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研究開発実践論 「研究開発実践論」は、シラバスに“これまで著名な研究や製品開発を行った研究者や開発者が具体的な製品やシス テムを例にあげて、背景、目的、独創性、研究開発の進め方について講義を行い、討論を行う”と規定された博士課程 前期の学生を対象とした正規の授業科目です。 第1回 2010 年 4 月 19 日 株式会社 日立製作所 フェロー 伊藤 清男 「DRAM開発最前線を駆け抜けて -失敗と挫折を超えて- 」 第2回 2010 年 4 月 26 日 ザインエレクトロニクス株式会社 創業者 CEO 飯塚 哲哉 「ファブレス半導体メーカにおける研究開発と成長 “人資豊燃”とは」 第3回 2010 年 5 月 10 日 旭化成株式会社 新事業本部 情報技術研究所長 庄境 誠 (音声ソリューションビジネス推進部 部長) 音声認識技術の研究開発及び事業化の教訓に学ぶ -その要素技術の展開によるセンシング技術開発の夢-第4回 2010 年 5 月 17 日 日本無線株式会社 取締役執行役員 立林 清彦 「携帯端末から GPS 応用へ 無線事業の展開 ~無線機器メーカにおける技術者の変遷~」 第5回 2010 年 5 月 24 日 富士フイルム株式会社 執行役員 メディカルシステム開発センター 次長 阿賀野 俊孝 「新規:医療機器開発と富士フイルムとわたし -経験の中で得たもの-」 第6回 2010 年 5 月 31 日 NTTコムウェア株式会社 取締役 NWS 事業本部 OpS-S 部長 野本 忍 「日本の基幹通信網を支える交換機ソフトウェアの開発からNGN網の制御ソフトウェア開発へ」 第7回 2010 年 6 月 7 日 東海旅客鉄道株式会社 東海道新幹線 21 世紀対策本部 リニア開発本部 担当部長 北野 淳一 「超電導リニアの技術開発と今後の展望」 第8回 2010 年 6 月 14 日

研究開発実践論 - 東北大学 電気・情報系 · 「日本の基幹通信網を支える交換機ソフトウェアの開発からngn網の制御ソフトウェア開発へ」

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研究開発実践論

「研究開発実践論」は、シラバスに“これまで著名な研究や製品開発を行った研究者や開発者が具体的な製品やシス

テムを例にあげて、背景、目的、独創性、研究開発の進め方について講義を行い、討論を行う”と規定された博士課程

前期の学生を対象とした正規の授業科目です。

第 1 回 2010 年 4 月 19 日

株式会社 日立製作所 フェロー 伊藤 清男 氏

「DRAM開発最前線を駆け抜けて -失敗と挫折を超えて- 」

第 2 回 2010 年 4 月 26 日

ザインエレクトロニクス株式会社 創業者 CEO 飯塚 哲哉 氏

「ファブレス半導体メーカにおける研究開発と成長 “人資豊燃”とは」

第 3 回 2010 年 5 月 10 日

旭化成株式会社 新事業本部 情報技術研究所長 庄境 誠 氏 (音声ソリューションビジネス推進部 部長)

「音声認識技術の研究開発及び事業化の教訓に学ぶ -その要素技術の展開によるセンシング技術開発の夢-」

第 4 回 2010 年 5 月 17 日

日本無線株式会社 取締役執行役員 立林 清彦 氏

「携帯端末から GPS 応用へ 無線事業の展開 ~無線機器メーカにおける技術者の変遷~」

第 5 回 2010 年 5 月 24 日

富士フイルム株式会社 執行役員 メディカルシステム開発センター 次長 阿賀野 俊孝 氏

「新規:医療機器開発と富士フイルムとわたし -経験の中で得たもの-」

第 6 回 2010 年 5 月 31 日

NTTコムウェア株式会社 取締役 NWS 事業本部 OpS-S 部長 野本 忍 氏

「日本の基幹通信網を支える交換機ソフトウェアの開発からNGN網の制御ソフトウェア開発へ」

第 7 回 2010 年 6 月 7 日

東海旅客鉄道株式会社 東海道新幹線 21 世紀対策本部 リニア開発本部 担当部長 北野 淳一 氏

「超電導リニアの技術開発と今後の展望」

第 8 回 2010 年 6 月 14 日

Page 2: 研究開発実践論 - 東北大学 電気・情報系 · 「日本の基幹通信網を支える交換機ソフトウェアの開発からngn網の制御ソフトウェア開発へ」

日本電気株式会社 NEC情報・メディアプロセッシング研究所 シニアエキスパート 柏谷 篤 氏

「研究成果の事業化,失敗と成功 ~画像処理、画像入力機器の研究を通して~」

第 9 回 2010 年 6 月 21 日

キヤノン株式会社 イメージコミュニケーション統括開発センター 所長 下郡山 信 氏

「デジタルカメラ、デジタルビデオ」

第 10 回 2010 年 6 月 28 日

三菱電機株式会社 開発本部 フェロー 村上 篤道 氏

「国際標準・映像符号化技術(MPEG)とデジタル放送 ~De-Facto と De Jure 標準~」

第 11 回 2010 年 7 月 5 日

富士重工株式会社 常務執行役員 戦略本部長 馬渕 晃 氏

「-安心と信頼の走りを目指して-」

第 12 回 2010 年 7 月 12 日

株式会社フジクラ 専務執行役員 研究開発本部長 加藤 隆昌 氏

「日本における光ファイバ通信実用化の歩み」

第 13 回 2010 年 7 月 26 日

リオン株式会社 取締役 R&D センター長 吉川教治 氏/同技術開発部部長 成沢良幸 氏

「聴こえをつくる デジタル補聴器の技術開発 - 人へ社会へ世界へ、企業理念を反映する製品開発 -」

第 14 回 2010 年 7 月 30 日(金)

