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研究会 第1回ポストリチウムイオン電池 講演要旨集 主催:九州大学エネルギー基盤技術国際教育研究センター 共催:京都大学触媒・電池元素戦略研究拠点 日時:2015 年 12 月 7 日(月) 場所:九州大学筑紫キャンパス総合研究棟1F 筑紫ホール

第1回ポストリチウムイオン電池研究会 講演要旨集cp.cm.kyushu-u.ac.jp/presentation/External/Misc/PostLIB/...第1回ポストリチウムイオン電池研究会

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研究会 第1回ポストリチウムイオン電池

講演要旨集

主催:九州大学エネルギー基盤技術国際教育研究センター

共催:京都大学触媒・電池元素戦略研究拠点

日時:2015 年 12 月 7 日(月)

場所:九州大学筑紫キャンパス総合研究棟1F 筑紫ホール

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講演プログラム

09:45~10:00 開会の辞 九州大学エネ基盤センター 永島英夫センター長

10:00~11:00 エネ基盤センター 吉野彰客員教授

「リチウムイオン電池 現在・過去・未来」

11:10~12:00 エネ基盤センター 岡田重人教授・喜多條鮎子助教

「Na イオン電池高コストパフォーマンス化のアプローチ」

12:00~13:00 昼食

13:00~13:50 エネ基盤センター 伊藤正人准教授

「水系マグネシウムイオン二次電池の電極材料開発」

13:50~14:40 佐賀大学 野口英行教授

「Na イオン電池用層状酸化物系正極材料の電気化学特性」

14:40~15:30 産総研関西センター 八尾勝主任研究員

「二次電池用活物質としての有機材料の可能性」

15:30~15:50 休憩

15:50~16:40 鳥取大学 薄井洋行准教授・坂口裕樹教授

「ナトリウム貯蔵性無機化合物の創製とその二次電池負極への応用」

16:40~17:30 長岡技術科学大学 本間剛准教授・小松高行教授

「ガラスセラミックスによるリン酸系活物質の合成とその特徴」

裕拠点長17:30~17:40 閉会の辞 京都大学触媒・電池元素戦略研究拠点 田中庸

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リチウムイオン電池 現在・過去・未来

(九大エネ基盤センター) 吉野彰

1.緒言

LIB は携帯電話、ラップトップ PC などの Mobile-IT機器の小型・軽量な電源として既に大きな市場を形成しており、現在もその成長は続いている。一方、2010年頃から車載用途への展開が始まった。Fig.1 は LIBの Mobile-IT 向けと車載向けの市場実績(単位は GWh)の推移を示す。車載用は着実に市場を形成してきているが、当初期待されていたほどには普及が進んでいないというのが現実である。その理由としてコストの問題、1 充電あたりの走行距離の問題があげられ、2014年時点で Nissan Leaf, Tesla Model S など限定されたメーカー、車種しか上市されていない。ところが、ここにきて EV の市場投入の発表が相次いでいる。特にこれまで消極的であった欧州の自動車メーカーが車の電動化に大きく舵を切ったのが大きな変化である。この変化の背景として、2018 年から車に対する厳しい環境規制が課せられることになったという点が挙げられる。2.EV の本格的な普及に向けた二つのシナリオ

未来に向けて車の技術は大きな進化を遂げていくと予想されている。そうした車の技術進化と融合しながら電動化が進んでいくと見られており、いくつかのシナリオが描かれている。 シナリオ 1 LIB の技術の進歩により、EV のコストの低減、1 充電あたりの走行距離の延長が実現し EV を本格的に普及させることにより厳しい環境規制をクリアしていくというのがシナリオ 1 である。これを実現するために LIB に課せられた課題は LIB のコストダウンとエネルギー密度の向上の 2点である。更には Post LIB としての新しい概念の新型二次電池が求められる。 シナリオ 2 車の知能化が進み無人自動運転が実現することにより、車の個人所有を無くなり共有化が常識となる。これと車の電動化と融合し、「無人タクシー」という概念の車社会が生まれるというのがシナリオ 2 である。 これが実現すると地球環境への貢献とユーザーの車に対する画期的なコスト負担低減が両立するという世界が描かれている[1] 。この場合 LIB に課せられるのは長期耐久性の向上という課題である。この無人タクシーの場合には、LIB のコスト、エネルギー密度は大きな問題にはならない。3.二つのシナリオにおける LIB に対する解決課題 上記の二つのシナリオにおける LIB に対する解決課題をまとめたのが Table1 で

