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141 第5節 東日本大震災からの復興 (1) 水産業における復旧・復興の状況 (水揚げの復旧状況) 平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災による津波は、全国の漁業に被害をも たらしました。特に甚大な影響を受けた東北地方太平洋沿岸は、全国屈指の豊かな漁場に恵 まれて大規模な漁業基地を複数有するとともに、水産加工業等の関連産業も盛んな地域です。 平成29(2017)年3月で、東日本大震災の発生から6年間が経過しました。この間、被災 地域では、漁港施設、漁船、養殖施設、漁場等の復旧が積極的に進められてきましたが、い まだ復旧・復興の途上にある地域・分野もあります。国では、引き続き、被災地の水産業の 復旧・復興に取り組んでいます。 平成28(2016)年2月~29(2017)年1月の岩手県、宮城県及び福島県の主要な水産物産 地卸売市場への水揚げは、震災前(平成22(2010)年3月~23(2011)年2月)と比べて水 揚量で70%、水揚金額で90%となりました(図Ⅱ−5−1)。このうち、東電福島第一原発 事故の影響を強く受けている福島県では、震災前と比べ、水揚量で75%、水揚金額で55%と なっています。 [岩手県] 久慈、宮古、 釜石、大船渡 [宮城県] 気仙沼、女川、 石巻、塩釜 [福島県] 小名浜 (319漁港が被災) 陸揚げ岸壁の機能回復 状況 (約113kmの岸壁が被災) 被災岸壁の復旧状況 ○平成28年度末までに、被災 した漁港の全てにおいて、岸 壁の復旧により陸揚げが可能 (部分的に可能な場合を含 む。)となることを目指す。 また、平成30年度末までに 防波堤等を含め全ての漁港施 設の復旧完了を目指す。 ○平成29年1月末現在、被災 した319漁港のうち、99%に あたる316漁港において、陸 揚げが可能(部分的に可能な 場合を含む。)。 岩手県、宮城県、福島県の 内訳は次のとおり。 岩手県:100%(108漁港) 宮城県: 99%(141漁港) 福島県: 80%( 8漁港) ○北海道、青森県、千葉県で 被災した岸壁は、復旧完了済 み。 項目 進捗状況・現況 20 0 40 60 80 100 備 考 岩手・宮城・福島各県 の主要な魚市場の水揚 げの被災前年比(22年 3月~23年2月合計) 平成25年3月末現在 平成27年3月末現在 平成29年1月末現在 36%(115漁港) (全延長の陸揚げ機能回復) 47%(149漁港) (部分的に陸揚げ機能回復) 15%(48漁港) (潮位によっては陸揚げ可能) 平成25年3月末実績 平成27年3月末実積 平成29年1月末実積 28% 65% 77% 83 (264漁港) 83%(264漁港) 96 (307漁港) 96%(307漁港) 65% (208漁港) 82% (262漁港) 17% (54漁港) 31% (99漁港) 3% (9漁港) 99 (316漁港) 99%(316漁港) 〈水揚量〉 〈水揚金額〉 39% H23.2~24.1 (181千トン) 47% H23.2~24.1 (375億円) 62% H24.2~25.1 (285千トン) 70% H24.2~25.1 (560億円) 70% H25.2~26.1 (325千トン) 81% H25.2~26.1 (649億円) 70% H28.2~29.1 (323千トン) 87% H26.2~27.1 (695億円) 岩手 57% (79.4千トン) 宮城 76% (235.6千トン) 福島 75% (8.2 千トン) 岩手 84% (162.9億円) 宮城 93% (549.1億円) 福島 55% (9.9億円) 1% (2漁港) 90% H28.2~29.1 (722億円) H26.2~27.1 79%(367千トン) H27.2~28.1 74%(345千トン) H27.2~28.1 93%(743億円) 図Ⅱ-5-1 水産業の復旧の進捗状況(平成29(2017)年3月取りまとめ) 第5節 東日本大震災からの復興

第5節 東日本大震災からの復興 - jfa.maff.go.jp · 141 第5節 東日本大震災からの復興 第Ⅱ章 第1部 (1) 水産業における復旧・復興の状況

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第5節 東日本大震災からの復興

第Ⅱ章

第1部

(1) 水産業における復旧・復興の状況

(水揚げの復旧状況) 平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災による津波は、全国の漁業に被害をもたらしました。特に甚大な影響を受けた東北地方太平洋沿岸は、全国屈指の豊かな漁場に恵まれて大規模な漁業基地を複数有するとともに、水産加工業等の関連産業も盛んな地域です。 平成29(2017)年3月で、東日本大震災の発生から6年間が経過しました。この間、被災地域では、漁港施設、漁船、養殖施設、漁場等の復旧が積極的に進められてきましたが、いまだ復旧・復興の途上にある地域・分野もあります。国では、引き続き、被災地の水産業の復旧・復興に取り組んでいます。 平成28(2016)年2月~29(2017)年1月の岩手県、宮城県及び福島県の主要な水産物産地卸売市場への水揚げは、震災前(平成22(2010)年3月~23(2011)年2月)と比べて水揚量で70%、水揚金額で90%となりました(図Ⅱ−5−1)。このうち、東電福島第一原発事故の影響を強く受けている福島県では、震災前と比べ、水揚量で75%、水揚金額で55%となっています。

漁港

[岩手県]久慈、宮古、釜石、大船渡

[宮城県]気仙沼、女川、石巻、塩釜

[福島県]小名浜

岩手県・宮城県の主要な養殖品目の漁協共販数量の被災前年比(22年漁期)

※ワカメ、コンブ、ギンザケ養殖の直近完了漁期は平成28年漁期。

被災3県で被害があった産地市場(34施設)

被災3県で再開を希望する水産加工施設(804施設)

がれきにより漁業活動に支障のある定置漁場

992か所(再流入箇所含む)

がれきにより漁業活動に支障のある養殖漁場

1,130か所(再流入箇所含む)

(約2.9万隻が被災)復旧目標(27年度末までに2万隻)に対する状況

(319漁港が被災)陸揚げ岸壁の機能回復状況

(約113kmの岸壁が被災)被災岸壁の復旧状況

24年度中に、水産基本計画の目標(25年度末までに1万2千隻)は達成。平成28年度以降は原発事故の影響で復旧が遅れている福島県について被災地の要望を踏まえ回復を目指す。

○平成28年度末までに、被災した漁港の全てにおいて、岸壁の復旧により陸揚げが可能(部分的に可能な場合を含む。)となることを目指す。 また、平成30年度末までに防波堤等を含め全ての漁港施設の復旧完了を目指す。○平成29年1月末現在、被災した319漁港のうち、99%にあたる316漁港において、陸揚げが可能(部分的に可能な場合を含む。)。 岩手県、宮城県、福島県の内訳は次のとおり。 岩手県:100%(108漁港) 宮城県: 99%(141漁港) 福島県: 80%( 8漁港)○北海道、青森県、千葉県で被災した岸壁は、復旧完了済み。

26年3月末で養殖業再開希望者の養殖施設の整備が完了。

岩手県及び宮城県の産地市場は、22施設全てが再開。

がれきの残る一部の漁場について、29年度も引き続き支援を実施。福島県においては、10市町から定置・養殖漁場以外の漁場の支援要望があり、新地町及び相馬市については大部分でがれきの撤去が完了。南相馬市でがれき回収に着手。(28年12月末時点)

