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知っておくべき行動障害・精神症状 BPSDの実態 ●1
498-22910
認知症でみられる行動障害・精神症状(Behavioral and Psychological
Symptoms of Dementia; BPSD)は,患者の生活する環境状況によってそ
の病態が異なることが予想される.本章では,患者の生活環境からみた行動
障害・精神症状 BPSD の実態を解説する.
在宅認知症患者の行動障害・精神症状 BPSD在宅認知症患者における行動障害・精神症状 BPSD の実態を「認知症の
『周辺症状』(BPSD)に対する医療と介護の実態調査と BPSD に対する
チームアプローチ研修事業の指針策定に関する調査報告書」から紹介する.
これは,在宅で生活をしている認知症患者にみられた BPSD によって介護
家族が困惑し,かかりつけ医に対策を依頼するも実効性のある対策を打ち出
すことができなかった BPSD を抽出したものである.妄想や攻撃的言動,
睡眠障害,幻覚,徘徊,抑うつ,不安,介護への抵抗などが在宅で生活して
いる認知症患者を介護する家族を悩ませる BSPD といえる 図 1 .これらの
BPSD が月に 1 回程度しか出現しないならば,介護家族に我慢しなさいと
の指導も可能であるが,毎日あるいは週に数回出現する場合には何らかの対
策が求められる. 表 1 は,上述の調査における BPSD の出現頻度をみたも
のであるが,妄想がみられた 50 名のなかで日に 1 回以上が 28 名,週に数
回が 15 名に認められている.およそ 9 割の患者で毎日あるいは週に数回妄
想(多くは物盗られ妄想と思われる)の訴えがみられ家族が困っていること
がわかる.攻撃的言動や幻覚,睡眠障害,徘徊なども同様である.在宅で介
護する家族が困っている,あるいは悩んでいる BSPD に対しては何らかの
介入が必要といえる.
知っておくべき 行動障害・精神症状 BPSD の実態第1章
第 1章●2
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もの忘れ外来における行動障害・精神症状 BPSD著者は,1996 年からもの忘れ外来を開設しているが,著者のように総合
病院のもの忘れ外来や個人のクリニック・医院を受診してくる認知症患者で
は,BPSD が目立たないあるいはおとなしいタイプが多いと考えられる.図 2 は,著者の外来でアルツハイマー型認知症と診断した初診患者にみられ
た BPSD の出現頻度を示したものである.無関心(アパシー)が 72.6%を
占めており,以下,不安,異常行動,うつ,妄想,興奮,易刺激性が 30%
前後に出現していることがわかる.妄想のなかでは物盗られ妄想が 31%に
観察される 図 3 .盗まれたと訴えるものは,金銭や通帳,財布が多く,犯人
とされる者は娘や嫁,婿,夫など身近な家族が多い 図 4 .これ以外の妄想を
図 1 行動障害・精神症状 BPSDの種類と出現頻度認知症の「周辺症状」(BPSD)に対する医療と介護の実態調査と BPSDに対するチームアプローチ研修事業の指針策定に関する調査報告書より引用
44
36.6 35.833.6
23.9
19.4 17.9 16.4
11.2 10.4
4.5 4.5 3.7 3.7 3.7 3 3 1.5
27.6
50%
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0妄想攻撃的言動
睡眠障害
幻覚徘徊抑うつ
不安介護への抵抗
焦燥心気不潔行為
仮性作業
性的行動障害
過食常同行動
依存暴力行為
異食その他
対象症例 134例複数回答可
知っておくべき行動障害・精神症状 BPSDの実態 ●3
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表 1 行動障害・精神症状 BPSDの出現頻度(複数回答可)認知症の「周辺症状」(BPSD)に対する医療と介護の実態調査と BPSDに対するチームアプローチ研修事業の指針策定に関する調査報告書より引用