ある。非常に悩ましいことにシナリオ 1とシナリオ 2 とで課題が真逆の関係になっている。シナリオ 2 でエネルギー密度が問題にならないのは、無人タクシーは乗り捨てなので片道 200km も有れば十分であり、コスト問題にならないのは共有化により、車両価格負担が減るためである。逆にマイカーに比べ無人タクシーの年間走行距離は約 10 倍となるために長期耐久性が厳しく要求さあれる。 以上述べたように、車の技術は未来に向けて驚くような進化を遂げていくと考えられる。その中で、更なる電池技術の進化が要求されていくであろう。 【参考文献】[1] Mega Trend 2015 (Car & Energy) , 日経 BP 未来研究所 鶴原吉郎監修 【講師略歴】1972 年 3 月 京都大学工学研究科修士課程修了 同年 4 月旭化成(株)入社 2004 年 10 月 旭化成(株)フェロー 吉野研究室長 2015 年 10 月 九州大学エネルギー基盤技術国際教育研究センター客員教授

Fig.1 Sales amounts of LIB for Mobile- IT and EV

Table.1 Challenges of LIB in two scenarios

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Na イオン電池高コストパフォーマンス化のアプローチ

(九大エネ基盤センター)岡田重人,喜多條鮎子 原発事故以降、自然エネルギーへの依存度が上がるにつれ、そのバッファとして大型蓄電池のニーズが高まっている。蓄電池は大型化するにつれ、電池コストに占める材料費のウエイトが増大するため、開発ターゲットは高エネルギー密度優先から高コストパフォーマンス優先へ移行せざるをえない。環境負荷の低い Na イオン電池が注目される所以である。しかし、Na はその低コスト低環境負荷と引き換えに Li に対し、その標準電極電位分、約 0.3 V 電池電圧が低下する上、イオン体積にして 2 倍かさばり、原子量にして 3 倍重くなるため、Li イオン電池用電極活物質が、そのまま Na イオン電池にも使えるとは限らず、新たに Na に最適なホスト構造を再設計最探索し直す必要がある。Li イオン電池用次世代低コスト鉄系正極として市販化されているオリビン型LiFePO4 の Na カウンターパートである NaFePO4 が Na イオン電池用正極として機能しないのはその典型例である(Table 1)。 本講演では、Na イオン電池において、低コストと大容量を同時に満たすアプローチとして、① 安価鉄系正極における大容量 Na コンバージョン反応、② 過去合成報告のない正極組成に対応した代用正極としての混合正極、③ 安価な水系電解液中で可逆作動可能な水系 Na イオン電池中のNa インサーション反応[2]を中心に紹介する。

表1 Li イオン電池用および Na イオン電池用正極活物質の報告例[1].

【参考文献】 [1] S. Okada, K. Nakamoto, K. Chihara, Electrochemistry, 83 (2015) 170-175. [2] S. -I. Park, I. D. Gocheva, S. Okada, and J. Yamaki, J. Electrochem. Soc., 157 (2011) A870. 【講師略歴】

1981 年 北海道大学大学院理学研究科博士前期課程修了、日本電信電話公社電気通信研究所入社 1993 年 テキサス大学博士研究員(1年間) 1998 年 九州大学機能物質科学研究所助教授 2004 年 九州大学先導物質化学研究所教授 2014 年 九州大学エネルギー基盤技術国際教育研究センター 教授(兼担)

