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1 June 23, 2017 BTMU Global Business Insight Asia & Oceania .ホテル不足に危機感を募らすニュージーランド政府 ~日系企業にとってはビジネスチャンスに 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部 部長 森下 善雄 .インドネシア:良好でない株主関係に基づく株主総会の開催 PT.JAPAN ASIA CONSULTANTS 取締役社長 吉田 隆 MOM のウオッチリスト: 強まるシンガポール人労働者雇用のプレッシャー ラジャ・タン法律事務所 パラリーガル(シンガポール法) 有馬 Ⅳ.海外赴任に際して会社に必ず確認しておいた方がよいこと 6)海外赴任の赴任支度金 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 チーフコンサルタント 藤井 恵 .各国トピックス 【インド】一部鉄鋼製品の関税引き下げ 【インド】GST7 1 日導入へ向けた動き 【インドネシア】経済政策パッケージ第 15 弾 物流強化へ .自動車業界レビュー 【インドネシア】2017 5 月の販売(出荷ベース、速報値)は 8 カ月連続の前年超え 【インド】2017 5 月の乗用車販売は 5 カ月連続の前年超え維持も前月比はマイナス 3 8 11 13 14 15

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June 23, 2017

BTMU Global Business Insight

Asia & Oceania

Ⅰ.ホテル不足に危機感を募らすニュージーランド政府

~日系企業にとってはビジネスチャンスに

三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部 部長 森下 善雄

Ⅱ.インドネシア:良好でない株主関係に基づく株主総会の開催

PT.JAPAN ASIA CONSULTANTS 取締役社長 吉田 隆

Ⅲ.MOM のウオッチリスト:

強まるシンガポール人労働者雇用のプレッシャー

ラジャ・タン法律事務所 パラリーガル(シンガポール法) 有馬 潤

Ⅳ.海外赴任に際して会社に必ず確認しておいた方がよいこと

(6)海外赴任の赴任支度金 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 チーフコンサルタント 藤井 恵

Ⅴ.各国トピックス

【インド】一部鉄鋼製品の関税引き下げ

【インド】GST、7 月 1 日導入へ向けた動き

【インドネシア】経済政策パッケージ第 15 弾 物流強化へ

Ⅵ.自動車業界レビュー

【インドネシア】2017 年 5 月の販売(出荷ベース、速報値)は 8 カ月連続の前年超え

【インド】2017 年 5 月の乗用車販売は 5 カ月連続の前年超え維持も前月比はマイナス

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・ 本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。

本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の

実行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や適法性等について保証するものでもありません。

・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。

・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものでは

ありません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、

その他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実

際の適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。

・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱東京 UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または

全部について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。

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Ⅰ.ホテル不足に危機感を募らすニュージーランド政府

~日系企業にとってはビジネスチャンスに

ニュージーランドの政府、ホテル業界関係者の間で、「Project Palace」というプロジェクトが注目され

ている。これは、ニュージーランド政府が推し進める、外国からのホテル誘致プロジェクトの名称である。

いま、ニュージーランドでは外国人観光客が急増しているが、ホテルの供給が追い付かず、深刻な問題に

なっている。

ニュージーランドにおいて、観光は酪農と共に経済を支える重要な産業である。観光客の受け皿となる

ホテルの不足が、ニュージーランド経済の更なる成長の足かせとならぬよう、政府自らがプロジェクトを

組んで外国企業の投資によるホテル誘致に動いているわけだ。

観光客急増の背景

ニュージーランドへの外国からの渡航客は昨今急増している。2016 年 4 月~2017 年 3 月までの 1 年間

に約 350 万人が訪れ、前年同期比 11.8%の増加を記録した(図表 1)。ニュージーランドの総人口は 470

万人なので、総人口の 7 割以上に当たる外国人が訪れたことになる。日本でも外国からの訪日ブームが起

こっているが、それでも総人口の約 2 割程度であり、人口対比で見ればニュージーランドの方が格段に大

きく、そのインパクトの大きさが容易に想像できよう。

【図表 1:年間入国者数】 【図表 2:訪問目的】

渡航客の訪問目的は過半数が観光で、その割合が最近は増加している。また、観光に次ぐ目的は、「親

戚・友人を訪ねる(VFR=Visitng Friends and Relatives)」で約 3 割に上る。この VFR という項目がある

こと自体がニュージーランドの特徴を表している。留学経験者等が再度友人を訪ねたくなる、ニュージー

ランドの住民も外国の友人・知人を呼んで楽しんでもらえる、ニュージーランドはそういう国であること

を示している(図表 2)。

観光客が多い理由は、何と言っても観光資源が豊富にあることだ。特に観光客を引き付けるのは、美し

い大自然である。外国の人々はそこで癒しを求めて長期間滞在し、ニュージーランド産の新鮮な食材を使

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2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

Million

Source: Stats NZ

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Holiday Visiting friends& relatives

