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5 章 ソーシャルネットワーク構築フェーズにおける利用者ネットワーク 分析手法の提案 1) 5-1 はじめに 本章では,環境コミュニケーションの 3 フェーズ(2-2 参照)のうち,ソーシャルネ ットワーク構築フェーズの促進を支援するインターネット環境情報システム(ITEI システ ム)の機能を定量的に分析するための手法として,ITEI システムの利用者によって形成さ れているソーシャルネットワーク(以下,利用者ネットワーク)の構造(規模や形態,稠 密度)と構造変化を分析するための「利用者ネットワーク分析手法」と,利用者ネットワ ークを下に生まれた交流や協働活動の事例を把握するための「協働・交流把握分析手法」 を提案する. また,提案する分析手法の有効性を検証するために,インターネット上の Web サイトで ありながら,実体性のあるソーシャルネットワークづくりを目指している「びわこ市民研 究所」の利用者(参加者)を対象に,同研究所への参加前後における利用者ネットワーク の構造と同構造変化,利用者の活動変化を定量的に分析することを試みる. 5-2 利用者ネットワーク分析手法の概要 本章で提案する手法の一つである利用者ネットワーク分析手法とは,ITEI システムの利 用者ネットワークを対象に,ソーシャルネットワークの構造を定量的に分析するための手 法である社会ネットワーク分析を援用するものである.本節では,利用者ネットワーク分 析手法の中心的な手法となる社会ネットワーク分析について解説する. 5-2-1 社会ネットワーク分析の概要 2) 社会ネットワーク分析とは「個人または企業,国などの社会単位(アクター)の集合と しての社会構造(ソーシャルネットワーク)を数学的に分析することで,アクターの関わ る社会的出来事(イベント)の生起を説明しようとする研究」 3) である.同分析の基本は, アクターによって形成されているソーシャルネットワークを,ソシオマトリックスという 行列で表し,ソシオグラムと呼ばれるグラフとして視覚的に表現する.また,グラフ理論 を用いて各種の指標を算出することで,定量的に分析しようとするものである. なお,社会ネットワーク分析は,第 3 章の情報ネットワーク分析手法において用いたネ ットワーク分析を社会科学分野に適用したものであり,ネットワークの構造をマトリック - 85 -

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第 5章 ソーシャルネットワーク構築フェーズにおける利用者ネットワーク 分析手法の提案1)

5-1 はじめに 本章では,環境コミュニケーションの 3 フェーズ(図 2-2 参照)のうち,ソーシャルネ

ットワーク構築フェーズの促進を支援するインターネット環境情報システム(ITEIシステム)の機能を定量的に分析するための手法として,ITEIシステムの利用者によって形成されているソーシャルネットワーク(以下,利用者ネットワーク)の構造(規模や形態,稠

密度)と構造変化を分析するための「利用者ネットワーク分析手法」と,利用者ネットワ

ークを下に生まれた交流や協働活動の事例を把握するための「協働・交流把握分析手法」

を提案する. また,提案する分析手法の有効性を検証するために,インターネット上のWebサイトでありながら,実体性のあるソーシャルネットワークづくりを目指している「びわこ市民研

究所」の利用者(参加者)を対象に,同研究所への参加前後における利用者ネットワーク

の構造と同構造変化,利用者の活動変化を定量的に分析することを試みる. 5-2 利用者ネットワーク分析手法の概要 本章で提案する手法の一つである利用者ネットワーク分析手法とは,ITEIシステムの利用者ネットワークを対象に,ソーシャルネットワークの構造を定量的に分析するための手

法である社会ネットワーク分析を援用するものである.本節では,利用者ネットワーク分

析手法の中心的な手法となる社会ネットワーク分析について解説する. 5-2-1 社会ネットワーク分析の概要2)

社会ネットワーク分析とは「個人または企業,国などの社会単位(アクター)の集合と

しての社会構造(ソーシャルネットワーク)を数学的に分析することで,アクターの関わ

る社会的出来事(イベント)の生起を説明しようとする研究」3)である.同分析の基本は,

アクターによって形成されているソーシャルネットワークを,ソシオマトリックスという

行列で表し,ソシオグラムと呼ばれるグラフとして視覚的に表現する.また,グラフ理論

を用いて各種の指標を算出することで,定量的に分析しようとするものである. なお,社会ネットワーク分析は,第 3 章の情報ネットワーク分析手法において用いたネットワーク分析を社会科学分野に適用したものであり,ネットワークの構造をマトリック

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スで表現し,同マトリックスから各種の統計的指標を算出するという方法論はネットワー

ク分析とまったく同じものである.ただし,当然ではあるが,ネットワーク分析が対象ネ

ットワークの数学的な構造解析を目的としているのに対して,社会ネットワーク分析は,

ソーシャルネットワークによる社会的イベントの生起を説明することを目的としており,

数学的な方法論は同じであっても,算出された指標はそれぞれ異なる意味をもっている.

