13
アルミ電解コンデンサの発火メカニズムと対策 渡部 利範 * 藤原 義親 ** 竹内 学 *** Mechanism of Firing of Aluminum Electrolytic Capacitors and Solutions Toshinori Watabe * Yoshichika Fujiwara ** Manabu Takeuchi *** 要旨: スイッチング電源の一次側平滑用アルミ電解コンデンサに DC 過電圧を印加する試験を行なった時、約 14%のアルミ電解コンデンサが防爆弁の作動と同時に発火し、全てショートしていたことが確認された。ショ ート個所は、巻芯部、外周部、箔端部、リード部の 4 箇所である。DC 過電圧でアルミ電解コンデンサの酸化皮 膜が破壊してショート電流が流れる。内部抵抗による発熱により電解液が気化し、内圧が上昇して防爆弁が作 動する。その素子の膨張力により 4 箇所のいずれかでショートおよびスパークが発生し、電解液の気化ガスに 着火し、アルミ電解コンデンサの発火となる。対策は、アルミ電解コンデンサをショートしない構造にする。 キーワード: アルミ電解コンデンサ、発火メカニズム、過電圧、巻芯部 Abstract: When DC overvoltages were applied to aluminum electrolytic capacitors for smoothing in the primary circuit in the switching power supply, approx. 14% of capacitors were shorted, and fired simultaneously with the explosion-proof vent functioning. Shorted portions were winding core, periphery, foil edge and lead. DC overvoltage breaks the oxide film to cause short-circuit current. Heat generated by the internal resistance evaporates the electrolyte, increasing the internal pressure to operate the explosion-proof vent. Expansion force of the capacitor element results in short-circuit and sparks simultaneously in either of the four portions, which ignites vaporized gas and fires the capacitor. Solution is to provide a construction which will not cause short-circuit. Keywords: Aluminum electrolytic capacitor,Ffiring mechanism, Overvoltage,Wwinding core 1. はじめに パソコン、プリンタ、デジタル複写機等のIT器、およびVTRCD等の電子機器は、小型軽量 化、高性能多機能化、低価格化が盛んに進められ ている。この進展は、回路を構成する個々の電子 部品の性能向上によるところが大きい。重要な電 子部品のひとつであるアルミ電解コンデンサは、 電源回路や電子回路に不可欠な部品であり、アル ミ電解コンデンサの小型大容量化、長寿命化の研 究は、従来から十分なされており、それらの研究 成果は実用化されている[1-6] * 茨城大学 大学院理工学研究科 316-8511 茨城県日立市中成沢町 4-12-1 [email protected] ** キヤノン株式会社 品質本部 製品安全技術開発部 146-0095 東京都大田区多摩川 2-13-12 [email protected] :*** 茨城大学 工学部 電気電子工学科 316-8511 茨城県日立市中成沢町 4-12-1 [email protected]

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アルミ電解コンデンサの発火メカニズムと対策

渡部 利範* 藤原 義親** 竹内 学***

Mechanism of Firing of Aluminum Electrolytic Capacitors

and Solutions

Toshinori Watabe* Yoshichika Fujiwara** Manabu Takeuchi***

要旨: スイッチング電源の一次側平滑用アルミ電解コンデンサに DC過電圧を印加する試験を行なった時、約

14%のアルミ電解コンデンサが防爆弁の作動と同時に発火し、全てショートしていたことが確認された。ショ

ート個所は、巻芯部、外周部、箔端部、リード部の 4箇所である。DC過電圧でアルミ電解コンデンサの酸化皮

膜が破壊してショート電流が流れる。内部抵抗による発熱により電解液が気化し、内圧が上昇して防爆弁が作

動する。その素子の膨張力により 4箇所のいずれかでショートおよびスパークが発生し、電解液の気化ガスに

着火し、アルミ電解コンデンサの発火となる。対策は、アルミ電解コンデンサをショートしない構造にする。

キーワード: アルミ電解コンデンサ、発火メカニズム、過電圧、巻芯部

Abstract: When DC overvoltages were applied to aluminum electrolytic capacitors for smoothing in the primary circuit in the switching power supply, approx. 14% of capacitors were shorted, and firedsimultaneously with the explosion-proof vent functioning. Shorted portions were winding core, periphery, foil edge and lead. DC overvoltage breaks the oxide film to cause short-circuit current. Heat generated by the internal resistance evaporates the electrolyte, increasing the internal pressure to operate the explosion-proof vent. Expansion force of the capacitor element results in short-circuit and sparks simultaneously in either of the four portions, which ignites vaporized gas and fires the capacitor. Solution is to provide a construction which will not cause short-circuit.

