29
349 KV 産業のグローバル化の進行と世界的な製品供給国としての中国の登場は、世界各国で経済政 策論議の焦点の 1 つとなっている。特に 2001 年 12 月の中国の WTO 加盟は、発展途上国の 指導者層や経営者層に不安と懸念を引き起こした。中国の WTO 加盟は、多くの発展途上国に とって重要な労働集約型の製造業で、より直接的な競合をもたらすと予想されるからである。 インドもその例外ではなく、将来的な影響は他国より深刻だと見る向きも少なくない。両国と もフルセット型の製造業をもち、インドで急成長したソフトウェア産業は中国でも前途有望な 産業と見なされている。国際的にコストが低い高学歴技術者を多数有する点でも同じである。 両国経済、産業は共通する性格を持ち、競合する分野も多いように見える。 インドは、1990 年代に貿易自由化と関税障壁の撤廃を大胆に推進した。1997 年のアジア 危機の影響をほとんど受けず、発展途上国としてはかなり高い GDP 成長率を達成した。だが 世界の貿易市場に占めるインドのシェアは、1994 年で 0.6%、2000 年でも 0.7%しかなく、 アジアの多くの発展途上国に比べて低い。1990 年代を通じてインドの製品輸出の年間伸び率 は平均 10%だった。UNIDO(国連工業開発機関)が推計した CIP(競争的工業実績指数)に よると、1985 年から 1998 年までインドは 50 位に低迷している(IDR, 2002)。インドの国 際競争力の今後を見る上でも、国内製造業に対する中国の影響を理解することは、きわめて重 要である。 グローバル化は、生産工程が世界のさまざまな地域に分かれて進行することを意味する。1 つの製品が、生産の各段階ごとに世界の異なる地域で加工され、その度ごとに新たな価値が付 加される。企業は各段階に応じて、現地の資源と能力をうまく活用できる場所、あるいは新た

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Page 1: 章 第14章 インド インド:機械関連産業のグローバ …...351 第 14章 インド : 機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

349

第14章

インド

機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

第 14 章

インド:機械関連産業のグローバル化と

産業再編における中国の影響

K.V. ラマスワミー

はじめに

産業のグローバル化の進行と世界的な製品供給国としての中国の登場は、世界各国で経済政

策論議の焦点の 1 つとなっている。特に 2001 年 12 月の中国の WTO 加盟は、発展途上国の

指導者層や経営者層に不安と懸念を引き起こした。中国の WTO 加盟は、多くの発展途上国に

とって重要な労働集約型の製造業で、より直接的な競合をもたらすと予想されるからである。

インドもその例外ではなく、将来的な影響は他国より深刻だと見る向きも少なくない。両国と

もフルセット型の製造業をもち、インドで急成長したソフトウェア産業は中国でも前途有望な

産業と見なされている。国際的にコストが低い高学歴技術者を多数有する点でも同じである。

両国経済、産業は共通する性格を持ち、競合する分野も多いように見える。

インドは、1990 年代に貿易自由化と関税障壁の撤廃を大胆に推進した。1997 年のアジア

危機の影響をほとんど受けず、発展途上国としてはかなり高い GDP 成長率を達成した。だが

世界の貿易市場に占めるインドのシェアは、1994 年で 0.6%、2000 年でも 0.7%しかなく、

アジアの多くの発展途上国に比べて低い。1990 年代を通じてインドの製品輸出の年間伸び率

は平均 10%だった。UNIDO(国連工業開発機関)が推計した CIP(競争的工業実績指数)に

よると、1985 年から 1998 年までインドは 50 位に低迷している(IDR, 2002)。インドの国

際競争力の今後を見る上でも、国内製造業に対する中国の影響を理解することは、きわめて重

要である。

グローバル化は、生産工程が世界のさまざまな地域に分かれて進行することを意味する。1

つの製品が、生産の各段階ごとに世界の異なる地域で加工され、その度ごとに新たな価値が付

加される。企業は各段階に応じて、現地の資源と能力をうまく活用できる場所、あるいは新た

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350

な市場への参入に適した場所を生産拠点に選ぶ。価値連鎖の過程が分割されグローバルに再分

配されるようになると、インドのような発展途上国がその工程間分業に参加して利益を得るチ

ャンスが広がる。衣料品、電気製品、自動車、自動車部品などの機械関連産業は、こうしたグ

ローバルな工程間分業により生産が行われるものの好例である。中国とインドにとってこれら

の産業はきわめて重要な位置を占める。両国とも労働コスト面で優位性があり、GATT ウルグ

アイ・ラウンド以降の大幅に開放された世界経済システムに参加することで大きな利益を得る

可能性が高い。同時にWTO加盟後の中国では巨大な国内市場がより一層外国企業に開放され、

発展途上国の企業に輸出機会を提供することになる。中国がこれらのグローバル産業で急成長

し、外国からの直接投資導入と輸出を伸ばした点を忘れてはならない。

グローバル化は世界市場で活動する企業を激烈な競争に巻き込み、それぞれが持つ比較優位

に転換を強いる(Bhagwati, 1997)。グローバル化が進む中での中国の急速な台頭が、インド

のような他の発展途上国の産業、企業に与える影響は、十分に研究すべき課題である。

第1節 目的と方法

本章の目的は、中国の台頭がインドの機械関連産業にもたらすと考えられる機会と脅威、そ

してそれに対するインド企業の戦略的対応について分析することである。上述の状況に対する

インド企業の認識、戦略的対応、競争環境の変化に対応して進めている事業再編の概要につい

て、理解することにある。

本章では機械に関連する産業の中でも、金属製品、工作機械、電気機器、自動車のような伝

統的機械関連産業と、耐久消費用電気機器(主に家電)産業に着目する。

伝統的機械関連産業はインドの工業化と技術発展のなかで重要な役割を果たしてきた。伝統

的機械関連産業は「中間技術」1 に属する製品を製造するもので、他の産業部門と強く結び付

いて発展してきた。これに分類される機械関連製品の輸出は、現在 50 億ドルを超えるまでに

なった。また同産業では 1990 年代まで輸入規制戦略で保護されながらも、巨大な国内市場に

常に製品を供給する任務を果たしてきた。インドの機械関連製品の市場は世界各地に広がって

おり、特に発展途上国に輸出されている。この分野で世界的な輸出国となった中国は、インド

の機械関連製品輸出を脅かす存在になる可能性がある。

1 諸製品は、資源依存型製品(ex. 食品)、低技術型製品(繊維製品等、労働集約的で非熟練労働に頼る割合

が高い製品)、中間技術型製品(自動車部品、工作機械等の人的な熟練、ユーザーとの強い連携が必要な製品)、

高技術製品(コンピュータや医薬品等、高い技術・技能、高度な R&D 能力が必要な製品)に分けて考える

ことができる。

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351

第14章

インド

機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

家電産業はカラーテレビ、AV 製品などで、近年、インドで急成長している産業の 1 つであ

る。現在、インドの家電製品の輸出額は 10 億ドル強である。この分野でも KONKA(康佳集団)

や TCL(TCL 集団)等の中国企業が参入を始めている。

本章では機械関連産業におけるインドの主要企業の状況と戦略を理解するため、事例研究を

を行う。伝統的機械関連産業については自動車部品、電気機器、重工業機器と農業機器を製

造するバーラット鋳造(Bharat Forge Limited:所在地プーナ)、ラーセン・アンド・トーブロ

(Larsen and Toubro Limited:ムンバイ)、マヒンドラ & マヒンドラ(Mahindra & Mahindra

Limited:ムンバイ)の3社をとりあげる。家電産業についてはカラーテレビを作る MIRC イ

ンターナショナル(MIRC Electronics Limited:ムンバイ)とブラウン管を作るサムテル・カ

ラー(Samtel Colour Limited:ニューデリー)をとりあげる。これらの企業の多くは多角経

営を行っており、機械関連でも多様な製品を製造している。

貿易データはすべてワールド・トレード・アトラス (World Trade Atlas) のデータを利用した。

その他、世界銀行が開発した世界開発指標、中央統計局(ニューデリー)が作成した国民所得

統計や年次工業統計などの国内統計を利用した。

本論に入る前に、インドの貿易・投資の自由化について述べておこう。

インドの輸入代替工業化政策の主な狙いは、輸入ライセンス制を通じて外貨準備を維持する

ことだった。具体的には、包括的輸入許可制(Open General License :OGL)の対象以外のす

べての輸入品目をライセンス制にした。輸入規制の緩和は 1977 年~ 78 年に始まった。資本

財、部品、中間財の多くが 1976 年から 1990 年に OGL の対象品目に転換され、関税率が引

き下げられた。その主な目的は特定産業の近代化であり、転換品目のほとんどが国内で製造さ

れていないものであった。したがって国内企業にとって直接の競争につながるものではなかっ

た(Pursell, 1992)。

1991 年7月の国際収支危機を受け、インド政府は構造調整プログラムの一環として貿易改

革を発表した。中間財と資本財に対する輸入ライセンス制などの非関税障壁を撤廃したのであ

る。貿易改革の手始めとして、電気機器、一般機械、電子機器、輸送機器に対する輸入関税率

が 30%~ 35%まで引き下げられた。一方、この改革も耐久消費財の分野には影響しなかった。

耐久消費財にはすべて輸入割当が継続されたからである。これらの製品の輸入に対する数量制

限は 2001 年4月まで続いた。関税率は 1991 年以来引き下げが続き、平均関税率は 1991 年

の 80%から 1999 年の 32%まで低下した。現在、電子機器を含む機械などの資本財に対する

関税率は5%~ 25%である。2006 年にはさらに引き下げられる見通しである。

同様に、外国からの直接投資も自由化され、すべての製造業で外国人が全額出資した企業が

認められるようになった。

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352

第2節 貿易構造と主要輸出市場:インドと中国の対比

インドは、グローバル化のゲームに比較的遅れて参加した。表1は、GDP に対する貿易取

引額の比率で、両国の対外開放度を表す。2000 年のインド経済の開放度はまだ中国よりかな

り低い。ただし 1990 年代におけるインドの市場開放のペースは急速であった。輸出の伸び率

は GDP の伸び率を上回っており、1990 年代に世界貿易への統合が進んだことを示している。

これは関税の大幅な引き下げと軌を一にしている。

表1 中国・インドの貿易と GDP 成長率

(単位:%)

