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71 2. 身体ケア 7 練習問題 あなたは避難所に派遣されたボランティアの看護師です.避難所は,小学校の体育館,要 支援者は高齢者が約 40%を占め,30 世帯,90 人が避難しています.あなたが所属するボラ ンティア看護チームは 15 人で,1 週間の活動予定です.どのように清潔に関する身体ケア の提供,あるいは指導を行いますか? ① 避難所にいる方々へ広報するためのポスターを作成してみましょう. ② ケアを提供あるいは指導する準備をしてみましょう. 1 医療救護活動の全体像から見たテーマの位置づけ (図Ⅱ - 25) 足湯は,お湯に足を浸して温めることで血液循環を促進し全身が温まり,全身のリラック スを促し,睡眠を促進します.また,マッサージは,手全体で身体にタッチすること,撫で る,もむ,押す,叩くという刺激を与えることで,全身の血行を促します.リラックスの効 果も期待できます. 足湯・マッサージは,人と人とのコミュニケーションを持てる時間でもあります.被災者 が自分の思いを語り,看護師は被災者の話を聴くことができる機会でもあります.「心地よ い」,「落ち着ける」という時間と場所を提供できる援助技術の習得を目標とします. B 足湯・マッサージ 図Ⅱ- 25 医療救護活動の全体像から見た「足湯・マッサージ」 仮設住宅 避難所 災害 <急性期> <中長期> 被災者 <亜急性期> ストレス 不安・不満 疲労の蓄積 食欲不振 下肢静脈血栓 清潔の不足 感染症の発症 血行促進 リラックスの効果 清潔の保持 被災者が思いを語れる 時間と場所の提供 健康問題 足湯・マッサージ

B 足湯・マッサージ72 第Ⅱ章被災者の観察と基本的なケア 2 演習の目標 ① 避難所生活の中で,足湯・マッサージを行う目的を説明できる.

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Page 1: B 足湯・マッサージ72 第Ⅱ章被災者の観察と基本的なケア 2 演習の目標 ① 避難所生活の中で,足湯・マッサージを行う目的を説明できる.

712. 身体ケア

7 練習問題 あなたは避難所に派遣されたボランティアの看護師です.避難所は,小学校の体育館,要

支援者は高齢者が約 40%を占め,30 世帯,90 人が避難しています.あなたが所属するボラ

ンティア看護チームは 15 人で,1 週間の活動予定です.どのように清潔に関する身体ケア

の提供,あるいは指導を行いますか?

 ① 避難所にいる方々へ広報するためのポスターを作成してみましょう.

 ② ケアを提供あるいは指導する準備をしてみましょう.

1 医療救護活動の全体像から見たテーマの位置づけ(図Ⅱ- 25) 足湯は,お湯に足を浸して温めることで血液循環を促進し全身が温まり,全身のリラック

スを促し,睡眠を促進します.また,マッサージは,手全体で身体にタッチすること,撫で

る,もむ,押す,叩くという刺激を与えることで,全身の血行を促します.リラックスの効

果も期待できます.

 足湯・マッサージは,人と人とのコミュニケーションを持てる時間でもあります.被災者

が自分の思いを語り,看護師は被災者の話を聴くことができる機会でもあります.「心地よ

い」,「落ち着ける」という時間と場所を提供できる援助技術の習得を目標とします.

B 足湯・マッサージ

図Ⅱ- 25 医療救護活動の全体像から見た「足湯・マッサージ」

仮設住宅倒壊した家屋

 

からの救出

避難所災害

<急性期> <中長期>

被災者

<亜急性期>

・ ストレス・ 不安・不満・ 疲労の蓄積・ 食欲不振・ 下肢静脈血栓・ 清潔の不足・ 感染症の発症        

・ 血行促進・ リラックスの効果・ 清潔の保持・ 被災者が思いを語れる 時間と場所の提供

健康問題 足湯・マッサージ

Page 2: B 足湯・マッサージ72 第Ⅱ章被災者の観察と基本的なケア 2 演習の目標 ① 避難所生活の中で,足湯・マッサージを行う目的を説明できる.

72 第Ⅱ章 被災者の観察と基本的なケア

2 演習の目標① 避難所生活の中で,足湯・マッサージを行う目的を説明できる.

② 足の状態,マッサージ部位の皮膚の状態や症状をアセスメントできる.

