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松尾 豊 東京大大学院工学系研究科 特任准教授 児玉 拓也 電通 AI MIRAI統括/AI ビジネスプランナー あらゆるビジネスの領域、大きなイノベーションをもたらすといわれるAI。実用化すでにまっています ではその変化、企業AI をどうえるべきでしょうかこの特集では、前半AI研究権威である東京大松尾豊特任准教授、 電通のグループ横断プロジェクト 「AI MIRAI」 (3面参照) プロジェクトリーダーの児玉拓也氏「AI 企業」 について展望。 後半ではマーケティング領域における AI活用最前線紹介していきます こそ 、   AI AI アーティフィシャル インテリジェンス=人工知能 2018 12 01 2018.12.17

AI き合う - dentsu.co.jp · ポータルサイトが重要と言われながらま だなかった時期で、ネットではそこからさ まざまなキラーアプリが登場しました。

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松尾 豊 氏東京大大学院工学系研究科 特任准教授 児玉 拓也 氏

電通 AI MIRAI統括/AIビジネスプランナー

あらゆるビジネスの領域に、大きなイノベーションをもたらすといわれるAI。実用化は、すでに始まっています。ではその変化の中で、企業はAIをどう捉えるべきでしょうか。

この特集では、前半でAI研究の権威である東京大の松尾豊特任准教授、電通のグループ横断プロジェクト「AI MIRAI」(3面を参照)プロジェクトリーダーの児玉拓也氏と共に「AIと企業」について展望。

後半では、マーケティング領域におけるAI活用の最前線を紹介していきます。

今こそ、   と向き合うAI

AI(アーティフィシャル・インテリジェンス)=人工知能

012018.12.17

2018

1201 2018.12.17

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インターネットの歩みに見る“AIが普及する瞬間”とは児玉 AIはビジネスへの応用が少しずつ進むものの、まだ多くの企業にとって黎明期で、新規事業やR&Dの一環という位置付けも少なくありません。一方、グローバルではAIの活用が本格化しており、後れを取ることは大きなリスク。では、日本でAIの活用が一気に進む「第二の夜明け」はどう訪れるのでしょうか。松尾 何か明確なブレークスルーが起きるというより、さまざまな現象が積み重なって、連続的に進展していくと考えています。よくAIやディープラーニング①の普及で例えられる20年前のインターネットも、何かひとつがきっかけになったというより、次第に浸透していきました。ディープラーニングもすでに医療画像での活用や顔認証は実用化され、製造業の検品作業でも活用され始めています。この

流れで連続的に浸透が進むのではないでしょうか。児玉 領域ごとに差はあれど、連続的に広がっていくと。松尾 その中でも大きく進展するタイミングは、ビジネスモデルと結び付く瞬間だと思います。ネットで言えば検索エンジンと検索連動型広告が結び付いたときで、マネタイズが容易になり活性化し始めたのですが、ディープラーニングはまだそれが見当たらない。児玉 確かによく聞かれるのは、AIによるマネタイズの手法が「開発の受託」か「ライセンスの利用料」あたりしか思いつかないという声です。特にAIはtoB向けが多いので。それでスケールしないと言われることも多いです。松尾 ただ、近いうちにtoCにつながる汎用の技術は出てくるでしょう。ネットの普及に当てはめると、今は1998年くらい。ポータルサイトが重要と言われながらまだなかった時期で、ネットではそこからさまざまなキラーアプリが登場しました。AIも同じようになると思います。

変化する広告・マーケティング鍵は「ストーリー性」松尾 AIが普及すると、ざっくり言えば人間は王様の生活ができるようになります。身の回りの作業、それも料理などの極めて属人的な作業までも自動化されますから。児玉 それとともに、広告やマーケティング領域にもAIは大きな変化をもたらすと思います。松尾 同感です。GAN②などを使って、高品質な画像を自動生成できるようになるので、状況や人に合った広告も出せるようになります。いわば「社会における概

念生成のプロセス」を人に合わせて提示できる。そのときにどんなものが出てくるか興味深いですね。児玉 ドラマなら画像の自動生成がシームレスにできるとCMとして独立させずに、ドラマの中に広告を自然な形で組み込むこともできますよね。広告とコンテンツの区分がなくなると、より適切な文脈で伝えることができるかもしれません。松尾 あるいは、ドラマの小物はGANで映像を自動生成して、スポンサーに合わせて変更するなど。すると、再放送の時には小物を代えることもできます。児玉 こういった変化は確実に起きてきそうですね。松尾 広告チャネルも変わるのではないでしょうか。一例がAIによる家庭向けの片付けロボットで、これが普及するとティッシュやトイレットペーパーなどの消費財もロボットが自動で注文してくれます。すると、「どの銘柄を買うか」という選択は片付けロボットのデフォルト設定によってくる。消費財の銘柄にこだわらない人なら、大抵はデフォルト設定の商品を買うでしょうから。児玉 片付けロボットのデフォルト設定が、広告として価値を持つわけですね。広告チャネルも一変してくるかもしれません。松尾 SiriやアマゾンエコーなどのAIが発達してコンシェルジュのような存在になると、彼らもひとつの広告チャネルになるでしょう。ただ、AIに提案された店が実は広告契約だったと知ったらユーザーは気分が悪い。となると、基本的にAIのコンシェルジュに広告は乗らないはずです。でも、私は乗る可能性があると思うのです。つまり「このAIが勧めるなら行ってみよう」という形で。児玉 「この雑誌の広告だから行ってみ

る」という感情に似ているかもしれません。松尾 そうです。仮にAIがキャラクターを持っていて、ユーザーに「ここの店、私のオススメなので行ってみてください」と言う。もしユーザーとAIの関係性が構築されていれば「仕方ない、おまえが言うなら」となるかもしれない。これはリアルの人間関係でもありますよね。児玉 つまり、コミュニケーション設計そのものが広告になると。松尾 そして、その中での付加価値として重要になるのが「ストーリー性」です。AIは「自動化」の文脈で語られることが多いですが、仮に建築の設計を自動で行っても設計費が削減されるのみ。しかし、有名な建築家風の設計を自動でできるとなると、逆にその物件の販売価格は高くなる。この技術はすでに視野に入っていますし、マネタイズになります。児玉 いわゆる「ストーリーテリング」で

すよね。今まさにマーケティング領域で重要視されている概念であり、それをAIが提供するとマネタイズされると。松尾 はい。ディープラーニング発展の鍵は「自動化」と「ストーリー性」です。王様がお金を使うのも、有名な画家が描いた絵や、ある地方でしか採れない食

材など、ブランドや希少さといったストーリー性のあるもの。それを今と違う形で提供するのがディープラーニングの未来像ではないでしょうか。

これからの企業に必要な「理解」と「正しい投資」児玉 ここまで未来の話をしてきましたが、一方で足元を見ると、昨年はAIの実証実験などが相次いだものの、今は一段落した印象。現状はまだ開発費が高く、技術的にも人がやった方が安くて早いという声もある中で、開発にブレーキがかかる危惧もあります。企業はどのような投資を続けていくべきと考えていますか。松尾 さまざまな動きを見ると、AIと言いながら実態は単なるIT化、データ化で

あるケースも多い。追い付いていなかったIT化を、このタイミングで行っているだけで、例えるなら「マイナスをゼロにすること」です。私がずっと言い続けているのは、今回のイノベーションは「ディープラーニング」だということ。IT化やデータ化の話と、アルファ碁のようなディープ

ラーニングの話は全く別物で、今まで不可能だった領域が急に可能になったのがディープラーニングです。例えるならゼロからプラスにすることです。その認識を明確にした上で投資すべきではないでしょうか。児玉 確かに話を聞くと混同されているケースもあります。ここをきちんと切り分けていかないと、ディープラーニングを使った未来のビジネス像を描きにくいかもしれません。松尾 例えば医療画像は、これ

までの技術ではデータ分析が難しかった。しかし、ディープラーニングでは新たな分析ができます。他の分野も同様で、今までデータにするのが非常に難しかった膨大な画像や映像が、今後高い価値を持つわけです。児玉 だからこそ、何がディープラーニング時代の資産になるのか、今のうちに整理すべきかもしれません。何げなくためていた画像データが、貴重なビジネスの種になることもあります。松尾 さらに言えば、ディープラーニングを見据えて画像や映像を“取りにいく”べき。それが未来へ向けたビジネスの分岐点になると思います。大切なのは、ディープラーニングでどう利益を上げるのか、今から企業が明確にビジョンを描くことではないでしょうか。

児玉 それほどディープラーニングが起こす技術革命は大きいということですよね。松尾 はい。何より、ビジョンを描いて未来の利益をはじき出しておくからこそ、明確な姿勢で投資ができます。シリコンバレーの企業はそれを細かく予想していて、ゴールが見えるからこそ惜しみなく投資できる。もちろん、ここでいう投資には、人材への投資も含まれます。児玉 AI領域の人材育成は今とても注目されているポイントです。松尾研究室でもディープコア(5面記事参照)への協力などをしていますが、この人材育成においても、企業のビジョンが関係してくると。松尾 そうですね。ディープラーニングによってどんなビジネスができるようになる

