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189 第  章 外国旅行の動向 2 JNTO 訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9 市場編) 2-1 外国旅行の現状と展望 リーマン・ショックによって大きく減少した英国 人外国旅行者数は、2013 年から増加に転じ、2015 年 にはリーマン・ショック前の6,900万人台には届か なかったものの、前年比9.4%増の6,572万人まで回 復した。2015年に最も増加した訪問先は北米で 14.9%増、次いでヨーロッパが12.4%増で、アジア を含むその他は 1.9%増であった。 英国人が旅行地を選定するにあたって「温暖な気 候」と「降り注ぐ太陽」を求める傾向はこの 10 年変 化はなく、スペインやポルトガル、イタリアが引き 続き人気がある。英国人は既に世界各地を旅行して おり、英国が成熟した旅行市場であるため、新たな 旅行地や旅行体験を求める傾向がある。英国旅行業 会(Association of British Travel Agents: ABTA)の報告書によると、2015 年に起きたテロが 2016 年の旅行先の検討に影響を与えた可能性はある が、これらの地域への旅行者数の回復は早かった。 報告書では、さらに次のようなことが述べられて いる。 ・「過去に行ったことの無い国へ旅行する」と回答 した人が2015年に9%であるのに対し、2016年に は 18%になっている。 ・一般に早期予約を行うと大幅な割引があることか ら、1年前から旅行計画を立て始める消費者も少 なくなく、特に長距離旅行にはこの傾向が強い。 一方、ヨーロッパ域内などの短距離旅行には、イ ンターネットで出発日直前の予約を受け付ける 「ラストミニット」と呼ばれる商品も人気がある。 ・オールインクルーシブ型の旅行も人気があり、 2016 年には 20%の人がオールインクルーシブ型の 旅行を選択するかもしれないと回答している。 以下に、2016年Office for National Statistics(ONS: 英国統計局)調査 1 の結果から、英国人の外国旅行 の特徴について述べる。 1: 資料:ONS 調査(2016 年) ①旅行地 2015年の英国人の旅行地上位5カ国は以下のとお りである。 順位 旅行地 旅行者数 前年比 スペイン(カナリア諸島を 含む) 1,298.8 万人 6.1%増 フランス 875.5 万人 0.7%増 イタリア 353.3 万人 19.9%増 アイルランド 350.4 万人 13.2%増 米国 350.3 万人 7.6%増 ポルトガル 260.2 万人 18.7%増 ドイツ 259.2 万人 11.6%増 オランダ 254.8 万人 20.7%増 ギリシャ 231.2 万人 19.7%増 ポーランド 203.3 万人 20.1%増 資料: ONS 調査(2016 年) 旅行地の約8割をヨーロッパ諸国が占めている。 ヨーロッパ域内の観光都市を訪問する短期旅行(シ ティ・ブレイク)は気軽な旅行として定着している。 最も多くの英国人が訪れるスペインの人気は、ビー チ ・ リゾートが多く、他のヨーロッパ諸国と比較し ても物価が低いことによるものである。また、英国 は日照時間が短いため比較的温暖な旅行地を好む旅 行者が多く、上記の人気旅行目的地にもこうした英 国人の志向が反映されている。 ヨーロッパ以外で英国人が多く訪れている国とし ては、インド(93万1,000人、前年比5.1%増)、アラ ブ首長国連邦(78万6,000人、同8.2%増)やモロッ コ(55 万 8,000 人、同 21.3%増)、メキシコ(52 万 9,000 人、同 21.9%増)などがある。 アジア・オセアニア地域を訪れる旅行者数は、一 部の国で大きく増えている。英国と歴史的に関係が 深く、商用客が多いインドは前年比 5.1%の増。低迷 していたニュージーランドへの訪問者は11万8,000 人で同11.8%増、オーストラリアも44万6,000人、 同 3.7%増となった。ビーチリゾートの多いタイは依 然として人気が高く、2015 年にタイを訪れた英国人 は同 10.1%増の 43 万 2,000 人であった。 アラブ首長国連邦は、英国からオーストラリアへ 向かう際の経由地としての利便性と近年の高級ホテ ルの整備などにより、英国人の旅行地の一つとして 人気が定着しており、オーストラリアへの訪問者数 をしのぐ数の旅行者が訪れている。

第 章 2 外国旅行の動向189 第 章2 外国旅行の動向 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪9 市場編) 豪州 カナダ 米 国 ロシア ドイツ

