岡 山 医 誌(1989)101, 1075～1079

Beautiful Bone Scanを 呈 した 胃癌 骨 転 移 の1例

岡山大学医学部放射線医学教室(主 任:平 木祥夫教授)

黒 田 昌宏,田 中 朗雄,山 本 淑雄,清 水 光 春

佐 藤 伸 夫,上 者 郁夫,橋 本 啓 二,平 木 祥 夫

国立療養所南岡山病院 内科

仲 田 浩之,木 畑 正 義

(平成元年10月9日 受稿)

Key words: Beautiful Bone Scan ,胃 癌,骨 転移,播 種性骨髄癌症

緒 言

骨 シンチ グラム にて,四 肢 骨 に くらべ て躯 幹

骨 が び まん性 に 非常 に濃 く美 し く描 出 され て い

るに もか か わ らず局 在性 の病 巣が指 摘 で きず,

さ らに 腎が ほ とん どあ るい は全 く描 出 され ない

とい う所 見が み られ る症例 に出会 うこ とが あ る.

この ような骨 シンチ グラムはbeautiful bone scan

あ るいはsuper bone scanと 呼 ばれ1),病 変が び

まん性 に あ るに もか かわ らず 見逃 され る可能性

が 高 く,読 影 時 の注 意が 必要 で あ る. beautiful

bone scanを 呈 す る疾 患 には悪 性腫瘍 骨転 移や

種 々 の代 謝 性骨 疾 患 な どが あ るが,も と もと骨

転移 の頻 度 が比 較 的少 な い 胃癌 に よる報告 は少

な い.今 回我 々は,女 性 の 胃癌 患者 にて この よ

うな症例 を経験 したので,若 干 の文献 的考察 を

加 えて報告 す る.

表1　 入院時血液 ・生化学所見

症 例

患者: 46歳,女 性

主 訴:腰 痛

既往 歴:昭 和37年 虫垂切 除術

家族 歴:特 記 すべ きこ とな し

現病 歴:昭 和63年8月 中旬 よ り腰 痛 お よび顔 色

不 良が 出現 したため近 医 を受診 し貧血 を指摘 さ

れ, 9月20日 貧 血の悪 化の ため紹 介入 院 とな っ

た.入 院 時血液,生 化 学所 見(表1)で は,貧

血お よび血 小板 減少,肝 ・胆道系 酵素上 昇,骨

性ALPの 上昇,フ ェ リチ ンの上 昇がみ られ まず

白血病 を疑 い,骨 髄穿刺 を行 なったがdry tapで

1075

1076　 黒 田 昌宏:他9名

あ り,続 けて行 った骨 髄生検 では低 分化 腺癌 の

転移 とい う所 見が 得 られ た.こ の ため 原発 巣検

索 の ため消 化器 系 の ス ク リー ニ ン グ,主 訴 腰痛

に 対 して 骨 シ ンチ グラム を行 つ た.胃 透 視 お よ

び 胃内視鏡 に て, Borrman IV型 胃癌が,骨 シン

チ グ ラ ムに て び まん 性骨 転 移 を示 すbeautiful

bone scanの 所 見が得 られ た.腹 部CTで は腫

瘍 の 肝 内播種 を疑 わせ る肝臓 の不 規則 な内部 濃

度 の低 下 が み られ た.以 上 よ り胃癌 お よびび ま

ん性骨,骨 髄,肝 転移 との 診断 の もと, 5FU,

ADM, MMCに よるFAM療 法 を行 な ったが貧

血 の改善 が み られ ず,昭 和63年12月 か らは癌 細

胞 の髄 膜播種 に よ る意 識障 害 を併 発 し,平 成 元

年1月8日 永 眠 され た.

図1　 腰椎単純正面写真(初 診時)骨 転移 を疑わせ

る所 見はみ られない.

図2　 骨 シン チ グ ラム(図1と ほぼ 同時 期)99mTc.

HMDP 20mCi静 注3時 間 後 撮 像. absent

kidney signを 伴 うbeautiful bone scanで あ

る.

画 像 診 断

入院 後行 なわ れ た胃透視,内 視鏡 で は,胃 角

部 大 弯側 に 中央 に陥 凹 を伴 うBorrman III型様

の隆起 が み られ,そ こか ら胃体,幽 門部 にか け

て 胃粘 膜全体 に多発性 に小 び らんの散 在 がみ ら

れ た.隆 起 お よび び らん部 の生検 で は低 分 化腺

癌 の所 見であ り, Borrman IV型 胃癌 と診 断 した.

