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Graduate School of Policy and Management, Doshisha University 179 あらまし 筆者は、岡山市を中心に、都市近郊の里地里 山における身近な自然環境の保全活動及び、そ のような環境に生息・生育する野生生物の保全 を巡る問題に、環境保全行政担当の市職員及び、 市民として約20年間関わってきた。2008(平成 20)年、生物多様性基本法が成立するなど、筆 者が関与する保全活動も、生物多様性保全政策 の一つとして見直し、保全活動そのものの社会 的役割や方策の再検討が必要になっている。本 稿は、まず、生物多様性保全を巡る国の政策の 推移をまとめ、その多面的な広がりを整理した。 つづいて、生物多様性保全政策の中でも多く行 われている希少野生生物種の保全の事例とし て、筆者が関わっている岡山市における希少淡 水魚保全活動及び市の政策の推移を整理し、都 市及び里地里山地域など人間の活動が盛んな地 域では、生態学的課題だけでなく、社会的課題 への配慮の重要性が増している政策の現状を示 したものである。 ₁.はじめに 生物多様性の保全は、近年、絶滅のおそれの ある種の増加や、熱帯雨林伐採による大規模な 生態系変容などの問題として世界的な関心を集 め、生物多様性条約を始め様々な国際条約が発 効している。日本では、自然保護活動・施策と して、良好な自然景観や学術上貴重な生物種の 保存、鳥獣や森林資源の保護管理が行われてき たが、特定の地域や生物種を対象にした保護活 動・施策では対応不能であるため、生物の多様 性 に 関 す る 条 約(Convention on Biological Diversity 以下、生物多様性条約と呼ぶ。)の発 効を契機に、生物多様性保全国家戦略が策定さ れ、様々な取り組みが行われ、 2008 (平成20)年、 生物多様性基本法が制定された。 このように、国際機関や、国では政策の枠組 みづくりや調査、施策が先進的に進められてい るが、地域レベルでは、先進的な取り組みがあ る一方で、十分に政策として受け止められてい ない。特に都市や里地里山など人間の活動が盛 んな地域では、生態学的課題とともに社会的側 面から多くの課題を抱えている。 本稿では、国の生物多様性保全の政策動向に ついて概観した上で、地域での生物多様性政策 展開の課題について筆者が関与した岡山市の希 少淡水魚保全の事例において明らかにした。 ₂.生物多様性とは 「生物多様性(biodiversity)」 1 という用語は、 1980年代にアメリカで生まれた造語といわれて いる。(谷津ほか, 2008, p.4生物多様性条約では、「生物の多様性」を、「す べての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生 態系、これらが複合した生態系その他生息又は 生物多様性保全政策の動向と課題 ―岡山市における希少淡水魚保全政策を事例として― 延  1 環境省EICネットでは、生物多様性を「もとは一つの細胞から出発したといわれる生物が進化し、今日では様々な姿・形、生活 様式をみせている。このような生物の間にみられる変異性を総合的に指す概念であり、現在の生物がみせる空間的な広がりや 変化のみならず、生命の進化・絶滅という時間軸上のダイナミックな変化を包含する幅広い概念。」と説明している。(環境省 EICネットhttp://www.eic.or.jp/ 200812日閲覧)

生物多様性保全政策の動向と課題 · 生物多様性条約では、「生物の多様性」を、「す べての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生

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Graduate School of Policy and Management, Doshisha University 179

あらまし

 筆者は、岡山市を中心に、都市近郊の里地里山における身近な自然環境の保全活動及び、そのような環境に生息・生育する野生生物の保全を巡る問題に、環境保全行政担当の市職員及び、市民として約20年間関わってきた。2008(平成20)年、生物多様性基本法が成立するなど、筆者が関与する保全活動も、生物多様性保全政策の一つとして見直し、保全活動そのものの社会的役割や方策の再検討が必要になっている。本稿は、まず、生物多様性保全を巡る国の政策の推移をまとめ、その多面的な広がりを整理した。つづいて、生物多様性保全政策の中でも多く行われている希少野生生物種の保全の事例として、筆者が関わっている岡山市における希少淡水魚保全活動及び市の政策の推移を整理し、都市及び里地里山地域など人間の活動が盛んな地域では、生態学的課題だけでなく、社会的課題への配慮の重要性が増している政策の現状を示したものである。

₁.はじめに

 生物多様性の保全は、近年、絶滅のおそれのある種の増加や、熱帯雨林伐採による大規模な生態系変容などの問題として世界的な関心を集め、生物多様性条約を始め様々な国際条約が発効している。日本では、自然保護活動・施策と

して、良好な自然景観や学術上貴重な生物種の保存、鳥獣や森林資源の保護管理が行われてきたが、特定の地域や生物種を対象にした保護活動・施策では対応不能であるため、生物の多様性 に 関 す る 条 約(Convention on Biological

Diversity 以下、生物多様性条約と呼ぶ。)の発効を契機に、生物多様性保全国家戦略が策定され、様々な取り組みが行われ、2008(平成20)年、生物多様性基本法が制定された。 このように、国際機関や、国では政策の枠組みづくりや調査、施策が先進的に進められているが、地域レベルでは、先進的な取り組みがある一方で、十分に政策として受け止められていない。特に都市や里地里山など人間の活動が盛んな地域では、生態学的課題とともに社会的側面から多くの課題を抱えている。 本稿では、国の生物多様性保全の政策動向について概観した上で、地域での生物多様性政策展開の課題について筆者が関与した岡山市の希少淡水魚保全の事例において明らかにした。 

₂.生物多様性とは

 「生物多様性(biodiversity)」1という用語は、1980年代にアメリカで生まれた造語といわれている。(谷津ほか, 2008, p.4) 生物多様性条約では、「生物の多様性」を、「すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は

生物多様性保全政策の動向と課題―岡山市における希少淡水魚保全政策を事例として―

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1 環境省EICネットでは、生物多様性を「もとは一つの細胞から出発したといわれる生物が進化し、今日では様々な姿・形、生活様式をみせている。このような生物の間にみられる変異性を総合的に指す概念であり、現在の生物がみせる空間的な広がりや変化のみならず、生命の進化・絶滅という時間軸上のダイナミックな変化を包含する幅広い概念。」と説明している。(環境省EICネットhttp://www.eic.or.jp/ 2008年3月12日閲覧)

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生育の場のいかんを問わない。)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む。」と定義している2。また、生物多様性基本法では、「生物の多様性」を「様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在すること」と定義している3。つまり、生態系、種間(種)、種内(遺伝子)の3つのレベルの多様性を含んでいる。  「生物多様性」が、政策的な課題にあがる背景には、地球規模の環境破壊とその人間社会への影響が明らかになったことがある。森林の減少や海洋汚染、絶滅の危機に瀕した野生生物の急増など将来の持続可能性に対して危機意識が生まれたことにより、単に生物学・生態学的な学術的な関心からだけでなく、社会的、政治的な課題としての関心が高まっている。保全生態学者の鷲谷いづみは、「生物多様性」を「私たち人間と自然との間の本来は豊かな、そしてダイナミックで複雑な関係の現状を見直し、将来のよりよい関係を築くために欠かすことのできない社会的なキーワード」(鷲谷・鬼頭, 2007, p

4)と定義している。 「生物多様性」は、人間の持続可能な生存に欠かせないものであるとの認識のもとに、「生物多様性の保全」を今日的な課題として、体系的な政策として具体化し実現する必要性が緊急に求められている。

₃.生物多様性政策の歩み4

₃.₁ 自然保護政策のはじまり

 前述のとおり、「生物多様性の保全」という言葉が使われたのは、ここ25年ほどである。それ以前は、主に自然保護や資源管理の問題として取り扱われ、その問題解決のための保全活動や政策は、18世紀の産業革命以降、欧米諸国から積み上げられてきた。 日本では、約2500年前に低湿地を人為的に改変して水田耕作が開始されて以降5、幾多の自然

