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183 第6節 東日本大震災からの復興 (1) 水産業における復旧・復興の状況 平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災による津波は、豊かな漁場に恵まれて いる東北地方太平洋沿岸地域を中心に、水産業に甚大な被害をもたらしました。 同年7月に政府が策定した「東日本大震災からの復興の基本方針」において、復興期間を 2020年度までの10年間と定め、平成27(2015)年度までの5年間を「集中復興期間」と位置 づけた上で復興に取り組み、平成27(2015)年6月には「平成28年度以降の復旧・復興事業 について」を決定し、平成28(2016)年度からの後期5か年を「復興・創生期間」と位置づ けています。 平成31(2019)年3月で、東日本大震災の発生から8年間が経過しましたが、この間、被 災地域では、漁港施設、漁船、養殖施設、漁場等の復旧が積極的に進められてきました(図 3-6-1)。 国では、引き続き、被災地の水産業の復旧・復興に取り組んでいます。 陸揚げ岸壁について 全延長の陸揚げ 115 172 208 248 273 284 機能回復(漁港) 部分的に陸揚げ 149 117 99 65 45 35 機能回復(漁港) 潮位によっては 48 23 9 5 1 0 陸揚げ可能(漁港) 復旧が完了した 631 974 1,417 1,903 2,324 2,514 漁港施設(施設) 水揚金額 801 375 560 649 695 743 722 741 719 (億 円) 水揚量 463 181 285 325 367 345 323 322 336 (千トン) 水揚金額 79% 95% 39% (152.5億円)(559.3億円) (7.0億円) 水揚量 62% 78% 49% (86.0千トン) (244.7千トン) (5.4千トン) 福島県 (小名浜) 宮城県 (気仙沼、女川、 石巻、塩釜) 岩手県 (久慈、宮古、 釜石、大船渡) H30の 内訳 図 3 - 6 - 1 水産業の復旧・復興の進捗状況(平成31(2019)年3月取りまとめ) 2 漁港 •被災した漁港の全てで陸揚げ機能が回復。 1 水揚げ •震災前年比で水揚金額90%、水揚量73%まで回復。 ※各年の状況は3月末時点。 ※漁港施設とは、岸壁、防波堤、泊地、道路等をいう。 ※被災漁港数は7道県の合計。 ※H22年は22年3月~23年2月、その他の年は2月~翌年1月。 H30 H29 H28 H27 H26 H25 H30 H29 H28 H27 H26 H25 H24 H23 H22 36 22 34 50 67 81 88 47 15 54 37 7 65 31 3 78 20 2 86 14 0 89 11 0 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 漁港施設 (折れ線) 水揚量 水揚金額 陸揚げ岸壁 (縦棒) 全延長の 陸揚げ機能回復 部分的に 陸揚げ機能回復 潮位によっては 陸揚げ可能 47 70 81 87 93 90 93 90 39 100 62 70 79 74 70 70 73 第6節 東日本大震災からの復興

第6節 東日本大震災からの復興 - maff.go.jp...183 第6節 東日本大震災からの復興 第3章 第1部 (1) 水産業における復旧・復興の状況 平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災による津波は、豊かな漁場に恵まれて

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Page 1: 第6節 東日本大震災からの復興 - maff.go.jp...183 第6節 東日本大震災からの復興 第3章 第1部 (1) 水産業における復旧・復興の状況 平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災による津波は、豊かな漁場に恵まれて

183

第6節 東日本大震災からの復興

第3章

第1部

(1) 水産業における復旧・復興の状況

平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災による津波は、豊かな漁場に恵まれている東北地方太平洋沿岸地域を中心に、水産業に甚大な被害をもたらしました。

同年7月に政府が策定した「東日本大震災からの復興の基本方針」において、復興期間を2020年度までの10年間と定め、平成27(2015)年度までの5年間を「集中復興期間」と位置づけた上で復興に取り組み、平成27(2015)年6月には「平成28年度以降の復旧・復興事業について」を決定し、平成28(2016)年度からの後期5か年を「復興・創生期間」と位置づけています。

平成31(2019)年3月で、東日本大震災の発生から8年間が経過しましたが、この間、被災地域では、漁港施設、漁船、養殖施設、漁場等の復旧が積極的に進められてきました(図3-6-1)。

国では、引き続き、被災地の水産業の復旧・復興に取り組んでいます。

陸揚げ岸壁について全延長の陸揚げ 115 172 208 248 273 284機能回復(漁港)部分的に陸揚げ 149 117 99 65 45 35機能回復(漁港)潮位によっては 48 23 9 5 1 0陸揚げ可能(漁港)復旧が完了した 631 974 1,417 1,903 2,324 2,514漁港施設(施設)

水揚金額 801 375 560 649 695 743 722 741 719 (億 円)

水 揚 量 463 181 285 325 367 345 323 322 336 (千トン)

ワカメ養殖※1 34,439 3,742 27,379 30,414 23,354 25,799 25,002 27,047 コンブ養殖※2 13,817 0 5,633 8,502 6,904 7,205 5,433 6,250 カキ養殖※3 4,031 354 719 1,476 2,207 2,386 2,316 2,503 ホタテ養殖※4 14,873 56 5,130 9,245 11,677 12,313 10,871 6,810 ギンザケ養殖※5 14,750 0 9,448 11,619 11,978 13,007 12,159 13,486

復旧隻数 9,195 15,308 17,065 17,947 18,257 18,486 18,651

 うち岩手 4,217 7,768 8,542 8,805 8,852 8,852 8,852

   宮城 3,186 5,358 6,293 6,861 7,106 7,310 7,465

   福島 ― 256 289 340 358 383 393

水揚金額 79% 95% 39% (152.5億円) (559.3億円) (7.0億円) 水 揚 量 62% 78% 49% (86.0千トン) (244.7千トン) (5.4千トン)

