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研究の進展で見えてきたノロウイルスの本当の姿
ORF1% ORF2%ORF3%
Genome%RNA%
Norovirus%bind%&%entry%
+"
New%genome%RNA%
Non%structure%proteins%
Structure%proteins%
Polyprotein%
NegaAve%strand%RNA%synthesis%
Assemble%
Subgenome%RNA%
Enterocyte GobletEntero-endocrine
Paneth
Intestinal stem cell
北里大学北里生命科学研究所
感染制御科学府ウイルス感染制御学I
教授 片山和彦
1968年10月: オハイオ州ノーウォークの
小学校で、冬季おう吐ゲリ症の流行が発生
- 50% の発症率
- 吐き気 、おう吐、下痢、発熱
- 潜伏期間は24∞48 時間
- 約24時間の病期
- 27% の二次感染率
1972年にNIHのアルバート・カピキアン博士
が免疫電子顕微鏡観察によって発見した
1990: NV68 prototype GI.1 genome の全塩基配列が決定され、
ノーウォークウイルス(ノロウイルス)研究の新時代が幕を開けた。
上級編:ノーウォークウイルスの発見から
ゲノム全長塩基配列の解明とノロウイルス研究の進展
poly AVPg?Protease Polymerase
poly AVPg?
ゲノムORF1 ORF2 ORF3
非構造蛋白質 構造蛋白質
サブゲノム
抗原性の差異は構造蛋白質領域の塩基(アミノ酸)配列の多様性に起因する
1990年 プロトタイプNV68のゲノム全長塩基配列決定
ゲノムはsingle stranded positive sense RNA; 7.6K
3つのORFを持つ。ORF1に非構造蛋白質、ORF2に構造蛋白質をコード
構造蛋白質は複製段階で合成されるサブゲノムから大量に発現
ORF2をバキュロウイルスで発現させウイルス様中空粒子(VLP)作製
VLPs
オハイオで発見されたノーウォークウイルス
プロトタイプ
BovineMurine
Porcine
FelineCanine
Predominant strain withvariants
ノロウイルスの遺伝子タイプと遺伝子型(2014年)
2015年まで主要流行株だった
ブタ
イヌネコ
ウシ
ネズミ
1992年 組換えバキュロウイルスを用いた発現系により、
ウイルス様中空粒子 (VLPs)作製に成功した。
それぞれの遺伝子型からクローニング、VLPs発現までを
システム化
各遺伝子型のVLPs発現、蓄積、抗原性の研究が進展
ノロウイルス中空粒子作出と抗原検出系構築ノロウイルスには、遺伝的に異なる5つのグループ(GI, GII, ・・・)が存在し、
それぞれのグループに複数の遺伝子型が存在する。ノロウイルスの各遺伝子型
は、それぞれ異なる抗原性を示すが、同一遺伝子型は同じ抗原性を示す。
便の中にある感染性粒子
VLPs
1992年 組換えバキュロウイルスを用いた発現系により、
ウイルス様中空粒子 (VLPs)作製に成功した。
それぞれの遺伝子型からクローニング、VLPs発現までを
システム化
各遺伝子型のVLPs発現、蓄積、抗原性の研究が進展
ノロウイルス中空粒子作出と抗原検出系構築ノロウイルスには、遺伝的に異なる5つのグループ(GI, GII, ・・・)が存在し、
それぞれのグループに複数の遺伝子型が存在する。ノロウイルスの各遺伝子型
は、それぞれ異なる抗原性を示すが、同一遺伝子型は同じ抗原性を示す。
便の中にある感染性粒子
VLPs
ノロウイルス研究の課題
ヒトノロウイルスは、なぜ培養細胞で増殖させることができないのか
組織血液型抗原(HBGA)は、レセプター?
ネズミ、ネコ、ブタ、ウシのノロウイルスはヒトに感染しない。宿主特異性は?(感染モデル動物がない)
感染性ウイルスとウイルス様中空粒子(VLP)は同じ形
感染性ウイルスの中にゲノムRNAが一本だけ入ってる?
ノロウイルスに何度も感染するのは何故?
ノロウイルス病原性発現機構は?何故、おう吐、下痢?
ワクチンや抗ウイルス薬は開発可能か?
Schema'c(diagram(of(the(Norovirus(replica'on(
ORF1( ORF2(ORF3(
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(Guix(et(al,(2007).(
X"
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Subgenome(RNA(
ノロウイルス患者から排泄された便に含まれるウイルスからゲノムRNAを取り出して、細胞に入れたらどうなる?
ヒト株化細胞(293T, Huh7, Caco2など)にノロウイルスRNAを入れると、ノロウイルスが出てきた!
しかし・・・・出てきたノロウイルスは、細胞に感染できない。なぜ?
ヒトノロウイルスは、どのようにして細胞に侵入し、感染するのか?
