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岡 山 医 誌 (1999) 111, 71~83

体外循環 と低体温法を用いた小児開心手術中の

脳波変化に関する研究

岡 山大 学 医学部 小 児神 経 学講座(指 導:岡鍈 次教 授)

秋 山 倫 之

(平成11年3月25日 受 理)

Key words:小 児心 臓 手術,低 体 温,体 外循 環,脳 波分 析

緒 言

心臓 血管外 科手 術 の技術 進歩 に ともない,こ

れ まで救命 困難 で あっ た重 症 の心疾 患 も手術対

象 とな り,乳 児期 早期 の手術 も行 われ る ように

な った.こ れ に と もない術 後 の神 経 学的合 併症

の発生 予防 とquality of lifeの 向上 が現在 の 重

要 課題 に なっ てい る.

低体 温状 態 での全 身管理 技術 の進 歩 に と もな

い,人 工心肺 を用 いる手術 に おい て も,低 体 温

麻 酔が 併用 され て い る.

低体 温麻 酔 と体 外循 環 を併用 した心臓 手術 に

おけ る術 中脳 波 の検討 が成 人 お よび小 児につ い

て試 み られ て お り1~3),成人例 につ いて は コン ピ

ュー タに よ る術 中脳波 分析 の報 告 も行 われ てい

る4-6).しか し,術 中の種 々 の制 約 のために2~4

チ ャンネ ルで実施 されて い るため,充 分 な情 報

処 理 が行 われ てい ない現状 で あ る.脳 波 を用 い

た研究 で は,脳 の各部位 にお け る機 能 の状態 を

検 討す るこ とが極 め て重要 で あ るが,術 中の低

体 温状 態 におけ る脳波 変化 や 突発 的な脳 波異 常

につ いて脳局 在 に関す る検 討 は殆 ど行 われ てい

ない.そ こで小 児心臓 手術 に おけ る低体 温状 態

や 脳虚 血に ともな う脳 波変 化 とそ の脳局 在 に関

す る知 見 を得 たい と考 えた.

対 象

対象 は,岡 山大 学心 臓血 管外 科 にお いて体 外

循 環 と低 体温 麻酔 に よ る開心手 術 が施行 され,

術 中脳波 を記録 しえた先 天性 心疾 患幼 児10例(男

6例,女4例)で あ る.手 術 時の年 齢 は1歳6

ヵ月 ~4歳6ヵ 月(平 均2歳8ヵ 月),体 重 は

7.3~16.2kg(平 均10.9kg)で あっ た.な お,す

でに粗大 な神 経学 的合併 症 を有 す る症 例や 染 色

体 異常 をみ とめ る症例,開 心 術 の既往 の あ る症

例 は対 象か ら除外 した.

方 法

手術 の概要 は以 下 の通 りで あ る.開 胸 後 に送

血 管 ・脱 血 管 をそれ ぞれ大動 脈 ・上 下大 静脈 に

挿 入 し,人 工 心肺 に よ る体 外循 環 を開始 す る.

その際 に人工 心肺 か らの送 血温 度 を低 下 させ 身

体 の冷却 を直腸 温25~34℃ まで行 う.そ の後,

大 動脈 を鉗 子 で遮 断 し,心 停 止液 に よ り心臓 を

停 止 させ,開 心操 作 を行 う.操 作終 了後,復 温

を開始 し,大 動脈 遮 断 を解 除 す る と心拍 動が 再

開す る.体 温が 回復 し循 環動 態が安 定 して いれ

ば,体 外循 環 を終 了 し,送 血 管 ・脱 血 管 を抜 去

して 閉胸 を行 い手術 を終 了す る.

麻酔 導 入後 に,脳 波電極 を国際10-20電 極 法

に従 い,頭 皮上 お よび両 耳朶 の計22ヵ 所 に装 着

し,前 頭極 正 中(Fpz)を 共 通基 準電極 とした.

両 肩 に心 電図 電極 を装着 し,両 上 腕 と手術 台 の

接地 を行 った.記 録 にはBio-Logic社 製携 帯 型

デ ジタル脳 波 計Ceegraph Eを 用 い,電 極 装 着

直後 よ り手術 終了 まで連 続 記録 し,並 行 して 平

均 動脈 圧,中 心静脈 圧,直 腸 温,動 脈血 酸素飽

和度,呼 気 中二 酸化 炭素分 圧 を5分 毎 に記 録 し,

血行動 態 や直 腸温 の変化 が著 しい ときには1分

毎 に記録 した.

麻 酔 はfentanyl静 注(20~60μg/kg)を 主 体

と し,術 中 に必要 に応 じて笑気,isofluraneな

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どの吸入 麻酔 薬が併 用 され たが,体 外循 環 開始

前 には吸 入麻 酔薬 の使 用 は中止 され た.ま た,

体 外循 環 開始 時 に麻酔 レベ ル維持 と血 管拡 張 の

た め にmidazolam (0.1~1.4mg/kg)お よ び

chlorpromazine(0.1~0.5mg/kg)が 用 い られた.

手術 終 了後 に オ フラ インで脳波 デー タ を取 り

出 し,視 察 お よびパー ソナ ル コン ピュー タに よ

る脳 波分 析 に よ り,体 外循環 と低 体 温に よ る脳

波変化 につ き検討 を行 った.

