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名古屋大学大学院情報科学研究科 Graduate School of Information Science, Nagoya University 研究者総覧 2007年版 INFORMATION SCIENCE NAGOYA UNIVERSITY INFORMATION SCIENCE NAGOYA UNIVERSITY

研究者総覧 2007年版 - is.nagoya-u.ac.jpis.nagoya-u.ac.jp/souran/pdf/2007-separate-vol.pdf · 図が、2枚の布に分かれるかどうかを判定する問題は、グラフ

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名古屋大学大学院情報科学研究科 Graduate School of Information Science, Nagoya University

研究者総覧 2007年版 INFORMATIONSCIENCE

NAGOYA UNIVERSITY

INFORMATIONSCIENCE

NAGOYA UNIVERSITY

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目 次

計算機数理科学専攻 2

情報システム学専攻 5

メディア科学専攻 9

複雑系科学専攻 17

社会システム情報学専攻 25

附属組込みシステム研究センター 30

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計算機数理科学専攻

情報数理基礎論講座

組合せデザインとその多重アクセス通信への応用

籾原 幸二●もみはら こうじ

博士後期課程1年

指導教員:神保雅一教授

多重アクセス通信方式では複数のユーザが同時に通信を行うため、

データの衝突を可能な限り回避しながら通信を行うことが求められ、

データの符号化及びビット誤りを訂正するための誤り訂正符号と、

データのスロットへの割り振り方を決定する組合せ符号(光直交符

号・衝突回避符号・周波数ホッピング系列等)を併用し通信を行う。

近年、そのような通信モデルで用いられる組合せ符号と、デザイン論

で主要な研究対象である巡回的シュタイナーシステムや差集合族との

同値性が示されている。現在の私の研究は、デザインの観点から符号

語数最大の最適な組合せ符号の構成を行うとともに、代数的手法を用

いてその存在性の決定を行うことを目的としている。

情報数理基礎論講座

BIBDの加法構造とその応用に関する研究

澤 正憲●さわ まさのり

日本学術振興会特別研究員PD

所属:神保研究室

私の専攻は組合せ論の中のデザイン理論である。中でもBIBDと呼ば

れるものに興味を持ち研究している。BIBDとは、ある有限集合 Vと

その k- 元部分集合族 B(ブロック)の順序対で、Vのどの2元も一定

数のブロックに出現するものをいう。デザイン論は 1936 年統計家 F.

Yates の論文でデザインが初めて実験計画法へ応用されたことに起

源を発するが、現在ではデザインの存在やその構造の解明等組合せ論

の主要な問題としても重要である。また、情報通信への応用研究も盛

んに行われている。特に私が注目するのは加法構造と呼ばれる構造

で、最近の研究でその構造を持つデザインから新しいデザインを構成

できると解明されてきた。

情報数理基礎論講座

組合せデザインの存在問題とその情報科学への応用

藤原 祐一郎●ふじわら ゆういちろう

日本学術振興会特別研究員PD

所属:神保研究室

私は、離散数学のなかで、組合せデザインと呼ばれる構造の存

在問題、およびその情報科学への応用を研究している。組合せ

デザインとは、簡単に言うと要素の配置の方法である。私は、

有限集合における特殊な配置の方法が存在するための条件を、

組合せ論的手法、代数的手法および極値集合論的手法により研

究している。特に、Paul Erdos が提示した r-sparse 予想を

中心に、関連する組合せ構造を含め、組合せデザインの構成法

および代数的性質を調べている。また、これらの組合せ構造の、

LDPC 符号や RAID と呼ばれるコンピュターの記憶方式など

への応用にも取り組んでいる。

情報数理モデル論講座

滑らかでない係数をもつ確率微分方程式の強い解について

犬飼 清和●いぬかい きよかず

博士後期課程3年

指導教員:松本裕行教授

自然科学、工学においてランダムな運動を記述するために確率微分方

程式の解が用いられる.係数が滑らかであれば確率微分方程式は強い

解をもち基本となるブラウン運動の関数として解を表現することがで

きるが、幾つかのモデルでは係数の値がある集合の上で発散するなど、

滑らかではない係数をもつ場合の考察が必要となる.ランダム行列理

論に現れるモデルを含むドリフト項に特異な点がある場合に関して、

ディリクレ形式の理論を用いて、強い解の存在と一意性を示したので、

現在論文を準備している.今後は、滑らかでない拡散係数をもつ確率

微分方程式に対しても、自然科学や情報理論への応用を視野に入れな

がら、強い解の存在と一意性に関して研究を進める予定である.

計算機数理科学専攻

2

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情報数理基礎論講座

公理的集合論及び巨大基数公理の研究

薄葉 季路●うすば としみち

博士後期課程3年

指導教員:松原洋教授

巨大基数公理とは、通常の数学では扱われないような非常に大

きな集合が存在することを主張する公理である。ゲーデル、

コーエンなどの結果により、様々な決定不可能命題が存在する

ことがわかってきているが、一方で、それら決定不可能命題に

対しては相対無矛盾性の強弱、つまりどれくらい矛盾に近い命

題であるか、は決定可能である。実際、それら命題の無矛盾性

の強さは巨大基数を基準にして分類可能であり、ほぼ線形に並

ぶことがわかってきている。自分の研究はそういった巨大基数

を用いた独立命題間の無矛盾性の分類、および巨大基数より直

接に導かれる組み合わせ的原理の研究である。

情報数理モデル論講座

ラフパス理論とその応用

平尾 将剛●ひらお まさたけ

博士後期課程2年

指導教員:松本裕行教授

ラフパス理論とその幾つかの応用に関して研究している。確率微分方

程式の解は一般にブラウン運動の連続関数ではないことが知られてい

る。しかし、T. Lyons の研究により、確率微分方程式の解はラフに言

えば、ブラウン運動と2次の汎関数をペアにしたものの関数と見ると

き、連続であることが示された。数理ファイナンスにおいて、Wien-

er汎関数の期待値の数値計算は重要な問題の一つである。近年、T.

Lyons と N. Victoir によってWiener空間上の求積公式を用いた計

算法が提案されたが、ガウス測度に関する求積公式を見つけることが

彼らの理論を用いる上で重要となる。現在、球面上の代数的組合せ理

論の手法を用い研究している。

情報数理モデル論講座

関数方程式に対する数値解法の研究

満田 賢一郎●みつだ けんいちろう

博士後期課程3年・COE研究アシスタント

指導教員:小藤俊幸准教授

近年、計算機の大幅なコストダウンに伴い、様々な分野におい

て数値シミュレーションが重要な役割を果たすようになった。

そうした状況の中で、より高度な問題を解決するべく、高性能

な数値解法の開発が急がれている。私の研究は、こうしたニー

ズに応えられる数値解法を開発することである。より具体的に

は、まず、解析学的なアプローチから、新しい数値解法の提案

を行い、次に種々の問題に対する実用的な数値計算スキームを

構築する。最終的には、それらを用いた科学技術計算や数値シ

ミュレーションのためのソフトウェアライブラリ開発を行いた

いと思っている。

計算論講座

ALGORITHMS FOR THE LINEAR ORDERINGPROBLEM

SAKURABA, Celso Satoshi●さくらば せるそ さとし

博士後期課程1年

指導教員:柳浦睦憲准教授

The linear ordering problem (LOP) consists of finding a permuta-tion of rows and columns of a matrix to maximize the sum of theentries above the diagonal. Probably the most well-known ap-plication of this problem is ordering the input/output matrix usedin economics. Although LOP hasn’t being attracting the sameattention from researchers as other NP-Hard problems, manyapproaches have been used such as heuristic methods, tabusearch, scatter search, and integer programming. The first prop-osal of this research is to develop a best performance heuristic forLOP through the appropriate usage of data structures. Using thepeculiarities of the problem studied in the preliminary part of theresearch, the following step concentrates on exact (maybebranch-and-bound) algorithms that can deal with instances with alarger number of elements than the ones existing in the literaturetoday.

計算論講座

繊維産業における組合せ最適化問題の研究

松浦 勇●まつうら いさむ

博士後期課程2年

指導教員:平田富夫教授

繊維産業の分野には、組合せ問題やグラフの問題としてモデル

化できる問題が多く存在する。例えば、たて糸本数、よこ糸本

数が与えられたとき、可能な織物組織の数を求める問題に関し

ては、多くの研究がなされている。また、与えられた織物組織

図が、2枚の布に分かれるかどうかを判定する問題は、グラフ

に関する問題としてモデル化できることが知られている。私は

これまでに、包除原理を用いて、ドビー織機で製織可能な織物

組織の数え上げを行った。現在はグラフ理論を応用して、ド

ビー織機で製織可能な織物組織を増加させるアルゴリズムの開

発を行っている。

計算機数理科学専攻

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計算論講座

グラフ彩色問題の近似アルゴリズムに関する研究

謝 旭珍●しゃ きょくちん

博士後期課程3年

指導教員:平田富夫教授

グラフ彩色問題で最も有名なのは点彩色問題である。それは、隣接している点は必ず異なる色になるよ

うに、できるだけ少ない色を用いてすべての点に色を塗るという問題である。コンパイラにおけるレジ

スタ割当てや、試験の時間割当てなど様々な応用上の問題がグラフの点彩色問題として定式化すること

ができる。しかし、点彩色問題は NP-困難と呼ばれる計算複雑さのクラスに属しており、大規模な問題

例に対して現実的な時間で最適解を求めることは実際上不可能である。そのため、点彩色問題を緩和し、

多項式時間でよい近似解を求めるためのアルゴリズムが研究されている。本研究では、実用的なよい近

似アルゴリズムを見つけることを目的とする。また、グラフ彩色問題を一般化し、その近似アルゴリズム

を見つける。グラフの点彩色問題の近似アルゴリズムの設計に数理計画法(半正定値計画 SDP)が用い

られ、大きな成果をあげた。この手法は性能や実行時間が理論的に解析されている。しかし、実用規模の

問題に対して必要な時間や記憶容量がまだ大きいため実際的な解法であるとは言えない。本研究は SDP

手法を実験的に解析し、改良する。その上で実験の結果を理論的に解析し、より性能のよい近似アルゴリ

ズムを提案する。グラフの点彩色問題は有名な NP-困難問題の一つとして、幅広く研究されている。国

外では、Karger-Motwani-Sudanや Halperin-Nathaniel-Zwickが SDP数理計画法に基づいて、最新

の結果を出している。一方、SDP手法を用いて点彩色問題に対する研究は国内では見られない。グラフ

の辺彩色問題の場合は、中野、西関らが結果を出している。

計算機数理科学専攻

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情報システム学専攻

集積システム論講座

算術演算回路の構成法に関する研究

川島 裕崇●かわしま ひろたか

博士後期課程1年

指導教員:高木直史教授

加算器、乗算器などの算術演算回路の性能はディジタルシステ

ムの性能を決定する大きな要因のひとつである。算術演算回路

には高速、小面積、低消費電力などが要求される。近年の半導

体集積回路技術の進歩により、集積回路は高速、大規模、高集

積化している。一方、消費電力の増大などの問題も表面化して

きている。本研究では、これらの変化に対応した算術演算回路

の構成法を開発し、回路の設計、評価を行う。例えば、信号の

遷移回数を減らすことを重視した構成法を開発し、消費電力の

削減を実現する。

集積システム論講座

算術演算回路のテストに関する研究

鬼頭 信貴●きとう のぶたか

博士後期課程2年

指導教員:高木直史教授

集積回路の設計・製造において、集積回路のテストに大きな関心が寄

せられている。集積回路のテストとは機能に不良のある集積回路を出

荷前に取り除く工程で、ディジタル集積回路の場合、集積回路にテス

トパターンを印加し、想定した正しい結果を出力するかを観測するこ

とで行われる。回路が正常に機能することを確認するのに多数のテス

トパターンを用いると、テスト時間が延び、コスト増加につながる。

そのため、テストに用いるテストパターンの削減は重要である。本研

究では、演算回路の規則的な構造を生かして演算回路を少ないテスト

パターンでテストする手法や、少ないテストパターンでテストできる

ように演算回路を設計する手法の開発に取り組んでいる。

集積システム論講座

誤り訂正符号および暗号の処理のための効率的な手法に関する研究

小林 克希●こばやし かつき

博士後期課程2年

指導教員:高木直史教授

ネットワークやストレージデバイスの発達に伴い、それらの上の情報

の安全性や信頼性の向上がより重要になってきている。そのため、現

在までに誤り訂正符号および暗号の処理についての研究が数多く行わ

れてきている。今後、ネットワークのバンド幅やストレージデバイス

の容量がさらに増加する事が予想され、誤り訂正および暗号の処理を

より効率的に処理できる手法が必要である。そこで、本研究では、

⑴ 専用回路設計のためのハードウェア実装向けアルゴリズムの開発

⑵ プロセッサの命令セット拡張 ⑶ 汎用プロセッサで実行するソ

フトウェアアルゴリズムの開発という3つの観点から、誤り訂正符号

および暗号の処理ための効率的な手法の開発を目指す。

集積システム論講座

超伝導体を用いた集積回路の設計法に関する研究

小畑 幸嗣●おばた こうじ

博士後期課程3年

指導教員:高木直史教授

次世代の集積回路として、超伝導体を用いた単一磁束量子回路

の研究が進められている.単一磁束量子回路は、パルスを情報

媒体として用い、半導体集積回路よりも、高速、低消費電力と

いった特徴がある.パルスを情報媒体として用いるため、通常

の半導体集積回路と論理値の表現法が異なる.そのため、既存

の半導体集積回路向けの設計手法(論理合成法、クロック木合

成法、レイアウト法)をそのまま適用しても、高性能、高品質

な回路を設計することはできない.高性能、高品質な回路の設

計を可能にする、設計手法の研究に取り組んでいる.

