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1 環境物品貿易ネットワークの要因分析: 地域効果、フラグメンテーション効果に焦点を当てて 1 松村 敦子 2 2014 8 要旨 本論文では、2012 年にアジア太平洋協力(APEC)において関税引下げ推進について合 意された機械機器類に属する環境物品 53 品目(HS6 桁分類)の貿易ネットワークに関する決 定要因について、地域効果とフラグメンテーション効果に焦点を当てて分析している。こ うした環境物品はそれぞれ独自の環境保護目的を持つ研究開発集約的物品であり、今後の 世界貿易を牽引していくと考えられることから、環境物品貿易構造の分析は世界貿易発展 を研究する上で重要な意味をもつと考えられる。 分析手法としては最終財需要に加え、中間財需要を考慮したグラヴィティ・モデルを用 いており、二国間貿易を被説明変数とし、両国の GDP、両国の 1 人当たり GDP、両国間 の距離、地域ダミー変数に加えて、総貿易に占める中間財貿易比率、さらにさまざまな二 国間での固定効果を説明変数として導入して分析を行った。分析対象国は APEC 諸国、ヨ ーロッパ諸国、その他の新興国を含めた 43 か国であり、 2009 年から 2012 年までの 4 年間 について、HS84 類、85 類、90 類それぞれに属する環境物品グループ別に分析を行ってい る。各年におけるクロスセクション分析、全期間を通じたパネルデータによる変量効果モ デル分析を行っている。 グラヴィティ・モデルのクロスセクション分析とパネル分析の計測結果により、APEC と日本=ASEAN 経済連携協定の地域効果が明らかとなり、ハイテク財を多く含む HS90 類では共通言語の効果が大きく APEC 内での貿易が活発であるのに対し、部品貿易比率平 均が高い HS85 類では二国間距離の効果が大きく日本アセアン経済連携協定加盟国間での 貿易が活発であることが示される。一方、部品貿易比率の高い二国間での貿易誘発効果に 関しては、分析対象国全体では HS84 類において確認されたものの限定的であるが、 APEC 内や東アジア内では明らかに生じているという結果が導かれている。 Keywords: 環境物品,アジア太平洋経済協力,グラヴィティ・モデル,国際的生産フラグメン テーション 1 本研究は、科学研究費助成事業・学術研究助成基金(基盤研究 C)課題番号 25380319 よる研究成果の一部である。 2 東京国際大学経済学部教授 (2014 年度・慶応義塾大学経済学部訪問教授) 350-1197 埼玉県川越市的場北 1-13-1 E-mail:[email protected]

APEC...APEC で合意された環境物品54 品目は1品目を除き、機械機器類であるHS84、85、90 分類に属し、先進国が国際競争力をもつ品目が多く含まれるが、その一方で近年、新興国

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1

環境物品貿易ネットワークの要因分析:

地域効果、フラグメンテーション効果に焦点を当てて1

松村 敦子2

2014 年 8 月

要旨

本論文では、2012 年にアジア太平洋協力(APEC)において関税引下げ推進について合

意された機械機器類に属する環境物品 53品目(HS6桁分類)の貿易ネットワークに関する決

定要因について、地域効果とフラグメンテーション効果に焦点を当てて分析している。こ

うした環境物品はそれぞれ独自の環境保護目的を持つ研究開発集約的物品であり、今後の

世界貿易を牽引していくと考えられることから、環境物品貿易構造の分析は世界貿易発展

を研究する上で重要な意味をもつと考えられる。

分析手法としては最終財需要に加え、中間財需要を考慮したグラヴィティ・モデルを用

いており、二国間貿易を被説明変数とし、両国の GDP、両国の 1 人当たり GDP、両国間

の距離、地域ダミー変数に加えて、総貿易に占める中間財貿易比率、さらにさまざまな二

国間での固定効果を説明変数として導入して分析を行った。分析対象国は APEC 諸国、ヨ

ーロッパ諸国、その他の新興国を含めた 43 か国であり、2009 年から 2012 年までの 4 年間

について、HS84 類、85 類、90 類それぞれに属する環境物品グループ別に分析を行ってい

る。各年におけるクロスセクション分析、全期間を通じたパネルデータによる変量効果モ

デル分析を行っている。

グラヴィティ・モデルのクロスセクション分析とパネル分析の計測結果により、APEC

と日本=ASEAN 経済連携協定の地域効果が明らかとなり、ハイテク財を多く含む HS90

類では共通言語の効果が大きく APEC 内での貿易が活発であるのに対し、部品貿易比率平

均が高い HS85 類では二国間距離の効果が大きく日本アセアン経済連携協定加盟国間での

貿易が活発であることが示される。一方、部品貿易比率の高い二国間での貿易誘発効果に

関しては、分析対象国全体では HS84 類において確認されたものの限定的であるが、APEC

内や東アジア内では明らかに生じているという結果が導かれている。

Keywords: 環境物品,アジア太平洋経済協力,グラヴィティ・モデル,国際的生産フラグメン

テーション

1 本研究は、科学研究費助成事業・学術研究助成基金(基盤研究 C)課題番号 25380319 に

よる研究成果の一部である。 2 東京国際大学経済学部教授 (2014 年度・慶応義塾大学経済学部訪問教授)

〒350-1197 埼玉県川越市的場北 1-13-1 E-mail:[email protected]

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1. はじめに -本研究の目的と関連文献-

「貿易と環境」に関する議論の中で環境物品・サービス貿易の自由化の重要性に関しては、

世界貿易機関(WTO)においてウルグアイ・ラウンド交渉終結時から議論されてきた。2001

年のドーハ宣言パラグラフ 31(ⅲ)においては、環境物品・サービスの貿易障壁削減・除

去の目的について明記されており、環境物品の貿易自由化が当該物品の新たな市場と輸出

機会を創出し、環境良化をもたらす財とその生産技術を低コストで効率的に入手すること

を可能にすることが指摘される。しかしながら WTO においては加盟国全体での環境物品貿

易自由化が具体化されておらず、HS(Harmonized System)6 桁分類による 500 品目以上

から成る環境物品リストが作成されているものの、それに関する加盟国の合意を得られて

いない。これに対して、アジア太平洋経済協力(APEC)では、2011 年には環境物品の関税引

下げ推進について合意され、2012 年には環境物品 54 品目(HS6 桁分類)のリストについて

合意が得られ、それらの実行関税率を 2015 年末までに 5 パーセント以下に削減することに

コミットすることが合意された。

APEC で合意された環境物品 54 品目は1品目を除き、機械機器類である HS84、85、90

分類に属し、先進国が国際競争力をもつ品目が多く含まれるが、その一方で近年、新興国

においても生産増加が進んでいる。東アジア地域での電気機器類の生産構造に関しては生

産の国際的フラグメンテーションに基づくサプライチェーンの構築による生産ネットワー

クが広く形成されていることは多くの研究で明らかにされている。例えば、Kimura(2013)

では東アジア地域のフラグメンテーションの進展と発展戦略について明らかにされており、

Kimura et al.(2007)では、東アジアでの機械機器産業の国際的生産流通ネットワークの深

化について 1987 年、1995 年、 2003 年の分析結果の比較によって明らかにされる。また、

Athukorala(2006)では、東アジア地域での部品貿易比率の増大による「フラグメンテーシ

ョン貿易」拡大についての分析が行われている。

こうした事実を受けて、本研究では、HS84、85、90 類に属する APEC 環境物品 53 品

目に焦点を当てた場合に、東南アジア地域内、APEC 諸国間でこうした生産・貿易ネット

ワークは構築されているのか、またそれはどのような特徴をもつのかについて分析するこ

とを目的としている。ここでは2つの仮説について検証を行っている。第一番目として、

1990 年代以降急速に貿易を拡大させている東南アジア地域、また環境物品貿易自由化を推

進する APEC 諸国内といった経済ブロックに着目し、こうした地域内で環境物品の貿易拡

大も進行しているという仮説である。第2に、より効率的生産を目指して複雑なサプライ

チェーン構築を行う生産者行動に基づく生産・貿易ネットワークは、部品・構成品の貿易

の拡大を伴って形成されることから、APEC 環境物品 53 品目の貿易における部品・構成品

の割合に注目し、国際的フラグメンテーション生産による部品・構成品の貿易シェア増大

が貿易全体を拡大させるという仮説である。分析手法としてはグラヴィティ・モデルによ

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る貿易ネットワーク決定要因分析を用いており、APEC とヨーロッパ地域の主要国、新興

工業国 43 か国を対象とし、異なる特徴を持つ HS84、85、90 類の環境物品毎に推定を行い、

推定結果の比較により各類について仮説の検証を行っている。

国際的フラグメンテーションを考慮した部品・中間財を含むグラヴィティ・モデルに関

しては、Baldwin and Taglioni(2011)において理論と実証分析が行われており、1967 から

2008 年までを対象として通常のグラヴィティ・モデルを用いて分析した場合に、国際フラ

グメンテーションが進み中間財貿易が盛んになるにつれて両国のGDP項の係数が小さくな

っていく一方で、中間財貿易比率を説明変数に導入すると有意に計測されることが示され

る。Athukolara(2006)においても、フラグメンテーションに基づく貿易について最終財貿

易と中間財貿易に分解することによってその特徴を明らかにしている。また、Jones et

al.(2005)では国際的フラグメンテーション拡大における部品・構成品貿易の重要性を指摘

し、その決定因についての回帰分析を行っている。

一方、Bergstrand and Egger(2010)では、1990 年から 2000 年を対象とし、最終財貿易

のみならず中間財貿易を対象とした分析において、通常のグラヴィティ・モデルにより両

財グループで類似の係数値が推計されることを実証している。これについて Baldwin and

Taglioni(2011)では、中間財貿易が最終財貿易より早いスピードで増加しているアジア地域

のグローバル・ヴァリュー・チェーン拡大時においては、経済規模変数として GDP のみを

含む通常のグラヴィティ・モデルでは説明しきれないとしている。

本研究の特徴は、第1に、今後の世界貿易を牽引していく有望製品であり且つ独自の環

境保護目的を有する環境物品の貿易に注目し、APEC で合意された HS6 桁での環境物品を

HS84 類、85 類、90 類に分けて決定要因の分析を行うことにある。さまざまな環境保護目

的を持つ環境物品の集合を対象とした貿易の決定要因に関する詳細な研究はこれまで行わ

れておらず、環境物品貿易全体を3つの分類に分割して決定要因を分析することによって

詳細な結果を得ることができる。第2に、Baldwin and Taglioni(2011)流のグラヴィティ・

モデルを基にして、フラグメンテーション貿易を引き起こす部品貿易の活発化が貿易全体

に与える効果を調べ、さらにそうした効果が、類毎に明らかな特徴を示しながら、アジア

地域、APEC 地域で顕著に表れていることを検証している点である。分析に当たっては部

品・中間財貿易が盛んなケースに関するグラヴィティ・モデルの理論的基礎が考慮されて

いる。

本稿の構成は以下のようになっている。まず2節では、本研究の分析対象である APEC

環境物品リストの内容と、本分析対象の主要国の比較優位構造について明らかにし、特に

東南アジア諸国の比較優位とフラグメンテーションとの関連性について考察する。第 3 節

では、グラヴィティ・モデルに基づく分析モデルと推定式について明らかにする。第 4 節

では、分析で使用するデータの内容と特性について述べる。第 5 節では推定結果について

明らかにし、パネル分析結果をもとに仮説の検証を行う。最終節では結論と今後の研究の

方向性について述べる。

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2. APEC 環境物品リストの構成と世界主要国の比較優位構造

