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58 INNERVISION ( 31・10 ) 2016 大腸CT検査(CTColonography: CTC)では大腸内視鏡検査と同様に,腸 内の残渣を排出して検査を行うことが基 本である。大量の固形便や腸液が残存す ることにより,固形便をポリープと見間違 えて偽陽性になる,あるいは腸液が多くな るとポリープを認識しにくくなり見落とし (偽陰性)が発生するなど,読影の妨げと なる。そのため,下剤(機械的下剤,刺 激性下剤など)や経口腸管洗浄剤,消化 管運動促進剤などの消化器官用薬,tag- ging 用造影剤などを組み合わせて使用し, 検査時に大腸内をCTCの読影に最適な 状態にすることが,良好な CTC を行うポ イントとなる。 CTC 読影に最適な状態とは,大腸内視 鏡検査と同様に読影時の障害陰影となる 固形便や腸液がない,もしくは少ない状 態であるが,良好な腸管洗浄効果を得る には,高用量の下剤・経口腸管洗浄剤の 服用が必要となる。しかしながら,高用量 の服用は被検者にとって苦痛が大きく, 大腸検査が敬遠されている理由の一つと なっているため 1) ,腸管洗浄効果と被検 者の受容性の双方を考慮した前処置法を 選択することが大切である。本稿では検診 における CTC の前処置について述べたい。 CTC の前処置法 CTC の前処置を行う際,検査実施の 時間(午前,午後)や被検者の背景(年 齢,性別,病院までの距離,日常の排 便状況,生活パターンなど)を考慮して 前処置法を選択する。そのため,前処 置に使われる薬剤の特徴(効果や作用時 間)を十分に把握することが,良好な前 処置を行う上で重要となる。 1. ブラウン変法と ゴライテリー法 CTC で用いられる腸管洗浄法は,一 般的に注腸 X 線検査で用いられるブラウ ン変法(高張法)と,内視鏡検査で用 いられるゴライテリー法(等張法)が主 体となる (図 1) ブラウン変法は,クエン酸マグネシウ ム(マグコロール P:堀井薬品工業)を 少量の水で溶かし高張液の状態で飲用 させ,その浸透圧差により腸管内容物 が等張になるまで水分を腸管から腸内へ 移行させることで腸管内容物を排泄させ る方法である。クエン酸マグネシウムは 比較的安全な薬剤であるが,腎不全の 患者には慎重な投与が求められる。また, 脱水になりやすいため,被検者に対して 十分な水分摂取を促す必要がある。欧 米では,リン酸ナトリウムの液体製剤を 腸管洗浄剤として使用する報告も多いが, 本邦では薬機法未承認であるため使用で きない。クエン酸マグネシウムやリン酸 ナトリウム製剤による腸管洗浄法は Dry 法と呼ばれ,飲用量が少ない(150 〜 200 mL)ため被検者の受容性は良好で あるが,ゴライテリー法に比べ洗浄効果 は弱く,固形便が残りやすいという特徴 がある。また,固形便が腸管壁に付着 しやすい傾向があるため,読影の際は注 意が必要である。飲用後の作用発現時 間は 2 〜 10 時間,作用持続時間は 12 時 間以内と長いため,当日飲用法には使 用できず,検査前日の飲用が主となる。 ゴライテリー法は,等張化剤であるポ リエチレングリコール(以下,PEG)が 配合されている腸管洗浄剤(ニフレック: 〈0913-8919/16/¥300/ 論文 /JCOPY〉 図 1  ブラウン変法とゴライテリー法 ブラウン変法は人体の浸透圧より約 5 倍ほど高い浸透圧(1450 mOsm)の腸管洗浄剤を 180 mL 飲用させることで,腸管から水分を腸内に移行させ腸内の洗浄を行う。人体の浸透圧 290 mOsm と等しい腸管洗浄剤を飲用させるゴライテリー法では,腸管から吸収されることなく 腸管内容物を流去させながら排出される。 H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O H2O マグコロール(高張) H2O マグコロール(等張) 水分720 mL 人体の浸透圧:290 mOsm ブラウン変法 (高張法) 浸透圧:1450 mOsm 飲用量:180 mL 浸透圧:290 mOsm 飲用量:2000 mL 浸透圧:290 mOsm 排泄量:900 mL 浸透圧:290 mOsm 排泄量:2000 mL ゴライテリー法 (等張法) PEG(等張) 1.大腸 CT 検診の前処置のポイント 経口造影剤の使用も含めて 松田 勝彦 / 満崎 克彦 / 田上真之介 / 奥村 真紀 / 三原 晴美 松永 久実 / 岡本 直華 / 菅  守隆 済生会熊本病院予防医療センター 特 集 スキルアップ講座 大腸CT検診(CTC)

