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直線型乱流加熱プラズマにおける非線形現象の展開
(電子ホール,電気二重層,および乱流加熱の観測)
築島隆繁,犬塚 博
(名古屋大学工学部)
(1988年7月2日受理)
Evolution of Nonli皿ear Phenomena,in a
Linear Turbulent・Hea,ting Plasma,
(Observati・n・fElectr・nH・16,D・uble.LayerandTurbulentHeating)
Ta,ka,s鼓ige Tsukish量ma a,nd Hiros唾Inuzuka,
(ReceivedJuly2,1988)
Abstra£t
A皿overview is given o皿some nonli皿ear pbenomena such a,s electron hole,doublelayer a皿虚turbulent・heati皿g processes which have been observed in a inirror・confhed
plasma.Results of computer simulatio皿s are also presented to compare with the experi・
menta,I resultsポ
Keywords:
nonlinear phenomena,doub亘e layer,electron hole,turbulent heating,computer simu豆a・‘
tion,magneticmirror,
1.はじめに 本講では実験室において観測される非線形現象を紹介する。多種・多様の装置で,多様な形態の非線形現象
が観測されてレ)る。例えば,エコー,ソリトン,ダブルレイヤー(電気二重層),ドリフト波乱流,異常抵抗,
異常拡散,対流セル,など。また,最近ではトーラスプラズマゐポロイダル面に射影された磁気面のカオス的
ふるまい1)やHモードの観測などを挙げることができる。
これらを一つ一つ取り上げてその特徴を詳しく説明するごとは紙数の制限もあるので無理であり,また筆者
らの能力を越えている。ここでは当研究室にある直線型乱流加熱実験装置THE NU・H(Turbulent旦eating
lExpehmentin廻agoy砥1niversity,type-H)(図2参照)で観測された一連の非線形現象を一つの事例研究と
Eα6㍑1砂げEngごnθθ7in&ハ他goッαUnivθ雌砂,ハ磁goッα464-01,
121
核融合研究 第60巻第2号 1988年8月
して取り上げ,どこまでわかってきたか,またどこが未だわかっていないかを紹介する。このことを通じて,
非線形現象を実験的に正しく理解するには,時間・空間分解の優れた計測が如何に重要であるかが示される。
乱流加熱方式では比較的手軽に高温(電子温度Te=数keV,イオン温度Ti=数100eV),高密度(電子密
度n.≧1013cm-3)が得られることから,THE NU・Hは超高温プラズマ診断用計測装置開発のためのテスト用
プラズマ発生装置として建設された。2)
手軽に高温・高密度が得られることの代償は放電継続時問の短いことで,特徴的には数μs~数10μsであ
る。乱流加熱機構として,当初,次のように理解されていた。直線型装置ではプラズマ中に挿入された2つの
電極問に瞬時的に高電圧を印加し磁力線方向に電流を流すと,二流体不安定(Buneman不安定)が励起され,
非線形飽和が起こるまで成長する。励起された波動は非線形効果のためスペクトル幅が広がり乱流状態となる。
電子はこの乱流波動により散乱され,結果としてプラズマはSpitzer抵抗値に比べて桁違いに大きい抵抗値を
示すようになる。従ってジュール加熱が有効に行われプラズマは急速に加熱される。トーラス装置では誘導電
界により二流体不安定が励起される(H、mbe,ge,らの実験3))。
1975年頃にLutSenk。らにより,4)
THENU・Hと同じような装置でダブル (a)
レイヤー(DoubleLayer,以下DLと略
す)らしいものが観測された。DLの概
念図を図1に示す。真空中では2つの電
極間に加えられた電位差は点数で示すよ (b) 二っの空間電荷層(二重層)
うに直線的に分布するが,プラズマで満
たされているとき,或る条件の下ではデ
バイ長の数10倍位の短い区問に集中する。
このような電位差は正負の相対峙する電 図1。(a)ダブルレイヤー型の電位分布,(b)聖間電荷。荷層により支えられている。これが電気
二重層,即ちダブルレイヤーである。
THE NU、HでもDLが観測された。しかもDLが形成される前駆現象として静電イオンサイクロトロン波
やイオン音波が観測されている。また見かけ上の高抵抗を支えていたのはこのDLであって,乱流加熱現象は
DLが崩壊する時に発生することも明らかになってきた。周知のようにイオン波はTe<3Tiの領域では減衰
が大きく励起されにくい。初期プラズマはTe=Ti=10eVであるから,何らかの機構による電子加熱が先行
していなければならない。その後,時間分解を高めて測定を行ったところ,外部からの電圧印加直後に電子ホ
ールが形成されていることが観測された。5)即ち,負・正・負の電気三重層ができて却り,電子ホールの中心
部の電圧は外部から印加した値の2倍近くにも達する空問的正電位パルスが発生していた。この電子ホールは
極めて短時間に消滅するが,消滅時の緩和過程として電子温度の上昇がルビーレーザ散乱法により確認された。
このような特性は一次元計算機シミュレーションにおいても観測された。シミュレーションではミラー磁場の
電 ロ 鴨 、 b 一 、
位 真空中の電位\『}、〆 層 、 隔 、
、 r 、 、
Z
一電子ビτム『
電 二つの輔何
季→イオンビーム
楓 Z
122
講 座 直線型乱流加熱プラズマにおける非線形現象の展開 築島,犬塚
2400μF3.5kV
%
H)←一50ρ 500Kρ
lhlA区
1こ 齢舳 4,26μF 1ρ 99医Vコ 67cm
k区区図 区区図
0 ZI Z2 Z3 Z4 Z5 Z6
に
ゆZ
DENSITY 1×1012/cm3
一{画 Ti WASHER GUN
TO PUMP
(a)
、工75cmψ
章
(b)
o己oo
’12
8
4
0K A
tO 20 40 60
Z(cm)
ROGOWSKl COiL To qAPACITOR
PUMP
・RETURN BARS
TI WASHER GUN↓
!