(株)東芝 セミコンダクター社 首席技監 執行役常務待遇 斎藤 光男 氏

「Cell Broadband Engine/SpursEngine 開発とその意味 -Cell World を目指して-」

おしらせ:本年度から未来戦略意見交換会を開催します。詳細はこちらから

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東北大学 電気・情報系

研究開発実践論“電気・情報未来戦略 21世紀を拓く情報エレクトロニクス ”懇談会

M1学生にお薦め 電気・情報系学生だれでも聴講可能

電気・情報未来戦略‐21世紀を拓く情報エレクトロニクス‐ 懇談会

この講義は、「これまで著名な研究や製品開発を行った研究者や開発者が、具体的な製品やシテムを例にあげて 背景 目的 独創性 研究開発の進め方について講義を

平成平成2222年度年度 「研究開発実践論」「研究開発実践論」 講義講義月曜日月曜日 第第44時限時限 電気・情報系電気・情報系101101大講義室大講義室

製品やシテムを例にあげて、背景、目的、独創性、研究開発の進め方について講義を行い、討論を行う」とシラバスに規定されています。企業からの外部講師が、博士課程前期の学生を主対象とし、人材育成を観点から、企業での研究・開発の実情等を本年度は以下の14回の講義を行い、終了後には学生と講師との懇談も行いました。

月日 企業 講師 職位 講義内容案 事業分野

月 オ シ4月12日オリエンテーション

4月19日日立製作所 伊藤 清男 フェローDRAM開発最前線を駆け抜けて-失敗と挫折を超えて -

総合電気

4月26日ザインエレクトロニクス

飯塚 哲哉 社長ファブレス半導体メーカにおける研究開発と成長~「人資豊燃」とは~

半導体ベンチャー

5月10日旭化成 庄境 誠旭化成グループ

フェロー音声認識技術の研究開発及び事業化の教訓に学ぶ~その要素技術の展開によるセンシング技術開発の夢~

総合化学

5月17日日本無線 立林 清彦 取締役「携帯端末からGPS応用へ 無線事業の展開」

無線機器 カ おける技術者 変遷アンテナ無線機器5月17日日本無線 立林 清彦 取締役

~ 無線機器メーカにおける技術者の変遷 ~アンテナ無線機器

5月24日富士フィルム 阿賀野 俊孝 執行役員新規:医療機器開発 と 富士フイルム と わたし― 経験の中で得たもの -

総合化学

5月31日NTTコムウェア 野本 忍 取締役日本の基幹通信網を支える交換機ソフトウェアの開発からNGN網の制御ソフトウェア開発へ

通信システムソフ

6月7日JR東海 北野 淳一 部長 超電導リニアの技術開発と今後の展望 鉄道運輸

6月14日NEC 柏谷 篤シニアエキスパート

研究成果の事業化、失敗と成功~画像処理、画像入力機器の研究を通して~

情報通信

6月21日キヤノン 下郡山 信 所長デジタルカメラ デジタルビデオの製品技術開発~開発現場の仕事の仕方~

映像情報機器

6月28日三菱電機 村上 篤道 フェロー国際標準・映像符号化技術(MPEG)とデジタル放送~De-FactoとDe Jure 標準~

総合電機

7月5日富士重工 馬渕 晃 常務 安全と信頼の走りを目指して 運輸機械

7月12日フジクラ 加藤 隆昌 専務 日本における光ファイバ通信実用化の歩み 電線ケーブル

7月26日リオン吉川 教治 取締役 聴こえをつくる デジタル補聴器の技術開発

音響機器

連絡先;教育広報企画室 Tel 022-795-7167

7月30日は金曜日

7月26日リオン成沢 良幸 技術開発部長 - 人へ社会へ世界へ、企業理念を反映する製品開発 -

音響機器

7月30日東芝 斎藤 光男 首席技監Cell Broadband Engine/SpursEngine開発とその意味-Cell Worldを目指して-

総合電気

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回 1

日付 4月19日

講演者株式会社 日立製作所

フェロー 伊藤 清男 氏

タイトル 「DRAM開発最前線を駆け抜けて -失敗と挫折を超えて- 」

技術性格 半導体メモリ 雑音除去

講義ポイント

企業における研究とは?