輸出の年成長率 GDP の年成長率 貿易が GDP に占める割合

中国 インド 中国 インド 中国 インド

1990 24.5 9.1 4.0 5.7 31.9 17.2

1992 15.1 6.9 14.3 5.4 37.5 20.0

1994 24.8 8.0 12.8 7.6 48.8 23.1

1996 -28.2 7.1 9.6 7.2 39.9 25.4

1998 7.2 12.5 7.8 6.0 39.2 25.6

2000 32.0 5.0 7.9 3.9 49.1 30.5

出所:Source: World Development Indicators

表2 貿易の自由化と関税

(単位:%)

関税水準 ( 輸入額に占める割合 ) 輸入水準 (GDP に占める割合 )

中国 インド 中国 インド

1991 7.2 45.9 16.1 9.3

1993 5.3 26.9 18.6 11.5

1995 3.2 24.8 21.7 14.5

1997 2.8 21.4 18.3 14.5

1999 . 20.0 19.1 15.1

出所:World Development Indicators 2002

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353

第14章

インド

機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

1.輸出構造:全体像

全体的な輸出構造はその国の大まかな比較優位を示す。表3は標準国際貿易商品分類(SITC)

の小分類(3桁コード)でみたインドと中国の主要輸出品目と、それらが世界と発展途上国の

輸出に占めるシェアで輸出構造を表す。ここから以下の事実が明らかになる。

・ インドも中国も労働集約型財の輸出国である。

・ 中国は、おもちゃ、履物、衣料品で、明らかに圧倒的な位置を占めている。

・ 中国の輸出品目には、通信機器、電気機器部品、コンピューターなどが含まれており、イ

ンドより多様である。

・ インドの主力品目は繊維と衣料品である。

・ インドの主力品目には、知識集約型で、本来的にグローバル産業である医薬品が含まれて

いる。

・ 中国の機械関連製品は組み立て型が中心である。

最後の点は中国の総輸入に占める品目別の比率で輸入構造をみれば明らかである(表4)

表3 中国・インドの主要輸出製品: SITC 製品区分(1999 ~ 2000 年 )

( 単位:%)

中国のシェア

SITC 商品名 発展途上国 世界

輸出総計 13.2 3.9

764 通信機器部品 20.4 5.6

752 コンピュータ 12.8 5.2

894 玩具、運動用品 60.9 26.7

851 靴 50.6 25.1

845 衣料品 31 19.5

843 女性用衣料(ニット含まず) 28.3 17.1

842 男性用衣料(ニット含まず) 30.4 19

778 電気機器(その他) 22.3 5.8

759 コンピュータ部品 8.1 3.7

893 プラスチック製品 31.4 7.6

インドのシェア(%)

発展途上国 世界

輸出総計 2.3 0.7

667 宝石類 54.9 15.4

843 女性用衣料(ニット含まず) 7.5 4.5

651 ヤーン 12.4 5.7

541 医薬品 14.2 1.1

652 綿製品 10.8 5.4

846 ニット肌着 5.8 3.4

36 冷凍魚介類 9.5 6.3

658 繊維製品(その他) 10 6.1

897 貴金属品 12 4.5

844 肌着(ニット含まず) 9.6 6.7

出所:UNCTAD Handbook of Statistics 2002

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354

表4 中国の輸入に占める機械関連製品(1998 年 )

( 単位:%)

SITC 製品分類 輸入総額に占める割合

764  通信機器部品 4.7

778:  電気機械 1.9

759:  コンピュータ部品、OA 機器 2.6

728:  特殊機械設備 3.6

776:  半導体 5.2

772:  電気装置 2.0

出所:Trade and Development Report 2002

2.インドの機械関連製品の輸出とその主力市場

インドの機械関連製品輸出額は、1999 年の 25 億ドルから 2002 年には 41 億ドルに膨ら

んだ。機械関連製品の輸出は平均 20%で増加した。同期間の全体の輸出の伸びは年平均 13%

であったが、世界の機械関連輸出に占めるインドのシェアを表5でみると、0.2%から 0.3%

ときわめて低い。輸出が伸びはじめたのは最近のことである。

インドの輸出全体に占める機械関連輸出の割合は8%超である(表5)。HS 分類による品目

別にみた機械関連輸出のデータを表6に示した。2002 年の一般機械・電器の輸出上位4品目

は、コンピューター部品、エンジンおよび部品、事務用機器部品、個別機能をもつその他の機

械である。電子機器では、記録用メディア、変圧器/追加電源、ダイオードなど半導体機器、

炭素電極が上位4品目である。輸送機器の上位品目は、自動車・二輪車・自転車部品、乗用車、

表5 インドの機械関連製品輸出

(単位:100 万ドル、%)

1999 年 2002 年

金額

世界の同項目の輸出に占めるシ

ェア

インドの全輸出に占めるシェア 金額

世界の同項目の輸出に占め

るシェア

インドの全輸出に占めるシ

ェア

一般機械・電器 986.5 0.2 2.8 1683.8 0.3 3.4

電子機器 815.4 0.1 2.3 1377.5 0.2 2.8

輸送機器 703.3 0.2 2.0 1022.9 0.3 2.1

出所 : DGCI&S, Ministry of Commerce、World Trade Atlas

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355

第14章

インド

機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

表6 インドの輸出における主要機械関連製品

(単位:100 万ドル)

HS コード(製品分類名)1999 2002

金額 シェア (%) 金額 シェア (%)

1. 一般機械・電気機器 986.5 100.0 1683.8 100.0

8471 コンピューター及びユニット部品 32.4 3.3 139.4 8.3

8409 エンジン部品 78.6 8.0 126.4 7.5

8473 コンピューター関連部品 83.0 8.4 126.3 7.5

8479 その他の産業機械 59.4 6.0 112.7 6.7

8481 コック、弁 44.4 4.5 103.4 6.1

8413 液体ポンプ(油圧・水圧等) 66.3 6.7 95.9 5.7

8414 コンプレッサー、気体ポンプ 40.9 4.1 75.5 4.5

8466 工作機械用部品、付属品 32.4 3.3 67.2 4.0

8482 軸受け 47.8 4.8 58.9 3.5

8477 成型機械(プラスティック・ゴム) 29.0 2.9 50.7 3.0

2. 電子機器 815.4 100.0 1377.5 100.0

8524 記録用媒体(レコード・テープ) 173.9 21.3 168.7 12.2

8504 トランスフォーマー、整流器 73.2 9.0 112.8 8.2

8541半導体デバイス(トランジスタ・ダイ

オードなど)28.9 3.5 91.5 6.6

8545 炭素電気用品 68.8 8.4 81.5 5.9

8547 その他の絶縁体 41.9 5.1 67.5 4.9

8544 ケーブル、ワイヤー 21.6 2.6 63.4 4.6

8536 1000V 以下の電気回路機器 30.1 3.7 62.6 4.5

8523 フィルムなど 2.6 0.3 53.6 3.9

8535 1000V より上の電気回路機器 26.5 3.2 48.7 3.5

8511 点火プラグ・スターターなど 10.6 1.3 45.9 3.3

8501 電動機・発電機 25.2 3.1 45.2 3.3

8502 発電機・ロータリーコンバーター 10.2 1.3 42.0 3.1

3. 輸送機器 703.3 100.0 1022.9 100.0

8708 自動車用部品 197.7 28.1 349.5 34.2

8714 二輪車・自転車部品 153.4 21.8 169.2 16.5

8703 乗用自動車 104.5 14.9 151.1 14.8

8711 二輪車 48.3 6.9 137.1 13.4

8701 トラクター 15.9 2.3 51.3 5.0

8706 原動機付きシャーシ 58.6 8.3 40.2 3.9

8702 輸送用自動車(人員 10 人以上) 56.9 8.1 39.4 3.8

出所 : DGCI&S, Ministry of Commerce

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356

表7 インドの電子機器輸出

(単位:100 万ドル)

1997 1998 1999 2000 2001 2002年平均成長率

(%)

家電製品 186 99 103 105 135 147 -4.6

通信機器 91 80 60 42 126 31 -19.4

精密・事務・医療機器 50 64 42 40 122 199 32

電子部品 179 213 217 279 397 461 21

コンピューター機器 375 293 72 140 261 377 0.1

合計 882 750 494 605 1041 1251 6.6

出所 : Electronics and software council India(http:www.esccindia.org)