脳 波分 析 には脳 波分 析 プログ ラム を自作 して,

高速 フー リエ変換(FFT)に 基づ き(1)周波数 ス

ペ ク トル圧縮 配列(compressed spectral array;

CSA)の 作成,(2)等 価 的電位 の計 算 と二次 元脳

電 図の作 成7),(3)変化率 二 次元 脳電 図(deviation

ratio topography;DRT)の 作成8)を行 った.FFT

の分析 小 区 間は2秒 で,周 波数解像 度 は0.5Hz

で あ る.

CSAは,ア ー チ ファ ク トの混在 が少 ない左 右

中心部(国 際電極 法 のC3, C4)に つ い て1分

毎 の平均 パ ワー スペ ク トル を計算 し,平 均動 脈

圧,中 心 静脈 圧,直 腸 温,酸 素飽 和度,呼 気 中

二酸化 炭 素分 圧 の変化 との 関連 を検討 した.

等価 的 電位 は,対 象 とす る周波 数帯 域 にお け

る平均 パ ワー の平 方根 で表 され,そ の変化 は各

周波数 帯 域 におけ る振幅 の増 減 の指標 に な る.

これ をδ1(1.0~1.5Hz), δ2(2.0~3.5Hz),

θ(4.0~7.5Hz),α(8.0~12.5Hz),β1

(13.0~19.5Hz),β2(20.0~29.5Hz)の6

周波数 帯域 に お いて1分 毎 に各記録 部位 につ い

て求め,補 間法 を用 い二 次元脳 電 図 を作 成 した.

ま た,全 記録部位 にお け る等 価的 電位 の平均 値

(以下,平 均 等価 的 電位)も 求め た.

二次 元脳 電 図 を応 用 して等価 的 電位 の変化 率

deviation ratioを 周波数 帯域 別 に二次 元表示 す

るDRTを 作 成 し,脳 波 変化 を部位 別,周 波数

帯域 別 に視察 的 に検討 した.

低体 温 状態 や一 過性 脳波 異常 に ともな う等価

的電位 変 化の 有意 差検 定 としては,等 価 的 電位

変 化 の前 後 につ いて平均 等価 的電位 を各 症例 に

つ きそれ ぞれ 計算 した後,Wilcoxonの 符号 付

順位 検 定 を行 い,有 意水 準 を5%と した.

結 果

今 回の研 究対 象10例 につ いてみ る と,術 後 に

神 経学 的合併 症 を きた した例 はみ とめ られ なか

った.

1. 冷却 に と もな う脳波 変化

体 外循 環 を開始 し,冷 却 を開始 す る前 の脳 波

は,図1 aの ご と くmidazolamに よ る低 振幅

速波 が主 体 で あ る.

冷 却 に と もない,図1 bの ご と く速 波 の減 少

と徐 波 の 出現 を9/10例 にみ とめ た.1例 では速

波 の周波 数 が減少 した程 度 であ ったが,こ の症

例 は冷却 終 了時 の直 腸温 が34.0℃ で最 も高 か っ

た.こ の変化 を表1に 示 した.な お,症 例4,

症例6で は,冷 却 途 中にmidazolam 0.3mg/kg,

chlorpromazine 0.3mg/kgが それ ぞれ追加使 用 さ

れ たが,使 用 前後 に お いて視察 上 明瞭 な脳波 変

化 はみ とめ られ ず,結 果 に大 きな影 響 を及 ぼす

もの では なか った.

図2に は冷 却 の途 中(30.3~36.3℃)に 出現

した不 連 続パ ター ン を示 した.こ れ は持 続2~5

秒 間の低 振 幅部分 と10~100μV, 2~12Hzの

波 型 とが交代 性 に 出現す る波 型 で,4例(表1

の症 例2, 3, 5, 7)に み とめ られた.こ の

うち1例(症 例3)で は低 体 温状 態 で この波 型

が持 続 し,復 温 と ともに消失 したが,他 の3例

では,冷 却 の途 中(28.6~30.4℃)に この波 型

は消失 し,そ の後低体 温 状態 が続 くに もか かわ

らず,脳 波 は 図1 bの よ うな連続 性 を示 して い

た.極 端 な低 振幅 や平 坦脳 波 はみ られ なか った.

表1お よび 図3に 冷却 時 の等価 的電位 の変 化

を示 した.冷 却 途 中に血 圧低 下 に よる脳 波 異常

を240秒 示 した症 例4,共 通基 準電極 が不 良で あ

った症例5を 除外 し,8例 につ いて検討 した.

図3 aに は冷却 開始 直前1分 間 の状 態 を対 照

として,症 例1に おける等価 的電位 の変化(DRT)

を示 した.DRTの 色 が濃 いほ ど等価 的電位 の減

少 が激 し く,色 が薄 い ほ ど等 価的 電位 の増加 が

著 しい こ とを示 す.こ の症例 の場 合 は,δ1か ら

β2に 至 るいず れの周波 数帯 域において も等価 的

電位 の減 少 をみ とめ,こ の傾 向 はβ1,β2帯 域

に お いて顕著 であ る.そ の他 の症例 につ いて も

同様 の分 析 を行 い,そ の結 果 を表1に 示 した.

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小児開心手術中の脳波変化  73

図1  冷却に ともな う脳波変化(症 例2)

a. 体外循環開始後の常温(36.8℃).

b. 低体温状態(27.6℃)に 達 した時点.

