19
資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 〜カリキュラム・マネジメントに向けて〜 第 17 回 変わる高校教育 このコーナーでは高校教育の変化について、高校 での取り組みや工夫と、それらの背景にある社会の変 化などを踏まえて紹介していく。 高校生の資質・能力を評価する方法には、さまざ まなものがある。教科の学習内容の達成度を測定す るテストや模擬試験は、以前から多くの高校で導入さ れてきた。それらに加え、「高校生のための学びの基 礎診断」の運用開始に向け共通必履修科目(義務教 育段階含む)を中心としたテストの検討が進んでいる。 評価する資質・能力も、個別の教科の知識や技能 だけではない。例えば、定期考査などで思考力を問 う問題や合教科型の問題を出題したり、ルーブリック やポートフォリオを導入したりして、学力の3要素を 多面的に評価する高校もある。民間テストも、河合塾 の「学びみらい PASS」など、学力の3要素を多面的 に測定するアセスメントテストが開発されている。 他にも、家庭学習時間などの学習状況や授業の理 解度などを把握するさまざまな調査が行われている。 そして高校には、生徒の資質・能力や学習状況を 把握した結果に基づいて、課題を発見し成果を確認 したり、授業を工夫したり、カリキュラムを充実・改 善したり、教育目標を見直したりといった、PDCA サ イクルを回すことが求められている。次期学習指導要 領でも、「PDCA サイクル」を要素に含む「カリキュ ラム・マネジメント」がキーワードとされており、そ うした取り組みの重要性が強調されている。<コラム で紹介するように、さまざまな実践が見られる一方、 難しさを感じる高校の先生もいるようだ。 そこで今回は、「資質・能力の多面的な評価に基づ いた教育改善」をテーマとする。 Part.1では、次期学習指導要領において「カリキ ュラム・マネジメント」および「PDCA サイクル」の 必要性が強調される背景や、各学校で取り組むに当 たってどこから始めるとよいか、大阪教育大学の田村 知子先生にうかがった。Part.2では、4校の事例を 紹介する。 CONTENTS Part 1 概説 大阪教育大学 田村知子教授· ······················ ·p30 学習成果や学び方に焦点が当たる中で、カリキュラ ム・マネジメントの確立が求められる いまあるカリキュラムの検証から PDCA サイクルを回す 授業での生徒の反応などをメモに残すことがカリキュ ラム・マネジメントの第一歩 改善が必要な点を見つけるだけでなく良い点を継承す ることも大切 Part 2 高校の取り組み 広島県立府中高等学校· ·································· ·p34 3つの「学びと成長のストーリー」と「ICE モデル」で、 授業改善の方向性を共有 定期考査において「活用問題」、総合的な学習の時間で 「合教科活用問題」に取り組む データに基づいて教育活動を評価・検証し、工夫・改 善を図る 石川県立松任高等学校· ·································· ·p38 これまでの取り組みを整理しながら基礎学力定着に向 けた PDCA サイクルを構築 各教科の「学力スタンダード」で目標や指導方法を共有 民間テストを全員受験として学習のペースをつかむ 全国学力・学習状況調査に基づいた、小・中学校の PDCA サイクルも参考に 京都府立亀岡高等学校· ·································· ·p41 「模試活用スキーム」作成と模試の見直しを中心に PDCA サイクルの確立をめざす 「学びみらい PASS」を導入しジェネリックスキルを評価 PDCA サイクルの構築により教員の意識が変わり、 合格実績が躍進。学校ビジョンも明確に 伊勢崎市立四ツ葉学園中等教育学校· ·········· ·p44 「学びみらい PASS」で生徒の資質・能力を多面的に把握 ワークショップ型の研修を通じて「生徒に身につけさ せたい資質・能力」を全校の教員で共有 研修で全校の教員が課題を共有し、PDCAサイクル やカリキュラムデザインの必要性を認識 Kawaijuku Guideline 2018.45 28

第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

資質・能力の多面的な評価に基づいた教育改善〜カリキュラム・マネジメントに向けて〜

第17回

変わる高校教育

 このコーナーでは高校教育の変化について、高校での取り組みや工夫と、それらの背景にある社会の変化などを踏まえて紹介していく。 高校生の資質・能力を評価する方法には、さまざまなものがある。教科の学習内容の達成度を測定するテストや模擬試験は、以前から多くの高校で導入されてきた。それらに加え、「高校生のための学びの基礎診断」の運用開始に向け共通必履修科目(義務教育段階含む)を中心としたテストの検討が進んでいる。 評価する資質・能力も、個別の教科の知識や技能だけではない。例えば、定期考査などで思考力を問う問題や合教科型の問題を出題したり、ルーブリックやポートフォリオを導入したりして、学力の3要素を多面的に評価する高校もある。民間テストも、河合塾の「学びみらいPASS」など、学力の3要素を多面的に測定するアセスメントテストが開発されている。 他にも、家庭学習時間などの学習状況や授業の理解度などを把握するさまざまな調査が行われている。 そして高校には、生徒の資質・能力や学習状況を把握した結果に基づいて、課題を発見し成果を確認したり、授業を工夫したり、カリキュラムを充実・改善したり、教育目標を見直したりといった、PDCAサイクルを回すことが求められている。次期学習指導要領でも、「PDCAサイクル」を要素に含む「カリキュラム・マネジメント」がキーワードとされており、そうした取り組みの重要性が強調されている。<コラム>で紹介するように、さまざまな実践が見られる一方、難しさを感じる高校の先生もいるようだ。 そこで今回は、「資質・能力の多面的な評価に基づいた教育改善」をテーマとする。 Part.1では、次期学習指導要領において「カリキュラム・マネジメント」および「PDCAサイクル」の必要性が強調される背景や、各学校で取り組むに当たってどこから始めるとよいか、大阪教育大学の田村知子先生にうかがった。Part.2では、4校の事例を紹介する。

CONTENTS Part 1 概説

●大阪教育大学 田村知子教授······················· ·p30❖学習成果や学び方に焦点が当たる中で、カリキュラム・マネジメントの確立が求められる

❖いまあるカリキュラムの検証からPDCAサイクルを回す❖授業での生徒の反応などをメモに残すことがカリキュラム・マネジメントの第一歩

❖改善が必要な点を見つけるだけでなく良い点を継承することも大切

Part 2 高校の取り組み

●広島県立府中高等学校··································· ·p34❖3つの「学びと成長のストーリー」と「ICEモデル」で、授業改善の方向性を共有

❖定期考査において「活用問題」、総合的な学習の時間で「合教科活用問題」に取り組む❖データに基づいて教育活動を評価・検証し、工夫・改善を図る

●石川県立松任高等学校··································· ·p38❖これまでの取り組みを整理しながら基礎学力定着に向けたPDCAサイクルを構築

❖各教科の「学力スタンダード」で目標や指導方法を共有❖民間テストを全員受験として学習のペースをつかむ❖全国学力・学習状況調査に基づいた、小・中学校のPDCAサイクルも参考に

●京都府立亀岡高等学校··································· ·p41❖「模試活用スキーム」作成と模試の見直しを中心にPDCAサイクルの確立をめざす

❖「学びみらいPASS」を導入しジェネリックスキルを評価❖PDCAサイクルの構築により教員の意識が変わり、合格実績が躍進。学校ビジョンも明確に

●伊勢崎市立四ツ葉学園中等教育学校··········· ·p44❖「学びみらいPASS」で生徒の資質・能力を多面的に把握❖ワークショップ型の研修を通じて「生徒に身につけさせたい資質・能力」を全校の教員で共有

❖研修で全校の教員が課題を共有し、PDCAサイクルやカリキュラムデザインの必要性を認識

Kawaijuku Guideline 2018.4・528

Page 2: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

資質・能力や学習状況の把握結果の活用

コ ラ ム

Q 生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授業やカリキュラムの改善、教育目標の見直しなどに活用していますか?

●小テストの結果等を授業にフィードバックしています。できていない単元の復習や、手ごたえのある時は更なる応用問題等を解説するようにしています。●記述力が弱いと自己評価する生徒が増えつつあるため、数学のテストで客観型の問題のボリュームを減らし誘導型の記述式問題や誘導なしの大問も取り入れた。●各種テストの結果は複数の角度から分析をして、同一コースの同一科目を担当している教員に提供している。自分の授業に関しては、分析結果を見た結果として、生徒全員に伝えること、成績上位層に伝えたいこと、成績下位層に伝えたいことなど対象を分けて話をしたりする。また、授業の中で授業内容の密度を変えることを通して伝える。また、小テストや定期考査などを通して、求められているものが何かを示すようにしている。●模試分析を各教科行い、他校より弱い分野を定期テストに出す(範囲外でも)などしている。生徒には事前に連絡する。●模試の結果を返却するときに学習実態調査を行い、その結果を各学年クラスにフィードバックし、過回比較・年度比較の結果から集会等で注意を促している。●1週間分の家庭学習時間を年に3回調査し、前年度との比較や前回からの比較、平日・土日などの取り組み時間について分析し、学年集会でどのようにすべきか指導している。●生徒全員に手帳を持たせ、毎日の学習時間と内容を記録させ、学級担任が週に1度集約している。学習状況について、校内での成績層別に時間と取り組み内容について分析を行い、成績下位者には適切な学習課題を継続して与えることで学習習慣の定着を図り、上位者には応用的な内容の課題を提示している。

Q 生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を教育改善に活用するにあたって、どのような課題がありますか?

◆生徒の現状を的確に把握するという部分が甘い。思い込みで指導している側面があるので、エビデンスに基づいて指導をすることが良いと思う。◆調査結果を全体に共有する環境にまだないので、職場内で結果をもとに議論できるような雰囲気を作っていくことが課題である。◆模試の結果が戻ってきてから、分析して補習などをしていくのに、少し時間がかかってしまう。◆教員の目線合わせをする時間を、模試直後がいいのか、結果が返ってきてからがいいのかがいつも悩む。結果が返ってきてからだと、生徒の感覚がなくなっている場合がある。◆改善に向けた取り組みに対する教師間の温度差が大きく、取り組みが進んでいるクラスと手立てが不十分なクラスに差が生じていると感じます。◆改善した先の目標をどうするのか、模索中である。目標が、国公立大学の合格者数を増やすことと、難関大学をめざす生徒を増やすことでは、改善の方法が変わってくる。校内での合意形成が難しいです。◆生徒の学力傾向が短期的変化なのか長期的変化なのかを見極めないと、全体システム変更を行うことは難しい。◆教科で進度予定表を作成しているが、一度作ってしまうと、表の通りに進めることが優先になってしまい、「把握した結果を活用する」ことが難しく、融通が利かなくなること。◆生徒の学力・理解力に格差があり、授業内で対応しようとすると進度が遅れる。放課後等に補習をしようとしても、他教科の補習や進学補習とバッティングする。◆生徒一人ひとりの主体的・探究的な学習の成果が数字では反映されないので教員の自己満足に陥りやすい。◆改善しても、その成果がわかりづらいため、教員が達成感を得にくい。

 ガイドライン編集部では、今回のテーマに関連して、読者の先生方を対象に河合塾の入試情報サイトKei-Net(http://www.keinet.ne.jp/)上でweb アンケートを実施(2018年2月~3月。回答数262件)。生徒の資質・能力や学習状況を把握し、授業やカリキュラムの改善にどのように活用しているか、また活用時にどのような課題があるか聞いた。具体的なコメントを紹介する。