福島県(小名浜)

宮城県(気仙沼、女川、石巻、塩釜)

岩手県(久慈、宮古、釜石、大船渡)

H30の内訳

定置漁場 100% 100% 要望なし (138か所) (850か所) 養殖漁場 99% 99% 100% (163か所) (950か所) (11か所)

福島県宮城県岩手県H30の内訳

※ コンブ養殖は、同一施設で生産できるワカメ養殖への転業や低気圧被害等により、生産が伸び悩んでいる。※ カキ養殖は、むき身加工の人手不足等により、生産が伸び悩んでいる。※ ホタテ養殖は、良質な種苗の不足等が原因と推測されるへい死の増加により、生産が減少している。

•平成28年度以降は原発事故の影響で復旧が遅れている福島県について被災地の要望を踏まえ回復を目指している。

418 645 672 705 729 749 754

22 23 23 23 23 23 26

(水産加工施設)•被災3県において、再開を希望する水産加工施設の9割以上が業務再開。

(産地市場)•岩手県及び宮城県は、22施設全てが再開。•福島県は、12施設のうち、4施設が再開。

業務再開した水産加工施設(施設)※1

業務再開した産地市場(施設)※2

がれきにより漁業

活動に支障のある

漁場(か所)

定置漁場 958 1,003 1,004 987 992 990 988  うち 958 975 976 980 988 988 988  処理済み 養殖漁場 804 1,071 1,101 1,100 1,129 1,131 1,135

 うち 801 973 1,045 1,077 1,103 1,116 1,124  処理済み

図3-6-1 水産業の復旧・復興の進捗状況(平成31(2019)年3月取りまとめ)

2 漁港•被災した漁港の全てで陸揚げ機能が回復。

4 養殖•再開を希望する養殖施設は29年6月末に全て整備完了。

1 水揚げ•震災前年比で水揚金額90%、水揚量73%まで回復。

被災319漁港の陸揚げ岸壁の機能回復状況(%):縦棒

被災2853漁港施設の復旧状況(%):折れ線

漁船約2.9万隻が被災。復旧目標(27年度末までに2万隻)に

対する復旧状況(%)

岩手県・宮城県の主要な養殖品目の漁協共販数量の被災前年比(%)

岩手・宮城・福島各県の主要な魚市場の水揚げの被災前年比(%)

※各年の状況は3月末時点。※漁港施設とは、岸壁、防波堤、泊地、道路等をいう。※被災漁港数は7道県の合計。

※1 漁期は2月~ 5月。 ※3 漁期は9月~翌年5月。 ※5 漁期は3月~ 8月。※2 漁期は3月~ 8月。 ※4 漁期は4月~翌年3月。

※H22年は22年3月~23年2月、その他の年は2月~翌年1月。

※各年の隻数は3月末時点。※復旧隻数は21都道県の合計。

H30H29H28H27H26H25

H30H29H28H27H26H25H24

H30H29H28H27H26H25H24

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H29漁期

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H26漁期

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H24漁期

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•復旧目標(2万隻)については、93%まで進捗。

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漁港施設(折れ線)

水揚量

水揚金額

産地市場

定置漁場

養殖漁場

水産加工施設

陸揚げ岸壁(縦棒)

全延長の陸揚げ機能回復

部分的に陸揚げ機能回復

潮位によっては陸揚げ可能

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9390

9392919085

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ギンザケ養殖ワカメ養殖

コンブ養殖

ホタテ養殖

カキ養殖

3 漁船

被災3県で被害があった産地市場(34施設)及び再開を

希望する水産加工施設(785施設)の業務再開状況(%)

※1 各年の数字は、H24年が3月末、H25年からH29年は12月末時点、H30年は9月末時点。

※2 各年の数字は、H24年が4月末、H25年が12月末、H26年以降は2月末時点。

H30H29H28H27H26H25H24

•再開を希望する水産加工施設の9割以上が業務再開。

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5 加工流通施設

被災3県でがれきにより漁業活動に支障のある漁場のうち、

がれき処理済みの漁場(%)

※支障のある箇所数が増減するのは、気象海象によりがれきが当該漁場に流入したり、流出したりするためである。※各年の数字は3月末時点。

H30H29H28H27H26H25H24

•がれきにより漁業活動に支障のあった定置及び養殖漁場 のほとんどで撤去が完了

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(単位: トン)

第 6 節 東日本大震災からの復興

Page 2: 第6節 東日本大震災からの復興 - maff.go.jp...183 第6節 東日本大震災からの復興 第3章 第1部 (1) 水産業における復旧・復興の状況 平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災による津波は、豊かな漁場に恵まれて

184

第1部

第3章

陸揚げ岸壁について全延長の陸揚げ 115 172 208 248 273 284機能回復(漁港)部分的に陸揚げ 149 117 99 65 45 35機能回復(漁港)潮位によっては 48 23 9 5 1 0陸揚げ可能(漁港)復旧が完了した 631 974 1,417 1,903 2,324 2,514漁港施設(施設)

水揚金額 801 375 560 649 695 743 722 741 719 (億 円)

水 揚 量 463 181 285 325 367 345 323 322 336 (千トン)

ワカメ養殖※1 34,439 3,742 27,379 30,414 23,354 25,799 25,002 27,047 コンブ養殖※2 13,817 0 5,633 8,502 6,904 7,205 5,433 6,250 カキ養殖※3 4,031 354 719 1,476 2,207 2,386 2,316 2,503 ホタテ養殖※4 14,873 56 5,130 9,245 11,677 12,313 10,871 6,810 ギンザケ養殖※5 14,750 0 9,448 11,619 11,978 13,007 12,159 13,486

