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(1) 木質バイオマスとは (木質バイオマスの種類と発生源) 「バイオマス」とは、生物資源(bio)の量(mass)を表し、一般に「再生可能な、生物由来の有機性資源(化石燃料は除 く)」のことを指します。そのなかで、木材からなるバイオマスのことを「木質バイオマス」と呼びます。木質バイオマスは その発生源によって以下のようなものがあげられます。 このうち、製材端材や建築物解体材等は、木材乾燥の燃料や、紙パ ルプ、木質ボード原料、家畜敷料、木質ペレット等の製造原料として 既に利用が進んでおり、約95%が利用されています。これらに対し、 森林整備等で発生する未利用間伐材等(以下、未利用材) はその搬 出や運搬のコストがかかることから森林内に放置され、 年間約2千 万㎥の林地残材(未利用材) が発生していると推計されています。 そのため、木質バイオマスの活用にあたっては未利用材等の活用 が不可欠であり、それらを有効活用することで経済価値をもたせ、 林業振興と森林整備の推進に寄与することが期待されています。 木質バイオマスの概要 2-1 木質バイオマスエネルギー編 発 生 源 バイオマスの種類 林   業 製材工場等 建築物解体 そ の 他 土 木 建 設 (6)木造建築物等の解体により発生する乾燥した木質の産業廃棄物 (7)その他、果樹・公園等の剪定枝等、木質の産業廃棄物、一般廃棄物 (5)林道、道路、造成工事等により発生する支障木等の産業廃棄物 (1)森林において従来林地残材等であった切り捨て間伐材、低質材(病虫害含む)、根元等の未 利用部分、枝条等、森林整備で出てくる生木由来資源 (2)土場、木材市場等で集材されたが結果的に需要がなかった原木 (3)製材所、チップ工場等で発生する樹皮、背板等、乾燥していない製材端材等 (4)集成材工場、プレカット工場、製材所等で発生する乾燥後の製材端材等 木質バイオマスの発生源(木質バイオマスの新利用技術アドバイザリーグループ第1回会合資料)より 木質バイオマスの発生量と利用の現況(推計) (農林水産省「バイオマス活用推進基本計画」H22.12) 12

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第2章

第2章

木質バイオマスエネルギー編

(1) 木質バイオマスとは

(木質バイオマスの種類と発生源)「バイオマス」とは、生物資源(bio)の量(mass)を表し、一般に「再生可能な、生物由来の有機性資源(化石燃料は除

く)」のことを指します。そのなかで、木材からなるバイオマスのことを「木質バイオマス」と呼びます。木質バイオマスは

その発生源によって以下のようなものがあげられます。

このうち、製材端材や建築物解体材等は、木材乾燥の燃料や、紙パ

ルプ、木質ボード原料、家畜敷料、木質ペレット等の製造原料として

既に利用が進んでおり、約95%が利用されています。これらに対し、

森林整備等で発生する未利用間伐材等(以下、未利用材)はその搬

出や運搬のコストがかかることから森林内に放置され、年間約2千

万㎥の林地残材(未利用材)が発生していると推計されています。

そのため、木質バイオマスの活用にあたっては未利用材等の活用

が不可欠であり、それらを有効活用することで経済価値をもたせ、

林業振興と森林整備の推進に寄与することが期待されています。

木質バイオマスの概要2-1

木質バイオマスエネルギー編

発 生 源 バイオマスの種類

林   業

製材工場等

建築物解体そ の 他

土 木 建 設(6)木造建築物等の解体により発生する乾燥した木質の産業廃棄物(7)その他、果樹・公園等の剪定枝等、木質の産業廃棄物、一般廃棄物

(5)林道、道路、造成工事等により発生する支障木等の産業廃棄物

(1)森林において従来林地残材等であった切り捨て間伐材、低質材(病虫害含む)、根元等の未利用部分、枝条等、森林整備で出てくる生木由来資源

(2)土場、木材市場等で集材されたが結果的に需要がなかった原木

(3)製材所、チップ工場等で発生する樹皮、背板等、乾燥していない製材端材等(4)集成材工場、プレカット工場、製材所等で発生する乾燥後の製材端材等

木質バイオマスの発生源(木質バイオマスの新利用技術アドバイザリーグループ第1回会合資料)より

木質バイオマスの発生量と利用の現況(推計)(農林水産省「バイオマス活用推進基本計画」H22.12)

