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ホットスポット発生時の太陽電池モジュールの動作解析 ○飯塚 直明,落合 将喬,Bakhsh Hossam,板子一隆(神奈川工科大学) Operating Analysis of PV Module with Hot-Spot NAOAKI Iizuka, MASATAKA OchiaiBAKHSH Hossam and KAZUTAKA Itako (Kanagawa Institue of Technology) キーワード:ホットスポット,太陽電池モジュール,太陽光発電 1.まえがき 太陽電池モジュールの故障の原因の一つにホットスポ ット現象がある.この現象は,セルに欠陥があり,その セルに長時間影が生じるとセル全体あるいは部分的に高 温になってしまい,表面樹脂の変形やセルの破壊,場合 によっては火災の原因となる危険性がある (1) .筆者等は先 に結晶欠陥に基づく物理現象を利用しモジュール単位で ホットスポットを簡易的に診断できる SRC (Self Reverse Current) 検査法を開発した (2)-(5) .この方法は太陽 電池モジュールをシステムとして組み上げる前に,予め 欠陥のあるモジュールを排除できるため,システムの信 頼性向上に有効である.しかしながら,このホットスポ ットは,設置前に問題がなかったとしても設置後に様々 な要因で結晶に欠陥を生じることがあり,後々にホット スポットが発生するケースもあるため,設置後にも定期 的に検査できることが強く要求されている. そこで本論文では,設置後に運用しながらパネルの電 気的特性( 電流・電圧特性:I-V 特性) を監視し,ホットス ポット現象等をリアルタイムで診断できるシステムを新 たに構築するために,その基礎的段階として,ホットス ポットが発生しているモジュールの動作解析を行ったの で以下に報告する. 2.ホットスポット現象 ホットスポット現象の原因のひとつに結晶欠陥がある ことが分かっており,その原因が 2 つ挙げられる.1 目は製造時のプロセスにより表面に結晶欠陥が生じ,表 面でキャリアが再結合する場合, 2 つ目は半導体内部の結 晶の格子欠陥にキャリアが捕獲されて再結合する場合が ある.再結合の理論式を考慮すると逆方向リーク電流 JR はダイオードの飽和電流 J0 と両再結合により生じた発生 電流 JG との和で表される.従って,結晶欠陥によりキャ リアのライフタイムτが短くなると再結合率が増加し逆 方向時のリーク電流成分が増加する.この物理現象を利 用してホットスポットの可能性を簡易的に診断すること が可能になる. 3.ホットスポットモジュールの動作解析 ホットスポット現象を回路的に考えると,結晶欠陥の あるホットスポットセルを抵抗と見なすことができる. すなわち,正常なセルを遮光すると pn 接合ダイオードと なるため高抵抗になり発電電流はほとんど流れない.し かし,セルに結晶欠陥のある場合には低抵抗となり,大 きな逆方向リーク電流が流れるため,発電電流がそのま ま流れる.従って,欠陥セルではジュール損失が発生し それがセル温度を上昇させると考えられる. 本論文では,バイパスダイオードを含む実際の太陽電 池モジュールを対象として動作解析を行った. 3.1 動作モードと解析式 図1は,本論文で使用する単結晶太陽電池モジュール の内部配線図である.公称最大出力 50W,公称最大出力 電流 I OP3.05A,公称最大出力動作電圧 VOP16.4V公称短絡電流 I SC3.35A, 公称開放電圧 VOC20.5V なっている.パネルの中に 2 つのセル群がバイパスダイ オードで区切られている.上の段をクラスタ A,下の段 をクラスタ B と呼ぶこととする. 図2は図1のモジュールにおいてクラスタ A に欠陥セ ルがある場合の回路動作を表している.バイパスダイオ ードの作用で2つのモードを生じる.同図(a)Mode Ⅰは太 陽電池電流 I PV が小さく,VPVA+VHS>VDon の場合である. ただし, VPVA はクラスタ A の正常なセルによる発電電圧, VHS は欠陥セルの電圧降下,VDon はバイパスダイオード 図1 太陽電池パネルの内部配線図 クラスタA クラスタB 2015 年電気設備学会全国大会 Copyright © 2015 IEIEJ -101- B-17