改変を繰り返してきた結果、山林荒廃、河川氾濫を招き、その対処として、江戸時代には、治山治水の重要性が説かれた。その後、明治期の殖産興業による鉱山開発、工業化、山林や鳥獣など自然資源の利用増大により、人為的な鉱害や山林荒廃が各地で顕在化したため、鳥獣保護、治山対策、鉱害対策が行われ、その後、学術的に貴重な自然資源を守るための天然記念物制度、日本における優れた自然景観を保持するための国立公園制度が生まれたが、第二次世界大戦により、それらの政策は中断した。 第二次世界大戦後、戦前からの天然記念物保護、優れた景勝地の保全、狩猟鳥獣の管理という観点から、1950(昭和25)年に文化財保護法、1957(昭和32)年に、自然公園法が制定され、1963(昭和38)年に戦前の狩猟法が大幅改正され、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律が制定された。 しかしながら、昭和30 ~ 40年代の高度経済成長期には、コンビナート造成に伴う海岸部の大規模埋立てやダムの建設、レジャー開発による山岳景勝地開発などが急速に大規模に行われ、公害反対運動、自然保護が社会問題化し、1971(昭和46)年に環境庁が発足した。 

₃.₂ 環境庁の誕生と自然環境保全法

 環境庁発足とともに自然環境保全法の制定が開始された。これは、自然資源に関する法律を一元化するとともに、自然環境の保護を強化しようとするもので、アメリカ合衆国の原生自然法がそのモデルであった。しかしながら、農林省、建設省の猛反対にあい、自然公園法は残し、保安林や都市緑地に関する権限を各省庁に委ねるなど大幅に権限縮小した制度として、1972(昭和47)年、自然環境保全法が制定された。(畠山,

2004, p.233)この法律の施行を受け、自然環境保全基本方針が1973(昭和48)年に閣議決定された。 自然環境基本方針では、「当面の政策としては、国土に存在する貴重な植生、野生動物、地形地質等のかけがえのない自然やすぐれた自然

2 生物の多様性に関する条約(平成5,12,21条約9)第2条 3 生物多様性基本法(平成20. 6, 6法律第58号)第2条 4 3章の概要を表1で年表にまとめた。 5 現在、最古の水田址といわれているのは、約2500年前の岡山市津島江道遺跡。近くの朝寝鼻遺跡からは、約6400年前の稲のプ

ラントオパールが出土されているので、さらに古い時代から稲作は行われていたと考えられている。

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は、近い将来に起こるべき事態を考慮に入れ、また、十分な面積にわたっての保全を図るとともに、太陽エネルギーの合理的な利用が可能である農林水産業に関しては、それが有する環境保全の役割を高く評価し、健全な育成を図る必要がある。都市地域においては、健康な人間生活を保障するに足る自然環境が巧妙に確保されなければならない。」6とされ、原生自然だけでなく、農林水産業、都市も対象とされ関係制度の総合的な運用が目指された。しかしながら、当面の方針として環境庁が扱う自然は、すぐれた天然林が相当部分を占める森林や、動植物を含む自然環境がすぐれた状態を維持している海岸、湖沼又は河川、植物の自生地、野生動物の生息地などで一定程度の広がりのある「すぐれた自然」が優先されることとされた7。このことで人の手の加わっていない地域の生態系や野生動植物の保護が行われる一方で、農林水産業や都市計画区域など人間活動が行われる地域は、環境庁所管とは切り離され、今日危機が叫ばれている里地里山などの身近な自然における野生動植物の保護などは、結果後回しになった。 また、この時点では、絶滅のおそれのある野生動植物の保護は、文化財保護法による天然記念物制度によるところが大きかったが、上記に掲げるように、自然環境保全が総合的と言いつつ、農林水産業の行為地や都市を別扱いしたため、例えば、干拓により生息地が失われた岡山県笠岡湾のカブトガニ生息地のように、農地造成や工業用地化の進む地域を生息地とする天然記念物の保護は困難であった8。 

₃.₃ 条約締結と国内法の整備

 日本の生物多様性保全政策は、急速に進む開発に対して自然保護を希求する地域住民や学識者の声とともに、生物多様性保全に関する多国間条約、国際条約の批准により政策遂行や国内法制を整えてきた。日本の条約批准、国内法整備は必ずしもスムーズに進められた訳ではなかった。ここで、日本が締結した条約とその後

の国内法の整備状況についてまとめる。 1960年代後半から、国際社会の課題として環境問題への関心が高まった。経済成長の負の側面として公害、自然破壊が注目を集め1972(昭和47)年には環境に関する初めての国際会議、国連人間環境会議がストックホルムで開催された。 生物多様性保全に関する条約も同時期に作成が始められ、まず、渡り鳥の保護を目的とした二国間条約などが作成された。日本も、1972(昭和47)年に日米渡り鳥条約に署名し、その実施のため、同年「特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律」を制定している。 国際条約としては、種の保護でなく生態系の保全を視野に入れて湿地を保全する目的で、1971(昭和46)年に、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(ラムサール条約)」が作成された。また、国際間の包括的な野生動植物の保全の取組へと国際政策を拡大するため、1973(昭和48)年に、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」が採択され1975(昭和50)年に発効した。 これら条約の発効に併せて、1970年代に、アメリカ合衆国では「絶滅のおそれのある種に関する法(1973(昭和48)年)」が制定されるなど生物多様性保全に関する法整備が進められた。しかし、日本では、環境庁が発足したばかりで公害対策が最重点課題であり、これら条約の批准及び、国内法整備は、産業公害対策が一段落する1980年代まで持ち越されてしまった。 日本が、ラムサール条約、ワシントン条約に署名したのは、1980(昭和55)年である。そして、この条約履行のための国内法「絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡の規制等に関する法律」は、7年後の1987(昭和62)年に制定された。ラムサール条約に関しては、国内法は作られることなく個別法で対応してきた。このような条約遂行の取り組みの遅延は、日本の野生生物保護法制の不備を国際社会に知らせることとなった。 そのため、1992(平成4)年、ワシントン条

6 「自然環境保全基本方針」昭和48年11月6日総理府告示30号 7 同上 8 本生息地の最初の天然記念物指定地生江浜の指定は、1928(昭和3)年。1966(昭和41)年に笠岡湾干拓が開始され、指定地

の干拓が行われたため、1971(昭和46)年に、神島水道を追加指定。しかし、生息数は激減する。1990(平成2)年に干拓が完成し、1994(平成6)年に生江浜の天然記念物指定は解除された。

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約締約国会議の京都開催、環境と開発のための国際連合会議(地球サミット)への参加に合わせて、野生生物の保護のための法律の整備が進められ、アメリカ合衆国の絶滅のおそれのある種に関する法を参考にして、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(以下、種の保存法と呼ぶ。)」が制定された。(畠山,

2004, p. 8)種の保存法では、ワシントン条約、二国間渡り鳥条約に掲載された希少野生動植物の国際間の取り扱いと、環境省のレッドリスト9

で絶滅危惧Ⅰ類、Ⅱ類(及び野生絶滅)に記載された種のうち、保全上緊急性の高い国内の希少野生動植物の保護対策が規定された。これにより、絶滅のおそれのある野生動植物種の保存という観点で、生物多様性保全対策が政策として行えるようになったが、指定された種はわずかであった。 日本で、種の保存法が指定された1992(平成4)年には、環境と開発のための国際連合会議で「生物多様性条約」が採択された。日本はすぐに署名批准し、条約は1993(平成5)年に発効した。2008年7月末現在191 ヵ国が締結している。生物多様性条約は、①遺伝子、種、生態系を含む生物の多様性の保全、②生物多様性の構成要素の持続可能な利用、③遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分を目的とした条約である。 生物多様性条約は、ワシントン条約以降の動向をもとに、より包括的な生物多様性保全を条約にしたものであるため、日本国内では制定されたばかりの種の保存法の政策実施と併せて、生物多様性国家戦略の策定や関係法令の制定・改正をもとに、総合的な生物多様性保全に向けた政策が進められてきた。