復旧隻数 9,195 15,308 17,065 17,947 18,257 18,486 18,651

 うち岩手 4,217 7,768 8,542 8,805 8,852 8,852 8,852

   宮城 3,186 5,358 6,293 6,861 7,106 7,310 7,465

   福島 ― 256 289 340 358 383 393

水揚金額 79% 95% 39% (152.5億円) (559.3億円) (7.0億円) 水 揚 量 62% 78% 49% (86.0千トン) (244.7千トン) (5.4千トン)

福島県(小名浜)

宮城県(気仙沼、女川、石巻、塩釜)

岩手県(久慈、宮古、釜石、大船渡)

H30の内訳

定置漁場 100% 100% 要望なし (138か所) (850か所) 養殖漁場 99% 99% 100% (163か所) (950か所) (11か所)

福島県宮城県岩手県H30の内訳

※ コンブ養殖は、同一施設で生産できるワカメ養殖への転業や低気圧被害等により、生産が伸び悩んでいる。※ カキ養殖は、むき身加工の人手不足等により、生産が伸び悩んでいる。※ ホタテ養殖は、良質な種苗の不足等が原因と推測されるへい死の増加により、生産が減少している。

•平成28年度以降は原発事故の影響で復旧が遅れている福島県について被災地の要望を踏まえ回復を目指している。

418 645 672 705 729 749 754

22 23 23 23 23 23 26

(水産加工施設)•被災3県において、再開を希望する水産加工施設の9割以上が業務再開。

(産地市場)•岩手県及び宮城県は、22施設全てが再開。•福島県は、12施設のうち、4施設が再開。

業務再開した水産加工施設(施設)※1

業務再開した産地市場(施設)※2

がれきにより漁業

活動に支障のある

漁場(か所)

定置漁場 958 1,003 1,004 987 992 990 988  うち 958 975 976 980 988 988 988  処理済み 養殖漁場 804 1,071 1,101 1,100 1,129 1,131 1,135

 うち 801 973 1,045 1,077 1,103 1,116 1,124  処理済み

図3-6-1 水産業の復旧・復興の進捗状況(平成31(2019)年3月取りまとめ)

2 漁港•被災した漁港の全てで陸揚げ機能が回復。

4 養殖•再開を希望する養殖施設は29年6月末に全て整備完了。

1 水揚げ•震災前年比で水揚金額90%、水揚量73%まで回復。

被災319漁港の陸揚げ岸壁の機能回復状況(%):縦棒

被災2853漁港施設の復旧状況(%):折れ線

漁船約2.9万隻が被災。復旧目標(27年度末までに2万隻)に

対する復旧状況(%)

岩手県・宮城県の主要な養殖品目の漁協共販数量の被災前年比(%)

岩手・宮城・福島各県の主要な魚市場の水揚げの被災前年比(%)

※各年の状況は3月末時点。※漁港施設とは、岸壁、防波堤、泊地、道路等をいう。※被災漁港数は7道県の合計。

※1 漁期は2月~ 5月。 ※3 漁期は9月~翌年5月。 ※5 漁期は3月~ 8月。※2 漁期は3月~ 8月。 ※4 漁期は4月~翌年3月。

※H22年は22年3月~23年2月、その他の年は2月~翌年1月。

※各年の隻数は3月末時点。※復旧隻数は21都道県の合計。

H30H29H28H27H26H25

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•復旧目標(2万隻)については、93%まで進捗。

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漁港施設(折れ線)

水揚量

水揚金額

産地市場

定置漁場

養殖漁場

水産加工施設

陸揚げ岸壁(縦棒)

全延長の陸揚げ機能回復

部分的に陸揚げ機能回復

潮位によっては陸揚げ可能

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50 5239 45

ギンザケ養殖ワカメ養殖

コンブ養殖

ホタテ養殖

カキ養殖

3 漁船

被災3県で被害があった産地市場(34施設)及び再開を

希望する水産加工施設(785施設)の業務再開状況(%)

※1 各年の数字は、H24年が3月末、H25年からH29年は12月末時点、H30年は9月末時点。

※2 各年の数字は、H24年が4月末、H25年が12月末、H26年以降は2月末時点。

H30H29H28H27H26H25H24

•再開を希望する水産加工施設の9割以上が業務再開。

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5 加工流通施設

被災3県でがれきにより漁業活動に支障のある漁場のうち、

がれき処理済みの漁場(%)

※支障のある箇所数が増減するのは、気象海象によりがれきが当該漁場に流入したり、流出したりするためである。※各年の数字は3月末時点。

H30H29H28H27H26H25H24

•がれきにより漁業活動に支障のあった定置及び養殖漁場 のほとんどで撤去が完了

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Page 3: 第6節 東日本大震災からの復興 - maff.go.jp...183 第6節 東日本大震災からの復興 第3章 第1部 (1) 水産業における復旧・復興の状況 平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災による津波は、豊かな漁場に恵まれて

185

第6節 東日本大震災からの復興

第3章

第1部

被災した漁港のうち、水産業の拠点となる漁港においては、流通・加工機能や防災機能の強化対策として、高度衛生管理型の荷さばき所や耐震強化岸壁等の整備を行うなど、新たな水産業の姿を目指した復興に取り組んでいます。このうち、高度衛生管理型の荷さばき所の整備については、流通の拠点となる8漁港(八