のか、それがどれだけの利益をもたらすのか。そのビジョンがあると、人材にいくらお金を投入できるか見えてきます。すると、高い人材費用をためらいなく捻出できる。結果、そこに人が流れ込んでいくのです。海外の企業はそれをすでに始めています。児玉 ディープラーニングを使ったビジョ

ンをできるだけ明確に描くことが人材確保にもつながるということですよね。松尾 はい。ですので、まずはディープラーニングがどのような技術なのか、それが何を可能にするのか、正しく把握しなければなりません。それがビジョンにつながりますから。新しい技術を深く理解することで、新しいビジネスの発想が生まれるはずです。児玉 しかもいち早くやらないと、冒頭で話したようにAIの発展は連続的に起こっていて、いつのまにかディープラーニングが“標準”になっている可能性もあります。松尾 変化の時代に入っていく中で、グローバルから後れを取ることは致命的です。特に日本の場合、組織が大きくなると機動力が落ちやすい。内部事情で制約が起きたり、内部で意見を通すことに時間がかかってしまったり。自らスピードを落とすのは避けなければいけません。そう考えると、急速に技術が進化する中で、組織の在り方を見直すことも、ディープラーニングが発展する時代に必要なことではないでしょうか。

AIの「第二の夜明け」はまだか東大・松尾氏と考える「変化と向き合うために必要なこと」

「AIブーム」は、単なる流行から実践のフェーズに移り始めています。今後数年の間に、どのような局面を迎えるのでしょうか。そして、それに伴う企業の在り方とは。AI研究の第一人者である東京大の松尾豊特任准教授と、電通のAIプロジェクト「AI MIRAI」のリーダーである児玉拓也氏が語り合います。

れいめい

はん

よう

東京大大学院博士課程修了後、産業技術総合研究所研究員に。2007年に東京大大学院工学系研究科総合研究機構/知の構造化センター/技術経営戦略学専攻准教授。14年から同大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻・グローバル消費インテリジェンス寄付講座共同代表・特任准教授を務める。専門分野は人工知能、ウェブマイニング、ビッグデータ分析。

松尾 豊 氏東京大大学院工学系研究科 特任准教授

2007年電通入社。営業のバックグラウンドを生かしつつ、AIのビジネス活用を探るため17年からグループ横断AIプロジェクト「AI MIRAI」の推進役に。社内向けAIの開発推進にとどまらず、さまざまなクライアントでAI 活用のチャンスを発見するセッションを実施している。ちなみにプログラミングは一切できない、生粋の文系人間。

児玉 拓也 氏電通 AI MIRAI統括 /AIビジネスプランナー

不良品検出 「困っている人」の動き検知ゲノム解析による医療支援 タクシーの需要予測 タクシー運行データや気象データ、周辺施設(POI)データなどの多様なデータを用いて、30分後までのタクシー乗車需要を予測するAIタクシーを開発。AIタクシーを利用した実証実験では、通常のタクシーに比べて1日当たりの売り上げが約3000円上昇。

 遺伝子の特性と病気の関係を多数学習させることにより、双方の関係性を解析。患者の体質や病気の特性に合わせた最適な治療方法の提案や、ゲノム創薬分野への応用を目指す。

 ビル内に設置されたカメラにより、往来する人々の動きを解析。「困っている人」を検知してリアルタイムで警備員に通知。きめ細かい状況把握により、セキュリティー向上や事故防止に役立てることが狙い。

 大量に準備した良品データから特徴を抽出して、その特徴との差分を利用することで不良品の検出を行う。今まで、人に頼らざるを得なかった検査工程を自動化することにより、生産効率の大幅な向上を実現。

①ディープラーニング ②GANAIを支える機械学習の中でも特に高度な技術であり、深層学習とも呼ばれる。機械学習は画像などの膨大なデータ群から法則などを見つけ学習していくが、深層学習はその学習機能が進化しており、特に難しい認識や判別が可能。グーグルが開発した「アルファ碁」にもディープラーニングが使われている。

敵対的生成ネットワーク。画像などを生成するAIと、その生成物のクオリティーを判別するAIを作り、敵対関係の中で二つのマシンの精度を上げていく技術。例えば生成側のAIが、データベースをもとに犬の画像を生成し、対して判別側のAIは、その画像が犬としての要素を満たしているか分析する。その結果をフィードバックすることでお互いが賢くなっていく。これを繰り返し、画像の生成精度や判別精度を上げていく。

収穫・仕分け支援 農業領域でも、ディープラーニング技術が活用されている。特に手作業に頼らざるを得ない収穫と仕分け作業を支援するAIの研究が進んでいる。キュウリやトマトなど定量的な選別基準がない果菜についても選別が可能。

次ページから、マーケティング領域におけるAI活用を紹介!

人口統計データ

タクシー運行データ

需要予測で効率的な運行に!対象行動を検知した様子赤枠

気象データ

施設データetc....

TAXI

TAXI

人を検知した様子青枠

遺伝子機能データベース

遺伝子と機能の関係の学習結果

遺伝子B遺伝子A

機能X 機能Y 機能Z

AIによる分析・需要の予測

移動需要予測データを提供

AI MIRAIとは? さまざまな領域でのAIのビジネス活用を模索し、実践知をためる電通の横断型プロジェクト。広告会社ならではの社会や生活者に対するインサイト、アイデア、ネットワークを、AIという新しいフィールドに応用する。テクノロジーにより自らのビジネス/働き方を刷新し続けると共に社会に新たな価値を提供することを目指すプロフェッショナル集団。

正常データ

キズのある金属製品画像 異常度のヒートマップ画像

キズを検知

02 2018.12.17 032018.12.17 2018.12.1702

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インターネットの歩みに見る“AIが普及する瞬間”とは児玉 AIはビジネスへの応用が少しずつ進むものの、まだ多くの企業にとって黎明期で、新規事業やR&Dの一環という位置付けも少なくありません。一方、グローバルではAIの活用が本格化しており、後れを取ることは大きなリスク。では、日本でAIの活用が一気に進む「第二の夜明け」はどう訪れるのでしょうか。松尾 何か明確なブレークスルーが起きるというより、さまざまな現象が積み重なって、連続的に進展していくと考えています。よくAIやディープラーニング①の普及で例えられる20年前のインターネットも、何かひとつがきっかけになったというより、次第に浸透していきました。ディープラーニングもすでに医療画像での活用や顔認証は実用化され、製造業の検品作業でも活用され始めています。この

流れで連続的に浸透が進むのではないでしょうか。児玉 領域ごとに差はあれど、連続的に広がっていくと。松尾 その中でも大きく進展するタイミングは、ビジネスモデルと結び付く瞬間だと思います。ネットで言えば検索エンジンと検索連動型広告が結び付いたときで、マネタイズが容易になり活性化し始めたのですが、ディープラーニングはまだそれが見当たらない。児玉 確かによく聞かれるのは、AIによるマネタイズの手法が「開発の受託」か「ライセンスの利用料」あたりしか思いつかないという声です。特にAIはtoB向けが多いので。それでスケールしないと言われることも多いです。松尾 ただ、近いうちにtoCにつながる汎用の技術は出てくるでしょう。ネットの普及に当てはめると、今は1998年くらい。ポータルサイトが重要と言われながらまだなかった時期で、ネットではそこからさまざまなキラーアプリが登場しました。AIも同じようになると思います。

変化する広告・マーケティング鍵は「ストーリー性」松尾 AIが普及すると、ざっくり言えば人間は王様の生活ができるようになります。身の回りの作業、それも料理などの極めて属人的な作業までも自動化されますから。児玉 それとともに、広告やマーケティング領域にもAIは大きな変化をもたらすと思います。松尾 同感です。GAN②などを使って、高品質な画像を自動生成できるようになるので、状況や人に合った広告も出せるようになります。いわば「社会における概

念生成のプロセス」を人に合わせて提示できる。そのときにどんなものが出てくるか興味深いですね。児玉 ドラマなら画像の自動生成がシームレスにできるとCMとして独立させずに、ドラマの中に広告を自然な形で組み込むこともできますよね。広告とコンテンツの区分がなくなると、より適切な文脈で伝えることができるかもしれません。松尾 あるいは、ドラマの小物はGANで映像を自動生成して、スポンサーに合わせて変更するなど。すると、再放送の時には小物を代えることもできます。児玉 こういった変化は確実に起きてきそうですね。松尾 広告チャネルも変わるのではないでしょうか。一例がAIによる家庭向けの片付けロボットで、これが普及するとティッシュやトイレットペーパーなどの消費財もロボットが自動で注文してくれます。すると、「どの銘柄を買うか」という選択は片付けロボットのデフォルト設定によってくる。消費財の銘柄にこだわらない人なら、大抵はデフォルト設定の商品を買うでしょうから。児玉 片付けロボットのデフォルト設定が、広告として価値を持つわけですね。広告チャネルも一変してくるかもしれません。松尾 SiriやアマゾンエコーなどのAIが発達してコンシェルジュのような存在になると、彼らもひとつの広告チャネルになるでしょう。ただ、AIに提案された店が実は広告契約だったと知ったらユーザーは気分が悪い。となると、基本的にAIのコンシェルジュに広告は乗らないはずです。でも、私は乗る可能性があると思うのです。つまり「このAIが勧めるなら行ってみよう」という形で。児玉 「この雑誌の広告だから行ってみ

