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Tomonari Taira, Kouji Katano, Kazuya Yamaguchi 平成24年度 コンクリートブロック据付支援システムの開発 ―水中部可視化ソーナーについて― (独)土木研究所 寒地土木研究所 寒地機械技術チーム ○平 伴斉 片野 浩司 山口 和哉 港湾における水中のコンクリートブロック据付支援となるシステムの開発を行っている。 H23年度は、据付作業の効率化・潜水作業の削減のため、潜水士の目の変わりとなる水中部の ブロック可視化技術を検討した。 その中で、水中部可視化機器として、マルチビームソーナー、サイドスキャンソーナー、音 響カメラを用いて基礎試験を行ったので、その結果を報告する。 キーワード:水中ブロック、マルチビームソーナー、サイドスキャンソ-ナー システム開発 1. はじめに 港湾・漁港の水中ブロック据付は、目印旗や堤体にマ ーキングすることによって施工区域内を設定し、据付を 行っている。 その水中確認作業は、潜水士の目視によって行われて いるため、クレーンによる据付作業中に潜水士が水中ブ ロックに挟まれることによる骨折や死亡事故などの危険 にさらされている。( 写真-1 ) さらに、積雪寒冷地である北海道の港湾工事は、波浪 や海水温の低下などの影響を受けることから作業可能期 間が本州と比較し短く効率の良い作業方法が求められて いる。 そこで、本研究では、据付作業の効率化、潜水作業の 削減を目的として港湾・漁港にて行われる水中ブロック の据付支援システム開発について検討を行う。 具体的には、クレーン台船や起重機船のクレーン先端 部をGPSなどによって把握し、次に据え付ける水中ブロ ックの位置誘導や水中部可視化ソーナーなどにより水中 の施工状況の把握を行う総合的なシステム開発を行う。 本報告では、潜水士・クレーンオペレータのヒアリン グやシステムに組み込むための水中部可視化ソーナーの 基本試験を行ったのでその結果を報告する。 写真-1 コンクリートブロック据付作業 2. 現場ヒアリング 潜水士は、陸上と違い水圧や水温・浮力などの影響を 受けるなど、作業環境が大きく異なるため、潜水士、ク レーンオペレータ及び現場代理人から作業実態、作業工 程等についてヒアリング調査を行った。 写真-2 現場ヒアリング(羽幌港) ヒアリング調査は、水中ブロックの据付作業を行って いる網走港、羽幌港の2現場で行った。結果を以下に示 す。 ・積み方は乱積みである。 ・64t大型消波ブロックの日施工量は、実施工量で視 界の良い場所は16個程度、視界が良くない場所では、 8個程度である。(歩掛では16個) ・施工断面が決まっており、乱積みは水面付近で高さ 合わせを行うのが難しい。 ・4t程度までは潜水士が手で位置合わせ可能であるが、 大きいブロックは危険であるため近寄らない。 ・潜水士の確認により、吊り方を変えて投入する。 ・積み方は、法尻の1個目を合わせるのが最も難しい。 ・水中写真は撮影するが、透明度が悪いため見えない。 ・撤去時は泥が舞い上がり、視界が悪くなる。この時 潜水士 水中ブロック

―水中部可視化ソーナーについて―thesis.ceri.go.jp/db/giken/h24giken/JiyuRonbun/AA-11.pdf発生することや作業中止となることがわかった。 3. 水中部可視化ソ-ナー機器

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Page 1: ―水中部可視化ソーナーについて―thesis.ceri.go.jp/db/giken/h24giken/JiyuRonbun/AA-11.pdf発生することや作業中止となることがわかった。 3. 水中部可視化ソ-ナー機器

Tomonari Taira, Kouji Katano, Kazuya Yamaguchi

平成24年度

コンクリートブロック据付支援システムの開発 ―水中部可視化ソーナーについて―

(独)土木研究所 寒地土木研究所 寒地機械技術チーム ○平 伴斉

片野 浩司

山口 和哉

港湾における水中のコンクリートブロック据付支援となるシステムの開発を行っている。

H23年度は、据付作業の効率化・潜水作業の削減のため、潜水士の目の変わりとなる水中部の

ブロック可視化技術を検討した。

その中で、水中部可視化機器として、マルチビームソーナー、サイドスキャンソーナー、音

響カメラを用いて基礎試験を行ったので、その結果を報告する。

キーワード:水中ブロック、マルチビームソーナー、サイドスキャンソ-ナー 、システム開発

1. はじめに

港湾・漁港の水中ブロック据付は、目印旗や堤体にマ

ーキングすることによって施工区域内を設定し、据付を

行っている。 その水中確認作業は、潜水士の目視によって行われて

いるため、クレーンによる据付作業中に潜水士が水中ブ

ロックに挟まれることによる骨折や死亡事故などの危険

にさらされている。(写真-1)