また,社会ネットワーク分析のソシオマトリックスの作成においては,アクター間の社会

的関係性が一般的に不可視的なものであることから,ネットワーク分析とは異なる社会学

的な手法が求められる. 例えば,社会ネットワーク分析における個人や団体などのアクター間の関係性は,アク

ター間の面識や連絡の有無によって,また,関係性の強度は,面会や連絡の頻度や回数な

どによって測定されるものである.また,このようなアクター間の関係性には無方向性の

ものと有方向性のものとがある.一方のアクターが他方のアクターのことを面識があると

認識していても,他方のアクターがそのように認識していない場合などが後者に当たる.

図 5-1に示すように,無方向性の関係性を持つソシオマトリックスは対象行列で表され,有

方向性のソシオマトリックスは非対称行列で表されることになる.

図 5-1 無方向性ソシオマトリックスと有方向性ソシオマトリックス

5-2-2 利用者ネットワーク分析手法の概要

本項では,ITEIシステムの利用者のソーシャルネットワーク(利用者ネットワーク)の構造と構造変化を定量的に分析するために,社会ネットワーク分析を援用した利用者ネッ

トワーク分析手法を提案する.

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利用者ネットワーク分析手法の概要を図 5-2に示す.

図 5-2 利用者ネットワーク分析手法の概要

本研究で提案する利用者ネットワーク分析手法とは,社会ネットワーク分析を援用し

ITEIシステムの利用者によって形成される利用者ネットワークの構造と構造変化を定量的に分析するものである.ITEIシステムの利用者ネットワークを対象に,社会ネットワーク分析を用いることで算出できる主要な指標とその概要を次にまとめる.

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①総ノードと総次数 ②重み付次数による中心性 ③ネットワーク距離と到達可能ペア数 ④クリーク特定 ①総ノードと総次数とは,ソーシャルネットワークを形成している全てのアクター(ソ

シオグラム上のノード)の数とアクターごとの他のアクターとの関係性の有無(次数)を

集計したものであり,ソーシャルネットワークの規模を定量的に把握するための指標であ

る. ②重み付次数による中心性とは,各アクターが持つ重み付次数(他のアクターとの数値

化された関係性の強度)をソーシャルネットワークの中心性の尺度として用いる指標であ

る.重み付次数の合計が大きいアクターほど,ソーシャルネットワークのより中心に位置

するものと考えることができる.

③ネットワーク距離とは,ソーシャルネットワークのサイズを示す指標である.ネット

ワーク距離の指標はいくつか存在するが,本事例研究においては,ソーシャルネットワー

ク内の任意の 2 人のアクターが関係性のある他のアクター(知人)を介して知り合う(到達する)ために必要となる最小のステップ(仲介する知人)数の平均を求めた平均最短距

離をネットワーク距離として用いる. また,到達可能ペア数とは,ステップ(仲介する知人)数ごとに到達(知人となること

が)可能なアクターのペア数を集計したものであり,ソーシャルネットワーク内の到達可

能範囲を示す指標である.

④クリークとは,3人以上のアクター間すべてにおいて関係性が存在する(アクターすべてが顔見知りである)状態を言い,クリーク特定とは,ソーシャルネットワークの密度を

測るために,クリーク数を集計したものである. 5-2-3 協働・交流把握分析手法の概要

次に本項では,本章で提案する手法の二つ目である,ITEIシステムの利用者ネットワークから生まれた交流や協働の現状を把握するための「協働・交流把握分析手法」を提案す

る. 本研究で提案する協働・交流把握分析手法とは,主にアンケート調査やヒアリング調査

により,利用者が ITEIシステムに参加したことによって利用者ネットワークの下に生まれた次のような事例を分析するものである.