項目 進捗状況・現況200 40 60 80 100

% 備 考

項目 進捗状況・現況200 40 60 80 100

% 備 考

漁船

※ カキ養殖は、むき身加工の人手不足等により、生産が伸び悩んでいる。

※ コンブ養殖は、同一施設で生産できるワカメ養殖への転業や低気圧被害等により、生産が伸び悩んでいる。

養殖

加工流通施設

がれき

水揚げ

岩手・宮城・福島各県の主要な魚市場の水揚げの被災前年比(22年3月~23年2月合計)

資料:水産庁

平成25年3月末現在

平成27年3月末現在

平成29年1月末現在

36%(115漁港)(全延長の陸揚げ機能回復)

47%(149漁港)(部分的に陸揚げ機能回復)

15%(48漁港)(潮位によっては陸揚げ可能)

平成25年3月末実績 平成27年3月末実積 平成29年1月末実積

28% 65% 77%

83%(264漁港)83%(264漁港)

96%(307漁港)96%(307漁港)65%

(208漁港)

82%(262漁港)

17%(54漁港)

31%(99漁港)

3%(9漁港)

99%(316漁港)99%(316漁港)

岩手 8,852隻宮城 7,284隻福島 362隻

岩手 7,768隻宮城 5,358隻福島 256隻

岩手 4,217隻宮城 3,186隻福島 192隻

46%(9,195隻)

※24年3月末時点

77%(15,308隻)※25年3月末時点

92%(18,439隻)

※28年12月末時点

岩手: 97%(138か所)宮城: 100%(850か所)福島:要望なし

岩手: 94%(127か所)宮城: 96%(831か所)福島:要望なし

岩手: 98%(159か所)宮城: 99%(944か所)福島:100%( 11か所)

岩手: 93%(143か所)宮城: 72%(655か所)福島: 50%( 3か所)

95%(958か所)※24年3月末

99%(988か所)※29年1月末

75%(801か所)※24年3月末

99%(1,114か所)※29年1月末

岩手:100%(13施設)宮城:100%( 9施設)福島: 8%( 1施設)

岩手:92%(183施設)宮城:94%(424施設)福島:81%(122施設)

65%(22施設が業務再開)※23年12月末

68%(23施設が業務再開)

※29年2月末

55%(418施設が業務再開)

※24年3月末

74%(608施設が業務再開)

※25年3月末

91%(729施設が業務再開)

※28年12月末

〈水揚量〉

〈水揚金額〉

39%H23.2~24.1(181千トン)

47%H23.2~24.1(375億円)

62%H24.2~25.1(285千トン)

70%H24.2~25.1(560億円)

70%H25.2~26.1(325千トン)

81%H25.2~26.1(649億円)

70%H28.2~29.1(323千トン)

87%H26.2~27.1(695億円)

岩手 57%(79.4千トン)宮城 76%

(235.6千トン)福島 75%

(8.2 千トン)

岩手 84%(162.9億円)宮城 93%

(549.1億円)福島 55%(9.9億円)

ワカメ養殖(22年漁期 (2~5月) 34,439トン)

ギンザケ養殖(22年漁期(3~8月) 14,750トン)

ホタテ養殖(22年漁期(4~3月) 14,873トン)

カキ養殖(22年漁期(9~5月)4,031トン)

コンブ養殖(22年漁期 (3~8月) 13,817トン)23年漁期0トン(0%)

24年漁期5,633トン(41%)

28年漁期5,358トン(39%)

26年漁期6,904トン(50%)

25年漁期8,502トン(61%)

23年漁期354トン(9%)

24年漁期719トン(18%)

25年漁期1,476トン(37%)

26年漁期2,139トン(53%)

27年漁期2,360トン(59%)

23年漁期56トン(0.4%)

24年漁期5,130トン(34%)

25年漁期9,245トン(62%)

26年漁期11,677トン(79%)

27年漁期12,313トン(83%)

23年漁期0トン(0%)

24年漁期9,448トン(64%)

25年漁期11,619トン(79%)

27年漁期13,007トン(88%)

26年漁期11,978トン(81%)

25年漁期30,414トン(88%)

23年漁期3,742トン(11%)

26年漁期23,100トン(67%)

27年漁期25,799トン(75%)28年漁期

24,597トン(71%)

27年漁期7,205トン(52%)

24年漁期27,379トン(79%)

1%(2漁港)

90%H28.2~29.1(722億円)

H26.2~27.1 79%(367千トン)H27.2~28.1 74%(345千トン)

H27.2~28.1 93%(743億円)

28年漁期12,159トン(82%)

図Ⅱ-5-1 水産業の復旧の進捗状況(平成29(2017)年3月取りまとめ)

第5節 東日本大震災からの復興

142

第Ⅱ章

第1部

漁港

[岩手県]久慈、宮古、釜石、大船渡

[宮城県]気仙沼、女川、石巻、塩釜

[福島県]小名浜

岩手県・宮城県の主要な養殖品目の漁協共販数量の被災前年比(22年漁期)

※ワカメ、コンブ、ギンザケ養殖の直近完了漁期は平成28年漁期。

被災3県で被害があった産地市場(34施設)

被災3県で再開を希望する水産加工施設(804施設)

がれきにより漁業活動に支障のある定置漁場

992か所(再流入箇所含む)

がれきにより漁業活動に支障のある養殖漁場

1,130か所(再流入箇所含む)

(約2.9万隻が被災)復旧目標(27年度末までに2万隻)に対する状況

(319漁港が被災)陸揚げ岸壁の機能回復状況

(約113kmの岸壁が被災)被災岸壁の復旧状況

24年度中に、水産基本計画の目標(25年度末までに1万2千隻)は達成。平成28年度以降は原発事故の影響で復旧が遅れている福島県について被災地の要望を踏まえ回復を目指す。

○平成28年度末までに、被災した漁港の全てにおいて、岸壁の復旧により陸揚げが可能(部分的に可能な場合を含む。)となることを目指す。 また、平成30年度末までに防波堤等を含め全ての漁港施設の復旧完了を目指す。○平成29年1月末現在、被災した319漁港のうち、99%にあたる316漁港において、陸揚げが可能(部分的に可能な場合を含む。)。 岩手県、宮城県、福島県の内訳は次のとおり。 岩手県:100%(108漁港) 宮城県: 99%(141漁港) 福島県: 80%( 8漁港)○北海道、青森県、千葉県で被災した岸壁は、復旧完了済み。

26年3月末で養殖業再開希望者の養殖施設の整備が完了。

岩手県及び宮城県の産地市場は、22施設全てが再開。

がれきの残る一部の漁場について、29年度も引き続き支援を実施。福島県においては、10市町から定置・養殖漁場以外の漁場の支援要望があり、新地町及び相馬市については大部分でがれきの撤去が完了。南相馬市でがれき回収に着手。(28年12月末時点)

項目 進捗状況・現況200 40 60 80 100

% 備 考

項目 進捗状況・現況200 40 60 80 100

% 備 考

漁船

※ カキ養殖は、むき身加工の人手不足等により、生産が伸び悩んでいる。

※ コンブ養殖は、同一施設で生産できるワカメ養殖への転業や低気圧被害等により、生産が伸び悩んでいる。

養殖

加工流通施設

6 がれき

水揚げ

岩手・宮城・福島各県の主要な魚市場の水揚げの被災前年比(22年3月~23年2月合計)