Keywords: Aluminum electrolytic capacitor,Ffiring mechanism, Overvoltage,Wwinding core

1. はじめに

パソコン、プリンタ、デジタル複写機等のIT機器、およびVTR、CD等の電子機器は、小型軽量

化、高性能多機能化、低価格化が盛んに進められ

ている。この進展は、回路を構成する個々の電子

部品の性能向上によるところが大きい。重要な電

子部品のひとつであるアルミ電解コンデンサは、

電源回路や電子回路に不可欠な部品であり、アル

ミ電解コンデンサの小型大容量化、長寿命化の研

究は、従来から十分なされており、それらの研究

成果は実用化されている[1-6]。

* 茨城大学 大学院理工学研究科 〒316-8511 茨城県日立市中成沢町 4-12-1 [email protected]** キヤノン株式会社 品質本部 製品安全技術開発部 〒146-0095 東京都大田区多摩川 2-13-12 [email protected]:*** 茨城大学 工学部 電気電子工学科 〒316-8511 茨城県日立市中成沢町 4-12-1 [email protected]

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アルミ電解コンデンサが DC 過電圧で発火・爆

発する現象は、以前から認識されており、発火メ

カニズムの解明と対策も一部報告されている[7,8]。しかしながら、アルミ電解コンデンサの防爆弁の

作動や発火の原因は、単相3線式配線における自

然災害や工事ミスによる中性線の欠相時に発生

する電源ラインの 1.5 倍から 2.0 倍の稀な過電圧

とされ[9,10]、アルミ電解コンデンサの構造、材料、

製造工程等からの総合的な観点からの発火メカ

ニズムの解明や対策方法は、明らかになっていな

かった。

本研究では、屋内配線に侵入する過電圧や中性

線の欠相時に発生する持続的過電圧時のアルミ

電解コンデンサの発火メカニズムを解明し、アル

ミ電解コンデンサの安全性を飛躍的に高めるこ

とができた。

2. 実験

2.1 試料とした3タイプのアルミ電解コンデン

サの構造比較

はじめに、アルミ電解コンデンサの原理図と構

造を図 1に示す。アルミ電解コンデンサの両極は、

電極表面に形成した酸化アルミを誘電体とした

陽極箔と陰極箔から構成され、植物繊維の電解紙

(クラフトペーパ)により両極がセパレートされ

ている。電解液としては、エチレングリコール、

グリセリン等の多価アルコール類を主溶媒とし、

ホウ酸アンモニウム、有機酸アンモニウム等が溶

質として使用される。

両極箔と電解紙を巻き取り(図 2)、中央の両極

箔からアルミリード線(あるいは平板)をひきだ

し、両極箔と電解紙の緩み防止のため素子の外側

をテープで固定する。その後、素子を減圧含侵、

および、加圧含侵して電解液を電解紙に含ませて

素子全体を完成させ、アルミケースの中に固定す

る。逆電圧や過電圧時のアルミ電解コンデンサの

内圧上昇時における爆発を防止するため、アルミ

ケースに切り込み(防爆弁)を入れる。

本研究では、試験試料として A、B、C、3 つの

タイプのアルミ電解コンデンサ(すべて、定格電

圧 250V、静電容量 820μF、定格温度 250℃)そ

れぞれ 60 個を準備した。

素子の断面構造、素子の外観、陰極箔のリード

部の接続構造を図 3 に示す。素子の断面構造は、

アルミ電解コンデンサをエポキシ樹脂で固めて

切断して観察した。A、B、C いずれのタイプも素

子の巻き始めから陽極箔、陰極箔、電解紙を巻き

取ってコンデンサを構成している。巻き取り時に

は、両極箔と電解紙にブレーキを与えて巻き取り

を行うので、巻芯径が細いほど巻き始め部は相対

的に堅く巻きつけられている。

リード

アルミリード

電解紙

陽極箔

陰極箔

電解紙

誘電体(酸化アルミニウム Al2O3)

電解液

(a)原理図と素子構造

リード

アルミリード

電解紙

陽極箔

陰極箔

電解紙

誘電体(酸化アルミニウム Al2O3)

電解液

(a)原理図と素子構造

絶縁スリーブ

アルミケース

素子

防爆弁

端子

スリット(切込み)

アルミケース

(b)アルミ電解コンデンサの内部構造

素子止めテープ

封口板

図1 アルミ電解コンデンサ

絶縁スリーブ

アルミケース

素子

防爆弁

端子

スリット(切込み)

アルミケース

スリット(切込み)

アルミケース

スリット(切込み)