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①創出交流事例 ②創出協働事例 ③活動変化事例 ①創出交流事例とは,他の利用者との交流機会が増えた事例(交流に至るまでの経緯を

含む)のことである. ②創出協働事例とは,他の利用者との間で新たな協働(協働による活動)が生まれた事

例(その活動内容および協働に至るまでの経緯を含む)のことである. ③活動変化事例とは,従来おこなっていた活動内容や活動頻度が変化した事例(変化に

至るまでの経緯を含む)のことである. 5-3 事例適用研究における調査対象事例の選定と調査方法 本節では,本研究で提案する利用者ネットワーク分析手法と協働・交流把握分析手法を

実際の事例に適用し,手法の有効性を検証するための事例適用研究の調査方法について説

明をおこなう. 5-3-1 調査対象事例の選定

インターネット上のコミュニティサイトやソーシャルネットワークサービスは,情報交

換やコミュニケーションを通じて“バーチャル”なコミュニティを形成することが可能で

あることが示唆されている4), 5).しかし,まちづくりや環境活動などの実践的な活動におい

て各種主体が主体間でソーシャルネットワークを構築し,同ネットワークの下に協働ある

いは連携していくためには,バーチャルではない,実体性のある“リアル”なソーシャル

ネットワークを構築することが重要であるとされる6). このため,利用者ネットワーク分析手法に関する事例適用研究において,同手法を適用

するITEIサイトとしては,実体性のある“リアル”なソーシャルネットワークの形成を目指しているITEIシステムであることが望ましいと考えられる.以上の条件から,本事例適用研究では,びわこ市民研究所7)(以下,市民研)を調査対象

として選定した.

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5-3-2 びわこ市民研究所(市民研)とは

市民研は,コミュニティサイトを環境活動や地域活動に活用した事例であり,琵琶湖に

関わる環境とくらしのよりよいあり方を住民や企業,行政の枠を超えて学びあい,まちづ

くりや人づくりを促進することを目的としている.市民研は,インターネット上のWebサイトでありながら,直接的な人間関係を基本とした実体性のあるリアルなソーシャルネット

ワークを創り出し,環境や暮らしに関わる様々な,かつ実質的な協働を生み出している先

進事例として評価されている8). 市民研は,滋賀県と NTT先端技術総合研究所(当時)による共同研究プロジェクトの一環として 2001年 8月に開設された.研究プロジェクトは 2004年 3月に終了し,同サイトは一旦閉鎖されたが,同サイトの編集長を務めていた H 氏が自主的に後継サイトを立ち上げ,現在に至っている.現在までに 43の研究室(個人および団体のホームページ)が開設され,257人が参加している. 市民研の参加者(以下,構成員)は「研究所員」と「研究室員」「エコびと」の 3つの属性に分けられる.研究所員は,同サイトのコンテンツの企画,取材,編集など,市民研の

運営に直接関わる構成員である.研究室員は,同サイト内の市民研究室に所属する構成員

のことを指す.エコびとは,研究所員が環境やくらしに関わる活動をしている人を取材し,

紹介する「おもしろエコびと」というページに登場する人々である. 市民研は物理的な施設などは持たず,Web サイトを中心とするインターネットの機能を利用して,活動をおこなっている.しかし一般的に,インターネット上では,多種多様な

情報が混在しており,情報の信頼性を築きにくいと言われており,信頼性の醸成が人々の

つながりを重視する市民研にとっては,最大の課題となっている. そのため市民研では,構成員の似顔絵や顔写真を公開し,大半の構成員が本名でコンテ

ンツを掲載するなど,信頼性を生み出すための工夫をしている.また,読者が親近感や共

感を覚えるよう,構成員の“人となり”の見えるようなコンテンツづくりを目指している7). 一方,運営方法としても,研究所員が構成員の活動を取材し,それをサイト上で紹介す

る,あるいは構成員同士が直接出会える場を設けるなど,構成員間のリアルなソーシャル

ネットワークの拡大を促すよう努めている. また,市民研は基本的に,対象地域を琵琶湖周辺に限定している.コンテンツ内容は,

同地域における構成員の活動報告が主である.他地域の閲覧者向けの紹介的内容のコンテ

ンツはなく,琵琶湖についてある程度の知識を持ち,活動している,または興味や関心の

ある人々のみを対象としている.これもまた,同サイトが実際に人と人とが出会い,活動

を共にし,学びあうという“リアル”に重きを置いているためである.

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5-3-3 調査研究方法

本章における事例適用研究の調査研究方法を図 5-3に示す.

図 5-3 市民研を対象とする事例適用研究の調査研究方法

図 5-3に示すように,本事例適用研究においては,市民研の利用者ネットワークの機能を,

市民研利用者(参加者)に対するアンケート調査(調査票 A と B)の結果に対して,利用者ネットワーク分析手法と協働・交流把握分析手法を適用することで把握する. ここで調査票 A は,市民研利用者(参加者)の市民研利用(参加)前後における利用者ネットワークの構造変化を把握するためのものである.同調査票の結果からまず,市民研

利用前後における利用者ネットワークを表すソシオマトリックスをそれぞれ作成する.そ

の後,同マトリックスに利用者ネットワーク分析を適用することで,ソシオグラムによる

構造の可視化や各種指標の算出をおこなう.一方,調査票 B は,市民研を利用することによって生まれた交流や協働活動,活動変化の事例をそれらに至った経緯を含めて把握する

ためのものである. 最後に,以上の結果を総合的に考察することにより市民研利用者の利用者ネットワーク

の構造変化と利用者の活動変化を定量的に把握する.