資料:水産庁

平成25年3月末現在

平成27年3月末現在

平成29年1月末現在

36%(115漁港)(全延長の陸揚げ機能回復)

47%(149漁港)(部分的に陸揚げ機能回復)

15%(48漁港)(潮位によっては陸揚げ可能)

平成25年3月末実績 平成27年3月末実積 平成29年1月末実積

28% 65% 77%

83%(264漁港)83%(264漁港)

96%(307漁港)96%(307漁港)65%

(208漁港)

82%(262漁港)

17%(54漁港)

31%(99漁港)

3%(9漁港)

99%(316漁港)99%(316漁港)

岩手 8,852隻宮城 7,284隻福島 362隻

岩手 7,768隻宮城 5,358隻福島 256隻

岩手 4,217隻宮城 3,186隻福島 192隻

46%(9,195隻)

※24年3月末時点

77%(15,308隻)※25年3月末時点

92%(18,439隻)

※28年12月末時点

岩手: 97%(138か所)宮城: 100%(850か所)福島:要望なし

岩手: 94%(127か所)宮城: 96%(831か所)福島:要望なし

岩手: 98%(159か所)宮城: 99%(944か所)福島:100%( 11か所)

岩手: 93%(143か所)宮城: 72%(655か所)福島: 50%( 3か所)

95%(958か所)※24年3月末

99%(988か所)※29年1月末

75%(801か所)※24年3月末

99%(1,114か所)※29年1月末

岩手:100%(13施設)宮城:100%( 9施設)福島: 8%( 1施設)

岩手:92%(183施設)宮城:94%(424施設)福島:81%(122施設)

65%(22施設が業務再開)※23年12月末

68%(23施設が業務再開)

※29年2月末

55%(418施設が業務再開)

※24年3月末

74%(608施設が業務再開)

※25年3月末

91%(729施設が業務再開)

※28年12月末

〈水揚量〉

〈水揚金額〉

39%H23.2~24.1(181千トン)

47%H23.2~24.1(375億円)

62%H24.2~25.1(285千トン)

70%H24.2~25.1(560億円)

70%H25.2~26.1(325千トン)

81%H25.2~26.1(649億円)

70%H28.2~29.1(323千トン)

87%H26.2~27.1(695億円)

岩手 57%(79.4千トン)宮城 76%

(235.6千トン)福島 75%

(8.2 千トン)

岩手 84%(162.9億円)宮城 93%

(549.1億円)福島 55%(9.9億円)

ワカメ養殖(22年漁期 (2~5月) 34,439トン)

ギンザケ養殖(22年漁期(3~8月) 14,750トン)

ホタテ養殖(22年漁期(4~3月) 14,873トン)

カキ養殖(22年漁期(9~5月)4,031トン)

コンブ養殖(22年漁期 (3~8月) 13,817トン)23年漁期0トン(0%)

24年漁期5,633トン(41%)

28年漁期5,358トン(39%)

26年漁期6,904トン(50%)

25年漁期8,502トン(61%)

23年漁期354トン(9%)

24年漁期719トン(18%)

25年漁期1,476トン(37%)

26年漁期2,139トン(53%)

27年漁期2,360トン(59%)

23年漁期56トン(0.4%)

24年漁期5,130トン(34%)

25年漁期9,245トン(62%)

26年漁期11,677トン(79%)

27年漁期12,313トン(83%)

23年漁期0トン(0%)

24年漁期9,448トン(64%)

25年漁期11,619トン(79%)

27年漁期13,007トン(88%)

26年漁期11,978トン(81%)

25年漁期30,414トン(88%)

23年漁期3,742トン(11%)

26年漁期23,100トン(67%)

27年漁期25,799トン(75%)28年漁期

24,597トン(71%)

27年漁期7,205トン(52%)

24年漁期27,379トン(79%)

1%(2漁港)

90%H28.2~29.1(722億円)

H26.2~27.1 79%(367千トン)H27.2~28.1 74%(345千トン)

H27.2~28.1 93%(743億円)

28年漁期12,159トン(82%)

図Ⅱ-5-1 水産業の復旧の進捗状況(平成29(2017)年3月取りまとめ)

(漁港施設の復旧・復興) 漁港は、漁業の基地となるだけでなく、漁獲物の陸揚げ、流通、加工等の機能が集積する水産業の基盤施設であり、被災地の水産業再生のためにはその機能の迅速な回復が欠かせません。東日本大震災では、北海道から千葉県までの太平洋側7道県319漁港が被害を受けました。国では、平成28(2016)年度末までに被災漁港の全てで陸揚げが可能(部分的に陸揚げが可能な場合を含む。)となることを目指しており、平成29(2017)年1月末までに、316漁港(99%)において陸揚げが可能となりました。 また、被災した漁港のうち、水産業の振興上特に重要な特定第3種漁港である5漁港

被災地での復興に向けた動き事 例

事 例

143

第5節 東日本大震災からの復興

第Ⅱ章

第1部

(八はちのへ

戸、気仙沼、石いしのまき

巻、塩しおがま

釜及び銚ちようし

子)においては、高度衛生管理対応の陸揚岸壁や荷さばき所等を整備し、新たな水産業の姿を目指した復興に取り組んでいます。

(漁業生産設備等の復旧・復興) 津波は、漁船、養殖施設、定置網漁業や養殖業の漁場等にも甚大な被害を与えました。このうち漁船については、約2万9千隻が被災しましたが、平成28(2016)年12月末までに1万8,439隻(目標である2万隻の92%)が修理又は新船建造を完了しました。平成28(2016)年度以降は、東電福島第一原発事故の影響で復旧が遅れている福島県について、被災地域の要望を踏まえつつ回復を目指しています。 また、養殖施設については、平成26(2014)年3月末までに再開を希望する全ての養殖業者の養殖施設整備が完了しています。平成28(2016)年漁期の収獲量は、震災前と比べ、ワカメで71%、ギンザケで82%となりました。また、平成27(2015)年漁期のホタテガイとカキの収獲量は、震災前と比べ、それぞれ83%と59%となりました。 定置網漁場や養殖漁場等においては、がれきの流入が漁業活動に様々な支障を及ぼしました。国では、漁業者及び専門業者が行う漁場のがれき撤去作業を支援してきており、平成29(2017)年1月末までに定置網漁場及び養殖漁場のそれぞれ99%で撤去が完了しています。