○ O『 ρo
3、
o1
/
(c)
! 67cm130cm
図2.(a)直線型乱流加熱装置THE NU-Eの構成図,(b)磁場の軸方向分布,
(c)放電回路の幾何学的形状。
123
核融合研究 第60巻第2号 1988年8月
存在,および電極における境界条件の与え方が極めて重要であることが明らかにされた。6)シミュレーション
では計算時間の許される範囲内でDLは安定に維持されている。しかし,実験では,DLが形成されてから崩壊
するまでの時間τ.とDLを貫流する電流1,、の積がプ定となることが見出されている。7)DLを崩壊に導
く過程は未だ良くわかっていない。
実験では,先ず乱流加熱現象が観測され,測定技術の進歩と共に,ダブルレイヤー,イオン波乱流,電子ホ
ールの順に発見されていったが,これら一連の非線形現象の時間的展開は発見の順序と全く逆に進行していた
ことは当然と言えば当然であるが,大変興味深い。次章以下では先ずTHE NU-Hの概要および測定方法等に
ついて簡単にふれた後,時問の経過と共に展開する非線形現象の観測結果を紹介する。最後に,実験条件に即
した境界条件のもとでの計算機シミュレ}ションの結果を示す。
2.実験装置ならびに放電特性の概要
2・1 実験装置の概要
第1章でも簡単に紹介した直線型乱流加熱実験装置THE NU-Hの概略を図2(a)に示す。放電管は内径
7.5cm,長さ164cmの円筒状パイレックスガラス製で,その一端にはプラズマ発生装置であるチタンワッシャー
ガンが,他の一端には真空ポンプが取り付けてある。放電管の外側には10個のコイルが設置され,コンデンサ
バンクより供給される電流で中心磁場4.7kG,ミラー比2.2の準定常ミラー磁場を発生させる。その軸方向の
磁場強度分布を図2(b)に示す。排気には拡散ポンプを用い,全ての実験は4×10}6Torr以下の背圧で行わ
れたρ
最初に,この装置中にチタンワッシャーガンによって作られた密度n,竃(1~10)×1012/cm3,電子温度
Teニ10~15eV程度の水素プラズマを導入する。その結果,P直径4~5cmの円柱状のプラズマができ,こ
れが初期プラズマとなる。プラズマ中には外径
4.5cm,内径3cmのアルミニウム製のリング 表1・初期プラズマの主なパラメータと関係する物理量
電極が67cm離して挿入されている。この電極
は5~20kVに充電された4.26μFのコンデン
サにギャップ・スイッチを介しで接続されてい
る。ギャップ・スイッチを短絡することにより
コンデンサの電圧は短時間(~30ns)に電極間
に移される。その結果,プラズマは後述のよう
に一連の非線形応答を順次示した後,最終的に
は数keVまで加熱される。
電極の構造およびコンデンサから電極への実
際の配線の様子を図2(c)に示す。又,基本的な
プラズマパラメータ値を表1に示す。
物 理 量 略号 数値と単位
電子密度 ne 12 -31×10 cm
電子温度 Te 10eV中心磁場 B 4,7kG
電子プラズマ周波数 fpe 9GHzイオンプラズマ周波数 fpi 210MHzイオンサイクロトロン周波数 fci 7MHz低域混成周波数 flh 300MHzデバイ距離 λDe く7×10-3cm
電子の平均自由行程 λm >450cm電子のラーマー半径 aLe 2.3×10『3cmイオンのラーマー半径(T<1eV) 1
aLi 一2<3.1×10 cm
Spitzer抵抗率1 ρs 2.3×10一5Ωm
プラズマ柱の抵抗 R O,01Ω
イオン音速 CS 4.3×106cm/s
電子の熱速度 Vte 1.9×108cm/s
124
講座 直線型乱流加熱プラズマにおける非線形現象の展開 築島,犬塚
従来から小規模な基礎実験装置においては,可動のエミッシブプローブを用いたサンプリング法による電位
の測定が行われている。8)しかし,THE NU.Hでのプラズマ現象は本質的に確率過程的であり,かつ短時間
内の電圧変動が大きく,高温・高密度プラズマを対象とするため,サンプリング法等は使えない。そこで,図
2(a)に示すように,ラングミュアプローブを放電管中心軸上の5点(z=z1~z5)に設け,1ショットで電位
の多点同時測定を行うこととした。各プローブの先端の電極部は直径0.2mm長さ0.5mmのタングステン線で,
単心のケーブルで高抵抗の電圧分圧器に接続されている。更に,エミッタフォロワによるバッファアンプを経
て波形記憶装置上に多チャンネル同時記録さ
t【μs】れる。これにより,高電圧の乱流プラズマの 300 5 10 15 20 25
電位分布が初めて,約1mmの高い空問分解
と数nsの時問分解で直接的に測定できるよう
になった。THE短U.Hのプラズマでは興味
を持っている期間の電子温度は,プラズマ電
位に比べて十分小さいので,プローブによっ
て測定される浮動電位は,ほぼプラズマ電位
とみなしうる。
20
>
x- 10よ
、>
0
一10
POTENTIAL Vh /CURR叩
(a)
15
10
( メ5 一 ∫
0
一5
2・2 放電特性の概要
印加電圧Vhと電極間を流れる電流I hの
時問変化の一例を図3(a)に示す。最初の8μs
程は電流の値が小さいのでその問を拡大した
のが図3(b)である。電流は,電圧印加直後
約100A迄急増するが,すぐに数十A迄減少
し,数μsの間ほぼ一牢値を保つ。その後,電
流は急増し,最大10kAに迄達する。この電
流の急増に伴い電圧は図3(a)のように減少
する。放電初期における電流制限は回路のイ
ンダクタンスや,プラズマの部分における表
皮効果によっても生じうる。その過程を調べ
るため,実際の回路について各部の回路定数、
を測定し,またプラズマ中の表皮効果による
遅れは等価な回路に置き換え,9)コンデンサ
を含めた全体の等価回路を図4(a)に示した。
図4(a)においてRDLはDLによる電流制限
を表す非線形抵抗で,DLが存在しない場合
250
200
一.150≦
∫・100
50
0 0
1琶”榊
CURRENT lh
一一bL (b)
2 4tlμs】
6 8 10
20
10
ヲ並 0
~も
一10
一20