B-17 Í µ º « Ï µ º$Î#Õ ì b ´7g7Á å Ô ª × î Ý b · 80 Ò · Í µ º « Ï µ º$Î#Õ ì b ´7g7Á å Ô ª × î Ý b · 80 Ò Ñ8ä / %$ Â>*- W >*Bakhsh Hossam>*

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ホットスポット発生時の太陽電池モジュールの動作解析

○飯塚 直明,落合 将喬,Bakhsh Hossam,板子一隆(神奈川工科大学)

Operating Analysis of PV Module with Hot-Spot

NAOAKI Iizuka, MASATAKA Ochiai,BAKHSH Hossam and KAZUTAKA Itako

(Kanagawa Institue of Technology)

キーワード:ホットスポット,太陽電池モジュール,太陽光発電

1.まえがき

太陽電池モジュールの故障の原因の一つにホットスポ

ット現象がある.この現象は,セルに欠陥があり,その

セルに長時間影が生じるとセル全体あるいは部分的に高

温になってしまい,表面樹脂の変形やセルの破壊,場合

によっては火災の原因となる危険性がある(1).筆者等は先

に結晶欠陥に基づく物理現象を利用しモジュール単位で

ホットスポットを簡易的に診断できる SRC (Self

Reverse Current)検査法を開発した(2)-(5).この方法は太陽

電池モジュールをシステムとして組み上げる前に,予め

欠陥のあるモジュールを排除できるため,システムの信

頼性向上に有効である.しかしながら,このホットスポ

ットは,設置前に問題がなかったとしても設置後に様々

な要因で結晶に欠陥を生じることがあり,後々にホット

スポットが発生するケースもあるため,設置後にも定期

的に検査できることが強く要求されている.

そこで本論文では,設置後に運用しながらパネルの電

気的特性(電流・電圧特性:I-V特性)を監視し,ホットス

ポット現象等をリアルタイムで診断できるシステムを新

たに構築するために,その基礎的段階として,ホットス

ポットが発生しているモジュールの動作解析を行ったの

で以下に報告する.

2.ホットスポット現象

ホットスポット現象の原因のひとつに結晶欠陥がある

ことが分かっており,その原因が 2 つ挙げられる.1 つ

目は製造時のプロセスにより表面に結晶欠陥が生じ,表

面でキャリアが再結合する場合,2つ目は半導体内部の結

晶の格子欠陥にキャリアが捕獲されて再結合する場合が

ある.再結合の理論式を考慮すると逆方向リーク電流 JR

はダイオードの飽和電流 J0と両再結合により生じた発生

電流JGとの和で表される.従って,結晶欠陥によりキャ

リアのライフタイムτが短くなると再結合率が増加し逆

方向時のリーク電流成分が増加する.この物理現象を利

用してホットスポットの可能性を簡易的に診断すること

が可能になる.

3.ホットスポットモジュールの動作解析

ホットスポット現象を回路的に考えると,結晶欠陥の

あるホットスポットセルを抵抗と見なすことができる.

すなわち,正常なセルを遮光するとpn接合ダイオードと

なるため高抵抗になり発電電流はほとんど流れない.し

かし,セルに結晶欠陥のある場合には低抵抗となり,大

きな逆方向リーク電流が流れるため,発電電流がそのま

ま流れる.従って,欠陥セルではジュール損失が発生し

それがセル温度を上昇させると考えられる.

本論文では,バイパスダイオードを含む実際の太陽電

池モジュールを対象として動作解析を行った.

3.1 動作モードと解析式

図1は,本論文で使用する単結晶太陽電池モジュール

の内部配線図である.公称最大出力50W,公称最大出力

電流 IOP=3.05A,公称最大出力動作電圧 VOP=16.4V,

公称短絡電流 ISC=3.35A, 公称開放電圧 VOC=20.5V と

なっている.パネルの中に 2 つのセル群がバイパスダイ

オードで区切られている.上の段をクラスタ A,下の段

をクラスタBと呼ぶこととする.