Business Education Conferences &conventions

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Source: Stats NZ

Travel purpose

Travel purpose of visitorsYear ended March 2013–17

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った食事と上質なワインを堪能し、時折トレッキングやスキー、マリンスポーツなどを楽しんでいる。南

北に連なる島国で四季がある点では日本に似ている。(写真)

外国からの渡航客増加を支えているのが、ニュージーランドへの直行便数の増加だ。座席数ベースでは

2016 年度は前年比 16%伸びている。日本からの直行便についても、従来は成田から週 7 便のみであった

が、2014 年から季節限定ながら関空からの便が就航している他、2017 年 7 月からは新たに羽田からの直

行便就航が予定されている。

ホテル需給の現状と今後の予測

ニュージーランド貿易経済促進庁によれば、外国からの観光客は堅調に増加する見通しで、特に同国の

5 大観光都市(オークランド、ウェリントン、ロトルア、クライストチャーチ、クイーンズタウン)にお

ける総宿泊需要は今後 10 年で 49%増加すると推計されている。その宿泊需要を満たすためには 2025 年

までに新たに 9,700 室が必要であるとされ、それに対し現在計画されているホテルの開発による部屋の供

給数は 5,000 室しかなく、このままでは残りの 4,700 室が不足に陥ると予測されている。なお、業界関係

者によると、4 スタークラスのホテルのニーズが最も高く、またホテルオーナー(投資家)の立場から見

ても最も投資効率がよいとのことである。

昨今のホテルの逼迫状況は稼働率にも表れている。不動産コンサルティング会社の Colliers

International によると、特に逼迫しているのがニュージーランドの玄関口であるオークランドで、2016

年 4 月から 2017 年 3 月までの1年間の平均稼働率は 86.6%(前年比 2.6%増)に達し、また最大の観光都

市クイーンズタウンでも、同時期の平均稼働率は 81.9%(同 2.2%増)を記録している。

写真:ニュージーランド政府観光局パンフレットより

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ホテルの供給が追いつかない要因は幾つかあるが、ニュージーランドでは根本的にホテルのオペレータ

ーやデベロッパー、更にはゼネコン等、関係業界のプレイヤーが少ないことが指摘されている。

また、開発資金の主要な出し手であるオーストラリア系の銀行が、オーストラリア国内における住宅や

オフィスビル開発の過熱感から、不動産関連融資に対する姿勢を厳格化していることも影響していると関

係者は指摘する。

先進国では数少ない高成長を続けるニュージーランド

ニュージーランド経済は極めて好調だ。2016 年度の実質 GDP 成長率は前年比 3.96%と、先進国でも数

少ない高成長率を維持している。2008 年~2009 年にはリーマンショックの影響で一時的に低迷したもの

の、2001 年以降は年平均 2.6%で着実な成長を遂げている。2016 年の GDP 総額は 2000 年比 2 倍強に拡大

し、2020 年には更に 24%増加すると IMF は予測する(図表 3)。また、2000 年当時は日本の約 4 割にし

か満たなかった一人当たり GDP は直近では同水準となっており、今後はニュージーランドが日本を上回

っていくと IMF は予測する(図表 4)。

【図表 3:GDP 総額と成長率】 【図表 4:一人当たり GDP 推移】

好調な経済を支えているのが、増え続けている人口と主力の酪農品を中心とした輸出である。人口は移

民を中心に年率 1.3%の伸びを示している。ちなみにニュージーランドでは移民として認められる要件は

非常に厳しく、一定以上の資産保有者、高度なスキルの保有者等にしか許可されない。従って移民増加に

よる治安悪化の懸念はほとんど無い。輸出は、最大の品目である酪農品が市況の影響を受けることはある

ものの、世界的な食品需要の広がりは同国の経済に中長期的に恩恵をもたらすと言われている。

世界でも有数のビジネス環境に優れた国

ニュージーランドのビジネス環境は世界でもトップレベルである。図表 5 に示すように、世界の各種機

関が発表するインデックスでは、ビジネスの容易度 1 位(世界銀行)を筆頭に、ビジネス環境や自由度、

平和度のランキングでニュージーランドは軒並み上位に名を連ねる。実際に法律・会計制度が確立され、

規制が少なく事業投資は容易である。透明性も高い。国の財政も極めて健全で、Moody’s による同国の

長期国債の格付は Aaa(トリプル A)である(2017 年 5 月末時点)。

翻って、新興国や発展途上国に特有の、「不安定」や「不透明」と言った表現に見られる、様々なリス

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クとは無縁と言っても過言ではない。昨今の世界情勢を地政学的に眺めても、治安の面でも最も安全な国

