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ミャンマーの諸民族と諸言語 大阪大学大学院言語文化研究科教授 (かとう あつひこ) 1966 年栃木県生まれ。国立民族学博物館助手,大阪外国語大学助教授を経て,現在,大阪大学言語 文化研究科教授。専門は言語学。ミャンマーやタイで話されるカレン系諸言語の現地調査を行い, それらの文法や音声を研究している。並行して,ミャンマーの公用語であるビルマ語の研究を行う。 著書に『ニューエクスプレス ビルマ語』など。 1.はじめに ミャンマーは多民族国家である。ミャンマーの人口は,1983 年以降約 30 年ぶりに行わ れた 2014 年の国勢調査によれば,約 5,142 万人である。このうちビルマ族が約 70% を占 めると言われている。ミャンマー政府によると,ミャンマー国内に住む民族の数は,ビル マ族を含めて 135 種類となっている。政府が挙げる 135 民族の内訳は以下のとおりである Hla Min 2001: 107-11)。 1.Kachin, 2.Trone, 3.Dalaung, 4.Jinghpaw, 5.Gauri, 6.Hkahku, 7.Duleng, 8.Maru (Lawgore), 9.Rawang, 10.Lashi (La Chit), 11.Atsi, 12.Lisu, 13.Kayah, 14.Zayein, 15.Ka-Yun (Padaung), 16.Gheko, 17.Kebar, 18.Bre (Ka-Yaw), 19.Manu Manaw, 20.Yin Talai, 21.Yin Baw, 22.Kayin, 23.Kayinpyu, 24.Pa-Le-Chi, 25.Mon Kayin (Sarpyu), 26.Sgaw, 27.Ta-Lay-Pwa, 28.Paku, 29.Bwe, 30.Monnepwa, 31.Monpwa, 32.Shu (Pwo), 33.Chin, 34.Meithei (Kathe), 35.Saline, 36.Ka-Lin-Kaw (Lushay), 37.Khami, 38.Awa Khami, 39.Khawno, 40.Kaungso, 41.Kaung Saing Chin, 42.Kwelshin, 43.Kwangli (Sim), 44.Gunte (Lyente), 45.Gwete, 46.Ngorn, 47.Sizan, 48.Sentang, 49.Saing Zan, 50.Za-How, 51.Zotung, 52.Zo-pe, 53.Zo, 54.Zahnyet (Zannlet), 55.Tapong, 56.Tiddim (Hal- Dim), 57.Tay-Zan, 58.Taishon, 59.Thado, 60.Torr, 61.Dim, 62.Dai (Yindu), 63.Naga, 64.Tanghkul, 65.Malin, 66.Panun, 67.Magun, 68.Matu, 69.Miram (Mara), 70.Mi-er, 71.Mgan, 72.Lushei (Lushay), 73.Laymyo, 74.Lyente, 75.Lawhtu, 76.Lai, 77.Laizao, 78.Wakim (Mro), 79.Haulngo, 80.Anu, 81.Anun, 82.Oo-Pu, 83.Lhinbu, 84.Asho (Plain), 85.Rongtu, 86.Bamar, 87.Dawei, 88.Beik, 89.Yaw, 90.Yabein, 91.Kadu, 92.Ganan, 93.Salon, 94.Hpon, 95.Mon, 96.Rakhine, 97.Kamein, 98.Kwe Myi, 99.Daingnet, 100.Maramagyi, 101.Mro, 102.Thet, 103.Shan, 104.Yun (Lao), 105.Kwi, 106.Pyin, 107.Yao, 108.Danaw, 109.Pale, 110.En, 111.Son, 112.Khamu, 113.Kaw (Akha-E-Kaw), 114.Kokant, 115.Khamti Shan, 116.Hkun, 117.Taungyo, 118.Danu, 119.Palaung, 120.Man Zi, 121.Yin Kya, 122.Yin Net, 123.Shan Gale, 124.Shan Gyi, 125.Lahu, 126.Intha, 127. Eik-swair, 128.Pa-O, 129.Tai-Loi, 130.Tai-Lem, 131.Tai-Lon, 132.Tai-Lay, 133.Maingtha, 134. Maw Shan, 135.Wa 寄稿 8

寄稿 ミャンマーの諸民族と諸言語ミャンマーの諸民族と諸言語 大阪大学大学院言語文化研究科教授 加 藤 昌 彦 (かとう あつひこ)

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Page 1: 寄稿 ミャンマーの諸民族と諸言語ミャンマーの諸民族と諸言語 大阪大学大学院言語文化研究科教授 加 藤 昌 彦 (かとう あつひこ)

ミャンマーの諸民族と諸言語

大阪大学大学院言語文化研究科教授

加 藤 昌 彦

(かとう あつひこ)

1966 年栃木県生まれ。国立民族学博物館助手,大阪外国語大学助教授を経て,現在,大阪大学言語

文化研究科教授。専門は言語学。ミャンマーやタイで話されるカレン系諸言語の現地調査を行い,

それらの文法や音声を研究している。並行して,ミャンマーの公用語であるビルマ語の研究を行う。

著書に『ニューエクスプレス ビルマ語』など。

1.はじめに

 ミャンマーは多民族国家である。ミャンマーの人口は,1983 年以降約 30 年ぶりに行わ

れた 2014 年の国勢調査によれば,約 5,142 万人である。このうちビルマ族が約 70% を占

めると言われている。ミャンマー政府によると,ミャンマー国内に住む民族の数は,ビル

マ族を含めて 135 種類となっている。政府が挙げる 135 民族の内訳は以下のとおりである

(Hla Min 2001: 107-11)。

1.Kachin, 2.Trone, 3.Dalaung, 4.Jinghpaw, 5.Gauri, 6.Hkahku, 7.Duleng, 8.Maru (Lawgore),

9.Rawang, 10.Lashi (La Chit), 11.Atsi, 12.Lisu, 13.Kayah, 14.Zayein, 15.Ka-Yun (Padaung),

16.Gheko, 17.Kebar, 18.Bre (Ka-Yaw), 19.Manu Manaw, 20.Yin Talai, 21.Yin Baw, 22.Kayin,

