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1 P127 細胞化が起きた胚の各細胞に,前後軸に沿った細胞の位置 特性を与える遺伝子群。この遺伝子発現を誤ると,その体節 に身体の別な構造(奇形)が形成される。 例:アンテナペディア遺伝子 バイソラックス遺伝子 図6・20 P128 (A)アンテナペディア遺伝子の突然 変異によって,触角の位置に肢 が生えてくる。 (B)バイソラックス遺伝子の突然変異 によっては,胸部が二つできる。 B A ショウジョウバエで見つかっ たこの配列は,マウスの例 にあるように生物に共通し た配列である。 ホメオボックスを含む遺伝 子をホメオボックス遺伝子 という 図6・21 P128 ハエのHOM遺伝子は8つだが, ヒトのHox遺伝子は13あり,さら に,A,B,C,Dの4つのクラス ターに分かれている。 ショウジョウバエのeyeless(Pax6)遺伝子は,場所がどこであれ, 複眼をつくらせることのできる遺伝子である。さらに,ラットのPax6 遺伝子をハエで発現させてもやはり肢や触覚に「ハエの眼」がで きる。

B (A) (B) A - 弘前大学nature.cc.hirosaki-u.ac.jp/lab/3/animsci/PDF/BiologyC-3.pdfcactus (cac) * cacをもつ胚は腹側化ができる。bicoid (bcd)* 前後軸を決定する。nanos

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Page 1: B (A) (B) A - 弘前大学nature.cc.hirosaki-u.ac.jp/lab/3/animsci/PDF/BiologyC-3.pdfcactus (cac) * cacをもつ胚は腹側化ができる。bicoid (bcd)* 前後軸を決定する。nanos

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P127

細胞化が起きた胚の各細胞に,前後軸に沿った細胞の位置

特性を与える遺伝子群。この遺伝子発現を誤ると,その体節

に身体の別な構造(奇形)が形成される。

例:アンテナペディア遺伝子

バイソラックス遺伝子

図6・20P128

(A)アンテナペディア遺伝子の突然変異によって,触角の位置に肢が生えてくる。

(B)バイソラックス遺伝子の突然変異によっては,胸部が二つできる。

B

A

ショウジョウバエで見つかったこの配列は,マウスの例にあるように生物に共通した配列である。

ホメオボックスを含む遺伝子をホメオボックス遺伝子という

図6・21P128

ハエのHOM遺伝子は8つだが,ヒトのHox遺伝子は13あり,さらに,A,B,C,Dの4つのクラスターに分かれている。

ショウジョウバエのeyeless(Pax6)遺伝子は,場所がどこであれ,複眼をつくらせることのできる遺伝子である。さらに,ラットのPax6遺伝子をハエで発現させてもやはり肢や触覚に「ハエの眼」ができる。

Page 2: B (A) (B) A - 弘前大学nature.cc.hirosaki-u.ac.jp/lab/3/animsci/PDF/BiologyC-3.pdfcactus (cac) * cacをもつ胚は腹側化ができる。bicoid (bcd)* 前後軸を決定する。nanos

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遺伝子名 解 説

dorsal(dl)* 背側化遺伝子と名付けられた腹側化遺伝子の活性化遺伝子。dorsalの欠損で,腹側のない背側化奇形ができるのでこの名が付いた。

Toll * 背腹軸形成を制御する遺伝子。Tollの産物は膜結合型受容体であり,欠失すると腹側の背側化が起こる。

cactus (cac) * cacをもつ胚は腹側化ができる。

bicoid (bcd) * 前後軸を決定する。

nanos (nos) * Nanosタンパク質はBicoidタンパク質とは逆に,後部に濃く,前部で薄い濃度勾配で分布する。Hunchbackタンパク質の阻害作用あり。