戦略・経験 追いつき追い越す 説得力 企業の決断

講師の声「指導者がいないこと、若くして製品技術開発の責任者にされることは幸運」研究とは生み出すことで調査でない 知らないことを知らないから失敗する

学生の声「自分は挑戦者だから研究に行き詰まるのは当然で、今がチャンスだがんばろう」と勇気をもらった。国際的に戦え、世界一の技術・製品開発したい

要旨

 講師は入社後、レーザー、大型計算機用磁性線メモリに続いて、1970年代初頭に半導体メモリ(DRAM)へ転進した。磁性体から半導体へとメモリ技術の転換期のことであった。入社直後、文献調査中心の実感のない研究から、生み出すことこそが研究と気づき、その後は専門外の半導体にも拘らず、「その一事に集中」した。当初は失敗を繰り返したが、「後発者の先行着眼」と「二者択一での決断」により、雑音を除去すべ考案した2交点セルを導入・実用化し、64キロビットDRAM開発を成功に導き、その後は世界のDRAM技術を牽引した。 周囲の評価に惑わされることなく信念を貫くことの重要性を「他を妄信する愚を排し、確かな自分を大切に」と説き、「指導者がいなかったこと」、「若くして製品技術開発の責任者にされたこと」などを幸運と考える前向きの姿勢のもとでの挑戦こそが成功を支えたとも説く。 発明王エジソンの「天才は1%のひらめきと99%の汗」を引用して、「100%の汗(努力)をかけ」「凡人でも非凡な努力で非凡になれる」と後輩を激励された。聴講した学生は弛まない努力が道を拓くのだと改めて感服したようだ。

講義概要

 本講演では、企業の研究所で47年にわたってハイテクの研究開発に明け暮れ、失敗・挫折を経て商品化と技術開発で国際的に活躍するに至った個人的体験を述べる。講演の前半では、社会に旅立った直後に体験した理想と現実の狭間での苦悩・挫折、磁性体メモリから半導体メモリ(DRAM)に不本意ながら転進し、追いつき追い越せで4度の失敗を経て、「後発者の先行着眼」と「二者択一での決断」によって、ついに商品開発で世界の頂点に立った過程、さらには成功による自信でその後の半導体メモリの技術開発をリードしていった過程を述べる。講演の後半では、それまでの努力が各種の表彰・海外での活躍などとなって報われた悦びを述べた後、私の幸運と研究人生で私が学んだことを述べる。また、仕事のストレスを解消するために不可欠だった84ヶ国の旅“秘境ベスト10”などにも言及する。

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日付

講演者

タイトル

技術性格

講義ポイント

戦略・経験

講師の声

学生の声

要旨

講義概要

2

4月26日

ザインエレクトロニクス株式会社創業者CEO 飯塚 哲哉 氏

ファブレス半導体メーカにおける研究開発と成長 ~「人資豊燃」とは~

半導体 画像処理

研究者から経営者へ 正当な技術者評価 報われる研究者

一人当たりの成果 優秀な個と知をフロー状態に ファブレス 少数精鋭中期計画 無借金

人資豊燃 フォロー忘我の境地 大規模でなく気のあった少数精鋭と優れた仲間との切磋琢磨 やる気のない仲間が怖い

安定を企業を求めていたが、自己表現や社会貢献を意識した研究をしたい少数精鋭で成長できる機会があることを再認識した

 大学院博士課程で電子工学を専攻した講師は大手企業の要職を務めるが、没頭して時間を忘れるフロー状態での研究、達成感からの癒しへの強い思いから研究所を設立。水平分業が進む半導体業界のなかで、米国滞在やサムソンとのJVの経験も活かして、少数精鋭で一人当たりの成果を追求、技術者が成果の見える環境で完全燃焼して、豊かな自己表現を通した社会貢献をできる会社の実現を目指した。 こうした「人資豊燃」を理念として掲げて創業された会社は、急速な技術革新を成長の原動力として、最も研究開発型な半導体産業の中で、工場を持たない会社として急成長、20年弱の歴史の中で、JASDAQ上場、借金に依存せずに利益を原資とする研究開発など成長経営を通して、国内のベンチャー企業のリーダー的存在になっている。 安定した企業で研究を続けることに関心の強い多くの学生にとって、少数精鋭で一人当たりの成果を最大かすることから出発した経営実践を紹介したこの日の講義は別の生き方があることを伝え、強いインパクトを受けたようだ。

 半導体産業は急速な技術革新を成長の原動力とし、最も研究開発型の産業の一つではないだろうか。その60年余りの半導体産業の歴史を振り返ると、研究開発の成果が必ずしも単純に事業上の成果には直結せず、巨大化する次世代の技術開発投資の原資を生み出せずに、その無限の価値提供の可能性や夢の偉大さとは裏腹に、貴重な研究開発のリソース(人材、組織、資産)をみすみす毀損してゆく不幸な事例も見られた。 しかしながら、世界の半導体産業は今も力強い成長を続けており、ベンチャーを中心とした多くの勝ち組のモデルがあり、産業の成長を牽引している。世界の半導体産業が最初の構造転換を完了したのは1980年代である。その直後の1991年に、ザインエレクトロニクスは造語「人資豊燃」を掲げて、技術者・研究者がいかにして永続的に、面白く、楽しく技術開発に没頭できるかを課題に、元東芝半導体の技術者からスピンアウトした講師によって創業された。その20年弱の歴史の中で、世界制覇したサムスン電子との合弁事業、サムスンから独立した後のJASDAQ上場、借金に依存せずに利益を原資とする研究開発など成長経営の体験を通して、技術者の能力の完全燃焼、自己実現のあり方について考えてみたい。

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日付

講演者

タイトル

技術性格

講義ポイント

戦略・経験

講師の声

学生の声

要旨

講義概要

3

5月10日

旭化成株式会社新事業本部 情報技術研究所

所長 庄 境  誠  氏(音声ソリューションビジネス推進部 部長)

