47
⽇本ソノケミストリー学会誌 Vol. 14, No. 1 (March 2020) <総説> ・堅牢ハイドロホンによる強力超音波の音圧分布計測 (本多電子 岡田長也 朝倉義幸、桐蔭横浜大学 竹内真一) 1 ・超音波が拓く裸のコロイド科学とSDGs (信州大学 酒井俊郎) 8 ・超音波を用いた有機物分解の速度論 (東京電機大学 小林大祐) 19 <奨励賞受賞者からの解説論文> ・液中プラズマ法でのナノグラフェン合成における超音波の効果 (名古屋大学 長谷川健太) 24 ・液柱および霧化を生じる条件でのキャビテーションの可視化 (鹿児島大学 二宮大樹) 29 ・圧縮性3相流シミュレーションによるエマルジョン化時に発生する高速液体ジェット方向依存性 (東北大学 山本卓也) 32 ・超音波キャビティ界面領域における界面活性剤ミセル形成が分解挙動に及ぼす影響 (静岡理工大学 鈴木誠也) 36 ・超音波ピッティング効果に対する有機化合物添加の影響 (関西大学 杉野史弥) 39 <会務報告> 42 <お知らせ> 45 ・国内および国外で開催される討論会・シンポジウム・会議等のお知らせ BULLETIN OF THE JAPAN SOCIETY OF SONOCHEMISTRY ISSN 2424-001X

⽇本ソノケミストリー学会誌zirconate titanate (PZT) thick film on the back-side surface of titanium plate to protect from acoustic cavitation. The hydrophone was resistant

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⽇本ソノケミストリー学会誌

Vol. 14, No. 1 (March 2020)

<総説>・堅牢ハイドロホンによる強力超音波の音圧分布計測

(本多電子 岡田長也 朝倉義幸、桐蔭横浜大学 竹内真一) 1・超音波が拓く裸のコロイド科学とSDGs

(信州大学 酒井俊郎) 8・超音波を用いた有機物分解の速度論

(東京電機大学 小林大祐) 19

<奨励賞受賞者からの解説論文>・液中プラズマ法でのナノグラフェン合成における超音波の効果

(名古屋大学 長谷川健太) 24・液柱および霧化を生じる条件でのキャビテーションの可視化

(鹿児島大学 二宮大樹) 29・圧縮性3相流シミュレーションによるエマルジョン化時に発生する高速液体ジェット方向依存性

(東北大学 山本卓也) 32・超音波キャビティ界面領域における界面活性剤ミセル形成が分解挙動に及ぼす影響

(静岡理工大学 鈴木誠也) 36・超音波ピッティング効果に対する有機化合物添加の影響

(関西大学 杉野史弥) 39

<会務報告> 42

<お知らせ> 45・国内および国外で開催される討論会・シンポジウム・会議等のお知らせ

BULLETIN OF THE JAPAN SOCIETY OF

SONOCHEMISTRY

ISSN 2424-001X

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堅牢ハイドロホンによる強力超音波の音圧分布計測

1 本多電子株式会社 研究部、2桐蔭横浜大学 医用工学部臨床工学科

岡田 長也 1,朝倉 義幸 1,竹内 真一 2

1. はじめに

ソノケミストリーは、溶液に高強度な超音波を照射することで生じる音響キャビテーションに

由来するホットスポット周辺の反応場での化学を呼ぶ。ソノケミストリーの適用分野は、有機化

学、ナノ粒子合成、医療応用、環境浄化など幅広い分野に渡るが、プロセスの安定性の観点から、

超音波装置の定量評価が求められている。超音波反応装置(ソノリアクター)内の溶液に照射される

超音波エネルギーや音圧を評価することは重要である。

これらの背景から、我々は、ソノリアクターの強力超音波を計測可能な堅牢ハイドロホンを開

発してきた 1-4)。身体内部の目的部位を熱凝固壊死させて治療する高密度焦点式超音波治療(High

Intensity Focused Ultrasound)装置を模擬した集束音源の焦点領域の音圧マッピングに成功した 4)。

この時の焦点領域の音圧は約 15 MPa であり、堅牢ハイドロホンは、強力超音波の計測に使用可能

なデバイスであることを示すことができた。また、製作した堅牢ハイドロホンは、数 10 kHz から

10 MHz の周波数領域で感度を有し、数 10 kHz のソノリアクターで発生したキャビテーション由

来の高調波成分やホワイトノイズ成分を検知することができた 5, 6)。堅牢ハイドロホンの出力から

ソノリアクターのキャビテーションの発生状況をモニターすることができ、ソノケミストリーに

有益な情報を提供できる可能性を示した。

本稿では、製作した堅牢ハイドロホンを紹介し、強力超音波に向けた音圧分布計測の取り組み

を紹介する。合わせて、高音圧により堅牢ハイドロホン先端部で生じたキャビテーションバブル

の挙動観察例も紹介する。ソノケミストリーとは切り離せないキャビテーションバブルの挙動観

察は、キャビテーションバブルの理解・制御に役立ち、ソノケミストリーのさらなる展開に寄与

できると考えている。

Measurements of Acoustic Pressure Distribution in High-Intensity Ultrasound Fields by Using Tough Hydrophone Nagaya Okada, Yoshiyuki Asakura (Research and Development Dept. HONDA ELECTRONICS CO., LTD., 20 Oyamazuka, Oiwa-cho, Toyohashi, Aichi, 441-3193, Japan), Shinichi Takeuchi (Department of Clinical Engineering, Faculty of Biomedical Engineering, Toin University of Yokohama, 1614 Kurogane-cho, Aoba-ku, Yokohama, 225-8503, Japan) Tel: +81-532-41-2511, Fax: +81-532-43-2093, E-mail: [email protected] Key Word: tough hydrophone/acoustic cavitation bubbles/ high-intensity acoustic field’s measurement Abstract: Tough hydrophones were developed by the deposition hydrothermally synthesized lead zirconate titanate (PZT) thick film on the back-side surface of titanium plate to protect from acoustic cavitation. The hydrophone was resistant to damages in a high-pressure field (15 MPa) when placed at the focal point of a concave transducer, which was driven in the sinusoidal continuous-wave with up to 50 W of power input to the sound source. The tough hydrophone was suitable for the high-intensity field, even though the hydrophone has a flat-shape tip of 3.5 mm diameter, which is slightly larger than the wavelength of a few megahertz. Direct measurements of acoustic distribution profile in a focal point of a 1 MHz concave transducer and in a 22 kHz sonochemical reactor were performed. Influences of the tough hydrophone on the high-intensity 1 MHz and 22 kHz acoustic fields were investigated by visualizing bubbles around the hydrophone tip by using a ultrasound diagnostic equipment and a high-speed video camera. As the 1 MHz results, trapped acoustic bubbles were seen to arise from the standing wave, which generated between the concave transducer and the tough hydrophone tip located at the focal point. On the other hand, the tough hydrophone was good use for 22 kHz sonochemical reactor. In some case, generated acoustic bubble cloud on the hydrophone tip was observed, thought it might be affected in actual pressure measurements.

総説

1

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2. 強力超音波の定量評価手法

超音波洗浄機は、ソノケミストリーより古くから実用化が進んでいるが、定量評価手法はない。

付着した残留油分量や、セラミックスに付着したカーボンの剥離量から洗浄評価する手法が開発

されたが、アルミホイルのエロージョンテスト以外に、良い評価する手法が無いのが現状である。

アルミホイルのエロージョンテストは、簡便な手法であるが、その評価は主観的・定性的であり、

定量評価手法としては限定的な使用にとどまる。

ソノケミストリーの分野では、化学作用を用いる KI 法 7)、ルミノール溶液による可視化 8)、溶

液の温度上昇を計測するカロリメトリー9)など、超音波機器の定量評価手法が開発され、その活用

が進む。天秤法、ハイドロホン法は、超音波診断装置の音響出力を公知するため、国際規格に規

定される 10, 11)。しかし、規定される天秤法、ハイドロホン法は、数 10 mW/cm2 の弱い超音波には

適用され、強力超音波には利用できない。天秤法を強力超音波に用いると受圧板の変性や円錐コ

ーンが側方に変位することで誤差を生じ、超音波パワー15 W 程度までの評価にとどまる。また、

強力超音波音場では、一般的な市販ハイドロホンは高い音圧と発生したキャビテーションにより

破壊されるため、使用が難しい。カロリメトリーは強力超音波を評価することが可能であるが、

空間的な分布計測が難しい。安定して計測できる強力超音波の定量評価手法の開発が求められる。

ここで、超音波エネルギーを表す指標についてまとめる(Fig.1)。超音波パワーW は、単位時間

内に振動子から放射される超音波の全エネルギーE[J]を表し、単位は[W]または[J/s]である。超音

波強度(acoustic intensity) I は、音波の進行方向に垂直な単位面積を単位時間に通過する音響エネル

ギーを表し、単位は[W/cm2]である。2 つは別の物理量を表すものであるが、混乱しやすいので注

意が必要である。また、超音波強度 I と音圧 P の間には、次の関係式が成り立つ。

(1)

ここで、Prmsは音圧の実効値、Vrms は粒子速度の実効値、ρは溶媒の密度、c は溶媒の音速を表す。

粒子速度は、聞きなれない言葉であるが、溶媒

中の超音波伝搬を粒子の振動と置き換えて、粒

子の移動速度として表したものである。カロリ

メトリーは超音波照射による溶媒の温度上昇率

から超音波パワーを求める手法、天秤法は超音

波照射による放射力を電子天秤にて計測した重

量変化から超音波パワーを求める手法である。

ハイドロホン法は、ハイドロホンを挿入したポ

イントの音圧を計測できる。ハイドロホン法は、

カロリメトリー・天秤法では難しい槽内の音圧

または音響強度の分布計測が可能である。その

一方で、ハイドロホン法で超音波パワーを求め

るには、音圧波形を時間積分し、式(1)で超音波

強度に変換し、音波の進行方向に垂直な計測面

積をかけ合わせて求める必要がある。

c

PVPI rms

rmsrms

2

Fig.1 Explanation of (a) acoustic power, (b) acoustic intensity.

(a)

(b)

transducer

transducer

ultrasoundunit area

receiving area

ultrasound

2

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3. 堅牢ハイドロホンの構造

堅牢ハイドロホンは、チタン製前面板の受

音面の反対側に水熱合成法を用いてPZTを堆

積させた構造を持つ(Fig.2)。0.41 mm のチタ

ン製前面板は、強力超音波音場で発生した高

い音圧と音響キャビテーションに対抗する保

護膜の機能を有する。膜厚 30 μm の水熱合成

PZT 多結晶膜は前面板との間の接合強度が強

く強力超音波の振動に耐える。PZT 多結晶膜

の後ろにバッキング材を取り付けた。バッキ

ング材の選定で、周波数特性を改善し、数 10

kHz から 10 MHz までの広い範囲で受信感度

を向上できることが分かった 12)。試作した堅

牢ハイドロホンの先端径はφ3.5 mm、フラッ

トな形状をしている。先端が平坦なため、平

面部が反射板となりうるため、有限要素法解

析により平坦部が音場に与える影響を検討し

た 4)。その結果、先端が平坦な堅牢ハイドロ

ホンを 1.6 MHz の集束音源に挿入した場合、

直径が 1/4 波長以下のハイドロホンならば、

音場に与える影響は少ないことが分かった。

しかし、細い堅牢ハイドロホンを製作するこ

とは容易ではない。そこで、1/4 波長より太い

直径φ3.5 mm の堅牢ハイドロホンを 1 MHz

集束振動子の焦点に挿入した場合と 22 kHz

ソノリアクター水槽に挿入した場合に生じる

影響を観察した。

4. 堅牢ハイドロホンの校正と受波特性

ハイドロホンは、音圧を受けて電気信号を出力する装置である。ハイドロホンで槽内をスキャ

ンしながら音圧を計測すれば、槽内の音圧分布を計測できる。ただし、音圧の絶対値を求めるに

は、ハイドロホンの感度校正が必要である。受波感度が校正されている基準ハイドロホンと比較

する比較校正法により被校正ハイドロホンの受波感度を求めるのが一般的である。被校正ハイド

ロホンの感度 SUT [V/Pa]は、

(2)

と表される。ここで、SST [V/Pa]は基準ハイドロホンの感度、VUT [V]は被校正ハイドロホンの出

力電圧振幅、VST [V]は基準ハイドロホンの出力電圧振幅を表す。被校正ハイドロホンと基準ハイ

ドロホンを送波用の超音波振動子に対向させて配置する。校正時には送波用超音波振動子の主軸

とハイドロホンの受波部を合わせるように、基準ハイドロホン、被校正用ハイドロホンを順に計

測する。本手法では、振動子出力波形、信号回路系統、信号処理方法などを同一にすれば、電圧

計測系の周波数特性を相殺できるメリットがある。しかしながら、本手法が対象とする被校正ハ

イドロホンは、一般的に 100 kPa 程度の音圧で校正される。このため、高強度超音波の音場計測

STUTSTUT VVSS /

Fig.3 Schematic showing the hydrophone calibration method for high-intensity ultrasound.

Fig.2 Schematic of the tough hydrophone with diameter of 3.5 mm.

