19.6%)

17(10.8%)

14(6-26.3)

10(62.5%)

5(31.3%)

1(6.3%)

0(0%)

23(14.6-34.6)

61(43.0%)

34(23.9%)

30(21.1%)

17(11.9%)

14(6-25.3)

0.1773

0.1511

治療後の

飲酒量

(units/week)

Heavy

Moderate

Light

Rare

中央値(IQR)

21(13.2%) 24(15.2%) 41(26.0%) 72(45.6%)

1.9(0-9.8)

7(43.8%) 2(12.5%) 2(12.5%) 5(31.3%)

10.5(0-26.5)

14(9.9%) 22(15.5%) 39(27.5%) 67(47.2%)

1.5(0-8.6)

0.0072

<0.0001

表 18 頭頸部の 2 次癌が発生した群と発生しなかった群の特徴(喫煙について)

全患者

(n=158)

2次癌あり

(n=16, 10.1%)

2次癌なし

(n=142)

P

喫煙量

Heavy Light Rare

93(58.9%) 43(27.2%) 22(14.0%)

12(75.0%) 3(18.8%) 1(6.3%)

81(57.0%) 40(28.2%) 21(14.8%)

0.4783

治療後の

喫煙

Yes No

33(20.9%) 125(79.1%)

5(31.3%) 11(68.8%)

28(19.7%) 114(80.3%)

0.3296

Page 30: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

25

単変量解析において ADH1B ホモ低活性型、内視鏡治療後の飲酒量が、

頭頸部の 2次癌の発生と有意に関連していた(表 19)。多変量解析おいて、

ADH1Bホモ低活性型 (OR = 4.18, p < 0.023)と内視鏡治療後の飲酒量(OR =

2.45, p < 0.0004)は頭頸部の 2次癌の発生に関連する独立した危険因子であ

った(表 19)。

表 19 他の因子と頭頸部の 2 次癌の関連性について単変量解析および多変量解析の結果

2次癌あり

(n=16)

2次癌なし

(n=142)

単変量 多変量

オッズ比 (95%CI) P オッズ比 (95%CI) P

年齢, +10 歳あたり

0.81(0.43-1.53) 0.5144 - -

性別

女性

男性

1(14.3%)

15(93.8%)

27(17.9%)

115(81.0%)

1(ref)

3.52(0.45-27.8)

0.2326

-

-

-

ADH1B 遺伝子型

*2 carrier

*1/*1

10(62.5%)

6(37.5%)

122(85.9%)

20(14.1%)

1(ref)

3.66(1.20-11.2)

0.0228

1(ref)

4.18(1.22-14.2)

0.0225

ALDH2 遺伝子型

*1/*1+*2/*2

*1/*2

3(18.8%)

13(81.3%)

55(38.7%)

87(61.3%)

1(ref)

2.74(0.75-10.1)

0.1287

-

-

-

飲酒量, +10 Uあたり

1.21(0.93-1.58) 0.1598 - -

治療後の飲酒量,

+10 Uあたり

2.37(1.48-3.79)

0.0003

2.45(1.50-4.02)

0.0004

喫煙量

Rare/light( < 30)

Heavy( ≥ 30)

4(25.0%)

12(75.0%)

61(43.0%)

81(57.0%)

1(ref)

2.26(0.69-7.35)

0.1756

-

-

-

治療後の喫煙

No

Yes

11(68.8%)

5(31.3%)

28(19.7%)

114(80.3%)

1(ref)

1.85(0.59-5.76)