情報システム学専攻

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集積システム論講座

単一磁束量子回路による再構成可能な大規模データパスをもつプロセッサ

田中 雅光●たなか まさみつ

研究員

所属:髙木研究室

将来の 10 TFLOPSの性能を持つデスクサイドコンピュータに向けた基盤技術の確立を目指している。メモリとプロセッサの性能向上比の乖離による性能低下(メモリーウォール問題)を克服するため、再構成可能な大規模データパス(LSRDP)を採用する。LSRDPは、多数の浮動小数点演算ユニットのアレイと、それらをつなぐ再構成可能なネットワークから構成されており、メモリアクセスを大幅に削減することができる。実現には単一磁束量子(SFQ)回路を用いる。微細化を進めた CMOSバイアスが、電力密度や配線遅延の増大に直面しつつある一方で、SFQ回路は超高速・超低消費電力な動作とバリスティックな信号伝搬を特徴としている。従来とはまったく異なる新しいアーキテクチャとデバイスに基づいているため、研究領域は多岐にわたるが、特に SFQ回路に適したハードウェア・アルゴリズムと設計ツールについて研究を行う。本研究は名古屋大、横浜国大、九州大と協力して行っている。

集積システム論講座

組込みステムに適したソフトウェアコンポーネントの研究開発

安積 卓也●あずみ たくや

博士後期課程2年・研究アシスタント

指導教員:高田広章教授

近年、機器に組み込まれてそれを制御するコンピュータシステ

ムである組込みシステムが複雑化、大規模化している。それに

伴いソフトウェアの設計生産性が問題となっている。そこで、

我々は、ソフトウェアの生産性を向上させるため、組込みシス

テムに適したソフトウェアコンポーネントの研究開発を行って

いる。さらに、異なったプロセッサ上での動作させるための分

散処理への適応、コンポーネントの資源を守るため、コンポー

ネント間のアクセス制御をおこなう機構の適応も視野にいれ研

究を行なっている。

集積システム論講座

自動車組込みシステムにおけるコンピューティング、ネットワーク、コントロールに焦点をあてたシステム・オン・チップ・セットの研究

石原 秀昭●いしはら ひであき

博士後期課程2年

指導教員:高田広章教授・冨山宏之准教授

我々は、自動車組込みシステムに適したシステム・オン・チップ・セットに焦

点をあてて研究している。近年開発される自動車は、数十個のマイクロコン

ピュータが搭載され、ネットワークで接続されるようになった。これらのマイ

クロコンピュータは相互に協調して、車の安全性、環境への優しさ、快適性を

向上している。そこで我々は、これらのシステム・オン・チップ・セットにお

ける、リアルタイム処理、フォールトトレランス、回路の小型化、低消費電力

化について改善を図ることを目標に研究している。また我々は、これらの課題

に取組むために、プロセッサコアの最適化、コア間の通信手段の改善、マルチ

コア・コンピューティングのフレームワークの開発を進めている。

集積システム論講座

リアルタイム組込みマルチプロセッサシステムの消費電力最適化の研究

菊地 武彦●きくち たけひこ

博士後期課程2年

指導教員:高田広章教授

この研究の目的は、リアルタイム組込みマルチプロセッサシステムの

エネルギー消費の最適化である。近年、組込みシステムにおいてもマ

ルチプロセッサシステムは広がり始め、モバイル機器においてはエネ

ルギー消費が重要な問題だと認識されている。そのため、エネルギー

消費を削減する方法は多く提案されてきた(動的電圧スケーリング、

動的周波数スケーリング等)。しかし、組込みマルチプロセッサプロ

セサシステムにあまり実装されていない。本研究では、実装する方法

を選びエネルギー消費削減効率を確認し、適切なスケジューリングを

マルチプロセッサ向けリアルタイム OS(TOPPERS/FDMP)に実

装する。最終的には最適化技術選択の方法を確立させたい。

集積システム論講座

トランザクション管理可能なファイルシステムの提案

堀江 幸生●ほりえ さちお

博士後期課程2年

指導教員:高田広章教授、冨山宏之准教授

携帯端末は、多様な環境で利用される。組み込みファイルシス

テムは、このような携帯端末の構成要素のひとつである。それ

は、堅牢な組み込みファイルシステムの研究が、以前よりも重

要になっていることを示す。我々は、堅牢な組み込みファイル

システムを開発するにあたって必要な手法を提案する。この手

法は、組み込みシステムで広く普及する FATファイルシステ

ムに応用可能であり、ファイル単位による永続性を確保するこ

とを可能にする。

情報システム学専攻

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集積システム論講座

時間保護機能をもつ組込みシステム向けリアルタイムOSに関する研究

松原 豊●まつばら ゆたか

博士後期課程2年

指導教員:高田広章教授

近年、ハードリアルタイム性を要求される組込みソフトウェア

の肥大化・複雑化が顕著である.本研究では、複数のリアルタ

イムアプリケーションを単一のプロセッサ上に、容易に統合す

るための時間保護機能を提案する.時間保護機能とは、統合前

の環境において時間制約を満たせるアプリケーションが、統合

後の環境においても時間制約を満たせることを保証する機能で

あり、あるアプリケーションのバグなどの障害が、別のアプリ

ケーションに波及することを防ぐことができる.本研究では、

さらに、既存のリアルタイム OSをベースにプロトタイプシス

テムを構築し、評価実験・機能検証を通して、実用性の高い研

究成果を挙げることを目標としている.

ソフトウェア論講座

潜在意味モデルを用いた大規模コーパスからの語彙知識の自動獲得

萩原 正人●はぎわら まさと

博士後期課程2年

指導教員:外山勝彦准教授

語彙に関する知識は、自然言語処理において最も基礎的かつ重要な知識源であ

り、情報検索やシソーラスの自動構築など幅広い応用がある。人手による獲得

は、被覆性および維持管理の観点からコストが高いため、大規模コーパスから

語彙知識を自動で獲得する研究が行われてきた。語彙知識獲得タスクは、⑴言

語モデルなどの獲得手法および⑵有効な文脈情報の選択の二つのフェーズから

構成される。前者には、潜在意味モデルの一つである PLSI(確率的潜在意味

インデクシング)を用いると、スパースネスおよびゼロ頻度問題を軽減し、単

なる出現頻度を用いた従来手法と比較して類義語獲得の性能を改善できること

を示した。後者については、文脈情報の様々なカテゴリに注目し、実験を通じ

て文脈情報選択が有効であることを確認した。

ソフトウェア論講座

Software Refactoring Technology

Islam Md. Atiqul●イスラム アティクル

博士後期課程3年

指導教員:阿草清滋教授

The Software is enhanced, modified, and adapted to new requirements, the code

becomes more complex and drifts away from its original design, thereby lowering

the quality of the software. Better software development methods and tools do

not solve this problem because their increased capacity is used to implement

more new requirements within the same time fame, making the software more

complex again. To cope with this spiral of complexity, there is an urgent need for

techniques that reduce software complexity by incrementally improving the inter-

nal software quality. The research domain that addresses this problem is referred

to as restructuring or in the specific case of Object-Oriented software develop-

ment, refactoring.

ソフトウェア論講座

静的検査によるネットワークプログラムの高信頼化

今井 敬吾●いまい けいご

博士後期課程3年・

附属組込みシステム研究センター研究員

指導教員:阿草清滋教授

通信プロセスモデルを基礎として、関数型言語のための高信頼

なネットワークプログラミングを開発している。このフレーム

ワークは p計算の型システムを忠実にエンコードしているた

めに通信の失敗がなく、入出力に関して向き付けされたチャネ

ルはプログラムの解析を容易にする。さらに、我々のフレーム

ワークは関数型言語に埋め込まれるため、ホスト言語となる関

数型言語とライブラリで提供される型や関数をそのまま利用で

きる。p計算におけるセッション型の応用により、プログラム

がネットワークプロトコルに忠実に実装されている事を確認で

きる。

ソフトウェア論講座

通信プロセスモデルに基づく組込みシステムの形式的検証

末次 亮●すえつぐ りょう

博士後期課程3年・附属組込みシステム

研究センター研究アシスタント

指導教員:阿草清滋教授

組込みシステムの信頼性向上のための通信プロセスモデルに基

づく検証手法について研究している。特に組込みシステムの例

として、AIBOロボットの制御プログラムを通信プロセスモデ

ルであるπ計算に基づいて形式化および検証を行っている。

我々の形式化は組込みプログラムをその構造を保存して変換す

るため、検証によって不具合が検出された場合にただちに原因

となる箇所を特定することができる。通信プロセスモデルに基

づいて形式的にモデル化することによりその構造および意味か

ら互いに依存しないコンポーネント群に分割して検証すること

が可能となる。

情報システム学専攻

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情報ネットワークシステム論講座

1.進化メカニズムを応用した戦略行動 2.多言語防災情報

田中 正造●たなか しょうぞう

博士後期課程3年

指導教員:宮尾克教授

1.進化メカニズムを応用し、人間を超える思考ルーチンの生成をお

こなう研究をおこなっている。現在、将棋やチェスの対戦では、人間

対人工知能の対戦がおこなわれ、人間の思考を超える人工知能が登場

している。本研究では戦闘シミュレーションに遺伝的プログラミング

を応用し、エージェントの思考ルーチンを進化させることで、戦略行

動を解明する研究をおこなっている。2.災害時に多くの外国人に情

報提供をおこなう多言語防災情報の研究をおこなっている。現在、名

古屋大学 災害対策室で多言語防災情報翻訳システムが稼動している。

このシステムの可用性、操作性、および更なる拡張性に関する研究を

おこなっている。

情報ネットワークシステム論講座

立体映像認知時における水晶体調節の評価

藤掛 和広●ふじかけ かずひろ

博士後期課程3年

指導教員:宮尾克教授

立体映像注視に伴う疲労感の原因は、視覚系の不一致によるとされて

いる。つまり、輻輳はバーチャルな焦点に向くのに対して、調節は画

像表示しているディスプレイなどの実物の位置に合わせられること

で、両者は不一致となる。我々は、独自に開発した水晶体調節測定装

置を使用して、立体映像注視時の水晶体調節のリアルタイム測定をお

こなった。その結果、立体映像注視時に水晶体調節が輻輳焦点の近辺

に移動することを見いだし、眼疲労の原因は、水晶体調節と輻輳の不

一致によるものではないことを示唆した。さらに、新たに開発した水

晶体調節と輻輳の同時測定が可能な装置を用いて、立体映像注視に伴

う眼疲労の原因を明らかにする。

情報システム学専攻

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メディア科学専攻

音声映像科学講座

局所特徴を用いた多様な見かけを持つ物体の認識に関する研究

神谷 保徳●かみや やすのり

博士後期課程1年

指導教員:村瀬洋教授

人間は様々な物体を容易に識別する事ができる。物体認識と

は、人間のこの能力をコンピュータ上で実現する事を目的とし

た研究分野である。しかし現状では、限定された状況のみでの

実現に留まっている。色や形状の物体ごとの大きな違い、照明

変化、視点変化、形状変化、他の物体による部分遮蔽などが存

在する状況では、物体の見た目は大きく変動し、認識は困難と

なる。本研究ではこれら見た目の変化にロバストな認識手法の

構築を行う。局所特徴と呼ばれる物体の部分的な領域の集合を

用いた物体記述法に着目し、新たな認識手法の構築に取り組ん

でいる。

音声映像科学講座

リアルタイム画像処理を用いたヒューマンコンピュータインタラクションの研究

細谷 英一●ほそや えいいち

博士後期課程1年

指導教員:村瀬洋教授

人間が自然な動作で行うジェスチャをリアルタイムに認識するための

基盤となる画像処理技術及びヒューマンインタフェース技術に関する

研究を進めている。特に、カメラで撮影した自己像を用いたヒューマ

ンコンピュータインタラクション手法であるミラーインタフェースを

対象とし、それに適用可能な素手による自然な動作入力インタフェー

スの実現を目的として、生成型学習法を用いたロバストな手の形状や

ジェスチャ認識手法の研究に取り組んでいる。また、自己像表示を用

いた遠隔コミュニケーションにおいて、互いの映像の半透明重畳に着

目したシームレスな共有空間提示手法の研究及び実験による評価を進

めている。

音声映像科学講座

携帯ディジタルカメラを用いた低品質文字の認識

石田 皓之●いしだ ひろゆき

博士後期課程2年・日本学術振興会特別研究員

指導教員:村瀬洋教授

ディジタルカメラにより撮影された低品質画像中の文字やシン

ボルを認識するための手法を検討している。低品質画像を認識

するためには、同様に低品質なサンプルを学習することが必須

となる。しかし、学習データを網羅的に収集することは実用上

困難であるため、学習データを自動生成する生成型学習法を導

入する。画像劣化に対処するため、ぼけやぶれなどの画像劣化

要因をモデル化し、パラメータを定義する。パラメータ制御に

より、劣化の度合いがさまざまな学習データを生成することが

可能となる。現実に即した学習を行うことで、低品質画像の認

識精度改善が期待される。

音声映像科学講座

3D object recognition using appearance manifoldwith covariance matrix

LINA●リナ

博士後期課程2年

指導教員:村瀬洋教授

The Parametric Eigenspace (PE) method has shown high recog-nition capability for recognizing 3D objects. In the PE method,images of each object for each illumination direction are mappedto the eigenspace to obtain a manifold parameterized by the ob-ject pose. However, this method does not give satisfying recogni-tion result when it deals with noisy images. Since we are dealingwith objects from various viewpoints and their images are influ-enced by the presence of noise, it is important to add class densi-ty information, such as covariance matrix, to the system. Ourobjective is to develop a robust 3D object recognition system forrecognizing noisy images. Specifically, we propose AppearanceManifold with Constant Covariance matrix (AMCC) and Appear-ance Manifold with View-dependent Covariance matrix (AMVC) .Experimental results showed that our approach enhanced recog-nition performance as well as performed robust recognition of 3Dobjects under varying viewpoints and translation effects.

メディア科学専攻

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音声映像科学講座

マルチメディアデータ表現と効果的な照合法の研究

田中 弘一●たなか こういち

博士後期課程3年

指導教員:村瀬洋教授

画像や映像のマルチメディアデータ表現と効果的な照合法の研

究を行っている。特に、具体的な映像の構造化例を簡単な教示

という形で与え、それらから人が映像の何に着目して映像の構

造を認識しているかを学習することにより、映像の構造に関す

る知識を獲得し、逆に学習した知識を用いることで、映像から

様々の構造やメタ情報を自動抽出し、認識等に役立てるための

手法を研究している。

音声映像科学講座

実環境を想定したロバストな物体認識技術の実現

高橋 友和●たかはし ともかず

日本学術振興会博士特別研究員

所属:村瀬研究室

カメラで撮影された画像を用いた3次元物体の認識をメイン

ターゲットとし、実際の撮影環境を想定したロバストな認識技

術の実現を目指している.このような画像認識技術は工場にお

ける工業部品の認識や顔認証など、非常に幅広い分野で実際に

利用されている.実環境においてカメラを用いた物体認識を行

う際、照明環境やカメラパラメータ、カメラに対する対象の姿

勢・位置の変化による対象の見えの変化が認識性能を低下させ

る大きな要因の1つとなる.これを解決するために認識技術の

理論面での強化を図るとともに、認識技術の ITS(Intelligent

Transport System)や放送映像メディア理解などへの新しい

応用に取り組んでいる.