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水系マグネシウムイオン二次電池の電極材料開発

(九大エネ基盤センター)伊藤正人

近年,環境エネルギー問題解決への切り札として電力負荷の平準化などを目的とした大型二次

電池に注目が集まっている.リチウムイオン二次電池はこれまで様々な情報通信機器の小型軽量

化に大きく貢献してきたが,はるかに多くの電力量を必要とする電気自動車(EV)や小規模電力網

のエネルギーデバイスとして活用するには,安全性や経済性の面で大きな課題を残している.こ

の一因として現行のリチウムイオン二次電池には非水系電解液が用いられていることが挙げられ

る.非水系電解液は水系電解液よりも作動電圧が高くエネルギー密度向上には有利であるが.そ

もそも内部抵抗や周波数特性などの電気化学的特性については,水系電解液が非水系電解液より

優れている上に,品質管理,コスト,環境負荷の面でも優位点が多い.そこで本研究では高コス

トパフォーマンス指向の大型二次電池開発の鍵として水系電解液を用いたナトリウムあるいはマ

グネシウムイオン電池に着目し,水の電位窓による作動電圧の制約をオフセットしうる多電子酸

化還元反応を活用した高容量電極の開発を目標とした[1,2].

多電子酸化還元反応を担う電極活物質としてヘテロ[6]ラジアレン構造をもつ環状化合物[3]のマルチレドックス機能[4](図1)に着目し,図2に示す分子群を設計合成して電気化学特性を調

査したところ,1,4-DAAQが水系マグネシウムイオン二次電池の負極材料として極めて有望である

ことがわかった(260mAh/g).本発表では分子構造と容量,過電圧,サイクル特性などの関連に

ついて述べたい.

【参考文献】

[1] K. Chihara, M. Ito, K. Nakamoto, Y. Kano, S. Okada, H. Nagashima, Abstr. Electrochem. Soc. Jpn. 81 (2014) 3S30.

[2] T. Ikeda, M. Ito, K. Nakamoto, Y. Kano, S. Okada, Abstr. Electrochem. Soc. Jpn. 82 (2015) 2K04. [3] (a) R. West, Oxocarbons, Academic Press (1980) (b) G. Seitz, P. Imming, Chem. Rev. 92 (1992) 1227. [4] (a) H. Chen, M. Armand, G. Demailly, F. Dolhem, P. Poizot, J. -M. Tarascon, ChemSusChem 1 (2008)

348. (b) K. Chihara, N. Chujo, A. Kitajou, S. Okada, Electrochim. Acta 110 (2013) 240. 【講師略歴】

1996 年 京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了.同年スイス連邦工科大学博士研究員

1997 年 東京工業大学大学院理工学研究科助手,助教

2009 年 九州大学先導物質化学研究所准教授

2014 年 九州大学エネルギー基盤技術国際教育研究センター准教授(兼担)

