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2 章 最適設計の基礎 畔上 秀幸 名古屋大学 情報科学研究科 複雑系科学専攻 February 25, 2009

第2章最適設計の基礎 - ocw.nagoya-u.jpocw.nagoya-u.jp/files/38/chap_2.pdf評価関数の勾配を微分の連鎖則によって求める方法を,この教材で は直接法という.

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第 2章最適設計の基礎

畔上秀幸

名古屋大学情報科学研究科複雑系科学専攻

February 25, 2009

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§1 はじめに

目標1次元弾性体の簡単なシステムを取り上げて,最適設計問題の構成を理解する.

システムの状態を記述する状態変数と設計対象を記述する設計変数が存在する.状態変数を決定する状態方程式が制約に入る.設計変数の変動に対する評価関数の微分を Frechet微分に従って定義し,それに基づいて勾配を定義する.評価関数の勾配を微分の連鎖則によって求める方法を,この教材では直接法という.評価関数の勾配を Lagrange乗数法により求める方法随伴変数法という.直接法は多制約問題に有利である.随伴変数法は多設計変数問題に有利である.

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§2状態方程式

最も簡単なシステムの一つとして,次の問題を考えよう.

.

問題 2.1 (1次元弾性体の変形問題)

.

.

.

2つの 1次元弾性体を図のように連結したシステムにおいて,外力p= (p1, p2)T ∈ R2が与えられたときの変位 u = (u1,u2)T ∈ R2を決定する状態方程式 (state equatiion)をポテンシャルエネルギー最小原理より求めよ.ただし,2つの弾性体の断面積を a = (a1, a2)T ∈ R2とする.長さと縦弾性係数 (Young率)は共通で定数 l, Eとする.�

p1

u1 u2

a1

l

a2p2

l

x

この問題では,次のように呼ぶことにする.

変位 u ∈ R2を状態変数 (state variables),R2を状態空間 (statespace)という.

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.

定義 2.1 (構成則)

.

.

.

連続体力学では,力と変形の関係を与える方程式を構成則] (constitutivelaw)という.ここではひずみ (strain) ε(u)と応力 (stress) σ(u)が p ∈ Rと u ∈ Rに対して Hookeの法則 (Hooke’s law)により関連付けられていると仮定する.

σ(u) = Eε(u) where σ(u) =pa

and ε(u) =ul�

【問題 2.1の解答】ポテンシャルエネルギー最小原理は次のとおりである.十分条件は 1章の例題 1.3と同様に示せる.

P(u1,u2) =12

El

a1u21 +

12

El

a2(u2 − u1)2 − p1u1 − p2u2

∂P∂u1=

El

a1u1 −El

a2(u2 − u1) − p1 = 0

∂P∂u2=

El

a2(u2 − u1) − p2 = 0

∴El

(a1 + a2 −a2

−a2 a2

) (u1

u2

)=

(p1

p2

).

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§3最適設計問題問題 2.1に関して,次の最適設計問題を考えよう.

.

問題 3.1 (外力仕事最小化問題)

.

.

.

問題 2.1の pを既知として,外力仕事 J(0) (u) = p · uが最小となる断面積 a ∈ S =

{a ∈ R2

∣∣∣ a > 0}を求めよ.ただし, m0は定数である.

min(0,0)<(a1,a2)∈R2

{J(0) (u) =

(p1 p2

) (u1

u2

)}s.t.

El

(a1 + a2 −a2

−a2 a2

) (u1

u2

)=

(p1

p2

), J(1) (a) = l (a1 + a2) −m0 ≤ 0 �

この最適化問題を例に挙げて,用語を定義しよう.

断面積 aを設計変数 (design variables),Sを許容集合 (admissibleset),R2を設計空間 (design space)という.

J(0) (u)を目的関数 (object function),J(1) (a)を制約関数 (constraintfunction)という.この教材では,目的関数と制約関数を合わせて評価関数 (cost function)と呼ぶことにする.

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§4勾配第 1章で定義した勾配を一般化する.まず,微分を一般化する.

.

定義 4.1 (Gateaux微分)

.

.

.