2.1 APEC による環境物品の定義と貿易自由化

APEC 環境物品は HS6 桁分類で 54 品目から構成されている。HS441872(木材代替用

の竹製フローリング材)を除く 53品目はすべて一般機械類HS84類、電気機械類HS85類、

精密機器類 HS90 類に属しており、表 1、表 2、表 3 には、物品名、物品説明、環境物品分

類が HS84、85、90 分類に分けて示されている。

これらの APEC 環境物品を、WTO の環境貿易委員会特別セッション(CTESS)によって

作成されているリスト3に掲載されている物品と比較すると、441872、901380、901390 を

除いたすべての品目がWTOリストにも掲載されている。因みに、WTO環境物品リストは、

加盟国によって環境に優しい財として WTO 加盟国によって提案された物品の積み上げに

より作成されているが全加盟国の合意は得られていない。両リストの比較により、本研究

で分析対象としている APEC リストは WTO リストと同様、さまざまな環境保護目的をも

つ財が幅広く選定されていることが明らかである。

また、これらの物品が、ハイテク財と定義される物品にどれくらい含まれているのかみ

てみたい。石田(2011)では、Eurostat(1996)のハイテク財の定義に従い、HS 分類において

R&D 費用の投入比率が高いと思われる 252 品目をハイテク財として選定している。APEC

環境物品の中でハイテク財と指定されている物品は、HS84 類では 23 品目中、大型発電用

ガスタービン(HS841182)、発電用ガスタービンの部分品(HS841199)の 2 品目、HS85 類で

は 11 品目中、太陽光パネル・セル(HS854140)、殺菌用オゾン生成用紫外線システム等の

部分品(HS854390)の 2 品目であるのに対して、HS90 類では、19 品目中、4 品目を除く 15

品目がハイテク財に含まれる。HS90 類でハイテク財に含まれない 4 品目とは、太陽光反射

鏡の部分品(HS901390)、光学式環境計測機器(HS903149)、電気式環境計測機器(HS903180)、

光学式の部分品(HS903190)のみである。因みに、WTO 環境物品リストにおいても、こう

した HS90 類に属する物品については「環境技術」分野の環境物品に分類されている。

3 WTO(2011)を参照されたい。

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表1  APEC環境物品リストの内容(HS44,HS84)

HS番号 品目 物品説明 環境物品分類

441872 床パネル(竹製品) 生育期間が短い竹の木製品代用による資源節約 環境配慮型物品840290 ボイラー発電機(バイオマス等)の部分品 空気汚染有害物質の制御 廃棄物・大気汚染制御840410 ボイラー用補助機器 空気汚染制御の生産設備 廃棄物・大気汚染制御840420 蒸気原動機用復水器 ガスを汚染物質除去可能温度に冷やす 熱エネルギー貯蔵・処理840490 ボイラー用補助機器の部分品 840410の機器のメインテナンスと修理 廃棄物・大気汚染制御840690 蒸気タービンの部分品 再生可能な地熱発電用タービン 再生可能エネルギー841182 大型発電用ガスタービン(5,000kW超) 埋め立てゴミ等のガスによる発電用ガスタービン 再生可能エネルギー841199 発電用ガスタービンの部分品 841182のための部分品 再生可能エネルギー841290 風力発電の羽と軸 841210、841280(エンジン、モーター)の部分品 再生可能エネルギー841780 焼却炉(大気汚染物質) 有害固体物質の撲滅 廃棄物処理841790 焼却炉(大気汚染物質)の部分品 841780の部分品 廃棄物処理841919 太陽熱温水器(ソーラー・ヒーター) 汚染物質発生を伴わない温水装置 再生可能エネルギー841939 乾燥機 排水処理に伴う汚泥等の処理 排水処理841960 気体液化装置 汚染物質の分離・除去 大気汚染制御841989 乾燥機 廃水処理による汚染物質の分離・除去 大気汚染制御841990 太陽熱温水器(ソーラー・ヒーター)の部分品 841919の部分品 再生可能エネルギー842121 液体の濾過機(排水処理) 水質浄化設備等の環境保護目的での水の濾過 汚染水処理842129 液体の濾過機(排水処理) 化学処理、油水分離等の汚水汚染物質除去 汚染水処理842139 気体の濾過機(ガス・フィルター等) ガス用機器のフィルター濾過清浄 大気汚染制御842199 液体の濾過機の部分品 液体、ガス用機器の遠心分離による浄化 大気汚染制御847420 リサイクル用選別破砕機 固体汚染物質処理とリサイクル 廃棄物処理・リサイクル847982 リサイクル用選別破砕機 汚染物質のリサイクル用選別、粉砕など 廃棄物処理・リサイクル847989 選別破砕機関連機器 土壌改善、飲料水生成等の環境関連機器 廃棄物処理・リサイクル847990 選別破砕機の部分品 847982,847989のための部分品 廃棄物処理・リサイクル

出所:APEC(2012) 

表2  APEC環境物品リストの内容(HS85)

HS番号 品目 物品説明 環境物品分類

850164 交流発電機(750KVA超) 再生可能エネルギー発電用ボイラー・タービン用 再生可能エネルギー850231 風力発電機 再生可能資源(風力)発電用プラント 再生可能エネルギー850239 発電関連機器[太陽光、バイオマス、潮力等) 電力と熱の結合システム(熱伝導ロス最小化等) 再生可能エネルギー850300 発電機の部分品 850231、850239の部分品 再生可能エネルギー850490 太陽光発電等の用いるインバーター等の部分品 再生可能エネルギー発電のインバーター等の部分品 再生可能エネルギー851410 焼却炉(抵抗加熱炉) 危険固体汚染物質の粉砕用 廃棄物処理851420 焼却炉(電磁誘導炉) 危険固体汚染物質の粉砕用 廃棄物処理851430 焼却炉(その他の電気炉) 触媒作用による危険固体汚染物質の粉砕 廃棄物処理851490 焼却炉(電気炉)の部分品 851410~852430までの部分品 廃棄物処理854140 太陽光パネル、セル 環境保護的発電関連物品 再生可能エネルギー854390 水殺菌用オゾン生成用紫外線システム等の部分品 水質浄化用オゾン生成システム 水質処理・改善

出所:APEC(2012) 

表3  APEC環境物品リストの内容(HS90)

HS番号 品目 物品説明 環境物品分類

901380 太陽光反射鏡 太陽光反射・導入用の枚の鏡を用いる装置 再生可能エネルギー901390 太陽光反射鏡の部分品 901380の部分品 再生可能エネルギー901580 環境計測機器(土地、水路、海洋等の測量) オゾン層測定用、自然災害予知用機器 環境モニタリング、分析、評価用機器902610 環境計測機器(大気モニタリング用) 大気汚染測定用機器 環境モニタリング、分析、評価用機器902620 環境計測機器(圧力計測計) 環境効果測定用液柱圧力計 環境モニタリング、分析、評価用機器902680 環境計測機器(熱計測計等) 地熱、バイオマス発電システムに関する測定機器 環境モニタリング、分析、評価用機器902690 環境計測機器(熱計測計等の部分品) 902610~902680の部分品 環境モニタリング、分析、評価用機器902710 環境計測機器(ガス・煙の分析機器) 自動車排気ガス測定、分析機能も含む。 環境モニタリング、分析、評価用機器902720 環境計測機器(クロマトグラフ等) 大気汚染、水質などの計測機能を含む。 環境モニタリング、分析、評価用機器902730 環境計測機器(分光計等) 汚染物質の特定機能を含む。 環境モニタリング、分析、評価用機器902750 環境計測機器(物理・化学分析用) 水質測定光度計等を含む。 環境モニタリング、分析、評価用機器902780 環境計測機器(気体、液体、電気用) 磁石等による生物、地質の環境効果分析機器 環境モニタリング、分析、評価用機器902790 環境計測機器(ガス・煙の分析機器等の部分品) 902780等の部分品 環境モニタリング、分析、評価用機器903149 環境計測機器(光学式) 高精度機器、振動等の環境効果分析機能を含む。 環境モニタリング、分析、評価用機器903180 環境計測機器(電気式) 振動測定、電子顕微鏡等の環境効果測定機器 環境モニタリング、分析、評価用機器903190 環境計測機器(光学式の部分品) 903180の部分品 環境モニタリング、分析、評価用機器903289 環境計測機器(自動調整機器) 再生可能エネルギー、気温、湿度、圧力等の制御機能を持つ。 環境モニタリング、分析、評価用機器903290 環境計測機器(自動調整機器の部分品) 903289等の部分品 環境モニタリング、分析、評価用機器903300 環境計測機器(光学機器等の部分品) 液体、電気、放射エネルギー、測定機器の維持補修の部分品 環境モニタリング、分析、評価用機器

出所:APEC(2012) 

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2.2 APEC 環境物品の主要国の比較優位構造と、フラグメンテーション貿易との関連性

2.1 でみたように、APEC 環境物品はさまざまな環境保護に役立つ幅広い分野から構成さ

れている。個々の物品についての世界主要国の比較優位構造を、顕示比較優位指数(RCA)

によってみていきたい。計測式は(1)式で示される。

j 国のi財の顕示比較優位指数

=(Xij/Xtj)/(Xiw/Xtw) ・・・・・・(1)

ここで、Xij はj国のi財輸出、Xtj は j 国の全商品輸出、XiWは世界のi財輸出、Xtw は

世界の全商品輸出を示す。計測に当たり、世界として、APEC 諸国(ブルネイ、パプアニ

ューギニア、ペルー、ロシアを除く)と EU28 か国の合計のデータを用いている。j 国にお

ける i 財の RCA については、1を中立的なケースとし、1よりも大きい場合には j 国はi

財に比較優位を持ち、1より小さい場合にi財は j 国の比較劣位財であると解釈できる。

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表4   APEC、EU主要国の顕示比較優位指数(RCA) (2013年)

HS番号 日本 中国 韓国 台湾 香港 シンガポール タイ マレーシアインドネシア フィリピン 米国 カナダ メキシコ ドイツ フランス イタリア イギリス オランダ スペイン