音声認識技術の研究開発及び事業化の教訓に学ぶ~その要素技術の展開によるセンシング技術開発の夢~

音声認識エンジン VERERO 音声データベース COSMOS 多次元情報の2次元表示

Chasmハイテク落とし穴からの脱却 LSIから組み込みへ 情報の見える化

事業領域は常に変革 ユーザー視点 汎用データベース活用

やってみればいい だめだったらやめればよい 無知を逆用した無謀 自らの手で確認お勧めキャリパス 仕事十訓(挑戦 ひとりよがり排除 相手立場 共感支援 感動 価値観共有 自立)

専門を極めることが自信、一人前の技術者への道との話に共感 その後自ら営業することの勧めは新鮮ユーザーにあわせた製品インターフェースの重要性を再認識した

 総合化学メーカである旭化成において、音声認識のソフトウェアの研究や事業創造はどのように成し遂げられたのであろうか。講師は1983年に数学科を卒業して入社するが、LSI事業への参入を模索する会社の戦略の中で、ロンドンからの情報で音声認識に取り組むことになる。LSIからの撤退時に転機が訪れる。事業領域は常に変革すべきとの社風の中で、上司との直談判で組み込み音声認識エンジンに集中、価格と品質を重視した買ってもらえる商品を目指して、Chasmハイテクの落とし穴からの脱却することになる。 こうして2000年に生まれたVOREROは、音声認識技術の普及をもたらす。この背景には、アルゴリズム・ソフトウェアの進展、半導体の低コスト化、自動車のハンズフリー需要などのキラーアプリケーションの出現、さらには、大規模音声データベースの蓄積などの事業環境があった。またCOSMOSに代表される多次元情報の見える化及び統計的パターン認識などの情報技術は、マイク入力音声だけでなく、他のセンサ信号にも適用が可能である。センサ技術と新たな可能性を拓いている。 講師は、音声認識の難しさに無知であることで無謀とも思われる商品開発に挑戦したことを思い出しながら、仕事十訓や技術者にお勧めのキャリアパスを紹介して、35歳までがむしゃらに専門を極め、自ら動いて営業して人と共感することの重要性を説かれた。多くの学生が共感し、将来進路を考える上でのインパクトを受けたようだ。

 25年の長きに渡り、音声認識技術の研究開発及び事業に携わってきた。その結果、組込み機器向け音声認識エンジンVOREROの製品化に至った。音声認識技術の普及・VOREROの要因としては、アルゴリズム・ソフトウェアの進展は言うに及ばず、昨今のIT・エレクトロニクス技術の進歩による低コスト化、自動車のハンズフリー需要などのキラーアプリケーションの出現、さらには、大規模音声データベースの蓄積などの事業環境が整ったことに依るところが大きい。音声認識技術により育まれたデジタル信号処理、多次元情報の見える化及び統計的パターン認識などの情報科学技術は、マイク入力音声だけでなく、他のセンサ信号にも等しく適用が可能である。センサと情報科学技術を組み合わせることにより、これまでにないインテリジェントでアンビエントなセンシングが実現できる。

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日付

講演者

タイトル

技術性格

講義ポイント

戦略・経験

講師の声

学生の声

要旨

講義概要

4

5月17日

日本無線株式会社 取締役執行役員立林 清彦 氏

「携帯端末からGPS応用へ 無線事業の展開」~ 無線機器メーカにおける技術者の変遷 ~

無線 デジタル信号処理 GPS

アナログからデジタル化 音声からデータ 無線事業の展開

公共無線からGPSモジュールまで 国内留学経験によるシステマテックな視野の重要性認識

仕事は自分の成長のために スキルアップの場と思え一手先を常に読んで行動せよ 最先端に立つ 朝令暮改のスピード感

会社は研究できお金をもらえる素晴らしい環境との言葉が印象的会社はスキルアップの場でもあり人間成長できる場と感じた

 本学科で超音波の研究の後、講師が無線機メーカーに入社した1970年はデジタル信号処理技術の立ち上がり時期であり、相関器やFFTプロセッサの製品開発に続いて国内留学して統計やシステムを学ぶ機会を得た。これらを活かして、アナログからデジタル、音声からデータへと進む中で、SOCの技術を駆使して公共無線から携帯モジュール、GPSへと事業領域の拡大を主導した。 最先端に立つためには朝令暮改も厭わず、仕事は自分を磨くとの信念の下、一手先を常に読んでの行動を率先垂範された。“報連相”に代表される重要事項を文書で伝える企業文化を定着、FTAを常にイメージにせよと技術部長として説かれている。 講義で学ぶ身近な無線技術を活用した新事業の展開を推進された講師の話に、後輩である学生はふと自分の視野を広げることや物事への姿勢を省み、将来への思いや決意を胸にしたようだ。

 無線通信技術を核としているわが社は、業務用無線機、携帯電話、PHS端末、GPS受信機、ITS機器などの端末から無線通信モジュールさらにGPS応用通信システムなどを手掛けてきました。この間、電波行政の流れに沿いながら、新たな周波数帯域、伝送速度の高速化に対応する動きの中で、わが社が技術分野をどのように拡大し、無線事業を展開してきたかを紹介させていただきます。