変わる高校教育 第17回 資質・能力の多面的な評価に基づいた教育改善〜カリキュラム・マネジメントに向けて〜

Kawaijuku Guideline 2018.4・5 29

Page 3: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

カリキュラム・マネジメントは教育目標を達成するための手法の1つ

 中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等

学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要

な方策等について」(2016年12月21日)では、資質・能

力を育成するために、「何ができるようになるか」「何を

学ぶか」「どのように学ぶか」「子ども1人ひとりの発達

をどのように支援するか」「何が身についたか」「実施す

るために何が必要か」の6点に関わる事項を各学校が組

み立て、実施し、不断の見直しを図ることを求めている。

こうした活動を「カリキュラム・マネジメント」と言い、

次期学習指導要領のキーワードの1つとなっている。

 カリキュラム・マネジメントについて、田村教授は「教

育目標を達成するため、カリキュラムを手段として用い

る、目標達成に近づいていくためのマネジメントの手法

の1つです。児童生徒にどのような力を身につけさせ、ど

のような学習経験を積ませて卒業させるかという、学校

の経営戦略として考えるべきもので、特色ある学校づく

りのための中心的な手段です」とその重要性を指摘する。

 なお、中教審答申では、カリキュラム・マネジメント

には、「教育内容の組織的な配列」「PDCAサイクルの確

立」「人的・物的資源の配分」という3つの側面があると

されている<図1>。

 これらのうち、「PDCAサイクル」はもともと製造業な

どものづくりの場面で、生産過程などを改善しながら品

質向上を図るために用いられてきた概念・管理手法であ

る。これを学校教育に当てはめると、学校の中核的プロ

ダクトであるカリキュラムを改善しながら、授業や行事

を効果的・効率的で適切な内容にしていくことが、カリ

キュラム・マネジメントにおけるPDCAサイクルである

と考えられる。

学習成果や学び方に焦点が当てられる中でカリキュラム・マネジメントの確立が求められる

 カリキュラム・マネジメントが重視される背景につい

て、田村教授は「高度経済成長期の日本では、政治的な

背景等もあり、文部省(当時)と学校現場の協働が思う

ように進まず、結果として教育の中央集権化が進みまし

た。いわば、日本では文部省がカリキュラムを作り、学

校はカリキュラムのユーザーであった時代が続きまし

た」と、過去の状況を説明する。

 さらに、産業化・近代化が進む中で、学校で教える内

容も増え、いかに効率的に教えていくかという点に重き

が置かれていた。この時期には、カリキュラムをマネジ

メントするツールは教科書であり、多くの事項を教科書

に記載し、学校や教員はその内容を教えることが重視さ

れ、学校や現場の教員がカリキュラムを開発することは

一般的ではなかった。

 しかし、1970年代になると変化が現れ始める。「日本

では『教育課程経営』研究を端緒として、誰がカリキュ

ラムを創ることが最も適切なのかという議論がなされ、そ

の結果、子どもの反応や学びの実態に最も近い学校こそ

がカリキュラム開発の主体としてふさわしいという考え

方が示されました。その後、1976年に研究開発学校制度

が設けられ、学校でカリキュラムを開発し、実証した上

 新しい学習指導要領では、各学校に教育課程を軸にして学校教育の改善・充実の好循環を生み出す「カリキュラム・マネジメント」を確立することが求められている。カリキュラム・マネジメントの概念や求められるようになった背景に加え、カリキュラム・マネジメントの側面の1つとして挙げられている「PDCAサイクル」を各学校でどのように構築していけばよいか、中央教育審議会専門委員も務め、カリキュラム・マネジメントに関する著書も多数ある大阪教育大学の田村知子教授にうかがった。

Par t 1 概説

大阪教育大学 田村知子 教授

高等学校教育におけるPDCAサイクルの構築~高校でのカリキュラム・マネジメントは生徒の学びのマネジメントにもつながる~

田村知子 教授

Kawaijuku Guideline 2018.4・530

Page 4: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

のサイクルには、数年単位、年間、学期、単元や行事、研

究授業などのレベルがあるが、ここでは年間のPDCAサ

イクルと授業や単元のPDCAサイクルを例に見ていくこ

ととする。

 <図2>はカリキュラム・マネジメントの全体像、<図3>は年間のPDCAサイクルと単元のPDCAサイクルの

関係を図示したものである。例えば特定の教科の年間計

画から見れば、各単元は実施(D)に該当し、年間計画

および各単元のそれぞれでPDCAサイクルを回すことが

大切となる。

 「『PDCA』というと、『A』でサイクルが終わってしま

うイメージを持たれがちです。実際、私が教務主任を対

象に行った調査では、『立案した改善策が計画につながら

ない』という悩みが一定数見られました。こうしたこと

から、評価結果を確実に次の計画につなげるため、評価

から始めて、『A』と『P』を連続させるマネジメント・

サイクル『CAP-D(キャップドゥ)』を提唱しています」

(田村教授)

 この意義について田村教授は、「カリキュラムは毎年ゼ

ロから作るものではありません。前年度までのカリキュ

ラムとその検証結果を踏まえて、良かったことや効果が

あったことは継承し、不足していたことを修正していき

ます。今あるカリキュラムをもとに調整を加えていくこ

とが現実的かつ効率的です。また、評価と改善は年度末

に行い、計画は年度開始時に行う学校が多いと思います

が、特に教員に異動があった場合などは、年間指導計画

などに反映できないことがあります。カリキュラム改善

<図1>カリキュラム・マネジメントの3つの側面で、学習指導要領に反映される仕組みが作られることに

なるのです。しかし、研究開発学校でのカリキュラム開

発が進められる一方で、一般の学校では必ずしもそうは

なりませんでした。日本の教員は、教科書を使って授業

をする上手さは、当時も今も世界でトップクラスです。

しかし、教える内容や順番などを考え、編成していくこ

とについては、教員の経験などが不足していたと言える

でしょう」(田村教授)

 さらに、平成11(1999)年に改訂された学習指導要

領では「総合的な学習の時間」が新設された。この改訂

の意義について、田村教授は「学校が主体となってカリ

キュラムを開発するための条件が整えられました」と説

明する。総合的な学習の時間を新設することで、すべて

の学校が児童・生徒や地域の実態に合わせたカリキュラ

ムを創り上げていくという期待も含まれていたのだ。

 2000年代に入ると、経済社会の変化は急速かつ複雑で

予測困難となってきたことなどから、各教科で何を教え

るかという内容は重要ではあるものの、その内容を学ぶ

ことを通じて、「何ができるようになるか」「学んだ後に、

どのような力が身についたのか」という、学習成果に焦

点化されるようになってきた。こうした流れの中で、次

期学習指導要領でも、「どのような学びを実現するか」(主

体的・対話的で深い学び等)にも注目されるようになっ

てきた。

 「また、キャリア教育など教科横断的な課題の重要性が

高まる一方で、授業時数には限りがあるため、既存の領

域や総合的な学習の時間の中で、複数の課題や教科を関

連付けながら同時に学ぶなどの工夫をしなければ、教育

内容の増加に対応できなくなってきました。かつてのよ

うに教科書がほとんど唯一のマネジメントのツールとし

て機能することは難しくなり、教科書を使って、どのよ

うな学びを教室の中で実現していくのか、先生方に期待

される比重が高まったと言えます。しかし、教室で授業

を担う先生方が、納得して主体的に取り組まなければ効

果的な学習を実現することは難しい。そこにマネジメン

トが求められる理由があります」(田村教授)

カリキュラムはゼロから作るものではないいまあるカリキュラムの検証からPDCAサイクルを回す

 では、各学校におけるカリキュラム・マネジメントは、

どのように進めていけばよいのだろうか。マネジメント

各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。

教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連の PDCA サイクルを確立すること。

3教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。

(中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」(2016 年 12 月 21 日)より)

変わる高校教育 第17回 資質・能力の多面的な評価に基づいた教育改善〜カリキュラム・マネジメントに向けて〜

Kawaijuku Guideline 2018.4・5 31

Page 5: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

を進めるためには、例えば年度が始まって半年後の10月

頃に評価・改善と計画を行うことも考えられます」と、評

価をしながら改善策を考え、評価からあまり時間を空け

ずに計画を作成することで連続性と効率性を高めていく

ことを提唱している。

授業後に生徒の反応などをメモすることがカリキュラム・マネジメントの第一歩

 評価から始めるマネジメント・サイクル「CAP-D」は、

現場の負担を軽減することにもつながる。

 「評価は年度末にまとめて行うのではなく、できるだけ

小まめに行うことが大切です。実施した後、記憶の新し

いうちにすぐに評価を行うことが、年度末になってまと

めて思い出そうとするよりも、結果として効率的です。

例えば、単元が終わった時に、生徒への課題設定の難易

度の適切性や生徒の反応などをメモしておくことは1つ

の評価と言えます。先生方は日々忙しく、授業の反省点

などは書き留めておかないと、そのままとなってしまう

こともあるでしょう。反省点や来年度の見直し案などを

その場でメモしておくだけでも、その授業のCAP-Dの一

部になるのです。これは授業以外の行事などでも同じで

す」(田村教授)

 ここで大切なのは、カリキュラム・マネジメントのた

めに新たな仕事を増やすのではなく、現在行っているこ

とを生かすことである。田村教授は、「例えば、授業研究

を活用することが考えられます。授

業研究では1時間の授業だけについ

て検討を行う場合が多いと思います。

それを、その授業がこの先のどのよ

うな学びにつながるのか、授業で既

に教えた知識とどのように結びつけ

ているのかといった、その授業が年

間計画や教科全体の中で持つ意味、

さらには他教科との関連や学校全体

でめざしている方向性との関連など

からも検討することで、カリキュラ

ムの評価・改善につなげる機会とす

ることができます」と、既に行われ

ている取り組みを、視点を変えて見

直すことでカリキュラム・マネジメ

ントの意味をもたせることができる

という。 また「C」や「P」のためのツールも、新しいものを取

り入れるのではなく、これまで使用していたものを含め、

各学校で使いやすいツールを用いればよい。「ある私立の

中高一貫校では、シラバスをカリキュラム・マネジメン

トのツールとして使用しています。各単元、あるいは教

科全体における『本質的な問い』を設定し、それをシラ

バスに記載するとともに、授業を『本質的な問い』は

あったかという観点で検討することを通じて、授業や教

科ひいては学校全体の評価にまでつなげています。さら

に、実際に授業を進めながら、当初の予定と異なる工夫

をした場合には、シラバスに書き込み『実施済みシラバ

ス』を作成し、これを基に、次年度のシラバスを作成し

ています」(田村教授)

改善が必要な点を見つけるだけでなく良い点を継承することも大切

 こうしたマネジメント・サイクル「CAP-D」を進める

際に考慮する点について、田村教授は「先生方はいつも

改善をしなくてはならないと考えがちですが、ぜひとも

良かった点に注目してください」と、不足していること

を改善するだけでなく、良い点を継承することも大切だ

と話す。

 また、評価のために生徒の実態把握を行う場合、定量

的なデータに基づくことは必要としつつ、先生方が授業

等を通じて生徒について感じたことなど質的なデータも

<図2>カリキュラム・マネジメント・モデル

(田村知子他 編著『カリキュラムマネジメントハンドブック』(ぎょうせい、2016)p37 より抜粋)

