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グローバル金融インフラと アジア・日本の視点 世界的な情報革命・データ革命の中で 2018312日本銀行決済機構局長 資料3

グローバル金融インフラと アジア・日本の視点...グローバル金融インフラと アジア・日本の視点 ー世界的な情報革命・データ革命の中で-

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グローバル金融インフラとアジア・日本の視点ー 世界的な情報革命・データ革命の中で -

2018年3月12日

日本銀行決済機構局長

山 岡 浩 巳

資料3

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山岡 浩巳

1963年生

1982年 筑波大附駒場高卒

1986年 東京大学法学部卒 日本銀行入行

1990年 カリフォルニア大学バークレー校ロースクール卒(LL.M)米国ニューヨーク州弁護士

(~2010年) 国際通貨基金(IMF) 日本国理事代理

(~2013年) バーゼル銀行監督委員会メンバー

(~2015年) 日本銀行金融市場局長

国際決済銀行(BIS) 市場委員会メンバー

( 現 在 ) 日本銀行決済機構局長

国際決済銀行(BIS) 決済・市場インフラ委員会メンバー

本日は、グローバル金融危機以降の中銀間の国際的な議論を鳥瞰したうえで、前回会合(昨年6月)以降の日本銀行の取り組みを中心にご説明申し上げたい。

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近代的中央銀行は、国民国家成立の後、支払決済の

基盤インフラを経済社会に提供する主体として誕生

・ 多くの中央銀行は危機の収拾・管理を契機に誕生(日本銀行、米国連邦準備等)。

― 例外的に長い歴史を持つリクスバンクやイングランド銀行は、当初は商業銀行の色

彩が濃厚であり、その後近代的中央銀行に変貌。

― マクロ政策としての金融政策の歴史は、より新しい(概ね1930年代の大恐慌以降)。

中央銀行は、経済社会の変化に対応し、利用可能な技術

技術を取り入れながら、インフラの革新を進めてきている

・銀行券の偽造対策。デジタル技術を取り入れた大口決済システム(RTGS)の構築等。

(⇒経済社会に、インフラとしての「中央銀行マネー」を提供)

経済のグローバル化やイノベーションなどに対応し、支払決済・金融の安定や経済・金融市場の発展に寄与するインフラ整備を進めることは、中央銀行の重要な使命。

Preface

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1. 10年ひと昔ー 2008年の経験とインフラへの教訓 ー

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1.2008年のグローバル金融情勢

グローバル金融危機

・「リーマンショック」(2008年9月)

・アイスランド、ラトビア等、ソブリン危機も世界に拡大。

・G20サミット(金融・世界経済に関する首脳会合)はこの時に発足。

公的資金投入・世界的な金融規制強化(⇒バーゼルⅢ)

・大規模銀行(G-SIB)の「システミックな重要性」の抑制。

(⇒ 当局が大規模銀行の制御可能性を取り戻す試み)

スマートフォンは誕生直後。仮想通貨は誕生前

・iPhone登場は2007年(2008年当時は、スマホを持っている人自体多くない)

・bitcoin登場は2009年、ブロックチェーン・分散型台帳も無かった。

シェアリング・エコノミーなどの新しい産業も未発達

・Airbnb設立は2008年8月、Uber設立は2009年

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グローバル金融危機の克服と教訓

危機の拡散・スピルオーバーを防ぐには?

・「流動性確保」の重要性

― Fire Sales(金融市場の価格下落の連鎖)の防止、信認の確保。

・GFCの真っ只中では、中銀の流動性供給(含むスワップ)が大きな役割。

危機の再発を防ぐには?

・世界的な「モラル・ハザード防止」、「Too-big-to-fail解消」の取り組み。

― 米国等では、中銀流動性への依存を低下させる制度的手当もなされた。

・平時からの流動性確保

― バーゼルⅢ流動性規制の導入

― 平時からの(外貨も含む)流動性調達ファシリティ(例:レポ調達)の確保

・危機防止にも資するインフラ整備

― 清算集中合意(2009年G20ピッツバーグサミット)

― 「取りはぐれ」「ヘルシュタットリスク」を防ぐDVP・PVPファシリティ

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(参考1)外貨流動性調達ファシリティスワップ(中銀間・二国間)(+ドル資金供給オペ等)

クロスボーダー担保 クロスボーダー・レポ

・迅速な危機対応が可能。

・「グローバルなLLR網」。

・中銀等に依存する流動性

調達(モラルハザードのリ

スクを伴う。「グローバル

LLR」)。

外貨流動性

・外貨資金の供給は中銀

に依存するが、担保の確

保は自助努力。

・手持ちの担保(例:邦銀

が東京で持つJGB)を活用

でき、fire salesを防げる。

担保化

外貨流動性

・外貨資金・担保とも自助

努力(⇒モラルハザードの

問題を生じない)。

・平時からの金融市場(レ

ポ市場)育成にも資する。

・(危機時も踏まえれば)

DVP等が可能なインフラが

あるかどうか?

レポ市場

外貨流動性

中銀 中銀

金融機関

中銀 中銀(証券●)

金融機関

中銀 中銀

金融機関

金融機関

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外貨流動性ファシリティは、重層的に整備されれば

グローバル金融安定に一段と寄与

①まずはレポ等での自力調達、

②自力調達が難しいなら、手持ちの担保を活用するクロスボーダー担保、

③最後の手段としての中銀間スワップ(Global LLR)

といったインフラが整備できれば、市場育成やモラルハザード防止に寄与しながら、

危機の拡散も防止できる可能性が高まる。

“Too-big-to-fail”の解消⇒いかなる民間債務もアプリオリ

には安全ではない

・一方で、リスクに対し、経済主体・当局はますます敏感に。

優れたインフラは、危機の拡散を防止し、グローバル金融安定に寄与し得る

-市場機能を活かしつつ全体としての金融安定を確保する「マクロ・プルーデンス」の視点 -

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⇒中銀マネー・中銀インフラに期待される役割は大きい。

● 近年、以下のインフラ政策を採る中央銀行が目立っている。

中銀決済システムの夜間・週末の提供

・民間の1年365日・1日24時間決済を中銀マネーで支援(欧州中銀、豪準銀)等。

・中国は人民元国際化を企図し、大口決済システム(HVPS)の稼動時間を本年1月

22日より前日23時30分~当日17時15分へと大幅延長。

中銀決済システムの参加者拡大

・FinTech型支払決済サービス企業の参加(イングランド銀行)等。

中銀決済システムの相互運用性(interoperability)拡大

・共通の電文フォーマットの採用等。

● 最近では、「中銀デジタル通貨」も国際的に議論されている。

⇒ これらはいずれも、「中銀マネーというリスク・フリー決済手段を、

経済社会にどこまで踏み込んで提供するか?」という問題

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2.変貌する世界ー 大きく変化するアジア・グローバル金融 -