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189

第  章 外国旅行の動向2

JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

豪州

カナダ

ロシア

ドイツ

フランス

イタリア

スペイン

2-1 外国旅行の現状と展望

リーマン・ショックによって大きく減少した英国人外国旅行者数は、2013年から増加に転じ、2015年にはリーマン・ショック前の6,900万人台には届かなかったものの、前年比9.4%増の6,572万人まで回復した。2015年に最も増加した訪問先は北米で14.9%増、次いでヨーロッパが12.4%増で、アジアを含むその他は1.9%増であった。

英国人が旅行地を選定するにあたって「温暖な気候」と「降り注ぐ太陽」を求める傾向はこの10年変化はなく、スペインやポルトガル、イタリアが引き続き人気がある。英国人は既に世界各地を旅行しており、英国が成熟した旅行市場であるため、新たな旅行地や旅行体験を求める傾向がある。英国旅行業協 会(Association of British Travel Agents:ABTA)の報告書によると、2015年に起きたテロが2016年の旅行先の検討に影響を与えた可能性はあるが、これらの地域への旅行者数の回復は早かった。

報告書では、さらに次のようなことが述べられている。

・「過去に行ったことの無い国へ旅行する」と回答した人が2015年に9%であるのに対し、2016年には18%になっている。

・一般に早期予約を行うと大幅な割引があることから、1年前から旅行計画を立て始める消費者も少なくなく、特に長距離旅行にはこの傾向が強い。一方、ヨーロッパ域内などの短距離旅行には、インターネットで出発日直前の予約を受け付ける

「ラストミニット」と呼ばれる商品も人気がある。・オールインクルーシブ型の旅行も人気があり、

2016年には20%の人がオールインクルーシブ型の旅行を選択するかもしれないと回答している。

以下に、2016年Offi ce for National Statistics(ONS:英国統計局)調査*1の結果から、英国人の外国旅行の特徴について述べる。

*1: 資料:ONS調査(2016年)

①旅行地2015年の英国人の旅行地上位5カ国は以下のとお

りである。

順位 旅行地 旅行者数 前年比

① スペイン(カナリア諸島を含む) 1,298.8万人 6.1%増

② フランス 875.5万人 0.7%増③ イタリア 353.3万人 19.9%増④ アイルランド 350.4万人 13.2%増⑤ 米国 350.3万人 7.6%増⑥ ポルトガル 260.2万人 18.7%増⑦ ドイツ 259.2万人 11.6%増⑧ オランダ 254.8万人 20.7%増⑨ ギリシャ 231.2万人 19.7%増⑩ ポーランド 203.3万人 20.1%増

資料: ONS調査(2016年)

旅行地の約8割をヨーロッパ諸国が占めている。ヨーロッパ域内の観光都市を訪問する短期旅行(シティ・ブレイク)は気軽な旅行として定着している。最も多くの英国人が訪れるスペインの人気は、ビーチ・リゾートが多く、他のヨーロッパ諸国と比較しても物価が低いことによるものである。また、英国は日照時間が短いため比較的温暖な旅行地を好む旅行者が多く、上記の人気旅行目的地にもこうした英国人の志向が反映されている。

ヨーロッパ以外で英国人が多く訪れている国としては、インド(93万1,000人、前年比5.1%増)、アラブ首長国連邦(78万6,000人、同8.2%増)やモロッコ(55万8,000人、同21.3%増)、メキシコ(52万9,000人、同21.9%増)などがある。

アジア・オセアニア地域を訪れる旅行者数は、一部の国で大きく増えている。英国と歴史的に関係が深く、商用客が多いインドは前年比5.1%の増。低迷していたニュージーランドへの訪問者は11万8,000人で同11.8%増、オーストラリアも44万6,000人、同3.7%増となった。ビーチリゾートの多いタイは依然として人気が高く、2015年にタイを訪れた英国人は同10.1%増の43万2,000人であった。

アラブ首長国連邦は、英国からオーストラリアへ向かう際の経由地としての利便性と近年の高級ホテルの整備などにより、英国人の旅行地の一つとして人気が定着しており、オーストラリアへの訪問者数をしのぐ数の旅行者が訪れている。

Page 2: 第 章 2 外国旅行の動向189 第 章2 外国旅行の動向 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪9 市場編) 豪州 カナダ 米 国 ロシア ドイツ