torso (tor)* 胚の末端の形成に関与する。

*,母性効果遺伝子=母親の遺伝子産物が子供の表現型に影響を与える遺伝子。

遺伝子名 解 説

ギャップ遺伝子群 母性遺伝子群に次いで発現し,連続する体節の形成に関与する。

ペアルール遺伝子群 ギャップ遺伝子産物に活性化され,分節化に関与する。

セグメントポラリティ遺伝子群

分節遺伝子群。ペアルール遺伝子群に活性化され,擬体節(分節化,区画化)を確立する。

ホメオティック遺伝子群

前後軸に沿った細胞の位置特性を与える。発現がうまくいかないと,その体節に体の別な構造物が形成される。

hunchback (hb) ギャップ遺伝子群の1つ。bioidと協調して,頭部形成と他のギャップ遺伝子の制御を行う。

Krüppel (Kr) ギャップ遺伝子群の1つ。

knirps (kni) ギャップ遺伝子群の1つ。

fushi tarazu (ftz) ペアルール遺伝子群の1つ。7本のバンドの偶数番目の擬体節を発現する。

engrailed (en) セグメントポラリティ遺伝子群の1つ。擬体節の前部区画を確定し,同じ分節遺伝子のhedgehog (hh)を活性化する。

アンテナペディア遺伝子群

ホメオティック遺伝子群の1つ。頭部,前胸,中胸の形成を支配する。

バイソラックス遺伝子群

ホメオティック遺伝子群の1つ。後胸,腹部,(尾部)の形成に関与する。

P129

ある種の生物において,細胞の運命は,卵割中に獲得した卵細胞質の分配の程度に依存する(モザイク的)。このような細胞は,他の細胞とは独立して分化し,発生する。

軟体動物,被嚢類,線形動物,昆虫

発生の大部分はモザイク様式であるが,ある程度の相互作用的決定もみられる。

誘導的相互作用が細胞運命を決定する機構をもつ生物について学んでみよう。

P129

動物細胞層

動物細胞層

ウニの卵割は4細胞になるまでは動植物軸に沿って起きる(経卵割)。したがって,いずれの割球も動物半球と植物半球の細胞質をもつ。

P129 P129

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動物細胞層

動物細胞層

第3卵割は赤道卵割で,ほとんど同じ大きさの割球からなる8細胞期胚を生ずる。

(A)ウニ卵の各半分(卵片)

が動物極および植物極細胞質を含むように経線で分割すると,小さいが正常に見える幼生が発生した。

(B)ウニ卵を動物極と植物

極に分け,それぞれの半分を精子で受精させると,動物極を含む半分は繊毛をもった永久胞胚を,植物極の半分は広がった腸をもつプルテウス幼生をつくった。

図6・23P129(A) (B)

(A) (B)

(A)動物極の4つの割球を

植物極から分離し,半分をそれぞれ発生させると,動物極細胞は繊毛をもった永久胞胚を形成し,植物極細胞は広がった腸をもつ幼生をつくる。

(B)8細胞期胚をそれぞれ

の半分が動物極細胞と植物極細胞を含むように分けると,小さいが正常に見える幼生が発生する。

図6・23P129

図6・24P129

(A) (B) (C)

(A)イモリの受精卵を結紮糸で結ぶと,核は胚の半分に閉じ込められる。核をもつ側の部分は8細胞期になるが,他方では分裂はみられない。(B)16細胞期に,結紮糸をゆるめ分裂していない細胞質に1個の核を移動させ,再度,結紮糸をきつく締めた。(C)140日後,両側から正常な胚が発生した。(Spemann, 1938)

(A)第1卵割面に沿って灰色新月環を2分するように,卵子を実験的に分離しても,それぞれは正常に発生する。

(B)片方に灰色新月環全体が行くように分離すると,これは正常に発生するが,他方は背側構造をもたず,組織のない塊のままである。

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しかし,同様の実験を縦方向に,ただし第1卵割面に垂直に(将来の背側と腹側領域を分離する様に)結紮すると,全く異なった結果が得られた。

||

図6・25P131

(A)初期嚢胚期の予定神経外胚葉

を,別の同じ時期の胚の予定表

皮域に移植すると,細胞運命が

変わって表皮になる。

(B)発生が進んだ後期嚢胚期の胚

の予定神経域を同じ時期の予

定表皮域に移植しても,細胞運

命はもはや変わらない。

分化の道筋が最終的に制限されて,他のタイプの細胞には分化できなくなった状態

図6・26P131

①②

中胚葉は二種類の細胞間の相互作用に

よって作られる。

(Nieuwkoop, 1965)