(情報・データの媒体・プラットフォームとしての支払決済)

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全地球規模の情報革命・データ革命・スマートフォン、ブロックチェーン・分散型台帳、AI・ビッグデータ

・SNSの発達等を背景とするデータ量の飛躍的増加(最近10年間で産み出された

データ量は、それまでに人類が産み出したデータ量を遥かに超える)

金融サービスのグローバルな拡大・金融包摂・スマートフォンはわずか10年の間に、新興国・途上国も含め世界中で爆発的に

普及。これを用いた金融サービスも急拡大。(⇒デジタル化と金融包摂)

・10年前には殆ど知られていなかった中国のTencent、Alipay、インドのPayTMなどが、今や数億人の顧客を持つ世界最大級の金融サービス企業に急成長。

「データ・ジャイアント企業」の登場・Amazon, Google, Facebook, Tencent, Alibabaなど、この10年間に急成長し

た巨大企業は、いずれも「小売」、「通信」といった従来の業態区分では括れない。

しかし、巨大プラットフォームを基に膨大なデータを蓄積していることは共通。

・これらの企業(GAFA,BAT)は今や、個人データを国家以上に蓄積(人間の「データ

セット」化)。大銀行もこれらの企業を競争者として強く意識。

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(参考2)「データ・ジャイアント」の登場― GAFA, BAT ―

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時価総額比較(2017/7月)

データは、①利用しても滅失せず、②保管に場所の制約が少

なく、③集積するほど限界的効用が高まることがあり得る。

⇒ データベース・プラットフォームはますます巨大化。

⇒ データ蓄積において国家を凌駕する巨大企業の登場。

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新たな経済活動(Airbnb、Uber等シェアリングエコノミー、 eコマース等)の急拡大・共通する特徴は、①ビッグデータ活用、②支払決済など金融サービスとのリンケー

ジ、③不特定多数の評価を通じた信頼の確立。

新たなシステミック重要性・銀行の「預金量」や「バランスシート規模」を脅威とみる議論は後退(「店舗・ATM網」など、かつての銀行の強みとされた要素は、むしろレガシー化するリスク)。

・一方、グローバル金融において、「ビッグデータ」、「巨大ITプラットフォーム」、「クラウド」などのシステミックな重要性が高まっている。

・2009年G20サミットの清算集中合意などを背景に、CCPなど金融市場インフラの重要性も増加(Brexitの際にも、巨大清算機関LCHの所在地問題が大きな争点)。

仮想通貨などの新しいリスク・仮想通貨・ICOでは、「ハイテク」のイメージが投機を煽る方向に?(⇒GFCにおい

て、サブプライムを組み込んだ証券化商品の複雑さが、むしろ「高度な金融技術の

イメージ」を通じて投機を煽る方向に働いたことと類似)

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アジアの変化は特に顕著- 金融包摂、デジタル化、「データ・ジャイアント」全ての面で -

中国では、「BAT(Baidu, Alibaba, Tencent)」と呼ばれる巨大企業が急

成長。キャッシュレス決済(WeChatPay, Alipay)も急拡大。

インド(10億人規模の国民を一気にデータベース化、高額銀行券を

廃止<2016年11月>)、シンガポール・香港(フィンテック推進)、韓

国、インドネシア、フィリピン、マレーシア(キャッシュレス決済が急速

に進行)、タイ(リテール送金)等、他の国々でも大きな変化。

フィンテックが金融・経済のlandscapeを最も大きく変えたのはアジア。

⇒ アジアの視点から、情報革命・データ革命の中での

新たな金融インフラのあり方を追求していくことは、

グローバルな金融インフラの進化にもつながる。

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(参考3)アジアの急速なデジタル化- レガシーがないことが、むしろ変化の速さにつながっている面 -

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(現金残高)

(中国のモバイル決済額)

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(参考4)データ・ジャイアントの「範囲の経済」の核はビッグデータやプラットフォーム(預金ではない)

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商業等各種ビジネス(例:eコマース、シェアリングエコノミー、各種レンタル)

ビッグデータITプラットフォーム情報処理

金融仲介(例:貸出、有価証券投資)

支払決済

銀行

支払決済+eコマース(PayPal, 楽天等) ポイントカードビジネス

P2P融資

クラウドファンディング、ロボアドバイザー

この全てを狙う巨大企業が登場!

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(Alipay資料より)

(参考5)情報革命・データ革命の下での新たな金融の姿

データ・ジャイアントは、支払決済など金融サービスの提供を、

データ収集やプラットフォーム構築のツールと位置付ける傾向。

― 支払決済サービスから直接に手数料を得ることよりも、むしろ、プラットフォームを

構築し、蓄積したデータを広範なサービスに活用することを目指している。

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(参考6)中国データジャイアントの金融サービス― 金融は、あくまで生活全般をカバーするサービスの一部 ―

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QRコードによる決

済、送金

口座間送金

映画館座席予約

飛行機、電車予約

MMF投資

個人信用スコア

レンタル自転車

タクシー予約

このほかにもエアB&B予約、保険購入、Eコマー

ス、割り勘など

旅先での情報(カード限度額引上げ、ローミング、人気店情報、タクシー予約など)

都市サービス(税金・公共料金支払、病院予約、交通違反検索、交通カードチャージ、台風情報など)

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(参考7)受取側がQRコードを掲示する決済

① 受領者(店)がQRコー

ドを掲示し、支払者がスマホでコードを読む

② 支払者は金額を入力し、送金

③ 受領者(店)は、受領をSMSまたは取引履歴で確認

(青果店)

(鮮魚店)

(デリバリー)

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(参考8)不特定多数の評価による信頼構築システム

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シェアリング・エコノミー等のニュービジネスと結びついた金融

サービスは、ビジネスに必要な「信頼」を「多数による双方向評

価」で確立することを目指す評価システムと一体。

- シェアリング・エコノミーやeコマースは「見ず知らず同士の取引」が多い。

― これは、従来の「老舗」や「お得意様」、「一見さんお断り」といった長期安定的な

関係に基づく信頼確立のシステムと対照的。

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(参考9)中国のウーバー配車・支払・評価

① 近くにいる車を探す。

車種、運転手評価、何分で来るか、どこにいるかを見て車を選ぶ

② 車に乗る。

カーナビはなく、スマホ利用

③ 車を降りると、運転手起動で走行距離、時間、金額が送られてくる

④ 指紋認証で決済し、運転手評価を入れる

運転手側も、乗客を評価

運転手と乗客が互いに評価し合うことで信頼を担保(分散型の信頼評価システム)