る」という感情に似ているかもしれません。松尾 そうです。仮にAIがキャラクターを持っていて、ユーザーに「ここの店、私のオススメなので行ってみてください」と言う。もしユーザーとAIの関係性が構築されていれば「仕方ない、おまえが言うなら」となるかもしれない。これはリアルの人間関係でもありますよね。児玉 つまり、コミュニケーション設計そのものが広告になると。松尾 そして、その中での付加価値として重要になるのが「ストーリー性」です。AIは「自動化」の文脈で語られることが多いですが、仮に建築の設計を自動で行っても設計費が削減されるのみ。しかし、有名な建築家風の設計を自動でできるとなると、逆にその物件の販売価格は高くなる。この技術はすでに視野に入っていますし、マネタイズになります。児玉 いわゆる「ストーリーテリング」で

すよね。今まさにマーケティング領域で重要視されている概念であり、それをAIが提供するとマネタイズされると。松尾 はい。ディープラーニング発展の鍵は「自動化」と「ストーリー性」です。王様がお金を使うのも、有名な画家が描いた絵や、ある地方でしか採れない食

材など、ブランドや希少さといったストーリー性のあるもの。それを今と違う形で提供するのがディープラーニングの未来像ではないでしょうか。

これからの企業に必要な「理解」と「正しい投資」児玉 ここまで未来の話をしてきましたが、一方で足元を見ると、昨年はAIの実証実験などが相次いだものの、今は一段落した印象。現状はまだ開発費が高く、技術的にも人がやった方が安くて早いという声もある中で、開発にブレーキがかかる危惧もあります。企業はどのような投資を続けていくべきと考えていますか。松尾 さまざまな動きを見ると、AIと言いながら実態は単なるIT化、データ化で

あるケースも多い。追い付いていなかったIT化を、このタイミングで行っているだけで、例えるなら「マイナスをゼロにすること」です。私がずっと言い続けているのは、今回のイノベーションは「ディープラーニング」だということ。IT化やデータ化の話と、アルファ碁のようなディープ

ラーニングの話は全く別物で、今まで不可能だった領域が急に可能になったのがディープラーニングです。例えるならゼロからプラスにすることです。その認識を明確にした上で投資すべきではないでしょうか。児玉 確かに話を聞くと混同されているケースもあります。ここをきちんと切り分けていかないと、ディープラーニングを使った未来のビジネス像を描きにくいかもしれません。松尾 例えば医療画像は、これ

までの技術ではデータ分析が難しかった。しかし、ディープラーニングでは新たな分析ができます。他の分野も同様で、今までデータにするのが非常に難しかった膨大な画像や映像が、今後高い価値を持つわけです。児玉 だからこそ、何がディープラーニング時代の資産になるのか、今のうちに整理すべきかもしれません。何げなくためていた画像データが、貴重なビジネスの種になることもあります。松尾 さらに言えば、ディープラーニングを見据えて画像や映像を“取りにいく”べき。それが未来へ向けたビジネスの分岐点になると思います。大切なのは、ディープラーニングでどう利益を上げるのか、今から企業が明確にビジョンを描くことではないでしょうか。

児玉 それほどディープラーニングが起こす技術革命は大きいということですよね。松尾 はい。何より、ビジョンを描いて未来の利益をはじき出しておくからこそ、明確な姿勢で投資ができます。シリコンバレーの企業はそれを細かく予想していて、ゴールが見えるからこそ惜しみなく投資できる。もちろん、ここでいう投資には、人材への投資も含まれます。児玉 AI領域の人材育成は今とても注目されているポイントです。松尾研究室でもディープコア(5面記事参照)への協力などをしていますが、この人材育成においても、企業のビジョンが関係してくると。松尾 そうですね。ディープラーニングによってどんなビジネスができるようになる

のか、それがどれだけの利益をもたらすのか。そのビジョンがあると、人材にいくらお金を投入できるか見えてきます。すると、高い人材費用をためらいなく捻出できる。結果、そこに人が流れ込んでいくのです。海外の企業はそれをすでに始めています。児玉 ディープラーニングを使ったビジョ

ンをできるだけ明確に描くことが人材確保にもつながるということですよね。松尾 はい。ですので、まずはディープラーニングがどのような技術なのか、それが何を可能にするのか、正しく把握しなければなりません。それがビジョンにつながりますから。新しい技術を深く理解することで、新しいビジネスの発想が生まれるはずです。児玉 しかもいち早くやらないと、冒頭で話したようにAIの発展は連続的に起こっていて、いつのまにかディープラーニングが“標準”になっている可能性もあります。松尾 変化の時代に入っていく中で、グローバルから後れを取ることは致命的です。特に日本の場合、組織が大きくなると機動力が落ちやすい。内部事情で制約が起きたり、内部で意見を通すことに時間がかかってしまったり。自らスピードを落とすのは避けなければいけません。そう考えると、急速に技術が進化する中で、組織の在り方を見直すことも、ディープラーニングが発展する時代に必要なことではないでしょうか。

AIの「第二の夜明け」はまだか東大・松尾氏と考える「変化と向き合うために必要なこと」

「AIブーム」は、単なる流行から実践のフェーズに移り始めています。今後数年の間に、どのような局面を迎えるのでしょうか。そして、それに伴う企業の在り方とは。AI研究の第一人者である東京大の松尾豊特任准教授と、電通のAIプロジェクト「AI MIRAI」のリーダーである児玉拓也氏が語り合います。

れいめい

はん

よう

東京大大学院博士課程修了後、産業技術総合研究所研究員に。2007年に東京大大学院工学系研究科総合研究機構/知の構造化センター/技術経営戦略学専攻准教授。14年から同大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻・グローバル消費インテリジェンス寄付講座共同代表・特任准教授を務める。専門分野は人工知能、ウェブマイニング、ビッグデータ分析。

松尾 豊 氏東京大大学院工学系研究科 特任准教授

2007年電通入社。営業のバックグラウンドを生かしつつ、AIのビジネス活用を探るため17年からグループ横断AIプロジェクト「AI MIRAI」の推進役に。社内向けAIの開発推進にとどまらず、さまざまなクライアントでAI 活用のチャンスを発見するセッションを実施している。ちなみにプログラミングは一切できない、生粋の文系人間。

児玉 拓也 氏電通 AI MIRAI統括 /AIビジネスプランナー

不良品検出 「困っている人」の動き検知ゲノム解析による医療支援 タクシーの需要予測 タクシー運行データや気象データ、周辺施設(POI)データなどの多様なデータを用いて、30分後までのタクシー乗車需要を予測するAIタクシーを開発。AIタクシーを利用した実証実験では、通常のタクシーに比べて1日当たりの売り上げが約3000円上昇。

 遺伝子の特性と病気の関係を多数学習させることにより、双方の関係性を解析。患者の体質や病気の特性に合わせた最適な治療方法の提案や、ゲノム創薬分野への応用を目指す。

 ビル内に設置されたカメラにより、往来する人々の動きを解析。「困っている人」を検知してリアルタイムで警備員に通知。きめ細かい状況把握により、セキュリティー向上や事故防止に役立てることが狙い。

 大量に準備した良品データから特徴を抽出して、その特徴との差分を利用することで不良品の検出を行う。今まで、人に頼らざるを得なかった検査工程を自動化することにより、生産効率の大幅な向上を実現。

①ディープラーニング ②GANAIを支える機械学習の中でも特に高度な技術であり、深層学習とも呼ばれる。機械学習は画像などの膨大なデータ群から法則などを見つけ学習していくが、深層学習はその学習機能が進化しており、特に難しい認識や判別が可能。グーグルが開発した「アルファ碁」にもディープラーニングが使われている。

敵対的生成ネットワーク。画像などを生成するAIと、その生成物のクオリティーを判別するAIを作り、敵対関係の中で二つのマシンの精度を上げていく技術。例えば生成側のAIが、データベースをもとに犬の画像を生成し、対して判別側のAIは、その画像が犬としての要素を満たしているか分析する。その結果をフィードバックすることでお互いが賢くなっていく。これを繰り返し、画像の生成精度や判別精度を上げていく。

収穫・仕分け支援 農業領域でも、ディープラーニング技術が活用されている。特に手作業に頼らざるを得ない収穫と仕分け作業を支援するAIの研究が進んでいる。キュウリやトマトなど定量的な選別基準がない果菜についても選別が可能。

次ページから、マーケティング領域におけるAI活用を紹介!

人口統計データ

タクシー運行データ

需要予測で効率的な運行に!対象行動を検知した様子赤枠

気象データ

施設データetc....