Kawaijuku Guideline 2018.4・532

Page 6: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

<図3>カリキュラム・マネジメントのサイクル活用することを勧めている。

 「その際、授業での働きかけ

とそれに対する反応の手応え

などを評価に生かすことは大

切です。専門家である教員が

行う主観的な評価には客観的

なデータとは異なる価値があ

りますが、独断の評価になる

ことは避ける必要があります。

そのためには、先生方が話し

合い、主観をお互いにすり合

わせることによって、より確

からしさを高めて、判断して

いくことが重要です。これは

質的な評価だけでなく、定量

的なデータを扱うときも同様

です。先生方は多忙ですが、

要諦として「高校の場合、文理選択や履修科目選択など、

生徒自身が何を学ぶのかを選択する、広い意味で自分の

カリキュラムを決める当事者でもあります。そのため、

生徒も学校全体がめざしている方向やどのような教育が

提供されるのかを理解して、それらが自分の将来像とど

のように関わるのかを見通して、自分の学びをマネジメ

ントできるよう、先生方が情報を提供することが必要と

なるでしょう」(田村教授)

 その上で、田村教授は「授業や行事などが自分にとっ

てどのような意味があったのかを生徒が振り返るために、

先生と生徒が話し合う機会を持つことが大切です。生徒

の声を直接聞く場を作り、そこで得られた生徒の生の声

は言わば質的なデータです。それを教員が聞くことも

『CAP-D』の『C(評価)』に当たります」と生徒自身が

考 える機 会 を作 ることとマ ネ ジ メ ン ト・ サ イ ク ル

「CAP-D」との関係について整理する。

 最後に田村教授は「生徒自身が学校での選択の場面で、

それが自分の進路選択にどんな意味があるかを考えて選

択し、大学受験や就職の際、ポートフォリオなどを用い

て高校での自分の学びの総体について説明できることが

大切です。それはAO入試や推薦入試、就職時の面接試

験でも必要です」とマネジメント・サイクルが進路選択

にもつながっていることを説き、高校におけるカリキュ

ラム・マネジメントの意義を示して話を結んだ。

評価の局面では生徒たちの姿を話し合い、情報交換する

ことで良い点や課題を把握して共有を進めていただきた

いと思います」(田村教授)

 カリキュラム改善については、学校全体の教育目標と

の整合性を図ることが必要と指摘する。「先生方一人ひと

りが、評価・改善に関わることで、カリキュラムのユー

ザーからカリキュラムの開発者になっていくことが求め

られます。現場の先生にはその力が十分にあると私は信

頼しています。ただし、学校組織として、めざすべき方

向性や方針などがありますから、組織的なカリキュラム

との関わりの中で、各先生方が工夫しながら取り組むこ

とが必要になります」(田村教授)

 関連して、教科横断的な視点についても、田村教授は

「高校の場合、教科の専門性が高く、教科と教科を直接的

につなぐことは難しく、無理につなごうとするとその教

科で必ず学ばなければいけない本質等が疎かになるおそ

れがあります。そのため、教科で学んだことを総合的な

学習の時間で生かしたり、総合的な学習の時間で芽生え

た疑問などを教科でさらに追究したりといった往還を通

じてつないでいくことが良いでしょう」と助言する。

生徒自身が自らの学びをマネジメントできるように教員が情報提供を

 さらに、高校におけるカリキュラム・マネジメントの

(田村知子他 編著『カリキュラムマネジメントハンドブック』(ぎょうせい、2016)p76 より抜粋)

変わる高校教育 第17回 資質・能力の多面的な評価に基づいた教育改善〜カリキュラム・マネジメントに向けて〜

Kawaijuku Guideline 2018.4・5 33

Page 7: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

實藤法道 先生中居寛美 先生村上悦雄 校長 中津英吾 教頭

Par t 2 高校の取り組み

広島県立府中高等学校

3つの「学びと成長のストーリー」と「ICEモデル」を教員・生徒で共有し深い学びに繋がる授業改善を推進

 広島県では、2014年12月に「広島版『学びの変革』アクション・プラン」を策定し、さまざまな教育改革を進めている。広島県立府中高等学校でも、県の動きと並行して、深い学びを促す「学びの変革」に着手し、PDCAサイクルを構築して、授業を始めとする教育の改善を重ねている。一連の取り組みについて、校長の村上悦雄先生、教頭の中津英吾先生、主幹教諭の中居寛美先生(国語科)、教務主任の實藤法道先生(数学科)にうかがった。

3年間の各時期に身につけるべき力と深い学びに繋がる学び方を明確化

 広島県立府中高校は、「広島版『学びの変革』アク

ション・プラン」のパイロットスクールの役割を担う

「探究コアスクール」(6校)の1つに指定され、深い学

びに繋がる課題発見・解決型学習をめざして、学校全体

で授業改善に取り組んでいる。

 「学びの変革」に取り組むにあたってまず着手したの

が、生徒に育成したい力と3年間の学びの流れを整理し

た「学びと成長のストーリー」の作成である。「(Ⅰ)学

習の仕方のストーリー」「(Ⅱ)特別活動と部活動のス

トーリー」「(Ⅲ)総合的な学びのストーリー」の3つを

有機的に結びつけながら、教育に取り組んでいる。

 このうち、「(Ⅰ)学習の仕方のストーリー」は、希望

する進路の実現に向けて、どの時期に、どのようなこと

を意識しながら、どのような学習を進めればよいか、生

徒自身が考えられるようにまとめたものである。第1学

年は「自立」、第2学年は「自立から自律へ」、第3学年

は「自律」といった学年目標を定めた上で、各学期に

「成長のテーマ」と「学習のテーマ」が設けられている。

例えば第1学年の1学期は「中学生から高校生に変質」

と「授業進度に順応/学習習慣の確立」、2学期は「将

来像の構築」と「3教科(国、数、英)の学習習慣の定

着と学力向上」、3学期は「進路希望の明確化」と「学

年総復習期」である。

 さらに、「授業/補習」「家庭学習」「考査」「模試」「進

路選択等」の5項目について、各学期の目標を示してい

る。例えば、第1学年1学期の「授業/補習」の目標は

「ノート作成方法の習得(家庭学習への活用)」「辞書使用

方法の習得(国語・英語)」「例題を理解する学習方法の

習得(数学)」というように、達成すべきことが具体的に

記されている。

 さらに、府中高校では文化祭と大運動会を中心とした

学校行事にも力を入れており、部活動に加入する生徒も

88%と多いことから、「(Ⅱ)特別活動と部活動のストー

リー」をまとめている。また、総合的な学習の時間を核

とした探究活動にも力を入れており、「(Ⅲ)総合的な学

びのストーリー」も作成している。

 3つの「ストーリー」は、教員、生徒、保護者に配布

するほか各教室に掲示しており、生徒や教員は常に、現

在の位置を確認し、1年後、2年後を見据えながら、学

校生活を送ることができるようにしている。

 そして、3つの「ストーリー」に基づいて、「府中高校

〔深い学び〕に繋がる授業改善サイクル」を構築して授業

改善を進めている<図1>。

 取り組みにあたっては、「深い学び」の捉え方について、

校内で共通認識を持つ必要があった。そこで府中高校で

は、カナダで開発・実践されている評価モデルで、広島

県でも実践研究を進めている「ICEモデル」を導入した。

ICEモデルとは、「考え・基礎知識(Ideas)」「つながり・

活用(Connections)」「応用・ひろがり(Extensions)」

の順に、学びの深まりを捉える考え方である。府中高校で

は、各段階の学びの状態を、「I」は「定義する」「列挙す

Kawaijuku Guideline 2018.4・534

Page 8: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

る」、「C」は「比較・対比する」「分類・識別する」

「統合する」、「E」は「評価する」「計画する」「予測

する」というように、生徒の学びを整理した。そして、

「I」→「C」、「C」→「E」のように、生徒の学びが変

化することを、「学びの深まり」として定義すること

とした。

といった授業を導入しているという。「本校の数学は習熟

度別クラスで行っていますが、時には全て同じ指導案で

授業を行い、どのクラスにはどのような授業が有効だっ

たかを数学科の教員で話し合うこともあります。私達教

員も、ICEの考え方を使って、授業を工夫しているわけ

です」(實藤先生)

 授業改善を進めるため、教員相互の授業観察にも力を

入れている。授業観察は多くの高校で行われているが、

府中高校では、異なる教科の教員4名がグループになっ

て、「授業相互観察票」を用いて観察し、相互評価をして

いる。観察票には、予め授業者がα〜δの工夫の型と、

単元の主題、生徒につける力、授業の工夫点を記入する

欄、評価項目として「授業構成」「展開・活動・発問」「そ

の他の工夫等」の3つの視点それぞれ7〜9の評価項目

が設けられており、観察者は各項目を5段階で評価し、

コメントを添える。その上で、グループで良かった点や

改善点を話し合う。

 授業観察は春と秋の2回行い、全ての観察票をPDFに

して校内の共有フォルダに保存する。秋の授業観察では、

授業をビデオ撮影して、校内研修の素材としている。観察

票もビデオも、全教員がいつでも閲覧することができる。

データに基づいた評価・検証と結果の共有で個人・教科の授業改善を活性化

 PDCAサイクルの「C:評価・検証」は、さまざまな

データを用いて、多面的に行っている。

 1つ目は、生徒による授業評価アンケートである。全

ての教員が年に2回、同一授業クラスを対象に同じ質問

項目で実施している。質問項目は「授業クラス全体とし

て、授業規律が守られている」「説明・指示や板書などが

わかりやすい」など8項目で、生徒は「非常に当てはま

「ICEモデル」の活用をはじめとする4つの方向性で授業を改善

 府中高校の授業改善のサイクルを<図1>に基づいて

見ていこう。

 PDCAの「P」として、実現したい授業像と生徒につ

けさせる力を明確化した。そして、その内容を全教科・

全単元ごとに作成する「詳細シラバス」で生徒に示して

いる。「詳細シラバス」には、単元の学習内容と到達目標

などが記されており、それぞれにICEモデルの「I」「C」

「E」のどれに該当するかが書き添えられている。さらに、

小単元ごとにも「I」「C」「E」に対応させた目標を記載

し、生徒はできるようになったものにチェックを入れて、

身についた力を確認しながら学習を進める。

 PDCAサイクルの「D:工夫した授業の実践」につい

ては、「α:深い学びに繋がる学習形態」「β:ジグソー

等の学習方法の活用」「γ:ICEの動詞・評価表の活用」

「δ:振り返りの活用」をキーワードとして掲げている。

教員はα〜δのいずれか、または複数を組み合わせて授

業を工夫している。

 例えば2年生の古典を担当する中居先生は、2学期の

『蜻蛉日記』の単元で、1学期に学んだ『更級日記』と

1年生で学んだ『土佐日記』を用い、作品名を伏せて、

どの文章がどの作品かを考える授業を行った。授業では、

個人で考えたあと、グループで考え、さらにジグソー法

を取り入れて各グループで話し合った内容をクラスで共

有した。「この授業の目標は、それぞれの日記文学の特徴

について、教科書の説明を覚えるのでなく、自分で説明

できるようになることです。生徒は作品で使われている

言葉や作者の意図を比較したりしながら、作品の特徴を

つかんでいきました。これは、ICEの『C』、すなわち比

較・対比、分類・識別に該当します」(中居先生)