図2は図1のモジュールにおいてクラスタAに欠陥セ

ルがある場合の回路動作を表している.バイパスダイオ

ードの作用で2つのモードを生じる.同図(a)ModeⅠは太

陽電池電流 IPVが小さく,VPVA+VHS>VDonの場合である.

ただし,VPVA はクラスタAの正常なセルによる発電電圧,

VHS は欠陥セルの電圧降下,VDonはバイパスダイオード

図1 太陽電池パネルの内部配線図

クラスタA

クラスタB

2015 年電気設備学会全国大会

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B-17

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図2 欠陥セルがある場合の回路動作

のオン電圧である.この場合の太陽電池電圧 VPVは(1)式

で示される.

PVSCPVBA

PV rII

II

q

nkTNNV

0

1log)(

(1)

ここで,NA,NB:クラスタ A,B の正常なセルの枚数,

ISC:短絡電流[A],I0:逆方向飽和電流[A],q:電気素量

(1.6×10-19[C]),k:ボルツマン定数(1.38×10-23J/K), T:太

陽電池のPN接合部温度[K], n:接合定数, γ:温度に依ら

ない定数, δ:材料によって決まる定数,Eg:エネルギー

ギャップ[eV]である.同図(b)の ModeⅡは太陽電池電流

IPVが VPVA+VHS=VDonでの太陽電池電流 IA以上になりバ

イパスダイオードがオン状態となっている場合である.

この場合の太陽電池電圧VPVは(2)式で示される.

DonSCPVB

PV VI

II

q

nkTNV

0

1log (2)

3.2 シミュレーション結果

以上の解析式を用いて,ホットスポット発生時の I-V

特性の実測結果とシミュレーション結果を図3(a),(b)に

示す.同図より,r=5Ωとした場合に実測結果とシミュレ

ーション結果は良く一致しており,本解析の妥当性が確

認された.

(a)実測結果

(b)シミュレーション結果

図3 ホットスポット発生時の I-V特性

4.あとがき

本論文では,バイパスダイオードを含む一般的な太陽

電池モジュールを対象として,ホットスポットが発生し

た場合の動作解析を行った.得られた解析式を用いて,

I-V特性をシミュレーションした結果,実測と良く一致し,

本解析の妥当性が確認された.

文 献

(1)岡田,山中,飯岡,大野,河村,太陽/風力エネルギー講演論文集

2010,No.133

(2)板子,工藤,電気設備学会誌,vol.34,No.2,pp.140~146,2014

(3)T. Kudoh, K. Itako, Proceedings of Grand Renewable Energy 2014,

CD-ROM, 2014

(4)渡邊,小佐野,工藤,板子, 第 75 回応用物理学会秋季学術講演会,

No.18a-PB4-12,2014

(5)工藤,杉山,工藤,板子,平成 25 年度日本太陽エネルギー学会・日本

風力エネルギー学会合同研究発表会,No.12, 2013

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屋外 EL 測定法を用いた太陽電池モジュールの異常検出手法の検討

○西戸雄輝,井上泰宏,小林 浩((株)トーエネック)

Study of The Method for Detecting the Damaged Module of PV System with EL Measurement

NISHIDO Yuki, INOUE Yasuhiro, and KOBAYASHI Hiroshi (TOENEC CORPORATION)

キーワード:太陽電池,保守・点検,EL 測定,屋外

1.はじめに

当社ではエコソリューションビジネスの一つとして太

陽光発電(PV)設備の設計・施工に力を入れている。更に,

提案力強化のため,自社設備に10社の太陽電池モジュー

ルを設置し,性能比較などの実証検証を行ってきた 1)2)。

そして,多くの太陽電池モジュール(以下,モジュール)