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日付

講演者

タイトル

技術性格

講義ポイント

戦略・経験

講師の声

学生の声

要旨

講義概要

5

5月24日

富士フイルム株式会社執行役員 メディカルシステム開発センター

次長 阿賀野  俊孝  氏

新規:医療機器開発 と 富士フイルム と わたし ― 経験の中で得たもの -

画像処理 医療への応用 学習 データベース

ファイルに代わる新事業開発 デジタル化への対応

医療における高精度画像分析 顧客と技術

体験や体感のみが「知恵」や糧 真理よりも事実を大事に 高い技術目標に挑戦 同じ間違いは2度やれ!「雑音を減らすには、使用エネルギーを減らせ」「本質の追及は高校生にもできる」会社とは 社員の意志の集合体

失敗を恐れない積極性が企業を支える 経験から学び成長するとの言葉に共感良いこだわりが新しい事業や製品の源と感じた実感したことを事実として大事にしたい

 フイルムは光による物質の変化を利用した高度な材料技術である。化学がこれを支える学問であったが、半導体を中心とした電子技術は、きれいな画面に加えて処理や判断する価値付加して、デジタル革命を巻き起こし、企業は事業転換を迫られた。 講師はこうした時代に入社し、医療分野で手探りをしながら、マンモグラフィーや小型デジタルX線装置などの機器を世界に先駆けて商品化した。幼少のころから手や体を動かすことの好きであった。体験や体感のみが「知恵」や糧となると強く信じ、真理よりも事実を大事にされ、高い技術目標に挑戦を続けた結果である。同時に「雑音を減らすには、使用エネルギーを減らせ」と基本にも迫りこだわりを持ちつづけた。「本質の追及は高校生にもできる」は電気系の若い技術者への叱咤激励の言葉であり、「e=mc2は四則演算と√で導出される」はこだわり思い出すべき基本の例であろう。 学生は、フイルム事業が縮小するなかで医療機器分野への進出を推進した講師からのこうした体験した事実の積み重ねが新たな道を切り拓くとの話しに、日々の実験や研究の身近なことで自分しかできない挑戦に元気をもらったようだ。

 富士フイルムは、イメージングとインフォーメーションに関わる会社である。コア事業として、ヘルスケア(メディカル・ライフサイエンス)、機能性材料等5つの分野を定義して、自らの強み(特に技術の強み)を世の中に問う形で、事業を行っている。私は、“技術の富士フイルム”のなかで、ほぼ 30年間を通して、新規開発に携わり、数々の“世界初”を生み出す現場を歩んできた。 世界初のデジタルスキャナ、世界初デジタルX線の小型化、世界初環境配慮型ドライプリンタ、世界最高解像度マンモグラフィーなどがその例である。まず、これらの開発を振り返る。次に、それらの開発の中で、多くの経験を積み、悩み、考え抜きながら、幸運に且つ楽しく身につけてきた、自分なりの人生観、会社観、技術観に言及する。以下はその例である。・ 体験/体感することのみが「知恵」となる。・ 同じ間違いは、2度やれ!・ 会社とは、社員の意志の集合体である。・ 本質の把握は、高校生でもやれる。

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日付

講演者

タイトル

技術性格

講義ポイント

戦略・経験

講師の声

学生の声

要旨

講義概要

6

5月31日

NTTコムウェア株式会社取締役 NWS事業本部 OpS-S部長

野 本  忍  氏

日本の基幹通信網を支える交換機ソフトウェアの開発からNGN網の制御ソフトウェア開発へ

インフラシステムのソフト 情報通信サービス インターネット

リーダーシップ コミュニケーション能力

大システムでの個人能力発揮 内外資源の活用 顧客要求とコスト、納期管理

 “企業は自己実現の場” “企業に使われるのではなく企業を自分が使う”

常にゴールを意識して到達するにはどうするかとの前向き思考を持ちたいやりがいがあるプロジェクトのリーダーになり、達成感を味わいたい

編集中

 NTTでは社会インフラとしての通信サービスを提供するため、これまで電話交換機に代表される専用ハードウェア上で巨大なソフトウェアを構築してきた。現在はNGN(Next GenerationNetwork)と呼ばれる次世代の通信網に移行中であるが、NGNでは、元来ベストエフォート品質を前提としたIP技術によって汎用ハードウェアの採用を可能とすると同時に、社会インフラとしての品質と信頼性も両立させている。 本講演では、NTTの電話網とそれを構成するソフトウェア技術の変遷を概観し、激変する経営環境に対してソフトウェア開発面でどのように対応し、さらにIP技術で構成されるNGN網を構成するソフトウェアの開発にどのように取り組んでいるのかを解説する。また、社会的基盤を支えるソフトウェア開発の実践面の理解を深めてもらうために、巨大で高信頼性を要求されるソフトウェアの生産管理技術についても解説する。

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日付

講演者

タイトル

技術性格

講義ポイント

戦略・経験

講師の声

学生の声

要旨

講義概要

7

6月7日

東海旅客鉄道株式会社東海道新幹線21世紀対策本部 リニア開発本部

 担当部長 北野 淳一 氏

超電導リニアの技術開発と今後の展望

リニアモーター 超伝導 

インフラ建設の技術開発 長期計画 安全設計

実験線 規模拡大 予算確保

「実用化に向けた技術上の目途がたった」と運輸省の技術評価委員会が評価している

広く長期的見識をもってこのような長期的プロジェクトのリーダーとなりたい

編集中

 JR東海では1997年4月に山梨リニア実験線を建設し走行試験を開始した。これまで、最高速度581km/h(鉄道としての世界最高速度)、すれ違い最高速度1026km/h、一日最高運転距離2876kmを記録するなど、着実に成果を積み上げ、平成21年7月には国土交通省の実用技術評価委員会において「営業線に必要となる技術が網羅的、体系的に整備され、今後詳細な営業線仕様及び技術基準等の策定を具体的に進めることが可能となった」と評価を受けた。現在、実験線を18.4kmから実用レベルの42.8kmに延伸する工事を進めており、将来的には2027年 首都圏~中京圏での営業運転開始を目指している。 本講義ではこれまでの技術開発の歴史と今後の展望について概説する。