③ 避難所という生活の場の中で足湯を行うための技術を習得する.

④ 必要最小限の資源で最大の効果を上げる工夫をする.

3 演習の準備物 品

◦ 足湯用:お湯(38 〜 39℃),湯を入れる容器(足が入る大きさの段ボール箱あるいはバケツ)1 つ,

ビニール袋(容器を覆える大きさ)1 枚,タオル 1 枚(1人1枚),ビニールシートや新聞紙など.

 *座位で行う場合:椅子またはそれに代わるもの(毛布をたたんで重ねる).

◦ マッサージ用:手拭き用のウエットタオル(ウエットティッシュでも可),必要に応じてハ

ンドクリーム,速乾性手指消毒液.

役割分担

 看護師役,被災者役,観察者に分かれる.

演習場所

 湯を用いて実習ができる講義室または実習室.

場面設定

 あなたは避難所にボランティアとして派遣された看護師チームです.A さん(60 歳,男性)

は,腰痛があるのでなかなか外出できず,避難所の外でタバコをひとりで吸っている姿をよ

く見かけます.みんなが談話する集会室前のホールに 6 人が並んで足湯ができるコーナーを

設置しています.そこで足湯を行ってみないかすすめてみました.

 B さん(80 歳,女性)は,杖を使って歩行します.「家族が帰ってくるまでは,あまり歩か

ない.足がだるい」と言っています.みんなが談話する集会室前のホールの足湯と向かい合

った場所に足マッサージコーナーを設置しています.相談室のベッドで寝て行うこともでき

ます.B さんにマッサージを行ってみないか提案してみました.

4 演習のフローチャート(図Ⅱ- 26)【足 湯】

① オリエンテーション(→『災害演習』p.63 〜 66, 131 〜 140 を参照)(5 分)

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732. 身体ケア

② デモンストレーション(10 分)

◦ ダンボールで足湯用容器を作る.足湯の方法は,看護技術の「足浴」に準ずることを説明

する.

③ 設定場面の解釈と役割分担(5 分)

◦ 3 人 1 組のグループになり,A さん役 1 人,ケア実施の看護師役 1 人,観察者 1 人を決

める.

④ 看護技術演習(15 分)

◦ 看護師役は,A さん役に足湯の目的,効果,方法,実施時の留意事項などを説明する.

◦ 看護師役は,A さん役の体調と足湯を行おうと考える部位を観察して,足湯を行ってよ

いかをアセスメントする.

◦ お湯や必要物品を用意し,温度に注意しながら足湯を行う.足湯の間に,A さん役に気

分などを尋ねる.「気分はいかがですか?」など話しかける.

⑤ 看護技術演習時の行動を振り返る(5 分)

⑥ 役割を交代して,看護技術演習④,⑤を繰り返す

⑦ グループディスカッション(20 分)と全体発表,それを含めた自己評価

【マッサージ】

① オリエンテーション(→『災害演習』p.63 〜 66, 131 〜 140 を参照)(5 分)

② デモンストレーション(10 分)

◦ マッサージの方法は,教員がデモンストレーションする.ビデオや DVD に収めておき,

学生が見ながら実施するようにすると,適切な方法で実施しているか確認・指導がしや

すい.

③ 設定場面の解釈と役割分担(10 分)

◦ 3 人 1 組のグループになり,B さん役 1 人,ケア実施の看護師役 1 人,観察者 1 人を決

める.

④ 看護技術演習(15 分)

◦ 看護師役は,B さん役にマッサージの目的,効果,方法,実施時の留意事項などを説明

する.

◦ 看護師役は,B さん役の体調とマッサージを行おうと考える部位を観察して,マッサー

ジを行ってよいかをアセスメントする.

◦ 看護師役は自分の手を拭き,触る強さに注意しながらマッサージを行う.マッサージの

間に,B さんに気分などを尋ねる.「足のだるさは楽になりましたか?」など話しかける.