での不具合も経験し,その都度,原因究明や改修対応を

行ってきた。これらの経験から,PV設備を長期的に安全

で安定的に稼働させるために,適切な保守・点検が重要

であることを認識している。保守・点検方法には目視点

検の他に,各種特性の測定や熱画像撮影等があるが,太

陽電池が設置されている屋外において,発電性能の低下

を直接的に観測できる手法は確立されていない。一方で,

太陽電池の出荷段階では,ソーラシミュレータや EL 測

定等,発電性能を正確に評価できる手法を用いた検査が

行われている。これらの手法を屋外でも適用できれば,

保守・点検内容の高度化や効率化に繋がると考えられる。

そこで,本研究では,発電性能を正確に評価できる手

法としてEL測定法に着目し,各種改良の結果,EL測定

法を屋外で使用する方法を確立したので,概要を紹介す

る。

2.異常モジュールの特定作業の課題

発電電力量監視等により太陽電池アレイの出力が低下

していると認識された場合には,現地で太陽電池アレイ

から異常モジュールを特定する作業が必要となる。この

ため当社では,目視点検,絶縁抵抗測定,開放電圧測定,

電流-電圧(I-V)特性曲線測定,熱画像撮影,非接触電流セ

ンサによる電流の通電確認などを行っている。しかしな

がら,異常モジュールが複数ある場合や,モジュール内

の異常が複合的に発生している場合には異常モジュール

の特定が難しい場合もある。

また,異常モジュールを特定できた場合であっても現

地で発電性能の確認を行うことは困難である。このため,

製造メーカへ異常モジュールを送っても,出荷時と同様

の検査の結果,保証対象外と判断された場合には,検査

費用を請求される等のリスクを伴う。そこで,製造メー

カと折衝する際に確実な証拠となる検査結果を,現地で

取得する手法が求められる。

3.EL測定法の概要と課題

これらの課題を解決するため,筆者らは EL 測定法に

着目した。太陽電池セルは光のエネルギーを吸収すると

電気としてエネルギーを出力する特性を持つ。それとは

逆に,電気エネルギーを印加するとエネルギーを光とし

て放出する特性がある。この光を EL(Electro

Luminescence)光と呼ぶ。この EL 光を観測して画像と

して捉える方法がEL測定法である。EL測定で得られた

画像からは,発電の有無を画像から容易に確認でき,セ

ルクラックやバイパスダイオードのショート故障なども

検査できる。

しかしながら,EL光は太陽光と比べて非常に発光強度

が低く,また,太陽光と EL 光の波長が干渉するため,

モジュールが設置されている屋外の昼間には観測できず,

製造メーカや試験機関では暗室内でのみ利用されていた。

また,モジュールの出荷検査ではモジュール 1 枚単位で

しか測定していなかった。

4.屋外EL測定法のシステム構成

屋外で EL 測定法を利用するため,太陽光のない夜間

に EL 測定を行う手法を検討した。図1にシステム構成

を示す。接続箱の断路器を開放し,断路器二次側(太陽電

池側)へDC電源を接続する。断路器の開放は,一次側へ

の通電防止のためである。測定用カメラは太陽電池アレ

イの表面側で,測定したい範囲が撮影できるように設置

する。DC電源の制御と,測定用カメラの制御は,ノート

PC から制御している。電流をストリング(太陽電池の直

列単位)毎に流し,通電中にEL 測定を行う。この方法に

より,ストリング単位でのEL測定が可能となる。

図1 屋外EL測定のシステム構成概略

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B-18

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図 3 1ストリングの夜間EL測定結果(EL画像)

5.EL測定結果例

5.1 太陽電池の仕様と外観

表 1 に EL 測定を行った太陽電池の仕様を示す。平成

10年9月に設置された単結晶タイプのモジュールであり,

6 枚で 1 ストリングを構成している。太陽電池の外観写

真を図 2 に示す。1 枚のセルに 2 本のタブ線が配線され

ており,タブ線を中心にデラミネーション(封止材の剥離)