さらに、積雪寒冷地である北海道の港湾工事は、波浪

や海水温の低下などの影響を受けることから作業可能期

間が本州と比較し短く効率の良い作業方法が求められて

いる。 そこで、本研究では、据付作業の効率化、潜水作業の

削減を目的として港湾・漁港にて行われる水中ブロック

の据付支援システム開発について検討を行う。

具体的には、クレーン台船や起重機船のクレーン先端

部をGPSなどによって把握し、次に据え付ける水中ブロ

ックの位置誘導や水中部可視化ソーナーなどにより水中

の施工状況の把握を行う総合的なシステム開発を行う。

本報告では、潜水士・クレーンオペレータのヒアリン

グやシステムに組み込むための水中部可視化ソーナーの

基本試験を行ったのでその結果を報告する。

写真-1 コンクリートブロック据付作業

2. 現場ヒアリング

潜水士は、陸上と違い水圧や水温・浮力などの影響を

受けるなど、作業環境が大きく異なるため、潜水士、ク

レーンオペレータ及び現場代理人から作業実態、作業工

程等についてヒアリング調査を行った。

写真-2 現場ヒアリング(羽幌港)

ヒアリング調査は、水中ブロックの据付作業を行って

いる網走港、羽幌港の2現場で行った。結果を以下に示

す。

・積み方は乱積みである。

・64t大型消波ブロックの日施工量は、実施工量で視

界の良い場所は16個程度、視界が良くない場所では、

8個程度である。(歩掛では16個)

・施工断面が決まっており、乱積みは水面付近で高さ

合わせを行うのが難しい。

・4t程度までは潜水士が手で位置合わせ可能であるが、

大きいブロックは危険であるため近寄らない。

・潜水士の確認により、吊り方を変えて投入する。

・積み方は、法尻の1個目を合わせるのが最も難しい。

・水中写真は撮影するが、透明度が悪いため見えない。

・撤去時は泥が舞い上がり、視界が悪くなる。この時

潜水士

水中ブロック

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は、視界がクリアになるまで待つ。

・波が無くても、濁りで中止する場合がある。

以上の結果より、水中ブロックの施工方法は乱積みで

行われており、水面付近の施工や法尻の位置をあわせる

のが難しいことがわかった。

また、水中の視界が不良の場合には、施工待機時間が

発生することや作業中止となることがわかった。

3. 水中部可視化ソ-ナー機器

(1) 水中部可視化ソ-ナーの機器調査 ヒアリング調査の結果より、水中ブロック据付作業に

おいて、海中部の視界不良により据付作業が出来ないな

ど作業効率が下がることを確認したことから、システム

に取り入れる水中部可視化ソーナーの調査を行った。

調査対象は、水中部可視化ソーナーの中でシステム開

発に期待できるマルチビームソ-ナー、サイドスキャン

ソーナー、音響カメラとし、作業進捗状況がリアルタイ

ムに把握が可能であるかなどを評価した。各ソーナーの

特徴を以下に示す。

(2) マルチビームソ-ナー マルチビームソ-ナーとは、ソーナーヘッドより海底

に向け左右放射状に指向性の鋭い音響ビームを240本送

受信し、超音波の跳ね返りの時間差で海底の水深を測る

装置である。(図-1)

なお、出力データは断面的な2次元のデータであるが

船舶が移動しながら、記録することで3次元データが出

力可能である。(図-2)