TAXI

TAXI

人を検知した様子青枠

遺伝子機能データベース

遺伝子と機能の関係の学習結果

遺伝子B遺伝子A

機能X 機能Y 機能Z

AIによる分析・需要の予測

移動需要予測データを提供

AI MIRAIとは? さまざまな領域でのAIのビジネス活用を模索し、実践知をためる電通の横断型プロジェクト。広告会社ならではの社会や生活者に対するインサイト、アイデア、ネットワークを、AIという新しいフィールドに応用する。テクノロジーにより自らのビジネス/働き方を刷新し続けると共に社会に新たな価値を提供することを目指すプロフェッショナル集団。

正常データ

キズのある金属製品画像 異常度のヒートマップ画像

キズを検知

02 2018.12.17 032018.12.17 03 2018.12.17

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マーケティング分野のAI技術を多数構築 データアーティスト社(DA社)は、マーケティング領域のAI開発に強みを持つ企業。2013年に設立され、もともとはウェブの“おすすめ表示”に代表されるレコメンドエンジンなど、マーケティングツールを幅広く開発していた。その中でAIを活用するケースが多かったが、「次第にAIそのものを提供してほしいという話が増えました」と、18年2月に電通の子会社となったDA社社長の山本覚氏は話す。結果、マーケティング領域のAI開発が主力事業に。ニュースや個人の動きからトレ

ンドを分析するAIなどを作った他、現在はAICOやADVANCED CREATIVE MAKER、SHAREST_RTなど、電通のAI開発に多数携わっている。

モンゴルに第2の拠点高度な人材を確保 DA社の特徴は、モンゴルに拠点を持つこと。「モンゴルは政府が数学オリンピックへの参加を推奨するなど、基礎学力に優れた人材が多い」と山本氏。人材確保の上で大きな強みであり、今後も採用を増やしていくという。一方、現地との商習慣の違いや組織的な開発のノウハ

ウなどは、日本の人材がサポートする。 AIの可能性について「匠の技術など、言葉で表せないその人のすごみを体系化できる力があります」と山本氏。だからこ

そ「マーケターの知見や発想力をAIによって体系化し、ビジネスを

バックアッ

プしたい」

という。DA社が掲げるのは、そんな未来である。

コンテストでも上位の実力すでに実用化が進む AICOは広告コピーを自動で生成する「AIコピーライター」。キーワードを入れると、それをもとにおよそ5秒で100案ほどのキャッチコピーを生成する。その際、事前にどのようなキャッチコピーにしたいか、イメージや切り口を指定することも可能。シンプルなコピーを意味する「ストレート」をはじめ、「擬音語」や「ダジャレ」「造語」など、13の切り口が用意されている。 AICOは2017年に発表されたもので、静岡大情報学部の狩野研究室(狩野芳伸准教授)との共同開発で作られた。16年の開発段階時点で、AICOの生成したコピー

が「新聞広告クリエーティブコンテスト」(日本新聞協会主催)のファイナリスト入り。その後も、編集者とAICOがコピーを考え、AIの作成したものはどちらかを当てるキャンペーンなども実施されている。電通の福田宏幸氏は「現在はβ版となっており、電通社内で徐々に活用を開始しています」と話す。

クリエーターのセンスが土台過去にないコピーを目指す このシステムでは、事前に電通のクリエーターが大量のオリジナルコピーを作成。それをAICOが学習し、コピーを生成

する。「クリエーターが作った“まだ世に出ていないコピー ”から生成されるので、過去に類のないものが生まれるかもしれません」と福田氏。生成したコピーは「ありかも」「なしかも」と人間が評価

でき、そのフィードバックからもAICOは学習していく。 電通の大瀧篤氏は「クリエーターの代わりではなく、アイデアを出す際の発想支援になればいいですね。あるいはクリエーターに依頼する前の企画プレゼンにおける“コピーのイメージ作り”に活用するなど、使い方は広いです」と話す。それだけでなく、「例えば農家の方などが、オリジナルの農作物に名前をつける際、AICOを使ってアイデアを出す。そんな形で多くの方に使っていただける存在になってほしい」と展望。社会活用も視野に入れている。

AIで“つくる”クリエーティブを補完する最新ツールとはここからは、現在進行中のAIプロジェクトやそれを支える人たちをピックアップ。まずは広告制作・マーケティング領域での「つくるAI」のプロジェクトや、その仕組みを生む三つの最新ツールを取り上げます。

「作るAI」と「評価するAI」二つの組み合わせで成り立つ 電通が蓄積した膨大なCMデータをもとに、“当たる”(でもときどき理解不能な)CMをプランニングするAIのATALU。特徴は二つのAIが組み合わさっていることで、「データをもとにCM構成を作るプランナーAIと、そこで出来上がったコンテが有効かどうかを判断するクリエーティブディレクター AI(CDAI)があります」と、電通の嶋野裕介氏は語る。 まずCM作成の前段階として、独自調査した20年分のCMデータベースをAIが読み込み、各CMに使われていた画像を似ているもの同士で分類、マッピングする。ユー

ザーは作成したいCMの業種やターゲット、読後感といった条件を入力。するとATALUがCMデータベースから条件に合うストーリーをピックアップする。 本格的にAIが登場するのはここから。「ピックアップしたストーリーをベースに、プランナー AIがストーリーの近傍にある画像を選び、新たなCMコンテを作成します」。短時間で、条件に合ったCMコンテを最大100本ほど作成するという。 続いて、100本ほどのコンテをCDAIが評価し、より“当たる”と思われるものをランキングで示す。CDAIも、同じく20年分のCMデータを読み込んでおり、各CMの内容とGRP(延べ視聴率)、テレビ広告

認知、タレント情報を分析。その学習データをもとに効果予測を行うという。

人とAIのセッション型でより高レベルなCMを 効くCMを作るAIと、それが本当に効く

かを分析するAIの二つが機能するため「目的と効果を両立するシステムです」と嶋野氏。「ある程度の効果を発揮するCMをAIが安定して作成できれば、人の作業を加えることでさらにレベルの高いCM作りを目指せます。あくまでAIと人間のセッション型となるのが理想です」。加えて、ATALUの提案するCMがベンチマークになれば、「人はそれよりもっと振り切ったホームラン狙いの作品に集中でき、より型破りなCMも生まれやすくなるのではないか」と考える。 現在はCDAIの精度を上げている段階。実用化の道筋ははっきり見えているようだ。

大量のバナーが必要だからこそAIによって質を高める ADV A N C E D C R E A T I V E MAKER(ACM)は、AIを活用した広告バナーの自動生成ツール。過去に配信された広告バナーの表現とCTR (クリック率)をディープラーニングなどによって分析。その結果をもとに、よりパフォーマンスの高いバナーをAIが自動で作る。 「デジタル広告は、ターゲットの細分化やパーソナライズによって、一人一人に合わせた広告表現を多数作る必要が出ています。加えて、ネットユーザーの消費

スピードは上がり、同じバナーは“数日で飽きる”状況に。求められるバナーのパターンは膨れ上がっているといえます。その背景のもとにACMを開発しました」 こう話すのは、電通デジタルの和泉興氏。実際、ACMはおよそ 5秒に1度のペースでバナーを生成できる。そうして2000枚ほど作った上で、特に効果が高いと予測される20案程度を利用するシステム設計になっている。

バナーを作るまでの流れは?人はもっとクリエーティブに

 ACMは、二つのAI予測エンジンで構成される。まず、ユーザーがバナーの訴求軸やキーワード、キーカラーなどを入力すると、効果が高いと考えられるクリエーティブ要素を一つ目の予測エンジンが選定。この設計図をもとに、さまざまなレイアウトやビジュアルのバナーが

次々に作られる。加えて、バナーのキャッチコピーをAIコピーライターのAICOが生成する。 こうしてできた多数のバナーについて、二つ目のAI予測エンジンがクリック率を予測。特に効果が高いと思われるも

のを残す。その上で、「最後に人が仕上げ作業をして完了です」と和泉氏。「ACMは発想支援のツールであり、AIが作った大量のバナーを人が精査・調整するまでが目的。むしろ、その作業に人が集中するためのものです。これによりバナーの質が上がり、労働時間も削減できると考えています」と続ける。膨大なパターンが必要なバナー広告だからこそ、AIのサポートで人がクリエーティブに注力できる。そんなツールといえよう。

技術者と産業界をつなぐ各分野のAI活用をサポート ディープコア社は、AI領域における起業家の育成から投資まで行うインキュベーター。活動は大きく三つあ

り、まず同社が運営する「KERNEL HONGO」は、AIに携わるエンジニアや学生向けのスペース。利用できるメンバーは現在150人ほどおり、学生から社会人まで幅広い。同社CFOの雨宮かすみ氏は「起業家らがコミュニティーを形成する場として位置付けています」と話す。 二つ目は、そのメンバーと一般企業を引き合わせ、AIを軸とした実証実験などを行うこと。メンバーは事業を立ち上げるきっかけになり、一般企業としても「AIをどう自社の事業に生かすか、アイデアを生み出す機会になります」と

雨宮氏は説明する。すでに、医療系企業エムスリーとの事業化支援プログラムや、各種企業と複数の実証実験などが行われている。

スタートアップへの投資も日本のAI起業を促進 さらに、こうして生まれたAIスタートアップへの投資事業も行う。「メンバー発だけでなく、外部のAI企業にも投資をします」。すでに10社ほどに出資をしているようだ。 なお同社には、アドバイザーとして東京大の松尾豊特任准教授も名を連

ねる。手厚いバックアップで日本のAIスタートアップをサポートしていく。

たくみ

AICOが生成したキャッチフレーズをもとに広告が誕生した 新潮社実施の「人工知能を見破れ」キャンペーン

電通データアーティストモンゴル社

電通のAIプロジェクト「AICO」メンバー

プランナーAIとクリエーティブディレクターAIを兼ねる「ATALU」のロゴ

分類、マッピングされたCM画像

文京区本郷のコワーキングスペース「KERNEL HONGO」

CM生成AI 評価AI

オリエン入力 AIによるバナー要素のレコメンド

候補バナーの大量生成 ※人手による最終調整・

 確認が必要です。

AIによるCTR予測と選別

完成(出稿)

AIによるクリエーティブ生成の流れ

ベースCM オリジナルCM

CMプランナーAI

認知効率の視点から効果の高い順番にコンテを並び替え

クリエーティブディレクターAI

最大100案のCMコンテ

最大100案のCMコンテから、20年分のCMデータをもとにした効果予測が行われる

新潮社「はるか」HPより http://www.shinchosha.co.jp/hal-ca/

最先端のAI技術をマーケティング領域に生かす「データアーティスト社」

AIの世界でますます注目の2社をご紹介!