23.Kayinpyu, 24.Pa-Le-Chi, 25.Mon Kayin (Sarpyu), 26.Sgaw, 27.Ta-Lay-Pwa, 28.Paku, 29.Bwe,

30.Monnepwa, 31.Monpwa, 32.Shu (Pwo), 33.Chin, 34.Meithei (Kathe), 35.Saline, 36.Ka-Lin-Kaw

(Lushay), 37.Khami, 38.Awa Khami, 39.Khawno, 40.Kaungso, 41.Kaung Saing Chin, 42.Kwelshin,

43.Kwangli (Sim), 44.Gunte (Lyente), 45.Gwete, 46.Ngorn, 47.Sizan, 48.Sentang, 49.Saing Zan,

50.Za-How, 51.Zotung, 52.Zo-pe, 53.Zo, 54.Zahnyet (Zannlet), 55.Tapong, 56.Tiddim (Hal-

Dim), 57.Tay-Zan, 58.Taishon, 59.Thado, 60.Torr, 61.Dim, 62.Dai (Yindu), 63.Naga, 64.Tanghkul,

65.Malin, 66.Panun, 67.Magun, 68.Matu, 69.Miram (Mara), 70.Mi-er, 71.Mgan, 72.Lushei

(Lushay), 73.Laymyo, 74.Lyente, 75.Lawhtu, 76.Lai, 77.Laizao, 78.Wakim (Mro), 79.Haulngo,

80.Anu, 81.Anun, 82.Oo-Pu, 83.Lhinbu, 84.Asho (Plain), 85.Rongtu, 86.Bamar, 87.Dawei,

88.Beik, 89.Yaw, 90.Yabein, 91.Kadu, 92.Ganan, 93.Salon, 94.Hpon, 95.Mon, 96.Rakhine,

97.Kamein, 98.Kwe Myi, 99.Daingnet, 100.Maramagyi, 101.Mro, 102.Thet, 103.Shan, 104.Yun

(Lao), 105.Kwi, 106.Pyin, 107.Yao, 108.Danaw, 109.Pale, 110.En, 111.Son, 112.Khamu, 113.Kaw

(Akha-E-Kaw), 114.Kokant, 115.Khamti Shan, 116.Hkun, 117.Taungyo, 118.Danu, 119.Palaung,

120.Man Zi, 121.Yin Kya, 122.Yin Net, 123.Shan Gale, 124.Shan Gyi, 125.Lahu, 126.Intha, 127.

Eik-swair, 128.Pa-O, 129.Tai-Loi, 130.Tai-Lem, 131.Tai-Lon, 132.Tai-Lay, 133.Maingtha, 134.

Maw Shan, 135.Wa

寄稿

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 このうち 86 番の Bamar が主要民族であるビルマ族に相当する。加えて,87 から 89 の

Dawei, Beik, Yaw は,言語的あるいは文化的に標準的なビルマ族とは異なるものの,民族

的アイデンティティーの観点から,ビルマ族に入れてよい。この4種以外はいわゆる少数

民族である。このリストは参考のためここに挙げたが,極めて不正確なものであり,見落

とし,重複,表記の不正確さ等々,様々な問題を抱えている。以下読み進めるにあたっては,

民族名の表記が本稿で用いるものと異なることが多いので,混乱を避けるため,無視して

いただいて構わない。なお,本稿では,ミャンマーという用語を国名を指す場合にのみ用

い,ビルマ族とビルマ語の呼称としては用いない。学術用語の混乱を避けるためである。

 少数民族のうち,人口の多い主要な少数民族である,カチン族(Kachin),カヤー族(Kayah,

Karenni),カレン族(Karen, Kayin),チン族(Chin),モン族(Mon),ラカイン族(Rakhine,

Arakan),シャン族(Shan)には州が与えられている(稿末の地図と写真を参照)。2014

年の国勢調査では民族ごとの人口内訳が明らかにされていないため,これらの民族がミャ

ンマー国内にどのくらい居住しているのかは不明である。参考として,Smith (1994)が

示したビルマ族と主要少数民族の推計人口を表 1 に載せておく。Smith が幅を持たせた数

値を示しているのは,信頼できる統計がなく,組織や機関によって主張する数値が大きく

異なるためである。

表 1:主要民族の人口(Smith 1994 による)

カチン族 50 万~ 150 万 ビルマ族 2,900 万

カヤー族 10 万~ 20 万 モン族 110 万~ 400 万

カレン族 265 万~ 700 万 ラカイン族 175 万~ 250 万

チン族 75 万~ 150 万 シャン族 220 万~ 400 万

 ミャンマーの発展を阻害してきた一因として,1948 年のイギリスからの独立以来,反

政府武力闘争を続けてきた民族が少なくないことが挙げられる。Buchanan (2016)も報告

するように,ミャンマーには何百もの民兵組織がある。そのうちの多くは少数民族によっ

て組織されたものである。民兵を抱える小数民族組織には,兵員数 1000 人を超える代表

的なものだけでも,カレン民族同盟(KNU),カチン独立機構(KIO),新モン州党(NMSP),

シャン州回復評議会(RCSS),シャン州進歩党(SSPP),ワ州連合党(UWSP)など,十

数組織がある。

 武力衝突が起こる背景には,言語や文化を異にする異民族同士が共通の意識を持って国

家統合を目指すことの難しさがある。この難しさを理解する一助とするため,本稿では,

ミャンマーに住む様々な民族の言語を取り巻く状況の一端を紹介したいと思う。同様のこ

とは加藤(2013)で述べたが,紙幅が足りず,意を尽くせなかったので,ここで改めて詳

しく論じる次第である。

9ICD NEWS 第69号(2016.12)