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(参考10)データ・ジャイアントによる「個人のデータベース化」

巨大企業による、金融サービス等を通じた個人のデータベース化が急速に進行。

― 例:「ポイント機能付カードで買う方が現金で買うより安い」⇒企業が個人からデータを買っているのと同じ。

誤ったデータが蓄積された人々や、データ供出に慎重な人々などの救済をどうする

か等、データの利用と個人の尊厳の両立が、ますます重要な課題に。

― ビッグデータの利用が、事実上の差別や金融サービスからの排除に繋がる可能性も。

情報・データの取扱いが、競争条件などを左右しやすい。

― 極端に言えば、プライバシー等を気にせず人間のデータベース化が簡単にできる国の方が有利となりか

ねない(⇒個人の尊厳などの問題を孕む)。

Page 23: グローバル金融インフラと アジア・日本の視点...グローバル金融インフラと アジア・日本の視点 ー世界的な情報革命・データ革命の中で-

邦銀の海外貸出の増加

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邦銀はこの10年間、国内での運用難や海外G-SIBのリストラな

どを背景に、海外での貸出を一貫して増やしている。

- 邦銀にとって、平時からの外貨調達ファシリティの重要性も増している。

(3メガ行の海外貸出残高) (邦銀の地域別国際与信シェア)

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外貨調達コストの高止まり

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ドル調達コストは、高止まっている。

- 平時からの外貨調達ファシリティの確保は、邦銀進出先での安定的な金融仲介

に加え、金融安定の観点からも重要。

(ドル調達プレミアム) (ドル調達コスト)

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邦銀のアジア向け与信

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邦銀によるアジアでの現地通貨建て与信も増加している。

- アジア通貨を現地で調達するファシリティの確保が、一段と重要になっている。

(邦銀のアジア向け与信) (大手行の通貨別調達構造)

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3.仮想通貨と中銀デジタル通貨ー デジタル化が生んだ新たな論点 ー

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デジタル通貨の分類― 日本銀行決済機構局は、デジタル通貨を巡る国際的な議論にも積極的に参画 ―

デジタル通貨(紙や金属ではなく、電子化されているもの)

・特定主体の債務として発行され、ソブリン通貨建てで表示

・民間主体の債務として発行・・・電子マネー、デビットカード、モバイルペイメントなど

(Alipay, WeChatPay, LinePay, Swishなど多数)

・中央銀行の債務として発行・・・中銀デジタル通貨

(Central Bank Digital Currency, CBDC)

・現金を代替する形で広く一般に使えるもの・・・General Purpose CBDC(スウェーデンの”e-Krona<検討中>など)

・中銀当座預金に新しい情報技術を応用したもの・・・Wholesale CBDC

・特定主体の債務ではないもの・・・仮想通貨(Crypto-currency, Crypto-asset)(Bitcoin, Ethereum, Rippleなど)

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(参考11)仮想通貨の価格動向

仮想通貨の価格は、昨年中大幅に上昇。

― ビットコインよりも遥かに価格上昇が激しかった仮想通貨(Ripple, NEM等)も存在。

価格ボラティリティも、株や商品価格に比べてはるかに大きい。

(仮想通貨の価格) (仮想通貨のボラティリティ)

(注)ボラティリティは、2017年中のヒストリカル・ボラティリティ。(出所)Bloomberg等(出所)coinmarketcap

0

100

200

300

400

500

600

17/1 17/4 17/7 17/10 18/1 (月)

(2017年初=1)

Bitcoin

Ethereum

Ripple

NEM

0 50 100 150 200 250

原油(WTI)

Gold

EURO STOXX

S&P500

日経平均

NEM

Ripple

Ethereum

Bitcoin

(%)

Page 29: グローバル金融インフラと アジア・日本の視点...グローバル金融インフラと アジア・日本の視点 ー世界的な情報革命・データ革命の中で-

― “bitcoin”とともにグーグル検索されているワードの頻度 ―

(参考12)“bitcoin”という単語と共にグーグル検索されている言葉の変遷

29

Page 30: グローバル金融インフラと アジア・日本の視点...グローバル金融インフラと アジア・日本の視点 ー世界的な情報革命・データ革命の中で-

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(参考13)各仮想通貨の時価総額シェア 仮想通貨は2013年4月時点ではビットコイン、イーサリウム、リップルなど7種類しかな

かったが、現在では1,500種類以上の仮想通貨が存在。

ビットコインはなお最大規模の仮想通貨だが、昨年中、他の仮想通貨の価格上昇が著

しかったことや、新たな仮想通貨の発生を背景に、ビットコインのシェアは最近では

35%前後まで低下。

(各仮想通貨の時価総額シェア)

(出所)coinmarketcap

0%

20%

40%

60%

80%

100%

15/2 15/8 16/2 16/8 17/2 17/8 18/2(月)

その他

Monero

NEM

Dash

NEO

IoTA

Litecoin

Bitcoin Cash

Ripple

Ethereum

Bitcoin

Page 31: グローバル金融インフラと アジア・日本の視点...グローバル金融インフラと アジア・日本の視点 ー世界的な情報革命・データ革命の中で-

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(参考14)仮想通貨の例

仮想通貨 概 要発行開始

時価総額(USD)

月間取引高(USD)

平均手数料(USD)

ノード数平均

ブロック生成時間

Bitcoinビットコイン

ブロックチェーンを使用した初めての仮想通貨。

09/1月 1,498億(1位)

2,827億(1位)

3.25 11,223 10分

Ethereumイーサリアム

仮想通貨の送金に加え、自動的に契約を履行する仕組み(スマートコントラクト)を併せ持つ。

15/7月 850億(2位)

1,201億(2位)

0.74 25,914 15秒

Rippleリップル

処理の速さが特徴。金融機関の国際送金におけるブリッジ通貨の役割を担うものとしてスタート。

12/9月 414億(3位)

704億(4位)

0.0047 533 5秒

Bitcoin Cashビ ッ ト コ イン ・キャッシュ

17/8月のビットコインのハードフォークにより組成。

17/8月 217億(4位)

226億(6位)

0.128 1,050 10分

Dashダッシュ

匿名性の高さと処理の速さが特徴。台帳は非公開。

14/1月 50億(11位)

33億(19位)

1.59 4,786 2.5分

NEMネム

コイン保有数や取引頻度が高い者がマイニングに有利となるアルゴリズムを使用。

15/3月 49億(12位)

23億(28位)

固定(1万XEMの

送金に0.05XEM)

652 1分

Tether[USD]テザー

米ドルと連動した価値を持つ仮想通貨。

14/10月 22億(18位)