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第2章 木質バイオマスエネルギー編

(2) 未利用材と森林・林業

(森林・林業の現状)日本の森林資源量はスギ・ヒノキ等の針葉樹を中心とした人工林、広葉樹を中心とした天然林とともに年々増加して

おり、年間の成長量は約1億㎥(*1)とされています。特に昭和30~40年代の拡大造林期に植林された人工林が利用可

能な伐期を迎え、蓄積量は年々増加しています。しかし国産材需要の減少と木材価格の低迷・林業従事者の不足により、

森林整備の遅れが慢性的な課題となっています。さらに、所有界の不明や不在村地主の増加が森林整備の遅れに拍車

をかけています。

日本の木材自給率は昭和35年頃は90%以上でしたが、現在は約30%近くです。平成25年度の国産材供給量は

2,111万7千㎥で、林地残材のうち利用を目的にチップ工場に搬入されたのは29万9千㎥です。森林資源の利用は成

長量の範囲内で行うことが原則ですが、現況の国産材供給量は成長量の約4分の1となっています。

ただし、樹齢があがれば成長量は鈍化します。現在のような齢級の偏った構成のまま推移すれば、持続可能な資源管理

はできなくなります。木材を活用し、主伐と一体となった再造林や天然更新等により、森林を循環利用することが必要です。

第2章

木質バイオマスエネルギー編

(*1) 「木質バイオマスの活用による地域活性化の促進」(平成26年11月林野庁)より  (図)左上 林野庁ホームページ 統計情報より他「我が国の森林・林業及び木材利用の概観について」(平成23年4月林野庁木材利用課)より

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第2章

木質バイオマスエネルギー編

(林業由来の未利用材発生状況)未利用材は、間伐材、低質材(病虫害含む)、根元等の未利用部分、枝条等、森林整備の際に発生します。これまでの間

伐では、製材用材等となる部分(幹の太い良質な部分)は造材して使われてきましたが、それ以外は森林内に捨てられ

林地残材となってきました。

近年は集成材(板材を貼り合わせたもの)や合板(木材をかつらむきにして板状にしたもの)の製造設備が整い、小径

木や多少の曲がり材でも利用が進んでいますが、それでも利用しにくい材や大曲がり材、腐食や病虫害被害材等は、伐

採しても採算が合わないことから搬出されずに林地に残されることがあります。これらが、木質バイオマスとして注目さ

れています。

平成24年度から森林環境保全直接支援事業の基準が面積から搬出材積に変わり、従来未利用材扱いであった低質

材等も、搬出して木質チップ等として資源利用・エネルギー利用に供すれば補助金の対象となります。FIT制度の導入で

未利用材由来の木質バイオマスを燃料とする発電の単価が優遇されたこともあって、未利用材の搬出・利用は進んでい

ます。

なお、表土保護の観点から、枝葉や伐り捨て材は林地に残すほうがよい場合もあり、地形や林相にあわせた判断が必

要です。

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第2章 木質バイオマスエネルギー編

第2章

木質バイオマスエネルギー編

下川町森林組合ホームページ(http://www.shimokawa.jp/shinrin/)より*集成材加工は平成26 年6 月1 日より下川フォレストファミリー㈱へ移管