図-1 マルチビームソーナーの計測イメージ

図-2 マルチビームソーナー計測画面

(3) サイドスキャンソ-ナー

サイドスキャンソ-ナーとは、横方向に平面的な扇形

の音響ビームを発信し、海底や構造物で音響ビームが反

射し戻ってくる音波の強弱を画像化する装置である。

今回、評価するサイドスキャンソーナーは、導入コス

トを考慮し50万円以下の2機種を選択した。(図-3) 2つのサイドスキャンソーナーの違いは、計測幅であ

る。HDS-10の片側の計測幅は、75°(37.5°×2)であり、

HUMMINBIRDの片側計測幅は、86°である。このため、水

面付近まで計測可能である。(図-3) また、マルチビームソーナーの取得データは1点毎の

水深値を保有した点群データであるのに対し、サイドス

キャンソーナーの取得データは、水深値が無い画像デー

タである。(写真-3)

図-3 サイドスキャンソーナー

(HDS-10、HUMMINBIRD)

写真-3 サイドスキャンソーナーデータ

(4) 音響カメラ 音響カメラは、光学式のカメラと異なり、超音波の跳

ね返りの強弱によって画像を作成することができるカメ

ラである。超音波の跳ね返りが強いところは明るく、弱

いところは暗く画像を作成している。暗いところや濁り

ある条件でも物体を動画にて撮し出すことが最大の特徴

である。指向角や撮影範囲は(図-4)のとおりである。3)

取得時は断面的

な2次元データ

断面を移動しながら記録する

ことで3次元データとなる

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撮影範囲

14゜

29゜撮影距離

撮影角度

図-4 音響カメラ

なお、取得データのデータフォーマットがメーカーHP

にて公開されているため、別途ソフトウェアの作り込み

が可能である。

4.水中部可視化ソ-ナーの試験

試験は、苫小牧西港第2船溜まりの水中ブロック(消

波ブロック)が乱積みされている場所で行った。(写真-4)

写真-4 試験場所

(1) 計測試験方法 マルチビームソ-ナーやサイドスキャンソーナーの取

得データは2次元の平面的なデータであり、計測に用い

る場合には船舶に架装し移動計測を行うことで3次元デ

ータとして表現できる。クレーン台船などに架装する場

合には、何らかの移動機構や回転機構にて作動させ、立

体的にする必要がある。そのため、船舶にソーナーを艤

装し回転計測及び測線計測を行った。 マルチビームソーナーは曳航体に架装したため、船舶

ごとの回転計測及び測線計測を行った。(写真-5)

サイドスキャンソーナーは、船舶に架装した状態でポ

ールを回転させて計測を行った。(写真-6、7)また、サ

イドスキャンソーナーを艤装した船舶を航行させ測線計

測データ取得を行った。 なお、測線計測は、サイドスキャンソーナー、マルチ

ビームソーナーともに水中ブロックより10m及び20m離れ

た場所から計測を行った。(写真-4) 音響カメラについては、サイドスキャンソーナーを音

響カメラに取り換えて測線計測と同様に計測を行った。

写真-5 マルチビームソ-ナーによる計測方法

写真-6 サイドスキャンソ-ナーの艤装

写真-7 サイドスキャンソ-ナーによる計測

(2) マルチビームソーナーの試験結果

マルチビームソーナーを用いて回転計測、測線計測を

行った結果、リアルタイムにてコンクリートブロック形

状を把握することは困難であった。(図-5) また、正常にデータ取得が行われていたかを判定する

ために、同データを後処理ソフトにて解析を行った。

(図-6、7)

茶色部分のデータが水中ブロックである。正常なデー

タ取得はできていたが、回転計測のデータは一度回転し

ただけのデータであったため、データ密度が薄く形状把

握は困難であった。

試験場所

測線計測 離れ10m

測線計測 離れ20m

回転計測はポールを

180°回転。(手動)

測線計測時は、固定

し、船を航行させた

回転計測

測線計測

回転計測

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測線計測は、水中ブロックより10m、20離れて計測し

たデータで形状確認ができたが、水中ブロックより近い

方が高密度でデータ取得が可能であった。(図-7) 以上のことより、回転計測よりも測線計測のほうが高

密度でデータ取得が可能であるが、リアルタイムにて水

中ブロックの形状把握にはいたらなかった。ソフトの作

り込みによって形状把握できる可能性もあるが、日々作

業の進捗や段階確認に使用することが最適であると考え

る。

図-5 マルチビームソーナーのリアルタイムデータ

図-6 回転計測(離れ10m、20m)

図-7 測線計測(離れ10m、20m)

(3) サイドスキャンソーナーによる試験結果

サイドスキャンソ-ナー(HDS-10、HUMMINBIRD)を用い

てリアルタイム回転計測を行った結果を示す。(写真-8、

9) なお、比較対象は、マルチビームソーナーにて計測し

たデータとした。(図-8)