音声映像科学講座

運転行動信号のモデル化・予測に関する研究

西脇 由博●にしわき よしひろ

博士後期課程1年

指導教員:武田一哉教授

安全、快適と感じる走行パターンや、運転操作方法は個人によ

り異なり、安全性、快適性の向上を図るためには運転者ごとの

運転をモデル化する必要がある。自動車走行時に観測される信

号である走行観測信号の内、特に運転者を直接観測して得られ

る信号である運転行動信号に着目し、運転行動信号のモデル

化・予測を行う。従来、速度や加速度などの車両に着目したモ

デル化・推定手法が数多く提案されているが、本研究では、統

計モデルを用い、運転者が直接操作するアクセル、ブレーキペ

ダル操作量のモデル化・予測を行い、速度や車間距離などの走

行環境とペダル操作量の関係を調査する。

音声映像科学講座

車内における音環境評価と聴覚インタフェースに関する研究

星野 博之●ほしの ひろゆき

博士後期課程1年

指導教員:武田一哉教授

自動車まわりの音とドライバとの関係に注目して、快適性向上の側面

からは、車内の音環境の評価手法について、安全性向上の観点からは、

車外の車両周辺の情報を検知し、それをドライバに音で知らせるドラ

イバ支援システムとその聴覚インタフェースについて研究を行ってい

る。自動車内には、今後もいろいろな情報システムや安全システム等

が車載されてくるため、より高度化されたドライバとシステムとのイ

ンタフェースが必要である。その解決手段の一つは、最近盛んに研究

されている音声対話インタフェースであると考えており、特にドライ

バと親和性の高い音声対話インタフェースを実現するための研究を進

めたい。

音声映像科学講座

マルチモーダル運転信号を用いた運転行動のモデル化

MALTA, Lucas●マルタ ルーカス

博士後期課程1年

指導教員:武田一哉教授

様々な状況におけるドライバの行動運転を理解するために、運

転のプロセスをモデル化する方法について検討している。運転

行動信号、音声、映像及び生体信号などが収録された数百人規

模のマルチモーダル運転データベースに対して、ドライバに影

響を及ぼす可能性がある外的な要因のラベルを付与し、このラ

ベルと上記の信号に基づいて、ドライバが状況を認知・判断し、

運転行動を起こすまでのプロセスをモデル化している。このよ

うな運転のモデリング手法は将来の車両の設計において重要な

役割を果たすと考えている。

メディア科学専攻

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音声映像科学講座

演奏行動の信号モデルとその応用に関する研究

大石 康智●おおいし やすのり

博士後期課程2年・日本学術振興会特別研究員

指導教員:武田一哉教授

人間の楽器演奏の行動モデルを統計的信号処理手法に立脚して

構築する。演奏表現(音の大きさやテンポ)、また手指の運動特

性が与えられた下での、演奏者ごとの演奏スタイルを予測・説

明する「演奏行動の生成可能な信号モデル」の新しい枠組みを

研究する。階層性をもつ演奏行動信号として音楽演奏をとら

え、実際の演奏行動をノンパラメトリックに学習された信号分

布から演奏者の演奏特徴を表現する。個人性をも表現しうる演

奏行動の数理モデルは、演奏表現を含めた音楽信号の高効率伝

送・符号化、電子楽器の評価、など音楽情報処理全般に利用可

能であると考えている。

音声映像科学講座

実環境における自由発話音声の高精度認識方式に関する研究

小川 厚徳●おがわ あつのり

博士後期課程2年

指導教員:武田一哉教授

本研究では、より幅広い用途で実用に耐え得る音声認識技術の確立を目指

し、実環境における自由発話音声の高精度認識方式の検討を行う。従来の

音声認識研究は、ある種の雑音への耐性を向上させる、高話速発話への対

応を行う、など、音声認識技術の実用化における多くの問題を個別に解決

する形で行われてきた。しかし、実環境下自由発話音声では、これらの問

題が複合的に生じる。そこで、本研究では、まず、繰り返し認識の枠組み

において、従来技術の最適な組み合わせ及び適用手順を探索し、認識精度

の向上を図る。次に、認識結果の誤り解析を行い、従来技術の組み合わせ

だけでは対応できない要因を発見し、それに対する新たな技術の開発を行

うことで、更なる認識精度の向上を図る。

音声映像科学講座

マルチドメイン音声対話システムに関する研究

磯部 俊洋●いそべ としひろ

博士後期課程3年

指導教員:武田一哉教授

複数の話題を取り扱う音声対話システムに関する研究に取組ん

でいる.対話音声は発声のゆらぎが大きく認識が困難なため、

発話内容を限定して認識精度を保つ必要がある.本研究ではド

メイン依存の音声認識器を複数駆動して話題を拡張する手法の

確立を目指している.また話題の特定により、フレキシブルな

対話フローの設計が可能となる.複数の音声認識結果の統合で

は、異なる音響モデルと言語モデルから算出される認識スコア

を精度よく比較する必要があり、これらの統計モデルのエント

ロピーを用いた認識スコアの正規化法を提案し、実験により効

果を確認している.

音声映像科学講座

音声インタフェースの高度化に関する研究

原 直●はら すなお

博士後期課程3年

指導教員:武田一哉教授

音声認識技術を利用した実用システムとして、音声による操作

が可能なカーナビゲーションシステムが存在している。しか

し、現在の音声認識機能に満足しているユーザは少ない。これ

はシステム設計者が事前に想定した設計が必ずしもユーザの利

用環境と一致しないことが原因と考えられる。そこで、私の研

究では音声認識インタフェースを備えた実用システムを構築し

大規模なフィールドテストを行うことにより、ユーザの利用環

境で起こりうる問題点を明らかにし、より高度な音声インタ

フェースを目指している。

音声映像科学講座

音声認識のための高精度な音響モデル構築に関する研究

坂井 誠●さかい まこと

博士後期課程1年

指導教員:北岡教英准教授

音声認識の性能向上のために音響特徴抽出や音響モデルを高精

度にモデル化する研究を行っている。音声認識で広く使われて

いる HMM(Hidden Markov Model)は音声特徴パラメータ

の時間変動をうまく捉えることができないという欠点を持って

いる。この欠点を克服するために、近傍の音響特徴を結合し新

しい入力とするセグメント単位入力 HMMについて様々な検

討を行っている。特にセグメント単位入力 HMMで用いられ

る次元削減手法に注目し、音声認識しやすいように分離情報を

保持したまま特徴の次元削減を行う手法を検討している。

メディア科学専攻

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知能メディア工学講座

Analysis of response of autonomous nervoussystem in controlling cardiac activity

OLIVEIRA, Fausto Lucena de●オリベイラ,ファウスト・ルセナ・デ

博士後期課程1年

指導教員:大西昇教授

The goal of efficient coding theory is to encode the maximumamount of information using a set of statistically independentfeatures. This theory has been used to explain how the receptivefilters in the brain encode visual and auditory information. Usingthis technique has revealed insights into the organization of neu-ral codes. However, it is supposed that other body systems arealso regulated by brain coding strategies, as the cardiovascularsystem. Is the autonomous nervous system regulated by similarprinciples ? Here we propose to investigate the possibility thatthe time series extracted from the heart, which is modulated bythe autonomous nervous system, can be modeled by efficientcoding. The highlight of this analysis distinguishes the healthyhuman heartbeat among pathologic arrhythmia.

知能メディア工学講座

Automatic features extraction using evolutionarycomputation for image recognition

UKRIT, Watchareeruetai●ウクリット,ワッチャリールタイ

博士後期課程1年

指導教員:大西昇教授

Feature extraction is one of the processes that significantlyaffect the accuracy of image recognition systems. Generally, thisprocess is designed by human experts based on their knowledgeand experience, and under time limitations. This implies that onlya part of feature space, not from the entire space, can be ex-plored, and some features useful for the problem at hand may beignored. Moreover, since the feature extraction process is typi-cally based on domain-specific knowledge, it cannot be used forsolving the other problems and must be redesigned. To overcomesuch problems, evolutionary computation is adopted to makecomputers that can automatically generate feature extractionprograms for a given problem. From humans, this approach onlyneeds training images and domain-independent knowledge, i.e.,basic image processing and pattern recognition operators. Thecurrent stage of this research aims to find an effective chromo-some representation of such a feature extraction program to re-duce redundancy in search space.

知能メディア工学講座

感覚情報を適応的に統合した事象認識

西堀 研人●にしぼり けんと

博士後期課程3年・COE研究アシスタント

指導教員:大西昇教授

ロボット技術の進歩により人とロボットとの関わり合いが増し、ロ

ボットによる協力支援が期待される.このときロボットが物理的法則

を用い、対象について事前知識無しで自律的に映像情報、音情報といっ

た属性を対応付け概念として学習し、正確に理解することが望まれる.

求心性信号である視聴覚情報のみの統合については様々な研究が行わ

れている.しかし、人間が周囲の事象を理解する時、視聴覚により入っ

てくる情報のみならず自身が行動することによる内的、外的反応から

総合的に判断する.そのため、ロボットが人に近い感覚で事象を理解

し、行動するため視聴覚で得られた求心性信号と身体の姿勢変化に伴

う遠心性信号の統合、すなわち感覚情報の統合を行なう.

知能メディア工学講座

時変系におけるブラインド信号分離

伊藤 雅紀●いとう まさのり

研究員

所属:大西研究室

複数の信号源から同時に信号が発生し、それらの混合信号を複数のセ

ンサーで観測するとき、その混合信号のみを用いて、もとの信号を復

元する技術をブラインド信号分離と呼ぶ.このブラインド信号分離に

ついて、混合系が時変の場合、すなわち、信号源の数が変化する場合、

信号源の位置が変化するなどして、混合の状況が変化する場合につい

て扱う.信号源の位置が変化する場合には、対象を音源とし、センサー

に指向性マイクロホンを用いて、それらの受音部分を近接して配置す

ることで性能の低下を抑えた.また、数の変化に関しては、変化前に

求まった分離フィルタを用いて、少ない計算量で新たな分離フィルタ

を求めて、高速に分離を実現する.

知能メディア工学講座

軟性脳内視鏡を用いた脳神経外科手術ナビゲーションに関する研究

蒋 振剛●ショウ シンゴウ

博士後期課程1年

指導教員:末永康仁教授

軟性脳内視鏡を用いた脳神経外科手術では、脳内の深部術野の観察は

可能になったが、内視鏡の視野が限られているため、内視鏡先端の位

置や視野周囲の組織、さらにその下に隠れている血管や神経などを把

握することは困難である。そこで、本研究では軟性脳内視鏡手術にお

ける手技の正確さを高め、術者の負担を軽減するための手術ナビゲー

ションを目的としている。本研究では位置センサで得られた内視鏡先

端の位置情報と術中に撮影される脳内視鏡ビデオ画像によって、術前

撮影された三次元画像から術野周囲の注目血管や神経の情報を抽出す

る。抽出した情報と内視鏡ビデオ画像を組み合わせ、術者にリアルタ

イムに提示する脳神経手術ナビゲーションシステムの開発を行う。

メディア科学専攻

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知能メディア工学講座

ナビゲーション診断に基づく大腸がん診断支援システムの開発

小田 昌宏●おだ まさひろ

博士後期課程2年

指導教員:末永康仁教授

大腸の仮想展開像、仮想化内視鏡像、および任意断面再構成像を表示

する新しい大腸がん診断支援システムの開発を行なっている。仮想展

開像を用いることで大腸の広範囲を一度に観察可能となる。従来の仮

想展開像生成手法では、大腸が曲がる部分で穴状の歪みが生じていた。

これは大腸芯線に垂直な面が互いに交差するためである。仮想展開像

描画に用いるレイキャスティングのレイはこの面に平行に進むため、

交差を起こし歪みが生じる。これを軽減するためばねの性質を利用し

面の交差を軽減する手法を開発した。これは面の間にばねを張り、ば

ねの力に従って面を回転させ、交差を軽減する。実験の結果、交差軽

減手法により穴状の歪みが大幅に減少した。

知能メディア工学講座

医用3次元濃淡画像の切開と変形に基づく管腔臓器の仮想展開像生成法の開発

TRUONG Trung Dung●チウン チュン ズン

博士後期課程3年・COE研究アシスタント

指導教員:末永康仁教授

本研究では、CT像やMR像に代表される医用3次元濃淡画像から胃、

大腸といった管腔臓器を計算機上で仮想的に展開し、内壁面全体を一

枚の画像として可視化する手法の開発を目的とする.仮想展開像は病

理診断で用いられる臓器の切除標本に相当し、内壁面の状態をたった

一枚の画像で把握可能なため、診断や手術計画の立案において非常に

有効である.本研究では、画像内の臓器領域を質点とばねでモデル化

し、得られた形状の切開と変形を施した後、画像の再構成とボリュー

ムレンダリングによる可視化を行うことで展開像を生成する.本手法

を実人体から撮影された CT 像に適用し、得られた展開像を専門医に

提示したところ、良好な評価を得ている.

知能メディア工学講座

3次元X線 CT像を用いた医用画像処理に関する研究

中村 嘉彦●なかむら よしひこ

博士後期課程3年・COE研究アシスタント

指導教員:末永康仁教授

CT、MRIなどの3次元医用イメージング装置から得られる画

像を利用した画像診断、外科手術誘導などの臨床分野における

作業を的確かつ効率的に支援することのできる画像診断支援シ

ステム、外科手術支援システムの開発を行っている.特にこれ

らのシステム開発で必要とされるセグメンテーション機能につ

いて重点的に研究を行っている.具体的な研究例としては、胸

部 CT 像からの異常領域の検出とその分類、腹部 CT 像におけ

る血管領域抽出とその構造解析である.

知能メディア工学講座

気管支鏡ナビゲーションシステムの開発

出口 大輔●でぐち だいすけ

研究員

所属:末永研究室

気管支内視鏡を用いた検査・手術では、気管支鏡先端部が人体

内部に挿入されてしまうことから、その先端位置や観察部位周

辺の臓器情報を把握することは非常に困難である.そこで、本

研究では気管支鏡先端部の動きを検査前に撮影される CT 像

と、検査中に撮影される気管支鏡ビデオ画像から連続的に推定

し、(1)各被験者の人体内部情報、(2)内視鏡カメラ位置情

報、(3)内視鏡挿入経路などを術中の医師にリアルタイムに提

示するシステムの開発を行う.本システムを実現することによ

り、より安全で短時間に手術および検査を行うことが可能とな

る.