空ではない開集合 S ⊂ U (ここでは U = Rn (n ∈ N))上の写像 f : S→ V(ここでは V = Rm (m ∈ N))を考える.ある x ∈ Sと任意の h ∈ U に対して次式を満たす線形写像 f ′ (x) (h) : U 3 h 7→ f ′ ∈ Vが存在するとき,f ′ (x) (h)を f の Gateaux微分 (Gateaux derivative)という.

f ′ (a) (h) = limε→0

( f (x + εh) − f (x)) �

.

定義 4.2 (Frechet微分)

.

.

.

空ではない開集合 S ⊂ U 上の写像 f : S→ Vを考える.ある x ∈ Sと任意の h ∈ Vに対して次式を満たす線形な関数f ′ (x) (h) : U 3 h 7→ f ′ ∈ Vが存在するとき, f ′ (x) (h)を f の Frechet微分 (Frechet derivative)という.ただし,‖ · ‖は Vのノルムである.

lim‖h‖→0

| f (x + h) − f (x) − f ′ (x) (h)|‖h‖ = 0 �

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Frechet微分可能であれば,Gateaux微分可能である.本教材では,Frechet微分可能が容易に示せるときに Frechet微分を用いることにする.上記の定義を用いて,勾配を次のように定義する.

.

定義 4.3 (勾配)

.

.

.

V (ここでは V = Rn (n ∈ N))上で定義された実写像 f : V → Rを考える.ある x ∈ Vと任意の h ∈ Vに対して f ′ (x) (h)を f の Gateaux微分(あるいは Frechet微分)とする. f ′ (x) (h)の hに対する線形性に注目すれば,次のように書ける.

f (x + εh) = f (x) + ε f ′ (a) (h) + o(|ε |)= f (x) + ε 〈G (a) , h〉 + o(|ε|)

ここで,G (a) ∈ V∗ を勾配 (gradient)という.V∗ (ここでは V∗ = Rn)はVの双対空間 (dual space)あるいは共役空間,随伴空間 (adjoint space)である.〈 · , · 〉は V × V∗ の双対積 (ここでは Rnの内積)である (詳細は4章で定義する).�

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ある h ∈ R2と ε > 0に対して,aが a+ εhに変動したときの状態方程式の解を uε とする. J(0) (u)の Frechet微分は任意の εh ∈ R2に対して次式を満たす線形な関数 J(0)′ (a,u) (εh) ∈ Rが存在することである.

lim|εh|→0

∣∣∣J(0) (uε) − J(0) (u) − J(0)′ (a,u) (εh)∣∣∣

|εh| = 0

このとき,J(0)′ (a,u) (εh)が εhに対して線形な関数であることに注目すれば,次のように書ける.ここで,G(0) (a,u) ∈ R2を勾配 (gradient)という.

J(0) (uε) = J(0) (u) + J(0)′ (a,u) (εh) + o(|εh|)= J(0) (u) + εG(0) (a,u) · h + o(|εh|)

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§4.1直接法

問題 3.1の勾配 G(0) (a,u)を,微分の連鎖則を使って求める方法を,ここでは,直接法と呼ぶ.

.

解答 4.1 (直接法)

.

.

.

問題 3.1の J(0) (u)に微分の連鎖則を適用すれば,次式が成り立つ.

J(0) (uε) = J(0) (u) + ε(p1 p2

) (u′1u′2

)+ o(ε)

= J(0) (u) + ε(p1 p2

) ∂u1

∂a1

∂u1

∂a2∂u2

∂a1

∂u2

∂a2

(h1

h2

)+ o(ε) (4.1)

ただし, u′ ∈ R2は uの εhに対する Gateaux微分の定義に従う.

u′ = limε→0

uε − uε,∂ui

∂a1= limε→0

ui (a1 + εh1,a2) − ui (a1, a2)ε

, · · ·

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一方,aと (a1 + εh1,a2)T の状態方程式の差より,次式が成り立つ.

El

(1 00 0

) (u1

u2

)+

El

(a1 + a2 −a2

−a2 a2

) ∂u1

∂a1∂u2

∂a1

=(00

)

∂u1

∂a1∂u2

∂a1

=

1a1

1a1

1a1

1a1+

1a2

(1 00 0

) (u1

u2

)=

−u1

a1

−u1

a1

(4.2)

同様に,aと (a1,a2 + εh2)T の差より,次式が成り立つ.

