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第 59 回臨床病理検討会 日時:平成 19 年 4 月 15 日(日)午後 3 時から 場所:名古屋大学医学部鶴友会館 2 階会議室 主討論者:聖隷三方原病院 総合診療内科 谷澤朋美 <症例提示> <症 例> 63 歳男性 <職 業> 元リース建材クリーニング作業者 <主 訴> 両下腿浮腫 <現病歴> 本人と妻より聴取 生来健康。咽頭癌で当院耳鼻科に(200X−2)年春〜初秋まで入院。この機に退職。化学・放 射線療法をうけた。検査が嫌で退院後は通院せず。放射線療法後、喉のイガイガ感と痰は常 にある。ほとんど外に出ず、家で過ごしていた。200X 年正月頃から、簡単な料理も作らなく なり、着替えも介助となった。手摺り歩行で家の中を歩く頻度も減った。手足は動かしにく くないが、体全体がえらくておっくうな感じ。同時期からぼけ始めて、トイレ以外でズボン を下ろしたりする。尿便失禁もたまにあり、オムツを使うようになった。徘徊なし。様子が違 うので癌の再発を心配し、1 月上旬当院耳鼻科受診。脳転移・再発はなく、4 月の再受診を指 示された。食欲はあったが体重は減少し、咽頭癌入院時の 39kg が 200X 年 2 月は 37kg。3 月末鼻汁、37.5度の発熱、咳の増加があり、近医受診し風邪薬を処方された。3 日後再受診時 37.2 度。陰嚢と脚全体の浮腫、 尿を指された。 に 3 日後 36.5 度に熱したが、陰嚢と 脚の浮腫がさほど改善しないので当院介入院。 持参した内薬:(風邪薬)・セフジ(セフゾン)(100)4cap/2×N <生歴> ・本人とも愛知県。常薬なし。健康食なし。 渡航歴なし。 温泉は5年自宅の風循環式ではない。尿:日中 4〜5 回・夜間尿 5 回。便:1 回/日・黒色便(200X 年正月ごろから)。 ADL年 1 月まで自立。現はトイレ自立していない、着替え介助、食自立<家歴> になし。 <過料> 当院耳鼻科に、(200X−2)年春〜初秋まで中咽頭癌にて入院。入院時 T4N0M0。 プラ ン・ドセタキセル・5FU にて化学療法をクール施行。上〜下咽頭に放射線療を合70Gy 施行。寛解にて退院。

第59回臨床病理検討会kensankai.lolipop.jp/frontpage/CPC/CPC-kako/kari/59...第59回臨床病理検討会 日時:平成19年4月15日(日)午後3時から 場所:名古屋大学医学部鶴友会館2階会議室

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第59回臨床病理検討会日時:平成19年4月15日(日)午後3時から場所:名古屋大学医学部鶴友会館2階会議室主討論者:聖隷三方原病院 総合診療内科 谷澤朋美

<症例提示><症 例> 63歳男性<職 業> 元リース建材クリーニング作業者<主 訴> 両下腿浮腫

<現病歴> 本人と妻より聴取 生来健康。咽頭癌で当院耳鼻科に(200X−2)年春〜初秋まで入院。この機に退職。化学・放射線療法をうけた。検査が嫌で退院後は通院せず。放射線療法後、喉のイガイガ感と痰は常にある。ほとんど外に出ず、家で過ごしていた。200X年正月頃から、簡単な料理も作らなくなり、着替えも介助となった。手摺り歩行で家の中を歩く頻度も減った。手足は動かしにくくないが、体全体がえらくておっくうな感じ。同時期からぼけ始めて、トイレ以外でズボンを下ろしたりする。尿便失禁もたまにあり、オムツを使うようになった。徘徊なし。様子が違うので癌の再発を心配し、1月上旬当院耳鼻科受診。脳転移・再発はなく、4月の再受診を指示された。食欲はあったが体重は減少し、咽頭癌入院時の39kgが200X年2月は37kg。3月末鼻汁、37.5度の発熱、咳の増加があり、近医受診し風邪薬を処方された。3日後再受診時37.2度。陰嚢と脚全体の浮腫、血尿を指摘された。更に3日後36.5度に解熱したが、陰嚢と脚の浮腫がさほど改善しないので当院紹介入院。持参した内服薬:白い粉(風邪薬)・セフジニル(セフゾン)(100)4cap/2×N

<生活歴> 両親・本人とも愛知県出身。常用薬なし。健康食品なし。海外渡航歴なし。最後の温泉入浴は5年前。自宅の風呂は循環式ではない。排尿:日中4〜5回・夜間尿5回。排便:1回/日・黒色便(200X年正月ごろから)。ADL:今年1月まで自立。現在はトイレ自立、入浴していない、着替え介助、食事は箸で自立。<家族歴> 特になし。

<過去の資料> 当院耳鼻科に、(200X−2)年春〜初秋まで中咽頭癌にて入院。入院時 T4N0M0。シスプラチン・ドセタキセル・5FUにて化学療法を3クール施行。上〜下咽頭に放射線治療を合計70Gy施行。完全寛解にて退院。