0.2878

-

-

-

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26

小括

単変量解析において、食道癌 ER 後の異時性食道癌および異時性頭頸部

癌の発生と有意に関連していた危険因子であった項目を以下の表 20 にま

とめた。多変量解析において、食道癌 ER 後の異時性食道癌および異時性

頭頸部癌の発生と関連する独立した危険因子であった項目を以下の表 21

にまとめた。

表 20 単変量解析によって、明らかとなった食道癌 ER 後の異時性食道癌および異時性頭

頸部癌の発生に有意に関連していた危険因子

異時性食道癌+ 異時性頭頸部癌

異時性食道癌 異時性頭頸部癌

2次癌

年齢 ALDH2 *1/*2

飲酒量 治療後の飲酒量

喫煙量

年齢 ALDH2 *1/*2

飲酒量 治療後の飲酒量

喫煙量

ADH1B *1/*1 治療後の飲酒量

3次癌 ALDH2 *1/*2 治療後の飲酒量

NR NR

4次癌 NR NR NR

表 21 多変量解析によって、明らかとなった食道癌 ER 後の異時性食道癌および異時性頭

頸部癌の発生に関連した独立した危険因子

異時性食道癌+

異時性頭頸部癌 異時性食道癌 異時性頭頸部癌

2次癌 治療後の飲酒量

ALDH2 *1/*2

治療後の飲酒量

ALDH2 *1/*2

治療後の飲酒量

ADH1B *1/*1

3次癌 治療後の飲酒量 NR NR

4次癌 NR NR NR

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27

以上より、内視鏡治療後の飲酒量が異時性食道癌および異時性頭頸部癌

の発生において、重要であることが明らかとなった。また、ALDH2 ヘテロ

欠損型が 2 次癌(異時性食道癌と異時性頭頸部癌)と食道の 2 次癌(異時性食

道癌)の発生において重要であり、ADH1B ホモ低活性型が頭頸部の 2 次癌

(異時性頭頸部癌)の発生において重要であることが明らかとなった。

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28

食道癌治療前に飲酒者であった患者における節酒の効果の検討

moderateまたは heavy以上の飲酒歴を有する 110例について、節酒群(治

療後、飲酒量が light もしくは rareに下がったもの)65例と非節酒群 45例

に分けて検討した。2次癌の 3年の累積発生率は、節酒群で 14.0%、非節酒

群で 42.1%であった(p = 0.0002) (hazard ratio(HR) (95% CI): 2.82(1.60-5.05), p

= 0.0003) (図 13)。

図 14 節酒群と非節酒群における 2 次癌の累積発生率曲線

2 次癌の 3 年の累積発生率は、節酒群で 14.0%、非節酒群で 42.1%であった(p = 0.0002)