表8 インドの機械関連製品輸出における小規模企業のシェア(1997 年)

(単位:1000 万ルピー)

商品小規模企業の機械関連製品

輸出全機械関連製品輸出

小規模企業シェア(%)

3390.0 14879.0 22.8

産業用プラント機械 450.0 1603.8 28.1

電力機器およびスイッチ装置 140.0 515.7 27.1

電送回線塔および付属品 10.0 115.7 8.6

スチール製品(加工済) 105.0 111.3 94.3

ワイヤーおよびケーブル 10.0 37.7 26.5

自動車(ワゴン・バスなど) 5.0 46.1 10.9

工作機器 55.0 200.3 27.5

スチール製パイプ管および付属品 45.0 268.3 16.8

金属製容器 95.0 117.9 80.6

スチールワイヤーおよび製品 110.0 304.4 36.1

工業用締め具 70.0 162.9 43.0

ワイヤーロープなど 3.0 45.3 6.6

工業用鋳型 117.0 329.6 35.5

鍛造製品 35.0 221.9 15.8

鉄・スチール製の柵、釣り竿など 25.0 2322.7 1.1

スチール製品 390.0 1106.0 35.3

アルミ製品 75.0 707.9 10.6

ワイヤーおよび非金属製品 250.0 390.5 64.0

自動車部品 250.0 836.1 29.9

自転車および部品 260.0 491.0 53.0

手動・小型・切断道 225.0 431.0 52.2

内燃機関およびエアコン 100.0 549.6 18.2

機械ポンプ 40.0 171.1 23.4

扇風機および部品 5.0 48.8 10.3

絶縁体 35.0 40.5 86.4

バッテリー 5.0 55.4 9.0

科学実験・医療用機器 75.0 159.9 46.9

雑工業品 100.0 145.3 68.8

出所 : Handbook of Engineering Industry, CII, NEW Delhi, 1998

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357

第14章

インド

機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

二輪車である。大まかにいえば、自動車部品、電子部品、パソコン関連製品が主たる輸出品で

ある。

インドの機械関連製品輸出の実態は、全体的な貿易データでみるより多様である点を強調し

たい。表7に示す電子機器の輸出はその一例である。電子部品、コンピューター部品、カラ

ーテレビなどの家電製品などが主たる輸出品目になっている。機械関連の輸出品目が多様なの

は、インドの機械関連製品の生産では小規模企業が重要な役割を担っているからだ。この点は

表8のデータが裏付けている。インドの機械関連輸出に占める小規模企業の割合は 1997 年で

23%である。インドの場合、小規模企業とは設備投資額が約 22 万ドル(現行為替レートによ

る)未満の企業をさす。小規模企業による機械関連製品は価値連鎖の最下限に位置し、アフリ

カと西アジアの発展途上国向けに輸出される。

インドの輸出先は多岐にわたる。表9は、国別の輸出状況を示している。北米と欧州連合(EU)

を合わせるとインドの機械関連製品輸出市場の 36%を占める。次いで西アジアが 16.6%、東

アジアが 14%、サハラ以南アフリカが約 12%となっている。

表 10 は東アジアの6カ国への輸出状況を示している。これら6カ国はインドの電子機器お

よび一般機械・電器輸出の約 13%を占めている。輸送機器については東アジア向け輸出は少

なく、インドの同製品の全輸出額の5%を占めるにすぎない。

表9 インドの国別機械関連輸出額(2001 ~ 2002 年)

( 単位:100 万ドル )

国名 輸出額 シェア(%)

インドネシア 77.3 1.4

マレーシア 97.4 1.7

シンガポール 224.5 3.9

タイランド 106.1 1.9

中国 50.8 0.9

台湾 77.9 1.4

韓国 61.9 1.1

地域

東アジア 800.8 14.0

西アジア諸国 949.9 16.6

北アフリカ 122.9 2.1

サハラ以南のアフリカ 668.9 11.7

出所 : DGCI&S, Ministry of Commerce, India

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表 10 東アジアへのインドの機械関連製品輸出 ( 単位:100 万ドル )

国名 総輸出 一般機械・電器 電子機器 輸送機器

インドネシア 758.5 27.8 17.5 18.9

タイ 738.8 33.9 7.7 5.8

台湾 496.3 12.5 9.0 2.3

マレーシア 736.8 40.9 29.4 12.1

シンガポール 1411.4 86.0 108.5 5.3

韓国 620.3 16.3 7.5 3.8

6カ国合計 4762.1 217.4 179.6 48.2

6カ国のシェア(%) 9.6 12.9 13.0 4.7

輸出計 49299.3 1683.8 1377.5 1022.9

出所 : DGCI&S, Ministry of Commerce, India

(1) 東アジア向け輸出品目における中国との相違

東アジアの機械関連製品市場において、インドからの輸出品が中国からの輸出品とバッティ

ングする可能性を見てみよう。機械関連三分類で、印中両国の東アジア各国への輸出金額で上

位数品目を抽出したのが表 11 である。両国に共通する品目が、東アジア市場向けの輸出で競

表 11 東アジアへの輸出における主要機械関連製品(2002 年)

インド 中国

84 一般機器・電気機器

8466 工作機械用部品および付属品 8471 コンピューターおよびユニット部品

8479 その他の産業機械 8473 コンピューター関連部品

8481 コック、弁 8462 プレス機器・鍛造機機

8413 液体ポンプ(油圧、水圧など) 8415 エアコン

8414 コンプレッサー、気体ポンプ 8431 クレーン、ブルドーザなど部品

8438 飲食料製造機械 8470 電子計算機(電卓、レジなど)

8473 コンピューター関連部品 8428 フォークリフトなど

8471 コンピューターおよびユニット部品

85 電子機器

8545 炭素電気用品 8527 無線機器(ラジオなど)

8506 一次電池 8529 チューナー、アンテナ類

8507 バッテリー(蓄電池) 8501 電動機、発動機

8524 記録用媒体(レコード、テープなど) 8525 送信機器(携帯電話など)

8504 トランスフォーマー、整流器 8521 ビデオ

8501 電動機、発電機 8504 トランスフォーマー、整流器

8529 チューナー、アンテナ類 8522 AV、ビデオなど部品(ピックアップなど)

8540 ブラウン管

87 輸送機器

8703 乗用自動車 8708 自動車部品

8714 二輪車・自転車部品 8714 二輪車・自転車部品

8704 貨物自動車 8712 自転車

8708 自動車部品 8711 二輪車

8705 特殊用途自動車(救急車、消防車など)

出所 : DGCI&S, Ministry of Commerce、中国税関統計

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第14章

インド

機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

合する可能性が高いことになる。

表 11 を見ると、一般機械・電器では、コンピューターおよび部品、事務用機器および部品

が競合しそうだ。電子機器では、テレビ/ラジオ/レーダーおよび部品、変圧器/追加電源、

モーターおよび発電機の3品目が共通している。輸送機器では、トラック部品と二輪車部品が

共通している。ただし、ここでの品目分類は幅が広く、より細かい製品の相違や特殊な製品が

ある可能性はある。その場合、実際に競合する可能性はより低い。

(2) 西アジアとアフリカ向けの輸出品目における中国との相違

西アジアとアフリカはインドにとって重要な機械製品の輸出先であり、両地域を合わせてイ

ンドの機械関連輸出の 30%以上を占めている。表 12 は機械関連製品の3つの分類について、

西アジアとアフリカの8カ国向けの輸出状況を示している。いずれの分類でも中国がインドを

上回っている。インドの輸出が中国を上回っているのは、ケニアとタンザニア向けの一般機械・

電器と輸送用機器のみである。

表 13 は、インドと中国からの西アジアとアフリカ向けの主力輸出品目を示している。選定

方法は表 11 と同様である。ここでも両国に共通する輸出品目はきわめて少ない。表 12 の各

国向け輸出品目のうち、共通しているのは一般機械・電器で HS8481(コックおよびバルブ部品)

と同 8411(ガスタービン)である。電子機器では、インドの輸出主力品目である HS8528(テ

レビ)と同 8504(変圧器)の2つが中国と競合するようだ。また輸送用機器では、HS8708(ト

ラクター部品)と同 8704(二輪車部品)が共通の主力品目になっている。これら以外にイン

ドの主要輸出品目で中国と直接の競合関係にあるものはない。この点はわれわれが取り組んだ

企業調査でも確認された。

表 12 西アジアおよびアフリカの主要国における輸出(2002 年)

(単位:100 万ドル)

一般機械・電気機器 電子機器 輸送用機器

国名 中国 インド 中国 インド 中国 インド

アラブ首長国連邦 324.1 109.2 633.4 66.6 95.2 31.0

サウジアラビア 97.6 32.2 127.4 18.5 37.5 6.2

クウェート 14.3 5.6 37.1 4.9 7.2 6.5

イラン 303.7 20.2 140.8 15.4 107.9 6.9

タンザニア 13.4 10.8 18.7 2.2 7.5 7.7

スーダン 132.9 12.8 36.8 20.0 24.7 10.3

ケニア 5.7 22.4 30.3 6.7 4.0 12.4

エジプト 93.9 22.5 94.9 11.3 15.5 18.1

出所 : DGS&I for India, Customs Statistics, China

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表 13 西アジアおよびアフリカへの輸出における主要機械関連製品(2002 年)