El

(1 −1−1 1

) (u1

u2

)+

El

(a1 + a2 −a2

−a2 a2

) ∂u1

∂a2∂u2

∂a2

=(00

)

∂u1

∂a2∂u2

∂a2

=

1a1

1a1

1a1

1a1+

1a2

(

1 −1−1 1

) (u1

u2

)=

0

−u2 − u1

a2

(4.3)

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式 (4.2) , (4.3)を (4.1)に代入して,次式を得る.

J(0) (uε) = J(0) (u) + ε(p1 p2

) −u1

a10

−u1

a1−u2 − u1

a2

(h1 h2

)+ o(ε)

= J(0) (u) + ε(−u1

a1(p1 + p2) −u2 − u1

a2p2

) (h1

h2

)+ o(ε)

= J(0) (u) + εG(0) (a,u) · h + o(ε)

状態方程式の解は次式となる.

(u1

u2

)=

lE

1a1

1a1

1a1

1a1+

1a2

(p1

p2

)=

lE

p1 + p2

a1p1 + p2

a1+

p2

a2

したがって,ε(u) = u/l, σ(u) = Eε(u)とすれば,次式が成り立つ.

G(0) = −El

(u1u1

(u2 − u1)2

)= l

(−σ(u1)ε(u1)−σ(u2)ε(u2)

)�

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§4.2随伴変数法

問題 3.1の勾配 G(0) (a,u)を, Lagrange乗数法で求める方法を随伴変数法 (adjoint variable method)と呼ぶ.

.

解答 4.2 (随伴変数法)

.

.

.

問題 3.1の J(0) (u)と状態方程式の制約に対して Lagrange乗数法を適用する.状態方程式に対する Lagrange乗数を随伴変数と呼び, v ∈ R2

とする. Lagrange乗数形式は次式となる.

L(0) (a,u, v) =(p1 p2

) (u1

u2

)−

(v1 v2

) (El

(a1 + a2 −a2

−a2 a2

) (u1

u2

)−

(p1

p2

))第 1章の定理 2.2を根拠に,L(0) (a,u, v)の u, vに対する停留条件を求めよう.a+ εhのときの Lagrange乗数形式は次式となる.

L(0)ε = L(0) (a+ εh,u + εu′, v+ εv′) = (p1 p2

) (u1 + εu′1u2 + εu′2

)−

(v1 + εv′1 v2 + εv′2

) (El

(a1 + εh1 + a2 + εh2 −a2 − εh2

−a2 − εh2 a2 + εh2

) (u1 + εu′1u2 + εu′2

)−

(p1

p2

))

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上記 2式より,L(0) (a,u, v)の Gateaux微分の計算を経て,勾配G(0)

L (a,u, v) ∈ R2を得る.

L(0)′ (a,u, v) = limε→0

L(0)ε − L(0)

ε

=(p1 p2

) (u′1u′2

)−

(v′1 v′2

) (El

(a1 + a2 −a2

−a2 a2

) (u1

u2

)−

(p1

p2

))−

(v1 v2

) El

(h1 + h2 −h2

−h2 h2

) (u1

u2

)−

(v1 v2

) El

(a1 + a2 −a2

−a2 a2

) (u′1u′2

)= −

(v′1 v′2

) (El

(a1 + a2 −a2

−a2 a2

) (u1

u2

)−

(p1

p2

))−

(u′1 u′2

) (El

(a1 + a2 −a2

−a2 a2

) (v1

v2

)−

(p1

p2

))− E

l

(u1v1 (u2 − u1) (v2 − v1)

) (h1

h2

)= G(0)

L (a,u, v) · h

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任意の h ∈ R2に対して,u′ ∈ R2, v′ ∈ R2が変動する.したがって,uと vに対する停留条件は次式となる.

