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St,Marianna University School of Medicine Hospital – US center
じゆう塾
ドック・検診におけるドプラの有効利用
聖マリアンナ医科大学病院 超音波センター
岡村 隆徳
St,Marianna University School of Medicine Hospital – US center
はじめに
しかし人間ドックや検診に割り当てられる検査時間は短く
ドプラ情報の収集にあまり時間を使えないのが実状。
超音波検査ではドプラを用いることによって
任意の部位の血流の有無、血流の多寡、流速、血流方向等
を知ることができる。
任意の部位の血流情報をリアルタイムに評価できるのは
超音波検査だけであり、その情報は診断に非常に有用である。
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はじめに
検診やドックでも
短時間で診断に有用な
情報の取得が可能
ドプラの種類と
特徴の把握
ドプラの適切な
設定・調整
病態別の血流や血行動態の把握
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超音波ドプラ法: カラードプラ法
・探触子に対する方向を色別に表示
・速度を彩度として表示 (平均血流速度に対して表示)
・送信波に対して角度が90度前後の血流は感度が悪い
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超音波ドプラ法: パワードプラ法
・血球の散乱強度を表示し、信号の強さは血球の量に比例する
・ドプラ信号スペクトルの面積に対して色づけされている
・表示は送信波と血流のなす角度に依存しない
・血流の方向性を知ることはできない
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その他の血流情報を得る方法
Advanced Dynamic FlowTM
(ADF)/Toshiba
B-flow/GE
Superb Micro-Vascular Imaging
(SMI)/Toshiba
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カラードプラとパワードプラの比較
カラードプラ パワードプラ
カラー表示 血流速度の平均値 流速の信号強度の積分値
ドプラ対象 血流の流速 血球数
長所 血流の方向が判別可能
流速に応じたカラー表示
低流速の検出が可能
角度依存性が少ない
短所 パワードプラに比し感度が低い
血流の方向が判断不可能
動きによるアーチファクトが
出やすい
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超音波ドプラ法: 連続波ドプラ法
• パルス波の送信・受信は別々の素子で行う
• ライン上全ての血流測定を行う (位置情報がない)
• Bモード、Dモードの同時表示は不可能
• 高速血流の測定に適する
• 周波数解析はFFT解析を用いてスペクトル表示される
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超音波ドプラ法: パルスドプラ法
• パルス波の送信・受信は同一の素子で行う
• Sumpling volume 内の血流測定を行う (位置情報がある)
• Bモード、Dモードの同時表示が可能
• 低速血流の測定に適する
• 周波数解析はFFT解析を用いてスペクトル表示される
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連続波ドプラとパルスドプラの比較
連続波ドプラ パルスドプラ
探触子素子 送信、受信素子はそれぞれ別 同一の素子で送信、受信を行う
位置情報 無:ライン上全ての流速表示 有:任意の点における流速評価
エイリアシング 無 有
計測可能な
血流速度 高速血流 低速血流
周波数解析 FFT FFT
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ドプラの感度調整: カラーゲインの調整
左画像 カラーゲインを上げ続けると雑音が表示される
右画像 カラーゲインを少し下げ雑音が表示されなくなった点
が最も感度よいカラーゲイン調整となる
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ドプラの感度調整: 流速レンジの調整
流速レンジは 左画像4.7cm/s 右画像 10.4cm/s
低流速評価:3~9cm/s 程度 腫瘤性病変等
中流速評価:8~20cm/s 程度 静脈、門脈血流等
高流速評価:15~50cm/s程度 動脈、shunt、狭窄等
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流速レンジ別の見え方の違い
① 6.3cm/s ② 19.6cm/s ③ 48.1cm/s
①では折り返し現象により門脈血流が
青(遠肝性)血流のようにも観察されている。
③では本来の血流の一部のみ評価されている。
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スラントの使用方法
スラントの傾け方によってドプラの色が変化する。
プローブに水平に近い角度で存在する脈管に対して
角度を作るために考案された照射方法である。
(リニアプローブに限った機能)
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スラントの使用方法
スラントの角度に合わせ斜めに超音波を照射することで
プローブに水平の脈管からドプラ効果を得ることができる。
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カラーエリアの大きさとフレームレート
カラーエリアが横に広がる場合
ドプラ計測のために照射する超音波の走査線が増加
フレームレート低下、リアルタイム性が悪くなる。
15fps 4fps 9fps
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カラーエリアの大きさとフレームレート
カラーエリアが縦に伸びる場合
視野の深い部分まで血流評価を行うために
繰り返し周波数(PRF)を下げる必要があり
これによってフレームレートが下がる。
12fps 9fps
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ドプラ周波数の調整
カラードプラの超音波ビームに対する周波数を
ドプラ周波数と呼ぶ。
Bモード画像用の超音波ビームと同様、
周波数が高い程分解能が良いが深部の減衰が強くなる。
CF : 3.0MHz CF : 1.8MHz
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ドプラ周波数の調整
肝腫瘤内部に血流信号は指摘できない。乏血性腫瘤?