アルミケース

(b)アルミ電解コンデンサの内部構造

素子止めテープ

封口板

図1 アルミ電解コンデンサ

図2 アルミ電解コンデンサの巻取り工程

マージン陰極箔

電解紙

箔・リード接続

 (タブ部)アルミリード板

マージン

陽極箔

巻芯径

素子巻取

方向

図2 アルミ電解コンデンサの巻取り工程

マージン陰極箔

電解紙

箔・リード接続

 (タブ部)アルミリード板

マージン

陽極箔

巻芯径

素子巻取

方向

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素子に電解液が含侵されれば更に膨張力が中

心部に働き、タイプ B のように、巻き始めの数周

目まで“く”の字に折れ曲がる場合がある。

タイプ A とタイプ C は、素子の緩み防止のため

仮止めのテープを貼り、その後素子止めテープで

2 周全面を固定している。タイプ B は、中央で幅

約 12mmのテープだけで固定している。箔端部の

構造に関しては、いずれのタイプも両極箔と電解

紙との間は、1 mmから 1.5 mmの一定幅のマージ

ンをとっている。しかし、素子の上部をケースに

接触させて固定しているので、箔端部の上部はケ

ースと電極箔が接触する可能性が高い。

タイプ A の陰極箔および陽極箔とのリード板

の固定方法は、7 点の冷間圧接法である。タイプ

B も冷間圧接方法であるが、箔全体から取り出す

11 点の接点数である。冷間圧接方法は、接合時に

バリが出にくいが、タイプ C のリード部固定方法

は 9 点のカシメ方法なので、接合時にアルミバリ

やアルミ粉が出る可能性がある。

2.2 試験装置

本研究では、アルミ電解コンデンサに過電圧を印

加して、防爆弁の作動、発火、火花の発生の有無を

試験した。試験装置の構成を図 4 に示す。直流電源

(定格電圧 500V、定格電流 10A、高砂作所

製:G0500-10R)の出力端とアルミ電解コンデンサ

を 2 本の電線(AWG12)で接続した。

図4 DC過電圧の試験装置

試料: アルミ電解コンデンサ

電線:4m

直流定電圧 定電流電源

電線:4m

++

- -

図4 DC過電圧の試験装置

試料: アルミ電解コンデンサ

電線:4m

直流定電圧 定電流電源

電線:4m

++

- -

カシメ止め冷間圧接冷間圧接

陰極箔

素子の外観

素子の断面

タイプCタイプ Bタイプ A

素子止テープ全面

φ26mm

45mm

10mm10mm

素子止テープ一部

φ26mm

40mm

10mm10mm

φ26mm

40mm

素子止テープ全面

仮止テープ

表面裏面

42mm

表面裏面

37mm

表面裏面

36mm

10mm10mm

図3 アルミ電解コンデンサの構造の比較

矢印部拡大

テープ幅:12mm

カシメ止め冷間圧接冷間圧接

陰極箔

素子の外観

素子の断面

タイプCタイプ Bタイプ A

素子止テープ全面

φ26mm

45mm

10mm10mm

素子止テープ一部

φ26mm

40mm

10mm10mm

φ26mm

40mm

素子止テープ全面

仮止テープ

表面裏面

42mm

表面裏面

37mm

表面裏面

36mm

10mm10mm

図3 アルミ電解コンデンサの構造の比較

矢印部拡大

テープ幅:12mm

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2.3 試験条件

アルミ電解コンデンサに印加する試験電圧は、

以下の理由から、アルミ電解コンデンサの定格

電圧の 1.5 倍、1.8 倍、2.0 倍とした。

すなわち、北米では中性線欠相時に、公称電

圧の 170%の過電圧が印加され、最大 2 倍の電

圧が印加される可能性があると報告されている

[11]。単相3線式回路の中性線の欠相により低電圧

側製品に生じる電圧範囲は、負荷となっている製品

のインピーダンスにより変化し,0~低電圧側公称

電圧×2ボルトになる。アルミ電解コンデンサの

定格電圧の 1.5 倍、DC375V が印加される可能

性がある(図 5)。加えて、アルミ電解コンデン

サの過電圧時の絶縁破壊電圧値は、陽極箔の化

成電圧で決定され、それはアルミ電解コンデン

サの定格電圧の約 1.3 倍から 1.5 倍である[12]。以上より、定格電圧の 1.5 倍以上の電圧を印加す

る必要があると考えた。

一方、流す電流は、2A、5A、7A、10A に制限

した。スイッチング電源の入力ヒューズ値とア

ルミ電解コンデンサの静電容量の関係から、電

流を段階的に制限して絶縁構成の弱点を分析す

るためである。制限しないとアルミ電解コンデ

ンサの破損が激しく、絶縁破壊部の解析が不可

能となる。以上の試験条件を表 1 にまとめて示

す。

なお、定格電圧の 1.5 倍以上の電圧を印加する

こと、電流を段階的に制限して発火の有無を確認

する手法は、一般のアルミ電解コンデンサでも同

じである。

2.4 試験手順

本研究においては、つぎの手順によりアルミ電

解コンデンサに過電圧を印加し、試験、観察を行

った。最初に電流を 2A に制限し、一つの試料に

DC375V を印加、観察する。つぎに新たな試料に

対し同じ条件で試験をする。これを 5回繰り返す。

つぎに、2A のまま電圧を DC450V に設定し 5 個

の試料に DC450V を印加する試験を行う。同じく

2A のまま、DC500V を印加する試験を 5 回行う。

これで 2Aの電流制限の条件で 15個の試料に対す

る試験が終了する。電流制限を 5A に設定して、

DC375V、DC450V、DC500V をそれぞれ5個の試

料に印加する試験を行い、計 15 回行う。7A、10Aの電流制限の場合も同様に行い、一つのタイプで

合計 60 回行う。実際の試験手順はつぎのとおり

である.

(1)電源投入:単相 3 線式配線の断線事故を想定し

て、DC 過電圧を瞬時に印加する。

(2)観察:過電圧印加後から防爆弁が作動する時間

を計測する。30 分経過しても防爆弁が作動しない

場合は、その時点で試験終了とする。試験装置の

電圧計と電流計でショートの確認もする。

(3)ショート個所の確認方法:アルミ電解コンデン

サを分解し、黒く炭化している部分をショートし

ていると判断し、巻芯部、外周部、箔端部、リー

ド部の 4個所の部位ごとショート個所をカウント

する。例えば、発火したアルミ電解コンデンサが

巻芯部と外周部でショートしている場合は、2 箇

所でショートしたと記録する。

(4)素子の断面分析:アルミ電解コンデンサをエ

ポキシ樹脂で固めて、素子を輪切りにして断面構

造を観察した。

図5 中性線欠相時に製品に印加される電圧

製品Xに印加される電圧は、製品X、製品Yのインピーダンスにより変化する。その電圧は、0 ~ 低電圧側公称電圧 ×2Vである。製品Xのアルミ電解コンデンサに印加される電圧は、最大120V×2×√2×1.1=375VDCとなる。ここで、1.1は、低電圧側の電圧変動範囲とアルミ電解コンデンサの特性のばらつきである。