の一つではないだろうか。

【図表 5:各種ランキング】

日系企業にとってのビジネスチャンス

以上述べたとおり、ニュージーランドはビジネスをする上で非常に環境の整った国だが、残念ながら日

本からの投資は決して多いとは言えない。人口が少ない、物理的に遠い、コストが高い、といったことが

その主な理由であろう。しかし、つぶさに見ていくと、日系企業が恩恵を受けられるチャンスは少なくな

い。その一つがホテル、観光事業である。

ニュージーランドは日本と類似する点が多い。①島国である②四季がある③自然が豊か④食文化が豊か

⑤地震がある、等々。これらは全て日系企業が現地でホテル・観光事業を行う上で、実績や知見を活かし、

安全・安心でより良いサービスを提供するための重要な要素である。⑤については、2011 年のクライス

トチャーチの地震が当地では記憶に新しく、ニュージーランド政府関係者からは、数多くの地震を経験し

耐震技術やノウハウに優る日系企業への期待が大きいところである。

また、四季が日本と逆であることが、メリットにもなり得る。連結ベースで収入を平準化させる効果が

期待できよう。スキーが好きな得意客がいれば、冬は日本、夏はニュージーランドに送客するなどの提案

も考えられる。

もとより、日系企業の進出が活発でないが故に、情報が氾濫している中国や東南アジア主要国と比較し

て、競争がまだ緩やかであると言える。

ホテル、観光事業以外でも、食品・飲料製造、第一次産業、インフラ関連、ICT その他高付加価値製造

業、教育等のサービス産業にもビジネス機会がある。

今後の成長戦略の柱として、海外、特に成長著しい東南アジア等の新興国への展開に活路を見出そうと

する企業は多い。一方、ニュージーランドは数少ない長期的・安定的な成長が見通せる先進国であり、各

種リスクが極めて限定的な国である。各種魅力に溢れるニュージーランドについても、展開先の検討に加

えてみては如何だろうか。

項目ビジネス容易度レポート2017

ビジネスに最適な国2017

経済自由度インデックス2017

政府清潔度インデックス2016

世界平和インデックス2017

出所 世界銀行 Forbes Wall Street JournalTranparency

International

Institute for Economic

& Peace

1 New Zealand Sweden Hong Kong New Zealand Iceland

2 Singapore New Zealand Singapore Denmark New Zealand

3 Denmark Hong Kong New Zealand Finland Portugal

4 Hong Kong Ireland Switzerland Sweden Austria

5 South Korea United Kingdom Australia Switzerland Denmark

6 Norway Denmark Estonia Norway Czech Republic

7 United Kingdom Netherland Canada Singapore Slovenia

8 United States Finland United Arab Emirates Netherland Canada

9 Sweden Norway Ireland Canada Switzerland

10 Macedonia Canada Chile Germany Japan

Japan  34th Japan  37th Japan  40th Japan  20th Japan  10th

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記事提供: 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部

部長 森下 善雄

1990 年入行。2005 年~2009 年までジャカルタ支店勤務。2009 年~2012 年まで国際業務部にてアセアン担

当。2012 年~2015 年までシンガポールに駐在し日系企業のアセアン展開を支援。2015 年より国際業務部部

長として東南アジア・オセアニアを担当。

(2017 年 6 月 16 日作成)

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Ⅱ.インドネシア:良好でない株主関係に基づく株主総会の開催

インドネシアにおける株主関係の基本は、会社法第 87 条に規定されているように「ムシャワラ(話し

合い)」を通じた全会一致による会社運営であることが望ましいといわれています。しかしながら株主パ

ートナーの関係が必ずしも良好でないケースも見られます。株式の保有比率と株主総会の運営方法および

注意点について考察します。

インドネシアの会社法において、株式会社には設立時から常に複数の株主がいることが義務付けられて

います。会社法第 87 条の「株主総会の決議はムシャワラ(話し合い)によって全会一致に向けた協議が

望ましい」との建前・精神は理解できるものの、複数の株主間が常に良好な関係を保てるとは限らず、時

には対立関係となるケースもあります。

第 91 条では、株主全員が当該案件を発議する文書に署名すれば、株主総会を開催せずとも株主決議(書

面決議)が有効となることが規定されていますが、株主間に対立関係がある場合には、この文書による決

定を採用することは難しく、株主総会を開催して採決を行う必要が生じます。その際、対立する相手側か

ら株主総会の開催自体が非合法であると指摘されることも考えられるため、慎重に株主総会開催の手順を

踏まなければなりません。

1. 株式保有比率の目安

議決権を有する株式の、保有比率に応じた株主の権利等は、おおむね以下の通りです。

1)10%未満

会社法第 61 条でいう社会的に保証されている権利として、株主総会、取締役会、コミサリス(監査

役)会における決定事項が、株式保有者当人にとって公平かつ適正とは判断できず損害を被った場合、

当該株主は地方裁判所に会社を相手取って提訴する権利を有しています。

2)10%以上

少数株主(10%以上の株式保有)の権利として、下記の通り規定されています。

(1) 株主総会の開催を要請することができる(第 79 条(2a))

(2) 会社に損害を与えることとなった取締役会メンバーに対して、地方裁判所を通じて訴訟を行うこ

とができる(第 97 条(6))

(3) 会社に損害を与えることとなったコミサリス会メンバーに対し、地方裁判所を通じて訴訟を行う

ことができる(第 114 条(6))。

(4) 会社/取締役会/コミサリス会に対する検査を地方裁判所に請求することができる(第 138 条(3))

