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Benhabib, Schmitt-Grohe, Uribe "The Perils of Taylor Rules" JET 2001 を読む

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BSU “The Perils of Tayor Rules” JET 2001 を読む

概要

学界に大きな影響を与えた John Taylor の論文 (1993, Carnegie-Rochester Conf. Ser. Publ Policy

39, 195-214) 以来、アクティブな金利政策フィードバックルール—インフレ率の上昇(下降)に対して 1

対 1以上の割合で名目金利を引き上げる(引き下げる)政策ルール—は経済を安定させる、という多くの研究結果が蓄積されてきた。本論文では名目金利のゼロ下限を明示的に導入することで、アクティブな金利フィードバックルールがいとも簡単に予期せざる結果を引き起こしてしまうことを論じる。具体的には、その近傍で金融政策がアクティブとなる定常状態が局所的には一意に存在する一方で、経済がそのような定常状態のどれだけ近くにあったとしても流動性の罠—名目金利がゼロで、場合によってはデフレになる定常状態—へと収束する無数の均衡経路が存在することを示す。JEL Classificatoin Numbers: E52, E31,

E63.

1 Introduction

反響を呼んだ FRB政策を説明した John Taylor [21] 以来、名目金利を操作する金融政策ルールへの関心が再び高まった。それらの研究の多くはそのような政策の特に経済安定化に関する性質についての効率性や動学的効果について考察してきた。これら一群の研究から明らかになった中心的な政策提言は”アクティブな金融政策”—インフレ率に対して名目金利を強く反応させる政策—は経済を安定化させる、というものであった。以前の論文(Benhabib et al. [2])で我々はこの結果がモデルの定式化に強く依存することを示した。そして実際様々な定式化、仮定、カリブレーション—価格の粘着性、リードやラグを許容するテイラールール、リカーディアン・非リカーディアン金融・財政レジーム—の下でアクティブな金融政策はしばしば複数均衡をもたらすことを示したのだ。本論文では我々はさらに強い主張をする。アクティブな金融政策は一般に不確定性と複数均衡をもたらし、単純で標準的な仮定を使った最も当たり障りのないモデルにおいてさえも予期せざる結果を容易にもたらすのだ。我々の分析手法は複数均衡の分析に定常状態の近傍を線形化する従来の方法を離れる。これは負の名目金利が実現不能であるために名目金利に非負制約が存在しているという観察からもたらされるのである。下に示したように、この観察から直ちに次のことが言える。アクティブな金融政策を伴う定常状態が存在するならば、必然的にパッシブな金融政策に付随した別の定常状態も存在する。結論としては、ある定常状態から発散する経路が別の定常状態や別のアトラクターに収斂する、つまり均衡経路になる可能性があるために局所分析は不適切なのである。我々はこれらの結論を価格が伸縮的なモデルと粘着的なモデルの双方において理論とカリブレートされた経済でのシミュレーションで導く。直観的にこの均衡の複数性の原因を理解するには、金融当局が名目金利をインフレ率の非減少関数

R = R(π) として定める単純化されたテイラールールを考えると良い(R は名目金利、π は現在のインフレ率を表すものとする)。これを実質金利を r としてフィッシャー方程式 R = r + π と組み合わせると、

R(π) = r + π

となる。この定常状態での関係は無限視野を持つ代表的個人の幅広い貨幣モデルで一般的に見られるものである。そしてそれは物価が伸縮的であるか粘着的であるか、あるいは貨幣が効用関数に含まれるか、生産関数に含まれるか、キャッシュインアドバンス制約で導入するかを問わないのである。アクティブな金融政策での定常状態、すなわち上の式を満たし、かつ R′(π) > 1となるような π が存在するとしよう。また、

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フィードバックルールは連続で名目金利に非負制約が貸されていること (R(π) ≥)を仮定する。このとき、金融政策がパッシブになる定常状態、すなわち R′(π) < 1となる定常状態が存在する(図 1)。定常状態のフィッシャー方程式の解が二つあるということに関して、テイラールールが連続であるということは決定的ではないことに留意して欲しい。テイラールールが非負、非減少関数であり、一つの解がアクティブなものであれば十分である。図 1 の右下のパネルは均衡でフィードバックルールがアクティブな時でも解が一意になる例を示している。二つ目の均衡が欠けているのはテイラールールが不連続だからではなく単調関数でないからである。このタイプのテイラールールのマクロ経済的帰結についてはここでは議論しない。なぜならこれらは重要ではないと信じるからである。インフレ率の低下中に中央銀行が名目金利を不連続に引き上げると考えることは適当ではないからである。