インド 中国

一般機械・電気機器

8473 コンピューター関連機器 8471 コンピューターおよびユニット機器

8414 コンプレッサー、気体ポンプ 8481 コック、弁

8482 軸受け 8482 軸受け

8409 エンジン部品 8415 エアコン

8479 その他の産業機械 8407 エンジン(ピストン、スパーク式)

8481 コック、弁 8443 印刷機器

8406 蒸気タービンおよび部品 8411 ガスタービン

8474 選別機 8452 ミシン

電子機器

8528 テレビ受像器 8528 テレビ受像器

8544 ケーブル、ワイヤー 8521 ビデオ

8524 記録用媒体(レコード、テープ) 8527 無線機器(ラジオなど)

8535 1000V より上の電気回路機器 8529 チューナー、アンテナ類

8504 トランスフォーマー、整流器 8516 電気煮沸器、アイロン、電子レンジなど

8536 1000V 以下の電気回路機器 8509 家庭用電気機器

8541 半導体デバイス(トランジスタなど) 8501 電動機、発電機

8540 ブラウン管 8517 電話機、ファックス(有線)

8501 電動機、発電機 8504 トランスフォーマー、整流器

8545 炭素電気用品 8506 一次電池

輸送用機器

8708 自動車部品 8708 自動車部品

8702 輸送用車両(人員10人以上) 8712 自転車

8711 二輪車 8714 二輪車・自転車部品

出所 :DGCI&S, Ministry of Commerce

3.インドと中国との間の機械関連製品貿易

(1) 輸出

表 14 と表 15 は、主要な機械関連製品のインド・中国間の輸出入の状況を示したものである。

インドは 2002 年に 4400 万ドルの機械関連製品を中国に輸出して、それはインドの対中国輸

出全体の3%を占める。なかでも一般機械・電器がもっとも多く 60%以上を占める。次いで

電子機器が 27%、輸送用機器が 12%強を占める。一般機械・電器では、トランスミッション

/ギア、コンプレッサー/ポンプ、エンジン部品が上位 3 品目である。電子機器では、碍子(絶

縁体)、変圧器/追加電源装置が上位 2 品目である。輸送用機器では二輪車・自転車部品と自

動車部品が上位を占める。インドから中国への機械関連輸出の中心は一般機械・電器である。

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第14章

インド

機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

表 14 インドの対中輸出における主要機械関連製品(2002 年)

(単位:100 万ドル)

金額 シェア(%)

一般機械・電気機器 26.8 100.0

8483 トランスミッション、ギアなど 4.8 17.8

8414 コンプレッサー、気体ポンプ 3.1 11.6

8443 印刷機器 3.0 11.3

8409 エンジン部品 2.6 9.7

8479 その他の産業製品 1.9 7.0

8422 洗濯機 1.5 5.6

8466 工作機械用部品、付属品 1.2 4.5

電子機器 12.0 100.0

8546 碍子 2.5 20.4

8504 トランスフォーマー、整流器 1.3 11.2

輸送用機器 5.5 100.0

8714 二輪車・自転車部品 3.2 57.2

8708 自動車部品 2.1 38.4

出所 : DGCI&S, Ministry of Commerce

表 15 インドの対中輸入における主要機械関連製品と中国製品のシェア(2002 年)

(単位:100 万ドル)

中国からの輸入 インドの全輸入 中国のシェア (% )

一般機械・電気機器 266.7 4823.7 5.5

8471 コンピューターおよびユニット部品 82.3 750.0 11.0

8473 コンピューター関連部品 77.6 609.9 12.7

8482 軸受け 13.9 153.7 9.0

8414 エアコン、気体ポンプ 11.4 174.3 6.6

8452 ミシン 10.1 68.0 14.9

8470 電子計算機(電卓、レジなど) 6.1 18.4 33.4

8415 エアコン 5.9 66.7 8.8

8447 編機 5.0 82.4 6.1

8480 金型 4.2 65.3 6.4

8481 コック、弁 4.0 149.0 2.7

8483 トランスミッション、ギアなど 3.5 170.2 2.0

電子機器 592.3 4342.1 13.6

8525 送信機器(携帯電話など) 201.0 607.0 33.1

8517 電話機、ファックスなど 75.3 584.8 12.9

8522 AV,ビデオなど部品 44.0 64.6 68.2

8529 チューナー、アンテナ類 34.1 235.5 14.5

8540 ブラウン管 22.3 175.6 12.7

8504 トランスフォーマー、整流器 21.3 168.6 12.6

8542 集積回路 19.6 340.1 5.8

輸送用機器 4.7 365.5 1.3

8714 二輪車・自転車部品 1.8 19.9 9.1

8708 自動車部品 1.5 257.0 0.6

8706 原動機付きシャーシ 0.8 5.8 13.0

8716 トレーラー 0.4 2.8 13.9

出所 : DGCI&S, Ministry of Commerce

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(2) 輸入

インドの輸入総額のうち、中国からの輸入は5%以下にすぎない。中国からの輸入総額

は、2002 年で 25 億 8600 万ドルと推計されている。このうち機械関連製品の輸入額は8億

6700 万ドルで、中国からの輸入総額の 33%を占めるが、インドの機械関連製品輸入全体か

らみると9%でしかない。中国からの機械関連製品輸入のうち、最大のものは 68%を占める

電子機器である。インドの電子機器の輸入全体に占める中国製品の割合は 13%強である。一

般機械・電器は、中国からの機械関連製品輸入の 30%を占める。ただしインドの一般機械・

電器の輸入全体の中で中国は6%を占めるにすぎない。輸送機器はわずか 0.5%弱である。総

じて、電気・電子製品が中国からの機械関連製品輸入の中心を占めており、これらの分野で中

国が比較優位をもっていることを反映している。

総じて言えば、中国からの機械関連製品輸入は、全体としてインドの比較優位を持つ分野と

あまり重なっているとは言えず、インド企業にとって深刻な脅威になっているとはいえない。

第3節 インドの機械関連産業の構造

1.産業構造:インドと中国との大まかな対比

GDP に占める製造業の比率は、インドが 18%で中国は 42%である。製造業の実質成長率は、

インドが平均 5.5%で中国は同 15%である(表 16)。製造業の構成をみると、インドは軽工

業が中心で、製造業の付加価値の 38%を生み出している。対照的に中国は重工業が中心であ

表 16  製造業部門の比較

(単位:%)

インド 中国

製造業総生産の実質年平均成長率 (1990-1998) 5.5 14.7

製造業総生産と GDP の割合(1998 年) 18 42.2

出所 : UNIDO ホームページサイト (www.unido.org)

表 17 中国・インドにおける産業構造:生産額に占める割合

(単位:%)

インド 中国

軽工業 38.4 32.9

化学 29.7 26

重工業 31.4 38.7

出所 : UNIDO ホームページサイト (www.unido.org)

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第14章

インド

機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

る(表 17)。なお表 17 において、軽工業とは食品、繊維、家具、製紙等、化学工業とは石油、

プラスチック、ゴム、ガラス、非金属製品等、重工業は、製鉄、非鉄金属、電気および一般機

械、輸送機器、精密機器等の諸産業からなる。

2.インドの機械関連産業の概要

 インドの機械関連産業は、1991 年の輸入自由化以来、輸入品との競合にさらされてきた。

競合の程度は産業部門によって異なる。だが国内生産は輸入品の影響をあまり受けていない

ようにみえる(Uchikawa, 2001)。機械関連輸入の増大は、インドのメーカーが近代化と技術

革新を進めていることを反映している。1990 年代前半にインドの製造業で投資ブームが起

き、1995 ~ 96 年にピークを迎えた。しかしより高度な機械を求める国内需要に応える能力

がインドの国内メーカーにはない。工作機械はその典型例で、インドの工作機械の消費に占

める国産品のシェアは、1991 年の 65.3%から 1998 年には 40.4%まで低下した(Uchikawa,

2001)。

 本章でとりあげるインドの機械関連産業のうち、重要なものは耐久消費財産業、特に乗用車、

二輪車、カラーテレビ、洗濯機、冷蔵庫、エアコン等の産業である。インドの耐久消費財産業

の成長と実績については Ramaswamy(2001)が詳しく論じている。1990 年代の改革期には、

表 18 インドの輸入に占める機械関連製品の割合

(単位:%)

1999 2000 2001 2002

総輸入額に占める機械関連製品の割合 13.9 14.4 14.7 16.8

機械関連輸入総額 100.0 100.0 100.0 100.0

① 一般機械・電気機器 60.6 57.7 56.6 50.6

② 電子機器 33.7 36.9 40.0 45.6

③ 輸送用機器 5.7 5.4 3.4 3.8

出所 : DGCI&S, Ministry of Commerce

表 19 インドの直接投資受け入れ額と機械関連分野のシェア

(単位:100 万ドル)

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

直接投資受入総額 280 403 872 1419 2058 2956 2000 1581 1910

内訳(%)

一般機械産業 25 8 15 18 35 20 21 21 14

電子産業 12 14 6 9 7 22 11 11 11

上記の合計 37 22 21 27 42 42 32 32 25

総計 100 100 100 100 100 100 100 100 100

出所 : Report of the Committee On FDI 2002,GOI, New Delhi

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  表 20  1991 ~ 2002 年に認可された海外との技術提携件数

産業 認可数 構成(%)

