7
4 回数学演習 1 2 逆関数と逆三角関数 2.1 単調関数 教科書に従って単調関数の定義を与える。 1 単調関数: ⋆f (x)単調増加関数 x 1 <x 2 f (x 1 ) f (x 2 ) ⋆f (x)単調減少関数 x 1 <x 2 f (x 1 ) f (x 2 ) 狭義単調関数: ⋆f (x)狭義単調増加関数 x 1 <x 2 f (x 1 ) <f (x 2 ) ⋆f (x) 狭義単調減少関数 x 1 <x 2 f (x 1 ) >f (x 2 ) グラフでみると分りやすいだろう.以下の図 1 は狭義単調増加関数の例,図 2 は狭義単調減少関 数の例. f (x 1 ) <f (x 2 ) x 1 f (x 1 ) x 2 f (x 2 ) O x y 1 f (x 1 ) >f (x 2 ) x 2 f (x 2 ) x 1 f (x 1 ) O x y 2 2.2 逆関数 f (x) 1 1x 1 ̸= x 2 f (x 1 ) ̸= f (x 2 ) である時をいう。すなわち,a に対し b = f (a) ただ 1 定まる。 逆関数:f (x) 狭義単調関数である とき,f (x) 1 1 である。したがっ て,b = f (a) のとき,逆に,b に対して a を決めることができる。この対応を, a = f -1 (b) で表す。この対応を表す関 数を f -1 (·) と表し,f -1 (·) · に独立 変数の x をとり,値を従属変数の y 取って定めた関数 y = f -1 (x) f (x) 逆関数という。(左図を参照) I J x a b y (元の x 軸) y b a I J x (元の y 軸) y = f (x) y = f -1 (x) O O 1 数列の項でも示したように,単調性の定義は定まっていない。この教科書で使用している「狭義単調増加(減少)」 を,「単調増加(減少)」といい,「単調増加(減少)」「広義単調増加(減少)」または「単調非減少(非増加)」いう。 1

第4回数学演習 1 - Hiroshima University...tan x の逆関数:tanxの定義域を(ˇ=2;ˇ=2)に制限すると,狭義単調増加関数になり,この区 間で,逆関数を定義することができる。

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第4回数学演習1

2 逆関数と逆三角関数

2.1 単調関数

教科書に従って単調関数の定義を与える。1

• 単調関数:

⋆ f(x):単調増加関数 ⇔ x1 < x2 ⇒ f(x1) ≦ f(x2)

⋆ f(x):単調減少関数 ⇔ x1 < x2 ⇒ f(x1) ≧ f(x2)

• 狭義単調関数:

⋆ f(x):狭義単調増加関数 ⇔ x1 < x2 ⇒ f(x1) < f(x2)

⋆ f(x)を狭義単調減少関数 ⇔ x1 < x2 ⇒ f(x1) > f(x2)

グラフでみると分りやすいだろう.以下の図 1は狭義単調増加関数の例,図 2は狭義単調減少関数の例.

6

-

f(x1) < f(x2)

x1

f(x1)

x2

f(x2)

O x

y

図 1

6

-

f(x1) > f(x2)

x2

f(x2)

x1

f(x1)

O x

y

図 2

2.2 逆関数

• f(x)が 1対 1:x1 ̸= x2 ⇒ f(x1) ̸= f(x2)である時をいう。すなわち,a に対し b = f(a) がただ 1 つ定まる。

• 逆関数:f(x) が狭義単調関数であるとき,f(x)は 1対 1である。したがって,b = f(a)のとき,逆に,bに対してaを決めることができる。この対応を,a = f−1(b) で表す。この対応を表す関数を f−1(·)と表し,f−1(·)の ·に独立変数の xをとり,値を従属変数の y を取って定めた関数 y = f−1(x) を f(x)

の逆関数という。(左図を参照) I

J

xa

b

y (元の x軸)y

b

aI

J

x (元の y軸)

y = f(x) y = f−1(x)

O O

1数列の項でも示したように,単調性の定義は定まっていない。この教科書で使用している「狭義単調増加(減少)」を,「単調増加(減少)」といい,「単調増加(減少)」を「広義単調増加(減少)」または「単調非減少(非増加)」という。

1

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• 定義域と値域:

⋆ 定義域:f(x) を定義する区間 I

⋆ 値域:定義域の f(x)による値の集合 J

図 3 から分かるように,f(x)の定義域 I,値域 J は,逆関数 f−1(x)の定義域 J,値域 I となる。

定理 1. 次が成り立つ。

f−1(f(x)) = x x ∈ I かつ f(f−1(x)) = x x ∈ J

例 1. (1) f(x) = x2の定義域を [0,∞)とすると,値域は [0,∞)であり,逆関数は f−1(x) =√x

である。そして,定義域を [0,∞)で,値域は [0,∞)である。

(2) y = exの定義域は (−∞,∞)で値域は (0,∞)である。この逆関数は y = log xで (0,∞)が定義域で,は (−∞,∞)が値域である。

注意:上の例 1(1)において,f(x) = x2の定義域を (−∞,∞)とすると,狭義単調関数になっていないので,逆関数は取れない。

例題 1. y =x− 1

x+ 2の逆関数をもとめよ。また,逆関数の定義域および値域を求めよ。

(解)与えられた関数の定義域は (−∞,−2) ∪ (−2,∞),値域は (−∞, 1) ∪ (1,∞)である。また

y′ =

(x− 1

x+ 2

)′=

(1− 3

x+ 2

)′=

3

(x+ 2)2> 0 (x ̸= −2)