1.綾りようり

里漁業協同組合のアンテナショップ「りょうり丸」(岩手県大おおふ な と し

船渡市、花はなまきし

巻市) 平成28(2016)年11月、岩手県大船渡市の綾里漁業協同組合のアンテナショップ「りょうり丸」が、

同じ岩手県の内陸部にある花巻市内にオープンしました。

 「りょうり丸」の出店を提案したのは、東日本大震災後に地元漁師とともに海底のがれき撤去に取り組

んできたボランティアダイバー。綾里の海産物に魅せられ、三陸の新鮮な海の幸を内陸でも食べてもら

うことで三陸の復興や綾里をPRするとともに、県の内陸部と三陸の結びつきを強めようと、綾里漁業協

同組合と連携して運営会社「あやかぜ」を設立し、2年の準

備期間を経て、開店にこぎつけました。

 浜の雰囲気が漂う店内は、綾里漁業協同組合から直送され

た新鮮な魚介類や加工品等を販売する直売所と、新鮮な海の

幸を提供する食堂から成っており、多くの人でにぎわってい

るそうです。

 アンテナショップ「りょうり丸」は、海産物の販路拡大だ

けでなく、三陸の漁業者と内陸の消費者とをつなぐ新たな交

流拠点として期待されています。

2.(株)みらい造船(宮城県気仙沼市) 宮城県の気仙沼漁港は日本でも有数の水揚げを誇る漁港です。この地で漁業を支えてきた地域の造船

施設は、東日本大震災の津波や地盤沈下によって壊滅的な被害を受けました。

 地盤沈下のため、現在地での完全復旧は難しく、単独で造船所を移転させるのは資金面で難しいこと

から、地域の造船会社5社と関連会社2社の計7社が協業体制を構築することとなりました。こうして、

早採りワカメの販売促進会(写真提供:綾里漁業協同組合)

144

第Ⅱ章

第1部

平成27(2015)年5月に「(株)みらい造船」が設立され、

新たな造船所建設に向け動き始めました。

 新たな施設は、国内で3例目となる、船を海から昇降させ

る大型エレベーターのような上架施設(シップリフト)を導

入し、効率的な船の建造や修繕が可能となる予定です。また、

津波発生時にも被害を受けにくい防潮堤内で継続操業できる

ようにするなどの工夫がなされています。

 平成28(2016)年10月には、新造船所の起工式が行われ、

平成31(2019)年4月の稼働を目指して工事が進められてい

ます。

3.「あまころ牡か き

蠣」の量産化に成功(宮城県南みなみさんりくちょう

三陸町) 宮城県南三陸町では、東日本大震災で壊滅的な被害を受けたカキ生産者と、宮城県水産技術総合セン

ター気仙沼水産試験場とが協力し、(研)水産研究・教育機構東北区水産研究所の支援を受けながら、約

3年をかけて1年未満の未産卵カキ「あまころ牡蠣」の量産化に成功しました。一般的な宮城県北部産

のマガキの養殖期間は2年程度ですが、「あまころ牡蠣」は10か

月と短く、夏前に水揚げされます。平成27(2015)年8月に天

然採苗された種ガキの中から優良なものだけを選抜して、育成し、

平成28(2016)年6月に初めて市場への出荷を果たしました。

 「あまころ牡蠣」は、一口サイズで食べやすく、強い甘みが特

徴です。また、生産者にとっても、1年未満で出荷でき、単価も

高く、春から夏の間もカキで収入が得られること、作業が軽量化

できること等多くのメリットがあります。

 本格出荷1年目は、復興のシンボルとして、全国にチェーン展

開しているオイスターバーで提供されました。今後は、更に生産

量を増やし、全国に提供するだけでなく、地産地消を通して南三

陸町に観光客を誘致することも考えていきたいとのことです。

(加工・流通施設の復旧・復興) 水産物流通の拠点となる水産物産地卸売市場では、岩手県、宮城県、福島県の34施設全てが被害を受けました。このうち、岩手県及び宮城県の22施設については全てが業務を再開していますが、福島県での業務再開は、12施設中、小

お な は ま

名浜の1施設のみにとどまっています。 また、東北地方から関東地方にかけての太平洋沿岸では、拠点漁港の周辺に形成された大規模な水産加工団地が地域の経済を支えてきましたが、こうした加工施設も工場の流失、浸水等の被害を受けました。岩手県、宮城県及び福島県では、平成28(2016)年12月末現在、再開を希望する804施設のうち729施設(91%)が業務を再開しました。 一方、平成28(2016)年11月~29(2017)年1月に実施した「水産加工業者における東日本大震災からの復興状況アンケート」によれば、前年と同様、生産能力が震災前の8割以上まで回復したと回答した水産加工業者が約6割だったのに対し、売上げが震災前の8割以上まで回復したと回答した水産加工業者は5割弱にとどまり、依然として売上げの回復が生産

新造船所のイメージ図(資料提供:(株)みらい造船)

あまころ牡蠣(写真提供:宮城県)

145

第5節 東日本大震災からの復興

第Ⅱ章

第1部

能力の回復より遅れている状況にあります(図Ⅱ−5−2)。また、復興における問題点としては、風評被害を含めた販路の確保を挙げた水産加工業者が約3割と最も多く、次いで人材や原材料の確保も挙げられています(図Ⅱ−5−3)。このため、国では、引き続き、加工・流通の各段階への個別指導及びセミナーの開催等、被災地における水産加工業者の販路の回復・新規創出に向けた活動を支援していくこととしています。

0%

20 40 60 80 100

全 体(238件)

青森県( 17件)

岩手県( 31件)

宮城県( 88件)

福島県( 55件)

茨城県( 47件)

全く回復していない 10%未満10%以上20%未満 20%以上30%未満30%以上40%未満50%以上60%未満 60%以上70%未満70%以上80%未満 80%以上90%未満90%以上100%未満 100%以上

40%以上50%未満

売上げがない 10%未満10%以上20%未満 20%以上30%未満30%以上40%未満50%以上60%未満 60%以上70%未満70%以上80%未満 80%以上90%未満90%以上100%未満 100%以上

40%以上50%未満

58%

83%

69%

62%

29%

67%

〈生産能力の回復状況〉

資料:水産庁「水産加工業者における東日本大震災からの復興状況アンケート(第4回結果)」

192613

59 24

9 13 7

9 32 26

16 26 20

23 23 23

〈売上げの回復状況〉

0%

20 40 60 80 100

47%

77%

61%

52%

20%

50%

211313

2412 41

4 7 9

10 17 23

17 11 24

26 16 19

全 体(240件)

青森県( 17件)

岩手県( 31件)

宮城県( 88件)

福島県( 56件)

茨城県( 48件)