TiPZT

backing material

electrically conductive adhesive

filled resin

metal tubeacoustic receiving surface

target hydrophone

reference hydrophoneHNR-0500(ONDA Corporation)

input power oftransducer(1W, CW)

concave transducer

concave transducer

3

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に使用する堅牢ハイドロホンの校正には、次

の手順を用いた(Fig.3)3)。

基準ハイドロホンは、市販ハイドロホンの

中で比較的堅牢なハイドロホンを選定し、

HNR-0500(ONDA Corporation, Sunnyvale, CA,

USA)とした。送信は、集束振動子(0.81 MHz,、

開口径 80 mm、フォーカス距離 50 mm)を電

気入力 1 W で連続駆動した。最初に、基準

ハイドロホンを音源のフォーカス点に設置

して、その点における最大音圧を求める。次

に、被校正ハイドロホンとして堅牢ハイドロ

ホンを用いて同じフォーカス点における最

大受信電圧を計測する。式(2)から、被校正

ハイドロホンの受波感度を求めた。音響伝搬

はリニアで、ビーム幅は音源の音圧に依存し

ないと仮定した。集束振動子の超音波パワー

が投入電力に等しいとすれば、式(1)より、音

圧は、印加電力のルートに比例する。0.81 MHz

の集束振動子の焦点領域の音圧は、Fig.4 に示

すように、投入電力のルートが増加するのに

応答して、8 MPa 程度までリニアに増加し、8

MPa を超えるとリニアリティーがなくなった12)。一方、集束振動子の振動振幅をレーザー

ドプラ振動計で計測すると、入力電力のルー

トに対してリニアに増加していたため 4)、こ

の特性は、堅牢ハイドロホンの特性と見てい

る。繰り返しになるが、この結果の解釈にお

いては、音波伝搬過程ではリニアを仮定して

いる。今後は、音響伝搬による非線形現象な

どを考慮した、高音圧または高強度での受波

感度の校正手法の開発が必要である。

5. 堅牢ハイドロホンが強力超音波の音場計

測に及ぼす影響

堅牢ハイドロホンが強力超音波の音場計測

に及ぼす影響を調べるため、強力超音波の音場中に堅牢ハイドロホンを挿入した時に生じるキャ

ビテーションバブルを観察した。キャビテーションバブルの観察には超音波診断装置と高速度ビ

デオカメラを用いた。高強度超音波の発生装置として、集束振動子(1 MHz,、開口径 80 mm、フォ

ーカス距離 50 mm)と 22 kHz ソノリアクター(水槽サイズ:120×120×210 mm)を用いた。

1 MHz 集束振動子のフォーカス点に堅牢ハイドロホンを挿入した時、ハイドロホン先端と集束

振動子の間に生じたキャビテーションバブルの様子を超音波診断装置(Fig.5)、高速度ビデオカメ

ラ(Fig.6)で観察した。キャビテーションバブルは、集束振動子と堅牢ハイドロホン先端の間で生

じた定在波音場にトラップされながら、堅牢ハイドロホン先端に向かって移動していく様子が観

Fig.4 Relationship between the square root of input power to the sound source of the concave type transducer and the acoustic pressure measured with the tough hydrophone under test.13)

(a)

hydrophone tip

20 mm

(b)

burst noise

floating bubblesstaying bubbles

hydrophone tip

transducer

Fig.5 (a) B mode image of the acoustic bubbles distributions around tough hydrophone tip. (b) Explanatory drawing of B mode image.

4

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察された。ルミノール溶液による観察では、

集束振動子の曲率に沿った円弧上の発光が観

察され、これからも定在波によるキャビテー

ションバブルの存在が示唆された 13)。高周波

数の強力超音波音場への堅牢ハイドロホンの

影響として、1 MHz 集束振動子の焦点領域の

観察をした。もっとも厳しい条件とは言え、

堅牢ハイドロホンの先端がフラットな形状で、

直径φ3.5 mm が波長より大きいことが、音場

計測に影響を及ぼしていると考えられる。

堅牢ハイドロホンを用い 22 kHzのソノリア

クター水槽の音場計測を試みた (Fig.7)12)。

Fig.7では、黒より白い部分の方が音圧が高い。

その結果、水槽の形状から想定される音圧分

布に相当する音場分布を示した。また、高速

度ビデオカメラにより観察した低周波数の強

力超音波への堅牢ハイドロホンの影響では、

ハイドロホンを音場に挿入しても極端にキャ

ビテーションバブルの状況に変化がないこと

がわかった。22 kHz ソノリアクターでは、水

面に反射して定在波音場を作り、堅牢ハイド

ロホンを挿入しなくても目視できるキャビテ

ーションバブルが集まってくる場所がある。

そこに堅牢ハイドロホンの先端部を挿入した

時の高速度ビデオカメラによる観察例を Fig.8

に示す。堅牢ハイドロホンの先端部に向かい

微細なキャビテーションバブルが移動してい

く様子が観察された。堅牢ハイドロホンを挿

入しても、キャビテーションバブルの挙動が

大きくは変化しない。22 kHz では、堅牢ハイ

ドロホン挿入の影響が少ないと考えられる。

高強度超音波音場ではキャビテーションバブ

ルの動き自体が活発になり、全体的な動きに

比べて、先端部の挿入による影響は極端に小

さいと考えられる。その一方で、堅牢ハイドロホン先端のフラット形状が原因と考えられる影響

も観察されている。Fig.9 に示す様に、キャビテーションバブルがクラウド状に堅牢ハイドロホン

の先端に発生することがある。このキャビテーションバブルクラウドが何らかの影響を及ぼして

いると考えている。

6. おわりに

堅牢ハイドロホンを試作し、ソノリアクターの強力超音波音場を計測可能なデバイスであるこ

とを示した。試作した堅牢ハイドロホンの先端はフラット形状で直径 3.5 mm と MHz 帯における

波長に比べて大きい。1 MHz の強力超音波音場の場合、堅牢ハイドロホンの先端が反射板となり、

Fig.6 Picture of generated acoustic cavitation bubbles using high-speed video camera.

hydrophone

acoustic cavitation bubbles

3.5 mm

Fig.7 A measured acoustic pressure distribution profile in a sonochemical reactor. Water level from the bottom is 81 mm. 12)

concave tran

sducer

measured plates in water tank Sliced level from the

bottom : 35 mm

-40 -20 0 20 40

left / right [mm]

0

-10

-20

-30

-40

-50

-60

-70

40

20

0

-20

-40

dB r

e P

eak

fron

t / b

ack

[mm

]

0

-10

-20

-30

-40

-50

-60

-70

dB r

e Pe

ak

-40 -20 0 20 40

left / right [mm]

60

50

40

30

20

10

0

dept

h [m

m]

5

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振動子とハイドロホン先端の間に定在波由来の

キャビテーションバブルを発生することがわか

った。1 MHz の集束振動子のフォーカス領域の

音圧分布計測も可能であるが、堅牢ハイドロホ

ンの先端がフラット形状で、直径φ3.5 mm で波

長より大きいことが、音場計測に何らかの影響

を及ぼしているのではないかと考えている。

22 kHz ソノリアクター水槽の音場計測に成功

した。音場に及ぼす影響の高速度ビデオカメラ

による観察では、強力超音波音場に堅牢ハイド

ロホンを挿入しても、キャビテーションバブル

の挙動を極端に変えるほどの影響は与えていな

いことがわかった。また、先端にキャビテーシ

ョンバブルクラウドが生じることがあり、正確な

音圧計測に何らかの影響を及ぼしている可能性

も示唆された。

これらの状況を踏まえ、堅牢ハイドロホンの先

端形状の工夫や先端音響窓の材料を検討してい

る。高強度超音波の音場計測において、キャビテ

ーションバブルの影響をゼロにするのは難しい

と感じるが、解決方法の一案は堅牢ハイドロホン

の先端部にキャビテーションバブルを付着させ

ない工夫であると考え、更なる研究開発を続けて

いる。

References

1) S. Takeuchi, K. Yoshimura, H. Yagi, N. Kawashima, T. Uchida, M. Yoshioka, T. Kikuchi, T. Okuno,

and M. Kurosawa, Hydrophone with hydrothermally deposited lead zirconate titanate poly-crystalline

film on titanium film as acoustic receiving surface for estimation of high power acoustic field by

HIFU, in Proc. IEEE Ultrasonics Symp. (IUS), 2239 (2010).

2) S. Takeuchi, M. Ishikawa, N. Kawashima, T. Uchida, M. Yoshioka, T. Kikuchi, N. Okada, and M. K.

Kurosawad, Robust hydrophone with hydrothermal PZT thick-film vibrator and titanium front layer

for use in high-power ultrasound fields, in Proc. IEEE Ultrasonics Symp. (IUS), 844 (2011).

3) N. Okada, Y. Asakura, M. Shiiba, S. Takeuchi, T. Uchida, M. Yoshioka, T. Kikuchi, and M. K.

Kurosawa, Characterization of Hydrophone with Hydrothermal PZT Thick Film Vibrator and Ti Front

Layer for Measurement in High Intensity Therapeutic Ultrasound, in Proc. 2013 Joint UFFC, EFTF

and PFM Symp., 1121 (2013).

4) N. Okada and S. Takeuchi, Effect on High-intensity Fields of a Tough Hydrophone with Hydrothermal

PZT Thick-film Vibrator and Titanium Front Layer, IEEE Trans. Ultrason. Ferroelectr. Freq. Control

64, 1120 (2017).

5) T. T. Nguyen, Y. Asakura, N. Okada, S. Koda, and K. Yasuda, Effect of ultrasonic cavitation on

measurement of sound pressure using hydrophone, Jpn. J. Appl. Phys. 56, 07JE06 (2017).

Fig.9 Recorded image of generated acoustic cavitation bubble cloud on the tough hydrophone tip.

hydrophone

bubble cloud

3.5 mm

Fig.8 Recorded image of acoustic bubbles toward to the tough hydrophone tip.

hydrophone

3.5 mm

acoustic bubbles

6

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6) T. T. Nguyen, Y. Asakura, S. Koda, and K. Yasuda, Dependence of cavitation, chemical effect, and

mechanical effect thresholds on ultrasonic frequency, Ultrason. Sonochem. 39, 301 (2017).

7) S. Koda, T. Kimura, T. Kondo, H. Mitome, A standard method to calibrate sonochemical efficiency of

an individual reaction system, Ultrasonics Sonochemistry, 10, 149 (2003).

8) F. Grieser, P.-K. Choi, N. Enomoto, H. Harada, K. Okitsu, and K. Yasui, Sonochemistry and the

Acoustic Bubble, ELSEVIER, CA: University Science, 114 (2015).

9) T. Kikuchi and T Uchida, Calorimetric method for measuring high ultrasonic power using water as a

heating material, J. Phys. Conf. Ser., 279, 012012 (2011).

10) IEC Standard, IEC 60866, 1987.

11) IEC Standard, IEC 61157, 1992.

12) 岡田長也,朝倉義幸,椎葉倫久,内田武吉,吉岡正裕,菊池恒男,黒澤 実,竹内真一, 強力

超音波用ハイドロホンの開発-連続波駆動するソノリアクター内の音圧分布計測, 第 22 回

ソノケミストリー討論会, 11 (2013).

13) N. Okada and S. Takeuchi, Robust hydrophone with hydrothermal PZT thick-film vibrator and

titanium front layer for use in high-power ultrasound fields, in Proc. Applications of Ferroelectric,

International Symposium on Integrated Functionalities and Piezoelectric Force Microscopy Workshop

(ISAF/ISIF/PFM), 2015 Joint IEEE International Symposium, 147 (2015).

7

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超音波が拓く裸のコロイド科学と SDGs

信州大学 工学部 酒井 俊郎

1. はじめに

筆者は 25 年前、大学 4 年生の卒業研究において超音波と出会い、現在も超音波を活用した研

究を行っている。実際には、当時、コロイド分散系のコロイド粒子表面に界面活性剤などの保護

剤が吸着していない“裸のコロイド粒子”を作製することを目的として超音波を使用するように

なった。例えば、油と水が混合したコロイド、つまり、エマルションは、一般に、油と水が混合

しないため、界面活性剤などの乳化剤が使用され、油滴が水中に分散した水中油滴型(O/W)エ

マルション、水滴が油中に分散した油中水滴型(W/O)エマルションが調製される。それに対し

て、筆者は市販の超音波洗浄機を用いて油と水だけを混合して、界面活性剤などの乳化剤が存在

しない O/W エマルション、W/O エマルション(乳化剤フリーエマルション、サーファクタントフ

リーエマルションと命名)を調製して、その分散安定性や長期分散安定化技術、水中に分散して

いる“裸の油滴”、油中に分散している“裸の水滴”の表面状態などについて検討してきた 1-19)。

また、乳化剤フリーエマルションを利用したポリマー粒子の合成についても検討した 20, 21)。さら

に、界面活性剤などの保護剤が金属ナノ粒子表面に吸着していない“裸の金属ナノ粒子”の水中

での分散安定性や“裸の金属ナノ粒子”の表面状態を検討することを目的として、高周波超音波

を使用した“裸の金属ナノ粒子”の水系合成法(高周波超音波還元法)を開発した 22-24)。この高

周波超音波還元法を利用すると、前処理を行うことなく水中でポリマー粒子 25)、樹脂板 26)、金属26)、活性炭 27) 表面上に“裸の金属ナノ粒子”を担持できることも明らかとした(高周波超音波金

属ナノ粒子担持法)。さらに、超音波を活用して無電解めっき廃液中の次亜リン酸イオンの酸化・

回収についても検討した 28)。本稿では、超音波を活用した乳化(乳化剤フリーエマルション)1-19)、

水中での“裸の金属ナノ粒子”の合成 22-24)、水中でのポリマー粒子上への“裸の金属ナノ粒子”

担持 25)、水溶液中での次亜リン酸イオンの酸化・回収 28)について紹介する。

Naked Colloid Science and SDGs Generated by Ultrasound Toshio Sakai (Department of Materials Chemistry, Faculty of Engineering, Shinshu University, 4-17-1 Wakasato, Nagano,380-8553, Japan) Tel: +81-26-269-5405, Fax: +81-26-269-5424, E-mail: [email protected] Key Word: Emulsifier-free emulsion/ Naked metal nanoparticle/ Naked metal nanoparticles deposition/ Oxidation of hypophosphite ions Abstract: In general, the colloidal particles are dispersed in liquid media with the aid of stabilizing agents such as surfactants. Namely, the colloidal particles dispersed in liquid media are covered by stabilizing agents such as surfactants. On the other hand, naked colloidal particles which is in the absence of any stabilizing agents such as surfactants adsorbed on the surface of colloidal particles were prepared in liquid media by ultrasonication to evaluate the surface properties of naked colloidal particles and colloidal stabilization mechanism of naked colloidal particles in liquid media. For example, the naked oil droplets dispersed in water (named as emulsifier-free or surfactant-free oil-in-water emulsions) were colloidally stabilized by oils blending and tandem irradiation of ultrasound with different frequencies. The emulsifier-free water-in-oil emulsions were also colloidally stabilized with the addition of electrolytes to water. The emulsifier-free oil-in-water emulsions were applied to fabricate the naked polymer particles. Furthermore, the naked metal nanoparticles were produced through the reduction of metal ions by sonolysis of water generated with high-frequency ultrasound. The high-frequency ultrasound-mediated fabrication of naked metal nanoparticles led to the deposition of naked nanoparticles on polymer particles and plates. The hypophosphite ions in aqueous media were oxidized by sonolysis of water generated with high-frequency ultrasound. These findings should generate the new science (e.g., naked colloid science and non-catalytic chemistry) and new technology (e.g., green processing) for next generation. This should also contribute to the achievement of SDGs (e.g., Goal 9: Industry, Innovation and Infrastructure).