840290 1.81 2.30 3.70 0.12 0.13 0.07 0.36 0.11 0.32 0.02 0.45 0.25 0.10 0.32 0.31 1.44 0.07 0.19 0.58840410 0.23 2.80 1.95 5.30 0.00 0.06 0.00 0.05 0.05 0.12 0.63 0.47 0.30 0.43 0.18 2.23 0.78 0.22 0.30840420 1.21 2.27 3.05 0.06 0.00 0.51 0.03 0.12 7.69 0.00 1.84 0.21 0.00 0.12 0.10 1.92 0.16 0.22 2.28840490 0.84 1.74 1.06 0.35 0.02 1.78 0.75 0.39 2.47 0.51 1.02 0.26 0.86 0.89 0.28 0.85 0.91 0.90 1.12840690 4.03 1.37 1.07 0.00 0.02 0.66 0.62 0.02 1.06 0.00 0.61 0.14 0.98 1.25 0.75 2.18 0.66 0.05 0.05841182 1.47 0.08 0.03 0.00 0.00 1.23 0.32 0.13 0.09 0.00 3.41 1.07 0.23 0.98 1.65 3.18 2.12 0.88 0.02841199 1.55 0.13 0.14 0.01 0.11 1.13 0.57 0.06 0.00 0.27 2.45 0.54 1.68 1.25 0.63 3.45 2.24 0.81 0.13841290 0.77 0.79 0.34 0.29 0.15 2.39 0.13 0.25 0.01 0.24 1.99 1.08 0.11 1.30 0.37 0.34 0.43 0.75 2.81841780 0.58 1.84 0.47 0.73 0.03 0.04 0.70 0.17 0.01 0.26 0.78 0.24 0.13 1.76 0.80 6.07 0.47 0.19 0.80841790 1.00 0.37 0.66 0.12 0.01 0.10 0.43 0.11 0.15 0.07 0.91 1.04 0.29 1.71 0.87 3.66 0.56 0.26 2.35841919 0.02 0.92 0.15 0.04 0.01 0.03 0.01 0.06 0.24 0.01 0.84 0.16 6.24 1.51 2.11 1.55 0.33 0.74 1.23841939 1.71 0.81 0.64 0.95 0.45 0.27 0.24 0.31 1.32 0.01 0.75 0.30 0.06 2.14 0.31 2.70 0.44 0.59 1.44841960 0.43 4.07 0.01 0.00 0.01 0.44 0.08 0.63 0.18 0.00 1.33 0.38 0.01 2.78 0.43 3.69 0.76 0.48 0.42841989 1.13 0.79 3.11 1.71 0.18 0.83 0.56 0.84 0.05 0.01 0.94 0.57 0.60 2.18 0.66 2.38 0.43 0.54 0.42841990 0.74 0.53 1.06 0.40 0.12 0.61 0.45 0.64 0.11 0.35 1.30 0.88 0.46 1.34 1.37 2.15 0.72 0.89 0.65842121 0.45 0.50 1.28 0.93 0.13 0.31 0.09 0.61 0.06 0.36 1.66 1.74 0.64 1.90 0.89 2.01 0.69 0.76 1.65842129 1.72 1.00 0.29 0.16 0.06 0.68 0.17 0.60 0.05 0.31 1.54 0.51 0.59 2.31 2.47 1.43 1.32 0.48 0.29842139 0.71 0.64 0.64 0.24 0.10 0.15 1.18 0.36 0.00 0.00 1.54 0.88 3.54 2.54 0.57 1.13 0.98 0.33 0.43842199 1.30 0.02 0.76 0.88 0.24 0.51 1.50 0.27 0.02 0.43 1.47 0.55 0.33 1.96 1.42 1.08 0.78 0.60 0.71847420 0.30 0.52 0.25 0.32 0.01 0.16 0.29 0.66 1.04 0.00 0.66 0.26 0.03 1.60 1.07 1.13 2.32 0.26 0.80847982 0.90 0.51 0.63 1.77 0.06 0.36 0.16 0.43 0.55 0.00 0.95 1.01 0.09 3.01 0.83 1.91 0.72 0.39 0.86847989 2.84 0.29 2.29 0.90 0.73 0.82 0.15 0.55 0.00 0.21 1.10 0.76 0.69 2.16 0.43 2.19 0.57 0.33 0.43847990 1.51 0.20 2.59 0.51 0.28 3.30 0.12 1.33 0.01 10.20 1.07 0.69 0.57 1.39 0.64 2.65 0.47 0.59 0.44850164 2.10 0.86 0.30 0.00 0.01 0.29 0.22 0.16 0.01 0.01 1.53 0.11 0.43 1.50 1.19 1.09 1.50 0.65 2.55850231 0.01 0.41 0.01 0.01 0.00 0.01 0.01 0.00 0.26 0.01 0.52 0.04 0.02 3.28 0.02 0.02 0.01 0.06 5.79850239 0.77 0.16 0.07 0.03 0.15 1.09 1.48 0.16 1.41 0.01 3.93 0.20 0.06 0.35 0.25 0.36 0.22 0.16 0.23850300 1.48 1.36 0.53 0.66 1.11 0.32 0.30 0.11 0.00 0.59 0.85 0.52 0.66 1.20 0.66 1.44 0.32 0.21 2.58850490 0.95 1.88 0.92 0.47 5.22 0.67 0.50 0.54 0.00 3.04 0.43 0.34 0.51 1.02 0.46 0.89 0.17 0.21 0.18851410 2.93 0.79 0.87 0.53 0.56 0.12 0.04 0.15 0.03 0.00 0.71 0.36 0.11 2.45 0.63 3.38 0.37 0.10 0.73851420 2.38 0.67 0.46 0.29 0.02 0.18 1.03 0.06 0.01 0.00 1.27 0.23 0.12 1.98 0.32 3.26 1.88 0.18 0.22851430 1.19 0.87 1.05 5.08 0.65 0.39 0.70 0.75 5.84 0.00 1.05 0.57 0.15 1.56 0.81 1.33 0.10 0.31 0.29851490 2.24 0.39 1.12 0.34 0.30 1.10 0.77 0.95 2.13 0.01 1.02 0.32 0.20 2.48 0.85 2.60 0.81 0.17 1.00854140 1.85 2.00 1.90 5.47 1.54 1.03 0.24 3.94 0.00 5.35 0.40 0.07 0.57 0.67 0.20 0.21 0.19 0.97 0.13854390 1.47 0.51 0.96 0.86 3.43 7.74 4.71 1.20 0.00 0.07 1.23 0.29 0.36 0.52 0.26 0.34 0.69 0.17 0.70901380 1.33 2.87 7.84 5.00 1.09 0.04 0.02 0.18 0.00 0.00 0.11 0.15 0.19 0.03 0.03 0.01 0.01 0.01 0.00901390 1.46 0.97 0.59 26.56 1.81 0.25 1.72 0.06 0.01 0.03 0.40 0.13 0.01 0.28 0.15 0.02 0.36 0.06 0.02901580 0.12 0.51 0.02 0.20 0.59 2.69 0.19 1.98 0.06 0.00 2.71 2.48 0.06 0.69 2.47 0.31 2.50 0.32 0.17902610 0.66 0.35 0.41 0.10 0.19 0.51 0.22 0.60 0.04 0.22 1.70 0.55 1.26 2.12 1.99 0.83 1.83 1.84 0.19902620 0.76 0.52 0.12 0.41 0.12 1.41 0.10 2.44 0.03 0.00 1.64 0.48 2.35 2.61 1.03 0.48 1.43 1.04 0.46902680 0.60 0.24 0.03 0.20 0.07 0.80 0.11 0.81 0.00 0.00 1.81 0.55 1.01 2.65 1.19 1.00 2.30 0.35 0.53902690 1.79 0.76 0.27 0.40 0.42 1.27 0.23 0.47 0.00 1.56 2.16 0.34 1.82 1.35 1.00 0.91 1.09 0.65 0.20902710 0.66 0.22 0.48 0.04 0.62 0.30 0.61 0.03 0.01 0.00 2.02 0.88 0.44 3.57 0.86 0.51 2.07 0.25 0.10902720 1.23 0.36 0.07 0.00 5.35 3.61 0.01 0.01 0.08 0.00 2.27 0.42 0.01 1.07 0.71 0.22 0.52 1.01 0.04902730 0.65 0.23 0.12 0.05 0.79 2.41 0.04 0.54 0.09 0.00 2.03 0.57 0.15 2.46 1.06 0.19 1.94 0.57 0.07902750 1.19 0.08 0.15 0.08 0.48 2.22 0.06 0.14 0.35 0.10 3.07 0.79 0.05 2.31 0.81 0.30 1.00 0.82 0.16902780 2.31 0.37 0.67 0.56 1.81 2.05 0.09 0.12 0.11 0.01 2.01 0.56 0.12 1.75 1.02 0.52 0.85 0.66 0.25902790 3.61 0.26 0.47 0.09 0.42 2.49 0.04 0.37 0.17 0.01 1.64 0.43 0.29 1.53 0.78 0.39 0.95 1.23 0.17903149 1.66 0.27 2.09 1.61 0.97 0.73 0.14 0.21 0.43 0.01 1.04 1.56 0.77 2.87 0.97 0.52 1.38 0.32 0.08903180 2.10 0.54 1.21 0.40 0.51 0.58 0.41 0.46 0.01 1.94 1.28 0.72 0.36 2.54 0.70 1.10 0.81 0.30 0.65903190 1.69 0.38 0.86 0.35 1.22 1.57 0.26 2.29 0.04 1.64 1.32 0.62 0.56 1.77 1.00 0.93 1.55 0.72 0.21903289 2.96 0.54 0.78 0.19 0.14 0.64 0.86 0.94 0.04 0.89 1.30 0.69 2.51 1.31 1.14 0.30 0.72 0.19 0.74903290 7.29 0.58 0.36 0.13 0.72 0.91 0.81 3.63 0.00 1.81 0.68 0.29 1.16 0.91 0.79 0.60 0.65 0.23 0.14903300 0.70 0.79 0.39 1.02 2.35 4.08 4.65 0.45 0.00 0.38 1.23 0.24 0.28 0.83 0.79 0.81 1.17 0.79 0.18

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表4には、2013 年のデータにより計測した APEC とヨーロッパの主要国の顕示比較優位

指数(RCA)が示されている。ここで計測された各国における RCA の値を見ると、1より大

きい比較優位財、1より小さい比較劣位財が明らかとなるが、中には台湾の HS90139 を最

大として非常に大きな値を示すケースも見られ、これは当該国・地域の当該物品について

の輸出が世界輸出の中で飛び抜けて大きな割合であることを示している。

表5には、各国での比較優位とみなされる(1を超える RCA を示す)品目数がまとめら

れている。これによると、合計では、ドイツの 40、米国の 35、日本の 32、イタリアの 29

が他の国々より圧倒的に多くなっており、シンガポールの 19、イギリスの 17、フランスと

韓国の 16、中国の 12、スペインの 11、香港の 10 がこれに続いている。類別に見ると、HS84

類ではイタリアの 21、ドイツの 18、米国の 13、日本の 12、韓国の 10、中国の 8、スペイ

ンの 7、フランスの 6、シンガポールとインドネシアの 5 が上位であり、HS85 類ではドイ

ツと日本の 8、米国とイタリアの 6、HS90 類では米国の 16、ドイツの 14、日本の 12、イ

ギリスの 11、シンガポールの 10、フランスの 9、香港とメキシコの 6 が上位国となってい

る。この結果から、ヨーロッパ諸国や米国、日本といった先進工業国で、HS90 類のハイテ

ク財を多く含む比較優位財が存在しているのに対し、韓国と中国では HS84 類の比較優位

財を多くなっている。シンガポールと香港ではハイテク財の HS90 類でも多くの比較優位

財が存在している。一方、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンといった ASEAN

諸国では 7~8 品目程度の比較優位財を有している。メキシコについては 9 つの比較優位財

のうち 6 品目が HS90 類のハイテク環境物品であり、その内容を見ると圧力計測と熱計測

の環境機器とその部分品、自動調節機器とその部分品となっており、特定品目生産目的の

直接投資受入により比較優位を有しているとみられる。

次に、東南アジア地域に注目して、各国の環境物品についての比較優位と国際的フラグ

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メンテーションによるサプライチェーンの重要性について調べる。表6には、東南アジア

諸国の比較優位財が部品であるのか完成品であるのかを示している。RCA が1を超える財

が部品の場合と、部品とパッケージで比較優位をもっている最終財の場合については、RCA

値が斜体で示されている。ほとんどのケースでこれに該当しており、APEC 環境物品にお

いてこれらの東南アジア諸国で部品貿易を通じたフラグメンテーションが実現しているこ

とが示唆される。例外品目は、シンガポール、タイ、インドネシアの発電関連機器(HS850239)、

シンガポール、マレーシア、フィリピンの太陽光パネル・セル(HS854140)、インドネシア

の乾燥機(HS841939)、リサイクル用選別破砕機(HS847420)、シンガポールとマレーシアの

土地・水路・海洋等の測量用環境計測機器(HS901580)の 5 品目のみとなっている。

表6 東南アジア諸国の顕示比較優位指数と部品の重要性

HS番号 部品の品目 シンガポール タイ マレーシア インドネシアフィリピン

840290 部品840410840420 7.69840490 部品 1.78 2.49840690 部品 1.06841182 1.23841199 部品 1.13841290 部品 2.39841780841790 部品841919841939 1.32841960841989841990 部品842121842129842139 1.18842199 部品 1.5847420 1.04847982847989847990 部品 3.3 1.33 10.20850164850231850239 1.09 1.48 1.41850300 部品850490 部品 3.04851410851420 1.03851430 5.84851490 部品 1.01 2.13854140 1.03 3.94 5.35854390 部品 7.74 4.71 1.2901380901390 部品 1.72901580 2.69 1.98902610902620 1.41 2.44902680902690 部品 1.27 1.56902710902720 3.61902730 2.41902750 2.22902780 2.05902790 部品 2.49903149903180 1.94903190 部品 1.57 2.29 1.64903289903290 部品 3.63 1.81903300 部品 4.08 4.65