 また、数学科では、1つの問題に対してどのような解

き方があるかグループで話し合い(ICEモデルの「I:列

挙する」)、その後、どの解き方が効率がよいかを考え、解

く手順を工夫する(C:比較・対比する、E:評価する)

<図1>平成29年度 府中高校〔深い学び〕に繋がる「授業改善サイクル」

(広島県立府中高等学校ホームページより)

授業実践 評価・検証

授業実践 評価・検証 活動実践 評価・検証

教科の学力を段階的・系統的に高め,自らの進路希望を実現する

〔学習の仕方のストーリー〕

◆ 「学びの変革」に繋がる授業 ⇒ 工夫した4つの授業の型◆授業相互観察◆映像化による検証◆生徒による授業評価

◆定期考査による検証・評価 ⇒ 「知識・理解問題」「思考・ 判断問題」「活用問題※」 ⇒ ※ルーブリック評価◆生徒による「振り返り評価」◆模擬試験 /センター試験等

【知】高い人間力・学力【徳】豊かな心・社会性【体】心身のたくましさ

育てたい力

◆1年は〔定着〕と〔発展〕◆2年は〔定着〕と〔充実〕◆3年は〔開発〕と〔定着〕*「付けたい力」の明確化*教科授業との連動

◆生徒による 「振り返り評価」◆ポートフォリオ・ 成果物等の 評価

◆生徒による 「振り返り評価」◆生徒による 「相互評価」

◆行事・活動等の ねらい・意義の 明確化◆生徒自身による企画・ 運営・検証

「学びの仕組み」を理解し、自己評価できるとともに、自ら課題を見つけ、他者と協働して探究する

〔総合的な学びのストーリー〕ホームルーム活動・生徒会活動・学校行事、部活動等を通して、社会性・協働性等を育み、心身を鍛える

〔特別活動と部活動のストーリー〕

◆実現したい授業像◆生徒に付ける力 明確化

工夫した授業の実践工夫・改善

評価・検証

◆≪詳細シラバス≫として生徒に提示 *学習内容 *到達目標 *学習の仕方◆知識・理解、思考・判断、活用の明確化 *授業と定期考査での実態化

【α】「深い学び」に繋がる学習形態【β】ジグソー等の学習方法の活用【γ】ICE の動詞・評価表の活用【δ】「振り返り」の活用 *「付ける力」と方策の明確化 *授業相互観察 ⇒ 共有 *授業映像化 ⇒ 研修 *三校合同研究授業 【Ⅰ】生徒による「学びの手応え振り返り評価」

 *学期に2 回程度、教科で計画的に実施 *生徒の「自己評価」~評価ルーブリックで検証【Ⅱ】データによる検証 *生徒による授業評価(年2 回)⇒ 共有・分析 *定期考査活用問題のルーブリック評価 *合教科活用問題/模擬試験/センター試験等

◆授業内容の一層の改善◆目標設定根拠データの蓄積・分析◆評価・検証方法の改善D

PA

C

変わる高校教育 第17回 資質・能力の多面的な評価に基づいた教育改善〜カリキュラム・マネジメントに向けて〜

Kawaijuku Guideline 2018.4・5 35

Page 9: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

る」から「全く当てはまらない」までの5段階で評価し、

授業に対するコメントを記入する。

 5段階評価の結果はグラフ化し、教員ごとに1・2回

目の結果が比較できるようにしている。さらに、教科別

の平均値もグラフ化しており、教科としての課題を整理

して改善策を検討し、授業改善につなげている。この授

業評価も、全て共有フォルダに保存され、全ての教員が

閲覧できる。

 2つ目は、生徒による「学びの手ごたえ振り返り評価」

である。ICEの評価基準に対応するルーブリック形式で、

生徒は自分がどのレベルに該当するかをチェックすると

ともに、その評価をつけた根拠を文章で説明する。根拠

を説明させる目的は、生徒が自身の学びの深まりをどの

ように認識しているか、つまりメタ認知の力がついてい

るかを教員が把握することなどである。

 「振り返り評価」は、科目ごとの振り返りと、学び全般

に関する振り返りの2種類を行っている。科目ごとの振

り返りは、単元単位か考査単位で、学期に2回程度を目

安に実施している。

 学び全般に関する振り返りは、各学期の終わりに実施

しており、「①学び方、学びの仕組みの理解」「②教科・

科目の学習内容の理解」「③自己や自己と他者・社会との

関わりについての理解」「④府中高生として今の自分の

〔学び〕の段階・状況」の4点について自己評価し、評価

の根拠を、具体例を挙げて説明する。この評価基準も

ICEに対応させている。

高大接続改革も視野に活用問題と合教科問題を導入

 3つ目は、定期考査における「活用問題」の出題

である。「活用問題」は2013年度から全科目で実施

していたが、高大接続改革の動向を視野に入れて、

2016年度は一部の教科で、2017年度からは全科目

で、定期考査にルーブリック評価を用いた活用問題

を導入している。

 2016年度の問題を見ると、例えば第2学年の現代

社会では、自分が良いと考える社会保険負担と税負

担のバランスを選び、提示された「日本の歳出の推

移」「雇用形態別雇用者数の推移」等の6つの資料

のうち2つ以上を用いてその理由を説明させる問題

を出題した。

 配点は10点で、「資料を活用する力」「論理的な説

<図2>平成29年度 府中高校における〔学びの変革〕の全体像

(広島県立府中高等学校ホームページより)

授業実践 評価・検証

授業実践 評価・検証 活動実践 評価・検証

教科の学力を段階的・系統的に高め,自らの進路希望を実現する

〔学習の仕方のストーリー〕

◆ 「学びの変革」に繋がる授業 ⇒ 工夫した4つの授業の型◆授業相互観察◆映像化による検証◆生徒による授業評価

◆定期考査による検証・評価 ⇒ 「知識・理解問題」「思考・ 判断問題」「活用問題※」 ⇒ ※ルーブリック評価◆生徒による「振り返り評価」◆模擬試験 /センター試験等

【知】高い人間力・学力【徳】豊かな心・社会性【体】心身のたくましさ

育てたい力

◆1年は〔定着〕と〔発展〕◆2年は〔定着〕と〔充実〕◆3年は〔開発〕と〔定着〕*「付けたい力」の明確化*教科授業との連動

◆生徒による 「振り返り評価」◆ポートフォリオ・ 成果物等の 評価

◆生徒による 「振り返り評価」◆生徒による 「相互評価」

◆行事・活動等の ねらい・意義の 明確化◆生徒自身による企画・ 運営・検証

「学びの仕組み」を理解し、自己評価できるとともに、自ら課題を見つけ、他者と協働して探究する

〔総合的な学びのストーリー〕ホームルーム活動・生徒会活動・学校行事、部活動等を通して、社会性・協働性等を育み、心身を鍛える

〔特別活動と部活動のストーリー〕

◆実現したい授業像◆生徒に付ける力 明確化

工夫した授業の実践工夫・改善

評価・検証

◆≪詳細シラバス≫として生徒に提示 *学習内容 *到達目標 *学習の仕方◆知識・理解、思考・判断、活用の明確化 *授業と定期考査での実態化

【α】「深い学び」に繋がる学習形態【β】ジグソー等の学習方法の活用【γ】ICE の動詞・評価表の活用【δ】「振り返り」の活用 *「付ける力」と方策の明確化 *授業相互観察 ⇒ 共有 *授業映像化 ⇒ 研修 *三校合同研究授業 【Ⅰ】生徒による「学びの手応え振り返り評価」

 *学期に2 回程度、教科で計画的に実施 *生徒の「自己評価」~評価ルーブリックで検証【Ⅱ】データによる検証 *生徒による授業評価(年2 回)⇒ 共有・分析 *定期考査活用問題のルーブリック評価 *合教科活用問題/模擬試験/センター試験等

◆授業内容の一層の改善◆目標設定根拠データの蓄積・分析◆評価・検証方法の改善D

PA

C

明力」「社会的な考察力」の3つの視点について、それぞ

れ「S(3点)、A(2点)、B(1点)、C(0点:無回

答)」の4段階、表記について「読みやすい(1点)、読

みにくい(0点)」の2段階のルーブリックを作成し、採

点を行った。

 ルーブリックは問題用紙にも示しており、生徒はルー

ブリックを見ながら、解答を作成する。活用問題を導入

した当初は、生徒は「何が正解かわからない難しい問題」

と感じて無答で提出するケースが多かったという。そこ

でルーブリックを掲載して評価基準がわかるようにした

ところ、解答する生徒が増加した。「回を重ねるにつれ、

考える視点が身についてきたと思います。理想は、ルー

ブリックがなくても視点を設定できることですが、まず

はルーブリックを参照することで、考え方のトレーニン

グできればよいと考えています」(中津教頭)

 4つ目は総合的な学習の時間における「合教科活用問

題」の取り組みである。2016年度から、全学年の2学期

に実施している。テストは、複数の教科にまたがる「教

科統合型」と、小論文のように課題文に対して自分の意

見を述べる「問い掛け型」の問題からなり、1・2年生

は両方に、3年生は教科統合型問題にのみ取り組む。な

お、問題は3学年共通である。

 2017年度の教科統合型では、地理歴史科・英語科・理

科などの教員が共同で、昆布と鰹の合わせだしに関する

問題を出題した。問1では、「合わせだしは大阪発祥であ

る」という仮説について、日本史や英文の資料等、いく

Kawaijuku Guideline 2018.4・536

Page 10: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

つかの提示された資料をもとに、賛成か反対かを述べ、根

拠を説明させた。また問2として、グルタミン酸とイノ

シン酸の割合を求める問題を出題した。

 結果を分析すると「問題によって模試の偏差値と相関

があるものとないものがある」「3年生より、関連する数

学の単元を学んだばかりの1年生のほうが正答率が高い

場合がある」など、発見が多いという。「毎回組み合わせ

る教科も変わりますし、やってみて初めてわかることが

たくさんあり、ここから授業改善のヒントも得られてい

ます」(村上校長)