総説

8

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2.超音波を利用した乳化剤フリーエマルションの調製

前述したように、超音波を利用して乳化剤フリーエマルションを調製した理由は、水中に分散

している“裸の油滴”の表面状態や“裸の油滴”が分散した O/W エマルションの分散安定性を評

価したかったからである。特に、油の物性と O/W エマルションの分散安定性との相関性を明らか

として、O/W エマルションの分散安定性の本質を理解することを目的として研究を行ってきた。

その結果、市販の超音波洗浄機(40 kHz, 125 W)を用いて調製された乳化剤フリーO/W エマルシ

ョンの分散安定性は、油の種類(物性)により異なるこ

とが明らかとなった。例えば、飽和炭化水素(ヘキサン、

オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデ

カン)を分散質とした乳化剤フリーO/W エマルション

の場合、飽和炭化水素の炭化水素鎖が長くなると乳化剤

フリーO/W エマルションの分散安定性が高くなる、つ

まり、分散質がヘキサン<オクタン<デカン<ドデカン

<テトラデカン<ヘキサデカンの順に乳化剤フリー

O/W エマルションの分散安定性が高くなることが明ら

かとなった 7, 16)。また、異種油を混合すると、乳化剤フ

リーO/W エマルションの分散安定性が著しく向上する

ことも明らかとした 2, 5)。例えば、ベンゼンを分散質と

した乳化剤フリーO/W エマルションは調製後 1 時間程

度しかエマルション状態を維持することができない(調

製後、1 時間程度でベンゼンは水と分離する)。このベ

ンゼンに少量のヘキサデカンを混合して乳化剤フリー

O/W エマルションを調製すると、乳化剤フリーO/W エ

マルションは 1 年間を経過してもエマルション状態を

維持していた 2)。混合する油の種類や混合比を最適化す

ることにより、乳化剤フリーO/W エマルションは長期

分散安定化できる 2, 5)。さらに、乳化剤フリーO/W エマ

ルションの調製に使用してきた超音波の周波数を、低周

波(40 kHz)から中周波(200 kHz)、高周波(1000 kHz)

へと逐次的に照射(タンデム乳化)すると、水中に分散している油滴の粒子径が単分散化すると

同時に乳化剤フリーO/W エマルションが長期分散安定化することを発見した(Figure 1)12)。近年

では、油中に分散している“裸の水滴”の表面状態や“裸の水滴”が分散した W/O エマルション

の分散安定性について検討しており、水に少量の電解質を添加して乳化剤フリーW/O エマルショ

ンを調製すると、乳化剤フリーW/O エマルションの分散安定性が向上することを明らかとしてい

る 19)。

3.超音波を利用した“裸の金ナノ粒子”の水系合成

次に、固体微粒子分散系の固体微粒子表面に界面活性剤などの保護剤が吸着していない“裸の

固体微粒子”を作製して、固体微粒子分散系の分散安定性や“裸の固体微粒子”の表面状態につ

いて検討した。特に、金属ナノ粒子に焦点をあて、“裸の金属ナノ粒子”の作製と水中での分散安

定性について検討した。一般に、水中で金属ナノ粒子が合成される場合、原料の金属塩と形成さ

れた金属ナノ粒子のサイズ・形状・分散安定性を制御するための保護剤(界面活性剤やアルカン

チオールなど)が溶解した水溶液と水中の金属イオンを還元するための還元剤(ホウ素化水素ナ

トリウムやヒドラジンなど)水溶液が混合され、水中で金属イオンが還元され、金属ナノ粒子が

Fig.1 Droplet size distribution of emulsifier-free oleic acid-in-water emulsion prepared by tandem emulsification (200 kHz ultrasonication for 8 min after 40 kHz ultrasonication for 8 min)12)

9

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形成される 29-40)。それに対して、筆者は、アルゴン(Ar)バブリングした金属塩水溶液に高周波

超音波(950 kHz)を 8 分間程度照射すると、還元剤(ホウ素化水素ナトリウムやヒドラジンなど)

や保護剤(界面活性剤やアルカンチオールなど)を一切使用することなく“裸の金属ナノ粒子”

が合成できることを明らかとした(高周波超音波還元法)22)。

水への超音波照射により水中にキャビティー(空洞)が形成され、そのキャビティー(空洞)

は数千度・数百気圧であり 41-43)、化学反応を引き起こすことが知られている 44-48)。例えば、水に

超音波を照射すると、水分子がラジカル解離して水素ラジカル(H)と水酸化ラジカル(OH )

を生成する(反応 1)49-53)。

H2O → H + OH (1)

水への超音波照射により生成される Hは還元作用、OH は酸化作用を有することから、還元作用

を有する Hは金属イオンを還元して、金属ナノ粒子を生成することができる 22, 54-56)。例えば、Ar

バブリングした塩化金酸(HAuCl4)水溶液に高周波超音波を照射すると、水中の塩化金イオン

([AuCl4]-)が Hにより還元されて金ナノ粒子が形成される(反応 2-6)22, 54-56)。

2[AuIIICl4]- + H 2[AuIICl3]- + Cl + HCl (2)

2[AuIICl3]- [AuIIICl4]- + [AuICl2]- (3)

[AuICl2]- + H Au0 + HCl + Cl- (4)

nAu0 (Au0)n (5)

(2AuI, Aun) (AuII, Aun+1) (6)

調製された金ナノ粒子は 40~50 nm 径の球状粒子と三角形、六角形の板状粒子であり、保護剤が

含まれていないにもかかわらず水中で高分散状態を維持していた(Figure 2)22)。また、HAuCl4

水溶液に塩化ナトリウム(NaCl)を添加して

高周波超音波を照射すると、金ナノ粒子の板

状成長が促進されることも明らかとなった 22)。

さらに、水素ガス(H2)をバブリングした

HAuCl4 水溶液に高周波超音波を照射すると、

より微細で均一な粒子径の金ナノ粒子が形成

されることも明らかとした 23)。これまで、金

属ナノ粒子の湿式化学還元法では、金属イオ

ンを還元するための還元剤(ホウ素化水素ナ

トリウムやヒドラジンなど)や形成した金属

ナノ粒子のサイズ・形状制御や液体中での分

散安定化のために保護剤(界面活性剤やアル

カンチオールなど)が必須と考えられていた

が 29-40)、高周波超音波の活用、電解質の添加やガスの導入により、付加的な還元剤や保護剤を

使用することなく、水中において金ナノ粒子のサイズ・形状制御、分散安定化が可能であるこ

とが明らかとなった。

4.超音波が生み出す不思議な水

実は、過去の研究事例においては、水への超音波照射により水がラジカル解離(反応1)して生

Fig.2 (Left-hand-side images) Dispersion state and (Right-hand-side image) transmission electron micrograph (TEM) of gold nanoparticles formed through sonochemical reduction of [AuCl4]- in water22, 23)

10

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成されるHは、[AuCl4]-をほとんど還元しないと報告されている56-58)。そのため、従来は、HAuCl4

水溶液中に還元促進剤(アルコールなど)を添加し、超音波照射により還元促進剤がラジカル解

離(RH + OH (H) → R + H2O (H2))して生成される有機ラジカル(R)を還元種として [AuCl4]-

は還元され、金ナノ粒子が形成される56-58)。しかし、筆者の実験では、ArバブリングしたHAuCl4

水溶液に8分間高周波超音波(950kHz)を照射すると、[AuCl4]-が完全に還元され、金ナノ粒子が

形成される。そのため、ArバブリングしたHAuCl4水溶液への高周波超音波照射による[AuCl4]-の還

元、金ナノ粒子の形成は、水への高周波超音波照射により生成したHが [AuCl4]-の還元種(反応

2~6)であると考えていた22)。一方で、筆者はArバブリングしたHAuCl4水溶液への高周波超音波

照射よりH以外の還元種が生成し、その還元種が[AuCl4]-を還元して金ナノ粒子を生成している可

能性についても検討した24)。特に、水への超音波照射により水分子(H2O)から生成されるラジ

カル種(H、OH)、水中に残存している空気成分(窒素N2、酸素O2)から生成されるラジカル種

(窒素ラジカルN、酸素ラジカルO)の再結合物質(反応7~19)49-53)の関与について検討した。

H + OH → H2O (7)

2H → H2 (8)

2OH→ H2O2 (9)

2OH → O + H2O (10)

2O → O2 (11)

1/2O + 2H → H2O (12)

O + H2O → H2O2 (13)

N2 → 2N (14)

O2 → 2O (15)

N + O → NO (16)

NO + O → NO2 (17)

OH + NO → HNO2 (18)

OH + NO2 → HNO3 (19)

Ar バブリングした超純水に高周波超音波を 8 分間照射して(以下、超音波照射水)、その超音

波照射水に HAuCl4 水溶液を添加すると、透明な超音波照射水が赤紫色に変化した 24)。また、

[AuCl4]-由来の吸収スペクトル(最大吸収波長 213 nm)の吸光度が減少、金ナノ粒子の表面プラズ

モン共鳴に由来する吸収スペク

トル(最大吸収波長 540 nm)の吸

光度が増大した(Figure 3)24)。

透過型電子顕微鏡(TEM)観察に

おいても、約 40 nm 径の球状粒子

や三角形、六角形の板状粒子が確

認された。これらのことから、超

音波照射水中で[AuCl4]-が還元さ

れ、金ナノ粒子が形成されている

ことが明らかとなった。このこと

から、Ar バブリングした超純水

に高周波超音波を照射すると、水

中に[AuCl4]-を還元することがで

Fig.3 (Left-hand-side panel) Absorbance at ~213 nm originating from [AuCl4]- and (Right-hand-side panel) absorbance at ~540 nm originating from surface plasma resonance of gold nanoparticles recorded as a function of time after addition of aqueous HAuCl4 solution with sonicated water24)

11

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きる化学種が生成されていることが明らかとなった。さらに、超音波照射水中に存在する[AuCl4]-

の還元種の反応活性は高周波超音波照射 3 日後まで確認された。ちなみに、水への超音波照射に

よって生成されるラジカル種の再結合物質である過酸化水素(H2O2)(反応 13)の水溶液を作製

し、HAuCl4 水溶液を添加すると、[AuCl4]-は若干還元されるが、超音波照射水の還元活性には及

ばない。亜硝酸(HNO2)(反応 18)、硝酸(HNO3)(反応 19)の水溶液に HAuCl4水溶液を添

加した場合には [AuCl4]-は還元されない。現在のところ、Ar バブリングした超純水に高周波超音

波を照射して得られた超音波照射水中に存在する[AuCl4]-の還元種は特定できていないが、超音波

が生み出す特異的な反応場のなぞを解き明かす鍵になるものと期待している。

5.超音波を利用したポリマー粒子上への“裸の金ナノ粒子”担持

これまで、界面活性剤などの保護剤が吸着していない“裸のコロイド粒子”の表面状態や“裸

のコロイド粒子”の液体中での分散安定化機構などを解明することを目的に研究を行ってきた。

この“裸のコロイド粒子”を材料として眺めてみると、多くの利点がある。例えば、高周波超

音波を利用して作製された“裸の金ナノ粒子”を電子デバイスの微細配線や異方性導電性接着

剤の導電性粒子に適用することを考えた場合、“裸の金ナノ粒子”は表面に保護剤が吸着してい

ないことから、保護剤を除去する必要がなく、高い電気伝導性を発現するものと期待される 59)。

そこで、筆者は、前述した高周波超音波

を使用した“裸の金ナノ粒子”の作製方

法を利用して、還元剤や保護剤を一切使

用せずポリマー(プラスチック)基材上

へ“裸の金ナノ粒子”を担持する技術(高

周波超音波金ナノ粒子担持法)の開発を

試みた 25)。その結果、6 m 径のアクリ

ル粒子を 0.1 mM HAuCl4水溶液中に分

散して高周波超音波を 8 分間照射すると、

10~20 nm 径の“裸の金ナノ粒子”がアク

リル粒子表面に均一に担持されること

が明らかとなった。

この高周波超音波金ナノ粒子担持法

では、HAuCl4水溶液の濃度が高くなると、アクリル粒子上に担持される金ナノ粒子のサイズが

大きくなる(Figure 4)。また、アクリル粒子分散液に逐次的に HAuCl4 水溶液を添加して高周

波超音波を照射すると、10~20 nm 径の“裸の金ナノ粒子”がアクリル粒子上に積層される。さ

らに、この高周波超音波金ナノ粒子担持法は金ナノ粒子に限定されるものではなく、“裸のパラ

ジウムナノ粒子”をアクリル粒子上へ担持することができる 26)。また、基材としてアクリル板

26)、酸化チタン板 26)、銅材 26)、活性炭 27)上へも“裸の金ナノ粒子”、“裸のパラジウムナノ粒子”

を担持することができる。

6.超音波を利用した次亜リン酸イオンの酸化・回収

水への超音波照射により水分子がラジカル解離して HとOH を生成する 49-53)。これまで、H

の還元作用を利用して金属イオンを還元して金属ナノ粒子を作製してきた 22, 54-56)。そこで、OH

の酸化作用を利用して無電解ニッケルめっき廃液中の次亜リン酸イオン(H2PO2-)を酸化・回収

することを検討した 28)。無電解ニッケルめっき廃液中の次亜リン酸イオン(H2PO2-)の回収は、

H2PO2-を酸化して亜リン酸イオン(HPO3

2-)やリン酸イオン(HPO42-)を生成した後、水酸化カル

Fig.4 Scanning electron micrograph (SEM) of (Left-hand-side image) pristine acrylic particle and (Right-hand-side image) gold nanoparticles-deposited acrylic particle prepared through reduction of 0.5 mM [AuCl4]- aqueous solution by 950 kHz ultrasonication

12

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シウム(Ca(OH)2)を添加して亜リン酸カルシウム(CaHPO3)やリン酸カルシウム(CaHPO4)を

沈殿分離する方法が一般的である 60, 61)。H2PO2-の酸化にはフェントン反応などが用いられ、過酸

化水素と鉄()化合物の混合により生成されるOH が H2PO2-を酸化して、HPO3

2-や HPO42-は生

成される 62, 63)。超音波も水からOH を生成することができることから、水への超音波照射により

生成するOH も H2PO2-を酸化できるものと期待される。そこで、次亜リン酸ナトリウム(NaH2PO2)