Guix, S et. al. JVI 2007
✦組織血液型抗原:HBGAがVLPに結合する。レセプター(受容体)か?
✦HBGAを発現させた細胞にHuNoV,
VLPは取り込まれない?
ノロウイルスVLPはHBGAに結合する
ウイルス様中空粒子(VLP)を用いたレセプター探索
HuNoV-VLPはHBGAと結合する
HBGAはヒトノロウイルスレセプターか?培養細胞へVLPを結合させ、HBGAとの関係を可視化する
50 μm
H1-HBGA H2-HBGA Leb-HBGA
VLPはHBGAを発現していない細胞にも結合する
Murakami et al., PLoS ONE 2013
結腸由来培養細胞Caco-2(長期培養)の場合
VLPは細胞上の何に結合しているのか?
100 µm
ヒト小腸のバイオプシの場合
20 µm
緑:ノロウイルスVLP、赤:H1型HBGA
Murakami et al., PLoS ONE 2013
VLPは上皮細胞だけでなくゴブレット細胞にも結合/侵入する
HBGAに結合するVLP100 µm
HBGAを認識しないVLPも小腸に結合して、多量に取り込まれる
Murakami et al., PLoS ONE 2013
HBGAに結合しないVLP
つまり、ヒトノロウイルスは•HBGAと異なる分子を利用して細胞に結合/侵入している? •細胞結合/侵入はムチンを分泌するゴブレット細胞からの逆方向取り込みがある?
Murakami et al. PLoS One (2013)
1. ノロウイルスの消化管への吸着は、ムチンに多く存在するHBGAを使って行う2. 5人に1人はHBGA非分泌型の体質である(非分泌型のヒトはノロウイルスに感受性が低い)
3. その後、細胞表面の真のレセプター分子(未知)を介して細胞に感染する
実際のヒトノロウイルス感染者の小腸を見てみる
ノロウイルス感染者の小腸バイオプシの免疫染色
RdRp VP1 RdRp VP1 RdRp VP1 DAPI
10 µm
小腸上皮細胞の中に VP1 と RdRp, VPg 等のノロウイルスたんぱく質が検出された(細胞の中で増殖している)小腸をパトロールしている貪食細胞(マクロファージ)、樹状細胞の中にもノロウイルスたんぱく質(VP1)が検出された
Karandikar, U. C. et al., JGV 97(9), 2291-300, 2016やはり小腸上皮で増殖している
ヒトノロウイルスの遺伝子を細胞の中に入れると?
EF-1α ORF3ORF1 ORF2
EF-1α ORF3ORF1 ORF2
ウイルスが出てくる
ORF1 polyprotein
Cleaved functional NS proteins
Negative strand RNA
Genome & subgenome RNA
(N-term, NTPase, 3A, VPg, Pro, RdRp)
VP1, VP2 translation
Assemble
ウイルスタンパク質が発現し、genomeの複製が起き、新生ウイルスが産生された。新生ウイルスの感染性を証明するためには、感染細胞が必要。
Katayama et al, PNAS 111(38), E4043-52, 2014.
EF-1αpKSF-MNVS7
Transfection
培養上清の中に出てきたウイルス粒子
293T, 293, Huh7, COS7, COS1
このシステムは、ヒトノロウイルスに近縁なマウスノロウイルス(MNV)で動くのかどうかを検証した
Infected to RAW264.7
Progeny MNV
Infection
Progeny viruses
Katayama et al, PNAS 111(38), E4043-52, 2014.
MNVcDNA
HuNVcDNA
感染性クローン(全長cDNA)
Non structure proteins
ウイルスRNA
Polyprotein
転写
翻訳
New genome RNA
Negative strand RNA synthesis
Subgenome RNA
複製
+Structure proteinsAssemble
粒子形成HEK293T細胞
リバースジェネティックス(RGS)は 新生ウイルス粒子(MNVは感染性)を作る
非感受性細胞
感染できない 感受性細胞
HuNoV新生ウイルス粒子
MNV
ウイルスの侵入にレセプターが必須
カギはレセプター
Katayama et al, PNAS 111(38), E4043-52, 2014.
CRISPER/Cas9によるゲノムワイド遺伝子ノックアウトを利用したレセプター検索
ゲノムワイドランダムノックアウトでは細胞は死なない
MNV感染で細胞は死滅する。生き残った細胞はMNVが感染できなくなった細胞
NGSでどの遺伝子がKOされたか調べると、CD300lfが見つかった。特異的にKOするとMNVが感染できなくなった。Haga K., et al, PNAS, 113(41) E6248-E6255, 2016 .
CD300lfを導入すると、MNV感受生細胞になる
Haga K., et al, PNAS, 113(41) E6248-E6255, 2016 .
クライオ電子顕微鏡によって得たMNV感染性粒子とレセプターCD300lf(クリスタル)の結合様式
Haga K., et al, PNAS, 113(41) E6248-E6255, 2016 .
