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58 Dec. 2015 1.中小型ボイラの基礎 中小型火力発電設備の中で,自家用火力発電は,鉄鋼, 製油,化学,製紙などの各種産業の生産工程から生じる 副生燃料を多用していることと,発生した蒸気を電力供 給のほかに生産工程に使用することで高い熱併給効率を 得られているというのが特徴である。このためボイラの 型式としては,使用される燃料と発生蒸気の用途に合わ せ多種多用に分かれるが,一般的に中小型火力発電設備 には給水処理が簡素でかつ運転操作が容易なドラムボイ ラが使用される。 近年の燃料多様化の中で,特に新設の中型火力発電設 備の油焚きボイラ燃料は,C重油などの市販燃料から, 残渣や石油コークス等の副生燃料へ変化している。そし て,CO 2 削減の観点により,微粉炭焚火力発電ボイラへ のバイオマス燃料の混焼が実施されて,また,バイオマ ス燃料を専焼する小型火力発電設備が稼働している。 中小型容量火力発電設備は,上記の通り,燃料種類は 多岐に渡り,また電熱併給(自家用火力発電)になるも のがある為,その発電設備に見合った個別の運転管理が 必要である。ボイラに関係する運転管理値も,発電設備 毎に異なることから,個々のボイラの運転管理は,基本 的に各発電設備の取説の記載内容に則って行うことが必 要である。 よって以下に述べるボイラの運転方法については,あ くまでも一般的事項の解説であり,本講座記載内容によ る運転事故や機器の損傷,損害等については,一切免責 されるものとする。 2.全体システムと特徴 (1)一般的な中小型ボイラシステム 発電を主目的としている中小型火力発電設備は事業用 火力発電所と同様に過熱器および再熱器を有するボイラ が使用される。 プロセス蒸気を大量に必要とする自家用火力発電設備 は,蒸気系統に再熱器を持たないボイラが一般的に使用 される。 何れのボイラにも使用されるドラムボイラにおいて は,主蒸気圧力制御を燃料で行い,ドラムレベルを給水 流量により一定に制御する。 (2)タービンを共有するボイラシステム 複数のボイラより蒸気を供給するシステムではボイラ 出口に蒸気溜を持ち,燃料は蒸気流量を制御するために 燃料量を変化させて,圧力は調整弁で行う場合が多い。 この場合ボイラ出口には大気放出弁が設置し,起動時 の蒸気温度,圧力条件が整うまでは蒸気を大気に放出し ている。 この方式はプロセス蒸気を多量に必要とするプラント ならびに廃棄物焼却炉等に多く見られる。 (3)再熱器を有しないボイラ タービン排気または抽気をプロセス蒸気として使用す るプラントでは過熱器のみ設置し,再熱器を有しないボ イラもある。 (4)使用燃料における特徴 ①油,残渣 中小型火力発電設備で使用される油燃料は安価な高硫 黄分,高バナジュウム分の油が多い。このようなボイラ の火炉では,硫化水素(H 2 S)による腐食対策,過熱器 では高温腐食対策が行われている。 油燃焼ではバーナよりの燃料の霧化を適正化するため に適切な粘度に加熱する。通常C重油では120℃前後で あるが,残渣では200~280℃程度としている。 また,腐食性分が多いことからマグネシウムを主成分 とする添加剤が燃料配管に注入されることが多い。 ②ガス燃料 副 生 燃 料 と し て コ ー ク ス ガ ス(COG), 高 炉 ガ ス (BFG)のほかに,市販燃料として天然ガス(NG)や 液化天然ガス(LNG)がある。燃料中の不純物が少なく, ボイラ設備への腐食等のポテンシャルが低いが,防爆対 策については細心の注意を払う必要がある。 ③石炭 石炭燃料ではミル,給炭機,クリンカホッパなどの補 機類が多くなることで運転操作が複雑になる。また,石 炭のみの燃焼を行うプラントの他に,重油系やガス系燃 火力発電所の運転【改訂版】 Ⅳ.中小型火力発電設備他 1.ボイラ 799 入門講座

火力発電所の運転【改訂版】 Ⅳ.中小型火力発電 …...2015/12/14  · Ⅳ.中小型火力発電設備他 59 6612 料との混焼可能な設備が多い。④廃棄物