₃.₄ 生物多様性国家戦略

 1993年の環境基本法の制定及び、生物多様性条約の発効を受け、政府は、生物多様性に関す

る政策「生物多様性国家戦略」を策定している。これは、生物多様性保全に関する事柄が、環境庁(現環境省)所管以外の多岐な分野、また、地方自治体や企業、市民を含む様々な活動に関連するため、政府全体として戦略を示す必要が認められたからである。2009年現在、二度の見直しが行われ、第三次国家戦略が策定されている。 第一次国家戦略は、条約発効後すぐに策定が進められ1995(平成7)年10月に決定された。この戦略は、「生物多様性の現状」、「生物多様性の保全と持続可能な利用のための基本方針」、

「施策の展開」、および「戦略の効果的実施」の4部で構成され、保護地域及び二次的自然を含めた生息域内での保全と、動物園等の生息域外での保全の基本方針、農林水産業や観光、バイオテクノロジー等での持続可能な利用、調査、研究、制度の現状と課題、今後の方向性について網羅的にまとめられた。本戦略は、条約発効後2年の短期間で、生物多様性をキーワードに各省庁が連携してまとめられたが、後の戦略と比較してみると、現状分析が不足し、施策は並列で具体性に欠ける内容も多い。 第一次国家戦略策定以降、公共事業のあり方を問う様々な批判10とも相まって、1997(平成9)年に河川法、1999(平成11)年に海岸法、2000(平成12)年に港湾法、2001(平成13)年に土地改良法がそれぞれ改正され、公共事業における環境への配慮が明記された。1997(平成9)年には環境影響評価法も制定された。また、1999(平成11)年の食料・農業・農村基本法、2001(平成13)年の森林・林業基本法の制定により農業、森林の多面的機能の発揮が位置づけられるなど、事業官庁でも生物多様性保全対策が事業化しやすくなる法整備が行われた。 2001(平成13)年の環境省発足後、2002(平成14)年3月に新・生物多様性国家戦略が決定された。新戦略は、「3つの危機」、「3つの方向」、

「7つの主要テーマ」などを体系的に整理し、施策の対象を原生自然や貴重種に限らず、里地

9 専門家による検討を踏まえ、野生生物の絶滅の危険性を評価し選定された絶滅のおそれのある種のリスト。そのリストを編集製本したものがレッドデータブックである。国レベルでは、環境庁が、種の保存法の制定に併せて、平成3(1991)年に初めて、レッドリストを作成した。その後、平成7(1995)年~、平成14(2002)年~の二度見直しが行われ、平成19年11月現在、計4,827

種の野生生物がこのリストに記載されている。10 1995(平成7)年長良川河口堰の運用開始。この堰を巡る動きをはじめ、大型公共工事を見直す動きがあり、建設省は、同年

建設省公共事業の再点検を実施。1996(平成8)年 建設省河川審議会「社会経済の変化を踏まえた今後の河川整備のあり方について」答申。河川法改正へつながる。

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里山、都市地域などを含む国土全体へ拡大することを明確化し、残された自然の保全だけでなく、自然再生を提案している。また、中央省庁レベルではあるが里地里山保全や自然再生における各省連携の強化、法律改正やモデル事業などの具体的提案などが掲げられた。 新・戦略決定により、2002(平成14)年に自然再生推進法の制定、自然公園法の改正、鳥獣保護法の鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律への全面改正、2003(平成15)年に遺伝子組替え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律の制定、2004(平成16)年に外来生物法の制定、2006(平成18)年に鳥獣保護法改正が行われるなど生物多様性保全に関する関係法の整備が更に進められた。また、釧路湿原や佐渡など各地で自然再生事業が実施されるとともに、里地里山保全活動・施策が進んだ。 第三次生物多様性保全国家戦略は、新・戦略策定後の進展を踏まえ、生物多様性条約締約国会議の日本開催に向けて今後の取り組みを示すため、2007(平成19)年11月に決定された。 生物多様性の重要性を「いのちと暮らしを支える生物多様性」という総括の下に①すべての生命の存立基盤、②将来を含む有用な価値、③豊かな文化の根源、および、④暮らしの安全性の4つの観点から捉えている。 生物多様性保全を脅かす危機として、日本の危機として、①開発や乱獲による主の減少・絶滅、生息・生育地の減少、②里地里山などの手入れ不足による自然の質の低下、③外来種などの持ち込みによる生態系のかく乱、および、④地球温暖化による世界的な危機が掲げられ、それらの危機の克服また対処が目標とされている。加えて世界的な対処として、それらの開発や利用における南北問題(利益の公平な配分を阻害する開発、先進国による遺伝子特許の先取など)の解決も重要な目標とされている。

₃.₅ 生物多様性基本法の成立

 政府は、三次に渡る国家戦略の決定を行い、それに基づく政策を進めているが、野生生物に関する諸法律を生物多様性の観点から包括する法律を持たなかった。そのため、(財)日本自

然保護協会などの市民団体や弁護士会等は、野生生物保護法制定をめざす全国ネットワークを形成し、包括的な野生生物保護対策の推進のための基本法の制定と、それに基づく各個別法改正に向けた運動を行い、2003(平成15)年、野生生物保護基本法(案)を示した。2007(平成19)年の参議院選挙では、民主党が「野生生物保護基本法制定」をマニフェストに掲げるなど、市民による立法の動きがおこった。 一方、政府与党でも、2010(平成22)年の生物多様性条約締約国会議(COP10)名古屋開催に向け、生物多様性保全に関する政策的機運が高まっていたため、超党派の国会議員による基本法制定が具体的な政策実現プロセスにのり、議員立法により2008(平成20)年6月6日、生物多様性基本法が制定された。 生物多様性基本法は、環境基本法の下に、野生生物やその生息・生育環境、生態系全体のつながりを含めて保全する基本法として、初めて制定した法律である。 この法律の特色としては、以下のような点が挙げられる。 第一に、「生物多様性」と「持続可能な利用」を法律で定義している。条約の定義を踏襲し、

「生物多様性」を生態系、種、遺伝子の3つのレベルの保全を対象にすると明記し、個別法で漏れていた海洋生物、微生物なども含まれることになった。 第二に、生物多様性国家戦略を法定計画とし、年次報告を義務づけている。一方、各地域における地域戦略を努力義務にとどめているが、自治体における地域戦略策定に根拠を与える条項が盛り込まれた。 第三に、事業の計画立案段階からの環境影響評価の必要性を盛り込んでいる。この法案作成のプロジェクトメンバーだった村井宗明議員は、「この法律の命は第25条にある!」(谷津ほか,

2008, あとがき)と述べており、事業計画決定前に環境影響評価を行う「戦略的環境アセスメント」の導入に向けた条項が定められた。これにより、国の公共事業を中心に事業実施手法が変わっていくと考えられる。 第四に、政策形成における住民参加を求めている。 第五に、種の保存法、外来生物法など、個別の法律の改正に道を開くことである。

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 基本法による即効的な変化はないかもしれないが、個別法改正との組み合わせにより、特に公共事業について生物多様性の持つ意味が大きくなってくると考えられる。