(5) 株主総会に会社の解散を提案することができる(第 144 条(1))

3)20%以上:会計的持分法適用の目安

会計的見地から、持分法(連結対象子会社とは判定されないものの(企業グループ全体に)相当の影

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響力を行使し得る場合に適用され、親会社の連結財務諸表の当期純利益項目(P/L)や資産と資本項

目(B/S)に、株式持ち分割合に応じた子会社の当期純利益相当額が反映される)を適用するかどう

かは、20%以上の持ち株比率が目安(インドネシア会計原則 PSAK 第 15 条)となります。

4)25%以上:税法的メリット、経営参画判断の目安

税務的見地からは、25%以上株式を保有しているかどうかが、一つの目安となります。

日本の親会社が株主の場合に、配当を行うインドネシア法人は、(租税協定が無い場合には海外サー

ビス支払いに係る源泉税(PPH26)は 20%ですが)日本・インドネシアの租税協定に従い、25%以上

の持ち株比率の場合は 10%の源泉徴収、25%未満の場合には 15%の源泉徴収を実施し、親会社宛配

当を実行することとなります(この際の日本側の税制に関しては、配当が外国子会社の損金となる例

外的な場合を除き、一般的には日本の親会社において受取配当の 95%相当を益金不算入とすることが

出来、その代わりにインドネシア側で支払った源泉税の日本での外国税額控除は出来ないことになっ

ています)。

一方、インドネシア国内の法人株主への配当については、インドネシア所得税法第 4 条(3)f におい

て、配当する会社の払込資本金額の 25%以上の株式を 保有している場合、配当金は非課税とされて

います。

税務協定・インドネシア所得税法とも、25%以上の持ち株比率が「経営に参画 している/いない」

の目安になっているようです。

5)過半数(50%超):多くの決議が可能に

6)3 分の 2(66.7%)以上:定款の変更が可能に

会社法上、定款の内容を変更するには最低でも議決権がある発行済み株式総数の 3 分の 2 以上の定足

数で、出席株主の 3 分の 2 以上の賛成が必要(会社法第 88 条)と規定されています。

7)4 分の 3(75%)以上:重要項目の決定が可能に

会社法上、会社の合併・統合・買収・分離、破産申請・存続期間の変更、解散についての決定は、最

低でも議決権を有する発行済み株式総数の 4 分の 3 以上の定足数で、出席株主の)4 分の 3 以上の賛

成が必要(第 89 条)と規定されています。

8)100%

インドネシアの会社法においては複数の株主が義務付けられていることから(第 7 条)、1 社ないし

1 個人で 100%を保有することはできませんが、複数のグループ会社で発行株式の 100%を保有するこ

とになった場合は、常に書面決議のみで可決できることとなり、株主総会を開催する必要はなくなり

ます。

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2. 株主総会の運営方法および注意点

株式の 100%保有(グループ会社を含む)のケースを除き、パートナーと対立する場合には株主総会を

開催しなければなりません。

その場合、まずは株主総会の開催場所・スケジュールを決定しなければなりませんが、インドネシア国

内で開催しなければならないばかりでなく、原則的には会社の所在地もしくは事業を行う地域の定款に定

められた地で開催することと規定されています(会社法第 76 条(1))。例えば、会社定款によって登録

されたカラワン県の会社が、日本から来る株主の便宜を考慮しジャカルタのホテル会議室で株主総会を開

催するとしたら、他の株主が異議を申し立てる可能性も考えられます。

第 82 条(1)にて、株主総会の招集は、株主総会が開催される日より遅くとも 14 日前までには株主に

通知されていることが義務付けられており、従って、招集通知書が必ず配達されたことを証明できる、あ

るいは不在であったとしても配達されたことが確認できるサービスを利用して、期日前までに通知したこ

とを証明できるようにしておかなければなりません。

通知書には株主総会の開催日、時間、場所、議題を記載し、株主総会で話し合われる予定の資料がある

場合には、招集日から開催日まで会社事務所にて閲覧準備(定期株主総会の要件と理解しています)がな

されていることを通知する必要があります。

このように、正規の手続き・手順にて相手側から法的な問題を提起されずに、株主総会を開催するのも

仲々大変です。

また、第 85 条(4)には「株主総会の票決の際、取締役会のメンバー、コミサリス会のメンバー、およ

び従業員が株主の代理人としての役割を行うことを禁じる」という条項があります。その結果、こうした

代理人は株主総会出席の定足数は満たすものの、依頼人株主の権利を行使することができない、すなわち

投票権が無いということもリスクとして認識しなければなりません。当該条項を理解しないで代理出席す

ることによって、マジョリティーを保有しているにも関わらず、 対立するパートナー側の意見が通って

しまう事態にもなりかねません。

記事提供:PT.JAPAN ASIA CONSULTANTS

取締役社長 吉田 隆

(2017 年 4 月 1 日作成)

