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Japan Society for Information and Management NII-Electronic Library Service Japan Soclety for nformatlon and Management 90 本情報 経営 学会誌 2014 V 1 34 No 4 寄稿論文 子政問題提起 1 rogre αηづ傭 θ Govern 〃踟 1 01i q α内閣官房 勝弘 CabinetSecretariatKatsuhiroMORITA Abstract Japα n has launchedthe e Japan Strateg i in ear 2001 and has past al iost fbr 13 ears since thefirst prio policypnogram announced 39 γ Headquarters CO 加 et Secretariat However progre isnot outs tanding a hough theprogra Z hαS been frequen enhanced and revised to acceierate and boost the steg 4mong othe 厂∫ ε Governmentpoli isfailed inthe O iOUS enhancem 3 90V ε厂nmentat se vices the people e entially antic tedη ρ翠 ε summarize the t aits ofe Japan Strategy particul α r y ocused on the e Government poli 【] y area Z ノ mention the threefandamental i ues evolutio of εmodel 5 layer EnterpriseArchitecture α nd share 0 々ノ ect 1 ’わ which are 厂召 9 舵ぬ O lead the e Government policy 0 successfu direction Keywords s tegy Govern Enterprise 4rchitecture conceptuat modeting 1は じめ に IT 的な 裏付け わゆる IT 本法(高 度情報通信ネ ク社会形成基本法 2000 11 29 成立 を根 拠 設置 され 相 を本 長と IT 戦略本 部( 高度情報通信ネ 社会推進本部2001 1 6 日設 が策定し 20011 22 閣 議 決 定 され た e Japan 戦略 出発点 IT 基本 e Japan 戦略が議論された 2000 年前後 Windows95 98 よる 官房 IT 合戦略 CIO 補佐官 衆化 , 2000 問題 を契 機 とす シス 分散処理 システム 移行 ンタ トや 電子 ,携 帯電話 普及 ,情報 技術 ラダ ムシ トが 米国 では 社会経済 IT 成果 先進国 らな 論が盛 り上が た時代 もあ e Japan 戦略 後何 度 改定 今日 次安部内閣における 「世界最 先端 IT 家創 るが 当初 構想ど お り順 調 な成 果 を挙 げ るとは 民には具体 的 成果 見えな 費用対効果 疑問 るなど ,今 なお 抜本 的な 決 を必 要 とす 課題 多 く残 され 状態 なお本稿 での IT 戦略 N 工工 Electronlc Llbrary

Cabinet Secretariat Katsuhiro MORITA

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90 日本情報経営学会誌 2014 V 。1,34,No.4

■ 特 別 寄 稿 論 文

日本の電子政府政策の歩みと問題提起

1)rogre ∬ αηづ傭 婚 (ゾθ一Govern〃踟 ’1)01i(ツ q〆」砂α〃

        内閣官房 森田 勝弘*

Cabinet Secretariat  Katsuhiro MORITA

Abstract :Japα n has launched the e −Japan Strateg)i『in ear か2001, and  has past al 〃 iost ,fbr 13アears  since  thefirst

prio吻 , policy pnogram 脚 ∫ announced の 伽 ∬ 3’尸惚 9γ Headquarters (ゾCO わ加 et  Secretariat. However ,’舵

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successfu ’direction.

Keywords :∬ s跏 tegy,召一Govern〃繝 ちEnterprise.4rchitecture, conceptuat  modeting

1. は じめ に

 我 が 国の IT 戦略の 一環 と し て 制度的な裏付け

を有する電子政府政 策は,い わ ゆ る IT 基本法 (高

度情 報通信 ネ ッ トワーク社 会形成基 本法 2000

年 11月 29 日成立)を根拠 と して 設置 され た, 首

相 を本部長 とする IT戦略本部(高度情報通信 ネ ッ

トワー

ク社 会推 進 本 部,2001 年 1 月 6 日設 立 )

が策定 し,2001年 1月 22 日に閣議決定 された e−

Japan戦略が 出発点 とな っ て い る.

  こ の IT 基 本法や e−Japan戦 略が 議論 された

2000 年前後は,Windows95 /98 の 登 場 に よる パ

* 内閣官房  IT総合戦略室 政府 CIO 補佐官

ソ コ ン の 大 衆化,2000年問題 を契機 とす る レ ガ

シ ーシ ス テ ム か ら分散処理 シ ス テ ム へ の 移行,イ

ン タ ーネ ッ トや電子 メ ール ,携帯電話 の 普及 と

い っ た,情報通信技術 の パ ラ ダイム シ フ トが 進み,

米 国で は社会経済の IT 革命が成果 を現 し,我が

国に お い て も,先進国に 遅れ て はな らな い と の 世

論が盛 り上が っ て い た時代 で もある.

 e−Japan戦略 は,その 後何度か の 改定を経て,

今 日の 第二 次安部 内閣にお ける 「世 界最先端 IT

国家創造 宣言」へ と続い て い るが ,当初 の 構想 ど

お り順調な成果 を挙 げて い る とは言い がた い ,国

民 に は具体 的な成果が見 えない ,費用対効果に も

疑問が ある な ど,今なお抜本的 な解決 を必 要 とす

る 課題が 多く残され て い る状態 にある と い える.

 なお,本稿 は こ れ まで の 我 が 国の IT 戦略の 経

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緯 と評価 を踏まえ,今後の検討課題 に つ い て,著

者の 個人的な見解 をまとめた もの で あ り,政府の

公式的な見解とは一切無関係である こ とをお 断り

して お きた い .

2.我が国の 電子政府政策の歩み

2.1 我 が国の IT戦略の変遷

 我が 国の IT 戦略は,公式的 に は,  e−Japan戦

略が 出発点 と い える が,そ の 実体 は,2000年 7

月に当時森内閣の もと で 設立 された,民間の有識

者か ら成 る IT 戦略会議が 2000年 11月に まとめ

た 「IT 基本戦略」が ,その まま e−Japan戦略へ

と衣替え しただけの もので ある.こ の元 となっ た

IT 基本戦略 の 狙 い につ い て ,同会議の 第 2 回資

料1}に は,以下 の ように記 されて い る.

  電話 放送の 通信 イン フ ラは国際的水準 を凌

  駕す る レ ベ ル の 整備が なされ て い る が , イ ン

  ターネ ッ トは遅 れ を と り,IT 産 業の 発展,

  情報経済の 活性化が 阻害され る結果 となっ て

    い る.

  5年以内 に米国を越 える超高速イ ン ターネ ッ

   ト大国とな り,新産業の 創出と既存産業の 活

  性化 を通 じた新た な高度経済成長 を実現する

  ため,以下の 4 大施策の 実施が必要で ある.

  ・超高速イ ン ターネ ッ ト網へ の 集中投資 とデー

  タ通信分野 にお ける競争の 促進

  ・電子商取引の 実現 を阻む諸規制の 撤廃 と新た

  なル ール 整備 (知的財 産権,プラ イバ シー,

  セ キ ュ リ テ ィ など)

 ・電子政府の 実現 (政府の 高効率化,高度サ

  ビス の 実現)

  ・超高速イ ン ターネ ッ ト時代 を担 う人材の 育成

  (学校教 育の IT 化の 推進)

 こ の 記述 に は,当時米国で はイ ン ターネ ッ トを

技術基盤 とする IT 革命が 進み,米国社会経済の

活性化 を実現 しつ つ ある一方で,日本はそ の 潮流

か ら大 き く立 ち遅 れて い る こ とに対する危機感が

表明 され て い る.

  また,電子政府政策の 重要性 も強 く認識 されて

い て,同会議の 第 3 回資料2)に は,そ の 実現構想

日本の 電 子政府政策の 歩み と問題提 起  91

に つ い て の 基本的な考え方,早期実現に向けて の

共通の 課題 新ア ク シ ョ ン ・プラ ン,及び電子 自

治体推進の 施策が まとめ られ て い る.