₃.₆ 種の保存から生物多様性保全へ

 生物多様性基本法の成立は、特に中央省庁レベルでは、第三次生物多様性国家戦略の推進に法的な根拠を与えたことになり、今後、一層、生物多様性保全政策が行われる状況である。 特に、生物多様性締約国会議(COP10)11を控え、環境省の政策的な動きも増加している。例えば、SATOYAMAイニシアチブ12の世界への発信、生物多様性企業活動ガイドラインの作成、日本の生物多様性総合評価委員会の設置、ホームページの解説などCOP10へ向けた啓発活動などが行われている。 地方自治体においても、千葉県と埼玉県が2008(平成20)年3月に県版生物多様性戦略を策定し、愛知県、名古屋市などが策定中であるなど、包括的な施策を目指す先導的取り組みも進められている。また、地域での生物多様性保全政策としては、兵庫県豊岡市のコウノトリ復活の取組み13など、国県市及び地域が連携して、復元すべき環境目標を明確に提示し、自然再生事業や農林水産業と連動した大々的な取組も行われている。 しかしながら、国家戦略や基本法により、地域固有の生態系の保全が科学的に重要とされても、各地域における生物多様性保全政策が、必ずしも変化進展しているわけではない。 2006(平成18)年に都道府県の自然環境部局に対して行われたアンケートによると、生物多様性保全政策の中で最も多く行われているのは特定の種を対象にした保全対策である。(山本,

2007, p 7. 5)また、特定生物種の保全対策の

実態は、人間の好き嫌いに左右されることが示されており、生物多様性保全上の必要性と実態の保全活動のバランスの欠如が指摘されている

(谷口, 2008, pp.60-65)という指摘もある。 種の保存法で現在指定されている種は、国内希少野生動植物種81種、そのうち保護増殖事業計画が策定されたものが38種、生息地等保護区は9カ所である。指定種は環境省レッドリストの対象種のわずか2.7%と非常に少ないのが現状14である。各自治体はそれぞれの地域で条例により保全対象種を指定しているが、それらを含めても絶滅のおそれがある野生生物のごく一部しか対象となっていない。従って、種の保存法が十分機能していないとの批判があり、自然保護団体をはじめ、法律改正の必要性が指摘されている。 しかし、筆者は、法律や現行施策の充実を願う一方で、種の保存法の候補となる野生生物が原生自然の中だけでなく、人間活動に近い里地里山地域の種も対象にされる15中では、規制を中心にした保全対策を行うことで種の保存を達成するという法律の枠組み自体に限界があると考えている。近年の生物多様性保全政策の積み重ねは、種の保存を人間活動も含めて考える必要性を示している。国土利用や制度改革を含めたダイナミックな動きと、地域における野生生物種の保存を巡る生物多様性保全は、様々な対立や葛藤、今までの施策とのギャップを生み出している。筆者が関わる岡山市においても、種の保存法に指定された希少淡水魚や特定種に着目した活動の中で、そのような事例に接しており、地域における政策や活動の転換が必要と考えている。

₄.岡山市内の生物多様性保全政策  ~希少淡水魚保全活動を中心に~ 16

11 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)は、2010(平成22年)10月名古屋市で開催される。12 谷津義男ほか共著2008『生物多様性基本法』ぎょうせい p187 要約すると「日本の農村景観である里山のように自然と調和

した社会に関する伝統的、地域的な知恵を自然共生型のモデルとして作成し世界へ提案すること」13 兵庫県豊岡市でのコウノトリ保全の取組は、豊岡市長の中貝をはじめ、多くの報告、論文がある。14 環境省レッドリスト記載種のうち、種の保存法の指定対象となる野生絶滅・絶滅危惧Ⅰ類・絶滅危惧Ⅱ類に記載された種は、2,951

種である。出典:環境省生物多様性情報システムhttp://www.biodic.go.jp/rdb/rdb_f.html(2009年3月9日閲覧)15 種の保存法指定種39種の中には、主たる生息・生育地が自然環境保全地域や自然公園などの保護区域ではなく里地里山の種が

含まれる。例えば、淡水魚のミヤコタナゴ、イタセンパラ、アユモドキ、スイゲンゼニタナゴ、両生類のアベサンショウウオ、また、コウノトリ、トキ、オオタカなどの鳥類も保護区域にとどまらない。

16 4章の概要を表2にまとめた。

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₄.₁ 淡水魚の宝庫岡山

 筆者の住む岡山市は、古くから人の手が入った地域であるが多様な野生生物が生息・生育し豊かな生態系を保っている。中でも岡山平野には、吉井川、旭川、高梁川の三大河川とそれと有機的につながった用水路群と水田地帯が織りなす豊かな環境が広がっていることから、全国有数の淡水魚類相を誇り、岡山市内で確認された淡水魚類だけでも約70種類17を数える。その中には、環境省のレッドリストに掲載された種が少なくとも22種類おり、そのうち、1977(昭和52)年に、アユモドキが文化財保護法に基づく、国指定天然記念物(2004(平成16)年に、種の保存法による国内希少野生動植物種にも指定)、2002(平成14)年に、スイゲンゼニタナゴが種の保存法による国内希少野生動植物種に指定され、法律による保護の対象となっている。 筆者は、これら希少淡水魚をはじめとする岡山地域における身近な自然の保全活動に、1992

(平成4)年から2008(平成20)年にかけて、主に岡山市の環境保全担当課の自然保護、環境学習、環境計画業務担当者として、直接的、間接的に関わってきた。特に、2001(平成13)年に自然保護係が新設されて以降、希少淡水魚の保全対策の調整と、生物多様性保全施策の枠組みづくりに関与してきた。一方、高校生時代

(1984年頃)から、岡山の自然を守る会が主催するこども向け自然体験活動、その後環境保全活動にボランティアで参加し、現在も、市民活動として自然保護活動や環境教育活動や河川を軸にした交流連携活動などに関わっている。本章は、行政担当者として関与した政策を中心にまとめる18。

₄.₂ 希少淡水魚の減少要因

 アユモドキは、コイ目ドジョウ科の淡水魚で、かつては、岡山県中南部及び、琵琶湖淀川水系に広く分布していたが、現在は、岡山県の旭川・

吉井川水系の限られた地域と、京都府の一部で確認されているのみである。本種は、洪水によってできる一時的な氾濫原を産卵繁殖場所としてきた魚で、水田稲作の普及以降は水田周辺の陸生植物が繁茂した場所で田植え時期に一時的水域になる場所が氾濫原の代わりになり種の維持が図られてきたと考えられている。しかしながら、河川改修、圃場整備、用水路のコンクリート化などで、そのような産卵環境の減少及び、普段の生息地と産卵場との分断が進み、その他要因も相まって1970年代以降、急激に絶滅のおそれが最も高い魚類の一つになった。(青、阿部,

2009, p.81-86) スイゲンゼニタナゴは、コイ科の淡水魚で、かつては、広島県東部から兵庫県西部の河川及び用水路に広く分布していたが、現在は、岡山県南と広島県東部に点在して分布しているのみになっている。本種は、流れの緩やかな砂底の用水路や小川を好み、イシガイ、マツカサガイなどの二枚貝に卵を産み付ける。しかし、最近の水路改修工事で緩やかな流れや二枚貝のすむ環境がなくなり急速に数を減らし、あわせて、観賞魚業者などによる乱獲も減少に拍車をかけている。タナゴ類という同種の淡水魚の中でも最も小さく、また、産卵数も少ないため、他種との競合が余儀なくされる環境では競争に負けていることも減少要因と考えられている。 この2種とも、本来は河川に生息していたものが、稲作の普及に伴い、水田周辺の用水路へと生息域や繁殖地を拡大し、人間の暮らしに近いところで生息していた種である。つまり、人間のくらしと共存してきた人里の身近な野生生物である。従って、人間活動の変化の影響を受けるとともに、その種の保全を行うためには、その地域のくらしを抜きには考えられない野生生物である。