POTENTIAL FLUCTUATIONψZ雪57cm
(c)
O 5 10 15 20 25
t[μ5】DISCHARGE NO.12電178
図3.放電電圧,電流,電位揺動の時間変化:(a)放電電圧
と電流の時間変化,(b)初期の放電電流,(c)z=57cm
の位置のプローブで観測された電位揺動。
125
核融合研究 第60巻第2号 1988年8月
RDL=0である。この場合の電流波形(classical theory)を実験値と共に図5に示した。またt=0~12μs
の間RDL=100・9,t>12μsでRDL=0と置いた時の電圧・電流波形を図4(b)に示した・図4(b)は図3(琴)
の波形を本質的に再現している。従って観測された電流制限はプラズマの非線形応答によるものと言える。
図3(c)にz=57cmの位置のプラズマ電圧測定用プロープで測定される電圧波形に重畳して観測される電
位揺動を示す。この波形ば,700kHz~10MHzの帯域通過フィルターを通して得られたものである。高域遮
断周波数はサンプリング周期の関係から,また低域遮断周波数は寄生回路振動等を除去するために設定された。
十
EXTERNAL IMPEDANCEl OFCIRCUIT PしASMA POST ANDεしEMENTS RETURN BARS
1.058ρ 0,401μH O,8~μH O.082ρ
R・ し。 Lp↑RP ロ あドド レ
1
SKIN EFFECT
O,77μト1
し51
0,032ρ
Rs
Ls2
100002,86μH
30
(a) lh国 RDし
15
1000
20
>
蓋二10〉
0
一10
,VOLTAGE CURRENT
RDし讐100Ωfor t累O~12μsRDし=OΩ for t>12μs
10
《
x5一 』
0
一5
051015202530 tレ51 (b)図4.放電回路の等価回路とその時間応答:(a)主放電回路の
等価回路。プラズマ部分はSpitzer抵抗を持つ円柱棒と
して取り扱った。(b)この等価回路より計算される放電電
圧と電流の時間変化。なお,RDLはt=O~12μsが
100Ω,それ以降はOΩとした。
一100≦
∫
10
1
CLASS!CAしTHEORY
BOHM LIMlT
EXPERIMENT(SHOT NO,121178)
0.1 1 10
tlμs}
図5、実測値,Bohm電流,等価回路から計算される電流の
時問変化の比較:なお等価回路からの計算では非線形
抵抗RDLを0として計算した。
3.プラズマの非線形応答
3・1 最初のプラズマの応答(phase I)一電子ホールの観測5)
ステップ状の電圧印加直後,プラズマの最初の応答は「電子ホール」の発生である。電子ホールは三つの空問
電荷層から構成され,孤立した正の電位パルスとして観測される現象である。10)
図6に電子ホールの観測例を示す。コンデンサを7kVに充電した後,ギャップスイッチを短絡し,プラズ
マ中の各点における電位変化を記録したものである。特に最初の80~150nsの間,外からは7kVしか印加
していないにもかかわらず,それ以上の電圧の正電位パルスの発生が見られる。この現象は回路的なオーバー
126
講座 直線型乱流加熱プラズマにおける非線形現象の展開 築島,犬塚
>
邑
⑧
10一
5
67cm
57cm
j
Yc富7kVノ
34cm
20、5cm
袋熱2cm
一._一_一一一_鵯._.甲一陶.“鞘聯_{
60 120 180 240
t[nslSHOT NO.151002
電子ホールの観測。
300
ざ5一
騒
t嵩0~300n5
0
図6.
O
シュートではないことが確認されている。この正電位パルスは両電極の中心のz=34cmの位置においてt=
100nsで印加電圧の約2倍に達している。この正電位パルスが,その形状や性質から前記の電子ホールである
と認定された。
電子ホールは最初,陰極近くに発生(t=90ns頃〉し,陽極に向かって移動し,陽極に達した頃(t=
140ns)消滅する。この速度は,T,=10eVとした時の電子の熱速度vt,=1×109cm/sより6.3倍速い。
ここで観測された電子ホールには二つ特徴がある。第一に非常に強いホールであること,すなわち規格化さ
れた電位の最大値はeφpk/TピO=103にも達する。第二に,非常にホールの速度が速い,即ち電子の熱速度の
6.3倍程の速度であるということである。これらの原因は,このホールが電極を介して外部より大きな電位差
を印加することにより発生したことに起因すると考えられる。
これまでに電子ホールに関する種々の理論が発表されているが,11’12)それらはいづれ.も定常性が仮定され
ていたり,捕捉粒子のkinetic効果が無視されているため,本実験結果と矛盾する解が得られている。最近,
飯塚・田中らにより電子ビームが共存し,かつ磁場に垂直方回に有限な広がりを仮定すれば,本実験結果と矛
盾しない解の領域が存在することが示された。13)電子ホールは最初,一次元の計算機シミュレーションによる
二流体不安定性の研究中に,電子の速度分布中に発生した安定な渦として観測された。鞠その後,実験室規模
の比較的低密度の多くのプラズマ実験装置においても,ステップ状の電圧印加時に電子ホールの発生が報告さ
れている。15-17)代表的なものに導波管中での佐伯らの実験や,15)飯塚らのプラズマエミッターでの実験があ
る。16)後で示すように,我々も電極での実験条件にできるだけ忠実な境界条件を設定して一次元シミュレーシ
ョンを行い,実験結果と定性的に一致する結果が得られた。このことは強い非線形現象を解明するには計算機
シミュレーションが不可欠の手段となることを示している。
127
核融合研究 第60巻第2号 1988年8月
3一・2 第2番目のプラズマの応答(phaseπ)一DLの形成2)
電子ホールが陽極に達すると崩壊し,プラズマは,その次の段階の応答を見せる。それが,DLの形成であ
る・それは,図6にも見られるように,正電位パルスが崩壊した後,陰極前面に空問的ステップ状の電位分布
として観測される。その後,その位置は陽極側に移動する。