電子機器 1180 16.3

産業機械 835 11.5

輸送用機器 612 8.5

その他の機械工学 394 5.4

上記4つの合計 3021 41.7

総計 7228 100.0

出所 : Annual Report 2002-03, Ministry of Heavy Industry, and Government of India

これらの産業で労働生産性、雇用者数、賃金が上昇した。耐久消費財メーカーは、生産効率を

上げるための生産体制と技術革新に投資することで改革に対応してきた。

 インドの機械関連産業は、競争に打ち勝つためにリストラを進めてきた。1991 年の改革開

始以来の機械関連産業への外国からの直接投資の額と、政府が承認した技術提携数がその一端

を物語る(表 19、表 20)。外国企業のインドへの直接投資のうち、機械関連産業向けが平均

して 30%以上を占めている。承認された技術提携に占める機械関連産業の比率は 40%以上で

ある。このうち電子機器と産業機械を合わせると 25%を超える。これらはグローバルな競争

がインドの機械関連産業の技術革新を促したことを示唆している。耐久消費財と電気機器産業

の研究開発投資のペースは、製造業全体のそれを上回っている(Kumar and Agrawal, 2000)。

(1) 工作機械、繊維機械、電気機器産業

①工作機械

 工作機械産業は、旋盤、切削機、工具など、機械関連産業で使う多様な用途の機械を生産し

ている。全国に 125 の主要企業と 300 の小規模企業があると推計されている。インドの工作

機械産業はグローバルな範囲でユーザーに対応している。世界の工作機械生産に占めるインド

のシェアは 2001 年で 0.4%以下である(The Machinist, March 2003)。国内で使用する工作

機械の 42%は輸入に頼っているが、依存度は中国(51%)より低い。ここ何年か、インドで

はコンピューター制御(CNC)機械の使用量が増えているが、その部品の多くは輸入に頼って

いる。他の標準的な工作機械は、各業種の用途に合わせて国産品が広く使用されている。イン

ドの工作機械の輸出額は2億 9000 万ドルで、中国の輸出額の1億 8500 万ドルを 1000 万ド

ル上回る。中国が輸出する工作機械の大半は、非 NC 工作機械であり、価値連鎖の最下限に位

置している。インドの工作機械が主に競争するのは、この分野の 2 大生産国である台湾、韓

国である。インド企業が技術革新を進めるかぎり、中国はさほど脅威にならないかもしれない。

インドでは自動車産業の成長が見込まれており、工作機械産業にとって追い風になると思われ

る。

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365

第14章

インド

機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

②繊維機械産業

 繊維機械産業はインドの一般機械部門では最大の資本財産業である。生産規模の面では最大

6 億 9800 万ドルの生産額を生み出す能力があり、メーカーは約 600 社に達する。多様な繊

維機械の製作には約 100 あまりの工場が必要で、インドでも紡織準備機、機織準備機、製糸機、

シルバーラップ機、リボンラップ機、延伸フレーム、粗紡機など様々な種類の機械が生産され

ている。しかし繊維機械産業の景況悪化と貿易自由化後の輸入品の急増で、現在の設備稼動率

は 35%にすぎない。中古品の輸入増大も需要低迷に拍車をかけている。かといってインドの

業界にはコンピュータ制御機械やデータ・センサリング・システムなど、技術的に高度な繊維

機械を生産する能力はない。繊維機械は、世界市場で中国製品との激しい競争に直面する可能

性の高い産業である。

③電気機器産業

 インドの電気機器産業は、製造部門の総生産高の6%近くを占める。大半の国内需要を満た

しているが、高度な製品は輸入に頼っている。電気機器産業の市場規模は、23 億 7000 万ド

ルと推計される。変圧器、発電機、スイッチ、コンデンサ、電気モーター、配電、防爆装置、

モーター、スターター、誘導機、直流モーター等の生産が多い。

電気機器産業では、シーメンスや ABB などの外国企業が主導的地位にある。これらは中国

の電気機器産業でも大きな役割を担っている。これらのグローバル企業のインド子会社が、イ

ンドの電気機器産業を牽引し、国内産業に最新の機器を提供している。輸出志向はそれほど強

くないが、中国からの低価格品の輸入を懸念しており、政府に対し輸入製品に対する品質基準

の厳格化を求めている。

(2) 自動車・二輪車部品産業

 自動車・二輪車部品産業は、現在、インドでもっとも期待できる産業である。自動車生産

はここ数年で革命的に変化した。1982 年に日本のスズキ自動車がマルチ・ウドヨグと提携関

係を結んで参入し、マルチの乗用車が大ヒットしたことがインドの部品産業成長の契機になっ

た。さらにフォード、GM、フィアット、三菱、ホンダ、現代、大宇などの外国メーカーも参入し、

成長に拍車がかかった。2001 ~ 02 年のインドの自動車・二輪車の生産台数は 500 万台を超

えた。このうち二輪車が 400 万台強で、四輪車が 100 万台強である。政府が自動車・二輪車

生産の認可要件を緩和したのが 1993 年であることを思えば、短期間に驚異的な成長を遂げた

と言える。

部品生産は組み付け用部品と補修市場用部品に分けられる。これらを支えるのは約 400 の

大規模工場と約 6000 の小規模関連工場である。大規模工場が全生産の約 85%を占め、高付

加価値の精密品を生産する能力をもっている。生産される部品の 30%強がエンジン部品、17

%が変速機部品、16%がサスペンションとブレーキシステムである。ここ数年のインドにお

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366

ける自動車部品産業の生産実績は表 21 のとおりである。インド自動車工業会(ACMA)は、

今後3年間の輸出の伸びを年率 18%と予想している。

世界の有力部品メーカー、例えばデルファイ(GM)、ビステオン(フォード)、MICO(ボ

ッシュ)、カミンズなどがインドに生産工場を建設し、世界的な供給拠点にしはじめている。

インド企業との主な委託生産契約の一覧を表 22 に示した。中国のトラックメーカーもインド

企業からの調達を開始している。インド製自動車部品のコストは EU や米国製と比べて 10%

から 30%低いと言われる。多数の優秀な熟練労働者を低賃金で利用できるからである。

自動車市場の競争激化に対応して、インドの大手自動車メーカーは部品調達体制の再編成を

進めてきた。タタ自動車はトラック部門では 1000 社以上の部品メーカーから調達しているの

に対し、同社の「インディカ」という小型乗用車の部品メーカーに関しては約 130 社まで絞

った。他の大手自動車メーカーも部品調達体制の再編成を進め、納入業者数を減らしている。

その結果効率性が高まった。拡大を続ける中国国内の自動車市場への参入は、インドの自動車

産業に成長機会をもたらすだろう。この点については後の事例研究で明らかにする。

表 21 自動車部品産業のパフォーマンス

(単位:100 万ドル)

生産額 投資額 輸出額

1999 3250 1850 350

2000 3894 2000 456

2001 4100 2300 625

2002 4470 2300 578

出所 : ACMA Facts and Figures 2001-2002

表 22 インドでの主な自動車部品の OEM 生産

発注側 インドの OEM 企業 委託製品

フォード(UK)Mahle Migma

(マディヤ・プラデーシュ州)自動車用カム・シャフト

フォード(UK)Synergies Dooray

(アーンドラ・プラデーシュ州)ホイール

フォード(UK)Tata Auto Plastic Systems

(マハラシュトラ州)ベゼル

モ ト リ ミ ネ レ リ(Motori Minerelli 社、イタリア)

Mahle Migma(マディヤ・プラデーシュ州)

カム・シャフト

トヨタToyota Kirloskar Motors

(カルナータカ州)トランスミッション・ハブ(SUV 車)