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2.主な少数民族言語

 ミャンマーで話される諸民族の言語は,系譜的に大きく,(1)チベット・ビルマ系

(Tibeto-Burman),(2)モン・クメール系(Mon-Khmer),(3)タイ・カダイ系(Tai-Kadai),

(4)マライ・ポリネシア系(Malayo-Polynesian),(5)ミャオ・ヤオ系(Miao-Yao),(6)イ

ンド・アーリア系(Indo-Aryan),の6系統に分けることができる。この分類に基づくと,

表1に示した主要民族の言語の系統は,表2に示したとおりである。

表 2:主要民族の言語系統

カチン族 チベット・ビルマ系 ビルマ族 チベット・ビルマ系

カヤー族 チベット・ビルマ系 モン族 モン・クメール系

カレン族 チベット・ビルマ系 ラカイン族 チベット・ビルマ系

チン族 チベット・ビルマ系 シャン族 タイ・カダイ系

 主要民族にはチベット・ビルマ系の言語を話す民族が多いことが分かる。しかし,後で

見るとおり,同じ系統であってもタイプ的にまったく異なる場合があることに注意された

い。例えば,ビルマ族が話すビルマ語は,日本語と同じ SOV 型の言語であるが,カレン

族やカヤー族の話すカレン系言語は,英語と同様の SVO 型の言語である。

 以下に,6つの言語系統の概略を記す。

 チベット・ビルマ系諸言語は,チベットや雲南省,四川省,貴州省といった中国南西部,

ネパール,ブータン,インドのアッサム州周辺,バングラデシュ,ミャンマー,ラオス,

タイ北部,ベトナム北部といった地域に分布する。代表的な言語として,チベット語,ビ

ルマ語,ネワール語などが挙げられる。これらは中国語諸方言と共にシナ・チベット語族

(Sino-Tibetan family)を成す。したがって,中国語はこれらの言語にとって親戚筋の言語

である。ミャンマーには非常に多くのチベット・ビルマ系諸言語が分布し,その数はおそ

らく百を下らない。チベット・ビルマ系言語は,カレン諸語など一部を除き,SOV型である。

 モン・クメール系諸言語は,雲南省などの中国南部,ベトナム,カンボジア,ラオス,

ミャンマー,タイといった地域に分布し,インド東部に分布するムンダ諸語と併せてアウ

ストロアジア語族(Austroasiatic family)を形成する。代表的な言語として,ベトナム語,

クメール語などがある。マレーシアの山地に分布するアスリー諸語(いわゆるネグリトに

よって話される。)やニコバル諸語もここに属する。10 世紀以前,東南アジア大陸部は,

この系統の言語を話す人たちが人口の点で他より優勢だったと思われる。ミャンマーで話

されるモン・クメール系言語には,モン語,パラウン語,ワ語といった言語がある。モン・

クメール系言語の多くは SVO 型であるが,ワ語のように VSO 型語順を取るものもある。

 タイ・カダイ系諸言語は,タイ,ラオス,ベトナム北部,中国南部,ミャンマー北部,

インドのアッサム州周辺に分布する。代表的な言語には,タイ語,ラオス語,中国のチワ

ン語などがある。以前,この言語群は,シナ・チベット語族に属すとする考え方が有力だ

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ったが,現在ではアウストロネシア語族との強い関連を示唆する研究が多く出ている。ミ

ャンマーでは,シャン族の話すシャン語がこの系統に属する。タイ・カダイ系言語の多く

は SVO 型であるが,一部に SOV 型語順を示すものもある。

 マライ・ポリネシア系諸言語は,台湾原住民の諸言語と共にアウストロネシア語族

(Austronesian family)を成す。アウストロネシア系の言語は,西はマダガスカル,東はイ

ースター島,北は台湾やハワイ,南はニュージーランドに至る広大な地域の島々に分布す

る。彼らの祖先は紀元前数千年頃には中国南部に住んでいたと考えられ,そこから台湾を

経て,巧みな航海術を利用して居住域を広げた。マレー語(インドネシア語を含む。),タ

ガログ語,ハワイ語,マオリ語などは皆,この語族に属する。ミャンマーでは,南部の

メルギー諸島(Mergui Archipelago)に住むモーケン族がこの系統の言語を話す。マライ・

ポリネシア系言語は,VSO,VOS,SVO といった語順を呈する。モーケン語は SVO 型で

ある。

 ミャオ・ヤオ系諸言語(Miao-Yao あるいは Hmong-Mien)は,中国南部からベトナム北

部,ラオス北部,タイ北部にかけて住むミャオ族およびヤオ族の話す言語である。以前は

シナ・チベット語族に属すると考えられることもあったが,現在では別扱いされることが

増えている。ミャンマーでもシャン州に少数のミャオ族が住む。ミャオ族はモン族(Hmong)

とも呼ばれるが,モン・クメール系のモン族(Mon)とはまったく異なる民族なので,注

意されたい。ミャオ・ヤオ系諸言語は一般的に SVO 型である。

 インド・アーリア系の言語は,インド,バングラデシュ,パキスタンなどで話される言

語で,インド・ヨーロッパ語族の一部を成す。ミャンマーでは,バングラデシュ国境近く

で話されるダインネッ語(Daingnet)がこの系統に属す。また,ミャンマー政府が土着の

民族としては認めていないロヒンギャ族の言語はベンガル語なので,この系統に属す。イ

ンド・アーリア系の言語は一般的に SOV 型である。

 次に,表2に示した主要民族の言語が具体的にどのような特徴を持っているのかを,ビ

ルマ,カチン,カヤー,カレン,チン,モン,ラカイン,シャンの順で見ていく。

① ビルマ族

 多くの場合,ビルマ族の第一言語はビルマ語(Burmese)である。ビルマ語はミャン

マー連邦共和国の公用語として憲法に規定されている。この言語は,チベット・ビルマ

諸語のロロ・ビルマ語支(Lolo-Burmese branch)に属する。⑴に例文を示す。等号は,

言語学で言うところの倚辞(英語で clitic と言う。いわゆる付属語)が自立語についた

ときに,その境界を表すために用いているが,ここでは特に気にする必要はない。「RL」

と逐語訳を付した文末の形式は,文の表す事態が現実であることを表すもので,実用的

には過去または現在を表すと理解しておけばよい。

11ICD NEWS 第69号(2016.12)