X

X X

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XX

X

X X

X

XX

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X X

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XX

X

X X

X

XX

図1.ヘテロ[6]ラジアレン構造(X = NR, O)に基づく多電子酸化還元反応

O

X X

O

XX

O

X

X

XX

O

X = N or CH X = N or CH

図2.�新規電極材料候補分子

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Na イオン電池用層状酸化物系正極材料の電気化学特性

(佐賀大) 野口英行,趙文文,田中宣章

資源戦略の観点からナトリウム電池が注目されているが、ナトリウムはリチウムに比べイオン

半径が大きく酸化物イオンと遷移金属イオンで構成されるマトリックス中を拡散するのは著しく

困難と推察される。固体内をナトリウムイオンが移動する陽イオン伝導体には、ナシコン型の化

合物やβ-アルミナが知られているが、これらの化合物はポリアニオン型や層状型の化合物であれ

ばインターカレーション反応で駆動するナトリウムイオン電池用正極材料になりうることを示唆

する。著者らが層状系のナトリウムイオン電池正極材料の研究に取り組んだ理由は、リチウム過

剰層状酸化物合成の前駆体として異種金属置換型のNa2/3NixMn2-xO2系の材料を所持していた非常に

短絡的なものであった。その為、本材料系に関する発表は基本的な研究を後回しにして、取りあ

えず置換型の化合物の特性を調べてみようというものであった[1]。

P2 型 Na2/3Ni2/9M1/9Mn2/3O2(M=Mg,Al,Ni,Fe,Co)を 900℃で合成し、その Na 電池特性を調べたと

ころ放電曲線の形状が大きくことなり、Fe では連続的に電位が低下するなだらかな形状の曲線と

なるのに対し、Co,Ni では数段の電圧プラトーからなるステップ状の放電曲線となった。Mg,Al は

両者の中間的な挙動を示した。1 サイクル目の充電容量は何れも 145mAh/g(Ni は 162mAh/g)であ

るが放電容量は Mg を除くと 150mAh/g レベルの容量を示す。30 サイクル後の容量維持率は Al>

Fe>Co>Ni となり、Al の場合は 94.8%であった。この結果から金属置換がサイクル特性を向上さ

せる有効な手段となることが明らかになった。

上記の置換では Ni を置換しているので Ni モル分率も変化している。そこで基本に戻って P2 型

Na2/3NixMn1-xO2について検討した。x=1/6 までは Na2/3MnO2類似

の滑らかな放電曲線、1/3≧x≧1/5 ではステップ状の放電曲

線となる。この変化は近距離秩序が反映される IR や Raman ス

ペクトルで検出できる。右図に IR スペクトルを示すがxの増

加に伴い560cm-1の吸収が減少し、440cm-1の吸収が増大する。

Mn サイトの Ti 置換も試みた[2]。Na2/3Ni1/4Mn3/4-xTixO2(x≦

0.3)を合成し、電気化学特性を調べたところ x の増加に伴い

放電曲線の形状もステップ状からスロープ状に変化した。放

電曲線の形状は遷移金属の組成と密接に関係する。チタンの

置換は形状には影響するものの容量には影響せず何れも 150

mAh/g レベルの値を示すが x=0.3 では低下する傾向が見られ

る。Rate 特性からxの最適値を判断すると x=0.1-0.2 であ

った。Ti 置換の最大の効果はサイクル特性に現れ、4.5-2.0V

の範囲での 25 サイクル後の容量維持率は無置換のものが

68.2%であるのに対し、x=0.2 では 92.7%に達した。サイクル

後の電極の XRD 測定ではチタン置換体の場合ピークのブロードニングや強度低下は認められなか

ったが Raman ピークの強度は著しく低下し、今後の検討が必要である。

最近 NH4F を用いる低温フッ素処理でもサイクル特性が改善可能なことが分かった。

【参考文献】

[1] W. Zhao et al, Matri. Letters, 135 (2014) 131. [2] W. Zhao et al, Electrochim. Acta, 170 (2015) 171.【講師略歴】

1975九州大学大学院修士課程修了

1975佐賀大学理工学部助手

1991同上助教授

1999同上教授

Fig.1 IR spectra of Na2/3NixMn1-xO2

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二次電池用活物質としての有機材料の可能性

(産総研) 八尾勝

レアメタルを含まないリチウム二次電池用活物質の一候補として,我々は酸化還元活性なキノ

ンやインディゴ等の有機材料に着目している(図 1)[1–3]。例えば,2,5-位にメトキシ基を有する

ベンゾキノンでは,キノン骨格の 2 電子移動型の還元反応を反映して 300 mAh/g を超える高容量

が得られる[2]。また,藍染の染料として使われるインディゴ類も正極として機能し,特に周辺に

スルホネート基を持つ誘導体のインディゴカルミンを用いた電極では,初期容量の値そのものは

100 mAh/g 程度と小さいものの,1,000 サイクル以上の充放電が可能であり,寿命特性に優れてい

る[1,3]。

加えて,有機活物質のいくつかは,ナトリウム系やマグネシウム系電解液においても機能する

[4,5]。さらには,単原子イオンだけでなく,分子性イオンの利用も可能であることが分かってき

た[6]。分子性イオンを電荷担体として用いる電池の利点として,デンドライトが生成しないこと

や,将来的にはリチウムより卑な電位の可能性が拓ける等が挙げられる。有機結晶では,構成す

る分子が比較的弱い分子間力で結びついており,結晶格子は比較的フレキシビリティーが高い。

こうした結晶構造の特徴が,電荷担体種に対する高い順応性に寄与していると考えられる(図 1)。

有機材料の他の特長として温度特性が挙げられる。一般的な無機酸化物系の正極活物質の多く

が昇温時に発熱反応を示し,この点が熱暴走の一因となっている。一方で有機材料の多くは,逆

に吸熱反応を示す。この性質は,電池の熱

暴走を防ぎ,安全性を向上させる上で有用

である。

高容量と長寿命の両立や,体積エネルギ

ー密度において,克服すべき課題はいくつ

かあるが,近年はこれらの特性に関連する

因子が明らかになりつつある。上記のよう

に,有機活物質はこれまでの無機活物質に

はない特長をいくつか有しており,今まで

にないタイプの新しい電池材料として可

能性を秘めていると考えている。

【参考文献】

[1] M. Yao: Electrochemistry, 82 (2014) 682. [2] M. Yao, et al.: J. Power Sources, 195 (2010) 8336. [3] M.