〈血液〉200X−2年

化学療法前 化学療法中 退院時 終了 1ヶ月後

白血球 8900 徐々に減少 2600 3500好中球 6140 G-CSF使用なし 1500 2500リンパ球 2100 800〜450 630 500Hb 13.2 * 11.1 11.2MCV 86.3 * 95.9 105Plt 27.0 * 18.1 17.1TP 6.1 * 6.4 5.7Alb * * * 3.3Na 131 * 130 130K 4.1 4.3〜3.6 4.2 4.1(200X−2)年胸部X線:胸膜肥厚なし・肺野異常陰影なし。200X年入院3ヶ月前に耳鼻科受診。CT・喉頭鏡にて局所再発なし。頭部CTにて脳溝・脳室の拡大あり・PVL・出血・梗塞・腫瘍なし。

<入院時身体所見>車椅子上。血圧 114/72mmHg・脈拍 98回/分整・体温:37.5℃・身長 150cm・体重37kg。 表情やや疲弊・栄養痩せ・呼気臭正・年齢より老けて見える。皮膚:乾燥なし・皮疹なし。表在リンパ節:不触。強膜黄疸なし・結膜貧血なし。口唇・口腔粘膜正。上顎自歯なし・下顎齲歯多数。咽頭・扁桃異常なし。頸部:腫瘤なし・甲状腺不触・気管偏位なし・外頸静脈怒張あり・頸動脈雑音なし。胸部:呼吸正・呼吸補助筋使用なし・右前胸部・背部で湿性ラ音・右下肺に捻髪音聴取・心音正。四肢:末梢動脈拍動左右差なく触知・両下腿・膝下3/4〜足背に圧痕性浮腫高度・出血・熱感・圧痛・冷感・チアノーゼなし。腹部:平坦・瘢痕なし・下腹部やや膨隆・腸音正・圧痛・反跳痛・筋性防御・肋骨脊柱角叩打痛なし。肺肝境界第7肋間・肝縦径 7cm・季肋下触知せず。トラウベ三角鼓音。直腸診:前立腺表面平滑、大きさ・ゴルフボール大、圧痛・出血なし。意識正。脳神経異常なし。小脳:手回内・回外および指鼻試験・膝踵試験すべて正。筋萎縮なし。筋トーヌス正・不随意運動なし。歩行はがに股で歩幅が狭い。深部腱反射:左右差なく正常。バビンスキー左+右−。MMT:両上肢 5/5・両下肢 4/5。

<入院時検査所見>〈血液〉WBC 20700/μl〔band6, eg87 eosi3 lymp2 mono2〕 Hb8.8g/dl MCV86.9fL

Plt27.0万/μl 網状赤血球数 5‰ 血沈 50mm/h TP4.8g/dl〔蛋白分画 Alb49.5% α17.7% α217.8% β9.2% γ15.8%〕Alb1.9g/dl GOT28IU/L GPT21IU/L LDH338U/L(基準値 119〜229) ALP:307IU/L γ‐GTP62IU/L T.bil0.2mg/dl CPK103IU/L BUN13.9mg/dl Cr0.81mg/dl 尿 酸 3.6mg/dl Na122mEq/L K3.0mEq/L Cl83mEq/L Ca7.3(補正 9.3mg/dl) CRP6.66mg/dl 血清浸透圧 241mOsm Fe:12μg/dl TIBC146μg/dl フェリチン 729 ng/dl ANA− C-ANCA<10EU P-ANCA < 10EU CH50 42.6 C368mg/dl C425mg/dl IgG 725mg/dl IgA210mg/dl IgM65mg/dl FreeT4 1.41pg/ml TSH1.01μIU/ml PSA0.457ng/ml 寒冷凝集反応 16倍(陰性) KL-6307U/ml(基準値 500未満 HIV抗体− マイコプラズマ抗体 40倍 C.pneumoniae IgG0.3 C.pneumoniae IgA1.15(いずれも基準値は0.9未満)〈尿定性・沈渣〉比重1.004、pH7.0、蛋白−、潜血 3+、糖−、ケトン−、WBC 1〜4/HPF、RBC 30〜49/HPF、円柱−、変形赤血球:−。〈尿生化学〉[フロセミド 20mg・スピロノラクトン25mg内服中]浸透圧 261mOsm 尿Cr 31.2mg/dl 尿中Na 58mEq/L 尿中 K 10.5mEq/L 尿中レジオネラ抗原− 〈喀出痰〉塗沫グラム染色WBC 4+ 細菌− ヒメネス染色− 蛍光染色:ガフキー0号・抗酸菌 PCR− 培養すべて陰性〈血液培養〉2セット陰性〈心電図〉洞調律・軸正・V1でQSパターン・移行帯V3〜4〈胸部X線〉CTR46.7%・右CPA鈍・右上肺野中枢側〜肺尖部に air-bronchogramを含む固質化影・中肺野を中心に右肺全体に斑網状影・右横隔膜〜中肺野に胸膜のひきつれ・左肺野異常なし (図:59CPC-1)

(図:59CPC-1) (図:59CPC-3)〈頭部CT〉脳溝・脳室の拡大あり・PVL・出血・梗塞・腫瘍なし(3ヶ月前と著変なし) 〈胸部CT〉大動脈・冠動脈に石灰化・直径 9mmのリンパ節が前気管支に1つ・右上肺野

にエアブロンコグラムを伴う固質化影・胸膜肥厚・中〜下肺に末梢優位で区域性のある網状影が多発・右のみ厚さ2㎝分の胸水  (図:59CPC-3)