ベースは脂肪肝で超音波の減衰は強いか・・・
47歳女性 肝腫瘤(+) CF : 3.6MHz
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ドプラ周波数の調整
流速レンジやゲインは同じ、ドプラ周波数だけを変えた。
肝腫瘤内部にspoke wheel pattern の血流を認めている。
47歳女性 肝腫瘤(+) CF : 2.0MHz
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ドプラ周波数の調整
ドプラ周波数の調整一つで腫瘤の血流の印象が大きく変わり、鑑別診断すら変わってしまう可能性がある。
CF : 2.0MHz CF : 3.6MHz
47歳 女性 FNH
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超音波ドプラ法: ドプラスペクトル解析
PI、RIのいずれも末梢血管抵抗を反映した指標
PI、RIともに角度補正に依存しない
Pulsatility Index (PI) = Vmean
Vmax - Vmin
Resistance Index (RI) = Vmax
Vmax - Vmin
最大血流速度 : Vmax
最小血流速度 : Vmin
平均血流速度 : Vmean
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角度補正の誤差について
角度補正が60°を超えると
1°の違いによる誤差が指数関数的に上昇する
実際の臨床現場では最低でも70°以下での計測が望ましい
(%)
角度に対する速度換算誤差
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90
角度補正が1°異なっていた場合の誤差
角度 (°)
(%)
角度に対する速度換算誤差
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Twinkling artifact
結石等の強い反射体の後方に出現するモザイク状のカラー帯をいう。 微小なものや辺縁が不整であるものから生じるランダムな反射を 装置が“方向もドプラ偏移も定まらない”信号として認識したもの。 Twinkling archifact が出現する可能性のあるもの ・肝内結石、腎結石、胆石、膵石等の結石 ・消化管ガス、胆道気腫等のガス像 結石の場合、組成成分によっては Twinkling artifact が 発生しない場合もある。
病態別 血流や血行動態の把握
検診、ドック等で出会う可能性のある
自覚症状に乏しい疾患を中心に
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鬱血肝
血液の循環不良に伴い肝臓に血流がうっ滞する病態をいい、 鬱血肝の多くは心不全による右房圧の上昇が原因である。 二次的に肝腫大、門脈圧亢進が引き起こされ 軽度の肝機能障害を伴うことがある。 長期的に鬱血肝が存在する例では、肝線維症や肝硬変に 移行する例もあり、心原性肝硬変と呼ばれる。 正常肝と比較して肝細胞癌を発症するリスクが高い。
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鬱血肝を疑う超音波所見
各肝静脈の拡張 パルスドプラによる肝静脈血流の逆流成分(+) 下大静脈拡張 下大静脈最大径≧20mm 下大静脈の呼吸性変化率 50%未満
呼吸性変化率 = 𝐼𝑉𝐶𝑒𝑥𝑝−𝐼𝑉𝐶𝑖𝑛𝑠
𝐼𝑉𝐶𝑒𝑥𝑝× 100 (%)
吸気時の下大静脈径: IVCins 呼気時の下大静脈径: IVCexp
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鬱血肝 症例1 30歳 男性
肝を観察していると、下大静脈、各肝静脈の拡張が目立っていることに気付き、鬱血肝の可能性を考慮できる。
ドプラを用いて肝静脈を観察すると 順行性と逆行性血流が交互に観察された。
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鬱血肝 症例1 30歳 男性
パルスドプラでも肝静脈血流の逆流が確認できる(画像左)。
門脈血流は鋸歯状変化を認め、 門脈圧亢進が疑われる(画像右)。
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鬱血肝 症例1 30歳 男性
吸気時のIVC径:27.0mm 呼気時のIVC径:25.8mm IVC最大径:27mm ≧ 20mm
呼吸性変化率 = 27.0−25.8
27.0× 100 = 4.4 %
以前より心筋症、二次性肺高血圧を指摘されており これによる鬱血肝と診断された。
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鬱血肝 症例2 39歳 男性
