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1設備保全を 効率よく行うための チェックシート 1-1 チェックシートを作成するために必要な知識(技術)・技能 1-2 チェックシートの作成方法 1-3 生産現場でチェックシートを作成するには 1-4 生産設備の機械要素部品 1-5 機械要素部品ごとのチェックシート 1-6 チェックシートの難易度の決め方 1-7 作業分解とは

第 章 設備保全を 効率よく行うための チェックシート · 第 1 章 設備保全を 効率よく行うための チェックシート 1-1 チェックシートを作成するために必要な知識(技術)・技能

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第1章

設備保全を効率よく行うためのチェックシート

1-1 ◉チェックシートを作成するために必要な知識(技術)・技能1-2 ◉チェックシートの作成方法

1-3 ◉生産現場でチェックシートを作成するには1-4 ◉生産設備の機械要素部品

1-5 ◉機械要素部品ごとのチェックシート1-6 ◉チェックシートの難易度の決め方

1-7 ◉作業分解とは

生産設備は、数多くの機械要素部品から構成されています。したがって、生産設備を見よ

う見真似でいきなり分解して設備保全を行うことは不可能です。設備保全を行う前に十分に

生産設備の構成などを確認し、保守点検の順序を決めなければなりません。保守点検をした

結果、生産設備に不具合のトラブルを発見したら、発見したトラブルへの対処を考えます。

生産設備を分解整備しなければならないなら必要な消耗部品、交換部品、また分解に必要な

工具、分解から組立調整までの必要時間などの見積もりが素早く行うことが必要です。

設備保全を効率よく行うには、設備に合ったチェックシートを作成し、それに基づいて保

全作業を行うようにします。設備保全を効率よく行うためのチェックシートとは、生産設備

が構成されている機械要素部品ごとに「知っていること」(知識)、「要素部品について扱う

ことができる」(技能)を洗い出し、「知っていること」や「できること」について難易度を

決めながら整理したものでなければなりません。

等速ジョイントの分解整備についての「チェックシート」作成例

ある会社の工場内の設備を保守点検しているときに、生産設備に直結している等速ジョイ

ントのブーツが破損している箇所がありました。等速ジョイントの分解整備を行うことにな

りましたが、社員だけで行うのは初めての様子でした。そこで分解整備を行う前に、等速ジ

ョイントの分解整備についてのチェックシートを作成することにしました。

等速ジョイントを分解整備するために必要な知識・技能について作成したチェックシート

は、次のとおりです。

① 等速ジョイントを取り外す方法 知識

② 等速ジョイントを分解する工具の選定 技能

③ クレーンを用いて等速ジョイントを吊り下げる方法 知識

④ 等速ジョイントのブーツを取り外す工具 知識

⑤ 等速ジョイント部のスプラインを分解する方法 知識

⑥ 等速ジョイントを分解した部品の洗浄方法と部品管理について 知識

⑦ 等速ジョイントに使用するグリスについて 知識

など数多くのことを確認しながら作業を進めました。

1-1 KIKAI-HOZEN1-1 KIKAI-HOZEN

チェックシートを作成するために必要な知識(技術)・技能

①~⑦までの具体例①等速ジョイントを取り外す方法から、⑦等速ジョイントに使用するグリスについて必要

な知識・技能を洗い出しました。

① 等速ジョイントを取り外す方法についての知識・技能は

1)等速ジョイントが固定されている構造は? 知識

2)固定されている締結ボルトを緩める順番は? 知識

3)等速ジョイントが動力伝達されている機能について 知識

4)同期(タイミング)をとっているかいないか? 技能

② 等速ジョイントを分解する工具の選定についての知識・技能は

1)等速ジョイントが空転する場合の締結ボルトを緩める工具は? 知識

2)等速ジョイントを固定している締結ボルトを緩める場合、スパナを使用するか?