<入院後経過>2日目 CTRX(ロセフィン)2g×1回/日・EM(エリスロシン)0.5g×3回/日開始3日目 ツベルクリン反応−[硬結なし 発赤 7mm×7mm 以前のツ反所見不明]経胸壁心エコー:EF 82%・心嚢水なし・下大静脈呼吸性変動あり・心機能異常なし4日目 気管支鏡:気管支壁不整なし・中等量の痰あり・B3の気管支洗浄液にて白血球分画 Seg 32%・Eos 4・Lym 8・肺胞大食細胞 56%・CD4/CD8=0.64 BALF検体 P.カリニPCR−・TBPCR− BALF培養:後日陰性 右B1擦過細胞診にて異型細胞なし5日目 β-Dグルカン陰性 VB12 361pg/ml (基準値 180〜914)・葉酸 1.5ng/ml(基準値> 3.1) HSVIgM0.21 倍 (−) HSVIgG120 倍 ( + ) CMV 抗 体 − EBVCAIgM < 10 EBVCAIgG320 倍 EBVEBNA40 倍 SCC0.9ng/ml ( < 1.5) NSE6.7ng/ml ( < 15) CYFRA4.9ng/ml (<3.5)ACTH負荷テスト:血中 cortisol 前値 29.8μg/l・30分値 34.2・ 60分値 45.6 膀胱鏡:腫瘍なし IVP:水腎なし・尿路欠損像なし 尿細胞診:陰性7 日目 胸水:黄色やや混濁・pH7.2・比重 1.024・蛋白 3.0g/dl(血清 TP:4.9)・糖151mg/dl・LDH115IU/L(血清 LDH222)・ADA4.8IU/L (基準値 9〜19IU/L)・リバルタ+・WBC6930/3〔N 7 Ly 11 Eo 5 Ba 5 Mo 4 中皮細胞・組織球認める〕9 日目 CPR2.17mg/dl 胸部 X 線では右肺野収縮 以降 CRP2 前後で推移 血清Alb1.8g/dl(最低値) 食事全量摂取 SpO294%(room air)15日目 CTRX・EMを終了(14日間投与)し、CFPN-PI(フロモックス)・CAM(クラリシッド)に変更25日目〜 左中肺野に捻髪音出現 胸部レントゲン上左舌区にスリガラス影出現29日目 抗生剤終了 食事全量摂取 下腿浮腫と低アルブミン血症は改善せず経過中の検便:潜血間接法で(+)〜(−)・便Hb(−)・脂肪便は1回/3回で(+)上部消化管内視鏡:食道・胃・十二指腸に異常なし。30日目 骨髄液塗抹:cellularity やや低形成・巨核球数正常・M/E 比 2.6・明らかな核異型・染色体異常・免疫染色異常なし  2次性の骨髄抑制との診断31日目 左舌区の微細な網状陰影増強・右肺野は著変なし 息苦しさの訴えあり 食欲低下 WBC8400/μl〔band 3 Seg 7 Ba1 Ly 9 Mo 10〕 CRP5.95mg/dl β-Dグルカン− 喀出痰塗抹染色:顆粒球(4+)[Geckler分類 4]・細菌なし。32日目 2回目の気管支鏡施行 気管支洗浄液:白血球分画(Seg 98% Ly 2% 肺胞大食細胞あり) 培養:Klebsiella pneumoniae103・P.カリニ PCR− 左 B4擦過細胞診:異型細胞なし CPFX(シプロフロキサシン)300mg×2回/日に抗生剤変更41日目 その後も酸素化悪化、胸部X線の左下肺斑網状影悪化(図 59CPC-2 図 59CPC-4)

(図 59CPC-2  図 59CPC-4)

WBC 11600/μl CRP 7.99mg/dl42日目 ある検査結果が返ってきた

<主治医への質問と回答>① 入院後の痴呆症状の推移入院3日目まではごみ箱への排便や易怒性がみられたが、リスペリドン開始後は回数減少。意思疎通は経過を通して良好で、見当識もほぼ保たれ、痴呆症状に大きな変化はなかった。② 胸水中および血清ACE 値:未検。③ 2回目のBALのCD4/CD8:26.0/9.2=2.83④ 41日目の採血データの白血球分画:WBC 11600/μl(Band1 Aeg85 Ba1 Ly4 Mo9)⑤ 入院後のその他生化学検査、尿検査推移

〈生化学〉 9日目 21 日目

31 日目

41日目

WBC 6500 8300 8400 11600TP 4.9 5.0 6.1 5.5Alb 1.8 2.1 2.7 2.2GOT 46 19 35 26GPT 34 21 23 20ALP 295 312 321 296LDH 222 187 245 219γ-GTP 48 36 36

Na 124 125 128 129K 3.5 4.0 3.9 4.2Cl 83 90 91 93CRP 2.07 2.19 5.95 7.99〈尿検査〉蛋白 30〜− WBC1~4/HPF RBC50〜99/HPF の範囲で横ばい 変形赤血球や脂肪円柱・赤血球円柱の出現は経過を通してなし⑥ アスペルギルス抗原:未検⑦ 眼底検査:未施行⑧ 四肢末梢神経所見:経過を通して異常なし⑨ 200X年−2年の胸部レントゲン所見  (図 59CPC-5)