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3.分析モデル

以上で述べたように、本研究では APEC で合意された機械機器類の環境物品 53 品目に注

目してその決定因を分析することを目的としており、分析手法としてグラヴィティ・モデ

ルを用いている。グラヴィティ・モデルは多くの分析で用いられ当てはまりのよい結果が

示されてきており、その理論的基礎に関してもこれまでにさまざまな仮定のもとでモデル

化されてきた。以下では、そうしたグラヴィティ・モデルに関してこれまでに発表されて

きた理論と実証分析について考察し、その中から本分析に適するモデルを取り上げて本分

析の推定式特定化を行っていきたい。

3.1 本分析で用いるグラヴィティ・モデルの理論

国際貿易におけるグラヴィティ・モデルは、先駆的研究である Tinbergen(1962)、

Poyhonen(1963)、Linnemann(1966)に示されるように、二国間貿易が二国の GDP と二国

間の距離に依存して決定されることを主張する。Helpman(1987) では、グラヴィティ・モ

デルの理論的基礎について独占的競争モデルを用いて構築し、国毎での異なる差別化バラ

エティへの完全特化生産、国際的に同一でホモセティックな選好、輸入国の GDP シェアに

比例した輸入量の決定、価格の国際間での同一性等の仮定のもとで、国の経済的大きさの

類似性を示す Size Dispersion Index(SDI)と正の相関関係において貿易額の対 GDP 比が

決定されることを明らかにしている。こうした国毎の製品差別化に基づく水平的産業内貿

易のもとでのグラヴィティ・モデルは、Debare(2005)における詳細な実証分析結果で示さ

れるように、先進工業国間の貿易の説明に適しており、非 OECD 諸国を含めた貿易の説明

に用いることができない。そこで、より一般的なグラヴィティ・モデル分析のためのさま

ざまな理論が登場することとなった。

グラヴィティ・モデルに関税やさまざまな貿易障壁による輸送費用の効果を導入すると、

価格が国際的に同一であるという仮定をはずすこととなる。CES 型の効用関数を導入し予

算制約のもとでの効用最大化により導出されたグラヴィティ・モデルに基づき、Baier and

Bergstrand(2001)では、両国の GDP、両国の相対的経済力、GDP デフレータを用いた各

国の価格、関税率、輸送費を導入した推定式により計測を行っている。 さらに、Anderson

and van Wincoop(2003)では、輸送費用が対称的であると仮定し市場均衡条件を導入し、二

国間貿易が両国の GDP((2)式におけるijGln )と、multilateral resistance 項と呼ばれる

輸送費用に依存する両国のインプリシットな価格指数iP、

jP、両国間の距離

ijDln 、その

他の決定因ijMln よって決定されることを理論的に導いている。これらの変数を用いて対数

線形に特定化した場合のグラヴィティ推定式は(2)式で示される。被説明変数の二国間貿易

はijT 、A はスカラー、σは CES 型の効用関数における代替の弾力性を示す。

ijijjiijij MPPDGATij

3

1

2

1

121 )ln()ln(lnlnlnln

・・・(2)

multilateral resistance 項は正確に観測されない変数であり、その対数値はモデルにおいて

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他の変数との間で非線形関係を有し最小二乗法では計測できないことから、

Feenstra(2004)で示されているように、各国固有の固定効果を用いて推定することが解決

策として有効であるとされる。現在では、iP、

jPの効果について、貿易費用が対称的であ

ると仮定して二国間固有のさまざまな固定効果としての multi resistance 項を導入するこ

とにより、さまざまな分析が多く行われている。例えば、Mohlmann et al.(2010)では、こ

うした固定効果として、二国間での文化の異なりに加え、知的財産保護や契約執行状況な

どの制度的環境を導入している。近年では地理的距離に加えて、国境隣接、共通言語、旧

植民地関係などを二国間固有要素として取り入れる分析が多く見られる。

以上の議論は、CES 型の効用関数に基づくグラヴィティ・モデルに基礎をおくものであ

るため最終財の貿易分析に適用できる。Baldwin and Taglioni(2011)では、部品・構成品の

貿易が増加し、こうした貿易の総貿易に占める重要性が増している状況においては、最終

財貿易を説明する効用関数に基づく消費者需要の理論に加えて、部品・構成品需要の理論

も同時に考慮すべきとして理論的・実証的分析を行っている。理論的基礎としては、

Krugman and Venables(1999)に基づき、労働に加えて差別化財の各バラエティの CES型

構成財を投入するセクターを考慮し、最終財需要としての各バラエティの CES 集計と中間

財需要としての各バラエティの CES集計が導出され、これらを用いて構築された中間財貿

易を考慮したグラヴィティ・モデルにおいて、経済規模変数として GDP に加えて総費用が

明示的に導入されている。Baldwin and Taglioni(2011)における実証分析では、所得に依存

する最終財需要に基づく通常のグラヴィティ・モデルでの説明変数に加え、総費用によっ

て変動する中間財需要も同時に考慮した説明変数が必要になり、そこでは総輸入に占める

中間財輸入比率が代理変数として導入されており、この変数について有意に期待通りの正

の推定値が得られている。

こうした研究を参考にして、本研究では環境物品貿易における地域効果に加えて国際的

フラグメンテーション効果を明らかにするための実証分析モデル構築を行う。国際的フラ

グメンテーションの効果を分析するため、Baldwin and Taglioni(2011)での実証分析で導入

する中間財に相当する財グループとして部品・構成品に着目しており、経済規模変数とし

て GDP に加えて総費用の代理変数としての全貿易に占める部品貿易比率を用いる。以下で

は本研究で推定するグラヴィティ・モデル、導入される変数について説明していきたい。

3.2 本分析の推定モデル

本研究におけるグラヴィティ・モデル分析の目的は、APEC 環境物品の APEC 地域内で

の貿易拡大効果とフラグメンテーションの効果について明らかにすることであるが、本分

析の具体的特徴として、次の5点を挙げることができる。まず第1に、APEC 環境物品は

すでに述べたように一品目を除いて機械機器類(HS84 類)、電気機器類(HS85 類)、精密機

器類(HS90 類)に属し、いずれも高度な生産技術を要する財であるものの、2 節で述べたよ

うに3つの類で生産技術水準に差があり、特に HS90 類においてほとんどがハイテク製品

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となっている。したがって、グラヴィティ・モデルを3つの類に分けて分析することによ

って環境物品貿易の財グループ毎の特徴を明らかにすることができる。

第2に、APEC で合意された環境物品の貿易は、APEC 内でどのような地域特性を示す

のかについて分析する。同時に NAFTA、EU 内の環境物品貿易の広がりについてダミー変

数を用いて調べる。さらに、日本=ASEAN 経済連携協定の環境物品貿易効果についてもダ

ミー変数を用いて計測し、APEC 内貿易との地域性に関する異なりを明らかにする。日本

=ASEAN 経済連携協定のダミー変数を導入するのは、「ASEAN+1」としての日本を中心

としたサプライチェーン網に基づく貿易拡大効果について分析するためである。第3に、

こうした地域特性に関して具体的に分析するために、生産の国際的フラグメンテーション

を通じた貿易拡大の効果を分析する。APEC 内で効率的生産のためのサプライチェーンを

通じた国際的フラグメンテーションが進んでいるのかについては、全体における部品貿易

の比率の大きさと貿易が正の関係を有するかどうかを調べることによって明らかにする。

多くの環境物品において比較優位をもつ日本を中心としたフラグメンテーション効果が日

本=ASEAN 経済連携協定を通じて貿易拡大を実現しているのかという点は興味深い。さら

には EU、NAFTA といった他の経済地域内での環境物品貿易とフラグメンテーションとの

関係性の有無についても分析する。

第4番目の特徴は、時点効果(time effect)の導入である。本分析では、2009 年から 2012

年までの4年間のデータを用いて分析している。各年毎のクロスセクション分析と4年間

のデータを同時に用いるパネル分析を行っているが、時点毎の分析では得られた結果を比

較するより時間効果を明らかにすることができ、パネル分析では品目群全体の特徴を明ら

かにすることができる。特に時点間で効果に差が出ると考えられる変数は、両国の GDP、

両国の1人当たり GDP、部品貿易比率の効果である。両国の1人当たり GDP については、

両国での差を要素賦存の異なりの代理変数とする分析もあるが、本研究においては対象品

目が高度な生産技術を要する環境物品であることから、両国の1人当たり GDP の増加に伴

って貿易増加が起こる効果として導入し、後で述べるように符号条件は正である。第5点

目の特徴は、時間を通じて一定の国の特徴の効果(time fixed countries’ effect)を調べる

ことである。両国の時間を通じた固有効果として、二国間の距離に加え、二国間での共通

国境、共通言語を導入して推定を行った。共通言語の導入によって共通文化の効果もある

程度取り入れることができ、こうした文化の違いは貿易費用の一つとして作用すると考え

られる。

推定式設定に当たっては、本分析モデルと同様の目的をもつ分析を参考にしている。地

域貿易ブロックの効果を分析するグラヴィティ・モデル分析である Frankel(1997)における

基本的推定式、貿易総額に加えて個別財貿易のグラヴィティ・モデル分析を行う Mohlmann

et al.(2010)の推定式、さらには中間財貿易も考慮した Baldwin and Taglioni(2011)の推定

式での中間財貿易比率の導入を参考にして、次のような推定式を用いている。

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)()ln()ln()ln()ln( 4321 ijijjtitjtitkjt ADJDistGDPPCGDPPCGDPGDPT

ijtijtRPDJASNDEURDAPECDCL )()()()()( 43215

・・・(3)

)(')ln(')ln(')ln(')ln( 4321 ijijjtitjtitijt ADJDistGDPPCGDPPCGDPGDPT

ijtijtijtijt RPDJASNRPDEURRPDAPECDCL )(')(')(')(' 3215

・・・(4)

符号条件:

01 , 02 , 03 , 04 , 05 , 0'1 , 0'2 , 0'3 , 0'4 , 0'5 ,

01 , 02 , 03 , 04 , 0'1 , 0'2 , 0'3

被説明変数としては、43 か国についての二国間での相互貿易額(両国の輸出額合計)の

対数値がとられており、説明変数として、経済規模変数と距離変数については、両国(i 国

と j 国)の GDP の積の対数、両国(i 国と j 国)の 1 人当たり(GDPPC)の積の対数、両

国(i 国と j 国)の距離(Dist)の対数が導入されており、符号条件は上記の通りで、距離の

み負の係数が期待される。時間を通じて一定の二国間での固定効果として、両国(i 国と j

国)の国境隣接(ADJ)に関するダミー変数(共通国境がある場合は1、その他は 0)、両

国(i 国と j 国)の共通言語(DCL)に関するダミー変数(公用言語が共通の場合は1、その

他は 0)が用いられ、いずれも正の係数が期待される。地域に関するダミー変数は、(3)式

では APEC、EU、日本アセアン経済連携協定(JASN)のダミー変数が導入されそれぞれの

地域に属する国同士の貿易の場合に1、その他の場合に 0 が適用される。ただしここでは、

EU としては 1995 年の第4次拡大までの 15 か国に限定し EUR としている。それぞれの地

域ダミー変数には、DAPEC、DEUR、DJASN という変数名を付けている。

さらに(3)式では説明変数のひとつとして RPij という変数が導入されているが、これは二

国間での部品(parts and components)貿易の全貿易に占める比率である。これについて

は部品貿易が大きい二国間で生産における国際的フラグメンテーションが実現されて総貿

易が大きくなると期待され、符号条件は正である。(4)式では、RP 変数をそのまま用いるの

ではなく、それぞれの地域のダミー変数(DAPEC、DEUR、DJASN)と部品貿易比率(RP)

の積が導入され、部品貿易比率の大きさが地域ダミー変数に反映され、それぞれの地域に

おいて部品貿易比率が貿易に与える効果が分析される。

推定に当たっては、2 種類の分析を行っている。まず、各 HS 類グループについて 2009

年から 2012 年までの各年についての OLS による推定を行い、各年における財グループ毎

の特徴を明らかにする。次に、パネルデータを用いた推定を行い、推定手法としてパネル

OLS と、変量個別効果(クロスセクション・ランダム効果)の分析を行う。変量個別効果

モデルを選択するのは、時点間不変な二国間の距離データを用いるためである。その場合

の推定式は(5)式と(6)式で示され、ここでは、ijtijijt eu のように、誤差項が通常の誤

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差項ijte (idiosyncratic random)と変量個別効果(cross-section random)

iju に分解される。

)()ln()ln()ln()ln( 4321 ADJDistGDPPCGDPPCGDPGDPT ijjtitjtitijt

ijtijijt euRPDJASNDEURDAPECDCL )()()()()( 43215

・・・(5)

)(')ln(')ln(')ln(')ln( 4321 ADJDistGDPCGDPCGDPGDPT ijjtitjtitijt

ijtijtijtijtijt euRPDJASNRPDEURRPDAPECDCL )(')(')(')(' 3215

・・・(6)