メガネレンチを使用するか? 技能

3)メガネレンチは、6角・12角のどちらを選択するか? 技能

4)メガネレンチの角度は、ストレート、30°、40°、60°のどの角度を選択するか? 技能

③ クレーンを用いて等速ジョイントを吊り下げる方法についての技能・技術は

1)等速ジョイントを吊り下げる位置を知っているか? 知識

2)等速ジョイントの重心位置を判断できるか? 技能

3)ワイヤーロープで吊り下げることができるか? 技能

4)重量物専用のロープで吊り下げることができるか? 技能

④ 等速ジョイントのブーツを取り外す工具についての知識・技能は

1)ブーツバンドを切断する工具はどのような工具を選択できるか? 技能

2)ブーツバンドを締める工具を知っているか? 知識

3)ブーツバンドを締め付ける力を知っているか? 知識

⑤ 等速ジョイントを分解した部品の洗浄方法と部品管理についての知識・技能は

1)グリスが付いた等速ジョイントを洗浄する洗浄剤の種類は? 知識

2)洗浄した等速ジョイントの保管ができるか? 技能

⑥ 等速ジョイントに使用するグリスの選定についての知識・技能は

1)等速ジョイントに使用するグリスの種類を知っているか? 知識

2)グリスのちょう度は?グリスに使用している添加剤の種類を知っているか? 知識

などです。

以上のようなことを細かく拾い出し、まとめていきチェックシートを作成します。

第1章

設備保全を効率

よく行うための

チェックシート

第2章

軸受編

第3章

空気圧装置編

第4章

伝達装置編

第5章

油圧装置編

電動機編

第6章

第7章

締結部品編

チェックシート

を用いた「作業

手順書」作成法

第8章

薄板鋼板を送り出す動力を伝達する等速ジョイント・ ジョイントブーツが破損している箇

所が生産現場で見つかった。等速ジョイントをどのように分解整備を行うか現場の社員の方と確認しながら行った。知識 : シャフトが同期されている

かどうかを確認できる。技能 : スプラインの合わせ位置を

知っている。

等速ジョイントを取り外す・ 重量物の等速ジョイントをどのよう

に取り外すかをよく確認した。取り外し方を間違えたりすると等速ジョイントの破損または生産設備全体を壊す恐れがある。

・ 必ず等速ジョイントを取り外す位置、締結するボルトの位置などを確認しながら行う。設備全体を確認しながら等速ジョイントが伝達する構造を理解する必要がある。

ジョイントの位置・ 動力伝達されるスプラインやゼレー

ションなどには、組み合わせる位置がある。スプラインやゼレーションは互いにスムーズに作動できる構造になっている。

・ そのため、組み付け時に合わせ面の位置を間違えるとスムーズに動くことができないばかりか、スプラインやゼレーションの偏摩耗につながる。

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ジョイントの合わせる位置を知っている

等速ジョイントが接続されている位置の確認ができる

知識が必要な部分

技能が必要な部分

知識

技能

技能

知識

生産設備は数多くの機械要素部品で構成されています。機械要素部品として軸受、締結

ボルト、軸継手、動力伝達シャフトなどがあります。生産設備の設備保全や保守点検などを

効率よく行う場合には、設備全体について熟知しているか、機械要素部品について熟知して

いるかがたいへん重要になります。

生産設備の設備保全をする場合には、機械要素部品ごとのチェックシートを作成し、その

用途・保守整備方法などの理解を知識(技術)と技能に分けて把握することが大切です。

技能についてチェックシートを作成する時に下に示すように「○○ができる」の言葉で書

き出します。また、知識については「○○を知っている」の言葉で書き出します。機械保全「 保全マンに必要な技能と技術」

チェックシート*語句の表現説明:「○○できる」=実技で指導します。 「△△を知っている」=講義法や資料提供で指導します。

「軸受」

ABILITY-6ABILITY-5

=知識

=技能

ABILITY-8ABILITY-7 ABILITY-9 ABILITY-10ABILITY-4ABILITY-1 ABILITY-2 ABILITY-3水準

転がり軸受

潤滑剤

滑り軸受

軸受の交換および専用工具

軸受の診断

軸受の組立

転がり軸受の種類を知っている

1-1 初級

滑り軸受の種類を知っている

2-1 初級

ベアリングプーラの種類を知っている

3-1 初級

軸受の診断方法を知っている

4-1 初級

軸受に用いられる潤滑剤を知っている

5-1 初級

種類に応じた軸受の組立方法を知っている

6-1 初級

転がり軸受の構造を知っている

1-2 初級

滑り軸受の構造を知っている

2-2 初級

軸受に応じたベアリングプーラの選定ができる

3-2 初級

軸受の用途に応じた診断方法を選択できる

4-2 中級

各種軸受に対して適切な潤滑剤の選択ができる

5-2 中級

使用用途に応じた軸受の最適な潤滑剤の種類を知っている

6-2 中級

用途に応じた転がり軸受を選択できる

1-3 初級

用途に応じた滑り軸受の選択ができる

2-3 中級

軸受に応じたベアリングプーラで軸受を取り外すことができる

3-3 初級

振動法の測定条件を知っている

4-3 中級

軸受に使用するグリスを知っている

5-3 中級

使用用途に応じた軸受に使用するグリスの量を知っている

6-3 中級

内輪と軸に対してはめ合い寸法を知っている

1-4 中級

滑り軸受と軸のオイルクリアランスについて知っている

2-4 中級

ベアリングヒータを知っている

3-4 中級

振動法のパラメーターについて知っている

4-4 中級