 こ の IT 基本戦 略をその まま取 り入れ た 当初の

e−Japan戦 略 は , その 後今 日に 至 る まで の ほ ぼ

13年間に,時の 政権の 問題意識や 大 きな時事問

題を反映す る 形で ,5 回に わた り,大幅 な改定が

実施されて い る.表 2−1は,その 名称と戦略目標

の 変遷 を ま とめた もの で ある,

2.2 e−Japan戦略か ら新 IT改革戦略まで

 最初の e−Japan戦略 (2001年)で は IT 基盤の

整備,続 くe−Japan戦略 H (2003年)で は その

利活用 ,最後の IT新改革戦 略 (2006年)で は経

済社 会 の 構造 改革力の 追及 と, こ れ ら の 3 つ の

IT 戦略は,一

連の シ リーズ を成 し,ほ ぼ 10 年後

をメ ドに,日本社会の 問題解決に寄与する具体的

な成果をあげる もの と期待され た.

  しか し,こ の 最終段 階の IT 新改革戦略 に対 し,

民間の 立 場か ら政府 の 取組み を評価 す る た め に

2003年に発足 した評価専 門調査 会か らは,「全体

と して 国民が その 成果 を実感す る には至 らず,一

層の業務改革 ・制度改革に取組 む必要がある」 と

の指摘 を受け,特に強化が必要な以下の 3分野に

的 を絞 り,今後 の 方 向性 と具体 的な工 程 を示 す

IT 政策 ロ ー ドマ ッ プ3)を策定 の うえ,集中的に取

組 む扱 い とされた 。

  国民本位の ワ ン ス トッ プ電子行政 医療 ・社

  会保障サ ービ ス の 実現

  IT を安心 して活用 で き,環境に先進的 な社

  会の 実現

  「つ なが り力」発揮 に よる経済成長の実現

 また,電子政府政策に関 して は,行政の 電子化 ・

ペ ーパ ーレ ス 化,政府の IT 投 資の 効率化,行政

サービ ス の 利便性 向上が戦略 目標とされ,申請手

続の オ ン ラ イ ン 化,行政サービス の ワ ン ス トッ プ

化,オ ン ラ イ ン 申請利用 率 50% の 達成 情 報 シ

ス テ ム 調達の 改善等 , が そ の具体的な達成 目標と

され たが ,目標 どお りに は進 まな か っ た.

 IT 政策 ロ ー ドマ ッ プ (2008 年)の 中で は,こ

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表 2−1 我が国 の IT戦略 の変遷

名称 〆年月 戦 略 目 標 電子政府関連の 目標

ブ ロー

ドバ ン ドイン フ ラの 整備 電子情報を紙情報 と同等 に扱 う行政 の 実現

e−Japan戦 略

2001年 1 月

   ネ ッ トワー

ク 基 盤 整 備

   電子商取引の 普及

・行 政 内部 の 電 子化

・官民接点 の オ ン ラ イ ン 化

   電子政 府の 実現・行政 情報 の イ ン ターネ ッ ト公 開

・利 用 促 進

  人材育成の 強化・地方公共団体 の 取組み 支援

IT 利活用 の 重視 重 複投資排除 ・行政 の 透 明性 向上 ・民 の 参画 促進

   医療サービス の 向 上 ・経営効率化 ・行 政 サ ービ ス の ノ ン ス トッ プ ・

ワ ン ス トッ プ化

   食の 安全 取引の 電 子 化・行政 ポー

タ ル の 整 備

e−Japan戦略 H   生 活 ・高 齢 者 世 帯支 援 ・業務 シ ス テ ム の 最適化計画策定

2003 年 7 月    中小 企 業 金 融 支援

  教 育支援 ・知則.産業

   就 労の 多様化 対 応

   行政 サービ ス の 利 便性 向 上

IT に よ る 構造改革力の 追求 利便性が 実感 で きる 効率的な電子行政

  IT に よ る 医療 の 構造改革・2010年度 まで に 行政 オ ン ラ イ ン 申請 率 50%達

   IT を駆使 し た環境配 慮型 社 会 成

   世 界 に 誇れ る 安全で 安心な社会・情報 シ ス テ ム 調達

・評価体制の 整 備

IT 新改革戦略

2006 年 1 月

   世界一

安全な道路交通

   世 界一

便利 で 効率的な電子行政

・地方公共団体 の シ ス テ ム の 信頼性・安全 性確保

   IT化 経 営 に よ る企 業 の 競 争力 強 化

   生 涯 を通 じた 豊 か な 生 活

   ユ ビキ タス ネ ッ トワーク社会の 基 盤 整 備

教育・人 材育成 ・研 究 開発

   世界へ の 発信・国 際貢献

誰もが デ ジ タル 技術の 恩恵を実感 利便性向上 ・事務の 効率化・行政の 見える化

   電子政府推進体制・電子私書箱

・電子政 府推進体制の 整 備

i−Japan戦略 2015   医師不 足対策・日本版 HER ・

電子私書箱の 普及

2009年 7 月   授業で の デ ジ タル 活用 ・高度 IT 人財育成 ・チ ャ ネル の 多様化・ユ ーザ ビ リテ ィ の 改善

  産 業 ・地 域 の 活性化 ・新産業育成 ・バ ッ ク オ フ ィ ス 連携 ・ペ ーパ ーレ ス 化

  デ ジ タル 基 盤 整備・処理 状況の 追跡 ・所在確認の 可能化

国民 が 主導す る知識 情報社会へ の 転換 行政刷新 と オープ ン ガバ メ ン ト

   新 た な

情報通信技術戦略

  2010 年 5 月

  国民本位の 電子行政 の 実現

   地域の 絆の 再生

  新市場の 創出と国際展開

・行政 キ オ ス ク端末

・国民 ID 制 度 の 整 備

・政府 CIO の 設置・政府共通 プ ラ ッ トフ ォ

ーム の 整備

・行政情報の 公開・活用推進

IT 利活用 に よる 閉塞 の 打破,凵本 の 再生 ワ ン ス トッ プサ ービ ス を誰で もど こ で もい つ で も

  世界最先端

IT 国家創造宣言

  2013年 6 月

   革新的な新産業・新サービス の 創出

   健康 で 安心・快適な生 活

   公共サービ ス の ワ ン ス トッ プ化

   裾野 拡大 の た め の 基盤強化

・利 便性 の 高 い 電子行政サービス

・国 ・地 方 を通 じた行政 情報 シ ス テ ム 改革

(シス テ ム 数 半 減 ・運 用 コ ス ト3割減)

・IT ガ バ ナ ン ス 強 化

  推進体制 の 強化

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の電子政府の 成果が 十分に達成で きて い ない 状況

と今後の 取組の 方向性に つ い て,以下 の よ うに総

括 されて い る,

(1)戦略の 目標 と取組の 現状

 国の 行政機関等の 手続 につ い て は,電子署名の

簡略化,添付書類の 省略 手数料の軽減や税制措

置等の 具体的 な利用促進策の推進 に よ り,オ ン ラ

イ ン 利 用 率 全 体 が,2005年 度 末 の 11.3%か ら

2006 年度 末に は 15.3% へ と上 昇 し,徐 々 に で は

あるが オ ン ライ ン利用が 国民に浸透 しは じめ て い

る.

  しか し,年間を通 じて オ ン ラ イ ン 申請が一件も

利用されて い ない 手続が全体の 約半数 を占め て い

て,国民の 視点か ら,使 い 勝手が よ く,利便性が

実感で きる ア プ ロ ーチ を検討す る こ とが必 要 とさ

れる.

 一方,地方公 共団体,特に基礎 自治体は,国民

が 関係す る手続が多 く,電子行政全体の 発展 にお

い て果 たす役割は極めて重要で あるが,その基盤

となる住民基 本台帳 カー

ドにつ い て は,普及率が

低迷 (約 L8%,2006年度),  IT 基盤の 整備格差

もあ り,オ ン ラ イ ン利用可能 な手続 きが限 られ,

その 範囲 も地方公共団体 に よ りまち まちであ る.