持続する原因不明の軽度肝機能障害精査にてUS施行。
下大静脈の著名な拡張を認め ドプラでは下大静脈血流の逆流も確認できた。
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鬱血肝 症例2 39歳 男性
門脈血流は吸汗性に保たれていたが、 著名な鋸歯状変化を伴っていた(画像左)。
胆嚢壁には複数の線状のむえこー領域を伴った肥厚が確認でき 門脈圧亢進に伴う浮腫性変化と考えた(画像右)。
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鬱血肝 症例2 39歳 男性
IVC最大径:23.5mm ≧ 20mm
呼吸性変化率 = 23.5−19.4
23.5× 100 = 17.4 %
鬱血肝を疑う所見であったため、更なる精査を施行 心筋症を指摘され、心筋症に伴う鬱血肝と診断された。
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症例3 30歳 男性
人間ドックの腹部超音波検査施行。 安静時下大静脈径は約26mmと拡張しているため 鬱血肝が疑われる???
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症例3 30歳 男性
息を吸う 胸郭の拡大 横隔膜の下降
胸腔内 陰圧の増大
腹腔内血流の 胸腔への移動 (腹部IVC 虚脱)
息をはく
胸郭の縮小 横隔膜の上昇
胸腔内 陽圧の増大
胸腔内圧上昇に伴う血流の鬱滞 (腹部IVC 拡張)
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症例3 30歳 男性 ストレートバック症候群
通常、背骨は前後方向に生理的湾曲を認めるが 生理的湾曲が乏しい形態異常をストレートバック症候群と呼ぶ。 循環障害や呼吸機能障害等の様々な症状を呈することがあり IVCの拡張を呈する疾患としても知られている。
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ナットクラッカー症候群(左腎静脈捕捉症候群)
腹部大動脈と情腸間膜動脈の間を走行する左腎静脈が この2つの動脈に挟まれることで狭小化し、 血流障害、左腎側のうっ滞による症候群をいう。 顕微鏡的血尿で発見されることが多く 肉眼的血尿をきたすことは稀である。 左腎静脈へと流れ込む性腺静脈うっ滞に伴い 骨盤腔内うっ血症候群や精策静脈瘤を形成することがある。 ナットクラッカー症候群の診断には 任意の部位での血流速度がわかる超音波検査が用いられる。
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ナットクラッカー症候群を疑う超音波所見
左腎静脈の圧較差が 3mmHG 以上で血尿の原因となりうる。 ・左腎静脈において 左腎側静脈の拡張、下大静脈側の静脈虚脱 ・左腎静脈狭窄部位での流速上昇 (1m/s 以上)
簡易ベルヌーイの式 P = 4V2
P: 圧較差(mmHG) V: 流速 (m/s)
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左腎静脈捕捉症候群 症例1 45歳 男性
左腎静脈は左腎側で7.4mm 下大静脈側で1.8mm
ドプラを用いていないが、左腎静脈の形態から 左腎静脈捕捉症候群を疑うべき超音波所見である。
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左腎静脈捕捉症候群 症例1 45歳 男性
狭窄部位の流速は 1.23m/s 計算される圧較差は 4 × 1.23 × 1.23 = 6 mmHG
左腎静脈捕捉症候群と診断された。
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左腎静脈捕捉症候群 症例2 16歳 男性
左腎静脈は左腎側で10.0mm 下大静脈側で1.5mm
狭窄部位の流速は 2.19m/s 計算される圧較差は 2.19× 2.19 × 4 = 19 mmHG
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左腎静脈捕捉症候群 症例2 16歳 男性
鼠径部から陰嚢にかけて痛みを訴えていたため 鼠径、精巣の観察も行った。
左陰嚢から鼠径管にかけて著名な精策静脈瘤を認めナットクラッカー現象の合併症と考えられた。
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腸回転異常症