知能メディア工学講座

医用画像診断支援共通プラットフォームの開発

二村 幸孝●にむら ゆきたか

研究員

所属:末永研究室

医用画像の高精細化により、医師は、対象とする臓器のみでなく、医用画

像に存在する全臓器を観察する必要性が生じている.そのため、医用画像

に含まれる多量の情報を最大限に利用することが可能な、多臓器・多疾病

対象の医用画像診断支援システムが、今後必要不可欠になると考えられ

る.我々は、この多臓器・多疾病医用画像診断支援システムを実現するた

めの基盤として、医用画像診断支援共通プラットフォームの開発を進めて

いる.従来の医用画像診断支援システムが備える診断支援機能や医用画

像処理ワークステーションが備える各種フィルタ機能を、医用画像診断支

援プラグインとして実装し、それらを同一の汎用性の高い診断支援共通プ

ラットフォーム上で制御することで、将来的に多臓器・多疾病を対象とす

ることが可能な医用画像診断支援システムの実現を目指している.

メディア科学専攻

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知能メディア工学講座

Informative Frame Detection from WirelessCapsule Video Endoscopy

Md. Khayrul Bashar●カイルル バシャール

研究員

所属:末永研究室

Wireless capsule endoscopy is a new clinical technology for the visualiza-tion of the gastro-intestinal tract in the human body. The major drawbackof this technology is the high amount of visualization time. This studypresents a cascade method for informative frame detection by isolatinguseless frames, contaminated by faecal materials and/or digestive fluids.Faecal frames are yellowish, while digestive fluids contain many bubble-like texture patterns. We therefore adopted local color moments for rep-resenting and classifying faecal frames with support vector machineclassifier. In the final stage, excessive bubbled frames are separated bytexture features. Laguerre-Gauss circular harmonic functions (LG-CHFs) in a multiresolution framework are used for bubble characteriza-tion. Local absolute energies from all effective CHF responses are com-bined for automatic bubble-area segmentation. Final detection of theinformative frames is obtained using area-thresholding on the segmenta-tion results. An experiment with 800 video frames showed excellent aver-age detection accuracy (97.92%).

認知情報論講座

人間と対話エージェントとの相互作用に関する実験的研究

林 勇吾●はやし ゆうご

博士後期課程2年・COE研究アシスタント

指導教員:三輪和久教授

我々は、人間と人間、人間と計算機の対話における相互作用の

違いを、「行動」と「属性」の観点から実験的に検討を行ってい

る。ここでいう、「行動」とは、エージェントが「実際に何をす

るのか」に関する設計の視点を示し、「属性」とは、人工物に対

して「どのような認識」をもって接するのかという対象に対す

る帰属の視点を示す。実験では、対話の性質を捉えるため、相

互作用において葛藤が生ずる課題(Hayashi, Miwa and

Morita, 2006)を使用している。また、ELIZA(Weizenbaum、

1966)と似た特徴を持つ対話エージェントを構築し、これを実

験装置として用いている。

認知情報論講座

学習における熟達化に関する研究

浦尾 彰●うらお あきら

博士後期課程3年・COE研究アシスタント

指導教員:三輪和久教授

認知科学、学習科学の知見に基づき、発見や創造の領域におけ

る学習支援や発想支援のための計算機システムや授業プログラ

ムの開発を行っている。より具体的には、創造的活動における

熟達化の研究を進めており、創造的活動に熟達するために有効

な学習方法を多様な側面から検討を進めている。これまでの研

究においては、初心者の学習においては、学習の対象となる例

を正確に追従することが重要であるという観点から、例の正確

な追従を支援するシステムの構築を行い、その有効性を示した。

今後は、より熟達した学習者を対象とし、より有効な学習方法

の検討、支援システムの構築を目指す。

認知情報論講座

科学教育における協同学習に関する実験的・実践的研究

市原 貴史●いちはら たかふみ

博士後期課程3年・COE研究アシスタント

指導教員:三輪和久教授

科学教育に関して、実験的・実践的な研究を行っている。近年

の科学教育では、授業において学習者に科学的な体験をさせる

ことを重視している。また、授業の場を科学者集団のコミュニ

ティーであると考え、協同で学習をさせることも重視されてい

る。実験的な研究としては、思考スタイルの異なる 3 人のグ

ループを構成して、協同でロボットを作成させそのプロセスを

分析した。思考スタイルとは考え方の好みであり、立案型(提

案をすることを好む人)、順守型(遂行することを好む人)、評価

型(評価することを好む人)の 3人のグループを構成した。現在

は、実際の学習現場において実践的な研究を行っている。

認知情報論講座

ニホンザルにおける学習性勤勉感

柴崎 全弘●しばさき まさひろ

博士後期課程3年

指導教員:川合伸幸助教授

ヒトを含めた動物の研究から、より努力を要する学習課題を受

けた動物は、易しい課題を受けた動物よりも、後に与えられる

別の学習課題の成績が向上することが確認されている。これ

は、先行学習の内容が後続学習に取り組む際の態度に影響する

ことを示しており、後続学習にマイナスに作用する場合は学習

性無力感、プラスに作用する場合は学習性勤勉感が形成された

と考えられている。先行学習の難易度が高すぎると学習性無力

感が形成されてしまうため、学習性勤勉感を高めるのに最適な

学習課題の種類や難易度について、現在、ヒトとニホンザルを

対象として研究を進めている。

メディア科学専攻

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メディア表現論講座

メディア芸術作品創作とパフォーマンスにおける表現力拡張のための支援技術

松田 周●まつだ しゅう

博士後期課程2年

指導教員:平田圭二教授

メディア芸術作品の創作時、実演時に制作者、演奏者の表現力

を拡張するための支援技術を研究している。芸術作品創作や演

奏習熟の過程に於いて表現力の拡張とは、技術、技法の習熟と

所謂音楽表情などの芸術的表現の獲得の双方を指す。本研究で

は、従来からの表現技法、技術の習熟支援に加え、芸術的表現

力拡張の支援技術を対象としている。舞台内外の演奏行為によ

り生み出される演奏/聴取環境に対して、コンピュータが映像

/音響にリアルタイム処理を加え、効果等を付与するメディア

アート作品を応用分野としている。

認知情報論講座

職業人教育の受講者と上司の教育効果評価に関する研究

山本 雅基●やまもと まさき

博士後期課程2年

指導教員:齋藤洋典教授

本研究の目的は、技術教育における技術知識の学習に伴い、社

会人受講者の仕事に対する取り組み姿勢に生じる教育効果を、

受講者本人とその直属の上司が評価する過程を解明することで

ある。我々の関心は、受講者本人の自己評価と、直属の上司の

他者評価の間に生じるずれにある。我々は、この研究を、社会

人向けの組込みソフトウェア技術者の教育において行う。受講

者本人の自己評価と上司の他者評価がどこで出会い、すれ違う

か、また、その一致とすれ違いは、なぜ生じるのか、そして、

両者の一致に向けて、どのような取り組みを部下と上司に成さ

れるべきかに関して、研究を進める。

認知情報論講座

2言語併用者における意味処理過程の解明

大井 京●おおい みさと

博士後期課程3年

指導教員:齋藤洋典教授

本研究の目的は、2言語併用者における意味処理過程を解明す

ることである.本研究は特に、一方の言語を母語として習得し

ており、他方の言語を第2言語として学習している過程にある

2言語併用者が、第2言語に熟達していくにつれて示す単語の

意味処理の変化に注目する.具体的には、中国語 - 日本語の2

言語併用者が、中国語と日本語の2言語間にわたり表記は共通

であるが、意味は異なる漢字(Hanzi)で構成される単語を、い

かに認知し処理しているかを解明する.

認知情報論講座

身体運動の認知に関する研究

井藤 寛志●いとう ひろし

研究員

所属:齋藤研究室

人が行為を観察し模倣するに至る過程を解明することを目的と

して、特に、身体運動の記憶に着目した研究を行っている.こ

れまでに、継時的に呈示された複数の姿勢画像の呈示順序を記

憶する課題を用いた認知心理実験によって、身体運動の記憶の

特徴について検討を加えている.研究の特色は、観察者が実際

に運動することを要求されない課題を用いて、人が個々の身体

要素をいかにしてつなぎ、処理していくのかという問題に焦点

を当てていることである.