低体 温状態では,速 波の減少がみ られる.

基準電極は両耳朶連結電極.較 正標は50μV, 1秒 を示す.以 下同様.

図2  脳波上の不連続パター ン(症 例2)

直腸温30.3℃ の脳波.冷 却途中よ り,低 振幅部分 が反復出現 した.

基準電極は両耳朶連結電極.

直腸 温32℃ 未満 まで冷却 した5例(症 例1,

2, 3, 6, 7)で は,す べ ての周 波数 帯域 に

お いて 等価 的電位 の減 少 をみ とめ た.一 方,直

腸 温32℃ まで冷却 して いな い3例(症 例8, 9,

10)で は,β2帯 域 におけ る等価 的 電位 は減少 し

たが,δ1~ β1の 帯 域 で は一 定 の傾 向 を示 さな

か った.な お,経 過 中に等価 的 電位 は必 ず しも

単調 に増加 や 減少 を示 す ので はな く,初 期 に一

過 性 に減 少 して後 に増加 した り,反 対 に初期 に

増加 して後 に減少 す る な ど,多 様 で あ った.し

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か し,各 症 例 に おけ る等価 的電位 の増 減 のパ タ

ー ンは いずれ の部位 に おい て も一 定 して いた.

この8例 につ き冷却 に ともな う平均 等価 的 電位

の変化 を検 討 した ところ,δ2~ β2帯 域 にお い

て,い ず れ も有 意 の減少 を認 め た.

表1  冷却 と復温に ともなう脳波変化

*midazolam途 中追加

**chlorpromazine途 中追加

図3 a(症 例1)で は,δ1~ θ帯域 にお いて

等価 的電位 の減 少 は後頭 部優位 であ るが,同 様

の所見 は5/8例(症 例1, 3, 6, 7, 8)に

み とめ られ た.こ れは,常 温状 態 で後頭 部 に 多

く出現 す る徐 波 成分 が,冷 却 と ともに減 少 して

部位 的 差異 が乏 し くな り,後 頭 部 での減 少率 が

増 したため で あ る.一 方,α ~β2帯 域 にお け る

等価 的 電位が前 頭部優 位 に減 少す る症 例が5/8

例(症 例2, 3, 7, 8, 10)に み とめ られ た.

これは,低 体 温状 態 で前頭部 の速波 成分 が乏 し

くなっ たため とみ な され る.

2. 復 温 に と もな う脳波 変化

冷却 時 と同様 に,復 温 開始前 から直腸 温が35℃

に 上昇 す る まで脳 波 を記 録 し,分 析 した.9/10

例 で復 温 と と もに速 波が 増加 し,こ れは すべ て

の部 位 にお いて み とめ られ た.冷 却 中に も速波

の残 存 して い た1例 では,速 波周 波数 が増加 し

た.こ の 結果 を表1に 示 した.

復 温に要 す る時 間 は症例 に よ り異 な り8~80

分 に わ た るが,復 温終 了時 に は,全 例 に おい て

冷却開始前の状態に戻 り,低 振幅速波が主体の

脳波を示した.

表1お よび図3 bに 復温時の等価的電位の変

化を示した.復 温途中にアーチファクトの混在

が多かった症例2を 除外した9例 において検討

した.

復温開始直前1分 間の状態を対照として,症

例1に おける等価的電位の復温開始後初期の変

化(DRT)を 図3 bに 例示した.い ずれの周波

数帯域においても等価的電位の増加をみとめた.

この傾向は時間経過とともにβ2帯 域において顕

著になった.そ の他の症例についても同様の分

析を行い,そ の初期変化を表1に 示した.

復温開始時の直腸温が30℃未満の場合にはす

べての周波数帯域において等価的電位は増加を

示 し,一 方,復 温開始時の直腸温が32℃以上の

場合には等価的電位の増加がみられなかった.

これは,直 腸温が低いほど元の脳波パターンが

著明に変化 しているためである.ま た,す べて

の周波数帯域において等価的電位の部位別変化

の特徴は乏しく,こ れは冷却時のそれとは対照

的であった.

3. 周波数スペクトル圧縮配列(CSA)に よる

脳波変化の観察

冷却前から復温終了までの脳波変化をCSAに

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小児開心手術中の脳波変化  75

よ って検 討 した.図4 a, bに 代 表 的 な2例 を

示 した.

図3  冷却時および復温時におけ る変化率二次元脳電図(症 例1)

a. 冷却時,全 周波数帯域 において等価的電位の減少がみ られ,β1,β2帯 域において最 も著明である.

δ1~ θ帯域 は後頭部優位に減少 している.

b. 復温時,全 周波数 帯域において等価的電位の増加がみ られ,β2帯 域において最 も著明 である.そ の

増加には明らかな部位差はみ られない.

図の上段左端に記 した前 ・後 ・左 ・右 は大脳両半球 を上か らみた位置関係 を模 型的に示す(以 下同 じ).

図4 aに 症 例3のCSAと 直腸温(太 線)お

よび直 腸温 の変化 率(℃/分,細 線)を 示 した.

アー チフ ァ ク トが 多 くて計 算不 能 な部分 は表示

して いな いため,一 部 の スペ ク トルに疎 な部分

が あ る.