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噸ト,
20
10
67cm
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20.5cm
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ヲ と 一 2010焦
0~46810’ t lμ51DISCHARGE NO、120993
o 0
SHOT NO.120993
18kV
14kV
10kV
6kV
2kV
0246810, t lμs1
[Al
凶
図7.(a)z翠2,10.5,20.5,34,57,67cmの6点での電位の時間変化。
(b)(a〉のデータの時間空問平面上における等高線。
図7(a)に,陽極と陰極間の6点(陽極を含む)で,この電位の時間変化φ(Zi,t)を測定した例を示す。この
局所的な電位のステップ状変化の位置や動きをより直感的に理解できるよう,時問・空問平面上に電位の等高
線として表したのが図7(b)である・この図では,測定点問の電位は,その両側の測定点の電位を直線補間す
ることによって得た。ここで陰極の電位φ(0)=0であり,陽極の電位φ(z6)=Vhである。図から明らかなよ
うに,外部から印加した電圧は,リング電極の問の空問に平等に分布するのでなく極狭い領域に集中している。
このステップ状の電位差がDLである。DLは最初,陰極の極近傍に発生する。その後,陽極近傍に移動し
t駕3μsから5μsの間そこに存在した後,電極間のほぼ中央に移動し,t=8~10μs問で崩壊する。なお,
この測定ではプローブ間の距離は最も近いものでも10cmであるので図7(b)の空間分解能もその程度に過ぎ
ない。
そこで・このDLの厚さに関する情報を得るため,二つのプローブ間の距離を0.1cm,0.5cm,1.O cmに変化
させ測定した。その結果,間隔が1.O cmの場合は約12kVという大きな電位差が見られるが,0.1cmの場合
は,ほとんど二つのプローブの出力は同一である。このことから,DLの厚さはおよそ1cmの程度であると
見られる。JoyceとHubbardはDLの厚さ4について次の様なスケーリング則を提案している。18’19)
128
講座 直線型乱流加熱プラズマにおける非線形現象の展開
.2-6(e讐)㌦一446・(熟鍔1))翅
築島,犬塚
(1)
これは,筆者らの実験の条件と良く似た境界条件を設定して,広い範囲のパラメータに亘って彼らが行った計
算機シミュレーションの結果から得られたものでe∠φD/T,=10~200の範囲のDLが得られている。ここ
で,eは単位電荷であり,TeはeV単位での電子温度である。このスケーリング則によると,THE NU-Hの実
験条件である∠φD=13kV,n,=1×1012/cm3の場合,2鑑0.5cmとなる。この値は,前記の実験結果と,
おおよそ一致している。
同様な測定により,プラズマ内部では半径方向にはほとんど電位差は存在しないことが確かめられている。
図7(a)を見ると,外部からは正の電圧を印加しているにもかかわらず,z=2cmの位置で一(500±200)V
程度の負の電位が発生していることが分かる。通常,この負電位はステップ状の電位差の陰極側,すなわち陰
極近傍で観測される。文,DLによる電流制限の原因となる。
次に,この様なDLがどのようにして形成されるかを見てみよう。図3(c)に示したようにDLの形成時お
よび崩壊時には強い電位揺動が観測されるρ図7(a)に示したショットにおいて,z=10.5cm,z=34cm,
およびz=57cmの3点において観測された電位揺動のパワースペクトル分布を図8(a)~(c)に示した。いず
れの位置においても放電の極初期(0~2,μs)ではf=1~10MHzに亘ってブロードなスペクトルが観測される。
二つのミラー磁場の中央部の磁場に対応するイオンサイクロトロン周波数は7MHzであるから,観測された
スペクトルの高域部分はイオンサイクロトロン周波数領域に対応し,低部分はイオン音波ならびにドリフト波
に対応すると考えられる。後述の一次元シミュレーションではDLの形成時にはイオン音波乱流のみが観測さ
れている。同じくシミュレーションでは電子ホールの崩壊に伴って電子分布関数の広がりが生じており,又,
り実験ではルビーレーザ散乱測定によりT,箕言O eVまで上昇していることが観測された。一旦DLが形成され
るとミラー中央部および陽極部での電位揺動は殆ど消える。
このよう実験結果は以下に述べるSchame1らのDL形成のシナリオ2q)に大体一致する。最初,T,/Ti>3,
Vd>0.5Vteの条件のもとで,イオン音波不安定性が発生する。次にその不安定性が成長し,電位の谷であ
るイオンホールが形成される。この様な電位の谷は今まで電流を運んでいた電子の一部を反射する。結果,電
子の流れに対しホールの下流側は電子が不足し,上流側は電子が過剰となる。この空間電荷が電位を形成し,
非対称なイオンホールであるイオン音波,DLが形成される。この時,プラズマに外部から電位差が加えられて
いると,中性なプラズマ領域は電位差を非中性的なこのDLの領域のみに担わせようとする。これは,発生し
たDLの電位差が外部から印加した電圧より小さいため,イオンにビーム成分が発生し単調なDLの場合の分
布関数の形状に近付いていくことに対応する。そg結果ラ∠φD=1~2Te/eであったイオン音波DLが
∠φD》Te/eの単調なDLに発展する・佐藤らのシミュレーション、にタると・21)このイオン音波型のDLlよ
Bohm電流以下でもイオン音波不安定性がトリガーとなって発生することが示されている。PerkinsとSunも
理論的に分布関数の状況によっては,非線形Vlasov・Poisson方程式の定常解として,無電流でもDLが得ら
れることを示している。22)
,129
核融合研究 第60巻第2号 1988年8月
0
一10田1乱i
-20
0~2,μ5
2~4μ5
4~6μs
6~8μ5
14~16μs、
」 』 」
5
μS
3μ5
10μ5
~12μ5
2~14μ5・
4~16μs・
Z雷10、5cm,