評価・検証に基づいてさまざまな場面で工夫・改善を図る

 PDCAサイクルの「A:工夫・改善」は、随時行って

いる。例えば授業については、7月の授業評価アンケー

トで評価が良くなかった若手教員が奮起して授業を工夫

し、12月には高評価を得たということもあった。

 活用問題の工夫・改善については、「2017年度3学期

始めの主任会議で、これまで作成した活用問題やルーブ

リックを確認し、新学習指導要領で提示された各教科の

見方・考え方を踏まえたものになっているかを議論しま

した」(中居先生)といった例がある。

 部活動や委員会活動でも「振り返り」や「ICEルーブ

リック」を活用するようになった。例えば、部活動の成

果発表会では、以前は大会で優秀な成績を収めた部活動

の表彰などを行っていたが、現在は部長やキャプテンが、

自分たちが立てた目標、目標を達成するために行ってき

たこと、その結果として得られた成績について語る形式

に変更した。そして他の部の生徒は、自分たちの取り組

みと比較・検証し、練習内容の改善などに役立てている。

 他にも、「例えば数学科では、2018年度大学入試セン

ター試験を、これまでとは観点を変えて『どのような力

があれば解ける問題か』という観点で分析しました。す

ると、本校の生徒は読解力が求められる問題の正答率が

低かったので、授業の中で読解力をどのように高めてい

くかが検討課題に挙がっています」(實藤先生)と、生徒

に身につけさせたい能力を念頭に置いて、授業や試験に

ついて教員同士が議論する土壌ができつつある。

 授業改善のPDCAサイクルを回していくため、管理職

も工夫をしている。村上校長は、「本校の教員は、日々生

徒と向き合いながら、授業や考査を工夫してくれていま

す。それでも毎年取り組んでいるとパターン化されてい

広島県立府中高等学校

◇所在地:広島県府中市出口町898

◇沿革:1912(明治45)年 芦品郡立実科高等女学校創立    1921(大正10)年 広島県立芦品中学校設置    1949(昭和24)年 両校を改称した府中高等女学校と府

中中学校が統合し、広島県立府中高等学校となる

◇学級編成:各学年普通科6クラス

◇生徒数:712名(男子332名、女子380名)(2017年5月1日現在)

◇特色:旧制中学校と旧制高等女学校を前身とする伝統校で、校是「金剛不壊」、校訓「知性・探究・使命」のもと、国際社会の各分野に有為な人材を育成している。部活動や生徒会活動が盛ん。2015年度から「広島版『学びの変革』アクション・プラン」パイロットスクールの「探究コアスクール」に指定されている。

◇卒業生の進路:2017年3月31日現在 卒業生238名・進路:4年制大学等195名、短期大学9名、専門学校13名、

就職2名、その他19名・合格者の内訳(現役生、延数): 国公立大学113名、私立大学

323名、短期大学16名、文科省所管外の学校2名、専門学校16名

きます。そこで私は、パターン化しそうになると、マイ

ナーチェンジを加えています。例えば、定期考査の『活

用問題』は、配点を全体の1割程度としていましたが、

2017年度の学年末考査からは2割程度にするようお願い

しています。改革は、取り組みの『量』か『質』のどち

らかを変えることで進んでいきます。変えることが目的

になってはいけませんが、新たな試みを促すよう、適宜

工夫・改善しています」と語る。

 現在は、「3つのストーリー」に加えて、3年間で生徒

に「付けるべき力のストーリー」の作成に取り組んでい

るという。これは、今学んでいることと、次の年に学ぶ

こと、ある教科で学んでいることと他の教科等で学ぶこ

ととのつながりなどを、「付けるべき力」の観点から示す

ものである。「今後は、教科での学びや総合的な学習の時

間での活動が、生徒の生き方や進路にどのようにつな

がっていくのかを示して、生徒自身が意識して必要な力

を伸ばしていけるようにしていきたいと考えています」

(中津教頭)

 村上校長も、「これからも、生徒が社会で生きていくた

めに必要な、物事を見通す力、判断力、そのために必要

な知識や技能といった基盤を培うために、授業は、考査

は、部活動は、学校行事はどうあるべきかを考えていき

ます」と言う。府中高校の「学びの変革」が歩みを止め

ることはない。

変わる高校教育 第17回 資質・能力の多面的な評価に基づいた教育改善〜カリキュラム・マネジメントに向けて〜

Kawaijuku Guideline 2018.4・5 37

Page 11: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

これまでの取り組みを整理しながら基礎学力定着推進委員を中心に教育改善を進める

 石川県白山市に立地する石川県立松任高等学校は、普

通科と総合学科を併設する高校である。卒業生の進路は

大学・短大への進学、専門学校への進学、就職がそれぞ

れ3分の1ずつと、生徒の進路が多様である。そのため、

生徒に何をどれくらい勉強すべきか、何のために学ぶか

を伝えることなどに難しさを感じていた。そこで、以前

から「多様な生徒の進路実現」「基礎学力の定着」「授業

規律」をテーマとして教育改善を進めていた。

 「文部科学省の事業指定を受ける前から、進路を問わず

本校の卒業生として身につけるべき学力を全ての生徒に

保証したいという方針の下、改革に取り組んでいたので

す」(卯野教頭)

 事業指定後には、まずはこれまでに行ってきた取り組

みを整理した。「全く新しいことを始めるのでなく、これ

までに進めてきた取り組みを整理し充実させる方向で、

事業をスタートすることにしました」と、卯野教頭は指

定当時の状況を語る。

 調査研究事業の推進にあたって、基礎学力定着推進委員

会(以下GT:Gakuryoku Teichakuの頭文字)を設置し、

盛田先生に加え国語科・数学科・英語科(木戸口肇先生)

から各1名、計4名の推進委員を任命し、生徒の基礎学力

定着に向けたPDCAサイクルの構築をめざすこととした。

 また、GTの4名に、管理職、各分掌の主任、学年主任、

5教科の教科主任、ICT活用推進教員、情報管理室室長

を加えた会議を年に3回開催。各種アンケートやテスト

の結果などのデータに基づいて、授業改善について定期

的に議論する場を設けた。その成果について、盛田先生

は「会議で検討されることにより、どの教員も授業改善に

一層力を入れるようになり、他教科の授業改善の工夫を

共有でき、会議の結果を持ち帰って行う教科会の話し合

いも活性化されました」と言い、北村校長も「会議のメン

バーの立場が多様であることも、よい効果を生んでいます。

事務長から予算的に可能な範囲でできることの提案があっ

たり、ICT担当からICT活用法の提案があったりと、いろ

いろな方向からアイデアを出し合っています」と話す。

「学力スタンダード」で目標や指導方法を共有し定期テストで定着度を把握

 松任高校のPDCAサイクルについて、<図>を中心に

見ていこう。

 「P」にある「学力スタンダード」とは、指導計画書のこと

であり、2014年度から石川県内の全ての県立高校が策定し

ている。全教科について、各校の目標や生徒の実態に合わ

石川県立松任高等学校

 石川県立松任高等学校は、文部科学省の「高校生の基礎学力の定着に向けた学習改善のための調査研究事業」(2016 〜 18年度)(注)に指定され、現在、基礎学力の定着に必要な学習指導体制の確立、学習意欲を喚起する学習指導の在り方の検討、学習改善を図るためのPDCAサイクルの構築に取り組んでいる。具体的な内容について、校長の北村幸恵先生、教頭の卯野一郎先生、基礎学力定着推進委員会委員長の盛田邦義先生(数学科)、推進委員の免田隆宏先生(数学科)と米林舞子先生(国語科)に話をうかがった。

米林舞子 先生免田隆宏 先生

北村幸恵 校長 卯野一郎 教頭

盛田邦義 先生

授業改善や家庭学習の習慣化、民間テストの導入で基礎学力定着に向けたPDCAサイクルを構築

(注)「高校生の学びの基礎診断」の実施を見越し、基礎学力の定着に向けたPDCAサイクルの構築の在り方などについて研究する事業。「客観的データを用いた指導の工夫・充実」「客観的データに基づく教育課程の編成」「生徒の学習意欲を喚起するための多面的評価の促進」などの取り組みがある。平成28年度から10、平成29年度から7の事業が指定されている。

Kawaijuku Guideline 2018.4・538

Page 12: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

せて「何を教えるか」に加え、「どこま

で教えるか」「どう教えるか」を表にま

とめ、自校の生徒につけるべき資質・

能力の目標や指導方法を教員間で共

有することを目的としている。

 「学力スタンダード」の詳細な記

載内容は各学校の裁量が大きく、例

えば松任高校では、教科によって2

〜3段階に分かれている。数学科で

は、「基礎」「応用」「発展」の習熟度

別に授業を行っていることもあり、

「学力スタンダード」は3段階に分

かれ、スタンダードにはそれぞれので深い学びを促すのに加え、自己肯定感を高めて学習意欲

を喚起する狙いもある。例えば、ペア学習をした時には互

いに褒め合う、誰かが発表したら教員も生徒も褒めるといっ

たルールを決めた。また、形成的な評価に力を入れており、

生徒に自己評価票を配布し、発表などをした際には内容や

自己評価を記録させ、成長を実感できるようにしている。

 家庭学習の充実にも取り組んでいる。まず、アンケート

を通じて、家庭学習時間を把握している。近年はスマート

フォンの利用時間なども調査し、生活リズムを把握するよ

うにしている。さらに、家庭学習強化期間を設定し、校内

にポスターを掲示するとともに、保護者にはメール配信で

周知し、家庭学習の習慣化を図っている。家庭学習の教

材は、問題集やプリントの配付のほか、ICT機器を活用

し、Webドリルや学習動画の配信を行っている。

 「ほかにもさまざまな工夫をしています。例えば、以前

は定期試験の1週前に試験範囲を提示していましたが、

現在は、試験が終わった翌週には次の試験範囲を示すよ

うにしました。定期試験の直前だけでなく、平時からの

家庭学習を促すことが目的です。さらに、各自の問題集

の演習状況を記入するチェック表も配付し、教員が確認

するようにしました」(盛田先生) 

近隣の小中学校と連携し教育改革の参考にする

 さらに2017年度からは、近隣にある小中学校と連携

して、「基礎学力はくさん」を立ち上げた。2019年度か

ら実施が予定されている「高校生のための学びの基礎診

断」に先立ち、小・中学校が行っている「全国学力・学

習状況調査」を活用した教育改善のPDCAサイクルを学

ぶことなどが目的である。

<図>石川県立松任高校の基礎学力定着に向けたPDCAサイクル

クラスの生徒が解答できることをめざす問題も記載して

いる。さらに、「発展クラスでは三角比の定義について単

位円を用いて丁寧に説明するが、他のクラスでは触れる

程度に扱う」など、指導方法も記載している。

 「学力スタンダード」の効果として、数学科の免田先生

は「全教員が学力スタンダードの問題を使って指導する

ため、同じ分野についてクラス別の理解度などを話し合い

やすくなっていると感じます」と言う。記載内容や運用方

法は教科によって少しずつ異なり、米林先生は「国語は習

熟度別クラスではないため、発問自体はクラス全員に行い

ますが、生徒に答えてもらう際には、基礎レベルの生徒に

は基礎レベルの発問、応用レベルの生徒には応用レベル

の発問というように、配慮しています」と話す。

 さらに、定期試験には、「学力スタンダード」に記載し

た問題と類似した「学力スタンダード問題」を出題する

こととしている。内容の定着度を測定するとともに、ク

ラス間比較や経年比較することで、指導方法の検証や改

善に役立てている。

基礎学力定着推進委員を中心にICT活用や協働学習導入など授業改善を推進

 学習指導改善に向けた取り組みとしては、「主体的・対

話的で深い学びをめざした授業実践」がある。

 「事業指定初年の2016年度は、生徒が楽しく学んで『わ

かった!』と思えるような授業をするため、ペア・グループ

学習、教え合いや話し合いを取り入れたり、ICT機器を活用

した授業を推進しました。その結果、授業中に居眠りする生

徒がいなくなるなど、授業規律も改善しました」(免田先生)