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⑴ t̪ù(=ɡâ) ʔăphè=nɛ̂ ʔèiɴ=hmà ŋá(=ɡò) sá=dɛ̀

彼 = は 父 = と 家 = で 魚 = を 食べる =RL

「彼は父と家で魚を食べた」

 括弧でくくった =ɡâ は日本語の「は」や「が」に相当する機能を持つ助詞で,なくて

もよい。=ɡò は日本語の「を」や「へ」に相当する助詞で,これもなくてもよい。逐語

訳を見ると分かるように,ビルマ語は日本語と同様,「主語-目的語-動詞」の順で単

語を並べる,いわゆる SOV 型の言語である。また,ヨーロッパの言語によく見られる

格変化や動詞の活用といった語形変化もないので,文法の点では日本人には習得しやす

い言語であると言ってよい。

 母音の上に付けたアクセント記号のようなものは,声調を表す。声調というのは,音

程の高低やうねりで単語の意味を区別する音声現象であり,中国語の四声もこれである。

チベット・ビルマ系言語は声調を持つことが多い。タイ・カダイ系やミャオ・ヤオ系も

同様である。なお,日本語にも例えば東京方言の「橋」と「箸」の区別のように,ピッ

チの違いで単語の意味が区別される現象があるが,これは単語のどこでピッチの落下が

起きるかという場所の問題として解釈できる現象なので,どの音程を用いるかというこ

とが重要な声調とは別の現象である(早田 1999)。ただし,日本語にも声調を持つ方言

が近畿地方や四国などに分布しており,例えば京阪神の方言が声調による単語の区別を

行う。大阪の方言で「気(きい)」は高く平らに発音され,「木(きい)」は上昇調で発

音されるが,これは声調による単語の区別と捉えることができる。なお,本稿で実例を

紹介する言語は,モン語を除き,すべて声調を持つ。

 ビルマ語の特徴の一つとして,基礎的な単語が1音節から成ることが多いということ

が挙げられる。いわゆる単音節言語という特徴である。⑴の例文では,「彼」「家」「魚」「食

べる」といった単語が単音節である。複音節からなる単語は,複合語であったり,接辞

による派生語であったりする場合が多い。この特徴は,他のチベット・ビルマ系言語や

タイ・カダイ系言語,ミャオ・ヤオ系言語にも共通して多く見られる。

 ところで,少数民族の言語がビルマ語といかに違うかを示すため,私が 20 年来研究

している東部ポー・カレン語の文を⑵に挙げておく。⑴と同じ意味の文であるが,個々

の単語がまったく異なるだけでなく,語順も違っていることが分かるだろう。

⑵ ʔəwê ʔáɴ já dē pàpâ lə́ ɣéiɴ phə̀ɴ [東部ポー・カレン語]

彼 食べる 魚 と 父 で 家 中

「彼は父と家で魚を食べた」

② カチン族

 実は,カチン族の話す言語は様々である。Kurabe (2015)が述べるとおり,いわゆる

カチン族が話す言語には,少なくとも,ジンポー語(Jinghpaw),ツァイワ語(Zaiwa;

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Atsi とも呼ばれる),ロンウォー語(Lhaovo; Maru とも呼ばれる),ラチ語(Lacid; Lashi

とも呼ばれる),ゴーチャン語(Ngochang),ラワン語(Rawang),リス語(Lisu)がある。

ただし,3.の①で述べるように,ラワン語とリス語を話す人々をカチン族に含めるこ

とにはいささかの問題がある。

 このうちジンポー語は,カチン社会の中で共通語的な役割を果たしている。ジンポー

語はチベット・ビルマ系言語の中で,様々な言語の特徴を併せ持つ言語であると指摘さ

れてきた(西田 1960, Benedict 1972)。しかし最近では,同じチベット・ビルマ系言語の

中のルイ系諸言語(Luish)との系統的近さが指摘されている(Matisoff 2013)。ツァイ

ワ語とロンウォー語とラチ語とゴーチャン語は,いずれもチベット・ビルマ系ロロ・ビ

ルマ語支の言語であり,かつ,その中のビルマ語群(Burmish)と呼ばれる,ビルマ語

と極めて近い関係にある言語群に属する。ラワン語は,チベット・ビルマ系のヌン語支

(Nungish)に属する。リス語は,チベット・ビルマ系ロロ・ビルマ語支ロロ語群に属す

る。同じチベット・ビルマ系であっても,系統が少しずつ違うことに注意されたい。こ

の複雑な言語状況については,また後で述べる。

 カチン社会の共通語であるジンポー語の例を⑶に挙げる。例は Kurabe (2016: 6)から

取った。逐語訳は分かりやすいように改変してある。DECL と逐語訳が付された形式は,

叙述文であることを標示するマーカーである。

⑶ ɕi ɡùy (phéʔ) ɡəyàt ʔay

彼 犬 を 叩く DECL

「彼は犬を叩いた」

 逐語訳を見ると分かるように,この言語もビルマ語と同様,SOV 型の言語である。

しかしながら,この言語にはビルマ語や日本語に見られない現象がある。それは,人称

一致の現象である。Kurabe (2016: 417)から取った⑷の例を見られたい。

⑷ ŋay naŋ phéʔ tsóʔràʔ ŋà ŋ́ŋ-ʔay

私 あなた を 愛する ている 1sg-DECL

「私はあなたを愛している」

 叙述文マーカーの前に,「1sg」という逐語訳を付けた形式が現れているのが分かるだ

ろう。これは,愛情の主体が「私」であるということを表している。すなわち,ヨーロ

ッパの言語によくあるような,動詞述語が名詞と人称一致する現象がジンポー語には見

られるのである。ただしこの現象は,ミャンマーのジンポー語では廃れてきているとい

う(Kurabe 2016: 323)。

 次に,ジンポー語とは別の言語として,ツァイワ語の例を挙げておこう。⑸は藪(1982:

89)に挙げられている例である。「終わる」が「食べる」の前に現れることを除けば,

13ICD NEWS 第69号(2016.12)