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火 力 原 子 力 発 電

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Dec. 2015

1.中小型ボイラの基礎

中小型火力発電設備の中で,自家用火力発電は,鉄鋼,

製油,化学,製紙などの各種産業の生産工程から生じる

副生燃料を多用していることと,発生した蒸気を電力供

給のほかに生産工程に使用することで高い熱併給効率を

得られているというのが特徴である。このためボイラの

型式としては,使用される燃料と発生蒸気の用途に合わ

せ多種多用に分かれるが,一般的に中小型火力発電設備

には給水処理が簡素でかつ運転操作が容易なドラムボイ

ラが使用される。

近年の燃料多様化の中で,特に新設の中型火力発電設

備の油焚きボイラ燃料は,C重油などの市販燃料から,

残渣や石油コークス等の副生燃料へ変化している。そし

て,CO2削減の観点により,微粉炭焚火力発電ボイラへ

のバイオマス燃料の混焼が実施されて,また,バイオマ

ス燃料を専焼する小型火力発電設備が稼働している。

中小型容量火力発電設備は,上記の通り,燃料種類は

多岐に渡り,また電熱併給(自家用火力発電)になるも

のがある為,その発電設備に見合った個別の運転管理が

必要である。ボイラに関係する運転管理値も,発電設備

毎に異なることから,個々のボイラの運転管理は,基本

的に各発電設備の取説の記載内容に則って行うことが必

要である。

よって以下に述べるボイラの運転方法については,あ

くまでも一般的事項の解説であり,本講座記載内容によ

る運転事故や機器の損傷,損害等については,一切免責

されるものとする。

2.全体システムと特徴

(1)一般的な中小型ボイラシステム

発電を主目的としている中小型火力発電設備は事業用

火力発電所と同様に過熱器および再熱器を有するボイラ

が使用される。

プロセス蒸気を大量に必要とする自家用火力発電設備

は,蒸気系統に再熱器を持たないボイラが一般的に使用

される。

何れのボイラにも使用されるドラムボイラにおいて

は,主蒸気圧力制御を燃料で行い,ドラムレベルを給水

流量により一定に制御する。

(2)タービンを共有するボイラシステム

複数のボイラより蒸気を供給するシステムではボイラ

出口に蒸気溜を持ち,燃料は蒸気流量を制御するために

燃料量を変化させて,圧力は調整弁で行う場合が多い。

この場合ボイラ出口には大気放出弁が設置し,起動時

の蒸気温度,圧力条件が整うまでは蒸気を大気に放出し

ている。

この方式はプロセス蒸気を多量に必要とするプラント

ならびに廃棄物焼却炉等に多く見られる。

(3)再熱器を有しないボイラ

タービン排気または抽気をプロセス蒸気として使用す

るプラントでは過熱器のみ設置し,再熱器を有しないボ

イラもある。

(4)使用燃料における特徴

①油,残渣

中小型火力発電設備で使用される油燃料は安価な高硫

黄分,高バナジュウム分の油が多い。このようなボイラ

の火炉では,硫化水素(H2S)による腐食対策,過熱器

では高温腐食対策が行われている。

油燃焼ではバーナよりの燃料の霧化を適正化するため

に適切な粘度に加熱する。通常C重油では120℃前後で

あるが,残渣では200~280℃程度としている。

また,腐食性分が多いことからマグネシウムを主成分

とする添加剤が燃料配管に注入されることが多い。

②ガス燃料

副生燃料としてコークスガス(COG),高炉ガス

(BFG)のほかに,市販燃料として天然ガス(NG)や

液化天然ガス(LNG)がある。燃料中の不純物が少なく,

ボイラ設備への腐食等のポテンシャルが低いが,防爆対

策については細心の注意を払う必要がある。

③石炭

石炭燃料ではミル,給炭機,クリンカホッパなどの補

機類が多くなることで運転操作が複雑になる。また,石

炭のみの燃焼を行うプラントの他に,重油系やガス系燃

火力発電所の運転【改訂版】

Ⅳ.中小型火力発電設備他1.ボイラ

799入門講座

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Ⅳ.中小型火力発電設備他

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料との混焼可能な設備が多い。

④廃棄物

廃棄物ボイラは,各種廃棄物燃焼炉の出口に設置され

る廃熱ボイラになる。

廃棄物の特徴として,燃焼ガスは,塩素化合物(HCl

等)や硫黄酸化物を含み,かつ灰中には腐食成分が多く,

水蒸気分圧が高い。

現状,経済性から蒸気温度350℃~400℃,主蒸気圧

力3MPa~4MPa程度の蒸気条件が多いが,発電を主

目的にしている中小型火力発電用ボイラに比べると蒸気

温度・圧力条件が低い。

⑤木質バイオマス

木質バイオマス燃料の形状は,ペレットやチップ形状

であり,その形状によりストーカ燃焼,流動床燃焼等の

燃焼炉(専焼,混焼)や,微粉炭コンベンショナルボイ

ラ(混焼)に適用される。

木質バイオマスの特徴として,灰中に含まれるアルカ

リ成分(Na,K等)による灰の溶融,伝熱面への付着

があり,伝熱面のアレンジ等に考慮が必要になる。

3.起動停止手順

油燃料のドラム型ボイラの概略起動手順を説明する。

(1)ボイラ水張

各ベント弁および過熱器,再熱器のドレン弁を開して

水張りを行う。通常ボイラの水張りはMCRの5~10%

程度にて水張りを行う。ボイラ点火後,水の膨張により

ドラムレベルは上昇するので低警報がリセットする点ま

で水を張る。

(2)点火準備

①通風系統の起動

AHを起動後フレームデテクタ冷却ファン,IDF,

FDFの順序で起動し,風量を火炉パージ風量まで増加

させる。

②起動燃料系統の起動

起動燃料ポンプを起動し遮断弁前での循環を行う。

火炉パージが進行すれば遮断弁を開け配管内を充圧

し,リークチェックを行う。

(3)点火・昇圧

起動バーナを点火し,昇温を開始する。

昇温率は50~110℃が一般的であり,ボイラの容量

により異なることから規定された昇温率に沿って燃料量

を調整する必要がある。

ボイラ圧力が0.2MPa前後になればベント弁を全閉に

し,過熱器ドレン弁を規定開度まで絞る。

昇温に伴うドラムレベルの変動には圧力が低い場合の

レベル上昇は缶水低減弁で行い,圧力上昇と共に缶水ブ

ロー弁に切り替える。一方,ドラムレベルの低下時は給

水を行う。

(4)通気併入

SHドレン弁および主蒸気管ドレン弁により通気温度

の調整を行う。

通気を開始すれば主蒸気管ドレン弁以外のドレン弁は

閉じ,圧力の落ち込みを防止すると共に必要に応じて燃

料量を調整する。

タービンが定格回転数に到達すれば補助蒸気を自缶に

切り替え併入を行う。

燃料,給水はこの段階より自動制御に入れる。ただし,

ドラムレベルは単要素制御であり20%程度の負荷にな

れば3要素制御に入れる。

また,併入にて主蒸気管ドレン弁を閉にする。

(5)負荷上昇

負荷上昇に伴い下記操作を行う。

①燃料の切替(起動燃料から通常燃料)

②脱硝装置のインサービス

(6)停 止

負荷解列後バーナを消火し,全バーナ消火完了より5

分間ポストパージを行う。ポストパージが完了すれば

ファンは停止可能となるが,停止状態により操作が異な

る。

①バンキング停止

再起動が予定されている場合,ボイラ残熱を保持する

ためファン停止後,各煙風道ダンパを締め切り熱の放散

を極力抑えてボイラ停止。

この場合フレームデテクタ冷却ファンとAHは連続運

転としている。

②冷却停止

ボイラの解放点検が予定されている場合,ファンは停

止せず冷却後停止する。

ボイラ冷却の一例を図1に示す。

4.負荷上昇

併入後は起動燃料から主燃料への切替,補助蒸気を自

缶から低温再熱蒸気または抽気などに切り替える操作が

あるが基本的には負荷により燃料・給水・空気が追従す

801

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Dec. 2015

るため蒸気温度圧力を監視する必要がある。

5.通常のボイラ運転中業務

(1)通常の運転調整および監視

①主蒸気圧力と蒸気温度

ドラムボイラの場合,通常燃料で圧力制御するので燃

料流量自体が不安定な状態にないか確認する。燃料油で

は調整弁のハンチング,ストレーナ詰まりによるポンプ

出口圧力不安定,アトマイズ蒸気圧力の不安定,バーナ

チップ詰まり等による燃焼の不安定は無いか確認する。

ガス燃料では元圧の変動,調整弁の変動がないか確認

する。

石炭,廃棄物,木質バイオマス等では供給フィーダに

変動はないか,フィーダ電流が不安定でないか確認する

と共に表面水分などが極端に変化していないか確認す

る。

石炭では空気により微粉炭を搬送するので空気量が安

定していない場合,蒸気圧力および温度も安定しないこ

とから空気流量の監視も必要である。

また,蒸気温度が何らかの原因で不安定となり,減温

スプレが変動している場合主蒸気圧力も変動する。この

ような場合にはスプレ弁を手動として安定する箇所に調

整することで圧力が安定する場合がある。

主蒸気圧力,温度が安定しない場合,どの条件が主原

因であるかを特定するのは困難であり,各操作端を手動

とし安定したものが原因と考えるのが一般的である。

②NOx上昇

NOxの上昇は燃焼状態に起因する場合が多く,燃料

中のN分(窒素分)増加,空気配分の変動,特に二段燃

焼比率が低下しバーナ空気量が増加した場合等が挙げら

れる。

また,バーナチップの摩耗,内面スケール付着による

噴霧状態の変化,ガスバーナノズルの異常などバーナ自

体の異常がある場合もある。

排ガス混合を行っているプラントでは季節による大気

温度の変化でガス混合量が変動し,NOx値が上昇する

場合がある。このような場合は風箱O2,ドラフトを正

常運転時と比較して必要箇所を是正する必要がある。

③煤塵量,未燃分の増加

油バーナでは霧化に異常がある場合,粘度が高い時な

らびに空気量のアンバランスなどが要因として挙げられ

る。

また,バーナチップ自体の詰まり,磨耗,スケール付

着による変形などにより燃焼状態が不安定となっている

場合も多い。

④ドラフト変動

バーナ点火,スートブロワ使用時などにドラフトが変

動する場合があるが,これらがトリガーとなり変動が止

802

図1 ボイラ冷却操作の一例

MPa

MPa

MPaMPa

MPa

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Ⅳ.中小型火力発電設備他

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Vol. 66 No.12

まらない場合がある。

通常の運転では問題ない場合,空気予熱器詰まりによ

るシステムロス増加でのファン関係ダンパ高開度運転に

よる制御応答性の低下,ファン関係ダンパ自体の異常が

推定される。

また,燃焼面で息つき燃焼,燃焼振動等が発生し,ド

ラフトが安定しない場合もあり注意が必要である。

ドラフト変動の場合は各ダンパを一個づつ手動にし変

動が止まるダンパを特定し異常を見つける場合が多いの

でプラント運転状態を確認しつつ手動にするのも一つの

手段である。

⑤水質の悪化

ドラムボイラの場合缶水pHを燐酸ソーダにより調整

する場合が多い,この場合燐酸ソーダモル比とpHの関

係が大幅にずれpHが保持できない状態になった場合次

の確認が必要となる。

・海水リークの確認

・�純水装置出口導電率ならびにSiO2,TOC(全有機炭

素)濃度の確認

海水リークに場合は復水導電率も高くなることから確

認できる。

一方,コドイダルシリカおよびTOCは高温で酸にな

る場合があり復水の導電率,pHでは判断できない場合

が多い。特に自家用発電設備では井戸水,池,河川の水

を工業用水として純水装置に供給される場合が多く,使

用水の変化による水質悪化が発生する場合がよくある。

また,使用水変更に伴い純水装置のイオン交換樹脂が

詰まり,容量不足などの問題で酸が復水内に持ち込まれ

る場合があるので使用水を変更する時には予め水を分析

し,純水装置メーカと協議しておくことが賢明である。

缶水のpH低下などはボイラ全体の腐食に繋がり大事

故になることがあるので管理値を越える場合は一旦ボイ

ラを停止し,ブローなどの処置が必要となる。

(2)定期点検(巡視点検)