 ペア・グループ学習の導入については、主体的・対話的

(「高校生の基礎学力の定着に向けた学習改善のための調査研究事業」事業概念図 <石川県教育委員会>より抜粋)

P D

C A

☆予定している成果◎校内の学習指導改善体制の確立◎教員の授業力向上◎生徒の学習意欲向上と 基礎学力の定着◎生徒の家庭学習の習慣化◎学校の活性化◎地域ぐるみの指導体制の構築◎教員・生徒のICT活用力の向上

Ⅰ.基礎学力の定義と現状把握及び研究計画 ・指導計画の作成○学力スタンダード(指導計画書)の作成による基礎学力についての共通理解○生徒の入学時の基礎学力、生活習慣、学習習慣の現状把握(民間テスト・アンケート等の実施・分析)○現状を踏まえた研究計画・指導計画の作成

Ⅳ.取組結果に基づく指導改善

○研究成果と改善点の取りまとめ○指導改善の推進○PDCAサイクルの確立と成果の普及

○発達段階に応じたきめ細やかな対応

Ⅱ.基礎学力の定着に向けた学習改善の取組

○学習指導改善のための取組・基礎学力定着推進委員会の定期的な開催・ICT活用による授業改善・校内研修会の実施・主体的・対話で深い学びをめざした授業実践・先進校視察・クラウドサービスの活用○家庭学習の習慣化に向けた仕組みの構築

○「基礎学力はくさん」による地域連携の取組

Ⅲ.基礎学力の定着度測定及び分析

○基礎力診断テストの継続的な実施と分析○試行調査の実施○「基礎学力はくさん」による分析

○調査研究事業検討会議の開催

変わる高校教育 第17回 資質・能力の多面的な評価に基づいた教育改善〜カリキュラム・マネジメントに向けて〜

Kawaijuku Guideline 2018.4・5 39

Page 13: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

 2017年度に小・中学校を視察した盛田先生は、「特に

小学校の取り組みは非常に参考になりました。例えば、

高校では模試の結果が返ってくると、教科、学年など

別々に分析・検討し、それを進路担当がまとめて委員会

で報告するため、具体的な改善に結び付くのは数カ月後

になることが少なくありません。一方で小学校では、全

ての先生が全教科を担当していることもあり、学年団で

テストの分析をしたら、翌日から授業改善に生かしてい

ました。小学校と高校では制度が異なるためそのまま取

り入れることはできませんが、日常的に改善を繰り返せ

る素晴らしさを実感し、高校も工夫しなければならない

と思いました」と話す。

 また、北村校長も、「小・中学校では、幅広い学力の生徒

が同じ教室で学んでいますが、先生はそれぞれの生徒の力

を伸ばす授業を工夫しています。高校では学力層としては

ほぼ同じ生徒の集団ですが、個に応じた指導には苦労して

いますから、とても勉強になります」と刺激を受けている。

民間テストを全員受験として学習のペースをつかむ

 事業指定を機に実施した施策の中で重要なのが、民間

テストの導入である。以前は、進学希望者のみが模試を

受験していたので、教員も模試の結果を授業等に活用す

ることは少なかった。しかし、2016年度から、1年生は

年5回の民間テストを全員必須としたことで、教員の意

識も変わったという。

 まず、受験前に、テスト範囲に関連するワークに取り

組ませ、事前学習を徹底している。結果が出た後は、生

徒対象の分析報告会を開催し、自分の弱点を把握した上

で問題を解き直すよう指導している。その結果、生徒は

1つのテストに対して事前学習〜事後学習を通じて約2

カ月間、関連した学習をするようになった。年に5回受

験することで、民間テストが生徒の学習のペースメー

カーになりつつあるという。

 民間テストの導入は授業や定期試験にも影響を与えて

おり、米林先生は「授業でも『この問題は模試でも出題

されたね』と触れたり、定期試験で模試の類似問題を出

題したり、学力スタンダードに記載する問題に反映させ

ています。生徒が民間テストを、授業で学んだことを発

揮する場と感じられるように工夫をしています」と話す。

 以上のような取り組みによって、既にさまざまな変化

が見られるという。

 例えば、教科の中で基礎学力について議論する機会が

増え、「学力スタンダード」において指導方法と内容を記

載したことなどにより、「定期試験の作問力が全体的に向

上している」(北村校長)という。

 生徒による授業評価アンケートの結果を見ると、授業

に対する評価は「興味・関心を持つことができた」「理解

できる」「発問・指示が適切」などほとんどの項目で向上

している。

 家庭学習時間は、調査を始めた2012年度には全学年

平均1日37分程度だったのが、2017年度には1時間38

分と、大幅に増加した。

 民間テストでは、数学は義務教育段階の問題の定着率

が80%まで上昇するなど、生徒の学力は着実に向上して

いる。他方、基礎学力不足と判定される生徒もまだ数名

おり、盛田先生は「今後さらに指導の工夫を重ねていき

ます。また授業改善のPDCAサイクルは教科単位では回

るようになりましたが、学校全体としてはまだ改善を続

ける必要があると感じています」という。

 今後については、次期学習指導要領を見据えて、生徒

の学力を多面的に評価するための指導方法の検討や、評

価基準としてのルーブリック作成、3年間の指導計画と

PDCAサイクルの構築などにも着手する予定だ。また、

授業規律向上とキャリア教育を連動させたプロジェクト

もスタートし、生徒がこれからの社会を生きていくため

に必要な力を伸ばす取り組みをさらに強化していく。

石川県立松任高等学校

◇所在地:石川県白山市馬場1丁目100番地

◇沿革:1963(昭和38)年 石川県立松任農業高校全日制家政科を移籍し、普通科、家政科として開校

    2000(平成12)年 普通科を総合学科に改編    2010(平成22)年 普通科と総合学科の2科に改編

◇学級編成:各学年普通科2クラス、総合学科3クラス(人文国際系列・情報ビジネス系列・人間創造系列)

◇生徒数:494名(男子260名、女子234名)(2018年1月5日現在)

◇特色:校訓は「明き心に」「深き心に」「堅き心に」。白山市がオーストラリアのペンリス市と高校生ホームステイ交流を行っており、同校でも、国際交流を行っている。

◇卒業生の進路:2018年3月8日現在 卒業生160名・進路:4年制大学29名、短期大学16名、専門学校54名、就

職57名、その他4名・合格者の内訳(現役生、延数): 国公立大学1名、私立大学31名、

短期大学17名、専門学校57名、就職57名

Kawaijuku Guideline 2018.4・540

Page 14: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

「模試活用スキーム」作成と、新しいテスト導入でPDCAサイクルの確立をめざす

 京都府立亀岡高校は、京都府の口くち

丹たん

地域に立地し、「口

丹の雄」と呼ばれる明治以来の伝統校である。しかし加藤

先生は「京都駅から快速電車で約20分という交通の便の

良さから、地元中学校の成績上位層は、京都市内の有名

進学校に流出してしまいます。また、進路指導が個々の教

員の力量に拠っており、生徒のポテンシャルを伸ばし切れ

ていないと感じていました」と近年の状況を語る。

 そうした状況を変えるため、2016年度、進路指導のシ

ステム化に取り組むことになった。

 まず検討したのが、模試の活用方法だった。「それまで

は、模試と部活動の日程の重複によって受験できない生徒

がいましたし、模試は受けっぱなしで復習しない生徒も少

なくありませんでした。また、模試の結果を教員が授業に

生かすことができていませんでした」(加藤先生)

 そこで提案したのが「模試活用スキーム」だ。<図>に沿って見ていくと、まず模試受験後に生徒に振り返りを

させる。その際、生徒は「模試ノート」に、間違えた問題

を書き出して解き直すとともに、関連する知識をまとめる。

1年生は模試のたびに、生徒は復習をし、教員はノートを

回収して活用状況をチェックしている。なお、模試ノート

の活用法については、1年次夏の学習合宿で指導している。

 模試の結果は、実施業者の分析データに進路指導部の

講評を添えて教員間で回覧する。その上で、進路指導部

に学年、教科、分掌の代表を加えた「進路会議」で、課

題とその原因、対策を共有する。生徒への結果の返却に

際しては、全体指導としては、授業で理解が不十分だっ

た箇所を復習し、特に気になる生徒に対しては個人面談を

行うことにした。さらに、各教科で模試結果を生かして授

業改善に取り組むことにした。現在では、模試の結果が出

ると教員が生徒に復習させるために進路指導部に模試の

過去問を借りに訪れるなど、教員の意識も変わってきたと

いう。今後はこのサイクルを定着させたい考えだ。

「学びみらいPASS」を導入しこれからの生徒に必要なジェネリックスキルを評価

 模試活用スキームを定着させるためには、模試に対する

教員の意識を変える必要があるが、今までと同じ模試を受

験していたのでは、どうしても「前年と同じように取り組

めばよい」と考えられがちで、改革が進まないという懸念

もあった。そこで、「模試活用スキーム」の導入とともに、

模試を含む民間テストを見直すことにした。民間テストを

変更することで、新しい取り組みが始まると実感してもら

い、教員の意識を変えていこうと考えたのである。同校で

は、1年次の全員受験の民間テストとして、学力と学習習

慣を確認するためのテストを1回と、模試を年間3回実施

していたが、このうち前者を見直すことにした。

 民間テストの検討の際に重視したのは、これからの社会

で求められる力の変化だ。現在、工業社会から知識基盤

社会への移行が進んでいる。それを受けて、次期学習指

導要領では知識・技能だけではなく、思考力・判断力・表

現力や、学びに向かう力・人間性等が重視されるように

京都府立亀岡高等学校

「模試活用スキーム」作成、学びみらいPASS導入により「学力向上」「キャリアデザイン」「ジェネリックスキル」の3本柱で生徒の進路希望を実現する学校へ

 2017年度入試で、合格実績を大きく伸ばした京都府立亀岡高等学校。同校は現在、模試を核にしてPDCAサイクルを回す「模試活用スキーム」を構築し、生徒の多面的・総合的な学力向上や授業改善に取り組んでいる。新たに「学びみらいPASS」を導入することで、全校での民間テスト活用のサイクルを作るとともに、ジェネリックスキルについても測定や振り返りといったPDCAサイクルを回そうとしている点が特徴だ。同校の取り組みとその成果について、進路指導部長の加藤慶宣先生に話をうかがった。

加藤慶宣 先生

変わる高校教育 第17回 資質・能力の多面的な評価に基づいた教育改善〜カリキュラム・マネジメントに向けて〜

Kawaijuku Guideline 2018.4・5 41

Page 15: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

なっている。また、国公立大学の推薦・AO入試枠が拡大

したり、総合的な思考力を問う入試問題が出されるなど、

大学入学者選抜も変わりつつある。

 さらに、こうした状況も踏まえて、学校としてこれから

の生徒に育成したい力は何かについても考えた。

 「4〜5名の教員に声をかけ、どのような生徒を育てた

いかを改めて議論しました。まず、本校の生徒の課題とし

て『規範意識が高い、素直という長所がある一方で、キャ

リアの視野が狭く発想が安易』『受け身で、宿題はするが

自主的な勉強ができない』『新聞を読んだり、読書する習

慣がなく、社会への関心が低い』といったことが挙がりま

した。続いて具体的に育成したい生徒のモデル像を考え

るために、生徒の中からモデルとなるような生徒を各学年

10人程度選び、それらの生徒の特徴をピックアップしま

した。すると、授業に積極的に参加し、友だちに勉強を教

えるなど学ぶ集団を形成するハブになる、教員に自分の気

持ちや要望を伝えたりするコミュニケーション力がある、

自己中心的でなく他者や社会への関心が高いなど、教科

学力以外の要素が多数挙がりました。こういう生徒を増や

すにはどうしたらいいか、それを念頭に、改革方法を検討

することにしました。こうした議論の中で、教員の経験や

感覚によってしか把握できなかったジェネリックスキル

を、数値化して客観的に測定ができる民間テストを導入す

ることにしました」(加藤先生)