腸回転異常症は胎生期に中腸(十二指腸から横行結腸の2/3程度まで)が腹腔内に還納される際の発生学的異常をいう。 通常270°回転する際の異常で以下の4つに分類される • 90°で回転が止まる non-rotation type • 180°で回転が止まる mal-rotation type • 逆回転を認める reversed rotation type • 傍十二指腸ヘルニアである paraduodenal type
本症の大半はnon-rotation type と mal-rotation type 無症候性のため、検診等によって初めて指摘される成人例も 少なくない。
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腸回転異常症を疑う超音波所見
・腸間膜動脈(SMA)、腸間膜静脈(SMV) の位置異常 (SMV rotation sign) (SMV rotation sign を認めない腸回転異常症も存在する) ・十二指腸水平部の走行異常 ・結腸の走行異常 ・回盲部の位置異常 中腸軸捻転 ・SMA周囲のSMVの渦巻き像 (whirlpool sign) 中腸軸捻転例が検診やドックに来ることはないでしょう・・・
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腸回転異常症 症例1 7歳 女児
学校検診で顕微鏡的血尿を指摘され、精査目的にて来院。 泌尿器系に明らかな異常所見は認めなかった。
通常SMAは腹部Aoの腹側を足側へ併走するように走行するが 本例ではSMAは分枝直後から大きく左側へ偏移している様子が 確認できた。
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腸回転異常症 症例1 7歳 女児
SMAとSMVの走行は足側で左右逆転しており、SMV rotation signを認めることから腸回転異常症と判断できた。
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腸回転異常症 症例1 7歳 女児
US後に施行された消化管造影にてTreitz靭帯の無形性、左側へ偏移した結腸を認め、腸回転異常症と診断された。 今後、虫垂炎等の消化管疾患の際には、病変部位が異なるため 腸回転異常を事前に把握しておくことは非常に重要である。
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腸回転異常症 症例2 63歳 男性
人間ドック施行 特に事前情報なし。
SMAとSMVの左右位置関係の異常を認めたため 腸回転異常症を疑う所見と考えた。 Bモード画像だけではSMV rotation sign の証明とはならない。
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腸回転異常症 症例2 63歳 男性
SMV rotation sign を疑った場合は パルスドプラ法を用いて 右側にSMA 左側にSMVが存在する 証明となる画像を保存する必要がある。
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腸回転異常症 症例3 6歳 男児
間欠的な軽度の腹痛を主訴に来院。
SMA はAo との分枝直後から右側へと著名な偏位を認めたが SMV との位置関係が逆転することはなく SMV rotation sign は(-) であった。
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腸回転異常症 症例3 6歳 男児
更に足側へと観察を進めると SMVは細く、IMVが太く観察されることに気が付いた。 SMVの灌流血流量が乏しいことが予測され、 消化管や消化管へ分布する脈管の奇形の可能性があると考えた。
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腸回転異常症 症例3 6歳 男児
更に足側へと観察を進めると IVCは左腎静脈よりも足側において Aoの左側を走行していた。 左下大静脈の所見であり、合併奇形の可能性がある。 SMV rotation sign (-) であったが、SMAの走行が正常ではなく 腸回転異常の可能性があると報告した。
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腸回転異常症 症例3 6歳 男児
上部消化管造影においてトライツ靱帯の形成異常が確認され 腸回転異常症と診断された。 間欠的腹痛も腸回転異常が原因と考えられた。
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下大静脈変異
• 下大静脈は胎生期に3つの静脈の吻合と退化によって形成されるが、この時の形成異常として重複下大静脈、左下大静脈、下大静脈欠損がある。