一般的な日常および定期点検の一例を表1に示す。

6.ボイラの事故停止時の対応と留意点

自家発電設備のボイラ発生蒸気が生産工程の重要な用

途に用いられている場合には,自家発電設備のトラブル

による生産工程への影響が大きく,場合によってはボイ

ラの事故が起きても直ぐに停止できずに,ボイラの損傷

被害が拡大する事例もある。

自家発電設備に限らず,中小型発電設備のボイラは,

1年間連続運転等の高い信頼性が要求される場合が多

い。本項ではよく起こるケースとしてボイラチューブ

リーク事故,および空気予熱器火災事故発生時の対応と

留意点について述べる。

6.1 ボイラチューブリーク事故

(1)チューブリーク事故時の対応と運転操作

・�先ず燃料を遮断する。特にボイラ水壁管のリーク事

故においては燃焼運転を継続した場合,水壁管の焼

損被害が拡大したり,ドラムの空焚きによるドラム

の変形発生等の大きな被害が発生し得る。

・�ドラム型ボイラにおいては給水を断って,厚肉ドラ

ムに対するサーマルショックを防ぐ。また,圧力を

急に下げないようボイラから送り出されている蒸気

を完全に遮断し,ドレン弁等の操作に注意する。空

気量はなるべく少なくして,ボイラが急冷されるの

を防ぐ。平衡通風方式においては炉外に水,蒸気が

噴き出さない程度に炉圧を調整する。

・�貫流ボイラにおいては,可能であれば低圧にて給水

を保持し,均一にかつ早くボイラを冷却する。

・�ストーカ炉のように燃焼室に耐火材を使用してお

り,かつ燃料を断っても燃焼が継続する場合におい

ては,チューブリーク事故後においても給水を保つ。

流動層ボイラにおいて層内に伝熱管を有する場合に

おいても,層温度が低下するまでは給水を保つ。

6.2 再生回転式空気予熱器の火災事故

(1)再生回転式空気予熱器の火災の発見

・�空気予熱器の火災はユニット起動過程における低負

荷時に最も発生しやすく,空気予熱器の火災防止の

ためには出口ガス温度に注意する必要がある。急激

なガス温度上昇および異常に高い温度になると火災

を引き起こす危険がある。

(2)火災に対する処置(一例)

・�燃料を遮断し通風系統を停止後,空気予熱器の火災

では空気予熱器へ接続されている空気やガス系統ダンパ類があれば全て全閉として空気予熱器への

空気の供給遮断する。

・�空気予熱器を運転させながら,水洗装置等を使用し

て消火作業に入る。

803

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表1 日常および定期点検の一例

ドラム

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Ⅳ.中小型火力発電設備他

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Vol. 66 No.12

1.抽気・背圧蒸気タービンとは

自家用火力発電設備の蒸気タービンの特徴は,前述の

ボイラで発生した高圧・高温の蒸気によって発電する過

程で,生産工程に適した圧力の蒸気を抽出して,生産工

程へ送気するとともに,発生した電気も直接工場内へ供

給することである。

蒸気タービンは,電気エネルギー供給を主体とする復

水型と,熱(蒸気)エネルギー供給を主体とする背圧型

に大別される。

復水型とは,タービン排気を復水器で高真空まで膨張

させることで,より多くの発電量を得られ,

(1)復水タービン

(2)抽気復水タービン

(3)再熱復水タービン

(4)混圧復水タービン

(5)混圧抽気復水タービン

などがある。一方,背圧型とは復水器が無く,タービン

排気を生産工程が必要とする条件で供給し,

(1)背圧タービン

(2)抽気背圧タービン

(3)混圧抽気背圧タービン

などがある。

図2に,国内自家用火力発電設備のタービン型式別設

備数の割合を示す。

タービン型式別による設備数の割合は,復水:33%,

抽気復水:29%,背圧:22%,抽気背圧:15%,その他・

不明:1.7%である。

本章では,このうち,タービンに受け入れた全ての蒸

気を2系統以上の生産工程へ供給するという,自家用火

力発電設備の最大の特徴を有する抽気背圧タービンの運

転について述べるものとし,タービンの制御方式は電気

-油圧式制御装置(EHC)とする。

図3に抽気背圧タービン廻りの系統構成を示す。

抽気背圧タービンは,背圧タービンの中途段落から抽

気し,タービンの抽気と排気全量を工場用蒸気として供

給することから,復水器において冷却水に持ち去られる

805

図3 抽気背圧タービン廻りの系統構成

図2 国内自家用火力発電設備のタービン型式別台数比率出典(社)火力原子力発電技術協会発行火力・原子力発電設備要覧(平成23年改訂版)

(自家用 発電所出力1,000kW以上)