 複数のテストを検討した結果、ジェネリックスキルを測

定するPROG-Hが含まれる「学びみらいPASS」(注)が、候

補に挙がった。また、適性・興味関心を測るテスト

「R-CAP」が職業適性だけでなく学問適性も測定できるこ

とも、文理選択と学部・学科選択に役立ち、亀岡高校の

生徒に適していると考えた。そこでPROG-H、R-CAPと、

<図>模試活用スキーム

(京都府立亀岡高等学校提供)

教科学力を測るKei-SAT、学習生活パターンを測る

LEADSの4つから成る、学びみらいPASSが導入されるこ

ととなった。

教員の意識が変わり合格実績が躍進学校ビジョンも明確に

 これらの改革を通じて、校内にもさまざまな変化が見ら

れる。

 1つ目は大学合格実績が大きく伸びたことである。学び

みらいPASSを導入したのは2017年度からだが、実はこ

れに先立つ2017年度入試から、同校の合格実績は大きく

向上した。国公立大学合格者数は、2016年度入試31名

に対して、2017年度は45名、関関同立は57名から73名、

産近佛龍は136名から161名に増加した。

 この結果について、加藤先生は「学びみらいPASS導入

に向けた議論と無縁ではない」と考えている。国公立大学

については、推薦・AO入試の合格者が、2016年度入試

は10名受験して6名合格だったのが、2017年度入試は

30名受験して15名合格となった。つまり、これから国公

立大学の推薦・AO入試が拡大し、対応する必要があるこ

とが教員間で共有されたことで出願者が増え、もともとの

強みであった亀岡高校の面接・小論文指導を横展開する

ことで合格者増につながった。

 「この結果を見て、ジェネリックスキルを客観的に測定

するとともに、育成する取り組みにさらに力を入れたいと

いう教員が増えました。生徒にも、国公立大学の推薦・

AO入試に挑戦してみようという意識が出てきたと思いま

す」(加藤先生) 

 2つ目は学校ビジョンが明確になったことだ。亀岡高

校ではもともと「社会に通じる人になる」を教育コンセプ

受験

振り返り

データ回覧

進路会議

授業改善個人面談 (自己採点)

返却事後指導 A P

C D

①授業内実力テスト(4月・7月・10月・1月)②学びみらいPASS(9月)

分析対象模試

模試ノート活用法を1年学習合宿で習得

継続した模試直後の活用指導

受験日から3週間後を目安に学年・教科にて分析データを回覧

受験日から1カ月後を目安に、各分掌進路指導担当・教科主任をメンバーとした進路会議を開催。模試結果の原因・課題・対策を共有

進路会議を踏まえて、全体指導をしたうえで模試返却※進路通信を活用

・課題解決のための授業改善・特に気になる生徒など優先順位の 高い生徒から面談

前回模試の課題をクリアできたかチェック

(注)「学びみらいPASS」:河合塾が開発した、「新しい学力」を多面的に測定するアセスメントテスト。テストの詳細、活用のポイント、お申し込み方法等については河合塾ホームページを参照。https://www.kawaijuku.jp/jp/research/manabi-mirai/

Kawaijuku Guideline 2018.4・542

Page 16: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

トとして、「あいさつ」「服装・身だしなみ」「美化意識」

「人とつながる力」「人を思いやる力」「将来を見据える力」

についてCan-Doリストを作成して育成してきた。しかし

Can-Doリストは生徒の自己評価に使っているのみで、客

観的に測定することはなく、活用が難しかった。そこで

Can-Doリストを見直した。「社会に通じる人になる」とい

う目標は同じだが、項目を「ディセンシー(規範意識)」

「リテラシー(読解力・思考力)」「コンピテンシー(行動

特性)」の3項目(詳細項目は10)に整理した。項目は学

びみらいPASSのどの評価項目と関連するかも示し、測定

を受けての振り返りを通じてメタ認知ができるようにした。

「ジェネリックスキルの育成」をめざして行事の指導を工夫し、授業改善も進む

 3つ目は、行事でジェネリックスキルの育成に取り組む

ようになったことだ。2017年度は、3年間に行う各行事

において育成をめざす能力を整理した。例えば3年生は体

育祭を通して、「ディセンシー」の〔規範意識〕、「コンピ

テンシー」の〔人とつながる力〕〔主体的に行動する力〕

〔計画立案する力〕などを身につけることが目標だ。身に

つける力はCan-Doリストと同じ項目にして、学びみらい

PASSで測定、振り返りができるようになっている。

 なお、平成33(2021)年度大学入学者選抜に向け、調

査書の「指導上参考となる諸事項」が学年ごと・項目ごと

に詳細に記述できるようになるなど、様式変更が予定され

ている。そのため各学年の活動がどの項目に合致するの

か、整理する必要がある。加藤先生は、各行事で育成す

る能力を明確にして、学校全体で一貫して取り組むととも

に、成果を学びみらいPASSで客観的に測定することで、

新しい調査書にも対応できるのではないかと考えている。

 4つ目は、アクティブ・ラーニング型授業や教科横断型

授業の実施など、ジェネリックスキルの育成につながるよ

うな授業改善が進んでいることだ。

 「例えば2017年度には英語科と国語科が共同で、“キラ

キラネーム”について考える授業を行いました。実は徒然草

にも珍しい漢字を使った名前をつけるのが流行っているこ

とに苦言を呈した一節があり、近代では、森鷗外が子ども

に外国風の名前をつけています。名前に関する英語の雑誌

の記事も使いました。ほかに、美術・工芸専攻で作品を英

語でプレゼンテーションするなどしています」(加藤先生)

 一方、模試の見直しを中心とした改革と並行して、校内

では総合的な学習の時間の改革も進んでいた。2つの改

革は最終的に結びつき、2018年度からの総合的な学習の

時間は「ジェネリックスキルⅠ・Ⅱ」としてリニューアル

することが決まっている。具体的には、1年生はR-CAP

の振り返りと活用講座、自分と相手を大切にした表現方法

であるアサーションや、チームビルディングなどコンピテ

ンシー向上のための講座、情報収集力の育成などリテラ

シー向上のための講座、人権学習などを行う。2年生は、

京都観光ルートの検討を行う「京都大作戦」、同校をより

良くするためのプラン提案を行う「亀高改革会議」など、

教科を横断した情報収集や企画、プレゼンテーションを

実践する。また、伝統行事である、1・2年生混合班によ

るトレッキングの班会議も、この時間の中に位置づける。

「ジェネリックスキルⅠ・Ⅱ」も行事と同様に、各取り組

みでどのような力がつくかを整理し、学びみらいPASSで

成果検証ができるようにする。

 これらの改革を通じて、亀岡高校は、従来の「学力向

上」「キャリアデザイン」を、「ジェネリックスキルの育

成」とシームレスに結びつけた。今後は、これらをさらに

充実させていく予定だ。

 「学びみらいPASSや模試を、生徒自身が学習のPDCAサ

イクルを回すツールとするとともに、学校の目標を実現する

ツールとして活用し、教科学力やキャリア意識はもちろん、

ジェネリックスキルも育成することで、生徒の希望する進

路実現をサポートしていきたいと考えています」(加藤先生)

京都府立亀岡高等学校

◇所在地:京都府亀岡市横町23

◇沿革:1904(明治37)年 南桑田郡立女学校開校    1919(大正8)年  南桑田郡立実業学校開校    1923(大正12)年 両校は、京都府立亀岡高等女学校及び

京都府立亀岡農学校となる    1948(昭和23)年 2校が統合し京都府立亀岡高等学校発足

◇学級編成:各学年普通科7クラス(内、美術・工芸専攻1クラス)、数理科学科1クラス

◇生徒数:885名(男子406名、女子 479名)(2017年4月10日現在)

◇特色:京都では “口丹の雄”と呼ばれる伝統校。約7割が4年制大学、2割が短期大学・専門学校、1割が就職という多様な進路が特色。

◇卒業生の進路:2017年3月現在 卒業生 303名・進路:4年制大学196名、短期大学17名、専門学校60名、就

職12名、その他18名・合格者の内訳(現役生、延数): 国公立大学45名、私立大学

402名、短期大学17名、専門学校67名、就職14名

変わる高校教育 第17回 資質・能力の多面的な評価に基づいた教育改善〜カリキュラム・マネジメントに向けて〜

Kawaijuku Guideline 2018.4・5 43

Page 17: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

田村一利 教頭 久保田純一 先生髙槗明弘 教頭田島公基 校長

伊勢崎市立四ツ葉学園中等教育学校

 伊勢崎市立四ツ葉学園中等教育学校は、2009年の開校以来、総合的な学習の時間や行事でさまざまなキャリア教育・グローバル教育に取り組んできた。2015年に初めて生徒が卒業し課題が見えてきたことから、6年間を通したカリキュラムを検討することにした。その経緯を校長の田島公基先生、教頭の髙槗明弘先生、教頭の田村一利先生、研修推進部長・進路指導部副部長の久保田純一先生にうかがうとともに、2018年2月に実施された教員研修を取材した。