製品Xインピーダンス:x

×欠相

AC240VAC120V

AC120V製品Y

インピーダンス:y

製品Zインピーダンス:z

L1

L2

図5 中性線欠相時に製品に印加される電圧

製品Xに印加される電圧は、製品X、製品Yのインピーダンスにより変化する。その電圧は、0 ~ 低電圧側公称電圧 ×2Vである。製品Xのアルミ電解コンデンサに印加される電圧は、最大120V×2×√2×1.1=375VDCとなる。ここで、1.1は、低電圧側の電圧変動範囲とアルミ電解コンデンサの特性のばらつきである。

製品Xインピーダンス:x

×欠相

AC240VAC120V

AC120V製品Y

インピーダンス:y

製品Zインピーダンス:z

L1

L2

表1 試験条件

印加電圧 制御電流

DC375V(1.5倍) 2A、5A、7A、10A

DC450V(1.8倍) 2A、5A、7A、10A

DC500V(2.0倍) 2A、5A、7A、10A

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3. 試験結果

3.1 DC 過電圧印加による絶縁破壊試験の結果

A、B、C それぞれの試験の観察データの一部を

表 2 に示す。タイプ A の場合、アルミ電解コンデ

ンサの定格電圧の 1.5 倍の DC375V であれば、12秒から 43 秒内で防爆弁が作動して 3 個が発火し

ている。DC450V や DC500V の場合、1 秒から 5秒で防爆弁が作動している。これらの結果より、

A タイプの耐圧値が、DC375V 近傍にあることが

判る。タイプ B の場合、DC375V を 30 分印加し

ても防爆弁が作動しない場合があるので(表 2(b))、耐圧値はDC375Vより高いと判断できる。

このように同じ定格電圧のアルミ電解コンデン

サでも陽極箔の酸化皮膜の耐圧値に差がある。タ

イプ C において、DC450V と DC500V 印加の場合

ショートせず防爆弁が作動し安全性が確保され

た例を(表 2(c))に示す。

このように 60 個の観察結果をアルミ電解コンデ

ンサのショートの有無で区分けし、DC375V、450V、500V のすべての結果を合わせたものを表 3 に示

す。ショートせず防爆弁が作動して安全性が確保

されたのは、タイプ A で 25%、タイプ B で 12%、

タイプ C で 60%である。防爆弁が作動して発火し

た確率は、タイプ A は 15%、タイプ B は 17%、

タイプ C は 10%である。発火したアルミ電解コン

デンサは必ずショートしていたので、防爆弁の作

動の有無に拘わらずアルミ電解コンデンサがシ

ョートした場合、判定は不合格とした。ショート

した場合は、防爆弁が作動して発火する可能性が

あると判断したからである。アルミ電解コンデン

サの発火の様子を図 6 に示す。

表2 絶縁破壊試験の観察データの例

(a)タイプA

ショート 弁作動

ショート個所試料印加

電圧

制限

電流

故障

時間発火

火花巻芯部 外周 箔端部 リード部

有り 無し

1 40 秒 ● ● ● ● ●

2 20 秒 ● ●

3 43 秒 ● ● ● ● ●

4 12 秒 ● ● ●

5

375V

40 秒 ● ● ● ●

6 3 秒 ● ●

7 5 秒 ●

8 3 秒 ● ● ●

9 2 秒 ● ● ●

10

450V

1 秒 ● ● ●

11 2 秒 ● ● ●

12 2 秒 ● ●

13 1 秒 ● ● ● ●

14 2 秒 ● ● ●

15

500V

5A

7 秒 ●

9 13 0 0 34

1312 3

(b)タイプB

ショート 弁作動

ショート個所試料印加

電圧

制限

電流

故障

時間発火

火花巻芯部 外周 箔端部 リード部

有り 無し

130分

異常無●

230 分

異常無●

311 分

25秒●

47 分

40秒● ●

5

375V

30 分

異常無●

6 7 秒 ●

7 3 秒 ● ● ●

8 7 秒 ● ● ●

9 1 秒 ● ● ● ●

10

450V

3 秒 ● ● ●

11 6 秒 ● ● ● ● ●

12 2 秒 ● ● ●

13 7 秒 ● ●

14 7 秒 ● ●

15

500V

5A

2秒 ● ●

4 4 6 4 10

107 8

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3.2 発火した試験条件とショート個所

試験の結果、発火した試験条件とショート個所

を表 4 に示す.タイプ A は、巻芯部単独でショー

トした4試料を含み 9試料が巻芯部でショートし、

巻芯部とリード部で重複してショートしたのは 5試料である。タイプ B は、巻芯部、外周部、箔端

部は単独でショートして発火している場合があ

る。以上より、巻芯部、箔端部、外周部のショー

トが、発火の原因と結論付けることができる。

タイプ C の場合、巻芯部単独で発火した試料は

ないが、外周部、箔端部、リード部と重なってシ

ョートし発火している。リード部単独で発火した

試料は、リードを素子から引き出した部分で切断

してショートした場合であり、素子内部の接続部

のショートが原因で発火したのではない。

3 つのタイプの試料の検証では、リード接続部

(冷間圧接部、カシメ接続部)単独でショートし