917億(3位)

Free1日1回まで

Bitcoinと同じ

Bitcoinと同じ

COMSA[ETH]コムサ

日・テックビューロ社がICOによりスタート。

17/11月 0.003億(1241位)

0.3億(324位)

0.7 Ethereumと同じ

Ethereumと同じ

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0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 (年)

KRW

EUR

CNY

USD

JPY

32

(参考15)ビットコインの取引相手方通貨 中国の規制強化を契機に、ビットコインの取引対象通貨は、2017年以降、

中国人民元から米ドルや日本円、韓国ウォンなどにシフト。

― 国際的議論では、「ビットコイン投機は東アジアで盛ん」と受け止められやすい。

(ビットコインの取引相手方通貨シェア)

(出所)jpbitcoin.com

USDCNY

EURKRW

JPY

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(参考16)ビットコイン決済(店頭の事例)―― 取引所と加盟店の間で交換レートを固定させ、その後のビットコインの価格変動リスクは取引所が負う。

加盟店 利用者

取引所

①店員がタブレット端末の専用アプリに決済金額を入力。

端末に決済金額と取引所のビットコインアドレス情報

を含むQRコードが表示される。

②利用者がビットコインウォレットでQRコードを

読み込み、表示された取引所のビットコインア

ドレスにビットコインを送付。

④後日、取引所から加盟店に、

日本円で代金を振込(最短

翌営業日)。

③取引所と加盟店は、決済時点のレートで、交

換レートを固定。

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仮想通貨の現状 ― 殆どが投機的投資の対象 ―

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各国において、仮想通貨は支払決済手段としてはあまり使われておらず、現状で

は殆ど投機的投資の対象。

― 国際的議論でも、仮想通貨が信認と使い勝手を備えたソブリン通貨を凌駕して使われて

いくとの見方は少ない。

― 日本では、一部の仮想通貨交換業者が価格変動リスクを負う形で、仮想通貨を支払に受

け入れる小売店(ビックカメラ、メガネスーパー、聘珍樓等)が存在。

仮想通貨は法定通貨ではない。誰の債務でもないし、資産の裏付けもない。

・受け取ってくれるかは相手次第。・支払決済手段としての「ネットワーク外部性」を獲得することは困難。

投機対象であり値動きが激しい。

・投機対象であることと支払決済手段であることは、本質的に矛盾(価格上昇を予想するモノを支払に使いた

がる人、価格下落を予想するモノを受け取りたがる人は少ない)。

仮想通貨は、信認をゼロから作るために多大なコストを要する。このため、既に信認を持つ中

銀が債務として発行するマネーに勝つことは難しい。

・ビットコインの場合、取引検証(マイニング)に膨大な電力を消費。一方、

既に信認を確立している中銀が債務を発行する限界コストは相当低い。

・信認を失った中銀(例:高インフレ国の中銀)には勝てる可能性があるが、

その場合でもまずは外貨が使われる可能性が高い(例:dollarization)。

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(参考17)ICO(Initial Coin Offering)■ 「資金」と「証券」の交換ではなく、①ビットコインやイーサリウム等の流通量の多

い仮想通貨を受領し、②代わりに独自の仮想通貨やトークンを発行する資金調達。

― 例えば、「ゲームソフトの開発費用をICOを通じて調達し、ゲームソフトが完成した暁には、

発行した独自の仮想通貨でゲームをプレイできるようにする」等。

■ もっとも、「資金と証券の交換」という形態を避けることで、証券関連規制を回避す

る手段となりやすいことが、消費者・投資家保護等の観点から問題視されている。

― また、昨年、ICOの拡大と並行してビットコイン等の仮想通貨の価格急騰が進んだことも、

ICOへの警戒感の高まりの背景。

■ 中国・韓国はICOを一律禁止。また、米SEC、英FCA、シンガポールMAS、金融庁等

は、①投資家・消費者にリスクに対する注意を呼び掛ける、②スキーム次第では証

券関連の規制監督の対象となり得る、等の注意喚起や警告を発出。

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(参考18)仮想通貨・ICOを巡る主要国の規制・監視強化

日本

金融庁がICO(Initial Coin Offering:仮想通貨発行による資金調達)に関して投資家に注意を呼びかける文書を発出(2017年10月)

金融庁が仮想通貨交換業者にシステムリスク管理態勢の自己点検を求める文書を発出(2018年1月)。全交換業者への立入検査を開始(2018年2月)

米国

証券取引委員会がICOを利用する際のリスク等についての注意喚起文書を公表(2017年11月、12月)

NY州金融サービス局が仮想通貨業者が詐欺等の違法行為につきガイドラインを公表(2018年2月)

スイス FINMAがICOに関するガイドラインを公表(2017年9月、2018年2月)

中国 中国人民銀行等がICOを禁止する共同声明を発表(2017年9月)

仮想通貨取引所閉鎖勧告を受け、主要取引所が閉鎖(2017年中)

韓国 金融監督院がICOの禁止を公表(2017年9月)

仮想通貨取引に際し本人確認厳格化等を求める規制を導入(2018年1月)

インドネシア インドネシア中銀が国内での仮想通貨取引を事実上禁止(2018年1月)

フィリピン ICO案件に対して証券取引委員会が停止命令を発動(2018年1月)

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SRB・イングベス総裁(2017/12/8)

ビットコインのような資産を通貨と呼ぶのは誤り。 公的な裏付けがなく価格変動も大きい、こうした資産への投資は非常に危険な行為。

Fed・イエレン議長(2017/12/13)

ビットコインが現在、支払決済に果たしている役割はとても小さい。 ビットコインは安定的な価値保存手段ではないし、法定通貨でもない。 ビットコインはとても投機的な資産。

RBA・ロウ総裁(2017/12/13)

ビットコインは、価格が安定していない、処理速度が遅い、ガバナンスに問題を抱えている、取引手数料やマイニングの過程で消費される電力のコストが高いといった課題がある。

BOE・カーニー総裁(2017/12/20)

ICOに関してはルールの厳格化が必要。 FSBは分散型台帳技術(DLT)やデジタル通貨について議論を行っていくことになるだろう。

BIS・カルステンス総支配人(2018/2/6)

価格変動の大きさにより、ビットコインは支払い手段として貧弱で、価値保蔵手段としてもまともではない。現状では、詐欺とバブルと環境破壊の複合体。

ビットコインのような資産は通貨としては持続可能性がない。

ECB・ドラギ総裁(2018/2/13)

ビットコインは通貨ではない。通貨であれば中央銀行や政府の裏付けがあるが、ビットコインにはそれがない。

ビットコインの価値は、法定通貨に比べて大きく振れる。

● 仮想通貨やICOについては、最近、海外当局から、以下のような警戒的な情報発信が急増。

・仮想通貨は現状は主に投機対象。支払決済手段としての利用は限定的。・仮想通貨は中銀などの公的当局がエンドースしているものではない。・投資家・消費者はそのリスクを十分認識する必要がある。・仮想通貨の価格はバブルである。・ICOに応じる投資家・消費者は、そのリスクを十分認識する必要。ICOが証券関連規制の適用を受けないということは、これによる投資家保護も受けられないことを意味

(参考19)仮想通貨を巡る主要中銀の情報発信

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(参考20)仮想通貨のリスク

仮想通貨の時価総額が大きくなると、価格変動に伴う資産効果も大きくならないか?