El

(a1 + a2 −a2

−a2 a2

) (u1

u2

)=

(p1

p2

)El

(a1 + a2 −a2

−a2 a2

) (v1

v2

)=

(p1

p2

)最初の式は,uを決める状態方程式である.第 2式は vを決める関係となり,随伴方程式と呼ばれる.この式と状態方程式との比較より,v = uを得る.この関係は,ある状態方程式に対してある一つの特別な関数に対して成り立ち,自己随伴 (self-adjoint)と呼ばれる.

uに状態方程式の解を用いれば,直接法と同じ結果に至る.

G(0)L (a,u, v) · h = G(0) (a, u) · h = −E

l

(u1v1 (u2 − u1) (v2 − v1)

) (h1

h2

)= l

(−σ(u1)ε(v1) −σ(u2)ε(v2)

) (h1

h2

)

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§4.3最適性の必要条件

問題 3.1の最適性の必要条件を求めよう.J(1) (a)の制約に対して Lagrange乗数 λ(1) ∈ Rを用いることにすれ

ば, Lagrange乗数形式 Lは次のようになる.

L(a,u, v, λ(1)

)= J(0) (u) + λ(1)J(1) (a)

Lの勾配 GL ∈ R2は次式となる.

L′ = GL · h = G(0) (a,u) · h + λ(1)G(1) (a) · h

ただし,G(0) (a,u)は前項で求めた.G(1) (a)は次式となる.

G(1) (a) · h =(∂J(1)

∂a1

∂J(1)

∂a2

) (h1

h2

)=

(l l

) (h1

h2

)

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1章の定理 3.2より,KKT条件は次式となる.

G(0) (a, u) + λ(1)G(1) (a) = l

(−σ(u1)ε(u1)−σ(u2)ε(u2)

)+ λ(1)l

(11

)=

(00

)(4.4)

J(1) (a) = l (a1 + a2) −m0 ≤ 0

λ(1)J(1) (a) = 0

λ(1) ≥ 0

式 (4.4)は次の条件を意味する.

σ(u1)ε(u1) = σ(u2)ε(v2) = λ(1)

この関係は,ひずみエネルギー密度12σ(ui)ε(ui) (i = 1,2)が 2つの弾性

体において一様であることを示している.

λ(1)はそのときのひずみエネルギー密度の 2倍の値となる.

2つの弾性体に非零の応力が発生するような pのとき,λ(1)は常に正値となり,最適解において体積制約はアクティブとなる.

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§4.4直接法と随伴変数法の比較

設計変数の数が n ∈ Nの場合に拡張しよう.

.

問題 4.1 (多設計変数多制約問題)

.

.

.

問題 2.1において,設計変数を n ∈ N個に拡張した図のような問題を考える.p ∈ Rnを既知として,そのときの変位を u ∈ Rnとする.目的関数を J(0) (a,u),m ∈ N個の制約関数を J(l) (a,u) (l = 1,2, · · · ,m)とする.このとき,次のような断面積 a ∈ S = { a ∈ Rn | a > 0}を求めよ.

min0<a∈Rn

J(0) (a,u) s.t. K (a) u = p, J(l) (a,u) ≤ 0 (l = 1,2, · · · ,m) �

p1 u1

a1

l

a2

l

an

p2 u2 pn un

l l l

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. . . . . .

直接法による解法

.

解答 4.3 (直接法)

.

.

.

問題 4.1の J(l) (a,u) (l = 0,1,2, · · · ,m)に微分の連鎖則を適用すれば,次式が成り立つ.

J(l) (aε ,uε) = J(l) (a,u) + ε(∂J(l)

∂a1

∂J(l)

∂a2· · · ∂J(l)

∂an

) h1

h2...

hn

+ ε(∂J(l)

∂u1

∂J(l)

∂u2· · · ∂J(l)

∂un

)∂u1∂a1

∂u1∂a2

· · · ∂u1∂an

∂u2∂a1

∂u2∂a2

· · · ∂u2∂an

....... . .

...∂un

∂a1

∂un

∂a2· · · ∂un

∂an

h1

h2...

hn

+ o(ε)

= J(l) (u) + ε∂J(l)

∂a· h + ε ∂J

(l)

∂u·((∂u∂a1

∂u∂a2

· · · ∂u∂an

)h)+ o(ε)

= J(l) (u) + εG(l)

(a,u,

∂u∂aT

)· h + o(ε) (4.5)

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. . . . . .