情報メディア空間構成論講座

議事録の再利用に基づく知識活動支援に関する研究

土田 貴裕●つちだ たかひろ

博士後期課程1年

指導教員:長尾確教授

研究活動のように、特定のテーマに関するアイディアを継続的

に生み出す知識活動において、議論することは重要な役割を果

たしている。過去の議論を踏まえた活動をし、その成果を新た

に発表し、議論することを繰り返すことによって知識活動は発

展していく。本研究では、議論の内容を議事録として記録し、

再利用することによって、過去の議論と関連付けられた発表資

料の作成を支援する仕組みを構築している。また、議論と発表

し利用間の関連性を利用した議論支援手法についても検討して

いる。

メディア科学専攻

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情報メディア空間構成論講座

Web マルチメディアコンテンツの高度利用に関する研究

山本 大介●やまもと だいすけ

博士後期課程3年・日本学術振興会特別研究員

指導教員:長尾確教授

近年、膨大な量のマルチメディアコンテンツがWeb 上で配信されて

いる。これらのコンテンツを高度に利用(例えば、内容に基づく検索・

要約・マーケティング・二次利用など)するためには、コンテンツの内

容に基づくメタ情報(アノテーション)の付与が必須である。従来、

これらの作業には膨大な人的コストがかかるのが欠点とされていた。

そこで、コンテンツを取り巻く SNS や Weblog といった既存の

Web コミュニティに着目した。それらのコミュニティでのコンテン

ツに関する知的活動(例えば、コンテンツに関する blogエントリー

を書く)を支援し、さらにその活動からコンテンツに関する知識をア

ノテーションとして抽出・解析するための手法について検討している。

メディア科学専攻

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複雑系科学専攻

多自由度システム情報論講座

OVモデルの解の安定性とHopf 分岐現象

山本 眞巳●やまもと まさみ

博士課程後期2年・研究アシスタント

指導教員:杉山雄規教授

OV模型は1次元交通流のモデルとして提案された。この方程式は滞

りのない流れを表す一様流解と、渋滞を表す移動クラスタ解という二

つの解を持ち、交通流のような複雑な現象をよく再現する簡潔な方程

式系である。コントロールパラメータを変化させると、一様流解が不

安定になり、移動クラスタ解が安定なリミットサイクル解として現れ

ることが数値解析により示されており、この現象は、力学系の観点で

はHopf 分岐現象であり、物理的には相転移と考えられる。このこと

を標準形へ変形によって解析的に示す。渋滞発生の本質の理解など、

非平衡多体系の引き起こす現象について新たな知見が得られると期待

される。

物質情報論講座

分子内相互作用とその観点からの反応の理論解析

山田 健太●やまだ けんた

博士後期課程3年

指導教員:古賀伸明教授

分子内相互作用は化学反応の推進力、分子の構造安定性や性質、機能

を決定する大きな要因となっている。これらの「情報」を理解するた

めに、相互作用を定量的に解析することは、最も興味深い研究対象の

1つである。実験からでは、分子内相互作用が生じる仕組みや過程を、

電子状態の変化として捉えることはできない。一方、理論の立場から

相互作用を定量的に解析するときには、相互作用がない状態、すなわ

ちゼロ次の状態をどのように決めるかということが最も問題となって

くる。そこで、私は今までになかった新しいゼロ次の状態を定義し、

分子内相互作用を解析する方法を開発してきた。現在は、種々の分子

に対してその方法の適用を進めている。

物質情報論講座

分子シミュレーションによる表面界面ダイナミクスの理論的研究

竹中 規雄●たけなか のりお

博士後期課程2年

指導教員:長岡正隆教授

気相の化学反応と違い、表面界面での化学反応は非常に複雑である。

これは表面界面の原子数が膨大であり、多くの自由度があるからであ

る。その巨大自由度系が協同的に振舞うことにより、気相ではみられ

ない特有の現象を引き起こす。これらのダイナミクスは、表面界面上

の微視的な分子間相互作用に起源があり、そのミクロの相違がマクロ

効果として大きく現れている。分子シミュレーションによりこのよう

な分子レベルの情報を得ることができ、実験では分からない新しい知

見を得ることも可能である。本研究では、分子動力学法やモンテカル

ロ法等を併用し、ミクロな視点から計算科学的に表面界面ダイナミク

スを解明することを目指す。

物質情報論講座

メチルリチウムの会合状態と反応性に関する理論的研究

太田 雄介●おおた ゆうすけ

博士後期課程3年

指導教員:長岡正隆教授

有機金属反応剤であるアルキルリチウムは強塩基で、求核剤と

して有機合成の分野で幅広く用いられている非常に有用な化合

物である。またその構造は有機溶媒中で様々な会合状態として

存在することが知られている。特にメチルリチウムに関しては

閃光蒸発質量分析法により、気相中では四量体として、また溶

液中では四量体(THF 中)もしくは四量体と二量体の間の化学

平衡状態(エーテル中)として存在すると考えられている。本

研究では主に、実験的に特定が困難とされている、液相中メチ

ルリチウムの会合状態を分子動力学(MD)計算を用いて明ら

かにすることを目的としている。

複雑系科学専攻

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物質情報論講座

光励起ミオグロビンの振動緩和経路に関する理論的研究

高柳 昌芳●たかやなぎ まさよし

博士後期課程3年

指導教員:長岡正隆教授

CO結合型のミオグロビンは光励起により CO分子が解離し、

その際に余剰エネルギーがヘムに振動エネルギーの形で蓄積す

る。そしてピコ秒の時間スケールで振動緩和が起こり、最終的

に余剰エネルギーは水溶媒へと拡散する。この緩和過程におい

て、ヘムから溶媒へ直接エネルギーが伝達するのか、それとも

グロビン部を経由して溶媒へエネルギーが伝達するのかは意見

が別れている。本研究ではこの振動緩和の経路を明らかにすべ

く、分子動力学シミュレーションを実行し、理論的考察を行っ

ている。特に、数百回の計算結果を平均することで、解析結果

の統計的信頼性を向上させることに主眼を置いている。

物質情報論講座

表面反応拡散ダイナミクスの微視的機構に関する研究

小谷野 哲之●こやの よしゆき

研究員

所属:長岡研究室

これまで、金属触媒表面上での吸着分子の化学反応を扱った実

験的、理論的研究が数多く行われてきた。実験的研究から、表

面上での吸着分子群のナノスケール構造が調査され、時間的な

振動や空間的なパターン形成を生じる表面化学反応の存在が明

らかとなった。本研究では、数値計算や分子動力学(MD)、モ

ンテカルロ(MC)シミュレーション等を併用して、メゾスコ

ピックやミクロスコピックな視点から、表面場で生じる時間的

な振動や空間的なパターン形成の起源とそのメカニズムを理論

的に明らかにする。最終的には、分子レベルでの振動やパター

ン形成の動的起源を理論的に解明することを目指している。

物質情報論講座

凝縮系における分子緩和ダイナミクスの理論的研究

岡本 拓也●おかもと たくや

研究員

所属:長岡研究室

凝縮系に対する有名な粗視化方程式のひとつである Kramers-

Fokker-Planck方程式は分子緩和ダイナミクスを評価するた

めの重要な基礎を与える。しかしながら、溶媒自身の持ってい

る特徴や溶質分子の周りに形成される溶媒和構造、あるいはそ

れらの動的変化については考慮されておらず、凝集反応系への

適用は殆ど不可能である。そこで分子動力学法を用いて実際に

分子の運動を追うことにより、その統計的性質を探ることが本

研究の目的である。主に、粗視化手法の開発、粗視パラメータ

に対する粗視化運動方程式の開発を行っている。

物質情報論講座

生体高分子に及ぼす溶媒分子の影響の理論的考察

優 乙石●ゆう いっせき

COE研究員

所属:長岡研究室

糖鎖やタンパク質のダイナミクスや立体構造に及ぼす溶媒分子

の効果を、計算科学的手法(主に分子動力学(MD)法)を用い

て理論的に考察している。現在は主に、極限環境に生息する微

生物が、熱や塩などのストレスに打ち勝つために細胞内に蓄積

している低分子「補償溶質」に注目し、エクトインと呼ばれる

代表的な補償溶質が、タンパク質およびペプチドのダイナミク

スや反応性、周囲を取り囲む水分子の動的挙動に与える影響を、

コンピュータシミュレーションを用いて分子レベルで調査して

いる。

物質情報論講座

Implementation of novel QM/MM methods andapplications to biomolecules

JUNG, Jaewoon

研究員

所属:天能研究室

The purpose of this research is to develop new QM/MM methods for biomolecules.To deeply and theoretically understand the structures, functions, and designs ofproteins, computational methods must be developed that provide results compa-rable with direct experiments. In this sense, models based on molecular mecha-nics (MM) have many limitations in their explanations of bond folding and breakingwith chemical reactions. This feature is ameliorated by introducing a quantummechanical (QM) treatment in the calculations. Many kinds of local problems(e.g., the binding of metal ions to a protein, enzyme catalysis by active site re-sidue) can be understood by QM. However, a full QM calculation needs muchcomputational cost, and thus a hybrid QM/MM method is a feasible way for largemolecules. In particular, QM/MM is a powerful means to study chemical proces-ses in biological systems with the inclusion of protein or solvent environments.Thus correct QM/MM implementation is crucial, and our current research focuseson the development of QM/MM methods. Another purpose of our current researchis to apply the developed QM/MM program to enzymes. Until now, regarding en-zymes, many debates remain about the catalysis of simple enzyme chorismatemutase. Using our newly developed QM/MM method, this phenomenon can bespecified more properly.

複雑系科学専攻

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物質情報論講座

Laplace-MP2 法におけるエネルギー分母最適近似法の開発

高塚 明夫●たかつか あきお

研究員

所属:天能研究室

分子軌道計算において、電子相関は非常に重要な問題である。

電子相関を求めるには多体摂動論が一般的である。しかし、こ

の理論によって大規模計算を行うためには、そのエネルギー分

母の取り扱が問題となる。大規模 Mo l ler-Plesset 摂動論

(MP2)では、Laplace変換を用いる方法がよく知られている。

本研究では、非線形関数の近似に用いられる、ミニマックス近

似を基礎とした最良近似法の開発を行う。なお、本研究は科学

技術振興機構により支援されている研究プロジェクト「生体系

の高精度計算に適した階層的量子化学計算システムの構築」の

一環で行われている。

生命情報論講座

アジサイの花色変異機構の解明と青色色素の精密化学構造

伊藤 大輔●いとう だいすけ

博士後期課程2年・COE研究アシスタント

指導教員:吉田久美准教授

アジサイのガク片は青∼紫∼赤と多彩に発色し、しかも成育環

境などのわずかな違いによって容易に変化することで知られて

いる。いずれの花色も同一成分から発現することがすでにわ

かっており、我々は、混合条件を変えることにより試験管内で

すべての色の再現に成功している。 本研究では、アジサイを

材料として、その花色に関わる多因子の微妙な変動が、遺伝情

報と環境情報のいかなる影響下に支配されているのかを明らか

にする。これにより、生命情報ネットワークの構築機構を解明

できるものと考える。

生命情報論講座

チューリップの花色における青色発現メカニズムの解明

桃井 千巳●もものい かずみ

博士後期課程2年

指導教員:吉田久美准教授

チューリップ(Tulipa gesneriana)は、赤、紫、黄、橙、桃、

白色などが存在するが、青色は存在しない。しかし、花底部に

は青色が存在する。我々は、花弁全体は紫色であるが、花底部

は青色を呈する品種「紫水晶」を用いて様々な化学分析を行い、

紫色と青色細胞では色素、主な助色素および液胞内 pHに違い

はないが、青色細胞は紫色細胞に比べて約 25 倍鉄イオン濃度

が高いことから、青色発現には鉄イオンが必須であることをこ

れまで明らかにしている(PCP, 2007)。さらに、最近青色化に

関わる遺伝子の単離に成功し、分子生物学的手法を用いて遺伝

子機能に関する詳細な解析を行っている。

生命情報論講座

Characterization of Circadian Clock-Associated Pseudo-ResponseRegulators in Physcomitrella patens.

SATBHAI, Santosh B.

博士後期課程1年

指導教員:青木摂之講師

Members of the small family of Arabidopsis PSEUDO-RESPONSEREGULATORS (PRR1/TOC1, PRR3, PRR5, PRR7, and PRR9) playroles that closely resemble the circadian clock in Arabidopsis tha-liana. We found that the moss (Physcomitrella patens) genomealso encodes a set of PRR counterparts (designated PpPRR1,PpPRR2, PpPRR3, and PpPRR4) . To gain new insight into themolecular functions of PpPRRs, we focused our research work forgenetic analyses on these four genes using various molecularbiology aspects. The main theme includes the construction ofover-expression and knock-out plasmids for the four genes, astudy of the expression analysis on the four genes, and compara-tive genomic studies between moss and angiosperms. In theshort term our aim is to study whether moss homologs really haveclock-related functions as their counterparts in Arabiodopsis.

生命情報論講座

Physcomitrella patensの概日時計関連遺伝子の機能的解析

岡田 龍●おかだ りょう

博士後期課程2年

指導教員:青木摂之講師

私の研究の目的は植物の概日時計の分子機構を明らかにすることである。真核

細胞の概日時計においては、概日時計のコンポーネントをコードする「時計遺

伝子」群の制御ネットワークが、振動発生のうえで大きな役割を果たしている。

植物では、モデル種のアラビドプシスにおいて CCA1、LHY、PRR1といっ

た時計遺伝子の間に見られるフィードバックループ制御が重要であることが明

らかにされている。最近、逆遺伝学の新たなモデル植物種 Physcomitrella

patensにおいて、それら植物の時計遺伝子のホモログがみつかった。私は、

P. patensのホモログの中でも転写因子をコードする CCA1I/LHYのホモロ

グに焦点を当て、それらが機能的にも時計遺伝子といってよいのかどうかを最

初の課題として研究を行っている。

複雑系科学専攻

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生命情報論講座

Physcomitrella patensにおける色素体シグマ因子遺伝子群の解析

市川 和洋●いちかわ かずひろ

博士後期課程3年

指導教員:青木摂之講師

葉緑体ゲノムの転写は少なくとも2種類の RNAポリメラーゼが行っ

ている。光合成関係の遺伝子を主に分担しているのは、細菌型の多サ

ブユニット RNAポリメラーゼであり、このポリメラーゼは、葉緑体

ゲノムにコードされる触媒サブユニット群と、核ゲノムにコードされ

る制御サブユニットのシグマから構成される。私は、逆遺伝学の新た

なモデル植物 Physcomitrella patensを用いて、シグマの発現と機

能を研究している。P. patensは全部で4つのシグマ遺伝子を持つ

が、その中のひとつ(Sig5)の発現のみが概日時計によって制御され

ることを、私は以前報告した。現在、逆遺伝学的手法により、Sig5の

機能を詳細に調べている。

創発システム論講座

外界との相互作用によって生じるセルオートマトンの創発的特性

岩瀬 雄祐●いわせ ゆうすけ

博士後期課程1年

指導教員:有田隆也教授

生物、生命、社会等のシステムでは、自己組織的な特性の創発のために、構

成要素の局所的な相互作用だけではなく、外界との相互作用が重要な役割

を果たしている。セルオートマトンは、局所的な相互作用から生じる大域

的な振る舞いを解析するための抽象モデルの1つとして知られ、その基本

特性について広く調べられてきた。しかし、外界との相互作用を考慮した

セルオートマトンについては十分に議論されていなかった。私は、外界と

の相互作用によって自己組織化するセルオートマトンを進化的計算手法を

用いて探索、解析している。特に、従来のセルオートマトンの議論では自己

組織化をもたらす要因として積極的にとらえられていなかった、非同期性、

摂動、境界条件といった条件に着目し、大域的な振る舞いへの影響について

調べている。得られた知見を、群ロボット等、マルチエージェントシステム

の制御に応用することも視野に入れて研究を進めている。

創発システム論講座

生命の動的階層構造の進化に対する抽象モデルによる研究

小島 和晃●こじま かずあき

博士後期課程1年

指導教員:有田隆也教授

生命は変異による進化だけでなく、原核生物から真核生物への進化的

移行のように別々に機能していた生命が協調して一つの大きな生命と

して機能するような進化も行ってきた。この進化的移行が多段的に繰

り返し起こり、細胞や器官、個体などの動的な階層構造が形成されて

きた。この進化では元の生命は大きな生命のモジュールとなり全体か

ら制約を受け、個々の機能を落とす。これを踏まえ、本研究では動的

な階層構造形成の中でモジュールの種類数を評価とするモデルを作

り、多機能な生命ができあがるためには多段的な階層化が必要である

ことがわかった。また、どのような条件で進化的移行が起こり、どの

ような階層構造を形成するのかを調べている。

創発システム論講座

競合型共進化アルゴリズムに対する適応度共有法の適用

佐藤 竜也●さとう たつや

博士後期課程2年

指導教員:有田隆也教授

従来の進化的計算と異なり、個体間の相互作用により適応度評

価を行う競合型共進化アルゴリズムは、期待される効果は高い

が、実用化のためには克服しなければならない問題点がある。

本研究の目的は、それら問題点を解決する手法の開発である。

我々はこれまでに、問題点の1つである過度の特殊化問題の解

決手法として、振舞いの一致度に基づいて適応度を抑制するこ

とにより多様性を維持する適応度共有法を提案し、その有効性

を検証した。また、本提案手法はその性質から別の問題点であ

る勾配の喪失問題に対しても有効であることが考えられ、その

有効性の検証を行っている。

創発システム論講座

心の理論の進化に関する構成論的アプローチ

高野 雅典●たかの まさのり

博士後期課程2年・日本学術振興会特別研究員

指導教員:有田隆也教授

心の理論とは他者の心の状態を推測する心の機能であり、その進化は知性

の進化と深く関ってきたと考えられる。この考えは社会的知能仮説と一致

する。我々は心の理論の主な機能として他者の振る舞いの予測⑴を考える。

さらに両者がそれを行う場面でのコミュニケーションの構成⑵を考える。

構成論的手法に基づいて心の理論の進化を理解することを目的とする。具

体的な内容を以下に示す。⑴心の理論を持った個体が他者も心の理論を持

つと考えると、そこに推測の再帰構造ができるはずである。再帰的に他者

を予測し振る舞う構造を個体に仮定し再帰の深さの進化シミュレーション

を行う。⑵相互の予測における他者の予測とそれを利用した操作に基づい

たコミュニケーションの成立を考える。相手による「視線」からの心の読取

りと読み取られる「視線」制御の共進化をエージェントシミュレーションに

より行う。

複雑系科学専攻

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創発システム論講座

先行評価系を有する実進化型群ロボットシステム

中井 淳一●なかい じゅんいち

博士後期課程2年

指導教員:有田隆也教授

進化ロボティクスはロボット制御器を進化計算で自動設計する

が、シミュレーションによる適応度評価は実環境とのギャップ

を生む。この問題を「実進化」はホスト計算機なしに実環境で

のロボット行動により適応度評価することで解決する。ただ

し、その際にロボット行動だけで適応度評価するため、特に進

化初期に低適応度動作が弊害を生みやすい。本研究では、ロ

ボット行動の前に先行評価し、低適応度とみなす個体は行動を

回避してこれを解決する。先行評価器はその精度を適応度とし

て進化させ、制御器の進化系と共進化系を構成する。

創発システム論講座

マルチレベル選択に基づく協調の起源・進化

一ノ瀬 元喜●いちのせ げんき

博士後期課程3年

指導教員:有田隆也教授

社会は、個体同士の協調関係によって成立しているといえる.

しかし、基本的には個体は利己的に振る舞うことが生存上有利

である.したがって、利己的個体間で協調はどのようにして進

化するかという疑問がある.血縁選択、互恵的利他主義、群淘

汰はそれぞれ特定の状況における協調の進化を説明するが、形

質グループにおいてグループ間に偏りがある場合に、個体レベ

ル選択とグループレベル選択が同時に働くとするマルチレベル

選択はそれらの理論を包括し得る新たな仮説である.私はこの

理論に基づき、計算機上にモデルを構築し進化シミュレーショ

ン実験を行って協調の起源、進化について追究している.

創発システム論講座

Heterochrony and maternal effects in computationaldevelopment

ARTUR MATOS●アルツル マトス

博士後期課程3年

指導教員:有田隆也教授

Inspired by the way natural selection works, Genetic Algorithms (GA) attempt to solve

optimization problems by simulating evolution in computers. Computational Development

(CD) is a recent extension to GAs, where development is also simulated. This allows GAs

to achieve greater complexity than the previous used methods. My thesis focuses in two

topics in CD : First, I am trying to understand how evolution and development interact when

CD models are used. In biology there is an important concept called heterochrony-the way

evolution affects development, by changing the timing and order of developmental events. I

am trying to understand how heterochrony occurs in different CD models, for instance, if the

models are able to generate all kinds of heterochronic changes as the ones we find in

nature. In my second topic, I am extending a CDmodel to account for stronger relationships

between mothers and offspring. In a traditional GA, mothers/fathers are solely related to

their offspring by DNA transfer. In natural systems, however, placental hormones can have

strong effects in their offspring (these are called maternal effects). Because these effects

can be adaptive, they can, therefore, increase performance when applying them to GAs.