借入れをして(leveraged)仮想通貨に投資をする動きはないか?

米国CME等は仮想通貨の先物市場を導入したが、これが仮想通貨の価格形成にどのような

影響を及ぼすのか?

仮想通貨を組み込んだファンドはどの程度形成されているか?

仮想通貨に対し、金融機関が直接・間接のエクスポージャーを持っているか?仮想通貨を担

保とする与信は行われていないか?

仮想通貨に関連するサービスを金融機関が提供していないか?(⇒信認リスク)

仮想通貨や仮想通貨交換所へのサイバー攻撃のリスクは?

仮想通貨の運営が(当初の思想とは異なり)ごく少数のエンジニア等に委ねられることに伴うリ

スク(ガバナンス欠如、突然の仕様変更等)は?

仮想通貨が犯罪や脱税、AML/CFT等の問題を引き起こすリスクは?

現状では時価総額も大きくなく、支払決済への利用も僅少であることから、

金融安定へのリスクや金融政策への影響が大きいとは見ていないが、以下

の点には引続き留意していく必要。

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中央銀行デジタル通貨― 学界では発行を支持する論調が比較的強い -

新技術を活用した支払決済の効率性向上・仮想通貨の牽制

・中央銀行は従来から利用可能な技術を取り込み、支払決済インフラの効率化を進めてきた。

・紙技術に基づく銀行券は、保管・流通・防犯などにかなりの経済社会的コストがかかっている。

・銀行券は伝統的な紙技術に基づいているが、情報技術革新の下、中央銀行は新技術を積

極的に自らの債務(中央銀行マネー)に応用し、支払決済インフラの効率化を進めるべき。

・中銀がデジタル媒体の支払決済手段を提供すれば、怪しげな仮想通貨の跋扈も防げる。

「ゼロ金利制約」の克服・金融政策の有効性向上

・中央銀行デジタル通貨の残高を減らすことで、自由自在にマイナス金利を実現できる。

・「ゼロ金利制約」を気にする必要が無ければ、経済的に最適なインフレ率(バイアスの無い理

想的な物価指数でのゼロインフレ)を目指すことも可能となる。

脱税・犯罪等の防止

・銀行券(とりわけ高額券)や仮想通貨は脱税や犯罪にも使われやすい。中銀デジタル通貨

は、(情報を中央銀行が入手することを前提とすれば、)脱税や犯罪の防止にもつながる。

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現金需要が減少している国(例:スウェーデン)

・ 現金を扱わない商店・銀行の増加(現金の「ネットワーク外部性」消失)・ モバイル決済手段(Swish等)の拡がり・ 金融排除(financial exclusion)の問題(現金を入手できない人々の増加)

(参考21)中銀デジタル通貨発行に取り組む国々

自国通貨のインフラが未整備の国(例:カンボジア、エクアドル)

・ 一足飛びにデジタル技術を応用し、金融包摂を進めたいとの意向・ 既に「ドル化」が進行(ドルと自国通貨の併用、完全なドル化)・ レガシーがなく、技術革新を自国インフラに取り込みやすい

脱税防止等の手段と捉える国(例:中国)

・ 支払決済の効率化、金融包摂の促進・ 中銀デジタル通貨発行の目的として「脱税防止」「AML/CFT]を謳っている・ 「匿名性」(現金の特徴)は排除する方向か

スウェーデン中銀による「中央銀行デジタル通貨(e-krona)」発行の検討 中央銀行の債務(クローナ建て)として発行 一般国民が中央銀行に口座を持ち、常時(24時間、365日)利用可能 一定額までは匿名で利用可能 2018年末までに発行の是非を決定する予定 (注)提案されている設計の概要

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中央銀行デジタル通貨への慎重論― 大規模な経済圏・通貨圏を抱える先進国中銀では、慎重論が強い -

銀行を通じた信用仲介や流動性危機への影響

・中央銀行デジタル通貨が銀行預金を侵食すれば、銀行経由の信用仲介が縮小。

・危機時には預金から中央銀行デジタル通貨への急激な資金移動が起こりやすい。

・民間イニシアチブによる支払決済のイノベーションを阻害するリスクも。

ゼロ金利制約克服には寄与しにくい

・銀行券を無くさない限り、ゼロ金利制約は克服できない(銀行券廃止は非現実的)。

中央銀行による情報独占の問題

・ 中央銀行が一般の人々の日々の取引情報などを全て把握することは、中央銀行の独立性などの観点から複雑な問題に繋がり得る。

サイバーリスク

・中央銀行デジタル通貨は、サイバー攻撃のターゲットとなりやすい。41

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仮想通貨と中銀インフラ 「疑わしい仮想通貨の跋扈を防ぐためにも、中央銀行が自らデジタル通貨を発行すべ

き」との議論もあるが、これには、①銀行の資金仲介への影響、②民間のイノベーショ

ンへの影響、③サイバーリスク、など、慎重に考えるべき論点が多い。

仮想通貨は信頼と使い勝手を備えたソブリン通貨に勝つことは難しいとの見方が殆ど。

⇒ソブリン通貨の信認を維持するとともに、その使い勝手の

向上に不断に努めていくことが、この面からも求められる。

・ 中銀マネー・中銀インフラも活用しつつ、支払決済の効率性・安全性向上に向けた

民間の取り組みを中央銀行として支援していくことが重要。このような問題意識も踏

まえ、欧州、英国、シンガポール等、多くの国で「1年365日、1日24時間利用できる即

時送金(24/7 Fast Payment)」を実現する動きが進行。

-ECBは、「民間のデジタル支払決済サービスが1年365日、1日24時間利用可能で、便利か

つ安全であれば、敢えて中銀デジタル通貨を発行する必要はない」と説明。そのうえで、中

銀決済システムを1年365日・1日24時間稼動させ、24/7 Fast Paymentを支援する方針。

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4.日本銀行の取り組みー昨年6月以降の取り組みを中心に-