回転計測は、HDS-10、HUMMINBIRDともに、水中ブロッ

クが歪んだ画像であり、正常な水中ブロック形状の把握

ができなかった。

写真-8 回転計測の結果(HDS-10)

写真-9 回転計測の結果(HUMMINBIRD)

図-8 マルチビーム基準データ

原因として、手動によって回転を行ったことから、回

転速度が一定でなかったことが考えられる。また、方位

計などの補正データが入っていないことも考えられる。

次に、測線計測にて計測した結果を以下に示す。(図-

9、10)

HDS-10、HUMMINBIRDとも、ブロックの形状をある程度

把握できるが、歪んだ画像である。また、直下より左右

の振動子がとらえた画像表示となるため、リアルタイム

にブロック形状を判断するためには、熟練が必要である。

90°どちらかに回転した画像が出力できれば見やすくな

るが、ソフトウェアを作成する上でのデータフォーマッ

トが公開されていないため、作成するのが難しい。

また、正常なデータ取得が出来ていたかを検証するた

めに取得したデータを専用の後処理ソフトを用いて解析

を行った結果、全体的な水中ブロックの様子が写し出さ

れており、正常なデータ取得が出来ていた。(図-11)

測線計測の結果、正常なデータ取得が行われているこ

とがわかったが、サイドスキャンソーナーのデータは画

像データであるため、絶対的な施工量の把握は出来ない。

比較箇所

基準ライン

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しかし、マルチビームソーナーと同様にデータを日毎や

段階的に取得し、比較することで作業進捗状況などに使

用できる。

図-9 測線計測の結果(HDS-10)

図-10 測線計測の結果(HUMMINBIRD)

図-11 サイドスキャンソーナーの解析

(6) 音響カメラによる 試験結果 音響カメラを使用し水中ブロックを計測した結果を示

す。(図-12)

音響カメラの試験中は波浪の影響による船舶の動揺が

図-12 船舶による音響カメラの試験結果

大きく、データ収録には不向きな条件下であったが、リ

アルタイムに水中ブロックの形状をある程度把握するこ

とができた。

綺麗に画像取得ができなかった原因は、船舶の移動速

度や船舶の動揺が影響したからである。但し、水中ブロ

ック据付作業時において起重機船やクレーン台船は、ア

ンカーや岸壁などを利用しながら作業を行うことから、

船舶などの移動体よりも音波密度が高く取得できるため、

綺麗な画像となると考えられる。

5. まとめ

コンクリートブロック据付支援システムに導入する水

中センサーの基礎試験として、超音波測深装置の比較を

行った。

水中可視化技術の試験結果をまとめると表-1のとおり

である。

表-1 試験結果

ソナー名 マルチビーム HDS-10 HUMMINBIRD 音響カメラ

測線計測 ○ ○ ○ ○回転計測 × △ △ -

リアルタイムでのブロック形状認識

× × × △

データフォーマットの公開

○ × × ○

システム開発の可能性

△施工管理

△施工管理

△施工管理

○要上下左右移動機構

マルチビームソーナー、サイドスキャンソーナーは、

リアルタイムのブロック形状認識が不可能であったが、

日々の進捗状況や段階確認時を行い施工管理に利用でき

ることがわかった。音響カメラは、リアルタイムで水中

ブロック据付状況の確認ができる可能性があることがわ

かった。但し、音響カメラの画角が決まっているため、

起重機船などに架装する場合の取付時には、上下左右の

移動機構が必要である。

そのため、音響カメラを撮影範囲を可動できる装置に

取り付けてデータ取得を行っていく。

今後は、クレーン台船などから上記ソーナーを架装し

てのデータ取得やクレーン先端部の位置を把握するGPS

等を取付けてクレーンオペレータに投入支援を行う総合

的なシステムの開発について検討を行う。

謝辞:本研究に対し、ご協力いただきました室蘭開発建

設部、網走開発建設部、留萌開発建設部の関係各位に心

から感謝の意を表します。

参考文献

1) 海洋音響学会:海洋音響の基礎と応用 P139.

2) 海洋音響学会:海洋音響の基礎と応用 P153.

3) (独)土木研究所寒地土木研究所 国際航業株式会社:水中

構造物点検技術に関する研究.

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