0 2 4 6 8 10
f[MHzlSHOTNO.120993◎
O
O -1002で
一一20
o~㍗5
一10 国 で一20』一
一30
2~4μ5
4~6μs
6~8μs
L一
μS8μs
10μ5 軒
⊃~12μs
2~14μs
雷14~16μs・
Z嵩34.Ocm、
0 2 4 6 8 f【MHzl SH6TNO.120白」3て6)
10
o
一10 国 ユー20
一30
0ロー10三
一20
0^レ2μ5
2~4μ5
4~6μ5
6~8μs
8~10μ5
・4f=500kHz
一
μSOμ5
~12μs
2~14μ514~16μず
o
一10
00 ℃一一20』一
一30 0 2 4 6 8 10 1Z翠57ρcm f IMHzl
SHOT NO.120993(c)
図8.z=10.5cm,34,0cm,57.O cmの電位の時間分解されたパワースペクトル。
130
講座 直線型乱流加熱プラズマにおける非線形現象の展開 築島,犬塚
3・3 第3番目のプラズマの応答(phase皿)一DLの崩壊と乱流加熱
図3(a)の電圧・電流波形からも明らかなように,DLが発生し電流制限が起こっている期間は数μsから数百
μsの寿命で終了し,その後は,プラズマは通常の線形抵抗としてふるまう。数多くの実験に於て,このDLの
寿命はショット毎に変化していたが,寿命に対する規則的な影響を初めて認めたのは,初期プラズマの電子密
度を変化させた場合であった。又,DLが発生している間に流れる電流値の最小値IDL(図3(b)参照)も初期
電子密度の影響を受けることが見出された。流体モデルでは,DLが定常に維持される為にはDLに流入する
電子電流密度はBohm電流密度,JB=en,(2Te/n,)1/2,よりも大きいことが要求される。23’24)本実験では
DLが形成されている時の電流IhはJBをプラズマ柱の断面に亘って積分した値IBよりも小さい(図5参照)。
Ihが21Bを越えた時刻をDLの寿命τDと定義し,
多くのショットについて2nτDと2n IDLの関係
を求めたのが図9である。比較的,ばらつきも小
さく傾き一1の直線に沿って分布しているのが興
味深y’・この図9の結果はτDとIDLの間に1,L
×τD=onst.という関係が存在することを示唆して
いる。
図9のデータは印加電圧Vhが10kVの場合の
データである。同様の測定をVhを変化させて行
い,得られたデータから各Vhに対するIDLτDを
まとめたのが図10である。Vh<15kVの範囲で
IDLτDは,ほとんど電圧に対する依存性を持たな
い。もしDLの寿命がプラズマに供給されたエネ
ルギーWが或る閾値に達するまでの時問に対応
していると仮定するならば,W=VhIDLτDであ
るからIDLτD㏄Vh-1の依存性を持つはずである。
図10の結果は,この仮定に対し否定的である。し
たがって,DLの崩壊を引き起こす機構を考える
場合,鍵となる関係は1 τ=const.である。 DL Dこの式は,その領域を通った電子の数Nがある臨
界値Ncに達し之時,DLの崩壊が起こることを
意味している。この装置でのNcの値は実験的に
次式で与えられる。
100
の 10さ
β
1
O o o
o o ぎ 。
8♂・. 。馨 9%
ooo
o o o o oo o
τD㏄塵Dご
IDLτDN 属5.6×1015C
(2)
肇0 100 1000
1DL(A)図9、ダブルレイヤーを流れる電流とダブルレイヤーの
寿命の関係。
2.0
( 1.500Io乙1.Oβ
呂
O.5
oO 5 10 15 20
Vh(KV)図⑩.ダブルレイヤーの崩壊までに流れる電荷量の
加熱電圧依存性。
e
131
核融合研究 第60巻第2号 1988年、8月
これ、らの電子がDLを維持していた条件を変えてしまうと考えられる。プラズマ・壁相互作用や電離過程,プラ
ズマ中の不純物の影響等が検討されているが,未だ,その物理は十分に理解されていない。
DLの崩壊時に再び電位揺動は活発になる。図3
(c)および図8に見られるようにt<τDにおいて,
崩壊の前駆現象として電位揺動が成長し始めており,
同時にIhも徐々,に増加している。t=τDとなる頃か
ら玩は指数関数的に急上昇し,電位揺動のスペク
トルも広がる。t≧τDの過程が,従来から,いわゆる
乱流加熱と呼ばれている現象に対応する。
乱流波動のため電子の実効衝突周波数が大きくな
り,自由飛行距離がDLの厚さより短くなるから
DLが壊れるのか,逆にDLカ1何らかの原因で維持
できなくなり,DLによって支えられてv)た高抵抗
が減少し,電流が急上昇するため乱流波動が励起さ
れるのか,は議論の別れるところである。実際には
両者がお互いに影響し合って現象が展開するものと
考えられる。DLを崩壊に導くトリガーとなる原因
については今後の研究に待たなければならない。
電流が増加し,電子温度が上昇するとTi XVH
(383.4nm)やO VI(381.1nm〉といった不純物多価
イオンからの放射光が観測されるようになる。これら
12
ぞ 8三
f 4
01000
>Φ
一100Φ
←
10
lal
【bl
t,ll-l
i 0 12.5 25 37,5 50
t[μs】
図11.トムソン散乱法と不純物放射法で測定された
電子温度の時間変化。(a)放電電流の時間変
化,(b)電子温度の時間変化。
イオン線の強度が強くなる時刻から,その時刻におけるTeの大体の値が推定できる。ルビーレーザ散乱法お
よび不純物多価イオン線の観測から求めたDL崩壊前後における電子温度の時間変化を図11に示した。DL崩
壊時にT,が数keVに達することはX線測定25)および,電子サイクロトロン放射測定26〉からも確かめられて
いる。電子温度が母高値に達した後,急速に減少する原因の一つとして制動放射損失の増大が挙げられる。
4.計算機シミュレーション
4・1,シミュレーションの必要性とモデルの選択
Dしのように高度に非線形で過渡的に変化するような現象では,通常,定常状態を仮定した琿論による解析
では不十分である・又・逆に実験では・パラメータの中には測定が不可能なものも存在するし・実験条件を狩