はちのへ

戸、釜かま

石いし

、大おお

船ふな

渡と

、気仙沼、女おな

川がわ

、石いしの

巻まき

、塩しお

釜がま

、銚子)において実施し、平成31(2019)年3月末現在、7漁港で供用が開始されたところです。

一方、被災地域の水産加工業においては、平成30(2018)年11月~31(2019)年1月に実施した「水産加工業者における東日本大震災からの復興状況アンケート(第6回)の結果」によれば、生産能力が震災前の8割以上まで回復したと回答した水産加工業者が約6割となっているのに対し、売上げが震災前の8割以上まで回復したと回答した水産加工業者は約4割であり、依然として生産能力に比べ売上げの回復が遅れています。県別にみると、生産能力、売上げとも、福島県の回復が他の4県に比べ遅れています(図3-6-2)。また、売上げが戻っていない理由としては、「販路の不足・喪失・風評被害」「原材料の不足」「人材の不足」の3項目で回答の8割を占めています(図3-6-3)。このため、国では、引き続き、加工・流通の各段階への個別指導、セミナー・商談会の開催、省力化や加工原料の多様化、販路の回復・新規開拓に必要な加工機器の整備等により、被災地における水産加工業者の復興を支援していくこととしています。

0%

20 40 60 80 100

全 体(172件)

青森県( 10件)

岩手県( 24件)

宮城県( 67件)

福島県( 40件)

茨城県( 31件)

全く回復していない 10%未満10%以上20%未満 20%以上30%未満30%以上40%未満50%以上60%未満 60%以上70%未満70%以上80%未満 80%以上90%未満90%以上100%未満 100%以上

40%以上50%未満

売上がない 10%未満10%以上20%未満 20%以上30%未満30%以上40%未満50%以上60%未満 60%以上70%未満70%以上80%未満 80%以上90%未満90%以上100%未満 100%以上

40%以上50%未満

57%

90%

63%

69%

28%

55%

〈生産能力の回復状況〉

資料:水産庁「水産加工業者における東日本大震災からの復興状況アンケート(第6回)の結果」注:赤字は80%以上の割合。

192216

600 30

15 8 5

13 23 19

19 25 24

17 21 25

〈売上の回復状況〉

0%

20 40 60 80 100

42%

80%

46%

52%

17%

39%

161214

3010 40

22 12

19 10 10

21 16 15

13 13 21

全 体(173件)

青森県( 10件)

岩手県( 24件)

宮城県( 67件)

福島県( 41件)

茨城県( 31件)

図3-6-2 水産加工業者における生産能力及び売上の回復状況

石巻漁港(石巻魚市場)

Page 4: 第6節 東日本大震災からの復興 - maff.go.jp...183 第6節 東日本大震災からの復興 第3章 第1部 (1) 水産業における復旧・復興の状況 平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災による津波は、豊かな漁場に恵まれて

186

第1部

第3章

0%

20 40 60 80 100

全 体(187件)

青森県( 3件)

岩手県( 29件)

宮城県( 72件)

福島県( 52件)

茨城県( 31件)

資料:水産庁「水産加工業者における東日本大震災からの復興状況アンケート(第6回)の結果」

17 21429

33 67

6 58 8 23

6 35 10 32

11 36 22 15

10 41 24 14

図3-6-3 水産加工業者の売上が戻っていない理由

生産能力(施設)の不足販路の不足・喪失・風評被害人材の不足原材料の不足運転資金の不足その他

(2) 東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響への対応

ア 水産物の放射性物質モニタリング東日本大震災に伴って起きた東電福島第一原発の事故の後、消費者に届く水産物の安全性

を確保するため、「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」に基づき、国、関係都道県、漁業関係団体が連携して水産物の計画的な放射性物質モニタリングを行っています。水産物のモニタリングは、区域ごとの主要魚種や、前年度に50ベクレル/kg以上の放射性セシウムが検出された魚種を主な対象としており、生息域や漁期、近隣県におけるモニタリング結果等も考慮されています。原則、週1回程度、モニタリングを行った結果を公表し、基準値100ベクレル/kgを考慮して、出荷するか、自粛や出荷制限するかを判断しています(図3-6-4)。

調査区域•県域を区分•各区域ごとの主要水揚げ港で検体採取

調査対象魚種•主要生産物•50ベクレル/kg超となったことのある品目

調査頻度•原則週1回•漁期前の検査(季節性のある魚種等)

自粛出荷制限指示

•1地点のみで基準値超えとなった場合は各自治体の要請による自粛。•複数の地点で基準値超えとなった場合は国による出荷制限。

出荷基準値に近い値となった場合、出荷を自粛する自治体・漁業関係団体もある。

自治体が中心となって調査計画策定

調査強化

近隣県の調査結果 基準値に近い値

>100ベクレル/kg

≦100ベクレル/kg

調査実施

【出荷制限等の実効性確保】•対象魚種の水揚げは行わない(調査用検体を除く)。•水揚げ港において市場関係者がこれを確認。

図3-6-4 水産物の放射性物質モニタリングの枠組み

Page 5: 第6節 東日本大震災からの復興 - maff.go.jp...183 第6節 東日本大震災からの復興 第3章 第1部 (1) 水産業における復旧・復興の状況 平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災による津波は、豊かな漁場に恵まれて

187

第6節 東日本大震災からの復興

第3章

第1部

東電福島第一原発の事故以降、平成31(2019)年3月末までに、福島県及びその近隣県において、合計13万7,576検体の検査が行われてきました。基準値(100ベクレル/kg)以上の放射性セシウムが検出された検体は、時間の経過とともに減少する傾向にあります。基準値超過検体数は、福島県においては、海産種では平成31(2019)年1月に1検体のみ(3年10か月ぶり)となっており、淡水種では平成30(2018)年度には5検体となっています。また、福島県以外においては、海産種では平成26(2014)年9月以降、淡水種では平成29(2017)年11月以降、基準値超過はありません(図3-6-5)。

さらに、平成30(2018)年度に検査を行った水産物の検体のうち、99.96%が検出限界未満*1となりました。

平成23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

4ー

6月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー9月

10ー12月

4ー

6月

1ー3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

1ー

3月

27(2015)