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基幹インフラの提供・運営主体として(operator)・中央銀行として、その時々に利用可能な技術を取り込みながら、経済を支える

インフラを提供。その際には、①経済・企業活動の国際化、②グローバル金融の安

定、③日本や各国の金融市場の発展、などにも当然配意していく

・将来的に新しい情報技術を自らのインフラに活用する可能性についても、積極的

に調査研究を行い、技術を深く理解していく。

主要金融市場インフラのoverseerとして

・2009年G20サミットでの清算集中合意もあり、支払決済の安定や金融安定にとっ

て、金融市場インフラの持つ重要性は高まっている。

広範な主体のインフラ改善の取組みを促すcatalystとして

・市場インフラの改善に向けた幅広い主体の取り組みを促す。

・支払決済・金融の安定、市場効率化等の観点から、積極的な情報発信も実施。

日本銀行の役割

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日銀ネットのさらなる活用

・夜間の有効活用などに向けた関係者との対話を進めている。

日銀ネットへの「グローバル・アクセス」

・昨年12月に受付を開始。

クロスボーダーDVPリンク

・ASEAN+3の枠組みに基づき、着実に取り組みを進めていく。

民間による効率性・利便性向上やリスク削減努力の後押し

・全銀モアタイムシステム(日本版24/7Fast Payment)、金融EDI・国債などの決済期間短縮化

新しい情報技術や中銀デジタル通貨、仮想通貨などに関する調査研究・国際的議論への貢献

・欧州中央銀行(ECB)との共同調査(Project Stella)

具体的な取り組み

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日銀ネットの有効活用- 昨年11月に情宣用資料を作成し、積極的活用を促している -

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(参考22)日銀レビュー「クロスボーダー円資金決済の発展に向けて」(2017年6月16日)より

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2017 年11 月13 日日 本 銀 行

日銀ネット端末の国外設置(グローバル・アクセス)の受付開始について

日本銀行は、本年4 月21 日、日銀ネット端末の国外設置(グローバル・アクセス)

(注)を認める方針であることを公表しましたが、今般、利用金融機関等からの利用申

請の受付を、12 月14 日より開始することを決定しましたので、利用要件の概要や審査

のポイントと併せて公表します。

(注)日本銀行金融ネットワークシステム(「日銀ネット」)の利用金融機関等に対し、国内拠点に加えて、国

外拠点にも日銀ネット端末を設置し、国外から日銀ネットの利用を可能とすること。

グローバル・アクセスは、①国外拠点における通常業務のほか、例えば、②業務継続

体制の強化、③事務拠点の集約といった目的でも活用が可能です。既に国外からのア

クセスが可能な日銀ネットのコンピュータ接続と比較して低コストで利用が可能なことも

あり、グローバルな事務処理体制を構築する有効な手段となり得るものです。

グローバル・アクセス

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クロスボーダーDVPリンク-ASEAN+3のCSD-RTGSリンク構築に向けたロードマップー

構築フェーズ12015-2016

構築フェーズ22017-2018

構築フェーズ32019-2020

統合フェーズ

2020-

標準的なメッセージ

フロー・項目の決定

基本的な

ユーザー要件

の特定

CSD-RTGSリンク

の開発

具体的なユーザー

要件およびシス

テム設計の決定、

コーディング、

テストの実施

CSD-RTGSリンク

の実現

CSD-RTGS リンク

の稼動開始

統合的な接続方式

の実現

中央ハブの設置、

各国のCSD、

RTGSシステムと

中央ハブとの接続

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(参考23) ASEAN+3クロスボーダー決済インフラ・フォーラムによる進捗報告書「域内決済インフラの構築と今後の取り組み:ASEAN+3諸国におけるCSD-RTGSリンクの実現」

(Progress Report on Establishing a Regional Settlement Intermediary and Next Steps: Implementing Central Securities Depository-Real-Time Gross Settlement Linkages in ASEAN+3)

(上記報告書解説文の日本銀行仮訳)

2015年5月3日アジア開発銀行

ASEAN+3諸国の証券集中振替機関(CSD)および中央銀行から構成されるクロスボーダー決済

インフラ・フォーラム(CSIF)は、進捗報告書を策定した。本報告書は、域内決済インフラとしての

CSD-RTGSリンク(注1)の構築に向けた重要な一歩である。本報告書では、日本銀行と香港金融管理

局(HKMA)が、同リンクの標準モデルの策定を目的として実施した共同調査の結果(注2)が掲載され

ているほか、同リンク構築に向けたロードマップ(注3)が策定されている。アジア開発銀行は、CSIFの事務局として、本取組みをサポートしている。

(日本銀行による注記)

(注1)CSD-RTGSリンクは、各国のCSDと中央銀行が運営する資金決済システム(RTGS)を接続するモデル。

(注2)日本銀行とHKMAが、CSD-RTGSリンクの域内標準モデルとして、決済スキーム、電文フォーマット、障害時対応等に関する基本的な考え方を整理したもの。

(注3)本報告書では、CSD-RTGSリンクの構築に向けて、ロードマップを策定している。本ロードマップによれば、任意の2か国間において、CSD-RTGSリンクを、2017年から2018年に開発し、2019年から2020年に実現することを目標としている。また、長期展望として、統合的な接続方法が実行可能となる程度までバイラテラル・リンクの数が増加することを想定し、2020年以降、統合的な接続方法について検討することも視野に入れている。

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① 2018年3月2日イングランド銀行カーニー総裁講演

“The Future of Money”より

“Take cross border payments, where the Bank is leading by the adoption of emerging global standards for payments message and by working with other central banks and the private sector to explore the scope for cross-border payments in central bank money through synchronisednational RTGS system. This all could increase the speed and safety, as well as lower the costs, associated with cross-border transactions to support purchases and travel overseas.”

(参考24)中銀システムのInteroperabilityへの世界的関心

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② カナダ中銀とシンガポール通貨庁の協力(2017年11月公表)

“The Bank and Payments Canada have also partnered with the Monetary Authority of Singapore to work on across-border, cross-currency settlement system. This collaboration combines Project Jasper and Singapore’s Project Ubin, with a view to using DT to make cross-border payments faster and at a lower cost.”

③ シンガポール通貨庁と香港金融監督局の協力(2017年11月公表)

“The Monetary Authority of Singapore (MAS) and the Hong Kong Monetary Authority (HKMA) exchanged a Memorandum of Understanding (MoU) in Singapore to jointly develop the Global Trade Connectivity Network (GTCN), a cross-border infrastructure based on distributed ledger technology (DLT), to digitalise trade and trade finance between the two cities and potentially with an aim to expanding the network in the region and globally.”