であるから,狭義単調増加関数である。したがって,x ∈ (−∞,−2) ∪ (−2,∞)で逆関数を持つ。

y =x− 1

x+ 2を xについて解くと,

y = 1− 3

x+ 2⇒ 3

x+ 2= 1− y ⇒ x+ 2

3=

1

1− y∴ x = −2 + 3

1− y

したがって,求める逆関数は,変数 xと yの役割を変えて

y = −2 + 3

1− x

(=

1 + 2x

1− x←ここまで出さなくても○

)で,その定義域は (−∞, 1) ∪ (1,∞)で値域は (−∞,−2) ∪ (−2,∞)である。

−21

O 1

y =x− 1

x+ 2

2

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2.2.1 逆三角関数

• sin x の逆関数:sinxの定義域を [−π/2, π/2]に制限すると,狭義単調増加関数になり,この区間で,逆関数を定義することができる。その逆関数を y = sin−1 xで表し,アークサイン xという。y = sin−1 xの定義域は [−1, 1]で,値域は [−π/2, π/2]である。また,値域 [−π/2, π/2]を,sin−1 x

の主値という。

• cos x の逆関数:cosxの定義域を [0, π]に制限すると,狭義単調増加関数になり,この区間で,逆関数を定義することができる。その逆関数を y = cos−1 xで表し,アークコサイン xという。y = cos−1 xの定義域は [−1, 1]で,値域は [0, π] である。また,値域 [0, π]を,cos−1 xの主値という。

• tan x の逆関数:tanxの定義域を (−π/2, π/2)に制限すると,狭義単調増加関数になり,この区間で,逆関数を定義することができる。その逆関数を y = tan−1 xで表し,アークタンジェントxという。y = tan−1 x の定義域は (−∞,∞)で,値域は (−π/2, π/2) である。また,値域 (−π/2, π/2)を,tan−1 xの主値という。

3

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例題 2. 次の値を求めよ。

(1) sin−1(−1

2

)(2) cos−1

(12

)(3) tan−1

(− 1√

3

)(解)(1) −π

6(2)

π

3(3) −π

6

注意 1:sin−1 x,cos−1 x,tan−1 x は値域は

−π

2≦ sin−1 x ≦ π

2, 0 ≦ cos−1 x ≦ π, −π

2< tan−1 x <

π

2

である。したがって

注意 2:sin−1(−1/2)の値と sinx = −1/2を満たす xとは似ているが違う。sinx = −1/2を満たす xは

−π/6 + 2nπ, − 5π/6 + 2nπ (n = 0,±1, ± 2, · · · )

である。

例題 3. 次の方程式を満たす xを求めよ.ただし,αは (0 < α < 1)なる定数である.

(1) cos−1 x = sin−1 α (2) sin−1 x = cos−1 3

5

(3) cos−1 x = tan−1√2 (4) cos−1 x = sin−1 1

3+ sin−1 4

5

(解)(1) 0 < α < 1より 0 < sin−1 α <π

2である.cos−1 x = sin−1 αより x > 0.したがって,

x = cos(sin−1 α) =

√1− {sin(sin−1 α)}2 =

√1− α2

(2) 0 < cos−1 3

5<

π

2より,0 < sin−1 x <

π

2∴ x > 0.したがって,

x = sin

(cos−1 3

5

)=

√1−

{cos

{cos−1

3

5

)}2

=

√1− 9

25=

4

5

(3) 0 < tan−1√2 <

π

2より cos(tan−1

√2) > 0である.

tan2 θ + 1 =1

cos2 θ

より

x = cos(tan−1√2) =

1√1 + {tan(tan−1

√2)}2

=1√3

(4) 右辺は正であるから,cos−1 x > 0 ∴ 0 < x < 1である.

x = cos

(sin−1 1

3+ sin−1 4

5

)

= cos

(sin−1 1

3

)cos

(sin−1 4

5

)− sin

(sin−1 1

3

)sin

(sin−1 4

5

)(1) より=

√1−

(1

3

)2√

1−(4

5

)2

− 1

3· 45=

6√2− 4

15

4

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例題 4. 次の等式を示せ。sin−1 x+ cos−1 x =

π

2

(解)sin−1 x = α,cos−1 x = β と置くと,

sinα = x (−π/2 ≦ α ≦ π/2) (1)

cosβ = x (0 ≦ β ≦ π) (2)

である。一方 sin(π/2− β) = cosβ と (1)(2)より

sin(π/2− β) = sinα (3)