妄想
(高) (低)BPSDの頻度
28 15 4 1 0 2 50
日に1回以上
週に数回
月に数回
月に1回 なし 未回答 計
攻撃的言動 32 8 2 1 0 4 47
幻覚 23 14 1 1 0 1 40
睡眠障害 16 21 2 0 0 1 40
徘徊 14 5 3 1 0 2 25
不安 12 6 1 0 0 0 19
介護への抵抗 9 5 0 0 0 3 17
抑うつ 8 4 1 0 0 0 13
72.6
31.8 30.4 30.1 28.8 28.3 27.1
20.2
13.18
80%
60
40
20
0
自験アルツハイマー型認知症 336名 男 107名 女 229名MMSE: 16.8点
無関心
不安
異常行動
うつ
妄想
興奮
易刺激性
脱抑制
幻覚
多幸
図 2 初診アルツハイマー型認知症 336名でみられる BPSDの出現頻度─NPIでの検討
第 1章●4
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図 3 アルツハイマー型認知症患者 203名にみられる妄想と幻覚の出現頻度(川畑信也.事例から学ぶアルツハイマー病診療.中外医学社;2006,図 12より改変)
31
5.9 5.4 4.9
11.315.3
30 0
0
5
10
15
20
25
30
35%
物盗られ妄想
自分の家ではない妄想
偽物妄想
見捨てられ妄想
不義妄想
幻視
幻聴
幻嗅
幻触
図 4 アルツハイマー型認知症患者 39名にみられる物盗られ妄想の臨床像(複数回答)(川畑信也.かかりつけ医の患者ケアガイド 認知症編.真興交易医書出版部;2009,図 8より改変)
7 ■ 嫁■ 娘■ 婿■ 夫■ その他の家族■ 隣人■ ヘルパー■ 不明■ その他
■ お金■ 通帳■ 財布■ 衣服・下着■ 食器■ 印鑑■ 食べ物■ その他
4
3
3
3
8
1
12
3
4
4
8
11
24
6
7
盗られる対象 犯人とされる人物
知っておくべき行動障害・精神症状 BPSDの実態 ●5
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観察することは少ないが不義妄想はときどき経験するものである.幻覚で
は,幻視が 15.3%にみられるが幻視がみられるときにはまず,レビー小体
型認知症を念頭においた診療を進めたい. 図 5 は,初診アルツハイマー型認知症 336 名における行動障害・精神症
状 BPSD の出現頻度を重症度別に検討した結果である.妄想や幻覚,不安,
多幸,異常行動は認知症の重症度が進むほど出現しやすい行動障害・精神症
状 BPSD である.一方,興奮やうつ,無関心,脱抑制,易刺激性は重症度
に関係なく出現する傾向が認められる.前者については認知症の進行を抑制
することがこれらの発現を予防することになる.後者では,認知症が軽度の
段階からなんらかの対応を求められる.
入院認知症患者における行動障害・精神症状 BPSD著者の所属する病院は外科系診療科を主体とする総合病院であるが,
2014 年から入院認知症患者にみられる BPSD への対応を目的に院内認知症
対応ラウンドを行っている.介入を行った 100 名を検討したところ,男女
比は 4.5:5.5 であり,年齢層では 70 歳以上が大部分を占めていた 図 6 .依
頼病棟は,回復期リハビリテーション病棟,内科病棟,療養病棟,整形外
科,地域包括ケア病棟の順になっている 図 7 .介入の原因となった BPSD
としては,ケア・リハビリの拒否,安静を保てない,大声・暴言,暴力行
為,昼夜逆転,興奮の順になっている 図 8 .在宅で生活をしている認知症患
者にみられる BPSD とは異なる病態が観察される.
運転免許に関連する診療でみられる 行動障害・精神症状 BPSD
2017 年 3 月 12 日から改正道路交通法の運用が開始され,75 歳以上の
高齢運転者に対する免許更新の厳格化がなされている.そのなかで更新時に
施行される認知機能検査で第一分類(認知症のおそれのある者)と判定され