(木材の総合的利用の推進)木材は、適切に森林を管理すれば半永久的に再生産できる資源であるとともに、廃材からも新たな製品をつくること

ができるため、循環利用が可能な優れた資源です。建築、木製品、紙製品はもとより、木質プラスチック等の新素材の開

発も進められています。最後は化石燃料に代わるクリーンなエネルギー源として利用できます。

例えば北海道下川町では、森林資源を町の産業と雇用の源となる「基本財産」と位置づけ、60年周期で循環型森林経

営を行いながら、収穫した木材をあますところなく活用しています(下図)。

(エネルギー利用への期待)林地残材は、燃料用等で採算のあう価格で販売できれば搬出が可能です。一方、燃料は付加価値をつけることは難し

いため、いかに低コストで供給できるか、そしてそのエネルギー価値をどれだけ引き出せるかが重要になります。そのた

めには、用材生産とあわせた効率的な生産供給体制と、燃焼装置や利用形態を適切に選択し、地域の供給量に見合った

規模のエネルギー利用を考える必要があります。

その際注意しなければならないのは、「未利用材」「林地残材」は、通常の森林施業の「副産物」として発生するというこ

とです。間伐であれ主伐であれ、製材用材の収穫及びそのための育林を前提とした施業によって初めて発生します。そ

のため、常に、地域の林業・木材産業や物流の状況とからめて木材の有効活用を推進し、未利用材を生じさせないことが

重要です。15

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第2章

木質バイオマスエネルギー編

(広葉樹林や里山林の再生とエネルギー利用)広葉樹林は人工林の一部と天然林のほとんどを占め、パルプ、きのこホダ木、薪炭材、一部の工芸品や家具用材等とし

て利用されています。しかし、需要の低下、とりわけかつて主要な用途であった薪炭利用が激減したことから、放置林が

増加し、大径木化して病虫害の発生や獣害被害の温床になるなど、森林だけでなく山村地域での生活環境にも影響を及

ぼしています。広葉樹の伐採搬出には技術を要しますが、そのような技術の継承も危機にあります。

また、地域住民が伝統的に活用してきた身近な森林は里山林と呼ばれますが、現況では山村地域においても人々と森

林の関わりは疎遠になり、針葉樹広葉樹とも放置林が増え、多様な森林資源を持続的に活用する知恵も継承の危機にあ

ります。

広葉樹林や里山林再生の課題としては、需要や利用価値の問題に加え、広葉樹の樹形や所有規模の小ささ等から効

率的な施業がしにくくコストがかかりすぎること、大径木化し地域住民には伐採できない状況になっていることなどがあ

げられます。しかし広葉樹や里山林から生まれる資源も木質バイオマスとして現代社会に即したエネルギー利用が可能

です。林業事業体や地域住民等が協力して整備活用し、萌芽更新のサイクルを取り戻すなど、健全な森林にしていくこと

が必要です。

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第2章 木質バイオマスエネルギー編

第2章

木質バイオマスエネルギー編

【資料111】「木質バイオマス導入マニュアル 山形県最上地域木質チップボイラ導入編」(平成25年10月山形県最上総合支庁)より

(3) 木質バイオマスのエネルギー利用

(木質バイオマスのエネルギー変換技術と利用形態)木質資源をエネルギーに変換する技術は、直接燃焼、熱分解、生物化学的分解の大きく3つがあります。この手引きで

は、主に直接燃焼による発電及び熱利用を扱い、一部、ガス化発電を取り上げます。

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第2章

木質バイオマスエネルギー編

(燃料の形態と利用適性)燃料の種類は、薪、木質チップ、木質ペレットが主で、燃焼装置により燃料形態が異なります。木粉や木くず、粉砕バーク

などを燃料にする(混合できる)ものもあります。燃料製造コストは薪・チップ・ペレットの順に高くなります。日本では薪

やペレットはストーブや小規模ボイラーで主に利用されます。チップは小規模から大規模まで利用されており、発電では

主に木質チップが利用されます。チップには加工法・形状の違いで破砕チップと切削チップがあり発電用の大規模ボイ

ラーでは破砕チップと切削チップを混合利用する例や、粉砕バーク等を混合する例もあります。海外では、木質ペレット

を用いた発電の例もありますが、日本では熱利用が主になっています。

燃料の種類と特徴の詳細は2-2、2-3で扱います。

(木材のエネルギー価値と熱効率)木材は、熱エネルギーのかたまりです。潜在的には、木材3~4kgで灯油1リットル相当の発熱量を持っています(木材

は水分40%、低位発熱量)。しかし燃焼装置の性能によってその熱量をどれだけ有効に引き出せるかは異なります。装置

のエネルギー効率(熱効率)は、燃料の価値にも関わります。効率が違えば同じ出力を得るために消費する燃料の量も異

なってきます。

また水分もエネルギー効率に影響します。水分の蒸発に熱エネルギーを消費してしまい、利用できる熱エネルギーが

少なくなるからです。そのため直接燃焼では、乾燥した木質バイオマスを使用することが基本です。

木質バイオマスの利用は、熱利用であればボイラー効率が70~85%程度と高いのですが、発電の場合、総合的なエ

ネルギー効率は良くても30%程度と言われており、潜在熱量の有効利用という点では、前者の方が燃料としての価値

は高いといえます。

ただし、FIT制度では生産された電気を有価で買い取ることでエネルギー源の価値を高めており、実際の導入にあ

たっては、熱量だけではなく、制度や設備導入のイニシャルコスト、燃料化のための乾燥・製造等のランニングコストを加

味して経済性を考える必要があります。

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第2章 木質バイオマスエネルギー編

第2章

木質バイオマスエネルギー編

■単位発熱量

 灯油1リットルは36.7MJ

 木質バイオマス1kg は約10MJ(水分40%、低位発熱量)

