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牛乳由来の摂食抑制ペプチドトラクトテンシンの作用機構
要約
京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻
大日向 耕作
侯依静
大阪大学大学院工学研究科 フロンティア研究センター
吉川正明
s-ラクトテンシン岡s-lle占 g-Leu)は、牛乳s-ラクトグロプリンのキモトリプシン消化により
派生する回腸収縮ペプチドで、これまでにコレステロール低下作用、胆朴酸分泌促進作用、学習
促進作用を有する多機能性ベプチドであることを明らかにしている。さらに最近、 Fーラクトテン
シンがマウスにおいて摂食抑制作用を有することを新たに見出したロそこで本研究では、仏ラク
トテンシンの摂抑制機構について検討した。
摂食抑制ベプチド受容体に対する種々のアンタゴニストを用いて、その作用機構を検討したと
ころ、s-ラクトテンシンの摂食抑制作用は、 corti∞回pin-肥l悶 jngfa由 r(CRF)受容体のアンタゴ
ニスト(田町間担)と calcitoningene-related peptide (CGRP)受容体のアンタゴニスト (CGRP(日 7))
によって阻害された。なお、 FーラクトテンシンはCRFおよび CGRPの受容体には親和性を示さな
かったことから、これらの受容体の活性化を介しているものと考えられる。なお、 CRFの摂食抑
制作用は、 CGRPアンタゴニストで阻害される一方、 CGRPの摂食抑制作用は、 CRFアンタゴニ
ストでプロックされなかった。すなわち、 CRF受容体の下流で CGRP受容体が活性化されること
を新たに見出したことになる。以上の結果より、 s-ラクトテンシンは、 CRF受容体の下流で、 CGRP
受容体を活性化し、摂食抑制作用を示すことが判明した。 s-ラクトテンシンは新しい摂食抑制経
路 CRF-CGRP系を介する初めての摂食抑制ベプチドである。
キーワード・摂食抑制、牛乳タンパク質、 s-ラクトグロプリン、s-ラクトテンシン、 C町、 CGRP、
消化管運動
1. はじめに
近年、食品タンパク質の酵素消化物から数多くの生理活性ベプチドが生成することが明らかと
なっている。これらの生理活性ペプチドの中には、血圧降下作用、コレステロール低下作用、免
疫促進作用など末梢組織に対する作用のほかに、学習促進作用、抗不安作用および、摂食抑制作
用など中枢神経系に対して作用する場合があることを見出している [lJ。また、牛乳は栄養価の優
れた食品であることから、太りやすいというイメージが潜在的に浸透しているが、牛乳摂取量と
-63-
体格指数 (B阻)が逆相関するという疫学調査報告もあり [2J、実際には肥満を助長する食品には
分類されていない。この潜在的原因として牛乳由来の摂食抑制ペプチドが抗肥満作用を示してい
る可能性が考えられる。そこで牛乳タンパク質の酵素消化により派生する種々の低分子ペプチド
の中枢神経系に対する作用を検討したところ、種々の生理活性ペプチドの中で、 s-ラクトグロプ
リンのキモトリプシン消化により生成する 4アミノ酸残基のs-ラクトテンシン (His-lle-Arg-Leu)
が経口投与で摂食抑制作用を示すことを見出した。さらに、本研究ではFーラクトテンシンによる
摂食抑制機構を検討した。
s-ラクトテンシンは、コレステロール低下作用、胆粋酸分泌促進作用などの末梢作用に加え、学
習促進作用を有する多機能性ペプチドである。 Fラクトテンシンは脳腸ペプチドとして知られる
ニューロテンシンとホモロジーを有し、 2種類のニューロテンシン受容体のうち、 NT2受容体に選
択的な親和性を示す。これらのs-ラクトテンシンの多彩な生理作用は主に NT2受容体を介するこ
とをこれまでに明らかにしているが、意外なことに、摂食抑制作用は NT,および NT,受容体を介
していないことを見出した。近年、数多くの摂食調節ベプチドとその受容体が同定され、複雑な
食欲調節機構の一部が明らかにされている。そこで、 s-ラクトテンシンの摂食抑制機構がこれら
のペプチド性摂食調節系を介しているかを薬理学的に検討した。
2.実験方法
2ー 1 試薬
s-ラクトテンシンは、 Fm田法により固相合成し、逆相田氏を用いて精製し、さらに凍結乾燥
したものを使用した。