2.抽気・背圧蒸気タービン

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Dec. 2015

潜熱がなく,80%以上の総合エネルギー効率も可能で

あるが,発電量・抽気量・排気量のバランスが所要量に

一致しないため,買電と並列して運転する必要がある。

また,万一,抽気背圧タービンが単独運転になった場

合は運転系統の周波数を一定に保つべく調圧運転から調

速運転に切替える必要があり,この場合の抽気および排

気(工場用蒸気)の圧力を一定に保つために一般的にター

ビンバイパス(減圧減温)装置を設置する。

このタービンバイパス(減圧減温)装置は,タービン

起動前,停止後,およびトリップ時にも使用される。

2.運転上の留意点

蒸気タービンの運転上,特に熱応力と振動に留意する

必要がある。とりわけ起動時における熱応力と振動には

注意を払う必要がある。

(1)熱応力

通常運転時(特に起動時)において,熱応力を低減さ

せるために,最も重要なことは蒸気とタービンメタル部

(蒸気加減弁,第1段後ノズル蒸気室ならびに蒸気通路

部,ロータ等)の温度差を小さくして規定の温度上昇率

で一様に加熱することである。

熱応力を問題ない範囲まで低減させる方策は,ボイラ

およびタービンの起動が冷機の状態からか,または暖機

の状態からか,によっても変わるが,一般的にはタービ

ンを暖機(ウォーミング)し,ボイラとタービンをマッ

チングさせた蒸気温度で通気し,暖機時間,ターニング

時間等から設定された,回転上昇率,回転保持時間,初

負荷量,負荷上昇率および負荷保持時間で起動すること

が最も重要である。

(2)振動

回転上昇の際,特に運転マニュアルを逸脱した運転を

した場合,ラビング(回転部と静止部間のシール部の接

触)発生の可能性がある。

このラビングは危険速度域での運転時にタービンロー

タのスパン中央部のたわみ最大となる付近で最も起こり

やすい。

もし,ラビングのある状態で運転を継続すれば,一般

的にはロータの曲りを加速度的に増大させ,パッキンを

損傷させ,タービン効率を著しく損なうだけでなく,極

端な場合は永久的なロータの曲りを生じることもある。

振動の増加や異音によって,ラビングの発生が明らか

な場合は,直ちにタービンを停止してターニング運転を

行い,ロータの曲りを修正してから再起動する必要があ

る。

また,通常運転において制限値を超えた異常振動が認

められた場合も,直ちにタービンを停止してターニング

運転をしなければならない。

一般には,ロータのバランスは十分とれており,危険

速度域を通過しさえすれば,振動は減少する。

(3)伸び差

起動,および停止過程において,蒸気温度とタービン

メタル部の温度差やタービンメタル部の温度変化率が大

きいと,ロータ(回転部)とケーシング(固定部)の温

度差が大きくなり,その結果,大きな伸び差が発生し,

軸方向のラビングを起こし,振動発生の原因となり得る。

したがって,起動,停止時は,伸び差を監視し,規定

範囲に入るように注意しなければならない。

(4)モータリング

併入した状態(同期状態)で蒸気加減弁を閉止すると,

モータリングが発生し,排気室,および最終段やその近

くの羽根を過熱させてしまい,軸受アライメントの変化

や排気室の変形で,振動発生の原因になる。

したがって,運転マニュアルに記載の許容時間を超え

たモータリングはしてはならない。

(5)低負荷,抽気量大の運転

低負荷時において,抽気量を多くとる運転を行うと,

排気流量が減少し,最終段やその近くの羽根を過熱させ

てしまい,軸受アライメントの変化や排気室の変形に

よって,振動発生の原因となる。

したがって,運転マニュアルに記載の最低排気流量は

確保しなければならない。

(6)特殊な低負荷運転

定格,またはその近くの温度で運転した後に,所内単

独負荷,または無負荷で蒸気加減弁に蒸気を通して,任

意の速度で運転することは,タービン内部を冷却し,変

形やクラック発生の原因になり得るので避けるべきであ

る。

(7)危険速度域での運転

起動の際に,定格速度まで昇速するときは,ロータの

危険速度,またはその付近での運転は,大きな振動発生

の原因になるため,最小限にしなければならない。

一般に,ターニング速度から定格速度まで,連続的に

一定の昇速率で昇速するのが望ましい。危険速度域での

速度保持はしてはならない。

806

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Ⅳ.中小型火力発電設備他

65

Vol. 66 No.12

(8)ケーシング保温材

ケーシング保温材が湿っている状態,または保温材を

外した状態での運転は,ケーシング外表面を低い温度に

とどめ,ケーシングの内外面に大きな温度差が生じ,過

大な熱応力発生やケーシングの変形の原因になり得るの

でしてはならない。

また,ケーシング保温材はタービン停止後,規定時間

以上経過してから取り外す必要がある。

3.タービンの起動準備と管理項目

3.1 起動準備

抽気背圧タービンの一般的な(主な)起動準備項目に

ついて記載する。

なお,起動スケジュールの概念を図4に示す。

(1�)油タンクの油面(正常)を確認し,ガス排気ファ

ンを起動する。

(2)非常装置がトリップしていることを確認する。

(3)EHC盤に電源が入っていることを確認する。

(4)冷却水系統,計装用圧縮空気系統を起動する。

(5)補助油ポンプを起動する。

(6)ターニング装置を起動する。

タービン起動前には,熱変形によって生じる一時的な

ロータの曲がりを修正するためのもので,前回停止時か

ら連続して行うことが最も望ましい。ターニング運転を

長時間停止していた場合には,トラブルを生じることな

く,タービンを起動させるために,一般的に8時間程度

のターニング運転が必要である。

(7)非常装置をリセットする。

(8�)負荷制限器,速度設定器,抽気・背気制限器,

および抽気圧力・背圧設定器の位置を確認する。

(9)各部のドレン弁が開いていることを確認する。

(10)グランドシール蒸気系統を起動する。

(11)通気を目標に暖機(ウォーミング)を開始する。

①蒸気加減弁ウォーミング

主蒸気止め弁までの主蒸気管のウォーミングが完了し

ている状態から,主蒸気止め弁を開き,蒸気加減弁蒸気

室までのウォーミングを行う。主蒸気止め弁の開閉を繰

り返しながら,徐々に圧力を上げていき,蒸気加減弁蒸

気室のメタル温度が,定格蒸気圧力の飽和温度に達する

まで行う。

②タービンウォーミング

タービン排気弁を徐々に開けてタービン排気系統側か

ら蒸気を供給して,規定時間タービン本体のウォーミン

グを行う。

(12�)通気条件を成立(ボイラ-タービン間の通気条

件のマッチング)させる。

一般的に,起動時のタービン熱応力を低減させるため

に,次の項目を考慮して通気条件を調整する。

①�ボイラが冷機状態から起動する場合は,ボイラの許

容し得る範囲内で主蒸気温度を下げて通気する。

②�ボイラが暖機運転状態から起動する場合は,可能な

範囲で主蒸気温度を下げて通気する。

③�ボイラ,タービンとも暖機状態から起動する場合は,

定格主蒸気条件で通気する。

3.2 管理項目

起動の際には,以下の項目を測定し,記録する。

807

図4 起動スケジュール概念図

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(1)主蒸気圧力および温度

(2)抽気圧力

(3)排気圧力

(4)制御油圧力

(5)軸受油圧力および温度

(6)軸受メタル温度

4.起動および回転上昇

起動準備が完了したら,タービンへ通気し回転上昇さ

せる。

起動スケジュール概念図(図4)を参照。

(1�)速度上昇率を設定した上で,ラブチェック回転

数(400min-1程度)の速度設定を行い,タービン

を昇速する。

(2�)ラブチェック回転数(400min-1程度)に到達し

たら,主蒸気止め弁全閉の速度設定を行い,ター

ビンを自然降速させながら,ラビング(接触音,

異音)の有無を確認する。回転数が下がり過ぎた

場合は,再度,(1)項に戻り,確認出来るまで繰

り返し行う。

 � 万一,ラビング現象がある場合は,タービンを停

止してターニング運転を行う。

(3�)ラビング現象の無いことを確認したら,必要に

応じ1,000min-1まで回転上昇させて,規定時間,

低速ヒートソーク運転を行う。

(4�)低速ヒートソーク運転が終了したら,定格速度

の速度設定を行い,タービン回転数を定格速度ま

で上昇させる。

 � 回転上昇中は,タービン・発電機の危険速度域を

速やかに通過するよう注意を払うとともに,特に次

の項目について十分注意する必要がある。

①軸振動

②ラビング

③伸び・伸び差

④排気室温度

⑤軸受油圧および軸受給排油温度

⑥軸受メタル温度

(5�)タービンが定格回転数に到達したら,制御油圧

が正常であることを確認して,補助油ポンプを停

止し,“自動”位置にしておく。

(6�)定格回転数にて規定時間,高速ヒートソーク運

転を行い,併入準備を整える。

5.併入・負荷上昇

(1�)タービン回転数を調整(揃速)および発電機電

圧-系統電圧の調整(揃圧)を行い,自動同期装

置によって併入し,規定の初負荷をかける。

(2)初負荷を保持して一定時間運転する。

(3�)一定時間保持した後に,負荷設定器で抽気可能

な負荷(約25%負荷)まで負荷を上昇させる。

(4)ドレン弁を閉止する。

(5�)背気圧力設定器でタービン排気圧力を制御状態

にする。

(6�)抽気圧力設定器でタービン抽気圧力を制御状態

にする。

(7�)背気および抽気圧力の制御回路が生かされたら,

定格(または目標負荷)まで負荷を上昇させる。

6.通常運転(出力および工場送気量制御)