  さ らに,行政内部で は,電子 申請された案件 を

紙 に印刷 して処理 して い るため , 事務処理の 迅速

化,効率化 に役立 っ て い な い との 指摘 もあ り,行

政事務 の 現場 の 意識改革 が遅れ て い る,

(2)今後の 取組の 方向性

 当面 の 電子政府推進の 基礎 となる認証基盤の改

善 ・普及 と併せ ,オ ン ラ イン利用拡大の ため の 抜

本的改善策 を講 じ,こ れを着実 に進め る とと もに,

従来 までの発想 を大 き く転換 し,次世代の 電子行

政サ ービ ス の 実現に向けた取組 を,従来に ない ス

ピー ド感 をもっ て ,抜本 的に強化 する L

2.3 i−Japan 戦略 2015

 e−Japan戦略シ リーズの 目標年限が 近づ きっ っ

ある 2009 年 7 月 に は , そ の 後継 版 の i−Japan戦略 201S4)が 閣議決定された,こ の i−Japan戦略は,

それ まで の 成果が不十分 な実態 を踏 まえ,IT 政

日本の 電子政府 政策 の 歩み と問題提起  93

策 ロ ー ドマ ッ プで掲げた三 大重点分野 に絞 り込 み

着実に達成 しよ うとする もの であ り,従 来の 戦略

の 経緯 と問題点 を以下の ように総括 して い る.

 ・IT 基盤整備 は進 ん だが ,多 くの 国民がそ の

  成果 を実感する まで には至 っ て い ない .

 ・デ ジ タ ル技術の 利活用 を強調しつ つ も,技術

  優先指向とな り,か つ サービス供給者側 の論

  理 に陥 っ て い た面がある,

 ・今後 は,国民視点で の 人間中心の デ ジタ ル 技

  術が ,普遍的に受け容れ られ る社会を実現す

  る戦略で なけれ ばな らな い .それ が世界共通

  の 利用技術や利用形態とな っ て ,幅広 く受け

  容れ られる ようにする努力 も不可欠であ る,

 こ の i−Japan戦略 2015にお い て も,電子政府

政策は,

三 大重点分野の一

つ に 位置づ けられ ,以

下 の 2点が具体的な実現 目標 とされ て い る.

  電子 政府推進体制 の 整 備 (政府 CIO の 設 置

  等),過去 の 計画 の フ ォ ロー

ア ッ プ,PDCA

  サ イクル の 制度化

  国民電子私書 箱 の 普及 と ワ ン ス トッ プ行 政

  サ ービ ス の提供,「行政 の 見える化」の 推進

 こ れ を一つ 前の IT 新改革戦略 (2006年)と比

較 して み る と,推進体制強化の た め の 法制度整備,

及 び利用者視点で の 利便性 向上や 業務効率化 に重

点が 移 っ た内容 とな っ て い る.

2.4 新たな1情報通信技術戦略

 新た な情報通信技術戦略5)は,2009年に政権交

代 を果た した 民主党政権初の IT 戦略 (2010 年策

定 )で ある.一つ 前 の i−Japan戦略 2015の策定

か ら 1年未満 とい う短期間で の 改定 と い うこ とも

あ っ て か,具体的な施策内容が大 きく変化 して い

るわけで はな く,重点分野が ,国民主権の 観点を

強調 した形に組み換 えられ,以下 の 3 本柱に ま と

め られ て い る.

  国民本位 の 電子行政の 実現

  地域 の 絆 の 再生

  新市場の 創出 と国際展 開

 また,副大 臣ク ラ ス の メ ン バ ーで 構成する企 画

委員会の下 に,上記 3 本柱に対応 した 3 つ の タ ス

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ク フ ォー

ス が 設置され,電子行政 に関す る タス ク

フ ォース の ス コ ープは,以 fの 範囲 とされ た。

  こ れ まで の IT 投資の 総括 と今後 の 行 政刷新

  ・行政サ ービ ス の オ ン ライ ン利用計画の 策定

 ・行政ポー

タ ル の 抜本的改革と行政サービス へ

  の ア ク セ ス 向上

 ・国民 ID 制度の 導入 と国民に よる行政監視 の

  仕組の 整備

 ・全国共通の 電子行政サ

ービ ス の 実現

  ・行政 情報の 公開,提供 と国民の 政 策決定へ の

  参加等の 推進

  こ れ まで の 電子政府政策 に つ い て は,電子行政

に関す る タ ス ク フ ォース の 第 1 回会議資紳

)の 中

で,以下 の よ うに総括 されて い る.

(/)費用 対効果の 欠如

  2008 年度 に おける オ ン ラ イ ン 申請 シ ス テ ム に

係 る 経費 は 約 300億 円 と な っ て い る が ,64シ ス

テ ム の うち利用 率が 10%未満の もの が 15シ ス テ

ム あ り,利用 率が低 迷 し改善の 見込み の ない 10

シ ス テ ム は 2009年度まで に停止する.

(2)業務改革が 不十分

 最適化 計画の 実施 に よ り,2009 年度実績 と し

て ,約 550億 円 の 運用 コ ス トを削減 (最終 的に は

1100億 円) し て お り,一

定の 成果が 見 られ る,

一方で ,業務見直 しが不十分で r プ ロ ジ ェ ク トの

推進 をい っ たん 中止 し,見直 しを実施 して い る も

の もある (旅費等内部管理 業務な ど).

(3)電子政府の 司令塔の 不在

 各府省に 官房 長等が 兼務 す る CIO が 置 か れ ,

内閣官房副長官補 を議長 とす る CIO 連絡会 議が

設置 されて い るが,十分な指導力を発揮 して い な

い ,かつ 国民 目線 の サービ ス が提供 で きて い ない .

  こ の 総括結果を踏まえ,IT ガ バ ナ ン ス の 確立 ・

強化,国民 ID 制度 ・企 業 コ ー ド、行政サービス

の オ ン ライン利用.ア ク セ シ ビ リテ ィ 向上 ,オー

プ ン ガ バ メ ン トを重点 施策 と し,政府 CIO 制度

を創設する こ とを喫緊の課題 と して い る.

 2011年 3月 の 東 日本 大震災 に よ り,そ の 後 の

IT 戦 略の 推進 は一

時停滞 した もの の ,2012年 8

月 に は,初 代 の 政 府情 報 化 統 括 責任 者 (政府

CIO)に民間企 業の リ コー

出身の 遠藤紘一

氏 が就

任 し,新たな政府 CIO 体 制が始 まっ た,

2.5 世界最先端 IT 国家創造宣言

  2012年 12月の 総選挙 で は自民党が圧倒 的勝利

を収め ,第二 次安部政権が発足 した、翌 2013年

4 月に は マ イナ ン バ ー法案 と政府 CIO 法案 を国

会で 可決 し,5 月 には世 界最 先端 IT 国家創造宣

言7)(以下 ,IT 国家創 造宣言 と省略)が 閣議決定

され た. また,そ れ まで の IT 戦略室 と政府 CIO

室は統合 され,IT 総合戦略室に再編 された,

  こ の IT 国家創造宣言 は,政府 の 第 1 回産業競

争力会議 (2013年 1月)にお い て,「当面 の 対応

の 一環 として , 世界最高水準の社会 を実現するべ

く,IT 政策の 立て 直 しを検討す る こ と」 とされ

た こ と に対応 し て と りまとめ られ た もの で ある.

 こ れ まで の 日本社会の 閉塞 を打破し再生 をはか

る,そ の た め に世界最 高水準の IT利活用社 会 を

実現す るこ とを基本理念 と して い る.過去の 反省

を踏 まえ,省庁 の 縦割 りを打破 し,政府全体 の横

断的な IT 施策 の推進,政 策課題 へ の 取組み を行

うこ と と され,その 目指 すべ き社会の 姿と し て ,

以 Fの 戦略 日標が 設定 され て い る.