が発生している。

5.2 EL測定結果

図3にEL測定結果を示す。太陽電池から10m以上離

れた場所からモジュール 6 枚を一度に撮影しても,解像

度の高いカメラを使用しているため,異常箇所診断に十

分な画質が得られている。EL測定では発電電力量の差が

EL 光の輝度の差に現れる。そのため,暗転している 2

箇所のセルの半分が発電に全く寄与していない状態とな

っていることが分かる。また,他のモジュールと比較し

て輝度が低下しているモジュールは,発電出力が低下し

ていることが分かる。この結果から,屋外EL測定法が,

異常モジュールの診断に有効であることが確認できた。

6.おわりに

当社は2015年5月19日から,太陽光発電設備の遠隔

監視・現地診断サービスの提供を開始した。このうち現

地診断サービスにて屋外 EL 測定法を活用し,異常箇所

特定作業の効率化を図ることで,お客さまやモジュール

メーカにとっても,メリットのあるサービスを提供した

いと考えている。

7.参考文献

1) 西戸,他:「各種太陽電池モジュールの性能比較を

目的とした太陽光発電システムの実稼働データ分

析」, 電気学会B部門大会, No.199, (2012)

2) 西戸,他:「太陽電池とPCSの容量比がPVシステ

ムの発電電力量と回収年数に与える影響の評価」,

電気設備学会全国大会, A-23, (2014)

表 1 EL測定を行った太陽電池の仕様

項目 モジュール公称値

公称最大出力(Pmax) 111.2W

公称最大出力動作電圧(Vpm) 33.0V

公称最大出力動作電流(Ipm) 3.37A

公称開放電圧(Voc) 40.8V

公称短絡電流(Isc) 3.75A

図 2 太陽電池外観(光学画像)

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屋根上に設置した太陽電池モジュールの火災検知

○上野浩志(能美防災(株)),山岸貴俊(能美防災(株)),横田博之(能美防災(株))

Fire Detection of Residential PV System

UENO Hiroshi (Nohmi Bosai Ltd.), YAMAGISHI Takatoshi (Nohmi Bosai Ltd.)

and YOKOTA Hiroyuki (Nohmi Bosai Ltd.)

キーワード:太陽光発電,太陽電池モジュール、火災検知

1. はじめに

太陽光発電システムの急速な普及に伴い、国内でも太

陽電池(PV)モジュールに起因する火災事例が多数報告1)

されている。PVモジュールは、火災により損傷を受けた

状態でも、日中の太陽により発電しており、消火活動に

よる感電事故の危険性2)が危惧されている。

住宅用太陽光発電システムの場合、屋根とPVモジュー

ルの間で火災が発生するため、外部からの発見が困難と

なっている。そこで、PVモジュール火災の早期発見方法

を検討するため、屋根に取り付けたPVモジュールの火災

時の燃焼状況の確認と火災検知線による動作確認を行い、

火災検知線による火災検知の有効性を確認した。

2. 実験方法

住宅用太陽光発電システムを想定し、30°傾斜させた

耐熱板(珪酸カルシウム板)の上にアルミ製取り付け架台

を固定し、この取り付け架台上にPVモジュール7枚を取り

付けた。(図1)

PVモジュールは日本製で、単結晶Siセル、定格出力84W、

外形サイズ1200×530mmである。

取り付け架台は、屋根の傾斜に対して横向き(図1)と

縦向きの2種類で実験を行った。屋根面からPVモジュール

裏面までの距離は約105mmである。

PVモジュールと屋根の間での火災を想定し、中央のPV

モジュール裏面の下部に火皿を設置し、液体燃料を注入

し着火、燃焼を行った。

液体燃料は、n-ヘプタンを使用した。火皿サイズは、

50cm2、100cm2、200cm2を使用し、底面に水を10mm程度敷

き、その上に液深さ15mmでn-ヘプタンを入れた。

温度測定は、PVモジュール各部にK熱電対を取り付けて

行った。(図2)

PVモジュールの火災検知の可能性を確認するために、

火炎や熱気流の高温により電線間が短絡する火災検知線

を使用した。この火災検知線をPVモジュールと屋根の間、

取り付け架台に沿って敷設し、PVモジュール燃焼時の動

作確認を行った。

図1 太陽光発電システム火災実験用屋根

図2 PVモジュールの熱電対取付位置

▲:PVモジュール表面 ▼:PVモジュール裏面

●:火源位置(PVモジュール裏面)