図Ⅱ-5-2 水産加工業者における生産能力及び売上げの回復状況

資料:水産庁「水産加工業者における東日本大震災からの復興状況アンケート(第4回結果)」

その他 1.4%

販路の確保・風評被害31.2%

人材の確保25.8%

原材料の確保24.8%

施設の復旧9.7%

運転資金の確保7.1%

図Ⅱ-5-3 復興における問題点

「東北復興水産加工品展示商談会2016」の開催事 例

事 例

146

第Ⅱ章

第1部

 平成28(2016)年6月7~8日の2日間、仙台国際センター(宮城県仙台市)において、東日本大震

災被災地の水産加工業の復興と、水産加工品の情報発信、販路の回復・開拓を目的とした「東北復興水

産加工品展示商談会2016」が開催されました。

 平成27(2015)年に続いて2回目の開催となった展示商談会には、青森県、岩手県、宮城県、福島県

及び茨城県から合わせて118社の事業者がブースを出展し、国内外より約5千名の入場者がありました。

また、国内の食品卸、スーパーマーケット、百貨店等から招しょうへい

聘した53のバイヤーとの事前予約型「個別

商談会」では、2日間合わせて600商談が組まれました。

 また、米国、シンガポール、ベトナム及びマレーシアの4か国から招聘した海外バイヤーとの個別商

談会も行われ、海外展開を目指す事業者が商談に臨みました。会場では、水産加工品の販路回復・開拓

に取り組む先進的な事例や海外販路開拓など様々なテーマでセミナーやパネルディスカッションも開催

され、水産庁も、水産物における放射性物質の状況について説明を行いました。展示商談会終了後の主

催者(復興水産加工業販路回復促進セン

ター)によるアンケートでは、9割を超

える出展者が今回の展示商談会全体につ

いて「大変満足」「やや満足」と評価する

など、有意義な商談会となったようです。

 東北の水産加工業は、被災地域を支え

る基幹産業の一つであり、その販路の回

復・開拓は喫緊の重要な課題です。この

展示商談会は平成29(2017)年も仙台

で開催が予定されており、こうした機会

を通じて被災地の早期復興が図られてい

くことが期待されます。

(2) 東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響への対応

(水産物の放射性物質モニタリング) 東日本大震災に伴って起きた東電福島第一原発事故は、水産業にも深刻な影響を及ぼしました。この事故以降、消費者の手元に届く水産物の安全性を確保するため、「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」(以下「ガイドライン」といいます。)に基づき、国、関係都道県及び漁業者団体が連携し、原則的に週1回程度、計画的な放射性物質モニタリングを行い、その結果を随時公表しています。モニタリングの対象となるのは、主にそれぞれの区域の主要魚種や、前年度に50ベクレル/kgを超える放射性セシウムが検出された魚種で、生息域や漁期、近隣県におけるモニタリング結果等も考慮されます(図Ⅱ−5−4)。

147

第5節 東日本大震災からの復興

第Ⅱ章

第1部

モニタリング区域•県域を区分•各区域ごとの主要水揚げ港で検体採取

モニタリング対象魚種•主要生産物•50ベクレル/kg超となったことのある品目

モニタリング頻度•原則週1回•漁期前の検査(カツオ、サンマ等)

自粛出荷制限指示

•1地点のみで基準値超えとなった場合は各自治体の要請による自粛。•複数の地点で基準値超えとなった場合は国による出荷制限。

出荷基準値に近い値となった場合、出荷を自粛する自治体・漁業団体もある。

自治体が中心となってモニタリング計画策定

モニタリング強化

近隣県のモニタリング結果 基準値に近い値

>100ベクレル/kg

≦100ベクレル/kg

モニタリング実施

【出荷制限等の実効性確保】•対象魚種の水揚げは行わない(モニタリング用検体を除く)。•水揚げ港において市場関係者がこれを確認。

図Ⅱ-5-4 水産物の放射性物質モニタリングの枠組み

 東電福島第一原発事故以降、平成29(2017)年3月末までに、福島県及びその近隣県において、合計10万6,725検体の検査が行われてきました。基準値(100ベクレル/kg)を超える放射性セシウムが検出される検体の割合は、時間の経過とともに着実に低下してきています(図Ⅱ−5−5)。 福島県においては、東電福島第一原発事故直後には基準値を超える検体が海産種では57%、淡水種では45%を占めていましたが、事故後1年のうちにその割合は半減し、基準値を超える検体は、海産種では平成27(2015)年4−6月期以降なく、淡水種でも平成28(2016)年度には4検体のみとなっています。また、福島県以外においても、基準値を超える検体は、海産種では平成26(2014)年10−12月期以降なく、淡水種でも平成28(2016)年度には7検体のみとなっています。さらに、平成28(2016)年度に検査を行った水産物の検体のうち、約9割が検出限界未満となりました。

水産物の放射性物質濃度が低下するメカニズムコ

ラム

コラ

148

第Ⅱ章

第1部

資料:水産庁

平成23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

7ー9月

4ー6月

10ー12月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

1ー3月

1ー3月29年

(2017)27

(2015)

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

28(2016)

100

50

0

%3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0

検体

総検体数: 43,419検体100ベクレル/kg超の検体数: 2,097検体100ベクレル/kg以下の検体数: 41,322検体

〈海産種〉〈福島県〉

平成23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

7ー9月

3ー6月

10ー12月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

1ー3月

1ー3月29年

(2017)27

(2015)

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

28(2016)

100

50

0

%3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0

検体

総検体数: 47,643検体100ベクレル/kg超の検体数: 177検体100ベクレル/kg以下の検体数:47,466検体

〈   〉福島県以外

100ベクレル/kg超 超過率100ベクレル/kg以下

平成23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

7ー9月

4ー6月

10ー12月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

1ー3月

1ー3月29年

(2017)27

(2015)

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

28(2016)

100

50

0

%400

300

200

100

0

検体

総検体数: 4,157検体100ベクレル/kg超の検体数: 356検体100ベクレル/kg以下の検体数: 3,801検体

〈淡水種〉〈福島県〉

平成23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

7ー9月

3ー6月

10ー12月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

1ー3月

1ー3月29年

(2017)27

(2015)

7ー9月

4ー6月

10ー12月

1ー3月

28(2016)

100

50

0

%1,200

1,000

800

600

400

200

0

検体

総検体数: 11,506検体100ベクレル/kg超の検体数: 366検体100ベクレル/kg以下の検体数:11,140検体

〈   〉福島県以外

12090

57.1

299

430

380

649

278

828

300

1,092

202

1.302

154135

1,627

8430

1,921

34 33

1,987

2510

2,153

94

2,031

0 0

2,211

0 0

2,044

0

0

1,937

0

1,458 1,753 2,005 2,370 2,151 2,239 2,139 2,316 2,418

0

2,171

41.036.9

25.121.6

13.49.6 7.7 4.6 1.5 1.7 1.6 1.0 0.5 0.4 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

224494.7

11

575

34

1,498

45

1,727

27

2,539

12

2,260

9

2,880

3

2,187

6

2,669

2

2,280

3

2,341

1

2,238

1

2,268

1

2,087

0

2,334

0

2,303

0

2,126

0

1,622

0

2,063

0

1,934

0

1,924

0

1,583

0

1,922

0

1,657

1.9 2.2 2.5 1.1 0.5 0.3 0.1 0.2 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

1349

21.0

2377858

70

298

106

924

35

716

9

482

13

438

18

865

12

88814

523 8

297

9

780

7

645

2

439

5

350

3

667

3

5121

298

0

304

4

454

2

512 0

278

1

286

23.012.119.0

10.34.7 1.8 2.9 2.0 1.3 2.6 2.6 1.1 1.1 0.5 1.4 0.4 0.6 0.3 0.0 0.9 0.4 0.0 0.0

54

66

45.047

109

24

116

48

81

59

173

15

179 8

127688

30

238

17

1808

136 272

19

282

5

3461

206277

2

207

3

2032

1210

97

1

239

0

251 3

129 0

78

30.1

17.1

37.2

25.4

7.75.9 6.411.2 8.6 5.6 2.7 6.3 1.4 0.5 2.5 1.0 1.5 1.6 0.0 0.4 0.0 2.3 0.0

図Ⅱ-5-5 水産物の放射性物質モニタリング結果(平成29(2017)年3月末現在)