  革新的な新産業 ・新サービ ス の 創 出 と全産業

   の 成長 を促進する社会

  健康で 安心 して 快適 に 生 活で きる世界一安全

  で災害に強い 社会

  公 共サ ービ ス が ワ ン ス ト ッ プ で 誰 で もどこ で

   もい つ で も受 けられ る社会

 な お,電 子政府政 策に関 しては,そ の 具体 的な

実現 目標 と して ,以下 の 事項が掲げられて い る,

(1)利便性の 高い 電子行政サービス の 提供

 官民協 同の 利便性 の 高 い サービ ス の 創造,ク ラ

ウ ドを活用 したオープ ンな利用環境の 整備 (デー

タ書式,用語, コ ー ド,文字等の 標準化 ・共通化

等を含む)

(2)国 ・地 方を通 じた行政情報シ ス テ ム の 改革

 2018 年 度 まで に シ ス テ ム 数 (現在約 1500 )を

半減,2021 年度 を メ ドに 原則 すべ て の 政府情報

シ ス テ ム をク ラウ ド化 し,運用 コ ス トを圧 縮 (3

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割減),番号制度 を導入する行政分野 の 業務改革

及 び シ ス テム改革の 着実な実施

(3)政府にお ける IT ガバ ナ ン ス の 強化

 IT 投資計画 を 2014年度予算か ら予算編成に合

わせ て策定 ・推進,日本版 「IT ダ ッ シ ュ ボード」

を整備 し,2014年度早期か ら運用 開始,政府 IT

調達 に係 る標準化 ・共通化の 推進,技術力評価 の

見直 し等 を実施 し,調達 コ ス トの削減,透 明性 向

上 ,競争市場の 促進を はか る

 こ の IT 国家創造 宣言 は,当初 e−Japan戦略に

比 べ る と,生活重視か ら産業振興重視へ 戦略目標

の 方針転換が はか られ て い る 一方で, 電子政府政

策の 戦略 目標 に 関して は,行政サービス の 効率性

か ら利用者の 利便性重視 へ とシ フ トして い る.

2.6 政府 CIO 体制

 政府の IT投 資に 関 して は,こ れまで 各府省個

別 に行われて きた結果,重複や連携不足等,ム ダ

の 発生や 利便性の 低下 と い っ た問題が生 じて い る

こ とが指摘 されて きた.その 解決策 として , 政府

全体の IT 政策 を統括する政府 CIO を設置 し,府

省 間の 調 整 を行 うこ とが 必 要 と され て い た が,

IT 国家創造宣言 に 併せ て, そ の 制度的な対応 も

はか られる こ ととな っ た.

 政府 CIO は,正 式 に は 2013 年 5 月の 内閣法改

正 に よ り新 設され た官職で あ り,正式名称は内閣

情報通信 政策監 と呼ばれ,内閣法及び IT 基本法

の もとで ,下記 の 権限 を有する もの と規定 されて

い る.

(1)内閣官房 における担当事務及び権限

 職位は内閣官房副長官 に 次 ぐ位置づ け (事務次

官 よ り上 位 の 政務官 ク ラ ス )で ,政府全体 の IT

政策及び電子行政 の推進等の 企画立案 ・総合調整

を行 う (IT の 活用 に よる国民の 利便性向上 及び

行政運営の 改善に 関する事務 を統理),

(2)IT 総合戦略本部 にお ける担当事務及び権限

 IT 総合戦略本 部に 国務大 臣と同等の 本部員 と

して 参加 し,IT 総合戦略本部の 事務 の 一部 (府

省横断的な計画の 作成 施策の 評価,行政機 関の

長に対する資料の 提出そ の 他の 協力要請)を本部

日本の 電子政府政 策の 歩み と問題提起   95

長 (内閣総理大臣)の 委任に基づ き実施 し,本部

長に対 し意見 ・報告を行う (本部長は必要 に応 じ

て 関係行政機 関の 長に対 して勧告).

 図 2−1 は ,こ の 政府 CIO 制度の 全体像 を図示

した もの である,

  内欟

5−一溺’驫 展り

地 方公 共団体

ITne 戦路本邸 の aszaの うち、    < lT 紐脅騰 饕;MS >

.府雀撞断醐な禰 の 作成

 

 

 

 

 一

内……輔

図 2−1 政府 ClO の 全体像

 (出典 :IT 戦略本部資料)

 ま た,こ の 政府 CIO の 設置 に併せ ,従来 は 各

府省が 独 自に 任用 し, 待遇が まち まちで あ っ た

CIO 補佐官 に つ い て も,以下 の 統一

的な条件で,

内閣官房が一

括採用 し,各府省 へ 配置す る方針 と

な っ た.

  ・単年度任用の 非常勤国家公務員 (指定職待遇)

   と して ,公募 に よ り任用

 ・IT 総合 戦略室 の 総括担 当 と,各府省 を支援

  する府省担当に 区分

  ・公務員として の 守秘義務や 職務専念義務 を課

  すが ,兼職 は可能

 こ の新た な政府 CIO 補佐官の 募集は,2013年

度か ら実施され た が,実態は 以 下 の とお りで ,ま

だ当初方針が貫徹 されて い るわけで は ない .

  ・旧 CIO 補佐官約 40名の 内,新 た に公募 の 対

  象 とな っ た の は約半数の みで ,財務省,外務

  省,厚生 労働省,文科省等で は,旧体制が維

  持され た ま ま とな っ て い る

  ・新た に任用 され た政府 CIO補佐 官 に つ い て

  も,ほ とん どが,各府省庁の 旧 CIO 補佐官

  が 再任 され,入 れ替えが な い

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96

3.電子政府施策に対 する評価

 電子政府の 施策に対する体系的 な評価結果 をま

とめ た文献や資料等は限 られるが,こ こ で は, 

IT 戦略本 部 の 下に設置 された評価 専門調査会 と

電子政府評価委員会の 報告書,  会計検査院の 報

告 を基 に政府 IT 調達の 問題 点を分析 した学会発

表資料,及 び  情報シ ス テ ム 関係業界か らの 政府

IT 調 達へ の 改善提 言の 3 つ を取 り上 げ,その 概

要をま と め る,

3.1 評価専門調査会報告書

 評価専 門調査 会は,民間 の 立 場 か ら我 が 国の

IT 戦略 に関す る政府 の取組み を評価す るため に,

IT戦 略本部の 下 に 設置され た組織で あ る,2005

年 12 月 に ,過 去 2 年間 の 評価活動結果 を報告書s〕

に まとめ.IT 戦略本部に提 出 して い る.こ の 巾で ,

我が 国の 電子政府施策に関 して は,以下 の 3点 を

問題点 とし て い る,

 ・先端的な電子政府基盤が整備 され,電子 自治

  体 も整備 中だ が,国民の 利便性の 実感 と IT

  を利活用 した国民参加の 拡大 が課題

  ・最適化計 画策 定や CIO ・CIO 補佐 官制 度の

  導入 等,推進 体制 は 整備 が 進 ん で い る が,

  PDCA の 体制が不備で ,  IT 投資の 費用対効

  果の検証が 不十分

  ・CIO 自ら の 情報 リ テ ラ シー

向上 ,抜本的業

  務改革の 推進,民間活力の 活用が不可欠

 また,今後に向けて の 提言として,以下 の 2点

を挙げて い る.

  ・国民が利用 しや す い ように煩雑 な手続 きを簡

  素化,特に再入 力 をな くす観点か ら,

一連 の

  手続き の 見直しが 必要

  ・IT の 利活用 に よる業 務改 革を進め,民 間活

  力の 積極的活用 も視野 に入れ,行政全体 とし

  て の ス リム 化 ・最適化 を推進すべ き

3.2 電子政府評価委員会報告書

 電子政府評価委員会 は t 前述 の 評価専門調査会

の 下 で ,もっ ぱ ら電子政府施策の 推進状況を評価

する こ とを 目的に設置され た委員会で あ る.2006

年度〜2008年度に評価報告書を公表して い る が,

そ の概要 は,以 下 の とお りである.

   2006年度報告書9}

 電子行政の 課題 を,  利用者視点に立 っ た 「見

える化」 と成果 主義,  フ ロ ン トオ フ ィ ス改革と

バ ッ クオ フ ィ ス改革の 連動 強化,  オ ン ライ ン に

係 る 共通基盤整備 ・普及,及 び府省内 ・聞連携 ,

国 ・地方連携 ,官民連携 に よ る全体 最適の 実現,

の 3 つ の 観点か ら抽 出 し,そ の 解決の 方向性 に つ

い て ,以 ドの ように まとめ て い る.

  ・業務 ・シ ス テ ム の 最適化計画 に よる投資予定

  額 3割削減 の 達成 (998億 円 → 692憶 円),各

  府 省 PMO ,府 省共 通 GPMO の 設置 に よ る

  ガバ ナ ン ス 体制の 強化,及び自治体向け電子

   自治体 オ ン ラ イ ン 利用促 進指針 の 策定は,一

  応 の 前進 と評価で きる.

