第 61 回日本薄片研磨片技術討論会開催報告 産業技術総合研究所 大和田 朗・鈴木 正哉・佐藤 卓見 新・地殻,第 5 号,p.9 - 10,2019 ‐9‐ 2018 年 10 月,第 61 回日本薄片研磨片技術討論会は 3 日間 の日程で開催され,盛況のうちに終えることが出来ましたのは, 常に技術や研究に真摯に向き合う会員の皆様のお蔭だと感じて おります. 10 月 9 日(火)巡検,案内役を中島礼(産総研)さんにお 願いして土浦駅を出発し笠間市稲田の花崗岩採石場へ向かい, 陶器で有名な笠間焼周辺を経て筑波山梅林を見学しました. 中島さんは,さながら正統派ミュージシャンを思わせる少々 ワイルドな容姿の心優しい方です.現地に移動するバスの車内 では真面目な本筋に加えて,時々,茶目っ気を混ぜた小粋な説 明で会員を和ませ,会員からの個々の質疑にも快く対応してく れました.バスの乗り降りの際にはご年配の会員への優しきお 気遣い,とても有難かったです. 翌日 10 日(水)午前中は総会が開かれました.野村秀彦実 行委員長(北海道大学)の司会進行により,鈴木正哉会長補佐 役(産総研)から開会宣言が行われると,私(大和田)からの 会長挨拶ですが,普段使いもしない敬語への変換ができないの で,これが何より嫌い!これまで会の土台作りだけに励んでき た私からすれば 1 年毎に繰り返す公開処刑のような思いで理不 尽この上なく,断腸の思いで会員の皆様の前に立たされ,ご挨 拶の形だけを済ませた後は大役を務めた感でいっぱいです.続 いて伊藤嘉紀事務局長(東北大学)からの会計報告も速やかに 承認されました.昨年承認された「新・地殻」編集委員会のメ ンバー紹介の後,会の発展に伴い,組織作り見直しの視点から 理事の立ち上げも承認され,今期 50 年継続会員で表彰され旧 会の会長経験者として貢献された東北大学の大山次男さんが当 会初の理事に就任されました. 筑波山梅林での巡検 50 年継続会員として表彰される大山会員(写真左) ここ数年,会員が増加傾向にあるなかで,現会長としてやるべ きことは,開催地が決定した後から終了するまでを円滑に運ぶ ための土台作りが必須であるということを,今回の総会全体を 通して強く感じておりました. 午後の講演は 2 本立てスペシャルです.14 時から開始され, 最初の記念講演を「小笠原の島々から探るプレート沈み込み帯 の誕生過程」というテーマで,石塚治(産総研)さんに講師を 務めて頂きました. 質疑応答で盛り上がる石塚氏の講演 石塚さんは非常に研究熱心な方で多忙を極めており,講演を お願いしたのは 2017 年 12 月の事でした.残念ながら開催ま での間にお会いする機会が 1 度しかありませんでしたが,開催 まで間もない 9 月 29 日(土)の夜に自宅でテレビ ¹ を見てい ると,偶然にも画面に映る石塚さんを発見して驚きました.テ レビに見る石塚さんは現地で岩石の採取が叶ったことがとても 嬉しそうで,その表情を見ていると何故か不思議と心が和みま した.     次の特別講演を務めて頂いたのは,産総研薄片室が所属する地 質情報基盤センター長の佐脇貴幸さんです.佐脇さんはとても 気さくな方で,講演をお願いにあがった折,二つ返事で引き受 けてくれたものの,その後,すぐに言われた「喋るけど 20 分 ぐらいでも良い?」「いや,もう少し長く!」笑いながら交わ した言葉のやり取りが明るく印象的で,とても思い出深いもの となりました.当日は「岩石に封じられた地質情報の追求」と いうテーマで 30 分以上お話頂き,最後は「硫黄に封じ込めら れたテントウムシの命の追求」で締めて頂き,1 枚の薄片が生 命の痕跡を垣間見るドラマチックな 1 ページになり得るといっ た感動的な内容で,薄片がもたらす可能性の幅広さにも触れて 頂きました. 1 NHKスペシャル 秘島探検 東京ロストワールド 9 月 29 日放送 第2集「孀婦(そうふ)岩」

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第 61回日本薄片研磨片技術討論会開催報告

産業技術総合研究所大和田 朗・鈴木 正哉・佐藤 卓見

新・地殻,第 5 号,p.9 - 10,2019

‐ 9 ‐

2018 年 10 月,第 61 回日本薄片研磨片技術討論会は 3 日間の日程で開催され,盛況のうちに終えることが出来ましたのは,常に技術や研究に真摯に向き合う会員の皆様のお蔭だと感じております.

 10 月 9 日(火)巡検,案内役を中島礼(産総研)さんにお願いして土浦駅を出発し笠間市稲田の花崗岩採石場へ向かい,陶器で有名な笠間焼周辺を経て筑波山梅林を見学しました.

 中島さんは,さながら正統派ミュージシャンを思わせる少々ワイルドな容姿の心優しい方です.現地に移動するバスの車内では真面目な本筋に加えて,時々,茶目っ気を混ぜた小粋な説明で会員を和ませ,会員からの個々の質疑にも快く対応してくれました.バスの乗り降りの際にはご年配の会員への優しきお気遣い,とても有難かったです.