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日本語と同様の語順を取ることが分かるだろう。

⑸ tsaŋ pân tso pêluʔ

飯 終わる 食べる しまったか

「ご飯を食べ終わりましたか」

 ロンウォー語の例も挙げておこう。澤田(2013: 8)から例を取る。各音節の右肩に付

された L や F は声調を表す。文末の「IRL」と逐語訳が付された形式は,文が表す事態

が非現実であることを表す。

⑹ yoŋL tsoF myoLmyoL tsoL-neŋH

彼 食物 たくさん 食べる -IRL

「彼はご飯をたくさん食べるだろう」

 この言語も SOV 型の語順を取る。先述したとおり,ツァイワ語もロンウォー語もビ

ルマ語群に属する。比較言語学の手法を使って単語を比較すると,ビルマ語と非常に近

い関係にあることが分かる。一方のジンポー語は同じチベット・ビルマ系とはいえ,ビ

ルマ語に近いとは言えない。したがって,ツァイワ語とロンウォー語はジンポー語と系

譜的にも異なる,まったく別の言語である。文法的にも,ツァイワ語とロンウォー語に

は,ジンポー語にあるような人称一致の現象はない。

 もうひとつ,ラワン語も見ておこう。大西(2015)によると,ラワン語の動詞には屈

折(いわゆる活用)がある。大西が挙げている例を次に示す(大西 2015: 226)。逐語訳「A」

が付された形式は動作主マーカーで,「NPST」は非過去を表す。

⑺ àng-í ngà ēsàːtv̀ng-ē

彼 -A 私 殺す -NPST

「彼は私を殺す」

 ここで,「殺す」を表す動詞は ē と ng で挟まれており,この動詞形は,二人称や三人

称から一人称へ動作が向かうときに使われる形である。これも広い意味での人称一致と

言ってよいだろう。

③ カヤー族

 カヤー族の話すカヤー語(Kayah)は,後述するスゴー・カレン語やポー・カレン語

と同じで,チベット・ビルマ諸語の中のカレン語支(Karenic)に属する。次の例文は,

Solnit (1997: 155)から取ったものである。

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⑻ sárá ʔiswá phúcè li

教師 教える 子供 文字

「先生が子供に書き方を教える」

 例文から見て取れるように,この言語は SVO 型である。主語や目的語などの基本的

な文法関係は語順によって示される。語形変化はなく,声調はある。なお,カヤー族は

英語でカレンニー(Karenni)とも呼ばれるが,これは「赤カレン」を意味するビルマ

語に由来する。

④ カレン族

 筆者は,カレン系言語の研究を専門として,長年研究してきた。そうした経験の中で,

カレン族の内部事情の複雑さを観察してきた。加藤(1997)や加藤(2011)に述べたと

おり,その複雑さの原因のひとつは言語にある。カレン族にもカチン族と同じように,

別々の言語を話す複数の集団がある。狭義のカレン族だけでも,スゴー・カレン語(Sgaw

Karen),東部ポー・カレン語(Eastern Pwo Karen),西部ポー・カレン語(Western Pwo

Karen)の3種類があり,互いに通じない。狭義と言ったのは,より広い意味で使われ

ることもあるからであり,それについては3.の③で述べる。それぞれの言語の例を筆

者が収集したデータから取り,⑼から⑾に挙げる。同じ意味の文だが,少しずつ単語や

発音が違っていることがお分かりいただけると思う。

⑼ jə shá təkwíθâ khɛ́ʔī [スゴー・カレン語]

私 売る バナナ 今

「私は今,バナナを売っている」

⑽ jə ʔáɴchâ θàkwìθá ʔəkhâjò [東部ポー・カレン語]

私 売る バナナ 今

「私は今,バナナを売っている」

⑾ jə ʔàɴshà θaʔklɯ́θà ɓɔ́jɔ́ [西部ポー・カレン語]

私 売る バナナ 今

「私は今,バナナを売っている」

 カヤー語と同じように,これら3言語は,チベット・ビルマ語族カレン語支に属する。

文法もカヤー語と同様で,SVO 型であり,単語は変化せず,主語や目的語などの基本

的な文法関係は語順によって示される。また,声調を持つ。これはカレン系の言語に共

通する特徴である。チベット・ビルマ系言語の多くは SOV 型言語であり,SVO 型であ

るカレン系言語はその点で非常に特殊である。おそらく,カレン系の言語も昔は SOV

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型の語順を取っていた。そして,1500 年から 2000 年ほど前のある時期に,カレン系言

語の祖先がモン・クメール系の言語と接触することによって,語順を変えたのではない

かと私は考える。たぶんそのモン・クメール系言語はモン語(Mon)であろう。

 カレン族の分布は,カレン州内部だけにとどまらない。エヤワディ河のデルタ地帯に

も非常に多くのカレン族が住んでいる。スゴー・カレン語はカレン州の方言とデルタ地

帯の方言の間で意思疎通が可能であるが,ポー・カレン語は両地域の方言が互いに通じ

ないため,私は,カレン州周辺の方言を東部ポー・カレン語,デルタ地帯の方言を西部

ポー・カレン語と呼んで区別している。

⑤ チン族

 チン語は,チベット・ビルマ系のクキ・チン語支(Kuki-Chin)に属する。チン語にも,

何十種類もの,互いに通じない非常に多くの変種がある。チン諸語は,北方チン,中央

チン,南部チンなどに分かれる。

 チン諸語はビルマ語と同様に SOV 型であるが,先述したジンポー語と同様に,人称

一致を持つ場合がある。Otsuka (2015: 130)が挙げているティディム・チン語(Tiddim

Chin)の例を次に示す。音節末尾の右肩に付された数字は声調を表している。

⑿ ken3 taŋ1mâi2 thum2 lei1 =iŋ3

私は キュウリ 三 買う =1SG.REAL

「私はキュウリを3つ買った」

 「1SG.REAL」と逐語訳が付されている形式は,動詞の後に付いて,事態が現実であ

ることを示すと共に,主語が1人称であることを表す。チベット・ビルマ語学では,こ

のように動詞に人称を表す形式がつく現象を,代名詞化(pronominalization)と呼んで

いる。

 もうひとつ,ハカ・ライ語(Hakha Lai)の例を見てみよう。⒀は,Peterson (2003:

415)が挙げている例である。

⒀ tsakay-pool ka-va-kaap-hnaa-laay

トラ - たち 1SG- 行く - 撃つ -3PL- だろう

「私はトラたちを撃ちに行く」

 この言語では,人称一致が主語だけではなく目的語にも生じる。「1SG」という逐語

訳をつけた ka- は主語が1人称単数であることを表し,「3PL」という逐語訳をつけた

-hnaa は目的語が3人称複数であることを表している。ちなみに,「行く」という逐語訳

をつけた -va- は,動詞ではなく,行くという移動を表す接頭辞である。

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⑥ モン族

 モン族(Mon)は,古くから現在のミャンマーやタイに住み,ドヴァーラヴァティ,

ハリプンチャイ,タトン,ペグー(ハンターワディー)などの王朝を建てたことから分

かるように,かつては強大な力を持っていた。文化的な影響力も強く,例えばビルマ文

字は,モン文字を援用することによって 11 世紀頃から成立していったものだと考えら

れる。また,ビルマ語にはモン語の影響と見られる様々な現象が観察される。

 モン族の話すモン語(Mon)は,モン・クメール系の言語である。⒁に,Jenny (2014:

586)から取った例文を示す。

⒁ mìʔ ràn kwaɲ kɒ kon

母 買う 菓子 ため 子

「母は子供のために菓子を買った」

 見てのとおり,この言語は SVO 型の言語である。モン・クメール諸語には SVO 型の

言語が多い。この言語では,カレン系言語と同様に,主語や目的語などの基本的な文法

関係が語順によって示される。名詞や動詞の変化もない。上の例文で,「母」や「買う」

を表す単語の母音にアクセント記号がついているのは,声調ではなく,弛緩母音を表す。

息を漏らすようにして発音される。この記号がついていない母音は,通常の発声法で発

音される。モン・クメール系の言語の多くは,母音にこのような発音の区別を持ってお

り,これをモン・クメール語学ではレジスター(register)と呼んでいる。

 先ほど,カレン系言語が SVO 型になったのはモン語との接触の結果だろうと述べた。

大雑把にはカレン系言語とモン語の文法は似ているけれども,細部では異なる。例えば

カレン系言語では「私の家」というとき,「私+家」の順で単語を並べるが,モン語では「家

+私」の順で並べる。

⑦ ラカイン族

 ラカイン族の話す言語は,ビルマ語の方言である。このいわゆるラカイン語も一様

ではなく,一般的に,西へ行けば行くほど語彙や発音の面で標準ビルマ語(ヤンゴン =

マンダレー方言)とは離れたものになる。シットゥエ(Sittwe)などのバングラデシュ

国境に近い西部地域の方言は標準ビルマ語話者が聴いて即座には意味が理解できないほ

どの違いがあるが,東部のエヤワディ管区に近い地域の方言は,標準ビルマ語との間で

相互理解に支障を生じないほど似ている。

 下掲⒂は,Okell (1995: 41)から取った西部地域の方言の例である。表記は私が用い

ているものに改めてある。

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⒂ nauʔ shò=ɡè, dè seiʔdɛʔ=câuɴ wèdănà phraiʔ=sɔ̀=tî ɕî=rè

後 言う = なら この 精神 = ため 苦痛 起きる = の =PL ある =RL

「それから,この精神状態のため苦痛が起きることもある」

 Okell が同論文で示した,これに対応する標準ビルマ語は⒃のとおりである。これも

表記は私が用いているものに改めた。

⒃ nauʔ shò=yìɴ, dì seiʔdaʔ=câuɴ wèdănà phyiʔ=tà=dè ɕî=dɛ̀

後 言う = なら この 精神 = ため 苦痛 起きる = の =PL ある =RL

「それから,この精神状態のため苦痛が起きることもある」

 おそらく,標準ビルマ語の話し手の多くは,⒂を聴いて文の意味を理解することがで

きるだろう。一般的に,標準ビルマ語話者であっても,ラカイン語は慣れれば分かると

言われている。ビルマ語諸方言と民族との関係については,後述する。

⑧ シャン族

 シャン語はタイ・カダイ系の言語である。タイ王国のタイ語と系譜的に極めて近い関

係にあるため,シャン族はタイ語を聴いて理解できることが少なくない。下に新谷(2001:

17)からシャン語の例文を引用する。数字は声調のピッチを表す。

⒄ mä33hü55 khaw13 te13 maa55 lü33 may53

あさって 彼ら (未来) 来る 切る 木

「あさって彼らは木を切りに来る」

 シャン語も,カレン系言語やモン語と同じように SVO 型の言語で,主語や目的語な

どの基本的な文法関係は語順によって示される。名詞や動詞の語形変化もない。シャン

族は 14 世紀にアヴァ王朝を建てた民族であり,ミャンマー史において重要な役割を果

たしている。

 ここまで,主要民族の言語の特徴をざっと見てきた。ラカイン族のようにビルマ語の方

言を話す民族もいるけれども,一般的に言って,少数民族の言語はビルマ語とはまったく

異なる言語であることが分かると思う。さらに次の節では,ミャンマーの諸民族の言語と

民族との間に見られる複雑な関係を紹介したい。

3.民族と言語の関係

 私たち日本に住む者は,民族と言語が一対一の関係にあると思いがちである。例えば,

ビルマ族はビルマ語を話し,逆に,ビルマ語を話す者はビルマ族であるといった関係であ

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る。しかし,ミャンマーに住む民族と言語の関係を調べていくと,民族と言語はそのよう

な単純な対応を示さないことが分かる。以下では3つの事例を紹介したい。

① カチン族と言語の関係

 2.の②で述べたとおり,カチン族の話す言語には少なくとも,ジンポー語,ツ

ァイワ語,ロンウォー語,ラチ語,ゴーチャン語,ラワン語,リス語がある(Kurabe

2015)。すなわち,カチン族の民族と言語の関係は一対多の関係にあることになり,図

1のように図示できる。ラワン語とリス語を括弧でくくったのは,ラワン語を話す人々

とリス語を話す人々は,カチン社会に部分的にのみ組み込まれていて,カチン族として

のアイデンティティーを持たない人もいるからである。したがって,ラワンやリスの人々

をカチン族と言い切ることには問題がある。

カチン族

ジンポー語

ツァイワ語

ロンウォー語

ラチ語

ゴーチャン語

(ラワン語)