190 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

■ アジア・オセアニア地域の主要目的地への英国人旅行者数  (単位:万人)

旅行地 2014年英国人旅行者数

2015年英国人旅行者数

インド 88.4 93.1

アラブ首長国連邦 72.7 78.6

オーストラリア 43.0 44.6

タイ 39.2 43.2

香港 14.5 14.9

日本 12.0 13.5

ニュージーランド 10.5 11.8

注:  集計方法が異なるため、2015年の訪日英国人数はONS調査では13万5,000人(前年比12.3%増)であるが、日本政府観光局(JNTO)統計では25万8,000人(同17.5%増)となっている。JNTO統計では、日本以外も目的地とする訪日客が含まれている。

②旅行目的英国人の外国旅行を目的別に見ると、観光目的の

旅行者が4,215万人で全体の64.1%を占め、これに親族・友人訪問を含めると86.5%に上る。週末や短い連休を利用したシティブレイクに関しては、様々な旅行商品がインターネットや新聞の広告欄に掲載されている。また、商用目的の外国旅行者は714万9,000人で全体の10.9%を占めている。

③滞在日数と旅行費用英国人の外国旅行の平均滞在日数は約10.4日間

(2015年)であり、2013年の10.5日間、2014年の10.3日間と、大きな変動はない。内訳はヨーロッパが8.1日、北米が14.3日間、その他地域が20.8日となっており、この傾向はここ数年変わっていない。平均滞在日数を旅行目的別に見ると、観光目的が9.3日間(うちパッケージツアー利用は8.6日間)、親族・友人訪問が15.3日間、商用目的が5.9日間であった。一方、訪日旅行の平均滞在日数は14.8日間となっている。日本に比べ費用が安く抑えられるアジアの旅行地は、中国が29.5日、香港が26.4日、タイが23.3日、インドが26.4日となっており、オセアニアはオーストラリアが33.9日、中東ではアラブ首長国連邦が11日、となっている。

 2015年に英国人が旅行に費した消費額の総額は、2014年と比較して9.8%増となった。旅行者数が9.4%増加したので、一人平均の消費額が若干増えた計算となる。観光目的の旅行では7.6%増、商用目的は30.2%増、親族・友人訪問2.9%増となった。

■訪日旅行の現状と展望英国人の外国旅行者数は年々増えているが、この

数年、訪日旅行はその伸び率を上回る勢いで増えている。2011年の東日本大震災の影響により14万人台へと急減した訪日客数は、その後順調に回復しており、2013年には19万1,798人、2014年には22万60人、2015年には過去最高の25万8,488人(これまでの過去最高は2007年22万1,945人)となった。

2015年は円安と英国経済の緩やかな回復が、訪日旅行プロモーションの効果が反映されやすい状況を創出した。日本行き航空便は2015年2月にヴァージン・アトランティック航空が撤退し日本行き直行便が少なくなる中、経由便を中心に低価格な商品が販売され、訪日意欲を後押しした。

このような円安傾向や航空運賃の値頃感、日本の食や文化に対する関心の高まり、満足度の高い旅行目的地というイメージの浸透などにより、引き続き訪日旅行の潜在需要は大きく、継続的なプロモーションが非常に重要であると考えられている。

2015年の訪日英国人数を月別で見ると、最も訪問者が多かったのは3月、4月の桜の季節、特殊要因のあった7月、紅葉シーズンの10月であった。2015年はイースター休暇が4月上旬になった影響で3月の需要が拡大した。7月には、ボーイスカウト世界大会「第23回世界スカウトジャンボリー」が山口県で開かれ、約4,000名の参加者が訪日客数を押し上げた。英国からの訪日滞在日数は7日以上が8割弱で、訪日旅行1回あたりの総消費額は4位(約21万円)であることを勘案すると、英国は日本にとって、引き続き魅力あるえ市場であると言える*2。

*2: 資料:観光庁『訪日外国人消費動向調査平成27年』

▶訪日旅行のトレンドの変化2015年の調査では観光目的の訪日英国人が訪日旅

行前に期待していたことの中で、「日本食を食べること」が1位(76.4%)に位置付けられている。次いで、「自然・景勝地観光」が2位(61.7%)、3位に「日本の歴史・伝統文化体験」(56%)が位置付けられている。加えて、新幹線乗車体験、温泉および旅館体験が人気であるほか、日本食、ロボットなどのハイテク、ショッピング、若い年齢層を中心としてポップカルチャーなども人気で、日本の新旧の魅力が訪日旅行の主な動機となっている。