4.分析に用いるデータについて

推定に当たっては、多くのハイテク財を含む生産技術水準の高い環境物品貿易を対象に

していること、また環境物品として APEC 内での貿易自由化が合意されている環境物品 53

品目を対象としていることから、環境物品貿易額が少ないブルネイ、パプアニューギニア、

ペルー、ロシアを除く APEC 諸国とヨーロッパ諸国、それに環境物品生産が増加している

インド、ブラジル、南アフリカ共和国、トルコといった新興国を含めた 43 か国を対象とし、

その二国間貿易を被説明変数としている。ただし、貿易額がゼロの場合の二国間貿易は含

めない。43 か国の国名は表7に示される。

貿易データとしては、Global Trade Information Services による各国政府公式発表の通

関貿易統計(Global Trade Atlas オンラインデータ)を利用し、GDP、1人当たり GDP は

表7 分析対象国・地域APEC EU  その他オーストラリア オーストリア ブラジルカナダ ベルギー インドチリ ブルガリア 南アフリカ中国 クロアチア スイス香港 チェコ共和国 トルコインドネシア デンマーク日本 エストニア韓国 フィンランドマレーシア フランスメキシコ ドイツニュージーランドギリシャフィリピン ハンガリーシンガポール アイルランド台湾 イタリアタイ オランダ米国 ポーランドベトナム ポルトガル

ルーマニアスペインスウェーデンイギリス

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the World Bank によるWorld Development Indicators のオンラインデータを用いている。

二国間の距離、共通国境、共通言語については、CEPII(centre d’etudes prospectives et

d’informations internationals)のウェッブサイトのデータを使用し、二国間距離として各国

首都間の地理的な距離データ(㎞表示)を用いている。

使用データの記述統計に関して、表 8 には二国間貿易額(相互輸出額)の対数値と部品

貿易比率、表 9 には、二国の GDP の積の対数値、二国の1人当たり GDP の対数値、二国

間距離の対数値について示されている。

表 8において、国際的フラグメンテーション生産を反映した部品貿易比率に注目すると、

表8 記述統計

HS84類 ln(Tij)(貿易総額)  RP( 部品貿易比率)2009年 2010年 2011年 2012年 2009年 2010年 2011年 2012年

平均 9.421 9.406 9.731 9.710 0.469 0.445 0.454 0.437中央値 9.766 9.707 10.026 9.968 0.447 0.428 0.429 0.415最大値 15.353 15.457 15.623 15.687 1.000 1.000 1.000 1.000最小値 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000標準偏差 2.678 2.674 2.544 2.577 0.253 0.245 0.246 0.237観測数 887 893 887 892 887 893 887 892

HS85類 ln(Tij)(貿易総額)  RP( 部品貿易比率)2009年 2010年 2011年 2012年 2009年 2010年 2011年 2012年

平均 8.646 8.990 9.129 9.146 0.606 0.556 0.550 0.546中央値 9.029 9.270 9.430 9.367 0.658 0.596 0.573 0.575最大値 15.412 16.892 15.786 15.338 1.000 1.000 1.000 1.000最小値 0.000 0.000 0.000 0.000 0.012 0.000 0.000 0.000標準偏差 2.910 2.900 2.814 2.689 0.319 0.341 0.335 0.323観測数 850 874 871 858 850 874 871 858

HS90類 ln(Tij)(貿易総額)  RP( 部品貿易比率)2009年 2010年 2011年 2012年 2009年 2010年 2011年 2012年

平均 9.190 9.150 9.241 9.336 0.326 0.251 0.305 0.249中央値 9.430 9.512 9.454 9.597 0.265 0.220 0.247 0.216最大値 16.487 16.853 16.968 16.984 1.000 1.000 1.000 1.000最小値 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000標準偏差 2.673 2.868 2.859 2.760 0.247 0.184 0.245 0.186観測数 858 887 895 896 858 887 895 896

表9 記述統計

ln(GDPiGDPj)  ln(GDPPCiGDPPCj)  ln(DISTij)2009年 2010年 2011年 2012年 2009年 2010年 2011年 2012年

平均 46.870 47.027 47.217 47.171 12.550 12.677 12.890 19.734 8.490中央値 46.770 46.990 47.187 47.161 12.738 12.879 13.078 19.917 8.984最大値 52.639 52.803 53.053 53.214 15.124 15.198 15.458 22.391 11.881最小値 41.387 41.341 41.617 41.556 7.254 7.460 7.678 14.681 4.394標準偏差 1.818 1.855 1.858 1.873 1.491 1.439 1.412 1.400 1.065観測数 887 893 882 896 887 893 882 896 896

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HS84 類、HS85 類、HS90 類でかなり異なっていることがわかる。平均値で見ると、HS84

類では 2009 年の 0.469、2010 年の 0.445、2011 年の 0.454、2012 年の 0.437 となってお

り、HS85 類では 2009 年の 0.606、2010 年の 0.556、2011 年の 0.550、2012 年の 0.546

である。これに対して HS90 類では 2009 年の 0.326、2010 年の 0.251、2011 年の 0.305、

2012 年の 0.249 と小さい。最も高いのが 50%を超える比率を示す電気機器類であり、Ando

and Kimura(2013)等で提示される電気機器類でのフラグメンテーションの進展の事実は、

環境物品においても見られることを示している。一方で、HS90 類では、部品貿易比率が小

さく完成品貿易が 70%以上占めており、フラグメンテーションに基づく部品貿易は盛んで

はない。いずれの類でも、2009 年に最も高い値を示しており、その後徐々に低下傾向を示

している。

5.推定結果

本節では、HS84 類、HS85 類、HS90 類別のグラヴィティ・モデル分析結果をみていき

たい。5.1 では 2009 年から 2012 年までの年別での OLS によるクロスセクション推定の結

果を示し、5.2 では 4 年間のデータを用いた類別パネル分析の結果を示す。クロスセクショ

ン分析、パネル分析のいずれも、さまざまな変数の組合せを用いて推計を行ったが、表を

作成するに当たり非常に有意性の低い変数については除外しており、特に NAFTA ダミー

変数と国境隣接ダミー変数についてはどのケースでも有意性が非常に低かったためすべて

のケースの推計結果で示していない。

5.1 クロスセクション分析結果

表 10 には HS84 類、表 11 には HS85 類、表 12 には HS90 類に属する APEC 環境物品

貿易額の集計値を対象とした OLS 推計結果が示されている。いずれも、従属変数は 43 か

国を対象とする二国間貿易額 ln(Tij)であり、説明変数として、両国の GDP の積の対数

(lnGDPij)、両国の1人当たりGDPの積の対数 ln(GDPPCij)、両国間の距離の対数 ln(DISTij)、

共通言語ダミー変数(DCL)に加え、3 節で示した(3)式の特定化による推定式①では、地

域ダミー変数(二国がその地域に属す場合は1、その他は 0)として APEC ダミー変数

(DAPEC)、第 4 次 EU 拡大までの 15 か国のダミー変数(DEUR)、日本アセアン FTA ダ

ミー変数(DJASN)4が導入され、さらに部品貿易比率(RPij)が用いられる。それに対して 3

節で示した(4)式の特定化による推定式②では、各地域ダミー変数に部品貿易比率(RPij)

を掛け合わせた変数(DAPEC*RP、DEUR*RP、DJASN*RP)を導入している。各推

4 3 節 3.2 で述べたように、正式名称は「日本 ASEAN 経済連携協定」で 2008 年 12 月 1

日に発効している。本分析で対象とされる加盟国は日本、シンガポール、タイ、マレーシ

ア、フィリピン、インドネシア、ベトナムであり、本稿の分析結果では、「日本アセアン FTA」

と記している。

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定値の上付き記号、***は 1%水準で統計的有意、**は 5%水準で統計的有意、*は 10%水準

で統計的有意となっていることを示す。

表 10、表 11、表 12 を比較すると、一般機械類、電気機器類、精密機器類、それぞれに

属する環境物品の貿易の特徴が明らかとなる。一方、それぞれの表において、2009 年、2010

年、2011 年、2012 年の推定結果を比較すると、この4年間の推移が明らかになる。以下で

説明変数毎にこうした比較を行い、環境物品貿易の特徴を明らかにしていきたい。

計測された自由度調整済決定係数については HS84 類と HS90類で 0.67~0.68 程度であ

り、同様の説明変数を用いている Frankel(1997)、Molmann(2010)の分析結果と比較して

妥当な結果と考えられる。しかしながら、HS85 類では 2009 年の推定式①の 0.620 を除き

0.505~0.589 の間の値が得られ他の類と比較して決定力が低くなっている。

5.1.1 GDP、1 人当たり GDP の効果

まず、二国の GDP の積の対数値(lnGDPij)の係数は、どの類でも t値が非常に高く、1%

の有意水準で4年間を通じて大きな変動のない安定した結果が得られている。二国の 1 人

当たり GDP の積の対数値 (lnGDPPCij) の係数は、t 値が GDP ほど高くないものの 1%有

意となっており、これも 4 年間で大きな変動はない。推定式①における最近時点の 2012 年

の係数を見ると、HS84 類では GDP 項で 1.043、1 人当たり GDP 項で 0.225、HS85 類で

は GDP 項で 0.998、1 人当たり GDP 項で 0.172、HS90 類では GDP 項で 1.040、1 人当た

り GDP 項で 0.377 となっており、GDP 項の係数はどの類でも 1 前後の値であり 10%の

GDP の積の増加に対して 10%程度の貿易増加が起こると推定されているのに対し、1 人当

たりGDP項の係数はかなり小さく、10%の1人当たりGDPの積の増加に対して1.7~3.8%

程度の貿易増加となることが示されている。

クロスセクション分析では 1 人当たり GDP 項の係数は HS2 桁分類別でかなり差がある

ことが明らかとなり、HS85 類で 0.2 未満の値となっている一方で、HS90 類では他の類に

比べて係数、統計的有意性ともに高くなっており、2009 年と 2011 年の推定式①ではそれ

ぞれ 0.427、0.452 と大きく計測されている。この結果について、HS90 類で部品貿易比率

が低くなっているという前節で示した事実と照らし合わせると、技術集約的なハイテク環

境計測用精密機器の最終財が中心となっている HS90 類環境物品貿易については、1 人当た

り GDP が大きい国の間で盛んに行われていたという事実が浮かび上がる。ただし最近時点

の 2012 年にはこうした財の普及もあり 1 人当たり GDP の貿易に対する効果の低下が見ら

れる。HS84、HS85 類では二国の 1 人当たり GDP の積が大きいほど貿易額が大きくなる

ものの係数は 0.15~0.22 程度である。前節でみた部品貿易比率の最も大きな HS85 類にお

いて三類中で最も小さな係数が推定されており、二国の1人当たり GDP の大きさに伴って

貿易は増加するものの増加スピードは小さいことが示されている。

本研究と同様に両国の GDP の積の対数、両国の 1 人当たり GDP の積の対数を説明変数

として用いている先行研究の推定結果を見ると、2000 年までの貿易総額の対数値を被説明

変数とした Molmann et al.(2010)の分析では GDP の積の対数の係数は 0.83、1 人当たり

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GDP の積の対数の係数は 0.57 であり、1992 年の貿易総額の対数を被説明変数とした