AIに特化した起業家を育成するインキュベーター「ディープコア社」

ATALU ~テレビCMを企画し効果予測まで行う~

ADVANCED CREATIVE MAKER ~2000枚のバナーから良いものを精選~

大瀧 篤 氏

電通 第2CRプランニング局デジタル・クリエーティブ2部

嶋野 裕介 氏電通 CDC高崎ルーム

福田 宏幸 氏

電通 データ・テクノロジーセンター計画推進部

和泉 興 氏

東京大博士課程の在籍時に松尾豊准教授の研究室で人工知能を専攻。デジタル領域にとどまらずマス領域のマーケティング課題、さらには政治・医療・金融・都市開発などの社会課題の解決を目指す。

山本 覚 氏データアーティスト 社長

通信会社で営業・経営企画などを経験後、MBA取得。その後ソフトバンクグループのM&Aチームに参画し、10年ほど国内外のM&A・ベンチャー投資などに関わる。2017年からディープコアに参画。

雨宮 かすみ 氏ディープコア CFO

AICO ~5秒で100案のコピーを生成~

近日公開!

さらに進化中!

電通デジタル アドバンストクリエーティブセンターデータ&ダイレクトクリエーティブ事業部 グループマネージャー

04 2018.12.17 052018.12.17 2018.12.1704

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マーケティング分野のAI技術を多数構築 データアーティスト社(DA社)は、マーケティング領域のAI開発に強みを持つ企業。2013年に設立され、もともとはウェブの“おすすめ表示”に代表されるレコメンドエンジンなど、マーケティングツールを幅広く開発していた。その中でAIを活用するケースが多かったが、「次第にAIそのものを提供してほしいという話が増えました」と、18年2月に電通の子会社となったDA社社長の山本覚氏は話す。結果、マーケティング領域のAI開発が主力事業に。ニュースや個人の動きからトレ

ンドを分析するAIなどを作った他、現在はAICOやADVANCED CREATIVE MAKER、SHAREST_RTなど、電通のAI開発に多数携わっている。

モンゴルに第2の拠点高度な人材を確保 DA社の特徴は、モンゴルに拠点を持つこと。「モンゴルは政府が数学オリンピックへの参加を推奨するなど、基礎学力に優れた人材が多い」と山本氏。人材確保の上で大きな強みであり、今後も採用を増やしていくという。一方、現地との商習慣の違いや組織的な開発のノウハ

ウなどは、日本の人材がサポートする。 AIの可能性について「匠の技術など、言葉で表せないその人のすごみを体系化できる力があります」と山本氏。だからこ

そ「マーケターの知見や発想力をAIによって体系化し、ビジネスを

バックアッ

プしたい」

という。DA社が掲げるのは、そんな未来である。

コンテストでも上位の実力すでに実用化が進む AICOは広告コピーを自動で生成する「AIコピーライター」。キーワードを入れると、それをもとにおよそ5秒で100案ほどのキャッチコピーを生成する。その際、事前にどのようなキャッチコピーにしたいか、イメージや切り口を指定することも可能。シンプルなコピーを意味する「ストレート」をはじめ、「擬音語」や「ダジャレ」「造語」など、13の切り口が用意されている。 AICOは2017年に発表されたもので、静岡大情報学部の狩野研究室(狩野芳伸准教授)との共同開発で作られた。16年の開発段階時点で、AICOの生成したコピー

が「新聞広告クリエーティブコンテスト」(日本新聞協会主催)のファイナリスト入り。その後も、編集者とAICOがコピーを考え、AIの作成したものはどちらかを当てるキャンペーンなども実施されている。電通の福田宏幸氏は「現在はβ版となっており、電通社内で徐々に活用を開始しています」と話す。

クリエーターのセンスが土台過去にないコピーを目指す このシステムでは、事前に電通のクリエーターが大量のオリジナルコピーを作成。それをAICOが学習し、コピーを生成

する。「クリエーターが作った“まだ世に出ていないコピー ”から生成されるので、過去に類のないものが生まれるかもしれません」と福田氏。生成したコピーは「ありかも」「なしかも」と人間が評価

でき、そのフィードバックからもAICOは学習していく。 電通の大瀧篤氏は「クリエーターの代わりではなく、アイデアを出す際の発想支援になればいいですね。あるいはクリエーターに依頼する前の企画プレゼンにおける“コピーのイメージ作り”に活用するなど、使い方は広いです」と話す。それだけでなく、「例えば農家の方などが、オリジナルの農作物に名前をつける際、AICOを使ってアイデアを出す。そんな形で多くの方に使っていただける存在になってほしい」と展望。社会活用も視野に入れている。

AIで“つくる”クリエーティブを補完する最新ツールとはここからは、現在進行中のAIプロジェクトやそれを支える人たちをピックアップ。まずは広告制作・マーケティング領域での「つくるAI」のプロジェクトや、その仕組みを生む三つの最新ツールを取り上げます。

「作るAI」と「評価するAI」二つの組み合わせで成り立つ 電通が蓄積した膨大なCMデータをもとに、“当たる”(でもときどき理解不能な)CMをプランニングするAIのATALU。特徴は二つのAIが組み合わさっていることで、「データをもとにCM構成を作るプランナーAIと、そこで出来上がったコンテが有効かどうかを判断するクリエーティブディレクター AI(CDAI)があります」と、電通の嶋野裕介氏は語る。 まずCM作成の前段階として、独自調査した20年分のCMデータベースをAIが読み込み、各CMに使われていた画像を似ているもの同士で分類、マッピングする。ユー

ザーは作成したいCMの業種やターゲット、読後感といった条件を入力。するとATALUがCMデータベースから条件に合うストーリーをピックアップする。 本格的にAIが登場するのはここから。「ピックアップしたストーリーをベースに、プランナー AIがストーリーの近傍にある画像を選び、新たなCMコンテを作成します」。短時間で、条件に合ったCMコンテを最大100本ほど作成するという。 続いて、100本ほどのコンテをCDAIが評価し、より“当たる”と思われるものをランキングで示す。CDAIも、同じく20年分のCMデータを読み込んでおり、各CMの内容とGRP(延べ視聴率)、テレビ広告

認知、タレント情報を分析。その学習データをもとに効果予測を行うという。

人とAIのセッション型でより高レベルなCMを 効くCMを作るAIと、それが本当に効く

かを分析するAIの二つが機能するため「目的と効果を両立するシステムです」と嶋野氏。「ある程度の効果を発揮するCMをAIが安定して作成できれば、人の作業を加えることでさらにレベルの高いCM作りを目指せます。あくまでAIと人間のセッション型となるのが理想です」。加えて、ATALUの提案するCMがベンチマークになれば、「人はそれよりもっと振り切ったホームラン狙いの作品に集中でき、より型破りなCMも生まれやすくなるのではないか」と考える。 現在はCDAIの精度を上げている段階。実用化の道筋ははっきり見えているようだ。

大量のバナーが必要だからこそAIによって質を高める ADV A N C E D C R E A T I V E MAKER(ACM)は、AIを活用した広告バナーの自動生成ツール。過去に配信された広告バナーの表現とCTR (クリック率)をディープラーニングなどによって分析。その結果をもとに、よりパフォーマンスの高いバナーをAIが自動で作る。 「デジタル広告は、ターゲットの細分化やパーソナライズによって、一人一人に合わせた広告表現を多数作る必要が出ています。加えて、ネットユーザーの消費

スピードは上がり、同じバナーは“数日で飽きる”状況に。求められるバナーのパターンは膨れ上がっているといえます。その背景のもとにACMを開発しました」 こう話すのは、電通デジタルの和泉興氏。実際、ACMはおよそ 5秒に1度のペースでバナーを生成できる。そうして2000枚ほど作った上で、特に効果が高いと予測される20案程度を利用するシステム設計になっている。

バナーを作るまでの流れは?人はもっとクリエーティブに

 ACMは、二つのAI予測エンジンで構成される。まず、ユーザーがバナーの訴求軸やキーワード、キーカラーなどを入力すると、効果が高いと考えられるクリエーティブ要素を一つ目の予測エンジンが選定。この設計図をもとに、さまざまなレイアウトやビジュアルのバナーが

次々に作られる。加えて、バナーのキャッチコピーをAIコピーライターのAICOが生成する。 こうしてできた多数のバナーについて、二つ目のAI予測エンジンがクリック率を予測。特に効果が高いと思われるも