て発火しているケースはないので、リード部のシ

ョートが、発火の原因となる可能性は少ない。

表2 絶縁破壊試験の観察データの例

(c)タイプC

ショート 弁作動

ショート個所試

印加

電圧

制限

電流

故障

時間発火

火花 巻芯

外周 箔端

リード

有り 無し

19 分20 秒 ● ●

29 分30 秒 ● ● ●

39 分15 秒

● ●

410 分40 秒 ● ● ●

5

375V

11 秒 ● ●

6 3 秒 ●

7 3 秒 ●

8 3 秒 ●

9 4 秒 ●

10

450V

4 秒 ●

11 4 秒 ●

12 3 秒 ●

13 3 秒 ●

14 4 秒 ●

15

500V

7A

4 秒 ●

0 5 0 2 00

515 0 図6 発火した例

5cm5cm

 タイプC 試験条件:DC375V 5A印加

図6 発火した例

5cm5cm

 タイプC 試験条件:DC375V 5A印加

表4 発火した試験条件とショート箇所

(a)タイプA

ショート個所

発火した試験条件

弁作動

までの

時間 巻芯部 外周 箔端部リード

40秒 ● ― ― ●

43秒 ● ― ― ●DC375V 5A

40 秒 ● ― ― ―

2秒 ● ― ― ●DC450V 5A

2 秒 ● ― ― ―

0秒 ● ― ― ●DC450V10A

0 秒 ● ― ― ●

DC500V 5A 1 秒 ● ― ― ―

DC500V 7A 2 秒 ● ― ― ―

●:ショートしていたことを確認した ―:ショート個所を確認できず

表3 全ての観察結果

現象 タイプA タイプ B タイプ Cコンデンサの

ショート有無判定

30 分印加しても防爆

弁作動せず0 8 0

防爆弁作動した 15 6 36

無し 合格

防爆弁作動せず 8 23 1

発火せず 28 13 17防爆弁作動し

た 発火した 9 10 6

有り 不合格

ショートしたコンデ

ンサの数45 46 24 ---------------------

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3.3 ショートした試料の部位の特徴

発火の有無に拘わらず特定したショート部位

を表 5 に示す。タイプ A はショートした試料の

96%、タイプ B は 50%、タイプ C は 86%が巻芯部

でショートしていた。タイプ A とタイプ C の巻芯

部でショートしたアルミ電解コンデンサの断面

を図 7 に示す。巻芯部の中心の 5 周目から 6 周目

で、陽極箔と陰極箔が鋭角的に折れ曲がり、両電

極箔の間の電解紙を突き破り(座屈)ショートし

ている。巻芯部を分解してみると、電解紙、陽極

箔、陰極箔は炭化していることがわかった(図 8)。これらは、巻芯部のショートに共通している現象

であった。

(c)タイプ C

ショート個所

発火した試験条件

弁作動

までの

時間 巻芯部 外周 箔端部リード

DC375V 5A9 分 30

秒● ● ● ―

11 分

30 秒― ― ● ●

DC375V10A10 分

45 秒● ― ● ―

DC450V 2A 11 秒 ― ― ―

リード切

DC450V10A 2 秒 ●※ ―※ ―※ ―※

DC500V10A 3 秒 ●※ ―※ ―※ ―※

●:ショートしていたことを確認した ―:ショート個所を確認できず

※素子が破壊しすぎて、ショート箇所が特定できず

表4 発火した試験条件とショート箇所

(b)タイプ B

ショート個所

発火した試験条件

弁作動

までの

時間 巻芯部 外周 箔端部リード

DC375V 2A2 分 40

秒― ― ● ―

18 秒 ― ● ― ―DC450V 2A

15 秒 ― ● ● ―

1 秒 ● ― ● ―DC500V 2A

13 秒 ― ● ● ―

1 秒 ― ● ● ―

1 秒 ● ― ● ―DC500V 7A

1 秒 ― ● ● ―

0 秒 ● ― ― ―DC500V10A

1 秒 ― ● ● ―

●:ショートしていたことを確認した ―:ショート個所を確認できず

表5 ショートした試料の部位

リード部

外周部

巻芯部

箔端部

外周部

素子止めテープ

リード部

外周部

巻芯部

箔端部

外周部

素子止めテープ

タイプ A

10mm10mm

タイプ C

10mm10mm

図7 巻芯部でショートした断面図

試験条件 DC375V 5A印加 試験条件 DC375V 2A印加

タイプ A

10mm10mm

タイプ C

10mm10mm

図7 巻芯部でショートした断面図

試験条件 DC375V 5A印加 試験条件 DC375V 2A印加

図8 分解した巻芯部のショート例

巻芯部

10mm

 タイプA 試験条件:DC450V 2A印加

図8 分解した巻芯部のショート例

巻芯部

10mm

 タイプA 試験条件:DC450V 2A印加

タイプA タイプ B タイプ C

① 巻芯部 43 23 21

② 外周部 0 16 1

③ 箔端部 1 21 8

④ リード部 20 7 3

ショート試料 45 46 24

但し、重複も含む

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タイプ A の場合、リード部のショートがショー

ト試料の 44%を占めているが、タイプ B は 15%、