3. 実験結果

3.1 PVモジュール燃焼状況

PVモジュールと屋根の間でのヘプタン燃焼により、PV

モジュールのバックシート(PET)、充填樹脂(EVA)、電線

(PVC)が燃焼した。火源の燃焼時間は、火皿サイズに関係

なく約8分間であった。

各実験によるPVモジュールの燃焼状況を表 1に示す。

取り付けフレームが横向きでは200cm2火皿の燃焼で火

源上のPVモジュールに延焼(図3)し、火源鎮火後もPVモジ

ュールは燃焼を継続した。

取り付けフレーム縦向きでは、より小さい火皿100cm2

で上のPVモジュールに延焼しているが、火源鎮火後の燃

焼は継続しなかった。

100cm2火源燃焼終了時のPVモジュール裏面温度を、架台

横向きの場合を図4、架台縦向きの場合を図5に示す。

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取り付け架台が横向きの場合、取り付け架台を越えて

上方に火炎が延焼し難いため、左右の温度が上昇する。

今回の実験では、横向きの取り付け架台と屋根との間に

10mmの隙間があり、この隙間を通して火炎先端が上方の

PVモジュールへと進行し、温度が上昇している。

取り付け架台が縦向きの場合、火炎は屋根の傾斜に沿

って上方へと延焼するため、左右の温度上昇が少なくな

っている。

取り付け架台の向きに関係なく、火源のPVモジュール

の下方では温度はほとんど上昇しなかった。

表1 PVモジュールの燃焼状況

取り付け架台向き

火皿

サイズ

火源鎮火後の裏面燃焼

隣接PVモジュールへの延焼

平行 200cm2 燃焼継続 上部PVへ延焼

平行 100cm2 燃焼終了 延焼無し

平行 50cm2 燃焼終了 延焼無し

垂直 100cm2 燃焼終了 上部PVへ延焼

垂直 50cm2 燃焼終了 延焼無し

図3 PVモジュールの燃焼状況

0500

261

153

64 130 410 309

40 47 500 124 49

31 36 83 57 36

29 48 33

Installation Frame

Installation Frame

Fig.6-1 Maximum temperature of PV modules(100cm2 Fire Source, Parallel Frame)

Fire Source

図4 PVモジュール燃焼後温度・架台横向き

0500

116

312

27 74 491 292 58

26 32 340 58 37

26 29 91 40 25

28 32 26

Fig.6-2 Maximum temperature of PV modules(100cm2 Fire Source, perpendicular Frame)

Fire Source

InstallationFrame

InstallationFrame

図5 PVモジュール燃焼後温度・架台縦向き

3.2 PVモジュールの火災検知

火災検知線は、PVモジュール取り付け架台に沿って、

位置をずらして、系統①PV上側、系統②PV中間屋根面、

系統③PV下側の3系統を設置した。

取り付け架台横向き、火源に50cm2ヘプタンを使用した

時の検知線出力、PVモジュール温度変化を図6に示す。

火源PVモジュールの上枠温度が燃焼により上昇し、系

統①検知線は2分程度で短絡動作した。また、屋根面に設

置した系統③検知線も火源に近いことから、1分遅れで動

作した。系統②検知線は火源下側もしくは系統①と取り

付け架台の反対側にあり、温度が上昇せず、動作しなか

った。

取り付け架台が縦向きの場合、火炎、熱気流の進行方

向と平行に火災検知線が設置してあり、熱が検知線に充

分に伝わらず、検知線は動作しない場合があった。

しかし、検知線を縦向き取り付け架台に対して横向き

に設置することで、短絡動作することが確認できた。

4. まとめ

住宅用太陽光発電システムの火災を想定し、PVモジュ

ールと屋根の間で燃焼を行った。

火炎は屋根に沿って上方へ延焼し、火源の左右および

下方PVモジュールへの延焼はほとんどない。横向きの取

り付け架台では、火炎の上方への延焼が阻害されるが、

屋根と架台の間に隙間がある場合は、火源の大きさによ

っては上方へと延焼し、継続燃焼に至る場合がある。

火災検知線は、屋根傾斜に対して、横方向へ設置する

ことで、確実に火災検知が可能である。

5. 参考文献 1)吉富政宜:太陽光発電システムの火災事例ならびに

消火活動時の感電危険、火災、Vol.63、No.3、pp14-19、2013 2)消防庁消防・救急課、消防庁消防研究センター、「事

務連絡 平成25年3月26日 太陽光発電システムを設置した一般住宅の火災における消防活動上の留意点等について」、2013.3

図6 火災検知線動作状況

0

100

200

300

400

500

0

0.5

1

1.5

2

2.5

0 2 4 6 8 10 12

温度

(℃)