図6・27P132

予定外胚葉と予定内胚葉を組み合わせると,

筋肉,脊索,間充織などの中胚葉組織がで

きた。

結果

結論

動物極細胞を植物極の各割球と結合させた。再構築後の誘導の結果は右表に示してある。最も背側にある植物極細胞のD1割球が動物極細胞を誘導して背側中胚葉を形成させる能力が高い。

中胚葉誘導は,動物半球にある細胞の性質をより植物極側(内胚葉側)の性質をもつようにする現象

現在: Vg1,nodal(ノダール)など

(分子量13,000のペプチド)

FGFファミリーに属する因子(1987年)

Fibroblast Growth Factor

(分子量24,000のペプチド)

TGF‐βファミリーに属する因子

中胚葉誘導内胚葉誘導←注目すべき現象

Transforming Growth Factor

P132

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アニマルキャップを処理するアクチビンの濃度が低いと表皮や腹側の中胚葉が,高いと筋肉や脊索などの背側の中胚葉が形成されるようになる。

P132

胚のある部域が別の部域に影響を及ぼして,その発生運命を変える現象

そのような活性をもつ部域

図6・28P132

(A)初期嚢胚の原口背唇部を,別の初期嚢胚の

正常なら腹側表皮になる部位に移植した。

(B)組織が陥入して第2次原腸を形成し,次いで

第2の胚軸を形成した。

(C)新しい神経管,脊索,および体節には移植組

織(赤色)と宿主組織の両方が認められた。

(D)最終的には,宿主にくっついて第二の胚(二

次胚)が形成された。

(Spemann & Mangold, 1924)

ハンス・シュペーマンHans Spemann

ヒルデ・マンゴルドHilde Proesholdt Mangold

原口背唇部がまわりの組織の形成を開始させる(1924年)

P132

図6・29P133

(D)胴の背側と尾の中胚葉の

形成を誘導

嚢胚形成を完了した胚の原腸蓋を初期嚢胚の胞胚腔に移植する(赤色で示す) 。

Otto Mangold, 1933

(A)粘着器と口器

(B)粘着器,鼻,眼

(C)耳胞(聴覚器)

P134

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図6・30P134

(A)神経管の前方で,前脳の一部

が両側に向かって袋状にせり出し,眼胞になる。

(B)眼胞は外胚葉と接し,これを誘導して将来水晶体(レンズ)に分化する水晶体板(レンズプラコード)を形成させる。

(C)水晶体板は逆に眼胞を誘導し

て陥入させ,二重の壁からなる眼杯を形成させる。

(D)眼杯は接している水晶体板をく

びり取って,これが水晶体になる。これが,残った外胚葉に接し,この部分が角膜になる。

(E)眼杯はさらにくぼみ,外側が色素上皮層,内側が網膜となる。

P134

シグナル伝達細胞間コミュニケーション細胞認識と接着細胞外基質と細胞運動

=細胞内で情報を伝達する仕組み

P134

シグナル

伝達分子

細胞膜を通過

できる

a. ステロイド

ホルモン受容体

細胞膜を通過

できない

b. イノシトール

脂質

c. チロシン

キナーゼd. TGF‐

transforming growth factor

形質転換増殖因子

1.内分泌細胞で分泌されたステロイドホルモンは標的細胞に運ばれる。

2.ステロイドホルモンは小分子量で,脂溶性なので細胞膜を自由に通過できる。

3.ステロイドホルモンは細胞質を通過して核に到達する。

4.核内で生じたホルモン-受容体複合体は,特異的なDNA配列に結合する。

5.その結果,特異的な遺伝子が活性化し,mRNAが転写される。

6.合成された特異的なタンパク質がホルモンとしての反応を誘起する。

P135

ステロイドホルモン受容体=ホルモン結合領域+DNA結合領域+転写活性化領域

図7・22P155

P134

シグナル

伝達分子

細胞膜を通過

できる

a. ステロイド

ホルモン受容体

細胞膜を通過

できない

b. イノシトール

脂質

c. チロシン

キナーゼd. TGF‐

transforming growth factor

形質転換増殖因子

サイクリック AMP  (cAMP )