₄.₃ アユモドキ保全活動の経緯

 アユモドキは、かつてはその生息地では食用

17 岡山市環境調整課 2003「おかやまの希少な淡水魚」に記載された淡水魚68種のうち、最新の環境省レッドリスト(2007(平成19)年8月3日公表)に記載された淡水魚が22種類。その中にはもともと岡山に生息していない国内移入種も含まれる。一方、このリスト以降に確認された魚類もいるがここでは種類に含めていない。

18 本章で取り上げる希少淡水魚保護の事例は、文献資料とともに、筆者が岡山市環境保全課職員として関わった際の記録をもとに構成している。

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にもされていた淡水魚で、地域住民にとっては保護など考える必要もないほど普通の魚であった。従って、生息数の多かった昭和40年代までは特別にその保護が意識されることもなかったようである。 岡山市におけるアユモドキ保全活動は、昭和50年代に入り、淡水魚を愛する市民が危機感をいだき、岡山淡水魚研究会を結成したことで始まった。1977(昭和52)年にアユモドキが天然記念物に指定されたことが契機となり、調査研究活動が進められるとともに、当時大規模に行われた用水路及び河川改修工事に対して保護要請が行われた。 指定当時は、国指定天然記念物にもかかわらず、水路改修を行う事業者の保護への関心は低く、保護担当の文化財担当課への連絡・協議なしに大規模な生息地の工事が行われたり、協議が行われても工事直前に行われるなど、アユモドキの保護移動など最低限の対応しか行えなかった20。また、事業者に自然保護団体が保護を申し入れても保護に消極的だった21。 行政による積極的な保全対策は、岡山市文化財課が、岡山淡水魚研究会に委託して「天然記念物アユモドキ分布調査」を実施した1986(昭和61) 年からである。この調査は、用水路改修時の保全対策の検討のため分布域や生態を調査したもので、調査後、アユモドキに影響が及ぶ事業に対して事前協議を行うしくみが岡山市で整えられ、水路工事において石垣護岸の保存、魚巣ブロックの導入などが進められた。1989(平成元)年には、用水路管理や保全型水路(魚巣ブロック)の効果の調査も行われた22。

 調査によりアユモドキの水田周辺を産卵場に使用する可能性が示されたため、1989(平成元)年、岡山淡水魚研究会が、岡山市賞田地区23のアユモドキ生息水路に隣接する休耕田を借り上げて産卵場を創出する取り組みを始めた。この取組みが成功し、自然保護団体中心の自然産卵場確保による保護事業が、岡山市内のアユモドキ保全活動の中心になった。この取り組みは、研究会の熱意と新たな研究の知見の蓄積により現在も継続して行われている。 続いて、アユモドキ対象ではなく、地域の環境全般を対象にした取り組みとして、市環境保全課が、賞田地区を含む高島中学校区(高島地域)で、地域住民による地域環境の見直し活動をしかけ、その活動が、1992(平成4)年「岡山市ホタルの里」事業24、1997(平成9)年「高島・旭竜エコミュージアム」25モデル事業となり、地域住民による環境保全活動が生まれた。また、地域の学習活動から、2000(平成12)年、アユモドキ生息地の町内会の一つが淡水魚保護の町宣言を行い、水路内に密猟防止と生息環境創出のための石の配置や、パトロールの実施など、地域住民の自主的な保全の取組も始まった。 2004(平成16)年に種の保存法の指定種になり、4省庁連携の保護増殖事業計画が策定してからは、環境省が委託した広域パトロールや移動経路調査なども行われている。 さらに、2006(平成18)年、2008(平成20)年と、テレビで取り上げられたことにより、アユモドキの里として対外的にも知られるようになった。 一方、岡山市と2007(平成19)年に合併した

19 岡山淡水魚研究会は1975(昭和50)年、前年結成された釣り仲間の同好会から改称して発足。2007(平成19)年からNPO法人。20 岡山市教育委員会1986「天然記念物アユモドキ分布調査報告書」には、生息地の祇園用水、倉安川などの水路改修における配

慮がされず文化財担当課が奔走した事例が報告されている。21 岡山の自然を守る会1978「岡山の自然No.10」に「姿勢悪い建設省 百間川改修で初交渉」の記事で、百間川改修に対する建設

省担当のコメントとして「中島大池のアユモドキが住めなくなってもかまわない。倉安川にもいる。」という発言が掲載されている。

22 岡山市教育委員会1989「天然記念物アユモドキ分布調査報告書」23 賞田地区は、岡山駅から北東約5キロに位置する。高島中学校区に属し、古くからの農村地帯だが、市街化区域と調整地区の

接点に位置し、現在では農地と宅地が混在している。岡山平野の南部を潤す祇園用水群の最上流部に近く水質の極めて良い地域である。

24 岡山市環境保全課の事業。ホタルをシンボルに地域住民による地域の良好な環境を保全する活動を市が支援する事業。1992(平成4)年開始。市内5地域を指定。平成20年度から「身近な生きものの里」事業に変更。

25 岡山市環境保全課の事業。住民と行政が協力しながら、有形・無形の環境資源を現地で守り・活用することにより、環境にやさしい暮らしと良好な環境資源がある地域となることを目指すモデル事業。1995 ~ 1996(平成7~8)年に、高島中学校区で住民懇談会を実施し、1997 ~ 1999(平成9~ 11)年にモデル事業を実施。岡山市内の生涯学習拠点である公民館と連携とした事業として成果をあげ、活動報告書とそれに基づく公民館職員等へのワークショップを開催して2001(平成13)年度に環境保全課の事業としては終了。地域での活動は2009(平成21)年現在も継続中。ホームページhttp://kouminkan.city.okayama.okayama.

jp/takashima/tkecm/gaiyou/gaiyo01.html

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瀬戸町26では、旧町時代の2002(平成14)年、町内の淡水魚研究者により、アユモドキの産卵場所が特定された。この産卵場所が町道建設により消滅の危機にあったため保全対策が必要となり、町教育委員会では2003(平成15)年からアユモドキ保全活用検討委員会を設置し、調査検討を重ねた。調査の結果、この産卵場所がアユモドキの生息にとって大変重要な場所だと判明したため、町道建設を休止し、代わりにアユモドキ保全の啓発や保全活用の取組を継続的に行ってきた。2005(平成17)年度からは文化庁の天然記念物再生事業の国庫補助を受けて人工繁殖や生態調査、繁殖個体の学校・公民館への展示による啓発活動などが行われている。本地域では、国土交通省、農林水産省、環境省、岡山県等のアユモドキ保全対策事業も併行して行われ、水路改修での配慮、農業施設における保全対策の調査、河川敷内への自然産卵場創出などが進められている。 瀬戸町内では、2007(平成19)年度に中国四国農政局によるアユモドキ学習会、2008(平成20)年度には、淡水魚保全研究会等研究者と市民団体によるシンポジウムの開催などが行われ、地域住民のアユモドキの認知は急速に増している。キリンビール岡山工場の保全活動への協力、アユモドキの名称を付けた米の販売27なども行われている。 合併後の2007(平成19)年度からは、瀬戸町のアユモドキ保全の枠組みが岡山市に引き継がれ、保全活用検討会や啓発活動が瀬戸町、高島地域双方で行われている。 アユモドキに関しては、地域住民による保全活動も行われているが、保全活動を先導するのは自然保護団体及び研究者、行政である。地域の関心や保全活動への理解は、少しずつ高まっ

ているとはいえ、本来それぞれの地域で維持管理利用を行う農業施設に対して、通常の維持管理とは違う配慮を強いるため、農業水利関係者からは反発を受けることもあり、地域と保全活動団体の間の意識、意見の相違が大きく、そのことが問題となる。例えば、用水路の川掃除のために水位を下げた際の魚類の斃死を保護団体が問題視する際に、施設管理と魚とどちらが大切なのかという対立が顕在化している28。