タイプ C は 13%である。タイプ A と他の二つの

タイプの違いは、リード部の接続点数(A:7 点、

B:11 点、C:9 点)である。タイプ A のリード

部でショートした部位を図9に示す。タイプAは、

2A でリード部のショートが 0 個、5A で 3 個、7Aで 8 個、10A で 9 個と電流の増加につれてショー

ト個数が増加している。

タイプ B は、外周部のショートの占める割合が

34%であり、一方タイプ A は同 0%、タイプ C は

同 4%であることにより、タイプ B は、外周部で

ショートする確率が高い。タイプ A とタイプ Cは、素子のバラケ防止のため仮止めテープおよび

全面を素子止めテープで固定しているのに対し、

前述のようにタイプ B は、中央部に約 12mmの素

子止めテープで固定している。タイプ B の外周部

のショート例を示す(図 10)。タイプ B の箔端部

はマージンが少ないので、箔端部でショートする

例が多い(図 11)。タイプ C では、箔端部がショ

ートした試料は、33%を占める。

4. ショート原因の分析

4.1 巻芯部

巻き芯部のショートの現象は、3 タイプ共通で

ある。

(1)アルミ電解コンデンサの陽極箔の折れ曲げ強

度の脆さ

図 12 は、陽極箔のアルミを全部溶解し、残っ

た酸化皮膜を走査顕微鏡で撮影した写真である。

図 12(a)はタイプ A の陽極箔でありエッチング箔

は貫通している穴が多いので、貫通型トンネルエ

ッチング方式と呼ばれ、陽極箔に著しく高い拡面

率を与えることが特徴である[13]。

本試験で使用した 3つのタイプのアルミ電解コ

ンデンサの陽極箔断面の電子顕微鏡写真を図 13に示す。タイプ B、タイプ C いずれもタイプ A と

同じ貫通型トンネルエッチング箔と呼ばれる箔

を使用していることが判明した。しかし、これら

の陽極箔は芯を残していないので機械的強度に

図9 リード部ショート

タイプA 試験条件 : DC450V 10A印加

リード部

45mm

リード部ショートリード部ショート

図9 リード部ショート

タイプA 試験条件 : DC450V 10A印加

リード部

45mm

リード部ショートリード部ショート

外周部ショート40mm

素子止めテープ

図10 外周部ショート

タイプB 試験条件 : DC450V 7A印加

外周部ショート40mm

素子止めテープ

図10 外周部ショート

タイプB 試験条件 : DC450V 7A印加

箔端部ショート

φ26mm

図11 箔端部ショート

タイプB 試験条件 : DC500V 2A印加

箔端部ショート

φ26mm

図11 箔端部ショート

タイプB 試験条件 : DC500V 2A印加

図12 陽極箔のエッチング方式

100μ

m

(a)貫通型トンネルエッチング方式 (b)芯残しエッチング方式

図12 陽極箔のエッチング方式

100μ

m100μ

m

(a)貫通型トンネルエッチング方式 (b)芯残しエッチング方式

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弱く脆く[14]、巻き取り工程やリード接続工程な

どの製造工程中に陽極箔が損傷を受けやすく、ま

た酸化皮膜の欠陥も生じやすいと思われる。図

12(b)の芯残しエッチング方式を採用すれば、後述

のように陽極箔の断面中央部に芯が残るので、箔

の強度を著しく向上させる効果を確認した[15]。

(2)巻芯部の直径をできるだけ小さくする製造工

アルミ電解コンデンサは、巻芯部を硬く巻きつ

ける工程になっている。巻芯径をできるだけ小さ

くして(4mm~6mm)巻き始めからコンデンサを

構成し、素子の外周部をテープで固定して製造さ

れる。電解液の含浸による電解紙の膨張力は巻芯

部に集中するので、巻芯部の曲率半径はますます

小さくなり、座屈しやすい状態にあると推定され

る。

このような状態のアルミ電解コンデンサに DC過電圧が印加されれば、まず巻芯部の酸化皮膜の

欠陥部から漏れ電流が流れて、化成反応が生じて

熱が発生し、かつ水素ガスも発生する[7]。その後、

陽極箔が絶縁破壊しジュール熱で素子が発熱し

て電解液が気化し、その気化ガスで内圧が上昇し

て素子が膨張する。円筒形の素子が発熱した場合、

表面からは放熱があるため巻芯部が他の部分よ

り高温になる。巻芯部は空洞なので巻始めより 5周目から 7 周目の外側の部分が最も高温になる

(図 14)。素子の外周をテープで固定しているの

で、その発熱部で更に内圧が上昇し電極箔を押し

広げ、巻芯部の中心部に向かって電極箔を折り曲

げる力が発生すると推定される。この力が、巻芯

部の折れやすく脆い貫通型トンネルエッチング

方式の陽極箔を座屈させ、ショート・スパークす

る。

図14 巻芯部近傍の最高発熱部

5mm

 タイプA  試験条件:DC450V 5A印加

図14 巻芯部近傍の最高発熱部

5mm

 タイプA  試験条件:DC450V 5A印加

図13 貫通型トンネルエッチング方式の陽極箔断面の電子顕微鏡写真

タイプ A タイプ B タイプ C

30 um3030 umum 30 um3030 umum 30 um3030 umum

陽極箔断面部

図13 貫通型トンネルエッチング方式の陽極箔断面の電子顕微鏡写真

タイプ A タイプ B タイプ C