冷却 前に は20~30Hzの 速波 帯域 に ピー クが

み られ,こ れはmidazolamに よる もの と考 え

られ る.28℃ 付近 まで冷却 が行 わ れ る と,速 波

帯域 の ピー クは周 波数 を漸 減 して7Hz以 下 に

の みみ られ る よ うに な り,こ こで一 定す る.復

温 を開始 す ると速波 帯域 の ピー クが再 び出現 し,

直腸 温 の上昇 と ともに ピー クが高周 波数 帯域 に

移動 してい く.こ れ は,パ ワー スペ ク トル の変

化 と直腸 温 の変化 とが よ く対 応 してい る例 で あ

り,同 様 の所 見 を7/10例(症 例2, 3, 4, 5,

7, 9, 10)に み とめ た.

図4 bに 症 例8のCSAを 示 した.こ の症 例

では最低 直腸温 が32℃ 台で あ り,図4 aに 比 し

てやや 高 い.冷 却 開 始前 は,ア ー チ フ ァ ク トの

混在 の ためスペ ク トルが 疎 であ り,や や 不 明瞭

で あるが,中 間速波 帯域(13~15Hz)に ピー ク

がみ られ る.冷 却 に と もない ピー クの周波数 は

減 少 し,5Hz付 近 に ピー クが み られ る.そ し

て,図4 aの 場 合 とは 異 な り,最 低 直腸 温に達

す る前か らピー クが高 周波 数帯 域 に移 動 し始 め,

復 温 開始 前の 時点 では,ま だ低体 温状 態 で あ る

に もかか わ らず,速 波 帯域 に ピー クが 出現 して

い る,同 様 の 所見 は27℃ 台 まで冷 却 した症例1

で もみ とめ られ たの で,こ の ような スペ ク トル

の変化 の相違 は冷 却 の程 度 の差 異 に よ るもの で

は ない と考 え られ る.そ こで,直 腸 温 の変化 率

に 注 目す る と,変 化率(図4 a, bに お け る細

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76  秋 山 倫 之

線 で図示)が 減少 す る場 合 に は ピー ク周波数 は

減 少 し,変 化 率 が増加 す る場 合 には ピー ク周波

数 は増加 してお り,ス ペ ク トルの変化 とよ く関

連 して い るこ とが分か る.こ の よ うな所 見 を3/

10例(症 例1, 6, 8)で み とめ た.従 って,

低体 温状 態 に と もな う脳波 変化 は,体 温 に よ り

直接 的影 響 を受 け るだけ でな く,体 温 変化 の速

度 に も影 響 され る とい える.

図4  術 中脳波記録 よ り作成 した周波数スペ クトル圧縮配列

a. (症例3)直 腸温の変化 と平行 してパ ワースペ ク トルのピー クの変化がみ られる.

b. (症例8)パ ワー スペ ク トルの ピー クは直腸温の変化率 と平行 して変化 している.

なお,パワースペクトルの変化と平均動脈圧,

中心静脈圧,酸 素飽和度,呼 気中二酸化炭素分

圧との関連についても検討したが,明 瞭な関係

はみとめられなかった.

4. 一過性脳波異常の出現

術中に急激な脳波変化すなわち広汎性不規則

大徐波,速 波減少,低 振幅化,両 側同期性律動

性大徐波が一過性に生じることがある.こ れら

の脳波変化は,送 血管 ・脱血管挿入時,体 外循

環開始直後,手 技上の問題で人工心肺の流量を

下げたときに,平 均動脈圧低下とともに出現し

たが,こ れは9/10例 でみとめられた.

図5に 体外循環開始直後にみられた一連の脳

波変化を示 した.これは症例2の 記録であるが,

体外循環開始後に平均動脈圧が20mmHg台 ま

で低 下 した ときの脳波 で,10~20秒 後 には広 汎

性不 規 則大徐 波 の 出現 と速波減 少 がみ られ る.

25秒 後 には低 振幅 化 に至 って い る.こ れ と同様

の変 化 は,送 血管 ・脱 血 管挿 入時や 手 技上 の問

題 で人工 心肺 の流量 を下 げ た ときに もみ られ,

いわば一 般 的 な変 化 で あ る.広 汎性 不規 則大徐

波 は7/10例,速 波減少 は9/10例 にみ られ たが,

低 振幅化 は1/10例 で稀 で あった.

図6に 症例7に み られ た両側 同期 性律 動性 大

徐 波 を示 した.体 外循 環 開始15秒 後 に両側 前頭

部 に大徐 波 が先行 して 出現 し,次 い で両側 前頭

部優 位 なが ら広 汎性 に2.5~3Hzの 両側 同期 性

律 動性 大徐 波 が出現 してい る.こ れが 反復 出現

す るこ とは な く,5秒 後 に は図6右 に示す30秒

後 の状 態 とほ ぼ同 等のパ ター ンを呈 して いた.

この よ うな波 型が6/10例 にみ とめ られ た.

表2に これ らを ま とめて示 した.脳 波 異常 の

種 類 と して は速波減 少 が最 も多 くみ られ,広 汎

性 不規 則大 徐 波の 出現 を ともな うこ とが 多 い.