₄.₄ スイゲンゼニタナゴ保全活動の経緯

 スイゲンゼニタナゴは、岡山では「カメンタ」「カメント」「ニガメン」などと呼ばれるタナゴ類の一種で「カメンタのこめぇの(小さいもの)」と認識されるぐらいで特別に区別されていた魚ではなかった。前述の昭和61年に行われたアユモドキの調査においても激減が指摘され、筆者も保護が必要という話を耳にしていたが、岡山市内での保全活動が始まったのは遅く、2000(平成12)年、岡山市高松地区の土地改良事業実施中に、岡山淡水魚研究会から岡山市環境保全課に保護要請があった頃である。 それ以前1994(平成6)年から広島県では県条例で保全対象29になっており、福山市内で保全活動が積極的に行われていた。また、岡山県内の生息地で公共工事が行われる際に保護団体等から直接事業者へ保全対策の申し入れが行われていたが、業者による大量採取を危惧する保護団体が情報管理を徹底していたため、地方自治体の担当課も現状の情報を持っておらず保全対策が行われていなかった30。そのため、保全要請があった時に、スイゲンゼニタナゴがどんな魚で、どこにどれくらいいるのか筆者を含め

26 瀬戸町のアユモドキ生息地は、岡山市北東部JR岡山駅から約20㎞付近に位置する田園地帯。周辺には、住宅、工場も立地しているがまとまった水田が広がっている。

27 JA岡山東では、酒造米の雄町という品種を栽培する瀬戸町雄町部会のうち、雄町特別栽培部会が、化学肥料不使用減農薬の米を「アユモドキの里」のブランド名で出荷している。NPO法人岡山淡水魚研究会の会員が、「アユモドキ米」の商標登録を行っている。

28 2008(平成20)年5月の川掃除の際にアユモドキ生息地の水位が下がりアユモドキの大量死が生じた。このことに対して、地元新聞等に、保全活動の立場から農業者の責任を追及するような記事が掲載されたため、地元の農業者と保全活動関係者間のコミュニケーション不足、考え方の差が顕在化した。この状況収拾のため、岡山市農業施設課、環境保全関係課が協議しながらそれぞれの関係者に保全活動に関する調整を行った。

29 広島県野生生物の種の保護に関する条例(平成6年3月29日条例1号)1994(平成6)年12月15日にスイゲンゼニタナゴは指定され、福山市内での保護活動が行われてきた。

30 環境庁(当時)は、1996(平成8)年度、1997(平成9)年度と希少野生動植物種選定のための生息実態調査を実施して岡山県内の分布状況も概ね把握していた。水産庁も1999(平成11)年度にスイゲンゼニタナゴの生息分布調査を岡山県内で行っており、その過程で保全活動の契機となった土地改良事業区域での生息が確認された。

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環境保全担当者も知らなかった。 保護要請があった当時、スイゲンゼニタナゴは法的に保護対象になっていなかったので、環境省のレッドリストで絶滅危惧ⅠA類にリストアップされているということをもとに、市から事業者に環境配慮の「お願い」をした。事業者の了解は得たが地元負担金が増えるため、地元農業者からの反発も大きかったが、工事での地元意見の尊重、法令による保全の裏付けの確保などを条件に了解を得て保全活動が始まった。 この話し合いを経て、岡山市では、市長(当時)の積極的な姿勢もあり、種の保存法指定を待たず、2000(平成12)年から、保全対策の検討啓発活動などを開始した。環境省へ種の保存法指定の要望提出、岡山市環境保全審査会の専門部会で保全対策案の検討(2001(平成13)年)などを行い、2002(平成14)年からは、地域、NPO、関係機関の関係者による「スイゲンゼニタナゴ検討委員会」を設けて、調査、保全活動などを開始した。 事業主体の土地改良区も、地元負担金の生じない地域用水機能増進事業31での事業実施を決定し、2002 ~ 2003(平成14 ~ 15)年に地元関係者と保全団体と各行政担当者で協議、2004 ~2006(平成16 ~ 18)年の3年間で環境配慮型の工事を実施した。なお、この工事時の取り決めで、2002(平成14)年度以降、環境配慮型工事による川掃除負担を地域外ボランティアで支える活動を継続している。 2002(平成14)年には、種の保存法の指定種となり、種の保存法に基づく保護増殖事業計画が2004(平成16)年に策定され、平成16年度以降、国県事業として生息分布調査、生態調査や保全対策の連絡会が始まった。 その後、県の生息分布調査で本地域以外の生息地も判明し、分布域や生態もわかってきたが、法指定後も密漁の危険性があるため、市内では、監視パトロールと、工事や水位低下の調整が主な対策で、高松地区以外の積極的な保全活動は平成21年3月現在行われていない。スイゲンゼニタナゴの保全活動は、当初、地域から保全対策へ猛反発を受けたが、市が中心になった調整で一定の理解を得ている。しかしながら、保全活動の主体は、行政である。従って、保全対策

へ理解される方がいる一方で、「魚のことはどうでもいい。」という意見もあり継続的安定的な保全対策には課題が多い。 

₄.₅ 生物多様性保全のための制度整備

 岡山市では、スイゲンゼニタナゴの保全問題を契機に、国県の動向も踏まえて、自然環境保全のための独自制度の整備を行った。当初は、希少淡水魚の保全に特化した検討から開始したが、最終的には、生物多様性保全を対象とすることになり、2004(平成16)年3月22日に、生物多様性保全条項を盛り込んだ岡山市環境保全条例の改正を行った。 条例改正の理由は、市としての生物多様性保全施策の根拠規定が必要なこと、スイゲンゼニタナゴが種の保存法に指定されても、法律では市が事業者に環境配慮を求める根拠がないため何らかの制度を独自に設ける必要があったことなどである。 本条例の生物多様性保全条項は、前述の国の生物多様性基本法や国家戦略の示す広い範囲の生物多様性保全政策を扱うのではなく、種の保存法による野生生物保護の枠組みに近いものである。条例の内容としては、①生物多様性保全基本方針、自然環境配慮ガイドラインを策定し、これらに基づいて市は事業活動に対して助言指導できる。②貴重野生生物種、自然環境保全地区(貴重野生生物保護区、共生地区)を指定できる。③共生地区で一定規模以上の事業活動に対して、「環境配慮届」の提出を義務づける。④自然保護活動推進員を設ける。などである。 この条例の特色は、環境配慮届である。これは、環境情報を用いた環境行政の一手法である。県の環境影響評価条例以下の小さな事業に対して、事業者と保全担当課で、自然環境に関する情報を共有して、環境配慮事項の協議を行い、事業活動における環境配慮を少しずつでも高めていく制度である。事業者と保全政策担当者で環境情報を共有するための自然環境配慮情報システムを作成し、ホームページ上で公開し、それに基づいた協議が行える体制を目指している。

31 農林水産省の補助事業。用水路の利水以外の環境、防災などの多面的な機能に着目した取組に対する補助事業。その取組を継続するために必要なハード整備も補助の対象となる。

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 また、2008(平成20)年度から、「身近な生きもの」をシンボルにした地域づくり活動を市民と行政が協働で推進することにより、地域の自然環境や生態系の保全を図る事業として、「身近な生きものの里」を開始している。 これらの制度の整備により、希少野生生物を中心とした保全対策を、各行政機関、地域、NPO、学識経験者等との連携で行っているところであるが、希少野生生物保全の背景にある社会的課題には、地域基盤となる農業や施設管理を今後どう維持するか、また、保全活動についても誰が行うかという問題を抱え、制度の整備だけでは、効果は限定的である。 