定常状態フィッシャー方程式に複数の解が存在することは少なくとも 2 つ以上の定常状態均衡の存在の可能性を意味することは明らかであろう。しかしながら、これは必ずしも真実ではない。なぜなら一般的に均衡条件は追加的な方程式を必要とするからである。この論文では金融政策がアクティブとなる定常状態均衡の存在が金融政策がパッシブとなる少なくとも一つの定常状態均衡をもたらすことを示す。しかし、単に複数の定常状態均衡をもたらすというだけの理由でアクティブな金融政策ルールが非安定的であると結論づけるのは早計である。まず第一に過去数十年の間、主要先進国ではアクティブな金融政策ルールによって運営されていることが極めて正確に説明できることが観察されている(e.g., Clarida et al [6])のにも関わらず、観察されるインフレの動きは一般的にスムーズで、景気の循環のたびにある定常状態から別の定常状態へとジャンプするような動きを示すモデルには説明力がない。第二に、政策当局が頻繁に政策スタンスをアクティブからパッシブへと変更するようなことも同様に考えにくいのだ。この論文で示される主要な結論は、テイラールールによって生じる複数の定常状態均衡がより大きな均衡群への扉を開けるためにテイラールールは非安定的である y、ということだ。具体的には、アクティブ定常状態の近傍から出発し金融政策がパッシブとなる定常状態、またはアクティブ定常状態を囲む安定的な

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リミットサイクルへと収束する無数の均衡経路(サドルコネクション*1)が一般に存在する。興味深いことに、鞍接点とリミットサイクルの双方において、インフレ率は金融政策がアクティブな定常状態の周囲を長期にわたって変動するのだ。よって、サドルコネクションによって生じたデータを使って金利フィードバックルールの傾きを計測しようとする計量経済学者は、実際には流動性の罠に陥りつつあるにもかかわらず経済がアクティブ定常状態の周辺を安定的に変動していると結論づける可能性がある。カリブレートされた粘着価格モデルのシミュレーションはアクティブ定常状態からパッシプ定常状態への鞍接点は実証的に妥当なパラメータのもとで存在し、また実際のところ幅広いパラメータの摂動に対して頑健な最も典型的なものなのである。このタイプの均衡は特に興味深い。なぜなら経済が流動性の罠へと落ちる様を明快に示しているからである。この結果はインフレ目標の近傍でアクティブな金融政策を採用する中央銀行は経済を(人によってはアメリカも含めるであろうが、現在日本で観察されているような)デフレスパイラルへと導いてしまっている可能性が他の政策(金利または為替相場を固定するような大域的にパッシブな金融政策)を採用している国よりも高いかもしれない。

2 テイラールール、名目金利のゼロ下限、流動性の罠:シンプルな例イントロダクションにおいて我々は名目金利のゼロ下限制約を受けたテイラールールは二つの定常状態—一つはインフレ率と名目金利がターゲットを下回り、金融政策がパッシブとなる—を引き起こすことを指摘した。このセクションでは伸縮価格モデルを使ってこれら二つの定常状態が均衡経路によってつながっていることを示す。具体的にいうと、意図された定常状態から意図せざる定常状態へと経済は滑り落ちてしまうことを示す。テイラールールのもとでは流動性の罠が均衡として生じることを説明できるという点でこの結果は有意義であると考える。所得がシステムの外部から与えられ、以下のように定義された効用関数を持つ消費と実質貨幣残高から効用を得る無数の同質な個人からなる経済を考えよう。