(1�)以上でタービンと発電機はそれぞれ所要の抽気

量と負荷にて通常運転に入る。

(2�)制御装置によって,回転数および抽気圧力は自

動的に保持されるが,運転中は特に下記の事項に

注意する。

①運転の円滑性,異常な音や振動

②各系統の圧力,温度,流量等

③軸受温度と油量

(3)運転員の交替毎に,下記の項目を実施する。

①�主蒸気止め弁の半閉テストを行い,弁棒の焼付きの

有無を確認する。

②�補助油ポンプ,および非常用油ポンプ自動起動用の

制御開閉器が“自動”の位置であることを確認する。

③その他,保安装置は必ず作動することを確認する。

(4)抽気背圧タービンの制御方式

抽気背圧タービン制御方式の代表例として,EHC(電

気-油圧式制御装置)を採用した場合の制御方式(ブロッ

ク図)を図5に示す。

制御対象である抽気圧力,背圧およびタービン負荷の

制御を蒸気加減弁と抽気加減弁によって,タービンへの

蒸気流入量を加減して行っている。

4個の制御対象(抽気圧力,背圧,速度,負荷)のう

ち,同時に制御出来るのは2個であるため,抽気圧力と

背圧を制御する調圧運転モードと,抽気圧力と速度,或

いは抽気圧力と負荷を制御する調速運転モードに区分さ

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Ⅳ.中小型火力発電設備他

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Vol. 66 No.12

れる。

この運転モードの選択は運転モード切替スイッチで行

う。

各設定に対して状態値である抽気圧力,背気圧力およ

び速度を検出し,設定値と信号値の比較演算で蒸気加減

弁と抽気加減弁を開閉して各設定条件に見合う制御を

行っている。

また,蒸気加減弁と抽気加減弁は抽気圧力設定と,背

圧設定,速度または負荷設定によって各々同時に制御さ

れるため,比較演算値と,この比較値に各々分配定数を

乗じたものと,更に比較演算し,各加減弁の開閉を行っ

ている。

(5)入口蒸気圧力制御

通常,タービンの入口蒸気(主蒸気)圧力はボイラ制

御装置で一定に制御されるが,廃熱ボイラや流動床ボイ

ラのように,発生蒸気量を自由に制御出来ない場合は,

タービン入口に制御弁を設置して,タービン入口の主蒸

気圧力を一定に制御する。

7.停 止

停止スケジュールの概念を図6に示す。

(1�)負荷設定器で,抽気圧力制御を停止する負荷ま

で降下させる。

(2�)抽気制限器で,抽気量を徐々に絞り込み,抽気

量が“零”になったら,抽気弁を閉止する。

(3�)タービンを抽気圧力・背圧制御運転(調圧運転モー

ド)から,速度制御運転(調速運転モード)に切

替える。

(4�)発電負荷を規定の負荷降下率で解列負荷まで降

下する。

(5)解列し,補助油ポンプを起動する。

(6)タービンを停止する。

(7)グランド蒸気系統を停止する。

(8�)タービン停止後,直ちにターニング装置を投入

して,ターニング運転を行う。

(9�)主蒸気止め弁廻りのドレン弁およびタービン廻

りのドレン弁を全て開放してドレンを排出する。

(10)ターニング運転を停止する。

(11)補助油ポンプを停止する。

(12)計装用圧縮空気系統,冷却水系統を停止する。

8.単独運転(調速運転)

抽気背圧タービンは,通常,抽気圧力と背圧を一定に

制御する(調圧運転する)タービンであり,速度(周波

数)を一定に制御することが出来ないため,通常は調速

運転されている復水タービンとの並列運転または買電系

統との並列運転を行っている。

もし,抽気背圧タービンが単独運転になった場合は,

809

図5 抽気背圧タービンのEHCブロック図(代表例)

負荷制限

負荷設定

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抽気圧力と背圧の調圧運転から,周波数を一定に制御す

るための速度制御運転に切替える必要がある。

このとき,背圧は出成りとなり,制御不能となるが,

圧力が低下した時はタービンバイパス系統で主蒸気を排

気系統の適切な圧力,温度まで減圧・減温してタービン

を経由せずに蒸気を供給する。

また,圧力が上昇した時は,排気系統の大気放出弁に

よる大気放出等で,一定に制御する。

9.蒸気タービン事故時対応と留意点

蒸気タービンの事故時の対応と留意点の概要を表2に

示す。

蒸気タービン事故の主なものは,動翼の損傷,ケーシ

ングのクラックによる蒸気漏れ,軸受の損傷・焼損,高

温部締付ボルトの損傷等がある。

事故の原因としては,素材・製作に起因するもの,据

付に起因するもの,運転管理に起因するもの,および保

守管理(経年的な要因)に起因するもの等がある。

このうち,特に重要なのは,運転管理と保守管理であ

る。

運転管理については運転マニュアルを遵守した運転を

行い,注意深く状態を監視することで異常状態を早期に

発見することが可能であり,事故を未然に防ぐことが出

来る。

保守管理については,定期的な点検・検査の実施と,

その結果に基づく改良保全を実施していくことが要求さ

れる。

例えば,ケーシング等は劣化調査や余寿命診断を実施

して,その結果によって設備を更新していくことが重要

である。

何れにしても,長期的な運用計画を策定し,これに基

づいて運転管理および保守管理を行っていくことが,発

電設備を無事故で,性能良く,しかも経済的に安定運転

するための最良策であると考えられる。

810

図6 停止スケジュール概念図

表2 蒸気タービンの事故時の対応と留意点の概要

項目 対応 留意点・防止策動翼の損傷 ・ ユニットを停止して応急処置を行い,

定検時に恒久処置を行う。・ユニットを停止して恒久処置を行う。

・ 定期的な点検,検査の実施と,その結果によるメンテナンス,および更新。

・運転マニュアルの遵守。ケーシングのクラック

による蒸気漏れ 同上 同上

軸受の損傷および焼損 ・ ユニットを停止して軸受メタルの更新を行う。

・ 定期的な点検,検査の実施と,その結果によるメンテナンスおよび更新。

・軸受メタル温度,および軸受排油温度の監視・ 運転マニュアルの遵守

高温部締付ボルトの損傷 ・ ユニットを停止してボルトの更新を行う。

・ 定期的な点検,検査の実施と,その結果によるメンテナンスおよび更新。

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Vol. 66 No.12

1.地熱発電

地熱発電とは,地中より得られる地熱流体を利用する

ものであり,国産エネルギー,再生可能エネルギーまた

はクリーンエネルギーとして注目され,その発電容量は

小さいながらも今後とも開発が期待される。図7に地熱

発電の概略系統を示す。

地熱流体が地中に賦存する地熱地帯は,多くは火山帯

に存在する。したがって,地熱流体には火山性の成分が

含まれており,次のような特長を持つ。

(1�)火山性のガスが含まれる。ガスの成分は,二酸

化炭素や硫化水素のような腐食性の高いガスが含

まれる。

(2�)液相部分にはシリカや炭酸カルシウム等の不純

物が溶存している。

(3�)得られる地熱流体は多くの場合熱水または熱水

と蒸気の混合流体であることが一般的であり,気

水分離したり熱水を減圧蒸発(フラッシュ)させ

て蒸気を発生させるため,地熱蒸気は一般に飽和

蒸気である。

以上の特長は,発電設備の設計上充分に留意しなけれ

ばならないものであるが,運転,保守上も一般の火力発

電所での注意事項に加えて考慮されなければならないこ

とでもある。

また,ボイラを使用しないためボイラに関わる様々な

管理が不要であるかわりに,上述のような流体を扱う観

点からの注意が必要である。また,地熱流体を取り出す

井戸(生産井)と利用後の地熱流体を地下に還元する井

戸(還元井)の運転にも固有の注意事項がある。

本章では,以上のような火力発電所には無い地熱発電

所固有の運転や保守上の注意事項について述べる。

2.運転上の留意点

(1)生産井,還元井

生産井,還元井は,一般に深度1,000m~3,000m程

度に掘削される。掘削された井戸はセメントや鋼管によ

りケーシングと呼ばれる地熱流体の流路を形成する。一

般に坑口で200℃以下の低温の地熱流体であるが,深度

が深いため生産量に擾乱を与えると井戸の崩落など,非

常に深刻な事故を引き起こす可能性がある。そのため蒸

気生産設備には一般に蒸気の大気放出設備が併設され,

タービントリップ等の蒸気供給に急激な変動が発生した

場合に蒸気を大気放出できるように設計される。

地熱流体にはシリカや炭酸カルシウムのような不純物

が溶存していることが多く,これらが蒸気生産設備の流

路に析出しスケール付着する可能性が高い。特に井戸内

面にスケールが付着すると,その除去には非常な手間と

コストを要するため,スケールを付着させないような運

転が重要である。地熱流体からエネルギーを取り出した

後に地下に還元する還元井では,温度が下がっているた

3.地 熱 発 電

811

図7 地熱発電の概略系統

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め溶解度が下がり不純物が析出しやすい状態になってお

り,特に注意を要する。そのため,溶存成分が析出し始

める温度以下に下げない運転を行ったり,薬品を注入し

て析出させない,等が必要となる。日常管理としては,

定期的に地熱流体の溶存成分を分析し,運転している還

元温度が妥当であるか,注入している薬品の量が適切で

あるか,について定期的に確認しなければならない。

(2)発電設備

一般的な地熱蒸気の圧力は1MPaを越えない程度で

あり,また飽和蒸気であるため,蒸気温度に関わる管理

は不要である。しかしながら,前述の通り一般に硫化水

素ガス等の腐食性の高いガスが含まれること,気水分離

やフラッシュさせる際に蒸気へ若干の熱水がミスト状で

キャリオーバすることから,腐食,侵食,スケール付着

に関連する管理が必要である。

二酸化炭素や硫化水素等の腐食性の高いガスに対して

は,蒸気タービンの内部部品等に対して耐腐食を考慮し

た材料を採用したり,設計上の応力レベルを低く抑える

など,設計,製作上の配慮がなされるが,設計,製作上

の配慮だけでは長年に渡って高い信頼性で運転を継続す

ることはできない。

3.地熱発電設備の起動と管理項目

(1)坑井噴出(停止状態の場合)