⑩ アスベスト曝露歴:なし⑪ 可溶性 IL-2R 値:未検⑫ 喫煙・飲酒歴:いずれも2年前の癌診断まで、タバコ 40本/日×42年間、日本酒 2合/日×42年間⑬ 呼吸困難感自覚の有無:入院前はなし 入院35日目ごろから体動時の息切れ出現⑭ 入院時の SpO2、呼吸数および入院後のそれらの値の変化 入院時 SpO2 98% 呼吸数未検だが努力様ではない 以降、30日目ごろまでは room air にて呼吸数 10×2/分前後・SpO2 98%。それ以降、痰の増加と酸素化の悪化を認め、36日目には呼吸数 11×2/分・努力様で SpO2 90〜93% 経鼻酸素 2L開始し、SpO299% 42日目、酸素投与下でも体動時の息苦しさあり、安静・坐位にて経鼻 2Lで11×2/分・努力様 、SpO2:96%⑮ 入院後の熱計推移:入院・抗生剤投与後、速やかに36度台に解熱  以降、36度台前半が多かったが、41日目に37.0℃

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー<症例に対する質問> 村山Dr(県立岐阜医療センター):陰嚢浮腫は入院時もあったか?主治医:なし。村山Dr:放射線・化学療法は入院中施行されたということでよいか?主治医:2クール目終了後に放射線療法を施行され、放射線療法後に退院している。渡部Dr:黒色便は本人、妻のいずれから聴取したものか?主治医:不明。渡部Dr:本人の色の識別は信用できる状態だったか?主治医:できると思う。

<主討論>聖隷三方原病院 総合診療内科 谷澤朋美医師(平成17年卒)プロブレムリスト#1中咽頭癌#2前頭葉症候群→神経サルコイドーシス#3亜急性肺臓症→サルコイドーシス#4急性肺炎(Klebsiella pneumonia)診断手技  経気管支鏡下肺生検 診断 サルコイドーシス

#1 200X-2年診断された StageⅣaの中咽頭癌。200X-2年シスプラチン+ドセタキセル+5FUの化学療法+上咽頭から下咽頭に合計 70Gy放射線照射にて完全寛解確認後退院 。200X年1月頭部CT・喉頭鏡にて局所再発認めていない状態。中咽頭癌であり、組織型はおそらく扁平上皮癌。初診時 StageⅣaの局所及び領域内進行性病変であったと推察される。ロビンスによると中咽頭癌の転移パターンは所属リンパ節への転移がほとんどであり、遠隔転移は稀とのことであり、ハリソンによると最春部位はほとんどが頭頚部領域とのこと。現在の診察所見において、咽頭、扁桃異常なく、表在リンパ節不触であること、頭部CTにても著変認めないことから、完全寛解維持されていると判断する。

#2 初老の男性に200X年正月より出現した異常行動。具体的にはトイレ以外にてズボンを下ろす、尿便失禁。見当識は保たれており、現病歴を本人から聴取できる程度の記銘力も保たれている。単純頭部CTでは脳溝・脳室の拡大あるも、3ヶ月前の無症状の時期と著変認めず、神経学的所見としては、バビンスキー反射左陽性、歩行障害、異常行動のほか特記すべき所見は認められない。まず異常行動に関して考察する。知的機能が保たれているにもかかわ

らず、不適切な行動を認めることから現在の状態は前頭葉症候群の中の、前頭葉脱抑制症候群と考えられる。ハリソンによると、前頭葉脱抑制症候群は内側前頭前野、眼窩前頭野皮質、または尾状核、視床内側核の病巣により、代謝性脳症、多発性硬化症なども原因となるとのことであった。 次に歩行はやや開脚小股歩行であり、失調歩行の種類の中では小脳失調歩行、感覚性失調歩行、Parkinson病様歩行、歩行失行が鑑別にあがる。また左バビンスキー所見に関してだが、片側性であり同側下肢に筋萎縮を伴わない筋力低下を伴うことから、上位運動ニューロン障害があると考えられる。しかし、その他の腱反射亢進を認めないことなどから非常に小さな病変が左錐体路にある可能性が示唆される。 これらをまとめて考えると、少なくとも2箇所の異なる部位に病変があると推察される。空間的に異なる部位に病変を起こすような疾患で、CTにて病変が写らないものと考えると、血管炎症候群、リンパ腫、肉芽腫性疾患が考慮される。 発症時期が#3とほぼ同時であることから#3と関連性が考慮されるため、#3の考察へ移る。