Frankel(1997)では、GNP の積の対数の係数が 0.930、1 人当たり GNP の積の対数の係数

が 0.128 であり、いずれも 1 人当たり GDP について GDP よりもかなり小さく計測されて

いる本分析の結果と整合的である。

5.1.2 二国間の距離、共通言語、国境隣接の効果

二国間の距離の対数については、いずれの類のいずれの年についても非常に高い有意性

を持って符号条件を満たし、-1程度の係数が計測されている。ここでも産業間での係数

の異なりが明らかである。HS84類では常に-1弱程度の大きさの係数が得られ、2012年に

は推定式①で-0.997、推定式②で-0.991である。それに対して、HS85類では係数の絶対

値が常に1より大きく、特に最近時点の2012年では推定式①で-1.115、推定式②で-1.133

と距離の効果が増大している。本研究の分析対象であるHS85類環境物品に属する電気機器

類貿易では前節で見たように部品貿易が55%程度占めている。一般的に電気機器類の部

品・中間財では重量・体積当たりの価値が高く5、したがって輸送費用が低く二国間距離の

効果が小さいと考えられるが、本分析で対象としている環境物品に注目した電気機器類の

計測結果からは、電気機器類の貿易に対する距離の効果は一般機器、精密機器よりも大き

く、10%距離が遠い国では平均で11%の貿易低下がもたらされ、距離の近い国々との貿易

が盛んであることが示されている。HS90類では、2009年には距離の効果が3類中最も小さ

く-0.86程度であったがその後増加に転じ、2012年ではHS84類とほぼ同程度の係数となっ

ている。

国境隣接(ADJ)ダミー変数の効果はどのHS分類でも統計的有意性を示さない一方で6、共

通言語ダミー変数(DCL)の係数についてはHS分類間で異なった結果となっている。HS90

類でいずれの年においても推定式①、推定式②の両方で1%有意に計測されている。係数の

大きさは2009年の推定式①で0.797、推定式②で0.845であったのに対して、2012年には推

定式①で0.561、推定式②で0.643と低下しているものの、同じ言語の国同士の貿易の効果

は明白である。共通言語ダミー変数はHS85類では2009年には1%の有意水準で0.687(推定

式①)、0.712(推定式②)程度の係数が推定されたが、その後は有意水準、係数値ともに

低下し、2012年には10%の有意水準で0.429(推定式①)、0.437(推定式②)という係数が得

られている。共通言語ダミー変数の効果はHS84類環境物品では有意には計測されておらず、

ハイテク財を多く含むHS90類環境物品で最も大きな効果を持ち、HS90類での効果は他の

説明変数を一定とした場合に、2012年の推定式①で75%程度の貿易増大、推定式②で86%

程度の貿易増大である一方、HS85類では2012年に推定式①、②ともに54%程度の貿易増大

となっている7。

5 例えば、Ando and Kimura(2013)では、輸送用機器類と電気機器類の貿易の比較におい

てこうした事実を明らかにしている。 6 共通国境の効果は有意性が非常に低いので、表にはこの効果に関しては掲載していない。 7 この効果については Frankel(1997)、Feenstra(2004)を参照し、exp(0.561)=1.752、

exp(0.622)=1.863、exp(0.429)=1.536 と算出している。

Page 19: APEC...APEC で合意された環境物品54 品目は1品目を除き、機械機器類であるHS84、85、90 分類に属し、先進国が国際競争力をもつ品目が多く含まれるが、その一方で近年、新興国

19

5.1.3 部品貿易比率、地域ダミー変数

部品貿易比率(RPij)の係数については、表10のHS84類では年毎でかなり異なっており、

2009 年には1%の統計的有意水準で 0.942、2010 年には1%の統計的有意水準で 0.355 と

いう正の値が計測され、HS84 類の APEC 環境物品においては生産の国際的フラグメンテ

ーションにより部品貿易比率の大きい二国間貿易が貿易全体を牽引していたという予想通

りの結果が示されている。しかしその後 2011 年にはこの関係性が見られず、2012 年には

0.320 という 2010 年と同程度の係数が導出されたが統計的有意性を満たしていない。表 11

の HS85 類では、部品貿易比率(RPij)の係数に関しては 1%有意水準でマイナスとなり符

号条件を満たさず係数値は-1.477~-1.974 と高い値が計測され、対象国全体としては完

成品の貿易比率が高い国の間で貿易が大きくなるという結果となっている。表 12 で HS90

類の計測結果を見ると、部品貿易比率の係数は 2009 年では 5%有意で 0.555 という正の値

が計測され、部品貿易が大きい二国間ほど全貿易が大きく、フラグメンテーションの広が

りによる貿易拡大効果が示されたが、2010 年、11 年とマイナスの符号となり、2012 年に

は正の推定値が計測されたが有意ではない。

HS84 類の推定結果における地域ダミー変数の係数については、推定式①において、各年

とも APEC ダミー、日本アセアン FTA ダミーは 1%有意で正の値が計測され、APEC、日

本アセアン FTA のメンバー国において環境物品貿易が盛んになっていることが明らかであ

る。推定された係数値を見ると、日本アセアン FTA において APEC をかなり上回り、2012

年にはAPECダミーについては0.366、日本アセアンFTAについては1.789となっており、

他の説明変数を一定とした場合に、APEC 諸国間の貿易は他の二国間より 44%貿易額が大

きく、日本アセアン FTA メンバー国間では他の国々の 6 倍程度の貿易が行われていること

を示唆している8。表 11 における HS85 類の結果でも同様に、推定式①で APEC ダミー変

数、JASNダミー変数とも1%有意でプラスの値となっており、JASNダミーの係数がAPEC

ダミーの係数の 2 倍から 3 倍程度の大きさを示す。最近の 2012 年には APEC ダミー変数

の係数は 0.575、JASN ダミー変数の係数は 1.490 となっており、他の説明変数を一定とす

ると、APEC 諸国間では 77%他の国同士よりも貿易が多く、日本アセアン FTA では他の

国同士の 4.44 倍の貿易が行われていることが示され、HS84 類とほぼ同様の結果を示す。

HS84 類、HS85 類ともに日本アセアン FTA のメンバー国の間の貿易が非常に活発に行わ

れていると同時に APEC メンバー国間貿易の高さも有意性をもって実証されている。HS90

類の推定式①に関しても、APEC ダミー、JASN ダミーともに有意に正の推定値が得られ

ているが、HS90 類では HS84 類、85 類に比べて APEC ダミー変数の係数値が大きく、2012

年には APEC ダミー変数の係数が 0.887、日本アセアン FTA ダミー変数の係数が 1.334 で

あり、他の説明変数を一定とした場合には、APEC 諸国間の貿易が他の国同士の 2.43 倍、

日本アセアン FTA メンバー間貿易が 3.80 倍であり、両ダミー変数の効果の差が他の類よ

8ダミー変数の効果について、APEC については exp(0.366)=1.442、日本アセアン FTA に

ついては exp(1.789)=5.983 と算出している。

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20

りもかなり小さくなっており、他の類より APEC 間の貿易が盛んであることが示される。

EUR ダミー変数に関しては、どの類でも各年ともに 1%の有意水準でマイナスの値が計測

され、部品貿易比率が低く完成品貿易比率の高い二国が貿易全体を牽引するという結果と

なっている。

一方の推定式②の結果では、類毎の差がかなり明確となっている。HS84 類では DAPEC

*RP、DJASN*RP が有意に計測され、前者の係数が 0.79~1.56 であるのに対し後者の係

数が 2 を超えており、ASEAN プラス1(日本)の間で部品貿易比率の高まりが貿易を高め

ていることが明らかにされた。HS85 類では、いずれの年においても部品貿易比率と日本ア

セアンFTAダミー変数の積が 1.8~2.2程度と統計的有意をもって大きなプラスの係数値で

計測され、HS84 類と同様に日本アセアン FTA 加盟国の間ではフラグメンテーションによ

り部品貿易が盛んなほど貿易が大きくなることが検証されている一方で、部品貿易比率と

APECダミー変数の積の変数については 2011 年のみ 5%有意で係数値は 0.858 となってお

り、その他の年では符号条件を満たすものの統計的有意ではない。部品貿易比率が高い

HS85 類環境物品群ではあるが、フラグメンテーションによる APEC 内部品貿易比率の高

まりが APEC 内貿易を牽引するという効果は見られない。

これに対して HS90 類では、APEC ダミーに部品貿易比率を掛け合わせた変数(DAPEC

*RP)の係数が他の類に比べて有意に大きな値で計測されている。2009 年には DAPEC*

RP の係数が 2.756、日本アセアン FTA ダミーに部品貿易比率を掛け合わせた変数(DJASN

*RP)の係数が 3.168 であるが有意性は前者の方が高く、2010 年には係数値も逆転し

DAPEC*RP の係数値が 1%有意で 2.981、DJASN*RP の係数値が 5%有意で 2.233 であ

る。HS84、85 類とは逆に、最近時点の 2012 年では日本アセアン FTA と部品貿易比率を

掛け合わせた変数は有意性をもたない一方で、APEC ダミーと部品貿易比率の積の変数は

1%有意で 2.821 と計測されており、高度技術集約財グループであることを反映して APEC

内での国際的フラグメンテーション生産の貿易牽引効果が大きいことが明らかにされてい

る。

推定式②における EUR の係数については、HS85 類、HS90 類においてすべての年で 1%

の有意水準で負の値が計測され、特に HS90 類では 2010 年以降-2 を超える大きな係数が

示され、部品貿易比率が高いほど貿易が少ないという結果となっており、EU15 か国の間で

は部品ではなく完成品の環境物品貿易が貿易全体を牽引していることが示された。HS84 類

でも 2012 年には 1%の有意水準で-1.236 という係数が計測されている。

以上で得られた地域ダミー変数の係数について、同様の推定式で分析を行っている

Frankel(1997)における Table4-2 に掲載されている 1992 年のグラヴィティ・モデル計測結

果についてみてみると、本研究では HS 分類毎の環境物品を対象にし、Frankel(1997)では

総貿易を対象としているにもかかわらず、かなり類似した結果が得られている。

Frankel(1997)の Table4-2,Table4-3 では、定数項、二国の GNP の積の対数、二国の 1 人

当たり GNP の積の対数、二国間距離の対数、国境隣接ダミー、共通言語ダミーに加えて、

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各貿易ブロック・ダミー変数を導入して計測しており、ASEAN ブロック・ダミー変数の計

測結果は 5%の有意水準で 1.766 で他の二国の 6 倍の貿易を行っていることが示され、

APEC ダミー変数の係数は ASEAN より少し小さな 1.159(有意水準 5%)が計測され他の

二国の 3.3 倍の貿易となっていることが示されている。NAFTA ダミー変数については負の

符号で有意性をまったく示さないという本分析と同様の結果が示されており、これについ

て Frankel(1997)では、NAFTA 加盟国が三国のみであるためデータの不足が原因であると

している。さらに、EU 先行 15 か国のダミー変数についての推定結果も本分析と同様であ

り、1985 年を除くすべての年の分析で負の符号となっているが、これについて

Frankel(1997)では、「EU 間で非常に多額の貿易が行われているにも拘らずこのような結果

となるのは、EU 間の貿易が EU 二国間の経済規模、経済発展レベル、距離的な近さ、共通

言語の各説明変数によって説明し尽くされるためではないか」と結論付けている。

表10 推定結果 HS84類 2009年~2012年 (OLS推定)

2009年・推定式① 2009年・推定式② 2010年・推定式① 2010年・推定式②

説明変数 t値 t値 t値 t値

定数項 -36.854 *** -26.943 -36.169 *** -26.180 -34.455 *** -25.349 -34.210 *** -24.942

ln(GDPij ) 1.075 *** 36.980 1.074 *** 36.419 1.047 *** 35.593 1.050 *** 35.519

ln(GDPPCij ) 0.259 *** 6.720 0.233 *** 6.037 0.224 *** 5.571 0.209 *** 5.251

ln(DISTij ) -0.932 *** -17.114 -0.917 *** -16.824 -0.999 *** -17.982 -0.985 *** -17.853

DAPEC 0.581 *** 3.643 0.626 *** 3.835

DEUR -0.657 *** -3.304 -0.539 *** -2.670

DJASN 1.683 *** 4.574 1.652 *** 4.394

Rpij 0.942 *** 4.737 0.355 *** 2.577

DAPEC*Rpij 1.529 *** 4.695 1.488 *** 3.974

DEUR*Rpij -0.875 ** -2.207 -0.756 -1.868

DJASN*Rpij 2.407 *** 3.230 2.397 *** 3.305

DCL 0.262 1.475 0.231 1.286

自由度調整済決定係数R2 0.688 0.681 0.674 0.669

ダービン・ワトソン比 1.713 1.696 1.736 1.721観測数 887 887 895 895

2011年・推定式① 2011年・推定式② 2012年・推定式① 2012年・推定式②

説明変数 t値 t値 t値 t値

定数項 -33.790 *** -25.701 -33.918 *** -25.823 -35.712 *** -25.858 -35.597 *** -25.816

ln(GDPij ) 1.024 *** 36.877 1.030 *** 37.069 1.043 *** 37.599 1.046 *** 37.935

ln(GDPPCij ) 0.243 *** 6.323 0.219 *** 5.764 0.225 *** 5.866 0.218 *** 5.686

ln(DISTij ) -0.940 *** -17.881 -0.929 *** -17.838 -0.997 *** -18.893 -0.991 *** -19.038