₅.�希少淡水魚保全活動にみる生物多様性保全上の課題

 岡山市における希少淡水魚保全の問題は、人との関わりの深い、都市近郊の里地里山の身近な希少野生生物を取り巻く問題である。これら野生生物の保全には、生態学的知見から、政策的にどう保全するかという視点と、その種の生息環境を取り巻く社会的な側面から生物多様性保全をどう位置づけできるのかという視点の二つが必要である。 まず、政策面では、「保全が必要な地域における事業調整と環境配慮が適切に行われるための関係機関間の連携強化」、「保全対策の明確化と評価のための調査の実施」、「生息地の拡大のための方策の検討と実施」、「飼育施設での保護増殖事業(遺伝子レベルでの系統保存)の継続」、

「観賞魚販売業者のモラム向上とルールの徹底」など、政策課題を質的に高める必要がある。これら政策は、現在、種の保存法に基づく保護増殖事業計画に基づき、国県市などが進めているところだが、種の保存法を巡る運用に課題を感じている。種の保存法に対しては、自然保護団体からも様々な不備が指摘されているが、地方自治体職員として関わった立場から主な課題を三つあげる。 第一に、地方の役割や責務が曖昧な点である。地方自治体は法律で保護増殖事業を行えるが、必須ではない。また、地方自治体には密漁者の取り締まりや、事業者を指導する権限はない。地域の自然は、地域でしか守れないという立場

から、筆者は、地方ガバナンスが主体的に政策を行えるようにすべきと考える。ただし、人員体制や予算措置を地方が担えるよう整える必要がある。 第二に、種の保存法では、個体の捕獲や販売は厳しく規制されているにもかかわらず、指定種の生息地で工事が行われる時、工事自体の環境配慮を、法的に調整し求めるしくみがない。文化財保護法では、天然記念物の捕獲や生息地の改変に際して、現状変更等許可手続きが必要であり、開発行為の調整が制度化されているので、アユモドキは、市(教育委員会)または、文化庁への手続きが行われているが、スイゲンゼニタナゴは法律では手続きがいらない。事業者が保全対策の事前協議を行うことで実際は環境配慮の調整が行われているが、同目的の法律で手続きに差を設ける理由はないのではないか。 第三に、保護増殖事業計画では、指定種の生息環境を含めた保全を目標にしながら、目標年次や、そこに至る具体的なロードマップがなかなか作れないことである。これは、指定種の生態や分布についての科学的知見も不足していることに起因するが、種の保存法指定種をなぜ、地域に回復する必要があるのかに、地域としての合意が得られていないことも要因である。 これらの課題を含め、種の保存法とその運用を改善することは必要だと考えるが、特定の野生生物種の保全を目的とした法律では限界がある。岡山市環境保全条例のように、地方自治体が、特定事業に環境配慮の協議を義務づける事業調整制度を設けるなど、別の法令を考える必要もある。 国内では、自然環境保全法による原生自然環境保全地域など人間の関与をできるだけ排除することで生物多様性の保全をはかる政策も行われている。しかし、都市や里地里山地域では、種の保存、そして、生物多様性の保全も他の人間活動との調整が必要である。従って、法令とともに、社会的側面に着目した政策や取り組みが重要である。 保全対策を求める立場からは、生物多様性条約が前文で示すように、生物多様性の保全自体に内在的価値を認め((財)日本自然保護協会,

2003, p.12)、法律や科学的知見をもとに保全対策を求める。しかしながら、それぞれの地域で

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は野生生物と人間との関係はそれぞれ違い、生物多様性に内在的価値を認めるとは限らない。従って、自らの価値に基づく決定や行動が阻害されることに大きな反発がおこり得る。法律に則って公共政策として保全対策を進めることはあり得るが、そこが、地域住民による維持管理活動が行われている農地や用水路、里山の場合、

「自分たちはどうでもいいから、行政や保護団体が全ての責任を持ってやれ!」という話になり、基本的な対立関係を内包したままで保全対策が進められる。しかし、人間活動が盛んな里地里山で勝手に保全対策が行える訳が無く、そのような活動はいずれ行き詰まる。 地域での生物多様性保全政策は、科学的視点、法令の整備も必要だが、「人間と自然の関係をコミュニケーション関係として理解する視点」

(亀山, 2005, p.70)を持って人間の様々な価値観やそれに伴う行動も認められることが重要である。実際には、地域には地域特有の自然との関係をくらしの中で築いてきた歴史があり、それらをもとに生物多様性保全に通ずる何らかの糸口として、新たな保全活動が地域において正当性が得られる道筋を見出すことが求められるのではなかろうか。 社会的側面を重視した政策や的取り組みとしては、例えば、兵庫県豊岡市のコウノトリと共生するまちづくり(中貝, 2008, p.74-82)32や、滋賀県高島市のたかしま生きもの田んぼの取組

(本多, 2006)33、また広島県におけるダルマガエル米の取り組み(井藤, 2009, p.114)などがある。これらは、生物多様性保全を地域社会の記憶や課題と結びつけた先進事例であり、関係構築や関心喚起などの取組みと科学的な調査研究を地道に行いつつも、行政による規制的手法や生態学的保全対策だけではなく、持続可能な地域の将来ビジョンを地域と行政が共有しながら、経済的手法や情報的手法、地域づくりの視点などを組み合わせて、多分野のキーパーソンによる様々な取り組みがつながっている。 このような先進事例は、希少淡水魚などの特定の野生生物種の保全のみを目的にするのではなく、地域社会で共有できるビジョンの中に生

物多様性の価値をどう内在化できるかが重要であることを示している。岡山市の都市近郊の里地里山においても、アユモドキやスイゲンゼニタナゴをはじめとした岡山の特徴的な野生生物や生態系を、地域社会の価値としてどう共有できるかが問われ、そのための新たな取り組みが求められている。 

₆.おわりに

 本稿では、国の生物多様性保全政策の動向を概観し、自然保護から種の保存、そして、さらに幅広い分野の総合政策としての生物多様性保全へと取組が広がっている状況を示し、一方、都市近郊および里地里山地域で種の保存法指定種も生息しているような地域では、生物多様性保全と地域の価値観の相違を克服するための、社会的な側面からの新たな生物多様性保全対策が必要とされている状況を示した。 ただし、国内の政策動向については基本方針をまとめたのみであり、個別法や個別事例についての整理、分析は行えていない。生物多様性保全政策においても、他の公共政策同様に、様々な主体が協働する新たな保全活動が求められ、それに応じたガバナンスが必要とされており、それら個別政策についての制度面、政策面の整理を行っていく必要がある。 本研究は、地域における社会的側面に着目して、都市近郊および里地里山における生物多様性保全のあり方を究明する一時例として、政策科学として寄与できると考えている。また、本研究はソーシャル・イノベーション研究として、岡山市都市近郊および里地里山における生物多様性保全活動に関与しながら、生物多様性保全と地域課題解決が共鳴するモデルの構築について研究していく。筆者は、都市と農村にまたがる人の営みのそばに絶滅のおそれのある野生生物が一緒にいる環境に暮らしている。何とかこの恵まれた環境を地域の宝として伝えていきたいと思いを胸に実践的研究を継続していきたい。

32 中国四国農政局が2008(平成20)年2月16日に岡山市瀬戸町で開催した学習会でも「コウノトリが育む地域農業」(兵庫県豊岡農業改良普及センター 西村いつき氏)の発表があり、地域の農業者の関心を集めた。

33 高島市いきもの田んぼ及び、豊岡市コウノトリ育む農業を紹介。また、2009(平成21)年3月4日に岡山市瀬戸町で開催した第4回淡水魚保全シンボジウムで本多氏が講演を行った。