(hazard ratio(HR) (95% CI): 2.82(1.60-5.05), p = 0.0003)。

Page 34: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

29

3次癌の 5年の累積発生率は、節酒群で 0%、非節酒群で 15.6%であった

(p = 0.0011) (HR (95% CI): 4.62(1.79-14.22), p = 0.0012) (図 14)。

図 14 節酒群と非節酒群における 3 次癌の累積発生率曲線

3 次癌の 5 年の累積発生率は、節酒群で 0%、非節酒群で 15.6%であった(p = 0.0011) (HR

(95% CI): 4.62(1.79-14.22), p = 0.0012) 。

Page 35: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

30

4次癌の 7年の累積発生率は、節酒群で 0%、非節酒群で 15.3%であった

(p = 0.0015) (節酒群の発生数が 0のため、HR は推定できず, p = 0.0003) (図

15)。

図 15 節酒群と非節酒群における 4 次癌の累積発生率曲線

4 次癌の 7 年の累積発生率は、節酒群で 0%、非節酒群で 15.3%であった(p = 0.0015) (節

酒群の発生数が 0 のため、HR は推定できず, p = 0.0003) 。

小括

食道癌 ER 患者において中等度以上の飲酒継続は異時性多発食道癌、頭

頸部癌発生の重要なリスク因子であり、3 次癌以降もリスクは継続するこ

とが明らかとなった。

Page 36: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

31

考 察

アルコール代謝遺伝子多型は人種によりその頻度が大きく異なることが

知られている。ALDH2 ヘテロ欠損型は欧米人では 5%未満にすぎないが18、日本人では 35%であると報告されている 19。一方、ADH1B ホモ低活

性型は欧米人では 90%にのぼるが、日本人では 7%にすぎないと報告され

ている 19。このアルコール代謝遺伝子多型頻度の違いが日本人と欧米人の

食道癌組織型頻度の違いの一因であることが推定されている。

今回、多変量解析の結果、食道癌 ER 後の異時性食道癌、異時性頭頸部

癌の発症リスクは、2 次癌については ALDH2 ヘテロ欠損型、治療後の飲

酒継続であり、3次癌については治療後の飲酒継続であった。また、4次癌

については因子ごとの解析にて若年齢、治療後の飲酒継続がリスク因子で

あった。これらのうち、飲酒継続は患者自身でコントロール出来るもので

あるので、特に臨床的に重要なリスク因子と考えられた。

食道癌 ER 後の異時性食道癌、異時性頭頸部癌の発症リスクを検討した

同様な報告として、Katada らは 330 名を対象とした多施設前向き研究を

行い、治療後の飲酒継続群に比べ、禁酒群では有意に異時性多発癌発生率

が低いことを報告している 20。この研究はアルコール代謝遺伝子の検討は

行っておらず、また、観察期間も中央値 49.4ヵ月と長くはないが、多数例

の検討であり、私の研究結果と同様の結論であった。一方、Kagemoto ら

は食道癌 ER後症例 117例を対象に後ろ向き研究を行い、多変量解析の結

果、ADH1Bホモ低活性型、ALDH2ヘテロ欠損型、喫煙者が異時性癌発症

リスクであり、飲酒はリスク因子では無かったと報告している 15。私の検

討結果と異なる理由は不明であるが、治療前の飲酒喫煙歴しか検討してい

ないこと、経過観察期間が短いこと(中央値 38.8 ヵ月)が主な理由と考え

られる。私の長期間(観察期間中央値:80.0ヵ月)の検討からは、異時性

癌発症予防のためには節酒が重要であり、特に ALDH2 ヘテロ欠損型にお

いて重要であることが示された。さらに飲酒継続は 2 次癌だけでなく、3

次癌以降の最も重要な発症リスクであることが示された。

食道扁平上皮癌は従来、予後の悪い疾患とされてきたが、早期に発見さ

れれば良好な予後が望めることが明らかにされている。食道粘膜内癌に対

する ER 後の 5 年生存率は 89%-95%2,21,22とされており、患者の QOL を

保つためにも、異時性多発癌の発症を予防することは重要であると考える。

食道は内腔の狭い臓器であり、しばしば ER 後の狭窄や嚥下障害が問題と

Page 37: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

32

なる。仮に初回治療でこのような有害事象が生じなくても、繰り返される

ER により切除後瘢痕が複数生じ、結果的に嚥下障害につながることも考

えられる(図 15)。また、頭頸部癌も早期に見つかれば ER 可能であるが、

同様に切除後瘢痕による嚥下障害は来たしうる(図 16)。

食道癌 ER 患者に対しては、異時性多発癌が進行した状態で発見される

リスクや、繰り返される治療の経済的、社会的負担のみならず、このよう

な将来的な QOL 低下のリスクについて十分に説明し、厳しい節酒指導が

必要と考えられた。

図 15 食道癌 ER 後における狭窄

左の画像は食道癌に対しての ER 前に癌の周囲にマーキングをしたあとの画像。画面中