30 um3030 umum 30 um3030 umum 30 um3030 umum

陽極箔断面部

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4.2 外周部のショート

下記二つは、DC 過電圧時の素子の膨張力が主

なる原因である。

(1)素子止めテープを貼る位置

素子止めテープを貼る位置がタイプ B のショ

ート原因の一つであり、DC 過電圧時に素子が加

熱して膨張することに起因する。40mm の外周部

を固定する素子止めテープの幅が 12mm である。

それは外周の一部を固定しているので、DC 過電

圧時の素子の膨張する力が素子止めテープが固

定していない外周部に集中し、素子の一部が局部

的に膨張して、陽極箔が電解紙や陰極箔を突き破

り、陰極の一部であるアルミケースと接触してシ

ョート・スパークする。

(2)素子止めテープの耐熱温度

A、B、C のタイプでは、今回の試験では素子止

めテープが溶けた例は無いが、他のタイプでは素

子止めテープが素子の発熱で解けてショートし

た例がある。その場合は、耐熱温度 180℃の素子

止めテープが溶けて、素子の膨張力で陽極箔が電

解紙を突き破り、ケースと接触してショートした

(図 15)。

4.3 箔端部のショート

(1)電解紙と電解箔とのマージン幅が十分では

ないことに起因

電解紙は、両極箔をセパレートする目的があり、

ショートを生じないように電極箔よりわずかに

大きくしている(1mm~1.5mm)。しかし、防爆弁

側の素子の端面は、アルミケースに接して固定さ

れているので、電解液が含浸した電解紙は強度が

弱く折れ曲がりやすい。防爆弁の作動時に気化し

たガスは、巻芯部の空洞部から防爆弁の開口部に

瞬時に吹き抜ける。その際、素子全体あるいは巻

芯部の一部には、気化ガスが防爆弁の開口部に吹

き抜ける力で上部のアルミケースの方向に力が

働き陽極箔がケースとショート・スパークする。

素子の中心部そのものが 3mm ほど突き出てショ

ートする場合も今回の試験で認められた。

(2)陽極箔端部の絶縁の脆弱さに起因

陽極箔は化成後、製品サイズに合わせて切断さ

れるので両端は化成されていない。この状態で両

極箔と電解紙は共に巻き取られ含浸される。通常

の製造工程では、アルミケースに素子を封入した

後、陽極箔の酸化皮膜の欠陥部や箔端部の未化成

部を再化成するために、エージングを施して皮膜

修復を行う。しかし、エージング電圧は、陽極箔

の化成電圧より数%低い。また、切断部は、陽極

箔の酸化皮膜の製造工程で行う前処理が施され

ていないので、切断部の酸化皮膜の耐電圧は陽極

箔より低いと推定される。

定格電圧以上の過電圧が印加された場合、最初

に絶縁が脆弱な陽極の箔端部からケースに漏れ

電流が流れやすく、絶縁破壊し火花放電が発生す

ると推定される。陽極箔の箔端部より電解液中へ

の火花放電が起き、アルミ電解コンデンサ内部に

蓄えられたエネルギーが急激に放出され、両極間

や陽極箔とケース間でショートし、電解紙が炭化

しその導電路で陽極箔がケースに接触しショー

ト・スパークする。

4.4 リード部のショート

(1)カシメ部のバリ

カシメ法は、接続すべき電極箔とタブの 2 枚を

重ねておいて針で貫き通し、生じるバリを折り返

してつぶすので[14]、折り返した陽極箔側のバリ

が、DC 過電圧時の素子の膨張力で電解紙を突き

破り陰極箔と接触してショートする例が認めら

れた。

(2)リード接続部の接点数

両極箔から電流を取り出すリード接続部は、接

点数が少ないとショートする可能性が高い。リー

ド接続部は、素子の中央内部であり、この部分で

ショートしても、素子の中心部から防爆弁に抜け

る気化ガスに着火することはないと推定される。

以上二つの原因でリード部から発火する可能

図15 陽極箔とケースが接触してショート 

5mm

タイプ D  試験条件:DC450V 5A印加

図15 陽極箔とケースが接触してショート 

5mm

タイプ D  試験条件:DC450V 5A印加

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性は少ないと推定されるが、アルミ電解コンデン

サの発火対策では、リード部もショートしない構

造にすべきである。

4.5 対策コンセプトの効果の確認

ここでタイプ A をつぎのように改良した。巻芯

部で座屈する前に防爆弁を作動させることを目

的に、巻芯部へ集中する素子の急激な膨張力を緩

和するため電解紙だけを先に巻き取り(空巻きと

言う)、巻芯径を 6mm から 9mm に変更した。加

えて陽極箔は芯残しタイプを採用し、冷間圧接の

接続点数を 7 点から 11 点に増加した。素子止め

テープの方法、マージン幅、防爆弁の構造(形状

や切り込み)、および製造工程はタイプ A と同様

である。この試料をタイプ A*とする。

タイプ A*を 56 個準備し、前述した表 1 に示す

試験条件の DC 過電圧印加による絶縁破壊試験を

実施した。その結果は、発火した試料は 0、巻芯

部でショートしたのは 3 個(6%)、ショートせず

防爆弁が作動して安全性が確保されたものは 53個(88.3%)であった。タイプ A の実験結果は、

表3から発火した試料は 9 個(15%)、ショートし

た試料は 45 個(75%)であるから、タイプ A*へ施した対策コンセプトは効果があることを確認