 魚に含まれる放射性物質濃度の減少には、放射性物質の崩壊による物理学的な減少と、体内に取り込

まれた放射性物質の代謝・排せつによる生物学的な減少、そして環境中から新たに取り込まれる放射性

物質の減少が関わっています。

 放射性物質は、放射線を放出して別の放射性元素に変化し、最終的には放射性元素でない安定元素と

なります。このことによって放射性物質の量が半分になるまでにかかる時間を、「物理的半減期」といい

ます。セシウム134の物理的半減期は約2年、セシウム137の物理的半減期は約30年です。

 海水や餌を通じて魚の体内に取り込まれた放射性セシウムは、カリウムやナトリウムといった他の塩

類(ミネラル)と同様に、鰓えら

からあるいは尿とともに排出されます。生物の代謝により放射性物質の量

が半分になるまでにかかる時間が、「生物学的半減期」です。生物学的半減期は、代謝活動の活発な若い

個体では短く、代謝活動の緩やかな高年齢の個体では長くなります。また、変温動物である魚では、代

謝活動が水温の影響を受けることから、水温が高くなると生物学的半減期は短くなります。このように、

生物学的半減期は、魚種だけでなく体の大きさや水温によっても異なりますが、室内実験では、海産魚

149

第5節 東日本大震災からの復興

第Ⅱ章

第1部

の体内に入ったセシウム137は、およそ50日前後で半分が排出されることが分かっています*1。

 他方、環境中に放出され、海に入った放射性セシウムは、大量の海水により拡散・希釈されながら海

底に移動しました。福島県沖の海水に含まれる放射性セシウム濃度は、次第に震災前の水準に戻りつつ

あります。また、現在でも原発周辺の海底土からは放射性セシウムが検出されていますが、海底土中の

粘土鉱物に強く吸着された放射性セシウムは、生物の体内に取り込まれにくいことがわかっています。

このため、海産魚が環境中の放射性セシウムを取り込むことによりひどく汚染される心配はなくなりま

した。

 東電福島第一原発事故が発生してから6年が経過し、当初は高い濃度の放射性物質が頻繁に検出され

ていた福島県沖の海産魚からも、平成27(2015)年4-6月期以降基準値を超える放射性物質は検出さ

れていませんが、国では、今後とも、関係機関と連携しつつモニタリングを継続していくこととしてい

ます。

(市場流通する水産物の安全性の確保) 放射性物質モニタリングの結果、基準値を超える放射性セシウムが検出された水産物は、国、関係都道県、漁業者団体等の連携により流通を防止する措置が講じられており、市場流通する水産物の安全性は確保されています(図Ⅱ−5−6)。 一方、時間の経過に伴う放射性物質濃度の低下を踏まえ、検査結果が安定して基準値を下回るようになった魚種では出荷制限の解除が行われます。平成28(2016)年度には福島県沖のヒラメ等、海産種で16件の出荷制限が解除され、平成29(2017)年3月末現在で出荷制限の対象とされている海産種は、宮城県沖の1魚種及び福島県沖の12魚種のみとなりました。

注:自主的な出荷自粛の実施・解除については、各自治体・漁業関係団体が独自に決めており、ここでは一般的な例を記した。

モニタリングを強化

基準値超え(>100ベクレル/kg)

原子力災害対策本部長による出荷制限指示     

出荷制限解除

自粛解除

各自治体、漁業関係団体による出荷自粛措置    

他の地点でも基準値超え    

各自治体で当該品目の出荷制限を関係漁業団体に要請

複数の場所で少なくとも1か月以上(計3回以上)の検査結果が全て基準値を安定的に下回る

出荷制限指示の解除要件に準じて、基準値を安定的に下回る   

調査を強化し、動向を把握  

他の地点では基準値超えがない 

図Ⅱ-5-6 水産物の出荷制限及び出荷自粛措置の実施・解除の流れ

(福島県沖での試験操業・販売の状況) 福島県沖の海域では、出荷制限等の対象となっていない魚種も含め、依然として全ての沿岸漁業及び底びき網漁業の操業が自粛されています。その中で、平成24(2012)年より、漁業の本格再開に向けた基礎情報を得ることを目的に、小規模な操業と漁獲物の販売を行って

*1 笠松(1999)による。

「常じょうばん

磐もの」ヒラメの試験操業・販売と相そうそう

双地区での入札の復活事 例

事 例

150

第Ⅱ章

第1部

出荷先での評価を調査するための試験操業・販売が実施されています。 試験操業・販売の対象魚種の決定は、放射性物質モニタリングの結果等を踏まえ、福島県地域漁業復興協議会での協議に基づき行われています。また、試験操業で漁獲される魚種については、各漁業協同組合等が放射性物質の自主検査を行い、放射性物質濃度が自主基準値(50ベクレル/kg)を下回った魚種のみが出荷されます。さらに、販売に当たり、生鮮品については水揚時、加工品については水揚時と加工後に放射性物質の簡易検査を実施するなど、市場に流通する福島県産水産物の安全性を確保するための慎重な取組が行われています。 平成29(2017)年3月末時点で、試験操業の対象海域は東電福島第一原発から半径10km圏内を除く福島県沖全域となっており、対象魚種は当初の3魚種から97魚種まで拡大してきました。また、試験操業への参加漁船数は当初の6隻から延べ1,442隻となり、漁獲量も平成24(2012)年の122トンから平成28(2016)年には2,100トンまで徐々に増加してきました。こうした着実な取組が、福島県の漁業の本格再開につながっていくことが期待されます。

1.「常磐もの」ヒラメの試験操業・販売開始 福島県沖は寒流と暖流が交わる好漁場として有名であり、ここで漁獲される水産物は「常磐もの」と

呼ばれ、市場で高い評価を得てきました。中でも、遠浅の砂地が広がる福島県沖のヒラメは一級品とされ、

東日本大震災前の平成22(2010)年においては、青森県、北海道に次ぐ全国第3位の漁獲量があり、福島

県の漁業の主力を担ってきました。

 しかし、東電福島第一原発事故以来、政府による出荷制限等の指示を受け、ヒラメの水揚げは自粛を

余儀なくされていました。その後、福島県において放射性物質検査が継続的に行われ、平成26(2014)

年3月から平成28(2016)年5月までに1,078検体を検査し、その結果が安定して国の基準値を下回っ

たため、国と県が協議し、平成28(2016)年6月9日に出荷制限の解除を決めました。これにより、平

成28(2016)年9月1日の底びき網漁業の解禁に合わせて、ついに

ヒラメの試験操業・販売が開始されました。

 待ちに待った常磐ものヒラメの水揚げに、いわき市中央卸売市場で

は、キロ8千円の高値が付きました。風評被害も懸念されますが、福

島県漁業協同組合連合会では、試験操業で獲れた魚介類を出荷する前

に、独自に放射性物質のスクリーニング検査をし、安全性の確保に努

めています。今後、風評が払拭され、ヒラメが常磐もの復活の推進力

となることが期待されます。

2.福島県相双地区での入札が復活 平成24(2012)年6月に試験操業・販売を開始する際には、魚の

値段や販売数量の見込みが付かないことから、競り・入札を休止し、

水揚げされた魚介類を、地元の仲買人組合に全量を一括で売る相対販

売がとられました。この販売では、消費地での福島県産水産物の評価

を把握するため、試験的に消費地の中央市場を主体として販売がなさ

れたため、地元の小売店等に魚介類が回りづらいという問題が生じて

(写真提供:福島県水産事務所)

(写真提供:福島県水産事務所)