初 診時 近医 で とられた腰 椎正 面単 純写 真(図1)

及 び 同斜位,側 面像 及 び腰椎CTで は骨転移 の

所 見 はみ られ ないが,ほ ぼ 同時期 の骨 シンチ グ

ラム(図2)で は局所 的 なRIの 取 り込 み はみ ら

れず一 見正 常 だが,四 肢 骨,頭 蓋 骨 に くらべ て

躯 幹骨が非 常に美 しく描 出されるいわゆるbeauti

ful bone scanの 所見 で あ り,か つ 正常 で は描 出

され る腎臓が描 出 され ない とい うabsent kidney

signを 伴 って いた.こ れ か らび まん性 の骨転 移

が疑 われ,骨 髄 生検 の組 織 で骨梁 の間 に び まん

性 に腫 瘍細 胞浸 潤が み られ る とい う骨髄,骨 転

移 の所 見 に よ りこれ が うらづ け られ た.入 院 時

お よび3ヵ 月後 の胸部 単純 正 面写真(図3)で

は3ヵ 月間 で肋 骨,両 側上 腕骨 中枢 部 に著 明 な

び まん性骨硬 化 が 出現 してお り,こ の変 化 は脊

Beautiful Bone Scanを 呈 し た 胃癌 骨 転 移 の1例　 1077

椎 単純 写真 に て脊 椎 に もみ られ, 3ヵ 月後の脊

椎 はび まん性 骨硬 化 に よ りいわゆるivory verte

braの 状 態 を呈 した.

図3　 胸部単純正 面写真(上: 入院時,下: 3ヵ 月

後)3ヵ 月間で肋骨,両 側上腕骨中枢部にび

まん性骨硬 化が 出現 している.

考 察

beautiful bone scanを 呈 す る疾 患 には,骨 転

移,腎 性 骨 異栄 養症,副 甲状 腺機 能抗 進症 な ど

の種 々 の骨 代謝 性疾 患 があ るが2),悪性 腫瘍 の骨

転移 が代 表 的 であ る.こ の うち前 立腺癌 の骨 転

移 に関 す る報告 は 比較 的 多 くみ られるが3)-6),本

例 の よ うに も とも と骨転 移 の比較 的少 ない 胃癌

に よ る もの は稀 で あ る.

調べ えた範 囲内 では,胃 癌 でbeautiful bone

scanを 呈 した とい う報告 は海外 の文献 ではみ ら

れず,本 邦 で近 年 い くつ かの報告 がみ られるが7) 8),

胃癌 の1.29)-258)%に 骨 転移 がみ られ,,さらにそ

の1510)-208)%が び まん性骨 転移 であ るとい う報

告 もあ り,日 本 で は 胃癌発 生頻 度が 諸外 国 よ り

多 い とい う事情 も考慮 す る と,さ らに また今 回

の症例 の よ うに骨単純 写真 で の変化 に比 して,

骨 シ ンチ グ ラムで はよ り早期 に転 移 巣が検 出 で

きるこ とを考 えあ わせ る と,胃 癌 骨転 移 のス ク

リー ニ ン グに お い て,び まん性 骨 転 移 を示 す

beautiful bone scanの 所見 をみ お とさない一 層

の注 意が必 要 と思 われ る.

Beautiful bone scanは び まん性 かつ対称性 の

分 布 を呈す るため に視覚 的 診断 は時 に困難 な場

合 もあ り読 影の際 には腎の描 出度(absent kidney

signの 有無11))や 骨 ・軟部 コン トラス トに注 目

す るこ とが 大切 であ り,骨.腎 摂 取率比 や骨.

軟部摂 取率 比 を指 標 とす るこ と も提 唱 され てい

る12).ま たbeautiful bone scanの 出現 に先だ っ

て 多発 性のhot spotが み られ,こ れがbeautiful

bone scanに 変化 してゆ くとい う報告 もある7).

本例 の ご と く,脊 椎や 肋骨 な どの骨系 統すべ

てに わた ってび まん性 の転移 をきたす場合 は,

播 種性 骨髄癌 症 と呼ば れ,癌 骨転移 の稀 な一病

型 で通 常の骨 転移 とは 臨床病理 学 的に異 な る病

態像 として 注 目されて い る.辻 らは, 43症 例 の

播 種性 骨髄癌 症 を検 討 し,こ の うち84%が 胃癌

であ り,組 織 型の82%が 粘液 産生性 または低分

化 腺癌 であ った と報告 してい る13) 14).骨髄 転移 に

よ り骨硬 化 がお こ る原 因 と しては,局 所 の循環

障害,腫 瘍 に対す る防御 反応,癌 細 胞か らの化

学 物質分 泌,転 移癌 の 基質 の線維結 合織 細胞 の

骨 芽 細 胞へ の変 化 な どの 諸 説 が 報 告 され て い

る15).