Z ∞

0

e−rtu(c, m)dt,

ここで、cは消費、mは実質貨幣残高を表すものとする。家計の各時点の予算制約は次のように与えられているものとする。

c + τ + a = (R − π)a − Rm + y,

ここで、τ は一括税、aは有利子債券と実質貨幣からなる実質金融資産、Rは債券の名目金利、π はインフレ率、y は外部から与えられる所得である。予算制約式の右辺は総所得の源泉(家計が保有する資産の実質金利から貨幣保有による機会費用を引いて外部から与えられる初期賦存量を加えたもの)を表している。左辺は所得の配分を示している。消費、租税、実質資産の増加である。家計はまたポンジーゲームの企てを排除するための次の借り入れ制約を受けるものとする。

limt→∞

eR t0 [R(s)−π(s)]dsa(t) ≥ 0,

家計は各時点予算制約、No-Ponzi-game制約を等号で満たすような消費、実質貨幣残高、資産の経路を選択し、最適条件は次の通りである。λを各時点予算制約に付随するラグランジュ乗数とすると、

uc(c, m) = λ, (1)

um(c, m) = λR, (2)

λ = λ[r + π − R(π)]. (3)

財市場は均衡において消費と初期腑存量が等しくなる。

c = y. (4)

*1 訳注:鞍点と別の鞍点をつなぐ経路

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消費と実質貨幣残高がエッヂワース補完的 (ucm > 0) で、各時点効用関数が実質貨幣残高について凹(umm < 0)と仮定すると、方程式 (1)、(2)、(4)は λと Rを関連づける減少関数を定義する。

λ = L(R); L′ < 0. (5)

金融当局は次のような金利フィードバックルールを採用していることを仮定する。

R = R(π),

で、関数 R(·)は正、増加、厳密に凸な微分可能であるとする。さらに定常状態フィッシャー方程式が満たされ、金利フィードバックルールがアクティブになるインフレ率 π∗ が存在することを仮定する。すなわち R(π∗) = r + π∗ かつ R′(π∗) > 1 を満たす π∗ の存在を仮定する。このとき、図 1 の左上のパネルに示されているように、定常状態フィッシャー方程式が満たされ、金利ルールがパッシブになるインフレ率πL < π∗ が存在する。すなわち、R(πL) = r + πL、R′(πL) < 1である。このフィードバックルールと方程式 (3)と (5)を組み合わせることでインフレ率の均衡動学を表す一階微分方程式を得る。

π =−L(R(π))

L′(R(π))R′(π))[R(π) − π − r]. (6)

−L/(L′R′)が常に正であることから、π の符号は R(π) − π − r の符号に一致する。図 2は方程式 (6)が表すインフレ率の動きを示している。高位のインフレ率であるアクティブ定常状態 π∗ は、π∗ の近傍から出発する経路が発散するという意味で不安定である。よって、分析を π∗ の近傍に永遠に留まる均衡に限定すれば唯一の完全予見均衡はアクティブ定常状態自身ということになる。しかし、π の動く範囲を広げるとパッシブな定常状態 πL を含み、より広い範囲の均衡経路が許容されるのである。具体的には πL と π∗ との間から始まり方程式 (6) を満たす経路はどれも完全予見均衡になるのである。それらの経路は全て低インフレ・低金利・パッシブ定常状態 πL へと収束する。このタイプの均衡経路はスタート地点がどれだけ高インフレ・高金利・アクティブ定常状態 π∗ に近くても πL へ収束することに注意して欲しい。このような環境で流動性の罠に落ちるために必要なことは人々がデフレ局面へとスライドすると予想すること、ただそれだけなのである。名目金利のゼロ下限を考慮したテイラールールは離散時間モデルにおいてはサドルコネクションを生じさせる。Schmitt-Grohe and Uribe [19] は伸縮価格のキャッシュインアドバンスモデルの文脈でこの結果を示した。

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これまで分析されてきたシンプルな伸縮価格経済は直接的かつ明快な方法でこの論文の主旨を伝えている。しかしながら、テイラールールの安定化に関する性質を分析する研究のほとんどは名目硬直性の存在を中心的な理論的要素として含んでいる。よって、この論文の残りでは価格硬直性のあるモデルを考察する。このセクションで議論されたモデルではアクティブ定常状態にどれだけ近いところから出発してもパッシブ定常状態へと収束してしまう均衡の存在は消費と実質貨幣残高との間にエッヂワース補完性が仮定されていることに依存している。しかし、次のセクションで示すように、価格調整が緩慢である時には二つの定常状態をつなぐサドルコネクションが消費と実質貨幣残高がエッヂワース代替的な選好や加法的選好においても生じるのである。

3 粘着価格モデル

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