2007年の『ミシュランガイド東京』発行や2013年の日本食ユネスコ無形文化遺産登録以来、日本食に対する関心がさらに高まり、訪日旅行の大きな目的の一つになっている。食事の内容も、寿司、天ぷら、刺身といった従来から人気のあるものに加えて、

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第2章 外国旅行の動向

191JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

豪州

カナダ

ロシア

ドイツ

フランス

イタリア

スペイン

最近ではラーメンが大人気となっている。うどん、カレー、焼き鳥などのいわゆるB級グルメにも関心が高まっている。

都市では東京に対する関心が高く、観光庁『訪日外国人消費動向調査(平成27年)』によると、英国人旅行者のうち東京を訪問した人の割合は89.7%に上っている。六本木や新宿などの近代的なビル群と浅草などの伝統文化との共存融合が幅広い層から支持されており、2016年には高級日刊紙「ガーディアン」が年に一度発表する「Guardian Travel Award」では都市別の第1位に東京が選ばれた。(2016年から国別部門の賞がなくなったが、それまでは遠距離国別部門で何度も日本が第1位に選ばれている。)京都の訪問率は32.0%となっているが、宿泊者数で見ると、延べ宿泊者数のうち東京が1位の46.7%、2位が京都で14.7%となっている。また、ガイドブック

「ロンリープラネット」の2015年度のBest in Travelで日本が第2位に選ばれ、さらに、ABTAが毎年発表する「ABTA Travel Trend」においても注目の旅行地として日本が選ばれるなど、観光地としての関心が高まっている。

ここ数年はスキー目的地としても日本の認知度が向上し、ニセコ、富良野、白馬、妙高、野沢温泉といった日本のスキーリゾートが英国のスキーヤーにも知られるようになっている。英国のスキー人口は630万人以上と推計されており、その多くがフランス、オーストリア、イタリア、スイスなどのヨーロッパのスキーリゾートを訪問するが、米国、カナダといった遠距離のスキーリゾートにも訪問している。日本は、米国やカナダと同程度の料金で、豊富な降雪量とパウダースノーに加えて日本ならではの伝統文化、温泉や旅館などが楽しめるとあって、新しいスキーリゾートを体験したいスキーヤーに注目されており、欧米以外では第1位のスキー受け入れ国となっている。最も人気なのは北海道のニセコであるが、日本らしい伝統文化やスノーモンキー(地獄谷野猿公苑)を見ることができるスキーリゾートとして、長野や新潟の人気も高まっている。

その一方、ビーチリゾートとしての沖縄の認知度も向上しつつある。沖縄独特の伝統文化、長寿の秘訣として知られる沖縄料理、離島の魅力などが人気の背景となっている。東南アジアのビーチリゾートに比べると航空運賃やホテルなどが高額に感じられるものの、子連れの家族旅行では、ゴールデンルートに沖縄を加えた旅程のニーズが特に高まっている。

▶訪日旅行の展望日本には英国人が興味を持つ日本食、現代文化と

伝統文化のコントラストや自然景観があるほか、治安も良く、世界的にも高水準のサービスが受けられることから、実際に日本を訪問した旅行者の満足度は極めて高い。反面、日本は一般的に「異文化圏の国で、英語が通じず、物価が高く物理的・心理的に遠い」というイメージを持っている人がいることも事実である。これらを払拭するには、実際に日本を訪れた旅行者の口コミなどを活用することが重要である。そのためには、英国の海外旅行者が利用する旅行口コミウェブサイトの活用や、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアを利用したPRを継続的に行っていく必要がある。

旅行業界も訪日旅行商品の造成には積極的で、2003年には約30社しかなかった訪日旅行を取り扱う旅行会社が、2016年には150社以上となり、ゴールデンルート以外の地域や、特定のテーマに沿った旅行商品の開発を行っている。日本への注目度は旅行業界でも更に高まっており、これまで訪日ツアーを販売していなかった大手旅行会社も、ツアー造成・販売に着手している。