29(2017)

30(2018)

31年(2019)

28(2016)

100

50

0

%3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0

検体

総検体数: 58,208検体100ベクレル/kg超の検体数: 2,098検体100ベクレル/kg以下の検体数: 56,110検体

〈海産種〉〈福島県〉

100

50

0

%3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0

検体

総検体数: 59,539検体100ベクレル/kg超の検体数: 177検体100ベクレル/kg以下の検体数:59,362検体

〈   〉福島県以外

100ベクレル/kg超 超過率100ベクレル/kg以下

100

50

0

%400

300

200

100

0

検体

総検体数: 5,816検体100ベクレル/kg超の検体数: 369検体100ベクレル/kg以下の検体数: 5,447検体

〈淡水種〉〈福島県〉

100

50

0

%1,200

1,000

800

600

400

200

0

検体

総検体数: 14,013検体100ベクレル/kg超の検体数: 369検体100ベクレル/kg以下の検体数:13,644検体

〈   〉福島県以外

120

90

57.1

299

430

380

649

278

828

300

1,092

202

1.302

154135

1,627

8430

1,921

34 33

1,987

25

10

2,153

94

2,031

0 0

2,211

00

2,044

0

0

1,937

0

1,458 1,753 2,005 2,370 2,151 2,239 2,139 2,316 2,418

0 00

0

0

000 1

2,171

2,232

2,064

2,298

1,965

1,567

1,407

1,590

1,665

41.0

36.925.121.6

13.49.6 7.7

4.61.5 1.7 1.6 1.0 0.5 0.4 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

22449

4.7

11

575

34

1,498

45

1,727

27

2,539

12

2,260

9

2,880

3

2,187

6

2,669

2

2,280

3

2,341

1

2,238

1

2,268

1

2,087

0

2,334

0

2,303

0

2,126

0

1,622

0

2,063

0

1,934

0

1,924

0

1,583

0

1,922

0 0

0

0000

0

0

1,657

1,701

1,422

1,652

1,542

1,421

1,292

1,600

1,266

1.9 2.2 2.5 1.1 0.5 0.3 0.1 0.2 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

1349

21.0

23

77858

70

298

106

924

35

716

9

482

13

438

18

865

12

88814

523 8

297

9

780

7

645

2

439

5

350

3

667

3

5121

298

0

304

4

454

2

512 0

278

1

286

0

474

2

3981

2410187

0

424

0

3630

2250192

23.0

12.119.0

10.34.7 1.8 2.9 2.0 1.3 2.6 2.6 1.1 1.1 0.5 1.4 0.4 0.6 0.3 0.0 0.9 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

54

66

45.0

47

109

24

116

48

81

59

173

15

179 8

1276

88

30

238

17

1808

136 272

19

282

5

3461

2062

77

2

207

3

2032

121

0

97

1

239

0

2513

129 0

78

2

243

0

312

2

343

0

328

6

127

3

1550

60

0

78

30.1

17.1

37.2

25.4

7.75.9 6.411.28.6 5.6 2.7

6.31.4 0.5 2.5 1.0 1.5 1.6 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

図3-6-5 水産物の放射性物質モニタリング結果

平成23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

4ー

6月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

1ー

3月

27(2015)

29(2017)

30(2018)

31年(2019)

28(2016)

平成23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

4ー

6月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

1ー

3月

27(2015)

29(2017)

30(2018)

31年(2019)

28(2016)

平成23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

4ー

6月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

4ー

6月

1ー

3月

7ー

9月

10ー

12月

1ー

3月

27(2015)

29(2017)

30(2018)

31年(2019)

28(2016)

イ 市場流通する水産物の安全性の確保等放射性物質モニタリングにおいて、基準値を超える放射性セシウムが検出された水産物は、

国、関係都道県、漁業関係団体等の連携により流通を防止する措置が講じられているため、

*1 分析機器が検知できる最低濃度であり、検体の重量や測定時間によって変化する。厚生労働省のマニュアル等に従い、基準値(100ベクレル/kg)から十分低い値になるよう設定。

Page 6: 第6節 東日本大震災からの復興 - maff.go.jp...183 第6節 東日本大震災からの復興 第3章 第1部 (1) 水産業における復旧・復興の状況 平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災による津波は、豊かな漁場に恵まれて

188

第1部

第3章

市場を流通する水産物の安全性は確保されています(図3-6-6)。一方、時間の経過に伴う放射性物質濃度の低下を踏まえ、検査結果が安定して基準値を下

回るようになった魚種・海域では出荷制限の解除が行われます。平成30(2018)年度には福島県沖のスズキ等、海産種で6件の出荷制限が解除され、平成31(2019)年3月末現在に海産種で出荷制限の対象とされているのは、福島県沖の5魚種のみとなりました。

しかしながら、淡水種については、平成31(2019)年3月末現在、7県の漁場の一部において、合計15種が出荷制限又は自治体による採捕自粛措置の対象となっており、これらの水域ではいまだに漁業活動や遊漁者の受入れが困難なところもあり、内水面漁協等の経営等に大きな影響を及ぼしています。

※各自治体での該当品目の出荷  制限を漁業関係団体に通知。

図3-6-6 出荷制限又は自主規制措置の実施・解除に至る一般的な流れ(海産魚)