• 重複下大静脈や左下大静脈は単独で存在する場合は血行動態的に問題はなく治療の対象となることは少ないが、心房中隔欠損、心室中隔欠損、単心房、他脾症候群、内臓逆位等の奇形を合併する頻度が高い。
• 下大静脈欠損等の先天性静脈奇形や下大静脈の後天的な狭
窄や閉塞によって、大動脈周囲に奇静脈の拡張が太い血管として観察されることがある。奇静脈の拡張を認める例では奇静脈を介して上大静脈へと還流している可能性が高く、血行動態の把握が重要になる。
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下大静脈変異の分類
A. Normal type
正常タイプ
B. Double IVC
重複下大静脈
C. Left IVC
左下大静脈
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重複下大静脈 症例1 60歳 女性
臍レベルの横断像にて腹部大動脈の両側を下行する 脈管が確認できた。
椎骨の腹側にある脈管内のパルスドプラは拍動性血流であり 腹部大動脈であることがわかる。
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重複下大静脈 症例1 60歳 女性
初回であれば、心臓を含めた奇形の有無について 一度精密検査が施行されることが望ましい。
腹部大動脈の左右に観察されている脈管内のパルスドプラは 定常波血流であり、重複下大静脈と判断できる。
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重複下大静脈 症例2 55歳 女性
肝臓レベルの下大静脈は腹部大動脈の右側を走行していたが 左腎静脈より足側では右側に下大静脈は確認できなかった。
更に足側では左腎静脈から足側へ縦に走行する 脈管形態が確認できた。
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重複下大静脈 症例2 55歳 女性
拍動波形の確認できる腹部大動脈の左側に 定常波形を示す脈管形態を認め、左下大静脈と考えられる。
腹部静脈の形態を確認し、その他の奇形の有無について 評価する必要がある。
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下大静脈欠損 症例3 3歳 女児
肝の背側の一部に下大静脈を疑う構造物を認めたが 確認できる長さは20~25mm程度であり、連続性は確認できない。
また、下大静脈から椎骨周囲の背側へと蛇行する脈管形態が 確認でき、腰静脈や奇静脈への短絡血流を疑った。
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下大静脈欠損 症例3 3歳 女児
その後に施行された心エコー検査では 単心房、心室中隔欠損が確認され、多脾症候群と診断された。
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腹部大動脈瘤
• 対象となる動脈径が正常の1.5倍以上ある場合 動脈瘤と呼ぶ
• 正常径は胸部大動脈で3cm、腹部大動脈2cmである。 つまり、腹部大動脈径が3cm以上あれば腹部大動脈瘤である。 • 腹部大動脈瘤は多くが無症状であるため偶発発見例も多い。
普段から腹部超音波検査の際には腹部大動脈を 観察することが望ましい。 • 一般的に破裂の危険性が高い大動脈瘤は 大きさが50mm以上ある大動脈瘤、嚢状の大動脈瘤 1年で5mm以上径が増大する大動脈瘤とされている。
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動脈瘤の種類
真性瘤 :動脈壁の3層構造が保たれた状態で拡張した動脈瘤 仮性瘤 :血管壁が破綻し、血管外血腫による瘤状構造物 解離性瘤:血管外膜は保たれ、内膜、中膜が破綻している瘤 腹部大動脈瘤はほとんどが真性瘤である。
真性瘤 仮性瘤 解離性瘤
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腹部大動脈瘤
腹部大動脈瘤はほとんどが真性瘤で、多くは膨錘状瘤である。 膨錘状瘤で50mmを超える瘤や、年間5mm以上増大している瘤、 嚢状瘤は外科的治療の対象になる。
紡錘状瘤 嚢状瘤
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腹部大動脈瘤の評価方法
腹部大動脈の最大径が30mmを超えたら腹部大動脈瘤である。 腹部大動脈の検索は短軸、長軸の2方向で行う。 大動脈瘤の形態は長軸像の方が把握しやすい。 大動脈瘤の最大径の計測は短軸画像で行う。
長軸像 短軸像
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腹部大動脈瘤 症例1 75歳 男性
腹部大動脈の長軸像である。 明らかな大動脈瘤は指摘できない???