立に変化させることが難しい場合が多6。例えば,THE NU.Hのような比較的高密度のプラズマでは時々刻々
の分布関数を測定することは非常に困難であるし,磁場をなくして実験を実施することは不可能である。その
様な観点から,プラズマの計算機シミュレーションは理論と実験の橋渡しをする有力な情報を与えてくれると
期待される。
132
講 座 直線型乱流加熱プラズマにおける非線形現象の展開 築島,犬塚
プラズマを模擬する計算機シミュレーションは大きく二つに分けられる。プラズマを流体近似で取り扱う
MHD(逗agnet唾ydro“ynamic)シミュレーションと,各粒子の速度分布まで考慮する運動論的(Kinetic)シミュ
レーションである。DLを初めとする非線形現象は粒子の速度分布の変化が本質的な現象である場合が多いの
で,我々は後者を採用した。さらに,運動論的シミュレーションには超粒子一つ一つの運動を追うPIC法と
分布関数の変化を追うVlasovシミュレーションがある。Vlasovシミュレーションは計算時問がかかるが精度
が高いという特徴を持つ。そこで,2次元の場合はPICコード,1次元の場合はVlasovコードを採用しシミ
ュレーションを実施したが,今回は主に1次元のシミュレーションで得られた結果6)について紹介し,2次元
での結果については,別の機会に譲ることとする。
磁場中の粒子の運動であるサイクロトロン運動を正確に模擬するためには,二次元空間以上でシミュレーシ
ョンを実施する必要がある。今回のシミュレーションは一次元であり,この現象の正確な記述は無理であるが,
磁場の強さの空間的変化により発生する磁場に平行方向の力のみは計算に取り入れ,ミラー磁場の効果を調べ
ることは可能である。これは,実効的なポテンシャルとして働く。この効果は,プラズマが高速で流れている
と大きな電位差の発生原因となることも報告されている。27)
4・2 システムサイズと初期条件および境界条件
最初,システムの中には一様に分布した温度TeO-TmのMaxwell分布のプラズマが存在しているとする。
又,初期のドリフト速度VdOは電子・イオン共に0とする。このプラズマに対しl t=0にEo L=一φ0とな
るような平等な電場Eoをかける。ここで,Lはシステム長であり.,φ0はx=Lに外部から印加した電位で
ある。x=0の電位は0と設定した。ミラー磁場は,図12に示すような簡単な分布を仮定した。ただし,ミラー
比は実験の場合と同じく2。2に選んである。文,電子とイオンの質量比は計算時問短縮のため64という値を採
用した。時問の単位ステップは∠t・ωpe=0.1に,空間の単位ステップは∠xノλD,=1に選んだ・
分布関数f(x,v,t)が与えられると,電位の
空間分布φ(x,t)は固定された電位の境界条件
の下で(即ち,・Dirichlet条件)Poissonの方
程式を解くことにより得られる。単位時間ス
テップ毎に,1境界に達した粒子の数も計算さ
れるが,これは実際のプラズマでは,境界で
ある電極に達し外部回路に流れる電流となる
ことを意味する。システム全体の粒子数を保
存するためには,何等かの方法でシステムの
外に出た粒子を補給してやる必要がある。
実際の実験装置では,両電極はコンデンサに
接続され,この外部回路に流れる電流は,x=
0とxニLで等しい筈である。従って,一方
2
⇒三100
0
u Bm
Bo ⇔20λDe
O 20 40 60 80 100,
X/λDe図12■シミュレーションでの磁場分布。
133
核融合研究第60巻第2号 1988年8月
の境界から飛び出した粒子は他方の境界から飛びこませることとした。単純化のために,
温度に対応する半Maxwell分布とした。
その分布関数は初期
4・3 シミュレーション結果
上述のモデルでシミュレーションを実施し,次のような結果が得られた。システム長が100λDeの場合の電
圧印加後の陰極・陽極間の5点での電位の時問変化を図13に示した。この図から明らかなように,最初の過渡
的変化がωpet=~150まぞ続く。この間は高周波の振動は見られず,低周波の振動が支配的である。しかし,
この過渡的変化の期間の後では,高周波成分が現・
れてくる。.この高周波分を取り除くと,図13は
THE NU.豆での電位分布の測定結果である図7
(a)に対応し,DLの形成が見られる。なお,実験
では測定系の周波数特性から高周波成分は観測に
かからない。電圧印加直後には,やはり外部印加
電圧以上の部分が発生する。システム長が400λDe
・の場合であるが,この電圧印加直後の部分を拡大
して表したのが図14である。図6の実験結果と対
応した電子ホールの励起と移動が見られる。シミ
ュレーションでの電子ホールは,印加電圧の約3
倍の大きさを持ち,電子の熱速度の約4倍の速さ
で移動する。、
電位の空間分布をより詳細に見るために,図13
を空間座標のグラフとして書き直したのが図15で
ある。なお,磁気ミラーの位置を点線で示してあ
る。DLは,最初,陰極前面において発生し,約
VDL=(T.。/mi)1/2の速度で陽極方向に,二つの
ミラー間の領域を移動する。そして,陽極側のミ
ラー点に建すると反射されるように見える。反射
後,DLは急速に陰極側のミラー近傍まで移動する。
又,負電位とをる領域がDLの陰極側に常に存在
していることがわかる。なお,DLの厚さも,実
験結果と同様」・yceとHubbardのスケーリング則
にほぼ一致する。
流体モデルでは,密度キャビティ(密度が平均値
よりも小さくなる部分)がDLの領域に発生する。
50
408ミ30騒
020
10一
90λDe
、
、、㌧
L曽 _L L .』
ノー 帽 甲DeOλDe 1
、、、、
、’、、
50λDe 30λDe
0λDe 、
50
40 830ト も20Φ
10
0
0 1002003◎0400500600 ωpe t
図13.ダブルレイヤーの計算機シミュレーション。
150 1200Φ
ト 90ぺ悪Φ 60
30
360λDe
㌦掌一一一匂{
幅 一 幡 ・ 一甲
1噂 亀 、 、一一一蝉調
00λDe
20λDe40λDe
”’”曳、 ㌧、
・、、も
図14.