低 振幅 化 は1例(症 例2)に み られた のみ で あ

り例外 的 で あ る.こ れ ら と一 連 に両側 同期性 律

動 性大 徐 波が 出現 す る こ とが あ る.こ の律動 性

大 徐 波 は送 血 管 ・脱血 管挿 入時 と体 外循 環 開始

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小児開心手術中の脳波変化  77

図5  一過性脳波異常(症 例2)

体外循環 開始後,広 汎性不規則大徐波の出現 と速波減少がみられ る.25秒 後には低振幅化 してい る.

基準電極 は両耳朶連結電極.

図6  一過性脳波異常(症 例7)

体外循環開始15秒 後,両 側前頭部 に大徐波が先行 して出現 し,両 側前頭部優位に2.5~3Hzの 律動性大

徐波が出現す る.30秒 後 には脳波 は回復 してい る.

基準電極は両耳朶連結電極.

直 後に お いての みみ とめ られ たが,こ れ は 出血,

送 血 ・脱 血 のア ンバ ラ ンスや 血液希 釈 な どに よ

る意 図せ ぬ平 均動 脈圧低 下 を示 した状 況 である.

そして,手 技上の問題で人工心肺の流量を注意

しながら下げたときとは異なり,血 圧低下が急

速に生じていたと考えられる.従 って不規則徐

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78  秋 山 倫 之

波など,そ の他の一過性脳波異常よりもさらに

重篤な脳虚血を反映している可能性が高い.な

お,これらの脳波異常の持続時間は4~274秒 で,

両側同期性律動性大徐波の持続は短く20秒以下

であり,広 汎性不規則大徐波と速波減少は長 く

持続したが,す べて一過性かつ可逆性で,平 均

動脈圧の回復にともない脳波は回復した.

表2  一過性脳波異常の出現状況

註:数 字は例数  *重 複例あ り

図7  律動性大徐波の二次限脳電 図(症 例7)

図6で 示 した律動性大徐波 の出現中の脳波につ き分析 した.

律動性大徐波は両側前頭部優位 に出現 してお り,そ の周波数 を含 むδ2帯 域 においてdeviation ratioが

最大である.と くに右前頭部において最大値2.27(等 価的電位 として4.8倍)を 示 した.

一過性脳波異常を示した症例数の多かった,

体外循環開始時(6例)と 手技上の問題で人工

心肺の流量を下げた場合(8例)と において,一過性脳波異常にともなう平均等価的電位の変

化を検討したところ,δ1,δ2帯 域の有意な増

加とβ2帯 域の有意な減少を共通してみとめた.

図6に 示した脳波記録を用いて作成した二次

元脳電図とDRTを 図7に 示した.最 上段は体

外循環開始直後で,脳 波異常出現直前の10秒間

における二次元脳電図であり,中 段は両側同期

性律動性大徐波出現中の二次元脳電図である.

最下段は,最 上段の二次元脳電図に対する中段

の二次元脳電図の変化率deviation ratioを 求

め,対 数表示 したDRTで ある.さ きに述べた

律動性大徐波の周波数はδ2帯域に含まれてお

り,δ2帯域において等価的電位の増加が顕著で,

DRTを みると等価的電位が両側前頭部優位に増

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小児開心手術中の脳波変化  79

加していることが分かる.と くにこの例では右

前頭部における増加が最大であった.同 様の両

側同期性律動性大徐波をみとめたその他の症例

を含め,等 価的電位が最大の増加を示した部位

を求めて図8に 示した.等 価的電位の最大増加

部位は両側前頭部から中心部にかけて分布して

いた.

図8  律動性大徐波の優位部位

律動性大徐波 を認め たそれぞれの状況 におい

て,deviation ratioが 最大値 を示 した部位 を

延数で示す.

広汎性不規則大徐波など,そ の他の一過性脳

波異常についても同様に検討したが,一 定の優

位出現部位はみられなかった.

考 察

心臓血管外科手術の技術の進歩にはめざまし

いものがあり,体 外循環と低体温麻酔の併用が

行われている.低 体温法が導入された初期段階

では,低 体温麻酔法による術後の脳機能の回復

は不良とされていた.例 えば,石 田1)は,臨床神

経学的に異常のみとめられない先天性心疾患患

児95例の術中の脳波記録を行い,常 温状態にお

いて人工心肺による体外循環を行った症例と低

体温循環停止法を行った症例とにつき比較検討

して,低 体温循環停止法の予後が不良であるこ

とを強調し,そ の理由として脳循環の停止をあ

げている.現 在の心臓手術では,脳 の酸素需要

を低下させ虚血に対する耐性を増強させるため

に,体 外循環に低体温麻酔を併用し,循 環停止

はさらに体温を下げて超低体温下に行われるの

が一般 的 で ある.こ の よ うな技術 の進 歩 に よ り,

復 温 にお け る脳 波 の回復 が速 やか に み とめ られ

るよ うにな ってい る.そ れ に もか か わ らず,術

後 の神 経学 的合併 症 が稀 な らずみ とめ られ るこ

とは周 知 であ る.

術 中の脳機 能 障害 を早期 に検 出す るため に脳

波 モニ タ リングが行 われ るが,低 体 温麻 酔 と体

外 循環 を用 い る最 近 の小 児心 臓手術 で は,脳 波

所 見 に影響 を与 え る因子 が 多い.そ の ため,低

体 温麻 酔に ともな う標 準 的脳波 変化 をあ らか じ

め 把握 し,脳 虚血 ・無 酸素 状 態な どそ の他 の異

状事 態 に と もな う脳波 異常 との異 同に精 通す る

こ とが重 要 で ある.