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Ⅲ.MOM のウオッチリスト:

強まるシンガポール人労働者雇用のプレッシャー

概要

近年シンガポール政府は「シンガポーリアン・コア」の理念の下、シンガポール人の雇用を促進する政

策を推し進めてきました。特に、2013 年には Fair Consideration Framework を打ち出し、シンガポール

人の積極的な雇用を企業に求めてきました。さらには雇用政策にそぐわない企業を「トリプルウィーク」

と位置づけています。

近年、シンガポール政府は「シンガポーリアン・コア※」の理念の下、シンガポール人の雇用を促進す

る政策を推し進めてきました。特に 2013 年には、Fair Consideration Framework を打ち出し、シンガポ

ール人の積極的な雇用を企業に求めています。さらには、シンガポール人を積極的に採用する姿勢が見ら

れず、以下に挙げる三つの政府による雇用政策にそぐわない企業を「トリプルウィーク」と位置付けまし

た。

【シンガポール政府の雇用政策】

1. シンガポール人を中心とした従業員構成を有していること

2. シンガポール人を中心とした人事育成の姿勢を示していること

3. シンガポール経済・社会と関連性が強いこと

トリプルウィークと位置付けられた企業については、ウオッチリストに掲載して監視対象とし、現状の

雇用環境の改善が見られない限り外国人労働者の就労ビザの発給を慎重にすることも発表しています。現

時点で、この発給制限の対象となっている就労ビザは、Employment Pass(EP:専門技能者向けの就労

許可証)のみです。

2017 年 3 月 6 日、シンガポール人材開発庁(Ministry of Manpower:MOM)所管大臣により、このウ

オッチリストの実態について公式な発言がされました。同発言によると、2017 年 2 月末の段階で、ウオ

ッチリストには 250社の企業が掲載され、500人以上の就労ビザの申請が却下されたとのことです。特に、

そのうちの 50 社については、ウオッチリストに掲載されてもなお雇用環境の改善の様子が見られないと

して、厳しい監視対象とされています。監視対象としてウオッチリストに掲載された企業が申請した就労

*********************************************************************

※シンガポール国内労働力の 3 分の 2 を、ローカル労働力で占めるという目標をいう。この目標の発表当時、ローカル

とはシンガポール人およびシンガポール永住権(PR)保持者を指すとされていたものの、近年の新聞記事や政府政策

発表における「シンガポーリアン・コア」の文脈を参照する限り、そのほとんどがシンガポール人のみを指している

内容である。よって、現時点では、PR 保持者は外国籍を保有している外国人であるため、シンガポール人と同等では

なく「シンガポーリアン・コア」の取り扱いはその言葉通りシンガポール人のみを指すと考えられる点にも留意して

おく必要がある。

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ビザについては、3 カ月またはそれ以上の審査期間を要するとしています。この大臣発言は、シンガポー

ル政府のシンガポール人雇用促進政策に対する、本気度を示すものです。

そもそも、シンガポール政府は特に PME(Professionals, Managers and Executives)といわれる管理者

層として働くシンガポール人の育成に力を入れ、将来的にこれらの層がシンガポール経済の中核を担うこ

とを目標としています。シンガポール人を中心とした、雇用環境を求める諸政策もその現れなのです。

他方、シンガポール政府は、外国人労働力・外国企業を排除するという姿勢までは示していません。上

記発言の中でも、外国人労働力も依然としてシンガポールにとって重要であるとしています。

トリプルウィークとは逆に、シンガポール人を中心とした雇用環境を取り入れる方針を示し、自社のノ

ウハウをシンガポール人労働者にも移転・育成しようという姿勢のある会社については「ファーストレー

ン」として優遇する方策も打ち出しています。つまり、シンガポールという国・政策に合致することが求

められているのです。

このことについては、日本企業も例外ではありません。日本企業においても、ウオッチリストに掲載さ

れてしまった企業はもちろんのこと、日本人中心ではなくシンガポール人を中心とした雇用環境を取り入

れる、シンガポール人の労働者に仕事のノウハウを移転してシンガポールの政策に貢献するような人事・

経営方針を行っているか、熟慮が求められます。

執筆者: ラジャ・タン法律事務所

パラリーガル(シンガポール法) 有馬 潤

ラジャ・タン法律事務所はシンガポールに約 350 名、東南アジア全域に約 600 名の弁護士を擁する地域最大規模の法

律事務所。シンガポールほか、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、ラオス、中

国に事務所を有し、さまざまな分野の現地の法律に精通した弁護士が多数在籍。

(2017 年 3 月 30 日作成)

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Ⅳ.海外赴任に際して会社に必ず確認しておいた方がよいこと

(6)海外赴任の赴任支度金

(前回のレポートは、以下の URL をクリックして本文をご参照ください。)

http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20170609.pdf

Q. 海外赴任時には赴任支度金が支払われると聞きました。

支度金とは何のための費用で、どのくらい支給されるのでしょうか。

A.