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 参考文献

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2009年 p81-86

・井藤文男「なんておもしろいんだ!ダルマガエル米」現代農業別冊『むらを楽しくする生きもの田んぼづくり』農文協 2009年 p114-115 

・岡山市教育委員会『天然記念物アユモドキ分布調査報告書』岡山市教育委員会1986年

・岡山市教育委員会『天然記念物アユモドキ分布調査報告書』岡山市教育委員会1989年

・亀山純生『環境倫理と風土』大月書店 2005年・北村喜宣『自治体環境行政法 第4版』第一法規 2007

年・桑子敏雄編『日本文化の空間学』東信堂 2008年・谷口守・松中亮治・山本悠二2008「今後の生物多様性

保全策の検討課題としての特定生物種保全の実態分析」『都市計画論文集no.43-1』(社)日本都市計画学会 2008年 p60-65

・友延栄一「スイゲンゼニタナゴと種の保存法」『岡山の自然141号』岡山の自然を守る会2002年

・中貝 宗治「コウノトリとともに生きる―生物多様性保全の現場から」 『環境研究No.148』 日立環境財団

2008年 p74-82

・(財)日本自然保護協会編『生態学からみた野生生物の保護と法律』講談社 2003年

・(財)日本自然保護協会編『生態学から見た自然保護地域とその多様性保全』講談社 2003年

・畠山武道『自然保護法講義 第2版』北海道図書館刊行会 2004年

・本多清「いきものたちと育む農家の新・経営戦略」『世

界2008. 6月号』岩波書店2008

・宮内泰介編『コモンズをささえるしくみ レジティマシーの環境社会学』新曜社 2006年

・谷津義男ほか著『生物多様性基本法』ぎょうせい2008

年・山本悠二・谷口守・松中亮治「生物多様性保全政策の

実施状況と課題―都道府県に対する調査結果から―」『環境システム研究論文集vol.35』2007年 p73

-80

・鷲谷いずみ・鬼頭秀一編『生物多様性保全モニタリング』東京大学出版会 2007年

参考ウェブサイト

・岡山市ウェブサイト 2009.3.12閲覧 環境保全課自然保護係    U R L(h t t p : / / w w w. c i t y. o k a y a m a . j p / k a n k y o u /

kankyouhozen/shizenhogo/index.htm)

文 化 財 課URL(http://www.city.okayama.jp/kyouiku/

bunkazai/ayumodoki3.htm )・環境省ウェブサイト 2009.3.12閲覧 種の保存法の解説 URL(http://www.env.go.jp/nature/

yasei/hozonho/index.html) レッドリストURL(http://www.biodic.go.jp/rdb/rdb_f.html) 生物多様性国家戦略URL(http://www.biodic.go.jp/nbsap.

html)  生 物 多 様 性 ホ ー ムURL(http://www.biodic.go.jp/

biodiversity/)・野生生物保護法制定をめざす全国ネットワークウェブ

サイト URL(http://www.wlaw-net.net/net/syu_hozon/syu2003-

main.html) 2009.3.13閲覧

Page 14: 生物多様性保全政策の動向と課題 · 生物多様性条約では、「生物の多様性」を、「す べての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生

友 延  栄 一192

年 国際 日本

1950 昭和25   文化財保護法制定

1957 昭和32   自然公園法制定

1963 昭和38   鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律制定

1971 昭和46 「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(ラムサール条約)」策定 環境庁発足

1972 昭和47 国連人間環境会議(ストックホルム)開催 日米渡り鳥条約に日本署名「特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律」制定

1972 昭和47   自然環境保全法制定

1973 昭和48   自然環境保全基本方針閣議決定

1973 昭和48 「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」採択  

1973 昭和48 アメリカ合衆国で「絶滅のおそれのある種に関する法」制定  

1975 昭和50 ワシントン条約発効  

1979 昭和54 移動性の野生動物種の保護に関する条約(ボン条約)採択(日本未加盟)1983発効  

1980 昭和55   日本、ラムサール条約及びワシントン条約に署名

1987 昭和62   「絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡の規制等に関する法律」制定

1992 平成4 ワシントン条約締約国会議の京都開催、  

1992 平成4 環境と開発のための国連会議(リオデジャネイロト)開催  

1992 平成4 生物多様性条約採択 日本、生物多様性条約署名

1993 平成5 生物多様性条約発効 環境基本法制定

1995 平成7   生物多様性国家戦略(第一次)を決定

1997 平成9   環境影響評価法制定、河川法改正(環境配慮の項目追加)

1999 平成11   食料・農業・農村基本法制定、海岸法改正(環境配慮の項目追加)

2000 平成12 バイオセイフティに関するカルタヘナ議定書採択 港湾法改正(環境配慮の項目追加)

2001 平成13   森林・林業基本法制定、土地改良法改正(環境配慮の項目追加)

2001 平成13   環境省発足

2002 平成14 国連人間環境開発会議(ヨハネスブルグ)開催 新・生物多様性国家戦略決定

2002 平成14   自然再生推進法制定、鳥獣保護法全面改正、自然公園法改正

2003 平成15   遺伝子組替え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カタルヘナ法)制定

2004 平成16   外来生物法制定

2005 平成17 国際博覧会「愛・地球博」開催  

2006 平成18   鳥獣保護法改正

2007 平成19   第三次生物多様性保全国家戦略決定

2008 平成20   生物多様性基本法制定

2008 平成20   千葉県と埼玉県が県版生物多様性戦略を策定

2010 平成22 生物多様性条約締約国会議(COP10)名古屋開催  

表1 生物多様性保全施策年表

筆者作成

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生物多様性保全政策の動向と課題 193

表2 岡山市における希少淡水魚保全活動年表

年 内容

1977 昭和52 アユモドキ文化財保護法に基づく、国指定天然記念物

1986 昭和61 岡山市文化財課「天然記念物アユモドキ分布調査」実施

1989 平成元 岡山市文化財課「天然記念物アユモドキ分布調査」実施

1989 平成元 岡山淡水魚研究会が、岡山市賞田地区1でアユモドキ産卵場創出活動開始

1992 平成4 岡山市ホタルの里事業開始

1993 平成6 広島県条例でスイゲンゼニタナゴ保護の対象になる。

1997 平成9 岡山市高島・旭竜エコミュージアム始まる

1999 平成11 水産庁岡山県内のスイゲンゼニタナゴ分布調査実施

2000 平成12 岡山市賞田地区淡水魚保護の町宣言

2000 平成12 岡山市高松地区の土地改良事業実施中に、スイゲンゼニタナゴ保護要請

2001 平成13 岡山市環境調整課(現環境保全課)自然保護係新設

2001 平成13 岡山市環境保全審査会の専門部会でスイゲンゼニタナゴ保全対策案を検討

2002 平成14 スイゲンゼニタナゴ種の保存法による国内希少野生動植物種に指定

2002 平成14 瀬戸町でアユモドキの産卵場所特定

2002 平成14 スイゲンゼニタナゴ、地域、NPO、行政、学識関係者による検討委員会開催 川掃除ボランティア開始

2003 平成15 瀬戸町アユモドキ保全活用検討委員会を設置し、調査検討

2004 平成16 アユモドキ種の保存法による国内希少野生動植物種に指定

2004 平成17 瀬戸町 文化庁の天然記念物再生事業(国庫補助) 各省庁の事業行われる。

2004 平成16 土地改良区が、地域用水機能増進事業で環境配慮型の工事を実施( ~ 2006)

2004 平成16 アユモドキ、スイゲンゼニタナゴ 種の保存法に基づく保護増殖事業計画策定

2004 平成16 岡山市環境保全条例改正、生物多様性保全条項を盛り込む。

2006 平成18 市条例に基づき、「自然環境配慮届」の届出制度開始

2007 平成19 瀬戸町が岡山市へ合併 瀬戸町の事業は岡山市で継続

2007 平成19 瀬戸町で、中国四国農政局によるアユモドキ学習会

2008 平成20 「身近な生きものの里」事業開始

2008 平成20 川掃除時のアユモドキ大量死が問題となる。

2009 平成21 岡山市瀬戸町で、市民団体が、淡水魚保全研究会を開催

2009 平成21 環境省、中国四国地方里地里山における希少淡水魚類保全対策検討委員会設置

筆者作成