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5-4 アンケート調査の概要 本節では,本事例適用研究において市民研利用者に対して実施したアンケート調査の概

要と結果について述べる. 5-4-1 アンケートの調査対象と概要

アンケート調査は,市民研に名前が登場する 253人(2005年 7月現在)に,登場はしないが市民研の活動に実際関わっている 4 人を加えた 257 人を対象とした.そのうち,連絡先を確認することのできた 91人に調査への協力を依頼し,了解が得られた 71人に対して,2005年 10月から翌年 1月の間に,対面や Eメールによってアンケートを実施した. アンケートに対する有効回答数は質問項目によって異なるが,調査票 A の有効回答数が

62人で最も多く,その有効回答率は 24.1%であった. 同有効回答者を属性ごとにクロス集計した結果を表 5-1に示す.表 5-1に示すように,有

効回答率はエコびとが 63%で最も高く,研究所員と研究室員はともに約 20%程度であった.煩雑なアンケートに協力してもらえたことから,回答者の多くは市民研の活動に好意的,

あるいは積極的に関わっている構成員であったと推察される.

表 5-1 回答者の属性別内訳 研究所員 研究室員 エコびと 計

構成員数 [人] 81 149 27 257 回答者数 [人] (率 [%]) 16 (27) 29 (47) 17 (26) 62 (100) 有効回答率 [%] 19.8 19.5 63.0 24.1

アンケート調査は,前述したように,調査票 Aと調査票 Bの二つを用いて実施した. 調査票 Aでは,市民研への利用前後における他構成員 256人との関係強度(特に,利用後については,市民研に参加したことによる関係性の変化)を表 5-2 に基づき 5 段階で評価させた.

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表 5-2 構成員間の関係強度に関する評価基準 関係強度 評価基準

0 全く面識が無い 1 会って話をしたなど面識だけはある 2 相手のメールアドレスや連絡先を知っている 3 相手に対して何度か連絡をとったことがある 4 定期的継続的に連絡を取り合ったことがある

調査票 B では,表 5-3 の質問項目で市民研への参加の動機や経緯,利用することで生じ

た活動の変化などを記述式で回答させた.

表 5-3 アンケート B質問項目 質問事項

Q1 市民研をどのように知り,いつ参加し始めましたか.また,なぜ市民研に参加しようと考えましたか.

Q2 自分または所属団体が市民研と関わることで知合いは増えましたか.また,増えた方はどのような経緯で増えましたか.

Q3 市民研を通じて新しく協働が生まれましたか.それは具体的にはどのようなものですか.またその経緯と協働した相手は誰ですか.

Q4 市民研に参加することによって自分または所属団体が今までおこなってきた「活動頻度」は増加しましたか.増加した方は,なぜ,どのように増加しましたか.

Q5 市民研に参加することによって自分または所属団体が今までおこなってきた「活動内容」が変わりましたか.また新しく参加する人が増えましたか.

Q6 その他参加してみての感想などをお書きください.(優れている点,改善すべき点など) 5-5 市民研に対する利用者ネットワーク分析手法の適用結果 本節では,調査票 A の結果をソシオマトリックスの形で集計し,利用者ネットワーク分析を適用した結果と調査票 Bに基づく協働・交流把握分析の主要な結果をまとめる. ただし,前述したように,調査票 A の有効回答率が 24.1%と低いことから,市民研全体

の利用者ネットワークを把握することは困難である.このため,有効回答が得られた 62人に限定した 62×62のソシオマトリックスを用いてネットワーク分析をおこない,回答者間の利用者ネットワークがどのように変化してきたかを把握することを試みる.

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5-5-1 回答者(利用者)ネットワークのソシオグラムと総次数

まず,調査票 A から作成したソシオマトリックスに基づきソシオグラムの描画をおこなう(図 5-4参照).図 5-4に示すように,ソシオグラムにおいて線(紐帯)は回答者間の関

係性を,線の濃淡は関係強度(1~4)を表しており,線が濃いほど関係強度が強いことを意味する.また,任意の図中の点(ノード)から他のノードに向かっている紐帯は,任意

の回答者が他の回答者へ関係性を持っていることを表し(重み付入次数),任意のノードへ

向かっている紐帯は,他の回答者が任意の回答者に関係性を持っていることを表している

(重み付出次数).