麻 酔薬 の影 響下 に あ って も,術 中の脳 波は微

妙 に変化 し うる もの であ り,と くに体 温 の影響

が大 きい.Pagniら9)は,食 道 温28℃ まで の体 温

低 下 におけ る脳 波変化 はわずかであるが,28~25℃

で は徐 波 化が 進行 し,冷 却 が急速 なほ ど脳 波 の

徐 波化 が急速 であると述べている.また,20~15℃

まで冷 却 す る と,高 振幅 の突 発性 発射 が繰 り返

し出現 し,さ らに低 体温 状態 で は抑圧 ・群 発交

代(suppression-burst),次 いで平 坦脳 波 にな る

と述べ てい る.Hicksら3)は,326例 の小 児に お

い て術 中脳 波 モニ タ リン グ を行 い,鼻 咽 頭 温

35~30℃ では周 波数 が減 少す るが,32℃ 以 下 で

は振幅 低下 を示 し,29~24℃ で は速波 減少 と徐

波 増加 が み られ る と述べ て い る.さ らに,24℃

以下 では 周期 性 高振 幅発 射が 出現 し,18℃ 以下

で は平 坦脳 波 にな る と述べ てい る.

著者 の研 究 で も視 察 では これ ら従 来 の研 究 に

述 べ られ てい るの と同様 に,直 腸 温低 下 に と も

な い脳 波 の速波減 少,徐 波 の 出現 をみ とめ たが,

その他 に徐 波化 の過程 で一部 に不連 続 パ ター ン

をみ とめ た.こ の不 連続 パ ター ンは持 続2~5

秒 間の低 振 幅部分 と10~100μV, 2~12Hzの

波 型 と が 交 代 性 に 出 現 し,深 麻 酔 時 の

suppression-burst10)に 類 似す るが,比 較 的軽度

の低体 温 状態 で出現 し,高振幅 相の持続が3~6

秒 で比較 的長 く,ま た低 振幅相 に も脳 波活動 が

み とめ られ るので,極 度 の低体 温 状 態で 出現す

る突発性 発射9)やsuppression-burst9)と は異 な

る もの と考 え られ る.一 般 に脳波 の周期 性群 発

は,深 麻酔 時 のほか,重 篤 な脳 障 害11),新 生 児 の

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80  秋 山 倫 之

静 睡 眠12)などに もみ とめ られ るもの であ り,徐波

化 よ りも高度 の脳機 能低 下や 脳 の未 熟性 を基盤

に 出現 す る とされ て い る.冷 却 の過程 で直腸温

30.3~36.3℃ にお い て不 連 続パ ター ンが一 過性

に 出現 し,低 体 温 状態 が その後 も持 続す るに も

かか わ らず再 び消 失 した こ とは,急 激 な冷 却 に

と もな い脳機 能が 急激 に抑制 され,そ の後,体

温変 化 に対す る順 応が 生 じて,あ る程 度脳 波 が

回復 した こ とを示 すので はないか と考 えられる.

次 に,著 者 はデ ジタル脳 波計 の利 点 を生 か し

て低 体 温状 態 におけ る脳波 変化 につ きコン ピュ

ー タに よる脳 波分 析 を試 みた.ま ず,等 価 的電

位 の変化 につ いてみ る と,低 体 温 に ともない徐

波 化が 一見 目立 つが,実 際に は徐 波 の等価 的電

位 も減 少 して お り,速 波減 少 が とくに著 しい た

め に相 対的 に徐波 が増 加 して い るこ とを見出 し

た.ま た,各 周波数 のパ ワーの時間 的推移 をCSA

を用 いて検討 した とこ ろ,冷 却 お よび復 温に お

け る脳 波変化 が 直腸 温に影響 され るこ とは当然

で あるが,そ れのみ な らず,直 腸 温 の変化率 か

らの影響 も受 けて いる こ とが 明 らか に な った.

これ までに術 中のパ ワー スペ ク トル分析 を行

った研 究 として,Levy4)は33例 の術 中 モニ タ リ

ン グを行 い,復 温時 にお いて鼻 咽頭 温の上 昇 に

ともない脳 波 の総 パ ワー とピー ク周 波数 が増加

し,こ れ らに強 い線 型相 関 をみ とめ た と報 告 し

てい る.ま た,Russら5)は,39例 の成 人 にお い

て,冷 却 の 際 に鼓 膜温 ・鼻咽頭 温の低 下 に と も

な って スペ ク トル右 端 周 波数(spectral edge

frequency)が 減少 し,こ の間 に強 い線型相 関 を

み とめ たが,復 温 時 には線 型 の相 関 をみ とめ な

か っ た と報告 してい る.し か し,体 温 と脳 波パ

ラ メー タ との間 に明 らか な相 関 をみ とめ な い と

い う報告 もあ り,Basheinら6)は78例 につ いて 食

道温,動 脈 血温,直 腸温 とパ ワー 比(power ratio

index), spectral edge frequency,全 パ ワー な

ど との関連 を検 討 して,低 体 温 に対応 す る一定

のパ ター ン を示 す こ とはで きない と述 べて いる.