のを残す。その上で、「最後に人が仕上げ作業をして完了です」と和泉氏。「ACMは発想支援のツールであり、AIが作った大量のバナーを人が精査・調整するまでが目的。むしろ、その作業に人が集中するためのものです。これによりバナーの質が上がり、労働時間も削減できると考えています」と続ける。膨大なパターンが必要なバナー広告だからこそ、AIのサポートで人がクリエーティブに注力できる。そんなツールといえよう。

技術者と産業界をつなぐ各分野のAI活用をサポート ディープコア社は、AI領域における起業家の育成から投資まで行うインキュベーター。活動は大きく三つあ

り、まず同社が運営する「KERNEL HONGO」は、AIに携わるエンジニアや学生向けのスペース。利用できるメンバーは現在150人ほどおり、学生から社会人まで幅広い。同社CFOの雨宮かすみ氏は「起業家らがコミュニティーを形成する場として位置付けています」と話す。 二つ目は、そのメンバーと一般企業を引き合わせ、AIを軸とした実証実験などを行うこと。メンバーは事業を立ち上げるきっかけになり、一般企業としても「AIをどう自社の事業に生かすか、アイデアを生み出す機会になります」と

雨宮氏は説明する。すでに、医療系企業エムスリーとの事業化支援プログラムや、各種企業と複数の実証実験などが行われている。

スタートアップへの投資も日本のAI起業を促進 さらに、こうして生まれたAIスタートアップへの投資事業も行う。「メンバー発だけでなく、外部のAI企業にも投資をします」。すでに10社ほどに出資をしているようだ。 なお同社には、アドバイザーとして東京大の松尾豊特任准教授も名を連

ねる。手厚いバックアップで日本のAIスタートアップをサポートしていく。

たくみ

AICOが生成したキャッチフレーズをもとに広告が誕生した 新潮社実施の「人工知能を見破れ」キャンペーン

電通データアーティストモンゴル社

電通のAIプロジェクト「AICO」メンバー

プランナーAIとクリエーティブディレクターAIを兼ねる「ATALU」のロゴ

分類、マッピングされたCM画像

文京区本郷のコワーキングスペース「KERNEL HONGO」

CM生成AI 評価AI

オリエン入力 AIによるバナー要素のレコメンド

候補バナーの大量生成 ※人手による最終調整・

 確認が必要です。

AIによるCTR予測と選別

完成(出稿)

AIによるクリエーティブ生成の流れ

ベースCM オリジナルCM

CMプランナーAI

認知効率の視点から効果の高い順番にコンテを並び替え

クリエーティブディレクターAI

最大100案のCMコンテ

最大100案のCMコンテから、20年分のCMデータをもとにした効果予測が行われる

新潮社「はるか」HPより http://www.shinchosha.co.jp/hal-ca/

最先端のAI技術をマーケティング領域に生かす「データアーティスト社」

AIの世界でますます注目の2社をご紹介!

AIに特化した起業家を育成するインキュベーター「ディープコア社」

ATALU ~テレビCMを企画し効果予測まで行う~

ADVANCED CREATIVE MAKER ~2000枚のバナーから良いものを精選~

大瀧 篤 氏

電通 第2CRプランニング局デジタル・クリエーティブ2部

嶋野 裕介 氏電通 CDC高崎ルーム

福田 宏幸 氏

電通 データ・テクノロジーセンター計画推進部

和泉 興 氏

東京大博士課程の在籍時に松尾豊准教授の研究室で人工知能を専攻。デジタル領域にとどまらずマス領域のマーケティング課題、さらには政治・医療・金融・都市開発などの社会課題の解決を目指す。

山本 覚 氏データアーティスト 社長

通信会社で営業・経営企画などを経験後、MBA取得。その後ソフトバンクグループのM&Aチームに参画し、10年ほど国内外のM&A・ベンチャー投資などに関わる。2017年からディープコアに参画。

雨宮 かすみ 氏ディープコア CFO

AICO ~5秒で100案のコピーを生成~

近日公開!

さらに進化中!

電通デジタル アドバンストクリエーティブセンターデータ&ダイレクトクリエーティブ事業部 グループマネージャー

04 2018.12.17 052018.12.17 05 2018.12.17

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電通 ラジオテレビ局スポット業務部 部長

AIで“予測”人とAIの協力で、未来を読むシステムたち未来を予測するAIプロジェクトも多数誕生しています。その中には、広告・マーケティングの機能を高めるためのものも多数。では、どのような仕組みで何を予測するのでしょうか。三つの例を紹介します。

難解な日本語を理解しユーザーへ回答するAI Kiku-Hanaは、質疑応答型の顧客対応を自動化・高度化する日本語AIの自然対話サービス。これまでにない正確な「聞く」「話す」を実現するという意味からネーミングされた。 「開発の背景にあるのは、日本語の難しさです」と電通の松山宏之氏は語る。分かち書き(単語の間に空白を入れる書き方)をしなかったり、ひらがな・カタカナ・漢字を併用するなど、世界でも習得が難しい言語といわれる。「電通は多くのクリエーティブ人材を擁するコミュニケーションの会社でもあり、コ

ミュニケーションデザインやコピーライティン

グなどの表現力を生かしたAIチャットボットサービスの開発を期待されることが多いのです。そのため、難しいとされている『日本語の意味』をしっかり捉えた上で、ユーザーに返答できる仕組みが必要だ、と考えました」

AIと人との協働体制で業務効率化を図る Kiku-Hanaは、独自の言語処理システムによる構文解析・意味解析に強みを持っている。また機械学習は用いず、応答ルールを人間が設定するルールベースのAI

チャットボットサービスなので、設計者側が予期せぬ返事が発生しにくく、もしルールの設定抜けやミスがあったとしても、どうしてそれが起きたのかが容易に特定でき、説明責任を果たしやすいという面も備える。 ユーザーの問いの意味をしっかり解析できるシステムになりつつあるKiku-Hanaだが、さらに開発は続く。日本語は同じことを表現する場合でも、人によってその言い方、書き方はさまざまで難しく、事前に顧客からの質問内容をすべて想定することも不可能だからだ。「現在、顧客からのキャンペーンに関する問い合わせのAIチャットボット化など

も実用化を進めていますが、現状ではすべての問い合わせに返事をすることはできません。そこで、AIが回答できない部分を人が回答するという組み合わせが生きてきます」と松山氏。AIと人が協働し、業務効率化を図れる他、例えば、自動車内など適用領域を変えることで、従来サービスを入れられなかった箇所に新しいサービスを入れ込むことも可能になる。さらなる開発が期待されるところだ。

AIの論点はマーケティングに近づいていく 今回、松尾先生との対談(というか、ほぼインタビューでしたが)は大変刺激的で、身に染みるものでした。「ビジネスモデルと結び付いたときに、次のブレークスルーは訪れる」というのは、シンプルですが説得力のある言葉だと感じます。そこを見つけ出すには、AIの知識だけでなく、シェアリングエコノミーをはじめとする社会そのものの構造変化や生活者への深いインサイト、「人は何を幸せと思うのか」といった哲学的な視

点が求められてくるのではないでしょうか。対談中にもありましたが、AIの論点はマーケティングに近づいてくる気がします。

AIのハードルに萎縮せずいかに変革を起こせるか 私たち企業も傍観してはいられません。AIは一般的なシステム開発と違い、精度の予測が難しい、教師データが必要になるなど、越えるべきハードルは確かにあります。しかし、そこで萎縮してしまうと、いつしかビジネスそのものがなく

なってしまいかねません。AIによってやれること、できることが広がっていく中で、どれだけ具体的にビジョンを描き、自らを変革し続けられるかが試されている。松尾先生の言葉からは、そんなメッセージを感じました。

AI MIRAIの未来単なる“機械化”ではなく 私たちAI MIRAIは、AIが塗り替えていく社会や業界の姿をイメージしながら、他方、今回ご紹介したようなさまざまなプロジェクトを通して、単なる業務の

機械化ではなく、少しずつ自らを変化させていく試みを行っています。今後は、電通だけでなく、さまざまな企業との協業を通して、「AI」後の社会や各種事業に貢献するための取り組みを行っていきたいと思います。

放送前1週間の予測が可能CM割り当てのヒントに 電通が今年10月に発表した、AIを活用したテレビ視聴率予測システムのSHAREST_RT(シェアレスト・アールティー)。概要としては、まず過去の視聴率やタレントのプロフィル、世の中のトレンドや気象情報など、さまざまなデータを「RICH FLOW」というデータベースにため込む。これらをディープラーニングで解析し、放送前1週間

のテレビ視聴率を予測する仕組みだ。 予測ターゲットは140ほどに細分化され、F1層やM1層といったセグメントはもちろん、より細かな分類で視聴率を予測できる。2017年6月にローンチした「SHAREST(β版)」は関東地区限定だったが、今年10月に発表した“RT”では、東阪名3地区にエリアを拡大した。 このシステムにより目指すのは「広告効果の最大化」だ。電通の岸本渉氏は、「ター

ゲットの異なる複数のテレビCM素材について、SHARESTの視聴率予測をもとに最適な番組に割り付けることが可能になります」と話す。例えば複数のCM商材を抱える企業の場合、どの枠にどの素材を貼り付けるかを決める上でこの予測が有効になる。