2-2 外国旅行の旅行形態別特色

①個人旅行世界の共通語とも言える英語を話す英国民は、団

体旅行は好まず、家族や友人などとの個人旅行(FIT)が外国旅行の主流である。航空会社間の競争激化に伴い、ヨーロッパ各都市への低価格航空券がインターネットで簡単に購入でき、オンライン旅行会社(OTA)を利用してホテルやレンタカー、旅行保険などの旅行関連商品も、単独あるいは航空券とセットで購入するのが一般的である。

英国人の訪日旅行は、個人旅行(FIT)が多い。観光庁『訪日外国人消費動向調査平成27年』によると、訪日英国人観光客の94.8%が個人旅行であり(個人旅行パッケージ利用を含む)、個人旅行の割合が高い市場である。

訪日英国人の多くは、航空券のみを購入したり、航空券と宿泊のみを組み合わせた個人旅行向けのパッケージ商品(スケルトンタイプ)を利用している。個人旅行パッケージは一人からでも利用できるため、自分なりのアレンジを加え、独自の旅程を組む人も多い。

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192 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

②パッケージツアーパッケージツアーは、航空券とホテルのみを組み

合わせた個人旅行向けのもの(スケルトンタイプと呼ばれる)が主流である。例えば、スペインのリゾート地などへ、チャーター便の利用と空港までの送迎、キッチン付きの宿泊施設を組み合わせた低価格のファミリー向け商品が多数販売されている。また、通常の旅行パッケージツアーに、さらに滞在中の食事や飲み物なども価格に含まれているオールインクルーシブ型のツアー(All-inclusive-holiday)も若い家族連れに人気がある。この種のパッケージは、旅行者にとって価格面でのメリットが大きい。

2015年にABTAが行った調査によると、英国人の外国旅行の旅行形態として観光旅行にパッケージツアーが占める割合は53%であった。価格と全ての手配が済んでいる便利さが魅力となり、2016年では18歳から24歳の若年層の55%(前年から10ポイント弱増)がパッケージ旅行を使って海外旅行をしている。また、社会グレードA**に分類される高所得者層では62%がパッケージを海外旅行で利用しており、前年に比べ23ポイント増と大幅に増加した。

訪日旅行におけるパッケージツアーの旅程としては東京、箱根、高山、京都、奈良、広島、宮島などを巡る、いわゆるゴールデンルートを中心とする商品が圧倒的多数を占めている。

③ 目的型旅行(スペシャル・インタレスト・ツアー:SIT)目的型旅行(SIT)は、消費者の特定の関心を満

たすためのツアーであるが、独立ツアーオペレーター協会(Association of Independent Tour Operators:AITO)加盟の旅行会社には、特定の目的地や旅行者層に特化したツアーオペレーターが多い。趣味関連の雑誌には、その趣味をテーマとしたツアー広告が掲載される場合が多い。

SITに参加する人々は、自分の知的欲求を満たすだけの質や魅力がそのツアーに見出せれば、たとえ料金が高くても申し込む傾向がある。具体的には専門知識を持ったガイドの同行や、通常のツアーでは訪れることのできない場所への訪問などが大きな検討要素となる。代表的なSITのテーマとしては、ウィンタースポーツ、ガーデニング、バードウォッチング、建築、サイクリングなどが挙げられる。

訪日旅行の目的型旅行(SIT)としては、ウィンタースポーツ(スキーおよびスノーボード)、日本庭園、鉄道、ハイキング、サイクリング、バードウォッチング、ダイビングなどをテーマとする商品

が販売されている。SITは、催行本数や人数は多くないが、確実に集客し、催行に結びつくことが多い。

2-3 観光関連政策

1. 外国旅行関連規制

英国には外国旅行に関する規制はない。

2. 旅行業法

英国には日本の旅行業法に相当する法律はないが、航空券や航空券込みの旅行パッケージの販売を行う旅行会社はCivil Aviation Authority (CAA) が発行するAir Travel Organiser,s License (ATOL)を所持している必要がある。宿泊手配のみについては、このような規制はない。パッケージツアーの造成・販 売 に は、EUの「The Package Travel, Package Holiday and Package Tours Regulations (PTRs)」が適用される。

2-4 日本の競合旅行地

日本の競合旅行地は中国・タイ・香港などである。また、同じく遠距離航路という意味では、アジアだけでなく、米国も競合国と言える。大手旅行口コミサイトで日本のページを見ている英国人は、同時に米国のページも閲覧していることが多い。