⑤ 看護技術演習時の行動を振り返る(5 分)

⑥ 役割を交代して,看護技術演習④,⑤を繰り返す

⑦ グループディスカッション(20 分)と全体発表,それを含めた自己評価

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74 第Ⅱ章 被災者の観察と基本的なケア

5 演習で用いる知識と技術1◦足湯・マッサージ実施に対するアセスメント

● 身体のアセスメント

● 環境のアセスメント

図Ⅱ- 26 看護技術演習「足湯・マッサージ」のフローチャート

❶ �足湯やマッサージが実施可能かどうか以下の❷,❸の事項からアセスメントを行う.❷ �血圧が高い,発熱や痛みの有無,足の皮膚の状態(損傷,発赤,腫脹,掻痒感などの有無)を観

察して,足湯を実施してよいかアセスメントする.❸ �日常生活行動の自立度を観察して,安楽で安全な姿勢・体位についてアセスメントする.

留意点▶▶

◆ �実施を控えた方がよいのは,血圧が高い,皮膚の出血傾向がある,急性炎症症状がある,皮膚の損傷や骨折などがある場合である.このような症状があるときは,実施に際して医師に相談した方がよい.疼痛の部位は避ける.

◆ �足湯,マッサージを行うことで苦痛が生じた場合は,直ちに中止することを説明する.痛みや気分不快など苦痛が生じた場合は,中止して,必要ならば医師の診察を受ける.

❶ �足湯は,湯や水の準備,また排水を考えることが必要である.湯や水がある程度確保できることと,排水設備(汚れた水を捨てる場所がある)が整っていることを確認してから開始する.

❷ �準備や後始末を考えると,湯や水の運搬が容易であること,人通りの邪魔にならない,足湯容器を置いて座るスペースが確保できることなどを考えて,足湯をする場所を設定する.

Aさん,Bさんに声かけ,話しかけ コミュニケーション

観察(表情・顔色,下肢,脈,血圧など)

観察(表情・顔色,下肢,脈など)

身体の状態のアセスメント

話を聴く

安楽な体位の保持コミュニケーション

爽快感を引き出して,リフレッシュを促す

マッサージの物品の準備

マッサージ

足湯の物品の準備

足 湯

場所の設定

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752. 身体ケア

2◦足 湯

図Ⅱ- 29 足を湯につける

❶ �足湯を行うことを説明する.❷ �湯の準備をする.給湯場所から遠い場合や段ボール箱で足湯を行う場合は,バケツにビニール

袋をかぶせてから湯を入れる.ビニール袋の口を縛っておくと湯をこぼすことがない(図Ⅱ-   27).❸ �段ボールをビニール袋で覆う(図Ⅱ- 28).湯を入れる容器は,バケツやタライにこだわらず活用

できる.1回ごとにビニール袋を替えることで容器は繰り返し使用でき,また感染予防と容器を洗う水を削減できる.

❹ �運んできた湯は,風呂手桶や片手鍋などを利用して,足湯容器に移す.❺ �Aさんの足をゆっくりと湯に入れ,温度を確認してもらう.しばらく湯に足を入れておき(図Ⅱ-   29),足に汚れがあるときは石鹸を使用して洗う.❻ �湯から足を出して,水分を十分に拭き取る.段ボールの下にタオルを敷いておくと,濡れた足

を置く場所となる.

留意点▶▶

◆ �容器は深さがあるものを選択すると,湯につける足の範囲を多くできる.保温効果が高まり,浴槽に入ったような気分になる.

◆ �心身をリラックスさせ,睡眠を促しやすいので,足浴を実施する時間を考慮するとよい.◆ �床に水分があると滑りやすいので,濡らしたらすぐ拭く.◆ �足湯時には,被災者の表情や顔色,疲労感,下肢の皮膚の温度・色などを観察しながら行う.

図Ⅱ- 28 段ボールで足湯の容器を作る図Ⅱ- 27 お湯の運び方しっかり口を縛り,容器に入れて運ぶ.

お湯

❸ �足湯やマッサージに来る人の移動が困難ではない,1階や段差のない場所を選択する.❹ �冬場などは,温度や風の動きにも配慮し,寒くない場所で行う.❺ �座って行う場合は,階段に毛布や座布団を敷き,椅子代わりにするのも1つの方法である.

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76 第Ⅱ章 被災者の観察と基本的なケア

3◦手・足のマッサージ ● 開始前の準備

● 手のマッサージ

❶ �手足の状態(創傷,発赤,腫脹,痛みの有無など)をアセスメントする.❷ �始める前に「肩の力を抜き,リラックスしてください」と声をかけるが,緊張しているときは,

1回大きく深呼吸をしてもらう.❸ �看護師の手洗いをする.ウエットタオルを用意して,マッサージを行う前後で手を拭く.また,

手指の消毒をする.