ボルボVolvo India

(カルナータカ州)シャーシ用部品・ギア

GMSundharam Fastners,

(タミル・ナードゥ州)ラジエーター・キャップ

出所 : Business World, 12 May 2003

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367

第14章

インド

機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

(3) 家電産業

 家電産業の代表的なものは AV 機器である。インドの音響機器には単純なラジオ、トランジ

スタ、テープレコーダー、高級音響システムなどがある。インド製の主な映像機器としては、

テレビ、ビデオカセット・レコーダー、VCD プレーヤー、DVD プレーヤーなどがある。DVD

などテレビ以外の映像機器の市場はまだ発展途上にある。ここではテレビ産業を例に、インド

の家電産業発展の歩みを見てみよう。

テレビ産業がスタートしたのは 1970 年の白黒テレビの登場からである。白黒テレビ市場は

1970 年代には年率平均 38%で拡大したが、カラーテレビの登場とともに下火になった。白

黒テレビ・メーカーは、物品税免除と小規模企業への奨励という形で政府の援助を受けてきた。

白黒テレビの市場規模は、2000 年で約 500 万台と推計され、年々縮小している。

カラーテレビの生産については、政府は効率化を図るため最低生産規模をメーカーに課した。

政府は技術輸入も制限したため、国内メーカーは輸入部品でテレビを組み立てざるをえなかっ

た。国内メーカーにはカラーブラウン管の生産能力がなく、カラーテレビは輸入が中心だった。

輸入の自由化、外国からの技術輸入の制限緩和、関税の引き下げによって、カラーテレビ市場

が拡大しはじめたのは 1991 年である。大手企業はまず日本メーカーと協力関係を構築した。

BPL が三洋と、ビデオコンが松下と、オニダが日本ビクターと提携した。1990 年代後半には、

赤井電気、アイワ、サンスイ電気、東芝といった世界的メーカーが、インド企業と戦略的提携

関係を結んでインド市場に進出した。ソニー、LG、三星は単独で市場参入し、高品質の製品

を前面に出して急速にシェアを拡大した。カラーテレビ市場は急速に成長している。

 インドのカラーテレビの市場規模は、2000 年で 600 万台と推計されている(Ernst and

Young, 2001)。最も人気があるのは 21 インチ型で、売り上げは推計 260 万台である。こ

れは中国国内の需要(2200 万台)よりは大幅に少ない。しかしカラーテレビの売り上げは

2002 ~ 03 年には 22%以上の伸びを見せるなど、市場は急速な成長が見込まれている。受

信可能な1億 9200 万世帯のうち、実際にテレビを所有しているのは 42%にすぎないからで

ある(India Infoline Sector Studies, 2003)。ケーブルテレビと衛星放送を利用する世帯数は、

1999 年には 2900 万だったが、2002 年には 4000 万に増えた。この2年間の伸び率は 31%

以上になる。テレビの売り上げは、この5年間に年率 25%で拡大したと推計されている(India

Infoline Sector Studies, 2003)。特に薄型テレビの需要の伸びが大きい。薄型テレビの比率は

今のところカラーテレビの5%だが、今後2年で 10%になると見込まれている。

 インドのテレビ生産能力は合計 840 万台と推計され(ICRA, 2000)、2002 ~ 03 年の生産

実績は 750 万台であった(MIT, 2002-03)。特に薄型テレビの生産は前年比 100%増の 40

万台と推計されている。インドのカラーテレビ市場には、国内企業と、薄型テレビ等の高級品

を提供する多国籍企業が混在して激しく競争している。薄型テレビ市場ではソニーの「Wega」、

LG の「Tlatron」、三星の「Piano」、BPL の「Matrix」がシェア拡大を競っている。従来型テ

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表 23 インドのカラー TV の主要ブランドおよび市場シェア (2002 年 12 月 )

企業 ブランド名 シェア(%)

LG(LG Electronics India Pvt.Ltd) LG 15.3

サムソン(Samsung India Electronics Ltd) Samsung 13.5

マーク(Mirc Electronics Ltd) Onida 12.1

BPL (BPL Limited) BPL 9.8

ビデオコム(Videocon International Ltd) Videocon、Akai、Toshiba、Sansui 7.3

フィリップス(Philips India Ltd) Philips 6.3

ソニー(Sony India Pvt Ltd) Sony 5.0

出所 : The Hindu Businessline, December 4,2002.

レビと薄型テレビの価格差は縮まりつつある。

 主なカラーテレビ・メーカーとブランド名、および市場シェアは表 23 のとおりである。

 カラーテレビ産業の急成長を受けて、家電用電子部品産業も売り上げを伸ばしている。国

内で生産される主な部品は、カラーブラウン管、プリント回路板、コネクター、フェライト、

CD-ROM である。カラーブラウン管はカラーテレビで最も重要な部品であり、部材コストの

40%を占める。カラーブラウン管の生産量は 90 年代半ばの 560 万本から 2002 年には 750

万本に伸びた。最大のメーカーはサムテル・カラー社で、310 万本の生産能力をもち、シェ

アは 40%に達する。国内の生産能力向上と高関税で、カラーブラウン管の輸入量は減少した。

現在、カラーテレビとカラーブラウン管の関税は同率になっている。ブラウン管用ガラスも重

要部品である。インドは年間約 470 万本のブラウン管用ガラスを生産しており、日本や東南

アジア諸国から輸入もしている。

3.インドに進出する中国家電メーカー

 中国の KONKA Electronics(康佳)、Haier(海爾集団)、TCL の家電3社がインド市場に参

入している。KONKA のインド法人名は、KONKA Electronics India Limited (KIEL) で、もとも

と中国の KONKA、インドのホットライン・グループ、香港の Wittis の3社が合弁で事業を開

始したものである。KIEL はセミノックダウン(SKD)方式でカラーテレビ部品を輸入し、ホ

ットライン・グループの工場で組み立てていた。また低価格戦略をとって 14 インチテレビを

販売していた。KONKA はインド市場でとくに失敗したわけではなかったが、経営者間で意見

の対立が生じ、ほどなくして合弁は解消された。KIEL はインドの他の OEM メーカーとの提

携を模索していると伝えられるが、今のところ新たな提携先は決まっていない。

 TCL はインド企業のバロン・インターナショナルと提携した。合弁企業名は TCL バロン・

ホールディングス(両社の同額出資)で、TCL のブランド名でカラーテレビを組み立て、販

売していた。TCL も KONKA と同じように低価格戦略をとり、大型カラーテレビ(25 インチ

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第14章

インド

機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

と 29 インチ)をきわめて安い値段で販売した。当初は大きな反響を呼んだが、その後、TCL

のカラーテレビのシェアは落ち込んだ。品質が悪いとの消費者の評価が市場に広がったからで

ある。2001 年 10 月時点の市場シェアは 3.9%で、月間売り上げ台数は1万 6000 台である。

その後この合弁事業は解消された。TCL は単独企業を設立する計画だと伝えられるが、新し

い投資計画は、まだ公表されていない。

 Haier 社もインド企業との合弁で市場参入する計画を発表していたが、これも失敗した。

中国企業は低価格戦略をとり、ブランド価値を高めるための投資をしない点に注目すべきで

ある。日本や韓国メーカーは品質の高さを強調し、ブランド価値向上のために巨額の投資をし

ている。インドの消費者は品質差に敏感で、中国製品は性能の点で劣るとみて購入に消極的だ

ったようだ。外国企業の存在と激しい競争が消費者にとっては利益になった。MIRC、ビデオ

コン・インターナショナル、BPL という国内の大手 3 社は、新機能がついた新機種を投入し

続けることで、各社ともシェアを維持するのに成功した。一方、ブランドと品質に敏感なイン

ドの消費者は中国製の低価格テレビに目を向けなかった。ブランド・ロイヤルティと品質重視

の傾向があるため、中国製品がインド家電市場で大きく伸びることはないだろう。こうした見

方は、後に記載する企業調査でも裏付けられた。

第4節 企業の事例研究―中国との関連を中心に   

 インドの機械関連産業の中国との競合状況について、代表的メーカーの事例をいくつか紹介

しよう。以下は我々が実施したヒアリング調査、企業の年次報告書、企業のウェブサイト、ビ

ジネス関連の報道記事等に基づいている。

1.ラーセン・アンド・トーブロ社(L&T)

 L&T は大手の多角化企業で、総売上高は 16 億ドルである。最近、ビジネス関連の報道各社

の投票で、企業部門でもっとも尊敬される会社の一つに選ばれた。L&T は、1938 年にオラン

ダ移民の2人の技術者、ヘニング・ホルクラーセンと S.K. トーブロのパートナーシップとし

て事業を始めた。1946年にインド企業として設立登記し、1951年に株式を公開した。その後、

インド最大の一般機械およびセメント会社に急成長した。売り上げの 59%を機械部門、26%

をセメント事業からあげている。その他、電気機器、土木機器なども手がけている。電気機器

では、弱電(1000 ボルト以下)スイッチでトップのシェアをもっている。またスターター、

ヒューズ、リレーなど幅広い製品を生産している。電子機器では工業用の制御システムや医療

機器など多様な製品を手がけている。土木機械では、油圧ショベル、ホイールローダ、振動突

固め機、バックホウローダなどを生産している。1998 年にショベル生産を日本のコマツと設

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立した合弁事業に移行した。最近、バックホウローダの生産もケース・コーポレーションとの

合弁事業に移行した。

 我々の調査では、L&T の電気機器部門に焦点を当てた。この部門は国内向けの生産が中心

である。電力機器への需要の大部分は公共部門の電気事業によるものである。同社の輸出は、

以前は国内需要を満たした後の残りの部分に限られてきた。海外市場向け製品の生産を開始し

たのはこの2、3年である。先ごろ同社は、中国の上海 SECCO 社に、アクリロニトリル(ACN)

反応器2台と、ACN プラント用の冷却装置2台を納入する契約を結んだ。中国では医療機器

も販売している。

 L&T の経営陣は、世界市場での中国の脅威はそれほど大きくならないと感じている。同社

の輸出市場での中国の脅威は低価格品に限られる。インド国内では中国は敵ではないとみてい

る。同社が高性能製品の品質に自信をもっているからだ。L&T の経営陣によれば、インド企

業にとって最も不利な要因は国内の税率が高いことである。インドの場合、売上税、物品税、

州際取引税を合わせるとコストの 35%にも上るという。

L&T は研究開発費を増額して新製品を開発し、合理化を通じて生産性を高めてきた。同社

の最大の強みは大量の技術者を擁することだ。研究開発にはたえず十分な投資を行っている。

継続的な品質向上、新しい設計や機能の開発が国内での成功の鍵だった。同社はブランド対策

にも乗り出す一方、有名な外国企業に通信機器の部品等で OEM 供給も行っている。輸出市場

については L&T はまだ学習途上にある。同社の経営陣は、高品質の製品、継続的な設計改善

で顧客満足を高めることを強く意識している。シーメンス、ABB、GE など、外国の有力な電

気機器メーカーがインドに進出しており、L&T は激しい競争に直面している。ただし、今後

は中国企業も高級品で競争を挑んでくる可能性はあると経営陣は認識している。

2.マヒンドラ & マヒンドラ社(M&M)