■装置のエネルギー効率をふまえた熱量

 灯油ボイラーの効率は通常約90%

 1リットルの灯油から取り出せる熱量は36.7MJ/L×1L×0.9=33MJ

 木質バイオマス利用装置の効率が80%の場合 1kgの木質バイオマスは、 10MJ×1kg×0.8=8MJ

 1リットルの灯油と同じ熱量を得るのに必要な木質バイオマス量は、33MJ÷8MJ=4.1kg

 木質バイオマス利用装置の効率が30%の場合、1kgの木質バイオマスは、10MJ×1kg×0.3=3MJ

 1リットルの灯油と同じ熱量を得るのに必要な木質バイオマス量は、 33MJ÷3MJ=11kg

■エネルギー価値の金額換算

 灯油1リットル=100円として、木材のエネルギー価値を灯油単価を基準に金額に換算すると、

 水分40%のスギ1㎥の重量は約530kgなので、

 エネルギー効率80%の装置を利用した場合 スギ1㎥ 530kg÷4.1kg×100円=12,926円

 エネルギー効率30%の装置を利用した場合 スギ1㎥ 530kg÷11kg×100円= 4,818円

 となります。

 なおこの試算は、木=エネルギー=価値 をイメージするためのものです。実際に利用する際の原木価格等は、

 設備のイニシャルコスト・ランニングコスト等を踏まえて検討する必要があります。

 木材の含水率の表現は2種類あります。

「乾量基準含水率(ドライ・ベース)」:全乾重量(水分を含まない木部のみの重量)に対する水分重量の割合

「湿量基準含水率(ウエット・ベース)」:木材総重量に対する水分重要の割合 「水分」と表現することもある

木材産業ではドライ・ベースが主に使われますが、エネルギー利用では主にウエット・ベースが使われます。

 本手引きでは、ウエット・ベース含水率を「水分」として使用します。

木質バイオマスの熱効率と経済的な価値の試算コラム

含水率・水分コラム

含水率(w.b)=(水分)

