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第2.当事者能力 論点 民法上の組合の当事者能力 ◇◆論証◆◇ 組合が「社団」(29条)といえる場合があるか。 確かに,法形式的には,組合は契約にすぎないが,組合の中に 団体性を認めてよい場合がある。また,組合財産は個人財産か ら独立して管理され(民法676条1項),実際にも,社会生活上一 個の団体としてその名で活動することがあり,現実には社団と組 合の区別は困難であるしたがって,組合についても団体としての実体があり,代表者 の定めがある限り,29条を適用すべきである。 論点 法人格なき社団の当事者能力・当事者適格 ◇◆論証◆◇ 1 当事者能力 29条の「社団」といえるためには,いかなる要件が必要か。 29条が代表者の定めのある場合に,法人でない社団等にも当 事者能力を認めたのは,団体としての組織が確定し,継続的な 社会活動を行うなど法人類似の実質が観念できるためである。 したがって,下記のような諸要素を総合的に考慮して団体と しての実質が認められることが必要であると解する。 具体的には, ①団体としての組織を備えていること,②多数決 の原則が行われていること,③構成員の変動が団体の存続に影 響を与えないこと,④団体として主要な点(代表の方法,総会 の運営,財産の管理等)が確定していることをもって判断する。 なお,これは団体としての実質が備わっているか否かの問題 であるから,団体として固有の財産を有していることは必ずし も不可欠の要件ではなく,上記①~④の考慮要素の一つにすぎ ないと解する。 2 当事者適格 16 頁 第3問 l 最判昭37.12.18 【百選9】 16 頁 第3問 l 最判昭42.10.19 【百選8】 l 最判平14.6.7 16 頁 第3問 4 第1編 訴訟関係者

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第2.当事者能力

論 点 民法上の組合の当事者能力◇◆論証◆◇組合が「社団」(29条)といえる場合があるか。確かに,法形式的には,組合は契約にすぎないが,組合の中にも団体性を認めてよい場合がある。また,組合財産は個人財産から独立して管理され(民法676条1項),実際にも,社会生活上一

個の団体としてその名で活動することがあり,現実には社団と組

合の区別は困難である。したがって,組合についても団体としての実体があり,代表者

の定めがある限り,29条を適用すべきである。

論 点 法人格なき社団の当事者能力・当事者適格◇◆論証◆◇1 当事者能力29条の「社団」といえるためには,いかなる要件が必要か。29条が代表者の定めのある場合に,法人でない社団等にも当事者能力を認めたのは,団体としての組織が確定し,継続的な社会活動を行うなど法人類似の実質が観念できるためである。したがって,下記のような諸要素を総合的に考慮して団体と

しての実質が認められることが必要であると解する。具体的には,①団体としての組織を備えていること,②多数決

の原則が行われていること,③構成員の変動が団体の存続に影

響を与えないこと,④団体として主要な点(代表の方法,総会

の運営,財産の管理等)が確定していることをもって判断する。なお,これは団体としての実質が備わっているか否かの問題であるから,団体として固有の財産を有していることは必ずしも不可欠の要件ではなく,上記①~④の考慮要素の一つにすぎないと解する。

2 当事者適格

16 頁第3問

l最判昭37.12.18【百選9】

16 頁第3問

l最判昭42.10.19【百選8】

l最判平14.6.7

16 頁第3問

4 第1編 訴訟関係者

Page 2: 第2.当事者能力 - Amazon S3...第2.当事者能力 論点 民法上の組合の当事者能力 論証 組合が「社団」(29条)といえる場合があるか。確かに,法形式的には,組合は契約にすぎないが,組合の中に

⑴ 権利能力なき社団は,実体法上,権利能力を有しないから,当事者能力が認められた場合であっても,実体法上の権利能力まで取得するものではない。そうだとすれば,当該社団は,固有の資格に基づいて当事者となることはできない。しかしながら,当事者適格の有無は,特定の訴訟物について

誰が当事者として訴訟を追行し,また,誰に対して本案判決を

するのが紛争の解決のために必要で有意義であるかという観点

から決せられる。(当該団体に当事者適格を認めるべきであるというあてはめ。以下,入会団体の場合の論証例)ここで,入会権は村落住民各自が共有におけるような持分権を有するものではなく,総有という団体的色彩の濃い共同所有の権利形態であることに鑑み,村落住民が入会団体を形成し,それが権利能力のない社団に当たる場合には,当該入会団体が当事者として入会権の帰属に関する訴訟を追行し,本案判決を受けることを認めるのが,このような紛争を複雑化,長期化させることなく解決するために適切であるというべきである。

⑵ もっとも,上記のように,当該団体自体に固有の適格があるわけではないから,訴訟担当として適格を有すると考えざるを得ない。では,訴訟担当を認めるために,どのような法的構成によるべきか。まず,法定訴訟担当とみる見解が考えられるが,この場合には,それを認める明文規定が必要であると解されるところ,当該団体については,そのような明文規定を欠く以上,かかる構成によることはできない。そこで,任意的訴訟担当であると解すべきである。(授権の有無についてあてはめ。以下,入会団体の場合の論証例)入会団体の場合には,当該団体の創設時に,入会権にかかる訴訟について任意的訴訟担当の授権があるとみることができる。

l最判昭47.6.2最判平6.5.31【百選11】

l最判解民事篇平成6年度405~406頁

第2章 当事者 5

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(� 論 点 �明文なき任意的訴訟担当の可否(36頁)について簡単に論述)以上から,当該団体は,当事者適格を有する。

3 代表者への「授権」(権利能力なき社団に当事者能力,当事者適格が認められることを述べて)入会団体が原告となる場合,その代表者が訴訟追行するためには,当該団体の規約の定めに従い,土地所有権を処分するの

に必要とされる手続による授権を必要と解すべきである。入会団体は入会権者全員の訴訟担当者たる地位にあるから,確定判決の効力は構成員全員に対して及ぶものであり(115条1項2号),入会団体が敗訴した場合には構成員全員の総有権を失わせる処分をしたのと事実上同じ結果をもたらすことになるが,内部規則を定めている場合には,それに従って訴訟追行権の存否が決せられるとしても,構成員はそれについてあらかじめ承認しているとみることができる。また,会社や社団法人のように,代表権の範囲が法定されている場合とは異なり,入会団体の場合は定型性がないから,訴訟追行権の授与についても,団体ごとに個別具体的に考えざるを得ないことからも,上記のように解すべきである。一方で,入会団体が被告となる場合には,授権がなくとも訴

訟追行を認めるべきである。授権がないことを理由として訴えの提起ができないとすると,常に団体が被告とされる訴訟を回避できることになってしまい妥当でないからである。理論構成としては,以下のように解すべきである。このような状況に類似する場合として,被保佐人や被補助人を被告として訴えを提起する場合がある。被保佐人や被補助人は訴えを提起する際には保佐人や補助人の同意が必要であるが(民法13条1項4号),応訴をする際には保佐人等の同意を要しない(32条1項)。32条1項の趣旨は,同意をしないことによっ

l最判平6.5.31【百選11】

l最判解民事篇平成6年度408頁以下

l最判解民事篇平成6年度411~412頁

6 第1編 訴訟関係者

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て不利な訴訟を回避することを防止し,相手方の訴権を保護す

る点にある。かかる趣旨は,入会団体を被告とする場合にも妥当する。したがって,32条1項の類推適用により,入会団体が応訴する際には,特別な授権は必要ないものと解する。

第2章 当事者 7