複数の場所で、少なくとも1か月以上の検査結果が全て基準値を安定的に下回る

原子力災害対策本部長から各自治体への出荷制限指示※

各自治体、漁業関係団体による自主的な出荷自粛

動向を把握

他の地点でも基準値超え

他の地点では基準値超えが

ない

基準値超え( >100Bq/kg)による調査の強化 出荷制限指示の

解除要件に準じて、基準値を安定的に下回る

出荷制限解除

自粛解除

ウ 福島県沖での試験操業・販売の状況福島県沖では、東電福島第一原発の事故の後、沿岸漁業及び底びき網漁業の操業が自粛さ

れ、漁業の本格再開に向けた基礎情報を得るため、平成24(2012)年より、試験操業・販売が実施されてきています。

試験操業・販売の対象となる魚種は、放射性物質モニタリングの結果等を踏まえ、漁業関係者、研究機関、行政機関等で構成される福島県地域漁業復興協議会での協議に基づき決定されてきたほか、試験操業で漁獲される魚種及び加工品ともに、放射性物質の自主検査が行われるなど、市場に流通する福島県産水産物の安全性を確保するための慎重な取組が行われています。

平成31(2019)年3月末現在、試験操業の対象海域は東電福島第一原発から半径10km圏内を除く福島県沖全域となっており、対象魚種は平成29

(2017)年4月以降は「全ての魚介類(出荷制限魚種を除く)」となっています。また、平成30(2018)年6月より、キツネメバル、シロメバル、スズキが出荷対象となり、福島県沖の重要な種のほぼ全てが出荷対象となりました。また、試験操業への参加漁船数は当初の6隻から延べ1,828隻となり、

水揚げの様子

(写真提供:福島県)

Page 7: 第6節 東日本大震災からの復興 - maff.go.jp...183 第6節 東日本大震災からの復興 第3章 第1部 (1) 水産業における復旧・復興の状況 平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災による津波は、豊かな漁場に恵まれて

復活した「常じょうばん

磐もの」をお届け! ~福島鮮魚便~事例

189

第6節 東日本大震災からの復興

第3章

第1部

漁獲量も平成24(2012)年の122トンから平成30(2018)年には4,010トン(速報値)まで徐々に増加してきました。

福島県産の魚介類の販路を拡大するため、多くの取組やイベントが開催されています。JF福島漁連では、平成29(2017)年度に全国各地で30回のイベントや、福島県内で11回の魚料理講習会を開催しました。こうした着実な取組により、福島県の本格的な漁業の再開につながっていくことが期待されます。

 これまで福島県産魚の品質の高さや安全・安心への取組をPRしてきましたが、今後はこれらに加え消

費者が日常的に福島県産魚を購入できる場所を提供することも重要です。福島県とJF福島漁連、イオン

リテール株式会社は平成30(2018)年6月より、首都圏の5店舗で福島県産魚の常設販売コーナー「福

島鮮魚便」を開設しています。売場には福島の沿岸漁業で獲れたヒラメやカレイ類、アナゴ、ホウボウ、

ホッキガイなど、さらに、沖合漁業で獲れたカツオ、サンマ、ビンナガ、メバチなどが毎日並べられて

います。特に福島の沿岸漁業は、試験操業により全て日帰りの操業となっており、毎日鮮度の良い魚が

水揚げされています。また、魚は福島県が行うモニタリング検査、漁協が行う日々のスクリーニング検査、

更にイオンリテール(株)が行う週一回の検査の対象となっており、鮮度の良さと安心・安全が大きな

ポイントとなっています。

 魚だけでなく売場にも工夫が凝らされています。「福島鮮魚便」の売場では事前に研修を受けた「販売

員」が毎日試食販売を行っています。「販売員」はただ試食を勧めるだけでなく、消費者においしさや安

全性、食べ方はもちろんのこと、流通経路の説明や鮮度のアピールもしています。この企画は大変好評で、

平成30(2018)年10月からは更に首都圏と宮城県の8店舗に拡大しました。

 「福島鮮魚便」が目指すのは、震災後途切れていた首都圏での小売販売の販路を復活させることであり、

更なる店舗拡大も前向きに検討されています。

売場の様子「福島鮮魚便」のロゴマーク

 (写真提供:福島県)(資料提供:福島県)

Page 8: 第6節 東日本大震災からの復興 - maff.go.jp...183 第6節 東日本大震災からの復興 第3章 第1部 (1) 水産業における復旧・復興の状況 平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災による津波は、豊かな漁場に恵まれて

190

第1部

第3章

エ 風評被害の払拭前述のように、放射性物質濃度が基準値を超える水産物が流通することのないよう、国、

関係都道県、漁業関係団体等による連携した対応により、消費者に届く水産物の安全性は確保されています。

消費者庁が平成25(2013)年2月から実施している「風評被害に関する消費者意識の実態調査」によれば、「放射性物質の含まれていない食品を買いたいので福島県産の食品を買うことをためらう」とする消費者の割合は減少傾向にあり、平成31(2019)年2月の調査では、12.5%とこれまでの調査で最小となりましたが、依然として一部の消費者が福島県産の食品に対して懸念を抱いていることがうかがわれます(図3-6-7)。

資料:消費者庁「風評被害に関する消費者意識の実態調査」

平成25(2013)

26(2014)

8月2月 8月2月 8月2月 2月27

(2015)

8月2月28

(2016)

8月2月29

(2017)31年

(2019)

2月30

(2018)

25

20

15

10

5

0

19.417.9

15.3

19.617.4 17.2

15.7 16.615.0

13.2 12.512.7

図3-6-7 「放射性物質の含まれていない食品を買いたいので福島県産の食品を買うことをためらう」とする消費者の割合

風評被害を防ぎ、1日も早く復興を目指すため、水産庁では、最新の放射性物質モニタリングの結果や水産物と放射性物質に関するQ&A等をwebサイトで公表したり、消費者、流通業者、国内外の報道機関等への説明会を行うなど、正確で分かりやすい情報提供に努めています。これらを通じ、消費者だけではなく、漁業関係者や流通関係者も正しく理解することが消費活動の推進につながると考えられます。