(リス語)

図1:カチン族と諸言語

 カチン族のすべての言語がチベット・ビルマ諸語に属するのだが,ツァイワ語,ロン

ウォー語,ラチ語,ゴーチャン語の4言語が近い関係にあるのを除けば,他は近いとは

言えない。異なる言語を話すグループが同じ民族的アイデンティティーを持つ背景には,

カチン族の社会構造が大きな要因としてある。カチン族に含まれる言語グループの人々

は,カチン社会における父系制の氏族制度(patrineal clanship)に組み込まれているの

である(Leach 1954)。それぞれの言語を話す人々は,カチン社会の中で,ある程度独

立した個々の民族意識を持っている。しかし,そのような個別の民族意識を持ちながら

も,カチン族としての民族意識も持っている。

 カチン独特の社会状況を背景とし,カチン族の言語は重層的に使用されている。この

ことについて,藪(1994: 96)は,ツァイワの言語生活を例に取って次のように述べて

いる。文中のアツィ,マル,ラシはそれぞれ,ツァイワ,ロンウォー,ラチと同義である。

アツィ族は,家族やその地域社会では,当然,アツィ語を使う生活をする。マル =

ラシ = アツィ系の言語の話し手は,多くがそのなかの有力言語マル語を話す。そ

して,マル = ラシ = アツィ系の人々は,たいてい,ジンポー語も流暢に話す。

 これを読むと,ミャンマーの少数民族の言語生活が単純ではないことがよく分かるで

あろう。

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② ビルマ族,ラカイン族,ダヌ族,タウンヨー族,インダー族と言語の関係

 2.の⑦で,ラカイン族の話す言語がビルマ語の方言であることを述べた。ビルマ語

の方言には様々なものがあり,一般的には,標準語と見なされるヤンゴン = マンダレ

ー方言の分布域から離れれば離れるほど,音韻や語彙の乖離が激しくなる。諸方言は様々

な違いを有しながらも連続体をなしている。ラカイン族の言語はそのような連続体の一

部として位置づけられるものである。したがって,ビルマ語という一言語を,ビルマ族

とラカイン族が共有しているとみなすことができ,ここには民族と言語の間に多対一の

関係を見出すことができる。さらに,ビルマ語の方言を話す民族には,シャン州に住む

ダヌ族(Danu)やタウンヨー族(Taungyo)やインダー(Intha)のような民族もいる。

よって民族と言語の関係は図2のように図示できる。

ビルマ族

ラカイン族 ビルマ語

ダヌ族

タウンヨー族

インダー族

図2:ビルマ語と諸民族

 ラカイン族がビルマ族と別個の民族意識を有する要因として,かつてラカイン族がビ

ルマ族とは異なる王朝を持っていたことがある。また,内陸に住むビルマ族と違って海

岸沿いに居住すること,そしてその居住地域がインド世界に近いことも,異なる民族意

識の醸成に役立っただろう。ダヌ族,タウンヨー族,インダー族といったシャン州に住

むビルマ系民族の場合は,シャン文化の影響を強く受けていることと,山岳地帯のため

平地ビルマとの関係が薄いという居住地域の特性が異なる民族意識の形成を促したと考

えられる。

 実は,ビルマ語方言の話者は,ミャンマー国内だけに分布するのではない。ラカイン

族はバングラデシュにも分布し,同じくバングラデシュには,マルマ族(Marma)とい

う民族が住んでおり,この民族の話す言語はラカイン族の言語と多くの共通点を持つ,

ビルマ語の一方言である。例えば,藤原(2003: 296)からマルマ語の例を引いてみよう。

⒅ ŋa ə-laʔ=nǎ thə_mɔ́ŋ cá re

私 手 = で ご飯 食べる RL

「私は手でご飯を食べる」

 これに対応するビルマ語は次のとおりである。表記法の違いがあるので分かりにくい

かもしれないが,非常によく似ている。

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⒆ ŋà lɛʔ=nɛ̂ thămíɴ sá=dɛ̀

私 手 = で ご飯 食べる =RL

「私は手でご飯を食べる」

 すなわち図2には,マルマ族というミャンマー国外に住む民族を加えることも可能な

のである。

③ カレン系諸民族と言語の関係

 カレン族と言語の間の関係も一筋縄では理解できない(加藤 1997, 2011 を参照)。私

がカレンの人々とつき合う中で感じてきたのは,様々に揺れ動く民族意識である。狭義

のカレン族には,スゴー・カレンとポー・カレンがある。彼らは,それぞれに,スゴー・

カレン族としての意識,ポー・カレン族としての意識を持っている。さらにポー・カレ

ンは東西で言語が通じないため,東西で別の民族意識を持つことも多い。しかし,スゴ

ーとポーが同じ民族としての強い意識も持っているのは確かであり,それは例えば,各

地でカレン新年の祭を合同で開催していることにも現れている。スゴーとポーが違う言

語を話すにもかかわらず同じ民族意識を持つ背景には,文化的な類似性がある。彼らの

民族衣装にはまったく違いがない。また,祖霊を呼び出す儀礼や自分の魂を呼び戻す儀

礼など,共通する祭祀がある。カレン州,モン州からエヤワディ・デルタに至る広大な

地域においてスゴーとポーの居住村落は近接していることが多いのだが,これは,この

ような文化的類似性を背景として,何百年にもわたる民族移動の歴史においても互いを

仲間として意識してきた結果であると私は考えている。村によっては,スゴーとポー

が混在し,トークリバン・ポー・カレン(Htoklibang Pwo Karen)のように,言語的に

もスゴー・カレン語とポー・カレン語が混交している現象が見られること(Kato 2009)