 マヒンドラ & マヒンドラ社(M&M)は、マヒンドラ・グループの基幹企業であり、総売上

高は 13 億ドルである。インド国内向けに多目的車を生産するため、1945 年に設立された。

中核的事業は、多目的車、軽商用車、農業用トラクターの生産である。トラクター部門は汎用

エンジンの生産も行う。病院、貿易・金融、自動車部品、情報技術、通信、インフラ開発等の

事業も子会社を通じて行っており、一大企業グループを形成している。

M&M の従業員は約1万 2000 名で、最新鋭の工場が6カ所、トラクター生産のための専門

工場が2カ所ある。M&M のシェアは、ジープと多目的車が 50%、トラクターが 27%、軽商

用車が 20%である。多目的車市場では、「ボレロ」という新製品を売り出した。またスポーツ

タイプのスコルピオ、高級トラクターのアルジャンも市場に投入した。トラクター部門はイン

ド国内向け製品および米国、東南アジア諸国向けの製品を生産している。

 マヒンドラ・グループの自動車部品メーカーは、鋳造部品、プロペラシャフト、クラッチ等

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第14章

インド

機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

の生産を手がけている。これらのメーカーは、基幹会社の M&M だけでなく、Telco、Ashok

Leyland Limited、マルチ・ウドヨグ、Baja Auto Limited といった大手 OEM メーカーにも部

品を供給している。また米国と欧州市場に輸出もしている。

 M&M の最大の強みは、製造能力およびエンジニアリング能力の高さにある。農機具の大半

はアフリカと南アジア地域協力連合(SAARAC)などの発展途上国に輸出されている。東南ア

ジア向けは少ない。農機具の開発・生産はさほど高度な技術を必要としないが、そのかわりそ

の土地の気候条件に適していることと耐久性が重要である。多目的車は同社の中心的製品であ

る。同社はニッチ市場に焦点を絞る戦略をとっている。

経営陣は、一般論としては、海外市場で中国製品がインド製品の最大の脅威になると認識し

ている。労働集約的技術を使うという点で中国企業はインド企業と同じである。また中国企業

は輸出メーカーとしてインド企業より先行しており、彼等のブランドは一般にインド製品より

もより海外市場で浸透しているという。ただし、M&M がターゲットとする市場では、実際に

は中国製品はそれほどの脅威になっていないという。多くの発展途上国で数年前から M&M 製

のトラクターや多目的車はブランド名が確立しており、消費者を満足させているという。

一方、インド国内では中国製品が彼等の脅威になるとは認識されていない。国内では彼等の

方がブランドの認知度が高く、またインド企業の方がインドの消費者をよく理解していて製品

開発やサービス面で有利だからである。

 M&M の経営陣の中国および中国企業についての認識は興味深い。彼等は「中国製品は品質

が劣る」という見方は的外れだと感じている。また「中国企業は市場に合わせた製品を開発・

生産できる」「どんな価格を設定しても、それに見合った顧客を満足させる製品を生産する能

力がある」という。中国は「ターゲットとする市場の特性に合わせて製品を供給する国」と経

営陣は見ている。中国企業の最大の利点は巨大な国内市場の存在だという。例えば中国政府は

自動車産業を重視して強力に後押ししている。現状で多数の企業に分散してはいるものの、政

府の指導で統合が進み、近い将来、競争力を格段に高める可能性が強いと見なしている。また

国内に整ったインフラと柔軟な労働法制があることも中国企業の強みだという。

 現状では自動車部品での中国企業の競争力は一般的にそれほど高いわけではない。だが

M&M の認識では、中国には高品質部品を生産する企業もいくつかあり、それらに生産委託を

することも検討している。中国側に M&M 製部品への需要があることも認識しており、現地販

売を計画している。

3.バーラット鋳造社

 バーラット鋳造社(BFL)は、インド最大の自動車部品輸出メーカーで、2002 年~ 2003

年の売上高は1億 4900 万ドルである。BFL の主な製品は、エンジン、シャーシ、変速機部品

である。1万 6000 トンの自動式鍛造プレスラインを2台もつ世界有数のメーカーでもある。

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年間1万 2000 トンの鍛鋼品の生産能力がある。同社は多種多様な鍛造製品と機械部品を、自

動車エンジン、ディーゼルエンジン、鉄道、土木機械、セメント、製糖、製鉄、炭坑、造船、

油田産業向けに供給しており、また一般工学機械も生産している。顧客には、欧州のダイムラ

ー・クライスラー、キャタピラー・パーキンス、ルノー、メルセデス・ベンツ、ニューホーラ

ンド、ボルボ & リスター・ピッター、日本の三菱自動車、いすゞ自動車、韓国の双龍自動車など、

世界最大級の自動車メーカーがある。

BFL は 1980 年代はじめから、一貫して生産規模の拡大と技術革新に力を入れており、それ

が現在の競争力の強化につながっている。BFL は、落鎚装置の技術革新と品質向上のために

日本鍛工株式会社と、またフロントアクスル(前車軸)ビーム製造のために日本の自動車部

品工業株式会社と技術提携を結んだ。1990 ~ 91 年には、日本、米国、英国という先進国市

場で、フロントアクスルビームなど、サスペンションとエンジンの重要部品売り込みに向け

た大きな足場を築いた。1991 年には、5000 万ドルをかけて鋳造施設の近代化に取り組み、

Weingarten 社(ドイツ)製の1万 6000 トンと 6000 トンの鋳造プレスラインを発注した。

1996 年には日本のメタルアート社と小規模鋳造のための技術提携を結んだ。BFL は ISO9000

と QS9000 の認証を受けている。

 BFL の経営陣は、国際市場で中国はインドにとって当面の脅威ではないとの見方を示した。

少なくとも BFL の輸出先に限ってみれば、中国は敵ではないという。BFL は 2002 年に中国

向けの輸出を開始した。BFL の輸出に占める中国向けの割合は約 24%である。中国は BFL に

とって米国に次ぐ2番目の市場である。同社の経営陣によれば、比較優位を獲得しつつあるイ

ンドにとって重要な試練は、むしろ日本企業の進出である。トヨタ自動車のバンガロールでの

合弁工場であるキルロスカ・トヨタは、マニュアル・トランスミッション・ハブの世界的な組

み立てセンターになるという。仮に中国が必要な条件を満たしていれば、日本はインドではな

く中国に進出していたはずである。BFL 経営陣の見方では、中国の自動車部品産業は、マルチ

とスズキの合弁会社が 1982 年に設立される以前のインドの水準に近いという。

 BFL 経営陣は、国内の税金が高すぎるデメリットを強調した。現在、主な戻し税の対象は中

央物品税だけで、売上税と州際取引税は対象外である。2年後に付加価値税に統合されれば、

競争力はもっと高まるだろう。インド企業の比較優位の源泉は、熟練労働力の存在、品質のよ

い原材料が国際的価格で入手できること、ソフトウェア開発力とエンジニアリング能力の3点

である。

4.MIRC エレクトロニクス社

 MIRC エレクトロニクスは、インド有数の高級テレビメーカーで、売上高は2億 3100 万ド

ルである。「オニダ」というブランド名の方がよく知られている。MIRC がテレビの組み立て

を開始したのは 1982 年である。1985 年~ 86 年の生産能力は日産 30 台だったが、1998 年

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第14章

インド

機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

には同 2500 台にまで高まった。現在は年間 120 万台の生産能力をもっている。1990 年代

は MIRC にとって激しい競争とリストラの時代で、この間に同族経営から専門経営者による経

営体制に再編成した。

MIRC の強みは、革新的な性能と新しいキャビネット・デザインにある。1999 年~ 2000

年に 14 インチのマルチカラーテレビを発売した。2001 年には 29 インチ「KY サンダー・シ

リーズ」を発売したが、これは世界的にも新しい 650 ワットのサウンドシステムを備えた機

種である。続いて 29 インチ型ホームシアターを発売したが、これはモノラル録音を 5.1 サラ

ウンド出力に転換する機能を付けた初のテレビであった。インドの消費者の音へのこだわりに

応えたと同社はいう。MIRC の主な輸出先は、インド移民の多い西アジア諸国である。

 MIRC は日本ビクターと技術提携している。社員は定期的に日本ビクターの研究開発センタ

ーで訓練を受けている。また同社は、素材と部品の調達、管理体制も改善した。売上高に対す

る原材料費比率を引き下げ、部品の発注から納品までの時間を短縮した。同社は中国に部品調

達本部を置いている。

 MIRC の経営陣は中国のテレビ製造工場を訪問したことがある。そしてテレビ生産ではイ

ンドの方が優れており、世界市場で中国がインドの脅威になることはないと確信したとい

う。MIRC の主力輸出先では、中国製品は品質で劣るためまったく競争相手にならないとい

う。さらにインド市場でも中国製品の挑戦は脅威にならないとみている。彼らは上述のような

KONKA と TCL のインド市場での不振の例を挙げた。確かに中国企業は巨大で、なかにはイン

ドの市場規模に匹敵する 700 万台の生産能力をもつ工場もある。しかし中国は原材料の調達

面でまったくコスト優位がないという。MIRC 経営陣によると、中国企業はインド国内で販売

プロモーション用に資金を投入する準備ができていないという。現在のところ、MIRC は中国

への投資や販売を計画していない。

5.サムテル・カラー社(SCL)