軸受の用途に応じたグリスを選択ができる

5-4 中級

種類に応じた軸受の予圧調整方法を知っている

6-4 上級

内輪とハウジングに対して適切なはめ合い寸法を選択できる

1-5 中級

滑り軸受と軸のオイルクリアランスを測定できる

2-5 中級

軸受に応じたベアリングヒータの温度設定ができる

3-5 中級

振動法の測定値から原因分析ができる

4-5 中級

軸受に応じたグリスのちょう度を選択ができる

5-5 中級

種類に応じた軸受の予圧調整ができる

6-5 上級

外輪とハウジングに対してはめ合い寸法を知っている

1-6 中級

滑り軸受オイルクリアランスの調整ができる

2-6 中級

ベアリングヒータを使用して軸受を軸に挿入できる

3-6 中級

潤滑診断法の測定条件を知っている

4-6 中級

軸受に使用するオイルを知っている

5-6 上級

外輪とハウジングに対して適切なはめ合い寸法を選択できる

1-7 中級

滑り軸受の交換方法を知っている

2-7 上級

用途に応じた軸受挿入工具を知っている

3-7 上級

潤滑診断の測定値から原因分析ができる

4-7 上級

軸受に応じたオイルを選択できる

5-7 上級

用途に応じた軸受の隙間記号を知っている

1-8 上級

滑り軸受の交換ができる

2-8 上級

内輪固定の軸受を適切に取り付けることができる

3-8 上級

用途に応じた軸受の隙間記号を選択できる

1-9 上級

用途に応じた滑り軸受の材質を知っている

2-9 上級

軸受のトラブル探求ができる

1-10 上級

滑り軸受のトラブル探求ができる

2-10 上級

外輪固定の軸受を適切に取り付けることができる

3-9 上級

熱診断の条件を知っている

4-8 上級

軸受に応じたオイルの粘度を選択ができる

5-8 上級

潤滑剤の添加材の種類を知っている

5-9 上級

潤滑剤のトラブル探求ができる

5-10 上級

熱診断の測定値から原因分析ができる

4-9 上級

チェックシートの「知識」と「技能」の部分

第1章

設備保全を効率

よく行うための

チェックシート

第2章

軸受編

第3章

空気圧装置編

第4章

伝達装置編

第5章

油圧装置編

電動機編

第6章

第7章

締結部品編

チェックシート

を用いた「作業

手順書」作成法

第8章

チェックシートの作成方法

1-2 KIKAI-HOZEN

技能は、「作業者が行っている作業、主に人間が作業する行動」に由来するもので、言い

換えると人間が練習を繰り返し行うことによってできることであり、また質量ともに高めて

いくことができることです。

技能の中には、手作業などでできることなど、人の動作・行動などの他、良否判断や区別、

そして人が考えて判断することなど、目で見ることができないことも技能に含まれます。

知識は、作業者が製造設備の構造や用途、または製造設備がどのような機械要素部品で構

成されているか、製造設備の計画保全はどのような方法で進めていくかなど、知的要素とし

て理解しておく事柄として考えるとわかりやすくなります。すなわち、技術は言葉や文字ま

たは図や絵などで他の作業者に伝えることができる内容なのです。質問などで聞かれたら、

文字、言葉、図や絵などを使って答えることができるものです。

チェックシートは知識と技能を理解して作るしたがって、製造設備で必要なチェックシートを作成する時は、どのような知識と技能が

等速ジョイントを取り外した圧延ロール側・ 動力伝達シャフトが同期を取っている場合には、タイミングがズレないようにローラ側を確実に固定して回転しな

いようにする必要がある。・ 動力伝達シャフトが接続されていたフランジ軸継手の組み合わせも合わせて印を付け、取り外した位置に確実

に組み合わせることできるようにする必要がある。

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知識 伝達される位置を知っている

必要なのかがはっきりわかるものを作成しなければなりません。知識なのか、技能なのかを

理解しながら行うことが必要です。

設備保全に必要な分解整備や保守点検などの作業を効率よく行うためには、知識と技能を

取り入れたチェックシートを用いながら行うことが必要不可欠です。また、企業内で熟練者

が経験の浅い人たちに製造設備の設備保全の進め方や保守点検方法などの説明や指導を行う

場合、経験の浅い人たちが、どのような技能が不足しているのか、また知識が不足している

のかを見きわめながら、知識や技能を伝承する必要があります。

さらに、製造設備を設備保全する時に、作業手順書などを必要とする場合が少なくありま

せん。作業手順書を社内で作成する場合には、作業する内容に、どのような知識・技能が必

要なのかを明白にしながら作成していくことが必要です。この作業手順書などを作成する時

にもチェックシートが役立ちます。

ある会社で、圧延ローラの等速ジョイントを分解整備することがありました。分解整備す

る前に等速ジョイントについて必要な知識や技能のチェックシートを作成し、各項目につい

て確認しながら作業を行いました。

動力伝達シャフトのスプライン部を分解・ スプライン部には、互いに組み合わせる位置がある。組み合わせの箇所を間違えないようにするため、「合いマー

ク」などの印を付ける。・ 組み合わせを間違えると、スプライン部の早期摩耗や動力伝達時に異音発生の原因になる。

第1章

設備保全を効率

よく行うための

チェックシート

第2章

軸受編

第3章

空気圧装置編

第4章

伝達装置編

第5章

油圧装置編

電動機編

第6章

第7章

締結部品編

チェックシート

を用いた「作業

手順書」作成法

第8章

11

技能 スプライン部の偏摩耗や組合せ位置の確認ができる