水溶液に超音波(28 kHz, 200 kHz, 950 kHz)を照射して、H2PO2-の酸化により生成される HPO3

2-

と HPO42-の濃度を計測した。その結果、NaH2PO2 水溶液に超音波を 30 分間照射すると、いずれの

周波数の超音波を使用した場合でも H2PO2-は酸化され、HPO3

2-が生成された。この H2PO2-の酸化、

HPO32-の生成は超音波の周波数が高いほど促進されることが明らかとなった(Left-hand-side panel

of Figure 5)。HPO32-の生成速度は KI 法により測定されたラジカル生成速度と対応していることか

ら、OH が H2PO2-を酸化している

ことが支持される(Right-hand-side

panel of Figure 5)。一方で、いず

れの周波数の超音波を照射して

も H2PO2-の酸化により生成され

る H2PO3-はほとんど酸化されず、

HPO42-はほとんど生成されないこ

とが分かった(Left-hand-side panel

of Figure 5)。超音波照射時間を長

くしても、H2PO3-は生成されるが、

HPO42-はほとんど生成されなかっ

た。また、超音波を照射した

NaH2PO2水溶液に水酸化カルシウ

ム(Ca(OH)2)を添加しても CaHPO3、CaHPO4 は析出せず、回収することはできなかった。そこ

で、NaH2PO2 水溶液中に酸素(O2)ガスをバブリングして 950 kHz 超音波を照射することを検討

した。NaH2PO2 水溶液中に導入した O2 がラジカル解離して、そのラジカル種が再結合することに

より生成される 1O2、O2-、OOH49-53, 64, 65)は強い酸化力を有するため、H2PO2-、H2PO3

-の酸化が促

進されるものと期待される。しかし、実際には、NaH2PO2 水溶液中への O2 ガスの導入だけでは

H2PO2-の酸化は促進され、H2PO3

-の生成量は増大するが、HPO42-はほとんど生成されないことが分

かった。一方で、NaH2PO2 水溶液に過酸化水素(H2O2)水を混合して 950 kHz 超音波を照射する

と、H2PO2-、H2PO3

-の酸化が促進され、HPO42-が生成されることが明らかとなった。これは、NaH2PO2

水溶液中の H2O2 が超音波照射によりラジカル解離(H2O2 → 2OH)66, 67)してOH を生成して、

H2PO2-・H2PO3

-を酸化したものと考えられる。さらに、H2O2 を含む NaH2PO2 水溶液へ 950 kHz 超

音波を照射した後 Ca(OH)2 を添加すると、リン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO42H2O)とハ

イドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)を含む粉末を回収することができた。

7.おわりに

超音波を活用することにより“裸のコロイド粒子”を作製して、“裸のコロイド粒子”の表面

状態や液中での“裸のコロイド粒子”の分散安定性を評価してきた。その結果、これまで保護

剤により覆われて見えなかったコロイド粒子の表面状態や分散安定化の本質が見えてきた。さ

らに、保護剤により覆われていない“裸のコロイド粒子”の材料としての可能性や材料製造プ

ロセスへの適用の可能性も見えてきた。近年では、材料創製における乳化剤フリータンデム乳

化の有用性が報告されている 68-74)。また、製薬分野においても乳化剤フリーエマルションへの

Fig.5 Formation rate of (Left-hand-side panel) (●) HPO32- and (○)

HPO42- from H2PO2

- and (Right-hand-side panel) I3- from I- in aqueous solutions by ultrasonication plotted as a function of ultrasound frequency

13

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関心が高まっている 75)。さらに、超音波は水から還元種、酸化種を生み出すことができるため、

触媒を必要としない化学反応を実現することができる。そのため、超音波化学、裸のコロイド

科学は次世代の科学技術の基盤になりえるものと期待される。SDGs の一つである「9 産業と技

術革新の基盤をつくろう」を実現する鍵になるものと期待される。

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18

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超音波を用いた有機物分解の速度論

東京電機大学 工学部 小林 大祐

1. はじめに

工場排水や生活排水による水質汚濁が環境問題の一つにある。工業排水中の汚濁物質は大きく

無機系と有機系に分類され、無機系物質は活性汚泥法などの生物処理により分解が可能であるの

に対し、有機系物質は難分解性物質が多く、分解処理手法の確立が求められている。現在までに、

光触媒反応やオゾンなどを利用した酸化処理手法がいくつか検討されているが、光触媒粒子の分

離プロセスや、効率的なオゾン溶解のための気泡の微細化など装置の複雑さが課題となっている。

一方、超音波を用いた難分解性有機物の酸化分解処理が提案されている。超音波を用いる利点と

して、装置・操作の簡便性、有害な副生成物の削減などが挙げられる。分解反応以外にも幅広い

化学プロセスで超音波の活用が検討されているが、反応速度や生成物特性は周波数に大きく依存

しており、最適な周波数を選択することが重要である。超音波の化学的効果を示す指標として、

単位超音波エネルギーあたりに生成する化学種量を示す SEKI 値が提案されているが 1)、周波数が

反応速度におよぼす影響を定量的に検討した研究はほとんど行われていない。著者らは、難分解

性有機物の超音波を用いた分解処理プロセスを対象とし、モデル物質としてメチレンブルーの分

解を行い、周波数、出力、メチレンブルー初期濃度などの操作条件が分解反応速度におよぼす影

響を検討し、周波数の影響を SEKI値により定量的に表した分解反応速度定数推算式を提案した 2)。

本稿では、著者らが提案したモデルの紹介と、他の研究者らの結果に適用した事例を紹介し、本

モデルの適用可能な対象について検討する。 2. 速度論モデル

超音波を用いた有機物分解プロセスは擬 1 次反応で進行すると仮定されることが多く、分解対

象物質の濃度 𝐶 は分解時間𝑡、初期濃度𝐶 、および反応速度定数𝑘 を用いて式(1)、(2)のように

表される。

ln 𝑘 𝑡 (1)

𝐶 𝐶 exp 𝑘 𝑡 (2) ソノケミカル効率(SEKI)の概念と同様にして、有機物分解におけるソノケミカル効率(SEorg)を式

(3)のように定義する。

𝑆𝐸 (3)

ここで、P、および V はそれぞれ超音波出力、および試料体積を表す。式(2)、(3)から式(4)が得ら

れる。

Kinetics of Degradation of Organic Compounds using Ultrasound Daisuke Kobayashi (Department of Applied Chemistry, Tokyo Denki University, 5 Senju-Asahi-cho, Adachi-ku, Tokyo 120-8551, Japan) Tel: +81-3-5284-5443, Fax: +81-3-5284-5692, E-mail: [email protected] Key Word: degradation/ kinetics/ pseudo-first-order reaction Abstract: Ultrasound has been found to be an attractive advanced technology for the degradation of hazardous organic compounds in water. The kinetics of ultrasonic degradation has been investigated, and the model for estimating the apparent degradation rate constant using ultrasonic power, sonochemical efficiency value, initial concentration, and sample volume is proposed. In this study, the application of this model to degradation of other organic compounds by other research groups has been investigated such as phenol. Especially, we focused on the effects of power, frequency, and initial concentration of organic compounds on the apparent degradation rate constant of organic compounds, and our proposed model for estimating the apparent degradation rate constant can be applied to other organic compounds degraded by hydroxyl radical reaction.

総説

19

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𝑆𝐸 (4)

式(4)を変形して式(5)が得られる。

exp 𝑘 𝑡 1 (5)

式(5)をマクローリン展開すると式(6)が得られる。

𝑘 (6)

KI 法におけるソノケミカル効率(SEKI)と有機物分解におけるソノケミカル効率(SEorg)の比𝛼を式(7)に示すように定義すると、超音波分解の分解速度定数は式(8)に示す式で推算することができる。

α (7)

𝑘 𝛼 (8)

3. 操作条件が超音波分解におよぼす影響

3.1. 超音波出力の影響

最初に有機物分解速度に超音波出力がおよぼす影響を調べる。式(8)より分解速度定数は超音波

出力に比例して速くなることが示唆されている。 Fig. 1 にメチレンブルーの分解速度定数に超音波出力がおよぼす影響を示す 2, 3)。ここで、周波

数は 20 kHz – 1640 kHz、初期濃度は 0.0105 mol L-1、試料体積は 100 mL である。また、Fig. 2 にパ

ラチオンの分解速度定数に超音波出力がお

よぼす影響を示す 4)。ここで、周波数は 600 kHz、初期濃度は 0.0029 mmol L-1、試料体積

は 300 mL である。さらに、Fig. 3 に m-キシ

レンの分解速度定数に超音波出力がおよぼ

す影響を示す 5)。ここで、周波数は 806.3 kHz、初期濃度は 0.25 mmol L-1、試料体積は

250 mL である。 Figs. 1 – 3 に示したように、分解対象の有

機物、超音波発生装置、周波数などに依ら

ず、超音波出力に比例して分解速度定数が

大きくなり、モデルと一致することがわか

る。一方、Fig. 3 より、出力が一定値よりも

高くなると出力の増大に対する速度定数の

増大の割合が小さくなる傾向もみられる。

よって、出力と速度定数が比例する関係を

示す出力にはある範囲が存在することが示

唆される。また、Fig. 1 より、超音波により

分解反応が進行するためにはある閾値が存

在することが示唆される。メチレンブルー

の超音波分解を行なった実験システムでは

閾値は約 1.5 W 程度となり、ほとんど周波

数に依存しないことがわかった。一般的に

キャビテーション閾値は周波数に依存し、

周波数が高くなると飛躍的に増大すること

が知られているが、ここで得られた分解反

応の閾値は、キャビテーション閾値に比べ

て高い出力となった。よって、キャビテー

ションが発生しても出力が小さいと分解反

応が進行せず、反応が進行する閾値はキャ

ビテーション閾値よりも高い出力に存在す

ることが推測される。

Fig. 1 Effect of power on rate constant of methylene

blue

Fig. 2 Effect of power on rate constant of parathion

Fig. 3 Effect of power on rate constant of m-xylene

0 5 10 15 200

0.4

0.6

0.8

1

Ultrasonic power, P [W]

App

aren

t rat

e co

nsta

nt o

fm

ethy

lene

blu

e, k

app×

103

[s-1

]

key○△□◇▽

f [kHz]22.8127490940

1640

0.2

0 20 40 600

1

2

3

4

Ultrasonic power, P [W]

App

aren

t rat

e co

nsta

nt o

fpa

rath

ion,

kap

p×10

3[s

-1]

0 20 40 60 1000

0.4

0.6

0.8

1

Ultrasonic power, P [W]

App

aren

t rat

e co

nsta

nt o

fm

-xyl

ene,

kap

p×10

3[s

-1]

0.2

80

20

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3.2. 超音波周波数の影響

続いて、有機物分解速度に超音波周波数が

およぼす影響を調べる。Fig. 4 にフェノール、

および四塩化炭素の分解速度定数に超音波

周波数がおよぼす影響を示す 6)。ここで、出

力は 30 W、初期濃度はフェノールは 1 mmol L-1、四塩化炭素は 0.4 mmol L-1、試料体積は

300 mL である。式(8)より分解速度定数は超

音波周波数に依存するソノケミカル効率

(SEKI)に比例して速くなることが示唆されて

おり、周波数が 300 kHz から 500 kHz におい

て分解速度定数が高くなると考えられる。フ

ェノールの分解についてはモデルと一致す

る傾向を示すが、四塩化炭素の分解について

は、周波数が高くなるほど分解速度定数が高

くなる傾向となり、モデルと一致しなかっ

た。ここで、モデルに一致する傾向を示すフ

ェノールについて、Fig. 5 に分解速度定数に

ソノケミカル効率がおよぼす影響を示す。ま

た、Fig. 6 にクロロベンゼン、および 4-クロ

ロフェノールの分解速度定数にソノケミカ

ル効率がおよぼす影響を示す 7)。出力は 30 W、初期濃度は 0.5 mmol L-1、試料体積は 250 mL である。さらに、Fig. 7 にメチレンブルー

の分解速度定数にソノケミカル効率がおよ

ぼす影響を示す 2)。出力は 8 W、初期濃度は

0.01 mmol L-1、試料体積は 100 mL である。 Figs. 5 – 7 に示したように、四塩化炭素以

外の有機物の分解においては、超音波発生装

置などに依らず、ソノケミカル効率に比例し

て分解速度定数が大きくなり、モデルと一致

することがわかる。一般的に、超音波を用い

た有機物分解は 3 つの反応場で進行すると

考えられている。1 つは、数千 K 以上、数百

気圧以上の領域になると考えられるバブル

内である。ここでは、揮発性の溶質や溶媒蒸

気の熱分解反応が起こる。溶媒として水を用

いている際には、水蒸気が熱分解され、OHラジカルや H ラジカルなどの活性ラジカル

が生成する。もう一つは、高温のバブル近傍

で、熱分解やバブル内から抜け出た活性ラジ

カルとの反応により進行する。最後は、常温

の液相領域であるバルク溶液で、バブル近傍

から抜け出てきた活性ラジカルと溶質と反

応して分解される。主な有機化合物は、高温

のバブル内やバブル近傍で熱分解により分

解反応が進行するか、水を溶媒とした際には常温のバルク溶液で強力な酸化剤である OH ラジカ

ルとの反応による酸化分解により分解反応が進行する。Nanzai et al.により、各種の有機化合物の

200 kHz における超音波分解反応における初期の分解反応速度が研究されており、有機化合物の

各種物性との相関が調べられている 8)。その結果、オクタノール/水分配係数と分解速度の間に強

い相関が表れ、オクタノール/水分配係数の値が高いほど分解速度が速くなることが明らかにされ

Fig. 4 Effect of frequency on rate constant of phenol

and tetrachloride

Fig. 5 Effect of SEKI on rate constant of phenol

Fig. 6 Effect of SEKI on rate constant of chlorobenzene

and 4-chlorophenol

Fig. 7 Effect of SEKI on rate constant of methylene blue

App

aren

t rat

e co

nsta

nt o

fph

enol

, kap

p×10

3[s

-1]

0.15

0.1

0.05

0

0.15

0.1

0.05

0

App

aren

t rat

e co

nsta

nt o

fca

rbon

tetr

achl

orid

e, k

app

[s-1

]

Ultrasonic frequency, f [kHz]10 100 1000

key○△

phenolCCl4

App

aren

t rat

e co

nsta

nt o

fph

enol

, kap

p×10

3[s

-1]

0.15

0.1

0.05

00 0.2 0.4 0.6 10.8

Sonochemical efficiency value, SEKI×109 [mol J-1]

0 0.2 0.4 0.6 10

0.4

0.6

0.8

1

App

aren

t rat

e co

nsta

nt,

k app

×10

3[s

-1]

0.2

0.8Sonochemical efficiency value,

SEKI×109 [mol J-1]

key○△

Chlorobenzene4-Chlorophenol

0 0.2 0.4 0.6 10

0.4

0.6

0.8

1

App

aren

t rat

e co

nsta

nt o

fm

ethy

lene

blu

e, k

app×

103

[s-1

]

0.2

0.8Sonochemical efficiency value,

SEKI×109 [mol J-1]

21

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ている。オクタノール/水分配係数は水への溶解度とも相関があり、オクタノール/水分配係数が大

