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第9回 数学演習2
9 重積分
9.1 断面積による体積の計算
立体の切り口が x軸と垂直になるように x軸をとる。a ≦ x ≦ bとして,x軸に垂直で x軸との交点の座標が xである平面で切り取った断面積を S(x) とする。
この時,この立体の体積は次の積分式で表される。
定理 1 (断面積による体積表示).
V = limδ(∆)→0
n∑i=1
S(xi)∆x =
∫ b
aS(x) dx (9.1)
例題 1. 原点 O, 半径 a の円柱を,O を通り底面とπ
4の平面で切り取った櫛形の部分の体積を次
の 2通りの方法で求めよ。
(1) x軸に垂直な平面による断面積 S(x) を計算にして体積を求めよ。
(2) y軸に垂直な平面による断面積 S(y) を計算にして体積を求めよ。
(解)(1) 点 xでの x軸に垂直な切断面は上図の四方形ABCDである。AB= 2√a2 − x2,AD= x
であるから,四方形ABCDの面積 S(x)は
S(x) = 2x√a2 − x2 (0 < x < a)
1
したがって (9.1)式を用いて
V =
∫ a
0S(x) dx = 2
∫ a
0x√a2 − x2 dx =
[2 ·{−1
3(a2 − x2)3/2
}]a0
=2
3a3
(2) y軸に垂直な切断面は直角 2等辺三角形でその面積 S(y)は
S(y) =1
2
√a2 − y2 ·
√a2 − y2 =
a2 − y2
2(−a < y < a)
したがって (9.1)式を用いて
V =
∫ a
−aS(y) dy =
∫ a
−a
a2 − y2
2dy =
1
2
[a2y − 1
3y3]a−a
=2
3a3
例題 2. 楕円体x2
a2+y2
b2+z2
c2= 1 (a, b, c > 0)を x軸に垂直な平面による断面積 S(x) を計算
にして体積を求めよ。
(解)一般に楕円x2
A2+y2
B2= 1 (A, B > 0) の面積は πABであることに注意しよう。楕円体
x2
a2+y2
b2+z2
c2= 1の x軸 (−a < x < a)に垂直な平面による断面は楕円
y2
b2+z2
c2= 1− x2
a2
y2(1− x2
a2
)b2
+z2(
1− x2
a2
)c2
= 1
であるので,A =
(√1− x2
a2
)b,B =
(√1− x2
a2
)c と置くと,この楕円の面積は
S(x) = π
(1− x2
a2
)bc.
したがって楕円体の体積は∫ a
−aS(x) dx =
∫ a
−aπ
(1− x2
a2
)bc dx = 2πbc
∫ a
0
(1− x2
a2
)dx = 2πbc
[x− x3
3a2
]a0=
4
3πabc
2
9.2 重積分と累次積分
• 2重積分
xyz 空間内の曲面を z = f(x, y) とする。xy 平面上の領域 D とするとき,重積分∫∫Df(x, y)dxdy (9.2)
が何を表すのか簡単に説明する。最初に z = f(x, y) ≧ 0と仮定する。このとき,(9.2)の積分の中身の量は,D内の微小面積 dxdy
に点 (x, y)における高さ f(x, y)を掛けたものである。これは、点 (x, y)に立てた、微小面積 dxdy、高さを f(x, y)をもつ微小直方体の体積である。(9.2) は、その微小直方体の体積 f(x, y)dxdyをD
内のすべての点 (x, y)にわたって加え合わせた量なのだから、曲面 z = f(x, y)と領域 D の間の部分の体積を表すことが分かる(次の図)。
一般の z = f(x, y) のときは,z = f(x, y) ≧ 0 の部分の体積 VP と z = f(x, y) < 0 の部分の体積VN の差 VP − VN を表す。1
• 累次積分[a, b]で定義された連続関数:ϕ1(x),ϕ2(x) (ϕ1(x) ≦ ϕ2(x))
に対して,領域 D は
D = {ϕ1(x) ≦ y ≦ ϕ2(x), a ≦ x ≦ b}
と定義されているとする(右図)。 a b
y = ϕ1(x)
y = ϕ2(x)
D
x
ϕ2(x)
ϕ1(x)
再び,f(x, y) ≧ 0 として,話を進める。曲面 z = f(x, y) と領域 D の間の部分 B の,平面:x =定数 ( x ∈ [a, b] ) による断面 (右図の網掛け部分)の面積 S(x)は
S(x) =
∫ ϕ2(x)
ϕ1(x)f(x, y) dy
である。
1正確には,積分領域 Dを y 軸 x軸に平行な格子でm,n等分して D内の小矩形 ωij とする。ωij を同じ記号でその面積を表すとする。このとき,リーマン和の分割による極限∫∫
D
f(x, y)dxdy = lim分割を限りなく細かく
m∑j=1
n∑i=1
f(xi, yj)ωij
と定義する。
3
したがって定理 1によって、Bの体積は∫∫Df(x, y)dxdy =
∫ b
aS(x) dx =
∫ b
a
{∫ ϕ2(x)
ϕ1(x)f(x, y) dy
}dx
で与えられる。今度は D を
D = {ψ1(y) ≦ x ≦ ϕ2(y), c ≦ y ≦ d}
と表す。
D
ψ2(y)
d
c
x = ψ2(y)
ψ1(y)
y
x = ψ1(y)