Yao, et al.: Chem. Lett., 39 (2010) 950. [4] M. Yao, et al.: Sci. Rep., 4 (2014) 3650. [5] H. Sano, et al.:

Chem. Lett., 41 (2012) 1594. [6] M. Yao, et al.: Sci. Rep., 5 (2015) 10962.

【講師略歴】

1976 年生。2005 年 3 月,慶應義塾大学博士課程修了,博士(理学)。2005 年から産業技術総合研究

所関西センターに在籍。特別研究員および研究員を経て,2012 年より主任研究員。

図 1.有機活物質(DMBQ,インディゴ)が,多様な電荷担体を吸蔵するイメージ。

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ナトリウム貯蔵性無機化合物の創製とその二次電池負極への応用

(鳥取大院工,鳥取大 GSC 研究センター)薄井 洋行,坂口 裕樹 はじめに

これまでにわれわれはケイ素(Si)をはじめとする金属・合金・酸化物系材料を用い,高容量

と長寿命を両立した種々のリチウムイオン電池(LIB)負極を開発してきた.最近では,この負極

開発で得た知見をナトリウムイオン電池(NIB)に適用し,スズ[1,2]やリン[3],酸化物[4,5]から

なるナトリウム貯蔵性無機化合物の創製を展開している.本講演ではその成果の一部を紹介する. 酸化ケイ素(SiO) Si の可逆的な Na 吸蔵-放出反応はこれまで未報告である.SiO は,クラスター状の Si が SiO4

四面体マトリックス中に微分散した構造を有する(図1(a)).そこで,われわれはこのクラスター

状 Si がバルク状のそれよりも高活性であろうと推測し,SiO を負極に用いることで Si の Na 吸蔵

-放出反応の発現を検討した[4].塊状の Si を用いた電極では充放電反応が起こらなかったのに対

し,SiO の場合は Na との合金化に起因するものと思われる電位平坦部が 0.3 V vs. Na/Na+付近に

出現し,Si の結晶子サイズの減少にともない可逆容量が増加することが明らかになった(図1(b)). ルチル型酸化チタン(Rutile TiO2) ルチル型 TiO2 の粒径・結晶子サイズを最適化することで,その c 軸方向の高い Li+拡散能が活

かされ LIB 負極性能が大幅に向上することをわれわれはこれまでに見出してきた.この TiO2 を

NIB 負極に適用したところ,Li+の場合と同様に,頂点共有する TiO6 八面体で形成される空間に

Na+が可逆的に吸蔵されることを発見した(図2).また,Nb をドープすることでその電子伝導

性が 1000 倍以上に向上し,充放電サイクル性能とレート性能に改善が見られることを確認した[5].

【参考文献】[1] M. Shimizu, H. Usui, H. Sakaguchi, J. Power Sources, 248, 378 (2014). [2] H. Usui, T. Sakata, M. Shimizu, H. Sakaguchi, Electrochemistry, 83 (10), 810 (2015). [3] M. Shimizu, H. Usui, K. Yamane, H. Sakaguchi et al., Int. J. Electrochem. Sci., 10, 10132 (2015). [4] M. Shimizu, H. Usui, K. Fujiwara, K. Yamane, H. Sakaguchi, J. Alloys Compd., 640, 440 (2015). [5] H. Usui, S. Yoshioka, K. Wasada, H. Sakaguchi et al., ACS Appl. Mater. Interfaces, 7 (12), 6567 (2015). 【講師略歴】2003 年 鹿児島大学大学院理工学研究科 物質生産工学専攻 博士後期課程修了 2003 年 独立行政法人産業技術総合研究所 界面ナノアーキテクトニクス研究センター 特別研究員 2005 年 神戸大学連携創造本部 先端研究推進部門 研究機関研究員 2007 年 財団法人電気磁気材料研究所 附置研究所光学材料グループ 研究員 2009 年 鳥取大学大学院工学研究科 化学・生物応用工学専攻 助教