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2017年10月6日日本銀行

日=フィリピン間の二国間通貨スワップ取極の改正

日本国財務大臣の代理人たる日本銀行とフィリピン中央銀行は、第3次二国

間通貨スワップ取極(BSA)をその内容を深化させた上で、延長し、本日改正第3

次取極が発効した。本取極の交換上限額は、フィリピンが120億米ドル相当、日本

が5億米ドルとなる。今回の改正によって、フィリピンは自国通貨(フィリピン・ペソ)

を米ドルに加えて日本円とも交換することが可能となった。

日本及びフィリピン当局は、こうした金融協力の強化が金融市場の安定の確保

に貢献するとともに、中期的に日本円を含むアジア通貨の使用を促し、ひいては

拡大する両国間の経済・貿易関係を一層発展させることを期待する。

以 上

(参考25)日=フィリピン間の二国間通貨スワップ取極の改正

Page 56: グローバル金融インフラと アジア・日本の視点...グローバル金融インフラと アジア・日本の視点 ー世界的な情報革命・データ革命の中で-

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アジアの複数の中央銀行等との間では、日本国債や日本円を

担保とした現地通貨の資金供給を行うためのクロスボーダー担

保スキームを構築しました。具体的には、アジアの中央銀行等が

日本国債や日本円を適格担保として受け入れ、邦銀その他の現

地金融機関に資金を供給する仕組みになっています。日本銀行

は、担保の保管機関(カストディアン)として、アジアの中央銀行

等に担保の受入口座を提供しています。

(参考26)クロスボーダー担保(日本銀行ウェブサイトでの解説)

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日本における24/7即時振込

即時着金

銀行A

モアタイムシステム参加行

銀行B

モアタイムシステム参加行

銀行C

モアタイムシステム非参加行

コアタイムシステム(現行全銀システム)

平日8:30~15:30

モアタイムシステム

土日祝日を含む「平日8:30~15:30」以外

×

モアタイムシステム内で留保し、翌営業日の8:30以降に送信

翌営業日に着金

現状、銀行から他行宛に振込を行う場合、「平日の朝から夕方まで」に限りリアルタイム着金が可能。これは、全銀システムの稼動時間が平日8:30~15:30であることが背景。

これを、いつでもリアルタイムの着金が可能になるよう、「全銀システム」を24時間365日稼動させる取組み(時間外=モアタイムの参加は各行の任意だが、多数の銀行が参加する見通し。

①接続時間:平日15:30~18:00は、『共通モアタイム』としてモアタイムシステム参加行全てに接続を義務付け。

その他の時間帯は自由に接続・離脱が可能。

② 取扱取引:1億円未満の当日送金に限定。先日付取引は扱わない。

③ 銀行間決済:翌営業日の夕方(16:15)にコアタイム時間中の銀行送金と合算したうえで、時点ネット決済。57

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(参考27)世界的な24/7Fast Payment導入

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年 国名(システム名)

2001 韓国(Electronic Banking System)

2006 南アフリカ(Real-Time Clearing)

2007 韓国(CD/ATM System)

2008 英国(Faster Payments Service)

2010中国(Internet Banking Payment System)

インド(Immediate Payment Service)

2012 スウェーデン(BiR/Swish)

2013 トルコ(BKM Express)

2014イタリア(Jiffy-Cash in a flash)

シンガポール(Fast And Secure Transfers)

2015スイス(Twint)

メキシコ(SPEI)

2017 欧州SEPA圏(SCT Inst)

2018 オーストラリア(New Payments Platform)

サウジアラビア(Future Ready ACH)香港2018日本(全銀モアタイム, 10月導入予定)

2019 オランダ

時期未定ベルギー

米国

(導入済)

(導入予定)

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(参考28)BIS決済・市場インフラ委員会報告書

「クロスボーダーリテール決済」(2018年2月20日公表)より

59

製造業は、サプライチェーンを国外に拡大しているほか、国際貿易や輸出、クロスボー

ダーのeコマースや国際送金は、今後も成長を続けていくと見込まれている。

現在のところ、クロスボーダーリテール決済においては、外国為替取引も含めて、コル

レス銀行を利用するモデルが主流となっている。

特に発展途上国の中には、取引口座や電子的な決済手段へのアクセスが限られてい

ることや、現金への根強い選好などを背景に、革新的なモデルの参入が難しいケース

もある。

メッセージ形式の標準化のほか、関連ルールや処理手続きの共通化が進んでいない

ために、決済サービス提供者が、他の事業者と相互に連携することが難しくなっており、

決済を完了させるための実務的なコストや時間がさらにかかっている可能性もある。

既存のコルレス銀行に代わるモデルも現れてきている。この中には、各国の決済イン

フラを相互接続するモデルのほか、国境を跨いで利用者同士繋ぐネットワークを構築

する「クローズドループ」モデルや、分散型台帳技術を活用した「peer-to-peer」、モデ

ルなどが含まれる。もっとも、こうした代替的なモデルの多くは、なお初期の段階にある。

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【日米欧における証券決済期間短縮化の動き】

リーマン・ショック以降、証券の決済期間を短縮化し、決済リスクの削減を図る動きがグローバルに進展。

日本における国債決済期間のT+1化は、本年5月1日を予定。

1986年 7月十日決済に変更

(毎月20日、月末→毎月10日、20日、月末決済)

1987年 8月五・十日決済に変更

(毎月3回決済→毎月6回決済)

1996年 9月ローリング決済化

(T+7決済、毎営業日に決済を実施)

1997年 4月 T+3化

2012年 4月 T+2化

2018年 5月 T+1化(予定)

【わが国における国債決済期間短縮化の進展】

米国 欧州 日本

国債 T+1

T+3→T+2(注)

2014年10月実施

T+2→T+1

2018年5月を予定

株式

T+3→T+2

2017年9月を予定

T+3→T+2

2014年10月実施

T+3→T+2

2019年4月又は5月の連休後を予定

(注)ただし、英国はT+1決済。

【参考資料1】日銀レビュー「国債の決済期間短縮化(T+1化)に向けて」(2016年7月27日)http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2016/rev16j13.htm/【参考資料2】「市場調節に関する懇談会」(2017年第1回) の概要(2017年2月22日)http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel170222b.pdf

国債の決済期間短縮化(T+1化)

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(参考29)日本銀行のフィンテックの取組み 決済機構局内に「FinTechセンター」設立(2016年4月)

行内横断的な「FinTechネットワーク」形成

フィンテックフォーラム等の開催

・第1回Fintechフォーラム(2016年8月) :情報セキュリティ

・第2回FinTechフォーラム(2016年11月):オープンイノベーション、オープンAPI・第3回FinTechフォーラム(2017年2月):ブロックチェーン・分散型台帳技術