#3 胸部レントゲン・CT所見・胸水所見より、肺胞炎と胸膜炎を併発した肺臓症と判断する。200X-2年のレントゲンでは胸膜肥厚、異常陰影認めておらず、経過から200X年正月より少し以前より発症し、数ヶ月の経過で進行した亜急性肺臓症。肺機能障害は伴っていない食事摂取良好だが、体重減少、低Alb血症を来たしており消耗性疾患である。 このプロブレムはリンパ球減少症、低蛋白血症・低Alb血症、低Na血症、フェリチン高値、貧血、顕微鏡的血尿を含む。 以下、亜急性肺臓症の鑑別に進む。ハリソンでは肺臓症を病理組織所見に基づき 2つのグループに分類している。一つは炎症と繊維化によるものであり、もう一つは間質あるいは血管領域の肉芽腫反応によるものである。炎症と繊維化による肺臓症ではまず肺胞上皮障害が起き、これが肺胞壁や肺胞腔に炎症を引き起こし、慢性化で間質の繊維化へと進展し呼吸機能障害を引き起こす。肉気腫反応は Tリンパ球、マクロファージ、類上皮細胞の集積とこれらからなる肉芽腫が肺実質に形成されることが特徴であり、繊維化に進展することもあるが、肺機能障害を来たすことは稀となっている。 肺臓症の際によく検査される項目に KL-6があるが、これは臨床検査法提要によると、Ⅱ型肺胞上皮細胞にて産生される物質であり、Ⅱ型肺胞上皮が過形成されると肺胞内 KL-6が上昇し、更に血管―肺胞透過性亢進が起きることで血清KL-6上昇を来たす。ロビンスによるとⅠ型肺胞上皮の破壊はⅡ型肺胞上皮細胞の増殖刺激となる。以上から、右肺野全体にわたる肺臓症を来たしているにもかかわらず KL-6値が正常であること、呼吸苦を認めないことからは、炎症と繊維化による肺臓症の可能性はやや低いと推察されるが、これはあくまで推察の域をでない。

 ハリソンでは肺臓症の原因疾患が別紙のようになっている。以下それにそって鑑別を進めていく。 病歴、入院時身体所見および検査結果から、石綿肺・ヒューム肺・珪肺・ベリリウム肺・放射線肺臓炎[以上は肺への暴露歴なし]、ARDS慢性期[片側性]、誤嚥性肺炎[喀痰、病歴]、薬剤性[歴なし]、SLE・RA・MCTD・強皮症・多発筋炎・皮膚筋炎[肺外所見なく、抗核抗体陰性 、CPK正常、補体正常]、遺伝性疾患[家族歴なし、発症年齢、肺外症状なし]、移植片対宿主病[移植歴なし]、原発性胆汁性肝硬変・慢性肝炎[肝炎所見なし]、HIV感染症・非定型肺炎・非定型抗酸菌肺炎[塗沫,培養,抗体検査,], リンパ平滑筋腫症[片側性、気腫性変化なし]、アミロイドーシス[なし]、特発性間質性肺炎[胸膜炎を伴う、片側性病変]、Wegener肉芽腫症[頭部CT正常、C-ANCA陰性、胸部CTにて空洞認めず]は否定。 次に気管支鏡検査の結果も踏まえると、カリニ肺炎[PCR陰性]、好酸球性肺炎・Chug-Strauss症候群[好酸球増加なし]、肺胞蛋白症[白濁の記載なし]、Goodpasture・特発性肺ヘモジテリン沈着症・孤立性肺毛細血管炎[ヘモジテリン認めず、病歴上喀血もなし]は否定的と考える。更に、経過から入院後軽快しないことから過敏性肺臓炎は否定。 次に、膀胱鏡・IVP・尿細胞診結果が正常であったことから血尿の腎疾患は間質性腎炎と考えられる。また、低Na血症はACTH刺激試験で反応は低いが、負荷前値がやや高値であり、浮腫による循環血液量増加に伴う低Na血症と判断する。 更に、胸水検査結果を検討すると、胸水 TP/血清 TP=0.612 (>0.5)、胸水 LDH/血清LDH=0.51(<0.6)、胸水 LDH<LDH基準上限 2/3であり滲出性胸水である。胸水中Gluが正常値で悪性細胞認めないことから、リウマチ性胸膜炎・悪性胸水・結核性胸膜炎・SLEは否定的であることから、今までの検査結果や経過ともあわせて、ここで更に結核・悪性腫瘍[固形腫瘍]を否定する。 この段階で残っている疾患はサルコイドーシス、リンパ腫様肉芽腫症(悪性リンパ腫)となる。 以下この2つの疾患に関して考察する。 サルコイドーシスは全身性慢性肉芽腫性疾患であり、全年齢層に認められる。数週で急激に発症するものは全体の 20-40%であり、40-70%が数ヶ月以上にわたり進行する遅発型である。胸膜病変を生じるのは全体の1-5%であり、通常片側性にリンパ球含有の浸出液を特徴とする。 リンパ腫様肉芽腫症の本体は EBV関連リンパ腫が多いが、末梢型T細胞性リンパ腫もある。30-50才の男性に多い疾患であり、CTでは典型的には散在性に1cm以下の小結節影が気管支血管構造や葉間を中心に認められ、肺機能障害が多く認められる。胸膜病変に関しては調べた範囲では不明。血液検査では白血球増加または白血球減少やグロブリン増加または低下を認めることが知られている。なお、肺、中枢神経、皮膚が最も病変が起こりやすい臓器である。  本症例は当初片側性肺臓症であり結節病変はCTでもはっきり認められないこと、右の片側性胸膜炎にてリンパ球を含有する滲出性胸水が出現していること、リンパ球減少症を来