訪中旅行は地上経費などが日本より安く、全体の旅費が低く抑えられるため、訪日旅行商品と同じような価格帯であっても高級ホテルに宿泊できるなどの強みがある。訪中商品には、北京、上海、西安などの都市と万里の長城、天安門広場、紫禁城、兵馬俑などの文化・歴史的観光地が組み込まれることが多い。ツアー価格は10日程度で1,500英ポンド(約20万5,000円)のものが主流であり、この料金には中国内の航空機による移動なども含まれている。訪日旅行と同じ金額でも長期間旅行できるのが消費者にとって大きな訴求要因となっている。

また、冬が長い英国では、太陽やビーチリゾートを求める旅行者が多く、タイやマレーシアのような自然や太陽、エキゾチックなアジアといった面をアピールしたプロモーションを展開しており、日本よりも比較的旅行費用が抑えられるタイやマレーシアなどを訪問するケースが多い。

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第2章 外国旅行の動向

193JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

豪州

カナダ

ロシア

ドイツ

フランス

イタリア

スペイン

2-5 訪日旅行の価格競争力

英国では、一般的に「日本行きの航空券は高い」という認識が定着している。旅行時期によって変動はあるものの、2016年11月現在、ロンドン-日本間の直行便の往復運賃は650英ポンド(約9万円)~ 1,500英ポンド(約20万円)である。これに対して、オフピークで比較するとタイ、香港、中国行きは総じて150英ポンド(約2万2,500円)以上安く、運賃の比較では競合国にかなわない。また、他のアジア諸国に比べて日本国内における地上経費も高額で、旅行商品購入前の価格比較においては不利な状況にあることは否めない。

■英国発外国ツアー価格比較表

旅行地 旅行日数

価格(英国ポンド)

価格(日本円)

 中国(上海、桂林、漓江クルーズ、西安市、北京、紫禁城、万里の長城)

14 2,845 38万4,075

オーストラリア(シドニー、ゴールドコースト、ブリスベン、フレーザー島、ハービーベイ、ロックハンプトン、デイドリーム島、タウンズビル、ミッションビーチ、アサートン高原、ケアンズ、グリーン島、アリススプリングス、エアーズロック)

16 3,505 47万3,175

日本(東京、日光、松本、長野、富山、白川郷、高山、鳥羽、出雲、松江、広島、宮島、京都)

13 3,658 49万3,830

☆ 中国(北京、西安、上海) 8 1,299 17万5,365

☆日本(東京、富士、箱根、京都、奈良)&中国 (北京、西安、上海)

15 4,299 58万365

ベトナム(ハノイ、ハロン湾、カットバ島、フエ、ホイアン、ホーチミン、タイニン、クチ、九龍川デルタ)

14 1,980 26万7,300

☆タイ(バンコク)・シンガポール・インドネシア(バリ島)

15 1,929 12万5,415

☆ 韓国(ソウル、大邱、慶州、釜山) 8 1,315 17万7,525

 

台湾(台北、タロコ国立公園、台東・知本地区、墾丁国家公園、高雄、台南、阿里山、日月潭)

14 3,295 44万4,825

  インド(デリー、アグラ、ジャイプール) 9 1,195 16万1,325

★ 日本(東京、富士、箱根、京都、奈良) 10 3,484 47万340

  中国(香港・マカオ) 6 1,490 20万1,150

  アメリカ(ニューヨーク) 5 1,250 16万8,750

  バルバドス(ビーチリゾート滞在) 9 1,400 18万9,000

 

イタリア(ヴェニス、ヴェローナ、フィレンツェ、ヴェネチア、ローマ、アッシジ、シエーナ、サン・ジミニャーノ)

8 919 12万4,065

  アメリカ(ラスベガス) 6 880 11万8,800

  アメリカ(マイアミ) 7 1,002 13万5,270

  スペイン(バルセロナ) 5 536 72万 ,360

  フランス(パリ) 5 298 4万230

※ 2016年10月時点。★は訪日ツアー。1英国ポンド=135円で算出。☆のツアーは、英国からの往復航空券は価格に含まれていない。

2-6 評価の高い日本の旅行地

初訪日の旅行者が9割以上を占めることもあり、東京、京都、箱根、広島、宮島など、ゴールデンルート上の旅行地を訪れる人が圧倒的に多い。新幹線の定時運行・快適さについても旅行者に浸透しており、このルートを旅行する人の多くはJRパスを利用している。新幹線の利用自体も「日本らしい体験」であり、通常の席でも英国の特急電車のファーストクラス並みの広さと快適さがあることも魅力である。