きいほど水への溶解度が低く、疎水性が高くなると考えられる。分解される有機化合物の疎水性

が高くなると、バブル界面やバブル近傍に蓄積されやすいため、OH ラジカルによる酸化分解や、

バブル内での熱分解が起こりやすくなり、分解速度が速くなると考えられる。 以上のことから、今回周波数が分解速度定数におよぼす影響を比較した有機物についても、分

解対象物質が異なると、その物質の疎水性の違いにより反応場や、反応場への蓄積の仕方が異な

るために分解速度が変化すると考えられるが、バルク溶液を主な反応場として OH ラジカルによ

り酸化分解されると考えられる物質の周波数依存性は、ソノケミカル効率の周波数依存性と良好

に一致していると考えられる。一方、四塩化炭素は疎水性が高く、バブル内での熱分解の寄与が

大きく、ソノケミカル効率を用いた分解反応速度定数の推算モデルが適用できなかったと推測さ

れる。 3.3. 分解有機物初期濃度の影響

最後に有機物分解速度に分解物質の初期

濃度がおよぼす影響を調べる。式(8)より分解

速度定数は分解物質の初期濃度に反比例し

て遅くなる、もしくは分解物質の初期濃度の

逆数に比例して速くなることが示唆されて

いる。 Fig. 8 に 4-クロロフェノールの分解速度定

数に初期濃度がおよぼす影響を示す 9)。ここ

で、周波数は 500 kHz、出力は 30 W、試料体

積は 250 mL である。また、Fig. 9 にメチレン

ブルーの分解速度定数に初期濃度がおよぼ

す影響を示す 2)。ここで、周波数は 490 kHz、出力は 5 W、試料体積は 100 mL である。さ

らに、Fig. 10 に他の研究者らにより研究され

たメチレンブルーの分解速度定数に初期濃

度がおよぼす影響を示す 10)。ここで、周波数

は 20 kHz、出力は 165 W、試料体積は 15 mLである。

Figs. 8 – 10 に示したように、分解対象の有

機物、超音波発生装置、周波数などに依らず、

分解有機物の初期濃度の逆数に比例して分

解速度定数が大きくなり、モデルと一致する

ことがわかる。一方、初期濃度の逆数が大き

いとき、すなわち初期濃度が低くなると、分

解速度定数が初期濃度に依存せず一定値と

なる傾向も観察された。 4. おわりに

超音波を用いた難分解性有機化合物の分

解速度が擬 1次反応とみなせる際の分解速度

定数推算モデルを、他の研究者らの結果に適

用し、その汎用性について検証した。その結

果、超音波により発生する OH ラジカルによ

る酸化分解により分解反応が進行する際に

は、分解速度定数とソノケミカル効率との間

に線形の相間があり、モデルの適用が可能で

あり、周波数の影響を定量的に検討できることを明らかにした。また、分解速度定数と出力の間

Fig. 8 Effect of initial concentration on rate constant of

4-chlorophenol

Fig. 9 Effect of initial concentration on rate constant of

methylene blue

Fig. 10 Effect of initial concentration on rate constant

of methylene blue

Inverse of initial concentration of4-chlorophenol, 1/C0 [m3/mol]

10 200

1

0

0.4

0.2

30

0.8

0.6

App

aren

t rat

e co

nsta

nt o

f4-

chlo

roph

enol

, kap

p×10

3[s

-1]

Inverse of initial concentration ofmethylene blue, 1/C0 [m3/mol]

50 1500

0.5

0

0.2

0.1

200

0.4

0.3

App

aren

t rat

e co

nsta

nt o

fm

ethy

lene

blu

e, k

app×

103

[s-1

]

100

Inverse of initial concentration ofmethylene blue, 1/C0 [m3/mol]

5 100

5

0

2

1

15

4

3

App

aren

t rat

e co

nsta

nt o

fm

ethy

lene

blu

e, k

app×

103

[s-1

]

22

Page 24: ⽇本ソノケミストリー学会誌zirconate titanate (PZT) thick film on the back-side surface of titanium plate to protect from acoustic cavitation. The hydrophone was resistant

には線形の相間があり、モデルの適用が可能であることを明らかにした。一方、分解反応が進行

するための出力に閾値が存在することが示唆された。また、分解速度定数と分解物質の初期濃度

の逆数の間には線形の相間があり、モデルの適用が可能であることが明らかになった。速度定数

推算モデル式中の KI 法におけるソノケミカル効率(SEKI)と有機物分解におけるソノケミカル効

率(SEorg)の比は、分解物質の反応場となるバブル近傍への蓄積のされやすさなどに依存すると推

測され、分解物質の物性との相間を検討することで、本モデルの有用性が高まることが期待され

る。 References 1) S. Koda et al., A standard method to calibrate sonochemical efficiency of an individual reaction system,

Ultrason. Sonochem., 10, 149 (2003). 2) D. Kobayashi et al., Kinetics analysis for development of a rate constant estimation model for ultrasonic

degradation reaction of methylene blue, Ultrason. Sonochem., 21, 1489 (2014). 3) D. Kobayashi et al., Comparison of ultrasonic degradation rates constants of methylene blue at 22.8

kHz, 127 kHz, and 490 kHz, Ultrason. Sonochem., 19, 745 (2012). 4) J. –J. Yao et al., Mechanism and kinetics of parathion degradation under ultrasonic irradiation, J. Hazard.

Mater., 175, 138 (2010). 5) W. Xie et al., Degradation of m-xylene solution using ultrasonic irradiation, Ultrason. Sonochem., 18,

1077 (2011). 6) C. Pétrier and A. Francony, Ultrasonic waste-water treatment: Incidence of ultrasonic frequency on the

rate of phenol and carbon tetrachloride degradation, Ultrason. Sonochem., 4, 295 (1997). 7) C. Pétrier et al., Ultrasound and environment: Sonochemical destruction of chloroaromatic derivatives,

Environ. Sci. Technol., 32, 1316 (1998). 8) B. Nanzai et al., Sonochemical degradation of various monocyclic aromatic compounds: Relation

between hydrophobicities of organic compounds and the decomposition rates, Ultrason. Sonochem., 15, 478 (2008).

9) Y. Jiang et al., Sonolysis of 4-chlorophenol in aqueous solution: Effects of substrate concentration, aqueous temperature and ultrasonic frequency, Ultrason. Sonochem., 13, 415 (2006).

10) K.-T. Byun and H.-Y. Kwak, Degradation of methylene blue under multibubble sonoluminescence condition, J. Photochem. Photobiol. A: Chem., 175, 45 (2005).

23

Page 25: ⽇本ソノケミストリー学会誌zirconate titanate (PZT) thick film on the back-side surface of titanium plate to protect from acoustic cavitation. The hydrophone was resistant

2019年度日本ソノケミストリー学会奨励賞 受賞者:長谷川健太 Kenta Hasegawa 所 属:名大院工 Nagoya University 受賞題目:液中プラズマ法でのナノグラフェン合成における超音波の効果

Effect of ultrasound on nanographene synthesis by in-liquid plasma method

(共著者:(名大)近藤博基,堀 勝,安田啓司)

<緒言>

自動車や家庭用の燃料電池として実用化さ

れている固体高分子型燃料電池(PEFC)の触

媒担体にはカーボンブラックをはじめとした

アモルファスカーボンが使用されている.こ

の触媒担体は酸化反応にさらされるため,劣

化に強い材料が必要となる.そこで,注目さ

れているのがカーボンブラックの約 7 倍の耐

久性を持つナノグラフェンである 1)(図 1). ナノグラフェンは大きさが 1~100 nm で sp2の炭素結合を多く含

んだ六員環構造を持ち,エッジが多数あるカーボンナノ材料である.

そのため,触媒担持体として重要な比表面積が大きいことや電気伝

導性・熱伝導性・機械的強度などの物理的特性が優れていることも

注目を集める理由である.合成法には,合成速度は低いものの高結

晶性のナノグラフェンを合成できる化学気相蒸着法(CVD 法)や,

合成速度は高いが結晶性の低いナノグラフェンとなる化学還元法

がある. 本研究では合成速度と結晶性が CVD 法と化学還元法の中間にあ

たる液中プラズマ法(図 2)を用いて,ナノグラフェンの合成を行

った.液中プラズマ法は溶液中に気泡や気相を作り,その気体内に

プラズマ相を生成し反応を起こす方法である.この液中プラズマ法の放電開始電圧を低下させる目

的で,バブリングやマイクロ波,超音波を使って気泡を供給する方法もある.液中プラズマ法を使

いナノグラフェンの合成速度を増加させたい場合には,アルコールに含まれる炭素数を増やす(エ

タノール→1-ヘキサノール)ことやアルコールの代わりに芳香族炭化水素を使う(1-ヘキサノール

→ベンゼン)ことによって合成速度が増加すると報告されている 2).しかし,この合成速度の増加

に伴い結晶性が低下するトレードオフの関係は合成法に限らず現れる. そこで,このトレードオフの解消を目的として 2015 年から,液中プラズマ法と超音波を組み合

わせた研究を行ってきた.そして,2017 年には超音波の効果によって合成速度の増加や結晶性が向

上する結果を得た.しかし,振動子の電力―超音波パワー変換効率が 20 %であったため,さらな

る合成速度,結晶性の向上を目的として,間接照射型の超音波反応器から直接照射型の超音波反応

器へと装置改良を行った.この直接照射型超音波反応器の電力―超音波パワー変換効率は 78.6 %で

ある.この反応器を用いて最適条件の検討を行った.

図 1 ナノグラフェン

図 2 液中プラズマ法

奨励賞受賞者からの解説論文

24

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<実験方法> 本実験で使用した実験装置を図 3 に示す.上部にはプラズマ発生のためにカーボン電極を T 字型

で電極間距離 10 mm になるよう配置した.この際,一方を気相,もう一方を液相に配置している.

この電極間に 9 kV の電圧を印加することにより,プラズマを発生させた.試料にはエタノール,

1-ヘキサノール,DMF(ジメチルホルムアミド),THF(テトラヒドロフラン)を使用した.なお,

気相は Ar 雰囲気に置換しており,超音波周波数を 480 kHz とした.試料にプラズマと超音波を同

時に照射し,ナノグラフェンを合成した.実験終了後,吸引濾過によりナノグラフェンを濾紙上に

捕集した.さらに捕集したナノグラフェンに対し濃度 30 %,液量 200 mL の過酸化水素水による酸

化処理を行って不純物を除去した.測定には重量測定,ラマン分光法を使用した.

<結果および考察> 合成速度に及ぼす超音波パワーの影響 はじめに,超音波パワーによる合成速度

の変化を検討した.試料には210 mLのエタ

ノールを使用した.このとき,合成速度は

図4に示すように変化した.間接照射型の実

験では超音波パワーが増加すると合成速度

が増加していたが,図4では超音波パワーの

増加とともに合成速度は,はじめ増加し,

15.7 W以上では減少している.このような結

果となったのには2つの理由があると考察

している.1つ目は超音波パワーの増加に伴

うラジカル数の増加である.ラジカル数の

増加によりナノグラフェンの合成反応が促

図 3 実験装置図

00.050.1

0.150.2

0.250.3

0 10 20 30Synt

hetic

rate

[mg/

min

]

Ultrasonic power [W]

図 4 超音波パワーに対する合成速度

25

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進されることである.2つ目は超音波パワーの増加によって超音波の放射力が大きくなることであ

る.超音波の放射力が大きくなると電極間の液面が大きく変動する.この変動は電極間の抵抗を大

きく変動させることにつながり,プラズマの発生が不安定になったと考えられる.この2つの理由

により,超音波パワーが15.7 Wで最大の合成速度になったと思われる. 液高さの影響 次に,液高さが合成速度に与える影響を

検討した.試料にはエタノールを使用し超

音波パワーが15.7 Wである.図5に示すよう

な液高さ―合成速度となる.プラズマのみ

の場合,合成速度は液高さの増加に伴いわ

ずかに増加した.一方,超音波照射した場

合,合成速度は液高さが6.11 cm(液量は270 mL)で最大の合成速度となった.この理由

が超音波の化学的効果によるものかどうか

を考察するために,KI法を用いた実験を行

った.その結果を図6に示す.0.1 MのKI水溶

液に5 min超音波照射した際のI3-の生成量は

液高さが6.11 ~ 6.56 cmで最大の生成量とな

った.この結果は図5の超音波照射した場合

と良好な関係を示すことから,超音波の化

学的効果が合成速度の増加に寄与したと考

えられる. 結晶性に及ぼす超音波パワーの影響 続いて,超音波パワーが与える結晶性へ

の影響をラマン分光法によって検討した.

図7に超音波パワーに与えるDバンドとGバンドのFWHM(半値幅)を示す.その結果,超音波パワ

ーの増加に伴い半値幅は減少した.このような結果となったのには超音波キャビテーションによる

ラジカルの供給が考えられる.このラジカルには・Rや・OHがあり,ナノグラフェンの欠陥が修復

されることで結晶性が向上するものと思われる.

0.1

0.15

0.2

0.25

0.3

0.35

4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5Synt

hetic

rate

[mg/

min

]Liquid height [cm]

US

no US

60

70

80

0 10 20

FWH

M o

f D [c

m-1

]

Ultrasonic power [W]

40

50

60

0 5 10 15 20

FWH

M o

f G [c

m-1

]

Ultrasonic power [W]

図 7 超音波パワーに対する半値幅の変化((a)は D バンド,(b)は G バンド)

図 5 液高さに対する合成速度

(a) (b)

3.8

3.9

4

4.1

4.2

4.3

4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0

Prod

uctio

n am

ount

of

I₃-[µ

mol

]

Liquid height [cm]図 6 液高さに対する I3-の生成量

26

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液組成が与える合成速度・結晶性への影響 これまでの実験結果から,超音波パワーを15.7 W,液量を270 mLに最適化し,液種をエタノール

―DMFの混合液,エタノール―THFの混合液,エタノール―1-ヘキサノールの混合液,純エタノー

ル,純1-ヘキサノールの5種類に対し合成速度と結晶性を検討した.図8にエタノール―THF混合液

を使用した場合のTHF混合量に対する合成

速度の変化を示す.また,図9にTHF混合量

に対するDバンド,Gバンドの半値幅を示す.

超音波照射した場合,合成速度はTHFの混合

量が多くなると増加した.さらに,プラズマ

のみの場合に比べ超音波照射したものは何

れも半値幅が小さくなった.この結果から五

員環構造を持つTHFのような液種を使用す

る時に結晶性が良くなっており,超音波キャ

ビテーションによるラジカル供給は五員環

構造から六員環構造への変化を促進するも

のと考えられる.

すべての混合条件における合成速度とDバンド,Gバンドの半値幅の関係を図10に示す.このグ

ラフから超音波照射によって合成速度は増加し半値幅は減少することがわかる.このように超音波

併用によってトレードオフの解消ができることが明らかとなった.

0

0.4

0.8

1.2

1.6

0 20 40 60 80Sy

nthe

tic ra

te [m

g/m

in]

Volume of THF [mL]

US

no US

図 8 THF の混合量と合成速度

50

60

70

80

90

100

0 20 40 60 80

FWH

M o

f D [c

m-1

]

Volume of THF [mL]

no US

US40

50

60

70

80

90

0 20 40 60 80

FWH

M o

f G [c

m-1

]

Volume of THF [mL]

no US

US

図 9 THF の混合量に対する半値幅の変化((a)は D バンド,(b)は G バンド)

(a) (b)

27

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<結言>

超音波照射によってナノグラフェンの合成速度が増加し結晶性が向上することが分かった.超音

波キャビテーションによるラジカルが反応促進や欠陥の修復に影響したものと考えられる.