赴任支度金とは、海外赴任に伴い必要となる物資を購入するために支給されるものです。

一般には「衣類、医薬品、電気製品、電子辞書、生活用品(歯ブラシ、ひげそりなど)、デジタル機器、

赴任先で使用する寝具、アパートにない備品(炊飯器、アイロン、トースター、食器類、扇風機他)や、

スーツケース、バッグ、日本食材、変圧器」といった物品の購入に充てられることが多いようです。

赴任支度金について赴任者からはどのような意見が出ているのでしょうか。

具体的には「支度金の金額の多寡は、住居に備え付けてある家具・家電製品の充実度により異なる」「住

居の付帯設備により、購入すべき品目は異なると思う」「はっきりした規定がないため、そもそも支度金

がもらえるのかどうかも分からず、そういったことを都度会社に問い合わせなければならないこと自体が

煩わしい」「海外出張時の支度金は初回しか出ないことから、海外赴任時においても支度金は 1 度目の赴

任しか出なかった。しかし、赴任する国が異なれば、電圧も異なり、新たな備品購入が必要であると思う。

短期間の出張と数年に及ぶ海外勤務を同列で考えるのはおかしい」といったものがあります。

赴任支度金の支給の仕方は、会社によって「資格により金額を決定するケース」「基本給の 1 カ月分と

するケース」などさまざまで、定額の場合は 20 万~30 万円程度が多くなっています。

また、赴任支度金を「基本給の 1 カ月分」としている会社の場合、基本給の低い非管理職者からは「赴

任に当たって用意するものは、管理職であっても非管理職であっても大きく変わらないはずなのに、支度

金を基本給の額と連動させるのはおかしい」という不満も聞かれます。それに対応するため、支度金の支

給基準を基本給の 1 カ月分など給与に連動した形から、定額(もしくは役職に応じて 2~3 段階の金額設

定)に変更しているケースも見られます。

赴任支度金に関して会社に確認しておくこと

・赴任支度金の金額や支給時期などを確認

記事提供:三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社

チーフコンサルタント 藤井 恵

(2017 年 5 月 25 日作成)

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Ⅴ.各国トピックス

【インド】一部鉄鋼製品の関税引き下げ

6 月 12 日、インド政府は「熱延コイル」「冷延鋼板」等、4 品目の鉄鋼製品の関税率を現行の 10%から 5%

へ引き下げると発表、即日実施となった。対象となる品目は電子機器等の原材料に利用されており、調達

コストの削減が期待される。

具体的な品目名については以下のウェブサイトご参照。

【インド】GST、7 月 1 日導入へ向けた動き

物品・サービス税(GST)評議会は、7 月 1 日の導入予定の GST について、円滑な移行を目指すため、

18 の業種別対策グループを設置した。中央政府と州政府高官で構成される各グループは各業界からの質

問などを精査するとともに、導入に向けたガイダンスを行う予定。

また、GST 評議会は GST 導入に関する移行規定の最終版を公表。卸売業者が支払い済みの現行物品税

について、GST 導入後に相殺できるケースを明確化し、卸売業者の保護を図っている。

(ご参考)最近発行したインド GST 関連レポート

「インド:GST の税率固まる」2017 年 5 月 26 日 http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW2017052602.pdf

【インドネシア】経済政策パッケージ第 15 弾 物流強化へ

インドネシア政府は 6 月 15 日に経済政策パッケージ第 15 弾を発表した。物流業とその関連事業である

造船業や保険業の事業拡大を図る。具体的な内容は、運送業務のコスト削減、貨物運送許可の条件廃止、

港湾関連事業への投資コスト削減、地域物流センターの整備、特殊船調達の簡易化、コンテナ保証金還付

の仕組み制定など。輸出入手続きを一元化する「インドネシア・ナショナル・シングル・ウインドー(INSW)」

の強化も図る。

(各国トピックスの出所)各国政府・業界団体発表、各種報道

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Ⅵ.自動車業界レビュー(インドネシア・インド)

「インドネシア」、「インド」の自動車業界の動向を記載します。

【インドネシア】

2017 年 5 月の販売(出荷ベース、速報値)は 8 カ月連続の前年超え、前月比プラス転換。

商用車が寄与。

・インドネシア自動車製造業者協会(GAIKINDO)公表の 2017 年 5 月の新車販売台数(出荷ベース、

速報値)は前年比+6.3%、前月比+5.1%の 9 万 4,123 台と 8 カ月連続の前年超え、前月比もプラス転換。

資源価格の回復や季節要因により商用車の販売が大きく伸長したことが寄与した。

・同協会(GAIKINDO)は 2017 年 6 月の販売について、イスラム教断食明け大祭(レバラン)休暇に

伴う一時的な販売減を見込んでいるが、2017 年通年の販売台数見通しについては、原油価格持ち直し

の兆しや「ローコスト・アンド・グリーン・カー(LCGC)」政策(注)適合車の販売増加を要因とし

て「110 万台規模になる」と強気の見方を示している。

(注)2013 年にインドネシア政府が、自動車市場の拡大と大気汚染対策として、低燃費・低価格自動車の普及のため

導入した政策。サイズや燃費(ガソリン 1 リットル当たり 20 キロ以上走行が可能)、価格、部品現地調達率など一定

基準を充足した車両に対して奢侈税(10%)免除、法人税 30%減免、製造用工作機械等の輸入関税免除などの優遇を

付与するもの。

・インドネシア産業省は、2030年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を現状比29%削減する政府目標を