これ らの研 究 では,冷 却 と復 温 に と もな う脳 波

変 化 を検討 す る場合 に体 温 のみ を と りあ げて お

り,体 温 の変化率 の影響 を考 慮 して い ない.こ

の ため に研 究者 に よ り種 々異 な る結論 が示 され

たの では ないか と思 われ る.

また,著 者 は二次 元脳 電 図 とDRTを 用 いて,

冷 却 に と もな う脳 波変 化 に部位 的差 異 がみ られ

る場合 が あ るこ とを見 出 した.多 チ ャンネ ル脳

波 記録 は脳機 能 の部位 的差 異 を把握 す るの に有

用 で あ るが,従 来の 心臓 手術 中に お け る脳波 分

析 で は多 チャ ンネル 記録 は されて い なか った.

低 酸素症 の影 響 は脳 部位 に よ り異 な る こ とは よ

く知 られ てい る13)が,低体 温 に対す る耐容 力 も脳

部位 に よ り異 な るはず であ る.自 験 例 に も冷 却

に際 して前 頭部優 位 に速 波減少 をみ とめ た場合

が み られ たが,早 期 に速 波減少 を きた し易 い部

位 は低体 温 にお け る機 能低 下 が著 しいの ではな

いか と推 測 され る.

術 中の一過 性脳 波 異常 に関 して は,石 田1)は上

下 大静脈 の カ ニュー レ挿 入時 と体外 循環 開始 直

後 に不規 則大徐 波 をみ とめ,血 行 力学的 変化 に

ともな う低酸 素血 症 がそ の原 因で あ る と述べ て

い る.Salernoら2)は 小 児 か ら成 人に わた る118

例 にお い て術 中脳 波 モニ タ リン グ を行 い,脳 波

異 常 を体 外循 環 開始 時に最 も多 くみ とめ,そ の

内容 としては徐脈 の 出現 と低 振 幅化 をみ とめ た

と述べ て い る.そ して体 温低 下 に ともな う緩徐

な徐 波化 と異常脳 波 としての徐 波化 とは区別 可

能 と述べ てい る.ま た,Hicksら3)は,体 外循 環

開 始時 に速 波減少,徐 波 出現,て んか ん発射様

の波型 の 出現 をみ とめ,脳 波 異常 の 出現 と消 失

が 急速 で あ るこ とか ら,体 温低 下 に と もな う徐

波化 とは 区別 で きる と述べ て い るが,著 者 も同

様 に考 え てい る.

本研 究 では,一 過性 脳 波異常 として広 汎性 不

規 則大徐 波,速 波減 少,低 振 幅化 の ほか に両側

同期 性律 動 性大徐 波 をみ とめ たが,こ れ らは平

均 動脈圧 低 下 に と もな って 出現 して いた.こ れ

ら一連 の脳 波 異常 は,そ の 出現 と消失 が急 激 で

あ るため,比 較 的容 易 に見 出す こ とがで きた.

これ を等価 的電位 の変化 か らみ る と,一 過性 脳

波 異常 に おけ る徐 波 化 は徐波 の絶 対 的増加 を と

もな って お り,一 方,低 体 温 に よ る緩徐 な徐 波

化 は徐 波 の相 対 的増 加 で あ り,両 者 は全 く異 な

る こ とが 明 らかに な った.

次 に,こ れ ら一過 性脳 波異 常 の検討 を通 じて

見 出 され た特 徴 的 な波型 で あ る両 側 同期性 律動

性 大徐 波 につ いて述 べ た い.こ の律動 性 大徐 波

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小児開心手術中の脳波変化  81

は 意図せ ぬ血圧 低 下 を示 した状況 におい ての み

出現 し,両 側 前頭 ~ 中心部優 位 に 出現 した.ま

た,低 体 温状 態 では な く,冷 却 開始前 の常 温状

態 にお いて のみみ とめ られ た.こ の波 型 は一過

性 とは い え,か な りの脳 機能 障害 を意 味す る も

の と考 え られ るが,従 来の報 告 には,こ の律 動

性 大徐 波 の 出現の 記載 は され てい ない.こ れ は

顕著 な脳 波異 常 であ るが,2~4チ ャ ンネル記

録 では 目立 たな い こ ともあ りうるの で,一 般 的

な徐 波 の増加 と同 等に み なされ てい たの では な

いか と推 測 され る.

さて,こ の よ うな両側 同期 性大徐 波 の病 態生

理 に関 して,Gloorら14)は 広 汎 な大脳皮 質 と皮

質下 灰 白質 両 方の機 能 障害 を有す る場合 に両 側

同期 性徐 波や 鋭波,鋭 徐 波が 出現 す るこ と を強

調 して い る.そ して,大 脳皮 質 にのみ機 能 障害

を有 す る場合 には この波 型 を示 す例 は稀 であ り,

た とえ 出現 して も軽 度 であ った こ とか ら,両 側

同期性 発射 の 出現 には,皮 質 下灰 白質 の障害 が

重要 で あ り,大 脳皮 質 と皮質 下灰 白質 との相 互

作用 の異常 に よ る もの であ る と述べ て い る.こ

の見解 に従 う と,術 中 に出現 した両 側 同期性 律

動性大 徐波 は,皮 質 下灰 白質 の機能 障害 に とも

な って出現 した可能性 が あ る.ま た,こ の両側

同期性 律動 性大徐 波 の優位 出現 部位 は両 側前 頭

~ 中心 部 であ り,こ れ は傍 矢状 溝領 域 であ る.