150
120 ロ goρ も 60Φ
30
0
0 50 100 150 200
ωpe t
電子ホールの計算機シミュレーション。
134
講 座 直線型乱流加熱プラズマにおける非線形現象の展開 1築島,犬塚
」く
ト
zωト
o巳
50
40甲’
30
20
10-
O一
熟
60
〈
I OO
.一」_」一._」顧_一
εつo♂
200、
400
600ノ
へ1 、
へ’ 、
’ 、
0 20
o Φ ←50・\
も40 Φ
」30く F20Z u トI O O
ほO40 60 80 i OOX/λDe
図15.シミュレーションによる電位の空聞分布:
ミラー磁場の位置を点線で表してある。
◎
Z\Φ
z
3.O
,2.5
2。0
.5
.0
1_
プ、
0.5・
・0.O
’
’
、
、
lON
ELECTRON
%et=600
」一L
‘
1‘
ll巳
専
匪
1
O
図16、
20 40 60 80
X/λ、De
電子とイオンの密度の空間分布。
100
5.O
4.O
の
ρ 13.Oう
\の
一》 :2.O
。O
O.O
εLECTRON・ i(a) 0
m -l O亙
一20一
1~88
89~216
O 200 400 600 800 1000
ω t pe
217~344
5.0
345~472
入 bり んDe
∠f 一〇,40ヂpi
騨
一6
344
472
~600
4,0
_ 3.0の「》
>う 2。O
lON (b)図18.
X 篇50λDe
1.O
O.O
0 200 400 600 800 1000
ωpet
図17.ミラー磁場が存在する場合の電子及びイオン
電流の時間変化:なお1.4付近の水平な線は
Bohm電流に対応する。
謹 O
-I O- o自 で 一 一20
-300510152025 f/fpi
xニ50λDeの点の電位揺動のパワースペクトル。
本シミュレーションにおいても,図16に見られる
ように二つのミラー問の領域全体に広がった密度
キャビティが発生している。
電子電流J,およびイオン電流Jiの時問的変化
を図17に示した。ここで」,/Jt,=Ji/Jtl=百
の直線はBohm電流に対応する電流値を表してい
る。最初の過渡的変化の後,電流はある一定値に
135
核融合研究 第60巻第2号 1988年8月
近付いていく。ωP,t>600においては,・ほぼ定常状態に達し,Langmuirの条件J,/Ji一(mi/m,)1/2は満足
される。しかしながら,J,/Jt,<厄であるのでDLを流れる電流は実験の場合と同様,Bohm電流以下とな
一っている。因みにミラー磁場がない場合にはJ,は低周波で変調され,又,平均値はBohm電流より大きくなぐ。
・x=50λDeの点の電位揺動から得られた周波数スペクトルを図18に示した。大きなピークが0周波数近傍と
10fpl付近の2箇所に見られる。この低い方の成分は主に0<f<fpiの範囲に分布することからイオン音波で
あり,高周波成分はf>fp,一8fpiの範囲に分布することから電子プラズマ波である。図13,14,18等から明
らかなように,この高周波成分が現れてくるのは,ωp,t>100のDLが形成された以降であり,DLの形成
以前には,イオン音波しか見られない。このことから,このDLの形成に関係しているのは,イオン音波であ
ることが示される。しかし,シミュレーションでも実験の条件と同一にするように初期プラズマの電子温度と
イオン温度は等しくとってあるので,そのままではイオン音波は励起されにくい。この謎を解決するのが,電
子ホールによる電子加熱である。電子ホール発生時の電子温度の変化を図19に示す。この図はPICコードを
用いて実空問2次元,速度空問3次元としてシミュレーションを行ったものである。ωp.t=40の時刻には電
子ホールは,図の中央付近にあるが,それより陰極側の領域(z/λD,=15~70)の電子の分布関数の広がり
から,電子温度の上昇が示される。さらに電子ホールの陽極方向の移動に伴い,ωp,t=75の時刻には,ほぼ
全ての領域の捕捉電子の分布関教が広がった状態となる。この間,実験でも電子温度が上昇していることが観
測されることは,既に第3章で述べた。又,図19では,イオン温度は,ほとんど変化していないので,電子ホ
ール崩壊後はT,;≧3Tiが実現している。これらの結果から,実験の場合と同様,電圧印加後,まず電子ホール
じ electron ion
l O,0
> O.O
一10.0
ωpet=O
.0
> O.O
一i.O
ωpet=0
7
’O,O
Z/λDe
I OO.0 0.O
I O.O
>・ O.0
一10.0
Z/λDe・100.O
ωpet 40
璃’一P‘ ’勺ヲo ㌧一殉■●%¶幽
歩
1.0
> 0・O.