である。−π/2 ≦ α ≦ π/2 かつ − π/2 ≦ π/2− β ≦ π/2

より,α+ β =

π

2

2.3 逆三角関数の微分(次回の予告)

v = f(u) が f ′(u) > 0 (f ′(u) < 0) ならば,狭義単調増加(狭義減少)関数である。したがって,点 P(u, v)の近傍で逆関数を持ち,u = f−1(v)である。今,u = y,v = xと置くと,

f(y) = x ⇐⇒ y = f−1(x)

f(y) = x の両辺を x で微分すると,合成関数の微分法よりdy

dx

dx

dy= 1となる。したがって

定理 2 (逆関数の微分). f ′(x) ̸= 0 のときその逆関数 y = f−1(x) が存在して

dy

dx=

1

dx

dy

定理 3 (逆三角関数の微分公式).

(sin−1 x)′ =1√

1− x2(−1 < x < 1) (4)

(cos−1 x)′ = − 1√1− x2

(−1 < x < 1) (5)

(tan−1 x)′ =1

1 + x2(−∞ < x <∞) (6)

(証明)y = sin−1 xとおく。このとき, x = sin y であり,−π

2< y <

π

2である。逆関数の微分の

公式より

d

dx(sin−1 x) =

1ddy sin y

=1

cos y=

1√1− sin2 y

=1√

1− x2(∵ − π

2< y <

π

2)

y = cos−1 x とおく。このとき x = cos y であり,0 < y < π である。逆関数の微分の公式より

d

dx(cos−1 x) =

1ddy cos y

=1

− sin y= − 1√

1− cos2 y= − 1√

1− x2(∵ 0 < y < π)

5

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2.4 前回演習問題について

問 3について:A(0, 1, 1), B(−1,−1, 2), C(2, 3, 1)で作られた三角形 ABC の面積は√3である.次

の 3通りの方法の計算式を示せ.

(1) ∥−→AB∥ · ∥−→AC∥| sin θ| (2)

√∥−→AB2∥−→AC∥2 − (

−→AB,−→AC)2 (3)

−→AB,

−→ACの外積

問題の意図は:(1)は sin θの計算が必要,(2)は内積と各ベクトルの長さの計算,

(3)は−→AB×

−→AC = −2e1 + 2e2 + 2e3より,1

2∥−→AB×

−→AC∥ = 1

2

√(−2)2 + 22 + 22 =

√3

三角形の面積の計算はこの 3種類が考えられるが,「(3)の方法が最も計算が楽である」ことを実感して欲しかった.

問 5 a,b,cは 3次元数ベクトルとする.

(a× b)× c = (a, c)b− (b, c)a (7)

が成り立つことを示せ.

(解)(7)の左辺を成分であらわすと,

(a× b)× c =

a2b3 − a3b2

a3b1 − a1b3

a1b2 − a2b1

× c1

c2

c3

=

(a3b1 − a1b3)c3 − (a1b2 − a2b1)c2

(a1b2 − a2b1)c1 − (a2b3 − a3b2)c3

(a2b3 − a3b2)c2 − (a3b1 − a1b3)c1

=

(a2c2 + a3c3)b1 − (b2c2 + b3c3)a1

(a1c1 + a3c3)b2 − (b1c1 + b3c3)a2

(a1c1 + a1c1)b3 − (b1c1 + b2c2)a3

一方,(7)の右辺を成分であらわすと,

(a, c)b− (b, c)a =

(a1c1 + a2c2 + a3c3)b1 − (b1c1 + b2c2 + b3c3)a1

(a1c1 + a2c2 + a3c3)b2 − (b1c1 + b2c2 + b3c3)a2

(a1c1 + a2c2 + a3c3)b3 − (b1c1 + b2c2 + b3c3)a3

=

(a2c2 + a3c3)b1 − (b2c2 + b3c3)a1

(a1c1 + a3c3)b2 − (b1c1 + b3c3)a2

(a1c1 + a1c1)b3 − (b1c1 + b2c2)a3

よって等しい.

6

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演習問題

ここで用いられる逆三角関数 sin−1 x,cos−1 x,tan−1 x は主値を表す.

問 1. 次の関数の逆関数および逆関数の定義域と値域を求めよ.

(i) y =x+ 2

x+ 1(ii) y = xn + 2 (x ≧ 0,n は正の整数)

問 2. 次の値を求めよ.

(1) sin−1(12

)(2) cos−1

(−1

2

)(3) tan−1(−1)

問 3. 次の方程式を解け.

(1) cos−1 x = sin−1 3

5(2) cos−1 x = tan−1

√5

(ヒント:(1)例題 3(2)の類似問題.(2) 例題 3(3)の類似問題)

問 4. sin(cos−1 x) =√1− x2を示せ.

問 5. (研究課題)問 3の (1)と cos−1 x = sin−1 2

3を解いて次の方程式を解け.

cos−1 x = sin−1 3

5+ sin−1 2

3

(例題 3(4)の類似問題:cos(α+ β) = cosα cosβ − sinα sinβを利用)

7