Reference 1) V. Gamaleev, K. Kajikawa, K. Takeda and M. Hiramatsu, C―Journal of Carbon Research, 4, 65 (2018) 2) A. Ando, K. Ishikawa, H. Kondo, T. Tsutsumi, K. Takeda, T. Ohta, M. Ito, M. Hiramatsu, M. Sekine

and M. Hori, Japanese Journal of Applied Physics, 57, 026201 (2018)

0

30

60

90

120

150

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8

FWH

M [c

m-1

]

Synthetic rate [mg/min]

D band, no US

G band, no US

D band, US

G band, US

図 10 合成速度に対する半値幅の変化

28

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2019年度日本ソノケミストリー学会奨励賞

受賞者:二宮大樹 Daiki Ninomiya

所 属:鹿児島大院理工 Kagoshima University

受賞題目:液柱および霧化を生じる条件でのキャビテーションの可視化

Light intensity measurement for sonochemiluminescence during ultrasonic

atomization

(共著者:(鹿児島大)五島 崇,水田 敬,二井 晋)

<緒言> 液体の内部から液面に向けて MHz 域の高周波超音波を照射すると液柱が立ち,その表面から微

細な液滴が生成される.これまで研究室では,サブミクロン粒子懸濁液を超音波霧化すると,特定

の粒子径範囲の粒子が霧に取り込まれ,試料懸濁液を脱気すると霧化分離性能が低下することを明

らかにした.この事実は懸濁粒子の霧化分離とキャビテーションの間に強い相関があることを示し

ているが,超音波霧化メカニズムとして表面波説が知られており,霧化が生成する場所でキャビテ

ーションが起こることは,明確に示されていなかった 1,2 ). そこでルミノール水溶液を超音波霧化させた状態で発光を観察したところ,霧が生成している液

柱での発光が観察された.撮影画像に基づいて発光の空間分布と発光強度を求めるため,研究室で

開発した,発光画像に応じて任意の Blue 値範囲と段階でマッピングする画像処理ソフトを用いた. 霧化が起こり液柱が立っている状態での画像から液全体のキャビテーションの空間分布を明らか

にするとともに,キャビテーション量の定量化を目的として検討を行った.

<実験方法>

試料溶液には NaOH 添加により pH 11 に調整した 0.1 mMルミノール水溶液を用いた 3). ソノケミルミネッセンス撮影

Fig. 1 に示す実験装置を用いた.超音波霧化は,補償水

槽としてのアクリル水槽内に設置したアクリル製霧化カ

ラム (内径 53.5 mm,高さ 250 mm)内で行った.霧化カラ

ムに 75 mL のルミノール水溶液を満たし,底面に取り付

けた 1.6 MHz もしくは 2.4 MHz の振動子(HM -1630, HM-2412 本多電子)を,所定の投入電力で駆動した.補償

水槽の水位は生成される液柱よりも高くすることで,光

屈折の影響を減じた.暗室中で撮影を行い装置とカメラ

(D7500,Nikon)を暗幕で覆った.カメラ設定を ISO12800, F 値 1.8,露光時間 0.5,2 s とした. 画像処理

研究室で作製された画像処理ソフトにより,画像中の発光空間

分布と発光強度を決定した.ルミノールによる発光が 470 nm の波

長であるため,RGB の Blue に注目して処理を行うこととした. 画像中に発生するノイズ影響の低減を目的として,対象とする

画素とその近傍の画素値を平均した.このソフトを用いることで

Blue 値の 0~255 を,発光画像に応じて任意の Blue 値範囲と段階

でマッピングすることができる.この画像処理の例として,液内

部での発光画像について Fig.2 に原画像と処理後画像を示す.処

理後の画像では,原画像での Blue 値が高くなることが,青から赤

に変化することで表されている. 液柱を含む画像を処理する場合には,バルク液面より上の液柱

周りの空間を液柱部とし,バルク液面よりも下の空間をバルク液

部として別々に評価した.このように分割する理由として,液柱部で霧が存在することによる減光

Fig.1 Experimental setup

Fig.2 Image processing

奨励賞受賞者からの解説論文

29

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と,液柱周りの空間の境界がぼやける問題に対応するためである.本研究では液柱から発生する光

の定量を目的としているため,全体の減光の問題よりも境界を適切に設定することが重要と判断し

た.そのため,液柱部の画像に Blue 値の閾値を設定した.この閾値は間接照明を用いた液部の画

像と,発光画像の形が一致するように決定した.液柱部では閾値以上の Blue 値を積算し,バルク

液部では閾値を設けず,得られた Blue 値を積算して求めた.

<結果と考察>

Fig.3 は間接照明下で SCL 発光を撮影した

ものである.1.6,2.4 MHz ともに超音波霧化

が生じている状態でバルク液部および液柱部

での発光が認められた.これは,バルク液内

部および液柱部でのキャビテーション生成を

示すものである. Figs.4,5 に 1.6 MHz,2.4 MHz で投入電力

を 3.0 W から上昇させた場合の発光強度分布

を示す.白点線はバルク液と液柱の境界を,

白実線は液柱を形取ったものである.Fig.4 で示す 1.6 MHz では投入電力の増加ととともに液柱の 底部から発光が強くなり,3.0 W を超えると液面が盛り上がった.5.0 W では液柱内部で発光が明

瞭に観察されるとともに,液柱の先端がバルク液に戻るところで強い発光が見られた.投入電力

が 6.6 W より大きくなると霧化が盛んに生じ,6.6 W では発光が強い赤い部分が広く見られるが,

液柱が高くなる 8.3 W では 6.6 W に比べると発光が弱くなった.Fig. 5 での 2.4 MHz において液柱

部での発光は 5.0 W から見られ,投入電力の増加とともに液柱は高くなり,先端付近が最も明る

くなった.しかしバルク液部では液柱部に比べると発光はほとんど観察されなかった.

Fig.4 Emission profile under ultrasonic ( 1.6 MHz,BlueRange 3-60.5 )

Fig.5 Emission profile under ultrasonic ( 2.4 MHz,BlueRange 3-140 )

30

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液柱部とバルク液部を合わせた液全体での発

光強度の投入電力に対する変化を,2 つの異なる

周波数について Fig. 6 に示す.2.4 MHz では 1.6 MHz に比べて発光強度が低かった.1.6 MHz の場

合,投入電力 2.5 W を閾値として発光強度が上昇

した.2.5 W から 6 W までは比較的単調に増加し

たが,7 W を超えたところで発光強度が低下する

とともに,ばらつきも大きくなった.この変化の

理由は,液柱の揺らぎが大きくなったことと,霧

の生成が盛んになったためと考えられる.2.4 MHz の場合,投入電力 4 W を閾値として発光強

度が大きくなった.4 W から 6.5 W までは単調に

増加し,それから 8 W まではほぼ一定であった.6 W 以降では液柱の揺らぎ,霧の生成でばらつ

きが大きくなった.Suzuki らは超音波霧化を生じる条件下で 1.6 および 2.4 MHz で KI 法を用いて

キャビテーションの影響を調査した 4).I3-濃度は投入電力とともに増加し,1.6 MHz では 2.4 MHz

の約 3 倍の I3-濃度となった.この傾向は Fig.6 で示された 2 つの周波数での発光挙動と定性的に

一致した.

<結言>

ルミノール溶液を超音波霧化して発光挙動を観察し,超音波霧化が生じている条件で液柱内部

での発光を観察した.発光強度分布からキャビテーションが強く生じている場所と条件を明らか

にした.画像全体での Blue 値を積算することで,全体の発光量を決定した.周波数の影響として

2.4 MHz に比べると 1.6 MHz では高い発光強度が観察された. <謝辞> 本研究は平成 30 年度日本ソノケミストリー学会カイジョー研究奨励賞により行われた. References 1) N.Oka,S.Nii,“Size-selective separation of submicron particles in suspensions with ultrasonic

atomization”,Ultrasonics Sonochemistry,21,pp.2032-2036 (2014) 2) 作本祐一郎,鹿児島大学大学院修士論文(2019) 3) 崔ら編著,音響バブルとソノケミストリー,コロナ社,pp.94 (2012) 4) K.Suzuki,S.Nii,et al.,”Influence of cavitation on ethanol enrichment in an ultrasonic atomization

system”,Journal of Chemical Engineering of Japan,44,pp.616-622 (2011)

Fig.6 Accumulated blue value

31

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2019年度日本ソノケミストリー学会奨励賞

受賞者:山本 卓也 Takuya Yamamoto

所 属:東北大院環境 Tohoku University

受賞題目:圧縮性3相流シミュレーションによるエマルジョン化時に発生

する高速液体ジェット方向依存性

Compressible three-phases simulation on high-velocity liquid jet directionality

during emulsification

(共著者:(東北大)Komarov Sergey)

<緒言>

エマルジョンは連続相中に微細な分散相が存在する状態のことであるが、これは化粧品や食料品、

さらには材料分野へも広く応用されている。エマルジョンの生成方法は複数知られているが、超音

波を利用したエマルジョン化は迅速且つ比較的低エネルギーで達成されるため、有効な手法として

知られている。超音波によるエマルジョン化では液-液界面に超音波を照射することで微細液滴が

生成するが、その微細液滴生成メカニズムは完全には明らかになっていない。

これまでエマルジョン生成メカニズムを説明する際に用いられてきた図をFig. 1に示す。この図

はCanselierらのreview論文1)を参考に作成した。エマルジョン化は2段階で進行するとされ、1段階目

はキャピラリー波によって液滴が分離し、2段階目に小さくなった液滴にキャビテーション気泡が

作用することでさらに微細化すると議論されている。確かにこのように微細液滴が発生すると考え

れば分かったような気になるのではあるが、詳細は理解されていない。さらには、超音波の周波数、

分散相や連続相の物性が異なる場合でもエマルジョン化のメカニズムが同一であるとは断定でき

ない。このエマルジョン化の根本的なメカニズムを解明しようとした文献は複数出版されており、

Fig. 1で示したメカニズムより複雑な機構が提案されている2,3)ものの、サブミリスケールでの現象

を直接観察したものや現象論的に推測したものであり、キャビテーション気泡と液滴との直接的な

相互作用を解明できていない。加えて、キャビテーション気泡と細胞間の相互作用を調査した研究4)によると、気泡が通常の液体ジェットと逆方向に向かって変形している。これに対するメカニズ

ムは詳細に議論されておらず、未だに発生条件等も分かっていない。

Fig. 1 Schematic diagram of emulsification mechanism.

本研究では、エマルジョン化が発生する際のキャビテーション気泡振動と液滴の関係性を明らか

写真をお願いしま

す。

奨励賞受賞者からの解説論文

32

Page 34: ⽇本ソノケミストリー学会誌zirconate titanate (PZT) thick film on the back-side surface of titanium plate to protect from acoustic cavitation. The hydrophone was resistant

にし、さらに液体ジェットの方向性が反転する理由を数値シミュレーションによって解明すること

とした。加えて、微細液滴が生成する瞬間を高速度ビデオカメラで撮影した。

<数値解析手法>

計算領域として、水で満たされた800×800 mの2次元正方形領域に直径20 mの気泡、直径80

mの液滴を配置した。ここで、気泡中心と液滴中心との中間位置が計算領域中央になるように配置

した。さらに、気泡中心、液滴中心間距離は50-70 mの間にあるとした。気泡は空気、液滴はガリ

ウムまたはシリコンオイルであるとした。

本解析では圧縮性流体解析を利用した3相Volume of Fluid (VOF)法を利用した。この手法は、流

体率という関数を導入し、その関数を流れによって移流させる方程式を解くことで気液界面位

置を追跡する手法である。この関数は0 ~ 1の値をとるとし、1であるならば対象とする相、0である

ならばそれ以外の相、0 ~ 1の間であれば界面であると定義する。本研究では、以下の3相用移流方

程式を解いた。

𝜕𝛼𝜕𝑡

𝛻 ⋅ 𝒖𝛼 𝛻 ⋅ 𝒖 𝛼 1 𝛼𝛼𝜌𝐷𝜌𝐷𝑡

(1)

ここで、iはi相の体積分率、tは時間、uは速度、urは相対速度、は密度である。ここでのiは相の名

前であり、(water, air, gallium)と(water, air, silicone oil)の2種類であるとした。

境界条件として、全境界で圧力の正弦波を与え、その周波数は20 kHz、圧力振幅は0.6 - 0.95 atm.

であるとした。また、境界においては圧力に応じて自由に流出入できる自由流出入条件を与えた。

また、すべての計算はオープンソースであるOpenFOAMを利用した。数値シミュレーションの詳細

に関しては著者らの文献を参照されたい5)。

<実験手法>

厚み10 mmの細長い水槽にガリウム液滴を配置し、直径7mmの円筒型のホーンを利用して超音波

を照射した。この際にホーン端面、ガリウム液滴表面間距離を10 mm、超音波周波数を18.35 kHz、

出力を85 Wであるとした。水槽の前面に高速度ビデオカメラ(FASTCAM Nova S12, Photron)、後面

に高強度LEDライトを設置し、強力なバックライトを利用して液滴表面を観察した。撮影速度は

200 kfps、シャッター速度は0.5 sであるとし、画角は大凡550 x 280 mになるよう光学レンズを利

用した。

<結果と考察>

ガリウム-水-空気の系においては、音圧振幅が増加するに従い、気泡振動が大きくなり、振幅が

0.8 atm.以上の場合に気泡からガリウム液滴に向かって液体ジェットが発生した。Figure 2に数値シ

ミュレーションによって得られた音圧振幅が0.9 atm.の場合の気泡、液滴の変形挙動を示す。この図

中では赤色部分が気泡、青色部分が水、緑色部分がガリウム液滴を表す。気泡は大きく膨張した後、

急激に収縮し、液体ジェットを生成する。液体ジェットを発生する直前には気泡は非球形になり、

液滴とは反対部分の頂点からジェットが発生し始める。最終的に液体ジェットは液滴に衝突し、液

体ジェットの衝突の衝撃で、液滴の端の部分から小さい液滴が離脱する。このようにしてエマルジ

ョン化が進行する。また、最終的に液滴は大きく変形し、キャビティーが形成する。

33

Page 35: ⽇本ソノケミストリー学会誌zirconate titanate (PZT) thick film on the back-side surface of titanium plate to protect from acoustic cavitation. The hydrophone was resistant

Figure 2 Time variation of dynamic behaviors of air bubble (red part) and gallium droplet (green part) during

emulsification.