  ・しか し,オ ン ライン利用率 は,2010 年度 目標

  50% に対し ll.3% と低迷,全体最適の 取組み

  や PMO の 活用 も不十分 な点が 問題で ある.

 また,企 業等へ の ヒ ア リ ン グ調査 に基づ く利用

者 の 意見 とし て ,  企 業の ニーズや業務 フ ロ

ーへ

の 考慮 とイ ン セ ン テ ィブが欠如,  中小企業で は

IT 人材不足 で ネ ッ ト社会 へ の 適応が 困難   士

業に と っ て は,個人認証,代理送信 ,電子納税 ,

添付書類が問題   個 人で は 「食 わず嫌 い 」,あ

る い は 「手間が 省ける もの の 使 い づ らい 」こ とを

挙 げて い る.

  2007 年度報告書1°♪

 2007年度 も,前年 度 と 同 じ観 点か ら,全体 評

価 と課題 を以下 の よ うに ま とめ て い る.

  オ ン ラ イ ン 利用率は 11.3% → 15.3% と伸びた

  が,多 くの 分野で 利便性が実感 されず,利用

  が低迷,使 い 勝手の 悪 さと,利用者の 業務 フ

   ロー簡略化が課題,電子証明書の 発行件数が

  急増して い るが,まだ普及が不十分で ,1件

  当 た りの 年 間運用経費が 6 円〜245,000円 と

   バ ラ ツ キ が大 きい ,

  ・利用者 目線 で の 「見える化」 と業務 ・サービ

   ス 改革, フ ロ ン ト/バ ッ ク オ フ ィ ス の 連携強

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  化,安全 ・安心で 費用対効果の 高い 共通基盤

  の 整備 ・普及,成果主義の徹底が必要 とされ

    る,

  2008 年度報告書ID

 2008年度は,特 に利用者 目線で の 「見 える化」

と業務改善の 課題,及び解決の 方向性 に焦点 を当

て る形で ,以下の 指摘がなされて い る.

  ・オ ン ライ ン利用率 は 15.3% → 20.5% とほ ぼ 目

  標 を達成,165手続の うち重点手続 71 を絞

   り込み,利便性 と使 い 勝手向上 等の 改善措 置

  を集中化,「電子政府ユーザ ビ リテ ィ ガ イ ド

  ライ ン」を策定, 利用率が低迷 して い る オ ン

  ライ ン 手続 きの 見直し,廃止 を検討 して い る

  点は評価 で きる.

  ・電子政府全体の 司令塔 と して の 政 府 CIO の

  設置の検討,イ ン セ ン テ ィ ブ の 導入 ,添付書

  面の 省略化,サービ ス 時間延長 ,関係者の 業

  務 フ ローを考 慮 した うえで の BPR の 検討,

  社会慣行 ・企業慣行の 改善 (電子的証明書の

  普及)が課題 と い える.

3.3 会計検査院報告に見る調達問題

 会計検査院は, 情報 シ ス テ ム に係 る 政府調達の

基本指針12)(2007年 3 月)の 適用前後 に,横 断的

な会計実地検査 を実施 し,その 結果 を 2006年 と

2011 年に 国会に報告 し て い る.小畑 (2012)は ,

こ の 2 回の 会計検査 院の報告,及 び政府調達事例

データ ベ ース13)

に登録 され た調達案件データ の 分

析結果を基に,政府情報シ ス テ ム調達 における競

争性の 問題点を指摘 して い る,

 以下に,こ の 小畑の 学会発 表内容 を基 に,政府

の 情報シ ス テ ム 調達問題に つ い て 考察す る.

 2006年 10月の 会計検査院報告に お い て は,政

府情報シ ス テ ム の 問題点 として ,  契約の 競争性

が低 い ,  電子 申請等関係 シ ス テ ム の 利用率が低

調,  情報セ キ ュ リテ ィ の 管理 体制 が不 十分, 

最適化計画に 課題 が あ る こ とが 指摘 され て い る

が,と りわけ契約の 競争性 に関 して ,競争契約が

少な く,随意契約が多 い こ とが 問題視され て い る.

 表 3−1 は,2006年 と 2011年の 契約 方式 の 変化

日本の 電子政府政策の 歩み と問題提起  97

表 3−1 契約方式の 変化

区分 成比 金 成比

競争 契約 950 56、6% 6フ4、055722 覧23

随意 契約 ア2フ 434% 259.43278 跖

計 1.67ア 1000咒 933.4921000 覧

競争 契約 551 19.儡 17.34936 黠1B

随意 契約 2.322 808% 455.859 δ、鰯

計 Zβ73 1000覧 473.2001DOO 咒

を ま とめ た もの で あ る.2006年に は競争契約件

数 が 19.1% に過 ぎな か っ た もの が ,23年 に は

56.6% に増え,こ の 5 年間に競争性が大 きく改善

され たか の よ うに 見える.

 しか し,平均落札率14)

に つ い て は,表 3−2 に示

す よ うに,改善が な く,契約の 競争性が十分確保

され て い る とは い えな い 結果 とな っ て い る.

表 3−2 平均落札率 の 変化

式 比

競争 契 約 950 59、2弘 87、3%23

報告

随意 契 約 654 40.8跖 986 %

計 1,604100 .0% 919 咒

競 争 契 約 27 5,9% 81.9%18

報告

随 意 契 約 431 94.1% 974 %

計 45B 可00.0% 96.5%

 さ ら に,2011年の 競争契 約 950件 に つ い て T

そ の 応札者数の 状況を まと め て み る と,表 3−3 に

示すよ うに,複数応札 の件数が 319件 (33.6%),

落札 率が 70.1% に対 しT1 者応札 の 件数 は 631件

(66.4%),落札率 が 96.0% と高止 ま りして い る.

こ の 5 年間で,競争入札が増えた もの の ,そ れ は

形ばか りで ,実態が伴 っ て い ない もの と い える、

表 3−3 応札者数別の 平均落札率

区 分 件 数      構成 比 平 均 落 札 率

1者 応 札 631        664 % 960 %

複 数 応 札 319         33 、6% 70.1%

計 950        1000 % 87.3%

会計検査院 の 2011年報告 に よれば,かねて よ

り指摘 されて い る情報 シ ス テ ム に係 る政府調達 の

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98

問題 (一社入札,ベ ン ダ

ーロ ッ クイ ン 等)は,現

在 も依然 と し て 解決 され ず,特 に 下記 の よ うな

IT ガ バ ナ ン ス の 問題がある と指摘 され て い る.

  ・政府調達 DB へ の 契約関連情報の 登録,情報

  公開が不十分で ある

 ・著作権 の 関係 で 随意契約 とされ,ベ ン ダ

  ロ ッ ク イ ン が継続 して い る

 ・総合評価 で あ っ て も価格点の 比重が大 きく,

  趣 旨に 沿 っ て い ない

  ・発注力が不十分 で ,調達仕様書が不完全,あ

  る い は仕様書作成や見積 りを現行事業者に任

  せ る ため.新規事業者 の参人がむずか しい

  ・調達仕様書の あ い まい さや制度改定に伴 う追

  加作業の リ ス ク を避 けるため ,大 手事業者に

  依存 しがちで ある

3.4 業界 か らの 調達改善要望

 政府の 情報 シ ス テ ム 調達 に 関 して は,それを受

注する立場にある情報処理 関連業界か らもさ まざ

まな問題点が指摘 され て い る.

 我が 国の 情報 シ ス テ ム 関連の 主 要な業界団体 で

ある電子情報技術産業協会15)

と情報サービス 産業

協 会16〕

は,2012年 11 月 に,政府情報 シ ス テ ム 調

達の 改 善及 び IT 人材 の 育成 ・確保 に 関 して ,政

府 CIO 向けに,下記の 5 項 目か らな る政府情報

シ ス テ ム 調達 に関す る要望17)

を協同で提 言 して い

る.