DAPEC 0.454 *** 2.924 0.366 *** 2.368

DEUR -0.622 *** -3.258 -0.718 *** -3.770

DJASN 1.526 *** 4.286 1.789 *** 5.026

RPij -0.190 -0.964 0.320 1.572

DAPEC*RPij 0.788 ** 2.291 0.981 *** 2.981

DEUR*RPij -1.236 *** -3.345

DJASN*RPij 2.827 *** 3.997 2.756 *** 4.303

DCL 0.282 1.645 0.305 * 1.774 0.255 1.481 0.208 1.207

自由度調整済決定係数R2 0.681 0.678 0.688 0.687

ダービン・ワトソン比 1.683 1.667 1.628 1.616観測数 888 888 893 893

ln(Tij )2009 ln(Tij )2009 ln(Tij )2010 ln(Tij )2010

ln(Tij )2011 ln(Tij )2011 ln(Tij )2012 ln(Tij )2012

Page 22: APEC...APEC で合意された環境物品54 品目は1品目を除き、機械機器類であるHS84、85、90 分類に属し、先進国が国際競争力をもつ品目が多く含まれるが、その一方で近年、新興国

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表11 推定結果 HS85類 2009年~2012年 (OLS推定) 

2009年・推定式① 2009年・推定式② 2010年・推定式① 2010年・推定式②

説明変数 t値 t値 t値 t値

定数項 -33.963 *** -19.697 -37.255 *** -21.400 -30.041 *** -16.638 -33.599 *** -17.8551

ln(GDPij ) 1.016 *** 29.061 1.117 *** 30.415 0.997 *** 25.604 1.061 *** 26.310

ln(GDPPCij ) 0.185 3.920 0.178 *** 3.661 0.153 *** 3.010 0.137 ** 2.554

ln(DISTij ) -1.017 *** -15.257 -1.039 *** -15.705 -1.043 *** -14.644 -1.081 *** -15.087

DAPEC 0.707 *** 3.625 0.635 *** 3.038

DEUR -0.843 *** -3.475 -0.902 *** -3.516

DJASN 1.492 *** 3.321 1.448 *** 3.046

Rpij -1.477 *** -7.744 -1.974 *** -10.103

DAPEC*Rpij 0.554 * 1.812 0.418 1.172

DEUR*Rpij -1.552 *** -3.806 -1.747 *** -3.589

DJASN*Rpij 2.155 *** 3.156 1.868 ** 2.424

DCL 0.687 *** 3.173 0.712 *** 3.193 0.398 * 1.730 0.333 1.380

自由度調整済決定係数R2 0.624 0.589 0.567 0.511

ダービン・ワトソン比 1.560 1.563 1.579 1.579観測数 879 879 875 875

2011年・推定式① 2011年・推定式② 2012年・推定式① 2012年・推定式②

説明変数 t値 t値 t値 t値

定数項 -28.635 *** -16.491 -31.595 *** -17.600 -31.267 *** -17.260 -34.069 *** -18.249

ln(GDPij ) 0.959 *** 25.992 1.014 *** 26.682 0.998 *** 27.355 1.042 *** 27.796

ln(GDPPCij ) 0.160 *** 3.225 0.143 *** 2.786 0.172 *** 3.466 0.170 *** 3.320

ln(DISTij ) -1.049 *** -15.283 -1.083 *** -15.855 -1.115 *** -16.275 -1.133 *** -16.805

DAPEC 0.594 *** 2.945 0.575 *** 2.888

DEUR -0.640 *** -2.596 -0.787 *** -3.208

DJASN 1.547 *** 3.364 1.490 *** 3.264

RPij -1.551 *** -9.387 -1.648 *** -8.469

DAPEC*RPij 0.858 ** 2.337 0.542 1.562

DEUR*RPij -1.266 *** -3.167 -1.440 *** -3.236

DJASN*RPij 2.216 *** 2.759 2.038 *** 2.655

DCL 0.530 ** 2.287 0.429 * 1.941 0.437 * 1.902

自由度調整済決定係数R2 0.576 0.528 0.589 0.549

ダービン・ワトソン比 1.712 1.710 1.647 1.640観測数 876 876 879 879

ln(Tij )2009 ln(Tij )2009 ln(Tij )2010 ln(Tij )2010

ln(Tij )2011 ln(Tij )2011 ln(Tij )2012 ln(Tij )2012

Page 23: APEC...APEC で合意された環境物品54 品目は1品目を除き、機械機器類であるHS84、85、90 分類に属し、先進国が国際競争力をもつ品目が多く含まれるが、その一方で近年、新興国

23

5.2 パネル分析結果と仮説の検証

表 13、表 14、表 15 には、パネル分析によるグラヴィティ・モデルの推定結果が明らか

にされている。3 節の(5)式、(6)式に変量個別効果の推定式が示されているが、(5)式は推定

式①、(6)式の定式化は推定式②として各表に示されている。推定式①、②のそれぞれにつ

いて、変量個別効果モデルに加えてパネル OLS の計測結果も示されている。推定式①、②

ともに、パネル OLSと変量個別効果の推定結果では全体として係数の大きさや有意性に大

きな差異はみられない。以下では変量個別効果の結果に基づき、HS84 類、HS85 類、HS90

表12 推定結果 HS90類 2009年~2012年 (OLS推定) 

2009年・推定式① 2009年・推定式② 2010年推定式① 2010年推定式②

説明変数 t値 t値 t値 t値

定数項 -38.906 *** -25.333 -37.581 *** -23.983 -38.208 *** -25.073 -38.375 *** -25.331

ln(GDPij ) 1.055 *** 32.153 1.052 *** 32.377 1.074 *** 32.513 1.085 *** 33.213

ln(GDPPCij ) 0.427 *** 9.801 0.355 *** 8.429 0.415 *** 9.270 0.370 *** 8.452

ln(DISTij ) -0.860 *** -14.023 -0.864 *** -12.744 -1.004 *** -16.249 -0.982 *** -16.253

DAPEC 1.140 *** 6.327 0.946 *** 5.243

DEUR -0.940 *** -4.184 -0.849 *** -3.815

DJASN 1.676 *** 4.028 1.827 *** 4.366

Rpij 0.555 ** 2.403 -0.273 -0.860

DAPEC*Rpij 2.756 *** 5.790 2.981 *** 5.064

DEUR*Rpij -1.000 ** -2.512 -2.344 *** -3.620

DJASN*Rpij 3.168 *** 3.137 2.233 ** 2.245

DCL 0.797 *** 3.986 0.845 *** 4.212 0.588 *** 2.945 0.622 *** 3.106

自由度調整済決定係数R2 0.658 0.648 0.657 0.652

ダービン・ワトソン比 1.310 1.284 1.289 1.285観測数 888 888 887 887

2011年・推定式① 2011年・推定式② 2012年・推定式① 2012年・推定式②

説明変数 t値 t値 t値 t値

定数項 -37.407 *** -25.412 -38.092 *** -25.726 -38.912 *** -26.399 -39.063 *** -26.540

ln(GDPij ) 1.055 *** 33.767 1.077 *** 34.340 1.040 *** 35.034 1.051 *** 35.663

ln(GDPPCij ) 0.452 *** 10.503 0.403 *** 9.390 0.377 *** 9.127 0.354 *** 8.605

ln(DISTij ) -1.052 *** -17.779 -1.035 *** -17.518 -0.993 *** -17.366 -0.974 *** -17.462

DAPEC 0.758 *** 4.385 0.887 *** 5.324

DEUR -1.031 *** -4.812 -0.907 *** -4.419

DJASN 1.988 *** 4.836 1.334 *** 3.458

RPij -0.540 ** -2.381 0.174 0.602

DAPEC*RPij 1.280 *** 2.772 2.478 *** 5.472

DEUR*RPij -2.433 *** -4.645 -2.442 *** -4.059

DJASN*RPij 3.044 *** 3.495

DCL 0.696 *** 3.607 0.818 *** 4.205 0.561 *** 3.030 0.643 *** 3.486

自由度調整済決定係数R2 0.676953 0.665 0.676 0.676

ダービン・ワトソン比 1.360 1.390 1.337 1.341観測数 895 895 896 896

ln(Tij )2009 ln(Tij )2009 ln(Tij )2010 ln(Tij )2010

ln(Tij )2011 ln(Tij )2011 ln(Tij )2012 ln(Tij )2012

Page 24: APEC...APEC で合意された環境物品54 品目は1品目を除き、機械機器類であるHS84、85、90 分類に属し、先進国が国際競争力をもつ品目が多く含まれるが、その一方で近年、新興国

24

類の環境物品貿易に対する各係数について 3 つの類を比較しながら見ていきたい。

まず、経済規模変数の ln(GDPij)の係数は高い有意性のもとに計測されており、HS84 類

については推定式①、②ともに 1.04、HS85 類については 1.03(推定式①)と 1.07(推定

式②)、HS90 類については推定式①、②ともに 0.99 程度という結果が得られた。これは、

どの類においても、二国間の GDP の積が 10%大きいと他国に比べて平均で二国間貿易額

が 10%程度大きいことを意味する。一方、二国の 1 人当たり GDP の積の対数値

(ln(GDPPCij))の係数はクロスセクション分析結果とは異なる結果となり、HS84 類と 85

類では統計的有意性を持った正の値が計測されなかった一方で、クロスセクション分析で

係数値の高かった HS90 類では、推定式①で 0.016、推定式②で 0.013 と小さい係数値とは

なったが 1%有意水準で計測されており、ハイテクの完成品が多く含まれる HS90 環境物品

貿易において、1 人当たり GDP の大きい二国間で貿易拡大する効果が示された。

両国の距離の対数値に関しては、三類中 HS85 類で最も大きな係数が計測され、推定式

①で-1.119、推定式②で-1.088 と絶対値が-1 よりも大きく、クロスセクション分析結

果と同様、部品貿易比率の高い HS85 類環境物品貿易に対する距離の効果が一般機器、精

密機器よりも大きく、10%距離が遠い二国では平均で 10.09~11.2%程度の貿易低下がもた

らされるという結果が得られ、距離の近い国々との貿易が盛んであることが示された。環

境物品に属する電気機器部品に関しては、一般的な電気機器部品と異なり輸送費用が大き

いことが明らかにされた。

部品貿易比率の係数については、クロスセクション分析結果から予想されることである

が、3つの類で異なった結果となっている。HS84 類では 1%の統計的有意性をもって正の

値で計測され、部品貿易比率が大きくなると貿易全体が増加するというフラグメンテーシ

ョン効果が導かれており、その係数は変量個別効果のケースで 0.157 と計測される。しか

しながら HS85 類では、部品貿易比率は 1%の有意水準で負の係数(-1.498)が得られ、

部品貿易比率が高いほど貿易額全体が小さくなるという結果となった。これについてはす

でに見たように、HS85 類の部品貿易比率の平均値が 55%程度と非常に高いため、単価の

高い完成品貿易割合が高い二国間ほど貿易額全体が高まるのではないかと考えられ、分析

対象 43 か国全体としては、部品貿易比率の高まりによる貿易牽引効果は確認されない。

HS90 類では、部品貿易比率の係数は有意に計測されていない。

共通言語(DCL)ダミー変数の係数は、いずれの類でも統計的に有意に計測されている

が、HS84 類では推定式①で 0.400、推定式②で 0.442、HS85 類ではそれぞれ 0.619、0.706、

HS90 類でそれぞれ 0.930、1.096 と計測され、クロスセクション分析結果と同様、ハイテ

ク財が多く含まれている HS90 類環境物品において共通言語の貿易に対する効果が大きな

重要性をもっていることが示された。

地域ダミー変数については EU 先行 15 か国の係数を除き、推定式①、②ともにほとんど

すべての変数で符号条件を満たして有意に計測されている。推定式①では、APEC ダミー

変数の係数が最も大きいのは HS90 類で 0.859 と推定され、次に大きいのが HS85 類の

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0.603 であり、最も小さいのが HS84 類の 0.428 である。一方、日本アセアン FTA のダミ