151

第5節 東日本大震災からの復興

第Ⅱ章

第1部

いました。

 しかし、試験操業の対象魚種が拡大したこと、魚価の見通しがつくようになったことから、相そう ま ふ た ば

馬双葉

漁業協同組合では、平成29(2017)年3月のコウナゴ漁から入札による取引が復活しました。4月以降、

原はらがま

釡地区の漁獲物については、全て入札による販売を行う予定です。入札の対象魚種が増えることで、

漁業者の漁労意欲の向上につながり、市場に活気が戻ることが期待されます。

(風評被害の払拭) 国、関係都道県、関係漁業者団体等による連携した対応により、消費者の手元に届く水産物の安全性は確保されていますが、一部の消費者の間では福島県産の食品に対する懸念が根強くあります。消費者庁は平成25(2013)年2月より半年ごとに「風評被害に関する消費者意識の実態調査」を実施しています。平成29(2017)年2月に行われた同調査では、「放射性物質の含まれていない食品を買いたいので福島県産の食品を買うことをためらう」とする消費者の割合はこれまでで最少となりましたが、依然として15%の消費者が福島県産の食品に対して懸念を抱いていることがうかがわれます(図Ⅱ−5−7)。

資料:消費者庁「風評被害に関する消費者意識の実態調査」

平成25(2013)

26(2014)

8月2月 8月2月 8月2月 2月27

(2015)

8月2月28

(2016)29年

(2017)

25

20

15

10

5

0

19.417.9

15.3

19.617.4 17.2

15.7 16.615.0

図Ⅱ-5-7 「放射性物質の含まれていない食品を買いたいので福島県産の食品を買うことをためらう」とする消費者の割合

 科学的知見に基づく正しい理解を醸成し、風評被害を防いで消費活動を推進するためには、消費者への適切な情報提供が欠かせません。このため、水産庁では、最新の放射性物質モニタリングの結果や水産物と放射性物質に関するQ&A等をホームページで公表しています。また、消費者、流通業者等への説明会や、一般消費者向けのなじみやすいパンフレット(「放射能と魚のQ&A」)の配付等を通し、正確で分かりやすい情報提供に努めています。

(諸外国の輸入規制への対応) 我が国産の安全な水産物の輸出を促進するためには、海外に向けても適切に情報提供を行っていくことが必要です。このため、水産庁では、英語、中国語及び韓国語の各言語で水産物の放射性物質モニタリングの結果を公表しています。さらに、各国政府に対し、調査結果

(資料提供:(研)水産研究・教育機構)

152

第Ⅱ章

第1部

や水産物の安全確保のために我が国が講じている措置等を説明し、輸入規制の撤廃・緩和に向けた働きかけを続けています。 この結果、東電福島第一原発事故直後に水産物について輸入規制を講じていた53か国・地域(うち18か国・地域は一部又は全ての都道府県からの水産物の輸入を停止)のうち、20か国は平成29(2017)年3月末までに輸入規制を完全撤廃しました。また、輸入規制を維持している国・地域についても、EU等が検査証明書の対象範囲を縮小するなど、規制内容の緩和が行われてきています(表Ⅱ−5−1)。

国・地域名

シンガポール

ロ シ ア

エジプト

E  U

ブラジル米  国

中  国

台  湾

香  港

韓  国

対象となる都道府県等 主な規制内容宮城、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、新潟、長野(10都県)上記10都県以外の道府県 政府による放射能検査証明書及び産地証明書の要求

輸入停止

岩手、宮城、山形、福島、茨城、千葉、新潟 (7県)に所在する登録施設

輸入停止

青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉(8県)

輸入停止

北海道、東京、神奈川、愛知、三重、愛媛、熊本、鹿児島(8都道県)

政府による放射性物質検査証明書の要求

岩手、宮城、東京、愛媛 (4都県)

上記9都県以外の道府県 産地証明書の要求(注:H27.5.14以前は産地証明書の添付が不要)

上記に加え、韓国側の検査で、少しでもセシウム又はヨウ素が検出された場合にはストロンチウム、プルトニウム等の検査証明書を追加で要求

岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉(7県)上記7県以外の都道府県 政府による産地証明書の要求

政府による放射性物質検査証明書の要求

福島 政府による放射性物質検査証明書の要求日本国内で出荷制限措置がとられている品目 輸入停止

福島、茨城、栃木、群馬、千葉(5県)

輸入停止8県以外の都道府県

政府による放射性物質検査証明書の要求

放射性物質検査証明書(セシウム134、137及びストロンチウム90)及び動物衛生証明書の要求(注:H27.7.15以前は輸入停止)

青森県に所在する登録施設

岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉(7県)

政府による産地証明書の要求(活魚、海藻類及びホタテは除く)上記7県以外の都道府県

上記16都道県以外の府県 政府による産地証明書の要求

福島、茨城、栃木、群馬、千葉 (5県) 輸入停止

福島 輸入停止茨城、栃木、群馬(3県) 政府による放射性物質検査証明書の要求上記4県以外の都道府県 産地証明書の要求

表Ⅱ-5-1 我が国の水産物に対する主な海外の輸入規制の状況(平成29(2017)年3月末現在)

放射性物質検査報告書の要求(注:H27.5.14以前は放射性物質検査報告書の添付が不要)

政府による放射性物質検査証明書の要求(活魚、海藻類及びホタテは除く)

 一方、依然として輸入規制を維持している国・地域に対しては、様々な場を活用して規制の撤廃・緩和に向けた働きかけを継続していくことが必要です。 特に韓国については、平成25(2013)年9月以降、福島県等計8県の水産物の輸入を全面的に禁止するなど規制措置を大幅に強化したことから、我が国は、二国間協議やWTOの衛

153

第5節 東日本大震災からの復興

第Ⅱ章

第1部

生植物検疫(SPS)委員会における説明のほか、韓国側が設立した「専門家委員会」による現地調査の受入れなどに取り組んできました。しかしながら、韓国側から規制撤廃に向けた見通しが示されないことから、平成27(2015)年より、WTO協定に基づく紛争解決手続を開始しています。我が国としては、今後ともWTOのルールにのっとって手続を進めていくとともに、韓国への二国間での働きかけを継続していくこととしています。

154

第Ⅱ章

第1部

水産業・漁村地域の活性化を目指して−平成28(2016)年度農林水産祭受賞者事例紹介−

 宮城県最北東端に位置する気けせん ぬ ま し

仙沼市唐桑町は、静穏な入り江を活用したカキやホタテの養殖が盛んな地域です。漁業者による植林運動、「森は海の恋人運動」は、この地から始まりました。 平成16(2004)年、気仙沼市立唐桑小学校から同校の学校支援委員となっている唐桑町浅海漁業協議会青年部に、「総合的な学習の時間」の一環として、カキ養殖を題材とした学習を実施したいとの依頼がありました。これを契機として、同青年部では、地域の子どもたちの海離れが進む中、基幹産業であるカキ養殖やふるさとのすばらしさを認識し、理解と知識を深めることが重要と考え、カキ養殖に関する学習支援事業を開始しました。青年部内に専任の担当者を置き、小学校と連携して毎年改良を重ねつつ、この取組を行ってきました。東日本大震災により一時中断を余儀なくされましたが、翌年平成24(2012)年夏には再開しました。 青年部が実施する学習支援事業は、漁場に専用の養殖筏