達成する為に導入を検討している中古自動車の車齢制限規制について、人口密度や交通量に応じた「地

域毎」の使用年数上限設定を検討する意向を表明した。

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・大都市圏では交通量が多いことから、1台当たりの使用年数の上限を低く設定する必要があるというも

の。また、使用年数の上限を低く抑えることで大都市圏の中古自動車の流通量が抑制されることから、

交通渋滞の緩和効果も期待できるとしている。

・更に同省は、使用年数に上限を設けない場合の代替案として、使用年数に応じた累進制の課税制度の

導入を検討しているという。当該累進課税制度については、インドネシア自動車機関(IOI)が使用年

数を①1~9年、②10~19年、③19年以上の3分類にすることを提唱している。

・インドネシア運輸省は2003年より導入を検討、2017年内施行の意向を示してきた自家用車の車検義務

化について、「当面、公共交通車両や貨物輸送車に限定する」とし、義務化を見送る方針を決定した。

・自家用車の車検義務化については、当初、2003年に構想が立案され2004年施行を目指し検討が進めら

れていたが、「義務化による自動車販売の落ち込み」を懸念した一部メーカーの根強い反対や「汚職の

温床」を危惧する声、検査場の不足などが障壁となり、実現されないまま現在に至っている。

・今回、運輸省は「『当面』公共交通車両や貨物輸送車に限定」として、将来的な自家用車の義務化に含

みを持たせた上で、検査場の不足解消の為、民間企業の車検事業への参入を促していく方針も示して

いる。

・また、インドネシア自動車製造業者協会(GAIKINDO)は、「自家用車の車検義務化は自動車の買い替

え需要を生み出す可能性がある」として、歓迎する姿勢を示している。

・なお、今般、同省は、公共交通車両や貨物輸送車両の多くを占めるバス・トラックについて、多発す

る老朽化車両による事故を防止する為、車齢規制を導入する意向も表明。今後、車齢の年数など具体

的内容について、インドネシア交通協会(MTI)などと協議に入るとしている。

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【インド】

2017 年 5 月の乗用車販売は 5 カ月連続の前年超え維持も前月比はマイナス。

一般乗用車の不振が影響。

・インド自動車工業会(SIAM)公表の2017年5月の乗用車(ユーティリティー・ビークル(UV)、バン

を含む)販売台数は前年比+8.6%、前月比▲9.4%の25万1,642台と5カ月連続で前年超えは維持したもの

の、2カ月連続の前月比マイナスとなるなど、足元の販売は頭打ちの状況。

・昨年11月の高額紙幣刷新に伴う販売減から1月以降は回復基調を辿った後、2017年4月1日の新たな自動

車排ガス基準「バーラト・ステージ4(BS4)」(欧州の「ユーロ4」に相当)導入に伴う駆け込み需要を

受け2017年3月に販売台数がピークとなり、その反動減が続いている。

・一般乗用車は前期比+4.8%、前月比▲12.7%の16万6,630台、UVは前期比+18.8%、前月比▲1.2%の6万

9,845台、バンは前年比+9.5%、前月比▲5.9%の1万5,167台と、一般乗用車の前月比大幅な減少が全体

を押し下げた。

・2017年5月18~19日、政府が同年7月1日の導入を目指している全国統一物品・サービス税(GST)導入

の為の「GST評議会」が開催され、物品税・サービス税の税率が決定。二輪車・四輪車(ハイブリッ

ド車(HV)を含む)の税率は以下の通りとなった。

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・二輪&四輪車関連の税率は28~43%となり現状に比べ若干の低下となるが、全体で4段階(5・12・18・