図1 (a) SiO が,Si と SiO2 からなる混合相であることを示す模式図.クラスター状 Si が SiO4 四面体マトリックス中に微分散した状態で存在する.(b) 顆粒状の SiO をミリング処理した粉末からなる電極の可逆容量と Si クラスターの結晶子サイズの関係.

図2 ルチル型 TiO2 の Na 吸蔵サイト.ルチル型 TiO2 が可逆的に Na+を吸蔵-放出し,Nb のドープによりその充放電性能が大幅に向上することを見出した.

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ガラスセラミックスによるリン酸系活物質の合成とその特徴

(長岡技術科学大学)本間剛,小松高行

はじめに

当研究グループでは前駆体ガラスからの結晶化よる正

極活物質の合成プロセスを確立し、三斜晶系Na2FeP2O7(以後 NFP)ガラスセラミックスを見出し、ナトリウム

電池おいて良好な正極活物質(3.0V,91mAh/g)として機

能することを明らかにしている[1]-[3]。図1には既知の

ナトリウムイオン電池材料を電位、理論容量の関係を示

す。負極ではスズリン酸系ガラスについて注目している

[4]。結晶化した NFP 粒子の表面あるいは結晶粒界には非

晶質層の存在を、これまでの研究で明らかにしているが、

その物性については明らかになっていない。アルカリイ

オン伝導において非晶質材料は自由体積が大きいこと

からイオン伝導体としては従来から注目されているが、

正極活物質の機能性が付与された非晶質物質の機能性

は大変興味深い。本発表ではリン酸鉄系正極のガラス結

晶化のメカニズムと、電気化学的特性、そして非晶質相

の活物質としての機能性について報告する。

リン酸鉄ナトリウムガラスのガラス化と電気化学特性

図 2 にはリン酸鉄ナトリウム系の結晶組成と溶融法によ

るガラス化範囲を示す。評価に用いたガラス組成は、

xFeO-(100–x)[Na2O-P2O5]とした。この組成には対応する

結晶(Na2FeP2O7,Na4Fe3(PO4)2P2O7,NaFePO4)が含まれる。

x=45の組成までが溶融急冷によって作製可能である

ことが分かった。各試料を活物質として充放電したとこ

ろ、x=40の組成では Na2FeP2O7 の理論容量(97mAh/g)

を上回る 115mAh/g を示した。組成設計によってはさら

に容量増大の可能性を有する。

また、結晶化で残存するガラス層は活物質として機能することを示しており、結晶とガラスの

活物質としての機能性に加えて、ガラスが有する賦形性を活用でき、活物質―固体電解質の接合

容易な全固体電池が構築できるものと期待される。

【参考文献】

[1] T.Honma, T.Togashi, N.Ito, T.Komatsu, J. Ceram. Soc. Jpn., 120(1404), 344-346 (2012). [2] T.Honma, N.Ito, T.Togashi, A.Sato, T.Komatsu, J. Power Sources, 227, 31-34 (2013). [3] T.Honma, A.Sato, T.Togashi, N.Ito, K.Shinozaki, T.Komatsu, J. Non-Cryst. Solids, 404 26-31(2014). [4] T.Honma, T.Togashi, H.Kondo, T.Komatsu, H.Yamauchi, A.Sakamoto, T.Sakai, APL Materials, 1 (5), 052101 (2013).

【講師略歴】

2004 年 長岡技術科学大学大学院工学研究科エネルギー環境工学専攻修了

2004 年 三菱電機(株)先端技術総合研究所 研究員

2007 年 長岡技術科学大学 物質・材料系 助教

2014 年 長岡技術科学大学大学院物質材料工学専攻准教授現在に至る

図 1 ナトリウムイオン電池材料の

容量と電位の関係

図 2 ナトリウム鉄リン酸における

結晶と溶融法によるガラス化範囲