央の淡い不染帯が食道癌である。中央の画像は ER 後の潰瘍底の画像。画面の 1 時方向か

ら 11 時方向まで 3/4 周を越える広範囲な潰瘍である。右の画像は ER 後に生じた狭窄の

画像。通常の内視鏡が通過できないほどの狭窄である。

図 16 咽頭癌 ER 後における瘢痕

瘢痕により、右の披裂部と下咽頭後壁が癒着している。

Page 38: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

33

なお、今回、異時性癌を食道癌と頭頸部癌に分けた場合、前者のリスク

因子が ALDH2 ヘテロ欠損型であったのと異なり、後者のリスク因子は

ADH1B ホモ低活性型であった。ADH1B ホモ低活性型の飲酒が頭頸部癌

のリスク因子であることは既に報告されている 23-25、同様のことが日本人

における食道癌 ER 患者にもいえることが明らかとなった。今後はサーベ

イランスの個別化、例えば ALDH2 ヘテロ欠損型の食道癌 ER 患者に対し

ては内視鏡検査の間隔をより密に行う、ADH1Bホモ低活性型の食道癌 ER

患者に対しては頭頸科医による診察の間隔をより密に行う、などの検討も

必要と考えられた。また、臨床において節酒を指導することが難しいこと

をたびたび経験する。本症例においてもmoderateまたは heavy以上の飲

酒歴を有する 110例において、節酒出来た症例(治療後、飲酒量が lightも

しくは rareに下がったもの)は、65例(59%)にとどまっている。今後、本

研究の結果を踏まえ、非節酒群に対しては、必要に応じて精神科などの専

門科コンサルトを考慮すべきと考える。

なお、本研究においては ADH1Bおよび ALDH2の遺伝子多型について、

全例で唾液採取のみで簡便に解析結果を得ることが可能であった。今後、

同解析法は、他のアルコール関連疾患の研究や、日常診療における体質検

査、生活指導に応用できる可能性があると考えられた。

本研究の limitationとしては単施設による後ろ向き観察研究であること

があげられるが、前向き試験で一つの疾患 cohortに対し、これだけ長期間

の定期的な追跡調査を行うことは容易ではなく、後ろ向き観察研究である

からこそ長期間の検討、ひいては 3 次癌以降の発症リスク検討も行えたと

考える。過去の研究よりも本研究における異時性癌(異時性食道癌+異時性

頭頸部癌)の発生が多いことも、長期間の追跡調査が行われたためと推察さ

れる。

Page 39: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

34

総括および結論

本研究では、ADH1B / ALDH2 遺伝子型、および治療前後の飲酒喫煙習

慣による食道癌 ER 後の異時性食道癌、異時性頭頸部癌の発症リスクを明

らかにすることを目的とする研究を行った。その結果、以下の新知見を得

た。

1) 多変量解析の結果、食道癌 ER後の異時性食道癌、異時性頭頸部癌の発

症リスクは、2次癌については ALDH2ヘテロ欠損型、治療後の飲酒継

続であり、3次癌については治療後の飲酒継続であった。

2) 異時性癌を食道癌と頭頸部癌に分けた場合、前者のリスク因子が

ALDH2 ヘテロ欠損型であったのと異なり、後者のリスク因子は

ADH1Bホモ低活性型であった。

3) 食道癌 ER後の患者において、ADH1Bおよび ALDH2の遺伝子多型に

ついて、全例で唾液採取のみで簡便に解析結果を得ることが可能であっ

た。

1)の新知見から食道癌 ER 患者において中等度以上の飲酒継続は異時性

多発食道癌、頭頸部癌発生の重要なリスク因子であり、3 次癌以降もリス

クは継続することが明らかとなった。今後は、食道癌 ER 患者において厳

しい節酒指導が必要であり、必要に応じて精神科などの専門科コンサルト

を考慮すべきである。

2)の新知見から ALDH2 ヘテロ欠損型の食道癌 ER患者は、異時性食道癌

の発生に注意が必要であり、ADH1B ホモ低活性型の食道癌 ER 患者は頭

頸部癌の発生に注意が必要である。今後は、サーベイランスの個別化など

の検討も必要と考えられた。

3)の新知見から今後、同解析法は、他のアルコール関連疾患の研究や、日

常診療における体質検査、生活指導に応用できる可能性があると考えられ

た。

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35

謝 辞

本研究の機会を与えてくださった北海道大学大学院医学研究院内科学分

野 消化器内科学教室 坂本直哉教授に深く感謝いたします。また、直接

ご指導いただいた北海道大学病院光学医療診療部 清水勇一准教授に心よ

り御礼申し上げます。

さらに、本研究を支えてくださった消化器内科学分野の皆様に、そして

最後に、私自身を支えてくれた家族に感謝いたします。

Page 41: ADH1B / ALDH2遺伝子型と飲酒習慣による食道癌内 …...carcinoma after endoscopic resection for squamous cell carcinoma of the esophagus based on genetic polymorphisms

36

引用文献

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