図 5-4 重み付入次数と出次数

回答者 62人の市民研利用前後の回答者間の利用者ネットワーク(回答者ネットワーク)

のソシオグラムをそれぞれ図 5-5と図 5-6に示す. 図中の点は各回答者を,各ノードに示したラベルは,最初の一文字が回答者の属性(R:研究所員,L:研究室員,E:エコびと)を表す.ただし,市民研の編集長と副編集長にはそれぞれ CEと VEとラベリングした.後掲する表 5-5と表 5-6,表 5-8にも同じラベルを

使用する.

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図 5-5 回答者ネットワークの市民研利用前ソシオグラム

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図 5-6 回答者ネットワークの市民研利用後ソシオグラム

図 5-5からは,市民研利用前においても,完全に孤立しているノード(回答者)は少なく,

ある程度の利用者ネットワークがすでに回答者間に構築されていたことがわかる.また,

図 5-6との比較からは,市民研に参加したことによって,各回答者の次数(回答者を表すノ

ードにつながっている紐帯数)が増え,紐帯の色も全体的により濃くなっていることがわ

かる.これは,市民研を利用することによって回答者ネットワークが拡大していたことを

意味する. 次に,回答者の市民研利用前後の次数の合計と1人当たりの平均次数を求めた結果を表

5-4に示す.

表 5-4 回答者の次数の合計と平均 合計 平均

利用前 523 8.4 利用後 842 13.6 変化量 319 5.1

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同表に示すように,市民研を利用することで回答者の 1 人当たりの次数は平均で約 8 から 13に増加していた.このことは回答者が平均で 5人の新たな知人を回答者間に持ち,知人の数が 1.6倍になったことを意味する. 5-5-2 重み付次数による中心性分析

次に,重み付次数(次数×関係強度)による中心性分析をおこなった.重み付出入次数別に,利用前後で中心性(重み付次数)が高かった回答者と,変化量が大きかった回答者の

上位 10人をそれぞれ表 5-5と表 5-6に示す.ここで,重み付出次数とは,各回答者が知人

だと思っている他回答者の関係強度の合計であり,重み付入次数とは,同回答者を知人だ

と思っている他回答者の関係強度の合計である.重み付次数が大きい回答者ほど,利用者

ネットワークの中心であると考えられる.

表 5-5 中心性分析(重み付出次数) 利用前 利用後 変化量

1 R1 83 CE 226 CE 203 2 L26 74 VE 98 VE 89 3 R2 65 R1 89 R6 54 4 R15 61 L14 79 R10 47 5 R5 61 L26 74 L11 33 6 R7 55 R7 73 R4 31 7 L14 51 L7 72 R3 30 8 L7 50 R6 70 L14 28 9 E2 50 R5 66 E5 23 10 L1 45 R2 65 L7 22

表 5-6 中心性分析(重み付入次数) 利用前 利用後 変化量

1 R5 73 CE 204 CE 142 2 R1 66 VE 98 VE 64 3 CE 62 R1 89 L25 33 4 L7 57 L7 84 R3 30 5 E2 52 R5 84 R15 29 6 L1 51 E2 80 E2 28 7 R9 43 R2 64 L7 27 8 R7 41 L14 63 E4 27 9 L14 41 R7 62 R4 25 10 E8 41 L1 62 L2 25

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中心性分析の結果,市民研の利用後は,全ての回答者の重み付出入次数が,ともに増加

していたことがわかった.ただし,利用前後の変化量は,市民研立ち上げ当時から取材や

運営などで積極的に活動していた CE(編集長 H氏)と VE(副編集長)の増加が特に著しかった. 5-5-3 回答者ネットワークの最短距離

次に,回答者間の最短距離(ある回答者から他の回答者に到達するために渡らなければ

ならない最小の紐帯数)を求めた.その結果,平均最短距離は,利用前の 2.34が,利用後には 1.79に減少していたことがわかった.また,到達可能な回答者のペア数を,到達するために渡る必要のある紐帯数(ステップ)ごとに集計した結果を表 5-7に示す.