創発システム論講座

行動予測における再帰性に関する複雑系アプローチ

赤石 仁●あかいし じん

博士後期課程3年

指導教員:有田隆也教授

心の起源や進化は人間のアイデンティティを考える上で極めて重要なテーマで

ある.本研究は、認知科学者デネットの「志向的スタンス」の見地に基づき、

複雑系科学の構成的アプローチの方法論を用いて、心理学者プレマックの提唱

する「心の理論」の進化に焦点を絞って、このテーマに迫ることを目的とする.

人間のような社会的生物では、心の理論によって他個体のモデルを持ち、その

行動を予測できるように進化してきたと考えられる.ここでは、そのような他

者モデルの中の他者モデルという意味における再帰性に焦点を合わせる.この

研究により、人間の社会性という内部観察が困難で複雑な現象を、より下位レ

ベルの志向的スタンスという原理に基づくモデルを構築することによって解明

することを目指す.

創発システム論講座

SOM/ 進化的計算の多目的最適化問題・リスク管理問題への応用

沈 侃●チン カン

博士後期課程3年

指導教員:北栄輔准教授

株式投資では、リスク回避のために異なる収益性を持つ複数の株式に

投資をする.このように、リスク管理問題は数学的には多変数を含む

多目的最適化問題となるため、解がパレート解となる.本研究では自

己組織化マップ(SOM-MO)とそれを用いた進化的最適化手法(SOM-

MOEA)を多目的最適化問題へ適用する方法について検討している.

これまでの研究において、SOMを用いて投資対象の株式や株式投資

のタイミングを評価する方法を示し、SOM-MOEAによってポート

フォリオ・セレクション問題を解析する方法について示した.今後の

研究において、動的な環境における多目的最適化問題の解法などにつ

いて研究を進めていく予定である.

複雑系科学専攻

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創発システム論講座

人工市場モデルによる行動ファイナンスの検証

翟 菲●テキ ヒ

博士後期課程3年

指導教員:北栄輔准教授

近年、市場参加者の認知的バイアスを考慮に入れた「行動ファ

イナンス」と呼ばれる新しいファイナンス理論が注目を集めて

いる.本研究では、人工市場をマルチエージェントシステムと

して構築し、金融市場にリスク環境における様々な認知バイア

スのモデル化を進めて、投資家の心理バイアスが市場価格形成

に与える影響を明らかにし、プロスペクト理論としてまとめら

れている認知的判断の経済現象への影響の背後にある情報機構

を明らかにしたいと考えている.最終的には金融市場の安定化

のための制度設計・政策提言を行うためのモデルなどについて

研究を進めていく予定である.

創発システム論講座

自動車や人の群行動のモデル構築

清水 光輝●しみず ひかる

博士後期課程3年

指導教員:北栄輔准教授

自動車や人の集団(群)に見られる行動を解析することは、交通渋滞

の解消、交通事故の防止、災害時における人間集団のパニックによる

2次災害を防ぐため重要である。私は、セル・オートマトン法やマル

チエージェント等を用いて自動車や人間の集団(群)に見られる行動

シミュレーションについて研究している。これまでに、道路における

道路工事や料金所ゲートによる自動車流の動的な挙動、小売店舗にお

ける顧客の行動等についてのシミュレーションを行った。今後は、運

転者や歩行者の心理的な判断バイアスをモデル化し、それを組み入れ

ることで、現実の現象をより効果的に評伝できるモデルの構築を目指

している。

情報可視化論講座

渦法を用いた気液二相流の数値解析

出川 智啓●でがわ ともひろ

博士後期課程3年

指導教員:内山知実准教授

本研究では、気液二相自由乱流に対する、Vortex in Cell法を

援用した Two-way渦法を提案している.渦度場を離散化する

渦要素と気泡を追跡し、流れ場を分割する計算格子において気

泡運動がもたらす渦度変化を計算する、Lagrange-Euler型解

法である.本解法を、気泡を含む平面混合層、角柱周りの気泡

流および平面気泡プルームの解析に適用し、得られた流れ場を

実験結果などと比較し、解法の高精度化と高速化を探っている.

情報可視化論講座

統計的特徴量を用いた気液二相流量測定法の開発

冨永 裕一●とみなが ひろかず

博士後期課程3年

指導教員:内山知実准教授

本研究では、円管内を流れる気液二相流の各相流量の同時測定

法として、管内に設置した柱状物体表面の圧力測定に基づく方

法を提案している.物体表面の圧力の時系列データについて、

流量に応じた統計的特徴量(平均値、標準偏差、尖り度など)

を抽出し、階層型ニューラルネットワークの学習を用いて流量

と特徴量の関係を自己形成させる.学習を行わせたニューラル

ネットワークと統計的特徴量から、各相流量の同定が可能かを

検討している.

情報可視化論講座

サーバシステムにおける冷却特性の可視化による解明

三成 雅子●みなり まさこ

博士後期課程2年

指導教員:渡邉崇教授

「空気の温度、湿度、清浄度および気流分布を、空気調和を必要とす

る空間の要求に合致するように、同時に処理するプロセス」と定義さ

れている空気調和は、その遂行により、人間生活その他に生活のし易

さを提供する。つまり冷凍空調装置は、操作対象の空気のように不可

欠なものとなった。また冷凍・空調技術の応用面は大変幅広いものと

なっている。そこで冷却効果を見るために温度分布や空気の流れを数

値計算し、その結果を可視化の手法を使って表現する。冷却対象は

サーバ機とし、解析結果より、冷凍・空調技術の効果を把握し、ハード

面での理解・検討もした上で、主に応用のソフト面での技術課題を探

求していき、解決策を見出していくことを研究目的とする。

複雑系科学専攻

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複雑系計算論講座

Presentation precision of virtual edge directionusing both of distributed pressure and slippage

ZHOU, Yiru

博士後期課程2年

指導教員:大岡昌博准教授

In the present research, we quantitatively investigate the effec-tiveness of concomitant that presents distributed pressure andslippage force in tactile virtual reality. In our research, we aredeveloping a mouse capable of presenting combined stimulationfor discussing combination effects on virtual reality. The mousewas equipped with a bimorph piezoelectric actuator array and atwo-dimensional electromagnetic linearmotor to represent press-ure and slippage force, respectively. To evaluate its presentationaccuracy, we performed a series of tracing experiments of virtualfigure contours. We examined human tactile sensation using themouse and a psychophysical experimental method to obtain aneffective combination method of distributed pressure and slip-page force. In psychophysical experiments, we are analyzing sti-mulus thresholds under several values of vibration frequency todesign a new tactile display for future advanced virtual realitybased on the analysis.

複雑系計算論講座

多種センサを搭載した複数の移動ロボットにおける自律協調行動獲得

干川 尚人●ほしかわ なおと

博士後期課程2年

指導教員:大岡昌博准教授

複数の自律型無人ロボットを災害現場や宇宙空間のような危険環境における作

業体として活用できれば、人的リスクの低減や作業効率の向上といった点で有

益である。しかし、このような自律協調知能の実現には、それぞれの作業体が

相互に影響し合うなどの複合的な要因から複雑性が増すため、その設計の方法

論が研究課題となる。本研究は、多種のセンシング能力を有する複数の作業体

における協調的な自律制御知能獲得を目的としている。実現方法として、近接

覚、視覚、触覚、聴覚などに相当する IRセンサ、光センサ、圧力センサ、ソ

ナーセンサなどの多種センサから得た外界からの環境情報を利用し、進化的計

算シミュレーションを活用する。これらの研究成果から具体的なロボットに組

み込んで知能制御の実現を目指す。

複雑系計算論講座

Application of Three Axis Tactile Sensor in GropingLocomotion of a Humanoid Robot Using Tele-operation

Hanafiah Bin Yussof●ハナフィア ビン ユーソフ

博士後期課程3年

指導教員:大岡昌博准教授

This research presents the development of a basic physical-interaction method called “groping

locomotion” for humanoid robots to effectively recognize and respond to its surrounding conditions.

The humanoid robot recognizes by touching and groping a wall’s surface to obtain wall orientation, and

then responds by performing corrections to its position and orientation. During groping locomotion,

however, the existence of obstacles within the correction area creates the possibility of collisions.

Therefore, this research also proposed an autonomous obstacle-avoidance method that operates in

conjunction with groping-locomotion method. The research methodology applies suitable algorithms

to the humanoid robot’s control system which based on trajectory generation of the robot’s arms and

legs. In this research, the three axis tactile sensors is install to the 1.25-m tall, weight 32.5-kg pro-

totype humanoid robot Bonten-Maru II’s arms as end effector, and operate it using tele-operation

method via internet. The tactile sensor is originally developed in our lab. Currently, 3 degree-of-

freedom robotic hand is developed to evaluate performance of the tactile sensor. To perform tele-

operation, a client/server platform is setup based on CORBA. Finally, the tactile sensor is install to the

humanoid robot’s arms, and conducts several series of experiments to evaluate the performance of the

tactile sensor in the groping locomotion using the tele-operation method.

複雑系計算論講座

コンピュータ断層法を原理とする触覚センサの開発に関する研究

澤本 泰宏●さわもと やすひろ

博士後期課程3年

指導教員:大岡昌博准教授

昨今のロボットに関する活発な研究に伴い、未知環境下における認識性能や人間と接

触する機会が頻繁に生ずる点を考慮する必要がある。人間並みの環境認識性能やハン

ドリングを実現するためには、視覚、聴覚、触覚のセンシング機能が必要である。本

研究室では、ロボットに触覚センサを搭載することを目的として、光導波路形触覚セ

ンサの研究を進めてきた。本研究では、接触情報を画像解析する手法ではなく、コン

ピュータ断層法を用いることにより薄型化を目指すことを目的とする。コンピュータ

断層法は、周囲から内部情報を得ることができるため、内部情報を詳しく表すことが

できる。しかし、処理時間、計算方法が複雑になるという問題点を有する。そこで、

触覚センサ向きのアルゴリズムを新しく開発し、その妥当性をシミュレーションおよ

び実験によって検証する。

複雑系計算論講座

脊柱特発性側彎症の成因に関する非線形座屈解析

青山 大樹●あおやま たいき

博士後期課程3年

指導教員:畔上秀幸教授

これまで思春期の女子に多発する脊柱特発性側彎症の成因を力学的見地から明

らかにしていく研究を行っており、その成因を胸椎椎体の過成長によって力学

的不安定が生じることによる座屈現象であるという仮説を唱えてきた.そし

て、過成長を初期歪みとして有限要素法で変形解析を行ったのち、それによる

線形座屈解析を通して、姿勢制御が不可能な4次の座屈現象が側彎症のモード

であることを示した.しかし、今までの解析は微小変形理論による線形解析で

行ってきており、実際の現象とは差異があることは明確である.そこで本研究

では幾何学的非線形性を考慮した有限要素法により、4次の座屈モードを非線

形座屈解析によってその発生することを確認し、過成長量を算出することに取

り組んでいる.

複雑系科学専攻

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Page 25: 研究者総覧 2007年版 - is.nagoya-u.ac.jpis.nagoya-u.ac.jp/souran/pdf/2007-separate-vol.pdf · 図が、2枚の布に分かれるかどうかを判定する問題は、グラフ

複雑系計算論講座

Ultra-fine piercing system using SiC fiberas punch

BROOMFIELD, Mark A.

博士後期課程2年

指導教員:森敏彦教授

Ultra-fine piercing system is a method of construction or production ofmicro holes of about 10-14 mm diameter using a micro punching machinethat uses a silicon ceramic fiber as the punching tool, and computerprograms to control the movement of the punch arm, and the material.This technology is already being used to produce holes successfully inaluminum, beryllium copper and stainless steel foils. Under investigationthe system is being re-examined with the following objectives: improvethe system tomake it more efficient; improve accuracy; diversify its appli-cability to include the punching or piercing of ceramic, and plastic. Hence,modifications and improvements were made to the process. In addition,the operation principle is continually examined with the goal of changingfrom single punching to multi- punching operation. The development ofthis technology will have a significant impact on the manufacturing in-dustry, as well as affiliated industries, such as the medical, amongothers.