シリコンオイル液滴を用いた場合には全く異なる現象が発生する。気泡の膨張に従って液滴が変

形する。さらに、気泡が急に収縮する際にも液滴の方が大きく変形する。気泡は収縮時に先ほどと

同様に液体ジェットを生成するが、その液体ジェットは液滴側から気泡側となっており、ジェット

発生方向が反転する。この現象が生じた原因は液滴の変形に起因する。気泡が収縮する際に液滴も

大きく変形する。気泡収縮時には周囲流体も同様に流動するが、液滴が一部で周囲流動を阻害し、

気泡右側に流動が収束する部分を生成する。この部分において圧力が増加し、この高圧部分から液

体ジェットが逆方向に向かって発生する。上記のシミュレーション結果は既報5)でより詳細に述べ

ており、論文中のSupplemental videoでその動画も見られるようになっているので、少しでも興味の

ある方は是非ご覧いただきたい。

Figure 3 Time variation of dynamic behaviors of air bubble (red part) and silicone oil droplet (green part)

during emulsification.

最後に実験結果を示す。Figure 4に観察により得られた気泡とガリウム表面の関係を示す。各画像

34

Page 36: ⽇本ソノケミストリー学会誌zirconate titanate (PZT) thick film on the back-side surface of titanium plate to protect from acoustic cavitation. The hydrophone was resistant

間の時間刻みは5 sである。図中で下側黒色領域がガリウム液滴表面であり、中央部の膨張、収縮

するものがキャビテーション気泡である。キャビテーション気泡は液-液界面付近で大きく膨張し、

急に収縮しながら液滴表面に衝突する。衝突後には衝突部中央付近より小さい液滴が大量に飛散し、

エマルジョンが形成する様子が見て取れる。この現象は数値シミュレーションの結果と良好に一致

しており、液体ジェットによってエマルジョンが生成したと考えられる。

Figure 4 Snapshots of dynamic behavior of acoustic cavitation bubbles and gallium droplets during

emulsification.

<結言>

エマルジョン生成時の液滴とキャビテーション気泡の関係性を解明するため、数値シミュレーシ

ョンと高速度ビデオカメラによる直接観察を行った。高音圧振幅の場合には、液滴付近に存在する

キャビテーション気泡からは液体ジェットが発生するが、そのジェット発生方向は液滴物性に依存

することが分かった。また、ガリウム液滴の場合には液体ジェット衝突後に液体ジェットの衝撃に

よって微細な液滴が離脱する。このようにしてエマルジョン化が進行していると考えられる。

謝辞

本研究の一部は科研費挑戦的研究(萌芽) (プロジェクト番号17K18969)の援助を受けました。また、

公益財団法人 クリタ水・環境科学振興財団 研究助成、IR-MAILサイエンスグラント フォトロ

ン賞副賞、東京大学スーパーコンピュータ 若手・女性利用制度、日本製鉄株式会社若手教員委託

制度の援助を受けました。

Reference 1) J. P. Canselier et al., J. Dispers. Sci. Technol., 23, 333 (2002). 2) A. Cucheval and R. C. Y. Chow, Ultrason. Sonochem., 15, 916 (2008). 3) T. S. Perdih et al., Ultrason. Sonochem., 51, 298 (2019). 4) X. Guo et al., Ultrason. Sonochem., 39, 863 (2018). 5) T. Yamamoto and S. V. Komarov, Ultrason. Sonochem., 104874 (in press).

35

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2019年度日本ソノケミストリー学会奨励賞

受賞者:鈴木 誠也 Seiya Suzuki

所 属:静理工大理工 Shizuoka Institute of Science and Technology

受賞題目:超音波キャビティ界面領域における界面活性剤ミセル形成が分解挙

動に及ぼす影響

Effect of surfactant micelle formation in ultrasonic cavity interface-region on

degradation behavior

(共著者:(静理工大)南齋 勉、(阪府大)興津健二)

<緒言>

イオン性界面活性剤は両親媒性を持つことからキャビティの気液界面に集まりやすく、イオンで

あることから蒸気圧が極めて低く気相領域であるバブル内部へ拡散しにくい。このため、イオン性

界面活性剤の超音波分解反応はキャビティ界面領域を反応サイトとして進行すると考えられる。本

研究では、キャビティ界面領域での分子の挙動と反応を解明するために炭素鎖長の異なるイオン性

界面活性剤や、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤を超音波分解し、その分解速度やガス状炭化

水素の生成量について比較検討した。また、分解速度に対する界面活性剤の電荷の影響について、

ミセル形成の観点から検討した。

<実験>

Fig.1にアルキル基部分の炭素鎖長がそれぞれ異なる陽イ

オン界面活性剤であるアルキルベンゼンアンモニウムクロ

リド(BAC C12, C14, C16, C18)とセチルピリジニウムクロリド

(PC C16)、陰イオン界面活性剤である直鎖アルキルベンゼン

スルホン酸ナトリウム(LAS C8, C10)とミリスチン酸ナトリウ

ム(LFA C14) 、非イオン界面活性剤であるオクチルフェノー

ルエトキシレート(PE C8) 両性界面活性剤であるアルキルス

ルホン酸アンモニウム(SAA C12, C18)とドデシルジメチルグ

リシン(Gly C12)の化学構造式をそれぞれ示す。これら化合物

の水溶液を各々20 Mから15000 Mで調製し、各試料を照射

ガラス容器(55 mm、底厚1 mm)に60 mL取りAr雰囲気とした。

水温20℃で200 kHzの超音波を60分間照射し、照射後0, 10, 20,

40, 60分の試料を採取した。HPLC UV-visを用いて界面活性

剤濃度を定量し、その経時変化から初期分解速度を求めた。

C2炭化水素(エタン、エチレン、アセチレン)の生成量は

GC-FIDを用いて定量した。各界面活性剤の臨界ミセル濃度

(cmc)は電気伝導度を測定することによって求めた。

<結果と考察>

界面活性剤の電荷の影響 Fig.2に陽イオン界面活性剤のバルク初期濃度と分解速度との関係を示

す。分解速度は初期濃度とともに増加し、ある初期濃度を超えると減少に転じた。非イオン,両性

写真をお願いしま

す。

Fig.1 Structural formula of surfactants used for sonochemical degaradation.

奨励賞受賞者からの解説論文

36

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界面活性剤についても同様の結果が得られた。また,我々

のこれまでの研究結果から、陰イオン界面活性剤の超音

波分解においても同様の傾向が見られ、分解速度の減少

は界面活性剤のミセル形成により、界面活性剤の気液界

面への濃縮の限界と、さらなる吸着の抑制効果で説明し

てきた1)。一方、陽イオン界面活性剤の場合、cmcを超え

る濃度でも分解速度の増大は見られたことから、分解速

度の減少を単純にミセル形成で説明することは難しい。

陽イオン、陰イオン、非イオン、両性の各界面活性剤を

超音波分解した際の最大分解速度をむかえる初期濃度と

cmcの関係をFig.3に示す。初期濃度がcmcに達し、ミセル

形成することで分解速度が減少に転じると仮定すると、

Fig.3の相関は1:1の直線に近づくはずである。ところが、

陽イオン界面活性剤の場合はcmcを上回る初期濃度で減

少に転じる(相関は1:1の関係の下)のに対し、陰イオン界

面活性剤の場合はcmcより低い初期濃度で分解速度は減

少に転じている(相関は1:1の関係より上)。この結果につ

いて、キャビティ表面の帯電状態を仮定することで考察

を試みた。一般的に加圧溶解法を用いて水中で生成され

るマイクロバブルの気泡表面は負に帯電していると考え

られている2)。超音波キャビティ表面も同様に負に帯電し

ていると仮定すると、陽イオンはキャビティに静電的に

引き寄せられ、陰イオンは逆に反発する可能性があるが、

イオン性界面活性剤がこのような静電的挙動を示すと考

えた場合、cmcと最大分解速度をむかえる初期濃度との

相関性や、cmc以上での分解の促進は説明が難しい。そ

こで界面活性剤イオンの対イオンに着目した。

キャビティ界面領域のイオン強度とcmc 今回の陽イオ

ン界面活性剤と陰イオン界面活性剤の対イオンはそれぞ

れClとNa+であり、界面活性剤イオンよりも分子サイズ

が著しく小さいことから、より電荷の影響を受けて移動

しやすいと考えられる。キャビティ界面領域での界面活

性剤イオンのミセル形成についてのイメージ図をFig.4に

示す。Clはキャビティに対し静電的斥力が働くと考えら

れることからキャビティ周辺のイオン強度は増大し、界

面活性剤イオンの活量は低下するため、cmcは増大すると

考えられる。逆に、キャビティ表面にNa+が引き寄せられると、相対的にキャビティ周辺の界面活

性剤イオンの活量は増大し、cmcは低下する。また、対イオンが存在しない非イオン、両性界面活

性剤はcmcが変化しないと考えられる。イオン強度がcmcに与える影響を確認するために、10 mMと

Fig.4 Schematic diagram of behavior difference between cation surfactant and anion surfactant at interfacial region of cavitation bubble.

Fig.2 Relationship between initial bulk concentration and degradation rate of BACs.

Fig.3 Relationship between initial bulk concentration for maximum degradation rate and cmc of each surfactant.

37

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なるようHClをバルク溶液に添加した系でのcmcを測定

し、陽イオン、陰イオン、非イオン、両性の各界面活性

剤を超音波分解した際の最大分解速度をむかえる初期

濃度と、HClを添加した系でのcmcの関係をFig.5に示す。

陽イオン界面活性剤の場合、HClを添加した系でのcmc

は減少し、陰イオン界面活性剤では増加した。また、非

イオン、両性界面活性剤ではcmcの変化が見られなかっ

た。対イオンの効果を確認するため,20 mM HClを添加

した系についても検討した結果、10 mM HClを添加した

系より1:1の関係に近づくことが確認された。以上の結果

から、分解速度の減少はミセル形成が原因と考えられ、

バルク中とキャビティ界面領域では、キャビティ表面電

荷の影響でcmcが異なることが示された。

ミセル形成による分解抑制要因の検討 これまでの報

告を基に、分解が抑制される3つの主な原因について検

討する。1つ目は、分解生成物がキャビティ内に揮発す

ることによってキャビティが低温化する。2つ目は、ミ

セル形成により界面活性剤分子がキャビティに集まる

のを阻害する。3つ目は、ミセル形成により超音波の伝

播が弱まるため有効キャビティ数が減少する。この1つ

目と2つ目を検討するために、BAC C12のC2炭化水素生成

量とキャビティ平均温度をFig.6に示す。キャビティ平均

温度の結果を見ると,キャビティ界面領域でミセル形成

が予想される濃度を超えても温度の低下は見られない

ことから,1つ目の原因である分解生成物によるキャビ

ティの低温化は、ミセル形成に伴う分解速度減少の原因

ではないと考えられる。また、2つ目の原因についても、最大分解速度をむかえる初期濃度を超え

てもC2炭化水素生成量に大きな減少が見られないため、原因として考えにくい。このことから、3

つ目の原因であるミセル形成により超音波の伝播が弱まるため有効キャビティ数が減少し、超音波

分解を抑制することが、分解速度の減少に転じる原因であると現状では考えられる。しかし、詳細

の解明にはソノルミネッセンス強度の比較など更なる検討が必要である。

References

1) B. Nanzai, K. Okitsu, N. Takenaka, and H. Bandow, Res. Chem. Intermed 2009, 35, 841-849.

2) M.Takahashi, J. Phys. Chem. B 2005, 109, 21858-21864.

3) E.J.Hart, C.H.Fischer and A.Henglein, Radiat. Phys. Chem. 1990, 36, 511-516.

4) M. Ashokkumar and F. Grieser, Ultrason. Sonochem. 1999, 6, 1-5.

Fig.6 Total yield of C2 hydrocarbons and average cavitation temperature estimated based on these C2 yields from sonolysis of BAC C12 with different initial bulk concentration.

Fig.5 Relationship between the initial surfactant concentration when the degradation rate reaches maximum value and cmc when the surfactant solution contains 10 mM HCl.

38

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2019年度日本ソノケミストリー学会奨励賞

受賞者:杉野 史弥 Fumiya Sugino

所 属:関西大システム理工 Kansai University

受賞題目:超音波ピッティング効果に対する有機化合物添加の影響

Impact of addition of organic compound on ultrasonic pitting

(共著者:(関西大)山本 健)

<緒言>

超音波の代表的な応用例の一つに洗浄が挙げら

れ、産業分野をはじめとした多分野で用いられて

いる。現在では、対象に応じて数十 kHz~数 MHz

という広帯域の超音波が用いられている。一方で、

超音波洗浄において重要な役割を担うキャビテー

ション気泡は、固体表面に損傷を与える場合があ

る。損傷の主要因はキャビテーション気泡による

マイクロジェットであることが知られている。マ

イクロジェットの発生には、超音波による圧力変

動と同期して膨張収縮を繰り返すキャビテーショ

ン気泡と固体壁の存在が必要である。固体壁近傍

に存在する気泡が収縮する際、液体の流入量が非対称となり気泡が崩壊する。この崩壊時に発生す

る局所的な液体の流れがマイクロジェットである (Fig.1)。その結果、固体表面にピットと呼ばれる

小さな穴を形成する。ピットは固体壁のみでなく粒子表面にも形成される。このような、固体壁や

粒子に対してピットを形成する現象を超音波ピッティング効果という。過去に我々は、超音波ピッ

ティング効果に対する、周波数及び粒子径依存性があることを報告している1)。周波数依存性から

も分かる様に、ピッティングの作用は、キャビテーション気泡の状態に依存する。気泡の状態自体

も気圧や溶媒等の外的要因によって異なり、未だ明確なメカニズム解明には至っていない2)。

本研究では、溶質添加による超音波ピッティング効果への影響を検討した。スターチ粒子を懸濁

した試料に対して有機化合物を添加し430 kHz及び1.6 MHzの超音波を照射した。スターチ粒子表面

に形成されたピットを観察することで、超音波ピッティング効果を評価した。

<実験方法>

試料には、バレイショ由来のデンプン粒子であ

るスターチ(富士フィルム和光純薬)を使用した。

スターチは、約10~100 μmの幅広い粒子径分布を

持っている。精製水に対してスターチを濃度0.088

wt%に調整したものを試料とする。

実験系は、周波数430 kHz及び1.6 MHzの超音波

発生装置(QUAVA mini、カイジョー)に、円筒型

試料槽(Φ48 mm)を設置したものである(Fig.2)。

2、10及び100 mMのエタノールを添加したスターチ

Cooling water

Stainless-steel Cylinder

Transducer(Φ 30.0 mm)

Fig.2 Schematic diagram of ultrasonic irradiation

system.

Fig.1 Image of microjet generation.