生産井には坑井毎,または坑井基地毎に蒸気輸送系統

とは別の噴出系統(坑口装置系統)を有するのが一般的

である。これは坑井の噴出特性の調査や長期の噴出試験

等に使用される。また,熱水処理系統には通常の系統の

他に,初期噴出時の濁度の高い熱水を処理するための初

期噴出系統を有しており,その系統を使用して高濁度の

熱水を処理し,濁度が規定値以下に下がった時点で蒸気

輸送系統へ併入する。ここで,もし濁度が高いまま蒸気

輸送系統へつないだ場合,還元系統へのスケーリングを

促進することになる。図8に坑井噴出熱水処理の系統を

示す。

(2)蒸気輸送系統への併入

(1)の噴出状態で熱水の濁度が規定値以下に下がっ

たら,坑口装置系統から蒸気輸送系統へ移行させる作業

となる。ここでは,図8のB弁を閉操作しながらA弁を

開操作するという手順で操作を行うが,蒸気輸送系統に

はいくつかの坑井がつながっており,噴出勢力の比較的

弱い坑井は強い坑井の併入により系統から噴出を継続で

きなくなってしまうこともある。そのため,系統の切替

え時には,周辺坑井の特性を把握しておき,周辺坑井の

挙動をみながら,時間をかけて操作を行う必要がある。

(3)蒸気輸送系統ウォーミング

定期修理後の起動時など,長期間蒸気輸送系統を使用

していない場合,系統配管の温度が下がっており,ウォー

ミングを充分に実施する必要がある。基本的に系統のド

レンが溜まりやすい箇所にはドレンポットを設置する

が,動作不良により充分にドレンが排出できていない場

合には,ウォーターハンマーを引き起こしたり,場合に

よっては,複合的な要因がからまって一時的なセパレー

タ水位高によるタービントリップになってしまうことも

ある。

(4)タービン通気

蒸気輸送管のウォーミングが終わり,タービン入口の

圧力を規定値まで昇圧でき,また還元系統とのバランス

812

図8 坑井噴出熱水処理の系統

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Vol. 66 No.12

が保たれたら,タービン通気を行う。この時も急激な昇

圧は避け,規定の上昇率で昇圧する。

タービンへ通気した後の起動手順は,一般の火力発電

所と何ら変わるところは無い。むしろ,蒸気温度が

200℃以下と低いため簡易である。

4.通常運転(出力および前圧制御)

地熱発電所では,その性格上蒸気タービンの制御が主

体となる。蒸気源は一般に次の二種類に分類できる。

(1�)地熱井から得られる地熱流体が乾き,または過

熱蒸気であるもの。

この場合は,基本的に井戸元から蒸気タービンまで配

管で接続するだけである。配管途中で生成されるドレン

がミスト状になってタービンへ流入することを防止する

ために,タービンへ流入させる前に湿分分離器を設置す

ることが一般的である。一般に,地熱井に擾乱を与える

ことは坑井へ悪影響を及ぼすといわれているため,井戸

元弁での蒸気生産量の調整は避けるべきである。そのた

め,蒸気圧力を監視し,余剰の蒸気を大気放出する大気

放出設備が設けられる。

(2�)地熱井から得られる地熱流体が熱水,または蒸気・

熱水の混合流体であるもの。

熱水または蒸気・熱水の混合流体から蒸気を得るため

に,フラッシャ(減圧蒸発器)またはセパレータ(気水

分離器)を設置し,蒸気を発生させる。フラッシャまた

はセパレータの出口圧力制御を行うことが一般的であ

る。

(3)蒸気タービンの制御

地熱発電所は,発生蒸気量の多寡に関わらず運転コス

トは変わらないため,ベースロード運転されることが多

い。海外では,蒸気が得られるだけ発電しようとする考

えが一般的であり,蒸気タービンの通常運転は前圧制御

で行われることが多い。蒸気量が増加した場合はできる

限り呑込むように加減弁を開き,蒸気量が減少したとき

は異常に蒸気圧力が低下しないよう加減弁を閉じること

を目的とする。ただし,限界を超える蒸気量を呑ませな

いために出力制限を設ける。

日本では認可出力を超える運転が許されないため出力

制御を行い,余剰な蒸気は前述の大気放出設備から大気

へ放出される。

5.地熱蒸気タービンの点検上の注意点

地熱蒸気には前述の通りCO2を主体とする火山性ガ

スが含まれ,またキャリオーバする湿分にはシリカや炭

酸カルシウム等のスケール成分が含まれる。地熱蒸気

タービンに対しては,通常の火力タービンで注意すべき

点検項目に加え,次の日常管理が重要である。

(1)蒸気中のガス分の分析

地熱蒸気に含まれるCO2やH2S(硫化水素)は腐食

性ガスであり,特にH2Sは腐食性が高いため,蒸気流

路の腐食の原因になることに加え,応力腐食割れや腐食

疲労を促進させる腐食環境となる。地熱発電所の計画時

には噴気試験等で得られたガスの量と成分に基づいた設

計を行うが,ガスの含有量や成分は経年的に変化するこ

とが通常であるため,定期的なガス量やガスの分析を行

い,計画時からの変化や経年的な変化を認識し,定期点

検へ反映させることが重要である。

(2�)蒸気中の不純物の分析地熱蒸気に微量にキャリ

オーバされる湿分

(ミスト)にはシリカや炭酸カルシウム等が溶存して

いることが多い。これらの不純物は蒸気流路に析出して

スケールとして付着することが多い。地熱蒸気タービン

でのスケール付着は次のような重大トラブルや発電量の

減少の原因となる。

a�)主蒸気止め弁へのスケール付着によりスティック

を引き起こす恐れがある。

主蒸気止め弁がスティックした場合,タービン非常停

止時に止め弁が全閉できずにオーバスピードする可能性

がある。

b�)蒸気加減弁へのスケール付着によりスティックに

より,加減弁の動作が鈍くなり制御不調となる可能

性がある。

c�)タービンの第1段ノズルまたは静翼には一般にス

ケールが付着しやすい。ノズルや翼にスケールが付

着すると蒸気流路を狭めるので,タービンの蒸気呑

込み量が減少し発電量を減少させることになる。

以上は,地熱発電所を運営するに当たっては避けられ

ない問題であるが,適時適切な保守を行うことにより運

転不調のリスクを最小限とすることができる。

適切なメンテナンスを計画するためには,タービン入

口蒸気に含まれる不純物(シリカや炭酸カルシウム等)

を定期的に分析し,含まれる量と,その経年的な変化を

813

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Dec. 2015

認識することが重要である。

(3)定期点検におけるノズルや翼の清掃

地熱蒸気タービンは火山性ガスや不純物を含んだ蒸気

を直接利用するため,蒸気流路は運転により非常に汚れ

る。そこで,蒸気タービン年に一度は開放点検を行い,

内部の清掃を実施することが望ましい。蒸気流路を清掃

することは,単に付着したスケールを除去して呑込み量

を回復させるだけでなく,材料を付着物による高い腐食

環境から開放することにもなる。

海外では,予備のタービンロータと静翼またはダイア

フラムを所有し,開放点検時には予備と交換することに

より停止期間を短くしている例が多く見られる。

6.地熱発電プラントの不具合事例

地熱発電プラントでは,地熱流体(熱水,蒸気,ガス)

