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図1 米ポリオール液化バインダーの外観
水田由来及び現場発生バイオマスによる環境適合型・農業農村整備工法
-バイオマス液化物をバインダー等とした舗装材・シーリング材等の開発-
株式会社三牧建設工業 三牧 哲雄
1.はじめに
現在の化石燃料等の資源に立脚するエネルギー消費型の社会では、自然の物質循環や浄
化能を超え、地球規模で環境問題を深刻化させている。資源に乏しい我が国の産業は、こ
れら化石資源の輸入に依存しているが、再生可能な生物由来の資源を活用した産業を発展
させる必要性がある。
その中で、太陽エネルギーと生物の光合成を利用して資源を生産できる農業において、
作物生産性を高めることなどに貢献する農業農村整備事業の役割は大きい。農業生産基盤
や農村環境を整備する農業農村整備事業においても、資源循環に根ざしたバイオマス資材
等の利用することが求められている。
本研究開発事業では、我が国及び当該地域を代表する持続的な農業生産形態である水田
における米作りを通じて、米やモミガラ、ワラなどのバイオマスを用いた新たな化学合成
技術による材料を活用した建設資材への利活用技術の開発を行なう。
これにより、①化石資源をバイオマス資源で代替することによる地球温暖化の防止に貢
献すること、②水田や地域発生バイオマスを原料にすることで農業地域への経済効果を期
待するとともに、耕作放棄水田などの有効利用に寄与し農業・農村の活性化は図ること、に
資するものである。
2.技術概要
(1) 米ポリオール液化バインダー
建設資材の多くには樹脂・接着剤等の化学合成のバインダーが広く用いられている。昔
の技術には、有機物由来のバインダーはあったものの機能面で劣るため、化学合成製品に
置き換わってしまった。しかし、 近の溶媒技術の技術により有機物由来の液化バインダ
ーの製造技術が進展してきた。今回取り上げる、米ポリオール液化バインダー(以下、米
バインダーと記す)は、有機物の糖類をポリオールで液化し、MDI系イソシアネートと
室温(24℃)で混合して、液化して粘度のある液体樹脂を生成するものである。今回使用
した、米バインダーは、 も硬度の
高い樹脂が得られた米ポリオールと
MDI系イソシアネートの比が 1:1
のもので、この比率が も妥当な混
合比率であった。
なお、バインダーのバイオマス液
化物の原料には、木や稲藁・雑草な
どの有機物を用いることもできる
が、液化のしやすさから現段階では
米(精米)を原料としている。
2-3
表1 米バインダー等を活用した環境配慮建設資材の代表技術の概要
表2 米バインダーとモミガラ混合時の素材の変化
(2) 米ポリオール液化バインダーの環境配慮資材などへの利活用技術
本研究では、米バインダー等を活用して水田由来バイオマス「モミガラ」や現場発生の
バイオマスなどを有効に活用して農業農村整備事業へ適用できる技術や農業技術への利
活用法を開発する(表1)。
3.技術概要
(1) モミガラ舗装・モミガラ断熱材
米バインダーとモミガラを混合してモミガラを骨材とするモミガラ舗装(現場舗装工
法)とタイル状のモミガラ断熱材(工場製造)を開発して、土木や建設工事などへ適用性
を検討し、資材等の特徴を整理するとともに施工マニュアルを提案した。
モミガラを固化して舗装等を行う時の固化特性については、モミガラと砂を 1:9 で混合
した骨材に、米ポリオール 7.5 を加え攪拌し、次いで、MDI系イソシアネートを 7.5 加
え攪拌(米バインダー)した(表2)。骨材と米バインダーを混合した後の固化等の反応を
見ると、混合後 5 分頃から発熱が始まり固化がはじまってきた。10 分で固化が進み機械等
への付着から攪拌などの作業は徐々に難しくなり、15 分経過で攪拌ができなくなる。ただ
し、型枠等への押しつけ作業は可能であり、施工時間に合わせ資材の使い方の整理が必要
であった。
米バインダーとモミガラを用いたモミガラ舗装は、①ミキサーにより骨材等を攪拌して
直ちに施工する「現場施工型」と②「籾殻タイル型(工場製作)」によるはめ込み施工が
想定される(図2)。いずれの工法にするかは、施工時期や工期、面積などを勘案して検
討するが、現場施工型は大面積の施工を想定した工法である。
項 目 新技術
(米バインダー活用) 従来技術
舗装・建材 モミガラ舗装・モミガラタイル コンクリート舗装・インターロ
ッキング
法面保護 米バインダー複合材料シート ポリエチレンシート
農業施設部材 米原料の目地材 合成樹脂類
経過時間
(分) 攪拌 押さえ 発熱 容器付着