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日付

講演者

タイトル

技術性格

講義ポイント

戦略・経験

講師の声

学生の声

要旨

講義概要

8

6月14日

日本電気株式会社NEC情報・メディアプロセッシング研究所

シニアエキスパート 柏谷(かしたに) 篤(あつし) 氏

研究成果の事業化,失敗と成功~画像処理、画像入力機器の研究を通して~

スキャナー モザイクカメラ 解像度 

技術開発と活用 情報発信と収集

C&C ネットワークソリューション基礎技術開発と製品開発 基礎の掘り下げ 情報収集

分かっているつもりで実は分かっていない 思い込みは要注意情報発信することで情報が集まる 沢山の人と会うことはとても大切明確な目標を設定すれば 努力しやすく頑張れ 達成できる

粘り強さが道を拓く例に勇気を与えられた

 ウィンドウズの普及の始まった1989年に入社した講師は、4年目からPCに取り込むスタンド型のスキャナの開発に取り組む。CCDの普及以前の当時、ミラー回転式の試作機には成功するが、コストが十分下げられずPC用の製品化には至らない。成果の活用を目指して社内を駆け巡り、スキャン時間を3秒から1.4秒に短縮して金融システム用のスキャナに活用の道を見出す。 その後動画をリアルタイムで合成して静止画を生成するモザイキングカメラの技術開発に取り組み、特徴点追跡によるカメラ動き推定、画像重なり検出と超解像処理の工夫をして携帯電話への組み込みを行ったが、激しいカメラの動きの下で正常な出力が得られず、製品には至らなかった。しかしこの超解像処理技術は解像度の低い動画像を鮮明に蘇らせるLSIに導入され、広くAV機器に採用されることになる。 当初の狙いを達成できなかった2つの失敗例を取り上げて、事前の調査の大切さを語りかけるとともに、沢山の人と会い情報発信して情報を集める粘り強さが、企業で要求される結果に結びついたと説かれた。エピソードを交え笑顔で楽しそうな話振りは、数年後迎える実社会での仕事に不安を抱く学生への貴重な癒しを贈ってくれたようだ。

 民間企業の研究では,その成果を事業に結びつけてはじめて成功したと言えます.しかし,全ての研究成果が事業化できるとは限りません.入社以来,主に画像処理,画像入力機器の研究を通して経験してきた事業化の失敗と成功について,具体的な事例(スタンド型イメージスキャナ,携帯電話向け画像処理)を挙げながらご紹介します.

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日付

講演者

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9

6月21日

キヤノン株式会社イメージコミュニケーション統括開発センター所長

下郡山(しもこおりやま) 信(まこと) 氏

デジタルカメラ、デジタルビデオの製品技術開発 ~開発現場の仕事の仕方~

デジタルカメラ、デジタルビデオ CCD、AFE 画像処理エンジン

カメラとビデオの一体化 商品企画から商品立上げまで 要素技術の取り込み 垂直統合を支えるすり合わせ技術

カメラからイメージビジネスへ コンシューマーエレクトロ二クスの商品開発を支える技術開発部品とシステム 競争の中での外部委託

”大学では交流理論、回路理論の基本を学んでほしい。製品技術開発のベースとなる論理的思考、探究心を身につけて”

“物つくりの醍醐味に憧れを持った”“交流理論、電子工学、回路理論の基礎をしっかり”“周波数―時間軸を感覚的に分かるように”

 カメラメーカーから、半導体産業の発展を見越してイメージをベースとしてICT企業に急成長したキヤノン。水平分業の進むPCや周辺機器とは異なり、デジタルカメラはコンシューマーエレクトロニクス分野で日本が代表する強い商品である。伝統のレンズでのブレークスルー、センサーに画像処理エンジンを加えたコア要素技術開発と特許戦略はキャノンの経営戦略の中心である。 今回の講義では、デジタルカメラとデジタルビデオを一体化した商品の開発経過に学ぶコンシューマー製品の差別化がテーマとなった。東北大学通信工学研究科を卒業、コアエンジンの開発に長く携われた下郡山氏は、商品コンセプトと目標性能設定、外部資源も含めた要素技術の集約、最後まで諦めない粘りの末に商品が完成した経緯を説明された。 講師は後輩に向かって、“電気を知らない電気屋が多い”と忠告され、大学での基本の学びの重要性を再三強調し、企業における研究の進め方、考え方、手法から論理的思考、探究心、明確なコンセプト追求に奮起を促した。学生からは、“交流理論、電子工学、回路理論の基礎をしっかり学びたい”“周波数―時間軸を感覚的に分かるようになりたい”などの目標とともに、“物つくりの醍醐味に憧れを持った”との感想も聞かれた。