(1)特性 ・リス ク に応 じた適切 な調達方式の 導入

 現行の 調達で は,予定価額が 80 万 SDR 未満の

もの に は最低価格落札方式18),それ以上 もの には

総合評価落札方式19)

を適用する扱い とな っ て い る

が ,すべ て の 調達 を一律に扱うこ とに は無理 が あ

る.技術 的特性や リ ス ク度合 い に応 じて調達対象

を企 画競争,競争的対話,総合評価,最低価格等

に類型化 し,適切 な調達方式 を選択的に適用 で き

る ようにすべ きである.

  また,現行の 情報 シ ス テ ム に係 る政府調達 の基

本指針で は,政府調達へ の 参入機会の 公平性 の観

点か ら,所定の 規模 (予定価格が 5億円以上 の も

の )の 情報シ ス テ ム 開発 は,機能分割 した うえで ,

分離調達す る,か つ ,入札 の 透明性 の 観点か ら,

情報 シ ス テ ム 開発の 上流工 程 (要件定義)に関わ っ

た事業者 は,そ の 下 流工 程 (設計 ・開発)の 調達

に は参加で きな い とい う制限が ある が,こ れ も,一

律に適用 した場合の 分割 リ ス クは大 きく,業務

ノ ウハ ウ の 効率的な活用の 妨げとなる可能性 もあ

る の で ,発注者の ガ バ ナ ン ス 体制や シ ス テ ム の 特

性 ・難易度に応 じて適切 な調達単位 を選択で きる

ように す べ きで ある,

 さ らに ,IT ガ バ ナ ン ス の 観点か らは,調達仕

様書の 質や 提案書審査能力の 向上 をは か る うえ

で .過去の 調達事例 を蓄積 ・共有 し,活用する こ

とが有効で あるか ら,その 推進 をはか るべ きで あ

る.

(2)技術 力を評価す るため の 調達方法の 確立

 大規模 ・複雑で ,リス ク の 大 きな情報 シ ス テム

の 調達 にお い て は,技術力重視で 落札者 を決定す

る 必要が あるが ,現行 の 調達方式は,十分な技術

力の 評価 が行 える よ うに はな っ て い ない .現行の

調達方式で は.資料招請 ・意見招 請等の 事業者 と

の 対話 が 必 須 で は な く,か つ 形式的 な もの に 留

ま っ て い る.特 に リス ク の 高 い 情報 シ ス テ ム 調達

で は,プ レ ゼ ン テーシ ョ ン に よ る対面審査や質疑

応答な ども含め て 対話を充実させ る べ きである.

 また,現行の 総合評価落札方式で は,価格点 と

技術 点 の 配分 は,1 : 1が 原則 とさ れ て い る が,

特 に リス クが高 く,技術力 を重視す る必要があ る

調達の場合は,技術点の 配分 を高 くす る こ と も可

能とすべ きで ある.か つ ,基礎点 ・加算点 の 具体

的 な評価基準や 配分の 考え方も明確にする必要が

あ る,

(3)情報 シ ス テ ム 調達 に係 る契約制度 の 見直 し

 情報 シ ス テ ム 調達で は,調達時に は想定して い

ない 仕様変更 に起因す る 追加作業発生等の リス ク

が 存在する.こ の実態 を踏 まえ,より実効性の あ

る 契約 となる よ うに,以下の 見直 しを検討すべ き

で ある.

  ・二 重 の ペ ナ ル テ ィー条項 の 是正,損害賠償の

  上限設定

  ・日本版バ イ ・ドール2ω

の 推進

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  ・仕様 変更 に 柔軟に対応 で きる予算制度

(4)民 間の 業務シ ス テ ム構築 に係 る知見 の活用

 調達の 改善効果を高め るため に,民間で 導入 さ

れて い る 業務モ デ リ ング手法や プ ロ ジ ェ ク ト管理

ツー

ル等の 開発手法や ツール を活用 し,IT ガ バ

ナン ス を強化 ・補完するこ とが有効 とい える,

(5)IT 人材の 育成 ・確保

 調達制度の 見直 し と と もに,発注者能力の 向

上 ・確 保 も必 要,既 に , 政府 CIO 組 織 や 府 省

PMO の 整備 が進 め られ て い るが ,プ ロ ジェ ク ト

の 成功 を確実 なもの にす るた め には,以下の 取組

み を徹底す る こ とが重要 で ある .

  ・政府 CIO 及 び ス タ ッ フ 組織 に よ る 強力 な

  リーダー

シ ッ プが発揮で きる よ うな環境 整備

  ・IT 調達 を担 当す る専 門官 の 育成 の ため の 人

  事育成制度 研修制 度の 充実

4.今後の発展に向けての 問題提起

 こ れまで の 我が国の 電子政府 関連の 施策は,十

分 な成果 をあげて きたとは い えな い .そ の 施策の

実効性を高め るため には ,さまざまな工夫が 必要

と考え られ るが,本節で は,と りわけ抜本的な取

組み が必要 とされ る課題 と して ,下の 3 点をと り

あげ,今後の 検討の 方向性 に つ い て の 私見 をまと

め る,

  ・国民本位 の ビ ジ ネ ス モ デ ル 改革

  ・行政機関向け 5 層 EA の 策定

 ・法制度の 「見 える化⊥ タク ソ ノ ミ

ーの標準化.

  共通手順 の 部品ライブラ リ化

4.1  ビジネス モ デル 改革

 現在 の 行政サービス は,そ もそ も主客転倒の 状

態にある (森田,2009).まずは,この 行政の ビジ

ネス モ デ ル を供給者中心 か ら顧客中心 へ ,つ ま り

「官座 して,民走 る」 as−isモ デ ル を,「民座 して,

官走 る」to−be モ デ ル へ 改革する こ とか ら始 め る

必要が ある.た とえば, 以 下 の よ うな問題 に注 目

する必要がある.

  ・現状で は,旅券や免許 申請 に必要 な本人の 戸

  籍抄本や住民票等に 関して ,国民 は,官か ら

目本の 電子政府政策の歩み と問題提起   gg

  官へ の 「運 び役」を強 い られ て い る.

  ・免許 ・資格証等の 携行 ・提示義務 を国民に負

  わせ て い るが,本来は,官が 自らの 情報シ ス

  テ ム へ の 照会処理に よ り確認すべ きもの で あ

    る.

  また,国民視点で の 行政サービ ス の 向上 と コ ス

ト抑制の 両立 をはか るため には,その 努力 を行政

側 に求め るだ けで は な く,セ ル フ サービ ス 化を徹

底 し, 行 政サービ ス に 関わる 窓口 要員や 士業 は,

特 に支援が必要な場合 を除 き,で きるだけ不要化

す る工夫 も必要 とされ る.不動産の 売買 ・相続 に

伴 う移転登記や ベ ン チ ャー起業の 商業登記,税務

申告等の 手続 きは,司法書士,税理士 ,弁護士 等

に頼 らず とも,当事者が オ ン ライ ン 申請等に よ り,

独力で,容易 に遂行で きるよ うにすべ きで ある,

  自動車運転免許 の 申請手続を例 に とり,こ の ビ

ジネス モ デ ル改革の イメー

ジを示すと,図 4−1の

よ うに なる.

馨鑽 靉

墜 痴 囓/’ 邏 懸

邂∫{簿鰺 ヒ 鳳

市町村

区役所

鋤團   輌覇k図 4−1  ビジネス モ デル 改革のイ メ ージ

  また,自動車の 運転に際 して は,運 転免許証を

携行 し,警察官の 求 め に応 じて 提示す る こ とが義

務付 け られ て い る が, こ れ も主客転倒 とい える.

本来は,警察官自らが デー

タ ベ ース を参照 し て ,

運転者の 免許情報を確 認す べ きもの で ある.

 運転者は,過去の 違反行為に よ っ て は,免許停

止等の 処分を受けて い る可能性が あるた め,免許

証 の提示 だけで はその 有効性が確認で きない ,こ

の ため,警察庁 には,運転免許情報を即時照会で

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100

きる 警察情報シ ス テ ム ・ネ ッ トワ ーク が整備され

て い て,現場の 警察官は,それ を利用 して ,運転

免許証の 有効性 を確認す る扱 い とな っ て い る,

  したが っ て ,こ の 免許証携行 ・提示義務 もさる

こ となが ら,そ もそ も免許証 の 発行 自体が 不要化

(カ ー ドレ ス 化)で きる もの で あ り,その コ ス ト

削減効果に も目を向ける必要がある.