全行程ガイド付きのパッケージ商品に含まれることの多い旅行地としては、これらの旅行地に加え、奈良、日光、長野、金沢、松本、高山、白川郷などが挙げられる。金沢は北陸新幹線の開通により、人気が高まっている。主要都市から日帰り旅行ができる場所についても問い合わせを受けることが多々あり、広島や奈良については京都から、日光については東京からの日帰り旅行地として旅程に組まれる例が多い。リピーターになると、北海道や九州への関心が多い。近年需要が高まっている家族旅行では、子どもの夏休みに合わせて旅行することが多いため、沖縄のビーチリゾートを追加する傾向にある。

また、スキー旅行の目的地として、ニセコや白馬もよく知られている。パウダースノーが楽しめるだけでなく、積雪日数が多く毎日新しい雪で滑ることができることや、オフピステ(ゲレンデ外)でのアクティビティが楽しめることが大きな要因である。スキーリゾートとしては、この他に北海道の富良野、ルスツ、長野県の野沢温泉、新潟県の妙高なども認知されてきた。

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194 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

2-7 訪日旅行の有望な旅行者層

■文化や歴史に関心を持つ中高年齢層属性 ・ 比較的高学歴で高収入。英国で一般的に分

類されている社会階層のA(上流中産階級)やB(中産階級)に属する(総人口の27%)。・ロンドンおよびイングランド南東部在住者

旅行形態 ・ 高年齢層は、団体パッケージツアーの利用が中心。少し若い世代になると、個人旅行または航空券とホテルのみのスケルトンタイプのパッケージ利用も多い。

訴求ポイント

・ 日本独自の文化・歴史、自然、食事(伝統文化、日本食、日本庭園、陶器・磁器、旅館宿泊体験など)。・ 芸者、富士山、日本庭園、神社仏閣など、「典型的な日本のイメージ」から日本に興味を持つ層が中心。

旅行日数、費用など

・ 団体パッケージツアーの場合、約1週間から10日程度で費用は2,300~ 3,500英ポンド(約31万円~約47万円)が主流。

選定の背景 ・ 団体パッケージツアーを販売する英国の旅行会社へのヒアリング調査においても、経済的に余裕のある中高年齢層を中心に、伝統的な日本のイメージに沿った商品が売れ筋商品である。

効果的な宣伝方法

・ 文化・歴史関連施設(内容、アクセス、料金、祭事日程など)の英語情報の提供が重要。また、英文パンフレットの配布、ニュースレター・プレスリリースへの掲載、英語版ウェブサイト上での宣伝に加えて、旅行専門誌や主要新聞の旅行欄など、メディア招請を通じて具体的な旅行情報を提供する広報活動が効果的である。徒歩での観光を好む人も多いため、わかりやすいウォーキングマップなども人気がある。

・ 高年齢層は旅行会社のパッケージ商品を利用することが多いため、旅行会社のツアーパンフレットや機関誌に訪日ツアー商品の掲載を図るなど、旅行会社とタイアップをした訪日商品の販売促進キャンペーンが効果的である。

■ ハイテク、建築、アートなどに興味を持つ高学歴の若年層属性 ・ 20歳代~ 30歳代の比較的若い年齢層で、

日本のハイテク、建築、現代アート、デザイン、ライフスタイル、文化に興味関心がある層。

・ 英国で一般的に分類されている社会階層のA(上流中産階級)やB(中産階級)に属する(総人口の27%)。・ ロンドンおよびイングランド南東部在住者が中心。

旅行形態 ・ OTAを利用した個人手配または航空券とホテルのみのスケルトンタイプのパッケージ利用が大半。

訴求ポイント

・ 日本食文化、自然などに加えて、日本のハイテク、建築、現代アート、デザインなど。

旅行日数、費用など

・ 約1週間から2週間の日程で、費用は1,500英ポンド~ 2,000英ポンド(約22万5,000円~約30万円)。

選定の背景 ・ 観光目的に限定したサンプル調査の結果では、最も訪日経験者が多い世代である。

効果的な宣伝方法

・ 個人旅行旅行者向けに、直行便だけではなく、低価格な経由便を利用した割安航空運賃の情報や、航空券とホテルのお得なパッケージ、日本を安価に旅行できるヒントなどの情報をきめ細かく提供することが必要である。また、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなどのソーシャルメディアを利用した定期的な情報発信や、旅行口コミサイトの活用が効果的である。