データベースを充実させより効果のある広告を これまでは、どの広告枠にどのCM素材を貼り付けるか考える際、人が視聴率の予測を行うケースが多かった。だが、その業務負荷は非常に大きく、また「予測の知見が人にひも付いてしまうので、属人的になり技術を後進に移行できないという課題がありました」と岸本氏。加えて、テレビCMという予算の大きな部分だけに、精度を上げる必要性があった。 SHAREST_RTは、人による視聴率予測の精度をすでに超える実績を残しており、一部企業で試験的に導入されている。また、最新版ではタイムシフト視聴予測に

も対応するなど、より高精度な形に発展している。 「今後はRICH FLOWにより多様なデータをため、視聴率だけでなく実際の商品購入や集客までの効果を見据えたCM割り付けのヒントが見えるようになればいいですね」と岸本氏。まだまだシステムの進化は続く。

クリエーティブと運用設計両面からAIが広告を見極め ソーシャルメディアの動画広告(運用型広告)において、配信前にAIが効果を予測し、担当者に通知するシステムが開発されている。 運用型広告は、通常、入稿から掲載開始までにタイムラグがある。このシステムでは、入稿段階でAIが広告を読み込み、効果を予測。その予測値が過度に悪い(良い)場合、掲載前に担当者へ通知する。これにより「担当者はクリエーティブを差し替えたり、効果が見込めるものは早く次の手を打ったりすることができます」と、CCIの大驛貴士氏は説明する。 システムでは、AIが広告の「クリエーティブ」と「運用設計」の両面から効果を

予測する。どちらも、過去の広告配信結果をAIで分析。それが予測値のもとになっている。「現役の熟練運用担当者30人弱とAIで広告予測を競わせたところ、AIの方が、運用担当者に比べ予測値の誤差を約4分の1まで縮めることができました」と大驛氏は話す。

最適なソーシャルの動画広告を見つけるために 現状のシステムでは、入稿した広告のみ効果を予測する形だが、開発に携わる電通デジタルの馬籠太郎氏によれば、「いずれは、入稿前の動画広告をシステムに投げるだけで、予測だけでなく、シーン差し替えの提案をフィードバックできるようにしたい」とのこと。クリエーターが

発想段階から活用できるものを目指す。 ソーシャルの動画広 告はニュースフィード型という特性上、テレビCMの制作ポイントとは大きく異なるところがある。その中で「クライアントと事前に効果予測を共有し、ソーシャルの動画広告としてより良いクリエーティブを一緒に作るきっかけとなるツールにしたい」と話すのは、電通デジタルの根本淳氏。

近い時期の実用化を目指して、開発を加速させる。

おおえき

近年のトレンドパターンからAIが未来を予測する TREND SENSORは、未来のトレンドをAIが予測するもの。土台になるのは、SNSとテレビのメタデータだ。過去に流行したさまざまな事象について、SNSとテレビでどのような露出量の軌跡を描いていたか、そのデータをAIに学習させる。これをベースに、今後同じような軌跡を描きそうな事象について、流行前の段階でAIが予測していく。 とはいえ、実際にトレンドを予測することは可能なのか。電通デジタルの三浦慎也氏は、「今の流行は、まずSNSで水面下に話題となり、それをテレビでピックアップしたところ大流行するパターンが多い。であれば、SNSの時点でその動きをキャッチすることで、未来の流行を見据えたクリエーティブ

やマーケティングが可能になります」。

数カ月先のプランニングをデータで論理的に 近年のトレンドについて、SNSとテレビの露出量の推移を調べると、ブレーク前にSNSでわずかに動いているケースが多いという。「うんこ漢字ドリルやハンドスピナー、ブルゾンちえみさんなどは、テレビ露出がきっかけで完全にブレークしたといえます。しかし、実際はその前にSNSで少しずつ動きだしていました」と三浦氏。この動きをAIが学習し、次に来るトレンドを予測する。露出量だけでなく、どんなアカウントが発信し流行につながったか、その経路も学んでいく。最終的にはセグメントごとに流行を予測し、流行する時期まで算出するのが理想だ。なお、日々生み出されていく新語を検出する仕組みもある。

 これにより、数カ月先の広告プランニングやタレントキャスティングも、データをもとに論理的に行うことが可能になっていくとみられる。さらに、コンテンツや番組の企画発案への活用だけでなく、長期予測が可

能になれば商品開発への活用も視野に入れられるだろう。SNSにより次々に新たな流行が出てくる中、それを生かして未来のトレンドを先読みしていく。

縦軸にSNSでの話題量、横軸にマスメディアの話題量をとると、流行のトレンドは図の青線のような軌跡を描くと考えられる。実際にこのような軌跡をたどっているキーワードがAIによるビッグデータの検証で確認されている

SHARESTの仕組み

抽出した特徴ベクトルをAIが理解し、広告配信の事前予測などのアウトプットに 人よりもAIの方が動画再生完了率を正確に当てることができる AIは広告の特徴をインプットし、広告配信予測の数値でアウトプットを行う

画像判定AI

AI

VSVS

人 特徴ベクトル

“Kiku-Hana”の特徴

変換&学習 広告配信予測学習画像 生成画像

画像判定AI

AIによる事前予測動画再生完了率CPMCTR

: 15.2%: 1,200円: 1.5%

本 物 偽 物

ルールに基づく会話で失言リスクを防ぐ

2日本語の意味理解が可能1

タレント 世の中トレンド

過去視聴率ジャンル

番組時間

エリア別

視聴率予測入力データ

ターゲットセグメント別

タイムシフト視聴率(関東エリアのみ)

データベース「RICH FLOW」

カスタマイズで企業ごとの特色を付けられる

3他APIや企業内DBとの連携も可能

4さまざまなインターフェースで利用可能

5

お題:どっちの画像が“本物”でしょう?

三浦 慎也 氏

電通デジタル アドバンスト・クリエーティブ・センターデータ&ダイレクトクリエーティブ事業部AIクリエーティブ開発チーム

松山 宏之 氏

電通 ビジネスD&A局 バリューチェーン戦略室 新領域開発部ディレクター

岸本 渉 氏

「AI後」を生きる私たちは、これからどこに向かうのか?大驛 貴士 氏 ・根本 淳 氏・馬籠 太郎 氏

電通デジタル ソーシャルメディア部統合/開発グループ グループマネージャー

CCIビジネスプロモーションディビジョン

電通デジタル執行役員

SHAREST_RT ~テレビ視聴率を予測しCM効果を向上~

TREND SENSOR ~SNSとテレビのメタデータでトレンドを先読み~

Kiku-Hana ~自然に日本語を「聞く」、自然な日本語を「話す」~

動画広告の効果予測 ~ソーシャルメディアにおける広告効果を配信前に採点~

(電通/児玉 拓也)

こんなサービスの開発も!

06 2018.12.17 072018.12.17 2018.12.1706

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電通 ラジオテレビ局スポット業務部 部長

AIで“予測”人とAIの協力で、未来を読むシステムたち未来を予測するAIプロジェクトも多数誕生しています。その中には、広告・マーケティングの機能を高めるためのものも多数。では、どのような仕組みで何を予測するのでしょうか。三つの例を紹介します。

難解な日本語を理解しユーザーへ回答するAI Kiku-Hanaは、質疑応答型の顧客対応を自動化・高度化する日本語AIの自然対話サービス。これまでにない正確な「聞く」「話す」を実現するという意味からネーミングされた。 「開発の背景にあるのは、日本語の難しさです」と電通の松山宏之氏は語る。分かち書き(単語の間に空白を入れる書き方)をしなかったり、ひらがな・カタカナ・漢字を併用するなど、世界でも習得が難しい言語といわれる。「電通は多くのクリエーティブ人材を擁するコミュニケーションの会社でもあり、コ

ミュニケーションデザインやコピーライティン

グなどの表現力を生かしたAIチャットボットサービスの開発を期待されることが多いのです。そのため、難しいとされている『日本語の意味』をしっかり捉えた上で、ユーザーに返答できる仕組みが必要だ、と考えました」

AIと人との協働体制で業務効率化を図る Kiku-Hanaは、独自の言語処理システムによる構文解析・意味解析に強みを持っている。また機械学習は用いず、応答ルールを人間が設定するルールベースのAI

チャットボットサービスなので、設計者側が予期せぬ返事が発生しにくく、もしルールの設定抜けやミスがあったとしても、どうしてそれが起きたのかが容易に特定でき、説明責任を果たしやすいという面も備える。 ユーザーの問いの意味をしっかり解析できるシステムになりつつあるKiku-Hanaだが、さらに開発は続く。日本語は同じことを表現する場合でも、人によってその言い方、書き方はさまざまで難しく、事前に顧客からの質問内容をすべて想定することも不可能だからだ。「現在、顧客からのキャンペーンに関する問い合わせのAIチャットボット化など

も実用化を進めていますが、現状ではすべての問い合わせに返事をすることはできません。そこで、AIが回答できない部分を人が回答するという組み合わせが生きてきます」と松山氏。AIと人が協働し、業務効率化を図れる他、例えば、自動車内など適用領域を変えることで、従来サービスを入れられなかった箇所に新しいサービスを入れ込むことも可能になる。さらなる開発が期待されるところだ。