一1.0滞
ωpet=40
0.0
z/λDe
l OO.O O.O 100.0’Z/λ’De
図19.電子ホール発生時の分布関数の変化。
136
講座 直線型乱流加熱プラズマにおける非線形現象の展開 築島,犬塚
が発生し,次に電子温度が上昇し,イオン音波が励起され,それが引金となってDLが形成され為と吟うシナ
リオが成り立つ。
この様に,シミュレーションの結果は,実際の実験結果と定性的な一致が多く見られ,実験結果の物理的な
解釈に大いに役立っている。しかし,1一つだけ実駿とは異なっている点があり,それは実験でのようにDLの
崩壊が見られないことである。これは,シミュレーションでは無衝突プラズマを仮定しており,電離等の原子
過程を組み入れていないためと解釈されている。
5.おわりに
直線型乱流加熱実験装置THE NU・Hを用いた,比較的,高温・高密度のプラズマでの非線形現象に関する
実験結果について招介した。この様な,高温・高密度領域での基礎実験は,核融合炉心プラズマや,宇宙プラ
ズマ等との関連から重要な意味を持つものであるが,本文中でも指摘した通り,低温プラズマでは余り問題と
されなかった,プラズマ中の不純物や,プラズマ・壁相互作用等が現象に影響を与えている可能性が出てくる。
今後,その様な点が改善されれば,新し)・プラズマ領域の非線形の物理が,より明確にされるであろう。
参 考 文 献
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2)H.Inuzuka,Y。Torii,M.Nagatsu,and T。Tsukishima:Pもys.Fluids28(1985)703.
3) S.M.Hamberger and J.Jancarik:Phys.Fluids15(1972)875.
4〉E.1.Lutsenko,N.D.Sereda,andL.M.Kontsevoi:Sov.Phys.JETP40(1975)484.
5)H.Inuzuka,A.Suzuk玉,M.NagatsuandT。Tsukishima:Physica Scripta37(1988)542.
6) H.Inuzuka,Y.Torii,and T.Tsukisもima:Phys.Fluids28(1985)2106.
7)H.Inuzuka,Y・Torii,M.Nagatsu,and T・Tsukishima;Phys.Fluids30(1987)3294.
8)藤田寛治:日本物理学会誌39(1984)366.
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11) S.Buiarbarua and H.Schame1:J.Plasma Phys.25(1981)515.
12)M.Kono,M.Tanaca,and H.Sanuki:Physica Scr圭pta34(1986)235.
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14) H.L.Berk,C.E.Nielsen,and K.V・Roberts;Phys.Fluids13(1970)980.
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22) F.W.Perk圭ns&nd Y.C.Sun:Phys、Rev.Lett.46(1981)115.
23) L.P。Block:Cosmic Electrodyn.3(1972)349.
24) L.P。B10ck:Astrophys.Space Sci。55(1978)59.r
25)M・Nagatsu・0・Asa甑K・Y・shi・kalandTTsukishima;JpnJ・ApPLPhys・19(1980)955・
26)M.Nagatsu,H.Inuzuka,and T.Tsukish量ma:Jpn.」.AppL戸hys.21(1982)L366.
27)H.Washlmi:珈P70c.Xyl1加7Co犀oηPんeηo処eηα珈∫o痂θ4Gαsεε,Budapest,1985.
137
JT-60の最近の加熱実験から
宮直之・JT-60チーム*
(日本原子力研究所)
(1988年7月6日受理)
From Recent Results in JT・60Heating Experiments
Naoyuki Miya,a,nd JT・60Team*
(ReceivedJuly6,1988)・
Abstract
Duri皿g the last severa豆month of JT・60 0peration in 1987,experiments in kydrogen
plasmas have been undertake皿with up to3.2MA of plasma current on hmiter discharges。
Tbemaximumelectr・n4ensityof13×101gm・3andtheenergyconfinementtime・fO.15・0.18sec were obtained with heating power of13・20MW。The total plasma stored energy of3.1MJ,
a皿d ne(O)・τE of1.4・1.8×1019mq3sec were achieveα.Ma皿y short periods of H・mode phase are
found in outsi{le X・pointαivertor discharges with:NB or NB十RF(LH or IC)heating power
of more than16MW and electron density of2・4.5×1019m冒3.
*Member list of JT・60Team is give皿in references【12,131
Keyw◎rds:
JT.60,he&ting experi】ment,H.mode,outside X.point divertor,ne(0)τE,locked mode,
NBI,RF,
1. はじめに
臨界プラズマ条件の達成を目指したJT-60計画は,原子力委員会が1975年(昭50)7月に策定した「第2段
階核融合研究開発基本計画」における中核プロジェクトとして発足した。JT-60の実験は1985年4月8日の
ファーストプラズマに始まり,1986年7月までのジュール実験1)一4)1987年3月までの加熱実験5)一10) と
続いて,1987年6月からは本格的な加熱実験11)一14)に着手した。同年4-5月に,第一壁材料の一部交換や
電源増強等を実施してプラズマ性能の一層の向上を図った結果,リミター配位における高プラズマ電流放電に
おレ、て,プラズマのパラメタが臨界プラズマ条件の目標領域に到達する成果を得た。またダイバータ配位では,
高効率閉じ込めモード(Hモード)の発生を確認するに至った。
1987年に得られた実験成果の概要については,既に速報として本誌「内外情報」欄15)で紹介している。
このなかでも特に技術的,物理的に興味深いと思われるものに,高プラズマ電流放電時に発生したMHD不安
・ぬんα拘3’onRεsθακhE:s励1むh〃2εnち’海卯nオ∫o規icEn6柳Rε58ακh加s∫i∫膨,肋んα,伽脈∫311-01.
138