いかだ

を設置し、小学校4年生から6年生までの各学年ごとに作業やテーマを変えて、カキの養殖の生産サイクルである3年間を通して種挟み(種ガキを養殖用のロープに挟み込む作業)から販売まで行える体系的なプログラムになっています。 学習支援事業を開始した当初は、学外の体験は、青年部の部員のみが指導等に当たっていましたが、近年は、保護者や漁業者OB等青年部以外の地域住民の参加が増加しており、漁業関係者だけでなく、地域を巻き込んだ活動に成長・発展しつつあります。今後この取組が地域活動へ発展することによって、将来的な漁業後継者の育成や、漁業への理解者の創出といった効果が期待されます。

 京都府北部に位置する舞まいづるし

鶴市、京きようたんごし

丹後市の底びき網漁業者から構成される京都府機船底曳網漁業連合会では、11人の会員全員が京都府沖合で操業しており、ズワイガニが重要な対象種となっています。 水揚げされるズワイガニの雄は、甲羅の堅い「たてガニ」と甲羅の柔らかい「水ガニ」に大別されます。水ガニは、脱皮直後で身入りが悪く、味も良くないため、市場での価格もたてガニの1/10と安く、更に未成熟で繁殖能力が低いため、水ガニの漁獲は、資源の持続的利用と漁業経営の面からも非

天皇杯受賞(水産部門)技術・ほ場(多面的機能・環境保全)

唐からくわちようせんかい

桑町浅海漁業協議会青年部(代表:小お の で ら

野寺 芳よしひろ

浩 氏)

内閣総理大臣賞受賞(水産部門)技術・ほ場(資源管理・資源増殖)

一般社団法人京都府機きせんそこびきあみ

船底曳網漁業連合会(代表:嶋しまだ

田 安やすお

男 氏)

155

農林水産祭受賞者事例紹介

第Ⅱ章

第1部

効率でした。 そのため、同連合会では平成18(2006)年から水ガニの保護に向けた検討を開始。事前調査として、京都府農林水産技術センター海洋センターの協力を得て、水ガニの漁獲尾数や再放流した水ガニの生残率等の科学的データを収集・解析し、科学的根拠に基づいて水ガニ全量再放流(水揚げ全面禁止)という全国初の取組を実施することを決めました。 この取組を実行に移すに当たっては、影響を受ける地元の仲卸業者や、同じ漁場を利用する兵庫・福井両県の底びき網漁業者の合意を得ることが重要であるため、科学的根拠を示しながら粘り強く説得を行い、合意形成を図りました。その結果、平成20(2008)年から水ガニの水揚げ全面禁止が始まりました。 取組を開始する前と比べ、漁業者はたてガニの増加を実感しているそうです。また、実際に1隻当たりの漁獲量や、水揚金額は増加しています。 同連合会による水ガニの水揚げ全面禁止の取組以降、石川県から島根県までの1府5県のズワイガニ漁業団体による組織である「日本海ズワイガニ特別委員会」においても、水揚げ期間の短縮等、水ガニ保護が重要視されるようになりました。さらに、平成25(2013)年からは石川県においても水ガニの水揚げが全面禁止となる等、この取組は、日本海の広域に波及しています。

 氷ひ み し

見市は、富山県の北西部に位置し、全国有数の良好な漁場である富山湾に面しています。氷見市では昔から漁業が盛んで、全国ブランドとなっている「ひみ寒ブリ」等の冬場のブリが、氷見漁港における漁獲金額の大きな割合を占めています。 氷見で寒ブリが水揚げされるのは、冬場のわずかな時期ですが、観光客等から一年中氷見のブリを食べたいというニーズがあったことから、マルカサフーズ(有)では、「骨なし」、「魚臭くない」、「簡単調理」及び「地元の前浜の魚の利用」の4つをコンセプトに、氷見のブリを熟成させた「ぶりステーキ」を通年商品として開発しました。 「ぶりステーキ」は、地元氷見港で水揚げされたブリを、骨を抜き、切り身にカットした後、塩

しおこうじ

麹に浸けて魚臭さを

日本農林漁業振興会会長賞受賞(水産部門)産物(水産加工品)

マルカサフーズ有限会社(代表:笠かさい

井 健けんじ

司 氏)

156

第Ⅱ章

第1部

取ると同時に熟成させ、冷凍します。独自性を出すため、熟成には富山県農業試験場が育種開発した「黒むすび」という米を使って作った塩麹を使用。フライパンで5分程度焼けば火が通るよう、切り身の大きさや厚みにもこだわっています。また、消費者が楽しんで商品を選べるよう、味付けは照り焼き、西京味噌漬け、レモンペッパー漬けなど常時8種類、その他に季節商品として2~3種類用意する等の工夫もしています。 マルカサフーズ(有)では、基本理念である「地産(地元原料を使用する)、地工(地元で、工夫と愛情を注いで加工する)、小売(加工した人が地元で思いを伝えて適正な価格で購入してもらう)」の下、今後、店舗販売体制の拡充と併せて、ブランドのサイトを開設し、顧客との交流を活発化させて、双方向の情報交流を通じて販売の拡大をしていきたいとしており、このような取組は、全国の水産加工業者の参考となると考えられます。

 風かざまうらむら

間浦村は、本州最北端青森県下しもきた

北半島の北西部に位置し、津軽海峡に面した沿岸漁業、林業、及び下

し も ふ ろ

風呂温泉郷を中心とした観光業が基幹産業となっている村です。 漁業者の高齢化や後継者不足、観光客の減少による漁業と観光業の衰退が課題となっていたため、平成22(2010)年の新幹線駅開業を見据え、漁業と観光業の連携による交流人口の増加に向けて検討が始まりました。 平成21(2009)年に、下風呂、易

い こ く ま

国間及び蛇へびうら

浦の村内3つの漁業協同組合の組合員、観光関係者、村、県などを構成員とする「風間浦きあんこう資源管理協議会(後の「ゆかい村風間浦鮟鱇ブランド戦略会議」)」を発足させ、下北地域のにぎわい創出、地域資源の付加価値向上等を目指して活動しています。 地元で漁獲されたキアンコウのブランド化に取り組み、平成26(2014)年に「風間浦鮟鱇」として地域団体商標に登録しました。これにより魚価が向上しました。認証基準として、①体重5㎏以上であること、②12~3月に漁獲されたものであること、③生きたまま水揚げされたものであること、及び④胃の洗浄を行ったものであること、の4項目を満たしたもののみにブランドタグを付けて出荷しています。①は産卵に加わる前の未成魚を、②は産卵期に接岸する親魚をブランド認証から外すことで、漁獲を制限し保護する狙いがあります。さらに、2㎏未満のキアンコウを再放流する等、資源管理型漁業により持続的な漁業を展開しています。 また、「ゆかい村風間浦鮟鱇ブランド戦略会議」が中心となって、全国的にも珍しい生きたまま水揚げされるキアンコウを起爆剤に、漁業と観光を融合させた「風間浦鮟鱇まつり」を毎年開催しています。まつりの期間中は下風呂温泉郷の宿泊施設で風間浦村でしか味わえないアンコウ料理が提供されるほか、雪の上でアンコウをさばく風間浦村の伝統的なさばき方「雪中切り」の実演イベントも行われ、販路拡大や冬場の観光振興に結びつき、地域一帯の取組に発展しています。

日本農林漁業振興会会長賞受賞(むらづくり部門)

ゆかい村風かざまうらあんこう

間浦鮟鱇ブランド戦略会議(代表:駒こまみね

嶺 剛ごういち

一 氏)