・第4回FinTechフォーラム(2017年11月):ビッグデータ

・第5回FinTechフォーラム(2018年2月):ブロックチェーン・分散型台帳技術

・東京大学との共催コンファレンス(2016年11月):マネーの将来像

・AIに関するコンファレンス(2017年4月):人工知能

国際的議論への貢献 ― BIS決済・金融インフラ委(CPMI)、金融安定委員会(FSB)等

・(例)FSB報告書「金融サービスにおける人工知能とマシンラーニング」(Artificial intelligence and machine learning in financial services (Nov.2017) -山岡が執筆者として参加 -

フィンテックに関する調査研究論文など(多数)

・(例)「ブロックチェーン・分散型台帳技術の法と経済学」(柳川範之&山岡浩巳 2017年4月)

フィンテック・金融イノベーションに関する日本銀行幹部の積極的な講演

(昨年の主要講演) 黒田総裁「AIと金融のフロンティア」(2017年4月)

黒田総裁「デジタルイノベーション、金融、中央銀行」(2017年10月)

中曽副総裁「ビッグデータと経済・金融・中央銀行」(2017年11月)

黒田総裁「イノベーションが拡げる金融の未来」(2017年12月) 61

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(参考30)日本銀行幹部による

インフラ整備関連の

最近の講演

(英文も同時公表)

62

Page 63: グローバル金融インフラと アジア・日本の視点...グローバル金融インフラと アジア・日本の視点 ー世界的な情報革命・データ革命の中で-

63

(参考31)

日本銀行―BIS共催ワークショップ(2017年10月4,5日)

― 新しい情報技術のマネーへの応用に世界的関心が高まる中、日本銀行で開催

(「にちぎん」2017年12月号より)

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(参考32)2017年10月、”OMFIF”への寄稿

中央銀行は中銀デジタル通貨発行に関し、銀行を通じた資金仲介への影響や流動性危機への影響、サイバー攻撃のリスク等、さまざまな点を考慮する必要がある。

仮に中銀デジタル通貨を発行しても、現金が残る限り、それでゼロ金利制約を克服できる訳ではないし、現金を廃止する考えもない。

仮に中銀デジタル通貨を発行する場合も、中銀がブロックチェーンや分散型台帳技術を使わなければいけない訳ではない。

仮想通貨が、信頼と使い勝手を備えたソブリン通貨を凌駕する形で、支払決済に広く使われていく可能性は低い。 64

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(参考33)新技術に関する各国中銀の取り組み中銀デジタル通貨に関する検討 ブロックチェーンを用いた実証実験

英国(BOE) ── RTGSシステム間の接続

ドイツ(Buba) ── 証券と資金の授受(ドイツ証券取引所と共同)

スウェーデン(Riksbank)

中銀デジタル通貨e-kronaについて、実務検討に

進むか検討中──

ロシア(BoR) ── 市場参加者間の情報伝達ツール

カナダ(BoC) ── 銀行間の資金決済(Project Jasper)

香港(HKMA) ── 貿易金融(シンガポールとの接続を計画中)

シンガポール(MAS) ── 銀行間の資金決済、証券と資金の授受(Project

Ubin)、貿易金融(香港との接続を計画中)

中国(PBOC) 中長期的に中銀デジタル通貨を発行する構想を

発表──

日本(日本銀行)、欧州(ECB) ── 銀行間の資金決済(Project Stella)

エクアドル 2014年に中銀運営の電子マネー(米ドル建)を導入 ――

カンボジア中銀デジタル通貨(リエル、米ドル建て)の試作品を開発・テスト

――

ウルグアイ中銀デジタル通貨(ウルグアイ・ペソ建て)の実証実験を開始(6ヶ月、1万人が参加)

――

エストニア電子国家化による経済発展を目指すエストニアは、デジタル通貨”EstCoin”の発行計画がある旨報じられている(もっとも、中銀の公式発表はない)。

――65

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分散型台帳技術に関する欧州中央銀行と日本銀行の共同調査“Project Stella“

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2016年12月より実施。主要中央銀行がDLTに関し協力して調査を行う世界初の試み。

銀行間資金決済システムの疑似環境を利用。

また、「スマートコントラクト」と呼ばれる、取引を自動的に執行する機能を用いて、日銀ネットやTARGET2の「流動性節約機能」を組み込めるかも確認。

― 2017年9月、第1回目の報告書公表(効率性・安全性の両面にわたり、定量的な実証実験の結果を示したことで、海外からも注目されている。

http://www.boj.or.jp/en/announcements/release_2017/data/rel170906a1.pdf

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0.629 0.629 0.632 0.631 0.636 0.651

0.002

1.290 1.322 1.304 1.337

1.4911.589

0.004 0.020 0.015 0.021 0.017 0.019 0.026

0.359 0.358 0.361 0.362 0.365 0.380

0.896 0.895 0.896 0.898 0.901 0.917

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1 Node (NoDataBase)

1 Node (NoConsensus)

4 Nodes 7 Nodes 10 Nodes 13 Nodes 25 Nodes 65 Nodes

Seconds

Number of Validating Nodes

中央値

最大値

検証ノードの数

処理時間(秒)

(参考33)Project Stellaの結果:処理性能の評価 実験環境下では、短時間での取引の処理や、「流動性節約機能」の実装など、

前向きに捉え得る検証結果が示された。

もっとも、DLTは技術として十分成熟しておらず、現時点では、中央銀行決済システムに直ちに応用することは適当でないと考えられる。

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インフラ整備の課題

グローバル金融安定および市場発展に資するインフラ

・ 市場機能を発揮させつつ、流動性調達などにも資する。

・ 「中銀マネー」というリスク・フリー資産の、時間・空間両面での活用。

日本・アジアの経済発展を支えるインフラ

・ アジアの所得水準上昇・人口高齢化・資産蓄積は急速に進行。

・ アジアの貯蓄をアジアに還流させる金融インフラが、ますます重要に。

・ アジア・ビジネスの基盤となるインフラ(データ利用とプライバシー確保

の両立、サイバーセキュリティなど対応

新しい技術への前向きな取り組み

・ オープンAPI、ブロックチェーン、DLT、AI等、数多くの新技術が登場。

・ インフラ整備と並行して、未来を展望し、新技術を深く理解する必要。

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Page 69: グローバル金融インフラと アジア・日本の視点...グローバル金融インフラと アジア・日本の視点 ー世界的な情報革命・データ革命の中で-

日本銀行は

グローバルな金融の安定と、

内外金融・経済・市場の発展に寄与する

金融インフラの実現に向け

努力を続けていきます

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ご清聴ありがとうございました