を直接利用するため地熱流体の腐食成分に起因する腐食

等の不具合が見られる。また,地熱発電プラントが建設

される地域では大気中にも硫化水素ガスが浮遊している

ことが多く,大気中の硫化水素ガスに起因する腐食が,

特に電気品に多く見られる。

以下に代表的な不具合事例を紹介する。

6.1 機械品

機械品ではタービンに圧倒的に多く不具合事例が見ら

れる。これは,地下から得られる地熱蒸気に二酸化炭素

(CO2),硫化水素ガス(H2S)やシリカなどの不純物が

含まれ,それを直接利用していることに起因する。

(1)翼面へのスケール付着

一般に地熱蒸気は飽和状態であり,タービンに流入し

た直後に乾湿交番が起こる。地熱蒸気と共に微量に流入

するミスト状の湿分にはシリカや炭酸カルシウム等の溶

存固形分が含まれていることがあり,それらが特に第1

段静翼(ノズル)で析出しスケールとして付着すること

がある。

スケールが付着すると蒸気流路を狭めることとなり発

電出力の低下の原因となる。スケール付着の度合いは地

熱蒸気中に含まれる不純物の濃度にも左右されるため,

計画時に正しく予測することは困難である。例えば,エ

ルサルバドルのベルリン地熱発電所では,試運転中の

1ヶ月間で第1段静翼が完全に閉塞するほどスケールが

付着した例もある。

地熱蒸気中の不純物の濃度は,生産を開始した直後に

濃度が高く,その後経時的に減少する傾向がある。従い,

地熱蒸気をタービンに初通気する前には充分にブローさ

せることが望ましい。

プラントの計画上考慮すべきことは,性能の高い湿分

分離器を設置してタービンに流入させる地熱蒸気の乾き

度をできる限り高めることが重要である。一般に

99.9%以上の乾き度とすべきである。乾き度を高めて

もスケール付着を完全に防止することはできない。蒸気

中に含まれる不純物が高いことが予想される場合は,蒸

気洗浄設備やタービン翼洗浄設備の設置を計画すべきで

ある。

蒸気洗浄設備は,蒸気配管に復水等の水を微量にスプ

レーして蒸気配管中を飛んでくるミストをスプレー水で

補足し,下流の配管中のドレンポットや湿分分離器で落

とすものである。

翼洗浄設備はタービンの入口に復水等をスプレーする

ことにより翼表面へ付着したスケールを除去するもので

ある。タービン入口蒸気の湿り度を高める運転となるた

め,タービン車室圧力を日常監視し,車室圧力の上昇を

見ながら適宜スプレーすることが望まれる。

(2)翼の損傷

翼の損傷では,低圧翼の浸食,腐食,動翼の損傷,シュ

ラウドの破損など多くの事例が知られている。いずれも

地熱蒸気の腐食性雰囲気が原因である。

動翼の損傷やシュラウドの破損の多くは応力腐食割れ

に起因する。応力腐食割れに対しては,応力腐食割れに

鈍感な材料の選定,応力レベルを低減した設計,または

応力の集中を極力避ける設計,等により対応している。

保守上では,翼面への付着物には腐食性の高い成分が含

まれることが多いため,腐食性環境を緩和するために定

期的な開放点検の際にきれいに清掃することが非常に重

要である。地熱蒸気は一般に飽和状態であるため,地熱

タービンの低圧段では湿り度が高まる。また,地熱蒸気

に含まれるCO2やH2Sが湿分に溶解することにより湿

分の腐食性がたかまり,ドレンアタックによる浸食に加

え腐食を受けることがある。地熱タービンの低圧段には

適切にドレンを排出できる構造とし,ドレンアタックの

リスクを低減させている。

6.2 電気品

電気品には銅や銅合金が多く使用される。電気品は直

接地熱流体に触れることはないが,特に電子部品など微

細な部品が多用されているため大気中に浮遊する微量な

H2Sにも影響を受けやすいので配慮が必要である。

814

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Ⅳ.中小型火力発電設備他

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Vol. 66 No.12

電気品での不具合事例は,以上の通りほとんどがH2S

ガスによる腐食に起因する。微細な部品の腐食であって

も,制御や監視に使用されているものであり,誤信号や

誤動作の原因となりうるので適切な対策を要する。

電気品については,メーカ毎に標準的な対策が確立さ

れているが,一般的には次の考慮がなされている。

(1)個別の対策

プリント板には防食性の高いコーティングを施す,現

場発信器やスイッチ類には密閉型を採用する,ケーブル

にはすずメッキ線を採用する等,部品毎に適切な対策を

施す。

(2)設置環境への対策

電気室や中央操作室には多くの電気部品や電子部品が

設置される。このような部屋には通常の換気や空調設備

に加えて硫化水素ガス除去フィルタを設置し,室内の硫

化水素濃度を低減させることが望ましい。最近建設され

た地熱発電所の多くで硫化水素ガス除去フィルタが設置

されている。

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火 力 原 子 力 発 電

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Dec. 2015

1.内燃機関発電設備の概要

内燃機関を使用した,発電設備には,常用発電設備と

して,電気事業用発電設備,コージェネレーションシス

テム,自家用発電設備および,防災用負荷,保安用負荷

に電力を供給する非常用発電設備がある。

(1)常用発電設備

常用発電設備としては,離島の発電装置,工場や事業

所等で所内電力の供給を目的に設置される発電装置,電

気のみならず温水や蒸気等のエネルギーを同時に使用す

る工場,施設,建物等に設置されるコージェネレーショ

ンが多く,運転形態としては下記のようなものがある。

・�毎日起動・停止を行うDSS(Daily�Start�and�

Stop)

・�月曜日に起動し,土または日曜日に停止を行う

WSS(Weekly�Start�and�Stop)

・�電力デマンド(負荷)に応じて発停を行うデマンド

コントロール方式(台数制御・自動発停方式)

・�夏季等電力不足となり,使用電力の制限が行われる

時期および時間帯のみ運転を行うピークカット

・1日24時間連続で運転する連続常用発電

等がある。

(2)非常用発電設備

①防災用発電設備

常用電源が停電した時に,需要設備に対し最低限必要

な電力を供給するための設備で消防法または,建築基準

法により防災設備として設置される消防用負荷,非常用

照明設備等の電力を確保するための発電設備である。

②保安用発電設備

常用電源が停電した時に,需要設備に対し最低限必要

な電力を供給するための設備で,医療機関,金融機関や

インターネットデーターセンターのような設備やシステ

ムを停電や電源トラブルから守る電源システムのバック

アップ電源用として発電設備が設置されている。

(3)発電設備の電気システム

発電設備は,励磁装置,主回路機器(遮断器,変流器

等),監視計器,保護継電器等が必要であり,原動機制

御回路,故障表示回路,補機制御回路等も必要とされ,

これらのものを収納する配電盤が設置される。図9に内

燃機関発電設備の外観を示す。

図9 全体写真(例)