水分重量

全幹重量 + 水分重量×100

含水率(d.b)=水分重量

全幹重量×100

水分=50%含水率(d.b)=100%

水重量…5

木部重量(全乾重量)…5

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第2章

木質バイオマスエネルギー編

(木質バイオマスの経済価値の考え方)木質バイオマス資源の活用を地域で促進するには、流通を円滑にし明朗な基準で公平に取引ができるよう、取引基準

(品質・単位・価格の基準)を決めておくことが重要です。

木質資源は部位・形態(加工度)・水分によって、同じ原料であっても、容積も重量も変化します。例えば、原木をチップ

にすれば容積は3倍になり、乾燥が進めば同じ容積でも重量は軽くなります。また燃料利用の場合は、根元部や末木枝条

など、従来の素材形態(丸太)とは異なるものもあります。素材生産業者は通常、材積(立米=㎥)単位で丸太の取引をす

ることが一般的です。一方、チップ事業者は重量(トン)単位が一般的で、中でも紙パルプ業界では絶乾重量換算で取引

きするなど、同じ木材でも業界によってそれぞれ基準があります。

燃料利用の場合、原木を薪/チップ/ペレットなどに加工しますが、加工の前後に運送が入ります。トン-立米換算の係数

はもちろんのこと、燃料利用では水分の多寡がエネルギー価値に関わるため、形状と共に水分のことも考慮する必要が

あります。

例えば、原木・原料については、トン-立米換算の係数を実証実験を経て設定した例や、素材生産業者の通常取引に合

わせ、生木(伐った直後)の丸太を材積基準で買い取っているところもあります。

チップについては、価格を水分に応じて4段階にする(P30参照)、出荷ごとに水分を測定し絶乾換算とする【事例09

(雲南)】などの例があります。

原木から加工所と加工所から燃料利用施設の取引基準は、素材供給側から燃料需要側までのすべての利害関係者

(ステークホルダー)が納得できる内容で取り決め、取引の公平性、透明性、円滑化を図ることが、流通と活用促進のため

に重要です。

なお、燃料用木質チップに関しては、「木質バイオマスエネルギー利用推進協議会」が、全国木材資源リサイクル協会

連合会、および全国木材チップ工業連合会の協力を得て、「原料」「含水量」「寸法・形状」「灰分」の各項目で燃料用木質

チップの品質規格策定を進めています。

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第2章 木質バイオマスエネルギー編

第2章

木質バイオマスエネルギー編

(4) 発電と熱利用の主な違い

ここでは、木質バイオマス発電と木質バイオマスボイラー等による熱利用について、両者の違いを森林資源管理と地

域活性化の観点から概観します(発電は、未利用材を主な燃料とする5,000kW級の例、熱利用は市町村の範囲内での

公共利用の例をもとにしています)。

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第2章

木質バイオマスエネルギー編

発電と熱利用の主な違いとして、 ①規模 ②燃料供給体制 ③森林資源や林業に及ぼす影響 ④地域経済・社会

に及ぼす影響 を上げることができます。

① 資源利用の規模発電と熱利用では、エネルギー効率の違いに加え、装置の規模が全く異なり、必要な燃料利用量の規模も一桁以上の

違いがあります。森林由来の木質バイオマスのみを燃料として利用する場合、ヘクタールあたりの総搬出量100㎥でう

ち半分を燃料用に供すると仮定すると、20年間で必要な森林面積は、5,000kW発電(7万t/年使用)なら3万5千ha

の面積になります。公共施設等での熱利用の規模で2,000t/年を利用するなら20年間で1千haとなります。

② 燃料供給体制この違いは燃料用材の供給体制や林業の素材生産のあり方に影響します。

発電では大量に燃料が必要なので、いかに低コストで生産供給するかが重要であるため、集約化、高性能林業機械の

導入等生産基盤の再構築、木材流通体制の検討等が必要になります。

熱利用の場合、数万㎥の素材生産が従来行われている地域であれば、林業事業体にとっては従来の生産体制にプラ

スアルファする、あるいは段階的に生産基盤を整えていくことで対応が可能と考えられます。また、林業事業体等からの

最低限の燃料確保を前提に、住民参加型の小規模収集システムの併用など、柔軟な体制構築が可能です。

③ 森林資源や林業に及ぼす影響木質バイオマス発電は、林地残材等の未利用材の「大口需要先」が確保できるため、荒廃しつつある森林の整備を強

力におしすすめ、森林環境を変える影響力をもちます。燃料利用が期待される「未利用材(林地残材)」は素材生産ととも22

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第2章 木質バイオマスエネルギー編

第2章

木質バイオマスエネルギー編

に発生しますので、燃料供給体制の構築が、地域の林業そのものの再構築の契機になりえます。しかし同時に、木質バイ

オマス発電所は安定的な電力を供給する責任も負っています。そのため、林業本流(用材生産)の振興を軸に、地域の関

係者が問題意識を共有し、長期的な森林資源管理ビジョンのもとで進めなければなりません。

木質バイオマス熱利用は、供給から需要まで地域内で完結させることが可能です。発電利用に比較して燃料の消費量

は少量であり、林地残材等を活用しても林業事業体の生産体制にはあまり影響せず、森林環境を変えるには長期間の取

り組みが必要と考えたほうがよいでしょう。また、発電は売電価格が固定されているのに対し、熱は需要先が決まってい

ないため需要創出から取り組む必要があります。その際、地域の森林からの供給力を、資源と人材の面から考え、どの程

度の需要があれば供給事業が採算にあうのか、需要と供給を一体的に規模設計する必要があります。

④ 地域経済・社会に及ぼす影響木質バイオマス発電はFIT制度で売電する場合、電力代金として主に都市部の資金が地域内に還流し、燃料としての

木が売れることによる経済効果、発電事業としての雇用等も生まれます。また、排余熱の有効利用等で農業分野や養殖

業への活用等、地域の産業と結び着いた取り組みが始まろうとしています。

熱利用の場合は、化石燃料代が地域外(国外)に出て行くことを抑止することにより、地域内にお金が残ります。その効

果を地域活性化に活かすには、木質燃料代として還元するだけでなく、地域通貨の導入等、独自の仕組みをつくることで

資源と経済循環の展開が可能です。

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