はこのことの証左になろう。

 そしてもうひとつ,同じ民族意識を持つ要因として否定できないのは,ビルマ族に対

する対抗意識である。カレン族は,ビルマ独立期から,自治権の獲得ないしは独立を求

めて民族運動を続けてきた(池田 2000 参照)。私には,強大な民族であるビルマ族に対

抗するための団結が,同じ民族としての意識を強化しているように見えることがある。

 いずれにせよ,スゴー・カレンとポー・カレンがひとつの民族としての意識を持って

いることは明白な事実である。したがって,民族と言語の関係は,カレン族というひと

つの民族にスゴー・カレン語とポー・カレン語という複数の言語が対応する一対多の関

係にあると言える。

 ところがややこしいことに,視野をもう少し広げると,カレン語支の言語を話す民族

と言語の関係は多対多の関係にあることが分かる。

 カレン語支の一言語であるゲーバー語(Geba)の話し手は,自分達がゲーバー族で

あるという民族意識を持っている。しかしその一方で,居住地域の近さから来る親密性

などにより,彼らはカヤー族としての意識も持っているようである。また,言語の類似

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性などの要因により,カレン族としての意識も持っているようなのである。ただ,ゲー

バー族のカヤー族やカレン族に対する同族意識は,スゴー・カレンとポー・カレンの間

に見られる同族意識ほど強くなく,希薄であるように感じる。

 加えて,2.の③で見たカヤー族は,対ビルマ意識および言語上の類似性を基に,希

薄ながらも,自分達がカレン族であるとの意識を持つことがあるようである。

 これを図示すると図3のようになる。破線で示したのは,同族意識が薄いことを示し

ている。例えばカレン族とゲーバー語を結ぶ破線は,ゲーバー語の話し手が希薄ながら

もカレン族としての意識を持つことを意味する。

スゴー・カレン語

カレン族

東西ポー・カレン語

ゲーバー族 ゲーバー語

カヤー族 カヤー語

図3: カレン系民族と言語

 このように,カレン語支の言語を話す民族と言語の関係は多対多の複雑な関係にあ

ると言える。20 世紀の初頭からカレン語支の言語の種類が多いことは知られていたが,

最近の研究により,カレン語支には数十言語があることが分かってきた(Shintani 2003

など参照)。本稿ではカレン,ゲーバー,カヤーという3つの民族のみ取り上げたが,

実際には,もっと複雑な状況を呈することが予想される。

 以上,本節では,ミャンマーの民族と言語の関係について見てきた。ミャンマーにおい

ては,民族と言語が一対一で対応する事例はむしろ少数派なのではないかと私は思う。モ

ン族(Mon)とモン語の関係は,モン語が話せずビルマ語だけを話すという最近増えてき

たケースを除けば,一対一に近いと言えるかもしれない。しかし,多くの場合,民族と言

語の関係はもっと入り組んでいるのである。

4.まとめ

 本稿では,ミャンマーに住む主要民族の言語の特徴及び,民族と言語の関係について述

べてきた。ミャンマーの少数民族諸言語がビルマ語とはまったく異なる言語であり,言語

のタイプも様々であること,そして,民族と言語の対応関係は一対一の単純な構図を示さ

ないことが分かっていただけたと思う。

 本稿では紙幅の都合上,文字について扱うことができなかった。実は,少数民族の言語

使用を捉えるとき,文字という要素をひとつ加えると,もっと複雑な状況が浮かび上が

ってくるのである。例えば,東部ポー・カレン語を例に取ると,カレン州の州都パアン

市(Hpa-an)の周辺では,この言語を表記するのに3つの文字が使われている。一つはモ

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ン文字を起源とし古い歴史を持つ仏教ポー・カレン文字,二つ目はアメリカ人宣教師が作

ったキリスト教ポー・カレン文字,三つ目はレーケー教という弥勒菩薩を信仰する宗教の

信者が使うレーケー文字である。パアン市周辺のポー・カレンの人々は,自分の信仰する

宗教に基づいて,使用する文字を決める。このような状況においては,使用する文字が自

分の宗教的アイデンティティーの発露となり,宗教対立の火種になり得るのである。しか

も,カレン族においては,スゴー・カレンに比較的キリスト教徒が多く,ポー・カレンに

は仏教徒が多いという傾向があるため,宗教対立が民族グループ間の対立にもつながりか

ねない。1994 年,幹部にキリスト教徒の多いカレン民族同盟(KNU)から民主カレン仏

教徒軍(DKBA)が分離したとき,キリスト教徒対仏教徒という対立の裏には,スゴー対

ポーという民族対立の様相も見え隠れしていた。このような状況においては,文字の使用

にさえ慎重にならざるを得ないのである。カレン族の文字使用状況の詳細については,加

藤(2006, 2011)を参照していただきたい。

 言語は,個々人の民族的アイデンティティを形成する非常に大きな要因である。そうで

あるからこそ,一国の中にこれほど多様な言語が話されている状況は,国家の統合にとっ

て大きな阻害要因となることが容易に予想できる。しかも,ミャンマーにおいては,単に

様々な少数民族言語が話されているというだけでなく,ひとつの少数民族,例えばカレン

族という一民族の内部に複雑な言語状況がある。カレン族の反政府武装闘争は決して一枚

岩では進んでこなかった。この要因の一つとして,カレン族の中に様々な言語グループが

存在し,強固な仲間意識を築けないという事情があると私は感じる。一民族の中でさえ団

結が困難であるなら,それを束ねた国家に平和な未来はあるのだろうか。それがミャンマ

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pp. 73-110, 東京 : 弘文堂 .

地図:ミャンマーの少数民族州

25ICD NEWS 第69号(2016.12)

Page 19: 寄稿 ミャンマーの諸民族と諸言語ミャンマーの諸民族と諸言語 大阪大学大学院言語文化研究科教授 加 藤 昌 彦 (かとう あつひこ)

【参考】ミャンマーの主要民族 (出典 : Hla Min 2001, pp. 7-10)

カチン族 カヤー族 カレン族

チン族 ビルマ族 モン族

ラカイン族 シャン族

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