5 容易 容易 発熱始まり 付着少
10 可能 容易 発熱あり 付着やや多
15 困難 容易 発熱あり 付着多
2-4
図2 モミガラ舗装の施工状況
図3 モミガラ舗装のための施工マニュアル
2-5
図5 米バインダー複合材料シートの分解状況(左:生分解タイプ、右:非分解タイプ)
(2) 米バインダー複合材料シート
米バインダー等を用いたコメ複合材料をシート化したマルチシートによる、排水路や道
路の法面などにおける雑草抑制、及び法面被覆等を行う場合の利活用法を検討した。シー
トは無着色の生分解しない製品を用いた(図4)。施工性は、従来のポリエチレンシートと
同様であった。施工後、1か月程度ではシートの被膜性は強く、破断・破砕は認められず、
7か月後も状況が保持された。結果として、本シートは雑草を非覆面下に抑えることはで
き、土木工事時などで法面の保護が必要な時に適用できる材料であることが確認できた。
一方で、従来のビニールシート類は撤去に手間がかかり、その処理に莫大な費用と労力
が掛かったことから、これらを解決す
る生分解性タイプのシートを使用して
検討して撤去に相当する分解特性を評
価した。
生分解性タイプのシートも十分に被
覆性がありマルチシートとして使用で
きる。特徴としては、撤去が必要な時
に、生分解性を付与する添加剤を噴霧
することでシートの分解を促進できる
ことである。条件によっては3ヵ月程
度で分解させることが可能であった
(図5)。
図4 米バインダー複合材料シートの法面保護状況
2-6
表3 米原料の目地材素材特性と耐久性
(3) 米原料の目地材
米とポリオレフィンを複合化して化学発泡剤を
用い加圧発泡により板状にした目地板を開発し、
従来の石油由来目地板と同等の施工性を持つこと
を確認した。
目地材は、土木建築用に使われるコンクリート
構造物のロット間にクラック防止材、もしくはト
ラフ等の設置固定緩衝材として使われる。従来製
品は、熱や荷重によるはみ出しがあった。一方、
米原料の目地材については、従来品より適合性で
優れている面が見出された(表3)。
(コンクリート打設時にロット間の収縮膨張の緩衝材)
図7 目地板の概要と農業用排水路での使用例
4.まとめ
我が国の水田の半分近くは水田として利用されずに畑作物が生産されている。一
方で、本研究で検討した米を原料にした各種製品は、新たな米の需要を作り出す契
機であるとともに、輸入資源に頼らない工業用原料の生産の可能性を示している。
これら製品の利用技術は、その生産地である農地を整備する農業農村整備などの公共
事業において、積極的な利用を図ることが必要と考えられる。
なお、本研究は、農村振興局産官学連携事業を活用した研究課題名「水田由来及び現場
発生バイオマスによる環境適合型・農業農村整備工法-バイオマス液化物をバインダー等
とした舗装材・シーリング材等の開発-」によるものである関係各位に深く謝意を表す。
項目 結果 判定
作 業 性 ポリエチレン製と同程度の重さであり、運搬
時あるいは切断時の加工も容易であった。 ○
弾 性 ゴムに似た弾性があり、コンクリートの膨
張・収縮に対しなじみが良かった。 ○
耐 久 性 6 カ月経過時でも問題は生じていない。 -
へたり・はみだし 圧縮に対するはみ出しやへたりはなかった。 ○
耐 寒 性 冬季の施工においても柔軟性を保っていた。 ○
図6 米複合材料の目地材
2-7
(研究成果報告書 補足説明資料)
2.(1)米ポリオール液化バインダー
1:1 の配合で硬度の高い発泡体が得られた。
3.(1)モミガラ舗装・モミガラ断熱材
断熱材試作品
3.(2)米バインダー複合材料シート
従来のポリエチレンシートとほぼ同等の物性を持っている。
米バインダー複合材料シートの物性
2-8
2-11
2-12
(5)軟弱地盤改良用ドレーン
コメ複合材料を中空に押出した中間素材とする軟弱地盤改良用ドレーンを開発した。
従来の石油由来ドレーンと同等の性能と施工性を持つことを確認した。合わせて、生分解
タイプなどの開発を行った。
2-13
(6) バイオマス液化燃料
コメ、稲藁、雑草、現場支障木を液化することによる液体燃料を開発した。
軽油、重油等の代替燃料として、ボイラーや建設機器に使用できることが分かった。
稲藁の液化 コメ液化物の燃焼
コメ液化物の燃焼試験 分析結果
2-14
(7)現場発生バイオマスへの価値の付与
現場発生バイオマスをパケット単位に、バイオマスの利用にインセンティブを付与するた
め、バイオマス由来成分による「二酸化炭素の排出削減量」を「排出権」として載せ、
併せてトレーサビリティを持たせる、いわば地球温暖化支援システムを開発した。
2-15
2-16