検知線出力

(V)

経過時間 (分)

系統①

系統②

系統③火源PV上枠温度

上PV下枠温度

火源PV下枠温度

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静翼付抗力形多翼垂直軸風車における特性

-動翼に作用する風速の入射角度に対する検討-

○寒川 弘一、辻 健太郎、直井 和久、栁平 和寛、塩野 光弘(日本大学)

Characteristics of the Drag-type Multi-blades Vertical Axis Wind Turbine with Stationary Multi-vanes

-Study on the Angle of Wind Flow on the Rotational Blades-

SAMUKAWA Hirokazu,TSUJI Kentaro,NAOI Kazuhisa,

YANAGIDAIRA Kazuhiro,SHIONO Mitsuhiro(Nihon University)

キーワード: 抗力形風車、静翼付多翼風車、トルク、入射角度

1.はじめに

静翼付抗力形多翼垂直軸風車は垂直軸形風車のなかで

も低回転数域でトルクが大きく風向きに対して無指向な

特徴を持つ。これまでに、我々はこの風車の静翼流路の

風速を推定し、出力を算出する方法を提案し実験値と比

較した(1)。また、各風速で測定した静翼流路の風速分布と

動翼 1 枚におけるトルク係数から風車の負荷トルクを算

出し、実験値との比較を行ってきた(2)。

本稿では静翼付抗力形多翼垂直軸風車の静翼に流入し

た風が動翼に入射する角度に着目し、トルク及び出力を

文献(2)に提案した方法から検討したので報告する。

2.静翼付抗力形多翼

垂直軸風車の概要

静翼付抗力形多翼

垂直軸風車の概要を

図1に示す。風車は動

翼に対して一定の角

度で風を流入させる

ための静翼が、流入し

てきた風の力で回転

する動翼を囲む構造

となっている。

3.トルクと出力の算出方法(2)

図 1 の静翼と静翼の間を静翼流路と定義し、風向に対

し時計回りに 90deg の位置にある流路を m=1 とし、反

時計回りに付番する。風車が風向に対して受風面となる

静翼流路を風上側、その反対側の静翼流路を風下側とす

る。

風上側に風を流入させた時、静翼流路から動翼に作用

する風速の関係を図 2 に示す。風速を Vset、静翼流路を

流れる静翼流路風速をVm、動翼の周速度をVt、相対風速

をWmと定義する。βは入射角度で静翼流路風速Vmと動

翼の翼弦とのなす角度、

αmは相対風速 Wmと動

翼の翼弦との迎角であ

る。

次に、トルクと出力の

算出方法を述べる。図2

に示すように静翼流路

m から動翼に入る静翼

流路風速Vmの入射角度

が β であるので、動翼

に作用する相対風速

Wmは次式より求める。

迎角αmは相対風速Wmと動翼の翼弦とのなす角である

ので、(2)式で表す。

動翼 1 枚に作用するトルクを Tmとし、相対速度 Wm

を用いて(3)式で表す。

ただし、CTはトルク係数、ρは空気密度、Hは翼弦の高

さ、Lrは動翼の翼弦長、R は風車の中心から動翼の空力

中心までの距離である。

風車の軸トルク T は風上側の動翼 1 枚のトルク Tmか

ら動翼と静翼の枚数を考慮して(4)式とする。

出力 Pは(4)式で求めた軸トルクTと回転速度Nから

(5)式により求める。

P=2πN

60T (5)

Wm=Vm cos β

cosαm (1)

αm=tan-1 (Vm sin β -VtVm cos β

) (2)