留意点▶▶

◆ �長くなって疲労しないように注意する.◆ �マッサージ時には,被災者の表情や顔色,皮膚の温度,色,腫脹の有無などを観察しながら行う.

図Ⅱ- 30 手のマッサージの方法⒜両手で軽く手を挟む. ⒝左手で手を支え,右手で指をマッサージする.

❶ �看護師の手に被災者の手のひらを置き,もう片方の手を上から軽く挟むようにする(図Ⅱ- 30a).❷ �手のひら全体を使って,ゆっくりと一定のリズムで撫でる.強過ぎないように注意する.強く

ないか声をかけながら行う.❸ �指は1本ずつ軽くひっぱるようにして撫でる(図Ⅱ- 30b).❹ �片方が終わったら,看護師の手に被災者の手のひらを置き,もう片方の手を上から軽く挟むよ

うにする.❺ �もう一方の手のマッサージを行う.

留意点▶▶

◆ �手浴を行ってからマッサージを始めると,よりリラックスする.◆ �マッサージ時には,被災者の表情や顔色,皮膚の温度,色,腫脹の有無などを観察しながら行う.◆ �看護師も椅子に座って,被災者と視線の高さを合わせる.

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772. 身体ケア

● 足のマッサージ 足底→踵・土踏まず→足背→足全体→足の指→足全体の順にマッサージします.

図Ⅱ- 31 足のマッサージの順番・⒜〜⒞,⒠は足底側から見た写真.・⒟,⒡は足背側から見た写真.・⒢は足の横から見た写真.

⒜ ⒝ ⒞

⒟ ⒠ ⒡

❶ �握った指の背で踵から指へ向けて,円を描くようにマッサージする(図Ⅱ- 31a).❷ �両拇指で円を描くように足底をマッサージする(図Ⅱ- 31b).❸ �片方の手で踵を支え,拇指で踵と土踏まずを小さな円を描くようにマッサージする(図

Ⅱ- 31c).❹ �足首から指に向かって,指のそれぞれの骨に沿って,やさしくマッサージする(図Ⅱ- 31d).❺ �足背に拇指,そのほかの指を足底に当て,握るように圧迫し踵から指に向けて3回マッサージ

する(図Ⅱ- 31e).❻ �指を1本ずつ,軽く引き左右にやさしくゆっくりと回す(図Ⅱ- 31f).❼ �両手で足を数秒間挟んで,終了する(図Ⅱ-31g).

留意点▶▶

◆ 足浴を行ってからマッサージを始めると,よりリラックスする.◆ �マッサージ時には,被災者の表情や顔色,皮膚の温度,色,腫脹の有無などを観察しながら行う.

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78 第Ⅱ章 被災者の観察と基本的なケア

6 演習の評価行動の振り返り

① (看護師の立場で)準備は十分でしたか?事前学習はできていましたか?

② (看護師の立場で)声かけや事前の状況説明は的確でしたか?

③ (A さん,B さんの立場で)効果や方法の説明はわかりやすかったですか?

④ (A さん,B さんの立場で)爽快感は得られましたか?

⑤ (A さん,B さんの立場で)自分でも活用してみようと思えましたか?

⑥ 足湯またはマッサージを体験して,どのようなことに気づきましたか?またどのような

ことを感じましたか?グループで話し合ってみましょう.

自己評価の視点

① 演習への参加姿勢はどうだったか.

② 体調,足またはマッサージ部位に関するアセスメントはできたか.

③ 対象者にとって安楽な姿勢で足湯ができたか.

④ 心地よいマッサージができたか.

⑤ 対象者とのコミュニケーションが取れたか.

7 練習問題 あなたはボランティアの看護師チームで,仮設住宅で生活している人に対して,足湯を行

う計画をしています.あなたが所属するチームは 15 人で,活動予定期間は 1 週間です.地

震により家屋の倒壊があり,6 ヵ月の避難所生活を終え,仮設住宅へ移りました.高齢者の

人口が約 40%を占め,30 世帯,75 人が住んでいます.1 人で生活している人も 10 人います.

① このケアにより期待される効果としてはどんなことがありますか?

② 足湯というケアを提供する準備として,どのようなことが必要かを考え実施しましょう.