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腹部大動脈瘤 症例1 75歳 男性
壁在血栓を伴った腹部大動脈瘤の症例。 壁在血栓を大動脈外組織と判断すると、大動脈瘤を見逃す。 短軸像で観察することで大動脈壁の連続性を確認しやすい。
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腹部大動脈瘤 症例2 64歳 男性
腹部大動脈に膨錘状の瘤を疑う変化を認めた(画像左)。
短軸断面で最大径を計測すると 約29×27mmであった。 腹部大動脈の膨錘状拡張であり、腹部大動脈瘤とは呼ばない。
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腹部大動脈瘤 症例3 57歳 男性
肝機能障害精査目的で施行した腹部超音波検査で 膨錘状腹部大動脈瘤を指摘された。 長さ45mmにわたり径37×32mmの腹部大動脈瘤で 内部には壁在血栓を伴っていた。
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腹部大動脈瘤 症例3 57歳 男性
1年後 長さ45mm ⇒ 52mm 径37×32mm ⇒ 42×36mm と計測上、明らかな増大傾向を示していた。
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腹部大動脈瘤 症例3 57歳 男性
更に1年後 長さ45mm ⇒ 52mm ⇒ 61mm 径37×32mm ⇒ 42×36mm ⇒ 46×41mm に増大傾向で ステントグラフト挿入術が施行された。
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大動脈解離
大動脈壁が中膜レベルで二層に剥離し、大動脈内に真腔と偽腔の二腔が存在する病態を大動脈解離という。 多くは急性期で疼痛を伴うが、疼痛が乏しい慢性例も存在する。 心腔と偽腔の両方に血流の交通性があるものを偽腔開存型 偽腔に血流の交通性が無いものを偽腔閉塞型解離と呼ぶ。 解離の進展や偽腔閉塞により、その末梢側臓器の虚血に伴う合併症が問題になる。 解離範囲によりStanford 分類とDebakey 分類がある 上行大動脈に解離が存在する場合、緊急外科的治療の対象となる。
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大動脈解離の範囲による分類
Stanford 分類 A型: 上行Aoに解離のあるもの B型: 上行Aoに解離のないもの DeBakey 分類 Ⅰ型: 上行Aoに亀裂部位があり、Ao弓部より抹消に及ぶもの Ⅱ型: 上行Aoに解離が限局するもの Ⅲ型: 下行Aoに亀裂部位があるもの Ⅲa型: 腹部Aoに解離が及ばないもの Ⅲb型: 腹部大動脈に解離が及ぶもの
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大動脈解離の範囲による分類
stanford Type A Type B
DeBakey Type Ⅰ Type Ⅱ Type Ⅲa Type Ⅲb
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大動脈解離を疑う超音波所見
・大動脈内の二腔構造(flapの存在) ・大動脈分枝血管への解離の進展を認めることがある ・大動脈内部の二分化されたドプラ血流信号 (偽腔内は血流がある場合と閉塞している場合がある) 急性解離は疼痛を伴うが、痛みを伴わない慢性期解離もある。 上行大動脈の解離の可能性がある場合は 更なる精密検査や治療が必要になる。 上行大動脈の解離の可能性がない場合でも 偽腔から分枝している抹消動脈の虚血の可能性があり 精密検査が必要になる。
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大動脈解離 症例1 64歳 男性
血尿精査で施行された腹部超音波検査で大動脈解離を指摘 ドプラで大動脈腔内を二分するように Flap が観察されている。
Flap は腹部大動脈から胸部大動脈へと連続していたため 上行大動脈の解離の可能性があると考えた。
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大動脈解離 症例1 64歳 男性
セクタプローブで胸部大動脈を観察したところ 上行大動脈から大動脈弓にかけて解離が確認できた。
Stanford A型、Debakey Ⅰ型 大動脈解離と判断した。
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大動脈解離 症例2 54歳 男性
他院で施行した検診超音波検査にて解離を疑われ 精密検査目的にて当院へ紹介受信となった。 自覚症状なし。
腹部大動脈に Flap を認め、腹部大動脈解離と判断できる。 ドプラで二分する血流が確認でき、偽腔開存型である。
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大動脈解離 症例2 54歳 男性
左鎖骨下動脈の解離を認め、連続性を観察すると 左総頚動脈から左内頚動脈までの解離を認めた。
Stanford A型解離であったため、上行大動脈置換術が施行された。 胸部大動脈以外の解離は残存しているが、特に合併症もなく 経過観察を続けている。
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解離の真腔と偽腔の見分け方
1. 動脈内膜が残っている部分は真腔 2. 動脈性プラークがあれば真腔 3. 解離の無い部分から真腔の連続性を確認する
内膜が確認できる ので真腔
プラークが確認できる ので真腔
真腔