たしていること、ツベルクリン反応陰性であること、2回目の気管支鏡検査にてCD4/CD8比が2.83と著明に増加を来たしていることから最終診断をサルコイドーシスと推察した。  ここで#2の考察にうつる。サルコイドーシスは全身性疾患であり、神経病変が約5%で認められる。精神障害の報告もあり、稀に多発性硬化症様の多数の病変が生じることがあることから、#3をサルコイドーシスと推察すると、#2は#3による神経サルコイドーシスと考えられる。サルコイドーシスとすると、遅発型サルコイドーシスであり、胸部レントゲンの分類では肺実質にびまん性変化があるが肺門リンパ節腫脹を伴わないⅢ型になる。炎症臓器としは、肺胸膜、リンパ節、神経、腎臓であり、肺機能障害も出現してきていることから今後グルココルチコイド投与が行われ、症状軽快を認めたものと推察する。

#4 第 31 病日の気管支洗浄液の培養にて Klebshiella pneumonia 検出されており 、Klebshiella pneumonia感染による急性肺炎が合併したと判断する。

<主討論に対する質問>   小田切Dr(海南病院):UIPをどのように否定したのか?肺臓炎ではなく、肺臓症とした理由は?谷澤Dr:UIPについては、本症例では胸膜炎を伴っている事から否定的と考えた。肺臓症としたのは、間質性肺炎、肉芽腫疾患双方を含む概念として捉えた。保井Dr(海南病院):低ナトリウム血症、リンパ球減少症はどう考えたか?谷澤Dr:浮腫を伴う事から循環血漿量が増加したタイプのもの。希釈性低ナトリウムと考えた。尿中ナトリウム排泄増加は利尿剤投与中であり、当てにならないと思った。リンパ球減少はサルコイドーシスの所見の一つと考えた。栗本Dr:低 γグロブリン血症・リンパ球減少・ツベルクリン所見は、#3の結果か、背景か、無関係か?谷澤Dr:#3の結果という考え以外考察はしていない。低 γグロブリンはうまく説明できなかった。服部Dr(県立岐阜医療センター):主治医に確認したい。D-ダイマー値は?ADH値は?主治医:共に測定していない。服部Dr:低アルブミン血症はどう考えたか?谷澤Dr:サルコイドーシスによる消耗性のものと考えた。小田切Dr:#4は抗生剤使用中に生じたと考えたのか?谷澤Dr:そう考えた。植村Dr(名大病院):希釈性低ナトリウム血症はどのように生じたと考えたか?

谷澤Dr:十分に考察できていなかった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー〈メールで寄せられたリスト>今泉Dr(厚生連海南病院 平成18年卒)#1 中咽頭癌(化学療法・放射線療法後)#2 正球性貧血 #a 急性肺炎 #b 下腿浮腫 #c 浸出性胸水

大友Dr(衣笠病院 内科)#1 咽頭癌(化学・放射線療法後)#2 痴呆症#3 貧血症#4 急性肺炎→器質化肺炎ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー〈病理報告〉  名古屋第一赤十字病院 病理部 伊藤雅文医師*経気管支的肺生検 まず、病変の主座は肺胞にある。肺胞内に均一な好酸性物質の滲出を認め、炎症細胞浸潤を伴う。 炎症性肺胞性病変は下記の通りに分類される。•感染性–細菌性•通常型気管支肺炎、大葉性肺炎•非定型的気管支肺炎(乾酪性肺炎、レジオネラ感染)–真菌性 (カリニ肺炎)•非感染性–肺胞蛋白症–COP (cryptogenic organizing pneumonia)・ 定型的なカリニ肺炎、レジオネラ肺炎の組織像につき解説。本症例では、カリニ肺炎とCOPが鑑別に挙がる。COPの概念の変遷は下記。•Organizing pneumonia (20世紀初頭)•Bronchiolitis obliterans (BO) (Liebow 1968)–BO and diffuse alveolar damage•BO with classical interstitial pneumonia (BIP)

• Bronchiolitis obliterans organizing pneumonia (BOOP) (Davison 1983, Epler 1985)•COP (ATS/ERS, 2002) グロコット染色で菌体の証明を出来ておらず、カリニ肺炎と断定することは出来ないが、カリニ肺炎を強く疑う像である。鑑別としてCOPがあがる。*骨髄クロット標本Cellularity20%の低形成髄、3系統とも減少を認め、背景には膠様変性を伴う。明らかな異型などなく、原因を特定できない二次性造血障害の像である。

<病理報告への質問>服部Dr:画像所見と組織所見が合わない印象だが。伊藤Dr:時間が経過すると肺胞壁が肥厚してきて間質性肺炎様の像となりうる、どの時期で病変を捉えるかによりずいぶん異なると思う。渡部Dr:確認したいが、TBLBはどこから取ってきたものか?主治医:第31病日の気管支鏡で左B4付近から取ってきた。森田Dr(岐阜大学総合診療部):PCR感度を下げるとほぼ全て陽性になるというのは、ほぼ全ての人が持っているからという理解でよいか? 伊藤Dr:カリニがいるかどうかだけでなく、どれぐらいの量があるのか、組織浸潤性があるのかも大切。渡部Dr:マクロファージ内にカリニ様物体との事だが、免疫染色で確認はしているか?伊藤Dr:確認していない。ちょうど抗体が切れていた。栗本Dr:左B4からの生検という事は1週間ぐらいの病変と考える。BAL、TBLBの検体内に組織球が出てきている。時期と照らし合わせて、カリニ菌体がなくても、やはりカリニらしいか?伊藤Dr:宿主側のマクロファージを中心とした過剰反応がある。菌体がいなくても起こりうる反応であり、カリニに矛盾しないと考える。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー<その後の経過報告>主治医のプロブレムリスト#1 中咽頭癌 [X.4.12]#2 正球性貧血 [X.4.12]→#5<済> [X.6.17]#3 痴呆症 [X.4.12]#4 低ナトリウム血症 [X.4.12]→抗利尿ホルモン分泌異常症[X.4.17]→抗利尿ホルモン分泌異常症(#5) (治癒)<済> [X.6.26]#5 間質性肺炎 [X.4.12]