文 献

1) Manier SM and Nostrand DV: Super bone scan. S Nucl Med (1984) vol. XIV No. 1, 46-47.

2) Datz FL: Gamut in nuclear medicine, Appleton-Century-Crofts INC, Conneticut (1983) pp. 61.

3) Witherspoon LIZ, Blonde L, Shuler SE and Mcburney DB: Bone scan patterns of patients with

diffuse metastatic carcinoma of the axial skeleton. J Nucl Med (1976) 17, 253-257.

1078　 黒 田昌宏:他9名

4) Thrupkaew AK, Henkin RE and Quinn JL: False negative bone scans in disseminated metastatic

disease. Radiology (1974) 113, 383-386.

5) Osmond JD, Pendergrass HP and Postsaid MS: Accuracy of 99mTc-diphosphonate bone scans and

roentgenograms in the detection of prostate, breast and lung carcinoma metastasis. Am J Radiol

(1975) 125, 972-977.

6) Constable AR and Cranage RW: Recognition of the superscan in prostatic bone scintigraphy. Br J

Radiol (1981) 54, 122-125.

7) 山 田佳 代 子,内 山 暁,瀬 戸一 彦: Beautiful bone scan.臨 核 医(1985)vol. 18 No. 52, 54-57.

8) 瀬 戸幹 人,利 波 紀 久,小 泉 潔,須 井 修,久 田欣 一:胃 癌 の 骨 転移.核 医(1983)20, 795-801.

9) Yoshikawa K, Kitaoka H: Bone metastasis of gastric cancer. Jpn JSurg (1983) 13, 173-176.

10) 大 山繁 和,米 村 豊,谷 屋 隆 雄,小 矢 崎直 樹,橋 本 哲夫,沢 敏 治,嶋 裕 一,三 輪 晃 一,宮 崎 逸夫:胃 癌

骨転 移 例 の 検 討.日 消外 会 誌(1987)20, 2516-2520.

11) Sy WM, Patel D and Faunce H: Significance of absent or faint kidney sign on bone scan. J Nucl

Med (1975) 16, 454-456.

12) Cheng TH and Holman BL: Increased skeletal: renal uptake ratio. Radiology (1980) 136, 455

459.

13) 宇佐 見啓 治,横 木 和 弘,岡 田 満,五 十 嵐勤,吉 田 浩,粕 川禮 司:大 理 石 病 様 骨硬 化 の 認 め られ た 胃癌 骨

転 移 の2例.臨 放 線(1988)33, 1155-1158.

14) 辻 裕 二:早 期 胃癌 切 除 後11年 目に局 所 再 発 な く播 種 性 骨髄 癌 症 を き た した1例.最 新 医(1982)37, 2243

-2250 .

15) 森 脇 滉:大 理 石 様 の 広汎 な骨 形 成性 骨 髄 転移 を きた した早 期 胃癌 の1症 例.日 臨(1972)30, 135-141.

Beautiful Bone Scanを 呈 した 胃 癌 骨 転 移 の1例　 1079

A case of beautiful bone scan due to bone metastasis of gastric cancer

Masahiro KURODA, Akio TANAKA, Yoshio YAMAMOTO,

Mitsuharu SIMIZU, Nobuo SATO, Ikuo JOJA,

Keiji HASHIMOTO, Yoshio HIRAKI, Hiroyuki NAKADA1)

and Masayoshi KIBATA1)

Department of Radiology, Okayama University Medical School,

Okayama 700, Japan

Department of Internal Medicine, Minami Okayama Hospital ,

Ochikubo 701-03, Japan

(Director: Prof. Y. Hiraki)

A 46-year-old female presented with lumbago. A plain X-ray examination did not indicate

any distinctive changes, however a bone scintigram showed beautiful bone scan. A bone

marrow biopsy certified metastatic adenocarcinoma and a primary gastric carcinoma was

discovered subsequently. Beautiful bone scan can be seen in malignant metastasis, several bone

metabolic diseases and other rare cases. A rare case of a gastric cancer exhibiting a beautiful

bone scan, is described.