AIの論点はマーケティングに近づいていく 今回、松尾先生との対談(というか、ほぼインタビューでしたが)は大変刺激的で、身に染みるものでした。「ビジネスモデルと結び付いたときに、次のブレークスルーは訪れる」というのは、シンプルですが説得力のある言葉だと感じます。そこを見つけ出すには、AIの知識だけでなく、シェアリングエコノミーをはじめとする社会そのものの構造変化や生活者への深いインサイト、「人は何を幸せと思うのか」といった哲学的な視

点が求められてくるのではないでしょうか。対談中にもありましたが、AIの論点はマーケティングに近づいてくる気がします。

AIのハードルに萎縮せずいかに変革を起こせるか 私たち企業も傍観してはいられません。AIは一般的なシステム開発と違い、精度の予測が難しい、教師データが必要になるなど、越えるべきハードルは確かにあります。しかし、そこで萎縮してしまうと、いつしかビジネスそのものがなく

なってしまいかねません。AIによってやれること、できることが広がっていく中で、どれだけ具体的にビジョンを描き、自らを変革し続けられるかが試されている。松尾先生の言葉からは、そんなメッセージを感じました。

AI MIRAIの未来単なる“機械化”ではなく 私たちAI MIRAIは、AIが塗り替えていく社会や業界の姿をイメージしながら、他方、今回ご紹介したようなさまざまなプロジェクトを通して、単なる業務の

機械化ではなく、少しずつ自らを変化させていく試みを行っています。今後は、電通だけでなく、さまざまな企業との協業を通して、「AI」後の社会や各種事業に貢献するための取り組みを行っていきたいと思います。

放送前1週間の予測が可能CM割り当てのヒントに 電通が今年10月に発表した、AIを活用したテレビ視聴率予測システムのSHAREST_RT(シェアレスト・アールティー)。概要としては、まず過去の視聴率やタレントのプロフィル、世の中のトレンドや気象情報など、さまざまなデータを「RICH FLOW」というデータベースにため込む。これらをディープラーニングで解析し、放送前1週間

のテレビ視聴率を予測する仕組みだ。 予測ターゲットは140ほどに細分化され、F1層やM1層といったセグメントはもちろん、より細かな分類で視聴率を予測できる。2017年6月にローンチした「SHAREST(β版)」は関東地区限定だったが、今年10月に発表した“RT”では、東阪名3地区にエリアを拡大した。 このシステムにより目指すのは「広告効果の最大化」だ。電通の岸本渉氏は、「ター

ゲットの異なる複数のテレビCM素材について、SHARESTの視聴率予測をもとに最適な番組に割り付けることが可能になります」と話す。例えば複数のCM商材を抱える企業の場合、どの枠にどの素材を貼り付けるかを決める上でこの予測が有効になる。

データベースを充実させより効果のある広告を これまでは、どの広告枠にどのCM素材を貼り付けるか考える際、人が視聴率の予測を行うケースが多かった。だが、その業務負荷は非常に大きく、また「予測の知見が人にひも付いてしまうので、属人的になり技術を後進に移行できないという課題がありました」と岸本氏。加えて、テレビCMという予算の大きな部分だけに、精度を上げる必要性があった。 SHAREST_RTは、人による視聴率予測の精度をすでに超える実績を残しており、一部企業で試験的に導入されている。また、最新版ではタイムシフト視聴予測に

も対応するなど、より高精度な形に発展している。 「今後はRICH FLOWにより多様なデータをため、視聴率だけでなく実際の商品購入や集客までの効果を見据えたCM割り付けのヒントが見えるようになればいいですね」と岸本氏。まだまだシステムの進化は続く。

クリエーティブと運用設計両面からAIが広告を見極め ソーシャルメディアの動画広告(運用型広告)において、配信前にAIが効果を予測し、担当者に通知するシステムが開発されている。 運用型広告は、通常、入稿から掲載開始までにタイムラグがある。このシステムでは、入稿段階でAIが広告を読み込み、効果を予測。その予測値が過度に悪い(良い)場合、掲載前に担当者へ通知する。これにより「担当者はクリエーティブを差し替えたり、効果が見込めるものは早く次の手を打ったりすることができます」と、CCIの大驛貴士氏は説明する。 システムでは、AIが広告の「クリエーティブ」と「運用設計」の両面から効果を

予測する。どちらも、過去の広告配信結果をAIで分析。それが予測値のもとになっている。「現役の熟練運用担当者30人弱とAIで広告予測を競わせたところ、AIの方が、運用担当者に比べ予測値の誤差を約4分の1まで縮めることができました」と大驛氏は話す。

最適なソーシャルの動画広告を見つけるために 現状のシステムでは、入稿した広告のみ効果を予測する形だが、開発に携わる電通デジタルの馬籠太郎氏によれば、「いずれは、入稿前の動画広告をシステムに投げるだけで、予測だけでなく、シーン差し替えの提案をフィードバックできるようにしたい」とのこと。クリエーターが

発想段階から活用できるものを目指す。 ソーシャルの動画広 告はニュースフィード型という特性上、テレビCMの制作ポイントとは大きく異なるところがある。その中で「クライアントと事前に効果予測を共有し、ソーシャルの動画広告としてより良いクリエーティブを一緒に作るきっかけとなるツールにしたい」と話すのは、電通デジタルの根本淳氏。

近い時期の実用化を目指して、開発を加速させる。

おおえき

近年のトレンドパターンからAIが未来を予測する TREND SENSORは、未来のトレンドをAIが予測するもの。土台になるのは、SNSとテレビのメタデータだ。過去に流行したさまざまな事象について、SNSとテレビでどのような露出量の軌跡を描いていたか、そのデータをAIに学習させる。これをベースに、今後同じような軌跡を描きそうな事象について、流行前の段階でAIが予測していく。 とはいえ、実際にトレンドを予測することは可能なのか。電通デジタルの三浦慎也氏は、「今の流行は、まずSNSで水面下に話題となり、それをテレビでピックアップしたところ大流行するパターンが多い。であれば、SNSの時点でその動きをキャッチすることで、未来の流行を見据えたクリエーティブ

やマーケティングが可能になります」。

数カ月先のプランニングをデータで論理的に 近年のトレンドについて、SNSとテレビの露出量の推移を調べると、ブレーク前にSNSでわずかに動いているケースが多いという。「うんこ漢字ドリルやハンドスピナー、ブルゾンちえみさんなどは、テレビ露出がきっかけで完全にブレークしたといえます。しかし、実際はその前にSNSで少しずつ動きだしていました」と三浦氏。この動きをAIが学習し、次に来るトレンドを予測する。露出量だけでなく、どんなアカウントが発信し流行につながったか、その経路も学んでいく。最終的にはセグメントごとに流行を予測し、流行する時期まで算出するのが理想だ。なお、日々生み出されていく新語を検出する仕組みもある。

 これにより、数カ月先の広告プランニングやタレントキャスティングも、データをもとに論理的に行うことが可能になっていくとみられる。さらに、コンテンツや番組の企画発案への活用だけでなく、長期予測が可

能になれば商品開発への活用も視野に入れられるだろう。SNSにより次々に新たな流行が出てくる中、それを生かして未来のトレンドを先読みしていく。

縦軸にSNSでの話題量、横軸にマスメディアの話題量をとると、流行のトレンドは図の青線のような軌跡を描くと考えられる。実際にこのような軌跡をたどっているキーワードがAIによるビッグデータの検証で確認されている

SHARESTの仕組み

抽出した特徴ベクトルをAIが理解し、広告配信の事前予測などのアウトプットに 人よりもAIの方が動画再生完了率を正確に当てることができる AIは広告の特徴をインプットし、広告配信予測の数値でアウトプットを行う

画像判定AI

AI

VSVS

人 特徴ベクトル

“Kiku-Hana”の特徴

変換&学習 広告配信予測学習画像 生成画像

AIによる事前予測動画再生完了率CPMCTR

: 15.2%: 1,200円: 1.5%

本 物 偽 物

ルールに基づく会話で失言リスクを防ぐ

2日本語の意味理解が可能1

タレント 世の中トレンド

過去視聴率ジャンル

番組時間

エリア別

視聴率予測入力データ

ターゲットセグメント別

タイムシフト視聴率(関東エリアのみ)

データベース「RICH FLOW」

カスタマイズで企業ごとの特色を付けられる

3他APIや企業内DBとの連携も可能

4さまざまなインターフェースで利用可能

5

お題:どっちの画像が“本物”でしょう?

三浦 慎也 氏

電通デジタル アドバンスト・クリエーティブ・センターデータ&ダイレクトクリエーティブ事業部AIクリエーティブ開発チーム

松山 宏之 氏

電通 ビジネスD&A局 バリューチェーン戦略室 新領域開発部ディレクター

岸本 渉 氏

「AI後」を生きる私たちは、これからどこに向かうのか?大驛 貴士 氏 ・根本 淳 氏・馬籠 太郎 氏

電通デジタル ソーシャルメディア部統合/開発グループ グループマネージャー

CCIビジネスプロモーションディビジョン

電通デジタル執行役員

SHAREST_RT ~テレビ視聴率を予測しCM効果を向上~

TREND SENSOR ~SNSとテレビのメタデータでトレンドを先読み~

Kiku-Hana ~自然に日本語を「聞く」、自然な日本語を「話す」~

動画広告の効果予測 ~ソーシャルメディアにおける広告効果を配信前に採点~

(電通/児玉 拓也)

こんなサービスの開発も!

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