複雑系科学専攻

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社会システム情報学専攻

知識社会システム論講座

客観的・定量的な評価に基づく非タスク指向型対話システムの作成

磯村 直樹●いそむら なおき

博士後期課程1年

指導教員:石井健一郎教授

近年、人間と対話を行うコンピュータ(対話システム)が社会に浸透

しつつある。このようなシステムの実現のためには、性能の定量的評

価が不可欠である。チケット、切符の予約などを目的としたタスク指

向型対話システムでは評価法が確立されているのに対し、人間の話し

相手になり、人間を楽しませるための非タスク指向型対話システムで

はアンケートなどの主観的な評価が用いられているに過ぎない。そこ

で、非タスク指向型対話システムに対する客観的・定量的な評価法を

提案する。本手法では、基準となる人間同士の対話と、評価したい対

話との類似度を求めることにより評価を行う。この評価法に基づき、

人間らしい対話システムの作成を目指す。

知識社会システム論講座

組織における知識継承のマルチエージェントシミュレーション

藤田 幸久●ふじた ゆきひさ

博士後期課程1年

指導教員:石井健一郎教授

近年、様々な組織において知識共有の必要性が叫ばれている。

そこで、ナレッジマネージメントと呼ばれる知識共有手法が提

案されている。しかし、多くの手法は効果が定かでなく、定量

的な評価法も存在していないのが現状である。そこで本研究で

は、組織における知識活動をモデル化することにより、ナレッ

ジマネージメントの定量的評価を行う。特に、知識の種類、お

よび知識の使われ方に着目する。本モデルを用いてマルチエー

ジェントシミュレーションを行うことにより、ナレッジマネー

ジメントの効果を解析する。また、人間関係や組織構造といっ

た要因が、知識共有にどのような影響を及ぼすかを解析する。

知識社会システム論講座

問い合わせの主観性にロバストな商品検索システムに関する研究

杉木 健二●すぎき けんじ

博士後期課程1年

指導教員:渡邉豊英教授、松原茂樹准教授

インターネット利用者の増加に伴い、ECサイトが急速に増加してい

る。これらのサイトでは優れた検索環境を提供することが不可欠であ

る。しかし、利用者の要求は多様であり、また、主観的であることも

少なくなく、そのような要求に適応することは容易ではない。そこで、

本研究では、自然言語で表現された主観的な要求に対して、頑健に対

応可能な商品検索システムの構築を目指している。本研究では、消費

者の商品購入時の判断材料として利用されている、消費者の口コミや

意見に着目する。入力された主観的な検索クエリとこれらの意見との

意味表現を比較することにより、クエリに合致した商品を検索する手

法を検討する。

知識社会システム論講座

P2P データベースにおける情報流通機構に関する研究

李 峰栄●リ フォンロン

博士後期課程1年

指導教員:渡邉豊英教授

P2Pネットワークは、自律的な多数の計算機(ピア)から構成される

ネットワークであり、柔軟なネットワーク構成に基づく緩やかな情報

共有を実現することを目的としている。P2P環境において、不特定多

数のデータベース間で情報を交換し流通させるような状況を考えた場

合、各ピアで自律的にデータの複製や変更が行われるため、他のピア

から入手したデータがどのような経緯で手元にあるかという判断が困

難となると考えられ、これはデータの信頼性の欠如につながる。私の

研究では、データの信頼性を確保するために、P2Pデータベースにお

けるデータ交換においてどのようにデータがピア間を流通したかを検

証可能とするためのトレーサビリティ技術の開発を目指している。

社会システム情報学専攻

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知識社会システム論講座

テキスト情報と画像情報の特徴統合によるセマンティックマイニング

范 薇●ファン ウェイ

博士後期課程2年

指導教員:渡邉豊英教授

高画質ディジタルカメラが、より手頃で広範囲になるのに従って、高品質のディ

ジタル画像はインターネットでも利用される状況にある。高品質のディジタル

画像の急激な増加に映像データベースを探索するときにもキーワードで意味的

に画像を探索することが必要とされている。画像情報に対応するテキスト情報

を統合することは、画像内容をより正確に把握し、迅速に処理するために重要

である。ほとんどの既存のテクニックは意味的な画像の概念化がそのための

キーポイントであり、今日様々な工夫と努力がなされてきた。アノテーション

はそのための有効な方法ではあるが、多大な時間と手間が必要である。そのた

めに、このアノテーションの自動化、及び種々のアノテーション間の概念的意

味付けの下に、画像検索を考察する。

知識社会システム論講座

Optimization of Tutorial Contents, Tutorial Actions and TutorialStrategies for Student-Tutor Interaction in e-Lerning

Alieu Dumbuya●アリュー ドゥムブ

博士後期課程3年・COE研究アシスタント

指導教員:渡邉豊英教授

A challenging problem of today’s existing intelligent-tutoring systems is their inability to produce

optimal tutoring that will best suit each level of learner. The problem becomes more significant when a

knowledge expert usually a human-tutor fails to consider the cognitive states of the target learners

when developing the tutorial contents. This in most cases may likely hinder the learning speed and

comprehension of the tutorial contents. We introduce an intelligent-tutoring system that is optimal to

suit the tutorial contents, actions and strategies by considering each state of the learner during a

learning session. The system consists of two user-interface panels ; a learner and tutor’s environ-

ment. In between the panels.is a content-optimizing engine designed to optimize and provide optimal

tutorial contents with all relevant actions and strategies produced by a knowledge expert. The optimiz-

ing engine is implemented with certain weights (values) which directly correspond to the explanations

generated from the database. We employ the best-choice problem technique to realize the content

optimization process by optimal evaluation and selection of the sequentially presented tutorial con-

tents, actions and tutorial strategies. These contents are modeled on three main criteria ; the deci-

sion variables, objective functions and constraints. Further more. We will build a mathematical model

on these criteria to explicitly deduce a concrete relationship in the optimization process.

知識社会システム論講座

イベント階層に基づく地理情報変動管理

池崎 正和●いけざき まさかず

博士後期課程3年・COE研究アシスタント

指導教員:渡邉豊英教授

我々は地理情報システムにおけるイベント情報の利用について研究し

ている.イベントとは時空間オブジェクトの変動原因である.この

際、問題点としてイベントの捉え方がユーザの目的、文脈に依存する

ことが上げられる.我々はこれまでに時空間の変動原因を管理するモ

デルとしてイベントモデルを提案した.イベントモデルに実世界の事

象を正確にモデル化する機能を与えるため、イベントの概念間の概念

階層関係、イベント間の集約関係、イベント間の因果関係を定義し、

プロトタイプシステムを構築した.今後の研究課題として、イベント

を利用した地理情報検索手法の検討、異種データ間でのイベントの共

有手法等を検討する.

電子社会設計論講座

天候条件が景観評価に及ぼす影響に関する研究

宇田 紀之●うだ のりゆき

博士後期課程1年

指導教員:横井茂樹教授

大規模な風力発電開発は、周辺の自然環境に深刻な影響を与え

る。機能性と耐久性を追及した発電所の景観は、周辺の自然環

境に対して鮮明なコントラスを形成する特性がある。また、発

電所の景観は、日照条件や大気状態によっても変化することが

知られている。しかし、天候条件が発電所の景観評価に及ぼす

影響を議論した研究はほとんどない。本研究では、不規則な天

候条件の変化に対応する天空光観測システムを開発して景観変

化の定点観測を行い、収集した景観画像の画像分析とコン

ピュータグラフィックス技術を応用して、天候条件が景観評価

に及ぼす影響について検討を行った。

電子社会計算論講座

過疎地域と都市部地域との交流事業を支援するバーチャルコミュニティの設計

吉田 千穂●よしだ ちほ

博士課程後期課程2年

指導教員:横井茂樹教授、安田孝美教授

日本の農村漁村を中心とした地域では過疎化が進行しており地域社会の基礎的生活

条件となる医療や教育等の確保に支障をきたしている。行政による地域再生計画や

通信インフラ整備事業等様々な対策がとられているものの過疎化に歯止めをかける

具体的な施策はまだ見いだされておらず、過疎化は進行の速度を早めるばかりであ

る。こうした課題を克服するためには、多くの人が過疎地に関心を寄せ議論を重ね

ることによって多様な意見や情報を把握しその地域に対し最適な過疎対策を検討す

る必要がある。そこで私の研究は、実際の地域間交流活動に参画しながら交流活動

を支援するバーチャルコミュニティの設計・構築を実施する。交流活動によって再

発見された過疎地の魅力をバーチャルコミュニティに結集し、広域に発信する。都

会の住民がバーチャルコミュニティを通し過疎地への関心を持つ機会作りを実現す

る。更には、過疎地における課題を都市部住民とWebを通じて共有することによっ

て「過疎」を狭い地域に閉じた課題として留まらせることなく、広域な課題として多

くの人々に認識させるとともに、有効的な対策を創出するシステム設計を目指す。

社会システム情報学専攻

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電子社会設計論講座

電子社会設計のための基礎技術開発とその社会応用

浦 正広●うら まさひろ

博士後期課程1年

指導教員:安田孝美教授

技術的なアプローチから、生活者の視点に立った、シームレスな電子

社会の設計を目標に研究を行っている。電子社会の設計において、

人々が手軽に情報を発信・享受できる仕組をいかに組み込むかという

ことは、コミュニティの活性化といった観点からも重要なテーマであ

るといえる。その実現のための手段として、旧来のメディアに加え、

携帯電話や地上デジタル放送などの新しいメディアも積極的に活用

し、コンピュータグラフィックス、人工知能、ネットワークなどの情

報技術を応用することで、社会で広く利用してもらえるシステムやソ

フトの開発を行う。このように、情報技術を社会に応用することで、

人々を幸せにする電子社会の実現を目指す。

電子社会システム論講座

イベント展示デザインのための 3Dレイアウトシステム

復本 寅之介●ふくもと とらのすけ

博士後期課程3年

指導教員:横井茂樹教授

3DCG ソフトによるイベント会場の展示レイアウトデザイン

は、一般のイベント関係者にとって容易でない。本研究では、

イベント関係者が話し合いの場で、円滑に会場の展示レイアウ

トのデザインを進めるためのシステムを目指している。作業負

担となる 3D オブジェクトの制作労力を軽減するために、デジ

タルカメラやスキャナの画像データを用いて会場や展示物の簡

易表現に利用した。また、3Dイベント会場を仮想空間上で共

有することで、遠隔間での展示レイアウトのデザインや確認を

可能にしている。

電子社会設計論講座

体験・感情を想起するシステム

定国 伸吾●さだくに しんご

博士後期課程3年

指導教員:茂登山清文准教授

日常生活では、空間の中にある風景、音、におい、などをきっ

かけにして、過去に体験した出来事や感情が突然によみがえっ

てくる瞬間がある。一方で、パソコンや携帯電話の中のデジタ

ル空間上では、そのような記憶想起の瞬間はない。現在は、視

覚的な要素による記憶想起に注目し、デジタル空間上に傷や痕

跡を残すことで人の記憶を想起するシステムの研究を行ってい

る。また、このシステムは、人の記憶を引き出すことが愛着に

つながっていくという仮定の下に、デジタルデータに愛着をも

たらすことについても考えている。

電子社会設計論講座

視覚情報とコンピュータ・インターフェイスとの関係性

水野 勝仁●みずの まさのり

博士後期課程3年

指導教員:茂登山清文准教授

コンピュータの多くが、視覚的表示装置によって自らの情報を提示し

ている.それは、情報を視覚的に提示することが「使いやすい」と思

われているからである.しかし、アートの世界では、視覚情報を伝達

するための様々な仕組みに対して、積極的な批判を行ってきた.その

結果、視覚情報は読み取りが難しいということを示すと共に、視覚情

報を分かりやすく提示する方法を作り上げてきた.コンピュータ・イ

ンターフェイスと視覚情報との関係には、この批判性が欠如している.

私の研究では、視覚文化の観点から、コンピュータ・インターフェイ

スと視覚情報との関係性を探り、「情報を見る」ということが社会の中

でどのように作用するかを考察する.

電子社会設計論講座

美術の教育普及と情報技術

馬場 暁子●ばば あきこ

博士後期課程1年

指導教員:茂登山清文准教授

一般の人々が美術作品を身近に感じ理解を深めることをねらいとし

て、情報技術を用いた美術作品の教育普及活動を展開したいと考えて

いる。美術館において教育普及のためのワークシートの多くは、限ら

れた紙面に作品図版と来館者が書き込むスペースを設けるかたちを

とっているが、情報技術を用いることによって従来のそれとはまた異

なった視点から作品に親しむことができる。そこで作品と主体的に関

わりながら、自分自身の新たな発見をしたり考えを深めたりすること

ができる内容にしていきたい。人々がよりよく美術作品と向き合うこ

とができるような教育普及と情報技術について研究し、美術と鑑賞者

を繋ぐ研究・活動を進める。

社会システム情報学専攻

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電子社会設計論講座

ネットワーク管理基礎知識習得支援システムの開発

立岩 佑一郎●たていわ ゆういちろう

博士後期課程3年・COE研究アシスタント

指導教員:安田孝美教授

本研究では、情報系大学生を対象とし、テキストや講義で習っ

たネットワークの構築についての知識や、ネットワークの原理

についての知識を、ネットワークの仮想的な構築と、通信結果

の考察により、一層定着させるためのシステムの開発を行って

いる。本システムは、オープンソースと仮想環境技術を利用す

ることで、仮想的なネットワークのシミュレートと、通信結果

の可視化表示を実現している。本研究により、ネットワーク管

理の基礎的知識の習得が効率的になるため、ネットワーク管理

者の養成にかかるコストの減少や、確かな知識に基づいた堅牢

なネットワークアプリケーションが増加すると考えられる。

情報創造論講座

A philosophical and cognitive study of art interaction andits pragmatic benefits on individual and social development

MATTHEW, John Pelowski

博士後期課程1年

指導教員:秋庭史典准教授

My research focuses on the cognitive process and ramificationsof interaction with other humans through human created worksand environments, specifically those traditionally labeled as art. Icombine traditional art theory and aesthetic philosophy withempirical testing grounded in cognitive psychology. My currentspecific focus is on induced self-change in an individual due tointeraction with an art system or participation in an art ritual andthe possible pragmatic uses of this change for the personal de-velopment of individuals and their relation to others and society.My past empirical work has centered on the works ofMark Rothko,the painter : the Mark Rothko Chapel in Houston Texas and theRothko Room at the Kawamura Museum in Chiba, Japan.

情報創造論講座

19 世紀デンマークにおけるグロントヴィ主義の近代観

田渕 宗孝●たぶち むねたか

博士後期課程3年

指導教員:小池直人准教授

本研究は歴史的視点から、19世紀のデンマークにおける「フォルク」

概念と近代化過程に焦点を当てている。19世紀前半以降、デンマーク

の「フォルク」概念(民族観、国民思想を含む包括的概念)に大きな影

響を与えたのは N. F. S. グロントヴィである。だが後に彼の思想はグ

ロントヴィ主義者と呼ばれる彼の追随者たちにより様々に情報化さ

れ、グロントヴィのオリジナルな思想は広く取捨選択されていった。

そしてそれらは各時代に適合したパラダイム、一般的情報として新た

に創造されてゆく。本研究では特にグロントヴィ主義の中心地である

アスコウ・フォルケホイスコーレにおける試みから、グロントヴィ主

義思想の葛藤を明らかにする。

情報創造論講座

基礎科学に対する市民的パトロネージの形成

山内 保典●やまのうち やすのり

研究員

所属:戸田山研究室

現在、科学技術に関する社会的意志決定への市民参加は、重要課題と

なっている。一方で、市民が基礎科学の出資者(納税者)であること

は、市民にも研究者にも不可視化されている。これでは、人類の知的

遺産と知的活動、それを支える「知そのものへの愛」を継承・発展させ

ることは困難である。そこで、本研究では市民が大学における、自分

の関心のある基礎研究の「パトロン」になることによって、基礎科学

研究の直接の支援者となるという道を提案する。本研究では、主に名

古屋大学天体物理学研究室における市民との交流活動に関与しなが

ら、市民的バトロネージが実現するための諸条件の解明、その方法論

の定式化、教育プログラムの開発を目指す。

情報社会基盤環境論

話題構造の可視化による医師―患者コミュニケーション支援

神山 祐一●こうやま ゆういち

博士後期課程2年

指導教員:間瀬健二教授

ナラティブ・ベイスト・メディスン(NBM)という対話を重視した医

療が提唱されている。病気は患者の「病いの体験物語り」であり、こ

うした経験物語りと医師の医学的見方が交わる対話を通じて、患者の

人間全体を扱った効果的な医療がなされるとされる。本研究は医療面

接中の言語情報から物語りのやりとりを可視化し、面接を行った医師

自身の内省を促すことにより NBMの実践を支援する。臨床面接や医

療教育の場面で面接当事者の見方に結びついたインタフェース・デザ

インの検討や、面接間の共通構造の抽出を行っている。医療面接とい

うフォーマルな対話の分析を通じて、日常の経験世界を扱ったコミュ

ニケーション・インタフェースデザインに結びつくと考える。

社会システム情報学専攻

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情報社会基盤環境論

An object-centric storytelling system usingubiquitous sensor technology

Norman Lin●ノーマン リン

博士後期課程3年

指導教員:間瀬健二教授

Ubiquitous availability of personal video capture technology has enab-

ledeasy creation of large personal media archives, but there is still the-

question of how to effectively share such personal video with others. In

contrast to conventional video paradigms where an audience passively

viewspre-edited video on a screen, my research will enable real-time, in-

teractivemanipulation of and performance with video objects in real space,

by mappingvideos onto tangible artifacts. By providing support for structur-

ing andre-purposing the media, through means of spatial/temporalre-

contextualizationand expressive effects, my system will provide a new

method of storytellingand social communication using personal video

media.