奨励賞受賞者からの解説論文

39

Page 41: ⽇本ソノケミストリー学会誌zirconate titanate (PZT) thick film on the back-side surface of titanium plate to protect from acoustic cavitation. The hydrophone was resistant

懸濁液に対して超音波照射を4 min行った。音響パワーはカロリメトリ法により10 ± 1 Wに調整し

一定とした。試料温度は試料槽内部に冷却水を循環させることで20 ± 1℃で一定とした。表面観

察は走査型電子顕微鏡SEM(TM3030Plus、日立ハイテクノロジーズ)により行った。得られた画像

より、スターチ粒子表面に形成されたピットの観察及びピット数のカウントを行った。本実験は、

再現性を確保するため3回行い平均化した。

<結果と考察>

・エタノール添加に伴うピットへの影響

Fig.3及びFig.4にエタノール添加時における、周

波数430 kHz(A:2 mM、B:100 mM)及び1.6 MHz

(A:2 mM、B:100 mM)の超音波照射後のスタ

ーチ表面のSEM画像を示す。スターチ表面に大小

さまざまなピットが形成された様子が確認され

た。また、Fig.5(a)に周波数430 kHz、(b)に1.6 MHz

の超音波照射後にスターチ表面に形成されたピッ

ト数を示す。本研究では、ピットのカウントは粒子

径に対する依存性を考慮し、直径10~30 μmのスタ

ーチを対象に行った。430 kHz及び1.6 MHzともに

エタノールを低濃度(数 mM以下)添加時に比べ、

高濃度(数十 mM以上)添加時にピット数が減少

した。また、ピット径に関して注目すると、高濃度

添加時には、低濃度添加時に見られるような比較

的大きなピットは観察されなかった。ここで、以下

にピット数及びピット径の変化に関して気泡サイ

ズに着目して考察する。

・エタノール添加による気泡サイズへの影響

エタノール添加がキャビテーション気泡へ及ぼ

す影響について検討する。D. Sunartioらは、アルコ

ールを添加した場合、気泡間の立体障害により気

泡合体が阻害され、気泡成長が抑制されることを

報告している3)。エタノールの場合では、数百 mM

までの間で気泡成長抑制の効果は強まる傾向にあ

る。また、気泡サイズとピット径には相関関係があ

ることが分かっており、100 mM添加時のSEM画像

から、比較的小さい気泡がピットを形成したと考

えられる4,5)。さらに、気泡成長抑制の傾向は、

Fig.5(b)に示す1.6 MHzにおけるピット数の減少傾

向とも一致する。

一方で、430 kHzでは高濃度添加時においてピッ

ト数変化が少ない。これは、気泡の振動振幅の違い

Fig.3 SEM image of starch surface after 430 kHz ultrasonic irradiation. (A: ethanol 2 mM, B: ethanol 100 mM)

Fig.4 SEM image of starch surface after 1.6 MHz ultrasonic irradiation. (A: ethanol 2 mM, B: ethanol 100 mM)

Fig.5 Pitting number of starch surface after ultrasonic irradiation at 430 kHz(a) and 1.6 MHz(b) for each ethanol concentration.

0

5

10

15

20

25

2 mM 10 mM 100 mM

Pit

ting

[num

ber/

gran

ule]

0

5

10

15

20

25

2 mM 10 mM 100 mM

Pit

ting

[nu

mbe

r/gr

anul

e]

(b)

(a)

40

Page 42: ⽇本ソノケミストリー学会誌zirconate titanate (PZT) thick film on the back-side surface of titanium plate to protect from acoustic cavitation. The hydrophone was resistant

によるものであると考えられる。Fig.6に超音波場

における気泡振動を表すKeller-Miksis方程式を用

いて算出した振動振幅を示す。算出に当たっては、

音圧は音響パワーから推測した212 kPa、他のパラ

メータは水の物性値を用いた。初期気泡半径R0を

設定し、最大気泡半径Rmaxの値を算出した。1.6 MHz

に比べ430 kHzは、比較的大きな気泡も一定以上の

振動振幅を持つ。そのため、430 kHzにおいてピッ

ト数変化が少なかった要因は、マイクロジェット

が発生するような振動振幅を持つ気泡が多く存在

したためであると考えられる。

・気泡サイズとマイクロジェット応力の関係

気泡サイズが変化した際のマイクロジェット応

力への影響について検討する。ここでは、静的な気

泡が圧壊することによって発生するマイクロジェ

ットの応力を以下の式より検討した6)。

𝜎~ 0.157 (1)

σ[Pa]はマイクロジェット応力、γ[N/m]は表面張力、

R[m]は気泡半径、x[m]は気泡と粒子間の距離を表

す。Fig.7に示すように、気泡サイズとともにマイク

ロジェット応力は増加する。スターチ表面にピッ

トを形成するためには、スターチの降伏強度以上の応力が加わる必要がある。そのため、比較的小

さい気泡から発生するマイクロジェットはピットを形成する能力が低いと考えられる。以上の結果

から、1.6 MHzにおいて、ピット数が減少した要因の一つとして、エタノール添加量増加に伴いス

ターチの降伏強度以上の応力をもたらす気泡が減少したことが考えられる。

<結言>

一連の結果より、有機化合物を添加することにより、気泡成長が抑制され、超音波ピッティング

に影響を及ぼすことが示唆された。さらに、その影響は周波数によって異なることが明らかとなっ

た。

Reference

1) 薮中惇, ソノケミストリー討論会講演論文集 68 (2018). 2) 山中翔平, ソノケミストリー討論会講演論文集 66 (2018). 3) D. Sunartio et al., J.AM.CHEM.SOC, 129, 6031 (2007). 4) M. Postema, Fundamentals of Medical Ultrasonics, CRC Press, 201 (2011). 5) L. Ye, X. Zhu, Ultrasonics Sonochemistry, 36, 507 (2017). 6) J. P. Franc, J. M. Michel, Fundamentals of Cavitation, Springer Netherlands, 62 (2004).

Fig.7 The microjet stress as a function of the bubble

radius.(γ = 72.75 mN/m, x = 1 μm)

0

500

1000

1500

2000

2500

0 2 4 6 8 10

Mic

roje

t str

ess σ

[kP

a]

Bubble radius R [μm]

starch granule

R

bubble

x

Fig.6 Oscillation amplitude at initial bubble radius

calculated from Keller-Miksis equation.

1

2

3

4

0 5 10 15 20 25Osc

illa

tion

ampl

itud

e R

max

/R0[

-]

Initial bubble radius R0[μm]

430 kHz

1.6 MHz

41

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① 第 28 回ソノケミストリー討論会

開催日時: 2019 年 11 月 19 日(火)~20 日(水)

開催場所: 東北大学

講演件数の内訳:口頭発表 13 件、ポスター発表 23 件、特別講演 1 件

2019 年度

・学会賞

原田 久志 氏 (明星大学・教授)

「超音波光触媒反応の開拓とその展開および CO2 のソノケミカル反応における活用」

・功績賞

崔 博坤 氏 (明治大学・教授)

「音響キャビテーションとソノルミネッセンスに関する研究」

・論文賞

Masaki Kubo, Takayuki Kondo, Hideki Matsui, Naomi Shibasaki-Kitakawa, Toshikuni

Yonemoto

“Control of molecular weight distribution in synthesis of poly(2-hydroxyethyl methacrylate)

using ultrasonic irradiation”

Ultrasonics Sonochemistry 40 (2018) 736–741

・奨励賞

A01 液中プラズマ法でのナノグラフェン合成における超音波の効果

長谷川健太 (名大院)

A06 液柱および霧化を生じる条件でのキャビテーションの可視化

二宮大樹 (鹿児島大院)

A08 圧縮性 3 相流シミュレーションによるエマルジョン化時に発生する高速液体ジェット方

向依存性

山本卓也 (東北大院)

P07 超音波キャビティ界面領域における界面活性剤ミセル形成が分解挙動に及ぼす影響

鈴木誠也 (静岡理工大院)

P09 超音波ピッティング効果に対する有機化合物添加の影響

杉野史弥 (関西大)

・特別賞

A02 カーボン被覆正極活物質 LiNi0.5Mn1.5O4/C の高充放電レートにおける電池容量改

善を目的としたカーボン層への金ナノ粒子の超音波合成

田中 康之 (秋田大院)

A04 超音波誘発薬物放出のためのセルロース-キチン複合ヒドロゲル

Harshani Iresha (長岡技大院)

P17 超音波を利用したシリカキセロゲルの作製

前田 悠希 (東北大院)

会務報告

42

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② 会計報告

2018 年度 日本ソノケミストリー学会 会計決算報告

2018 年 4 月 1 日~2019 年 3 月 31 日

収入 支出

前年度繰越金 1,652,576 サーバー代 52,488

会費 247,000 表彰賞状用紙・副賞購入費 22,805

カイジョーからの寄付金 500,000 ファインバブル学会連合分担金 30,000

カイジョー奨励金 400,000

利子 14 振込手数料 1512

次年度繰越金 1,892,785

収入合計 2,399,590 支出合計 2,399,590

③ 2018 年度会員異動について

2018 年度(2018 年 3 月 31 日時点)会員数

正会員 120 名、学生会員 52 名、名誉会員 4 名、合計 176 名

法人会員 4 社

#今春で卒業される学生会員の方々は、是非とも正会員になってください。

学生会員を退会される場合は、直接または指導教員を通して退会届を提出してください。

④ 2020 年度-2021 年度 事業計画

1) 2020 年度 第 29 回ソノケミストリー討論会

実行委員長:榎本会長理事(有明高専)

開催日:詳細が決まり次第、メールなどで連絡する予定

開催地:詳細が決まり次第、メールなどで連絡する予定

2) 2021 年度 AOSS-5 & 第 30 回ソノケミストリー討論会の開催について

開催地:横浜国立大学

⑤ 2020 年度 学会役員体制について

下記案の通り理事を改選したい旨、報告があり了承された。

・会長 榎本 尚也

・副会長 安田 啓司(留任)、興津 健二

・理事 小林 高臣

理事の役割分担について、学会組織図に基づき提案があり、了承された。

主な変更は下記の通り。

・庶務 久保 正樹、 関口 和彦

・編集 仁宮 一章、 安井 久一、 二井 晋

・表彰 大川 浩一、 酒井 俊郎、 平野 孝祐

・行事 跡部 真人、 小林 大祐、 松本 秀行

・会計 畑中 信一、 小林 大祐、 岡田 長也

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改選後、2020 年度の理事は下記の通りとなった。

会長 榎本 尚也 有明工業高等専門学校 創造工学科 環境・エネルギー工学系

副会長 安田 啓司 名古屋大学大学院 工学研究科 化学システム工学専攻

副会長 興津 健二 大阪府立大学大学院 人間社会システム科学研究科

会計 岡田 長也 本多電子株式会社

行事 跡部 真人 横浜国立大学大学院 環境情報研究院

表彰 大川 浩一 秋田大学大学院理工学研究科物質科学専攻

小川 良平 富山大学大学院 医学薬学研究部 放射線基礎医学講座

小林 高臣 長岡技術科学大学 工学部 物質・材料系

表彰 酒井 俊郎 信州大学工学部 物質化学科

庶務 久保 正樹 東北大学大学院 工学研究科 化学工学専攻

行事・会計 小林 大祐 東京電機大学 工学部 環境化学科

崔 博坤 明治大学 理工学部 物理学科

庶務 関口 和彦 埼玉大学大学院 理工学研究科

寺坂 宏一 慶応大学 理工学部 応用化学科

編集 二井 晋 鹿児島大学 工学部 環境化学プロセス工学科

編集 仁宮 一章 金沢大学 環日本海域環境研究センター

表彰 平野 孝祐 株式会社カイジョー

会計 畑中 信一 電気通信大学大学院 情報理工学研究科

編集 安井 久一 産業技術総合研究所 無機機能材料研究部門

行事 松本 秀行 東京工業大学 物質理工学院

監事 近藤 隆 富山大学大学院 医学薬学研究部 放射線基礎医学講座

監事 原田 久志 明星大学大学院 理工学研究科 化学専攻

顧問 朝倉 義幸 本多電子株式会社 研究部

顧問 長谷川 浩史 株式会社カイジョー 産業用洗浄装置事業部

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主催・共催・協賛など行事一覧

・第 29 回ソノケミストリー討論会 開催日:2020 年 9 月 28 日-29 日 開催場所:久留米シティプラザ (福岡) 世話人:榎本尚也理事 ・第 41 回超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム(USE2020)

開催日: 2020 年 11 月 25 日-27 日 開催場所:大阪大学 (大阪)

・4th International Caparica Conference on Ultrasonic-based Applications: from analysis to synthesis 2020

開催日:2020 年 6 月 1 日– 4 日 開催場所:Caparica (ポルトガル) http://www.ultrasonics2020.com/

・7th Cavitation and Multiphase flows Workshop 開催日:2020 年 6 月 11 日-13 日 開催場所:Chania, Crete (ギリシャ) http://iicr2020.net/

・17th Meeting of the European Society of Sonochemistry (ESS2020) 開催日:2020 年 9 月 6 日-9 月 10 日 開催場所:University of Jena, Jena (ドイツ) https://www.ess2020.de/

・Nanobubble 2020

開催日:2020 年 9 月 17 日– 20 日 開催場所:Magdeburg (ドイツ) http://www.nanobubble2020.ovgu.de/

・The International Chemical Congress of Pacific Basin Societies 2020 (Pacifichem 2020)

開催日:2020 年 12 月 15 日-20 日 開催場所:Honolulu, Hawaii (アメリカ) https://pacifichem.org/

お知らせ

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原稿募集Bulletin of the Japan Society of Sonochemistryでは、会員の皆さまからの投

稿・広告を随時募集しています。発行は年2回(三月および九月頃)で、締切は概ね発行月の第1週までです。原稿は電子ファイルで下記宛にお送り下さい。

編集委員

・仁宮 一章 [email protected]金沢大学理工研究域生命理工学系

・安井 久一 [email protected]産業技術総合研究所中部センター

・興津健二 [email protected]大阪府立大学大学院人間社会システム科学研究科

編集後記

・長らく編集委員の中心として尽力していただいた興津先生が2020年度4月より副会長

となられ、ソノケミ学会誌とソノケミニュースレターの編集などを、安井先生と二井先生と

ともに行うことになります。どうぞよろしくお願いいたします。 (KN)

・ 今年はベートーヴェンの生誕250年なので、ラジオでベートーヴェンの音楽を聴くことが

多い。先日、ピアノソナタ第23番「熱情」を聴き、テンポの良さにストレスが発散された。

(KY)

・2008年3月号の編集時に原田先生と一緒に編集委員に加わり、これまで13年近く編集

委員に携わってきましたが、今号が最後の編集の仕事となります。これまでご指導ご鞭

撻をいただきました関係者の皆さまに感謝申しあげます。次回からは、鹿児島大学の二

井先生が編集委員に加わり、新しい編集体制となります!(KO)

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