開校以来作り上げてきたカリキュラムを6年間のプログラムとして再検討

 伊勢崎市立四ツ葉学園中等教育学校(群馬県)は、

2009年に設置された中等教育学校である。開校以来

「新しい学校を創る」という信念の下、先進的で意欲的な

教育に取り組んでいる。

 例えば授業では、「興味を喚起し関心を高める学び」

「思考力を育成する学び」「表現力を育成する学び」の3

つを掲げ、アクティブ・ラーニングやICTも積極的に導

入して、新しい学力観を育成する授業を実施している。

また、定期考査でも、授業で学んだ知識・技能を活用し

て解答する問題を取り入れている。

 中でも力を入れているのが、総合的な学習の時間と行

事を中心とした、キャリア教育とグローバル教育である。

例えば、1〜3年次の総合的な学習の時間では「グロー

バル体験学習」、2年次には大学の先端研究に触れる「ア

カデミックキャンプ」と「社会人への取材活動」、3年

次には「関西伝統文化研修」と東京の企業や大学を訪問

する「Career Discovery in Tokyo」、4年次には「大学

突撃取材」と、校外施設で行うオールイングリッシュに

よる「グローバルスタディーズキャンプ」、4〜6年次

には学校設定教科「グローバル」、5年次にはアメリカ

で語学研修と国際交流を行う「海外グローバルリーダー

研修」、5・6年次には総合的な学習の時間の総まとめと

して「ソーシャルビジネスを立ち上げよう」などを実施

している。

 開校当初の状況を知る田村教頭は、「一連の取り組み

は、1期生の進級にともない学年進行で企画され、毎年

内容を充実させてきました」と振り返る。

 しかし、田村教頭は「1年ごとに新しい学年のカリ

キュラムを作ってきたため、6年間を通した一貫性をよ

り明確にする必要がありました。1年生にこの力をつけ

ておけば後の学年の取り組みがより効果的になるのでは

ないかといった、取り組みの順番の見直しを求める声も

挙がっていました」と言い、田島校長も「生徒のために

活動を充実させてきた結果、生徒にとっても教員にとっ

ても、やや負担が重くなっており、見直しが必要だと感

じていました」と、ともにカリキュラムの見直しの必要

性を感じていた。

 そこで、2期生が卒業した2016年度から、総合的な

学習の時間や行事を中心に、カリキュラムの再構築に取

り組むこととした。

 検討にあたっては、「6年間の教育を通じて、目標とし

た力が生徒についたかどうかを客観的に検証する必要が

あると考えました」(田村教頭)と、まず生徒の資質・能

力を多面的に把握することとした。そのため2017年度

から、教科学力に加え、思考力・判断力・表現力に対応

する「リテラシー」、主体性・多様性・協働性に対応する

「コンピテンシー」、学習生活パターン、適性・興味関心

を総合的に測定できる「学びみらいPASS」(注1)を導入

し、生徒の実態を把握することにした。2017年度は4月

に4年生(高1)と5年生(高2)が受験した。

 その結果を受けて、カリキュラム改革の方向性を検討

しようとしたところ、育成したい生徒像を校内で具体的

育成したい生徒像を教員間で共有し6年間のカリキュラム改革を始動

(注1)「学びみらいPASS」:河合塾が開発した、「新しい学力」を多面的に測定するアセスメントテスト。テストの詳細、活用のポイント、お申し込み方法等については河合塾ホームページを参照。https://www.kawaijuku.jp/jp/research/manabi-mirai/

Kawaijuku Guideline 2018.4・544

Page 18: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

に共有できていないことがわかった。「本校では教員同士、

教科についてはよく話し合ってきましたが、教科学力以

外の生徒の資質・能力について、深く話す機会をこれま

でなかなか持っていなかったのです」(久保田先生)

 そこで、全校の教員を対象とした研修において、まず

は生徒に身につけさせたい力について議論するワーク

ショップを行うこととした。

 また、「本校の生徒のことを最もよく理解しているのは

本校の教員ですが、主観的になってしまうところがある

と考えました。そこで、外部の目で、本校のカリキュラ

ムをチェックしてもらいたい」(田村教頭)ことから、研

修講師とカリキュラム検討の協力を河合塾に依頼した。

「生徒に身につけさせたい力」を考える全校教員対象のワークショップを実施 

 ワークショップは、「カリキュラム・マネジメントの視

点で、育てたい生徒像を共有する」というテーマで、

2018年2月下旬に行った。授業のない定期考査中の、

午後の時間帯に実施したため、第1学年から第6学年ま

での全教員70名中、出張のあった教員を除く60名が参

加した。

 研修は、田島校長からの「今日は生徒に育成したい力

について議論する研修である。生徒の実態を知っている

私達自身で、生徒にどのような力を育成したいのか、そ

して私達の学校の教育活動をどうしていきたいか、考え

ていただきたい」との言葉でスタートした。

 そして、議論を活性化するためのアイスブレイクを

行ったあと、講師から、学習指導要領改訂の方向性、カ

リキュラム・マネジメントの概要、社会の変化、現代社

会で求められる基礎的・汎用的能力、大学入試改革の方

向性、他校のカリキュラムデザインの事例などについて

説明があり、最近の学校教育に関わる課題を確認した。

 続いて、「学びみらいPASS」の結果から見えた四ツ葉

学園の生徒の傾向について、「リテラシーは県下トップ校

と同等に高い」「平日・休日ともに家庭学習時間が多いタ

イプの生徒が少ない」「主体性に課題がある」等の分析結

果が報告された。

 また、研修に先立って教員対象に実施したwebアン

ケートの結果が報告された。アンケート項目は①生徒の

強み、②生徒の課題、③生徒が10年後に身につけておい

てほしい力、④ ③の力をつけるためにはどのような指導

や改善をすればよいと思うか、の4点で、全教員のうち

約6割が回答した。結果は、①の『生徒の強み』として

は、「素直さ」「まじめさ」を挙げる教員が多く、5・6

年生になると、四ツ葉学園の教育の成果を反映して、「プ

レゼンテーション力」や「発信力」の高さが多く挙がっ

た。他方、②の『生徒の課題』としては、「自主性が低

い・受け身」「意欲が低い」「忍耐力」や「困難を乗り越

える力」の不足などが挙がった。③の『10年後につけて

ほしい力』としては、「課題解決力」や、「社会の変化に

対応できる力」などが多く挙がった。

 これらを参加者で共有した上で、学年混在の5〜6名

ずつ10グループによって「四ツ葉学園中等教育学校の

生徒に身につけさせたい資質・能力」について考える

ワークショップを行った。

 ワークショップは、KJ法で、まず個人で付箋に生徒に

身につけさせたい力を記入した後、その理由を述べなが

ら模造紙に貼っていった。その後、似た趣旨の力をまと

めるとともに関係性を示し、まとまりごとに見出しをつ

け、さらに全体にタイトルをつけた<資料>。生徒に身

<資料>ワークショップでのまとめの例

タイトルは「四ツ葉団体競技普及プログラム」。体力や言語能力、計算力といった「基礎能力」、忍耐力や努力、転ぶ勇気など「心の強さ」、思いやりなど「人との関わり」、向上心や主体、質問する力など

「目標設定」、「課題解決力」全てを育成するのに、特に中等教育段階では、団体競技を行うのが有効との考えから、タイトルをつけた。

タイトルは「達成へのサイクル」。「関心」を中心に計画→継続→実行→他者との関わり→知識→判断→計画のサイクルで、生徒の資質・能力が高まると考えた。個々の生徒に応じて不足する箇所からスタートし、サイクルを回していく。

変わる高校教育 第17回 資質・能力の多面的な評価に基づいた教育改善〜カリキュラム・マネジメントに向けて〜

Kawaijuku Guideline 2018.4・5 45

Page 19: 第17回 資質・能力の多面的な 評価に基づいた教育改善 · 資質・能力や学習状況の把握結果の活用 コラム q生徒の資質・能力や学習状況の把握結果を、授

につけさせたい力については、生徒が活動している具体

的な場面を思い浮かべながら、活発な議論が行われた。

 その後、3つのグループが発表。それを踏まえて各グ

ループで「まとめ」として、今の生徒に必要な力を5つ

程度ピックアップし、その力を育成するためにどのよう

な教育活動を行うとよいか提案を書いて、ワークショッ

プを終えた。

 最後に田村教頭から「総合的な学習の時間や行事のカ

リキュラムを再構築するには、生徒に身につけさせたい

力を教員間で共有することが大切。今日の議論では、共

通する項目が多く挙がっていたようなので、今後の改革

の参考になるだろう。また、生徒のコンピテンシーやリ

テラシーは、これまで主観的な評価しか行っていなかっ

たが、今年度から『学びみらいPASS』を導入し、客観的

に評価できるようにした。継続して受験して経年変化を

見る必要があるが、教員の評価と合わせて検討し、カリ

キュラムの再構築に生かしたい」との挨拶があり、研修

を終えた。

ワークショップで確認できた生徒の課題とカリキュラムデザインの必要性の共有

 各グループのまとめを見ると、生徒に身につけさせた

い力としては、事前アンケートと同様に、「自主性」「チャ

レンジする力」「粘り強さ・継続する力」などが多く挙

がった。具体的な育成手法については、複数のグループ

が「失敗、成功ともに多く経験する機会の提供」「スキル

アッププログラム(注2)の活用」などを挙げた。

 また、研修後に個々の教員が回答した「ふり返り&参

加後アンケート」によると、研修は「普段話すことがな

い他教科・他学年の先生と意見を交換するよい機会だっ

た」と概ね好評であった。感想としては「異なる学年の

先生と話したが、日頃生徒に感じている課題は共通して

いることがわかった」といった内容が20件以上あったほ

か、「本校の課題を共有できた」というものも10件程度、

他にも「前期課程(中学)と後期課程(高校)で同じ生

徒について議論することがなかったので良い機会だった」

「授業やカリキュラム改善につながるいろいろなアイデア

を共有することができた」といった記述があり、生徒に

関する認識の共有に効果があったようだ。

 さらに、「PDCAサイクルを回すことが大切」「カリ

キュラムが適切かどうかの点検が必要」「6年間を通した

カリキュラムづくりの重要性を感じた」「身につけさせた

いことは単独ではなく、他の部分とも関連していること

を改めて感じた」など、カリキュラムデザインの大切さ

に言及した記述や、「日頃考えていることを言語化するこ

とで考えが明確になることを実感した」「経験を個人で保

有するだけでなく他の教員とも共有し生かせるものとし

なければならない」といったコメントも見られた。

 今後は、「学びみらいPASS」の結果や、研修のアン

ケート結果も踏まえて、2019年度に向けてカリキュラム

の再検討を進めていく予定である。

 四ツ葉学園中等教育学校のカリキュラム改革は緒に就

いたばかりだが、「今回の研修で全校の教員が生徒の課題

を共有し、PDCAサイクルやカリキュラムデザインの必

要性を認識できたことで、今後の改革がスムーズに進む

ことを確信しています」と、久保田先生は期待している。

 そして田島校長は、「本校の総合的な学習の時間や行事

のさまざまな取り組みは、新しい学習指導要領や高大接

続改革の方向性とも合致していると感じています。しか

し、生徒も教員も入れ替わる中で、見直しを続けていく

ことは必要です。今後、本校の取り組みを一層改善して、

生徒の希望する進路を実現するにあたっての強みにして

いきたいと考えています」と締めくくった。

伊勢崎市立四ツ葉学園中等教育学校

◇所在地:群馬県伊勢崎市上植木本町1702-1

◇沿革:2008(平成20)年 伊勢崎市立伊勢崎高等学校を母体に設置

    2009(平成21)年 開校

◇学級編成:各学年普通科4クラス

◇生徒数:755名(男子363名、女子 392名)(2017年5月1日現在)6学年合計

◇特色:群馬県下では3校目、市立としては全国初の中等教育学校として設立。「自学」「自律」「共同」「共生」の4つの教育目標を通じて、6年一貫で、高い学力・豊かな人間力を育む。

◇卒業生の進路:2017年3月31日現在 卒業生120名・進路:4年制大学98名、短期大学3名、専門学校5名、就職4

名、その他10名・合格者の内訳(現役生、延数): 国公立大学46名、私立大学

271名、短期大学3名

(注2)スキルアッププログラム(SUP):四ツ葉学園中等教育学校で、生徒が「自律した学習者」となるように設定しているプログラム。読解力を高める取組を行う「朝SUP」、漢字・計算・スペリング等の基礎学力を習得する「基礎SUP」、発展的な課題に挑戦する「土曜SUP」、長期休暇中の「夏季SUP」「春季SUP」などがある。

Kawaijuku Guideline 2018.4・546