このとき,上記と全く同じ推論でBの体積は∫∫Df(x, y)dxdy =
∫ d
c
{∫ ψ2(y)
ψ1(y)f(x, y) dx
}dy
となる。以上をまとめると
定理 2 (2重積分と累次積分の関係).∫∫Df(x, y)dxdy =
∫ b
a
{∫ ϕ2(x)
ϕ1(x)f(x, y) dy
}dx =
∫ b
adx
∫ ϕ2(x)
ϕ1(x)f(x, y) dy (9.3)
=
∫ d
c
{∫ ψ2(y)
ψ1(y)f(x, y) dx
}dy =
∫ d
cdy
∫ ψ2(y)
ψ1(y)f(x, y) dx (9.4)
注意:上記の (9.3)(9.4)において最後の式は、真中の式の略式記法である。これは、複雑な括弧を避けるためである。
注意:2重積分から累次積分に書き換えるとき,積分区間の端点の大小関係を逆にしてはならない。例えば (9.3)式では a ≦ b,ϕ1(x) ≦ ϕ2(x)であり、これらを逆にするとプラスマイナスがおかしい量が出てくる (場合がある)。
定理 2は次のように理解すればよい。2重積分は、その量が持つ図形的意味は理解し易しいものの、直接その値を計算することができない。そこで、それを累次積分に置き換えるのである。累次積分ならば、1変数関数の積分を何度か実行することで値を計算することができる。その置き換えが正しく、また積分の順序をどうとってもきちんと計算できることを保証するのがこの定理。
積分順序の選び方重責分を累次積分に書き直して積分を計算する際には、積分の順番を変えても最終結果は変わらないものの、次の例でも見るように途中の計算の複雑さは積分の順番によって違うことがある。一概にはいえないが、次のような観点が積分の順を選ぶ際の方針になりうる。
• 領域を簡明に書き表せるかどうかつまり (9.3)(9.4)の積分区間の端を表す関数 ϕi, ψiが易しいものかどうか。領域によっては、片方の順序では場合分けが必要になるがもう一方はそうでない、のようなこともある。
4
• 一度目の積分の容易さここで言う一度目の積分とは (9.3)(9.4)の真中に現れている {}内のこと。この積分の容易さは順番によって大きく違いうる。特に、この定積分を計算する際には不定積分の結果に関数 ϕi, ψiを代入するので、できるだけ簡単な積分結果になるようにしておいた方が代入の計算は楽である。ただし、代入して計算した結果が簡明になるかどうかはまた別の話である。例えば次の例題 3では、計算の複雑さという意味では (1)の方が圧倒的に良い (定数の積分だから)が、最終的な計算結果の簡明さから言うと (2)の方がよい (単なる多項式だから)。
例題 3. 2重積分∫∫
Dx dxdy:D = {x2 + y2 < a2 (a > 0), x > 0} の値を累次積分に変形するこ
とにより求めよ。
(解)ここでは二通りの累次積分をによって求める。(実は、ここで求めようとしている積分は例題1と同じものであるので、以下の計算がどのような図形的な意味を持つかは 1ページの図を参照)
積分順序 (1): xを固定して,まず y軸に平行に y = −√a2 − x2から y =
√a2 − x2まで先に積
分(下図の実線上の積分)した後,次に x = 0から x = aまで積分する。∫∫Dx dxdy =
∫ a
0
{∫ √a2−x2
−√a2−x2
x dy
}dx =
∫ a
0x
{∫ √a2−x2
−√a2−x2
dy
}dx =
∫ a
0x[y]√a2−x2−√a2−x2
dx
=
∫ a
02x√a2 − x2 dx = 2
[−1
3(a2 − x2)3/2
]a0
=2
3a3
6
-O
x
y
a
a
−a
x
積分順序 (2): yを固定して,まず x軸に平行に x = 0から x =√a2 − y2まで積分(下図の実線
上の積分)した後,次に y = −aから y = aまで積分する。∫∫Dx dxdy =
∫ a
−a{∫ √
a2−y2
0x dx} dy =
∫ a
−a
[1
2x2]√a2−y2
0
dy
=1
2
∫ a
−a(a2 − y2) dy =
1
2
[a2y − 1
3y3]a−a
=2
3a3
6
-O
x
y
a
a
−a
y
5
演習問題
問 1. OA=OB= aを直角三角形とする三角柱を,y軸を通り底面との角が π/4 の平面で切り取った三角錐の体積は 1
6a3である。これを次の 2通りの方法で求めよ。
(1) x軸に垂直な平面による断面積 S(x) を求め,体積を計算せよ。
(2) y軸に垂直な平面による断面積 S(y) を求め,体積を計算。
xy
O
ABa− x
x
xy
O
ABy
a− y
a− y
ケース (1) ケース (2)
問 2. z軸に垂直な平面による断面積 S(z) を計算にして次の体積を求めよ。
曲面:x2
a2+y2
b2=z
c(a, b, c > 0) と平面 z = c によって囲まれた部分
問 3. D = {(x, y) | x+ y < 2 , x > 0, y > 0 } とするとき,2重積分∫∫
Dx dxdy の値を二通りの
方法で求めよ。
(1) 最初に xを固定して y軸に平行な方向に積分し,次に x軸に平行な方向に積分する。
(2) 最初に yを固定して x軸に平行な方向に積分し,次に y軸に平行な方向に積分する。
D
2
2
O x
y = 2− x(x = 2− y)y
6