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58  INNERVISION (31・10) 2016

 大腸CT検査(CT‌Colonography:CTC)では大腸内視鏡検査と同様に,腸内の残渣を排出して検査を行うことが基本である。大量の固形便や腸液が残存することにより,固形便をポリープと見間違えて偽陽性になる,あるいは腸液が多くなるとポリープを認識しにくくなり見落とし(偽陰性)が発生するなど,読影の妨げとなる。そのため,下剤(機械的下剤,刺激性下剤など)や経口腸管洗浄剤,消化管運動促進剤などの消化器官用薬,tag-ging用造影剤などを組み合わせて使用し,検査時に大腸内をCTCの読影に最適な状態にすることが,良好なCTCを行うポイントとなる。 CTC読影に最適な状態とは,大腸内視鏡検査と同様に読影時の障害陰影となる固形便や腸液がない,もしくは少ない状態であるが,良好な腸管洗浄効果を得るには,高用量の下剤・経口腸管洗浄剤の服用が必要となる。しかしながら,高用量の服用は被検者にとって苦痛が大きく,大腸検査が敬遠されている理由の一つとなっているため1),腸管洗浄効果と被検者の受容性の双方を考慮した前処置法を選択することが大切である。本稿では検診におけるCTCの前処置について述べたい。

CTCの前処置法

 CTCの前処置を行う際,検査実施の時間(午前,午後)や被検者の背景(年齢,性別,病院までの距離,日常の排便状況,生活パターンなど)を考慮して前処置法を選択する。そのため,前処置に使われる薬剤の特徴(効果や作用時間)を十分に把握することが,良好な前

処置を行う上で重要となる。

1.‌‌ブラウン変法とゴライテリー法

 CTCで用いられる腸管洗浄法は,一般的に注腸X線検査で用いられるブラウン変法(高張法)と,内視鏡検査で用いられるゴライテリー法(等張法)が主体となる(図1)。 ブラウン変法は,クエン酸マグネシウム(マグコロールP:堀井薬品工業)を少量の水で溶かし高張液の状態で飲用させ,その浸透圧差により腸管内容物が等張になるまで水分を腸管から腸内へ移行させることで腸管内容物を排泄させる方法である。クエン酸マグネシウムは比較的安全な薬剤であるが,腎不全の患者には慎重な投与が求められる。また,脱水になりやすいため,被検者に対して

十分な水分摂取を促す必要がある。欧米では,リン酸ナトリウムの液体製剤を腸管洗浄剤として使用する報告も多いが,本邦では薬機法未承認であるため使用できない。クエン酸マグネシウムやリン酸ナトリウム製剤による腸管洗浄法はDry法と呼ばれ,飲用量が少ない(150 〜200mL)ため被検者の受容性は良好であるが,ゴライテリー法に比べ洗浄効果は弱く,固形便が残りやすいという特徴がある。また,固形便が腸管壁に付着しやすい傾向があるため,読影の際は注意が必要である。飲用後の作用発現時間は2〜10時間,作用持続時間は12時間以内と長いため,当日飲用法には使用できず,検査前日の飲用が主となる。 ゴライテリー法は,等張化剤であるポリエチレングリコール(以下,PEG)が配合されている腸管洗浄剤(ニフレック:

〈0913-8919/16/¥300/ 論文 /JCOPY〉

図1 ‌ブラウン変法とゴライテリー法ブラウン変法は人体の浸透圧より約 5 倍ほど高い浸透圧(1450 mOsm)の腸管洗浄剤を180mL飲用させることで,腸管から水分を腸内に移行させ腸内の洗浄を行う。人体の浸透圧290mOsmと等しい腸管洗浄剤を飲用させるゴライテリー法では,腸管から吸収されることなく腸管内容物を流去させながら排出される。

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マグコロール(高張)

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マグコロール(等張)

水分720mL

人体の浸透圧:290mOsm

ブラウン変法(高張法)

浸透圧:1450mOsm 飲用量:180mL

浸透圧:290mOsm 飲用量:2000mL

浸透圧:290mOsm 排泄量:900mL

浸透圧:290mOsm 排泄量:2000mL

ゴライテリー法(等張法)

PEG(等張)

1. 大腸CT検診の前処置のポイント─経口造影剤の使用も含めて

松田 勝彦/満崎 克彦/田上真之介/奥村 真紀/三原 晴美松永 久実/岡本 直華/菅  守隆 済生会熊本病院予防医療センター

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