Tm=0.5CTρLrHWm2R (3)

T=Nr/2

Ns/2∑ Tm

Ns/2

m=1

(4)

図1.静翼付抗力形

多翼垂直軸風車

図 2.動翼に作用する風速

2015 年電気設備学会全国大会

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B-20

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参考文献 (1) 石川ほか,「静翼付抗力形多翼風車の解析~風車特性の計算方法の検討~」,2007年電気設備学会論文集,C-20,pp.157-158(2007) (2) 丹代ほか,「静翼付抗力形多翼垂直軸風車における負荷トルクに関する検討」,2014年電気設備学会論文集,A-4,pp.7-8(2014) (3) 新田ほか,「静翼付抗力形多翼垂直軸風車における静翼間流路の風速分布」,平成 23年電気設備学会全国大会論文集,7-080,pp.124-125(2011) (4) 高橋ほか,「静翼付抗力形多翼風車に用いる動翼の空力特性」,第54回日本大学理工学部学術講演会論文誌,pp1023-1024(2010)

図3.静翼流路の風速分布

4.風車特性の算出条件

静翼流路風速

の入射角度 β を

10~80deg まで

10deg ずつ変化

させたときのト

ルク及び出力を

回転速度Nは無

負荷回転速度ま

で(1)~(5)式より

算出した。風車

の諸元を表 1 に

示す。図 3は(1)

式に用いる静翼

流路風速 Vm の

実測値(3)の一例

である。図 4 は

(3)式に用いるト

ルク係数CTで実

測値(4)である。

5.結果

風速9m/s、空

気密度ρ=1.243kg/m3におけるトルク特性を図5、出力特

性を図6に示す(4)。

図 5 において、トルクは入射角度に関わらず回転速度

が低いと大きく、回転速度が速くなるにつれて小さくな

る。また、回転速度 5min-1 におけるトルクは入射角度

10degでは1.7Nm、20degでは3.2Nm、30~80degでは

約 4Nm となる。トルクがゼロとなる無負荷回転速度は

入射角度10degでは16min-1、20degでは38min-1、30deg

では 59min-1、40deg では 74min-1、50~80deg では約

90min-1となる。このことから、入射角度50~80degでは

入射角度 10~40deg に比べて大きなトルクが得られ、入

射角度に対するトルクの変化が小さい。

次に出力を検討する。図 6 において、出力最大値での

回転速度は入射角度 10deg では 10min-1、20deg では

20min-1、30degでは30min-1となり、入射角度の増加に

より回転速度は速くなるが、40~80deg では約 40min-1

と入射角度の変化に対して最大出力となる回転速度の変

化が小さくなる。図 7 に各入射角度の最大出力を示す。

最大出力は10degでは0.9W、20degでは4.4W、30deg で

は7.0W、40degでは9.2Wとなり、10~40degでは入射

角度の増加により最大出力は大きくなるが、40~80deg

では 8.2~9.5W となり入射角度に対する出力最大値の変

化が10~40degと比べて小さい。また、最大出力は50deg

で9.5Wを得る。

図4.トルク係数

図5.トルク特性

図6.出力特性

図7.最大出力

6.まとめ

本稿では静翼付抗力形多翼垂直軸風車の動翼に作用す

る風速の入射角度に着目し、トルク及び出力の計算を行

った。

入射角度 10~40deg ではトルク及び最大出力は入射角

度の増加により大きくなるが、40~80degでは入射角度に

対するトルク及び最大出力の変化は 10~40deg と比べて

小さくなった。また、最大出力は 50deg程度で得られる

ことを明らかにした。

70

35

0.550

0.450

0.465

0.350

0.400

0.100

静翼の翼枚数Ns

動翼の翼枚数Nr

動翼の外側の半径Rro[m]

静翼の外側の半径Rso[m]

静翼の内側の半径Rsi[m]

風車の中心からの動翼の空力中心までの距離R[m]

0.425

動翼の内側の半径Rri[m]

翼弦の高さH[m]

動翼の翼弦長Lr[m]

表1.風車の諸元

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