 ちなみ に,2012年度の 運転免許統計2D

に よれ ば,

同年度の 運 転免許証の発行総数は,2.056万枚.ユ

枚の 原価が ,大手銀行の IC カー

ド再発行手数料

とほ ぼ 同額の 1000円 と仮 定す る とt その 総発行

コ ス トは 205億 6 千万円 に達する.

 政府機 関や 地方公共団体が発行す る免許証 ・資

格証 明書等は,他に も多数あ る.そ の うち,特 に

コ ス ト削減効 果が 大 きな もの を選 び 出 し,その

カー ドレ ス化 を実現で きれ ば,政府全体 と し て ,

多大 の コ ス ト削減 につ なが る可能性がある.

4.2 5層 EA と法律の 「見える化」

 電子政府の 推進 にあた っ て ,各府省の 業務 ・シ

ス テ ム は, そ の 費用対効果を高め ,資源の 効率的

な活用 を実現す るため に,EA2z}に基づ く続

・的

管理技法に よる最適化計画を策定した うえで ,整

備を進め る扱 い とされ て きた,

  しか し,こ の 最適化計画の対象となる業務 ・シ

ス テ ム は一

部 に限 られ る,しか も,本 来の EA の

主旨か らは,政府全体,ある い は各府省の 業務 ・

シ ス テ ム 全体 を,全体最適の観点か ら一つ の 体系

に整理 した うえで ,個 々 の 業務 ・シ ス テ ム の 整備

計画を位置づ ける必要が ある もの を,そ れ を省き,

個 々 の 業務 ・シス テ ム ご とに バ ラバ ラに最適化計

画を策定して し ま っ た経緯が ある.

 今後の 政府情報 シ ス テ ム の統合 ・集約化 や情報

連携 の 強化をはか る うえで は ,本来の EA の 主 旨

に沿 っ た全 体的観点か らの 最適化計画 の 策定を改

め て 検討す る 必要がある .た だ し,こ れ ま で の 最

適化計画 の 業務 ・シ ス テ ム 管理技法は, 民間の 企

業活動の EA を,ほぼそ の ま ま の 形で,政府業務

に適用 して きた こ とに も問題がある.

 また,情報 シ ス テ ム 整備 の 観点か らは,現行 の

法律体系は,行政手続 きの 規定 の 方法がまちまち,

かつ 用語が難解 ・不統一

で ,透明性にか ける と い

う問題点 もある,

(1)行 政 BPR 向けの 5 層 EA の 必要性

  EA の 最上 位層 に位 置す る業務体系 (BA ) は,

民 間企 業 の 場合 には,論理 ・物理 モ デ ル の い ずれ

も経営戦略 ヒの 可変オプ シ ョ ン (意思 決定 ヒの選

択肢) として扱 えるが,行政の 業務体系は,その

枠組みが法制度 に よ り規 定され て い る ため,裁量

の 余地が 少な く.民 間の BA と同じように扱 うこ

とに は無理があ る. こ の 点は,「融通 の 利か な い

お役所仕事」 の 根源 と もい える が ,法治国家と し

て ,行政の 裁量余地 が法制度 によ り制約 され るの

は 当然で あ り,行政 内部の 自律的な業務改善の 範

囲は限 られ る, したが っ て ,そ の 範囲を超 える よ

うな行政 改革や 業務改善に は,よ り上位の 政治主

導 に よる法制度改革が不可欠 と い え る.

  こ の 民間 と行政の 意思決定の ス コ ープ の 違 い を

考慮す る と,図 4−2 に示すよ うに,行政の EA で

は,法制度体系 とその 下位 に位置する業務体 系を

明示 的 に分 別 し.最一ヒ位に Jurisdictionの 層 を追

加 した,JA.  BA ,  DA ,  AA ,  TA か ら成 る 5層

構 造 とする こ とが現実的 と考え られ る.

口 甍間ピジネスの EA

遭聯    臥    講

図 4−2 行政サービス 向けの 5 層 EA

 行政 の BPR は ,こ の 5層 EA の もと で , JA (政

治主導)層と BA (行政主導)層 を分離 した うえで ,

それぞれの ス コ ープに対応 する ガ バ ナ ン ス 主体が

責任を持っ て あた る べ きで ある.

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(2)論理 要件 と物理 手順の 分別が不十分

 現状で は,行政手続 きの 具体的な手順 や書式 の

規定方法が,法律に よ りまちまちで,法律本体に

内包する もの と,別途施行規則等で 規定する もの

とが 混在 して い る.本来は,論理要件 は法律本体

で規 定 し,その 具体 的な手順や書式 に つ い て は,

別途施行規則等 に分離する形に して ,その 物理的

な実装方法は行政の 裁量範囲とし,技術革新等の

時代 の変化 に対応 し易 くする こ とが望 ましい .

(3)法律の 文章が 難解で用語 も不統 一

  政府の 業務は,法律 の専 門家や実務経験者で な

けれ ば内容が理解で きない もの が多い ,か つ, 用

語 や 判 断基 準が 行政 機関や 業務 に よ りまち まち

で ,行政手続等 における誤解や混乱が生 じやすい .

そ もそ も,法律が ,一

般 の 国民に とっ て は難解で,

士業に頼 らなければ的確 に解釈で きない もの で あ

る こ とに問題が ある,本来は,所定の業務分析能

力 を備 えた人材 で あれ ば その 意味を的確に理 解

で きる よ うにすべ きと い える.

  そ の 対応策の 一環 として ,すべ て の 法律 ・規則

に対 し,参考情 報 として,概念デー

タ モ デ ル を添

付 し,「見 える化 」する こ とが 考えられ る.併せ て,

用 語概念 の 体系化 (タ ク ソ ノ ミーの 整備)や基準

の 統一化をはか るこ と も必 要とされ る.

 そ うす る こ とで,政府情報シ ス テ ム の 開発 ・保

守 の 際の 要件定義の 正確性を高め ,また ベ ン ダー

ロ ッ クイ ン 問題の 回避に つ なが る可能性 もあ る.

4.3 共通手順等の共用体制整備の必要性

 政府の 情報シス テ ム 開発 にお い て は,本来で あ

れば,共通の 業務仕様 に集約 ・汎化で きる はず の

業務プ ロ セ ス を個 々 の 業務 シ ス テ ム ご とに開発 し

て きた こ とに よ る無駄 も指摘で きる.

 た とえば,本籍 現住所 t 氏名 , 性別,生年 月

凵等の 個人属性確認等,どの ような申請手続 にお

い て も共通 的に必要 とされ る基本的な本人属性の

確認要件に つ い て は,仕様の 共通化 を は か り,そ

の 処理プ ロ セ ス を共通 ライブラ リ化 し,政府全体

で共用す る体制を とる こ とに よ り,大幅な コ ス ト

削減を実現で きる可能性がある.

日本の 電子政府政策 の 歩み と問題 提起   101

一論理 ブ囗セ ス        寞装 部品

リポジ トリ       ライブラリ

図 4−3 共通手順等の 共用体制の イメ ージ

 図 4−3 は,そ の 仕組 み の イメ ージ を図示 した も

の で ある.

 こ の 共通 ライ ブ ラ リは,下記の 形で 整備 ・運 用

を進め る こ とが 考えられ る.

  政府 クラ ウ ド23)

に,申請業務の 論理モ デ ル と

  そ の 実装モ ジ ュール を格納する ため の 論理 プ

   ロ セ ス リポ ジ トリと実装部品 ライブ ラリ を整

  備する.

  論理 プ ロ セ ス リポ ジ トリに は,すべ て の 政府

   業務 シ ス テ ム の 申請処理 プ ロ セ ス 部分に対応

   する論理モ デ ル を集積する.そ の 集積結果 を

   もとに,全体的な汎化 モ デ ル を導出 し,集積

   した個 々 の 論理モ デ ル を,その 汎化モ デ ル に

  連な る専化モ デ ル (サ ブ ク ラ ス )の 形で 体系

  化する.