■ウィンタースポーツ(スキー市場)属性 ・ 英国のスキー人口は630万人以上であり、

ほとんどが国外でスキーを楽しむ傾向にある。フランス、イタリア、オーストリアなどのヨーロッパのスキーリゾートが人気であるが、米国やカナダといった遠距離のスキーリゾートへの旅行を楽しむ層は比較的裕福で、その中でも新しいスキー旅行地を探している中・上級スキーヤーが訪日している。近年、日本のパウダースノーについても認知度が大きく向上している。

旅行形態 ・ 個人旅行か航空券とホテルがセットになったスケルトンタイプが多い。

訴求ポイント

・ 雪質(パウダースノー)、スキーリゾート情報(特にゲレンデ外を滑るオフピステ情報)、伝統文化、日本食、旅館宿泊体験、格安航空券など。

旅行日数、費用など

・ 1週間から10日で、1,700英ポンド~ 2,500英ポンド(約23万円~ 34万円)。

選定の背景 ・ アジアでスキーが本格的に楽しめるのは日本だけであること、また、雪質に優れ、パウダースノーが楽しめることから、近年、主要スキー・スノーボード雑誌でも取り上げられる回数が増え、スキー目的地としての認知度が大幅に向上した。・ スキー専門旅行会社でも日本商品を造成するケースが増えており、訪日スキー専門旅行会社も設立され、きめ細かな情報を提供することで送客実績を上げている。主なスキー目的地である北海道、長野、新潟の各都道府県へのヒアリングでも、英国からのスキー人口が年々増加していることが確認されている。

効果的な宣伝方法

・ 英国最大のスキー関連見本市である「The Ski & Snowboard Show」へ出展し、日本のスキーリゾートを消費者に直接PRするほか、日本のスキー専門雑誌とタイアップした英国からの記者招請(プレストリップ)、スキー専門旅行会社とタイアップした共同マーケティングなどが効果的である。

2-8 訪日旅行の買い物品目

英国には、日本のように知人・親族に旅行のお土産を配るという習慣はなく、一般に旅行時に買い物に費やす金額は大きくない。訪日旅行の記念に買い求める品物としては、お菓子や絵葉書に加えて、陶

Page 7: 第 章 2 外国旅行の動向189 第 章2 外国旅行の動向 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪9 市場編) 豪州 カナダ 米 国 ロシア ドイツ

第2章 外国旅行の動向

195JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

豪州

カナダ

ロシア

ドイツ

フランス

イタリア

スペイン

磁器などの和食器やキッチン用品、浴衣や着物、織物、和紙、漢字や日本的なデザインの入ったTシャツなどが定番となっている。子どもを持つ層には、キャラクター商品、ゲーム類、精巧でバラエティに富んだおもちゃも人気がある。

2-9 日本の食に対する嗜好

日本食は、都市部を中心に広く受け入れられており、特に寿司・ラーメンの認知度・人気が高い。寿司は、高級レストランから、スーパーマーケットやカフェなどで簡単に購入することができるものまで幅広い。非日系の日本食レストランによる創作料理も多い。ラーメンはここ最近のブームで、日系・非日系のラーメン店が共にあり、休日は行列ができる人気店もある。このほか、鉄板焼、天ぷら、すき焼きのほかカレー、うどん、焼き鳥なども日本食として認識されている。

その一方で、生魚には抵抗感を抱く英国人も依然多い。英国人に日本食を提供する際には、「○○づくし」 といった単一食材を素材とする料理を避け、メニューの中で味付けや料理方法、素材に変化をもたせると失敗がない。

2-10 接遇に関する注意点

ベジタリアンやヴィーガン(完全菜食主義者:Vegan)など、信条としてあるいは宗教上の理由で食事制限がある人も多いため、食材や調理法、食べ方を明示して提供する必要がある。スープの出汁や、同じ調理環境で該当食品を扱うことができない場合もあるため、注意を要する。使われている食材を英語表記することで、自分で判断できるようにしておくことが望ましい。

また、英国では動物愛護の観点から捕鯨に嫌悪感を持つ層が存在する。これらの人々は当然のことながら、鯨料理に対する抵抗が強い。同様に、魚の活け造り、踊り食いに対しても嫌悪感を示す英国人もいる。