28%)の基本税率のうち最高税率(28%)となったことについて、一部の業界関係者から失望の声が

上がっている。

・二輪&小型車の税率はGST導入前と大きな変化は無い。小型ガソリン車には1%の追加関税、小型ディ

ーゼル車には3%の追加関税が賦課される。一方、大型車(49.0%)とSUV(55.3%)には、現在、50%

前後の租税が課されているため、GST導入により税率低下のメリットが生じる。

・HVについては、基本税率(28%)に追加税率(15%)を加えた総税率(43%)が賦課されるため現行

の実効税率(30.3%)より大幅な引き上げとなる。

・今般、政府が環境対応車の拡販を進めている状況を踏まえ、重工業省は財務省に対し、HVに対する税

率の引き下げを検討するよう要請した。また、インド国内でHVを主力車種としているメーカーの中に

は、「同車種の税率見直しが実現しない場合、ガソリン車へのシフトを検討せざるを得ない」との声も

出ている。

・インド政府は、先に国家環境裁判所(NGT)がデリー政府傘下の交通局に対し「大気汚染対策として

10年以上経過したディーゼル車の登録を抹消するよう指示した」ことについて、「車齢制限の権限を有

するのは連邦政府のみ」として反発。最高裁判所へ登録抹消指示解除の申し立てを行った。

・重工業省も「当該指示は越権行為。自動車法を侵害している」としNGTを非難すると共に、NGTが大

気汚染の主原因をディーゼル燃料としている点について、当該燃料の排ガス量がガソリン燃料に比べ

10~15%少ないことを指摘した上で、NGTの見解を否定している。

・2017年4月1日からの新たな自動車排ガス基準「バーラト・ステージ4(BS4)」(欧州の「ユーロ4」に相

当)導入に際して、「同日以降、従来基準(BS3)モデルの販売・登録を一切認めない」とした最高裁

の決定により多くの在庫を抱え業界に大きな影響を与えた経緯もあり、仮に最高裁が今回の登録抹消

指示の解除を認めない判断を下した場合、ディーゼル車の特需が発生する可能性がある一方、在庫不

足から国内物流に大きな影響を与える可能性もあり、最高裁の判断が注目されている。

・深刻化する大気汚染対策などを背景にインド政府が掲げる「2020年までに電気自動車(EV)の販売台

数を600万台にする。2030年までにガソリン車およびディーゼル車の国内販売を終了させEVへの完全

移行を目指す」というEV普及計画が本格的に始動している。

・政府は、メーカーよりEVの大量購入を行い、配車アプリなどを展開する民間企業へ貸し出す「リース

方式」でのEV普及を検討していることが明らかになった。

GST 税率

基本税率 追加税率 総税率

二輪車・

自動車

二輪車 28% - 28%

小型車 28% 1% 29%

中型車・SUV 28% 3% 31%

SUV、1,500cc 超の車、HV 28% 15% 43%

商用車 28% - 28%

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・また、インド火力発電公社(NTPC)は、ニューデリーとウッタルプラデシュ州にEVインフラ整備の

為の拠点を開設。今後、デリー首都圏(NCR)を皮切りに他都市へのEV向けインフラの整備を加速さ

せる意向。

・マハラシュトラ州政府もナグプールで国内初となる公共交通機関へのEV導入に着手。まずは200台の

EVをタクシー(四輪・三輪)やバスに導入する意向を表明。民間企業と連携の上、既に50カ所以上の

充電設備を設置した。

・道路交通・高速道路省は、今後、公共バス20万台分をEVへ移行させる意向を表明した。この動きに対

し、大手自動車部品メーカーの中にはEV向け電池パックの増産に着手する動きも出ている。

・しかし、官民挙げてのEV普及の動きが期待される一方で、これまでメーカーの多くはハイブリッド車

(HV)の開発に注力してきた経緯もあり、EV 普及の動きに対する企業間の温度差も大きく、今後、

政府が難しい舵取りを迫られる局面も想定されている。

・インド自動車タイヤ製造業者協会(ATMA)は政府に対し、増加している廉価な中国製の商用車用輸

入ラジアルタイヤへの反ダンピング(AD)関税の導入を強く要請した。

・当該タイヤは、その強い価格競争力を背景に増加の一途を辿っており、2016年度の輸入量は2013年度

のおよそ3倍、全体輸入量の9割以上に達している。

・現在のところ、政府は態度を明らかにしていないが、今般、国内企業からの要請を受け、外国製の鉄

鋼製品や中国製のアルミニウム箔、抗生物質などに対するAD関税の賦課に踏み切っていることから、

業界内では「可能性はある」と期待を寄せる向きもある。

(自動車業界レビューの出所)各国政府・業界団体発表、各種報道

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~アンケート実施中~

(回答時間:10 秒。回答期限:2017 年 7 月 6 日)

https://s.bk.mufg.jp/cgi-bin/5/5.pl?uri=M6Aj3s

(ご参考)最近発行した臨時増刊号

「インド:GST の税率固まる」2017 年 5 月 26 日 http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW2017052602.pdf

「シンガポールの賃金動向(2017 年 5 月)」2017 年 5 月 19 日 http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20170519.pdf

「アジア・オセアニア各国の賃金比較(2017 年 5 月)」2017 年 5 月 15 日 http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20170515.pdf

「(速報)タイ:配当金支払期限について」2017 年 5 月 8 日 http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20170508.pdf

「米国抜きの TPP による事業機会」2017 年 4 月 24 日 http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20170424.pdf

「インドネシア:外為取引、外貨建対外債務の中銀宛て報告」2017 年 4 月 21 日 http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW2017042102.pdf

(編集・発行) 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部

(照会先)北村 広明 松山 昭浩 小澤 文月 福住 知子

(e-mail): [email protected]

本レポートのバックナンバーは、以下の URL からご覧いただけます。

http://www.bk.mufg.jp/houjin/kokusai_gaitame/report/index.html