ここで,∂J(l)

∂a,∂J(l)

∂uは既知である.

一方,aと a+ εhの状態方程式の差より,次式が成り立つ.

K (a)∂u∂ai+∂K∂ai

u = 0

∴∂u∂ai= −K−1 (a)

∂K∂ai

u (i = 1,2, · · · ,n) (4.6)

式 (4.6)を解き,その結果を式 (4.5)に代入して G(l)(a,u, ∂u

∂aT

)を得る.

直接法の特徴

逆行列を保存しない限り,式 (4.6)を設計変数の個数回繰り返す必要がある.⇒多設計変数の問題 (n� 1)では不利になる.

式 (4.6)の結果∂u∂ai

(i = 1,2, · · · ,n)はすべての評価関数 J(l) (u)

(l = 1,2, · · · ,m)に対して共通に使える.⇒評価関数が沢山の問題(m� 1)では有利になる.

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. . . . . .

随伴変数法による解法

.

解答 4.4 (随伴変数法)

.

.

.

問題 4.1において,ある l ∈ {0, 1,2, · · · ,m}の J(l) (a,u)と状態方程式の制約に対して Lagrange乗数法を適用する.状態方程式に対する Lagrange乗数 (随伴変数)を v(l) ∈ R2とする. Lagrange乗数形式は次式となる.

L(l)(a,u, v(l)

)= J(l) (a,u) − v(l) · (K (a) u − p)

L(l)(a,u, v(l)

)の勾配 G(l)

L

(a,u, v(l)

)∈ Rnについて,次の結果を得る.

L(l)′(a,u, v(l)

)= limε→0

L(l)ε − L(l)

ε

= −v(l)′ · (K (a) u − p) − u′ ·(KT (a) v(l) − ∂J

(l)

∂u

)+∂J(l)

∂a· h −

n∑i=1

v(l) ·(∂K∂ai

uhi

)

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. . . . . .

v(l) に対する随伴方程式は次式となる.

KT (a) v(l) =∂J(l)

∂u(4.7)

状態方程式の解 uと随伴方程式の解 v(l) を用いれば,次式が成り立つ.

L(l)′(a,u, v(l)

)= G(l)

L

(a,u, v(l)

)· h

G(l)Li

(a,u, v(l)

)= G(l)

i

(a,u, v(l)

)=∂J(l)

∂ai− v(l) ·

(∂K∂ai

u)�

随伴変数法の特徴

随伴方程式 (4.7)は評価関数の数だけ現れる.⇒評価関数が沢山の問題 (m� 1)では不利になる.

随伴方程式 (4.7)の数は設計変数の数に依存しない.⇒多設計変数の問題 (n� 1)では有利になる.

随伴方程式 (4.7)の変数の数は状態方程式の変数の数と一致する.状態方程式が場所や時間の関数になった場合 (状態空間は無限次元空間になる)にも随伴変数法は成り立つ.

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§5 まとめ

1次元弾性体の最適設計問題を取り上げて,その構造と設計変数に対する勾配の求め方を確認した.

最適設計問題では,状態変数と設計変数で評価関数 (目的関数と制約関数)が記述され,状態方程式が制約に入る.

設計変数の変動に対する評価関数の微分を Frechet微分によって定義した.

直接法は,評価関数の勾配を微分の連鎖則によって求める方法として定義した.

随伴変数法は,評価関数の勾配を Lagrange乗数法により求める方法として定義した.状態方程式に対する Lagrange乗数を随伴変数と呼んだ.

直接法は多評価関数問題に有利である.随伴変数法は多設計変数問題に有利である.

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参考文献

[1] E. J. Haug, K. K. Choi, and V. Komkov.Design Sensitivity Analysis of Structural Systems.Academic Press, Orland, 1986.

[2] K. K. Choi and N. H. Kim.Structural sensitivity analysis and optimization.Springer, New York, 2005.

[3] R. T. Haftka and Z. Gurdal.Elements of structural optimization, 3rd rev. and expanded ed.Kluwer Academic Publishers, Dordrecht, 1992.

[4] 山川宏編集委員長.最適設計ハンドブック : 基礎・戦略・応用.朝倉書店, 2003.