  実装部品ラ イブラ リは,当初は空 に してお き,

  現行 の 政府業務シ ス テ ム を新規開発,ある い

   は更新する際に,論理 プ ロ セ ス リポ ジ トリ内

   の 専化 モ デ ル に対応す る形で 新た に開発 した

   もの を序 々 に蓄積 して い くもの とす る、

  政府業務 シス テ ム の新規 ・更新開発 にお い て

   は,その 申請処理 プ ロ セ ス の 設計 に あた り,

   まず は論理 プロ セ ス リポジ トリを参照 し,該

   当す る専化モ デ ル を探す.該 当する もの が な

   けれ ば,新 たな専化モ デ ル を開発 し,リ ポ ジ

   トリに追加する.該当 の 専化 モ デ ル が存在す

   る場合に は,実装部品ラ イブ ラ リか らそれ に

  対応する 実装モ ジ ュール を探 して

, 再利用 す

   る.

  専化 モ デ ル に対応する適当な言語環境の 実装

  モ ジ ュール が存在 しな い 場合 には,その 言語

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102

  環境 の 実装 モ ジ ュール を,所定の モ ジ ュ

ール

   部品化規約 に した が っ て 開発 し,その 成果物

   をライブ ラ リに追加 ・登録す る.

  業務シ ス テ ム 本体の 設計開発 に あた っ て は ,

  申請処理 プ ロ セ ス 部分 を内包化せ ずに,外部

   プ ロ セ ス 化する.その 外部プ ロ セ ス の 利用方

  式 に つ い て は,実装部品ラ イブラ リか ら該当

  モ ジ ュール をあ らか じめ ロ

ーカ ル環境に ダウ

   ン ロ ー ドして お い て 実行する 方式 と,政府 ク

   ラ ウ ドが提供す る ネ ッ トワー

ク経 由 の SOA

  サ ービス の 形で 利用する 方式 の 二 通 りを用意

   し,業務シ ス テ ム の 都合によ り使 い 分ける よ

  うにす る.

5.お わ りに

 2001年の e−Japan戦略か ら今 日の IT 国家創 造

宣言に至 る まで , こ れまで の 我が国 IT 戦略の 変

遷 を辿 っ てみ る と,重点分野や具体的な戦略 目標

の 組換えが しば しば行わ れ て い て ,.一

貫性 に欠け

る面が ある,また,新旧の IT 戦略間で の ,個 々

の 戦略 目標等の 優先度,事項 の 追加 ・変更 ・削除

の 対応関係が明確に 示 されて い ない ため t 事項 に

よ っ て は, そ の 施策とし て の 継続性が 判然 と しな

い とい う問題 もある.

 電 子政 府評価 委員 会等の 評価 結果 に つ い て は,

オ ン ラ イ ン利用率の ように徐々 に成果が上が っ て

きて い る もの もあるが ,一

方で,国民に 利便性の

実感がな い ,調達改善が進 んで い ない ,とっ た本

質的な問題点が 解決 され て い ない こ とが 。繰 り返

し指摘 され て い る.

  しか し,2013 年度 に は,IT 国家創 造宣言の 閣

議 決定 と前後 して ,政府 CIO 体 制が制度化 され

た.また ,い わ ゆ る マ イナ ン バ ー法案も成立 し,

2016 年 1 月か らそ の 本格運用 が 開始 され る こ と

とな り,その 業務シ ス テ ム 開発 プ ロ ジェ ク トも動

き出した と こ ろ で ある,

 こ の 新 た な政府 CIO 体制発足後 1 年間の 動向

か らは,まだ大 きな前進の 姿が読み 取れ ない が,

こ れまで の 電子政府政策を推進す る うえで の 隘路

とされて い た 2 つ の 懸案事項が解消 される こ と で

もあ り,・・刻 も早く, 具体的な成果が 国民に も実

感 され る状況 となる こ とを期待 したい とこ ろで あ

る,

1)第 2 回 IT 戦略会議 (2000年 8 月 30 日 )「IT 国家戦略

  の 基 本的 な考 え方」議長出 井伸之

2)第 3 回 IT 戦略会議 〔2000年 9 月 20 日)「電了政府の

  実現 に向けて 」

3)1T 戦 略 本部(2008年 6月 ll 囗)「IT 政 策 ロ ードマ ッ プ」

4)IT 戦 略 本部 (2009年 7月 6 日)「i−Japan戦略 2015」5)IT 戦 略 本 部 (2010年 5 月 11 日)「新 た な情 報 通 信技

  術戦略」

6)第 1 回 電 子 行政 に 関 す る タ ス ク フ ォース (2010 年 9 月

  15日)「検 討 課題 説 明 資料 」

7〕IT 戦 略 本 部 (2013 年 6 月 14 凵) 「世 界 最 先 端 IT 国家

  創造 宣 言」

8)評価専門 調査 会 (2005 年 12 月 8 日)「評価専 門調査 会

  報告書 の 概要」

9)電 了一政 府 評 仙 委員会 (2007年) 「平成 18年度 報 告 書 」

10>電 子 政 府評価委員会 (2008年 3 月 19日)「平 成 19年  度報告書」

11)電 了政 府 評 価 委員会 (2DO9年 3 月 23 日)「平 成 20年  度 報告書」

12)各府省情報統括責任者 (CIO)連絡会議 (2007年 3月

  1 日)「情 報 シ ス テ ム の 調 達 に係 る 政 府 調 達 の 基 本 指針 」

13)政府 の 情報 シ ス テ ム 調 達 に 関 わ る 調 達 仕様書や 入 札 結

  果 を登 録 し,公 開 して い る デー

タ ベ ース (総務 省行 政

  管 理 局 が 運 営 )

14)落札率 : 調 達予定額に対する実際の 落札 額の 比率

15)一般社団 法人 電 子 情報技術産業協会 (JE工TA }

16)一般社団法人 情報サービ ス 産業協会 (JISA)17)JEITA,  J工SA (2012年 ll月 20 目 )「政 府情報 シ ス テ

  ム 調達 に関す る要望」

18)最低価格落札方式 : 最も価格が 低 い 応札者 を 落札者 と

  する 方式

19)総 合 評 価 落 札 方 式 ;技 術 評 価 と価格 との 総 合 評 価 に よ

  り落札.者を 決 定す る 方式

20)政 府 調 達 の 成 果 物 に対 す る知 的 則.産権 をそ の 調 達 先 の

  事業 者 に も帰属 を 認 め る 制 度

21)警察庁交通 局 運 転 免許課 「運 転免許統計平 成 24年度版」

22)EA :Enterprise Architectureの 略

23)各府省 の 業務 シス テ ム の 運用集約をは か る ための 受け

  皿 と して 整備 され て い る 現行政府共通 プ ラ ッ トフ ォー

  ム の 将来拡張版

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日本の 電 子政 府政 策の歩み と問麺提起   103

参考文献

小 畑智大 (2012)「会 計検 査 結 果 に み る府 省 等 の 情 報 シス

  テ ム 調達 に おけ る課題」『2012年秋季 全 国研究発表大

  会要旨』経営情報学会.

政府 CIO (2013)『情報通信技術関係施策 に 関す る平 成 26

  年度戦 略 的 予算重 点方針 』.

電 子 情 報 技 術 産 業 協 会 (2013)『政 府情報 シ ス テ ム 調 達の

  改善 に関す る検討報告書』,

森田勝弘 (2009)「官 の 登録情報利用 における 「情報連鎖』

  の 改革」「2009 年春季全 国研 究発表大会要旨』経営情

  報学 会.

IT 戦略会議 (2000)「IT 基本戦略』.

IT 戦略本部 (2001)「e−Japan戦略』.

IT 戦略本部 (2003)「e−Japan戦略 H』,

IT 戦略本部 (2006)『IT 新改革戦略』,

IT 戦略本部 (2009)『i−Japan戦略 2015』.

IT 戦略本部 (2010)『新 た な情報通 信技術戦略』.

IT 戦略本部 (2011)『新 た な オ ン ラ イ ン 利用 に 関す る計

  画工.

IT 戦略本部 (2011>『電 子行政 推進 に関す る基 本方針』.

IT 戦 略 本 部 ・行 革 本 部 (2012)『政 府 情 報 シ ス テ ム 刷 新 に

  当 た っ て の 基 本 的考 え方 』.

IT 戦略本部 (2013)『世界最先端 IT 国家創造宣言』.

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