表 5-7 ステップごとの到達可能ペア数

ステップ 1 2 3 4 5 利用前 523 1,592 1,147 225 23 利用後 842 2,887 53 0 0

利用前には,4人の回答者が,他の回答者から完全に孤立していた.また,表 5-7に示す

ように,全ペアの中の 39.7%が,到達するために 3 ステップ以上かかる関係性にあった.これが利用後には,上記の 4 人を含む全ての回答者が到達可能に,また,全てのペアの中98.3%が 2ステップ以内で到達できるようになっていた.これは,ほとんどの回答者同士が直接の知合いか,知合いの知合いになったことを意味する. 5-5-4 回答者ネットワークにおけるクリーク特定

最後に,回答者ネットワークのクリークの抽出をおこなった.クリークとは,構成員同

士が全て顔見知りのグループのことを意味する.なお本分析では,ノード数が 3 以上で構成されているクリークの全てを特定しており,紐帯の方向や関係強度は考慮に入れていな

い. 抽出の結果,利用前は研究所員同士や同じ団体に所属するメンバー同士でのクリークが

多かったが,利用後には,研究所員と研究室員,エコびとが混在したクリークが増えてい

たことがわかった.また,クリーク数は利用前の 119 が利用後には 218 に,クリークの最大構成員数は 9から 12に,平均構成員数は 5.6から 7.3へと増加していた.このことは,全員が顔見知りであるグループの数が増え,かつ一つ一つのクリークが大きくなったこと

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で,全体の回答者ネットワークが密になったことを意味する. 利用前後で所属するクリーク数と,同数値の変化量が大きかった回答者の上位 10人をそれぞれ表 5-8に示す.

表 5-8 回答者別クリーク数 利用前 利用後 変化量

1 R1 73 CE 217 CE 191 2 R5 71 VE 132 VE 123 3 R2 39 R5 129 R5 58 4 E8 37 R1 103 L7 47 5 L26 32 L7 74 L14 41 6 R12 29 L25 54 L25 38 7 R15 29 E2 52 E2 31 8 L1 28 L4 50 R1 30 9 L7 27 R2 49 R6 27

10 CE 26 R15 48 L12 24 表 5-8に示すように,利用後は,編集長 CEや副編集長 VEの所属しているクリークがも

っとも多く,その数はそれぞれ,利用前の 26 と 9 が利用後には 217 と 132 に増加していた.このことは,回答者ネットワークのクリークは,編集長 CEと副編集長 VEを介して増加していたことを意味する. 5-5-5 協働・交流把握分析の主要な結果

次に,調査票 Bに基づく協働・交流把握分析の主要な結果について述べる.

(1) 市民研を知ったきっかけと参加理由 市民研を知ったきっかけを尋ねた質問に対する有効回答数は 47件で,もっとも多かった

回答が「知合いから紹介された」の 18 件,次が「市民研参加の依頼があった」の 16 件であった.「インターネット上で知った」との回答も 3件あったが,有効回答者のほとんどが,何らかの形で人を介して市民研を知ったことがわかった. 参加の理由を尋ねた質問に関しては,有効回答数が 36 件で,「活動に興味を持ち賛同した」が 22 件,「自分のネットワーク拡大や情報収集のため」が 7 件あり,多くの回答者が自らのソーシャルネットワークの拡大を目的として市民研に参加していたことを確認する

ことができた.

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(2) 参加後の他構成員との関係性の増加とその経緯 市民研に参加したことにより,知合いが増えたと答えた回答者は,本質問に対する有効

回答者 55 人中 36 人であった.また,増加の経緯としては「紹介を受けて」や「企画委員会で」「取材をおこなうことで」増えたという回答が大半を占め,その中でも,編集長 CEを含む研究所員を通して人脈が拡がったという回答が 10件でもっとも多かった.また,自分たちの活動が同サイトを通じて発信されたことで,問い合わせが増え,そこから知合い

が増えたという回答も 8件あった. (3) 市民研を通じての新たな協働の誕生 市民研を通じて,新たな協働が生まれたか否かを尋ねたところ,有効回答 35 件のうち,

ヨシ関連での協働が生まれたという回答が 5件あった.他にも,協働とまでは至らないが,「他の構成員の活動に参加して技術やノウハウなどの情報交換をおこなった」「構成員同士

で話し合う機会があった」がともに 2件,「市民研を通して知り合った人と外部で活動を始めた」が 6件と,構成員同士の交流が増えたことを示唆するような回答があった. (4) 市民研参加による活動の変化 市民研参加後の,各自の活動の頻度と内容の変化について尋ねたところ,それぞれの有

効回答数は 32と 30件であった.活動頻度に関しては,増加したという回答は 8件しかなかったが,市民研究室のコンテンツの更新や,更新頻度を増やすことを意識するようにな

ったという回答が 4件あった.活動内容の変化に関しては「学生などの参加者が増えた」「団体内での結束が強まり新しい活動をおこなうようになった」「他の団体の活動に興味を持っ

た」という回答がそれぞれ 6と 8,3件あった. 5-6 市民研に対する利用者ネットワーク分析手法と協働・交流把握分析の適用結果の

考察

次に,市民研のソーシャルネットワークに対して利用者ネットワーク分析手法と協働・

交流把握分析手法を適用した(上記アンケート調査の)結果を総合的に考察する. まず,調査票 Aに基づく利用者ネットワーク分析の結果,ソシオグラム(図 5-5と図 5-6)