オ 外国の輸入規制への対応 我が国の水産物の安全性については、海外に向けても適切に情報提供を行っていくことが必要です。このため、水産庁では、英語、中国語及び韓国語の各言語で水産物の放射性物質モニタリングの結果を公表しているほか、各国政府や報道機関に対し、調査結果や水産物の安全確保のために我が国が講じている措置等を説明し、輸入規制の緩和・撤廃に向けた働きかけを続けています。 この結果、東電福島第一原発の事故直後に輸入規制を講じていた53か国・地域(うち18か国・地域は一部又は全ての都道府県からの水産物の輸入を停止)のうち、30か国は平成31

(2019)年3月末までに輸入規制を完全撤廃し、輸入規制を撤廃していない国・地域についても、EU等が検査証明書の対象範囲を縮小するなど、規制内容の緩和が行われてきています(表3-6-1)。

Page 9: 第6節 東日本大震災からの復興 - maff.go.jp...183 第6節 東日本大震災からの復興 第3章 第1部 (1) 水産業における復旧・復興の状況 平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災による津波は、豊かな漁場に恵まれて

191

第6節 東日本大震災からの復興

第3章

第1部

平成23(2011)年5月現在

規制措置の内容 国・地域数

合計 53か国・地域

表3-6-1 原発事故に伴う諸外国・地域による輸入規制の撤廃・緩和の動向(水産物)

※レバノン及びブラジルは4月、米国、韓国、メキシコ及びチリは6月、ボリビア及びコロンビアは8月時点。

※最近規制撤廃した主な国・地域:オマーン(H30.12.28)、バーレーン(H31.3.22)など 最近規制緩和した主な国・地域:シンガポール(H31.3.1、放射性物質検査証明書を廃止)

11か国・地域(アラブ首長国連邦、イラク、エジプト、ギニア、クウェート、コンゴ民主共和国、仏領ニューカレドニア、仏領ポリネシア、モーリシャス、モロッコ、レバノン)

12か国(イスラエル、イラン、インド、ウクライナ、トルコ、ネパール、パキスタン、フィリピン、ミャンマー、ニュージーランド、ベトナム、豪州)

13か国・地域(香港、メキシコ、EU、EFTA(アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン)、セルビア、タイ、カナダ、マレーシア、コロンビア、ペルー)

8か国(アルゼンチン、インドネシア、オマーン、カタール、チリ、バーレーン、ブラジル、ボリビア)

7か国・地域(マカオ、中国、ロシア、ブルネイ、台湾、サウジアラビア、シンガポール)

2か国(米国、韓国)

全ての都道府県を対象

一部の都道府県を対象

日本での出荷制限品目を対象

全ての都道府県を対象

一部の都道府県を対象

自国での検査強化(上記の国・地域を除く)

輸入停止あり

輸入停止はないものの、放射性物質検査証明書を要求

平成31(2019)年3月現在

規制措置の内容 国・地域数

合計 23か国・地域

0か国・地域

2か国(イスラエル、ロシア)

11か国・地域(アラブ首長国連邦、エジプト、仏領ポリネシア、モロッコ、香港、EU、EFTA(アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン)、ブルネイ)

3か国(コンゴ民主共和国、インドネシア、レバノン)

5か国・地域(マカオ、中国、台湾、シンガポール、韓国)

2か国(米国、フィリピン)

全ての都道府県を対象

一部の都道府県を対象

日本での出荷制限品目を対象

全ての都道府県を対象

一部の都道府県を対象

自国での検査強化(上記の国・地域を除く)

輸入停止あり

輸入停止はないものの、放射性物質検査証明書を要求

一方、依然として輸入規制を維持している国・地域に対しては、我が国では出荷規制により基準値を超過する食品は流通させない体制を構築し、徹底したモニタリングを行っていることを改めて伝え、様々な場を活用しつつ規制の緩和・撤廃に向けた働きかけを継続していくことが必要です(表3-6-2)。

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192

第1部

第3章

国・地域名

シンガポール

エジプト

E  U

米  国

中  国

台  湾

香  港

韓  国

対象となる都道府県等 主な規制内容

宮城、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、新潟、長野(10都県)

上記10都県以外の道府県 政府による放射能検査証明書及び産地証明書の要求

輸入停止

青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉(8県) 輸入停止

北海道、東京、神奈川、愛知、三重、愛媛、熊本、鹿児島(8都道県) 政府による放射性物質検査証明書の要求

岩手、宮城、東京、愛媛 (4都県)

上記9都県以外の道府県 産地証明書の要求(注:H27.5.14以前は産地証明書の添付が不要)

上記に加え、韓国側の検査で、少しでもセシウム又はヨウ素が検出された場合にはストロンチウム、プルトニウム等の検査証明書を追加で要求

岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉(7県)

上記7県以外の都道府県 政府による産地証明書の要求

政府による放射性物質検査証明書の要求

日本国内で出荷制限措置がとられている品目 輸入停止

福島、茨城、栃木、群馬、千葉(5県)

輸入停止8県以外の都道府県

政府による放射性物質検査証明書の要求

岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉(7県)

政府による産地証明書の要求(活魚、甲殻類、軟体動物、海藻類及び一部の魚種は除く)上記7県以外の都道府県

上記16都道県以外の府県 政府による産地証明書の要求

福島、茨城、栃木、群馬、千葉 (5県) 輸入停止

福島 輸入停止

福島県以外の都道府県政府による産地証明書又は商工会議所によるサイン証明の要求

放射性物質検査報告書の要求(注:H27.5.14以前は放射性物質検査報告書の添付が不要)

政府による放射性物質検査証明書の要求(活魚、甲殻類、軟体動物、海藻類及び一部の魚種は除く)