こ こは,前 大脳動 脈 と中大 脳動 脈 との動 脈境 界

域 に相 当 し,脳 虚 血 を発生 し易 い部位 であ る こ

とも意 味の あ るこ とでは ないか と考 え られ る.

以上 の よ うに,脳 波 異常 は比較 的 限 られ た部

位 に優位 に 出現す るこ と もあ るの で,術 中脳 波

モニ タ リングに際 して多 チャ ンネル 記録 がで き

ない場合 に は,両 側 前頭 ~中心部 をモニ ター す

れ ば,脳 波異 常の検 出力の 向上 が期待 で きる.

結 論

低体 温 麻酔 と体外 循環 に よ る開心 手術 を施行

した1歳6ヵ 月 ~4歳6ヵ 月の小 児10例 につ い

て,携 帯 型デ ジ タル脳波 計 に よる術 中脳 波 記録

を行 い,視 察及 び コン ピュー タを用 いた脳 波分

析(周 波数 スペ ク トル圧 縮配 列,等 価 的電位,

二 次元脳 電 図,変 化率 二 次元 脳電 図)を 試 み以

下 の結論 を得 た.

1. 冷却 に ともな う脳 波 の徐 波化 の過程 で速波

減少,徐 波 出現 のほ か に不 連続 パ ター ンの 出

現 をみ とめ,こ れが一 過性 の急 激 な脳機 能抑

制 に よ るこ とを指 摘 した.

2. 低 体 温 に と もな う脳 波 の徐 波化 は,速 波減

少 が顕 著 なため の相対 的 な もの で あっ た.

3. 多 チャ ンネル記 録 と二次 元脳 電図 に よ る解

析 か ら低 体 温に ともな う脳 波変化 に も部位 的

な差 異 があ るこ とを見 出 した.

4. 周波数 スペ ク トル圧縮 配列 を応 用 して,術

中の脳 波変化 が 直腸温 のみ な らず,直 腸温 の

変化 率 に も影響 され る こ とを示 した.

5. 一 過性 脳波 異常 を平均 動脈 圧低 下 を示 した

状 況 でみ とめ,こ れは徐 波 の絶対 量の 増加 に

よ る徐 波化 であ り,低 体 温 に と もな う相 対 的

な徐 波化 とは異 な るこ とを示 した.

6. 一 過性脳 波 異常 の 中で も特 異 な両側 同期性

律動 性大徐 波 を見 出 し,そ の脳波 学的特 徴 を

明 らか に した.

7. 多チ ャ ンネル記録 と二 次元 脳電 図に よ り脳

波異 常 出現 の部 位 的特徴 を明 らか に した.

8. 両側 前頭 ~中心部 で の脳波 モニ タ リングに

よ り,脳 波 異常 の検 出 力の 向上が期 待 で き る

こ とを指摘 した.

心臓 血管 手術 にお いて,脳 虚 血 ・低 酸素 状 態

の早期 把握 は重要 な問題 であ り,こ れ らの知 見

を念頭 にお いて術 中モニ タ リングを行 うこ とは,

術 後の神 経学 的合併 症 を予 防す る上 で きわめ て

有 用 であ る といえ る.

稿 を終 えるにあた り,御 指導 と御校 閲をいただ き

ました恩師岡 〓次教授 に心 よ り深謝いた します.

また,手 術 中の脳波記録 を行 う際に多大 なる御協

力 を賜 りました佐野俊二教授 をは じめ岡山大学医学

部心臓血管外科 の諸先生方,麻 酔科の諸先生方,同

僚の中堀智之技官に心 より深謝いた します.

研究にあたり直接の御指導を頂いた小林勝弘講師,

大塚頌子助教授 をはじめ教室員各位に心 より感謝い

たします.

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82  秋 山 倫 之

文 献

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小児 開心 手術 中の 脳波 変化  83

Electroencephalographic changes during open-heart surgery with

extracorporeal circulation and hypothermia in children

Tomoyuki AKIYAMA

Department of Child Neurology

Okayama University Medical School

Okayama 700-8558, Japan

(Director: Prof. E. Oka)

An electroencephalographic (EEG) study with a multi-channel digital record was carried out

to investigate EEG changes and their spatial characteristics accompanying hypothermia and

cerebral ischemia during open-heart surgery in children.

Subjects consisted of 10 children, ranging from 1 year 6 months to 4 years 6 months old, who

underwent open-heart surgery with extracorporeal circulation and hypothermia. The EEG

changes were evaluated visually and analyzed using a computer.

(1) A discontinuous EEG pattern was noted during cooling in addition to commonly observed

findings including a decrease in fast waves, slowing and amplitude reduction, and was consid

ered caused by rapid and transient suppression of cerebral function. (2) Power spectral and

topographical analyses revealed a prominent decrease in fast waves and a relative increase in

slow waves during cooling. During cerebral ischemia, in contrast, an actual increase in slow

waves and decrease in fast waves were observed. (3) We noted the characteristics of bilateral

synchronous rhythmic high-voltage slow waves among various types of transient EEG abnor

malities. (4) EEG changes induced by hypothermia differed by brain region. (5) EEG changes

induced by hypothermia were influenced not only by body temperature itself but also by the

rate of change in body temperature.