小腸の構造(腸管断面、絨毛組織)食物消化のプロセスの中核
3つの部分に分けられる
十二指腸 空腸 回腸
層状の構造をしている
基底膜 平滑筋 上皮
粘膜層(ムチン層) ムチン層は意外と薄い
Enterocyte GobletEntero-endocrine
Paneth
Intestinal stem cell
幹細胞が4つの細胞種に分化するクリプトと絨毛
小腸の上皮を作る細胞たち
Ile
成長因子添加培地の中で増殖
幹細胞のある絨毛の付け根(クリプト)を採取
• 慶応大学の佐藤、オランダのクレバーが培養方法を開発した • 全ての腸管上皮細胞がクリプトの幹細胞から分化誘導される • 小腸の組織が再現できる • 幹細胞は、脱分化増殖誘導により無限に増殖可能(継代培養可能) • 細胞の塊(スフェロイド)形成後、分化誘導すると小腸になる • 腸管上皮細胞、ゴブレット細胞、パネート細胞など分化状態を保ったままモノレイヤーにすることも可能
96ウェルプレートに開いて、バラして捲き込める(培地側が腸管内部側になる)
細胞塊状のオルガノイド(裏表が逆)
十二指腸
空腸
回腸
ヒトの腸管オルガノイドってなに?
GIノロウイルスのアルコール感受性を示
した
縦には、ゲノムRNAレベルがどれぐらい
下がるか(消毒によってどれぐらい分解さ
れたか)が示されている
遺伝子型によって差はあるが、消毒効果は
最大で4桁。効果は99.99%消毒!
でも、
10の7乗以上のウイルスタイターがある
なら、アルコールが99.99%の消毒効果
を発揮しても1000個以上が生き残る
1000個も体内に入ったら、感染してしま
います
100%消毒で無ければダメ
ちなみに次亜塩素酸ナトリウムは100%
Park GW et al., PLoS ONE 2016
ノロウイルス(GI)はアルコールで消毒できる?
GII.4 ノロウイルスのアルコール感受性を示した
消毒効果は最大で3桁(99.9%)
GIよりも平均10倍強い!
10の7乗以上のウイルスタイターがあるとするなら、アルコールが最大限の効果を発揮しても10000個以上が生き残る
特に、最近主流だったGII.4(New Orleans株)は、アルコール耐性がめちゃくちゃ強く、消毒効果無し!
では、ヒトノロウイルス増殖培養系(オルガノイドシステム)で検証ししたらどうなる?(未発表)。
ノロウイルス(GII)はアルコールで消毒できる?
Park GW et al., PLoS ONE 2016
まとめ• ノロウイルスは、ウイルスゲノムを細胞に導入すると複製サイクルが動き、ウイル
ス粒子を産生する
• HuNoV-VLPは組織血液型抗原糖鎖HBGAに結合するが、細胞への接着、侵入には別の分子が関与している
• リバースジェネティックスは、宿主細胞に関係なく、ノロウイルス感染性粒子を産生する
• MNVレセプター分子は、シアル酸などの糖鎖では無く、細胞外ドメインを有する膜タンパク質CD300lf, CD300ldであった
• MNVレセプター分子を強制発現させた細胞は、マウス以外の細胞でもMNV感受性になり、MNVが増殖可能となる
• ノロウイルスの宿主特異性は、主にレセプター依存的である
• ヒト腸管オルガノイドは、ヒトノロウイルスの増殖培養を可能にした
これからの展望• ヒトノロウイルスが増殖可能なヒト腸管オルガノイドを用いて、レセプター
を同定を行い、レセプターを導入した汎用性の高いヒトノロウイルス感受生細胞を構築する
• リバースジェネティックス系を利用して、MNVのレセプター結合サイトを移植した遺伝子改変キメラウイルスを作出し、感染モデルマウスを作る
北里大学北里生命科学研究所・感染制御科学府ウイルス感染制御学I:芳賀慧、藤本陽、戸高玲子、宇田川悦子
国立感染症研究所ウイルス第二部第一室:村上耕介、Doan Hai Yen、染谷雄一
国立感染症研究所感染症疫学センター :木村博一、長澤耕男
国立感染症研究所病原体ゲノム解析センター:横山勝、佐藤裕徳
全国地方衛生研究所
横浜市立大学大学院:河合文博、朴三用
謝辞国立長寿医療センター:中西章
自然科学研究機構生理学研究所: 村田和義
Baylor College of Medicine: Mary K. Estes, Sue E. Crawford, Robert L. Atmar
慶応大学医学部:杉本真也、佐藤俊朗
東京工業大学:上野隆史
名古屋市立大学:鈴木善幸
デンカ株式会社:三木元博これらの研究は、AMEDの新興再興感染症実用化研究、文部科学省科研費基盤Bによってサポートされた国立感染症研究所、北里生命科学研究所の共同研究契約に従って実施された