2.発電設備の運用

(1)監視・制御方式

監視・制御方式は,発電設備の規模,運用方式により

監視・制御方式が選択される。監視・制御方式の適用区

分を表3に示す。

表3 監視・制御方式の適用区分

監視・制御方式ディーゼルガス機関発電所

ガスタービン発電所

常時監視方式  技術員が発電所に常時

駐在し,発電所を監視制御する。

○ ○

遠隔常時監視方式  技術員が制御所に常時

駐在し,発電所の運転状態の監視及び制御を遠隔で行う。

○10000kW

未満の発電所

随時遠隔監視方式  技術員が必要に応じて

発電所に出向き,運転状態の監視又はその他必要な措置を行う。

○10000kW

未満の発電所

随時巡回方式  技術員が,適当な間隔

をおいて発電所を巡回し運転状態の監視を行う。

○1000kW未満の発電所

○10000kW

未満の発電所

(2)計測装置

発電設備の計測装置は,発電用火力設備に関する技術

基準を定める省令(平成9年通商産業省令第51号)及

816

4.内 燃 機 関

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Ⅳ.中小型火力発電設備他

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Vol. 66 No.12

びその解釈並びに防災用自家発電設備に適用される自家

発電設備の基準(昭和48年消防庁告示第1号)、蓄電池

設備の基準(昭和48年消防庁告示第2号)等により設

備の損傷を防止するための運転状態を計測する計測装置

を設けなければならない。

(3)保護装置

発電設備は,電気設備に関する技術基準を定める省令

(平成9年通商産業省令第52号)及びその解釈並びに発

電用火力設備に関する技術基準を定める省令(平成9年

通商産業省令第51号)及びその解釈並びに防災用自家

発電設備に適用される自家発電設備の基準(昭和48年

消防庁告示第1号),蓄電池設備の基準(昭和48年消防

庁告示第2号)等により,設備の損傷を防止するための

保護装置を設けなければならない。保護装置は,発電設

備の重要部分についての異常の保護であるから,これら

が作動した場合には,速やかにその原因を確かめたうえ

で原因を取り除くことが必要である。

3.発電設備の制御

発電出力や熱出力を制御して運用されるコージェネ

レーションや,負荷変動に追従して運用される自家発電

設備及び短時間で起動し,負荷投入を順次受けていく非

常用発電設備とその用途と運用により制御方法が異な

る。

(1)機関回転数の制御

①周波数と同期速度

一定周波数の交流電圧を得るためには,回転速度は磁

極数(発電機の極数)に応じてある一定値に保たれなく

てはならない。

周波数と極数とで定まる回転速度を同期速度といい,

次の式で表すことができる。

Ns=120×fP

ここで, Ns:同期速度(min-1)

     f :周波数(Hz)

     P :発電機の極数

②回転速度制御(ガバニング)

発電装置は負荷の影響を受け,常に回転速度は変化し

ようとする。例えば負荷が減少した場合は,次に示す理

由により,発電装置及び負荷に大きな影響を与える。

1�)燃料の噴射量が変わらなければ,負荷が減少した

量に応じ,同期速度が上昇する。

2�)回転速度の上昇は,発電機の周波数の増加及び誘

導起電力の増加となり,負荷に大きな影響を与える。

 � 一方負荷が増加した場合は,次に示す影響を与え

る。

1�)燃料の噴射量が変わらなければ,負荷が増加した

量に応じ,回転速度が低下する。

2�)回転連度の低下は,発電機の周波数の低下となり,

周波数の低下は負荷に大きな影響を与える。

こうした負荷側の要求と発電装置の保護の両面から,

負荷が変化した時に現れる発電装置の回転速度の変化を

検出し,負荷の量に応じて燃料の噴射量を増減させ,回

転速度を設定された回転速度に復帰させる機能が必要で

ある。この回転速度制御を“ガバニング”といい,この

装置が調速機(ガバナ)である。

(2)発電機電圧の制御

①励磁装置

交流発電機には界磁に励磁電流を供給するための励磁

装置が必要である。

現在用いられている励磁方式には,静止形励磁方式と

ブラシレス励磁方式があるが,近年の交流発電機ではほ

とんどがブラシレス励磁方式である。

励磁装置は,交流励磁機,回転整流装置と励磁用変圧

器,変流器,ダイオード,サイリスタ整流器,自動電圧

調整器(AVR)などの励磁装置によって構成されている。

②自動電圧調整器(AVR)

励磁装置には,発電機電圧を一定にするための自動電

圧調整器が含まれている。発電機の電圧を引き上げるた

めには,励磁電流を増やす必要がある。励磁電流を制御

して電圧を一定にするのが自動電圧調整器(AVR)で

ある。

(3)負荷の制御

①周波数ドループ

周波数ドループは,無負荷周波数と定格出力時の定格

周波数との差分と定格周波数との比率を言い,計算式は

次式による。

δfst=fi,r+frfr

×100

ここで,δfst:周波数ドループ(%)

    fi,r :無負荷周波数(Hz)

    fr  :定格周波数(Hz)

また,この関係を図10に示す。

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Dec. 2015

図10 周波数ドループ

②ドループ特性と負荷分担

2台以上の発電装置を並列運転する場合または,商用

電源系続と系続連系運転する場合において,それぞれの

発電装置の負荷分担割合を決めるものは,それぞれの発

電装置の持つ周波数ドループである。

発電装置の周波数ドループは主に原動機のドループ特

性で決まるため,負荷分担割合を変化させたい場合は,

原動機のドループ特性を変化させる必要がある。

図11でA機が,実線の定格周波数foとの交点a,B

機がfoとの交点bで並列運転されている場合,A機は

100%,B機は50%の負荷を分担している。A機及びB

機の負荷を75%ずつ均等に分担させる場合は,A機及

びB機のガバナ設定を同時に変化させ,A機はガバナ設

定を下げfoとの交点a’に合わせ,B機は,ガバナ設定

を上げfoとの交点b’に合わせる。

図11 周波数ドループ特性と負荷分担

③自動負荷分担装置

発電装置を複数台並列運転する場合において,その負

荷を分担する割合は,それぞれの装置のもつ周波数ド

ループによって決まる。このため周波数ドループが異な

る発電装置を並列運転する場合は,負荷を分担する割合

が異なってくる。

その一例を図12に示す。並列運転している両機の周

波数は等しいので,それぞれA点,B点又はA’点,B’

点のような分担となる。

図12 周波数ドループが異なる発電機の並列運転

複数台の発電装置を並列運転する場合,各発電装置が

同じ比率で負荷を分担するように周波数ドループを調整

(調速機を制御)する装置が自動負荷分担装置であり,

定格出力が同じであれば同じ電力を,定格出力が異なる

場合には各定格出力に対する電力の割合(%)を同じに

するように制御する。

(4)同期制御

2台以上の発電機又は商用電源系統と発電装置が並列

運転を行うためには,同期を行い,遮断器を投入しなけ

ればならない。

これらの並列運転を行うために必要な事項は,

①同期投入の条件

 1) 電圧が等しいこと

 2) 周波数が等しいこと

 3) 位相が等しいこと

などの条件が満たされていなければならない。

②手動同期投入の条件

手動同期検定の手順は,次のとおりである。

先行機または系統に対して並列運転しようとする発電

装置の電圧設定器(90R)を操作して電圧を合わせる。

また,調速機の回転速度設定器(65M)を操作して周

波数を合わせる。その後,同期検定器を見て指針速度が

緩慢となった状態で同期検定器の零点(位相が合致した

点)に達する直前(5°以内)に遮断器投入の操作スイッ

チを操作し,遮断器を投入する。

③自動同期投入装置

自動同期投入装置は,手動同期投入で操作員が行うす

べての繰作を自動的に行う装置である。すなわち,電圧,

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Vol. 66 No.12

周波数をそれぞれそろえ,位相一致点で遮断器の投入が

完了するよう遮断器投入時間を考慮して,遮断器を投入

する。

したがって,電圧設定器(90R),回転速度設定器(65

M)は,電動機駆動のものとする必要がある。

同期投入が完了した後は,調速機を操作し負荷を移行

することにより並列運転に入る。

4.系統連系運転

常用発電設備には,発電設備とその負荷設備を電力系

統とは無関係に独立して運転する独立運転方式と,電力

系統と常時又は必要に応じて連系して運転する系統連系

運転方式がある。

系統連系運転方式の場合は,電力系統の電力品質維持

や系統の保護,保安の確保を行うため,下記の法令及び

ガイドラインを遵守する必要があり,事前に設置者と電

力会社との間で十分な協議が必要である。

1�)電気設備に関する技術基準を定める省令及び同解

2�)電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライ

系統連系運転方式において,系統の事故や運用により

系統から切り離して運転する場合の運転状態として「単

独運転」と「自立運転」がある。それぞれの用語の定義

等を下記に示す。

①単独運転

発電設備(単機又は複数台数)が連系している一部の

系統が事故などによって系統電源と切り離された状態に

おいて,その他の健全な系統に連系している発電設備群

だけで発電を継続し,系統負荷に電力を供給している状

態のことを言う。単独運転になった場合には,人身及び

設備の安全に対して大きな影響を与える恐れがあるとと

もに,事故点の被害拡大や復旧遅れなどにより供給信頼

度の低下を招く可能性があることから,系統連系保護装

置を用いて単独運転を直接又は間接的に検出して,発電

設備を系統から解列しなければならない。

②自立運転

発電設備が電力系統から解列された状態で,発電設備

設置者構内の負荷のみに電力を供給する状態のことを言

う。

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