できた。

なお、空巻き、素子止めテープの採用、マージ

ン幅などの対策は、一次側平滑用アルミ電解コン

デンサに限定されるものでなく、一般のアルミ電

解コンデンサに適用可能である。

5. 発火メカニズム

アルミ電解コンデンサの陽極酸化皮膜は、わず

かながら欠陥を有している。通常使用時でも酸化

皮膜の欠陥部から漏れ電流が流れている。アルミ

電解コンデンサに定格電圧の 1.5 倍以上の DC 過

電圧が印加された場合、強い電界が酸化皮膜にか

かると皮膜にクラックやスリップが生じ、その部

分に電子電流が集中して電子なだれを起こして

絶縁破壊に至り[16]、制限した試験電流(2A、5A、7A、10A)が流れる。電解液と電解紙で構成され

る内部抵抗でジュール熱が発生し電解液が気化

し、素子の膨張と共にその気化ガスでアルミケー

スの内圧が上昇し防爆弁が作動する。

気化ガスは素子の巻芯部の空洞部から開弁し

た防爆弁の中心部に向かって瞬時に吹き抜ける。

防爆弁作動と同時に内部の 3 箇所のいずれか、お

よび複数箇所でショートおよびスパークすると、

電解液が気化したガスに着火してアルミ電解コ

ンデンサの発火となる。その炎で近傍プラスチッ

クに着火すれば、電気機器の発火となる。

ここで、DC過電圧印加後、巻芯部、外周部、箔

端部のそれぞれの絶縁が破壊しショートするま

での時間と防爆弁が作動するまでの時間の関連

性に着目すべきである。アルミ電解コンデンサの

材料や構造の絶縁を強化し、試料A、B、Cそれぞ

れのタイプごとに防爆弁の形を確定し、かつアル

ミ電解コンデンサの外形直径寸法に応じて切り

込みの深さに対応した弁作動圧の範囲を決定す

る。この範囲に入らない試料は、必ずショートし

て、発火する場合がある。このような方法を採用

し、絶縁破壊してショートする前に防爆弁を作動

させれば(図16)、アルミ電解コンデンサの発火

防止が可能となる。

6. むすび

本論文では、電気機器に公称電圧の 1.5 倍以上

の過電圧が印加された場合、その製品に使用され

るスイッチング電源の一次側平滑用アルミ電解

コンデンサの発火原因は、巻芯部、外周部、箔端

部のショートであることを解明した。アルミ電解

コンデンサに DC 過電圧を印加した場合、陽極箔

の酸化皮膜が絶縁破壊して電流が流れ、ジュール

図16 防爆弁が作動したアルミ電解コンデンサ

スリットの形状と深さ

10mm

タイプ E 試験条件:DC375V 2A印加

図16 防爆弁が作動したアルミ電解コンデンサ

スリットの形状と深さ

10mm

タイプ E 試験条件:DC375V 2A印加

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熱で電解液が気化し内圧が上昇して防爆弁が作

動する。ガスが防爆弁から吹き抜け、ショートお

よびスパークして気化ガスに着火して発火とな

る。

発火の原因となるショートは、次の座屈、接触

が要因である。

1) 試料としたアルミ電解コンデンサには機械的

強度の脆弱な貫通型トンネルエッチング箔を

使用しており、かつ巻芯部は中心部からコン

デンサを構成しながら硬く巻き取られる製造

工程なので、素子膨張時に巻芯部が座屈する。

2) 外周部を素子止めテープの一部を固定してい

る場合、固定していない部分が素子の膨張力

で突出して、陽極箔が電解紙を破りアルミケ

ースに接触する。

3) 陽極箔の端部のエージングによる酸化皮膜は

絶縁が十分ではないこと、およびマージンが

少ない場合、両極箔間や陽極箔ケースと接触

する。

リード部の接続部は、カシメ方法のバリ、接続

数の少なさがショート原因であり、発火の原因と

推定されるので、この部分のショート対策も必要

である。

以上より、発火対策はショートしないアルミ電

解コンデンサのコンセプトで設計、製造すれば、

アルミ電解コンデンサの発火対策を達成できる。

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(わたべ としのり / ふじわら よしちか /たけうち まなぶ)

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渡部 利範

1973 年 3 月茨城大学工学部電気工学科卒業、同年

コピア株式会社入社。1982 年キヤノン株式会社入

社、事務機, 半導体製造装置等の国際安全規格の

評価業務を経て製品安全の技術開発(電子および

電気部品、安全回路)および PL 危機管理の構築

に従事。2000年9月技術士登録(電気・電子部門)、

2002年3月茨城大学博士後期課程入学。電気学会、

日本信頼性学会、日本技術士会、各会員。現在、

同社の品質本部 品質技術開発センター製品安

全技術開発部 部長。

藤原 義親

1989 年 3 月東洋大学工学部機械工学科卒業、同年

キヤノン株式会社入社、複写機,プリンタ等の電気

的回路の安全性や電気部品の安全性の技術開発

に従事。現在、同社の品質本部 品質技術開発セ

ンター 製品安全技術開発部に所属。

竹内 学

1971 年東京工業大学大学院理工学研究科博士課

程終了、1972 年茨城大学工学部電気工学科講師着

任、助教授を経て、現在同電気電子工学科教授、

理学博士。電気材料、静電気、粉塵爆発の研究に

従事。電気学会、静電気学会、表面技術協会、日

本画像学会各会員。