2-2 摂食実験
実験動物として7週齢雄性ddYマウス (日本SLC、静岡) を用いた。プラスチックケージに
個別飼育し、固形飼料 (CE-2、日本クレア)および水を自由摂取させた。 3日間以上予備飼育し、
摂食実験を行った。 18時間絶食後、ベプチドを投与し、予め重量を測定した固形飼料を与え、経
時的に固形飼料の重量をjj¥lJ定し、摂食量を算出した(図1)。
脳室内投与の場合は、手術によりマウス脳室内にガイドカニューレを予め移植し、回復したの
ちに、摂食実験に供した [3-5J。すなわち、ネンブタールを ddYマウスに腹腔内投与し (80-85mg/
kg)、麻酔したのち、第三脳室内にペプチド溶液が投与できるように、 IID噌 m より 0.9mm後方、
τL 1002060 120 (分)
圃圃圃圃申・ ー自由摂食 18時間絶食 自由摂食(摂食量測定)
園 1 摂食実験方法
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0.9mm側方、深さ 3mmの位置に24Gカニューレーセーフレットキヤス(ニプロ、大阪) を加工
したガイドカニューレを、脳位固定装置を用いて移植、固定した。カニュレーション手術から 1
週間程度経過したのちに、摂食実験を行った。ペプチドは人工脳脊髄液愉ぽic泊1cerebrospinal
a叫d:ACSF; 138.9 mM NaCl, 3.4 mMKCl, 1.3 mMCaC1, 4.0mMNaHCQ., 0.6mMNaHJ'O., 5.6
mMgluc田 e,pH7.4)に溶解し、無麻酔・無拘束状態のマウスにマイクロシリンジを用いて4叫投
与した。
2-3 胃排出能 (gastricemptying rate)
ddYマウスを 18時間絶食した後に、 1時間、固形飼料を与え、その摂食量を測定し、ペプチド
溶液を脳室内投与した(図 2)[3,4J。さらに2時間絶食し、頚椎脱臼後、開腹し、胃内容物の流出
を防ぐため幽門と噴門を結紫し、胃を摘出した。さらに、胃内容物を凍結乾燥し、乾燥重量を測
定した。胃排出能は以下の式に従って計算した。
胃排出能(%) = {1- (胃内容物重量/摂食量)) x 100
-60 0 120(分)圃圃圃司砂 圃辛
自由摂食 18時間絶食 摂食
園2 胃排出能の測定方法
2-4 消化管通過率 (gastrointestinaltransit rate)
同様に雄性ddYマウス(体重・25g、日本SLC) を18時間絶食した後に、ペプチドを経口投与
し、その 30分後に色素を経口投与し、さらに 5分後に頚椎脱間後、開腹、消化管を摘出した。小
腸の全長と、色素の移動距離を測定し、小腸全体に占める色素の移動距離の割合を以下の数式に
したがって計算した。
消化管通過率(%) = (色素の移動距離/小腸の全長)xlOO
『IßTlfM~11
18時間絶食
園3.消化智通過率の測定方法
3.結果
3ー1 s-ラクトテンシンの摂食抑制作用
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彊企担園生且
園 14 多彩な生理作用を示すトラタトテンシン
s-ラクトテンシンは、コレステロール低下作用や、胆汁酸分泌促進作用などの末梢作用に加え、
学習促進作用および摂食抑制作用などの中枢作用を示すことから(図 14)、消化管から吸収され
たのちに、血液ー脳関門を越え、中枢神経系に作用している可能性が考えられる。さらに、脳室内
投与した場合に、摂食抑制作用を示すことも、この仮説に一致している。また、 s-ラクトテンシ
ン (His-lle-Arg-Leu)から N末端アミノ酸およびC末端アミノ酸を削除した、 lle-Arg-Leuおよび
団s-lle回Ar冨には摂食抑制作用が認められないことから (d踊 notshown)、4残基アミノ酸として摂
食抑制作用を示すことがわかった。
以上をまとめると、 Fーラクトテンシンが摂食抑制作用を示すことを見出し、その作用機構を検
討したところ、 s-ラクトテンシンはCRF受容体の次に CGRP受容体を活性化し、摂食抑制作用を
示すことを見出した。本ペプチドは、新しい摂食抑制経路である CRFζGRP系を活性化する初め
ての摂食抑制ベプチドである口1J。
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