 日本のコンシューマーエレクトロニクスの代表商品ともいえるデジタルカメラ・デジタルビデオカメラの製品要素技術開発の開発現場を紹介し、コンシューマー製品の差別化技術とは何かを実例を持って説明する。 日本のデジタルカメラはなぜ強いのか?パーソナルコンピュータやその周辺機器など水平分業によって生み出される商品と対角をなすデジタルカメラやデジタルビデオカメラは、日本のお家芸であり日本の産業をささえる重要な商品である。この強さの秘密を開発現場の実例から紹介し、今後も日本のコンシューマー製品産業の発展的継続をささえるため、微力ではあるがその現場での取り組みを紹介しそれを糧に後輩諸君が活躍をしていただければ幸いである。

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10

6月28日

三菱電機株式会社開発本部

フェロー 村上 篤道 氏

国際標準・映像符号化技術(MPEG)とデジタル放送      ~De-FactoとDe Jure 標準~

符号化、シャノン、帯域圧縮、予測、直交変換/帯域分割、量子化、動き補償、エントロピー符号化

日本の成功した国際標準化の成功要因?

アナログ時代からデジタル化の先取り、基本追及と特許、ビジネス展開を考慮した国際標準、パテントプール

無駄をなくすことは技術の基本プロフェッショナルの専門性 先取り 特許収入 産業規模

大きなビジネス実現の背景と原動力理解 未来を見据えること重要 成功のために動き出す 大学の講義と実際製品が繋がった  専門外の話であるが基本を知り有意義 社会にインパクトある仕事をしたい

 MPEG(Moving Picture Experts Group)は、日本が先行して提案・確立した数少ない国際標準であり、放送・パッケージ・通信メディアにおけるコンテンツ流通に、国際的規模で採用され、既に250兆円以上の市場規模を創出している。 この標準化は、デジタル化の進展を先取り、情報の本質を追及した研究開発をベースに、パテントプールなどの協調を含む業界や国際標準(De-Facto標準、De-Jure標準)のプロセス開発を通して成し遂げられたものであり、50~100 分の1の情報圧縮と映像品質の改善を目標に発展を遂げてきた。シャノンの情報理論、予測、直交変換/帯域分割、量子化 エントロピー符号化等のツールがハイブリッド化されたアーキテクチャに組み込まれ、MPEG-1、2、4、AVC の作業を通して開発された標準は、デジタル放送、DVD、携帯電話、インターネット映像配信の基盤技術として採用されている。さらにISO/IEC(MPEG)とITU-T(VCEG)が連携した次世代のUHDTVに向けた新技術開発の挑戦に繋がっている。 聴講した学生は、標準化のインパクトの表面に留まらず、半導体技術の進展に支えられたデジタル化の先見性を持った地道な基本の追及、国際標準化のプロセスの創意工夫の積み重ねの重要性を感じ、視野を広めたようだ。これは、顧客ニーズが強調された他の講義との違う気づきである。同時に世界に役立つ研究者になりたいとの憧れ、モチベーションを抱かせてくれた。

MPEG(Moving Picture Experts Group)は,ISO/IECJTC1/SC29/Working Group11の呼称である。MPEGによって規格標準化された符号化技術は、放送・パッケージ・通信メディアにおけるコンテンツ流通に、国際的規模で採用され、既に250兆円以上の市場規模を創出している.映像符号化技術は、学術的な研究開発のみならず、De-Facto(業界)標準やDe-Jure(国際)標準の開発プロセスを通して、50~100 分の1の情報圧縮と映像品質の改善を目標に発展を遂げてきた.本講座では、先ず、MPEG 以前のアルゴリズム開発から標準化の流れの中で採用された符号化ツールとハイブリッド・アーキテクチャについて紹介する.更に、MPEG-1, 2, 4,AVC の各標準化作業を通して開発され、デジタル放送、DVD、携帯電話、インターネット映像配信の基盤技術として採用されている国際標準符号化ツールについて紹介する.現在、ISO/IEC(MPEG)とITU-T(VCEG)が連携して、次世代のUHDTV(Ultra High Definition Television)に向けた新技術開発の挑戦が始まりつつある.

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11

7月5日

富士重工株式会社常務執行役員 戦略本部長

馬渕  晃  氏

-安心と信頼の走りを目指して-

運転制御 ソフト ステレオカメラ 物体認識

安全な自動車とは 事業環境 規制

安全をベースとしたブランド 垂直統合 アイサイト

ユーザーが自ら運転する機械 意のままに

0から3次までの安全を組織的にとらえることに関心した自動車メーカーにおける電気・情報系人材のイメージが把握できた

 編集中

 自動車は、燃費・排ガス等の環境対応や、万一の交通事故時における乗員の安全性確保、全世界のあらゆる環境条件における長期間の耐久信頼性など、幅広くかつ高い性能が求められる。また、多くの交通機関の中で、(バイクや自転車と同様に)数少ない、ユーザが自ら運転する機械である。 したがって、自動車を自信を持ってユーザに提供するためには、基本的な「安全性」を確保する以上に、運転時あるいは乗車時に安全性を超えた「安心感」「信頼感」を持ってもらうことがさらに重要であると考える。