ー変数の係数では、最も大きいのが HS84 類の 1.283、次に大きいのが HS85 類の 1.179、

最も小さいのが HS90 類の 0.926 であり、HS 分類毎にその特徴が顕著になっている。ハイ

テク財を多く含む HS90 類環境物品では、やはり先進国がメンバーとなっている APEC 内

の貿易が大きくなるのに対し、部品貿易比率の高い HS85 類と HS84 類の環境物品では日

本アセアン FTA 加盟国での環境物品貿易の広がりが示されている。以上のことから、1 節

で示した仮説のうち 1 つ目の仮説、すなわち APEC、日本アセアン FTA といった地域貿易

ブロックにおける環境物品貿易拡大は立証されたと考えられる。一方の EU15 か国のダミ

ー変数については、部品貿易比率が低く完成品貿易比率の高い二国が貿易全体を牽引する

という結果となっている。

最後に部品貿易比率と地域ダミー変数の積の変数に関してみてみたい。APEC ダミー変

数と部品貿易比率の積の変数の係数に関しては、HS85 類では有意に計測されなかったが、

HS84 類と HS90 類では 1%の有意水準で正の値が計測され、それぞれ 0.525、0.641 とな

っている。このことから HS84 類環境物品と HS90 類環境物品においては、部品貿易比率

の高まりが APEC 内での貿易を拡大させる効果があるが、その効果の大きさに注目すると

やはり HS90 類において 85 類よりも大きいことが確認された。一方、日本アセアン FTA

ダミー変数と部品貿易比率の積の係数については、APEC のケースと対照的に、HS90 類で

は有意に計測されなかったのに対して、HS85 類環境物品において有意水準 1%で 1.427 と

いう大きな値が計測され、日本アセアン FTA 加盟国の間では HS85 類環境物品のフラグメ

ンテーションによる部品貿易比率の高まりが貿易を拡大させる効果が確認された。APEC

と日本アセアン FTA では加盟国が重複しているものの環境物品貿易に対する地域効果は環

境物品によって明らかに異なっている。

以上のことから、分析におけるすべての国を対象にした分析では部品貿易比率の係数が

HS84 類のみで有意に正の値で計測されているが、APEC 内、日本アセアン FTA 加盟国間

といった地域に限定すれば、部品貿易比率の大きい二国間で貿易が大きくなるという効果

が明らかとなっている。したがって1節で示した2番目の仮説、すなわち国際的フラグメ

ンテーション生産による部品貿易シェア増大が貿易全体を拡大させるという仮説はAPEC、

日本アセアン FTA 内において立証されたと考えられる。すでに述べたように、これまでの

多くの研究でフラグメンテーションの進展は東アジア地域で起こっていることが明らかに

なっており、本研究の結果はこうした事実と整合的であると言える。

パネル分析結果により、クロスセクション分析結果では年ごとの変動によって明らかに

できなかった効果について明確化することができた。また各説明変数について、HS84 類、

85 類、90 類における効果の違い、各類の特徴についての結果が強固なものとなり、貿易に

対する地域効果、環境物品における生産の国際的フラグメンテーションの貿易に対する効

果に関しては、類毎に細かく分析することの重要性が明らかにされている。

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表13 パネル分析結果(HS84類)

推定式①・Panel OLS 推定式①・変量個別効果 推定式②・Panel OLS  推定式②・変量個別効果

t値 t値 t値 t値

定数項 -33.093 *** -49.925 -31.004 *** -27.897 -33.838 *** -49.588 -30.748 *** -27.895

ln(GDPij ) 1.081 *** 75.834 1.039 *** 44.024 1.078 *** 75.663 1.035 *** 44.266

ln(GDPPCij ) -0.003 -1.425 -0.003 *** -4.085 -0.003 -1.477 -0.003 ** -4.128

ln(DIST ) -0.998 *** -36.494 -0.999 *** -20.315 -0.981 *** -36.240 -0.982 *** -21.186

DAPEC 0.418 *** 5.201 0.428 *** 2.960

DEUR -0.316 *** -3.282 -0.256 -1.476

DJASN 1.271 *** 6.942 1.283 *** 3.877

Rpij 0.420 *** 4.708 0.157 *** 2.741

DAPEC*Rpij 1.092 *** 6.294 0.525 *** 2.694

DEUR*Rpij -0.414 ** -2.166 -0.155 -0.551

DJASN*Rpij 1.969 *** 5.960 1.306 ** 2.896

DCL 0.347 *** 3.895 0.400 ** 2.476 0.317 *** 3.535 0.442 *** 2.801

自由度調整済決定係数R2 0.670 0.399 0.668 0.394

観測数 3563 3563 3563 3563

従属変数=ln(Tij) 従属変数=ln(Tij) 従属変数=ln(Tij) 従属変数=ln(Tij)

表14 パネル分析結果(HS85類)

推定式①・Panel OLS 推定式①・変量個別効果 推定式②・Panel OLS 推定式②・変量個別効果

t値 t値 t値 t値

定数項 -29.437 *** -34.462 -29.196 *** -20.596 -32.776 *** -37.259 -32.019 *** -22.173

ln(GDPij ) 1.021 *** 55.516 1.027 *** 34.411 1.074 *** 56.944 1.065 *** 34.712

ln(GDPPCij ) 0.012 1.265 -0.012 ** -2.117 0.009 0.903 -0.010 * -1.773

ln(DIST ) -1.076 *** -31.270 -1.119 *** -18.619 -1.076 *** -32.247 -1.088 *** -19.391

DAPEC 0.567 *** 5.635 0.603 *** 3.419 0.522 *** 3.044

DEUR -0.579 *** -4.801 -0.522 *** -2.464

DJASN 1.244 *** 5.445 1.179 *** 2.925

Rpij -1.666 *** -17.946 -1.405 *** -19.075

DAPEC*Rpij 0.567 *** 5.635 0.603 *** 3.419 0.522 *** 3.044 -0.405 * -1.904

DEUR*Rpij -0.190 *** -3.290 -0.048 -1.278

DJASN*Rpij 1.731 *** 4.639 1.310 *** 2.593

DCL 0.581 *** 5.226 0.619 *** 3.151 0.572 *** 4.940 0.706 *** 3.717

自由度調整済決定係数R2 0.586 0.364 0.540 0.293

観測数 3509 3509 3504 3504

従属変数=ln(Tij) 従属変数=ln(Tij) 従属変数=ln(Tij) 従属変数=ln(Tij)

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6 おわりに-結論と今後の課題-

本研究では、様々な環境保護目的を持つ環境物品の世界貿易において、どのようなネッ

トワークが構築されているのかについて分析を行い、次の2つの仮説の検証を試みた。

APEC で貿易自由化を進めている HS84 類、85 類、90 類の環境物品を分析対象としている

こともあり、東アジア地域、APEC 諸国内といった貿易ブロック内で環境物品の貿易拡大

が進行しているという仮説、もう一つは、効率的生産目的の国際的フラグメンテーション

の進展が部品・構成品の貿易拡大を伴って貿易全体を増加させているという仮説である。

グラヴィティ・モデルによる分析手法を用いて、HS84 類、85 類、90 類別に様々な観点か

ら仮説の検証を行った。

分析を行うに当たり、本研究で対象とする APEC で合意された環境物品の世界貿易に関

する特徴を捉えるために、これらの物品とハイテク性との関連性を確認した上で、分析対

象のヨーロッパとアジアの主要国について顕示比較優位指数により比較優位構造分析を行

い、先進工業国の比較優位財が多く含まれている事実を明らかにした。また東南アジア諸

国においては部品に偏った比較優位構造を持ち、フラグメンテーションによる貿易拡大の

基本的条件が整っていることが確認された。

分析手法としてはグラヴィティ・モデルによる貿易ネットワーク決定要因分析を用いて

おり、APEC 地域、ヨーロッパの国々、その他の新興工業国 43 か国を対象とし、異なる特

徴を持つ HS84、85、90 類に分けて 2009 年から 2012 年までの4年間のデータを用いて、

クロスセクション分析と4年間のパネルの変量個別効果分析を行った。各類についての推

定結果を検討することによって仮説の検証を行った。

その結果、ハイテク財を多く含み完成品貿易比率の高い HS90 類環境物品では、先進国

表15  パネル分析結果(HS90類)

推定式①・Panel OLS 推定式①・変量個別効果 推定式②・Panel OLS 推定式②・変量個別効果

t値 t値 t値

定数項 -35.336 *** -46.899 -29.503 *** -24.249 -35.301 *** -46.963 -29.579 *** -24.430

ln(GDPij ) 1.101 *** 67.882 0.992 *** 38.349 1.103 *** 69.073 0.997 *** 39.164

ln(GDPPCij ) 0.071 *** 8.188 0.016 *** 4.669 0.063 *** 7.235 0.013 *** 4.028

ln(DIST ) -1.012 *** -32.601 -0.998 *** -17.779 -1.002 *** -32.276 -1.001 *** -19.894

DAPEC 0.796 *** 8.772 0.859 *** 5.209

DEUR -0.477 *** -4.348 -0.232 -1.172

DJASN 1.039 *** 4.995 0.926 *** 2.450

Rpij 0.306 ** 2.330 -0.013 -0.198

DAPEC*Rpij 2.205 *** 8.720 0.641 *** 3.246

DEUR*Rpij -0.833 *** -3.404 -0.541 *** -3.994

DJASN*Rpij 1.311 *** 2.810 0.062 0.129

DCL 0.816 *** 8.083 0.930 *** 5.046 0.856 *** 8.495 1.096 *** 6.046

自由度調整済決定係数R2 0.640 0.357 0.636 0.350

観測数 3562 3562 3562 3562

従属変数=ln(Tij) 従属変数=ln(Tij) 従属変数=ln(Tij) 従属変数=ln(Tij)

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がメンバーとなっているAPEC内の貿易が日本アセアンFTAメンバー国内の貿易と同程度

大きくなっているのに対し、部品貿易比率の高いHS85類とHS84類の環境物品ではAPEC

内の貿易拡大効果は見られるものの、その程度は日本アセアン FTA 加盟国での環境物品貿

易の広がりよりかなり小さなものとなっている。以上のことから、類毎で程度の差はある

ものの、APEC、日本アセアン FTA といった地域での貿易ブロックにおける環境物品貿易

拡大は立証されたと考えられる。一方、EU 先行 15 か国のダミー変数の効果からは、部品

貿易比率が低く完成品貿易比率の高い二国間で貿易が牽引されるという結果が明らかにさ

れた。

2 つ目の仮説については、分析におけるすべての国を対象にすると説明変数としての部品

貿易比率の係数が HS84 類のみで有意に正の値で計測されているが、APEC 内、日本アセ

アン FTA 加盟国間といった地域に限定しダミー変数を用いて部品貿易比率の効果をみると、

部品貿易比率の大きい二国間で貿易が大きくなるという効果が明らかとなっている。した

がって、国際的フラグメンテーション生産による部品貿易シェア増大が貿易全体を拡大さ

せるという仮説は APEC、日本アセアン FTA 内において立証されたと考えられる。さらに

地域特性については、HS84 類、85 類、90 類それぞれの環境物品によって異なることが明

らかとなった。両国の1人当たり GDP 効果と共通言語効果を最も大きく受けているハイテ

ク財中心の HS90 類において、先進国を含む APEC 地域でのフラグメンテーション効果が

最も大きいという結果は納得のいくものである。

すでに述べたようにこれまでの多くの研究でフラグメンテーションの進展は東アジア地

域の特徴であることが示され、さらに本研究から明らかとなった東アジア地域の比較優位

環境物品の部品への偏りという事実を鑑みると、ここでの分析結果はこうした事実と整合

的である。APEC 環境物品におけるこうした地域内での貿易拡大、フラグメンテーション

による部品貿易拡大を通じた貿易拡大が実証されたことにより、APEC で合意された環境

物品貿易での実行関税引下げへのコミットが着実に実行されれば、APEC での環境物品貿

易拡大による経済成長と環境良化がともに実現されるはずである。

APECでの環境物品貿易自由化が期待通りに実現しこれが世界的に広がることになれば、

本分析のような環境物品貿易ネットワークの深化に関する分析を関税引下げによる価格効

果や競争促進効果を導入しつつさまざまな角度から充実させていくとともに、環境物品貿

易自由化の諸効果を捉える分析を行うことが重要であろう。関税引下げによる貿易拡大効

果の程度と内容についての分析や、環境物品貿易自由化と企業行動についての分析が考え

られる。企業行動分析では再生可能エネルギー関連産業、環境測定機器産業といった環境

保護目的別に企業レベルデータを用いて、貿易自由化に伴う研究開発努力、企業参入退出

などの側面から分析を行っていくことにより、環境物品貿易特有の貿易自由化効果を明ら

かにしたいと考えており、今後の研究課題としたい。

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