タンパク質キナーゼを活性化して,種々のタンパク質をリン酸化する。

イノシトール 1,4,5‐トリスリン酸 ( IP3 ) 

細胞内のCa2+濃度を上昇させる。Ca依存性の酵素群が活性化する。

P134

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1.内分泌細胞によって分泌されたホルモン(図中H)は血流により標的細胞に運ばれる。2.ペプチド・ホルモンは標的細胞の受容体(R)に結合する。3.ホルモン受容体複合体は,細胞内にあるアデニール・シクラーゼを活性化し,ATPを

cAMPへ変換する。4.cAMPはタンパク質キナーゼを活性化する。5.それにより特定のタンパク質がリン酸化される。6.標的細胞の活性に変化が生じる。

a ①細胞膜上の受容体にホルモンが結合する。

②ホルモン-受容体複合体がGタンパク質に結合する。

b ③Gタンパク質上のGDPがGTPに置換する。

④Gタンパク質は立体構造を変え,アデニール・シクラーゼと結合する。

⑤アデニール・シクラーゼが活性化され,ATPがcAMPへ変換される。

①シグナル分子はGタンパク質に

働きかけ,アデニール・シク

ラーゼを活性化してcAMPを合

成させる。

②合成されたcAMPがキナーゼ

(PKA)を活性化する。

教科書になし

活性型アデニール・シクラーゼ

Caイオンが第2メッセンジャー

シグナルが受容体に結合すると,Gタンパク質はGTPと結合し,ホスホリパーゼCを活性化する。これにより,IP3とDGが産生され,貯蔵Caが放出される。DGはCキナーゼを活性化する。

図6・32P135

受容体タンパク質の細胞外領域にEGFが結合すると,チロシンキナーゼが活性化され,これにより特定のタンパク質がリン酸化される。

図6・31P134

図6・33P136

Bone Morphogenetic Protein骨形成タンパク質

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カルシウム calcium と接着 adhere にち

なみ,その発見者である竹市雅俊らにより命名

図6・34P136

(A)中胚葉細胞は表皮

細胞の内側に接着する。

(B)中胚葉細胞は内胚

葉細胞の内側に移動する。

(C)表皮細胞は表面に,

内胚葉細胞はその内部に,中胚葉細胞はこの両胚葉の間に配置する。

(D)表皮細胞は表面に,

神経板細胞は内側に神経管のような構造をつくった。

(E)外側に表皮,中心部

に神経組織,両者間に中胚葉性の体節と間充織様の構造をつくった。

カドヘリンの蛍光抗体染色像

赤く染まっているのがカドヘリン,緑はアクチンフィラメントである。黄色い部分は,カドヘリンとアクチンフィラメントの分布が重なっている。

カドヘリンは,細胞膜を貫通する膜タンパク質である。向かい合う細胞の間でカドヘリン分子同士が結合することにより,細胞と細胞を接着させている。カドヘリンの細胞質側にはp120カテニンとβカテニンが直接結合し,後者にはαカテニンが結合して,さらにαカテニンはアクチンフィラメントと結び付いている。

同じ種類のカドヘリン同士が特異的に結合する。

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P125

Epithelium=上皮Basal Lamina=基底層Collagen=コラーゲン

図6・35P137

アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(アミノ酸の1文字記号ではRGD)

ゼノパス胚におけるフィブロネクチン(緑色)

原腸胚形成期における中胚葉細胞の移動の方向付けをする。

フィブロネクチン

図6・36P138