や次数(表 5-4)の変化からは,市民研への参加によって,回答者ネットワークが大きく拡

大していたことがわかった.ただし,図 5-5に示したように,利用前の時点においても,す

でにある程度の利用者ネットワークが回答者間に構築されていた.これは,市民研の対象

が琵琶湖周辺地域と,そこで環境やくらしをテーマに活動している人々に限定されている

ことから,それらの人々の間にもともとある程度のソーシャルネットワークが形成されて

いたものと考えられる. 次に,中心性分析(表 5-5と 5-6)とクリーク特定(表 5-8)の結果からは,回答者が一

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様に回答者ネットワークを拡大していたわけではなく,編集長のCEや副編集長のVEなど,市民研の企画や運営に携わり,他構成員と接する機会が多かった,一部の構成員の回答者

ネットワークの拡大が特に顕著であったことがわかった. また,クリーク特定の結果(表 5-8)は,CEや VEなどの一部の構成員が多くのクリー

クに属し,クリーク間やクリーク内の構成員間を仲介することによって,全員顔見知りの

グループ(クリーク)の数と各グループの規模を拡大させていたことを示唆していた.前

述したように,回答者間には市民研への利用前から,ある程度のソーシャルネットワーク

が構築されていた.このため,回答者ネットワークは,構成員間のつながりが増えること

によって,内部的に拡大していったものと考えられる.また,この結果として,最短距離

(表 5-7)が示すように,1人を介せば,ほとんどの回答者がつながれるような,密度の高い回答者ネットワークが形成されたものと考えられる. 一方,調査票 B に基づく協働・交流把握分析結果,回答結果の 1)から,回答者の多くが自らのソーシャルネットワークが広がることを期待して,市民研に参加しており,ソー

シャルネットワーク拡大に関する要望がもともと参加者側にもあったことがわかった.ま

た,調査票 Bの 2)からは,編集長や研究所員による取材や企画委員会などの市民研の活動を通じて,構成員同士が出会い,新たな関係性が生まれていたことが確認できた. そして,このように市民研の利用者ネットワークが高密度になったことによって,同一

テーマに関心をもつ構成員間のコミュニケーション機会が増大した結果,調査票 Bの 3)で明らかになったように,ヨシをテーマとした新たな協働の誕生に同サイトが寄与したもの

と考えられる.また,上記のコミュニケーション機会の増大には,市民研のWebサイトとしてのインターネット機能が大きく寄与したものと推察される. 市民研のこれまでの活動から生まれた協働事例は,ヨシ関連のわずか1件であったが,

調査票 Bの 3)や 4)の回答結果が示すように,協働にまでは至らなくとも,市民研への参加を通して,他の構成員や研究室の活動に興味を持ったり,他の構成員と交流を持ったりす

る回答者が生まれてきている.将来的には市民研をプラットホームとした協働事例は増え

ていくものと考えられる. 以上のことより,琵琶湖に関わる環境やくらしに関心をもつ人々を結びつけようとする

市民研の目的は,ある程度達成できているものと考えられる. ただし,市民研は大きな課題も抱えている.前述したように,編集長の CEや副編集長の

VEなど,一部の構成員に利用者ネットワークが集中しており,これらの構成員に過度の負担がかかっている.市民研の継続性を考えると,今後は,構成員間の役割分担による分散

的な運営管理体制の確立が求められるだろう.

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5-7 本章のまとめ 本章においては,環境コミュニケーションのソーシャルネットワーク構築フェーズを支

援する ITEIシステムの機能を把握するために,システムの利用者によって形成されるソーシャルネットワーク(利用者ネットワーク)の構造と構造変化,利用者の活動変化を分析

するための手法として,利用者ネットワーク分析手法と協働・交流把握分析手法を提案し

た.また,分析手法としての有効性を検証するために,実体性のあるソーシャルネットワ

ークづくりを目指している ITEI システムである,市民研の利用者ネットワークを対象に,提案分析手法を実際に同事例に適用してみた.最後に,事例適用研究の結果から得られた

知見と,本章の結論として提案分析手法について再度まとめる. 5-7-1 事例適用研究の結果のまとめ

本研究では,ソーシャルネットワークの拡大を志向する ITEIシステムである市民研の利用者ネットワークを対象に,利用者ネットワーク分析手法を適用することで,まず,利用