→カリニ肺炎 [X.6.17] → 治癒<済> [X.6.28]#6 低蛋白血症 [X.5.1] →(包含) #5<済> [X.6.17]#7 リンパ球減少症 [X.5.23]#8 気胸 [X.6.12]→続発性自然気胸(#5) [X.6.17]ある検査は、経気管支的肺生検。

それぞれについて、経過を述べる。#1については、再発なし。#2は、今回の入院時から認められた正球性貧血。入院後も徐々に進行し、最低値は39日目のHb6.3。各種検査結果から慢性炎症性の貧血との結論に達した。悪性疾患は見あたらず、#5に伴う貧血の可能性が高いと考えた。#5の改善とともに徐々に回復し、#5に包含した。退院時にはHb8.8まで回復し、退院 8ヶ月後Hb11.5。#3 痴呆症は、2年前のMRIですでに脳萎縮があり治療可能な痴呆症ではない、と判断した。#4 低ナトリウム血症過去 2 年間の資料で Na130/K4/Cl100 程度だったのが、今回入院時にそれぞれ122/3.0/83。もとの130程度の低ナトリウム血症は reset osmostatによるもので、さらに今回低 Naを引き起こした疾患を#4 低ナトリウム血症とした。尿・採血所見からSIADHと展開し、#5の治療中、徐々に改善したため、#5の肺病変に伴う SIADHと考えた。#5 間質性肺炎TBLBの病理診断を受けてからの経過を述べる。42日目からバクトラミンを開始した。Manndelおよびハリソン内科学より、AIDS患者の場合のレジュメに沿って、バクトラミン注 3A×3回/日、プレドニゾロンも併用した。治療開始後、酸素化・画像所見・採血所見は改善し、14日間の投与終了とした。この経過からカリニ肺炎がかなり疑わしいと考えたが、胞体がはっきりと確認されなかった、PCR陰性であったことから、この時点ではまだカリニ肺炎とは断定していなかった。ST合剤投与終了の2日後、気胸を発症。自覚症状なし。カリニ肺炎の4~30%で気胸を合併するという報告がある。1. 信頼する病理医がカリニ肺炎と診断したこと2. リンパ球減少症が存在したこと3. カリニ肺炎の治療が著効したこと4. 気胸が起こったことの4点から、6月17日に#5をカリニ肺炎に展開した。#6 低アルブミン血症当初、#5もしくは#2に伴うものと考えていた。しかし、食事 10割以上摂取にもかかわらず低アルブミン血症は一向に改善せず、また#5が一旦改善したように見えた、入院20日目

頃も回復のきざしがなかった。このため、5月1日に別プロブレムとして掲げた。脂肪便なし、上部消化管内視鏡正常。原因が判然としないまま、経口栄養剤にて対応した。その後#5とともに改善し、6月17日に#5に包含とした。退院時はアルブミン3.0。退院後 8ヶ月アルブミン4.0と正常化した。#7 リンパ球減少症2年前の咽頭癌に対する化学療法中から徐々に出現し、その後回復が確認されていないリンパ球減少症。当初は#5の肺炎による産生抑制と考えたが、#5の肺炎が一般的な病原体とは考えにくく、易感染性の関与が考えられたため、別プロブレムとした。シスプラチン・ドセタキセルの化学療法では、リンパ球減少の副作用の頻度が高いとの報告がある。入院41日目に提出した全血リンパ球・CD4数は117/μl。HIVによるAIDSの場合と比べると、CD4数 200/μl以下ではカリニ肺炎の頻度が急激に上昇する。カリニ肺炎患者の95%がCD4<200/mm3との報告がある。#5が治癒したあともカリニ肺炎の予防的投与として、バクタ 1T/日で投与を継続した。しかし、退院後すみやかにリンパ球数は改善し、#5の治癒後2ヶ月でリンパ球数は1500前後。退院3ヶ月後、バクタのためと考えられる低ナトリウム血症が出現し、バクタ中止。その後も発熱や肺炎の再発はなく、退院後5ヶ月で#7は治癒とした。#8 気胸考察ののちに、続発性自然気胸(#5)とした。胸腔ドレーン挿入後、タルクによる胸膜癒着術を経て治癒した。#9 多発性肺嚢胞症(#5)#5治癒後、両肺のボリュームは縮小し、CT上も多発性に嚢胞ができた。また、カリニ肺炎による胸膜壊死のために気胸になりやすい状態。気胸治癒後の呼吸機能検査にて、%VC42%、1秒率 65%、DLco予測値 31%。6分間歩行では room airにて 84%まで低下。HOTを導入して退院とした。現在、酸素 2L投与下で、歩行でも息切れなし、数百mの散歩にも行っている。

カリニ肺炎を起こすに至った基礎疾患として#7を考えた。しかし、その後のリンパ球数の回復を見ると、リンパ球減少が肺炎による抑制だけだったのではないか、という疑問点が残る。とすると、なぜこの患者にカリニ肺炎が生じたかが説明できない。

<その後の経過に対する質問>植村Dr:SIADHの診断根拠は? 主治医:利尿剤中止後も同様の尿浸透圧などの所見であった。植村Dr:リンパ球減少は背景としてとらえたという事でよいか? 主治医:よい。植村Dr:低タンパク血症はなぜプロブレムとしてあげたか?