 翌日 10 日(水)午前中は総会が開かれました.野村秀彦実行委員長(北海道大学)の司会進行により,鈴木正哉会長補佐役(産総研)から開会宣言が行われると,私(大和田)からの会長挨拶ですが,普段使いもしない敬語への変換ができないので,これが何より嫌い!これまで会の土台作りだけに励んできた私からすれば 1 年毎に繰り返す公開処刑のような思いで理不尽この上なく,断腸の思いで会員の皆様の前に立たされ,ご挨拶の形だけを済ませた後は大役を務めた感でいっぱいです.続いて伊藤嘉紀事務局長(東北大学)からの会計報告も速やかに承認されました.昨年承認された「新・地殻」編集委員会のメンバー紹介の後,会の発展に伴い,組織作り見直しの視点から理事の立ち上げも承認され,今期 50 年継続会員で表彰され旧会の会長経験者として貢献された東北大学の大山次男さんが当会初の理事に就任されました.

筑波山梅林での巡検

50 年継続会員として表彰される大山会員(写真左)

ここ数年,会員が増加傾向にあるなかで,現会長としてやるべきことは,開催地が決定した後から終了するまでを円滑に運ぶための土台作りが必須であるということを,今回の総会全体を通して強く感じておりました.

 午後の講演は 2 本立てスペシャルです.14 時から開始され,最初の記念講演を「小笠原の島々から探るプレート沈み込み帯の誕生過程」というテーマで,石塚治(産総研)さんに講師を務めて頂きました.

質疑応答で盛り上がる石塚氏の講演

 石塚さんは非常に研究熱心な方で多忙を極めており,講演をお願いしたのは 2017 年 12 月の事でした.残念ながら開催までの間にお会いする機会が 1 度しかありませんでしたが,開催まで間もない 9 月 29 日(土)の夜に自宅でテレビ ¹ を見ていると,偶然にも画面に映る石塚さんを発見して驚きました.テレビに見る石塚さんは現地で岩石の採取が叶ったことがとても嬉しそうで,その表情を見ていると何故か不思議と心が和みました.    次の特別講演を務めて頂いたのは,産総研薄片室が所属する地質情報基盤センター長の佐脇貴幸さんです.佐脇さんはとても気さくな方で,講演をお願いにあがった折,二つ返事で引き受けてくれたものの,その後,すぐに言われた「喋るけど 20 分ぐらいでも良い?」「いや,もう少し長く!」笑いながら交わした言葉のやり取りが明るく印象的で,とても思い出深いものとなりました.当日は「岩石に封じられた地質情報の追求」というテーマで 30 分以上お話頂き,最後は「硫黄に封じ込められたテントウムシの命の追求」で締めて頂き,1 枚の薄片が生命の痕跡を垣間見るドラマチックな 1 ページになり得るといった感動的な内容で,薄片がもたらす可能性の幅広さにも触れて頂きました.

1 NHKスペシャル 秘島探検 東京ロストワールド 9 月 29 日放送 第2集「孀婦(そうふ)岩」

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第 61 回日本薄片研磨片技術討論会開催報告( 大和田 朗,鈴木 正哉,佐藤 卓見 )

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佐脇氏の講演に熱心に聞き入る会員

石塚さんと佐脇さんのご講演は,どちらとも会員からの興味・関心が高く活発な質疑応答が行われたため,演者のお二人には質疑が多すぎてご迷惑をお掛けしてしまいました.

 その日の夕方の懇親会は万福裕造(農研機構)さんの名司会によって行われ,絶妙な間合いの取り方によって運ばれた会員同士の懇親の場は,言うまでもなく大盛況で、その情景は察するところ「志すところ皆同じ」であることを物語っておりました.次の日の発表会が不安になるほど勢いづいていることには多少の不安もありましたが,盛り上がりのない懇親会ほど意味不明なものはございません.懇親会はその会の力強さを感じる場面でもあります.

万福会員の名司会で懇親会も盛り上がる

 最終日である 11 日(木)は,当会のメインイベント技術発表討論会が行われました.午前中は前夜の懇親会で司会を務めて頂いた万福裕造(農研機構)さん,午後は山田裕久(物材機構)さんに座長を務めて頂きました.

討論会の会場風景

11 件の発表内容は多岐にわたり,最後に設けた総合討論の場では活発に意見交換が行われておりました.最後は佐々木克久副会長(アースサイエンス ( 株 ))の閉会の言葉をもって第 61回総会・薄片研磨片技術討論会を無事に終了することが出来ました.

佐々木副会長のにこやかな閉会挨拶で会は閉幕

 会も終わり,数日が過ぎた頃,実行委員長の野村さんより,主催地の作成する報告書の締め切りを迫られ,一難去ってまた一難の中,遅く起きた土曜をだらだらと過ごしながら,夜になってテレビの音声を BGM にやっと書き始めました.ふとテレビに目をやれば,なんと!よくよく見れば,そこには当研究会会員の武内浩一(長崎県窯業センター)さんが登場してタモリさんと仲良くお話しているではありませんか.結局は報告書をそっちのけにしてテレビに釘付けの執筆者となりました.会のメンバーがテレビ番組 2 に出演しているのを見て,嬉しくなってしまうのは皆さんも同じだと思います.

 何故か個人のブログ的になってしまいましたが,私達の会は,これから先もまだまだ発展し続ける事でしょう.そう言える理由は,老いも若きもなく仕事に情熱を持って挑んでいる方々によって結集されているからであり,こんなにも熱い会が存在していることに会長という立場からも明るい未来を感じております.最後になりますが,共催頂いた日本粘土学会,日本学術振興会 111 委員会の関係者の皆様,そして記念撮影の折,シャッターを押して下さった名も知らぬ女性の方まで,携わった全ての方々に感謝を申し上げて第 61 回の開催報告とさせて頂きます.

2 NHK総合 ブラタモリ 10 月 20,27 日放送「なぜ “ 世界の有田焼 ” になった?」