者ネットワーク分析の結果から,回答者(利用者)ネットワーク構造をソシオグラムとし

て可視化することと,算出した各種指標から,同ネットワークの構造と構造変化を定量的

に把握することができた.また,協働・交流把握分析の結果から,市民研の利用者ネット

ワークから生まれた交流や協働活動,活動変化の現状を把握することができた. 利用者ネットワーク分析手法と協働・交流把握分析手法を市民研に適用した結果から,

得られた主要な知見をまとめると次のようになる. ①アンケート調査の有効回答者間には,市民研への参加前から,すでにある程度の利用者

ネットワークが構築されていた. ②すべての回答者の利用者ネットワークは市民研への参加によって拡大していたが,積極

的に運営や活動に携わっていた構成員の拡大が特に顕著であった. ③市民研利用後の回答者の利用者ネットワークの拡大は,既存の利用者ネットワーク内の

関係性が,編集長と副編集長を中心とした運営メンバーが中心に仲介となり,他構成員

同士を結びつけることで強化された,内部拡大であった. ④高密度化した利用者ネットワークに対応するように回答者間の新たな交流や協働が生ま

れていた. 本研究のアンケート調査では,市民研の構成員全体の 24.1%と,一部の偏ったメンバー

からしか回答を得られておらず,上記の結論は,市民研全体のソーシャルネットワークに

関して得られた知見ではない.しかし,同ネットワークの高密度化は,回答者の中の一部

の構成員がネットワークの中心となることで達成されたものと考えられることから,限定

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的ではあるが,本研究によって市民研のソーシャルネットワーク発展の特徴は捉えること

ができたものと考える. 本研究で提案した利用者ネットワーク分析手法と協働・交流把握分析手法を用いること

で,市民研の利用者ネットワークに関して以上のような知見を得ることができ,市民研に

限定されるものではあるが,ITEIシステム上のソーシャルネットワークの構造や構造変化,利用者の活動変化の分析のために両手法を用いることの有効性を部分的ではあるが示せた

ものと考えられる. ただし,今後の課題としては,アンケート調査における構成員間の関係強度を評価する

ための基準を,より客観的,かつ判断しやすいものとするとともに,有効回答率が低かっ

たことから,より多くの構成員から回答を得られる調査方法を考案する必要があると考え

られる. 5-7-2 利用者ネットワーク分析手法のまとめ

最後に,利用者ネットワーク分析手法と協働・交流把握分析手法を用い,ソーシャルネ

ットワーク構築フェーズの促進を支援する ITEIシステムの機能を把握するための手順をまとめておく. 手順(1) 分析対象とする ITEIシステムの利用者(参加者)に対して,調査票 Aと Bで構成

されるアンケート調査を実施する.ここで,調査票 Aでは,ITEIシステム利用(参加)前後の他利用(参加)者との関係性を評価させ,調査票 Bでは,ITEIシステム利用によって生まれた交流や協働活動,活動変化を回答させる.

手順(2) 調査票 Aの結果から,ITEIシステム利用者の利用前後のソシオマトリックスの作成をおこなう.

手順(3) 上記で作成したソシオマトリックスを用いて利用者ネットワーク分析をおこない,ソシオグラムによる利用者ネットワークの可視化と各種指標の算出をおこなう.

手順(4) 上記ネットワーク分析の結果を ITEI システム利用前後で比較することで,IETIシステム利用者のソーシャルネットワークの構造変化を把握する.

手順(5) 調査票 Bに基づく協働・交流把握分析の結果から,ITEIシステム利用者のシステムの利用による活動の変化などの把握をおこなう.

以上の手順に従って,利用者ネットワーク分析と協働・交流把握分析をおこなうことで,

ITEIシステムの利用者ネットワークの構造と構造変化を定量的に把握することができ,また,利用者ネットワークの下に生まれた交流や協働活動の事例把握をおこなうことができ

る.

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参考文献 1)木村道徳,井手慎司:環境活動のためのソーシャルキャピタルの形成を目指したソーシャルネットワーク構築 Web サイトに関する研究‐びわこ市民研究所を事例として‐,環境情報科学論文集,20,403-408(2006)

2)安田雪:ネットワーク分析,新曜社(1997) 3)金子淳:社会ネットワーク分析の基礎,pp.11-12,勁草社(2003) 4)吉田純:インターネット空間の社会学,世界思想社(2000) 5)池田謙一:ネットワーキング・コミュニティ,東京大学出版会(1997) 6)丸尾哲也:社会的合意形成と“顔の見える IT”,土木施行,44(573),85-91(2003) 7)びわこ市民研究所:<http://www.shiminken.net/>,2007-02-23 8)丸尾哲也:ITを活用したパートナーシップの構築,河川,59(12),56-61(2003)

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