情報基盤連携センター 学術情報開発研究部門

英日同時翻訳システムに関する研究

笠 浩一朗●りゅう こういちろう

技術補佐員

所属:松原研究室

本研究は、翻訳を介した円滑な異言語間対話を実現するため、

同時通訳者のように話者の発話の終了を待たずに翻訳を開始す

る同時翻訳手法についての研究である。英日間では語順が大き

く異なるため、自然な語順の日本語訳を生成するのでは同時翻

訳を実現することは困難である。本手法は、依存文法を満たす

範囲で英語の語順に近い訳文を生成することにより、訳文とし

て十分理解可能で、かつ話者の発話に追従できる日本語訳を出

力するものである。

情報基盤連携センター 学術情報開発研究部門

大規模音声対訳コーパスを用いた同時通訳理論の構築

遠山 仁美●とおやま ひとみ

研究員

所属:松原研究室

同時通訳は、人間のワーキングメモリの極限レベルにおける作

業事例の1つとされ、脳科学や言語学など、多分野に渡り研究

対象とされている。しかし、処理過程が複雑である、研究リソー

スがほとんど存在しなかったなどの原因により、研究対象の多

くは未開拓である。本研究は、実際の同時通訳者の訳出戦略に

着目し、訳出単位、話速推移などを分析することで、同時通訳

理論の構築を目指している。また、分析には名古屋大学 CIAIR

同時通訳コーパスを用いており、大規模実データの定量的分析

により、同時通訳プロセスの解明を目指すという点に特色があ

る。本研究成果は、将来的に、同時通訳者養成や、自動通訳機

に利用できる可能性がある。

社会システム情報学専攻

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附属組込みシステム研究センター

附属組込みシステム研究センター

社会人向け組込みソフトウェア技術者人材養成

石田 利永子●いしだ りえこ

研究員

平成 16 年度より5年間の計画で、文部科学省 / 科学技術振興調整費

により、社会人組込みソフトウェア技術者人材養成プログラム

(NEXCESS)が実施されている。私は、平成 19 年度から NEX-

CESSの講師として、プログラムを推進している。NEXCESSでは、

社会人の異なる技術レベルとキャリアへ対応するため、7つの基礎

コースと5つの専門コースと2つの指導者向けコースを用意した。各

コースは 2-4 日間程度の短期集中コースであり、3年間で 741 名が修

了した。今後、プログラム終了後の発展的な展開を目指し、より質の

高い教育を実施する。リアルタイム OS の基礎研究及び教材開発も

行っていく予定。

附属組込みシステム研究センター

業務類似性に着目したソフトウェア再利用開発の実現

金子 伸幸●かねこ のぶゆき

研究員

本研究では、「ビジネスドメインを固定した場合、システムに求

められる機能要求が酷似する」特性に着目してソフトウェア再

利用の実現を目的としている。ソフトウェアの観点から業務を

体系的に整理し、機能要求を構成する単位でソフトウェア部品

を構築する。このようなソフトウェア部品の組み合わせによる

システム開発手法を確立することで再利用性の向上を図る。ま

た、ソフトウェア部品を業務要素と関連づけて管理し、業務の

観点からの部品検索を実現することにより、再利用支援を行う。

附属組込みシステム研究センター

次世代車載 LANに関する研究

倉地 亮●くらち りょう

研究員

近年の急激な電子制御化により、自動車には多くの ECU(自

動車制御用のコンピュータ)が搭載されている。それら ECU

は車載 LANを介して連携することでより精密な制御を実現し

ており、将来はX-by-wire などの車載 LANを中心とした電子

制御が期待されている。その一方で、既存システムとの高い親

和性や車特有のリアルタイム性、信頼性に配慮した通信プロト

コルが必要である。それら車載 LANに求められる真の要求を

見据え、次世代車載 LANの標準規格を名古屋大学から発信し

ていくことを目指している。

附属組込みシステム研究センター

車載マルチメディアシステム向けOSの研究

杉山 俊●すぎやま たかし

研究員

従来、機能別に作られてきた車載用電子ユニット(ECU)は、

種々の理由によりその数が集約される方向に向かっている。そ

のため、複数の異なる機能と異なる信頼性レベルのソフトウェ

アを同一の ECU上で動作させなければならない状況になって

きている。ここでは、従来の車載制御システム用の高信頼性ソ

フトウェアと、新しいマルチメディアシステム向け高機能ソフ

トウェアを安全に ECU上で共存させるために必要な車載マル

チメディア向けオペレーティング・システム(OS)の研究を

行っている。

附属組込みシステム研究センター

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附属組込みシステム研究センター

組込みシステム低消費電力化設計

曾 剛●ソウ ゴウ

研究員

バッテリの使用時間、システムコスト及び信頼性のため、組込

みシステムを設計する際に、消費電力とエネルギーを最小化す

るのは極めて重要である。本研究では、情報家電や情報携帯端

末などの組込みシステムを対象として、性能、計算精度、信頼

性などを保証しつつ、消費エネルギーを最小限にするための最

適化技術を開発することを目標とする。そのため、プロセッサ

アーキテクチャ、OS、アプリケーションとコンパイラの協調

や、電圧、周波数制御と電源管理機構を持つマルチプロセッサ

などにより、エネルギーの削減を実現する。

附属組込みシステム研究センター

マルチコアCPUの開発環境、およびデバッグ手法

武井 千春●たけい ちはる

研究員

高性能化、低消費電力化などの要請から、車載制御ユニット

(ECU)に使われる組込み向けCPUはマルチコアに向かうこ

とが確実となってきた。しかしながら、マルチコアCPUを利

用する際の効率的な開発環境、処理対象の並列性の抽出、結果

の正当性の評価など、現時点ではまだ有効な手法が確立されて

いない。本研究ではこのような観点から、マルチコアCPUの

開発および評価・デバッグ環境に重点を置き、その問題点の抽

出、解決方法の確立を目指す。

附属組込みシステム研究センター

車載マルチメディアシステム向けOSの研究

中嶋 健一郎●なかじま けんいちろう

研究員

これまでの車載 OS というと一般的には高い信頼性のみが求

められてきた。しかし近年では、高信頼性を保ったまま高付加

価値のアプリケーションを動作させることができる OS が求

められている。本研究では、高信頼性に加え、マルチメディア

システム向け OS の豊富で高い機能を併せ持つ車載マルチメ

ディアシステム向け OS の実現に必要な技術要素を明らかに

することを狙いとしている。更には、両方の機能を併せ持つこ

とにより可能となる新しい技術領域を提案していく。

附属組込みシステム研究センター

社会人向け組込みソフトウェア技術者人材養成

山本 雅基●やまもと まさき

研究員

平成 16 年度より5年間の計画で、文部科学省 /科学技術振興調整費により、

社会人組込みソフトウェア技術者人材養成プログラム(NEXCESS)が実

施されている。私は、NEXCESSの管理者および講師として、プログラム

を推進している。NEXCESSでは、社会人の異なる技術レベルとキャリア

へ対応するため、7つの基礎コースと5つの専門コースと2つの指導者向

けコースを用意した。各コースは 2-4 日間程度の短期集中コースであり、

IPA/SEC の ETSS における位置づけを公開しており、組込みソフトウェ

ア教育の標準カリキュラムとなることを目指している。NEXCESSは社会

人に受け入れられており、3年間で 741 名が修了し、計画以上の実績を上げ

ている。プログラム3年目に行われた文科省の中間評価ではAを獲得し、

高い評価を得た。今後、プログラム終了後の発展的な展開を目指し、より質

の高い教育を実施する。

附属組込みシステム研究センター

組込みシステムの消費エネルギー最適化コンパイル技術に関する研究

横山 哲郎●よこやま てつお

研究員

情報家電や情報携帯端末などの組込みシステムを対象として、

ソフトウェアとハードウェアの協調により、サービス品質(性

能、計算精度、信頼性など)を保証しつつ、消費エネルギーを

最小限にするための最適化技術を開発します。 メモリアーキ

テクチャとコンパイラの協調や、低消費エネルギースケジュー

リング機構を持つマルチプロセッサリアルタイム OS などに

より、消費エネルギーを 100 分の1に低減することを目標とし

ます。

附属組込みシステム研究センター

31

Page 33: 研究者総覧 2007年版 - is.nagoya-u.ac.jpis.nagoya-u.ac.jp/souran/pdf/2007-separate-vol.pdf · 図が、2枚の布に分かれるかどうかを判定する問題は、グラフ

索 引

[ A ]

ARTUR MATOS 21

Alieu Dumbuya 26

[ B ]

BROOMFIELD, Mark A. 24

[ H ]

Hanafiah Bin Yussof 23

[ I ]

IslamMd. Atiqul 7

[ J ]

JUNG, Jaewoon 18

[ L ]

LINA 9

[ M ]

MALTA, Lucas 10

MATTHEW, John Pelowski 28

Md. Khayrul Bashar 14

[ N ]

Norman Lin 29

[ O ]

OLIVEIRA, Fausto Lucena de 12

[ S ]

SAKURABA, Celso Satoshi 3

SATBHAI, Santosh B. 19

[ T ]

TRUONG Trung Dung 13

[ U ]

UKRIT, Watchareeruetai 12

[ Z ]

ZHOU, Yiru 23

[ ア ]

青山 大樹 23

赤石 仁 21

安積 卓也 6

[ イ ]

池崎 正和 26

石田 皓之 9

石田 利永子 30

石原 秀昭 6

磯部 俊洋 11

磯村 直樹 25

市川 和洋 20

一ノ瀬 元喜 21

市原 貴史 14

伊藤 大輔 19

井藤 寛志 15

伊藤 雅紀 12

犬飼 清和 2

今井 敬吾 7

岩瀬 雄祐 20

[ ウ ]

薄葉 季路 3

宇田 紀之 26

浦 正広 27

浦尾 彰 14

[ オ ]

大井 京 15

大石 康智 11

太田 雄介 17

岡田 龍 19

岡本 拓也 18

小川 厚徳 11

小田 昌宏 13

小畑 幸嗣 5

[ カ ]

金子 伸幸 30

神谷 保徳 9

川島 裕崇 5

[ キ ]

菊地 武彦 6

鬼頭 信貴 5

[ ク ]

倉地 亮 30

[ コ ]

神山 祐一 28

小島 和晃 20

小林 克希 5

小谷野 哲之 18

[ サ ]

坂井 誠 11

定国 伸吾 27

佐藤 竜也 20

澤 正憲 2

澤本 泰宏 23

[ シ ]

謝 旭珍 4

蒋 振剛 12

柴崎 全弘 14

清水 光輝 22

[ ス ]

末次 亮 7

杉木 健二 25

杉山 俊 30

[ ソ ]

曾 剛 31

[ タ ]

高塚 明夫 19

高野 雅典 20

高橋 友和 10

高柳 昌芳 18

武井 千春 31

竹中 規雄 17

立岩 佑一郎 28

田中 弘一 10

田中 正造 8

田中 雅光 6

田渕 宗孝 28

[ チ ]

沈 侃 21

[ ツ ]

土田 貴裕 15

[ テ ]

翟 菲 22

出川 智啓 22

Page 34: 研究者総覧 2007年版 - is.nagoya-u.ac.jpis.nagoya-u.ac.jp/souran/pdf/2007-separate-vol.pdf · 図が、2枚の布に分かれるかどうかを判定する問題は、グラフ

出口 大輔 13

[ ト ]

遠山 仁美 29

冨永 裕一 22

[ ナ ]

中井 淳一 21

中嶋 健一郎 31

中村 嘉彦 13

[ ニ ]

西堀 研人 12

西脇 由博 10

二村 幸孝 13

[ ハ ]

萩原 正人 7

林 勇吾 14

原 直 11

馬場 暁子 27

[ ヒ ]

平尾 将剛 3

[ フ ]

范 薇 26

復本 寅之介 27

藤掛 和広 8

藤田 幸久 25

藤原 祐一郎 2

[ ホ ]

干川 尚人 23

星野 博之 10

細谷 英一 9

堀江 幸生 6

[ マ ]

松浦 勇 3

松田 周 15

松原 豊 7

[ ミ ]

水野 勝仁 27

満田 賢一郎 3

三成 雅子 22

[ モ ]

籾原 幸二 2

桃井 千巳 19

[ ヤ ]

山田 健太 17

山内 保典 28

山本 大介 16

山本 雅基 15, 31

山本 眞巳 17

[ ユ ]

優 乙石 18

[ ヨ ]

横山 哲郎 31

吉田 千穂 26

[ リ ]

李 峰栄 25

笠 浩一朗 29

複雑系科学専攻 複雑系計算論講座・准教授

大岡 昌博

昨年度は英語版を発行したが,日本語版については平成 17年に引き続いて第二版目である。

原稿を提出していただいた方々は勿論のこと,古賀研究科長,広報渉外委員会の先生方をはじ

めとして,本研究科の先生方および付属組み込み研究センターの先生方,並びに事務局の方々

のご援助・ご協力に謝意を表する。ドクター・研究員の方にとっては,本冊と異なり要旨だけの

掲載で決して十分スペースではなかったことと思うが,ご容赦願いたい。しかし,普段廊下や

エレベータですれ違う他研究室の人が何を研究しているのか少しは理解できる機会を提供でき

たのではないかと思う。編集作業の際に原稿を並べて感じたことであるが,本研究科を支える

ドクター・研究員の方々の研究は極めて多岐に渡っている。これは,本研究科の研究が活発に

行われていることの証左であると思われる。本冊子によって,本研究科で行われているこのよ

うな研究活動が社会に広く知っていただけることになれば幸いである。

編集後記

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平成19年11月1日発行

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〒464 - 8601 名古屋市千種区不老町

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