 サムテル・カラー社(SCL)はサムテル・グループ傘下の企業である。インド最大のカラ

ーブラウン管メーカーで、国内市場の 37%のシェアをもつ。サムテル・グループの売上高は

2億 3900 万ドルである。SCL は9つの製造工場をもち、4500 人の従業員を抱えている。カ

ラーテレビブラウン管以外に、白黒テレビブラウン管、白黒モニター、工業用電子管、ガラス

部品、電子銃、加熱機、カソード、偏向ヨークを生産している。会社設立は 1986 年で、まず

日本の三菱電機と技術提携を結んだ。1989 年にはカラーブラウン管の一貫生産工場建設の第

3段階に着手した。その後、政府から年産 130 万本への能力増強計画が承認され、年産 150

万本の生産能力をもつ新しい組み立てラインが導入された。高度に自動化された新しい生産

ラインは、社内の技術者が独自に設計したものである。2001 年には推計 6500 万ドルを投じ

て、21 インチの超薄型ブラウン管と、15 インチのカラーテレビ用のカラーブラウン管を年間

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220 万本生産する能力のある新ラインを設置した。

 サムテルは、リストラを通じて競争力を高めてきた。2000 年にはシックス・シグマの取

り組みに乗り出した。納品時間を短縮するため、同社はテレビの組み立て工場の 15km から

20km以内に工場を設置している。また規模の経済を生かすために生産上流部門の統合を進め、

電子銃、加熱機、カソードを自社生産できるようになった。SCL は、技術こそ競争力のカギだ

と強調している。同社の研究開発部門には、25 人の技術者がおり、海外ユーザー用のブラウ

ン管も設計している。またプラズマテレビ用ディスプレイとカラーモニターを開発するため、

パイロット工場を建設中である。SCLは2002年に超薄型ブラウン管を導入した。2006年には、

世界の需要の 50%以上が超薄型に移行すると同社は見ている。

 SCL の成長戦略のなかで輸出は重要である。主な輸出先は欧州、マレーシア、タイで、現在、

売上高の 20%を輸出が占める。これが 2004 年には 40%に増えると予想されている。

 SCL は、カラーブラウン管に必要なガラスを、安価な輸入品に頼っている。逆に完成したカ

ラーブラウン管を中国に輸出している。

 SCL の経営陣は、中国からの輸入はインド国内での SCL の業績に深刻な影響を与えないと

みている。ただし、海外市場では中国企業は手ごわい相手だとみている。すでにいくつかの市

場では中国製品が SCL 製品を脅かしているという。中国メーカーの強みは、政府の強力な支

援と補助金、労働市場の柔軟性、豊富な原材料、巨大な国内市場にあるとみられている。イン

ドの国内市場の規模が小さいのは、高額の税金が原因だと認識している。

第5節 まとめ

本章は、インドの機械関連産業の現状と中国の影響について分析を行った。その主な結論は

以下のようにまとめられる。

1.中国との輸出入関係

(1)インド、中国とも経済のグローバル化が急速に進んでいる。1990 年代のインドにおけ

る貿易自由化のペースは速やかであった。GDP に占める貿易の比率は 1990 年の 17%から

2000年に30%に上昇した。インドの機械関連製品輸出は2002年で41億ドルに達している。

1990 年代には、機械関連製品輸出の伸びは全体の輸出の伸びを上回った。しかし依然、世界

の輸出に占めるインドの輸出の比率は 0.2 ~ 0.3%ときわめて低い。機械関連製品の輸出品目

はきわめて多様である。輸出先としては、東アジアは一般機械・電器と電子機械の分野で約

13%を占めるが、輸送機器の分野では5%に満たない。

(2)インドと中国では、輸出される機械関連製品の主な品目が異なる。中国の主要な輸出品

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第14章

インド

機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

目はインドのそれと競合していない。輸出先国をみると、西アジア、アフリカ、東アジアで両

国が競合するケースはあまりない。競合しているように見えるのは東アジア向けのコンピュー

ターおよび同部品、事務用機器である。ただし実際には競合の度合いは低い。これら2品目の

インドの輸出量は小さく、主としてニッチ市場向けと思われるからだ。

(3)インドから中国への輸出のうち機械関連製品は3%を占めるのみである。金額は 4400

万ドルで、内訳は主として一般機械・電器分野である。インドの機械関連メーカーの中国国内

市場への参入は緒についたばかりである。一方、中国からインドへの機械関連製品の輸出額は

8億 6700 万ドルに上る。機械関連製品は中国からインドへの総輸出の 33%を占める重要な

品目である。これはインド企業が中国を機械関連製品と部品の調達市場として利用しているこ

とを示唆している。今日のグローバル経済のなかで、中国をうまく活用するのは重要な戦略で

ある。

2.主要企業の対応

(1)インドの機械関連メーカーは、輸入品および自由化後にインドに進出した外国企業の両

方と競争を行ってきた。インドが受け入れた直接投資に占める機械関連産業の比率は、1991

年以降は 30%を超えている。一部の大手メーカーは、中国が台頭する以前から、リストラ、

事業プロセスのリエンジニアリング、外国との技術提携、研究開発投資の増額等、対策を独

自に進めてきた。彼等にとって、中国の WTO 加盟と世界市場への参入の影響は追加的な要因

にすぎない。世界的競争に打ち勝つためになにが必要かについて、インド企業の見方が中国の

WTO 加盟で大きく変化したわけではない。高い技術力に基づいた生産、世界レベルの規模の

実現、適正な価格で生産する能力こそ、世界的競争に対応する正しい戦略であるとの認識が一

般化している。中国の登場によってこの原則が変わるわけではなく、ただインドの製造企業が

技術革新とリストラを進める必要性が強まるだけである。

(2)中国企業は低価格品を大量に供給する事業戦略をとると広く認識されてきた。KONKA や

TCL といった中国のテレビ・メーカーとインド企業との提携失敗や、中国製ボールベアリン

グや蛍光灯の品質の悪さなどから、こうした見方は強まった。安価で品質が劣悪という評価が

定着したのである。しかし中国製品と彼等の生産能力についての知識が深まるにつれ、こうし

た見方は変化している。インド企業は中国が品質のよい部品を安価に供給する能力があること

を理解しはじめた。それを活用して競争力を高めるため、中国に部品生産を委託するインド企

業がでてきている。

(3)中国がインドの機械関連産業の市場になりうるとの認識は、ようやく広がりはじめたば

かりである。バーラット鋳造でのヒアリングで明らかになったように、リスク回避のために中

国への輸出する例が今後増えるであろう。Sundharam Fastener Limited もその一つの例であ

る。同社は中国に 100%出資の子会社を設立し、中国の自動車市場向けに締め具を生産して

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いる。このような直接投資は加速するかもしれない。こうした対応はインド企業にとって全く

新しい経験であり、グローバル化の影響を示す重要な例である。中国と補完関係を築き、高品

質の製品の輸入に道を開くことが、インドの機械関連産業にとってきわめて重要になる可能性

がある。競争的な関係は最小限の範囲にとどまるだろう。

3.産業界の対応

各種の産業団体は、これまで「経済のグローバル化が競争の脅威をもたらす」と警鐘を鳴ら

してきた。1994 年に行われたウルグアイ・ラウンドの最終協定署名前夜は、特にそうした声

が高まった。しかし現在では、産業界は一般的に中国を脅威よりもチャンスととらえているよ

うだ。ほとんどの産業団体が代表団を中国に派遣し、中国の産業と経済に関する理解を深めよ

うとしている。中国の整ったインフラ施設、柔軟な労働法制、企業規模の巨大さ、低い税率に

強い印象を受けて帰ってきているようだ。産業界は政府に対し、中国の例を引き合いに出しな

がら、改革の加速、高度なインフラ建設、税率引き下げ等の競争力強化策を要求するようにな

った。

4.政府の対応

中国との競争に対するインド政府の対応は、警戒心に満ちたものであった。中国からの輸入

に対しては拡大しすぎないようモニタリング体制がとられた。これは WTO ルールへの移行に

際して学んだ教訓だった。インドは以前から、輸入自由化で国内の小規模企業に影響を与える

おそれのある輸入品目に対してモニタリングを続けてきた。それは今も継続しており、政府は

WTO ルールに基づくアンチダンピング措置と緊急輸入制限(セーフガード)条項を持ち出す

用意をいつもしている。例えば中国からの輸入品に対し、アンチダンピング措置に基づく調査

を行い、ボールベアリングと蛍光灯の2品目にダンピング関税を課した。インドは中国との貿

易を促進したいと考えており、バンコク協定に基づいて関税を引き下げている。バンコク協定

で関税が引き下げられる中国からの輸入品は、インドの総輸入額の約 2.2%に相当する。その

見返りとして、インドは中国に輸出する 722 品目について、関税引き下げの措置を受けるこ

とになっている。インド経済省の高官は、中国を脅威とみるのは的外れだと考えている。むし

ろインドは製造業の競争力強化について、中国から学ぶべき点が多いという意見が多数を占め

るようである(Gopalan 2001)。

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第14章

インド

機械関連産業のグローバル化と産業再編における中国の影響

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