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7月12日

株式会社フジクラ専務執行役員 研究開発本部長

加藤 隆昌  氏

「日本における光ファイバ通信実用化の歩み」

光ファイバ 損失要因と低減 屈折率分布 非線形現象 波長多重 光増幅インターネット 基幹幹線 FTTH

1985年創業 電線メーカー 光ファイバを機に新分野展開光ファイバの急速な技術開発の進展と原動力

インターネットを中心とした需要伸びWDMや光増幅による技術革新

最近の学生は研究以外やりたがらない

様々な経験が能力を高めると感じた社会の基盤となる技術開発で社会に貢献したい

編集中

 インターネットと映像文化の普及に相まって、通信トラフィックは,地球規模レベルで爆発的に増加している。光ファイバ通信は、この地球規模の高速大容量通信の主たる担い手として、大きな役割を果たしており、超高速長距離通信のみならず、オフィスや家庭を接続するアクセス系通信でも、その普及、技術革新が加速されている。 今回は、光ファイバ通信が実用化されるまで、どのような課題を克服して実現されてきたかについて、光ファイバ通信の基本、光ファイバの製造技術・技術課題など、光ファイバ及び光ケーブル製造メーカの立場から解説する。 また、トリプルプレー(インターネット接続、IP電話、画像配信の一括サービス提供)の実現で、その普及が加速している、FTTH(Fiber To The Home)の伝送システムやネットワーク構成について、最新の技術動向を含め解説する。

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7月26日

リオン株式会社取締役R&Dセンター長 吉川教治 氏同社 技術開発部部長 成沢良幸 氏

聴こえをつくる デジタル補聴器の技術開発- 人へ社会へ世界へ、企業理念を反映する製品開発 -

音響 耐久性(汗や水、湿度に耐える)デジタル化 ハウリングキャンセラ 非線形増幅 ノイズ削減聴感フィッティング

1944年創業、理学に根ざす音響 社会奉仕する企業利用者の声と立場の吸収 身につけていることが目立たない

企業理念と技術進展 商品コンセプト 材料開発と特許戦略 デジタル化QOLバリアフリー エコマネージメント

コミュニケーションを助ける 正常な人よりも情報を取り込める補聴器不自由による社会生活に支障や障害を除く

難聴者への考慮が並々ならぬものであることに驚いた現在の研究を支える経営姿勢を聞いてやる気が出た

 リオン(株)は、1944年に理学に根ざした音響で社会に貢献することを目指して創業、1948年には最初の補聴器を世に送り出し、医療と環境分野での事業を開拓。1986年には音は通すが水を通さない連続多孔質体の薄膜を開発して世界で初めて補聴器の防水化に成功。この技術は広く携帯電話にも活用され、同社の名は世界に広がった。 1991年にはデジタル化信号処理の技術を取り込み、世界で初のデジタル補聴器を開発。その後も耳の一部として“不自由によって社会生活に支障ある人から障害を除く”“正常な人よりも情報を取り込める補聴器”を目指して、ハウリング抑制、雑音だけでなく時間変化の大きな信号抑制、正面からの音を強調するなど、聴こえやすさを追求、装用の快適性に留まらずファッション感覚までを生み出し、障害者の意識を変えた。 こうした成功にも拘わらず、利用者である障害者の声を聞き続け、ひたすら改善に努める同社の姿勢、企業の理念と経営姿勢に、聴講した学生は感銘を受けた。特に身近な近親者が補聴器の恩恵を受けている場合にはこの思いは一段と強かったようだ。

 難聴は聴力低下による閾値の上昇が主な原因であるが、その様相は個人個人で大きく異なる。従って単に音を大きくする線形な増幅機能では聴こえの改善には不十分であり、難聴者の聴力に合わせて周波数ごとに異なる非線形な増幅特性を形成する必要がある。そして、汗や水、湿度などの自然環境に耐える耐久性と、多くの難聴者の望みである、身につけていることが目立たない形状や大きさでなければならない。 近年のデジタル補聴器では、ハウリングを抑制する、時間変化率の大きな信号を抑制する、雑音を抑制する、正面からの音を強調するなど、聴こえやすさや装用の快適性を図る機能がデジタル信号処理で可能になっている。 防水化では、我々は、20年以上前から世界で唯一防水補聴器を開発しているが、防水技術と音響性能の両立の困難さから、未だに全製品への展開はできていない。 本講義では、携帯電話では当たり前のようになった電子音響機器の防水化の先がけでもあった補聴器の防水技術開発の紹介と、音声を聴き取りやすくする補聴器の先進のデジタル処理、そして難聴者が望む小型化技術について紹介する。

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戦略・経験

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講義概要

14

7月30日

(株)東芝, セミコンダクター社 首席技監 執行役常務待遇 斎藤 光男 氏

 Cell Broadband Engine/SpursEngine開発とその意味 -Cell Worldを目指して-

3Dグラフィック、超解像、TV “Cell REGZA”、マルチコア

研究のはじまり、夢と情熱、好きなことできる環境と信頼

企業間連携、家電における先行技術開発、汎用新アーキテクチャー

どんなすごい仕事もちょっとしたきっかけであり、最初は水面下でひっそり行われる自由に好きなことができる環境があり、周囲の信頼を得ながら目標に前進することができた

大きな仕事につながる小道を見落とさないようにチップと石と呼ぶ愛情 自分の作ったものに誇りを持って紹介できる技術者になりたい

編集中

 最近Cell REGZAとして,TVに使われた,プレーステーション3のメインCPUとして有名なCellBroadband Engineのコンセプトと、なぜこのようなプロジェクトが可能になったのかを、プレーステーションとのかかわりを中心に述べます。それによって何ができて、何ができなかったかを説明し、それがSpursEngineに結びついた理由を説明します。さらにその時に夢見たCell Worldと、その現状を紹介します。