主治医:#5の部分症として捉えていたが、2000kcal/日以上摂取していても全く改善してこなかった。どこかからタンパクが漏れ出る病態があるのではないかと考えていた。栗本Dr :γグロブリンはどうなったか?主治医:退院後5ヶ月の時点で TP7.0、Alb3.9。渡部Dr:#3の痴呆症はどうなったか?主治医:異常行動は変わらなかった。外来通院中も変わりない。渡部Dr:Babinski反射、筋力低下はどうなったか? 主治医:Babinskiは再検していない。筋力低下は回復した。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー<総合討論>渡部Dr:主討論者のプロブレムリストを元に研鑽会としてのリストを作成する。#1 中咽頭癌はこのままでよいか?→異議なし#2 異常行動はどうか?→痴呆症が良いという考えが多数。#3はどうか?亜急性肺臓症で許容できるか?伊藤Dr:肺臓症というと Pneumopathyとなってしまう。通常、肺病変は肺炎、循環障害、腫瘍が主。分類上は Pneumonitisだと思う。小田切Dr:肺炎でよいと思う。 三島Dr(海南病院):肺胞蛋白症は炎症に入るのだろうか?伊藤Dr:広い意味で炎症になる。マクロファージの異常症。→多数決にて亜急性肺臓症が多数。 栗本Dr:脳症と名づけた時は脳炎以外も含む。種々含むという意味で肺臓症でよいのではないか?谷澤Dr:主討論者としては、「肺炎」の範疇でよいのかわからなかった。よくわからず「肺臓症」とした。X線上「肺炎」とよばれる病態にあるとは思ったが、その後の展開を検討する上で最初から狭めてはいけないと考えた。小田切Dr:肺炎と肺臓炎ではどうちがうのか?渡部Dr:肺胞蛋白症などは、肺炎にも肺臓炎にも入らないと考えていた。 議論がこれ以上まとまらない。ここは多数決どおり、#3 亜急性肺臓炎とする。 この続きはぜひメーリングリストでしていただきたい。 さて、この展開だがカリニ肺炎でよいか?栗本Dr:反対。主治医が言うとおり、バクトラミンではなくステロイドが効いたかもしれない。気胸もその他の病気でも起こりうる。 胸水はカリニで伴いうるのか?むしろまれなことではないか?ぜひとも diagnosticに確定させたい。伊藤Dr:特定されていない以上、COPに入れておくことに賛成する。カリニを特定することに力を入れるべきという意見に賛成する。

渡部Dr:器質化肺炎とするのはどうか?伊藤Dr:病変の主座が細気管支か肺胞かを区別するのが今回の新しい分類の最大のポイント。区別するのが難しい事もあるが、本症例は明らかに肺胞に主座がある。渡部Dr:多数決をとる。→肺胞性器質化肺炎が多数。#4は削除でよいか?→異議なし。 この患者は浮腫、低タンパク血症で紹介受診している。これらを別プロブレムとするべきか?村山Dr:自分は低ナトリウム血症とリンパ球減少症をあげた。リンパ球減少症が一番わからない。化学・放射線療法後はそれによるものとしても今回入院時もあった。その後改善したのもわからない。森田Dr:自分は正球性貧血、低タンパク血症を別にあげた。リンパ球減少症は見落としていた。小田切Dr:リンパ球減少症はあげておきたい。植村Dr:低ナトリウム血症は別にあげたい。SIADHで良いと思う。リンパ球減少症はわからない。渡部Dr:利尿剤はいつからの投与か? 主治医:入院3日前から。渡部Dr:このレジメでリンパ球減少が遷延するのか?主治医:不明。渡部Dr:多数決により、低ナトリウム血症、リンパ球減少症をあげることとする。この二つを何番にするか?過去二年間採血がされていないのが難しいが。 多数決にて、#1 中咽頭癌#2 痴呆症#3 リンパ球減少症#4 亜急性肺臓炎#5 低ナトリウム血症の順とする。 この化学療法でリンパ球減少症が遷延するのかをしりたい。またカリニかどうかの証明を是非していただきたい。栗本Dr:Plt、Hb、MCV、TP、Albのその後の経過を知りたい。主治医:Pltは入院時27万、ST合剤開始時は40万、2週後29.9万。以後20万前後。 Hbは入院時 8.8、ST合剤開始時は7前半、2週後 8後半。退院5ヵ月後11.5。 MCVは入院時 85。以後わずかに上昇し、80後半から90前半で推移している。 Albは退院時2.8、退院5ヵ月後には4.0まで上昇した。       <以上>

〈内科学研鑽会としてのプロブレムリスト〉

#1 中咽頭癌#2 痴呆症#3 リンパ球減少症#4 亜急性肺臓炎#5 低ナトリウム血症