表3-6-2 我が国の水産物に対する主な海外の輸入規制の状況(平成31(2019)年3月末現在)

なお、韓国は、平成25(2013)年9月以降、福島県等計8県の水産物の輸入を全面的に禁止するなど規制措置を強化したことから、我が国は、二国間協議やWTOの衛生植物検疫

(SPS)委員会における説明のほか、韓国側が設立した「専門家委員会」による現地調査の受入れなどに取り組んできました。しかしながら、韓国側から規制撤廃に向けた見通しが示されないことから、平成27(2015)年より、WTO協定に基づく紛争解決手続が開始されました。パネル(紛争解決小委員会)の手続の中で、我が国は、韓国の輸入規制措置(8県産の水産物の輸入禁止、日本産の全ての食品に対する追加検査要求)は、WTO/SPS協定に反する等の主張を行い、これを受けて、平成30(2018)年2月、パネルは、韓国の措置がWTO/SPS協定に反すると認定し、韓国に対して協定に従って措置を是正するよう勧告する内容の報告書を公表しました。

これに対し、韓国はパネルの判断を不服として平成30(2018)年4月にWTO上級委員会へ申立てを行いました。平成31(2019)年4月12日、上級委員会は報告書を公表し、韓国の輸入規制措置が、WTO/SPS協定に照らし、日本産水産物等を恣

し い

意的又は不当に差別してい

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193

第6節 東日本大震災からの復興

第3章

第1部

ること、必要以上に貿易制限的なものであることを認定したパネル報告書の判断について、その分析が不十分であるとして取り消しました。WTO紛争解決には差し戻し制度はないため、不十分とされたパネルの分析をやり直すことはできないこととなっています。

一方、韓国が輸入制限措置を強化する際に求められる周知義務等を果たしていなかったことについては、上級委員会はパネルの判断を支持し、WTO/SPS協定に非整合的であるとの判断を行いました。また、日本産食品は科学的に安全であり、韓国が定める安全性の数値基準を十分クリアできるものとしたパネルの事実認定については、上級委員会は取り消しませんでした。

今後は、このことも踏まえ、韓国との二国間協議を通じ、措置の撤廃を引き続き働きかけていくとともに、日本産農林水産物・食品に対して、輸入規制措置を継続している国・地域に対しても、我が国の食品の安全性及び安全管理の取組を改めて説明しつつ、引き続き輸入規制の撤廃・緩和を求めていくこととしています。

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194

第1部

第3章

水産業・漁村地域の活性化を目指して−平成30(2018)年度農林水産祭受賞者事例紹介−

 静岡県は、削り節に携わる企業が多く、明治時代に広島県で製造された1台の削り節製造機が蒲かんばら

に運ばれ、そこから静岡県の削り節産業が盛んになったと言われています。

 その1台の削り節製造機を導入した会社が(有)西尾商店です。

 いわしの削り節は、静岡県では静岡おでんや富ふ じ の み や

士宮やきそばなどのトッピングに欠かせないもので

あり、蒲原やその周辺地域では、毎日食べるごはんやおかずのトッピングとして100年経った今も庶

民に愛されています。

 (有)西尾商店のこだわりは、製品の「品質と技術」、そしてそれを基にした削り節やだし文化を後

世に伝え残すことです。

 いわし削り節の原料となるカタクチイワシやウルメイワシの煮干しは、削り節に最適な品質のもの

を時期及び地域等を厳選して確保し、雑味が出る部分を内臓以外全て手作業で取り除き使用していま

す。

 また、切せっさく

削する工程では、ふんわりとした食感と良好な旨味・風味を引き出すため、原料や天候等

を考慮しながら、独自開発した専用の削り機の刃を1日に数回加工し、より薄く均一に削り出すよう

な工夫を施して、年間を通じて良質で安定し

た品質の削り節を生産しています。

 また、消費者向けに「だしの魅力を伝える

スクールスタイルの体験プログラム」(だし

の学校)を実施するなど、ユネスコ無形文化

遺産に登録された「和食」の基本であるだし

文化やその良さを広く発信する取組を行って

います。

天皇杯受賞(水産部門)産物(水産加工品)

有限会社 西にしお

尾商店 (代表:西にしお

尾 公きみ

伸のぶ

 氏)

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195

農林水産祭受賞者事例紹介

第3章

第1部

 静岡県焼津市は、静岡県の中部に広がる志し だ

太平野の南部に位置し、温暖な気候で大井川を水源とす

る豊かな水など自然条件に恵まれています。

 また、節類や練り製品、冷凍食品など、県内有数の加工品生産高を誇っており、100年以上も続く

といわれる焼津の塩鯖製品は、伝統品として全国から高い評価を得ています。

 昭和41(1966)年創業の焼津冷蔵(株)は、国産原料にこだわった鯖、鰻、穴子の加工品の製造・

販売をしています。

 受賞品である「静岡茶しめさば」は、静岡県内の農業協同組合が平成25(2013)年から栽培してい

るサンルージュ茶を使用して製造された農商工連携の商品です。

 原料のマサバは、脂質・身質・鮮度を重視して、良質なものが漁獲される特定の漁場の限られた期

間のものを厳選し、かつ、年間を通じて高品質な原料を安定的に確保するようにしています。

 「静岡茶しめさば」は、魚の素材が持つ美味しさを残しつつ、サンルージュ茶の特性を生かした製

造方法により消臭効果やきれいな発色が得られており、かつ添加物を使用せず、食感を考慮して薄く

スライスするなど、子供にも食べやすく仕上げており、魚食文化を継承するコンセプト商品として注

目されています。

内閣総理大臣賞受賞(水産部門)産物(水産加工品)

焼やいづ

津冷蔵株式会社 (代表:原はらざき

﨑 太だいすけ

輔 氏)